唯「あずにゃんって、彼氏とか…いる?」(621)

梓「へぇっ!?か、彼氏!?」

唯「あ、そのう…深い意味はないんだよ!何となく、何となく聞いてみようかなって…」

梓「唯先輩から彼氏なんて言葉が出てくるなんて…てっきりそういうのには興味がないと思ってたんですけど」

唯「そっそれで、あずにゃんは…いるの?」ジーッ

梓「…いませんけど」

唯「えっ!?じゃ、じゃあ今までに付き合ったことは?」

梓「う…それは」

梓(や、やばい…17年間付き合ったこと無いなんて恥ずかしくて言えない…)

梓「そ、そういう話は他の先輩方としてください」

唯「あずにゃんの事が知りたいんだよぉ!」

梓(ううっ…なんでよりによって私しかターゲットがいない時に…)

梓(…私しかいない?)

梓(私しかいない=他の人に知られたくない=他の人は眼中にない=私だけでいい=私がいい)

梓(もしかして…唯先輩って私狙い…!?)

梓「…」

梓(私達両思いだったってこと!?にゃああああ!)ブルブルブル

唯「あずにゃん?」

梓「はっ!?あ、付き合ったことですよね」

唯「う、うん」ゴクリ

梓(って落ち着け私!まだ唯先輩の口から聞いたわけじゃないんだし、ここは慎重にいかないと)

梓(っていうかここはどう答えるのが正解なんだろ?付き合ったこと無いって言ったほうがいいのかな)

梓(いやいや、17年なんて言ったらドン引きされるかもしれないし…あっさり落とせそうとか思われたらやだし)

梓「まぁ、ありますよ」

唯「!」

梓(ここでがっついちゃだめ。ごく自然にモテる女、恋多き女をアピール)

梓(って書いてあった)

唯「い、今はいないんだよね?」

梓「んーまぁ…今は、ですけど。そういえば高校に入ってから切らしたのは初…かな?」首カシゲ

唯「あ…そ、そういえばクリスマスの時も予定あったりしたもんね!」

梓「あ、あの時はすみませんでした。ちょっとカレに駄々こねられちゃって…」

唯「う、うん!クリスマスイブだからしかたないよ、うん!」

唯「あずにゃぁーん!私も構ってよぉ!」ダキッ

梓「今澪先輩と喋ってんだるぉうがぁぁぁぁ!!」ガッツン!!!!

唯「」ドサッ

唯「ちなみに、何人くらいと付き合った事あるの…?」

梓「…」

梓「えっと…5人くらい?」

唯「5人!?」

梓(え、おかしかった?)

梓「まあ大体です。そのくらいです。あまりそういうの覚えてないので」

唯「そ、そうなんだ。あずにゃん可愛いもんね。モテて当然だよね…」

梓「うーん、でも何か違ったっていうか…しっくりこなかったんですよね」

唯「違った?」

梓「年下とか、同学年の男の子と付き合ったんですけど…ピンとこなかったんですよね」

梓「今度は違ったタイプの人と付き合ったりするのもいい…かな?」チラッ

唯「違ったタイプ…」

梓(そう、例えば男の子でもなくて、年下でも同い年でもなくて…)チラチラ

唯「年上の…」

梓「はい」

唯「男の人?」

梓(ちがあああああう!!)

梓(この人ヘタレすぎっていうか鈍すぎ!?もうっ!)

唯「やっぱり年上の男の人って頼りになりそうだもんね…」

梓(あーもう!)

梓(もっと焦らせてみるか…)

梓「そうですね」

唯「!」

梓「大学生の人…あ、中学時代の先輩なんですけど。何人かにアプローチ受けてるんですよね」

唯「大学生…」

梓「やっぱり…年上…としうえって言うんですか?うん。トシウエ…ですね。年上はっていうのは年上ってだけでポイント高いですよね」

梓「まあ、私としては…しっかりとかしてなくてもいいんですけどね」

唯「しっかりしてなくてもいいの!?」

梓「まあ男の人っていくつになっても子供ですし。私が引っ張ってくくらいでいいと思ってますから」チラリ

唯「…」

梓(伝わったかな?)チラリ

唯(うぅ、あずにゃんの発言大人すぎ…すごすぎるよ)

唯(やっぱり私みたいなペーペーは相手にしてもらえないよ)

ガチャ

律「おーっす。お、唯達もう来てたのか」

梓(げっ。先輩達来ちゃった)

唯「あ、おーっす。へへへ…」

紬「唯ちゃん…?」

澪「どうした?元気ないな」

唯「あ、えっと…」チラリ

梓「唯先輩、この話はまた今

律「ちょーっとまったぁー!」ガバッ

梓「ムグゥ!」

梓(唯先輩!黙っててください!)

紬「何々?教えて!」

唯「あのね…」

律「ぐ…ぐぅぅ~」

唯「り、りっちゃん?」

律「梓ぁ!お前年下のクセに彼氏とか…生意気だぞ!」

澪「そういえば…クリスマスで集まろうって時梓だけ来なかった・・・」

梓「え、ええ。まあそういうことだったので…」

紬「梓ちゃんってモテるんだね。でも可愛いし、わかるかも」

唯「うん…」

澪「梓はいかにも女の子って感じだしな。男の子にはモテルかも」

梓「にゃっ!?皆してやめてください~!」

梓(えへへ。ちょっと気分いいかも…)

律「っていうか5人って何?お前どんだけ!?」

澪「5人…///」カァァ

梓(う…ボロが出そうだからそこにはあまり触れないで欲しい…)

梓「ま、まあ高校生にもなれば普通だと思いますよ?」

紬「梓ちゃん…何だかすごい…」


シーン


律「な、なあ。梓ってさあ…じゃあ…」

梓「はい?」

律「経験とか…ある?」

梓「!?」

澪「り、律!何聞いてるんだよ!///」

律「だって私達も高校生だしこのくらいの話…唯だって気になるだろ?」

唯「え…う、うん」

紬「私もちょっと気になるかも…」

梓(どどどうしよう!?)

梓「…」

梓「それはまあ…ありますけど」

律「そ、そっか…///」

唯(…そうだよね。あたりまえだよね)

澪「…///」

紬「あ、あの…ああいう事ってどんな感じなの?」

梓「へえっ!?ど、どんな感じって?」

律「そりゃ…なあ?///」

梓(ううっ、経験ないしわからないよ…)

梓「えーと…まあそれなりです」

唯「…」

律「そ、そっか。それなりか…///」

紬「最初は痛いっていうのは…?」

梓「まあ、そうですね」

紬「そうなんだ…」


シーン


梓(居たたまれない…っていうか私さっきから相槌しか打ってないし!)

梓(何か経験者っぽいこと言わないと!)

梓「あー、えっと」

澪「う、うん」

梓「好きな人としてるって思うと痛みより幸せの方が勝りますから心配しなくても平気ですよ」


シーン


梓(うう…何この空気…。っていうか何バカみたいな事言ってるんだろう私)

紬「…唯ちゃん?」

梓「へ?」

唯「…」グスッ

唯「う…ううぅ~っ…!」グスグス

澪「ど、どうした唯?」

唯「か…帰る…っ」

梓「え?ちょ、唯先輩」


ガチャ…バタン


紬「な、なんで泣いてたの?」

律「さ、さあ…」

梓(え…?どういう事?私はどうすればいいの?)キョロキョロ

澪「梓、私達が来る前に唯と何かあった?」

梓「え?特には…ただ私の元カレの話をしてただけで」

律(サラリと元カレって単語を発せられるとなんかムカツクなあ)

律「じゃなくて、本当にそれだけか?」

梓「本当にって…どういうことですか?私が泣かせたとでも言いたいんですか?」

紬「ちがうの、そういう訳じゃなくて…何か少しでも気になった事はなかった?」

梓「…まあ私の元カレの話…彼氏がいるかとかに食いついてましたけど」

律「うーん。梓に彼氏がいるか聞いてきて…」

梓「話してる最中に段々テンションが下がってって…」

澪「最後は突然泣き出して帰った」

梓「はぁ」

律「それって…そういうことだよな?」

澪「ああ、普通に考えれば」

紬「梓ちゃんの事が好きだから、色んな話を聞いてショックを受けちゃったってことかな」

梓「いえ、唯先輩が私の事好きなのはわかってます」

律「おいぃー!?」

梓「わからないのは、なぜ泣き出したかって事なんですよね」

澪「何でって…そりゃ好きな人の過去なんて聞いてて気持ちいいわけないんじゃ」

梓「それがわからないんですよ。それだけモテてたって事じゃないですか。なんでショックなんですか?」

紬「それは…そうかもしれないけど」

梓「でしょう?」

律「あー、嫉妬…とか」ボソ

梓「嫉妬?」

律「いや、想像だけどな?過去にラブラブな人がいたとか思うとちょっと悔しかったりするのかなって…」

梓「えぇ…?それってモテない人だけじゃないですか?そんなの経験ない人くらいだと思うんですが…」

律「」イラッ

澪(う…私も嫉妬するかも…)

紬「と、とりあえず追いかけたほうがいいんじゃないかな!?梓ちゃんがよければ、だけど…」

澪「そ、そうだ。ここは追いかける場面だぞ!」

梓「…」

梓「いえ、その必要はないです」

澪「必要ないって…梓お前」

紬「りっちゃん待って。梓ちゃんは唯ちゃんの事…」

梓「好きです」

律「じゃあなんで!」

梓「律先輩、恋愛にも駆け引きがあるんです」

律「駆け引き?」

梓「そうです。押すだけじゃなく、引くのも重要です。それが恋愛なんです」

澪「…なるほど。そういうことか」

梓「澪先輩」

澪「さっきの律の仮定…嫉妬っていうのが正しければ、今唯を追いかけるのは得策とは限らないな」

梓「そういうことです」

律「どういうこと?」

紬「唯ちゃんが嫉妬やショックでああなったんだとしたら、もう少し時間を置いたほうが良いってこと?」

梓「そうです」

律「ん…んん~。そうかぁ…?」

梓「まあ私に任せてください。今までにこういう事は何度もありましたし、大丈夫です」



梓(両思いってわかったら余裕と一緒に欲も出てきちゃったな)

梓(私は…唯先輩だからだけど…恋人関係になってからも私がイニシアチブを取りたい)

梓(恋愛は惚れたほうの負けって言うし。先を見据えると私が唯先輩の告白を受け入れてあげるって形になるのが大事なんだよね)

翌日

唯先輩は、部活に来なかった。

2日後

唯先輩は、部活に来なかった。

3日後

梓「…」

紬「梓ちゃん、唯ちゃんなんだけど…」

梓「唯先輩は何やってるんですか?部活を何日もサボって…」

律「いや、つーか学校休んでるんだよね…」

梓「えっ?どうしてですか?」

澪「先生は風邪って言ってたけど、多分本当は…」

律「なあ、やっぱり今からでも唯の家に行ったほうがいいんじゃないか?」

紬「うん、私達もちょっと心配だし」

梓「…」

梓「…いえ、その必要はないです」

律「梓ー…」

梓(折れたら負け…。これは私と唯先輩の勝負なんだ!)

紬「じゃあ、私達3人だけでも行ってくる?」

梓「あ、だめです!」

梓(もし私が唯先輩の事好きってばらされたら…)

律「だめってお前」

梓「あ、いえ…憂が言ってたんですけど、本当に風邪なんです。風邪がうつるってお見舞いも断られてますし」

梓(ってことでいいや…)

澪「そっか…じゃあそっとしておくか」

梓「はい。それがいいと思います」

翌朝

梓「おはよ、憂」

憂「あっ梓ちゃん。おはよう!」

梓「なんだかご機嫌だね。唯先輩、元気になったんだ?」

憂「うん!えへへ♪」

梓(やっとかあ。今日あたり、何かあるかも…!?)ワクワク

放課後

梓「そういえば唯先輩、今日は学校来てるみたいですね」

澪「ああ。そろそろ来ると思うよ」

ガチャ

唯「おいっす!」

梓「お久しぶりです、唯先輩」

唯「あずにゃんおひさ~」

梓「…」

唯「ムギちゃん、今日のお菓子は~?」

梓「…」

梓「唯先輩?何か言うことはありませんか?」

唯「おお!そうだった!」

梓「あの…皆いますけど大丈夫なんですか?」

唯「うん。皆に言わなきゃだめだもんね」

梓「…わかりました。どうぞ」

唯「うん。皆、部活休んでごめんねー。今日からまた毎日くるね!」

梓「…」

紬「唯ちゃんが元気になってよかった~」

梓「…」

律「じゃ、早速ティータイムといこうぜ~!」

梓「あの…」

澪「ん、どうした梓?」

梓「いえ、唯先輩が他に何か言いたい事があるんじゃないかと」

唯「…あ!」

梓(思い出しましたか)

唯「皆、この前は突然帰っちゃってごめんね。でももう大丈夫!元気一杯だから!」フンフン

澪「やっぱり唯は元気なのが一番だよ」

紬「じゃあお茶にしましょう♪」

梓「…」

律「ん、どうした梓?」

梓(ここまでヘタレだとは…。助け舟を出してあげますか。唯先輩ってば、本当に私がいないとダメなんだから…)

梓「いえ…唯先輩、この前私の元カレの話を聞いて泣いちゃいましたよね?あの事なんですけど」

梓(お膳立ては整いましたよ。どうぞ)

唯「あ…あの話かぁ///」テレッ

梓「なんで泣いちゃったんですか?」

唯「…」コホン

唯「えっと…私、あずにゃんの事好きだったから…。あずにゃんの色んな話聞いて、何だか切なくなっちゃったんだ…」

唯「あずにゃん、皆、びっくりさせてごめんね」

梓「そう…だったんですね。でm



唯「でももう大丈夫!私、新しい恋を見つけたから!」



梓「…え?」

唯「あずにゃんの事好きだったから、すっごく悲しくて、いっぱい泣いちゃったんだけど…」

梓「え…あのう」

唯「そんな時、その人はずっと私の側にいてくれて、支えてくれて…」

唯「ううん、ずっと前から、私が気づかない時からずっとそうしてくれてたんだけどね」

梓「ちょっと…」

唯「やっぱ経験無いとかっこ悪いんだ……」
チャラ男「よー、そこの彼女ー」
みたいなのだったら死ね

唯「それはね・・・」

一同 「ごクリ・・」

唯「毎週アニメ見てくれてたみんなだよ」

Fsqcg2XV0「コックローチ!コックローチ!」

梓「ゴキゴキ!!ゴキゴキ!!」

Fsqcg2XV0「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろ」

コックローチ「タマゴウマレルゥゥゥゥ」

ブリッ
ブチュチュチュチュ

ポロ

ほんとだよ…ゴキブリフェチとかなんだよ…

pvQFsxAi0「あ、あずにゃん!ハァハァ蛇腹が気持ちいいよ!!ハァハァ」パンパン

コックローチ「んほぉぉぉぉぉぉぉ」ビクンビクン

かずにゃんは世界人口の数だけ居る
心の中のあずにゃんと同じ数な

あとで続きやる

梓(そんな…勝手に一人で諦めないでよ!もっと踏み込んできてよ!)

梓「唯先輩!」

唯「あ、何?」

梓「いえ、唯先輩は私の事が好きなんですよね?」

唯「うん。もちろん好きだよ」

梓「私、今フリーなんですよ。私がそうなることってあまりないです」

梓「で、まあ結構暇だし…。先輩の気持ちを無下にするのもアレですし…」

唯「?」

梓(あーもう!)

梓「唯先輩がどうしてもっていうなら…つ、付き合ってあげてもいいかな?」

唯「…ありがと、あずにゃん」

梓「…!べ、別にお礼を言われる事じゃありません!ちょっとした気まぐr」

唯「気持ちだけ受け取っておくね」ニコ

梓「え…」

唯「さっきも言ったけど、本当に大切な人が誰なのか気づけたから」

梓「ま、待ってください!」

梓「唯先輩、意地はってるだけなんですよね?私にはわかります!」

唯「…」

梓「さっきの言い方が悪かったなら謝ります!だから、私と付き合…」

唯「違うよあずにゃん。これが私の本当の気持ちだよ」

梓「…」

紬(梓ちゃん顔白い…)

澪「梓?大丈夫か?」

律「あ…あはは!唯~、梓が珍しくデレてるぞ?作戦大成功だな!」

唯「そだね。珍しいや」ニコ

律(これは…ダメか)

梓「あ…あ…」

唯「じゃあこの話はおしまい!あずにゃんとは、ちょっとゴチャゴチャしちゃったけど…よかったら、また仲良くしてね!」

梓「は…い」

なんでこんな事になっちゃったのかな。
私の何がいけなかったんだろう。唯先輩を傷つけるような事、言っちゃったのかな…
あの時追いかればよかったのかな。それとも、彼氏なんて嘘を言わなければよかったのかな。

恋の相手が誰かは知らないけど、その人の話をしている唯先輩は幸せそうだった。
唯先輩はもう私の事は見ていない…

もし時間を巻き戻すことができるなら…もう一度あの日に戻ってやり直したいな…


一晩保守させてこれはねえわ

くっそ……
モンハン体験版しようと思ったのに……

わかった
俺が続き書く
ダメ?

>>257
唯梓ハッピーエンドで頼む

数日後
梓の教室

モブ1「ねえ聞いた?」

モブ2「ああ、平沢先輩の彼女事件でしょ?」

モブ1「平沢先輩って女の子好きだったんだー」

モブ2「この学校じゃ大して珍しくないでしょ。っていうか、平沢先輩の彼女って平沢先輩とクラスなんだよね」

モブ1「え、そうなんだ。誰だれ?」

モブ2「んー、なんか『いちご』って呼んでたけど……」

梓「……」

唯先輩に恋人が出来たことは、次の日には学校中に広まっていました

>>258
そいつはどうかな
俺、唯といちご好きだし
あともちろん書き溜めとかしてないから保守お願いすることになるぞ

憂「あの……梓ちゃん?」

梓「え、ああ、何?」

憂「あの……お姉ちゃんのことなんだけど……」

梓「あ、うん……」

憂「ほ、本当にいいの?」

梓「……何が?」

憂「お姉ちゃんが、いちご先輩と付き合うの」

梓「な、何で私に?いいよ別に。恋人居るのとか普通だし、それに」

憂「?」

梓「……唯先輩が選んだ人でしょ?いちご先輩って私知らないけど、きっと素敵な人だよ。だから」

憂「……ん。わかった。じゃあ、席戻るね。またね、梓ちゃん」

梓「うん。じゃあね」


梓「はぁ……」

ifかあ
じゃあちょっと無理かな、ごめん
もうプロット出来ちゃってるし
マジごめん

いや、別に続きでも良いと思うが唯いちごを書くのなら蛇足だとしか言いようがない

>>267
唯いちごかどうかはわかんないよ?
わかった、じゃあ乗っ取るわここ

朝登校すると、私のクラスのみんなは唯先輩に恋人が出来た噂で大騒ぎでした

今までは気づかなかったけれど、澪先輩以外でもHTTのメンバーは有名みたいです

そのHTTのメインボーカルに恋人が出来ました

騒ぎにならない方がおかしいですよ

放課後 

梓「……気が重い」

部室に行きたくありません

昨日は唯先輩から「仲良くして」と言われましたが、実質あれはフラれたんです

どんな顔をして会えばいいんでしょう

梓「でも、行かなきゃな……」

他の先輩方にも、たぶん私の気持ちは気づかれてます

これで今日私が行かなかったら、絶対に心配をかけてしまいます

梓「大丈夫。いつも通りに」

いつも通りの自分がわかりません

でも、自業自得ですよね

私があんな嘘を付いちゃって

唯先輩を傷つけてしまったんですから

部室

梓「こんにちわー……」

唯「あ、あずにゃんー」

部室の扉を開けて覗いてみると、唯先輩がこちらを向きました

他の先輩方も揃っています

どうやら私がうじうじ考えてたせいで、一番最後のようです

唯「遅いよー。何してたのー?」

梓「い、いや、その、係の仕事があって……」

唯先輩がとことこやってきて、私を出迎えてくれます

いつもならここで、私を抱きしめてくるのですが――

唯「そっかー。なら仕方ないねー」

にっこりと無邪気に笑って、扉を開けてくれて

それだけでした

おk、わかった
止める止める
ごめんな

どうすりゃいいんだよもう……

梓「すみません……」

唯先輩の無邪気な笑顔が見ていられなくて、私は短くそう言うと目を合わせないように部室に入りました

他の先輩方はテーブルについていました

梓「遅れてすみません」

律「い、いや、いいってー。係の仕事なら仕方ないしな!」

澪「そ、そうだぞー。練習って言っても、具体的にはお茶してるくらいなんだから!」

あはは、と笑う律先輩と澪先輩の笑顔も痛々しいです

絶対に私のこと気遣ってくれてます

唯「ほらほら、あずにゃん早く座ってー」

梓「は、はい」

紬「今日はモンブランなのー」

律「やっぱ軽音部はいいよな。お茶も出るし!」

澪「それ食べたら練習だぞ」

唯「えー、もっとゆっくりしようよー」

いつも通りのやりとりです

律先輩が何か言って、澪先輩が釘を刺して、唯先輩が律先輩に同調して、紬先輩がそれを見て笑ってる

その一連のやりとりの中に、私の役割もちゃんとあります

澪先輩のフォロー、そして唯先輩と律先輩に練習を促すことです

唯「あずにゃんももうちょっとゆっくりしたいよねー?」

ここです。意識せず、緊張せず、いつも通りに振る舞えばいいんです

梓「そ、そうですね。あまり焦らなくてもいいですよね……」

律澪「……」

二時間後

律「ふいー、今日の練習はここまでにしとくかー」

澪「もうすぐ下校時間だしな。しかし、結局一時間も練習してないじゃないか……」

紬「まあまあ澪ちゃん、明日もあるんだし」

唯「あー、いっぱい練習したねー」

下校する準備をします

アンプを片付けて、戸締まりして、洗い物をして

律「よーし、片付け終わったな。じゃあ帰るか――」

唯「あ、みんなごめんね。今日から私、一緒に帰れないや」

梓「え……」

心臓が高鳴りました

唯「いちごちゃんと帰る約束してるからねー」

律「そ、そうなのか」

澪「で、でも唯――」

紬「仕方ないわよねー。付き合ってる人が居るんですもの」

梓「そ、そうですよね」

唯「うん。そういうことだから。じゃあみんな、また明日ねー」

笑ってそう言うと、唯先輩はギターケースと鞄を掴んで部室を出ました

唯『え、いちごちゃん?どうしたの?』

『――』

唯『待っててくれたの?ありがとー!私が体育館まで行ったのに』

『――』

唯『そ、そんな照れるよぉー。じゃあ、一緒に帰ろっか!』

扉の向こうからそんな声が聞こえてきます

どうやら、唯先輩の彼女のいちご先輩が唯先輩を迎えにきているようでした

あの扉を少し開ければ、唯先輩の彼女を知れる

私の足は

梓「……っ!」

動きませんでした

律「じゃ、じゃあ……帰るかー!」

澪「お、おう!そうだな!」

紬「ほら、梓ちゃんも早く」

梓「はい……」

鞄とギターケースを手に取る間に、律先輩が部室の外を確認していました

きっと、唯先輩が居ないかを確認していたのでしょう

とても優しい先輩です

澪「あー、そうだ。帰りにパフェ食べて行かないか?ほら、駅前に新しくできた所」

梓「え、でも、ケーキも食べましたし……」

紬「いいわね、それ。私、あそこのパフェにちょっと興味あったの」

澪「い、いいだろ梓!奢ってやるから!」

梓「そ、そこまでしてもらうのも……」

律「いいからいいから!奢ってくれるって言うんだから奢られとけ!な!」

紬「そうよ、梓ちゃん。お言葉に甘えておいて」

梓「は、はい……」
慰めてくれてるのかな

帰り道

律「はぁ……」

澪「はあ……」

紬と梓と別れ、二人で帰り道をトボトボと歩く

澪「なあ、律……」

律「言うな。お前の言いたいことはわかってる」

澪「……だよな」

律「しっかし、まあ、あれだな」

澪「本当に、タイミング悪いと言うか……」

律「唯がいちごと付き合って、梓が失恋するなんて……」

澪「唯と梓は両思いだと思ってたんだがな……」

律「私もだよ。……全く、計画台無しじゃんなぁ」

澪「そうだよなぁ。なあ、言わない方がいいよな、今は」

律「当たり前だろ。このタイミングで言ってみろ。梓、最悪部活辞めちゃうぞ」


律「私達が付き合ってます、なんて。空気読めないにもほどがあるってもんだ」

律「大体さー、付き合い始めて、その時にぱぱっと言っちゃった方がよかったんだよ」

澪「そ、それは!」

律「なのに澪しゃんが『そんないきなりは恥ずかしい。一ヶ月くらいは時間をくれ』とか言ってー」

澪「その時は恥ずかしかったんだよ。それに、一ヶ月あれば唯と梓だって付き合い初めて、それに便乗しちゃえばいいかなーって思ってたんだよ」

律「まあ私もそれは思ってたけどさ。でも、こんな状況になっちゃあな」

澪「――唯といちごか。まあ、元々仲良かったと言うか、一方的に唯が絡んでたみたいな感じだったのに」

律「私、どっちかってーといちごは唯よりもムギの方が仲良かったと思ってた」

澪「雰囲気がお嬢様っぽいからかな。そう言えばそうなんだけど――。それよりも梓のことだよ」

律「あー。ありゃあ、相当落ち込んでるぜ」

澪「今日も様子が変だったしな」

律「普通に振る舞おうって思ってるのバレバレで、それがますます痛々しかったな」

澪「練習もミスしまくってたしな。どうしよう、律。部長だろ、なんとかならないのか?」

律「んー、まあ付き合ったの発覚したのが最近だからなぁ。それに、梓も色々経験あるみたいだし、なんとか乗り越えられるんじゃないか?」

澪「そうかなぁ。なんか心配なんだが……。そ、それよりも律さ」

律「ん?どうした?」

澪「梓も色々経験、で思い出したんだけどさ……」

律「うん。それが?」

澪「あ、あの。梓が『好きな人としてるって思うと痛みより幸せの方が勝りますから心配しなくても平気ですよ』って」

律「ちょっと落ち着け。会話に脈絡が無い」

澪「わ、私達、付き合って一ヶ月なのに、そういう雰囲気にならないって変かなー、と……」

律「……」

澪「い、いや、まあ、人それぞれだしな、そういうタイミングって。悪かったな、変なこと言っ」

律「まさか澪しゃんからそんな積極的なお誘いが来るなんて……」

澪「ちがあああああああああう!!……もういい!悪かったな」

律「そう拗ねんなってー。――まあ、そうだよな。一ヶ月だもんな」

澪「――、え、律?」


律「お前ん家、今日誰も居なかったよな?」

次の日

憂「おはよー」

梓「あ、おはよー。今日は唯先輩は?」

憂「ん、彼女さんと一緒に行くから、って。今日は私一人かな」

梓「そ、そっか……」

登校も一緒にしてるんだ、唯先輩……

ざわざわ

憂「?なんか、騒がしいね」

梓「うん……どうしたんだろう」

純「あ、二人ともおはよ」

憂「あ、おはよ。なんかあったの?騒がしいけど……」

純「ん?ああ、若王子先輩だよ。やっぱみんな気になってるみたいだよ?」

梓「若王子、って……」

視線とひそひそ声の先に、居ました

唯先輩の彼女が

憂「綺麗な人だね……」

純「本当にねー」

梓「……」

本当に綺麗な人でした

ちょっと赤みがかった髪なんかさらさらで、肌も白くて

ちょっと冷たい感じのする瞳が、とても印象的でした

あれが、唯先輩の彼女なんです

唯先輩の大好きな人なんです

憂「あれ、こっち見てる?」

いちご先輩がこちらを見ていたような気がしました

見てると言っても、ほんの二秒間くらいです

あまり感情の起伏が無い目なのでわかりませんが、きっと偶然でしょう

私なんて相手にもなりません

梓「あれが、唯先輩の……」

憂「う、うん……」

昼休み

憂「梓ちゃん、ご飯食べよー」

梓「うん」

純「やっと昼休みだー。……それよりもさ、梓」

梓「なに?」

純「なんかあったの?最近食欲無さそうじゃん」

梓「え?い、いや、その……普通だよ?」

純「そっかなー。なんかいつもよりもお弁当の量が――」

憂「まあまあ、食欲無い日だってあるから。ね?」

純「それもそうだね。じゃ、いただきますー」

梓「……」

確かに最近は食欲が無いような気がします

気のせいだと思うのですが

モブ「梓ちゃーん、お客さんだよー」

その時です、あの人が私の教室に訪ねてきたのは
梓「あ……」

梓「い、いちご先輩……」

教室の扉の前で私を待っていたのは、いちご先輩でした

いちご「こんにちわ。今大丈夫?」

梓「あ……なんで……」

いちご「話したいことがあるの。いい?」

梓「は……い」

いちご「ここじゃ聞かれたくないから。屋上で」

梓「わか……りました……」

そう言うと、いちご先輩は先に行ってしまいました

梓「ごめんね、二人とも。ちょっと行ってくる」

純「どうしたの?っていうか、いちご先輩と知り合いだったんだ、梓」

梓「いや、えっと……」

憂「あ、梓ちゃん大丈夫?顔色悪いよ」

梓「へ、平気だよ。じゃあ、行ってくるね」

話の内容は検討がついています。唯先輩のことでしょう

屋上

いちご「いきなりごめんね」

梓「い、いえ……」

いちご「一応、初めまして。若王子いちごです」

梓「中野梓です……」

いちご「知ってる。唯の『元』好きな人だよね」

梓「……」

いちご「はじめまして、って言ってるけど、本当は前からあなたのこと知ってたの」

梓「な、なんで……」

いちご「唯が話してくれてたの。あなたのことずっと」

いちご「昨日はあなたとどんな話をしたのかとか、あなたとどんなことをしたとか」

いちご「どんなことを教えてもらって、どれだけ可愛かったとか」

梓「……」

いちご「ずっと聞かされてたの。どれだけあなたのことが好きかって」

梓「そ、そうですか」

いちご「私の気持ちも知らずにね。でもそれで良かったの。唯が笑ってくれるなら」

梓「……」

いちご「そう思ってた。けどこの前、放課後に唯に呼び出されてね」

いちご「泣き声で電話してきたから、急いで行ったの。そしたら、今日こんなことがあったんだって」

梓「あ、あれは……」

いちご「唯の気持ち気づいてなかったの?」

梓「……正直、薄々気づいていました」

いちご「じゃあ何であんなこと言ったの?」

梓「そ、それは……」

いちご「唯の話を聞く限りだけど、あなたも唯のこと好きなんじゃなかったの?」

梓「う……」

いちご「聞いてる?何で唯を傷つけたのかって聞いてるんだけど」

梓「はい……」

いちご「唯、泣きじゃくってた。確かに軽々しく過去の話を聞いた唯にも落ち度はあるかもしれない。でも」

いちご「それでも、言い方ってあるんじゃない?好きな人が過去にどういう人とどういう付き合い方をしたかなんて、唯はそこまで聞いた?」

いちご「自慢したかった?アドバンテージを取りたかった?――唯はね、そういう駆け引きが出来ない子なの」

いちご「本当に優しいの。どんな嫌なことでも、大抵は笑ってみんなに心配かけようとしない。でも、あの夜だけは私を頼ったの」

いちご「それだけキツかったの。一人じゃどうにもならないくらい。想像出来る?」

いちご「大好きな人が過去に何人に愛されて、どういう愛され方をしたか、言われて嬉しい人なんて居ると思うの?」

いちご「……我慢しようとしてたみたいだけどね。あなたが抱かれた時の話をする前は」

梓「そ、それは……!」

いちご「言い訳しないで!」

梓「っ……!」ビクッ

いちご「唯ね、今まで誰とも付き合ったことがないの。だから恋愛に大してものすごく臆病なの。当たり前でしょ?経験がないもの」

いちご「その唯が……あなたの話、笑って聞けると思ってたの?どんな気持ちになるか、考えてなかったの?」

いちご「逆に考えてみて。唯が他の人に抱かれたら、あなたはどう思うの?」

梓「い……っ!」

ゆ、唯先輩が……

いちご「ごめん。ちょっと熱くなりすぎた」

梓「……」

いちご「あなたを今日呼んだのは、お願いがあるの」

梓「はい……」

いちご「もう唯を傷つけないでくれる?」

梓「……」

いちご「唯に部活を辞めさせたり、あなたに辞めろとは言わない。唯だって今の軽音部は大好きだもの」

いちご「でもね、唯の気持ちだって私には完璧にはわからない。もしかしたら、まだあなたのことが好きなのかもしれない」

いちご「あなたの気持ちだってわからない。そもそも、わかりたくもないし」

いちご「だから、いつも通りにして。唯だってそれを望んでるから。他の部員の人達にも迷惑がかかる」

いちご「唯の大事な場所だけは傷つけないで。唯を傷つけないで。それさえ」

いちご「それさえ守ってくれたら、私は何も言わないわ」

いちご「約束、してくれる?」

梓「……は……い」

いちご「そう」

短くそう言うと、いちご先輩は背を向けました

いちご「いきなり呼び出してごめんなさいね。それじゃあ」

いちご先輩が居なくなったあと、私は立ち尽くしていました

唯先輩を傷つけてしまっていたこと

しかも、それは私のつまらない嘘、見栄を張りたかっただけのくだらない嘘なんです

時間が戻せたら、どんなにすばらしいでしょう

梓「うっ……うぅ……」

梓「ひっ……えぅ……」

放課後

唯「ふいー、練習終わりー!」

澪「今日は中々いい練習が出来たな」

紬「演奏もばっちりだったしねー」

律「さて、帰るとするかー。……あー、今日も唯は?」

唯「うん!いちごちゃんと帰るよー」

澪「そ、そっか」

紬「ラブラブねー」

唯「うん!」

梓「……」

『失礼します』

そんな声がして、部室の扉が少しだけ開きました

僅かな隙間から、少しだけ赤みがかった髪が現われ、そして

いちご「……ごめん。練習中だった?」

澪「い、いちご……」

唯「あ、いちごちゃん!」

いちご先輩の顔を確認するや否や、唯先輩は走り寄って、いちご先輩を抱きしめました

唯「いちごちゃんー」ギュー

いちご「唯、部活中なんだから……」

見ていられなくて、思わず目を逸らしました

後片付けに専念するふりをして、私はその光景に背を向けます

律「あー、いちご?もう練習終わったとこだから……」

いちご「そうなの?じゃあ、唯――」

唯「うん、わかってる!」

手早く荷物を手に取ると、唯先輩は部室の出ようとします

唯「ごめん、後片付けとか……」

澪「い、いいっていいって!私達でやっとくから」

紬「そうよー。じゃあ二人とも、気をつけてね」

唯「ごめんねー。明日はちゃんとするから。じゃあみんな――あずにゃんも、また明日ねー」

呼ばれて振り向いても、もう唯先輩の姿はありませんでした

それから一週間、いちご先輩は唯先輩を部室まで迎えに来ました

バトン部が早く終わったと言っていましたが、おそらく私を監視、それでなくてもプレッシャーをかけているんでしょう

唯先輩はその度に、とても嬉しそうな顔で抱きついて、それから帰ります

唯先輩に抱きしめてもらえなくなって、どれくらい経つでしょう

同じくらいに、唯先輩と一緒に帰れなくなって、随分長い時間が経ったような気がします

あれだけ唯先輩と一緒に過ごした日々が、随分遠くなった気がします

部活でも、唯先輩はいつも通りに接してくれます

ただスキンシップが無くなっただけで

現状はわかっています

いちご先輩は私に、自分たちを見せつけています

いちご先輩は唯先輩を傷つけた私が許せないんでしょう

それは、わかります

私が悪いんですから

だから、耐えるしかないんです

これは罰なんです。大切な人にくだらない嘘を言ってしまった私への――

金曜日の夜

梓「はあ……」

梓「金曜日の夜か……」

梓「今頃、唯先輩はいちご先輩と……」

梓「そうだよね。金曜の夜に、恋人同士が集まらない訳がないもん」

梓「何してるのかな」

梓「いちゃいちゃしてるよね、きっと」

梓「唯先輩、スキンシップ大好きだもん。大好きな人とだったら、きっとやりたいはずだもん」

梓「……」

『逆に考えてみて。唯が他の人に抱かれたら、あなたは――』

梓「唯先輩、いちご先輩のこと好きなんだよね。そしたら、きっとそういうことするんだよね」

梓「……」

梓「こんな気持ちだったんだ、唯先輩」

梓「……」

梓「っ……ひくっ……うっ……うぅ……」

梓「ぐすっ……ひっく……」

梓「……ダメだなぁ、私」

梓「唯先輩は、ちゃんとこういう悲しいの乗り越えて、ちゃんと幸せになったのに」

梓「私は終わった恋にいつまでもグズグズ考えて」

梓「一人で泣いてるだけじゃ、何も変わらないのに」

梓「……」

梓「寂しい」

梓「寂しいな。前までは、こんな寂しいとか思わなかったのに。今はもう一人じゃダメだ」

梓「このままじゃ、私もっとダメになっちゃう」

梓「乗り越えなくちゃ」

梓「悲しい記憶を上書きするくらい、もっと色々やらなくちゃ」

梓「……寂しいんだよ」

梓「そばに居てくれるなら、誰でもいいから――」

土曜日の夜
繁華街

梓「……」

梓「来ちゃった」

梓「一人でこんな所来るの初めてだな。しかもこんな夜に」

ぎゃははは

なにそれー

梓「……なんか怖そうな格好の人が多い」

梓「でも、これだけ人が居れば、気も紛れるし。一人で家に居たら、どうしても考えちゃうもんね」

梓「でも……何をしよう?」

DQN「あれー?ねえねえ、そこの可愛い娘ー!一人で何してんの?」

梓「え……?」

DQN「何々?寂しそうじゃん?一人なら俺と遊ぼうよー!」

梓「い、いえ、でも――」

DQN「一人なんでしょ?友達待ってる雰囲気でもないよね?いいじゃん遊ぼうよ」

梓「あ、あの……」

DQN「いいじゃん!俺奢るし!だから一度だけ!お願い!」

梓「(どうしよう……でも、なんか格好は悪そうだけど、話してみるといい人そうだし)」

梓「(いい……かな?それに、もう寂しいんだもん)」

梓「……わかりました。ご一緒します」

DQN「マジで?いやっほう!じゃあさ、どこ行く?つーか飯食った?」

梓「い、いえ、まだです……」

DQN「じゃあまずご飯食べに行こっか!ファミレスとかでいい?なんか食いたいもんある?」

梓「い、いえ、お任せします」

DQN「おっし、じゃあファミレスな!行こうぜ!」

ファミレス

DQN「へー、中野梓ちゃんって言うんだ。梓ちゃんって呼んでいーい?」

梓「は、はい」

DQN「高校二年生かぁ。じゃあ俺の二つ年下だね」


ボーリング

DQN「梓ちゃんすげえ!ストライクじゃん!」

梓「へ、へへ……そんな大げさな……」

DQN「いやいやすげえよ!俺も本気出しちゃおっかなぁ!」

梓「頑張ってください」

DQN「ああ!ガーター!」

梓「あはは」


DQN「ふぁー、結構遊んだねー。梓ちゃん、時間まだ大丈夫?11時だけど」

梓「(今日は親も居ないし、また一人になると考えちゃうから)まだ大丈夫ですよ」

DQN「ふーん。……じゃあ、カラオケでも行こっかー?」ニヤリ

カラオケ

梓「And I almost had you.But I guess that doesn't cut it.Almost had you.And I didn't even know it――」

DQN「ひゅー!」パチパチ

DQN「梓ちゃん歌上手いねー!なんかやってたの?」

梓「いえ、部活で軽音部なんで、バックコーラスくらいですね」

DQN「よかったよー!英語の発音も完璧だったし!」

梓「へへ……(何で私、こんな所まで来て失恋ソング歌ってるんだろう……)」

DQN「軽音部って言ってたよね。楽器は?」

梓「あ、ギターです」

DQN「あ、俺もギターやってんだ!マジ趣味レベルだけど。何使ってんの?」

梓「ムスタングです」

DQN「あー、あれ可愛いよね!俺ね、グレッチ使ってんだ。重いけどねー」

梓「グレッチかっこいいですよね(グレッチか。そう言えば、唯先輩のレスポールも重かったっけ……)」

DQN「ギターある程度弾ける人ってさ、指の皮が固くなるらしいじゃん?あれってマジなの?」

梓「え、ええ」
DQN「マジで?見せて見せて!」ズイ、ギュ!

梓「(て、手を握られっ!)」

DQN「へー、マジだ。やっぱ指の腹のとこ、硬くなってるね」

梓「は、はい(か、体もほとんど密着してるし……)」

DQN「ふーん……ところで梓ちゃんさ、髪長いよねー」

梓「そ、そうですか?」

DQN「長いよー。黒髪だし、すっげー綺麗」サワリ

梓「ひゃ!(か、髪触られた!)」

DQN「……ふーん」

梓「あ、あの……?」

DQN「あーずさちゃん!」ガバッ

梓「きゃっ!!」ドサッ

梓「な、何を……」

DQN「なーに言ってんのwやる気なんでしょ?」

梓「え……?」

DQN「こんな密室にノコノコ付いてくるなんて、誘ってんだよね?――いいじゃんかよ?抵抗すんなよ?」

梓「わ、私、そんなつもりじゃ……」

DQN「今更何言ってんのー。嫌よ嫌よも好きのうちって?俺そういうメンドクサイの嫌いなんだよねー」

梓「お、重いですから……どいて下さい……」

DQN「今からすることわかってるー?退くわけねーじゃん?」

梓「そ、そんな……」

梓「(私、バカだ……)」

梓「(でも、仕方ないよね……きっとこれも罰だ。いいじゃん、ここで大人になれば、あの嘘も少しは嘘じゃなくなるし)」

梓「(私みたいな人間には、こんな初めてがお似合いだよ……)」

梓「……」

梓「グス……ヒック……ふぇ……」

DQN「……」

DQNはあ……」

DQN「……梓ちゃんさぁ」

梓「ひくっ……うっ……うぅ」

DQN「好きな人居るでしょ?」
梓「!!」

梓「な、なんで」

DQN「街で見かけた時からなんか悩んでたっぽいし、確信持てたのはさっきの歌かな」

DQN「BFSのALMOSTだよね。なんか気持ちこもってたし。気づいてた?あれ歌ってる時、梓ちゃん半泣きだったよ?」

梓「……」

DQN「ごめん、重かったね。退くよ」

梓「あ……」

DQN「ふいー。――うし、帰ろっか。もう12時だし。家まで送るよ」

梓「あ、あの……」

DQN「?ああ。大丈夫だよ。ここの金は俺が出すし。それよりもさ」

梓「……」

DQN「帰り道、話してよ、悩み事。あるんでしょ?俺と梓ちゃん他人だし、知り合いには話したくない悩みごともあるよね」

帰り道、梓の家の近くの自動販売機

DQN「ふーん。そんなことがあったんだ……」

梓「はい……」

梓「(結局、全部話してしまった……)」

DQN「そっかー」ピ、ガタン

DQN「はい梓ちゃん。オレンジで良かった?」

梓「あ、ありがとうございます……」

DQN「俺はブラック、と。まあ座りなよ」

梓「はい……」

DQN「えっと、タバコ吸っていいかな?」

梓「構いませんよ」

DQN「ありがと」カチ、シュボ

梓「……」

DQN「それは、とても、切ないよねー」

梓「う……ヒクッ……」

DQN「あー、泣かないでよ!えっと、そうだなぁ……」

梓「すみません、こんな話して、挙げ句こんな夜中まで連れ回しちゃって……」

DQN「連れ回したのは俺だから気にしなくていいよ。でさ、その、梓ちゃんの好きな人、唯ちゃんだっけ?」

梓「はい……」

DQN「俺さ、唯ちゃん?のことは知らないから」

DQN「今から言うアドバイスっていうか俺の考えは、どうしても梓ちゃんヒイキになっちゃう。それを踏まえて聞いてね」

梓「……」コク

DQN「確かに梓ちゃんはそんな嘘をついて、唯ちゃんを傷つけちゃったのかもしれない。それは事実だよね」

梓「はい……」

DQN「でも俺、思うんだけど。唯ちゃんも勝手だよねって」

梓「――え?」

DQN「だってそうじゃん。もし本当に梓ちゃんの嘘の通り経験豊富だったとしたらさ。唯ちゃん、梓ちゃんのこと好きになったのかな」

梓「……」
DQN「自分勝手な理想とか妄想を、梓ちゃんにぶつけただけじゃん」

DQN「大好きな人の初めては自分を選んで欲しいってのは、誰でも思うよ。唯ちゃんだけじゃないよ」

DQN「だけどさ、それって本当に一握りの人なんだよ。最近ではほら、梓ちゃんが言った嘘みたいに、経験ある方がかっこいいって風潮になっちゃってるからさ」

梓「……」

DQN「梓ちゃんがそんな嘘付いたのだって、今まで付き合ったことがないって事実を隠したかっただけでしょ?」

梓「はい……」

DQN「だから、それは社会が悪いんだよ。社会っていうか、なんて言うかな。風紀?かな。俺は難しいことはわかんないけど」

梓「……」

DQN「だから、そんな嘘付いたって仕方ないんだよ。梓ちゃんは悪くない」

梓「……そんなことは、ないです」

DQN「?」

梓「そんなことないです。理由はどうあれ、私は自分を守るために――見栄を張るために、好きな人を傷つけてしまったんです」

梓「唯先輩に彼女が出来て……唯先輩がどれだけ傷付いたかってわかったんです。身をもって理解したんです。納得したんです」

梓「わがままで傲慢かもしれないですけど、それでもやっぱり、好きな人が過去にそういうことやってたら、考えちゃうんだと思います」

梓「どんな風なんだろうとか、どんな表情なんだろうとか、どんなことを喋ったんだろうとか、どんな、視線を送ってたんだろう、とか」

梓「本当にカッコ悪いし情けないですけど、そうなんですよ」

DQN「……梓ちゃんは偉いねぇ」

梓「?」

DQN「他人の立場で物を考えるって、言うほど簡単じゃないんだよ。自分が追い詰められている状況であればあるほど」

梓「私は……自分で考えたわけじゃないんです。唯先輩の彼女に……怒られて。それでやっと気づけたんです」

DQN「経過は関係ないよ。重要なのは結果だ」

梓「……」

DQN「俺が君くらいの年齢の時は、そんなこと考えられなかったな。もし考えることが出来たら、あるいは――」

DQN「――ねえ、これが一番重要なんだけど、唯ちゃんのこと好き?」

梓「大好きです」

DQN「そっか。それなら、大丈夫だよ」

梓「?」

DQN「恋愛において、好きって気持ちは唯一の誰でも装備出来る、最強の武器だからね」

梓「で、でも私、もう唯先輩にフラれてて……!」

DQN「関係ないよ。その告白は無意味だよ。だって、梓ちゃん嘘つきっぱなしじゃん」

梓「!」

DQN「告白ってのはね、もっとかっこつけずに、ダサくて、情けなくて、女々しいものの方がいいんだよ」

DQN「自分の中の全部、汚い所もダメな所も全部ぶつけて、それでやっと気持ちが伝わるんだ」

DQN「一つの好きって気持ちを伝えるために、百の汚い所に乗せていかないと。届かないんだ」

梓「……」

DQN「梓ちゃん。諦めるのは簡単だ。でも、一生後悔するよ。断言できる」

梓「はい……」

DQN「時間が経てば経つほど言えなくなる。距離が遠くなる。でもよかったね。今ならまだ間に合う」

梓「……」

DQN「頑張ってよ。もう一回だけ告白しよう。嘘つかないで、正直にさ」

梓「はい……はい……!」

DQN「うん。――じゃ、帰ろっか。よいしょっと」

DQN「ここまででいい?あとは歩いて帰れるね?」

梓「は、はい。今日はありがとうございました!」

DQN「俺も怖がらせちゃってごめんね。だけど、もう一人であんな所ウロウロしちゃダメ。こんな悪そうな男の人にも付いて行っちゃダメだよ」

DQN「梓ちゃん可愛いんだから。好きな人に一途な方がかっこいいよ」
梓「はい!――それじゃあ、失礼します!おやすみなさい!」

梓の家

梓「いい人だったな……」

梓「……」

梓「それにしても――」

梓「どうしてここら辺が自宅、ってわかったんだろう。言ってないよね」

梓「……まあ、いっか」


自動販売機

DQN「……」

DQN「対象の帰宅確認。部屋の電気も付いた。玄関の鍵もロック音確認」

DQN「うっし。……ガキはチョロいな」

DQN「……」

DQN「……はは」

携帯を取り出す

ピッピッピ……
プルル、プルル……ガチャ
DQN「もしもし……」

次の日

梓「……よし、言おう」

梓「好きだって、唯先輩に伝えよう」

梓「ダメでもきっと、今よりはマシなはずだよ」

梓「……」

梓「でも、どうすればいいんだろう……」

梓「……」

梓「よし。決めた。明日、絶対に言う。その前に、話を通さなきゃいけない人も居るけど」

梓「私の気持ち、絶対にあの人に負けてないもん!」

ごめんなさい風呂入ってきます

朝六時までにはこれが終わると思います

次の日、朝 屋上

いちご「こんな所に呼び出して何の用?」

梓「……一言、断っておこうと思いまして」

いちご「何?」

梓「今日の放課後、唯先輩に告白します」

いちご「……」

梓「本音で、本気で告白します」

いちご「……私、約束してもらわなかったっけ。もう唯を――」

梓「傷つけるつもりはありません。約束は守ってます。告白するなとは言われませんでしたから」

いちご「あなた、勝手なこと言ってるのわかってる?唯は――」

梓「唯先輩を泣かしたことですか?ええ、そうですね。でも、私も唯先輩に泣かされましたから。おあいこです」

いちご「本当に……自分勝手な」

梓「わかってます。いちご先輩に許可を貰おうなんて思ってはいません。話は通しておこうかと。仮にも『彼女さん』ですから」

いちご「……わかった。やってみれば?無駄だと思うけど」

梓「ええ、やってみます。話はそれだけです。ご足労ありがとうござました」

授業中

梓(言っちゃった)

梓(いちご先輩に、あんな生意気なこと……)

梓(唯先輩と付き合ってる人に……)

梓(もうあとには戻れない)

梓(告白した後のことなんて知らない。フラれちゃえば、もう唯先輩との関係は治らないかもしれない)

梓(でも、その時はその時だ。最悪、軽音部を辞めちゃうことになっても)

梓(それが、私の覚悟だ)

梓(そうだよね。何かを賭けずに何かを得ようなんて、虫が良すぎるもん)

梓(私は軽音部が好き。でも、それ以上に唯先輩が好きなんだ)

梓(……うん。私は間違ってない!)

部活

梓「こんにちわー」

澪「お、梓か。今日は早いな」

律「どうしたんだー?」

梓「いえ、今日は早くHRが終わったので」

紬「そうなのー。あ、ほら早く座って。今お茶を入れるから」

梓「ありがとうございます。――唯先輩は?」

律「唯か?あいつは掃除当番だからもうすぐで来ると思うぞ」

澪(ん?なんかおかしいな……)

梓「そうですか。わかりました」

紬「ケーキは唯ちゃんが来てからでいいわよね。はい梓ちゃん、紅茶入りましたよー」

梓「ありがとうございます」

澪(何かが……梓、何かあったのか?)

十分後

唯「遅れてごめーん」

唯先輩が来ました

唯先輩の後ろには、予想通りというか、いちご先輩の姿もあります

唯「いちごちゃんもごめんね、送ってもらっちゃって。部活大丈夫?」

いちご「大丈夫。それよりも、唯」

唯「んー?」

いちご「私今日用事あるから。迎えにこれないわ。ごめんね」

唯「え?そうなの?……そっかぁ。じゃあ、また明日だね、いちごちゃん」

いちご「そうなるわね。じゃあ、また明日」

いちご先輩は去り際、ちらっと私に目線を送りました

その意味はわかります

『お膳立ては整えてやった。やれる物ならやってみろ』

余裕の表れでしょうか。確かに、いちご先輩は唯先輩と付き合ってて、私はと言えばフ唯先輩ラれた人間です

でも、ここで引くわけにはいきません。私の心は決まってます

唯「今日のケーキは何?」

紬「今日はショートケーキよ。シンプルでいいでしょ?」

澪「唯が来るまで、みんなケーキ待ってたんだからな」

律「そうだぞ。みんなに感謝するんだな」

唯「みんなありがとー。やっぱみんなで食べた方がおいしいもんね」

紬「ほらほら、唯ちゃんも座って座って」


唯「やっぱショートケーキはおいしね!基本だけど至高だよ!」

澪「まあ確かに、ショートケーキだけは飽きがこないよな」

律「澪しゃん、いちごちょーだい?」

澪「やるわけないだろ」

唯「あー、りっちゃんずるいー。――あずにゃん、いちごちょーだい?」

梓「あげるわけないじゃないですか」

唯「そんな辛辣なぁ……」


律澪(お……?)

澪「さて、そろそろ練習するか」

律「えー、もっとゆっくりしようぜー」

唯「そうだよー。私なんて来たばっかりだよー」

澪「そんなこと言っていつも練習時間無くなるんだろ。ほら、立った立った」

梓「そうですよ。練習しないと。もうライブも近いんですから」

紬「あらあら、ふふふ」

澪「あ、梓、今日はなんだかやる気だな」

梓「私はいつだって練習しましょうって言ってます」


今日で最後になるかもしれないんだ

澪「準備できたかー?」

唯「おっけーだよー」

悔いの残らないように

ギュイイイイン!!

梓「行きます」

律澪「……」

下校時刻

律「は、はーい、じゃあ今日はここまでー」

澪「そ、そうだな」

唯「今日はなんだか凄かったねー」

紬「何故かわからないけど、すごい疾走感だったわね」

澪(絶対梓だな)

律(梓だ)

澪(リズムギターにリズム隊が引っ張られた……)

律(付いていくのに必死だったよ、梓のテンポに……)

澪(っていうか途中から梓がメインっぽくなかったか?)

律(地味にメロディラインも弾いてたからな。唯は気づいてねーけど)

澪(何で唯が気づかないんだ。というか、ムスタングでメロディラインって行けるのか……)

律(レスポールがあればレスポールがメロディラインだろ普通……)

紬「今日は唯ちゃんも一緒に帰れるのよね?」

唯「うん。久しぶりにみんなと帰れるねー」

校門

唯「ふあー、もう真っ暗だねー」

澪「ちょっと下校時刻オーバーしちゃったからな」

律「梓も大丈夫か?なんか張り切ってたけど、無理してねーか?」

梓「大丈夫です。今日はなんかこう、指が動きましたから」

紬「みんなと帰るの久しぶりねー。――あら?」

澪「あれ、あの校門に止まってるリムジンって」

律「ムギの家の車じゃね?」

紬「そうね。どうしたのかしら。ちょっと行ってみるね」

梓「あ、はい」


紬「あの……ごめんなさい。急用が出来て、車で帰らなくちゃならなくなったの」

澪「あ、そうか……」

律「なら仕方ないなぁ。じゃあ、また明日な」

唯「仕方ないね……ムギちゃん、バイバイ」

梓「あ、お疲れ様でした」

帰り道

澪「じゃあ、また明日な」

律「じゃあなー」

唯「また明日ね、二人ともー」

梓「お疲れ様でした。また……」

澪先輩と律先輩、二人の先輩と別れる横断歩道

今日はムギ先輩も居ないから、唯先輩と二人きりです

本当に都合が良かったです

本来なら、いったん帰ったあとに唯先輩の家に行く予定でしたが

唯「じゃあ帰ろっか、あずにゃん」

梓「は、はい!」

唯「二人きりで帰るのは久しぶりだねぇ」

梓「……」

ここで怖じ気づいちゃダメなんだ

唯「あずにゃん、今日の練習すごかったねー。凄くよかったよー」

梓「あ、ありがとうございます……」

唯「私ももっと上手くならないとなー」

梓「……」

心臓の音がいやに高く聞こえます

自分の体の中で反響して、うるさいくらいです

聞こえてないかな?唯先輩に聞こえてないかな?

唯「それでねー、あずにゃん――」

言わなくちゃダメなんです

ここで、はっきりと

唯「そこでりっちゃんったらねー」

梓「ゆ、唯先輩!」

きょとん、とした顔で唯先輩は私を見ました

唯「どうしたのー?あずにゃん」

梓「あ、あの!その……だ、大事なお話があります。そ、そこの公園で、少しだけお時間貰ってもいいですか……?」

公園

人気の無い公園のベンチで、並んで座ります

唯先輩と、人一人分のスペースを空けて私

私と唯先輩の距離は、本当にこのスペース分だけなのでしょうか?

私はこれから、この途方も無く開いた距離を埋めようとしているのです

正直、自信はありません

でも、スペースを埋めるためには思いつく限りの手段を取りたい

唯「話ってなに?あずにゃん」

梓「はい。あの……」

心の中を整理して、静かに深呼吸します


梓「聞いて欲しいことがあるんです。でも、その前に一つだけ」

唯「うん」

梓「先輩に、謝らなきゃいけないことがあります」

唯「それは……あずにゃんが告白してくれた事と、関係あるの?」

梓「……はい」

唯「だったらそれは、もういいよ。終わったことだもん」

梓「そ、それじゃダメなんです!」

唯「……」

梓「それじゃあ……前の告白と一緒じゃ、ないんです」

唯「……謝りたいことって何?」

梓「前、唯先輩、私に彼氏とか居るって聞きましたよね」

その時、僅かではありますが、唯先輩の顔が歪みました

本当にほんの小さな変化でしたが、私にはそれで十分でした

梓「その時私、今は居ないけど、前は途切れさせたことがなかった、って言いましたよね」

唯「……いいじゃん。それはそれで、私が聞いて、あずにゃんが答えてくれただけなんだから。だからもう、その話は蒸し返さないでくれるかな……」

梓「違うんです!その、その時の話は」

梓「その時に唯先輩に言った話、あれ、嘘なんですよ……」

唯「え……」

梓「すみませんでした!」

頭を下げます

頭を下げたら、唯先輩の膝しか見えないけれど、唯先輩が私の方を見ているのがわかります

目を見つめながら謝った方がよかったのでしょうか

もう何が正しいのかわかりません

唯「な、なんで……」

梓「本当は私、今まで誰とも付き合ったことないんです。それで、唯先輩がそういうこと聞いてくれて」

梓「もしかして両思いかもって思って。それでも、もし付き合ったこと無いって知られたら、幻滅というか」

梓「か、軽く告白に応じちゃうような女の子だって思ってもらいたくなくて。それで……」

唯「それで、嘘ついたの?」

唯先輩の口から発せられる『嘘』という響きに、胸に何かが刺さったような感じを受けます

まるで、その一文字が棘だらけであるかのようです

梓「はい……すみませんでした」

唯先輩は何も言いませんでした

ただ、ずっと私の方を見ずに、ブランコの上の方を見ていました

私も何も言えません。言い訳なんかしたくないし、これ以上他の言葉で繕っても、きっと私の伝えたい事とは遠くなる気がしましたから

唯「あずにゃん、さ……」

ようやく唯先輩が話してくれたのは、何分くらいたった後でしょうか

一時間のような気もするし、五分のような気もします

唯「私、あの時勇気出して、真面目に聞いたんだよ?」

梓「……」

唯「私の気持ちわかっちゃうかもって。警戒されちゃうかもって。でも、そういうの覚悟して聞いたんだよ?」

梓「……」

唯「何で嘘つくのさ……酷いよあずにゃん……」

全ての言葉が心臓に刺さるような錯覚を覚えます

唯「私それ真に受けて、私みたいな経験無いのじゃダメだって、そう思ったんだよ?」

唯「でも。それでも、頑張ろうって思ったんだよ?一生懸命あずにゃんに見て貰おうって、頑張ったんだよ?」

唯「あずにゃんの方が進んでるし、私は全然経験ないし、でも、それでもっ……さあっ……」

唯先輩は泣いていました

一生懸命に言葉を紡ぎながら、泣いていました

ふと、私は唯先輩を傷つけているのではないかと思いました

忘れようとしていた傷口を、また開いてしまっているのではないかと

唯「それでも、わ、私、頑張ろうって思ってたもん!真面目な気持ちだから、ふざけてなんか無いからっ!」

唯「納得しようとしたもん!高校生だから、恋人が居るのが普通だから!だから、納得しようとしたのに……」

唯「あずにゃん、エッチの話までするもん……!悔しいじゃん……!私の知らない人とあずにゃんがさぁ!大好きな人が、そんなさぁ……!」

唯「何でもっと早く会えなかったんだろうって、思うじゃん!気持ち悪いのはわかってるよ……でも仕方ないじゃん……大好きだもん……」

唯「でも、もう我慢出来なかったから泣いちゃったの。いちごちゃんに電話して、慰めてもらって。それくらい、私にとっては重要だったの」

ズッと唯先輩が鼻をすすります

唯「あずにゃんが好きだって話は、前々からいちごちゃんに言ってたから。言ってたというか、聞いてもらってただけだけど」

唯先輩が私に向き直ります

唯「そこで、いちごちゃんが言ってくれたの。『じゃあ、私と付き合おうか』って」

唯「『今は私のことをそんなに好きじゃなくてもいいから、側にいてあげる』って」

梓「そう、ですか……」

いちご先輩はすごいな、と思いました

だって、好きな人に「好きじゃなくてもいいから」なんて、簡単には言えません

唯「うん。それが、いちごちゃんと付き合った経緯」

唯「……それで?あずにゃんが嘘付いたのはわかったし、謝ってももらったよ。じゃあ、話って何?」

梓「……」

本題です

まずは謝罪をして、それから、自分の本心を伝える

計画としては、おおざっぱですがそうでした

でも

でも、私は怖じ気づいていました

いちご先輩は、唯先輩のことを思って、唯先輩の側にいるのでしょう

唯先輩だって、それが分かってるから、いちご先輩と付き合ったはずです

寂しいから、なんて自分勝手な理由で、誰でもいいから側に居て欲しかったからなんて理由で付き合う人ではありません

じゃあ、私は?

いちご先輩と同じ立場だったら、唯先輩に同じようなことを言えますか?

唯先輩と同じ立場だったら、側に居る人間を選ぶことが出来ますか?

私は

私は、この二人に釣り合うような人間でしょうか

梓「あ……」

私は、この二人の仲を裂けるような、そういう権利を持つような人間でしょうか

梓「わ、私は……」

唯先輩は何も言わず、私を見つめています

私はその視線をまともに受け止めることができません

この期に及んで私は

本当に笑ってしまいますが

自分の矮小さを好きな人にさらけ出すのが、怖くなったのです

本当に、救いようのない人間です

梓「うっ……ひっ」

嗚咽を飲み込みます

泣いてはいけません

それは卑怯な行為です

それだけは、やってはいけないことです

梓「わたし、は……」

その瞬間、一昨日の夜のあの人の言葉が蘇りました

『一生、後悔するよ』

何故かその台詞だけが、他の言葉と違っていました

何故かはわからないけれど、その言葉だけは、重みが全然違いました

梓「唯先輩」

唯「うん」

梓「好きなんです、唯先輩のこと」

それは、私が意識して出した台詞じゃありませんでした

あの人の台詞が蘇った時、自然と、押し出されるように出てきました

唯「……あずにゃん」

梓「大好きなんです。新歓ライブで初めてみた時から、ずっと好きだったんです」

梓「他の人となんて比べものにならないくらい、本当に大切な人なんです」

梓「唯先輩が他の人と付き合って、それで初めて気づいたんです。自分が思ってる以上に、唯先輩が好きなんです」

梓「唯先輩が居ないと、私本当にダメなんですよ……私が軽音部に居る理由、全部唯先輩ですもん……」

梓「お願いです。大好きなんです……」

最後の方は、しっかり言えてなかったと思います

涙をこらえるので精一杯で

梓「お願いですから、もう一度だけ、私のこと好きになってください……」

カッコ悪いです

本当になりふり構わず、必死で

唯先輩だって、引いてるかもしれません

でも、ここまで来たなら引き返せません

もう体面も気にせず思いを伝えて伝えて、そして



唯「ダメだよあずにゃん……」

梓「……」

唯「言ったじゃん。私、いちごちゃんと付き合ってるって。いちごちゃんは私に色々してくれたのに、私は何もして上げてないもん……」

ふ、振られたんですか?

でも、
でもまだです!

梓「な、なら!」

唯「ん?」

梓「私といちご先輩、……どっちが好きですか?」

唯「え……」

梓「唯先輩がいちご先輩のことを本気で好きって言うんなら、諦めます。きっぱり諦めて、軽音部も辞めます」

唯「ちょ、ちょっと、それ脅し?」

梓「脅しじゃないです。言いましたよね、私。軽音部に居る理由は唯先輩だって。入部するきっかけが唯先輩なら、辞める時だって唯先輩です」

唯「い、言ってることがめちゃくちゃだよ」

梓「わかってます、そんなこと。でも、だから、本気なんです。唯先輩の本音、聞かせてください!」

唯「……」

唯「ずるいよ、あずにゃん……」

梓「はい、ずるいです」

言った

全部言い切った

もう、唯先輩の心を引きつけるために必要な、私の本音は全部出しました

これでダメなら、もうダメだ

悔いは残るでしょう

あの時あんな嘘を付かなければ、とか

早く嘘だって言って、自分から告白すれば、とか

でも、それでも

何もしないよりは、遙かにマシだと思いたいです

唯「あずにゃん……」

梓「はい」

唯「どっちが好きかなんてさ」

梓「はい」

唯「……あずにゃんに、決まってるじゃん」
梓「」

唯「卑怯だよ……あずにゃんにあの話聞かされてから、まだそんなに時間経ってないじゃん」

唯「どれだけ私があずにゃんのこと想ってたか知ってる?そんな、簡単に忘れられるような、軽い気持ちじゃないもん」

唯「どうしよう私……助けてもらったいちごちゃんに酷いことしてるよ……」

唯「あずにゃんのせいだよぉ……」

梓「」

唯「本当、どうすればいいんだろう……いちごちゃんを傷つけちゃう……私のこと、あんなに心配してくれてたのに……」

梓「」

唯「あずにゃん、聞いてる……?」

梓「は、はい!」

え、ど、どうしよう、夢?

え、うわ、本当、なにこれ

梓「あ、あの、もう一度、私のこと好きになってもらえるんですか!?」

唯「もう一度って言うか……まだ好きだよ。変わらず」

梓「」

唯「だってね。さっきあずにゃんが、あの事を嘘って言ってくれた時ね」

唯「怒るって感情よりも、ほっとしちゃった。嬉しさの方が勝っちゃったもん」

梓「は、はあ……」

その言葉の意味が、少し遅れて心に染みこんできた時

唯「ちょ、ちょっとあずにゃん!?」

情けない話ですが、腰が抜けてしまいました

唯「だ、大丈夫?」

梓「は、はい、すみません……」

唯先輩に抱きかかえられるようにして、ベンチに座りなおします

その時です

梓「あ」

何かにドキリとしました

それが何か、少し経ってわかります。それは、久しぶりに感じる唯先輩の体温でした

梓「ひ……ひっ……えぐっ……」
もう涙が押えきれませんでした

唯「あ、あずにゃん、泣かないでよぉ」

よしよしと頭をなでられて、その体温のせいでまた涙腺がゆるみます

もうカッコ悪いことこの上ないです

余裕すらありません。私に、恋の駆け引きは無理です

梓「唯先輩、ごめんなさい……本当に……ごめんなさい……!」

唯「うん。もういいよー。謝ってくれたし、気持ちはちゃんと伝わったから」

梓「本当に……ごめ……」

唯「いいってばー。……あずにゃん、私と付き合いたいの?」

梓「はい……」

唯「じゃあ、付き合おっか。いちごちゃんには……私から謝っておくから」

梓「わ、私も謝ります!いちご先輩には、い、色々と失礼なこととか……」

唯「あれ、あずにゃん、いちごちゃんと話したことあるんだ?」

梓「は、はい。土下座モノの失礼を……」

唯「じゃあ、二人で土下座だねー。ごめんなさいって言うのと、――ありがとうって言うの」

梓「はい!」

ふと気がつくと、最初にあった私と唯先輩の間のスペースが無くなっていました

私がそれを意識するのと同じくらいに、唯先輩が私を抱きしめました

いつも部室でしてくれてたのよりも、少しだけ強く

唯「久しぶりだねぇ。あずにゃんをぎゅってするの」

梓「ずっと、してもらいたかったです……」

唯「そっか。じゃあこれからはあずにゃん公認で出来るね」

梓「うぅ……」

恥ずかしくて、唯先輩の胸元に顔を埋めます

唯先輩の心臓も私と同じくらい高鳴っていました

唯「あ、あのね、あずにゃん。ちょっと、私のワガママを聞いて欲しいんだけど」

梓「?」

抱きしめられたまま、耳元で、唯先輩が言いました

唯「あのね。あの時あずにゃんがついた嘘さ。もう一度言うけど、ものすごく悲しかったんだよ」

梓「は、はい……すみませ」

唯「い、いや、違うの!責めてるわけじゃないの!あのね、本当にショックだったから」

唯「だから、もうそう言う思いはしたくないからさ。行動に移しちゃおうって思って」

梓「行動?」

唯「うん。簡単に言うとね――」

唯「あずにゃんの初めて、私にちょうだい?」

梓「」

唯「やっぱ嫌?早すぎる?」

梓「あー、さ、流石に早すぎるとは思うんですが」

唯「でも、私、これでも焦っちゃってるんだよね、実は。あずにゃんと付き合うことになった今でも、夢かもしれないとか思ってるし」

梓「……」

唯「そ、それにさ。あずにゃんは確かめなくていいの?」

梓「な、何をですか?」

唯「私が初めてかどうか」

梓「え、ほ、本当にいちご先輩と!?」

唯「いや、してないけど。でもさ、確かめたくない?――私は、確かめたいよ。一分一秒でも早く。あずにゃんを本当の意味で独り占めしたい。あずにゃんは?」

梓「……私も。私も、独り占めしたいです。唯先輩を。一度無くしたから、なおさら」

唯「じゃ、じゃあ決まりだね」

梓「今日、っていうか今夜ですよね……」

唯「うん。今日は私の家、誰もいないから」

梓「え、憂はどうしたんですか?」

唯「え?純ちゃんの家に泊まるって言ってたよ。確かあずにゃんも来るって言ってたけど……」

梓「え?」

急いでポケットの中から携帯を取りだして確かめると、確かにメールが一件と電話が二件、入っていました。両方とも憂からです

唯「やっぱ都合悪いかな。また別の日にする?」

梓「いえ、唯先輩を優先します」

メールを打って、憂に今夜は行けないと連絡する

唯「本当にいいの?」

梓「言ったじゃないですか。大事なのは唯先輩だけだって」

唯「え、えへへ……」

唯「ん、じゃあ、私の家行こうか。あずにゃん、今夜泊まれるの?」

梓「はい。ちゃんと連絡しておきますから――」

ごめんなさい

限界寝る

ごめん

ごめん、バイト
再開は十時半頃
ごめんなさい

路地裏

いちご「……振られちゃったみたい」

いちご「……」

いちご「……仕方ないわね。元々両思いだったんだし」

いちご「……」

いちご「……計画通りだね。これで満足?」


いちご「紬」

紬「うふふ」ガサッ

紬「ご苦労様、いちごちゃん。ごめんね、こんなこと頼んじゃって」

いちご「紬の頼みだもの。断るわけがないじゃない」

いちご「あなたの狙いって、これでしょ?唯と中野さんをくっつける」

紬「ええ、そうよー。やっぱり好きな人同士はくっつかなきゃ」

いちご「驚いたよ。いきなり『唯ちゃんと付き合え』なんて」

紬「そうねー。ちょっと梓ちゃんが調子乗ってたからね。お仕置きの意味もあったんだけど」

いちご「中野さんが経験豊富って言うのは嘘って、紬は知ってたの?」

紬「交際人数、処女かどうかなんて、女の子限定だけど、見ればすぐわかるの、私」

いちご「すごいね……」

紬「そんなことないわよー。……でもまあ、ちょっと後悔というか、やり過ぎたって思ったのもあるのよね」

いちご「?」

紬「唯ちゃんが彼女が出来たって梓ちゃんに言った時、梓ちゃん、本当に顔真っ白だったもの」

紬「まあ、一度好きな人が自分から遠くなっちゃえば、どれだけ大切かって身にしみてわかるものね。ショック療法よ」

いちご「本人達は必死だったけど」

紬「それで丁度いいの。わざわざ駆け引きみたいなことしなくても、必死で頑張れば結果は出るもの」

ブロロロロ

いちご「……?バイクの音?」

ブロロロロ

キッ

DQN「こんばんわ、紬お嬢様」

紬「ご苦労様ー」

いちご「紬……この人は……?なんか悪そうだけど」

紬「私のボディーガードの一人よ。小さい頃から私の側で働いてくれてるの」

見た目DQN「初めまして。紬お嬢様のボディーガードです」

紬「どうだった?」

見た目DQN「はい。中野梓さんの自室の監視カメラ、全て回収しておきました。侵入の形跡も残しておりません」

紬「そう。上々ね」

いちご「ちょ、ちょっと……カメラって?」

紬「ん?ああ、梓ちゃんが振られて少し後に、梓ちゃんの部屋に監視カメラをしかけておいたのよ」

いちご「そ、そこまで……」

紬「梓ちゃんを守るためでもあったのよ。なんか、予想以上に落ち込んじゃって、何をしでかすかわからなかったもの」

いちご「役に立ったの?」

紬「役に立ったわよ。まさか自暴自棄になって夜の繁華街に一人で繰り出すなんて思わなかったの。あの時は本当に焦ったわ」

見た目DQN「そこで、私が中野さんのボディーガード兼物語の進行役を申し出た次第です」

紬「本当に大変だったわー。予想外の展開だったし、あなたが提案してくれなかったら、唯ちゃんに正直に言わざるを得ない所だったもの」

見た目DQN「中野さんと合流するまでに、中野さんにちょっかいを出そうとしてくる男達を蹴散らすのが大変でした」

紬「唯ちゃんの方はいちごちゃんが居たから、自暴自棄にはならないだろうって思ってた」

紬「梓ちゃんは、もっとしっかりしてると勝手に思い込んでたわー。ちょっと反省ね」

いちご「確かに、中野さんがもっとしっかりしてたら、私だって屋上であんな葉っぱをかけずにすんだんだけど」

紬「迫真の演技だったわよ、いちごちゃん。素敵だったわー」

いちご「喋りすぎて喉が痛かった」

紬「ありがとうね」

見た目DQN「そ、それで紬お嬢様……」

紬「なに?」

見た目DQN「梓ちゃ……中野さんは結局、どのような結果に」

紬「ん。ハッピーエンドよ。あなたのおかげだわ」

見た目DQN「そ、そうですか!良かった……」

いちご「……」

見た目DQN「……それでは私はこれで。報告も終わりましたので」

紬「ええ。電話でも良かったのに」

見た目DQN「いえ、近くまでカメラを回収しに行ってましたから、こっちの方が早かったんです」

見た目DQN「それでは、失礼します」

ブルルルルル

紬「あ、そう言えばあなた、今日から」

見た目DQN「はい、これからニューオリンズへ、旦那様の警護の引き継ぎに」

紬「忙しい中、ごめんなさいね」

見た目DQN「とんでもありません。私が勝手に言い出したことですから」

見た目DQN「それでは紬お嬢様、若王子さん、お気をつけてお帰りを」

ブイーン

いちご「行っちゃった……」

紬「さて……他に聞きたいことは?」

いちご「えっと、あの人……どこかで見たことがあるんだけど」

いちご「髪型とか雰囲気とかは違うけど、どこか……」

紬「斉藤ね」

いちご「あ」

紬「斉藤ジュニアって言うの。斉藤の一人息子よ」

いちご「そう言えば、似てるわ」

いちご「でも、どうしてあそこまでやってくれたの?仕事だから?」

紬「あの時、梓ちゃんの所に向かう日は、斉藤ジュニアは非番だったわ」

いちご「じゃあ、どうして……」

紬「彼は上手く行かなかった方の人間なのよ」

いちご「」

紬「予想外の展開で私が混乱してた時、彼が言ってくれたの」

紬「『私が行きます』って」

紬「後から聞いたわ。彼は昔の自分を梓ちゃんに重ねていたのよ」

いちご「……」

紬「ずっと後悔してるのよ、彼」

いちご「……そうなの」

紬「ええ」

いちご「いいわ、もう大体わかった」

紬「うん。それじゃ、ちょっと電話するね」

ピピピ


紬「斉藤?今から五分以内に唯ちゃんの自室にカメラ仕掛けて。梓ちゃんとレズり合うから」

紬「ベッドを中心に五台くらいね。梓ちゃんの方はカメラはいいわ。これからも唯ちゃんの家の方でヤるだろうから。両親の留守的に考えて」

紬「それからB班にりっちゃんの自室の隠しカメラを増やすよう伝えて。ふふ、あの二人、私相手に付き合ってる事実を隠し通せると思っているのかしら」

紬「B班の方はそんなに焦らなくていいわ。今あの二人、大人のオモチャ屋さんに居るから。こないだ初エッチしてたし、そろそろ慣れてくる頃合いよ」

紬「その代わり、唯ちゃんの方は急いでね。あの二人、帰ると言いながらまだ抱きしめ合ってるけど、十分以内には必ず公園を出るだろうから」

いちご「」

いちご「あなたは本当に……」

紬「趣味よ趣味。唯梓、律澪は全てハッピーエンドじゃなきゃダメなの」

いちご「またわけのわからないことを……」

いちご「それにしても――」

いちご「この事、あの二人に言うの?唯と中野さんに。言っちゃ悪いけど、紬の立場って最低だと思うけど」

紬「ええ、最低ね」にっこり

いちご「……」

紬「でもいいの。好きな人同士くっついて欲しいって言うのは、私のワガママだもの。二人とも大事な友達だし」

紬「私の大切な人達全員が幸せになるのなら、最低なことだって進んでするわ。私、ワガママだもの」

いちご「……」

紬「私の気持ちをわかってくれるのは世界で一人だけでいいわ。大好きな人一人にね」

いちご「……はぁ」

紬「内緒にしてくれる?」

いちご「言える訳ないでしょ。私も共犯なんだし」

いちご「はぁ、なんでこんな人を好きになっちゃったのかしら」

いちご「自分の彼女を勝手に他人にレンタルするし」

紬「ごめんね。こんなこと頼めるの、いちごちゃんしか居ないもの」

いちご「何だか複雑だわ、その台詞」

紬「それとも、私よりも唯ちゃんの方に本気になっちゃった?」

いちご「そうね……」

いちご「唯が中野さんのこと好きじゃなくて、私が紬のことを好きじゃなかったら、本気になってたかもね」

紬「あらあら、うふふ」

紬「さて、帰りましょうか」

いちご「いいの?あの二人、まだいちゃいちゃしてるけど」

紬「やることはやったし、後はさせておきましょう」

いちご「まあ、紬がそう言うならいいわ」

紬「それよりもぉ、いちごちゃん。今日泊まって行ってよ。家に」

いちご「やだ」

紬「えー」

いちご「着替え持ってきてないもの」

紬「大丈夫よ。こないだ泊まった時に置いて行った服、ちゃんと洗濯して置いてあるから」

いちご「……わかったわ」

紬「やったー」

いちご「それよりも、私、明日唯と中野さんに土下座されるの?罪悪感で胃が痛いんだけど」

紬「そうねー。じゃあ、明日は一緒にサボっちゃいましょうか」にっこり

いちご「……本当に、ごーいんぐまいうぇいね」

紬「うふふ」

次の日、放課後、部室

梓「あの、行かないんですか、いちご先輩の所。今朝、放課後話すって言ってましたけど」

唯「それがね、いちごちゃん今日休みなんだ。ムギちゃんも」サワサワ

梓「え」

唯「いちごちゃんは風邪で、ムギちゃんはなんか鼻血が止まらなくて、昨日の夜救急車騒ぎになったんだって」サワサワ

梓「そうですか。……ムギ先輩は心配ですけど、目下の目的はいちご先輩ですね。どうしましょうか……」

唯「んー、電話やメールで済ませるような話じゃないし、風邪だと直接家に押しかけるわけにもいかないしねぇ。お見舞いメールしても、来なくていいって」サワサワ

梓「じゃあ、明日ですか……?」

唯「そうなるねぇ」サワサワ

梓「私今日、殴られる覚悟で登校したのに……。ところで唯先輩、お、お尻撫でるの何でですか?」

唯「いーじゃん、まだりっちゃんと澪ちゃん来てないんだし」サワサワ

梓「そ、それはそうですけど、なんか恥ずかしい……」

唯「あずにゃんだって、抱きしめられてるのいいことに私の胸に顔埋めてるじゃん。気づいてる?あずにゃんが喋るたびにちょっと気持ちいいんだけど」



梓「そ、それは!」

唯「いーじゃんあずにゃーん。昨日はあんなに愛し合ったのにー」

梓「昨日は昨日ですよ……っていうか、まだ明るい内にそういう話はやめてください……」

唯「暗くなったらいいんだー?」ぎゅー

梓「ぷはっ……だ、大体ですよ?二人きりだから言いますけど……私、唯先輩が欲しい『初めて』って、ま、前のだけかと思ってたんですけど」

唯「あずにゃんの初めては全部欲しいもん。言ったでしょ?独り占めしたい、って。あんな嘘付かれて、焦っちゃったんだもん」

梓「ま、またその話ですか。昨日シてる最中延々と謝らせてたくせに……」

唯「あずにゃん本当可愛かったよぉ。涙目で謝りながら……ああ、あずにゃあああああああん!!」ぎゅー

梓「……(照)」


律澪(何あれ)

澪(え、何、どういうこと?)

律(二人きりの部室で、ベンチでいちゃいちゃしてるな)

澪(唯はいちごと付き合って、梓は唯に振られたんじゃなかったのか?)

律(なんだかんだで付き合い始めたみたいだな)

澪(へー。……梓、頑張ったんだな)

律(そうだな。……なあ、めちゃくちゃ入りにくいんだが)

澪(でも、いつまでもこんな、覗きみたいなことしてても仕方ないぞ)

律(だけどさ……)

澪(それにしても、いいなぁ。私もあんな風に部室で律と……)

律(家に帰ってからでいいじゃん……)

澪(放課後、学校でって所がいいんじゃないか!ダメだな律は!)

律(へいへい。……じゃあ、いつまでもこうしちゃいられないし、入るか)

バターン

律「いやぁ、ごめんごめん、遅くなっちゃって!」

澪「悪いなぁ!ってあれ?二人とも仲良いな、そんな引っ付いて!」

唯「あ、澪ちゃんりっちゃん、遅いよー」ぎゅー

梓「ちょ、ちょっと唯先輩……!?」

律(すごいな。隠す気ねーよ。私達が来てもいちゃいちゃ続行か)

澪(あー、いいなぁ。こういう、他の人に見られても平気な関係……)

律「何だよお前ら、結局付き合ったのか?」

唯「うん、そうだよー。これからよろしくねー」

梓「え、えっと、はい。ご心配をおかけしました……」

唯「心配ってー?」

澪「何でもないぞ!な、梓?」

梓「は、はい」

唯「?」

澪(お、おい律!)

律(ん?)

澪(い、今なら大丈夫じゃないか?私達が付き合ってるって!)

律(……ああ、そうだな!)

澪(じゃあ律、頼む!)

律(何で私なんだよ!?)

澪(い、いいだろ、ほら、早く!)

律(ま、マジかよ。……うっし)

律「あー、二人とも、今まで言うタイミングが掴めなかったから言いそびれてたんだが、報告させてくれ」

律「実はな、私と澪は、その……一月前くらいから、付き合ってるんだ!」

唯「ねー、あずにゃん。今日も家にお泊まりしてかない?憂にも報告したいし」

梓「だ、ダメですよ。昨日外泊して、今日もなんて親がうるさいですもん」

唯「えー、じゃあ私があずにゃん家にお泊まりする!それならいいでしょ?」

梓「それなら……まあ。仕方ないですねぇ、唯先輩は」

唯「やったー!あずにゃん大好きー!」ぎゅー
律澪「聞いちゃいねえ」                         終わり

ごめん、童貞だからセックス描写わからない……

いや、あえてボカすことによって妄想出来るというか

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