【艦これ】 時雨「いい雨だね」 (109)


*注意

・地の文つきSSです。苦手な方はご容赦ください。
・まったり進行の予定なので、速度は期待しないで下さると嬉しいです。
・嫁ステマなSSですが、別に提督といちゃいちゃしたりとかそんなんじゃないです。


SS速報も久々なのでお見苦しい天なるかもですが、どうぞよろしく

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1380124704


 コンクリートの濡れる香りが、風に乗って運ばれてくる。

 ぽつぽつと降り始めた雨が、地面を濡らしていく。

 勢いこそ強くはないが、空を見る限りしばらく止みそうにない。

 波も穏やかで、風もゆるやか。

 曇った空が水面に映り、あたり一面、色素を失ったようにみえる。

「…………いい雨だね」

 執務室の小さな窓から見える、変わらない鎮守府の景色。

 普段より少しだけ静かな外を眺め、彼女はそう呟いた。

 妙にボーキサイトの減りの激しい資材報告書を睨んでいた提督は、その声につられるように、彼女へと目をやる。

 三つ編みにした綺麗な黒髪と、跳ねるアホ毛が特徴的な彼女は、窓の向こうをじっと見ていた。

「時雨?」

 提督の呼びかけに、時雨はゆっくりと振り返る。


「どうかしたか?」

「ううん。なんでもないよ、提督。なんとなく、そんな気がしただけさ」

「そ、そうか」

 真意を見せず、ただ口元を緩めるだけの時雨に、提督はぽかんとするしかなかった。

「提督。僕の名前、知ってるかい?」

「いくらなんでも俺はそこまでボケてないぞ? 確かに、任務受領しないまま出撃させて二度手間になったことはあるけどさ」

 馬鹿にするなよ、とちょっとだけ不満そうな顔で時雨に言い返す。

 艦娘にどうもナメられ気味な提督としては、こんな扱いは慣れたものだったりするのだが、それでもなけなしのプライドというものもある。

 慕ってくれるのは嬉しいが、一応司令官なんだぞ、と思わなくもない。

「そうじゃなくてさ。僕の名前……『時雨』の意味、知ってるかな」

「意味、か」

 辞書的意味、なんてものは知らないが、なんとなくイメージしているものはある。

「ちょうど、いまみたいな雨の事か? 調べたことはないけど」


「……そうだね。季節的にはちょっと早いけど。こんな雨のことさ」

 時雨はまた窓の外を見る。

 その碧い目は、鎮守府の景色でも、波の様子でも、雨でもなく、どこか遠くを見ているようだった。

「…………」

「ふふっ……僕が『いい雨だね』なんて言うと、まるで自分を褒めてるみたいだね。なんだか急に恥ずかしくなってきたよ」

 照れくさそうに頬をかき、彼女はまた口元を緩める。

 それから、『ちょっと席をはずすね』と言い残し、時雨は執務室を出て行った。

「…………」

 何も言えなかった。

 時雨の出て行った扉をしばらく見つめた後、思い出したかのように机の上の書類へと目を戻す。

「雨……か。あのときもそうだったな」

 丁度、ひと月ほど前だったか。時雨がこの鎮守府にやって来た日。


 その日もポツポツとした雨が一日降っていた。

『雨は、いつか止むさ』

 彼女が言っていた言葉だ。

 最初からどこか厭世的な子ではあった。

 まだまだ幼い姿に似合わない、悟ったような態度が気になったものだ。

 あのときの彼女の言葉がなにを意味しているのかなんて、考えたことはなかった。

「この雨も、いつかは止むんだよな」

 ギシリ、と。静かな執務室に椅子の音が響く。

 提督はさっきまで時雨のいた場所へ立つと、窓の外を、時雨の見ていた景色をその目におさめる。

 この雨が『時雨』だとするならば、彼女の言葉は何を意味してるのだろう。

 降りしきる雨を見つつ、提督はふぅと息を吐いた。

 肺の中いっぱいに雨の匂いを取り込んだような気分だった。

「いい子だからな」

 そんな事は提督自身が一番知っている。

 もちろん、他の艦娘たちだってそう。

 はじめは不安で仕方がなかった提督という重荷も、個性豊かな彼女らに囲まれ、いつだったか楽しむようにさえなっていた。

 だからこそ。

 そんな彼女らを戦地に赴かせなければならないからこそ。

 せめて鎮守府にいる間は、彼女らにいつも笑顔でいて欲しい。

 仲良く楽しくいて欲しい。

 常々考えていたことだ。

「なんとかしないとな」

 出て行った時雨を追いかけることはまだ出来ない。

 彼女のあぁいったところがダメというわけではないし、否定するわけでもない。

 それでも、少女らしく笑って欲しい。

「まだ、何をどうしていいか分からないけど、さ」

 独白は雨音に吸い込まれ、誰にも聞かれることなく消えていく。


 止まない雨はない。

 それでも。

 あの雨だけは。

 止まないようにしよう。




「とりあえず、あいつらにも手伝ってもらうかな」

 個性豊かなこの鎮守府の艦娘たち。

 個性豊か過ぎて一抹の不安もあるが、まぁなんとかなるだろう。

「明日から騒がしくなるかな」

 やり残した仕事に戻るべく、提督は山積みの資料の置かれた机へと戻った。


とりあえず、序章ってことで。


提督と愉快な艦娘たちが、厭世的な時雨ちゃんにちょっかいだしつつ、なんやかんやする話にしたいと思ってます。
この娘との絡みが見たいとかあればどうぞ。
ご期待に添えるかは分かりませんが、頑張ってみようと思います。

それでは、多くの時雨提督とお会いできることを祈りつつ、また今度。

時雨大好き提督としては支援せざるを得ない
運50の改二はまだですか

乙です
続き楽しみにしてます


時雨最萌な提督は一定数潜んでる気がする

乙したー

ガンキャn・・・じゃなかった時雨の活躍が楽しみ

時雨かわいい

時雨可愛いよね
加賀さんの次に好き

おつおつ
続きが楽しみだぜ

乙乙

時雨の頬は突きたくなる



 かちかちかち………。

 執務室に時計の音が響く。

 普段はだれかしらの艦娘が邪魔――もとい、遊びに来ているのだが、時雨が出ていってからは誰も来ていない。

 静かな執務室で、提督は普段の5割増しの集中力をもって仕事を捌いていた。

 その証拠に、先程まで山となっていた書類は随分と減っていた。

「HEY! 提督ぅー!」

「うおぉあ!?」

 バーン!! と砲弾でも発射されたかのような音と共に、執務室の扉が開いた。

 万年筆のインクが書類の上に点々としていることにも気づかず、提督は椅子から転げ落ちそうになりながら、敵襲をみやる。

「Tea Timeにしま………提督?」

「こ、金剛か。あー、ビックリした」


「Shit! ビックリ顔の提督を写真に収めれば良かったネー」

「反省しろよ!」

 てへぺろ、と舌を出す金剛に呆れつつ、崩れた姿勢をたてなおす。

「えへへ、sorry,提督。いい紅茶が手に入ったからサー」

「まぁ、いいけどさ。心臓止まるかと思ったよ」

「じゃぁ、Let's tea timeにするヨー」

 棚からティーポットを取り出し、テキパキと準備を進めていく。

 普段は奔放な性格である金剛だが、紅茶の淹れ方に関してはなかなかどころか、一級品だった。

 彼女の妹達も上手に淹れるのだが、それでも金剛には一歩届かない。

「提督ー、今日は一人だったの?」

「いんや。時雨がいたけど、出ていってそれっきりだな」

「ふーん……」

 手を止めてこちらに妙な視線を送ってくる金剛に、こうぎの視線を返しつつ、提督はデスクからソファーへと移った。


「なんか失礼なこと考えてるだろ」

「そ、そんなことないヨー」

「目、泳いでるぞ」

 シュンシュンという軽い音をたて始めたケトルから、温めたティーポットへとお湯を注いでいく。

 その作業さえ楽しむように、金剛は終始笑顔だった。

「時雨は提督に苛められて、泣いて出て行った、ってことデスネー」

「どうしてそうなった。なにか抱えてそうなのは相変わらずだけど、俺は何もしてないぞ」

「Hmm……」

 琥珀色の液体に入ったカップを提督へと差しだすと、彼女は自分のカップを手に取った。

「英国にはこんなことわざがありマース」

「ことわざ?」

「Yes! 『同じpotのteaを飲む仲』デース」

「…………お、おう」

 どこかで似たような言葉を聞いたことがある気はしないでもない。


 というよりも、どう考えても日本の言葉だ。

「というわけでー、時雨も皆も一緒にTea Timeにすれば、今よりずっと仲良しになれるネー」

「ことわざは置いとくとして、一理あるな。今度、やってみるか?」

「ハーイ、榛名にも手伝ってもらうネー」

「よろしく頼むな」

 任せておくネー、とカラカラ笑う彼女を微笑ましくも呆れつつ、提督は金剛の淹れてくれた紅茶を口にする。

 綺麗な色と香りのそれは、どこか甘く感じられた。



「参ったなぁ。ほっぺが熱くなってきたよ」

 両手で自分の頬を触る。ぷにっとした感触と共に、普段より少しばかり熱い体温が伝わってくる。

「それにしても……」

 鎮守府の廊下を歩く時雨は、窓の外を見る。

 しとしとと降り続く雨。

 自分と同じ名前のそれは、静けさを際立たせていた。

「雨、か」

 歩を止める。

 いつの間にか、食堂に辿りついていた。

「ダメだね。まだ、思い出してしまうんだ」

 誰もいない食堂の真ん中で、時雨は少し高い椅子に腰かける。

 脚をぷらぷらとさせ、雨音に耳を澄ます。


 時雨にとって、昔の記憶は辛いものだった。

「忘れない……忘れちゃいけないんだけど」

 生き残った幸運艦。

 それは、彼女が多くの散り際を見送ったことを意味してもいる。

「今はもう、あの時とは違うのは、分かっているさ」

 独白と共に、涙が流れた。

「……あら、時雨?」

「っ!?」

 慌てて涙をぬぐう。

 後ろから飛んできた声の主は、不思議そうな顔で時雨を見ていた。

「一人でこんなところにいるなんて、珍しいわね」

「そ、そうかな」

 取り繕うように笑ってみせる。

 扶桑はそんな時雨に薄く笑いかけると、彼女の向かいへと腰掛けた。

「長い雨になりそうね」


「そうだね。明日になっても降ってそうだよ」

「そう……はやくいい天気になると良いのだけど」

 ほぅ、と、扶桑が溜息をつく。

 それにつられるようにして、時雨もふぅと息を吐いた。

「ねぇ、時雨……なにか、なやみごと?」

「え!? い、いや、そんなことはないよ。いつも通りさ」

「なんだか元気がなさげに見えたのだけど」

 心配そうに見つめてくる扶桑の目を誤魔化すように、時雨は精一杯笑ってみせる。

 目がほんのり赤くなっていることは気付かれていないようだ。

「気のせいだよ。それに、元気いっぱいではしゃいでる僕なんて、想像できないんじゃないかな」

「それはそうかもしれないわ……私が言うのもなんだけれど」

「こ、これでも僕は元気だからね。大丈夫だよ」

 元気いっぱいの自分や扶桑を想像しようにも、どうにもうまくいかない。

 那珂まではいかなくとも、雷たちみたく明るいキャラクターに憧れがないわけではないけれども、どうにもうまくいかなかった。


「良かった。提督に苛められでもしたのかと思ったわ」

「そんなことないよ。普段通りさ」

「そう。無理強いはしないけれど……なにかあったらいつでも言っていいのよ」

「ふふっ。優しいね、扶桑は。こんな僕でも心配してくれるのかい?」

「貴女とも付き合いは長いもの。妹みたいなものよ?」

「山城に焼きもち妬かれそうだよ」

 そうね、と相槌を打ち、扶桑は笑う。

 いつもよりも元気そうな扶桑の笑顔に、さっきまで落ち込み気味だった時雨も少し軽くなった気分だった。

「夕ご飯まではまだ時間がありそうだし……お風呂にでも入ってこようかしら」

「うん、ゆっくりしてくるといいよ」

「時雨も一緒にどうかしら?」

「僕はちょっと自分の部屋に戻るよ。また今度、一緒してもいいかな?」

「ええ……それじゃぁ、ね」

 食堂を出ていく扶桑を見送り、時雨も廊下へと出る。

 入ってくるときはあんなに重たかった足取りも、今では遥か昔のようだった。

「そういえば、提督のところから抜け出してきたけど……戻らなきゃダメかな」

 自室へと向けかけた足を止め、時雨はゆっくりと振り返った。

ここまで。
こんな感じでダラダラいきますよ。
思いの外、金剛が難しくてだな………○○ボーイとか言いだしそうで怖い


>>16
握手(AA略

時雨ちゃんが寝るまで、隣でお話聞いてあげたいです。

時雨スキーの俺提督、今晩は時雨をつんつんして癒される模様(訳:乙、支援)



「戻ったよ」

 執務室の扉の前で、たっぷり5分は逡巡した後、時雨はゆっくりと中へ入った。

「おぉ、おかえり、時雨」

「あれ、提督。お仕事じゃなかったの?」

「ん? あれだ。ティータイムは大事にしないとネー」

 出ていく前から幾ばくか減った書類の山を見たところ、サボっていたわけではないらしい。

 金剛の持ちこんだティーセットの前で、彼は優雅に紅茶を飲んでいた。

「うん、休憩は大事だよ」

「たまには甘いものもいいもんだな。時雨もどうだ?」

 お洒落なカップをテーブルに戻すと、提督は色々とお菓子の入ったカゴを差し出す。

 妙にチョコチップクッキーが多い気はするが、お菓子には変わりない。

 時雨にとっても魅力的なものだ。

「提督は甘いもの苦手なの?」


「そんなことないぞ。間宮羊羹とか好きだしな」

 時雨は提督の向かいの椅子へと腰を下ろすと、カゴにはいったクッキーを一枚手に取った。

 チョコレートとバターで口の中がいっぱいになるほどの甘さを感じ、時雨の頬も自然と緩む。

「お、お前もそんな顔するんだな」

「うん? どこか変だったかな」

「変じゃないよ。時雨でも甘いもの食べてニッコリするんだなーって」

 キョトンとしている時雨に笑いかけ、提督は再び紅茶のカップを手にとる。

 さっき考えていた暗い考えが杞憂に終わりそうで、心の中で胸をなでおろす。

「時雨でも、って……それは僕を馬鹿にしてるの?」

「まさか。第6駆逐隊ほどじゃなくても、子供っぽいとこもあるんだな」

「あの子たちと一緒にされるのはちょっと……僕の方がちょっとはお姉さんだよ」

「うんうん」

「むぅ」

 不満そうにぷくっと頬を膨らませてるあたりがまた、子供っぽさを際立たせていたりするのだが、時雨本人は全く気にしている様子はない。


 暁のように大人ぶるでもなく、どちらかといえば子供っぽくない時雨だが、認識を改めなきゃな―と思いなおす。

「そういえば、提督。紅茶セットが出てるけど、肝心の金剛はどこに行ったの?」

「あぁ、アイツなら掃除当番だ!って怒鳴りこんできた霧島につれてかれたよ」

「なるほど……それは災難だったね」

「ひっさびさに起こってる霧島を見たが、あれはなんていうか静かな怖さがあるな」

 ぶるる、と思い出して背筋を震わせる。

 怒らせちゃいけない人ってのはどこにでもいるものだ。

「僕は見たとこないけど、比叡が怖い怖いって言ってたのを見たことがあるよ」

「なんだかんだ仲良いんだけどな、あいつら」

 金剛四姉妹の仲の良さは、鎮守府でも随一を誇るところだ。

 しょっちゅうお茶会だおやつだといっているのを見かける。

「いいね。仲良き事は麗しい、ってやつだよ」

「そうそう。だから、みんな、俺にもっと優しくしてくれ」

「ふふふ、大丈夫だよ。みんな、提督のこと、好きだからね」


「そうは言ってもなぁ」

 先の金剛や時雨、他にも第6駆逐隊を中心になついてくれる子がいるのは分かっているが、一方で、会うたびに怖いことを言ってくるのもいたりする。

「俺はいつ大井に魚雷射ちこまれるかヒヤヒヤしてるよ」

「もしものときは北上が止めてくれるさ」

「ってことはあれか。北上を怒らせたら死ぬってことだな」

 淹れてもらったカップを空にして、ふぅと息を吐く。

 もそもそとクッキーを食べる時雨をこのまま愛でていたい気分だったが、仕事もまだ残っていた。

「さて、そろそろ仕事に戻るかな」

「あぁ、ごめんね。僕も手伝うよ」

「そうか。なら、そのポットに残ってる紅茶を飲み干してくれ」

 まだ冷めてはないはずだ、と続け、提督はデスクへと向かう。

「いいの? 秘書艦として仕事してないけど」

「もうそんなにないしな。子供に手伝わせるようなことはないよ」


「ありがとう。じゃぁ、子供らしく、甘えることにするよ」

「おう。じきに夕飯だからな。お菓子の食べ過ぎには注意だ」

 二枚目のクッキーに手を伸ばそうとしていた時雨は、その言葉にぴたりと動きを止めると、するすると戻っていく。

 もう一枚くらいなら、とか、でもご飯のお残しは出来ないしとか、漏れ出た声に苦笑しつつ、提督は書類を片づけるべく、気合を入れなおすのだった。


短いけど、ここまで。
時雨の膨らませたほっぺぷにぷにしたい………


PS
関係ないけど、前田、ありがとう。お疲れ様でした。

乙したー

名選手がまた一人・・・お疲れさまでした。



そういえば秘書艦の仕事って何やってるんだろうな

そりゃあんた、おはようのちゅーからおやすみなさいのちゅーまでよ
夜戦?知りませんね

もう来ないのか?

引越しやらなんやらで忙しくて全然かけてないんだ……もうしわけない
改二きたし、書きたいネタはあるんだけど

日曜にはなんかしら出せるように頑張ってみるよ

乙乙
改二も可愛かったわ

エタってないのがわかればそれでよし、気長に待ってるよー

いい感じのSSだから応援してるよー
個人的に時雨は駆逐艦娘の中でもトップクラスにかわいいと思ってる。

でも遠征専門…orz

>>40
改二実装されたから(震え声)

時間が出来るまでゆっくり支援。最近
雨が多いから、降ってる時を
可能な限り狙って時雨を秘書艦にして
愛くるしい声を聞くのが楽しみの
いっこになってきた

>>42
台風だよ?!

いい雨だね

雨は、いつか止むさ



 鎮守府の一角の小さな建物。

 木造のそれは、朝の陽ざしを受けて眩しそうにしていた。

 少しだけ開いた戸の隙間から、時雨は中を覗き込む。

 差しこんだ陽光に照らされて、中では鳳翔がぱたぱたと仕事をしているようだった。

「おはよう、今日もいい朝だね」

「おはようございます、時雨。いい天気になりそうですね」

「うん。あったかくて過ごしやすそうだよ」

 入ってもいいかい、という問いに、鳳翔はふんわりとした笑顔で頷く。

 滑らかに開いた木の戸をくぐり、時雨は中へと入った。

「まずはお茶でもいかが?」

「ありがとう」

 時雨の前にそっと湯のみが差しだされる。

 控えめな熱さの緑茶は、猫舌の時雨にとっては嬉しい心遣いだった。


「おいしいお茶だね。ぽかぽかするよ」

「時雨? 今日はどうかしましたか?」

「ちょっとお散歩してたら、鳳翔さんが見えたからさ」

 鎮守府のみんなの憩いの場所ともいえるこの場所。

 なんとなく朝早く目が覚め、ぷらぷらと外を歩いているときに通りかかった。

 時雨からすると、単なる気まぐれ、というやつだった。

 そう、とだけ言い、鳳翔は時雨から視線を外すと、戸棚から包丁を取り出す。

 ギラリと光るそれは陽光を反射し、彼女の手できらめいていた。

「こんな早くからからお散歩なんて、元気まんまんですね」

「元気は元気だけど。ちょっと気分がヘン、って感じだよ」

 トントンと軽快な音と立て、鳳翔の操る包丁が踊る。

 いつの間にかいい匂いも漂ってきた小さなお店のカウンター。

 鳳翔の営む小料理屋は、殆ど居酒屋みたいなもので、時雨にとっては縁のない場所だった。

 以前に加賀に連れられて来たことはあったが、酒飲み達の雰囲気に圧倒されて、落ちついて見る余裕すらなかったものだ。


「あら? 提督に会いたくない、とかでしょうか」

「まさか。そんなことないよ。お仕事だって好きだし、提督だって好きだよ?」

「まさか惚気られるとは思いませんでした」

 鳳翔は一旦手を止めると、時雨に向けてにっこりと笑いかける。

 彼女が何を言っていたのか、一瞬理解できず、時雨は目をパチクリとした後、照れくさそうに笑い返した。

「別にそんなつもりで言ったんじゃないよ。夕立も好きだし、長門や加賀も好きだしね。もちろん、鳳翔さんも」

「うふふ。照れくさい話になってしまいましたね。朝からする話ではなかったでしょうか」

「えへへ、確かにちょっと恥ずかしいね」

 にこにこ笑顔の鳳翔は、それでも手を休めることなく、なにかの下ごしらえを進めている。

 旅館の女将のようなその姿は、まるで―――

「お母さんみたいだ」

「?」

 ぽつり、と、時雨の口から飛び出した言葉に、鳳翔が顔を上げる。

 慌てて口を塞ぐも、もう遅い。

 時雨の顔がみるみると赤くなるのを楽しむように、鳳翔は彼女の顔を見つめる。

「な、なんでもないよっ」

「うふふふ。時雨、朝御飯は食べましたか?」

 真っ赤になった時雨の前に、同じく赤い茶碗が置かれる。

 白く輝いたご飯と海苔だけのシンプルなお茶漬けだったが、時雨の食欲をそそるには十二分だった。

「ありがとう。ごめんね、忙しいところを邪魔しちゃったみたいだ」

「いえいえ、大丈夫。それに、そろそろ……」

「おはようございます」

 意味深な言葉と共に送られた鳳翔の視線につられ、時雨も入口の方へ顔を向ける。

 そんな二人に合わせたかのように、朝日をバックに戸開いたのは赤城だった。

「赤城、おはようございます。いつも通りでいいですか?」

「よろしくお願いしますね」

 待ってましたと言わんばかりに、鳳翔の手元から次々とお皿が現れ、カウンターに並べられていく。


 焼き魚。小鉢。卵焼き。白御飯にお味噌汁。

 メニューとしては至って普通の和食なのだが、ちょっぴり量が多い気はしないでもない。

「おはよう、赤城。これ全部食べるの?」

「珍しいところで会いますね」

 赤城は時雨の隣に腰をかけると、湯気の立つ湯呑みに手を伸ばした。

「お腹が減ると仕事できませんからね」

「僕にはちょっと食べ過ぎなように見えるんだけど」

「いっぱい食べないと大きくなりませんよ?」

 いただきます、と手を合わせ、赤城は並べられた朝御飯に箸をつけていく。

「ううっ……確かに僕は少食だし、大きくなりたいけどさ」

「私の分でよければ、少しわけますよ?」

「いいよ。大丈夫。あんまり食べると眠くなっちゃうからね」

 美味しそうに卵焼きを食べる赤城の隣で、時雨もお茶漬けに手を出す。

 暖かなお茶に温められたせいか、お腹の中からぽかぽかと元気が出てくるようだった。


「いいね、おいしいよ」

「お口にあったみたいで良かったです。ありがとう、時雨」

「今日も美味しいです」

「うふふふ。赤城もありがとうございます、ね」

 もくもくと用意された朝御飯を食べる。

 時雨が茶碗を空にしたときには、赤城の目の前のそれは殆ど残っていなかった。

「ごちそうさま。鳳翔さん、ありがとう」

「お粗末さまです」

 カウンター越しに食べ終わった茶碗を返し、ふぅと一息。

 ぽかぽかに温まったお腹を撫でる。

「そういえば……。時雨は鳳翔にはさんづけなんですね」

「え?」

「私や加賀、長門も呼び捨てなのに」

「私もそれ、気になってたんです」

 少し不満そうな赤城と、楽しそうな鳳翔に捕われ、時雨はキョロキョロと視線を彷徨わせる。

「な、なんとなくだよ。なんだか鳳翔さんは鳳翔さんって感じじゃないか」

「わかるようなわからないような……私のことも、赤城さんって呼んでいいんですよ?」

「あぁもう、僕はもう行くからね! ごちそうさま」

 赤城の期待したような目から逃れるべく、そそくさと撤退を決行する。

 名残惜しそうな2人の視線を背に受けて、時雨は再び陽光の元へと飛び出した。


お待たせしちゃったね。
この分は、きっととり返すから……

艦むす同士の呼び合い方のソースがなさすぎて難しいよう


時雨ちゃん改二可愛すぎてだな。
2人で炬燵のんびりしたい。

追伸

みんなコメントありがとう。
少し、強くなれたみたいだ。


>>42
縦読みきたわぁ///

待ってましたー
いいねぇ。いい雰囲気だよ。

会話劇じゃないSSって少ないよな気がする。時雨がこれからどうなって行くのか、楽しみだ。

待ってましたー
いいねぇ。いい雰囲気だよ。

会話劇じゃないSSって珍しい気がする。時雨がこれからどうなって行くのか、楽しみだ。

鳳翔さんは食堂じゃないのか。

おぉ、再開してる
ひとまず乙です

おお。待ってたよ。

赤城さんの御飯は丼に漫画盛りしてありそうだよなー。

時雨と加賀は案外那珂が良いのか
任務で貰った職人でちゃぶ台買うかなぁ
朝ごはんから夕飯までを時雨と一緒にしたい

>>58
もの静かな艦娘はこのふたりだけかな。響もかな?
神通とか潮みたいにおどおどしているわけでもなし吹雪型みたいにおっとりとしているわけでもないし。

加賀「ここは譲れません」
時雨「ここは譲れない」
だし似てるのかな



 鳳翔のお店を出てから少し。

 陽の光もちょっぴりと強くなり、鎮守府全体対に暖かさが満ちる。

 散歩に出たときにはまだ眠っていた艦むす達も起きてきたようで、あちこちで物音が聞こえ始める。

 そんな鎮守府の一角。

 ひときわ陽の当りのいい場所では、緑が青々と茂っていた。

 健康そうな葉の隙間から見える綺麗な黒土。

 ところどころには赤や黄といった鮮やかな色が映える。

「あれ……時雨っち?」

 そんな緑の中から、ひょっこりと顔を出したのは黒い前髪を切り揃えた少女だった。

「おはよう、北上。こんなところでなにしてるの?

「おはよおはよー。いい朝だねー」

 るんるんと楽しそうな北上は、手に持ったぞうさんジョウロで緑に水を撒いていく。


 与えられた潤いに喜ぶように、風にそよぐ野菜達は踊っているように見えた。

「毎朝こうやって水やりするのが、アタシの日課でさー」

「そうなんだ。知らなかったよ。ここは、北上が育ててるのかい?」

「まーそんなとこかなー。って言っても、提督の畑なんだけどね」

 はい、おしまい。と、空になったジョウロを物置棚へと直し、北上は手をパンパンと叩く。

 割と広い畑への水やりだったというのに、とくに疲れている様子も無い。

「提督は?」

「提督も暇見つけて来てるかな。お昼に一人でトマト食べてたりするんだよねぇ」

「そうなんだ。知らなかったよ」

「まだちょーっと早いけど、今度の収穫の時は時雨も来なよ」

「お邪魔にならないなら来ることにするよ」

 うんうん、と頷きつつ、北上は時雨の隣までやってきた。

 大井とお揃いである緑色の制服に、少し泥がついている。

「ちぇー、汚れちゃったかー」

「朝風呂とかどうかな。この時間なら誰もいないと思うよ」


「めんどくさいしいいやー。提督が今日から制服変わるって言ってたし」

 手で制服を払ってみても、なかなかうまくとれていないようだ。

「制服が変わる? なにかあったの?」

「んー。改二? だって。酸素魚雷モリモリになるって、大井っちが珍しくはしゃいでた」

「酸素魚雷か。僕も積んでみたいかな」

「重くて大変だけどねー。アタシら重雷装巡洋艦は、雷撃できてこそってとこがあるし、搭載数が増えるのは嬉しいねぇ」

 朝日に背を押されるように、時雨と北上は寮の方へと戻る。

 空母寮の方から赤城を探す声が聞こえてきた。

 他にも第六駆逐隊の4人と長門がラジオ体操をしていたり、金剛姉妹の姉2人が霧島に怒られたり、朝から騒がしくも平和な寮の隣を抜け、時雨たちは鎮守府の正面まで戻ってきた。

「時雨はこれから執務室?」

「うん。そろそろ行こうかな」

「アタシは大井っちのとこ戻るかなぁ。また後で2人していくと思うからよろしくね」

 玄関をくぐり、執務室への階段の前で立ち止まる。


「よろしくされても何もできないよ」

「えー、お茶と甘いものくらいくれてもいいじゃん」

「うーん。探しておくよ」

「んじゃ、まったねー」

 手をパタパタと振りながら、北上は軽巡寮の方へと歩いていった。

 それをしっかりと見送ったあと、時雨は階段に足をかける。

「雷巡組が改二か。そういえば、他にも改二案が来てるとか言ってた気がする」

 階段をのぼりながら、さらに巨大化した大和や、目に見えないくらい速くなった島風を想像する。

「僕も……もっと強くなれたりするのかな」

 まだまだ小さな自分の身体をみる。

 もっと力があれば………

「僕は何ができるんだろう」

つづく。


俺大湊提督、資源時間不足のためE-4から戦略的撤退
E-3で翔鶴姉掘る仕事に着くぜ……

炬燵+白絨毯+時雨ちゃんの破壊力が強すぎて、執務室から出たくない

>>65
乙乙
ちょっと執務室見せなさいよ!
というかスクリーンショットおながいします


時雨ちゃん旗艦でE-4クリアしましたぜ
E-5攻略の為に資源貯めの日々です

特注家具職人もクリア報酬で貰ったし炬燵もいいかもな

>>66

http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4648609.jpg
こんなんよー

ちょっと炬燵買ってくるか

うお可愛い
紫陽花窓にこだわってたけど真似してみよ


うむ…炬燵もいいな…
母港拡張ついでに職人買おうかなぁ

来ないか…中々時間とれないのかねぇ
ゆっくり待ってるよ

1です

就活でバタバタしてて、進んでないんよ...
合間見て書いてるから、ちょっと待っててくだしゃー

気にしてくれてありがとうやで




 執務室の扉を開く。

 今まで何度もしてきたその行為も、今日はなんだか重く感じられた。

 さっきまで話していた北上の言葉を反芻する。

 さらなる改装を施す、改二への強化。

 聞いた話では、各々特化した性能を持たせることができる、と。

(こんな僕でも、もっと強くなれるのかな……)

 木製の扉を押し、いつもの部屋へと入る。

 白い軍服を纏った提督は、真面目な顔で机に向かっていた。

「おはよう、提督。今日はいい天気だね」

「おー、時雨、よく眠れたか?」

「うん。しっかり休んだよ」

 物思いにふけって暗くなりそうだった気分を端へ追いやり、時雨は提督の横へと向かう。

 机に向かっていた彼は、んっと身体を伸ばすと、視線を時雨へと向けた。


「元気そうでなにより。と、言いたいところだが、何か言いたそうだな」

「!? そ、そんなことないよ。いつも通りさ」

 思わずビクっと身体を震わせ、時雨は目を丸くする。

 扉をくぐった瞬間にいつも通りの自分に戻ったはずだというのに。

「秘書艦の考えをくむのも、提督の仕事。ってか、これは秘書艦に限らずなんだけどな」

「………さっき、北上に会ったんだ」

「あぁ、改二の話か。この午前中に改装に入りたいんだが、手伝ってくれるか?」

「うん。それは全然構わないんだけどね」

 歯切れの悪い時雨を見て、提督は書類に戻しかけた手を止める。

 言い淀むように視線を彷徨わせる時雨。

 普段から妙に大人びた彼女らしくもないその姿。

 提督は両手を時雨の頬にそえると、その少女らしく柔らかな頬を真横に引っ張った。

「ふぇいとふ!? ひゃめへよ、いひゃいひゃないは!」

「だーかーらー、はっきり言おうぜ、時雨ちゃーん」

 もがもがと抵抗する彼女から手を離し、提督は時雨の目をまっすぐに見据える。


「で。お前はどう思う?」

「………戦うって、強くなるって、どういう意味があるのかな」

 強くなること。

 戦うためには、勝つためには不可欠なことだ。

 そんなことは時雨にも分かっている。

「……強くなって戦って。その先に何が待ってるのかな」

 時雨の目は揺れていた。

 戦いの中で、彼女が何を見てきたか。

 昔の事を、提督は知らないわけではなかった。

 ただそれは、知識としてあるだけで、わかっているわけではない。

 幸運艦。

 そう呼ばれた彼女は、数多の戦場から帰ってきた。

 彼女があまり語らないのは、そんな過去を思い出したくないからかもしれない。

「俺はさ」

 言葉をかみしめるように、提督は続ける。


「お前たちに戦って欲しくないよ」

 時雨の碧い眼を真っ直ぐにみつめ、提督は少し微笑む。

「出来るなら、戦わずに、平和に、仲良く過ごしてほしい。けどさ、こんな御時世だしね」

 そこで言ったん言葉を切った。

 執務室には時計が時を刻む音しか聞こえない。

「送りだすしか出来ない俺が言うセリフじゃないけどさ」

「……そんなことないよ、僕たちがうまくやれてるのも、提督のおかげさ」

「みんなが無事に帰って来れるために。俺はそのためにならなんだってやるよ」

 提督の机の上にあった書類。

 山のようにあったそれの殆どは、艦むすの強化案や改修案といったものだった。

「答えになってないか……悪いな、なんて言っていいのか分からん」

「ううん。大丈夫」

 苦笑いの提督に時雨は笑いかける。

 『みんなが無事に帰って来れるため』

 時雨が昔願ったことだ。


「ねぇ、提督……僕も、強くなれるかな」

「時雨?」

「今度こそ。みんなを守るために。みんなと一緒に帰ってくるために」

 強くなりたい。

 時雨の碧い眼の奥に、しっかりとした覚悟が宿る。

 もう揺れない。

 譲れない気持ちが、そこにあった。

俺提督、選考に落ちるの巻……

じゃなくて、だ。
お待たせしました。

翔鶴姉狙いのE3マラソンは、2隻目の阿賀野をお迎えしたところで今日の分終わりだぜ

乙です

奇遇だな俺も祈られた

乙!
選考はまあ、ドンマイ

阿賀野ってほんとうにいるの?160回まわしたけど、いないよ?

改2まだ?

ごめん、祈った

慌てない慌てない
一休み一休み(訳、のんびり舞ってる)

まだかなー?

時雨が輝くSSは少ないから何時までも待ってる

御無沙汰してて申し訳ない

先日、内定貰えたよおおおおおおおおおおお!!
まだまだバタバタしてるけど、新年から書くようにするね

時雨ちゃんとケッコンカッコカリまでもうちょっと

楽しみにしてます。
あと、内定おめ

待っていたぞ
オメデトウ!

さあ続けるんだ

再開待ってた
おめでとうおめでとう

あけまして&内定御目出度う!!!
ケッコンカッコカリまでには解二にしてやらねば…
苦でも無いな



 提督執務室。

 提督が日々の雑務をこなし、秘書艦がお手伝いをする部屋。

 割と自由度の高い鎮守府の中でも、一番『お仕事』色の強い場所。

 
 で、あるはずだ。

 
「こ、これはどういうことなのかな」

 提督になにやら恥ずかしいことを言われ、北上大井の改装を済ませた日から約1週間。

 今日もいつも通りのお仕事にやってきた時雨は、執務室の扉を開けたところで固まっていた。

 普段は書類の山になっている机は消え、豪華絢爛な紅茶セットが広げられている。

 お菓子の甘い匂いと、紅茶の香りの誘われるように、時雨は部屋の中へと進んでいく。

「ヘーイ、時雨! Tea Timeは大事にしないとネー」

「うん……それはいいんだけど」


 広げられた紅茶セットを囲むように、金剛に榛名、鈴谷と熊野が席についていた。

「ンー、時雨は紅茶苦手でしたカ?」

「そういうわけじゃなくてさ」

「だったら、shit down! はやく席についてくだサーイ」

 満点笑顔の金剛に気圧され、空いていた椅子に腰を下ろす。

 おそらくこのお茶会の主催であろう帰国子女の彼女は、楽しそうに時雨の分の紅茶を用意していた。

「いきなり御迷惑でしたか?」

 少しだけ申し訳なさそうな笑顔をみせつつ、榛名はそっと時雨に耳打ちする。

「あぁなった金剛お姉様はもう止められなくって……」

「僕は大丈夫だけど……こんなにしちゃっていいの?」

 どう考えても仕事部屋でなくなった提督執務室を見渡す。

 提督の姿が見えないのも気になるが、元に戻すのも大変そうだった。

「そこはその……榛名が責任を持って直しますので」

「うーん。提督も怒ったりはしないだろうけどさ」


「提督の許可は得てますので、大丈夫だと思うんですけど」

 自信なさげな榛名の顔を窺う。

 どうにもここまでするとは思わなかった、といった感じだった。

「そーいや、提督はどこいっちゃったのさー?」

 心配そうな顔の時雨と榛名をよそに、声の主である鈴谷はお気楽そうな顔でソファに沈んでいた。

「提督もいないし、熊野もこんなだし、鈴谷退屈なんだけどー」

 じとーっとした目を熊野に送りつつ、鈴谷はひらひらと左手を遊ばせる。

 すぐ耳元で鈴谷の手が揺れているというのに、熊野は金剛の紅茶淹れをこれでもかとばかり凝視して、周りの事などどこ吹く風といった感じだ。

「提督なら今日は出張って言ってましたけど」

「ふーん。でも、出張ならさー、秘書艦の時雨がここにいるのはおかしくね?」

 何も聞いてないの? と鈴谷が続ける。

「また出張、ってのは聞いてたけど。今日行ってるなんて聞いてないよ」

「そういえば、今朝お会いしたときは、別の子を連れていくって聞きましたよ」


「なるほどねー。どうなの、時雨的にはさー?」

 新しいおもちゃでも見つけたような笑みを受かべ、鈴谷は時雨に詰め寄ってくる。

 こういう話が好きな彼女にとっては格好のネタといったところだろう。

「どうもこうもないよ。僕じゃない方がよかったってだけの事さ」

「ほほー。なるほどねー。うんうん」

「な、なんにもないってば!」

「えっへっへー。なにをそんなに焦ってるのかなぁ?」

 ニヤニヤを隠そうともしない鈴谷に時雨は少しだけ頬を膨らませる。

「うううー。私だけ仲間はずれデース」

「そんなことありませんわ、金剛さん。わたくしがしっかりと見ておりましたとも」

「熊野はいい娘デスネー」

 熊野が、撫で撫でと優雅な手つきで金剛の頭を撫でる。

 立ち居振る舞いがどこかお嬢様である熊野は兎も角、4姉妹の長女である金剛が頭を撫でられている姿はなんとも新鮮味のあるものだ。

「ふふふ。わたくし、他の艦むすとは一味、違いましてよ?」


「は、榛名だって金剛お姉様を撫でたっ……じゃなくて、仲間外れになんてしてません」

「むむー、私と熊野を置いて、楽しそうにお話してたネ」

「そ、それは……その」

 撫でられていて威厳もくそもあったもんではないとはいえ、敬愛する姉からの視線から逃れるように、榛名は居心地悪そうにもぞもぞと身体を捩る。

 同じくお話していた鈴谷や時雨に視線で助けを求めるも、彼女らはニコニコと笑ってどこ吹く風といった調子だ。

「榛名は私のコト、そんなに好きじゃないみたいデース」

 金剛がしょんぼり、と肩を落とす。

 榛名が少しでも冷静でいたなら、愛するお姉様の顔がイタズラっぽい笑みを浮かべていることにも気づいたかもしれない。

 しかしながら、落ち着きを大破させられた彼女にとっては、現在の状況はどうすることもできず、ただただアタフタするのみだった。

「もうそろそろ許してあげたらどうだい?」

 苦笑いを浮かべる時雨の言葉に、金剛が満面の笑みで顔を上げる。


「ンー、榛名もいい子デスネー」

「え? え??」

 金剛お姉様は泣いていた筈では???

 頭が回らない榛名に、さっきまでうなだれていたはずの金剛が近寄る。

「ちょっと素直すぎるのも困りものですケド、そこが榛名のいいところネー」

 金剛の指が榛名の頬へとのびる。

 むにっ、と。

 彼女の頬を横へと引っ張った。

「ひょ、ひょねぇひゃま!?」

 目を丸くした榛名に満足したのか、金剛が指を放すとぽよん、とつねられていた頬が元に戻る。

「さ、Tea timeにするヨー」

「は、ハイ……?」

 ぱちくりと瞬きを繰り返す榛名と、それをみつめる優しい笑顔が4つ。

 にわかに騒がしさの戻った部屋で、楽しい午後が始まりを告げた。






「そういえば、時雨さー。提督のこと……」

「だから、なんでもないってば! 鈴谷こそ、暇さえあれば提督のところに来てるし」

「あらあら。あまり部屋にいないのはそういうことでしたの?」

「ちょ、違うって!」

「何が違うのか、説明してくださいます?」

「ノー! 提督のHeartは私のものデース!」

「は、榛名だって負けてま……なんにもないです」

 楽しく騒がしい午後はまだまだ終わりそうにない。

時雨ちゃんのほっぺつつきたい人この指と~まれ!

おまたせしました。
年々書くのがヘタクソになっていってる気がするんだよ……

イベントどうでしたか。
我が鎮守府では、無事しおいも迎え、時雨ちゃんも99になりました。
E2マラソンするも、長門はきませんでした。
大型建造? 知らない子ですね(激減した資源見ながら

φ 握ったぞ
さあ、プニプニさせてもらおうか!

俺も握ったった
長門は二人居るけど暁が居ないんだよなあ

やっぱ……中野君の書く時雨を…最高やな!(人違い)
とにかくこの雰囲気大好きです、応援してます

マダカナ?

こないの?

ゆっくりまったり待機
ついでに時雨を愛でていればいいんじゃないかな

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