冬馬「765プロのライブが当たった」 (205)
冬馬「何の気無しに応募してみたらまさか本当に当たっちまうとはな……」
冬馬「まあ当たっちまった以上、行かないわけにはいかねぇ」
冬馬「俺が当たった代わりに誰かが落ちちまったわけだしな」
冬馬「俺の代わりに涙を飲んだそいつのためにも、しっかり参加しねぇと罰が当たるってもんだぜ」
冬馬「それに、俺自身の今後のアイドルとしてのパフォーマンスの参考になるかもしれねぇしな」
冬馬「よし! 気合い入れてくぜ! まずは手始めに物販からだ!」
~物販終了~
冬馬「ふぅ……結構買っちまったな」
冬馬「TシャツにリストバンドにCDに……その他諸々で軽く3万円以上つかっちまった」
冬馬「ま、わざわざ始発で来たんだし、それを思えばこれくらいはな」
冬馬「…………」
冬馬「……しかしこの公式パンフレット……どいつもこいつも良い表情で映ってやがる」
冬馬「…………」
冬馬「……へっ! 俺達も負けちゃいられねぇぜ! よし! 次は近くの店でサイリウムの購入だ!」
~会場近くの家電量販店~
冬馬「えーっと……天海は赤で星井は緑……と。両手で持つこと考えたら、2本ずつ買っといた方がいいか」
冬馬「……いや待てよ。そもそもこれってどれくらいの時間もつんだ?」
冬馬「もしライブの途中で発光が切れたりしたら最悪だよな……」
冬馬「全力でライブやってるあいつらに対しても失礼になっちまうし……」
冬馬「よし! この際だ、各色5本ずつ買っておくぜ!」バッバッバッ
冬馬「……って、なんてこった! オレンジが売り切れてやがる! クソッ……」
冬馬「いっそ赤で代用……いや駄目だ、そんな妥協は高槻のパフォーマンスに対する冒涜になる!」
冬馬「幸い、まだ開演までは時間がある。別の店をあたるぜ!」
~開演1時間前・入場待機列~
冬馬(なんとかサイリウムも全色買えたし、後は入場するだけだ)
冬馬(しっかしすげぇ人数だな……あいつらがすげぇ遠いところにいっちまったみたいだ)
冬馬(…………)
冬馬(なあに、今に見てやがれ! すぐに追いついてやるからな!)
冬馬(……しかし、それにしても)
冬馬(この集団のほとんどがオレンジのTシャツ着てるのは……なんつーかこう、すげぇ光景だな)
冬馬(……まあ、俺も着てるんだけどよ)
冬馬(お! 列が動き出したぜ!)
~会場内~
冬馬「へぇ……客側ってのはこんな感じなんだな」
隣P「こんにちは」
冬馬「え、あ、ああ……こんにちは」
隣P「どちらから?」
冬馬「えっ、と、東京……です」
隣P「近くていいですねぇ。僕は福岡からです」
冬馬「そうなんですか」
隣P「これ、折角ですので貰ってやってください」スッ
冬馬「あっ、すいません、お……僕今ちょっと切らしちゃってて……」
隣P「いやいや、お気になさらず。今日一日宜しくお願いします」
冬馬「こちらこそ」
冬馬(……しまった……『あまとうP』とでも書いた名刺を刷っとくんだったぜ)
冬馬(まあでも良い人が隣で良かったかな)
高木『んんーあーあー……プロデューサーの諸君』
観客「ウオオオオオオオオオ!!」
冬馬(社長自ら挨拶をするのか……なかなか面白い発想じゃねぇか)
高木『……というわけで、存分に楽しんでいってくれたまえ!』
観客「ウオオオオオオオオオ!!!」
冬馬(あ、サイリウム折っとかないと……もう始まっちまう)バキッ バキッ
冬馬(さあ……一曲目は何が来る?)
冬馬(あいつらの定番曲でいくと……ジブリあたりか……?)
♪~♪~♪~
冬馬「! 『READY!!』か!!」
冬馬「これは来るとしたらアンコールかと思ってたが……」
冬馬「まあいい、コールの練習は積んできた!! いくぜ!!」
765一同『ARE YOU READY I'M LADY 始めよう~♪』
765一同『やれば出来るきっと 絶対 私No.1~♪』
冬馬「はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい!」
春香『START 始まる今日のSTAGE~♪』
冬馬「ステージー!!」
美希『CHECK マイク・メイク・衣装♪』
千早『IT'S SHOW TIME TRY CHALLENGE!!』
冬馬「はい! はい! はい! はい!」
亜美『STARDOM 光り光る SPOTLIGHT~♪』
真美『眩しい輝きまっすぐDEBUT~♪』
冬馬「はーいはーいはいはいはいはい!!」
~『READY!!』終了~
冬馬「ふぅ……なんかいきなりめっちゃ汗かいちまった……っと、MCか」
春香『皆さーん! 今日ははるばる私達のライブに来て頂きまして、本当にありがとうございまーす!』
観客「ウオオオオオオオオオ!!!」
冬馬「春香ちゃーん!! かわいいよー!!」
冬馬(……へっ、天海のヤツ、こんな大舞台でも怖気づくことなく堂々と喋ってやがるじゃねぇか)
美希『皆ー、今日はミキに会いに来てくれてありがとうなのー!』
観客「ウオオオオオオオオオ!!!」
冬馬「ミキミキー!!」
冬馬(……星井は相変わらずのパフォーマンス力だったな。やはり765の中でも頭一つ抜けてる感じがするぜ)
亜美『さてさて、ではそろそろ次の曲にいっくよ~ん♪』
真美『会場の兄ちゃん姉ちゃん! 準備は良いかな~?』
観客「ウオオオオオオオオオオオオオ!!!」
冬馬(お、もうMC終わりか……思ったより短かったな。おしてるのか?)
冬馬(そういや星井の『おにぎり波なのー!』も無かったな……『磯くせー!』って返す練習してたのに)
冬馬(まあ、ライブってのは生き物だからな。台本通りにいかねぇことがあって当然)
冬馬(それも込みでのライブだからな……あいつらの生きるライブ、最後まで見届けてやるぜ!)
伊織『では次の曲は……天海春香で『乙女よ大志を抱け!!』です♪ どうぞ♪』
冬馬「! はるるんの乙女がきやがったか! やべぇ赤どこにしまったっけ?」ゴソゴソ
チャララッチャ~ララ~♪
観客「Fuu! Fu! Fu!」
冬馬「やべっ、なんで無いんだ! クッソ、もっとでかい鞄にすりゃよかった……」ガソゴソ
冬馬「最初に全部折ったのが裏目に出たか……? いやでも曲の合間に折ってる時間はねぇし、何より暗くて外装からじゃ何色かわかんねぇ……」
冬馬「なんて言ってる場合か! クソ! もう歌が始まっちまう!!」
隣P「……あの」チョンチョン
冬馬「え?」
隣P「よかったら使ってください」スッ
冬馬「……! す、すまねぇ! 大天使ヤヨイエルPさん!!」
隣P「り、リアルでP名呼ばれると恥ずかしいですね……あ、歌始まりますよ」
冬馬「っしゃ!! これで怖いもんなしだぜ!!」バッ
春香『乙女よ 大志を抱け♪』
冬馬「Fu Fuu!!」
春香『夢見て素敵になれ♪』
冬馬「Fow Fow Fow Fow!!」
春香『乙女よ 大志を抱け♪』
冬馬「Fu Fuu!!」
春香『恋して素敵になれ♪』
春香『立ち上がれ 女諸君♪』
冬馬「はい!!」
冬馬(天海のやつ……乙女をここまで自分のものにしやがったか!!)
春香『私流格言、その1!!』
春香『急がばまっすぐ進んじゃおう♪』
春香『……はい!』
冬馬「! いそがばまーすっぐすすんじゃおー!!」
春香『もうすぐ仲間と君に会えるよ♪』
冬馬「Go! Go! Girl!!」
冬馬(天海のやつ……客席に対する煽りまで完璧にこなしてやがるじゃねぇか!!)
冬馬(よくぞここまで化けたもんだぜ……最初の頃はあんなに芋臭かったくせによ……)
春香『乙女よ 大志を抱け♪』
冬馬「Fu Fuu!!」
~『乙女よ大志を抱け!!』終了~
冬馬「うおおー!! はるるーん!!!」
冬馬(……ったく、天海のヤツめ……いつのまにこんな凄いことになってやがったんだ)
冬馬(よし! 俺達だって負けちゃいられねぇ! 帰ったら早速練習……)
やよい『キラメキラリ! いっくよー!!』
冬馬「! 乙女に続いてキラメだと! どんだけ俺を殺しにきてやがんだ! えっとオレンジオレンジ……」ガサゴソ
冬馬「っしゃ! 今度はすぐ見つかったぜ! ……っと、いけねぇ、これ、どうもありがとうございました」スッ
隣P「いえいえ。お役に立てたようで何よりです」
冬馬「俺も色は一応全部持ってきてるんで、足りないのあったら言ってください」
隣P「ありがとうございます」
やよい『フレーフレー頑張れ♪ さあ行こう♪ フレフレー頑張れ♪ 最高♪』
冬馬「はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい! はい!」
やよい『キラメキラリ☆ ずっとチュッと♪』
冬馬「チュチュッ!」
やよい『地球で輝く光♪』
冬馬「ピラリン!」
やよい『トキメキラリ☆ きっとキュンッと♪』
冬馬「キュンキュン!」
やよい『鏡を見れば超ラブリー♪』
冬馬「うっふん!」
やよい『トキメキラリ☆ ぐっとギュッと』
冬馬「ギュゥッと!」
やよい『私は私がダイスキ♪』
冬馬「いぇい!」
冬馬(高槻も……あんなちっこい身体で舞台中をあんなに大きく動いて……!)
冬馬(あの独特のステップも観客を魅了してやまねぇ……!)
やよい『フレーフレー頑張れ♪ さあ行こう♪ フレフレー頑張れ♪ 最高♪』
冬馬「フレーフレー頑張れ♪ さあ行こう♪ フレフレー頑張れ♪ 最高♪」
冬馬(765プロ……まさに俺達のライバルたりうる存在だぜ!!)
冬馬「やよいちゃーん!! 最高ーッ!!」
隣P「うおおおおお!!! やよいちゃああああん!!!」
冬馬「! (い、今まで控えめな応援だったのに……って、そうか。P名からしてこの人は高槻P……)」
冬馬(こんな良い年した大人をここまで燃えさせるなんて……大したもんだぜ、高槻!)
やよい『どんな卵だってカエルんだぞ ワクワクテカカ♪』
やよい『金色じゃなくても眩しいんだぞ アダブラカタブララ♪』
冬馬「はーいはーいはいはいはいはい!!」
~『キラメキラリ』終了~
冬馬「はぁ……はぁ……やべぇ、自分のライブん時より汗かいてら……」
冬馬「っと、またすぐ次の曲がくるんだった。えぇと次は……」
隣P「次は律子さんですね。緑です」
冬馬「えっ!? な、なんでわかるんですか?」
隣P「ステージの両端に柱のようなものがあるでしょう? あそこが次の演者のイメージカラーで光るようになってるんです」
冬馬「! 本当だ、緑になってる……随分、詳しいんすね」
隣P「いやいや、大したことではないですよ」
冬馬(観客が少しでも応援しやすくなるようにこんな配慮まで……大したもんだぜ、765プロ!)
冬馬(って、次は秋月か……でもアイツの曲はアイドル時代のDVDが若干数あるだけだからあんまり知らねぇんだよな……)
冬馬(まあ多分『いっぱいいっぱい』だとは思うが……)
♪~♪~♪~
冬馬(! このイントロ……やはり『いっぱいいっぱい』! 読み通りだぜ!)
冬馬「La LaLaLa! LaLaLaLa La LaLaLaLa!」
律子『まず ちょっとだけ 探ってみよう♪』
律子『私の眼鏡 好き? 嫌い?』
冬馬「大好きーーーッ!!!」
冬馬(……こいつも化け物みてぇなパフォーマンス力だったな……観客への煽りも神がかってたし……)
冬馬(これならいつでもアイドルに復帰できるんじゃねぇか? マジで……)
冬馬「っと、次は……そうだ、柱を見て……ん? 黄色と緑……?」
冬馬(黄色は双海姉妹……緑は星井だろうな。秋月は今やったとこだし)ガサゴソ
冬馬(しかしこの取り合わせで歌う曲って何だ……?)
♪~♪~♪~
冬馬(! これは……『We just started』! へぇ……そうきますか765プロさんよォ……!)
冬馬(良い意味で観客の予想を裏切るこの選曲! あのプロデューサーも良い仕事するようになったじゃねぇか……!)
~MC~
冬馬「はぁ……はぁ……」
冬馬(や、やべぇ……こ、ここまでとは……もう全身汗でぐちょぐちょだ……)
冬馬(だが……全力を出した甲斐はあったぜ……)
冬馬(……あの後、水瀬の『リゾラ』、我那覇の『Brand New Day!』、如月の『arcadia』ときて……四条の『風花』)
冬馬(どいつもこいつも――……清々しいまでに見事な歌いっぷりだった)
冬馬(負けてられねぇ……次は俺達の番だ! 待ってやがれ! 765プロ!)
春香『さてさて、ではここでですね~! 素敵なゲストの紹介です!』
冬馬「? ゲスト?」
春香『まずは今年、うちの事務所に入ったばかりの新人アイドルの二人です! どうぞ~!』
未来『か、春日未来ですっ! よろしくお願いします!』
静香『最上静香です。今日は皆様の期待に応えられるよう、頑張ります』
観客「ウオオオオオオオオオ!!」パチパチパチパチ……
冬馬(……誰かと思えば、765プロの新人じゃねぇか。俺の知る限り、まだマイナー誌にちょっと載ってたくらいだったと思うが……)
冬馬(もう、こんな大舞台に出すのか……でも大丈夫なのか? 特に、春日の方はすげぇ緊張してるみてーだけど……)
春香『あれれ? 未来ちゃん、なんかすっごく緊張してない?』
未来『え゛っ! ししし、してないですよ!?』
美希『あはっ☆ 未来ったら、めっちゃくちゃ緊張してるの! 足ガクガクしてるし』 ドッ ワハハハハ…
未来『み、美希さん! か、からかわないで下さいよぉ……。本当は、めちゃくちゃ緊張してます……』
静香『落ち着いて、未来。大丈夫だから』
春香『ちょ、ちょっと静香ちゃん! それ私の台詞! ていうか静香ちゃんも緊張する側でしょ!?』
静香『あっ、す、すみません』ドッ アハハハ……
春香『で、では改めて……。あのね、未来ちゃん』
未来『はっ、はい!』
春香『大丈夫。……失敗したって、いいんだから』
未来『えっ?』
冬馬「…………?」
千早『ちょ、ちょっと春香?』
春香『まあまあ、千早ちゃん。……多分今ね、未来ちゃんは『失敗しないように失敗しないように……』って、そんなことばっかり考えてると思うんだ』
未来『…………』
春香『……でも、そんなの無理だよ』
未来『えっ』
春香『ライブである以上、失敗は絶対にしちゃうものだから』
未来『…………』
春香『だから、失敗しないように……って考えるんじゃなくて、『今、自分が楽しい!』って心の底から思えるように……ただそれだけを考えて、歌えばいいと思う』
未来『春香さん……』
美希『……言ってることはもっともらしいけど、ミキ的には、それはお客さんの前で言うことじゃないって思うな』
春香『えっ!』
千早『確かにそうね……でも、春香らしくていいと思うわ』
春香『千早ちゃん……!』
亜美『実際、はるるん音程結構外したりしてるしね~』
真美『そういえば今日の『乙女』でも少し……』
春香『わ、わーっ! 亜美! 真美! シーッ!』ドッ アハハハ……
未来『……あははっ』
静香『……どうやら緊張もほぐれたみたいね、未来』
未来『静香ちゃん……』
響『いや、静香もちょっとは緊張しようよ……』ドッ ハハハ……
冬馬(……へっ。随分とまあ、先輩風を吹かすようになったじゃねぇか)
冬馬(……まあでも、今は正直にこう思うぜ)
冬馬(……お前らの事務所は……良い事務所だってよ)
冬馬「……ん?」
後列P1「はぁ……売れてない新人の曲とかいいからさぁ……もっとミキミキの曲とかやってほしいよ」
後列P2「本当だよなぁ。せっかく高い金払ってチケット買ってるんだから……」
冬馬「…………」
後列P1「あ~、はるるんのソロもっとやんないかなぁ」
後列P2「今のうちトイレ行っとこうか」
冬馬「……なぁ、あんた達」
後列P1「え?」
後列P2「な、何だよ?」
冬馬「あんた達の趣味嗜好にとやかく言うつもりはねぇ……が、せめて聴いてから判断してやってもいいんじゃねぇか」
後列P1「はあ? 何すかいきなり?」
後列P2「何マジな顔しちゃってんの」
冬馬「……あんた達の言う星井美希や天海春香だってな、最初から売れてたわけじゃねぇんだ」
後列P1「そ……それがなんだよ」
後列P2「……おい、もう行こうぜ」
冬馬「なかなか売れない不遇の時代も経験し、でもそれを乗り越えてきたからこそ……今のあいつらがあるんだ」
冬馬「誰だって最初からスターだったわけじゃない。トップだったわけじゃない……」
冬馬「数多の辛苦を乗り越えてきたからこそ、今ステージで輝いているあいつらがいるんだ! だから……」
後列P1「…………」
後列P2「…………」
冬馬「……だから……」
後列P1「…………」
後列P2「…………」
冬馬「……今、この大舞台で俺達に歌を届けようとしてるのは……そんなあいつらの後輩なんだ」
冬馬「確かに、技量はまだあいつらに比べたら未熟かもしれねぇ。さっき言ってたように、何か大きなヘマをやらかしちまうかもしれねぇ」
冬馬「でも、でもいつか、あの新人達も……あいつらと同じように、この光射すステージで輝ける日が来るかもしれねぇんだ!」
冬馬「だから……だから、歌を聴きもしないで判断するようなことだけは……やめてやってくれねぇか」
後列P1「…………」
後列P2「…………」
後列P1「……チッ、わかったよ」
冬馬「!」
後列P1「……俺らだって、伊達に765の追っかけやってるわけじゃねぇからな」
後列P2「……あんたの言う通り、聴いてから判断することにするよ。それでいいだろ?」
冬馬「……すまねぇ、ありがとう!」
隣P「……良かったですね」
冬馬「……はは……。ちょっと、おせっかいが過ぎましたかね……」
隣P「いやいや、同じ765プロを愛する者同士、きっと根底では通じ合えていると思いますよ」
冬馬「…………」
隣P「大切なのは、押し付けないこと……ただそれだけで、いいんだと思います」
冬馬「……俺も、そう思います。歌を聴いた上で見切りをつけるのであれば、それはもう、ファンの自由ですから」
隣P「……さあ、歌が始まりますよ。サイリウムの準備を」
冬馬「はい!」バッ
未来『あふれる夢いっぱい いつの日でも絶対に♪』
未来『ひとりじゃないよね レッツゴー♪』
冬馬(……悪くねぇ! 決して悪くねぇぞ!)
冬馬(確かにまだ緊張してんのが歌声から伝わってくるし、ところどころ声が裏返ったりもしてる……けど!)
冬馬(俺は……好きだ!)
冬馬(もっとずっと見守っていきてぇ……そんな気持ちにさせる歌だ!)
未来『みんなの声がするから 勇気湧いてくるよ♪』
未来『歌おう 今 この気持ちを♪』
冬馬・後列P1・P2「GO!」
冬馬「…………え?」クルッ
後列P1「…………」グッ
後列P2「…………」グッ
冬馬「あんた達……!」
―――約2時間後―――
春香『……はい! というわけで~残念ながら、遂に次で最後の曲となってしまいました!』
観客「えええええええええええええええ!!!」
亜美『あ、じゃあやめちゃうよ?』ドッ ハハハ……
千早『もう、亜美ったら……』
貴音『始まりがあれば終わりもある。残念ですが、致し方なきこと……』
響『でも最後まで、自分達、精一杯歌うから!』
真美『会場の、兄ちゃん姉ちゃんも~!』
やよい『一生懸命、ついてきてくださーい!』
観客「ウオオオオオオオオオオ!!!」
伊織『それでは、最後の曲は――……』
冬馬「…………」
冬馬(……あの後、もう一人の新人、最上静香は新人とは思えない歌唱力で観客の度肝を抜いた)
冬馬(後ろの席の二人から、嘆息にも近い溜め息が聞こえたのは良い思い出だ)
冬馬(そしてライブ後半戦……そんな新人達の先輩にあたるあいつらも、負けず劣らずの最高のパフォーマンスで魅せてくれた)
冬馬(いつしか俺自身も、アイドルという身分を忘れて……ただの一人の観客になっちまってたくらいに)
冬馬(でも、それでいいんだと思う)
冬馬(それこそが……この場所に来ることのできた奴の、特権みてぇなもんなんだからな)
春香『私達全員で歌います――……『カーテンコール』!!』
~『カーテンコール』終了~
パチパチパチパチ……
冬馬「…………」パチパチパチパチ
隣P「…………」パチパチパチパチ
後列P1「…………」パチパチパチパチ
後列P2「…………」パチパチパチパチ
冬馬「……なんか俺、もう死んでもいいっす」
隣P「……私も、同じ気持ちです」
後列P1「……でも、俺達には」
後列P2「……まだ、やるべき仕事が残ってる」
冬馬「……あぁ、そうだな!」
隣P「……アンコール!」
後列P1「アンコール!」
後列P2「アンコール!」
冬馬「アンコール!」
冬馬「……アンコール! アンコール! アンコール! アンコー……」
春香『アンコールありがとうございまーす!!』
冬馬「うおおおおおお!! はるるーん!!」
隣P「やよいちゃーん!!」
後列P1「ミキミキー!!」
後列P2「ちーちゃーん!!」
冬馬(ああ……これでまたもう一度、夢が見られる!)
冬馬(たまらねぇ……たまらねぇぜ!!)
春香『え~それでは! 皆様のアンコールにお応えしたいと思います!』
美希『み~んなでいっしょに、最後の最後まで、頑張っちゃうのー!』
観客「ウオオオオオオオオオオオ!!!!」
千早『曲は……』
765一同『『自分REST@RT』!!』
冬馬「! こ……ここでジブリか! やってくれるぜ765プロ!」
冬馬・隣P・後列P1・P2「いくぞおおおおおおおおおおおおおお!!!」
冬馬「はい! はい! はい! はい!」
隣P「はい! はい! はい! はい!」
後列P1・P2「はい! はい! はい! はい!」
冬馬「お~っ! はいはいはいはい! …………」
冬馬(――その日は――……本当に、夢のような一日だった)
冬馬(ライブが終わった後、どうやって家に帰ったのかもよく覚えていない)
冬馬(ただ、疲れ切って倒れ込んだベッドの上で)
冬馬(虚ろな意識のまま携帯を開き……)
冬馬(新しいアドレスが『三件』――確かに、登録されていることを確認し……俺はそのまま眠りについた)
ライブでの必需品ってなんですか
いおりん「おやつ!!」
お、おうちなみに今日は何を持ってきたんですか
いおりん「ドライフルーツとほしいも!」
~翌日~
北斗「チャオ☆」
翔太「おっはよー!」
冬馬「……おぅ」
翔太「わ! どうしたのさ冬馬君! そのガラガラ声!」
冬馬「……ちょ、ちょっと歌の練習し過ぎちまったんだよ……悪いか」
北斗「練習って……昨日はオフのはずじゃ?」
冬馬「じ、自主練だよ自主練! カラオケでな!」
翔太「ふ~ん、一人でカラオケ行ってたの? それなら、僕達も誘ってくれたら良かったのに~」
北斗「全くだ。水くさいぞ、冬馬」
冬馬「……っせぇな、わかったよ。……次から、誘うよ」
翔太「! 本当! 誘ってくれるの!?」
冬馬「え? お、おう……」
翔太「やったぁ! ありがとう冬馬君!」
冬馬「…………?」
翔太「良かったね、北斗君!」
北斗「ああ! これで次は三人一緒だな、冬馬☆」
冬馬「……? ちょっと待て、お前ら……一体、何の話をしてるんだ?」
翔太「…………」
北斗「…………」
冬馬「おい、黙ってねぇで……」
翔太「ごめんね、冬馬君」
冬馬「え?」
北斗「実は俺達……昨日、二人で映画館行ってたんだよ」
冬馬「はぁ? 男二人で映画かよ?」
翔太「……いや、映画館には行ったんだけど、映画を観たわけじゃないんだ」
冬馬「……え?」
北斗「冬馬も聞いたことあるだろ? ……ライブビューイング、っていうの」
冬馬「…………え?」
翔太「実は昨日、765プロのお姉さん達のライブがあってさ」
冬馬「! ……へ、へぇ、そうだったのか。……し、知らなかったぜ」
北斗「なんとなく、ネットでそのライブの情報見てたら、近所の映画館でライブビューイングやってることが分かって」
翔太「今後の僕達のパフォーマンスの参考になるかもって思って、二人で行ってきたんだよ」
冬馬「……あ、ああ……そう」
北斗「開演時刻の一時間前くらいだったけどさ、なんとか滑り込みでチケット取れたんだ」
翔太「あ、もちろん冬馬君も誘おうと思ったんだけど……携帯の電源入ってなかったみたいで、つながらなくて」
冬馬「……え? そ、そうだったか? おっかしいな……ははっ。(……昨日は、ライブに備えて開場の一時間前には携帯の電源切ってたからな……)」
北斗「でまあ……ライブビューイングが始まったんだけど」
冬馬「お、おう。そうか。それで?」
翔太「……会場内の様子、結構大きめに映し出されたんだよね」
冬馬「あ、あー……まあ、そういうもんなんじゃねぇか? よ、よく知らねぇけど?」
北斗「……来ている観客の顔も、結構はっきり映ってたんだ」
冬馬「…………え?」
翔太「……その中に、まあ……」
北斗「……見覚えのある、顔が……な」
冬馬「…………」
翔太「……冬馬君……」
北斗「一応、変装っぽい恰好はしてたみたいだけど……まあ流石に、俺達には分かっちゃったかな……」
冬馬「…………どのへんで、映ってた?」
翔太「えーっと、あれだ確か、やよいちゃんの……」
北斗「キラメキラリ☆だね」
冬馬「…………。(よりにもよってそこかよ……!)」
冬馬「…………」
翔太「…………」
北斗「…………」
冬馬「……まあ、なんだ」
翔太「…………」
北斗「…………」
冬馬「……お前らが、見た通りだ。俺は、昨日……765プロのライブの会場にいた」
翔太「…………」
北斗「…………」
冬馬「……俺は紛れもなく、自分自身の意思で―――あの空間にいた。そのことについては……何の言い訳もしねぇ」
翔太「…………」
北斗「…………」
冬馬「何故なら、俺は……」
翔太「…………」
北斗「…………」
冬馬「昨日の俺を……誇りに思ってるからだ!」
翔太・北斗「!」
冬馬(そうだ……ここで俺がこいつらに嘘をついたら、それは、昨日の俺自身に対しても……嘘をつくことになっちまう)
冬馬(それだけじゃねぇ。昨日の会場で出会った三人の戦友(とも)に対しても……嘘をつくことになっちまう)
冬馬(それに何より……昨日、全身全霊で最高のライブを見せてくれたあいつらにも……嘘をつくことになっちまう)
冬馬(それだけは絶対にできねぇ……いや、したくねぇ!)
冬馬(だから俺は……絶対に偽ったりなんかしねぇんだ!)
冬馬(昨日、あの場所にいた……この俺自身を!!)
冬馬「……とまあ、そういうこった」
翔太「…………」
北斗「…………」
冬馬「……笑いたきゃ……笑えよ」
翔太「…………」
北斗「…………」
冬馬「……? おい、黙ってねぇでなんとか……」
翔太「……笑ったりなんか、しないよ」
冬馬「……え?」
北斗「ライブの時のお前も、昨日のお前も……同じくらい、輝いてたぜ☆」
冬馬「……お、お前ら……!」
北斗「……まったく、だから言ったんだ。……水くさい、って」
冬馬「……え?」
翔太「一人で勝手にライブの応募なんかしないで、僕達も誘ってくれたら良かったのにさ」
冬馬「……あ、ああ……」
北斗「ま、だから次は――……三人一緒でいいんだよな? 冬馬?」
冬馬「…………」
翔太「……冬馬君?」
冬馬「し、仕方ねぇな! お前らがどうしてもってんなら……一緒に行ってやるよ!」
―――その後。
やよい『キラメキラリ♪ ずっとチュッと♪』
翔太「キュンキュン!」
冬馬「翔太ァ! だからそこは『チュチュッ』って言ってんだろ!!」
翔太「あれ? そうだっけ?」
冬馬「『ずっとチュッと♪』に続く合いの手なんだから、『キュンキュン!』じゃおかしいだろうが! じゃあもう一回、今のサビんとこからな」ピッ
翔太「うぇえ~、ちょっとは休ませてよ~」
冬馬「馬鹿野郎! 次のライブまでもう五ヶ月しかねぇんだぞ! ちんたらやってたら間に合わねぇだろ! ほらいくぞ! ……BD再生っと」ピッ
やよい『キラメキラリ♪ ずっとチュッと♪』
翔太「チュチュッ」
冬馬「声が小さい! やり直し!」
翔太「うぇえ!?」
冬馬(今回、あいつらのライブに参加して……ひとつ、改めて気付かされたことがある)
冬馬(それは、ステージってのは……アイドルだけで、成り立ってるもんじゃないってことだ)
冬馬(アイドルがいて、ファンがいて……その両者が、お互いに共鳴し合って―――……それで初めて、ステージになるんだ)
北斗「あっはっはっ。冬馬はスパルタだなぁ」
冬馬「北斗も! 笑ってねぇでちゃんとコール入れろ!」
北斗「はいはい☆」
冬馬「さあじゃあもう一回いくぞ! 今のサビのとこから―――……」
冬馬(……待ってろよ、765プロ!)
冬馬(……そして、あの日出会った戦友(とも)達よ!)
冬馬(俺達皆で、最高のステージを―――……作ろうじゃねぇか!)
了
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