和「イチゴくらいでガタガタ言ってんじゃないわよ!」(190)

唯「今さらっ!?」ガーン

和「大体ねえ、一口あげるって言ったのは唯でしょ?私に非はないわよ」

唯「いや、あるよ!?どこの世界にケーキの一口でイチゴを狙う人がいるのさ!」

和「ここに」

唯「そういうことじゃなくてさ、こう……常識で考えてね?」

和「唯みたいな非常識な人間には言われたくないわね」

唯「ひどっ!?」

和「そもそも常識……その言葉ほど疑わしいものはないわね」

唯「え?」

和「唯、考えてみて?社会で決められたルール、学校で決められたルール、一般常識と呼ばれる暗黙のルール……それらは全て本当に正しいと言える?」

唯「……」

和「そして唯。あなたはそれらを全て完璧に守っていると自信を持って言える?」

唯「それは……」

和「例えばエスカレーター。常識とやらでは歩く人のためにどちらか片方を空けて並ぶのが正しいのよね?」

唯「うん、まあ」

和「でも作っている側としては、そもそもエスカレーターは歩けるようには作られていないからそれは止めて欲しいらしいわ。どちらか片方に寄るとそれだけエスカレーター自体に変な負担がかかるのよ?」

唯「そうなの!?」

和「ええ、エスカレーターの故障の原因は大体それね。さらに歩く人たちが起こすエスカレーターの事故は年間百件単位に上るわ」

唯「……」

和「ついでに言えば、設置している側の態度も真っ二つに分かれているのよ。一つは急ぐ人のために片側に寄れ、もう一つは二列に並んで歩くな……全く、矛盾しているわ」

唯「ほえ~……」

和「他にも疑うべき悪しき常識は探せばいくらでもあるわ。さて唯、あなたは本当に自分が思う『常識』とやらが正しいと言えるの?」

唯「う……」

和「唯……私はね、あなたにつまらない常識に囚われる人間になってほしくないの」

唯「和ちゃん……?」

和「唯はやる気になれば何でも出来る。それに優しくて皆を元気にできる明るさがあって……でも、純粋であるからこそ社会の嘘に騙されやすい気がするの」

唯「……」

和「常識を疑いなさい、唯。自分で考えた本当に正しい答えを見つけるのよ!」

唯「和ちゃん……分かった、私やるよ!」

和「唯……!」

唯「ゴメンね和ちゃん。和ちゃんはそんなにも私のことを考えてくれていたのに、私はケーキのイチゴくらいで熱くなっちゃって……」ウルウル

和「いいのよ唯。私は全然気にしていないわ。あなたの成長が、私の幸せよ……?」ギュッ

唯「和ちゃん……のどかちゃ~んっ!」ギュウッ

和「ちょろい」

唯「え?何か言った?」

和「何でもないわ」

……

和「……」

澪「和、ちょっといいか?」

和「……」

澪「お~い、和~?」

和「……澪?」

澪「どうしたんだ?ボーっとして」

和「ちょっとね。窓の外、見える?」

澪「えっと……何かあるのか?」

和「ええ、木があるでしょ?」

澪「ああ、あるな。木がどうかしたのか?」

和「……あの木の葉っぱが全部落ちた時、私の命の灯も消えてしまうの」ポツリ

澪「えっ!?」

和「今はまだ夏だから青々と茂っているけど……やがて秋が来て鮮やかに紅葉し、冬が来て葉を落とすわ。その時、私も……」

澪「の、和……そんな……」

和「人の命なんて、儚いものね」

澪「のど、か……」

和「……」

澪「……なあ」

和「何?」

澪「あれ常緑樹じゃないのか?」

和「ええ、そうね。一年中枯れないで緑色の葉をつけているわ」

澪「……」

和「……」

澪「この問題が分からないから教えてほしいんだけど……」

和「ああ、この問題は……」

……

律「おっ、和の弁当美味そうだな!」

和「そう?自分で作ってるんだけど」

澪「和は料理も上手なんだよな~。羨ましい……」

和「別に上手ってほどでもないわよ、これも昨日の残りを詰めただけだし」モグモグ

唯「和ちゃんの料理って憂と同じくらい美味しんだよ~?」

紬「へ~、食べてみたいわね」

律「……」ウズウズ

澪「おい律、無断で食べるのはやめろよ?狙ってるのバレバレだぞ?」

律「ちぇ~」

和「こんなものでいいなら適当につまんでいいわよ?」

律「マジ!?さっすが和!いっただきま~す♪」

紬「わ、私も!」

唯「右に同じ!」

パクパク

澪「お、おいっ!」

律「何だこれ、超うめえ!」モグモグ

唯「むむ……また腕を上げたね、和ちゃんっ」モグモグ

紬「ウチのシェフより美味しいかも……」モグモグ

和「そう?美味しいならもっと食べちゃっていいわよ、今日は詰めすぎちゃったし」

唯「わ~い♪」

律「喜んでいただき~♪」

パクパク…

和「……」

澪「おい、唯と律は食べすぎだ!和の弁当がのり弁になっちゃってるぞ!?」

律「つ、つい食べすぎちゃって……」

唯「ご、ゴメンね和ちゃん」アセアセ

和「……別にいいわよ、そんなに美味しいって思ってくれたのは嬉しいし」

紬(和ちゃんって大人ね……)

和「ただ……」

澪「ただ?」

和「何だかちょっとムシャムシャするわね」ムシャムシャ

唯「和ちゃん、それ私のパン……」

和「あらゴメン、手元にあったからつい」

律「わ、私のパンも食べるか!?」

和「いらないわ。購買の調理パンって不味いもの」

唯・律「……!?」ガーン

澪(の、和……怒ってはいないみたいだけど何か怖いぞ)

唯「ほ、本当にゴメンね和ちゃん!放課後何か奢るから……」アセアセ

律「わ、私も!だから機嫌治してくれよ和~っ」

和「……?別に私は怒ってないわよ?」

律「……本当に?」ビクビク

和「ええ。それにしても律と唯はほとんどパンよね?」

唯「う、うん」

和「それじゃ体に悪いわ、受験生なんだから……。毎日は無理だけど、これからはたまに二人の分のお弁当も用意してあげるわね」

律「え……?」

唯「ほ、本当?和ちゃん」

和「ええ、まあ中身にはあまり期待しないでね?」

律「いやいや、すっげー嬉しいよ!サンキュー和!」

唯「ありがとう和ちゃ~ん♪」ギュー

和「よしよし」ナデナデ

澪「……」

紬(和ちゃんってよく分からないわ……)

……

和「……」

紬「和ちゃん、どうしたの?」

和「あ、ムギ。あれを見て」

紬「あれ……?」

和「……」

紬「……」

和「スズメがいっぱいいるわね」

紬「そうね……スズメがどうかしたの?」

和「……美味しそう」ジュルリ

紬「!?」

和「……」ジーッ

紬「だ、ダメよ和ちゃん!スズメなんて食べられないわ!」

和「え?」

紬「え?」

和「ムギ……スズメは食べられるわよ?」

紬「えっ!?そ、そんな……」

紬(庶民はあんな小さい鳥まで食べるの!?)

和「何を勘違いしているのか知らないけど、スズメは立派な狩猟鳥獣。国内ではかすみ網が禁止されてるから市販できるほど確保出来ないけど、中国とかから輸入もしているわ」

紬「で、でもあんな鳥を食べるなんて……」

和「スズメは確かに癖が強いけど美味しいわよ?焼き鳥もいいけど、あの白い脳みそがもう……」ウットリ

紬「う……」

紬(そ、想像したら気持ち悪くなって来たわ……)

和「……ムギ」

紬「うぷ……な、何?」

和「あなたの勝手な嫌悪で、立派な食べ物を否定するのはやめてちょうだい」

紬「えっ!?わ、私そんなつもりじゃ……」

和「顔色を見れば分かるわ。どうせあなたはイナゴやカエルも食べられないって否定するんでしょう?野草を取って食べるなんて原始人がすることだと思ってるんでしょう!?」

紬「わ、私は、その」

和「私は納得しないわ。鶏や鴨は食べれるのに、スズメは食べられないなんて……」

紬「そ、そうなのかしら」

和「あなたは結局、私たち庶民のことを理解できていない……いや、心の中では見下しているのよ!」

紬「そんな……ことは」

和「黙れ!このブルジョワめっ!」

紬「っ!?」ガーン

紬「……」

紬「そう……ね、和ちゃんの言う通りだわ」

和「……」

紬「私、食べるわ!スズメを……!」

和「無理して食べて貰わなくてもいいわよ?」

紬「無理なんかしないわ!私はもっと理解したいの。みんなのこと……和ちゃんのことをっ」

和「ムギ……」

紬「じゃあ私、捕まえてくる!」

和「あっ、ダメよ!」

紬「大丈夫、心配しないで!素手だけど頑張るわっ」ダッ

和「あ……」

和「……」

和「スズメは勝手に獲っちゃダメなんだけどなあ」

……

梓「あ、和先輩こんにちは」

和「あら梓ちゃん、こんにちは。これから部活?」

梓「はいっ!和先輩は生徒会ですか?」

和「ええ。でもその前にちょっとトイレにね」

梓「あ、私もです」

和「そうなの?それじゃ一緒に行きましょうか」

梓「えっと……はい///」

和「ふふ、照れなくていいのよ。たかが連れションなんだから」

梓「つ、連れ……!?和先輩、その言い方はちょっと……///」

和「あら……ゴメンね?じゃあ一緒にお花を摘みに行きましょうか」

梓「はいっ!」

和「……」スタスタ

梓「……」パタパタ

和「……」テクテク

梓「……」トテトテ…ピタッ

梓「あの~、和先輩?」

和「どうかしたの?」

梓「ここ下駄箱なんですけど……トイレ通り過ぎちゃいましたし……」

和「あら。でもお花を摘みに行くなら外に出ないと」

梓「それは隠語表現じゃなかったんですか!?」ガーン

和「淫語表現だなんてそんな///」

梓「変な変換しないで下さい!分かりにく過ぎです!」

和「……」

梓「……」ハアハア

和「私でそんなに興奮しないで///」

梓「和先輩が連続で突っ込ませるからですーっ!」

和「でも良かったわ」

梓「はあ、はあ……何がですか?」

和「いや、外に出る前に突っ込んでくれて。実はこれから会議があるから、あまり時間がないの」

梓「何故そんな状況でボケたんですか!?」ガーン

和「まあまあ」ナデナデ

梓「ちょ、ちょっと……」

和「よしよし」ナデナデ

梓「こ、こんな手には乗りませんよ!」

和「……」ナデナデ

梓「こんな……こんな……」

和「……」ナデナデ

梓「……ふにゃあ」

和「ふふふ……」スリスリ

梓「にゃあん♪」ゴロゴロ

和「……」パッ

梓「にゃあ……はっ!?私は何を」

和「……」ナデナデ

梓「ごろにゃん♪」

和「……面白い」

……

和(意外と早く終わったわね)

和(確か……今日ウチには誰もいないのよね)

和(……)

和(キャラじゃないけど、ちょっと寂しいなあ)

憂「あっ、和ちゃ~ん♪」タタッ

和「気安く呼ぶんじゃないわよ!」キッ

憂「ええっ!?」ガーン

和「冗談よ」

憂「……」ズーン

和「冗談だってば憂」

憂「……」ズーン

和「憂~?憂ちゃ~ん?」

憂「……ふん、和ちゃんなんて知らないもん」プイッ

和「ありゃりゃ、拗ねちゃった」

憂「拗ねてないもん。真鍋先輩のば~か」ベー

和「あらあら……」

憂「ふーんだ」

和「……」

憂「……」ツーン

和「ゴメンね憂」ギュウッ

憂「あ……ふ、ふん。私はこんなんじゃ騙されないんだから」

和「もう、頑固なんだから」ナデナデ

憂「真鍋先輩のせいだもん」

和「和ちゃんって呼んでくれないの?寂しいなあ……」

憂「……」

和「ねえ、どうすれば許してくれるの?」

憂「……一緒に」ポツリ

和「一緒に?」

憂「これから夕飯の買い物行くから……一緒に来てくれる?」

和「ええ、もちろん」

憂「今日も私とお姉ちゃんしかいないから……ウチに来て夕飯食べてくれる?」

和「喜んで。料理も手伝うわよ?」

憂「一緒に……お風呂入ってくれる?」

和「憂が入りたいなら」

憂「今日、泊まって行ってくれる?」

和「誘ってくれるなら是非」

憂「……」

和「それだけでいいの?」

憂「……うんっ!ありがとう、和ちゃん♪」

和「どういたしまして」ナデナデ

憂「えへへ……」

和(ふ……計画通り)ニヤリ

憂「和ちゃ~ん、早く行こうよ~」

和「ええ、行きましょうか」

和(……ありがとう、憂)

……

澪「いらっしゃい和。暑かっただろ?さ、上がってくれ」

和「お邪魔しマッスル」ズイッ

澪「……」

和「……」

和(外したわ……)

澪「は、はは……じゃあ私の部屋に行こうか」

和「そうね」

ガチャッ

澪「散らかってるけど、どうぞ」

和「嘘ね」

澪「え?」

和「散らかってる……そんなことを言っておきながら、この部屋は埃一つ落ちていないわ」

澪「えっと、まあ」

和「本を片付け、掃除機をかけ、布団を洗い、テーブルや窓を拭き……そこまでしておいて散らかってる?はっ、片腹痛いわね」

澪「の、和……?」

和「どうして『お前が来るからわざわざ片付けてやったんだぞ。感謝しろよ』くらい言えないの!そんなんだから日本人は国際社会で舐められるのよ!?」カッ!

澪「ひいっ!ご、ゴメンなさい!?」ビクッ

和「……」

澪「……」ビクビク

和(怯える澪は可愛いわね……)ゴクリ

和「さて、冗談はこれくらいにして勉強を始めましょうか」

澪「じ、冗談……なの?」ウルウル

和「そらそうよ」

澪「は、はははは……全く、和は相変わらずお茶目だなあ。さすがの私でもほんのちょっぴり驚いちゃったよ」ガクガク

和「足震えてるわよ」

澪「き、気のせいだ!」

和「怖がりねえ……。ところで律たちはまだ来ないの?」

澪「あー、律とムギは用事があるから少し遅れるって。唯も遅れるんだろ?」

和「ええ。私が迎えに行ったらちょうど起き出して来たから、まだ来ないでしょうね」

澪「ははっ、唯らしいな」

和「あ、お土産にケーキ持って来たから先に食べちゃいましょう」ガサッ

澪「気を使わせちゃって悪いな。お茶淹れてくるよ」

和「ありがとう」

ガチャッ

和「……」

和「友達の部屋に一人っきりのこのシチュエーション……やるっきゃないわね、アダルトグッズ探し」

和「澪はそういうのとは無縁そうだけど、意外とああいう子が持ってたりするのよね~」ククク

和「ベッドの下、机の引き出し、クローゼットの中……さ~て、どこかな?」ゴソゴソ

和「こ、これは……」つ縞パン

和「一年のライブで披露したヤツとは違うみたいだけど、本当に澪は縞パンが好きなのね」つ縞パン

和「おっと、こんなものに気を取られている場合じゃないわ。澪が帰ってくる前に戦果を挙げないと……」

ガチャッ

澪「和、紅茶でよかった……って何やってるんだ?」

和「いや、別に。パンツなんて別に」ケロッ

澪「ぱんつ?」

和「気にしないで。紅茶ありがとう」

澪「どういたしまして……っと」ガチャ

和「澪、どのケーキがいい?一応一通り買ってみたんだけど」

澪「うわ、どれも美味しそうだな」

和「駅前にあるけっこう有名な店のケーキだからね」

澪「高かったんじゃないか?」

和「気にしないで、生徒会の予算で落ちるから」

澪「職権濫用!?」

和「冗談よ冗談。……ククク」ニタァ

澪「だったらその邪悪な笑みはやめてくれよ……。う~ん、どれもカロリー高そうだな……」

和「カロリーなんて気にしてたらケーキなんて食べれないわよ?」

澪「そうなんだけど……う~ん」

和「……澪、太ったの?」

澪「う……実はそうなんだ。ケーキは遠慮しとこうかな……」

和「せっかく買ってきたのに」

澪「うう……でもなあ」

和「……澪、少し考えてみましょうか」

澪「え?」

和「例えばこれ。このフォークの先っぽについたケーキの欠片が見えるかしら?」

澪「うん……それがどうかしたのか?」

和「この欠片のカロリーは限りなくゼロに近いわよね?」

澪「そうかもな……はっ!?」

和「気付いたようね。そう、ケーキの欠片がカロリーゼロであると仮定した場合、その集まりであるケーキ本体は……」

澪「ゼロをいくら足してもゼロのまま……つまり、ケーキはカロリーゼロということか!」

和「そうよ、多少の誤差は出るかもしれないけど。計算上、ケーキはいくら食べても太らない!」

澪「す、凄い発見だ……!和は天才だよ!」キラキラ

和「ふっ、大したことではないわ。さあケーキを食べましょうか」

澪「うんうん!いただきます♪」

和「ちょろい」

澪「ん、何か言った?」モグモグ

和「いえ何も。どう、美味しい?」

澪「すっごく美味しいよ。ありがとう和」ニコッ

和「どういたしまして」

和(一人で食べてもつまらないもんね)

……

ガチャッ

和「ちょっと!講堂の使用許可書が出てないわよ!?」

純「ええっ!?」

和「ほら、早く出しなさい!このままだとライブ出来ないわよ?」

純「えっと……私たち、もう出したはずなんですけど……」

和「え?」

純「ジャズ研は受付開始と同時に出すんで……。それに、私が直接和先輩に出しました」

和「……知ってたわ」

純「え?」

和「私、ジャズ研に文句つけに来るのが夢だったの~♪」

純「キャラ違いますって」

和「ふはははーよくぞ見破ったなー。今のはお前たちを試したのだー」

純「ひどい棒読み……」

和「……」

純「……」

和「それじゃ……」

純「あの、」

和「ごゆっくりいいぃ!」

純「!?」

ガチャッ、バタン

和「……」タタタッ

和「ふう」

和「次はオカルト研にでも行ってみましょうか」

……

和「天つ風 雲の通い路 吹き閉じよ をとめの姿 しばしとどめむ……良い句ね」ウットリ

唯「和ちゃ~ん!何してるの~♪」

和「あら唯。古典……和歌の勉強よ」

唯「うええ、古典かあ……私苦手だよ~」

和「ふふ、意味が分かるようになると面白いわよ?和歌とかはとくにね」

唯「へえ~。じゃあさっき和ちゃんが口ずさんでいたのはどんな意味なの?」

和「ああ、今の?それはね……」ジリッ

唯「ほえ?」

和「……こういうことよ!」バッ

ふわっ…

唯「ひゃああっ!?」

和「ふむ、淡いピンクの可愛い下着ね。唯らしいわ」

唯「な、何で私のスカートめくるの!?///」

和「あら、私は和歌の説明をしただけよ?」

唯「え?」

和「さっきの歌は『天つ風 雲の通い路 吹き閉じよ をとめの姿 しばしとどめむ』……つまり」

突然風が吹き、辺りにいた女の子のスカートを捲り上げてしまった。まったく悪戯な風だなあ。さて皆

の衆、心して目に焼き付けるとしようか。麗しき乙女の下着を。

和「……という意味なの」

唯「そ、そんな……」ガーン

和「基本的に昔の人たちは皆エロいのよ。聖人君子?何それ食えんの?って感じね」

唯「ほわあ……」

和「他にもこんな歌もあるわ。『長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れて今朝は ものをこそ思え』……」

出会ってからの時間が短く、お互いのことがよく分かっていなかったとしても、黒髪のあの娘と一晩中

乱れて二人で朝を迎えたと妄想しなさい。気分良いし、おかずにもなるよ!

唯「変態だーっ!?」

和「でしょう?和歌に留まらず源氏物語なんかは主人公がエロいことしか考えてないのよ?こんなのを

問題にして、真剣に考え込むなんて馬鹿みたいよね」クスクス

唯「確かに……」

和「唯も苦手意識なんて持たないで、もっと気楽に古文を読んでみたら?」

唯「なるほど……何だか私にも出来る気がしてきたよ!」

和「その意気よ。頑張ってね?」ナデナデ

唯「えへへ~♪頑張ります!」フンス!

和「次は古典……ちょうど唯が現代語訳する日よ」

唯「うんっ!基本的に皆エロいってことを頭に入れて、訳し直してくる!」タタッ

和「……」

和「いいことをすると気持ち良いわね」ニコッ

……

和「……眠いわ」

和「夜更かしはお肌の天敵とかいう都市伝説もあることだし、そろそろ寝ましょうか」

和「今日はとっても楽しかったね!明日はもっと楽しくなるよね、ハム太郎♪」

和「……」

和「ああもういいや、寝ちゃお寝ちゃお寝ちゃおーっ!」

和「……」

和「おやすみなさい」モフッ

……

ガチャッ

和「失礼するわね」

唯「あ、和ちゃ~ん♪」モグモグ

律「おう和!どうしたんだ一体?」ズズー

和「練習しているのかと思ったら、ティータイムの真っ最中なのね……」

澪「は、はは……。それで、軽音部に何か用?」

和「ええ、最近室内外を問わず熱中症になる人が増えているから、生徒会でも各クラブへ注意に回ってるの。このプリントに熱中症対策について書いてあるから、部長は目を通しておいて」

律「りょ~かい」

和「あとこれは澪に頼まれてた先週の模試の解説ね」

澪「わざわざ持って来てくれたのか?ありがとう」

和「これは唯に頼まれてた数学のノートのコピー。ちゃんと授業は聞かないとダメよ?」

唯「えへへ、いつもスイヤセン」

和「これは梓ちゃんに頼まれてた本ね。『絶対に成功するバストアップ術』……頑張ってね?」

梓「あ、ありがとうございます。……って、こんなの頼んでませんよ!?」ガーン

和「ノリ突っ込みもこなせるなんて……やはり逸材ね」

梓「意味分かりませんって!あと唯先輩、くっつかないで下さい!」

唯「もう~、あずにゃんってばおっぱい小さいの気にしてたの~?私が揉んで大きくしてあげるよ!」

梓「ひっ!?さ、触らないで下さい!」

紬「あらあらまあまあ!」キラキラ

和「ふむ、これで用事は済んだことだし私は戻るわね?」

澪「あ、待って和!せっかくだから和もお茶して行かないか?」

和「え?でも……」

律「遠慮なんかすんなって。ささ、座った座った」グイグイ

和「もう……」

紬「和ちゃんも紅茶でいいよね?ショートケーキもどうぞ♪」カチャッ

和「ありがとうムギ。それじゃいただきます」

紬「召し上がれ♪」

和「……ん、美味しい」

紬「うふふ、良かった」

唯「……」ジーッ

梓「唯先輩、何見てるんですか?」

唯「いや~、和ちゃんのケーキ美味しそうだなって」

澪「さっき同じの食べたじゃないか……」

唯「てへへ……」

和「いいわよ、唯。一口あげるわ」

唯「えっ、いいの!?」

律「何だ何だ?和は唯には甘いな~?」

和「まあ小さい時からの付き合いだからね。ほら、食べていいわよ」スッ

唯「ありがとう和ちゃん!よいしょっと」プスッ

和「!?」

唯「はむっ。ん~、イチゴ美味しい~♪」

和「……」プルプル

唯「ん?和ちゃん、どうかしたの?」

和「何でケーキの一口って言われてイチゴを狙うのよ!?」ペチーン

唯「あいたーっ!?」

和「全く、常識で物事を考えなさい!イチゴはケーキの頂上よ?魂なのよ!?」

唯「えっ、でも和ちゃんケーキのイチゴくらいでガタガタ言うなとか、常識を疑えとか言ってたような……」

和「今はそんなことどうでもいいの。唯、基本的なことよ。自分がされたら嫌なことは人にはしない……分かるわよね?」

唯「はっ!?」ガーン

和「イチゴを取られちゃったら悲しいのよ?泣いちゃうのよ?人を悲しませるようなことは、絶対にしてはいけないわ」

唯「ご、ゴメンなさい和ちゃん!私、私間違えてた!」

和「反省してる?」

唯「してるよ!本当にゴメンなさい!許して和ちゃん……」ウルウル

和「……ふふ。分かってくれればいいのよ」ナデナデ

唯「あ……。えへへ、和ちゃんは優しいね」

和「ほら唯、ご褒美……ってわけでもないけど、もう一口あげるわ。あ~ん」

唯「あ~……んっ。美味しいよ和ちゃん!」モグモグ

和「ふふ、よかったわ」ニコッ

澪「……」

梓「……」

律「……何も言えねえ」

紬「アメとムチの政策ね!」

……

和「ちょっと律、ジュース買ってきてくれない?」

律「おう、分かった!」

和「オレンジジュース。急いでね?」

律「オッケー、じゃあ行ってくる……って、ナチュラルにパシらせようとするなよ!?」ガーン

和「あら、自然な流れだと思ったのに」

律「まあ、あまりにもサラッと言うから流されそうになったのは認めよう」

和「仕方ないわね……はい、お金」

律「そういう問題じゃないし、奢らせる気だったのかよ!?」

和「もう、わがままねえ律は」

律「いや……わがままとかいう問題じゃない気がする……。でもまあ、私ものど渇いてるしなあ」

和「丁度いいじゃない、私の分も一緒に……」

律「いや待て!それだったら和が行ってもいいじゃないか」

和「そうかしら?」

律「そうだろ」

和「しょうがない、それじゃあ公平にジャンケンで決めましょう」

律「ジャンケンか。それなら公平だな」

和「でしょう?勝負ごとは公平にやらないとね」

律「よしそれじゃあ行くぞ!最初はグー、」

和「ちょっと待って律」

律「何だよ?」

和「このまま始めるのはあまりにも不公平だわ」

律「え、何で?」

和「だって『ジャンケンで勝負』というルールを作ったのは私よ?律がそのルールに納得したとはいえ、私の決めたルールに従って決まった決定に律が不満を漏らさないとも限らない」

律「それはないから安心してくれ」

和「ダメよ、勝負は完全に公平じゃないと納得できないわ」

律「……私にどうしろと?」

和「私はジャンケンというルールの大枠を作ったわ。なら、あとの細かいルールを律が決めればいいのよ」

律「なるほど。じゃあジャンケンは一回勝負だ」

和「ええ、分かったわ」

律「よっし。それじゃあ負けた方が二人分のジュースを買ってくるってことで」

和「ちょっと待って律。あなたはどこまで傲慢なの?」

律「えっ何で!?」

和「確かに大枠のジャンケンは私が決めたわ。だから細かいルールを作る権利は律にある」

律「だから私は……」

和「そう、だから律は一回勝負というルールを決めたじゃない。それに付け加えて負けた方が何をするだの決めるのは越権行為と言えるわ。不公平よ」

律「そんな細かいことまで考えるのか!?」

和「当然よ。後から揉めるのはゴメンだからね」

律「だったら残りは和に任せるよ」

和「それはダメ。また不公平感が出てしまうわ」

律「だったらどうやって決めるんだよ……」

和「またジャンケンをすればいいのよ」

律「ええ?」

和「ジュースを買いに行くという役割を決めるためのジャンケンという大枠を私が決め、一回勝負というルールを律が決めたわ。そして次の詳細なルールもジャンケンで決める」

律「……」

和「そのジャンケンに勝った方が詳細なルールを決めるということよ」

律「凄くシンプルなはずなのに、妙に難解な取り決めになってきたな……。まあいいや、とにかくジャンケンをすればいいんだろう?」

和「待ちなさい律」

律「まだ何かあるのか……?」

和「確かに詳細ルールはジャンケンで決めようと言ったけど、私は律から同意を得てはいないわ」

律「心配しなくても反論はしないって」

和「だったら尚更ジャンケンは出来ないわね」

律「何でさ」

和「いい?役割を決めるために公平なジャンケンという提案をした私に対して、一回勝負というルールは律が決めたわ」

和「そして、さらに詳細なルールを不公平感が出ないよう決めるために私がジャンケンをしようと決めた。となると、そのジャンケンのルールを決める権利が律に発生すると思わない?」

律「そろそろついて行けなくなってきた……。というか、これって無限ループじゃね?」

和「そう?」

律「だって詳細を決めるためにジャンケンまたジャンケンってなれば、キリがないだろ」

和「だったらどうやって決めるのよ。私は勝負事は完全に公平じゃないと納得しないわよ?」

律「それは……」

和「それは?」

律「……」

和「……」

律「私が行って来ます……」

和「あらそう?何だか悪いわね」

律「絶対そう思ってないだろ……はあ、何かどっと疲れた」

和「じゃあ……はい。ちょっと温くなっちゃってるけど、ジュースあげるから元気出しなさい!」

律「持ってんじゃねーか!」

……

澪「和、何してるんだ?」

和「あら澪。丁度よかったわ、パンツ何色?」ピラッ

澪「ひゃわあああっ!?な、何すんだ!?///」

和「また縞パン……可愛いけど、ちょっと子供っぽいわよ?」

澪「う、うるさいなあ!それより何なんだよいきなり!」

和「え?澪ってパンツを見せびらかして興奮するタイプじゃなかったっけ?」

澪「私そんな変態じゃないよっ!?」ガーン

和「でも一年のライブの時に……」

澪「わーっ、わーっ!昔のトラウマを引っ張り出さないでくれ!」

和「……」

澪「うう……」ブルブル

和「……本当は好きなんでしょう?見られるの」

澪「!?」

和「ほら、正直になりなさい?ふふふ……」

澪「の、和……?怖いよ、近づかないでぇ……」ビクビク

和「怖がらないで。ほら……」

澪「あっ!?そ、そこは……はうぅ///」


和「……とかどうよ?」

紬「採用」

澪「ねえよ」

……

紬「和ちゃ~んっ」

和「あらムギ。今帰り?」

紬「うん。和ちゃんが歩いているのが見えたから、走ってきちゃった」

和「唯たちはいないの?」

紬「私は用事があったから少し残ってたの。待たせたら悪いから、皆には先に帰ってもらっちゃった」

和「そっか。ムギは優しいのね」

紬「えっ!?ふ、普通のことだと思うけど……///」

和「そういうことを普通に出来るから優しいのよ」ナデナデ

紬「あ……えへへ」

和「何だか嬉しそうね?」

紬「うん、私あんまり頭を撫でられたりとかされないから……」

和「なるほど」

紬「あの、和ちゃん。よかったら一緒に帰らない?」

和「そうなんだ、じゃあ私は生徒会に行くね」

紬「ええっ!?」ガーン

和「冗談よ。一緒に帰りましょうか」

紬「も、もうっ!和ちゃんったら……」

和「せっかくだし、どこかに寄って行きましょうか?」

紬「いいの!?是非っ!」フンス!

和「まあ私は帰るけどね」

紬「ひどっ!?」ガーン

和「冗談だってば」クスクス

紬「和ちゃんの意地悪!もう知らないっ」プイッ

和「あらあら、拗ねちゃった」

紬「……」プクーッ

和「ほっぺ膨らませちゃって……子供みたいね。ほら、行きましょう。皆待ってるわよ」

紬「え?」

唯「お~い、ムギちゃ~ん!」

梓「お疲れ様です」

律「おっ、和も一緒か」

紬「みんな……どうして?」

澪「ムギに気を使わせちゃうと悪いから、外で待ってたんだ」

唯「よし、みんな揃ったしアイスを食べに行こう!」

梓「またですか……」

律「いいじゃないか、暑いし。ほれほれ行くぞ~っ」グイッ

梓「引っ張らないで下さい!」

澪「おいおい、あんまり急ぐなよ……。ムギも和も早く行こう、置いて行かれちゃうよ」

和「ええ。ほら、ムギ」ギュッ

紬「あ……うん♪」

……

和「……」

和「疲れたわね」

和「ちょっと働きすぎよね、私。歴代生徒会長の中でも一二を争う仕事量じゃないかしら?」

和「このままだと、きっと私は過☆労☆死してしまうわ」

和「休養は大切よね」

和「そういうわけで、お休みなさ~い」モフッ

憂「……」

和「……」

憂「あの、和ちゃん?」

和「な~に、憂ちゃん?」

憂「憂ちゃんって……///えっと、そこは私の膝の上なんだけど……」

和「ああ、気にしなくていいわ」

憂「和ちゃんの台詞じゃないよ~……」

和「柔らかくてあったかいから、心休まるわ……」グリグリ

憂「ちょ、顔押し付けないで!///」

和「それじゃあお休み、憂」

憂「もう……和ちゃんてば」

和「……すう」

憂「……」

和「……」

憂「えへへ、和ちゃん……♪」ナデナデ

唯「あ~っ!」

憂「ひゃっ!?お、お姉ちゃん?大声出すと和ちゃん起きちゃうよ」

唯「憂と和ちゃんだけずる~い!私も私も~♪」ガバッ

和「ん……唯?」

唯「えへへ~、和ちゃ~ん♪」ギュウッ

憂「お、お姉ちゃんずるい!私も!」ギュウッ

和「あらあら……仕方ない子たちね、まったく」

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      | .',::::::::::K P:', .`   ヽこノ. ll. |::::/  ', /:::::,'
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         ヽ .ヾ===.゙゙ ´            イ::::::::::::::', <終わり!
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