それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。
それと同じ日に、宇宙から地球を侵略すべく異星人がやってきました。
地球を守るべくやってきた宇宙の平和を守る異星人もやってきました。
異世界から選ばれし戦士を求める使者がやってきました。
悪のカリスマが世界征服をたくらみました。
突然超能力に目覚めた人々が現れました。
未来から過去を変えるためにやってきた戦士がいました。
他にも隕石が降ってきたり、先祖から伝えられてきた業を目覚めさせた人がいたり。
それから、それから――
たくさんのヒーローと侵略者と、それに巻き込まれる人が現れました。
その日から、ヒーローと侵略者と、正義の味方と悪者と。
戦ったり、戦わなかったり、協力したり、足を引っ張ったり。
ヒーローと侵略者がたくさんいる世界が普通になりました。
part1
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」 - SSまとめ速報
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part2
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part2 - SSまとめ速報
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part3
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part3 - SSまとめ速報
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part4
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part4 - SSまとめ速報
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part5
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part5 - SSまとめ速報
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part6
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part 6 - SSまとめ速報
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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1379829326
・「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドスレです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。
・一発ネタからシリアス長編までご自由にどうぞ。
・アイドルが宇宙人や人外の設定の場合もありますが、それは作者次第。
・投下したい人は捨てトリップでも構わないのでトリップ推奨。
・投下したいアイドルがいる場合、トリップ付きで誰を書くか宣言をしてください。
・予約時に @予約 トリップ にすると検索時に分かりやすい。
・宣言後、1週間以内に投下推奨。失踪した場合はまたそのアイドルがフリーになります。
・投下終了宣言もお忘れなく。途中で切れる時も言ってくれる嬉しいかなーって!
・既に書かれているアイドルを書く場合は予約不要。
・他の作者が書いた設定を引き継いで書くことを推奨。
・アイドルの重複はなし、既に書かれた設定で動かす事自体は可。
・次スレは>>950
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」まとめ@wiki
http://www57.atwiki.jp/mobamasshare/pages/1.html?pc_mode=1
☆このスレでよく出る共通ワード
『カース』
このスレの共通の雑魚敵。7つの大罪に対応した核を持った不定形の怪物。
自然発生したり、悪魔が使役したりする。
『カースドヒューマン』
カースの核に呪われた人間。対応した大罪によって性格が歪んでいるものもいる。
『七つの大罪』
魔界から脱走してきた悪魔たち。
それぞれ対応する罪と固有能力を持つ。『傲慢』と『怠惰』は退場済み
――――
☆現在進行中のイベント
『憤怒の街』
岡崎泰葉(憤怒のカースドヒューマン)が自身に取りついていた邪龍ティアマットにそそのかされ、とある街をカースによって完全に陸の孤島と化させた!
街の中は恐怖と理不尽な怒りに襲われ、多大な犠牲がでてしまっている。ヒーローたちは乗り込み、泰葉を撃破することができるのだろうか!?
はたして、邪龍ティアマットの真の目的とは!
『真夏の肝試し大作戦!』
妖力と厄の祟り場となった街で妖怪達がお祭り騒ぎ。
悪霊を狩る為死神達が徘徊したり、魔族・精霊系がハイになったり、機械系はダウンしたりともうてんやわんや。
猫も杓子もヒーローも、騒ぐ阿呆に見る阿呆、同じアホなら騒がにゃ損損!
スレ立て乙です
前スレに入りきりそうにないので一足先にこちらへ投下します
アイドルが「洗脳・流血・貫通・電流」を受けるえぐい描写有注意です
海皇とその親衛隊が住まう、海皇宮。
その自室で、サヤは考えていた。
サヤ(最近、ヨリコの様子が変……)
前に、突然『昔の口調』で話しかけられた事を思い出す。
あれ以降も、ヨリコは『昔の口調』を頻発するようになっていた。
サヤ(以前のヨリコなら、あんなに頻繁じゃなかった……)
考えられる原因は、
サヤ(カイか……そうじゃなきゃ、もしかして海龍の巫女……?)
突如として現われ、あっという間にヨリコの信頼を得た海龍の巫女。疑うなという方が無茶だろう。
サヤ(海龍の巫女が来てから、『神の洪水計画』は進み始めた……つまり……)
サヤ(ヨリコは……あの巫女に操られてる……ってこと……!?)
サヤは一つの結論に至った。
そうでなければ、温厚なヨリコが地上侵攻など考えるはずが無い、と。
同時に、自分に苛立った。
こんな簡単な結論に、何故今まで辿り着けなかったのか。
しかし、いくら自分に腹を立てても巫女はヨリコを手放さないだろう。
サヤ(どうにかして…………そうだ)
進行中の『神の洪水計画』。これを阻止するという案が浮かんだ。
サヤ(でも、ダメね……ヨリコに話しても信じないだろうし)
最悪、自らの手で巫女を討とうか。しかし、それも出来ない。
サヤ(そんなことをすれば、サヤは反逆者。ヨリコを守る事も出来なくなる……)
幼い頃の約束を違えることになる。そんなことはしたくない。
サヤ(……………………それなら、巫女が入り込む隙を無くせば…………)
巫女の力を使わずに計画を遂行する。そうすれば、巫女とヨリコに距離を作れるかもしれない。
サヤ(……その為には……)
サヤは立ち上がり、眠るペラを置いて部屋を出た。
――――――――――――
――――――――
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――――――――――――
サヤが訪れたのは海皇宮内部の資料室。
司書「おや、サヤ殿。本日は何用で」
サヤ「前にサヤが纏めた、例の資料を見せてほしいんだけど」
司書「ああ、あれですね。こちらへ」
司書の老人がサヤを資料室の奥へと案内していく。
司書「ああ、ありました。こちらでございます」
サヤ「ありがとう。下がって結構よ」
司書は頭を下げて今来た通路を戻っていく。
サヤが司書から受け取った分厚いファイル。
開くと、様々な装いの少女たちが勇ましく戦う写真が大量に収められていた。
その横には、名前、簡単なスペック等も記載されている。
『ブライトヒカル』『ナチュラル・ラヴァース』『魔法少女エンジェリックカインド』『マスク・ド・メガネ』……。
そう、これは地上で戦うヒーロー達の情報を集めた資料なのだ。
サヤが以前各組織への交渉(という名の牽制)を行った際、それと並行してこの資料の作成も行われていた。
サヤ「確か、海の力を使うヒーローが…………」
パラパラとページをめくるサヤ。その度、紙面にはヒーロー達の名が踊る。
『ひなたん星人』『アヤカゲ』『特攻戦士カミカゼ』『ラビッツムーン』……
そして、あるページでサヤの手がぴたりと止まった。
サヤ「……いた。ふふふ……この子を『操れば』……待っててヨリコ……絶対助けるからね……」
サヤはそのページを開いたまま、しばらく一人で笑っていた。そのページに載っていたヒーローの名は……
『ナチュルマリン』
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――――――――――――
地上、ある昼下がり。
誰もがなんとなく気を緩めてのんびりしてしまう、そんな時間。
「ッシャー!」「シャシャワシャー!」「イイッシャー!」
その時間を、海底都市の尖兵、イワッシャーの群れが打ち砕いた。
「ワーッシャー!」「シャーイッシャー!」「イーイッシャー!」
拳で、脚で、ビームで、好き勝手に街を破壊していく。
そして、それをビルの屋上から見下ろすサヤとペラ。
サヤ「さて……ナチュルマリンちゃんは上手く釣られてくれるかしらぁ?」
そう、このイワッシャー達は、サヤがナチュルマリンをおびき出すためだけに街へ放たれたのだ。
サヤ「他のヒーローが来たら、場所を変え……あら?」
『キリキリ?』
サヤ「あんな所に女の子……? 避難勧告は出てるはずだけど……」
サヤの視線の先に、二人の少女がいる。
片方は燃えるような赤髪で、もう片方は薄い金髪。どちらも十代前半といったところだろうか。
巴「あいつら……最近よう出とる鰯のロボットじゃな。やるぞ乃々!」
乃々「はっ、はい……早く済ませて帰りたいですけど……」
サヤ(あれは……まさか)
巴「地よ!」
乃々「空よ!」
巴「悪しき心を持つ邪悪な意志に立ち向かう!」
乃々「自然を愛する優しき乙女に力を!」
二人が天に掌を掲げて叫ぶと、二人の姿が光に包まれた。
巴「全てを支え、豊かを与える地! ナチュルアース!!」
乃々「全てを包み込み、安らぎを与える海! ナチュルマリン!!」
巴・乃々「「人々を守り、自然を守る戦士!! ナチュルスター!!」」
サヤ「! 来た!」
『お目当て』の登場に、サヤは思わず身を乗り出した。
サヤ(よく来てくれたわぁ、ナチュルマリン! もう一人いるようだけど……)
不確定要素にサヤの顔は少し曇るが、すぐに笑顔が戻った。
サヤ(まあ、『仲間から襲われたら』一たまりも無いわよねぇ……)
それは、ナチュルスターへ向けた残虐な笑みと、ヨリコへ向けた優しい笑み。
その二つが混ざり合った、非常に複雑な笑顔だった。
サヤ「行きましょ、ペラちゃん」
『キリキリキリ』
サヤ「オリハルコン、セパレイション」
ペラの体がいくつかのパーツに分解され、サヤの体に張り付いていく。
サヤ「アビスティング、ウェイクアップ。……さあ、覚悟してちょうだいねぇ……」
巴「地よっ! 力を貸せぇ!」
乃々「波よっ! 力を貸して!」
ナチュルスターの生み出した地割れと波が、イワッシャーを飲み込んでいく。
「シャー!?」「ワシャー!?」「ワイシャー!?」
巴「今ので全部じゃな。意外とあっけなかったのう」
乃々「うぅ……終わったなら早く帰りたいんですけど……」
手をパンパンと払う巴と、突っ立ったままだるーっとうなだれる乃々。
すっかり油断しきった二人の背後に、ふっと影が舞い降りた。
サヤ「べノムエストック……メロメロモードォ!」
声と共に、鋭いエストックが乃々へ向けて突き出された。
巴「っ!?」
乃々「ひぃっ!?」
慌てて回避するが、運悪く右肩を掠めてしまった。
乃々「っ痛……!」
巴「乃々、平気か!? ……ワレェ、何モンじゃ!」
いきなり仲間を傷つけた人物へ向けて、巴はキッと眼光を飛ばす。
サヤ「サヤの事よりもぉ、お友達の心配したらどぉ?」
サヤはそう言って、エストックを指揮棒の様に構えクイと振る。
巴「何を……うぐぅっ!?」
突然、巴の背中に鈍い衝撃が走った。
乃々「え……えっ、えぇっ……!?」
乃々の動揺する声に振り向いた巴は、眼前の光景に乃々以上に動揺した。
巴「の、乃々……!? 一体何を……!?」
乃々は、巴へ向けて右拳を突き出した体勢のまま止まっていた。
乃々「し、知りません……! も、もりくぼは殴ろうなんて思ってないんですけど……!」
サヤ「うふふふふ……」
巴「おい! 乃々に何した! 言わんか!!」
巴はサヤへ向けて激昂する。
しかし、サヤは余裕を崩さない。
サヤ「口で言うより、実際に見たほうが速いわよぉ?」
そう言って、サヤは再びエストックを構え、口を開いた。
サヤ『アナタはもう……サヤのと・り・こ……♪』
乃々「!!』
サヤの言葉を聴いた乃々の体が、大きくビクン、と脈打った。
巴「乃々!?」
乃々『…………』
ゆっくりと顔を上げる乃々。
その瞳には、ピンク色の光が妖しく揺らいでいた。
巴「の、乃々……?」
乃々『……』
サヤ「乃々ちゃんって言うのねぇ、んふっ。……乃ー々ちゃん。その子、倒しちゃって」
乃々『……やれっていうならやりますけど……水よ』
乃々の両手から放たれた水流が、巴をビルの壁面へ叩きつけた。
巴「ぐぁっ……!? の、乃々! 何しとる、目を覚ませ!!」
乃々『……水よ』
今度は水を弾丸状にまとめて巴へ向けて連射する。
巴「ぐっ、うぅぅ……地よっ! 力を貸せぇ!!」
地面がせり上がって壁を作り、乃々の弾を防いだ。
乃々『水よ。水よ。水よ。水よ。水よ』
しかし、その壁も絶え間ない水弾で少しずつ削られていく。
そして壁は完全に崩れ去り、いくつもの水弾が巴に襲い掛かる。
巴「ぐあああっ……!」
サヤ「乃々ちゃん、その辺でいいわよぉ」
乃々『はい』
サヤの指示で、乃々が攻撃の手を止める。
巴「……返せ……乃々を……返せ……!!」
口元から血を垂らし、なおも巴は立ち上がる。
サヤ「んー、殺すつもりは無いけどぉ……」
言いながらサヤはエストックの柄をカチリと回し、その先を巴に向けた。
サヤ「邪魔されるのは……困るのよねぇ」
こつ、こつ……と、一歩一歩巴に近寄る。そして、
サヤ「べノムエストック、ビリビリモード」
エストックの先端が、巴の脇腹に突き刺さる。
同時に、そこから何かが体内に流れ込んでくる感覚が走った。
巴「うぐっ……! こ、これしきでウチがひるむと…………ッ!?」
一歩踏み出そうとした巴は、そのまま地面に倒れこんでしまった。
巴(か、体が動かん……!? 口も……!)
サヤ「よぉくキクでしょ、サヤの麻痺毒。少なくとも一時間はそのままよぉ」
巴(麻痺毒じゃと!? コイツ、さっきから搦め手ばっかりで……気に食わん……!)
サヤ「じゃ、お邪魔もいないことだし、早速始めましょうか、乃々ちゃん」
乃々『はい』
サヤの指示に従い、乃々は両手を大きく天に掲げた。
サヤ「まずはこの街から……沈めちゃって」
巴(や、やめろぉっ!!)
乃々『……波よ』
??「雷よ! 力を貸して!!」
突然、乃々へ向かって青白い閃光が走った。
乃々『あっ……』
閃光が直撃した乃々は、その場にパタリと倒れこんでしまった。
巴(今の声は……)
サヤ「これは…………誰!?」
サヤは、閃光が走ってきた方向をにらみつける。
そこに立っていたのは、二人の少女と一人の女性。
少女の一人は、乃々や巴と同じような服装をしている。
ほたる「あ、あの、イヴさん……乃々ちゃん、大丈夫なんでしょうか……?」
イヴ「大丈夫ですよ~、気を失っただけですから~」
裕美「巴ちゃん、大丈夫!?」
二人の仲間、ナチュルスカイ=白菊ほたると、その協力者、イヴ・サンタクロースと関裕美だった。
サヤ「何なのよ……アンタ達」
イヴ「ほたるちゃん、裕美ちゃん、二人をお願いしますね~」
サヤの問いには答えず、イヴは二人に指示を出した。
裕美「は、はい!」
ほたる「分かりました!」
二人は巴と乃々へ向けて駆け出した。
サヤ「行かせないわよ!」
乃々へ駆け寄るほたるへ、サヤがエストックを突き出す。
ほたる「!!」
イヴ「氷よ! 寄り集まりて塊になれぇ~♪ そぉれっ」
イヴは魔法で氷塊を生み出し、それを箒でこちらへ打ち込んで来た。
サヤ「! 邪魔を……!」
サヤはエストックで氷塊を切り払い、そのままイヴへ突進する。
サヤ「このっ! このっ! このぉっ!!」
イヴ「闇雲に攻撃しても当たりませんよ~? はいっ」
サヤの攻撃を全て容易く避け、イヴは持っていた箒をサヤの脇腹へ叩き込んだ。
サヤ「ぅぐっ……!?」
ミシッ、という音が、骨を伝ってサヤの耳に届く。
慌ててイヴと距離をとるサヤ。
サヤ(まずい……この女、間違いなくサヤより遥かに格上。……いいえ、そんな生易しい物じゃない……
住む次元が違いすぎる……! あの短時間で、それをまざまざと見せ付けられた……)
気付けば、サヤの両脚は恐怖でガタガタと震えている。
イヴ「降参しますか~?」
サヤ(まともにやれば、命は無い……あの女にかかれば、サヤを殺すのに一分も要らないでしょう……)
エストックを握る手にも力が入らない。
どうする? 相手の言うとおり、ここで降参するか?
しかし、サヤの脳裏に、一人の少女の笑顔が浮かんだ。
サヤ(……ふふっ、何をバカな事を考えているの、サヤ? そもそもこの出撃は、ヨリコを守るためのもの……)
脚の震えが止まる。
サヤ(その為に、どうしてもナチュルマリンが必要……)
エストックを力強く握りなおす。
サヤ(その障害は、例え化け物級の相手でも……)
にぃ、と笑顔が戻る。
サヤ(叩き潰す!!)
直後、サヤは爆発的な加速でイヴに突進した。
サヤ「はあああああああっ!!」
イヴ「あっ」
一瞬、反応が遅れた。
気付いた時には、イブの左肩をサヤのエストックが貫通していた。
イヴ「……!」
裕美「い、イヴさん!」
サヤ(よし、勝った!後は引き抜き様に麻痺毒を注入して……)
ガッ
サヤ「……えっ?」
エストックが引き抜けない。
よく見ると、肩に刺さったエストックをイヴが掴んで固定している。
イヴ「ちょーっとだけ、油断しちゃいました~。信じられない加速でしたね~。何がそうさせたのかは、
私には分かりませんけど」
サヤ「……ッ!!」
まずい。
早くエストックを引き抜かないと、何をされるか分からない。
サヤ(抜けろ……抜けてっ……!)
イヴ「大事な弟子を傷つけられて、私、今日は珍しく怒ってるんですよ~」
口調はともかく、イヴの目は一切笑っていなかった。
イヴ「だから、お仕置きですよ~……」
サヤ「や、やめっ……」
イヴ「付与。雷の加護よ」
イヴの手から雷が迸り、それはエストックを伝ってサヤの体中を駆け巡った。
サヤ「あっ……あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!?!?」
突然激しい電流に襲われ、サヤは思わず体をのけぞらせる。
熱さと痛さが交互に延々と襲ってくる、そんな感覚だった。
雷がサヤの体を蹂躙した時間はせいぜい五秒程度だったが、サヤには一時間以上の様に感じられた。
イヴ「……よっと」
イヴは肩からエストックをゆっくり抜くと、サヤをその場にペタリと座らせた。
サヤ「あ……ああ……」
『キ、キリリ……』
限界が来たのか、ペラがサヤの体から離れ、同様に地面にへたりこむ。
裕美「イヴさん! 肩大丈夫ですか!?」
心配そうに駆け寄る裕美。背には巴をおぶっている。
イヴ「大丈夫ですよ~。何日かゆっくり寝ればなんとかなりますから~」
まだ血が流れ出る肩を右手で抑えながら、イヴは裕美に笑顔で答えた。
ほたる「あの……その人は……?」
乃々を背負ったほたるも会話に加わる。
イヴ「今からお話を聞くところですよ~。……あなた、お名前と所属と目的を教えてくれませんか~?」
サヤ「…………ふん」
答える気は無い。そう答える代わりに態度で示して見せた。
イヴ「そうですか~。……それじゃあ~」
そう言ってイヴは抑えられた左腕で起用に箒を構えた。
サヤ(……死んだ、わねぇ。ごめんなさいヨリコ、カイを連れ戻す事も、あなたを守ることも出来なかった…………ッ!)
死を覚悟したサヤにこのとき、一つの案が浮かんだ。
一か八かの賭けだが、いずれヨリコを巫女から救うには、今はこれしかない。
サヤ「……海底都市、ウェンディ族。最高指導者海皇ヨリコが親衛隊第四席、サヤ」
イヴ「あら?」
サヤ「目的は、『神の洪水計画』の補佐・予備として、ナチュルマリンを捕獲する事」
サヤは自分の所属、名前、目的を全て話した。
ほたる「神の……洪水計画?」
裕美「それって、何なの……?」
サヤ「有り体に言ってしまえば、ウェンディ族が住めるよう、地上を海に沈める計画よ」
ほたる・裕美「「ッ!?」」
そして、『神の洪水計画』の概要までも。
イヴ「そんな大事な事を……何故急にペラペラ話し始めたんですか~?」
サヤ「……他のヒーローに伝えて。そして、計画を止めて」
自室で考え、すぐに却下した『神の洪水計画を阻止してヨリコを守る』案。
これを自分ではなく、地上のヒーローにやらせよう、というのがサヤの策だった。
敵の言うことを素直に信じるのは難しいだろう、しかし、作戦の規模は決して無視できるものではないはず。
イヴ「自分たちの計画を、何故止めさせたいんですか~?」
サヤ「……うふふっ、あなた達には関係無いでしょお?」
余力を振り絞り相手を嘲笑したサヤは、突如現われた水柱の中へ倒れこむように姿を消した。
裕美「神の洪水計画……そんな物が……」
見れば、裕美の体は細かく震えている。
ほたる「あ、あの、それよりも……事務所に戻りましょう。乃々ちゃん達が……」
乃々は意識こそ失っているが大きな外傷は無い。せいぜい右肩にエストックが掠った傷がある程度だ。
しかし、巴は水弾でやられたのか口から地を垂らし、麻痺毒の影響で体がまだ痙攣している。
巴「ぅ……くっ……」
イヴ「そうですね~。二人を看病するために、急いで事務所に戻りましょ~」
裕美「って、イヴさんもですからね! まだ血が止まってないじゃないですか! ……ああっ! 地面も直さないと……」
続く
・イベント追加情報
サヤがほたる達に『神の洪水計画』の概要を打ち明けました。
以下の負傷者が出ました。
○乃々……洗脳による精神疲弊で約一日安静。
○巴………戦闘による傷及び麻痺毒の治療で約三日安静。
○イヴ……左肩貫通の大怪我で「最低」三日安静。
○サヤ……骨へのヒビ、高圧電流により海底都市特別医療施設で「最低」六日安静。
以上です
新スレ一発目からえぐいの失礼しました
ナチュルスター、イヴ、裕美、(以下名前だけ)光、夕美、美優、春菜、美穂、あやめ、拓海、菜々をお借りしました。
新スレ乙乙!
さて、連絡回を投下。
「…ど、どうしよう…」
状況で言えば大分宜しくない…。
私は事務所のソファーに深く腰掛けたまま考え込んでいた。
今回の戦闘による被害はかなり大きい。
乃々ちゃんは巴ちゃんを攻撃してしまったことによるメンタル面。
巴ちゃんは単純な傷となによりなにかしらの毒で動けないみたい…。
そして師匠だ、傷自体が大きくて暫く動けそうにない。
それだけダメージが深いのは間違いない…。
ソファーが少し揺れたのに気づく。いつの間にか隣にほたるちゃんが座っていた。
「ほたるちゃん、お疲れ様、三人の様子はどう?」
「あの…乃々ちゃんなんですけど起き上がって…巴ちゃんとイヴさんに海の癒やしを…」
「巴ちゃんは傷自体は大丈夫なんですけど痺れが取れなくて…
イヴさんは傷痕は残らないみたいですけど暫くは動けそうにないです…」
「そっか、でも乃々ちゃんに無理しないように言っておかなきゃ…」
「そうですね、雪菜さんも見てくれてますから大丈夫だとは思うんですけど…」
乃々ちゃん自身の疲労もあるし、イヴさんに至っては念に念を入れて休んで貰わなきゃ…。
「それにしても、『神の洪水計画』かぁ…」
「…どうしましょう…?」
「うん、とりあえず『アイドルヒーロー同盟』、『プロダクション』に連絡かなぁ…
後は『アイドルヒーロー同盟』の方から情報が広まれば大丈夫…かな?」
これだけでかなりの数のヒーローに連絡が行き渡ることになる。
あまりにも規模が大きすぎる。
どちらにせよ私たちだけでは対処出来ない。
避けなくちゃいけないのはナチュルマリン、乃々ちゃんを奪われること。
親衛隊第四席サヤと彼女は言っていた。
イヴさんの反撃で彼女自体は暫く動けなくなっているだろうが、他のメンバーが動くかもしれない。
「今はイヴさんが動けないから私が頑張らなくちゃ…」
乃々ちゃんの治療があっても傷が完全に塞がるのに二、三日で済むとは思えない。
それだけの傷だし…その間は私がしっかりしなきゃ…!
「あの…私もお手伝いします…!」
「ありがとう、ほたるちゃん…」
三人のお世話で雪菜さんは動けないし…。
「それじゃ、先に連絡だけしなきゃ…」
私がそう言って立ち上がった時だった。
『裕美、居る?』
ドア越しの少しくぐもった声が聞こえたのは。
―
「『神の洪水計画』かぁ…」
目の前の人、私のボールペン型杖の製作者、リンさんは顎に手を当てて考えこむ。
「申し訳ないけど私に心あたりはないかな?
そもそも今日は魔法のビー玉を貰いに来たのとお土産を渡しに来ただけだしね」
「お土産?」
「うん、これこれ…」
リンさんはポケットの中から装飾の一切無い銀色の指輪を取り出し、机の上に置く。
「これ、貰っていいの?」
「まぁ、ビー玉と引き換えだと思って遠慮なく貰ってくれると嬉しいかな?」
「ありがとう!わぁ、チェーン通してネックレスにしてみようかなこれ…」
「裕美はそういうの好きだよね」
「あはは…趣味だから……」
「杖の方も特に異常はないでしょ?」
「うん、無いかな?」
「それにしても、神の洪水とやらに私の研究が呑まれるのも勘弁して欲しいかな…
仕方ない…バックアップをウサミミの所に……」
「ウサミミ?」
「あ、ごめん、こっちの話、まぁ頑張ってね。私はまぁ…手伝ってくれそうな人見つけたら
情報流すくらいだけどね、地上にある研究が流されたら困るし」
「…それだけでも大分助かるかな…?」
「さて、私はそろそろ帰るよ」
ヒョイとビー玉の補充された巾着を掴んでリンさんはドアに向かって歩いていく。
「イヴさんに宜しくね」
そう言い残してリンさんは帰っていった。
END
イベント情報
・『アイドルヒーロー同盟』『プロダクション』へ裕美が情報を流しました。
・リンが協力してくれそうな人には情報を流すようです。
・イヴさんは傷が深いので暫く動けません。
『錬金術師の指輪(魔力)』
着用者の長所とも呼べる力を伸ばしてくれる不思議な指輪。
現在の治癒状況
乃々:二人の治療後、休息中。メンタルに不安が残る。
巴:傷は塞がったが毒が抜けきっていない。
イヴ:乃々の治療によって傷は深いが多分後遺症は残らない。雪菜と裕美の監視によって過度なくらい休まされる。
現状
裕美『師匠が休んでる間は私が頑張るよ!』
雪菜『皆さん、休まないと駄目ですよ?』
ほたる『乃々ちゃんが気に病まなければいいんですけど…』
以上です。
他陣営はリンちゃんからガシガシ情報拾っていくのもアリだと思う。うん。
『憤怒の街』裏
ナチュルスター防衛戦線、最終章前編投下します
ここまでのあらすじ
『憤怒の街』は怒りに沈み、呪いの連鎖を生みつつあった。それをナチュルスターが癒しの雨を降らし瘴気を打ち消していく。
(4スレ目21-25)モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part4 - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1373/13735/1373517140.html#a21)
しかし、怒りは怒りを生み続ける。雨を止めさせるわけにはいかないナチュルスターは半ば装置と化し、雨を降らすことに集中した。
意識すら手放し無防備なナチュルスターを襲うことで雨を止めさせようとするカースの群れが迫る!
そこへ駆けつけたのは機械生命体OZを足に宿す西園寺琴歌だった。
彼女たちを守るため、柊志乃が仲間を呼んでいたのだ。
(5スレ目150-157)モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part5 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html#a150)
次々に駆けつけるヒーローたち。守るための戦いは続くが、カースは無限に湧き続けていた。
※魔法少女(5スレ目166-172)モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part5 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html#a166)
※ネバーディスペア(5スレ目360-368)モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part5 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html#a360)
だが、ついにカースを生み出していた元は発見され、破壊される!
(5スレ目340-351)モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part5 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html#a340)
ところが、そこへ『嫉妬の蛇龍』と呼ばれる生物が現れ再び窮地に立たされる。
それを阻止したのは邪神と共にある少女、榊原里美だった。
(6スレ目306-320) モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part 6 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/306-320)
一方、憤怒の街では『憤怒の翼竜』と呼ばれる巨大な龍型のカースが暴れまわっていた。
(4スレ目327-331他)モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part4 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1373/13735/1373517140.html#a331)
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part5 - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html#a63) など
多数のヒーローが戦い、ついに魔法使い関裕美が倒すことに成功する!
(5スレ目300-307)モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part5 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1374/13748/1374845516.html#a300)
しかし、完全に消滅していなかった翼竜は復讐の怒りを胸にまた飛び立たんとしていた。
弱った翼竜を完全に消滅させたのはヒーローではなく、『嫉妬の蛇龍』と、七つの大罪『嫉妬』を司るレヴィアタンの策略だった。
(6スレ目195-207) モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part 6 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/306-320)
『絶望』の翼蛇龍と名付けられたソレを倒そうとするヒーローも現れる中
『憤怒の街』の中心人物である憤怒のカースドヒューマン岡崎泰葉の友人、双葉杏はその裏に秘められた意味を聞いてしまう。
(6スレ目214-223) モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part 6 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/214-223)
友人を助けるために街の外へと追いやり倒すため、利用できるものは利用すると決めて杏は翼蛇龍を街郊外へと追いやることへ成功した。
(6スレ目328-336) モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part 6 - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376708094/328-336)
→ここから
ナチュルスターへと狙いをさだめた嫉妬の蛇龍が際限なく地面から湧き出る。
それを叩き、撃ちぬき、潰し、切り裂き、倒す。この状況になってから、戦いは激化し続けていた。
琴歌「たあっ!」
奈緒「無理すんな……よっ!」
琴歌「えぇ、ありがとうございます!」
美優「まだまだ……!」
形を変えて攻撃を避け、ズルズルと這い回る蛇龍を琴歌が追いかけ蹴り上げる。
周りの空気ごと巻き込み、空へ浮かんだところを奈緒が切り裂き美優が矢を撃ちこんだ。
一進一退が続いている中、確実にお互いの動きを支え合い即興とは思えないほどのコンビネーションを結ぶヒーローたち。
疲労は溜まり、動きは鈍る。それでもすこしずつ、確実に蛇龍を押していた。
店長「しかし本当……年は取りたくないな。こういう時は流石にキツい……!」
里美「がんばってください~。きっと、もうちょっとでどうにかなりますから~」
夏樹「ははっ、頼もしいね……ったく。メンテ明けでまだ助かったほうか」
軽口を叩きながらも、手を休めることはなくそれぞれが動く。
里美はこのあたりに先に来ているらしいの友人がいるのを感覚で知り、そう周りを励ます。
こちらに手が回っているということは、きっと本体の守りはおろそかになっているだろう、と。
……そこまで考えているかを察することはできないが、いつもの調子でゆらり、ふわりと躱し、水の槍たちで蛇龍を撃ち続ける。
――かといって、あながちのんきなだけの発言とも言えないというのはその場の誰もが感じていた。
蛇龍は数を減らし、湧き出る速度も遅くなっている。もはや全滅しつつあるのではないかと思わせるほどに余裕がでてきている。
李衣菜「……楽になってきたのはいいけど、なんか変じゃない?」
だがそれに対して疑問の声が上がる。
空気はまだ澱み、嫌な気配は消えていない。この場から遠ざかっているようではあるが、倒せたわけではない。
――死の臭いは消えていない。
レナ「そうね。なんだか……ここじゃないところに意識が向いているような……」
きらり「にょ……? なんかむずむずすぅ……」
里美「……くとさん? あっちのほうでなにか……」
ふ、と。きらりが遠くの方へと違和感を覚え視線をやった。
里美も肩に乗るくとさんの動きが妙なことに気が付き動きを止める。
奈緒「おい、あぶな………は? どういうことだ、これ」
そんな無防備な2人を庇おうと近くに降りた奈緒は唖然とした。
次々に襲い掛かり続けていたはずの蛇龍が一斉に止まったかと思うと地面へと溶け、消えていくのだ。
恨みがましく、嫉妬をこめての視線だけを残していく蛇龍たち。地面からの奇襲を考え構えるも、いっこうにその気配はない。
一旦の平穏を得て、ナチュルスター防衛戦は勝利で幕を閉じた。
琴歌「えっと……終わったのでしょうか?」
夏樹「なんか消化不良な感じだな……周りからは完全にいなくなってるみたいだ」
奈緒「ってことは……あいつらの本体を誰かが倒してくれたってことか? あー、よかった……」
夏樹がユニットで周囲の確認をするが、一切反応はない。
あれだけの力を持つ分身をいくつも生み出せるということは、本体もそう離れた場所にいたわけではないだろう、と彼女は推理する。
狡猾な蛇は弱点になる本体をこの場へ晒すことはとうとうなかったが、おそらく街の中へいたのだろうと考えた。
――ひょっとしたら、この戦線の打破を諦めそそくさと逃げ出しただけかもしれない。
その場合はまたいつかどこかでカチあう可能性もあるが、それはそれだ。
どうあれ、彼女たちは勝利を確信した。
李衣菜「うーん……どうも納得いかないけど、そうなのかな。逃げてたりとかしたらイヤだね」
レナ「それなら、次はできればもう少し余裕がある時にしてくれると助かるわね。ろくな歓迎もできないわ」
美優「一応、そのあたりについては注意を呼び掛けておいた方がいいかもしれませんね……」
夏樹「あっ、それは助かる。アタシ達だとたぶんいろいろとアレだからできれば頼んでいいかな?」
倒せていない可能性については、付近のGDFやアイドルヒーロー同盟のメンバーに呼びかければ注意してもらえるはずだ。
何度も湧き出す分身体は厄介だ。きちんと連携して本体を叩き、倒さないといけないといけないということを周知しておけばヒーローたちも戦いやすくなるはずだと美優はいう。
なるほどと納得し、その件を任せることにした夏樹は少し外れたところで立ち尽くすきらりと里美、そのそばに座り込んだ店長のほうが気になりそちらへ視界を移した。
店長「ふぅ……よかった。まだ何か現れるかもしれないし気は抜けないが……どうしたんだ?」
きらり「んー……あのね……なんだかとってもモヤモヤーってすぅの……ドキドキじゃなくて、ぞわぞわーって……」
里美「よくないものが……生まれそうかもしれないです~」
店長「よくないもの?」
里美のつぶやきに店長が疑問符を浮かべる。
きらりは自身の中にある感覚をうまく言語化できないようで、じだんだを踏んで唸っていた。
里美「どういうものかはわからないけれど、よくないものだっていうのはわかるんです~」
きらり「そうなの! あのね、すごく……むむむーってすぅ……」
店長「……よくわからないけれど、気は抜かないほうがいいってことか。2人ともありがとう」
どうあれ、必死で伝えようとする姿勢から冗談ではないということを店長も察する。
ならばもうひと踏ん張りする必要があるだろうと、座り込んでしまった身体を起き上がらせた。
――その時。ゴゥン、と。遠くから、何かが崩れ砕ける音が全員の耳に届く。
これまでも街のほうからは破砕音は確かに何度も響いてきていたが、それとは比べ物にならないような大きな音。
まるで絶望の鐘の音のような、低く恐ろしい音。思わずそちらへと全員の視線が向く。
琴歌「今のは……なんでしょう……?」
レナ「……あまりいい予感はしないわね。街に突入ってわけにもいかないけど大丈夫かしら」
奈緒「とりあえず、中のことはそっちのヒーローを信じるしかないだろ。あたし達はいけないし」
虎の姿から普段の人間へと身体を戻した奈緒が呟く。
奈緒はともかく、きらりは汚染されきった瘴気に長く触れれば身体へ異常をきたしかねない。
精密機械が働かなくなっている街の中では李衣菜と夏樹は正常に動作できそうにもない。
それがわかっているからこそ、外部での遊撃手をしていたのだ。
友人も戦っているのを知っていたから、彼女たちは信じてサポートとして動いていられる。
あとのことはそちらへ任せるべきだと、自分を納得させるためにも奈緒は状況を整理した。
美優「そうですね……うん。また現れないとは限らないですから」
夏樹「そうだね。アタシたちなりに――っ!」
言葉の途中で夏樹が振り返る。
響く轟音と、尋常ではない気配に他のメンバーもそちらへ目をやった。
そこに浮かんでいたのは巨大な蛇龍。先ほどまで相手をしていたのとはくらべものにならないスケールで、こちらへ向かってきている。
先ほどまでと違うのはその大きさだけではない。背中にはGDFの射撃兵器で羽ばたきを殺され堕ちた巨大な翼竜の羽によく似た翼を生やし『飛んで』いた。
奈緒「フラグ回収には早いんじゃねぇかな、ったく……!」
里美「ほぇぇ……大きいです~……」
レナ「一難去ってまた一難ね……少しだけでも休憩できただけマシかしら?」
口々に気合いを入れなおして迎撃態勢をそれぞれがとるが、どうも動きがおかしい。
翼の生えた蛇龍――翼蛇龍は、ナチュルスターを襲撃するためというよりもなにかから逃げているような動きで、まるでこちらに追い立てられているように見えた。
李衣菜「あれは……どうあれ、覚悟決めたほうがよさそうだね」
店長「鬼が出るか蛇が出るか……もう蛇は来てるんだ。鬼まで湧くのは勘弁してほしいな」
あれほどの巨大な怪物を追い立てるほどの力を持ったものが追撃してくるのならばかなり厄介なことになるだろうと誰もが感じている。
わざとこちらに追いやるからには、ナチュルスターへの妨害を含めた悪意あるものである可能性が高いということにも気付いている。
だから、彼女たちは構えた。巨大な敵と、その先に現れるはずさらに強大な敵に対して。
――その時、なにかから逃げるように飛んでいたはずの翼蛇龍がその動きを変えた。
すぐ後ろにいた自分を追い立てていたものに対して、恨みを晴らさんとするがごとく反転し、牙を剥く。
「何かしらの悪意を持ったものがナチュルスターを倒すため、巨大な蛇翼竜を誘導している」と考えて待ち構えていた者たちは戸惑った。
振り向こうとした翼蛇龍は巨大な水流に押し流されて地面にたたきつけられ、唸り声をあげている。
状況を把握しようと視界ユニットを操作し、翼蛇龍の向こうを確認した夏樹はさらに想定外のものを見て驚きの声をあげる。
夏樹「ちょっと待ってくれ、あれは……人?」
奈緒「人って……どうことだよ。っていうかそいつは敵じゃないのか?」
夏樹「……確認してくる。待っててくれ!」
そういうと夏樹は『穴』を生み出し、飛び込んだ。
カースドヒューマンである可能性等もないわけではなかったが、追い立てるのに使っていたのは少なくとも泥ではない。
翼蛇龍に狙われかけたことから命令権のあるわけでもなく、恐ろしい相手ではないと判断したからだ。
とはいえ――
夏樹「……は?」
ぷちユズ「みー……」
裕美「ぷちユズちゃん、ありがとう……でも、もう魔力が……って、えっ!?」
消えかけている謎の小動物と、弱音を吐いている明らかに『人間』の少女。
『変身』も『武装』も、莫大なエネルギーを纏っているわけでもない。そんな想定外を目の前にして夏樹は言葉を失ってしまったが。
夏樹「アンタがアイツを誘導してたのか……? どうしてそんなことしたんだ?」
裕美「えっと、それは……」
夏樹はネバーディスペアのメンバーとして、イレギュラーな戦いを幾度となく経験してきている。
カースはもちろん、犯罪を行った『怪人』であったり凶悪な『魔術師』などを見たことも当然ある。
だが目の前の少女にその雰囲気はない。あまりにも無力に見えたのだ。
――悪意を持って翼蛇龍を街の外へと誘導する理由など、明らかにない。
その件について問うてみれば、言いづらそうに背中を見た。
小柄な少女がしがみついていた手をだるそうに外し、夏樹に向き合う。
ただそれだけのことでも面倒だ、と言わんばかりに眠そうな目をこすって夏樹へと言葉を投げ始めた。
杏「私がそうしろって言ったんだ。あいつを街の外へ追い出してってね」
夏樹「そうかい。じゃあ、なんでだ? こっちとしては寄ってこられるとまずいんだけど」
杏「そっちの事情は知らない。でもヒーローが集まってそうだったし、実際そうでしょ?」
あっけらかんと悪びれもせず言いのける姿に夏樹の語調も強まる。
それでも杏は調子を変えずに言葉を続けていく。背負った状態で話を続けられる裕美は若干うろたえている。
夏樹「あのなぁ、こっちは人の命がかかってるんだ! あの街全体に対する浄化の雨の要になってるやつがいるんだぞ!?」
杏「浄化……そっか、ごめん。でもあいつは街の中で倒すわけにはいかなかったんだ。わかってほしい」
夏樹「倒すわけにはいかなかった? それって―― チッ、来るか!」
意外にもあっさりと謝罪をする杏に夏樹もひるむ。こちらも悪意があるようには見えず、事態の把握もできていない。
街の中で倒すわけにはいかないという言葉には、何か一種の祈りすら込められているようにさえ感じられて責める言葉を継ぐことはできなかった。
そこで一旦話は打ち切られ、体勢を崩していた翼蛇龍が再び浮き上がって杏と裕美をにらみつける。
魔力の切れた裕美はほとんど打つ手はなく、だが心は折れず戦いの意思を持って目はそらさない。
夏樹はこの二人が敵ではないとその場で判断し、その体を掴んで穴へと潜った。
裕美「きゃっ!?」
夏樹「舌噛むぞ、捕まってろ!」
穴を生み出し、飛び込む。決して視界から完全に消えず、なおかつ追撃が来ても避けられる位置へと転移する。
その動きを繰り返し、翼蛇龍をナチュルスターから引きはがしつつ夏樹は叫んだ。
夏樹「――ってことらしい、どう思う! あんまり話し込まれるとヤバいから早めに頼む!」
裕美「え、あの……」
突然のことに裕美が驚き、何をしようとしているのか聞く前に夏樹の顔のそばにある穴から声が響く。
奈緒『――どっちにしろ、倒すしかないだろ! 誘導任せた!』
夏樹「了解! ――ってことらしいからアイツの気をひきながら撤退する。結構荒っぽいから気を付けてくれ……よっ!」
裕美「わ、わわっ……!? わ、わかった、けどっ……!」
翼蛇龍の攻撃を避け、誘導し、次の転移先を決め、穴をあける。
抱えている2人分の重量も相まりかなりの負荷がかかっているが夏樹はそれを微塵も感じさせない動きで撤退していく。
ナチュルスターが癒しの雨を降らすために意識を失い、半ばオブジェと化している地点から離れるように。
すこしずつ、不自然にならない程度に距離を調節しつつ逃げていく。
翼蛇龍は恐ろしい唸り声をあげつつ夏樹を追い詰める。
捕らえたと思えば消え、次の場所へと転移する獲物を仕留めようと執拗に、執念深く。
その距離は徐々に縮まっていく。
――10メートル――5メートル。
――目の前――そう、次で確実に――
――捕らえた。確実に口内へと獲物を包んだと確信した翼蛇龍がすりつぶし、味わうため口を閉じようとしたその時。
高らかな祈りを込めた声が響く。
『聖なる絆よ、悪を清める力となれ! エンジェル・ハウリング!』
『――ハウリング・アロー!』
確かに獲物を捕らえ、飲み込むだけだったはずの無防備な口内へと巨大な光の矢が吸い込まれる。
逃げ出す余力もないはずだった獲物――夏樹はケガひとつなく別の場所へと転移していた。
飲み込んだ矢の威力に首の後ろへと風穴が開き、たたらを踏んで後ずさりをする。
周囲を見れば、そこへは何人もの人間が立っていた。翼蛇龍を倒すべく、夏樹が誘導した箇所で迎撃準備をしていたヒーローたちだ。
翼蛇龍は状況を理解できない。だが、喉の奥まで貫かれたダメージに混乱するのではなく――
翼蛇龍「――オオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!」
『憤怒』を露わにし、新しく増えた獲物たちを喰らうべくその瞳を向けた。
レナ「一撃じゃ倒せないかも、とは思ってたけど……硬すぎない?」
美優「エンジェルハウリングでも……やはり、核にあたる繭を探さないと……」
信じられないものを見たような表情で二人が呟く。
間違いなく必殺の一撃だ。並の怪物ならば丸ごと消滅させて余りあるほどのエネルギー。
それを喰らったうえで、ひるむことなく吠えた翼蛇龍の強さに覚悟を改める。
奈緒「どっちにしろやるしかないんだ! 削ってくぞ!」
里美「水場も近いですし、がんばりますよ~!」
気合いをこめなおしたメンバーが次々に飛びかかり、注意をそらしていく。
踏みつけるためにあげた足をすくい、吐き出すカースの弾を砕き、少しずつでもダメージを蓄積させようと戦っている。
その中で夏樹は邪魔にならないようにもう一度転移をして戦闘に巻き込まれない位置へと移動する。
ギリギリで避け、ここまで誘導してきたせいもあり、疲労困憊といった様子でこれ以上の連続戦闘は流石に無理そうだ。
もはや意識を失いかけているような状態で、待っていた李衣菜の腕の中へと倒れこんだ。
李衣菜「なつきち、大丈夫?」
夏樹「……あぁ、大丈夫。……だけどごめん、ちょっとだけ、休憩させてくれ……」
裕美「ありがとう、ございます……えっと」
想像以上に疲弊させてしまったことに驚き、裕美が気まずそうに声をかける。
マスクをつけた成人男性がその様子に気づき答えた。
店長「あぁ。君たちは大丈夫か? ……確かにでかいな。アイツを倒すのは骨が折れそうだ」
裕美「え? あぁ、はい……その、確かに倒したはずだったのに、私……とどめを確認しなかったから……」
裕美が気まずそうに呟く。憤怒の翼竜は確かに裕美の決死の攻撃とで撃破された『はず』だったのだ。
嫉妬深い蛇龍が、その力を飲み込み翼蛇龍へと生まれ変わってしまったのはいくつも不運が重なったせいである。
翼竜がタフであったことと、蛇龍が本能でより強いものを飲み込み、強化されること。
条件が重なってしまったからこそ翼竜は生き残り、蛇龍はそれを喰らって翼蛇龍となった。
その『絶望』は、目の前で猛威を振るっている。
店長「とどめ……ってことは君も戦えるのか? すごいな……」
裕美「えっと、魔法が少し……でももう、魔力がなくて……」
裕美がうつむく。責任感と、戦う力がもう残っていない絶望に歯噛みする。
強く握りしめられた拳には、戦う意思が残っていることをうかがわせた。
店長はどう声をかけるか悩んで、そして――
杏「――その件はいいよ。むしろあいつが街の中で倒れなかったのはラッキーなのかもしれないんだ」
もう一人の乱入者がその沈黙を破った。
李衣菜「……ラッキーってどういう意味? さっきのは聞こえてたけど、倒すわけにはいかなかった理由は聞かせてもらえるよね」
杏「言う意味がない。でも嘘はついてないよ……そんなことよりアイツをどう倒すか考えたほうがいいんじゃない?」
李衣菜「意味がないってなに? 倒せなかった理由がわからないんじゃ、ここで倒していい理由もわからないよ」
李衣菜がひどく冷たい目で杏を見つめ、言葉を放つ。
今の彼女はとても冷静で、状況を把握することに努めているため声のトーンも低い。
威圧するような調子のその言葉に、しかしひるむことなく杏は応えた。
杏「……信じて欲しい。アイツを街の中で倒すとまずいことが起きるっていうのは間違いないんだ」
李衣菜「悪いけど、そんな――」
きらり「ふぎゅっ! いったーい……」
険悪なムードにどう言葉を挟むか困っていた店長を踏みつけるように、翼蛇龍の攻撃で吹き飛ばされたきらりが2人の間へ転がり込む。
思わず言葉は止まり、きらりのことを李衣菜が心配しだした。
李衣菜「だ、大丈夫?」
きらり「うん! まだまだだいじょーぶっ!」
きらりは即座に跳ね起きると、再び翼蛇龍へと向かおうとし――
きらり「……にょ? どうしたの?」
途中で足を止め、杏に向き合った。
杏「……それ、私に聞いてるの?」
きらり「うん、なんだかすごーくこまってゆーって感じがすぅの……」
不思議なほど穏やかなトーンで言葉を続ける。
真実だけを見抜く瞳。きらきらと輝くその目はこんな状況でも光をたたえている。
場違いなその雰囲気に、その声に。
――それでも、杏はどこか恐ろしさを覚えた。
杏「なんでもないよ。ちょっと責任感じてるだけだから」
――もちろん、嘘だ。
柔らかな声と瞳から逃れるために杏が視線をそらす。
たまらなく『怖い』のだ。正体を、自分のしたいことを見抜かれているようなその目が。
心が安らぎ、助けを求めそうになる自分の心が怖くて目を合わせられない。
そんなことをお構いなしにきらりが回り込み、話しかけた。
きらり「そーお? だいじょーぶ! みんなでがんばればやっつけれるにぃ☆」
杏「……どうしてさ? 私が、あいつをわざと誘導してきた悪いやつかもって思わないの?」
明るいテンションに、希望そのもののような声に。思わず口にしてしまった言葉を杏は後悔する。
実際、今言った言葉は決して嘘ではないからだ。
自分は『怠惰』のカースドヒューマンで、翼蛇龍を誘導してきたのはあの街を絶望に落とした『憤怒』のカースドヒューマンを助けるため。
けっしてヒーローたちのことを思っての行為ではない。気に食わないあの男の鼻を明かしてやろうという気はあるけれど、正義感なんてものじゃない。
――だから、ごまかしていたのに。
きっと自分を疑いの目で見ているだろう、と杏は思った。
顔をあげずに、今の失言をどう弁明したものか、それとも誤魔化すかを思案する。
しかし自分の中へと再び感情を戻そうとした杏に、きらりはそれでも明るく声をかけた。
きらり「でもでも、きっと……だーいじなことがあるんでしょー? だからだいじょーぶっ! みんなでがんばゆから!」
――何も知らないくせに。
どうして信じられるというのかが理解できず、杏は思わず顔をあげてしまう。
きらりと輝く瞳に曇りは一点もない。疑うという言葉すら知らないのではないか、と彼女は思った。
杏「……どうして?」
こんな怪しい状況だ。
口先三寸だけでごまかせないのならば面倒は押し付けて多少の強引な突破を杏が考えていたというのも、事実だ。
それでも少しの疑いも持たず、信じると断言する目の前の存在が。
そんな少女に文句も言わずつきそう仲間が、不思議でならなかった。
きらり「困ってる人は、助けなきゃ! どんな人でも、しょんぼりしてたら、むぇーってなっちゃうにぃ?」
質問に対して、こともなげにきらりが答える。
それが当たり前のことなのだと、疑いもせずに――
――否――
――『人間ではないのだろう』と見抜いたうえで助けると。
言外の意味をくみ取り、杏は戦慄した。
決して上から目線の、横暴で横柄な、自己満足の行為の発言ではないことを理解してしまったから。
心の底から相手を思い続け、純粋な好意で助けようとする。
今の杏自身が、珍しく『やる気を出した』のと同じ理屈を、まったく見ず知らずの自分へ対して行おうとしているのだと理解してしまったから。
だから、気丈で居続けるはずの。ごまかしていたはずの。
杏の中の感情が爆発し、あふれ出した。
杏「……あの街に……友達が、いるんだ」
きらり「おともだち?」
杏「うん。めんどくさいのは嫌いだけど、いっしょにいてもめんどくさくなくて……いないとなんだか、だらだらしがいもなくなるような、友達」
きらり「そっか! とってもステキだにぃ?」
杏「……そんな友達がさ、悪いやつに利用されてた。それが許せなくて、ここにいるヒーローを利用して助けようとした」
杏の告白に同じく聞いていた店長や裕美も驚く。
しかし、きらりは何も言わずただ黙ってうなずいた。
その表情は真剣で、けれど穏やかで、全てを受け入れるような暖かさを感じさせる。
杏はそこで一拍おいてから言葉をさらに続けた。
杏「勝手だってわかってる。褒められたことじゃないって思ってる。でも、でもさ――」
両目からは涙があふれ、声も震えている。
言わなくてもいいはずの、誤魔化せるはずの言葉を。杏はきらりへと投げた。
杏「助けて、欲しいんだ……だいじな、ともだち……だから……あんずも、がんばるから……!」
力強く、胸を叩いてきらりは答える。
少しの迷いもなく。当たり前のことのように。
きらり「うん、りょーかいっ! まかせて!」
――救われた。
状況は何も変わっていない。絶望的なまでの力を持った翼蛇龍に対して決定打は与えられていない。
街の中での戦いも続いている。あのスーツの男の企みだって、二重三重とあるだろう。
それでも杏は「救われた」と感じた。
大切な友人を救うための力が心の底から湧き上がって来る。
とても面倒なことを、やらかすための力が。
何もかもを投げ出す『怠惰』を動かす、激情ではなく静かな気情を身に纏う。
杏「……ありがと。じゃあ、杏も――やること、やってくるから」
翼蛇龍をこの場のヒーローに『任せる』判断をして杏は動き出す。
友人を助けるためにはまだまだ面倒なことをしなければいけないから。
ついでに、あいつの鼻を明かしてやろう。
あの街が憤怒に飲まれてしまうのも止めて、ハッピーエンドへひっくり返してやろう。
この怠けたい気持ちをそのまま力へ。
動きたくないから、動く。働きたくないから、働く。
――助けたいから、助ける。
そう決めた杏の目にはもう迷いはなかった。
話を聞き終わったきらりの身体に再び力が湧き上がる。
戦いが続き、疲労していたメンバーたちは決め手もなく押されている。
その分まで、絶望へ立ち向かうために。
―― Never Despair ――『絶望することなかれ』。
希望を再び身に纏ったきらりは『絶望』へと飛びかかった。
きらり「にょっわぁぁあああっ! きらりんビームっ!」
幾筋もの光線がヒーローたちを飲み込まんと迫るカースの弾丸を消滅させていく。
本体である翼蛇龍の身体も光線がつつむが、消滅した次の瞬間には体表に新たな鱗として硬化したカースが纏われ決め手にならない。
翼蛇龍は自身の中の『嫉妬』により潰された『憤怒』の核が起こすエネルギーによって際限なく進化し続けていた。
嫉妬に食われた翼竜が憤怒し、憤怒の強化に蛇龍が嫉妬する。
まるで自身を喰らい続けるウロボロスのように、その円環は強く、激しく。
自身の中の矛盾をエネルギーとし、消滅させないことで絞り出す。
翼蛇龍は憤怒と嫉妬に加えて知恵を持ち、怒りに狂いながらも冷たく恐ろしく執念深く狩りを続けようとしている。
進化は止まらない。表皮は硬く、鋼のように強靭で砕くのすら難しい。
それでも戦うヒーローたちは絶望していない。諦めようとはしていない。
絶望と戦う希望は、決して潰えない。
!双葉杏が『やる気』を出しました。
――憤怒の街をひっくり返して泰葉を救うために自分もリスクを背負う覚悟を決めたようです。
!絶望の翼蛇龍と防衛戦線組が接触、戦闘が開始されました。
――翼蛇龍が文字通り『絶望』的な戦力を持っているようです。
→続く
琴歌、ネバーディスペア、里美、杏、裕美他たくさんお借りしました
次で決着つけられるよう頑張ります!頑張ります!!頑張ります!!!
乙ー
ユズちゃん!やらかしちゃってますよ!!
コレがのちにあんな事につながるなんて、ユズはまだ知らない(意味深
投下します
一応前半です
海皇宮
巫女「ヨリコさま。今回のサヤの独断は許すのね。わかるわ」
ヨリコ「はい。あの子も何か考えがあってのことでしょう。サヤの容体はどうですか?」
巫女「役一週間すれば治ると思うわ。」
そのとある場所で海皇ヨリコと海竜の巫女が話をしていた。
今回のサヤの独断についてだ。
もちろん。ヨリコはその事を咎める所かサヤの心配をしていた。
そして、サヤの無事を聞いてそっと胸を撫で下ろした。
巫女「ところで、どうやら地上の一部の者達に≪神の洪水計画≫の情報が漏れているわ。」
ヨリコ「……えっ?」
巫女「一体誰が漏らしたのかしらね?カイは≪神の洪水計画≫については知らない筈よ。」
ヨリコ「まさか、サヤが……」
ヨリコの不安げな表情に、巫女は安心させるように優しく微笑んだ。
巫女「それはわからないわ。けど、計画には問題はないわ。それにサヤがヨリコさまを≪裏切る≫ことなんてないわ。わかるわね」
ヨリコ「そ、そうですね……」
巫女の言葉にヨリコは安心するようにするが、巫女はヨリコの不安を見逃さなかった。
巫女(リヴァイアサンの魂のカケラがもうすぐなじみ出すわね。わかるわ)
……サヤもヨリコも知らないだろう。
巫女はヨリコの病を治した際に、既に≪何か≫をヨリコにしていることを。
それは、もうすぐヨリコの魂と同化することを……
そう。それは初代レヴィアタンと呼ばれた神様に振り回され、最終的に魂をバラバラにわけ体と切り離し、各地に封印された哀れな生物。その封印されてた魂のカケラの一つ。
ヨリコ「……巫女さん。少し一人にさせてください。」
巫女「わかりました。では、私は失礼するわ。」
そう言って、巫女は部屋から出て行った。
ヨリコ「サヤちゃん……速く治ってよ…サヤちゃんまでいなくなったら……それにサヤちゃんが情報をもらすはずないもんね。……カイちゃん……カイちゃん……戻ってきてよ……なんで帰ってきてくれないの?……そんなに地上がいいの?地上はどうして私から大切なものを奪うの?……ズルいよ…」
部屋に嫉妬のこもった苦しみの声が響きわたった。
もし、洗脳が解けた時、弱り切った心で、仕掛けがほどこされたアビスエンペラーを起動したら……
果たして彼女はどうなるか……
それは巫女しか知らない。
ーーーーーーーーーーーーーー
瑞樹「予想通りだけど予想外だったわね。」
特殊な結界がはってある部屋にて、レヴィアタンは椅子に座りながら溜息をついた。
瑞樹「サヤがノアの方舟を使わないで『神の洪水計画』を実行させようとするなんて。計算外だったわ。」
ノアの方舟を使わず海の力を持つナチュルマリンを操り計画を実行させようとしたことだ。
確かにナチュルマリンの能力を使えば地上を海に沈めることができたであろう。
しかし、≪レヴィアタンの計画≫はただ地上を海に沈めることではないのだ。
その為に≪ノアの方舟≫で神の洪水を起こさせるしかないのだ。
瑞樹「ノアの方舟じゃなきゃダメなのよ…≪世界をリセット≫させるには……」
自分の計画を進めるには≪ノアの方舟≫じゃなければ……
瑞樹「だけど、恐らくヒーロー達はナチュルマリンが狙われないよう警戒するわ。けどノアの方舟には目をいかない……天使と魔族を除いてわね。」
神の洪水というワードを聞けば勘のいい天使や魔族は気づいてしまうだろう。
だが多くのヒーローはナチュルマリンが狙われないよう警戒するはず。
ノアの方舟に気づいても封印されてる場所まではわからないはず……
それに、自分にたどり着くことは恐らくない。
ただ………
瑞樹「問題はまだあるわね。」
そう言って脳内に巡るは3つのイレギュラー
瑞樹「まずはあの古龍の魂……呪詛で縛ってるのにまだ何かしそうね…わかるわ。」
瑞樹「地底人の女性は……依頼以外の事はしない仕事重視。問題はないはずだわ……なのにこの嫌な感じ、わからないわ。」
瑞樹「そして、問題はこの男ね。」
真剣な表情で、海底都市にはびこらせてる使い魔から送られてきた映像を空間に映し出しみていた。
その映像には………
いい笑顔でサムズアップしているマルメターノおじさんが映っていた。
瑞樹「……隙がなくって、偽ベルフェゴールの情報収集でもソーセージ売ってる事しかわからない。それに海底都市にはった結界もすり抜けてきた……その力妬ましいわ。」
目の前に映る異質な光景に、レヴィアタンは強く唇を噛み締めた。
まるで挑発をしているのかと思う程の笑顔に憎しみが湧き上がる。
瑞樹「……何であろうと構わないわ。邪魔になるなら排除するしかないわね。」
だが、すぐに冷静さを取り戻し、映像を消すと、対策や次なる策略に向けて思考を切り替える。
瑞樹「怠惰の人形師はうまくやっているかしら?」
怠惰の人形師に頼んだ≪本物の川島瑞樹≫の捕獲。
あれが唯一、自分につながる手がかりだ。もしヒーローに、あの死神に保護されたらマズイ。
カースドヴァンパイアがやられてはしまったが、操れる駒は用意してある。
問題はないだろう……そう思ってたレヴィアタンだが、数分後に怠惰の人形師から受けた報告に苛立つのであった。
彼女が注意していた謎の男
死神が思いつきでやった実験。
その二つが……いや、これは次のお話で話そう。
嫉妬の悪魔の計画に僅かなひびがはいっていく。
続く
イベント情報追加
・ヨリコの不安が煽られてるよ!SUN値がヤバイよ!
・ヨリコの魂にリヴァイアサンの魂のカケラが混じってるよ!
・マルメターノおじさんは海底都市にはってある結界を潜り抜けて来たらしい。
以上です。
マルメターノおじさんvs偽ベルフェゴールは長くなりそうな気がしたので前半と後半にわけました。
後半はマルメターノおじさんvs偽ベルフェゴールにしようかな?と考えてます
ヨリコさんお借りしました。
乙乙乙ー
こ、これは乙じゃなくてアイスラッガーなん(ry
ネバーディスペアかっこいいし柚ぽんの深夜テンション楽しいしマルメターノおじさん未知数だし!!
実はpart5最序盤以来の出番となるスパイクP投下します
え? 櫂の誕生日? ナンノコトヤラサッパリデスナ
どこぞの山の麓に広がる樹海。
その中を、巨大な鉄のウニを引き連れ歩く男がいた。
スパイクP「三つ目の封印は……この先か」
男の名はスパイクP、連れるウニはバイオ。
海底都市、海皇親衛隊である彼は現在、『神の洪水計画』の前準備をしていた。
『ノアの方舟』を封印する四つの点の破壊してまわる、これが彼の任務だ。
既に封印は二つ破壊し、現在向かっているのは三つ目。
スパイクP「……面倒くせえ。ヨリコ様ならともかく、何であんな女の指示で動かなきゃいけねえんだ」
海皇ヨリコの側近、海龍の巫女。スパイクPは彼女に良い印象を抱いていなかった。
スパイクP「とっとと済ませて部屋でゆっくり……お?」
歩くうち、スパイクPは少し開けた場所に出た。
目の前には洞窟、その手前には切り株、そしてその上には一人の少女の姿があった。
切り株に腰掛け、静かに目を閉じていた少女は、やがてスパイクPの気配に気付いたか、ゆっくりと目を開く。
穂乃香「……あなたも宝を求めてやってきたのですか?」
スパイクP「宝ぁ? そんなモンは知らねえ。俺は方舟の封印を探してるんだ」
穂乃香「方舟……聞いた事もない物です」
スパイクP「その洞窟がどうにもくせえな。ちょっと調べさせろ」
その言葉を聴いて、穂乃香はふう、とため息をついた。
穂乃香「虚言を弄して宝を奪おうとする……あなたのようなタイプも腐るほどいましたよ」
スパイクP「あぁん?」
穂乃香が立ち上がり、腰に携えた二本の刀を構える。
スパイクP「……やる気か?」
穂乃香「あなたが大人しく帰ってくれれば、刃は納めますが」
スパイクP「そいつはできねえ相談だな…………バイオ!」
『カチッカチッ』
スパイクPの号令でバイオが一歩前へ出る。
スパイクP「オリハルコン、セパレイション!」
穂乃香「何をするかは知りませんが……させません」
穂乃香はスパイクPの懐に飛び込もうと深く腰を落とし……、
穂乃香「ッ……!」
後ろへ大きく飛び退いた。
直後、穂乃香が立っていた位置にビームが着弾した。
「ッシャ!」
木の裏からイワッシャーが姿を現した。
穂乃香「伏兵ですか……」
スパイクP「アビスパイク、ウェイクアップ。悪く思うなよ、スパイク・ミサイル!」
バイオを纏いアビスパイクとなったスパイクPが、その棘を一本穂乃香へ撃ち出す。
穂乃香「どこへ撃っているのですか?」
スパイクP「!?」
突然背後から声をかけられ、スパイクPは振り向く。
そこにいたのは、無傷の穂乃香。
そして、バラバラに切り刻まれ、首だけの姿になったイワッシャーだった。
スパイクP(何なんだこいつ……速すぎる……!)
穂乃香「あまりいたぶるのも可哀想ですし、一瞬で決めてさしあげます」
そう言って穂乃香はイワッシャーの首を放り捨て、再度刀を構えた。
スパイクP(来る!)
穂乃香「綾瀬流『疾風怒刀』」
スパイクPが身構えるよりも速く、穂乃香が振るう無数の斬撃がスパイクPを襲った。
穂乃香「……ふう」
勝負あり、と感じた穂乃香は、ゆっくりと刀を鞘に戻し、クルリと踵を返した。
しかし、
スパイクP「スパイク・ミサイル!」
穂乃香「!?」
背後からの攻撃を察し、穂乃香は大きくジャンプしてそれを回避した。
穂乃香「……仕損じた……?」
目の前に立っているスパイクPは、先ほどの攻撃がまるで無かったかのように無傷だった。
スパイクP「ったく、今のは効いたぜ。……アビスパイクじゃなきゃ今頃お陀仏だ」
よく見れば、彼の鎧には細かい傷が無数についている。
しかし、それも時間と共にじわじわと消えていく。
穂乃香(固い装甲に自己修復……一筋縄ではいきませんか)
穂乃香の頬を汗が一筋伝う。
スパイクP(向こうはこっちに致命傷を与えられねえ……こっちは向こうを捉えきれねえ……こりゃ泥試合か?)
スパイクPが額の汗を拭う。
穂乃香(なら、この一撃で……!)
穂乃香は片方の刀をスラリと引き抜く。
スパイクP(だったら、追いつくまでだ……!)
スパイクPは右手の棘を地面に突き立てる。
穂乃香「綾瀬流……」
グッと刀を構える。
スパイクP「おぉぉ……!」
右手の棘を軸に、まるで独楽のように回転を始める。
穂乃香「『力戦奮刀』!」
スパイクP「スパイク・タップ!!」
突き出された刀が、高速回転する体が、真正面からぶつかる。
その結果は、
穂乃香「……くっ!」
スパイクP「……チッ!」
またしても互角。
これ以上ぶつけあっても無駄と判断した二人は、互いに距離をとった。
穂乃香「…………」
スパイクP「…………やめだ、やめやめ!」
スパイクPは変身を解除し、頭を掻き毟った。
スパイクP「これ以上やっても時間の無駄だ。出直すぜ」
穂乃香「出直す……ですか。恐らくは何度来ても同じですよ」
スパイクP「ケッ、どうだかな。いくぜ、バイオ」
『カチッカチッ』
スパイクPはバイオを引きつれ洞窟を離れた。
スパイクP「……あれは後回しだな。マキノ辺りを応援に呼んだ方が良さそうだ」
懐から取り出した海水の小瓶で体を潤し、スパイクPは不満げに鼻を鳴らした。
スパイクP「先に四つ目を破壊するか。えーなになに……」
海龍の巫女から受け取った地図と地上で入手した地図を見比べ、スパイクPは次の目的地を定めた。
スパイクP「四つ目の封印は……ネオトーキョー……か」
続く
・スパイク・タップ
スパイクP/アビスパイクの新技。
右手甲の棘を地面に突き立て、それを軸に高速回転、独楽のような動きで敵に突進する。
攻撃力、防御力にくわえ、申し訳程度の機動力まで備えた素敵技。
・イベント追加情報
「方舟の封印」の所在地
三つ目……穂乃香が守る洞窟の中(綾瀬一族が守る「宝」とは別物の模様)
四つ目……ネオトーキョーの何処か
スパイクPがネオトーキョーへ向かいました。
以上です
ホントスパイクP久々すぎて口調忘れてるっぽい
穂乃香さんお借りしました
辛いです。黒川さんが好きだから……
黒川さんがおこぷんする前に出番作ってあげたいなぁ
一つ相談を。
以前「もうアイドル予約しません」宣言を出しましたが、
あと一人だけ予約しても構いませんでしょうか?
>>112
憤怒P「みくにゃんが自分を曲げたら大問題だが、俺らなら別に問題ないよなぁ?(ゲス顔)
だがまあ、俺はみくにゃんが自分を曲げたところでファンをやめたりしねぇ」
みく「にゃにゃっ! 誰かは知らないけどありがとうにゃ! でもみくは自分を」
憤怒P「何故なら元からファンでも何でもねぇんだからなぁ!
みくにゃん? 誰それ、ボーカロイドか何かかぁ? ウッヒャハハハハハハハハ!!」
みく「ふにゃあああああ!!」
乙ですー
スパイクPは結構好き。戦えるPポジって少ないよね
その内誰かと戦わせて見たいなぁ
高校の友人関係で美穂ちゃんのお話投下しまー
”これは、今まで普通だったことが『普通』ではなくなっていた話”
――
美穂「おはよう・・・・・・・。」
母「おはよう、美穂」
肇「おはようございます、美穂さん。」
ある日の小日向家の朝。
美穂が憂鬱な気分で、茶の間に起きてくると、
母と同居人は既に起きており、朝食の準備もすっかり出来ていた。
肇「・・・・・・おや?美穂さん、今日は元気が無いですね?」
美穂「うん・・・・・・。」
軽く頭を抱えながら、食卓の席についた美穂。
そんな彼女の様子をみて、同居人から心配の声が掛かる。
母「学校が始まるからでしょ。」
美穂「うん・・・・・・・・・・・・。」
そう、本日は夏休みが明けて、初めて学校に行く日。
つまり始業式の日だった。
この夏は、美穂にとって大変忙しい夏だった。
カースと戦ったり、
カピバラ怪人を追い掛け回して真っ二つにしたり、
カースと戦ったり、
憧れの元ヒーローと出会ったり、
カースと戦ったり、
肇と妖怪祭りに出かけたり、
あとは、カースと戦ったりもした。
美穂「・・・・・・ほとんどヒヨちゃんに振り回される毎日だった気がする。」
美穂の頭の上で、照れたようにその身をくねらせるアホ毛。
褒めてはいないが。
美穂(だけど充実してた・・・・・・のかな?)
真っ当な少女の過ごす夏休みとはかけ離れた日常だったが、
まあ、それでも美穂はかねがね満足していた。
美穂(ちょっとずつだけど、夢にも近づいてる気がするから。)
憧れのアイドルヒーローになる。
ヒヨちゃんや、肇ちゃんや、セイラさんと出会ったことで、
夢が叶う兆しが見えてきた。
ただ、それに伴う問題点も少なからずある。
例えば、以前、カピバラ怪人を燃やし斬った際に、
ヒーローとして地方新聞に載ってしまったことだ。
肇「美穂さん、パンが焼けましたのでどうぞ。」
美穂「ありがとう、肇ちゃん。」
トースターでこんがり焼いた食パンに、
食卓の上に置いてある、マーガリンを適量塗りたくり、齧る。
時々、母が焼いたであろうハムエッグと、それに添えられたサニーレタスにも手をつけつつ、
朝の栄養補給を続ける。
あの日の朝も、そう言えば食パンを齧っていた事を思い出す。
小日向美穂は、あの朝、新聞に載ってしまっていた意味を考える。
美穂(・・・・・・今更、恥ずかしがってちゃダメなんだろうけど)
美穂(そ、それでも卯月ちゃんや茜ちゃんに私のヒーロー活動のこと知られてると思うと・・・・・・)
地方新聞に載る、
それはクラスメイトに小日向美穂のヒーロー活動を知られると言う事。
すなわち、
「あ~はっはっはっはっは!」
と人目も憚らず高いところで高笑いとかしながら、
「愛と正義のはにかみ侵略者!ひなたん星人ナリ!」(笑)
とか電波な言葉を飛ばしつつ、
「このまるごとぜ~んぶ私のもの、ひなたっ☆」
とかカワイイポーズを決めて、刀をぶん回してる事を知られているのだ。
美穂「う、うわぁあああああああ!!」
肇、母「!?」
美穂「冷静に考えるとやっぱりダメだっ!!ダメッ!死ぬっ!恥ずかしさで死んじゃうっ!熊本に帰るっ!!」
肇「急に元気になりました?」
母「情緒不安定ねえ、まあこのくらいの年のころは私も色々あったわ。」
果たして、美穂の恥ずかしがりやな性格が悪いのか、
ひなたん星人の豪放かつ電波な性格が悪いのか。
美穂(・・・・・・いや、ヒヨちゃんが悪いわけじゃないけれど)
実際、小春日和のおかげで、
最初にカースと出会ったときも対応できたし、街の平和を守ることが出来ている。
恨めるはずはない。恨めるはずはないが、
美穂(私、クラスでも目立つ方じゃなかったから、)
美穂(いきなりひなたん星人とか言っても、みんなドン引きに決まってるよ・・・・・うぅ・・・・・・。)
この夏、小日向美穂は大切な物を手に入れたが、大切な物を失った気がする。
現在、あの記事に関する、
つまりニューヒーロー「ひなたん星人」として小日向美穂が活動していることに関する、
学校の友達の反応は保留と言う事になっている。
美穂(あの日から、卯月ちゃんや茜ちゃんと出会う機会もなかったからなあ・・・・・・。)
カピバラ怪人の件で、ひなたん星人が新聞に載ったのは夏休み中の事。
そして、新聞に載ってからの夏休みの残りの期間の間、
ヒーロー活動や、祟り場などの発生のため、奔走していた美穂は忙しく、
学校の友達と遊ぶ機会がまったく無かった。
さらに言えば連絡も、全然とってはいなかった。
美穂(あれ・・・・・・?)
何気ない、小さな違和感。
美穂(・・・・・・忙しかった私からはともかく。)
美穂(卯月ちゃんからも連絡が無い?)
美穂(・・・・・・あ、卯月ちゃんが暇人ってことじゃなくって)
島村卯月のパーソナル。
なかなかパッとは思いつかない彼女の個性だが、
その一つに『長電話』と言う物がある。
「趣味は長電話ですっ!」とでも言ってのけてしまいそうな程に、
彼女はよく、友達に電話をかける。
メールでもツ○ッターでもなく、電話がいいのだそうだ。
文字ではなく、相手の声を聞かないと落ち着かないらしい。
美穂も何度かそれに付き合わされたことがあるが。
徹夜するまで付き合わされてしまうのは、きっと後にも先のも彼女との電話だけだろう。
そんな三度の飯よりも、寝る時間よりも、長電話が好きな彼女が、
この夏、
いや、夏休み当初は何度か掛かってきたのだが、
しかし、夏休み後半。美穂が新聞の載ったあの日を含めての、しばらくの期間、
まったく電話をかけてこなかった。と言う事実が、意外と言えば意外であった。
――
朝食を食べ終え、学校に行く仕度を済ませる。
久しく着る制服は、クリニーング仕立てで着心地が良い。
美穂「着信履歴は、っと。」
ふと先ほど気になった疑問を解消するため、
携帯電話のデータを確認する。
島村卯月に限って言えば、
発信履歴ではなく、着信履歴を確認した方が早いと確実に言えるのは、
彼女の確固たる個性を示してる気がした。
美穂「卯月ちゃん・・・・・・卯月ちゃん・・・・・・。」
スマホを画面を上方向にフリックして、
着信履歴のリストをスクロールさせる。
そうやって目的の名前を探す。
美穂「?」
美穂「あれ?おかしいなぁ・・・・・・。」
美穂「着信履歴なんて消さないはず・・・・・・だと思うけど。」
もちろん、携帯を機種変更や修理に出した覚えも無い。
普段触らない履歴に関するデータが消えるような事はなかったはず。
しかし、美穂の携帯の中には、
『卯月ちゃん』からの着信履歴が、一件も存在してはいなかった。
美穂「『お母さん』や『肇ちゃん』の名前はあるから、履歴を消した訳じゃないよね?」
美穂「うーん??」
疑問に思うが、考えてもこの現象の謎は解けず、
美穂「意外と、いつも私の方から電話してたのかな?」
そう言って、クスリと笑う。
『長電話』が好きと言うイメージから、いつも向こうから掛けてくるイメージに繋がっていたのだろうか。
美穂「私って、寂しがり屋なのかも?」
今まで意識してなかったことだったが、
毎回、自分から友達に電話を掛けていたのだと思うと、ほんのちょっと恥ずかしかった。
母「美穂ー、学校遅れるわよー。」
美穂「わっ!もうこんな時間!今出るからー!」
携帯電話をポケットに仕舞って、
『小春日和』を入れた袋を背負い、カバンを左手に持つ。
肇「美穂さん、いってらっしゃい。」
美穂「いってきます、肇ちゃん!」
慌しく、美穂は家を飛び出て、登校することとした。
この時、もし発信履歴の方も確認していれば、
あるいは、アドレス帳を確認していれば、
携帯電話から”友達の名前が完全に消えている”と言う異常に気づけたのかもしれないが、
それは何らかの事態に巻き込まれている、と気づくことが少し早まるだけの事で、
この後の展開については、きっと何も変わらなかっただろう。
この時点で、とっくの昔に、
小日向美穂にとっての『普通』は、普通ではなくなっていたのだから。
――
通学路。
久しく歩く、その道は、以前よりもずっと、歩きにくかった。
何故ならば、
美穂(し、視線が気になって・・・・・・。)
「あれ?あの子、もしかして”ひなたん星人”じゃない?」
美穂(う、噂されてるっ!?)
「あっ、本当だ。ヒーローって本当に居るんだ。おーい」
美穂(手振られたっ?!)
まったく知らないOLに手を振られ、小さく手を振り返す。
「きゃああっ、手振り替えされちゃった!可愛い!」
美穂「う、うぅ~。」
集まる視線に、カバンで顔を隠してしまう。
美穂(は、恥ずかしい・・・・・・。)
恥ずかしがってばかりだが、しかし、それも仕方ない。
人に注目されていると自覚するのはやはり、どうしたって恥ずかしい。
それは、”たくさんの妖怪の目があった舞台に立つ”と言う経験をしたとしても、なかなか慣れはせず。
と、言うよりも
緊張感のある舞台の上で多くの目で見られるより、
何気なく油断して過ごしている日常を見られていることの方が、案外ずっと恥ずかしいのかもしれない。
美穂(けれど、嬉しいかな。)
注目されていると言うのは、認められていると言う事。
小日向美穂がヒーローとして認められていると言う事だ。
それは、彼女にとってはとっても嬉しいこと。
そうは思ってもずっと視線に晒されるのは、なかなかに居心地がよろしくは無い。
嬉しいのに居心地が悪いとは複雑な心境なのだが、
とにかく、この場は逃れてしまおうと歩みを急がせ、そそくさと立ち去るのだった。
――
人目を避けるために、
少しだけ早足で通学路を歩いていると。
卯月「それでね・・・・・・だったから・・・・・・。」
茜「へぇ・・・・・・・・うん・・・・・・・・そうなんだ。」
美穂「あっ。」
前方に、よく見知った2人が並んで歩いているのを発見する。
横断歩道を渡りながら、何か話し込んでいるようだった。
追いつこうとして、小走りになる。
しかし、
美穂「あれっ。」
たまたま、彼女達が横断歩道を渡りきったところで、
まるで美穂の歩みだけを遮るように、信号が赤に変わってしまった。
それならば、
美穂「茜ちゃん!卯月ちゃんっ!」
と、横断歩道の手前から声を掛けて、先に行く2人を止めようとしたが
ブロロンっ!!
美穂「わわっ!」
大きな音をたてて美穂の前をトラックが通過した。
美穂の声は、その音に掻き消され、届かなかったようだ。
トラックが通り過ぎれば、2人は既にずっと先の方へ行ってしまっていた。
美穂「タイミング、悪いなぁ・・・・・・。」
この時点では、
異変は、ごく自然で、『普通』に起こりうることで、
静かに美穂を巻き込んでいたために、彼女はそれに気づくことはなかった。
しかし、この先にて。
つまり学校にたどり着いた時点で、
小日向美穂は、やっと今回の『普通』ではない異常事態に気づくのだ。
――
学校にたどり着いた。
そこまでは、何も問題なかった。
2年の教室が並ぶ階にたどり着く。
そこまでは、変わったところは無かった。
いつもの教室の前に立つ。
2年1組。
夏休み前まで、ずっと普通に通っていた教室。
美穂の学校では、学期毎のクラス替えなどは行われないために、
継続して、この教室を使うことになる。
はずが、
「あれ、小日向さん。どうして1組に入ろうとしてるの?」
美穂「えっ?」
「小日向さんは私達と同じ2組じゃない。」
美穂「えっ、あの?」
「ほらほら、みんなヒーローを待ってるんだからさ。」
美穂「わわっ?!」
あまり話したことも無い、違うクラスの女子に手を引かれ、
隣の教室、2年2組に連れて行かれる。
「待ってました!ヒーロー!」
「新聞見たよー!小日向さんかっこよかったー!」
「うちの家族も小日向さんに助けられたって言ってたよ!ありがとうねっ!」
美穂「えっ!?えっ!?!」
こうやって騒がれる事には覚悟してきたつもりだったが、
恥ずかしいとか思う以前に、美穂の頭を支配していたのは混乱であった。
美穂(ど、どう言う事?!)
美穂「ど、ドッキリ??」
「あはは、確かに驚いちゃうよね。こんな風に騒がれちゃったら。」
美穂「えっと、いやあのそれ以前に、私・・・・・・隣のクラスで・・・・・・」
「? 何言ってるの?」
「夏休み明けで混乱してるんじゃない?」
「あー、あるある。長いこと学校休んでると、あれ、自分の教室ってどこだっけーってど忘れしちゃうことあるよね。」
「確かにあるかも。まあでもクラスのみんなの顔を見たら思い出すでしょ。」
「小日向さんは”2組の仲間”なんだから。」
美穂(・・・・・・何これ・・・・・どう言う事?)
彼女達がふざけてこんな事をしていたのならばよかった。
しかし、それは違う。
結論から言えば、彼女達の言っている事の方が正しく、
彼女達のとった行動は、まったくもって『普通』。
普通に、”クラスメイトの女子”が取り得る行動だった。
小日向美穂は”2年2組”の生徒と言う事になっていた。
――
時は飛んでお昼。
何時の間にか始業式は終わっていて、既に生徒達は帰る準備を始めている。
始業式が終われば、学校での時間は終わり。授業は明日から。
つまり本日は半ドンと言う訳で、生徒達は思い思いにこれからの予定を話し合っている。
「今日どこか寄るー?」
「あたしドリンク無料件あるけど。」
「マルメターノおじさんの店のソーセージ食べたいなー」
「出た、都市伝説(笑)。謎のおじさんのソーセージ店(笑)。」
「本当にあるの?そんなお店。」
「本当にあるし!美味しいんだよっ!たまにしか見かけないだけで!」
美穂「・・・・・・。」
周囲で2組の人たちが何か話しているが、
美穂の頭の中に、その会話の内容は全く入ってこなかった。
美穂(勘違いとかじゃないよね、私はたしかに1組の生徒だった・・・・・・。)
夏休み前までは2年1組の生徒として『普通』に過ごしていたはずなのに、
それが『普通』ではなくなっていた。
では何が今の『普通』なのかと言えば、
小日向美穂の所属するクラスは2年2組。
2組の担任がクラスで出席を取った時も、しっかり名前を呼ばれた。
名簿にさえ『小日向 美穂』の名前が存在していたらしい。
始業式のときも2組の列に並ばされた。
その事にすら、誰も違和感を覚えなかったようだ。
教師も生徒も、誰一人、疑問を挟むことは無かった。
2年1組の列には卯月ちゃんや茜ちゃんが並んでいたが、
1組の列に美穂が居らず、2組の列に美穂が居ることに
まったく思うところは無く、むしろ変だと気づいてすらいなかったようだった。
美穂(おかしいのは私・・・・・・?)
自分の中にある常識を疑ってしまう。
世界はこんなにも不確かだっただろうか。
「小日向さんも、良かったら一緒に行かない?」
美穂「ふぇっ!?」
「これから、ご飯食べて、適当にどこかぶらつくつもりなんだけどさ。」
「ソーセージを食べられるかは、場合によります。」
「まだ言ってるし。」
”2組のクラスメイト”からのお誘い。
はっきり言えば、そう言う気分では無かったのだけど。
「でもさ、私らも一緒に遊ぶの久しぶりだよなー。」
「夏休みもたまに遊んだじゃん。」
「学校帰りは久々って事。学校帰りっていつも何してたっけなぁ、休み長かったからノリわかんない。」
「まあ、適当に話してたら何か思い出すでしょ。」
美穂(適当に話してたら・・・・・・!)
美穂(そうだ!卯月ちゃん達と話せれば、何か分かるかもしれない!)
そう思って携帯を取り出す。
ここで彼女はアドレス帳を開いて、
今朝気づけなかった驚愕の事実に気づくのだった。
美穂「えっ?」
アドレス帳には卯月ちゃんの、
いや、それどころか1組の友人の名前が一件も無かった。
背筋が凍る。
美穂(う、嘘・・・・・・。)
美穂(2組になったから、携帯からも1組の友達の連絡先が消えた??)
例えば2組の出席簿に『小日向美穂』の名前が存在したように、
1組には、『小日向美穂』の所属していた形跡が抹消されているとでも言うのだろうか。
そしてまさか、
まさか、同じ様にこれまでの友人達との関係もリセットされたとでも言うのだろうか。
あり得ない。
あり得ない。
あり得なさ過ぎて、何が起きているのか見当も付かない。
「それで、小日向さんどうする?」
美穂「ご、ごめん!私、ちょっと今日寄る所があるから!」
こうなったら直接、彼女達と会って話すしかないだろう。
「そう?ちょっと残念かな。」
「また今度、一緒に遊ぼうねー」
美穂「う、うん!また今度!」
立ち上がって、帰り支度を手早く済ませる。
1組はもう解散してしまっただろうか。急がないと2人は帰ってしまってるかもしれない。
急いで教室を出て、すぐ隣の教室を伺う。
美穂「うぅ、やっぱり居ない・・・・・・。」
1組もやはり既に解散しており、教室にはまばらに生徒が残っていたものの、
そこには、よく見知った友人達の姿は無かった。
「あら?小日向さん、何かうちのクラスに用事かな?」
1組の女子に声を掛けられた。
美穂「ちょ、ちょっとね。あ、あの卯月ちゃんたちは?」
「卯月ちゃん?もう帰ったけれど?・・・・・・小日向さんって卯月ちゃんと親し」
美穂「ご、ごめん!もう、帰るね!」
「あ、ちょっと・・・・・?」
逃げるように、その場を立ち去った。
彼女と話していると、嫌でも自覚してしまいそうだったからだ。
それなりに親しかったはずのクラスメイトから「美穂ちゃん」ではなく、「小日向さん」と呼ばれた事だとか。
美穂が「卯月ちゃん」の事を気に掛けた事に、疑問を挟まれそうになった事だとか。
そんな事から、
美穂「嘘だよね、こんなの・・・・・・。」
「友達」が「友達」でなくなっていると言う事実を、自覚させられてしまいそうだったからだ。
だけど、まだ彼女達と直接話してはいない。
美穂「・・・・・・すぐ追いかければ、まだ間に合うかも。」
まだ希望は残っているはずだ。
生徒達が解散してから、それほど時間は経っていない。
まだ通学路の途中に居るかもしれない。
走って追いかければ、きっと、追いつけるだろう。
そうと決まれば、と美穂は急ぐ。
「こらっ!!廊下を走るなっ!」
美穂「ご、ごめんなさいっ!」
通りがかった教師に怒鳴られてしまった。
焦る気持ちをグッと堪えて、廊下は早足で歩いて靴箱へと向かい、
外靴に履きかえると、茜ちゃんにも負けない気持ちでダッシュを始めた。
――
美穂「最近、何か悪いことしたっけ・・・・・・。」
学校を出ると、
まるで急ぐ美穂の足取りを止めるために立ち塞がるように、
幾つも災難が待ち構えていた。
たまたま目の前で、道路の補修工事が始まったり、
たまたま狭い道の前方から相撲取りの行軍がやってきたり、
中でも、たまたま老人が大荷物を持って横を通りがかったのは焦った。
工事はヒヨちゃんが壁を走り、
相撲取りはヒヨちゃんがジャンプで跳び越え、
老人はヒヨちゃんが急いで老人ごと目的地まで運んで戻ってきた。
美穂「見えざる宇宙の意思でも働いてるのかなぁ・・・・・・。」
当らざるとも遠からず。
見えざる何らかの力が、ここまでの難関を引き起こしているのは確かで、
さらに言えば、美穂を巻き込んでいる異常事態の原因もまた、”その力”であったが、
それを知るのはずっと後のこと。
卯月「・・・・・・だったんだよぉ!」
茜「・・・・・ですか。・・・・・・・だよ!」
卯月「なんか・・・・・・・・すごいよね・・・・・・・・!」
美穂「居たっ!!」
ヒヨちゃんが頑張ってくれたおかげで、2人に追いつくことが出来た。
それにしても何の偶然か、2人を見つけたのは、
行きの道の時と同じく、彼女達が横断歩道を渡っている時で、
今度こそは逃さないと、必死に足を動かす。
しかし無常にも信号はまたしても、2人が渡りきったところで赤に変わる。
美穂「うぅっ、見えざる宇宙の意思っ!?」
完全にデジャヴだった。
きっと2人を声で止めようとすれば、またトラックが通りがかって、
美穂の声を掻き消してしまうのだろう。
いっそヒヨちゃんを呼んで、道路を飛び越えてしまえば・・・・・・
と気持ちが焦っていたせいか、
走る勢いが余って道路に飛び出してしまう。
「危ないよッ!!」
美穂「うわっ!」
手を力強く捕まれ、後ろに引っ張られた。
ブロロンッ!
案の定、トラックが目の前を通り過ぎる。
美穂(あ、危なかったかも・・・・・・)
そして、やはりと言うべきか。
トラックが通り過ぎた後には、2人の姿はとっくに見えなくなっていた。
とは言え、それほど距離が大きく離された訳ではないのだろう。
今からもまた急げば、『普通』であれば追いつける距離だ。
けれど美穂が続けて追いかける気になれなかったのは、
流石にこの事態が『普通』ではない、『異常』である事に気づいていたからだ。
美穂(斥力・・・・・・。)
なんとなく、そんな言葉が浮かんだ。
理科の授業で習った覚えがある言葉。
物体同士が互いに引き合う力である『引力』の反対。
物体同士が互いに斥け合う力。それが『斥力』。
例えば磁石のN極にN極を近づけるように、あるいはS極にS極を近づけるように、
追いかけても追いかけても引き離される。
美穂(何かが私から2人を遠ざけようとしているような・・・・・・そんな感じが・・・・・・。)
美穂(でも・・・・・・どうして?)
「大丈夫?」
美穂「あ、す、すみませんっ!」
そう言えば、と。トラックに轢かれそうなところを助けられていたことを思い出す。
美穂を助けた、その人物は、
茶色の長い髪を、後ろで結った。所謂ポニーテールが目立つ女の人だった。
「気をつけなよ?」
その人は美穂と同じ制服を着ていた。
つまりは、美穂と同じ学校に通う女子高生と言う訳で。
美穂「は、はい。ごめんなさい・・・・・・ありがとうございましたっ。」
「いいって、気にしなくても。美穂ちゃん。」
美穂「?」
美穂「あの、どうして私の名前を?」
クラスも違うし、おそらく学年も違うその人に名前を知られていると言う疑問。
「そりゃァ、美穂ちゃんは、既に学校だとちょっとした有名人だからかな。」
美穂「・・・・・・・あっ!そっか!」
ハンテーン騒動で広まった「ひなたん星人」の名前。
本名ではないが、けれど美穂の通う校内であれば、実名は簡単に知れる。
「小日向美穂」の名前も自然と噂になっているのだろう。
美穂(・・・・・・改めて思えば、すごく有名人になってるよね。)
普段なら恥ずかしさで卒倒しそうな事実だが、
現在、巻き込まれている事態が事態なので、冷静に受け止めることが出来た。
「私は愛野渚、3年生!バスケ部キャプテンだよッ、よろしくッ!」
美穂「えっと知ってるみたいですけれど、小日向美穂、2年生です。よろしくお願いします。」
渚「それにしても随分と深刻な顔してたけどさァ。悩み事?だからって道路に飛び出すのはよくないんじゃない。」
美穂「いえ、悩みがあるから道路に飛び出したわけでは無くて・・・・・・。」
美穂「あれ?いや、やっぱりそう言う感じなのかも・・・・・・?」
渚「?」
渚「うーん、私にはよく分からないけど、悩みがあるなら相談になら乗ろうかァ?」
美穂「・・・・・・。」
ありがたい申し出だった。
今起きている事態は、少女が一人で抱えるには少々大きすぎる悩みだったからだ。
美穂「えっと、私自身どうしてこうなってしまったのかとか全然理解が追いついてなくて。」
渚「?」
美穂「もしかしたら、悩みなんて本当は無くて、私の勝手な思い込みなのかもしれなくて。」
渚「??」
美穂「本当に、荒唐無稽で突飛すぎて、訳分からないと思われても仕方ないくらい変な事言うかもですけど。」
渚「???」
美穂「私の悩み、聞いてもらえますか?」
渚「お、おう。」
傍から見れば電波にしか聞こえない発現の数々だったが、本人は至って真剣である。
とは言え、普通なら引いてしまっていてもおかしくない。
愛野渚が面倒見の良い性格であって良かったと、後から美穂は思い返すのだった。
――
渚「えっと、話をまとめると。」
渚「夏休みが明けたら、自分一人だけクラスが変わってて、」
美穂「はい。」
渚「友達が友達じゃなくなってて」
美穂「はい。」
渚「友達に近づこうとすれば、何かが邪魔するように立ち塞がって近づけない。って事でいいかな?」
美穂「はい。」
渚「うん・・・・・・本当に突飛だったなァ。」
美穂「ですよね?」
あまりに『普通』じゃない話に、渚は戸惑う。
当然の反応だろう。『普通』なら起こるはずが無いあまりに信じがたい話で、
しかも美穂自身ですら自分の『普通』の方を疑ってしまうほどに確証がない。
渚「けれど、まァ、信じるよ。」
美穂「えっ。」
だから信じると言って貰えたことが、信じられないほどだった。
美穂「ど、どうしてですか?」
渚「更衣室に入ったら宇宙人がいるくらいには起きうる事なのかもって思うから、かなァ。ハハッ」
冗談めかして彼女は言った。
美穂「・・・・・・・う、うぐっ」
渚「えっ?」
美穂「うわぁぁぁん!」
泣いてしまった。それはもう大泣きだった。
渚「わわっ!ふ、ふざけて言った訳じゃなくってさ!ちゃんと信じてるッ!信じてるからさッ!!」
美穂「そうじゃなぐって・・・・・・ぐすんっ」
心細かった。
友達が友達じゃなくなってしまった事が、すごく心細かったから。
だから、
美穂「すごくこわかったけど、信じてもらえたのがうれしくっで、ありがとうございます・・・・・・。」
渚「お、大げさだなァ・・・・・。」
――
渚「落ち着いた?」
美穂「はい、どうにか・・・・・・。」
大泣きしたおかげで、精神的にはかなり落ち着かせることが出来た。
美穂「渚さん、泣いてる間、傍にいてくれてありがとうございます。」
渚「イイって、イイって。今日は部活も無くて暇だったからね。」
渚「さて、それじゃあ美穂ちゃんを悩ませる事態を解決しよッか。」
美穂「え、えと・・・・・・そこまで付き合ってもらうと悪い気がします。」
面倒見の良い彼女は、事態の解決まで手伝おうとしてくれているらしいのだが、
この事態は美穂とその周囲にのみ降りかかった異常であり、きっと渚には関係ない事態なのだ。
巻き込んでしまう事には少なからず、罪悪感がある。
渚「ドンマイッ。気にしないッ!一人じゃ解決できない事なんでしょォ」
美穂「それは・・・・・・たぶんそうなんですけど。」
渚「一人だけで超えられるラインなんてさァ、本当はなかなか無いんだ。」
渚「だから頼れる時は、周りに頼るッ!それがチームワークッ!ってね。」
そう言って、胸を叩くようにジェスチャーをした。
困った時は頼ってくれていいと言う事なのだろう。
美穂「・・・・・・ふふっ。」
渚「おっ、笑ったね。」
美穂「す、すみませんっ!おかしかった訳じゃないんですっ!」
美穂「ただ本当にキャプテンって感じで、頼り甲斐がある仕種だったのでつい・・・・・・。」
渚「いや、良い顔だったよォ?やっぱり笑顔が一番だねッ!」
そう言って、彼女も爽やかに笑ったのだった。
彼女のこう言うところに、バスケ部の後輩達は付いて行こうとするのだろう。
美穂「あの・・・・・・渚さん、本当に頼っちゃってもいいですか?」
渚「もちろんサッ、街のヒーローに頼られるなんて光栄だよッ。」
美穂「ご迷惑お掛けしますけどよろしくお願いしますっ!」
渚「オーケーッ!任されたッ!」
渚「・・・・・・とは、言ったものの。私にも何か良いアイデアがある訳じゃないんだよね。」
美穂「そうですよね。こんな事、解決するって言っても、どうすればいいかもわからないですし・・・・・・。」
友人が友人じゃなくなっていると言う事態。
あまりに普通ではなく、そもそも原因すらわからない。
けれど、一緒に考えてくれる人が居ると言うのはすごくありがたい事だった。
渚「さっきも言ったけどさァ。困った時は誰かに頼ればいいと思うんだ。」
渚「一人で突っ走ってるだけで、ゴールに辿り付けるとも限らないしね。」
渚「他にもパスを回せる相手が居るなら、そっちに回してみてもいいんじゃない?」
美穂「・・・・・・他に相談できる相手が居ればって事ですね。」
渚「そう言う事ッ!」
美穂「うーん。」
真っ先に思い浮かべたのは鬼の少女。
例えば今回の事態が妖怪によるもの、だとすれば彼女の知識は頼りになるだろう。
けれど、なんとなく今回の事態は、肇に頼れる事では無い気がした。
美穂(肇ちゃん、ほんの少しだけど人里の事情に疎いところあるから・・・・・・。)
今回の事は、美穂の学校での友人関係に密接に関わっていること。
そして、学校とは人間社会そのものだ。
となると鬼の少女にはやや専門外の事情が関わっている気がした。
肇に助けを呼ぶのならば、少なくとも妖怪の類が関わっていると確定してからの方が良いだろう。
後は、頼れる人と言えば。
――
聖來『それで、アタシに電話してきたんだね。』
美穂「はい、セイラさん。何か分かりませんか?」
元アイドルヒーロー、水木聖來。
ヒーローとして活躍してきた彼女なら、
こう言う事態に対する策もあるかもしれない。
聖來『何時の間にか、友達が友達じゃなくなってるか。』
聖來『本当だとしたら、すごく怖いことだね。』
美穂「えっと、信じられない事かもしれないですけど、でも本当の事なんです。」
聖來『大丈夫、信じるよ。美穂ちゃんが嘘付くとは思えないからね。安心して。』
美穂「セイラさん・・・・・・ありがとうございますっ!」
「信じる」と即答してくれるような、頼れる人が増えて、心強かった。
聖來『けれど、今の世の中には不思議な事が山ほどあるからね。』
聖來『だから、原因の特定は難しいかもしれない。』
美穂「確かに・・・・・・。」
宇宙人の実験しれないし、未来人の陰謀かもしれないし、超能力者の仕業かもしれない。
今の時代、そのどれが原因だとしても不思議ではないのだ。
聖來(紗南ちゃんを借りれたら一発なんだけど・・・・・・。)
聖來(特に理由もなく連れて行けないからなぁ・・・・・・。)
聖來『まあ、少しずつでも手がかりを探ってみようか。』
美穂「えっと、お願いします。」
原因の特定が難しいのならば、地道に検証を続けるしかないだろう。
聖來『まず、美穂ちゃんの身に何が起きているのか。』
聖來『1つ目。美穂ちゃんが所属していたはずのクラスが、違うクラスになっている。』
聖來『2つ目。美穂ちゃんが友達と思っていた子が、友達じゃなくなってる。』
聖來『この2つは、美穂ちゃんと周囲の間で認識の齟齬があるって事だね。』
美穂「・・・・・・はい。」
その認識の違い故に、
もしかしたら本当は周囲は元からこう言う形で、
自分だけが異常なのかと、そう美穂に思わせるまでに至った。
聖來『それはないね。』
美穂「えっ?」
聖來『認識を弄られているのだとしたら、美穂ちゃんじゃなくって周囲の方だよ。』
美穂「ど、どうしてそう言い切れるんですか?」
流石にそこまで言いきってしまえるのは、不思議だった。
聖來『もちろん適当に言ってるわけじゃなくって、確証はあるよ。』
聖來『鬼神の七振り、日本一、横暴な刀『小春日和』って言うね。』
美穂「・・・・・・・あっ。」
聖來『『小春日和』は最も我の強い刀。どんな洗脳からも所有者を守ってくれる。』
聖來『そう言う風に肇ちゃんから聞いてるよ。』
『小春日和』の所有者である美穂は、刀を抜いている間はあらゆる精神操作を受け付けない。
そして、「ひなたん星人」と記憶を共有している美穂は、刀を納めている間もその認識を誤解することはあり得ないのだ。
聖來『だから、むしろ。こう考えるべきじゃないかな。』
聖來『何らかの現象の作用によって、美穂ちゃんも含めて周囲の意識と状況は改変されるはずだったけれど。』
聖來『『小春日和』のおかげで美穂ちゃんだけ、意識の操作を免れた。ってね。』
美穂「・・・・・・。」
恐ろしいことだった。何だか気分が悪くなる。
ヒヨちゃんが居なければ、この異常事態に気づくことすら出来なかったのだろうか。
聖來『そして、3つ目。友達に近づこうとしたら何らかの邪魔が入って、近づくことが出来ない。』
聖來『この事がそもそもの原因に関わってそうだね。』
聖來『たぶんだけど、美穂ちゃんのクラスが変わったのも、友達であるはずの子が友達でなくなっているのも』
聖來『その近づけない2人の友達から美穂ちゃんを引き離そうとした結果なんじゃないかな。』
美穂「でも、どうしてそんな・・・・・・。」
もし、そうなのだとして。
どうして彼女を、島村卯月、日野茜の両名から引き離す力が作用しているのだろう。
聖來『それは・・・・・・。』
美穂「・・・・・・。」
聖來『ちょっとわからないんだけどね。』
美穂「うっ・・・・・・うぅ。」
意気消沈。元アイドルヒーローでもはっきりした原因は特定できないようであった。
聖來『ごめんね。』
美穂「あっ、いえ!セイラさんが謝ることなんて全然ないですっ!」
美穂「セイラさんのおかげで、ちょっと原因に近づけた気もしますしっ!」
聖來『・・・・・・。』
美穂「セイラさん?」
聖來『今回はアタシ、そっちに行けそうに無いんだ。』
聖來『今はちょっと立て込んでてさ。』
美穂「そ、そうなんですか?あっ!ごめんなさいっ!忙しい時に電話しちゃって・・・・・・。」
聖來『あっ、ううん。それはいいんだけどね。』
聖來『ヒーローが助けを求められてるのに、行けないのは情けないな。って思ってね。』
聖來『だから、ごめんね。』
美穂「セイラさん・・・・・・。」
美穂「ううん。こうやって電話で話を聞いてもらえただけでも、私凄く助かってます!」
聖來『・・・・・・ありがと、美穂ちゃん。』
聖來『アタシは行けないけれど、誰か代わりに行ってもらえないか。知り合いに当ってみるよ。』
美穂「セイラさんの知り合いの人ですか?」
聖來『うん。あっ、もちろん悪い人じゃないよ。』
美穂(セイラさんに悪い知り合いとか居るのかな?)
とりあえず彼女の知り合いならば、きっと頼りになる人なのだろう。
聖來『それまで待っててもらえるかな?』
美穂「はいっ!セイラさん、お願いします!」
聖來『うん、それじゃあまた後で連絡するから。』
そうして、元アイドルヒーローとの連絡を終える。
相変らず、この事態の原因は特定できなかったが、
それでも、味方が増えて、解決に動いてくれているのだと思えば、安心できた。
渚「ん?電話、終わったかな?」
美穂「はい。セイラさんの知り合いの人が来てくれるみたいです。」
渚「そっかァ、なら少し安心だねッ!」
美穂「はいっ!」
渚「にしても、美穂ちゃんは元アイドルヒーローと知り合いかァ。何だか凄い交友関係だね。」
美穂「う、うん。改めて考えるとすごい事ですよね。」
渚「来てくれるって言う知り合いの人もヒーローなのかな?」
美穂「それは、わからないです。どんな人が来てくれるのもまだわからなくって・・・・・・。」
渚「どんな人が来るかわからないか。」
渚「じゃあさ、こっちも事態の解決のために少しでも動いておいた方がいいよね。」
渚「その知り合いの人が来るまで、まだ時間あるのかなァ?」
美穂「えっと、はい。たぶん、まだ時間は掛かると思います。」
渚「さっき思い出したんだけどさァ。私の後輩に占いとか好きな子が居て。」
渚「何でも、この辺に百発百中の占い師が居るそうなんだよね。」
渚「詐欺とか思い込みとかじゃなくって、本当に百発百中らしいよォ。」
美穂「百発百中の占い師・・・・・・。」
渚「原因を特定するならさ、占いに頼ってみるのもアリじゃない?」
美穂「なるほど。」
手がかりが少ないこの状況。
闇雲に考えても真相まではなかなか辿りつけなさそうだ。
それならいっそ、一か八か、占いに頼ってみるのもいいかもしれない。
美穂「渚さん、お店の場所はわかりますか?」
渚「もちろんッ!そう言うと思って、ちゃんと聞いておいたよ。」
手の中の携帯電話をヒラヒラと見せる。
どうやら美穂が電話している間に、彼女は後輩の子に、その店の場所を聞いていてくれたらしい。
美穂「ありがとうございますっ!渚さん、案内よろしくお願いします!」
渚「オーケーッ!それじゃァ、行ってみよっかァ!」
美穂は事態の解決のため、まずは占い師に会ってみる事にした。
これから美穂の取るべき行動の指針にはなるかも知れない。
果たして、吉が出るのか、凶が出るのかはわからないけれど、
もう一度、友達と「普通」に過ごせる事をただ祈る。
おしまい
はい、と言う訳で「普通力」を思いっきり拡大解釈した結果。とんでもない事になったお話。
”ヒーローと友達”は「普通力」さん的にやっぱりアウト判定だろうと思い、こんな話になった模様。
小日向ちゃんがアイドルヒーロー目指すなら、超自然的に回りを「普通」にする島村さんはちょっとした大ボスになり得る。
そして申し訳ないですが、続きます。
学祭が始まるまでに、お話を書ききれなかったけど、
時系列的には、学祭までに問題なく1組に戻って、島村さんたちとも友達に戻ってるはずなので・・・・・・ご安心を(?)。
と言う訳でキャプテンお借りしましたー
後編でも引き続きお借りすることになると思います
おっと、島村さんと茜ちゃんもお借りしてましたー
皆様どうも、久しぶりの方はお久しぶりです。
挨拶もそこそこに新イベントを始めます!
幾度かの事件を経て、今年も季節は巡りに巡って秋。
人によっては食欲の秋だとか、スポーツの秋だとか、読書の秋だとか色々言うけれど。
ある地域に住んでいる学生一同に関して言えば、また別の言い方もある。
即ち……祭りの秋………「学園祭」である。
ただし、ここで言うところの学園祭は少し意味が異なる。
通常、学園祭や文化祭というのはその学校の生徒一同が四苦八苦しながら出し物を用意したりするものであるのだが……
ここで言う学園祭とは周辺の小中高更には大学まで巻き込み、その上一般からも参加可能というイロモノ行事。
―――いつの日からか「秋炎絢爛祭」等と呼ばれるようになった、超大型行事が間近に迫っていた。
―――アンティークショップ「ヘルメス」
「……まぁ、これでいいでしょう」
店の奥、錬金術の工房に閉じこもっていた雪乃は深く息を吐くとゆっくりと体を伸ばす。
その彼女の周りには作成されたばかりの魔道具―――とは言っても主に一般生活向けに作られた物だが―――が所狭しと並べてあった。
「簡単なものとは言え、さすがにこの量は疲れますわね…あら、いつの間にか切らしてしまいましたか」
喉を潤そうとそばに置いてあったティーポットを手に取るが軽く、中を見てみればなみなみと入っていた紅茶が底をついていた。
「…仕方ありませんか、朝からずっと作り続けていましたものね」
窓から差し込む光はオレンジ色で、時刻が夕方であると雄弁に語っていた。
そもそも、なぜ彼女がそこまでして大量に一般向けの魔道具……言い換えるなら魔導雑貨を量産しているのか。
その答えは、今回の秋炎絢爛祭……正確にはその開催地にあった。
「ふふ、学院からの頼みとは言え少し気合を入れすぎましたわね」
―――『京華学院』
それが、今回の祭りのメイン会場であり、同時に雪乃の大学時代の母校でもあり、さらに言えば国内最大規模の教育機関でもある。
その学院から直々に、今回の絢爛祭で店を出してみる気はないかと誘われたのだった。
そしてその誘いを二つ返事で受けたからこそ、雪乃は今現在工房に引きこもる生活をしているのであった。
「ふふ、私もまだまだですわね…この季節になるといつも胸が高鳴ってしまいます」
そうして、もはや板に付いてきた経営者としての顔と錬金術師としての顔、その両方を満遍なく出すために雪乃は紅茶を飲みに行くのであった。
―――同時刻、榊原邸、さとみんルーム。
「ほえぇ……疲れましたぁ…」
『!』
上品な、それでいて可愛らしくまとまった自室のベッドで寝転んでいるのは榊原里美。
その横に備え付けられている机で伸びているのはくとさん。
一人と一匹はそれぞれくてーっと力を抜いてリラックスしていた。
『てけり、り!』
「あー!隊長さんありがと~です~」
と、そこに黒いタール的な物体が奇怪な声を上げながら入ってきた。
その上には紅茶セット一式、ご丁寧な事にくとさん用のカップまであった。
『てけりてけり!』
『てけりー!』
『てけりりり』
「あ、しょーさんとごーくんとすーちゃんも一緒ですね~」
さらに続いて、同じような物体で緑っぽいのと青っぽいのと赤っぽいのがわいわいと部屋に詰めかけてくる。
―――なぜ名家たる榊原家の邸内にこんな奇怪な生物がいるのかは、実は里美のちょっとした探検と勘違いの結果であるのだがそれはまた別の話である。
と、それぞれがそれぞれ自らの体の上にスコーンやらパンケーキやらを乗せて詰めかけてくるため、夕食前に軽く食べることになった。
「ほえぇ……それにしても……やっぱり見つかりませんねぇ…」
と、ここで里美が困ったように呟く。
『×』
くとさんもその呟きを聞き逃さずに反応し、若干うなだれてしまう。
今現在、彼女たちが抱える問題がひとつあるのだった。
それは、出来ることならとにかく早く解決したい事でもあり、
「……どこに消えてしまったんでしょうかぁ………『屍食教典儀』…」
旧き魔道書の中でも数多くの血塗られた経緯を持つ、一冊の魔道書の行方についてであった…
『てけり、り!』
(約:そんなことより里美様のペットに、いやむしろベッドになりたい)
『!!?』
「ほぇ?くとさんどうかしましたかぁ?」
………ただし、本人達はイマイチどの位重要なことか分かっているのか不明なのだが。
―――さらに同じ頃、某中学校。
「……ここに来るのも久しぶりに感じますねぇ」
中学の制服に身を包み、小道具や台本とメモにライトノベル等などが雑多に散らばった大きな机の隅に座って足をぶらぶらさせているのは日菜子であった。
「あ…これは去年のコンクールでやった台本じゃないですかぁ……むふふ、あの時は大変でしたよ?」
そばにあった台本をひとつ手に取り、パラパラと流し読みにする。
注釈や修正、動きのメモに時には落書きまで書き込まれている台本は所々が切れていたり皺皺になっていたりしているが、懐かしむように日菜子は読み進める。
「……むふふ、わかりましたぁ?これ、結構弄ってますけど元々は「白雪姫」なんですよぉ♪」
夕日が差し込む「演劇部」の部室の中で、確かに一人しか居ないはずなのに相変わらず誰かと話している様子の日菜子。
「……それにしても、困りましたねぇ」
パタンと台本を畳んで横に置き、彼女にしては珍しく少し困った表情を浮かべる。
「…まさか、少しいないうちに皆いなくなってしまうとは思いませんでしたぁ…」
一人、部室でポツリと呟く。
―――そう、「一人」なのだ。
他の部活が活動真っ只中の時間帯で、一人。
―――つまり、演劇部の部員は、日菜子ただ一人という事である。
………その日菜子にしても、実は手芸部と二足の草鞋を履いているのだが気にしてはいけない。
「どうしましょうかぁ……」
病欠+夏休みを終えて久しぶりに登校してきたらこれである。
「まぁ、今年になってから殆ど活動してなかったのが原因だとは思いますけど……ちょっと先輩方には申し訳ないですねぇ」
日菜子自身としては、演劇部はそこそこ気に入っていた。
それに、部の先輩方には良くしてもらっていたのでなんとか再興したいとも思う。
となると、やることは……
「部員集め、ですよねぇ……王子様、何か良い案ないですかぁ?」
「………あぁ、やっぱり、こればっかりは地道に探すしかないですよねぇ…とりあえず、元居た人たちには声をかけてみましょうかぁ………それと」
「募集のポスターと……ゲストの募集ですねぇ。この際他の学校の人でも探してみましょうかぁ?」
先ほど作ったばかりの手作りポスターを眺めながら、日菜子はゆったりとひとり時間を過ごしていた。
「……ただ、今回も騒がしくなりそうですねぇ……むふふ♪」
そう、結局彼女はこんな状況でも楽しんでいるのであった……
―――良しも、悪しも、聖なる者も、魔たる者も、人ならざる存在も問わずに、今年も祭りが始まろうとしていた。
街は活気にあふれ、同時に様々な噂が流れ始める。
―――曰く、この街には亡霊が現れる。
―――曰く、最近昆虫や動物に似た機械生命体が現れるようになった。
―――曰く、夜な夜な恐竜のような影が現れる。
―――曰く、ルナール社が密かに追っている物がある。
―――曰く、森と化した街の跡地から時折人影が見える。
―――曰く、塩水を浴びる人がいるらしい。
―――曰く、京華学院には『魔獣』が住んでいる。
―――曰く、最近小さくて珍妙な生物を見かけるようになった。
―――曰く、今年の祭りも、騒がしくなりそうだ。
イベント情報
・イベント「秋炎絢爛祭」が開始されました!
・現在は「祭りの準備期間」となっております。
・それに合わせて街中・市内中が騒がしくなるとともに様々な噂が飛び交い始めました!
・日菜子が部員募集中です。他校の生徒でも大丈夫なようで、街中の掲示板に張り紙を貼っています。
投下終了、あんまり書いてもアレなのでさっくり開始してみました!
とうとう始まる学園祭、どうなることやら……伏線も散りばめてしまったという。
という訳で、相変わらずの駄文&いつもながらのおめ汚し失礼しました!
『秋炎絢爛祭』
複数の小・中・高に果ては大学まで一斉に文化祭・学園祭を始める某市の大型行事。
元々はそれぞれの学校が単独で学園祭や文化祭をしていたが、ある時災害により人口が激減。
同時に学生の数も減ったが、とある市役員の提案により地域再興の目的も兼ねて各学校の生徒を集めてイベントを始めたのがきっかけ。
それ以来、年を追うごとに規模が大きくなり完全に再興を果たした現在でも続いている。
開催地は地域内、ひいては国内でも最大規模を誇る「京華学院」。
他校の生徒同士が交流できる機会である他に、地域交流の目的のために一般の出店も許可されている。
五日間という他に類を見ない開催日数もあり、準備期間も含め期間中は市内のあらゆる場所が慌ただしくなる。
『京華学院』
某市内に存在する国内最大規模の大学院。
五年制の大学院コースはもちろん、四年制の一般大学コース、二年制の短大コース等がある。
更にはその中でも受けれる授業は更に豊富であり、古代エジプトの研究から超高層ビルの設計方法まで学べるとまで噂されている。
また、最近では続々と現れる能力者や歴史の裏に隠れていた種族に関する研究、果ては魔法に関する事まで学べると密かに話題になっている。
余談ではあるが、これに際してアメリカに存在する、主に超常現象に特化したとある大学の協力を取り付けたらしい。
敷地面積に関しては東京ドーム4個分(仮)、裏山まで存在する。
「屍食教典儀」
旧き魔道書の一冊であり、闇に生きる者達が行った背徳的行為に関する記述を残す書物。
その内容は、正常な感性を持つ人間にとっては到底受け入れられるものではなく、まさしく邪悪の一端である。
主に記されている系統は、深淵・瀑布・地殻。
『秋炎絢爛祭』
複数の小・中・高に果ては大学まで一斉に文化祭・学園祭を始める某市の大型行事。
元々はそれぞれの学校が単独で学園祭や文化祭をしていたが、ある時災害により人口が激減。
同時に学生の数も減ったが、とある市役員の提案により地域再興の目的も兼ねて各学校の生徒を集めてイベントを始めたのがきっかけ。
それ以来、年を追うごとに規模が大きくなり完全に再興を果たした現在でも続いている。
開催地は地域内、ひいては国内でも最大規模を誇る「京華学院」。
他校の生徒同士が交流できる機会である他に、地域交流の目的のために一般の出店も許可されている。
五日間という他に類を見ない開催日数もあり、準備期間も含め期間中は市内のあらゆる場所が慌ただしくなる。
『京華学院』
某市内に存在する国内最大規模の大学院。
五年制の大学院コースはもちろん、四年制の一般大学コース、二年制の短大コース等がある。
更にはその中でも受けれる授業は更に豊富であり、古代エジプトの研究から超高層ビルの設計方法まで学べるとまで噂されている。
また、最近では続々と現れる能力者や歴史の裏に隠れていた種族に関する研究、果ては魔法に関する事まで学べると密かに話題になっている。
余談ではあるが、これに際してアメリカに存在する、主に超常現象に特化したとある大学の協力を取り付けたらしい。
敷地面積に関しては東京ドーム4個分(仮)、裏山まで存在する。
「屍食教典儀」
旧き魔道書の一冊であり、闇に生きる者達が行った背徳的行為に関する記述を残す書物。
その内容は、正常な感性を持つ人間にとっては到底受け入れられるものではなく、まさしく邪悪の一端である。
主に記されている系統は、深淵・瀑布・地殻。
以上です
プロダクションにサリナとメアリーが時折来るようになりました。薫とメアリーで色々特訓し、それを手伝うつもり。
『奇妙な竜族』こと古の竜族の情報も探しているようです
…あとピィに色仕掛けするつもり。こういう人からかいたい年頃なのよねー
乙乙
学祭はどうなるのかなー
参加するためにも早く島村さんとの決着つけないと・・・・・
プロダクションがまた賑やかになったか
堕天使と竜の2体目って結構な戦力集まってますよね
すげえ短い話投下しまー
菲菲「と言う訳で、今日はフェイフェイの誕生日ダヨー!!」
菲菲「マンモンちゃん、祝ってイイヨ!」
桃華「・・・・・・・。」
桃華「急にわたくしの元に直接訪ねてきて、」
桃華「何が、”と言う訳で”なのか全く理解できませんわね。」
菲菲「人間界では誕生日はお祝いするものって聞いたヨー!」
桃華「フェイフェイさん。あなた大昔の生まれで、その上にずっと寝ていらしたのに。」
桃華「産まれた日なんて覚えてますの?」
菲菲「ぶっちゃけ覚えてないネ!」
菲菲「そもそもたくさんの神々を食べて吸収してる内に、最初にアモンとして産まれ落ちた記憶とかほとんど忘れちゃったヨ!」
菲菲「とりあえず今の自意識が芽生えたのがこのくらいの時期だったから今日が誕生日でイイと思ったネ!」
桃華「・・・・・・よくそんな適当なことで、よりにもよって『強欲』の悪魔であるこのわたくしに誕生日祝いをねだれた物ですわね。」
桃華「流石は、初代『強欲』の悪魔と言うべき・・・・ですの?」
桃華「・・・・・・・ですが、まあ」
桃華「丁度わたくしも休憩に入るところでしたし。」
桃華「ついでにですけれど、お茶くらいなら淹れて差し上げますわ。」
菲菲「!」
菲菲「すごく珍しいものが見れた気がするヨ!」
桃華「ええ、本当に。わたくしが直々に淹れるお茶なんて、Pちゃまでも滅多に飲めませんのよ。」
桃華「誕生日祝いと言うなら、これ以上はあり得ませんわね。」
桃華「ところで、フェイフェイさんは今ままで何をしてましたの?」
菲菲「お祭りの会場でチャーハン作ってたヨ!」
桃華「・・・・・・・。」
桃華「まあ、何でもいいですけれど・・・・・・。」
菲菲「マンモンちゃんの方は、神を殺す武器は完成させたのカナ?」
桃華「・・・・・・あら?」
桃華「ウフッ♪もしかしてフェイフェイさん、警戒してますの?」
菲菲「当然ダヨッ!対神特化兵器なんて真っ先にふぇいふぇいが殺されそうダヨ!」
桃華「フェイフェイさんは数多の神を束ねた魔神ですものね。」
桃華「神を殺す力は、効き目抜群すぎるはずですわ。」
菲菲「本当ダヨッ!そんなの出来たらすごく困るヨ!」
桃華「あまり困ってるようには見えませんわね♪」
桃華「お茶入りましたわよ。どうぞお召上がりに。」
菲菲「くんくん。いい香りダネ!それじゃあいただきますネ!」
菲菲「ごくごく、ぷはーっ」
桃華「・・・・・・もっと味わって飲むとかありませんの?」
菲菲「美味しかったヨー!」
桃華「まあ、当然ですわ。」
桃華「・・・・・ご心配なさらなくても、『原罪』はまだ完成していませんし、」
桃華「ふぇいふぇいさんはわたくし達の協力者。完成しても刃を向けたりはしませんわ。」
菲菲「本当カナー?」
桃華「ええ、神に誓いますわ。」
菲菲「すごく嘘くさいヨ!!?」
桃華「ウフッ、冗談ですわ♪」
桃華「ですが、フェイフェイさん。わたくしは、あなたにもこれから産まれるモノを祝福して欲しいと思ってますのよ。」
桃華「ですから、それに立ち会って頂くまで、わたくしにあなたを殺すような事はできませんわ。」
菲菲「悲しいほどに打算的だからこそ信用できちゃうヨ。」
菲菲「けれど、マンモンちゃんにふぇいふぇいが上手く利用できるカナ?」
桃華「うふ・・・・・ご期待に添えるように、懸命に踊って見せますわ。」
桃華(・・・・・・歴然たる力の差故の余裕。)
桃華(フェイフェイさん。きっとその隙が命取りになりますわよ。)
桃華(・・・・・・とは言え、おそらくそれはずっと先の事。)
桃華(とにかく、今は『原罪』の完成を急ぐくらいしか出来ませんわね。)
おしまい。
すんごく短いけど、
誕生日祝いくらいしてもいいんじゃないとサラッと
(魔神に誕生日とかないんじゃね?、とか思いつつも)
フェイフェイおめでとうダヨー
皆おつー
>>165
>ここで言う学園祭とは周辺の小中高更には大学まで巻き込み、その上一般からも参加可能というイロモノ行事。
そうそう、これこれ
ベタだけどこういう設定、好き
>>178
ああ、『プロダクション』が賑やかになるな……
ラファエルのことを調べると、この天使アスモデウスやアザエルをやっつけてるんだよね
紗理奈や千鶴、もしかしたら奏とも因縁のありそうなちゃんみおェ……
>>185
フェイフェイ誕生日おめでとう!
マンモン同士の腹のさぐり合いイイヨー
皆おつー
>>165
>ここで言う学園祭とは周辺の小中高更には大学まで巻き込み、その上一般からも参加可能というイロモノ行事。
そうそう、これこれ
ベタだけどこういう設定、好き
>>178
ああ、『プロダクション』が賑やかになるな……
ラファエルのことを調べると、この天使アスモデウスやアザエルをやっつけてるんだよね
紗理奈や千鶴、もしかしたら奏とも因縁のありそうなちゃんみおェ……
>>185
フェイフェイ誕生日おめでとう!
マンモン同士の腹のさぐり合いイイヨー
二重投稿になってもた……
涼さん誕生日だからちょっと投下するヨー
本日は松永涼の誕生日である。
涼は今日は大学に行った後、バンドの練習をしてそのままバンドメンバーによる小さなバースデーパーティに行く。その為今日は帰宅が遅い。
だから―
「…今日涼さんのお誕生日なの?」
『えー知らなかったのカヨー』
『あずきは新入りだからナー仕方ないネ』
「ううー!みんなが冷たい!」ジタバタ
あずきは涼の部屋の物達と会話していた。
なお、付喪神だから話せるので、普通の人から見れば盛大な独り言である。
「知らなかったよー!だって今日涼さん帰り遅いって事しか言わなかったし!!」ジッタバッタ
『帰ってきたら祝えばええやないカ』
「だがしかし!あずきには今お金がないの!」
『あずきにお金があった時期が果たしてあっただろうカ…』
『やーいニートー』
「うるさいよ!あたしは涼さんにご飯作るお仕事してるの!…掃除とか涼さんが皆に命令してやってるからできないんだもん!!」ジタバタ
『涼はお前が来る前から…こうして自室を出かけている間に掃除終わらせてるからナー』
「…涼さんの能力絶対弱くないよね…?」
『あずき、仕事さがぞうゼ?』
「むー!あずきは和服だから着られるのが仕事なの!」
『…涼は着てないよナ』
「だって涼さん『意思もった和服着たら憑かれそうだから却下』ってー!」ジタバタ
『で、実際どうなのヨ』
「…どうなるか?…わかんないよ?」キョトン
『着なくて正解だわコリャ…』
「あーん、何かないかなー!『誰か』使われてない子いなかったっけー?」
裁縫箱を弄りながら、あずきはちょっと必死にいろいろ探し始めた。
「涼!誕生日おめでとー!」
「おめでとう!」
「めでたいねー」
「はは、ありがとなー」
放課後、涼はバンドのメンバーとともにカラオケ店へ来ていた。
「そしてそして~もうすぐよ!例の学園祭!!気合い入れていかないとね!!」
ベーシストがぐわっと宣言するように言う。
秋炎絢爛祭。京華学院にて行われる大型行事。そこのライブステージに、彼女達のバンドが参加できたのだった。
国内最大規模の学園祭。観客も大量にいるだろう。緊張もあるがそれ以上に彼女達が今までやってきたライブでも最大規模だ。ワクワクが止まらない。
「どどど、どうしよう…意識したら今から緊張する~!」
「アンタはホントに…」
「まぁ、ステージに立てば吹っ切れるからいいでしょ。」
ギタリストの少女が少し青ざめるのをベーシストの少女とドラマーの少女がなだめる。
こんな子だがステージに立てば本当に吹っ切れて人が変わるから大したものだと思う。
カラオケで思い切り歌い、別の店で夕飯を食べ…夜になってしまった。
帰宅し、ドアをあける。
「ただいまー」
返事は帰って来ない。もうすでに寝てしまったのだろうか。
「むにゃ…りょーさん…zzz」
部屋に入り明かりをつけると、机に伏してあずきが寝ていた。
「…待ってたのか?」
少し申し訳なくなり頭を撫で…机の上のあるものに気付いた。
…黒い布に花の柄のシュシュだ。…非常に見覚えがある。机の上には裁ち鋏や糸や針。
「…一応、貰っておくか…」
布団まで連れて行って毛布をかける。彼女の誕生日は実にいつも通りに始まり、少しいつもと違う様に幕を閉じた。
和柄シュシュ
あずきが身を削る思い(物理)で作ったシュシュ。人間だったらホラーだった。僅かながら人体に影響が出ない程度の妖力を秘めている。
本人曰く「着物は大体大きめに作られてるし、あずきは強いから大丈夫だよー」との事。
・イベント情報
涼さんの所属する4人組ガールズバンドが学園祭に出演します
以上です
涼さんはかっこいいしかわいい
ヘアバンドとシュシュのどちらを取るかでしばらく悩んだのは内緒
乙乙ですー
ふぇいふぇいも涼さんもおめでとー!
学園祭もわくてかだぜぇー
ライラさんで投下しますですよー
海皇宮、海皇の間。
玉座に腰掛けるヨリコと、傍らに立つ海龍の巫女。
そしてその前に跪く一人の老人。
ヨリコ「ゆっくり休めましたか、スカルP?」
スカルP「うむ、お陰でゴルフの腕も上達したわい、がっはっは!」
スカルPと呼ばれた老人は顎鬚を撫でながら豪快に笑う。
ヨリコ「ゴルフ……確か、地上のスポーツですね」
スカルP「おお、通いつめてとうとうスコアが90を切ってのぉ……」
巫女「ちょっと、ヨリコ様」
海龍の巫女が会話に割って入る。
ヨリコ「どうしました、巫女さん?」
巫女「あの、こちらのご老人はどなたなのかしら? わからないわ」
いきなり海皇と親しげに話す謎の老人。
巫女にとっては何が何だか分からなかった。
ヨリコ「ああ、すみません。巫女さんは初めてお会いするんでしたね」
ヨリコは巫女に軽く頭を下げた。
ヨリコ「彼は海皇親衛隊隊長のスカルPです。しばらく休暇で地上にいたんですよ」
そしてヨリコは正面に向き直り、巫女を示して続けた。
ヨリコ「スカルP、彼女は海龍の巫女。今は私の側近として働いてもらっています」
スカルP「ほほぉ、そうじゃったか。…………」
スカルPが皺の奥の目を巫女に向ける。
巫女「……何か?」
スカルP「……いや、何でも。よろしく頼むぞ、巫女殿」
巫女「ええ、こちらこそ」
スカルPと巫女は互いに軽く頭を下げた。
巫女(彼にはまだ呪詛が完全には効いていないようね……まあ時間の問題でしょうけど)
スカルP「そういえば、マリナはまだ戻っておらんようじゃな」
ヨリコ「ええ、地上に捜索隊を派遣してはいるのですが……足取りすら掴めない状況です」
マリナ。先代海皇に仕えた親衛隊の一人で、「空」に憧れて脱走した人物である。
スカルP「まあ、あやつは親衛隊でもとりわけ自由なヤツじゃったからの、がっはっは!」
巫女「笑い事では無いわ。計画の為に今は一人でも戦力が欲しいもの」
笑い飛ばすスカルPに、巫女が苦言を呈した。
スカルP「おっと、失礼失礼。しかし、地上侵攻にカイの離反にサヤの負傷……
しばらく離れた内にこうまで状況が変わるとは、まるで浦島太郎じゃな」
ヨリコ「うらしまたろう……?」
巫女「地上の童話ね、わかるわ。……ところで、スカルP。あなた、戦闘外殻は連れていないの?」
巫女はスカルPに質問を投げかけた。
ヨリコ「そういえば……スカルP、アビスカルはどうしたのですか?」
それを聞き、スカルPはきょとんとした様子で答えた。
スカルP「ああ、カンタローじゃな。うん、ワシの孫は知っとるじゃろ?」
ヨリコ「ライラちゃんですね。確か地上へ武者修行に連れて行ったとか……」
スカルP「そうじゃ。その一環としてライラに預けてきた。心配いらん、地上の金も持たせてあるわい」
ヨリコ・巫女「「えっ」」
スカルPの発言に、ヨリコと巫女は思わず間抜けな声をあげた。
スカルP「ライラは天賦の才能を持っておる。きっとワシ以上にアビスカルをつかいこなせるようになるわい」
ヨリコ「……あの、ライラちゃんには護衛のカスタムイワッシャーが二体ついていたはずですが……」
スカルP「がっはっは、これは異な事を仰るヨリコ様! それだけではライラの修行にならんじゃろう」
ヨリコのおそるおそるながらの確認を、スカルPは豪快な笑いで一蹴した。
ヨリコ「あ、はい…………では、スカルPには以前通り、皆の訓練のコーチを行っていただきます」
スカルP「うむ、任されよ!」
巫女「……わからないわ……」
ヨリコ「? ……巫女さん、何か仰いましたか?」
巫女「え? い、いえいえ何も?」
巫女は頭を抱えた。
戦闘外殻が更に一体地上にいる。また一つ不安定要素が生まれてしまったのだ。
――――――――――――
――――――――
――――
――――
――――――――
――――――――――――
地上、とあるコンビニ。
昼間だというのに客はほとんどおらず、店員も隅で震えていた。
店の中には、褐色の肌を持つ少女が一人。
そしてその両脇に、近頃街を荒らしまわる鰯型ロボット……の色違いロボットが二体。
赤い体に二本角が生えているのと、青い体に一本角が生えているの。
彼らが入ってくるなり、元いた客はみな一目散に逃げ出してしまった。
店員(やべえ……やべえよ……誰かヒーロー呼んでねえのかよオイ……)
やがて、ロボットの内片方……青い一本角の方がレジのほうへ歩いてくる。
店員「ヒッ!?」
カシャン、カシャンと歩み寄るロボット。
店員の震えは止まらない。
店員(こ、ここここ殺される……)
やがてレジの目前で停止したロボットは、店員へ右手を突き出した。
店員「ひいいいっ!! …………ん?」
殴られる、と思った店員に突き出されたのは、拳ではなくアイスだった。
坊主頭で大きな口の少年がパッケージの、ガリガリとした食感がウリのアイス。
青ロボット「おいくらですか?」
店員「……へ?」
ロボットからの予想外の言葉に、店員の思考はフリーズした。
青ロボット「おいくらですか?」
店員「…………あ、え、えっと……百円です」
とりあえずマニュアルどおりの対応に移る。
赤ロボット「おひとつください」
今度はいつの間にか近づいていた赤い二本角のロボットが百円玉をレジの前にチョンと置いた。
店員「あ、はい……百円ちょうどちょうだいします」
レジ袋を取り出そうとした店員に、青いロボットが平手をピッと突き出した。
店員「ひっ!?」
青ロボット「シールでけっこうです」
店員「は、はい……失礼しました……」
言われた通りにシールを貼り、青いロボットに手渡す。
青ロボット「ありがとうございます」
赤ロボット「ありがとうございます。ライラさま、いきましょう」
ペコリとお辞儀したロボット達は、ライラと呼ばれた少女の手を取り店を出た。
店員「……あ、あざっしたー……」
余談だがこのコンビニ、後に「鰯のロボットが律儀に買い物したコンビニ」として、いくらか盛況したという。
――――――――――――
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青ロボット「ライラさま、アイスをどうぞ」
青いロボットが袋を破り、ライラにアイスを手渡す。
ライラ「ありがとうですよー、シャルク。ガルブ、袋をお願いしますです」
ライラは青いロボット――シャルクに例を言い、シャルクは赤いロボット――ガルブに袋を手渡した。
ガルブ「はい。しょうきゃくします」
ガルブは受け取った袋を空へポイと放り投げ、目から一発ビームを撃ってそれを蒸発させた。
ライラ「ん、おいしいでございます」
ライラはアイスをほお張りながら顔を少し綻ばせる。
シャルク「それはなによりです。ライラさま、ほんじつのしゅぎょうですが」
シャルクはそこで一度言葉を切り、軽く周囲を見渡す。
シャルク「あいにく、ちかくにカースがみあたりません。いかがしましょうか?」
ライラ「おー、それは困りましたですねー」
ガルブ「われわれがライラさまのあいてをすると、われわれがスクラップになってしまうおそれがあります」
ガルブが自らのボディを叩きながら言う。
ライラ「けぷ。では、仕方が無いので本日の修行はお休みにしましょうです」
アイスを食べ終えたライラが残った棒をくるくると指で回す。
シャルク「そうですね。ではほんじつのおやどのてはいを……」
「カースだー!!」「逃げろー!!」
シャルクの言葉を遮り、何人もの人々の悲鳴が聞こえてきた。
ガルブ「……おや?」
ライラ「修行ができそうでございますねー、カンタロー」
『ゴトンゴトン』
ライラの声に応え、地面から大きな金属のシーラカンスが姿を現した。
シャルク「もし、そこのかた。カースはどこですか?」
市民「ひぃっ!? こ、こっちにも鰯ロボ!?」
ガルブ「カースはどこですか?」
シャルクとガルブが逃げてきた市民に詰め寄る。
市民「ひっ……あ、あっちです……!」
シャルク「あちらですね。ありがとうございます」
ガルブ「ありがとうございます」
ライラ「ありがとうですよー」
『ゴトン』
四人……いや、一人と三体は代わる代わる礼を述べ、市民が指差した方角へ向かった。
――――――――――――
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『ヤクソクスル! オレガオマエラノサイゴノゼツボウダァァ!!』
『クワセロ! クワセロ! クワセロォォォ!!』
街に現われたカースは二体。それぞれ傲慢と暴食。
そして、
Cイワッシャー「アー、ヤルキデネェ。ドッカニカッショクキンパツロリデモオチテネーカナー」
気だるげにビームを放つカースドイワッシャー。属性は怠惰……いや、色欲。
Cイワッシャー「アー、チョットオレロリサガシテクルワ。オマエラテキトーニヨロー」
そう言ってCイワッシャーはその場を後にしようとした。その時、
ライラ「……イワッシャーでございますねー」
シャルク「カースといっしょにいます」
ガルブ「そういえば、さきほどのひとは『またいわしのロボット』といっていましたな」
現場にライラ達が到着した。
Cイワッシャー「……マジカヨ。ジョウダンデイッタノニマジデカッショクキンパツロリキチャッタヨオイ!!」
ライラの姿を見たCイワッシャーが、即座にやる気を取り戻した。
シャルク「あれはライラさまをねらうようです」
ライラ「そうですかー、ならわたくしがおあいてしますですよー」
ガルブ「あのカースはわれわれにおまかせを」
そう言ってシャルクとガルブはカースに飛び掛った。
ライラ「では、いきますですよーカンタロー」
『ゴトン』
ライラ「オリハルコン、セパレイショーン」
ライラの掛け声でカンタローが分解され、ライラに装着されていく。
ライラ「アビスカル、ウェイクアップですよー」
戦闘外殻『アビスカル』を纏ったライラが少し気の抜けた決めポーズをとる。
Cイワッシャー「ヨ、ヨロイロリ……ウン、コレハコレデ……」
Cイワッシャーはそんなライラの姿をまじまじとみつめている。
ライラ「隙だらけでございますよー。……グランパ直伝、《六骨》」
ライラはトン、と地面を蹴ると、Cイワッシャーの懐へ一瞬で踏み込んできた。そして、
Cイワッシャー「アギギギギギギッ!?」
腹部に鈍い衝撃が『瞬く間に六回』走った。
Cイワッシャー「イッデェェェ!! コノヤロォ!!」
Cイワッシャーが反撃の拳を振るう。
ライラ「無駄が多いですねー」
ライラはその拳を掌でスッと受け止め、自らの体を回転させてそれを受け流した。
ライラ「グランパが見たら怒りますですよー。……グランパ直伝、《骨挽》」
そして回転の勢いをつけ、Cイワッシャーの顔面に裏拳を叩き込んだ。
Cイワッシャー「グボッ!? ワ、ワレワレノギョウカイデモチトキツイゼ……!」
『サカナ! サカナ! クワセロォォォ!!』
暴食のカースが大口を開けてシャルクに迫る。
シャルク「おことわりします」
シャルクは素早いバックステップでそれを回避した。
シャルク「すきあり」
そして、背中から取り出した刀でカースの体を切り裂いた。
『ギェッ!? サ、サシミニサレルゥ!?』
『ミナマデイウナ! オレガコロシテヤル!!』
傲慢のカースがその拳を何度も何度もガルブに叩きつける。
ガルブ「そんなものはききませんよ」
ガルブが両腕を重ねて作り出した巨大なシールドは、その拳を全て受けきった。
ガルブ「こちらのばんです」
ガルブのシールドに無数についている突起から、細いビームが何本も飛び出し、カースの体を焼く。
『グオッ!? オ、オマエハオレニコロサレルシカクヲエタァ!!』
Cイワッシャー「エエイ、チッタァオトナシクシロォ!!」
ライラ「おっとと、ちょっとあぶないでしたです」
Cイワッシャーのビームを、ライラは身軽な動きで回避する。
ライラ「グランパ直伝、《崩骨》」
ライラの掌底がCイワッシャーの腹部にめり込む。
Cイワッシャー「グッ!?」
ライラ「グランパ直伝、《剣鋼骨》」
掌底で入ったヒビに、今度はライラの手刀が深々と突き刺さる。
Cイワッシャー「グオォ!?」
ライラ「グランパ直伝、《頭鎧骨》」
更に腹部目掛けてヘッドバット。
耐えかねたCイワッシャーはとうとうその場に倒れこんでしまった。
シャルク「かくのいちはわりだせました。つぎできめます」
暴食のカースの執拗な捕食攻撃を避けながら、シャルクは刀をもう一本取り出した。
『クワセロクワセロクワセロクワセロォォォォォ!!』
カースが渾身の勢いでシャルクに迫る。
シャルク「いまです」
シャルクは大きく踏み込み、カースの下顎にある核を十字に切り裂いた。
『オッ、オボロロロロロロロロ!?』
『スペシャル! ブリザード! サンダー! グラヴィティ! サイコォー!!』
傲慢のカースはいつの間にか腕を四本に増やし、なおもガルブを殴り続ける。
ガルブ「……エネルギーチャージがかんりょうしました」
ガルブは一旦カースと距離を取り、腕を組み替えた。
ガルブ「はっしゃします」
腕先から先ほどより太いビームが一本走り、カースの核を貫いた。
『ヒィィ! ヒィィ! ヒィヒィヒィィ!?』
Cイワッシャー「クゥ……ロリ、ツエエ……ンォ? ヤツハドコイキヤガッタ!?」
起き上がったCイワッシャーは慌てて周囲を見渡すが、ライラの姿は無い。
Cイワッシャー「…………?」
その時Cイワッシャーは、足元のアスファルトに広がる波紋に気付いていなかった。
ライラ「グランパ直伝、《詐骨》」
Cイワッシャー「ウゲェッ!?」
突如地面から飛び出してきたライラの、背中への強烈な肘鉄。
たまらず体勢を崩すCイワッシャー。
ライラ「まだですよー。……グランパ直伝、《内耐骨》」
ライラの鋭い廻し蹴りが、Cイワッシャーを空へと打ち上げた。
Cイワッシャー「グホァッ!?」
ライラ「とーっ」
直後にライラは大ジャンプし、自らが打ち上げたCイワッシャーに追いつく。
ライラ「トドメをしますですよー」
そう言ってライラはCイワッシャーにがっしりとしがみつく。
Cイワッシャー「エッ、チョッ、トドメッテマサカ……セイテキナイmウォオオオオオオ!?」
言葉の途中でCイワッシャーとライラは急降下を始めた。
ライラがしがみつき、重心がずれたためだ。
Cイワッシャー「ヒイイイイイイイイイイイイ!?」
ライラ「……グランパ直伝、《堰終》」
自由落下の勢いとライラの腕力が合わさり、Cイワッシャーの体は、猛烈な勢いでアスファルトへ叩きつけられた。
その時に、ボディと同時に核まで砕けたのは言うまでも無いだろう。
――――――――――――
――――――――
――――
――――
――――――――
――――――――――――
ライラ「終わりましたですよー」
『ゴトンゴトン』
まだ残骸などが残る中、ライラはぐっと伸びをした。
シャルク「おつかれさまです、ライラさま。しゅぎょうとしてももうしぶんありませんでしたね」
ライラ「グランパに褒めてもらえるでございますねー」
シャルクが頭を撫でてやると、ライラは少し得意げに胸を張った。
すると、少し離れた位置で状況整理していたガルブが駆け寄ってきた。
ガルブ「ライラさま、シャルク。しきゅうこのばをはなれましょう」
シャルク「ガルブ、どうしたのです?」
ガルブ「ジーディーエフのきどうたいがせっきんちゅうです。このままでは」
ライラ「このままでは?」
シャルク「カースがいないいま、まちをはかいしたはんにんとまちがわれるかもしれませんね」
ライラ「むー、それは困りますです。急いでどこかへ逃げましょうでございます」
GDFに見つからないよう、ライラ達は駆け足でその場を後にした。
続く
・スカルP
職業(種族)
ウェンディ族
属性
装着系変身ヒール(?)
能力
アビスカル装着による固体への潜水能力
優れた身体能力
詳細説明
海皇親衛隊の隊長。
明るく豪快で細かい事は気にしない。
ある時期から休暇を取り地上でバカンスを楽しんでいた。
本人いわくまだまだ現役らしいが、現在は主に訓練のコーチをしている。
関連アイドル(?)
カンタロー(相棒)
ライラ(孫)
ヨリコ(上司)
関連設定
ウェンディ族
海底都市
戦闘外殻
・カンタロー
スカルP、ライラの相棒である戦闘外殻。姿は巨大な金属製シーラカンス。
厳格で生真面目、必要以上のことは口に出さない。
ホージロー等同様に「固体への潜水能力」を持つ。
・ライラ
職業(種族)
ウェンディ族
属性
装着変身系ヒーロー(?)
能力
アビスカル装着による固体への潜水能力
優れた身体能力
詳細説明
スカルPの孫娘。親衛隊には入っていない。
祖父のバカンスについていき、武者修行としてカンタローと地上の金を持って地上に残される。
以降はシャルク・ガルブと共に地上で主にカースを相手に修行している。
好物は地上に来て初めて食べたアイス。
関連アイドル(?)
カンタロー(相棒)
スカルP(祖父)
シャルク(部下?)
ガルブ(部下?)
関連設定
ウェンディ族
海底都市
戦闘外殻
・アビスカル
ライラがカンタローを身に纏いウェイクアップした姿。
戦闘外殻としては初期型で、「固体への潜水」以外には堅牢な装甲くらいしか特徴が無い。
良くも悪くも装着者のセンスが活きる戦闘外郭である。
・グランパ直伝技……ライラがスカルPから修行を受け学んだ技の数々。
六骨《ろっこつ》……瞬時に六発のパンチを叩き込む。
骨挽《こつばん》……相手の攻撃の勢いを利用したカウンター。
崩骨《ほうぼね》……掌底を叩き込む。
剣鋼骨《けんこうこつ》……斬って良し突いて良しの手刀。
頭鎧骨《ずがいこつ》……ヘッドバット。ちなみにスカルP一番のお気に入り技。
詐骨《さこつ》……死角に回っての不意打ち。
内耐骨《だいたいこつ》……廻し蹴り。
堰終《せきつい》……上空へ放り上げた相手を地面に叩きつける大技。ライラのお気に入り技。
・カスタムイワッシャー
要人護衛の目的で数体試作されたイワッシャーの改良機。
コスト面などの問題で、結局ロールアウトされたのは二機のみ。
簡単な言語回路を持ち、自然発生型のカース程度なら単体でどうにか出来る戦闘力を持つ。
・シャルク
ライラに付き従うカスタムイワッシャーの片割れ。
青いボディと頭部の一本角が特徴。
近接・高機動戦を得意とし、戦闘時は二本の刀を使う。
この刀は連結させてナギナタやブーメランにも出来る。
・ガルブ
ライラに付き従うカスタムイワッシャーの片割れ。
赤いボディと頭部の二本角が特徴。
遠距離・防御戦を得意とし、戦闘時は両腕の半円型盾を使う。
この盾は合体させて巨大な円盾になる他、いくつものビーム砲を内蔵している。
・イベント追加情報
「謎の赤と青の鰯ロボ」の噂が流れはじめました。
以上です
ライラさん可愛い
激乙ぷんぷん丸
ぐんそー一匹下さい
投下しまー
とあるアパートの一室。
ここには憤怒の街を抜け出したマリナとみりあ、そして若神Pが暮らしていた。
マリナ「ねえ若神P君、秋炎絢爛祭って知ってるかな?」
マリナが煎餅をかじりながら若神Pに問いかける。
若神P「しゅ、しゅうえん……何ですかそれ?」
マリナ「あー、やっぱ知らなかったわね。この辺一帯を巻き込んだ大きなお祭りらしいのよ」
若神P「お祭りですか。それが、どうかしました?」
若神Pも煎餅に手を伸ばす。
マリナ「そのお祭りにねー、みりあちゃんを連れてってやってほしいわけ」
若神P「みりあちゃんをですか?」
マリナ「ほら、あの子こっちに来て新しい学校に転校したばっかりじゃない?」
若神P「そうですね、あの街も復旧にはまだまだかかりそうですし」
若神Pはふと憤怒の街の光景を思い出す。
……なかなかに胸糞悪くなる光景だった。思い出さなければ良かったと後悔する。
マリナ「みりあちゃんがお祭り行きたいって言ってたんだけど、それだけに心配でねー。
若神P君に保護者やってもらいたいのよ」
はふぅ、とため息をつくと、マリナは煎餅の欠片を口の中に放り込んだ。
若神P「……って、そんなに心配ならマリナさんがついていけば……」
マリナ「そうしたいのはやまやまだけどねー、あいにく長期で仕事入ってるのよ。それも朝から晩まで」
若神P「ああ、なら仕方ないですね。分かりました、僕でよければ」
若神Pも煎餅の最後の一欠片を口に入れた。
マリナ「助かるわー、よろしくね、若神P君」
若神P「任せて下さい。……そういえばマリナさん、最近塩水浴びませんね」
マリナ「ん? ああ、まーね。ちょっとイイ物が手に入ったから。っと、そろそろ時間だわ。
あたしちょーっと出かけるからさ、留守番よろしく」
言うが早いか、マリナは置いてあったバッグを抱えてそそくさと出て行ってしまった。
若神P「いってらっしゃーい。…………みりあちゃんが帰ってくるまでヒマだなあ」
若神Pは光輪を生み出し、それを指先でクルクルと弄んだ。
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マリナ「さーて、集合場所はー……」
??「あれ、沢田さん」
突然隣から声を掛けられた。
マリナ「ああ、大牙君。大牙君も今おでかけ?」
大牙「ええ、今日は昼からのバイトなんで。沢田さんもですか?」
声を掛けてきたのは、隣の部屋に住む古賀大牙という青年。
母は既に他界し、父と弟、妹とペットのイグアナの五人(?)家族だという。
マリナ「ん、まあねー」
彼らを始め近隣の人間には、マリナ達の事は「事故死した親戚の子を預かる姉弟」ということにしている。
マリナ(まあ、弟以外はおおむね間違って無いしねー)
大牙「お互い大変ですねー」
マリナ「そうね。んじゃあ、あたし急ぐから」
マリナは会話をそこそこに切り上げ、階段を早足で下っていった。
大牙「はい、また後でー。…………ふう」
この古賀大牙という青年、これは本名ではない。
大牙→ティラノ「近所付き合いってのも大変だな……」
本当の名はティラノシーザー。古の竜の一族だ。
人間社会に潜むに当たって、仮に名乗る名が大牙だ。
ちなみにブラキオは陸、プテラは翼と名乗っている。
ティラノ「……っと、いっけね、俺もバイトバイト……」
ティラノは慌ててバイト先へと向かった。
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マリナ「うーんと、この辺りよね。トビー、おいで」
『シャンシャン』
人通りの無い裏路地で、マリナの呼びかけに応えて金属のトビウオ、トビーが現われた。
マリナ「さーて、トビーが目印になるって言ってたっけ……」
??「マリナ、もう来ていたの?」
突然、背後から声をかけられた。
マリナ「あ、瞳子」
瞳子と呼ばれた女性はマリナに軽く頭を下げた。
瞳子「芽衣子はまだのようね」
マリナ「みたいね。そういや、『この仕事』に就いてからは初出勤じゃない? お互いに」
瞳子「……それは正確じゃないわね。勧誘される時に、一度『彼』に会っているもの」
マリナ「あー、それもそうね」
二人はしばし他愛も無い会話を続けた。やがて、
??「あー、いたいた。すいません、瞳子さんマリナさん。お待たせしました」
二人の元へ駆け寄ってくる女性が一人。
マリナ「あら、芽衣子ちゃんおひさー」
瞳子「心配しなくても、そこまで待っていないわ」
女性の名は、並木芽衣子といった。
芽衣子「そう言ってもらえると嬉しいですよ。じゃ、早速ですけどご案内しまーす」
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次の瞬間三人(とトビー)は、テーブルとソファがあるだけの小さな部屋に立っていた。
ソファには、一人の男が腰掛けている。
瞳子「……未だに慣れないわね、この感覚」
マリナ「そうねー、……で、『長期のお仕事』の内容をまだ聞いてないんだけど、サクライさん?」
男の名は、サクライP。かの櫻井財閥の党首だ。
サクライP「ああ、まずはこの映像を見てもらいたい」
サクライPはプロジェクターを取り出し、壁面に映像を投影した。
――臙脂色の作務衣を来た少女が、炎を纏う刀でカースを両断する映像。
――小柄な剣士の少女が、翼を生やし、妖怪の巨体を断つ映像。
――戌頭の異形を連れた女性が、自らの刀を七変化させる映像。
――「あ~っはっはっはっはっは!!」
瞳子「…………これは?」
サクライP「『鬼神の七振り』。カースの核を内蔵した妖刀さ」
マリナ「聞くからにヤバそうな代物ねー……で、これを?」
サクライPはプロジェクターを止め、二人に向き直った。
サクライP「ああ。回収して欲しい。ちなみに三つ目の映像は君たちと同じエージェントで、
彼女は現在四つ目の映像に映っていた少女に接触中だ」
瞳子「なら、私たちは一つ目と二つ目を?」
サクライP「現在所在が確認できているのが、『暴食』『強欲』『傲慢』だ。
君たちには残りの『憤怒』『怠惰』『嫉妬』『色欲』を探してもらいたい」
マリナ「ふーん。……って、最初の女の子が七本持ってなかった?」
芽衣子「それがですねー、どうやら今はその子の手元に無いらしいんですよ」
横から芽衣子が口を挟む。
サクライP「『暴食』の方にも、いずれはエージェントを派遣する予定だ。ああ、そうそう」
サクライPが思い出したように付け足す。
サクライP「道中でカースに遭遇したら、その核を破壊せずに回収してもらえるかな」
瞳子「カースの核を……? 『鬼神の七振り』の量産でもするつもりかしら?」
サクライP「はは、ご想像にお任せするよ」
マリナ「……ま、いいけどね。こんないい物貰っちゃ断るに断れないし」
マリナはそう言ってバッグから何かの錠剤が入った瓶を取り出した。
サクライP「一粒で24時間、体内を海水と同じ成分で潤す錠剤。……ウェンディ族である君には必携の品だろう?」
マリナ「まーね。あむっ……どこからそんな情報得たんだか」
少し渋い顔をしながらも、マリナは錠剤を一粒口に放り込む。
瞳子「……そうね、私も……」
そう言って瞳子が取り出したのは、小さな機械。
漫画コミックほどの大きさで、液晶ディスプレイと電源ボタンがついているだけのシンプルなものだ。
瞳子「これを貰ってから、道に迷う頻度もかなり減ったもの」
サクライP「では、引き受けてもらえるかな?」
瞳子「ええ」
マリナ「お任せ」
サクライ「ありがとう。詳細が分かればこちらからも連絡しよう。芽衣子くん」
芽衣子「はいはーい、ご案内しまーす♪」
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芽衣子「じゃ、私はこれで」
言い残して芽衣子は消えた。
マリナ「さーて、これもみりあちゃんの学費のためだし、頑張らなきゃねー」
瞳子「…………」
大きく伸びをしたマリナとは対照的に、瞳子は俯いている。
マリナ「……瞳子、どうかしたの?」
瞳子「え? い、いえ、何でもないわ」
瞳子は慌てて取り繕うが、「何かを思いつめている」のが明らかに見て取れる。
マリナ「……一応言っとくけど、あんまり溜め込むのは良くないわよ?」
瞳子「分かってるわ、子供じゃあるまいし」
マリナ「ならいいけど。じゃ、またねー」
『シャッシャシャン』
マリナはトビーを連れてその場を去った。
瞳子「…………はぁ」
一人になった瞳子は、ため息をついた。
瞳子「食うに困って怪しげな財閥の犬……こんな私を、夏美ちゃんが見たら……」
瞳子の脳裏に描かれたのは、共に戦った親友の顔。
瞳子「……幻滅、されるかしらね……」
誰に言うでもなく、瞳子は『鬼神の七振り』の手掛かりを求めて歩き始めた。
続く
設定更新
・マリナ(地上人名・沢田麻理菜)
職業(種族)
サクライのエージェント(ウェンディ族)
属性
装着変身系ヒーロー
能力
アビストラトス装着による高速飛行
優れた身体能力
詳細説明
先代海皇に仕えていた親衛隊の一員。
「ホンモノの空」を見るために戦闘外殻諸共海底都市を飛び出し、紆余曲折の末にみりあを預かる。
彼女が急に飛び出したため親衛隊の6席は未だ空席のままである。
海皇がヨリコになる前に飛び出したので、海龍の巫女の呪縛は受けていない。
親バカの気がある。
関連アイドル(?)
みりあ(愛娘同然)
トビー(相棒)
瞳子(エージェントの同僚)
・服部瞳子/エンジェリックファイア
職業
サクライのエージェント
属性
魔法少女
能力
魔法少女への変身及び魔法の行使
詳細説明
かつて三船美優/エンジェリックカインドと共に戦った魔法少女たちの一人。
最初は「悪者やっつけるためならちょっとくらい街壊れてもいいよねっ」という思想を持ち、
美優達とはどちらかといえば対立し、単独で敵と戦うことも多かった。
やがて戦いを重ねるうちにお互いの心を通わせ、真の仲間となった。
いわゆる追加戦士枠で、彼女だけ使う力が光でなく炎だったり、変身掛け声が違うのもお約束。
関連アイドル
美優(仲間)
レナ(仲間)
夏美(仲間・親友)
マリナ(エージェントの同僚)
・海水剤(仮)
サクライがマリナを勧誘する際に渡したもの。
一粒飲めば24時間、体中が海水と同じ成分で潤されるというウェンディ族垂涎の一品。
・簡易GPS(仮)
サクライが瞳子を勧誘する際に渡したもの。
電源を入れると現在地と周辺100m~10km範囲の地図が映し出されるという迷子垂涎の一品。
・イベント追加情報
マリナと瞳子がエージェントとして『鬼神の七振り』捜索を開始しました。
「カースの核回収」も並行するようです。
以上です
サクライのこまいとこ間違って無いかと戦々恐々
え? なんでたたり場の映像があるかって?
エージェントに「触れた機械が必ず正常に作動する能力者」とかいたんじゃない?(適当)
サクライPと芽衣子さんお借りしました
おつー
瞳子さんェ……どんどん残念大人に…
サクライ、核集めて何をするのやら…
鏡像戦、投下します
コツコツと、ハイヒールが夜の空気を震わせる。
深夜、人気の全くない郊外をキヨラは歩いていた。
バッグには二体のぬいぐるみ。熊のぬいぐるみはピコピコとゲーム機を操作している。
「…ねぇ、この辺りはどう?暴れても大丈夫そうよ?人払いの魔法もベルフェゴールちゃんがかけてくれたし。」
立ち止まり、笑顔で振り向く。
「あら…気遣いのつもり?」
そこにいたのは傲慢の鏡像…ぬいぐるみに魂を詰められたルシファーの気配を感じて後をつけていたのだ。
レヴィアタンとの口約束なんて最初から守る気はない。さっさと自分が本当に本物になる為に行動していたのだった。
「傲慢の鏡像…ルシファーの傲慢のカースからレヴィアタンが呪詛で作り上げた偽物だね。呪いの力で普通のカースより強いよ。変身もできるみたい。…です。」
ベルフェゴールが画面を見つつキヨラに報告する。レベルダウンしても情報は余裕で拾える。レベルに左右されるような能力ではない。
「レヴィアタンが…そう、変な事ばっかりするわねぇあのオバサン。こっちが迷惑する呪術なんて…害悪激悪嫉妬おばさんじゃなぁい?」
「言えてるねー」
ルシファーが面倒臭そうに鏡像を見る。自分の偽物が本物になろうとするなんて滑稽すぎる。傲慢故にそう確信し、相手にしていない。
「キヨラさん、さっさと片付けちゃってくださいよーもう遅いし早く寝たいんだよねアタシ。」
「そうよねぇ…夜更かしはお肌に悪いものぉ♪」
「…バカにしてる?そんなちっぽけな体でよく本物を名乗れるわね…♪」
鏡像は自分を相手にしていない二人に苛立つ。傲慢故に自分を弱く見られるのを嫌う。…自分の力を思い知らせてやる。
呟くのは呪詛。魔法・魔術とは違う相手を蝕む術。魔術同様に詠唱を必要とするが…それが本物との相違点であり勝る所だ。
『汝、我が魔の力を受け、呪われよ。その呪いの名は【五感剥奪】!右も左も上も下も
関係ない哀れな木偶の坊と化せ!』
黒い光がキヨラに向かって飛ぶ。
キヨラは真横に走り出し、それを回避。しかし鏡像は一度唱えたその呪いの光を両手に構えていた。
呪詛そのものを宿している鏡像は一度の詠唱で何度も発動させることが出来た。何発も何発も黒い光が飛び、キヨラを追い詰めてゆく。
「ほらほらほら~逃げてるだけなんて退屈ですよ~?」
地を呪う為の呪詛ではないので大地が汚染されることは無い。だが光には魔術のような威力を持たせ、それはまるでレーザーだ。
光が大地にぶつかるたびに地が削れていく。その音が非常に騒がしく、人払いの魔法に感謝した。
「っ!」
そしてついに、回避を続けていたキヨラが削れた地面のせいでバランスを崩す。そこを容赦の欠片もなく呪いの光が襲い掛かった。
ルシファーとベルフェゴールは投げ出され、キヨラがその場に倒れこんでいる。
「その呪いは恐ろしいのよ?どんどん五感が無くなっていくんだから…聞こえてないと思うけど♪きゃははっ!」
空中から高らかに笑う鏡像。実に気分がいい。
「ちょっと、キヨラさん!?」
「…る、ルシファーちゃん…きて…」
「…はぁーい」
キヨラにはもう何も聞こえない。少しずつ触覚も消えかけているのが分かる。せめて視覚が無くなる前に、やるべきことを行う。
唇をパクパク動かしながらも、不安定な体のバランス耐えながらも…彼女は勝つことを考える。
『……』
バッグからいつもの物よりかなり小さな、普通の医療用サイズの注射器を取り出した。自らの左腕に突き立て、レベルドレインを発動させる。
「…勝つのは貴方よ。」
その吸い上げた自分の力をルシファーに注ぎ込む。背中を注射器を持っていない方の手でポンと押して、完全に地に伏せた。
「! これはっ…何を考えて…!」
「やばいよやばいよ!パーティの最強メンバーが行動不能とか死ぬしかないじゃん!!こっちレベル1なんだけど!!」
「…違うわ」
「え?」
慌てるベルフェゴールにルシファーが姿を変えつつ微笑む。
「…私がいるのよぉ?本物が偽物に負けるはずないわぁ…不本意ながら協力してもらったし…。これなら、勝てる。」
「で、でもっ!」
その会話に痺れを切らした鏡像が割り込んだ。
「うるさいわね…私はそっちにしか興味無いし…貴方は狙わないであげるから、黙っててくれない?」
「あっ、はい。」
ベルフェゴールは倒れているキヨラを押しつつ、距離を取った。面倒事に巻き込まれたくはない。
「…それで、自称・本物さんは…本当に勝てるのかしらね?」
「偽物こそ、土下座してでも帰るべきじゃなぁい?」
「うふ、お断りよ♪」
お互いに別の姿に変わる。ルシファーはユズ、鏡像はレヴィアタンに。
『雷よ、大いなる我が力に従い、その闇を切り裂く身で我が敵の心の音を止めろ!サンダーボール!』
『――――!』
初撃、雷のエネルギー弾が放電しながら襲い掛かる。しかしそれを鏡像は竜の鱗の盾で防いでしまった。
『付与、雷の加護よ~♪』
『氷よ、寄り集まりて塊となれぇ~♪』
次にルシファーはイヴに化け、雷を纏った箒を棒術のように使い襲い掛かるも、同じようにイヴに化けた鏡像の氷に阻まれる。
「なかなかやるじゃなぁい?レヴィアタン…本当に趣味が悪いわぁ…!」
以前のルシファーと同レベルの戦闘能力を持つ鏡像。返してもらった力では足りない。少し荒れる息を誤魔化すように言葉を紡ぐ。
「…あら、余計なお喋りは…『時間稼ぎ』かしらぁ?」
ニヤリと鏡像が邪悪な笑顔を見せる。
『汝、我が魔の力を受け、呪われよ。その呪いの名は【魔力枯渇】!満たされぬ器に嘆き、苦しみ、絶望せよ!』
「キヨラさんっ!」
「……」
ベルフェゴールが悲鳴を上げた通り、その呪いは身構えたルシファーには向かわず、一直線にキヨラに向かい、魔力を少しづつ奪い始める。
当たっていたのがベルフェゴールならば相手の魔力が回復するだけだが…これでキヨラは完全に使い物にならなくなった。
「何のつもりぃ?私を狙わないなんてぇ…!」
それよりも完全に自分を無視した攻撃にルシファーは怒る。明らかに自分を脅威と見ていないのだ。
「回復に特化した魔術師なんでしょ?呪いも使うらしいし…解呪なんてされたら嫌だもの…わかるわよね?」
キヨラばかりを脅威と見ている。…最高に腹が立つ。
「…aaaaaaaaa!!」
「無駄だよ!」
グリフォンに化けて飛び掛かるも、今度はユズに化けた虚像の鎌で切り裂かれた。
「…っ」
腕に深い傷を負い、まともに動かせないのか、ぶらりとしている。
「あはは!マヌケだね!次はそのご自慢の顔を傷物にしてあげるよっ!!」
鏡像はユズ本人はきっとしないような邪悪な笑みを見せながら、鎌をもう一度構える。
『冷気よ、大いなる…「遅いよ」
詠唱の途中に飛び込むように鎌で斬りかかる。
何とか真っ二つになることはなかったが、右半身に縦に大きな傷が生まれた。
真っ赤な液体が服を、全身を濡らす。
「…」
俯き、ふらつくルシファーに、鏡像は指をさして笑う。
「ざまぁ見ろだね!気分いいよ…本っ当に!弱い者いじめってやっぱり強者の特権だよねっ!」
上空に浮かび、勝利を確信しつつ…真上から呪文を放った。
『暴風よ!大いなる我が力に従い、全てを薙ぎ払う驚異で、死神の鎌の如く我が敵を斬り裂け!サイクロンスライサー!』
鎌鼬のような暴風が、ルシファーに襲い掛かる。
ルシファーから飛び出した赤が風の中を舞う。鏡像は完全に勝利を確信した。
「これで…私が…本物の傲慢の悪魔!うふっ、うふふふっ!!」
『雷よ、大いなる我が力に従い、その音を置き去りにして走るその身をもって我が敵の生命に終止符を打て!サンダーボルト!』
「…え?」
風が止み、砂埃の中から雷が走り…鏡像を貫いた。
「なん…で…!」
地に落ち、呻きながら鏡像が疑問を口にする。それに砂埃の中から現れたルシファーが背中を思い切りハイヒールで踏みつけながら笑顔で言った。
「ねぇあなた…特殊メイクって知ってるぅ?」
鏡像は今まで自分と同じようなカースから生み出された偽物としか戦ったことがなかった。
…だから、気付かなかった。
吸血鬼…いや、戦闘に慣れている者ならば感づくこともできただろう。
…彼女から『血の臭いがあまりしない』事に。『あまりにも血が鮮やか』な事に。
「気に食わないけど…あなたの攻撃、確かに痛かったわ…でもまるで効かなかったの…この意味が分かるかしらぁ?」
「…」
答えは簡単。キヨラが唇をパクパク動かしたのは、五感を失いつつあったからではなかった。ルシファーの背を押した瞬間、彼女に呪いをかけたのだ。
…『死の癒し』。性質は『反転』。毒は薬に、薬は毒に。攻撃は痛みさえあるものの、傷は作れない。本来は拷問などに使われるそれを、戦闘に使用したのだ。
余りにも力の差があれば、痛みで気絶ぐらいはしただろう。だが、キヨラに注いでもらった力のおかげか、そんな事はなかった。
傲慢であるルシファーはそれが気に入らなかったが…それよりも自らの偽物に敗北する方が屈辱的であると判断した。
「ふぅ、話が長いとあなたの二の舞になりそうだし…じゃあね。もう二度と生まれない事を願っておくわぁ…」
死神の鎌が鏡像を切り裂く。
露出した核を足で踏みつけ粉々にする。苛々をぶつけるように。何度も何度も何度も何度も…
「…全く呆れる…死神との時の自分とそっくりなんだものぉ…こっちは成長しているのに…ねぇ?」
「そうだね…」
ベルフェゴールの返答に満足そうに頷き、ルシファーは歩み寄る。
「さて、ちょっと下剋上しちゃおうかしらぁ?」
「…あら、それは誰に?」
「!」
首筋に注射針を打ち込まれる。そしてレベルドレインが発動したのを感じた。
「お疲れ様。よくあそこまで…頑張ったわね。」
「…呪いが解けるのが早すぎないかしらぁ?」
「ただでさえ貴重な回復専門の魔術師が解呪を使えなくてどうするの?…さすがにサタン様の呪いほど複雑で発動に時間がかかったらしいものは難しいけど…」
ライオンのぬいぐるみに戻ったルシファーを回収しつつ、キヨラは答える。
「…まぁ、ベルフェゴールちゃんの情報によると、あれもかなり複雑な工程の末に生まれたものらしいじゃない?時間かかっちゃったわ。」
「そうそう、虫のアレみたいにやっていたみたい。あれは執念がすごいと思う。…です。」
何時の間に見ていたのだろうか。いつから五感の呪いは解けていたのか…あまり考えない方がよさそうだ。
「…とにかく。嫉妬の大罪の悪魔…レヴィアタンが他の悪魔のカースを利用しているのはかなり危険視した方がいいわね。怠惰も怪しいもの。」
「あたしのカース、数少ないし働くのか不安なんですがそれは…」
「…とにかく、私達にはやるべきことがあるわ」
「なんです?」
「まずは周辺の地理情報の完全把握。それに伴う人間の時間帯ごとの密集度。もし災厄が訪れた時の為に知っておくべき。それと…」
「…人間界の住居確保及び信頼関係の構築。魔界の住人が魔界の住人を人間界で倒すなら、人間の知り合いがいて困る事は無いもの。」
「あ…死神にしろキヨラさんにしろ、契約者いないから法を考えるなら人間に倒させた方がいいのか。」
「考えたことも無かったわねぇ。力を一人に試しに与えてみたことはあるけど…」
元無法者二人組がいろいろと納得している。
「それにやっぱり…ユズちゃんや姫様に接触もした方がいいかしら。自宅情報までベルフェゴールちゃんが持っているのは意外だったわ。」
「だって自分でも全部見てないし…把握するのめんどくさいですし…」
「…本当に危ない能力よねぇ。敵にいたら厄介すぎるもの。」
「会っただけで自宅割り出せるなんて…しかも現在地まで…。本当に犯罪者向けの力よね。」
「酷い!」
「でも問題のレヴィアタンの現在地は把握できないんでしょう?探すなんて面倒ねぇ…役立たず。」
「さらに酷い!」
今後の方針を考えつつ、3人の姿は闇に溶けるように消えていった。
以上です。鏡像の強さを上手くかけたか心配。
ベルフェゴールの情報収集能力って思ったよりすごいよね…強い(確信)
キヨラさん?あの人回復魔法と解呪と死の呪いと医療器具を使った戦闘しか出来ないよ?(すっとぼけ)
情報
・キヨラさんがレヴィアタンに警戒態勢をとるようです。魔界・天界関係者には話す可能性高し。
・ちなみにデータ収集の為に街を歩いていることが多いです。
乙ー
レヴィアタンの胃がマッハでやばい!
そして、今から更に理由がある胃痛がレヴィアタンを襲う!
投下します!
それはユズがぷちドールをばら撒いた後のお話。
街中を走り回る1人の少女。
その少女は身体が透けていて、中心に綺麗に輝く宝石が浮いている。
「…はぁ…はぁ……」
その少女の顔は、ある中学校に通う生徒や教師なら見覚えがあるかもしれない。
レヴィアタンに身体を奪われた本物の川島瑞樹の魂。その若返ってる姿だ。
祟り場が治まった後も、その身体は消える事なく、さまよい逃げ続けていた。
そして、その背後から何かが追いかけてくるような大きな足音が聞こえていた。
ーーーーーーーー
「逃げても無駄だと思うんだけどね」
その様子をゲーム機を通して見ている者が遠く離れたビルの屋上に一人。
その姿はベルフェゴールにとりつかれていた三好紗南そっくりのカース≪怠惰の人形師≫だ。
「けど、こういうゲームも悪くはないかな」
彼女がそう言ってゲーム機をいじりながら不敵に笑った。
「カースドヴァンパイアはよくわからないのにやられちゃったけど、コレはそう簡単にはやられないよっ!」
「それに人払いの結界もはったし、邪魔する人は来ない!サッサッと終わらせちゃうからね」
何かフラグらしきものを建てたような気がするが、それに気づかず怠惰の人形師は勝ち誇ったように笑った。
場所は戻り、川島瑞樹の魂は走るのをやめ立ち止まっていた。
何故か?
答えは簡単だ。目の前が行き止まりだからだ。
「はぁ……はぁ……しまった……」
息を切らしながら、慌てて、別の道を探そうとする。
『追いかけっこはもう終わりかな?やっぱりヌルゲーだね』
だが、遅かった。声の方を振り向くと、全身が機械のパーツやイワッシャーの残骸、はてはオリハルコンなどの金属類でできたクマのような姿をしたモノがいた。
僅かな隙間から黒い泥が出てるところから、それがカースだとわかるだろう。
そして、そのカースの発する声は遠くから操作する怠惰の人形師のものなのだが、瑞樹は知らない。
『大人しくレヴィアタンの元に戻らない?これ以上抵抗しても無駄だと思うんだけどな』
呑気そうな声を出しながら、最終通告をだす。
だが、対する瑞樹はまだ諦めてないようで、敵対者を睨んでいた。
「私の答えは言わなくっても……わかるわね?」
『はぁ……理解できないね』
その拒絶の言葉を聞き、溜息をもらす。
カースの体からミサイルの発射口やらレーザー兵器などの様々な種類の射撃パーツが出てくる。
『言っとくけど時間稼ぎは無駄だよ?ここら辺に人払いの結界はったから誰も来れないよ?』
「っ!!……」
図星をつかれ、若干顔を引きつらせる瑞樹。
そうしている間にカースは全ての銃口が瑞樹に標準を合わせる。
『じゃあ、これでゲームオーバーだね。魂だけの状態なら殺しても魔界へ行かないで消滅しちゃうからレヴィアタンに繋がる手掛かりは消えちゃうから安心して消えてもらうよ』
「くっ…諦めないわ」
瑞樹はなんとかこの場をきりぬけようと必死に考えるが、無情にもカースの複数の銃口から無慈悲な暴力が……
「わかるわ」
………………………
「………………えっ?」
『えっ……あれ?なんで!?バグ!?』
……襲ってこなかった。
遠く離れて操作してる怠惰の人形師は慌てた声を出し、向こう側で必死に動かそうとしているのが伝わってくる。
一方の瑞樹も状況が上手く飲み込めずキョトンとしていた。
何故動かなくなったのか……答えはカースを見るとわかった。
カースの身体中に沢山の梵字のようなモノがまるで蛇のように蠢き、カースの身体中にまとわりついているのだ。
『これって……呪詛!?』
驚きの声を出すのも無理はない。何故ならこの呪詛を使える人物を怠惰の人形師は知っている。
だが、その人物は川島瑞樹の魂を消すように命令したレヴィアタン。自分の邪魔をするなんてありえない。
そう思考してると、誰も来れない筈の結界内で、何か小さな生き物がトテトテとカースと瑞樹の間に現れた。
??「わかるわ!」
それは川島瑞樹に似た小さな生き物---ぷちどる≪かわしまさん≫だった。
瑞樹「えっ!?な、なにこの子?」
『レ、レヴィアタン!?じゃない!?なにこれ!?』
そのぷちどるの登場に二人は混乱する。
瑞樹は自分に似たその姿に、怠惰の人形師はその使った呪詛に。
二人は知らない。これが死神ユズが深夜テンションによりやらかしてしまった実験によってばら撒いたモノだと。
そして、それは川島瑞樹という魂の波長を刻みこみ、できたのがぷちどる≪かわしまさん≫だ。
では、なぜ≪かわしまさん≫がレヴィアタンの呪詛を使えるのか?
それは川島瑞樹の魂がレヴィアタンから逃げ出すまで、ずっとレヴィアタンの近くにいため川島瑞樹の魂には多少なりと呪詛の影響をうけていたのだ。
それをぷちどるが魂の波長を刻み込んだ際に呪詛の能力も少しだけ刻み込んだのだ。
かわしまさん「わかるわ」クイクイ
かわしまさんが呆然としている瑞樹の裾を引っ張りながら、首をクイッと曲げカースの横の道をさす。
どうやら今の内にっと合図をしてるようだ。
瑞樹「い、今のうちね。わかるわ」
かわしまさん「わかるわ!」
イレギュラーの登場で、呆然としていたが、我に帰ると、かわしまさんを抱き上げ、急いで走り出しカースの横の空いてる道に向かい走り出した。
『しまった!?』
それに一つ遅れてカースも気づいた。まとわりついていた呪詛もいつの間にか消えていて、後ろへすり抜けた二人(?)を追おうと、振り向いた……
???「そうはいかないぜ?」
突然、カースの巨大な体は後ろへと大きく吹き飛ばされ、行き止まりの壁へと激突した。
『えっ!?今度は何!?』
突然の衝撃に慌てながらカースは、続いてのイレギュラーがいるであろう方へ首を向けた。
マルメターノ「悪いな。あの小ちゃい子に頼まれてな。それに、子供が襲われてるのを黙って見過ごすなんてできなくってね」
ソーセージの移動屋台をひいた筋骨粒々の男ーーーマルメターノがいた。
『げっ!?海底都市にいたイレギュラー!?どうしてここに!?』
相手が海底都市に出没し、自分の情報収集能力で見ようとしたら、プロテクトがかけられ、読み取れた情報が名前とソーセージを売っているとしかわからなかった要注意人物だと気づき、つい叫んでしまった。
その言葉にマルメターノおじさんの顔は真剣なものに変わり、鋭い眼光でカースを見据える。
マルメターノ「なんで、お前は俺が海底都市に行ってる事を知ってるんだ?ここの結界といい、海底都市に急に貼られた結界……関係あるのか?」
『あっ……』
自分の思わず言った発言の事の重大さに気づき、遠くで操作している怠惰の人形師はやってしまった…と顔色を曇らせた。
レヴィアタンの雷が落ちるのが目に見える。
『(マズイよ……あたし口すべらしみゃった。それに結界をどんな方法かは知らないけど、抜けてきた相手……)』
冷や汗を流しながら、必死に思考する。
マルメターノ「どうやら、喋る気はないようだな。なら、お前を倒してあの子達に事情を聴くとしよう」
『ば、馬鹿にしないでほしいかな?このカースの体は海底都市のオリハルコンを含めた様々な金属を身に纏ってるんだよ?そう簡単にはやられないよ!あんたを倒せばレヴィアタンに怒られずにすむし!』
そう言うとカースは臨戦に態勢にはいる。
ーーーそうだ。状況は不利だろうが、ここでこの男を倒せば何も問題ない!
そう思考する怠惰の人形師だが、彼女は気づかない。再び自分が失言をてしまった事に。
マルメターノ「≪このカース≫……≪レヴィアタン≫か…」
マルメターノは思考する。
このカースとまるで他人のように言うカース。恐らく、このカースとは別に操ってるモノがいると。
それに「レヴィアタンに怒られずにすむ」。つまり、こいつの裏にレヴィアタンっていうのが潜んでるのか?
マルメターノ「どちらにしても、早めに終わらせるか。≪回転≫……いや≪螺旋≫でいいだろう」
そういってマルメターノが構えると、右手首から渦を描くように小さく右腕を回し始める。
それに反応するかのように謎のエネルギーが発生し、螺旋状にマルメターノの右腕にまとわりつく。
『な、なにあれ?』
魔力で天使達が使う天聖気や人間達が作る科学のエネルギーとも違うエネルギーに戸惑う。
『先手必勝!!』
だから、怠惰の人形師は焦った。相手は自分が考えてるほどの規格外存在。
カースが出していた複数の銃口からレーザーや銃弾を放とうとする。
マルメターノ「遅いっ!!」
だが、それより速くマルメターノはエネルギーを纏った右腕で正拳突きをカースの方向に放った。
ギュルルルルルルルルルルルッッッ!!!!!!!!!!
右腕から≪螺旋≫のエネルギーが放たれ、それはドリルのようにカースの金属の体にぶつかり…
ギュゥゥイイイイイイイイインッッッッッッ!!!!!
火花を巻き上げ……
その金属の体を貫き、大きな穴をあけた。
『…………はっ?……うs』
ドッガッシャン!!!!
カースの口から、驚愕の声が漏れ、言葉を最後まで言う前にその身体は鉄屑となり崩れさった。
どうやら核も一緒に貫いたようだ。
マルメターノ「……確かに硬かったな。だが、それだけだ」
築かれた鉄屑の山に向かい、そう呟くマルメターノ。
そして、ソーセージの屋台から何か端末を取り出す。
マルメターノ「…………LPか?俺だ」
マルメターノ「そんな硬く言うなよ?俺は今は地球でソーセージを売るただのおじさんだ」
マルメターノ「それより頼みたい事がある………」
マルメターノ「海底都市、レヴィアタン、それと最近噂にある地上で暴れる鰯のロボ。それの関係を調べてくれないか?」
しばらくして会話が終わると、端末をしまう。
マルメターノ「さて、あの子達に事情を聞くか。あの子達はあそこの教会に預ければ大丈夫だろうし」
マルメターノ「海底都市の海達も心配だし、祭の準備もしないといけないし……忙しくなりそうだな…」
そう言うと彼は、屋台を引っ張り、二人に合流しにいった。
だが、巻き込みたくないのか一向に話さない瑞樹に、やむなく教会に預けるのだった。
なお、かわしまさんはどちらについて行くのかはわからないわ。
終わり
・スクラップでできた熊型カース
怠惰のカースに、レヴィアタンの呪詛により強化され、スクラップになった機械の山を身にまとった獣型カース。
本来なら動かず、金属のの体を駆使して遠くから攻撃するカースだが、怠惰の人形師により意志と自由を奪われてる。
オリハルコンなどの金属ので構成された身体は、最大の防御力をほこる………筈だが、カマセにおわった。
きっと、また出番があるかも?
・かわしまさん
川島瑞樹そっくりのぷちどる。鳴き声は『わかるわ』
優しい性格で、面倒見がよく、たまにマイクをもってアナウンサーみたいなことをする。
たまにアンチエイジングをしている。若い人を見ると羨ましそうに見てる時がある。
呪詛がつかえる。が、呪文を唱えられないため「わかるわ」で済まされている。わかるわね?
けど、効果は短いため足止めくらいの程度である。
イベント情報追加
・マルメターノがLPに海底都市、レヴィアタン、鰯のロボの噂について調べてもらうようだ
・ロリ島さんは教会に預けられました。
・マルメターノおじさんはお祭りの準備をしてる最中のようだ。
・かわしまさんはどちらについていくか不明。
・マルメターノおじさん何者?
・レヴィアタンの胃がヤバイ
乙です
かわしまさんかわいいわ
そしてマルメターノおじさん強いわ(確信)
以上です。
思ってたような文が書けず、駄文になってしまいましたorz
本当はカース活躍させたかったけど、俺の実力じゃ無理でした……
ロリ島さんから情報を聞くには信頼度をあげないと的な?
そして、かわしまさんはマルメターノおじさんの屋台を手伝わせても、教会のマスコットにしても大丈夫です。
そして、レヴィアタンの胃に穴が空くレベルである意味ピンチw
乙ー
流石マルメターノおじさんだ、問題ないぜ
戦えるぷちどるもいるのか……どしがたいなー?
『憤怒の街・裏』
ナチュルスター防衛戦線、最終章後編投下します
ここまでのあらすじは>>41-58参照
きらりが光を放ち、里美が水をレンズのように変形させて集束させ一点を焼き尽くす。
強烈なエネルギーが翼蛇龍を貫き引き倒すとそこへ魔法少女たちのハウリングアローが撃ちこまれ、琴歌が蹴りで穴を穿つ。
奈緒がその穴へと手を突っ込み、乱暴に引き裂くと翼蛇龍は苦悶の声をあげ暴れ出した。
傷穴からはいくつもの蛇が奈緒を喰らいつくそうと襲い掛かかり、思わず背後へ飛んで躱す。
追いすがって飛び出した蛇たちはきらりが改めて放った光線に飲まれて消えた。
奈緒「ちっ、繭が見えそうだったってのに……!」
美優「無理はしないで……あの体は丸ごとカースの塊みたいだし、切り裂くだけでもまたカースが……」
連携して攻撃を続けていても、致命傷を与えることができない。
翼蛇龍は進化を止めず、装甲はさらに強くなっていく。
切り裂いた傷口はすぐにふさがり、繭を破壊するにはその肉は堅く厚すぎる。
きらりのビームを集束させれば貫くことは可能だが、それでは破壊しきることもできない。
尻尾の一振りで破壊の風をまき散らし、羽搏きの一翼で絶望の泥へと沈ませる圧倒的な暴力。
各々が連携することでなんとか防げているような状況で倒すための強烈なチャンスを作る機会はそれほどない。
連続でのワープで疲労した夏樹と、魔力の切れて戦えない裕美をかばうように店長と李衣菜が立っているがそちらの負担も非常に大きい。
気を引くように他のメンバーが戦っていても、流れ弾の処理だけで手一杯だ。
レナ「ふう……オネストがいたら少しは楽だったかしら?」
レナのつぶやきに、手をつないだ美優が答える。
美優「会えてないのは……仕方ないもの。隙を見てもう一度――!」
レナ「……そうね、ないものねだりはしても仕方ない、かっ!」
レナがソードを振るい、美優が飛んでアローを射る。
2人は単体では火力の足りない分をフォローする形で隙を潰していた。
泥の塊は際限なく降り注ぎ続ける。地に落ちてからも意思を持ち、彼女たちに喰らいつかんと襲い掛かった。
キリのない戦いに疲労の色は隠せないが、絶望に立ち向かう心は折れていない。
決定打となる一撃をこの場の誰もが放てない以上、隙を見て弱点を探しだす必要があるのだ。
次々と押し寄せる黒波と暴力を躱し、いなし、本体の身体を穿つ。
それに合わせて他のメンバーも攻撃を撃ちこんで抉るも厚い装甲を抜けることはできずにまた防戦になる。
長く続けばいつかは破綻するが、だからといって無理に攻めればそこを突かれて敗北してしまう。
的確な指示の出せる夏樹がダウンしているのも合わせて進化する翼蛇龍との対決は厳しいものになっていた。
らちのあかない状況に、奈緒が自身の不死性を活かして一歩を踏み込もうとして、違和感を覚えて空をあえぐ。
奈緒「こうなったら多少無理してでもあたしが――上っ!?」
――均衡を崩したのは空から降り注いだ黒い鎌と槍の雨だった。
這い回る蛇を縫い付けた槍が、蛇たちと共に溶けて地へと広がる。
さらに、鎌からは地を覆う泥を焼き尽くす黒い炎が立ちのぼった。
レナ「……炎の、鎌……!」
美優「これって……まさか」
奈緒「泥の槍……っ、なんで!」
それに見覚えのあるメンバーは空を仰ぐ。
加蓮「……やった!」
瞳子「ファイアズムサイズ……フレア。うまくいったわね」
得意げに腕を組んだエンジェリックファイア――服部瞳子が北条加蓮に抱えられ空を飛んでいた。
懐かしい顔に――あるいは、見知った顔に戸惑いを隠せないメンバーが言葉を失う中、榊原里美だけは――
里美「ほわぁ……お姫様だっこですね~」
――などと、少しズレた様子で驚きを表現した。
瞳子「どうやら間に合ったようね……」
奈緒「……いやいや、待て。ホントなんでだよ!」
地面に降り立った2人に奈緒がツッコミをいれる。
加蓮と奈緒たちは友人関係にある。彼女の命を救ったのはネバーディスペアの面々だ。
だからこそ解せないと、彼女はいう。
なぜここにいるのか。もう一般人としての生活は取り戻したはずだ。
戦う必要はない。命を削るような危険な真似はしてほしくない。その願いだってわかっているはずだと。
加蓮「うん。でも……私も、戦える。困ってる人は助けたい……放ってなんておけないよ」
奈緒「それは……そうだろうけど、でもっ!」
加蓮「っ……危ない!」
会話の最中も降り注ぐ泥を奈緒が打ち払う。加蓮に向かって地から迫るモノたちを吹き飛ばす。
隙をついて加蓮の後ろから飛びかかった蛇の首は加蓮の手に握られた槍で貫かれ溶けた。
奈緒「……本気、なんだな」
加蓮「うん。それに……あれは、アタシが生んじゃったものでもあるから」
加蓮と奈緒が翼蛇龍に向かっていく。
加蓮の手には泥の槍と盾。背には翼を生やし飛び上がる。
奈緒の手は虎の爪。普段は使わない泥を活用してでも、と脚も異形と化している。
奈緒「はぁぁぁっ!」
加蓮「そこっ!」
どちらが言葉をかけるわけでもなく同時に動く。
他のメンバーの援護射撃をうけて雑魚を散らし、危険な攻撃を避けて迫っていく。
奈緒「まだまだ!」
加蓮「たぁぁぁぁっ!」
飛び込み、いなし、叩きつける。息のあったコンビネーションで翼蛇龍の翼を同時に切りつけた。
しかし、それでも翼蛇龍は落ちない。表皮の蛇たちはそのまま意思を持ち反撃をする。
加蓮がとっさに手を伸ばし、奈緒を抱いて距離をとった。
奈緒「加蓮、お前……」
加蓮「……大丈夫、って言ったでしょ? でもアレ、どうしよう……」
想像以上の硬さに加蓮が悩む。
同じ泥でも質が違いすぎてまったく刃が通らない。
上空に浮き上がって槍を放っても焼け石に水程度の効果すら疑わしいほどだ。
なおかつ、進化を続けている絶望から生み出される配下はだんだんと強力になっていっている。
――同じくして、美優とレナに再会した瞳子も激しい戦闘の中2人と会話をしていた。
蛇を切り裂き泥を射ち、呪いを焼いて隙を作る。
加蓮と奈緒がそこへ走り込み、切りかかろうと飛び、跳ぶ。
撃ちもらしは水槍が貫くと直後に光線が浄化した。
レナ「久しぶりね、ちょっと忙しいから再会の喜びを表現ってわけにもいかなくて悪い、わっ!」
瞳子「お互い様よ。どうやら2人は変わってないみたいね!」
光の剣と炎の鎌が白と黒の軌跡を描いて翼蛇龍へと切りかかるも弾かれる。
地から滲み出す蛇に気づいた美優が矢を射って足止めし、瞳子が地面ごと焼いた。
美優「瞳子ちゃんも……元気だったなら、よかった。でもこのままじゃ……」
瞳子「エンジェルハウリングじゃ突破できないの?」
レナ「あいにく、ね。しかもどんどん強くなってるっていうんだから……これじゃ舞台にもあがれないわ」
レナがやれやれとかぶりを振る。それを見て瞳子はニヤリと笑った。
二人のつないだ手に、自分の手を重ねてみせる。
瞳子「なら、『アレ』をしましょうか……かなり久しぶりだけどっ!」
美優「……えぇ。レナ!」
レナ「……そうね。分の悪い賭けも嫌いじゃないわよ!」
『――聖なる絆よ、清らかなる祈りよ! 廻りて悪を浄める力となれ!』
弾かれ続けても攻め手を緩めない面々の耳に強い心の込められた声が響く。
見ればそこには加蓮が連れてきた女――瞳子と、レナ、美優の3人が繋いだ手を突き出す姿があった。
心も声もひとつに合わせ、大きな力を生み出していく。
『エンジェルハウリング・トリオ!』
彼女たちの周囲を包む力が安定しすべてひとつになる。
14年ぶりの再会でもなお、問題なくその動きは曇らない。
そのまま飛び上がると天に向けて腕を掲げ、叫ぶ。
『ハウリングソードッ!』
空中に巨大な光の剣が現れると動きにあわせて振りおろされ、ついに翼蛇龍の翼を切り落とすことに成功した。
蛇龍はしかし憤怒の色を色褪せさせることなく睨み付け、落ちた翼もまた戻らんと姿を形成し始める。
レナ「追撃いくわよっ!」
瞳子「遅れるんじゃないわっ!」
繋いだままの手が横向きに流され、再びエネルギーが集束していく。
白と黒のツートンカラーの巨大な鎌が生まれ、浮き上がっていた翼を切り裂くと同時に焼き尽くした。
『ハウリングサイズッ!』
レナ「よしっ! もう片方も――きゃっ!?」
琴歌「危ないっ!」
光の鎌が残った翼を切り裂こうと追撃を狙うも羽搏きによって吹き飛ばされ姿勢を崩してしまう。
琴歌が3人を受け止めて着地するが、そこを狙って翼蛇龍が飛び込もうとしていた。
里美「無限に広がる海の牢獄よ、繋がり捕らえる檻となれ!≪囚縛のアレスト≫」
きらり「きらりんビームれぼりゅーしょーんっ!」
しかし里美の操る水が網のように形を変え突進を阻止すると、そのまま絡みついて束縛する。
暴れる翼蛇龍にきらりが拡散ビームを撃ちこみ表面を溶かすがまた表皮に無数のカースを生み出して防がれた。
網に捕らわれた翼蛇龍は一瞬身体を小さく縮こまらせたあと力を解放して無理やり抜け出すと里美ときらりを憎々しげに睨む。
嫉妬と憤怒に彩られた絶望は今の攻撃によってさらに暗く強く牙を突き立てようとしていた。
きらりの光線による効果もだんだんと無くなってきている。表皮に滲み出すカースも強く大きくなっている。
しかし翼をすぐに再生することはかなわないのか、残った羽は恨めしそうに小さく揺れた。
再び羽搏けば、振りまく呪いの量はさらに激しくなるだろう。
阻止するためにも追撃の手を休めずそれぞれが連携していくが、翼蛇龍は一度受けた攻撃の危険度を理解し、避けていく。
傷つけられた憤怒によって凶暴さは増し、嫉妬深さによって狡猾さが増す。
撃破を狙って翼蛇龍は知恵を練る。
それは激情をもって、狡猾に。邪知深く、凶暴に。
決定的な一撃を与えることができない状況に歯噛みする奈緒は、自身の不死性を使って体内へと踏み込む手を考えていた。
奈緒「こうなったら……あいつの身体の中に突っ込んででも……!」
加蓮「……奈緒、何考えてるかはわかんないけどそれはダメだよ」
奈緒「いや、あたしは平気だ。このままじゃラチが明かない!」
加蓮を振り切って飛び込もうとした奈緒だが、なぜかその手を振り払えず足が止まってしまう。
――今更不死性を隠す必要もない。ケガをすることになっても大丈夫だ。
そう思っているはずなのに、いつの間にか繋いでいた手を放すことができない。
思いとどまったのだと判断した加蓮が奈緒に向けて話を始める。
奈緒はただそれを聞かなければならないような気がして、蛇を散らして場を開けた。
加蓮「突っ込むなら私も連れて行って欲しい。繭の位置も……感じられる、と思う」
奈緒「そんな無茶させられるかよ! あたしは多少無理したって平気だけど加蓮は!」
加蓮「平気なんてこと、ない!」
奈緒の言葉を遮るように加蓮が言う。
地に這う蛇を加蓮の泥が逆に喰らい、妨害を蹴った。
加蓮「戦うのは怖いし、辛いよ。でも、そうしないことでもっとたくさんの人が傷ついたりするのはずっとずっと嫌」
奈緒「なら、あたし達に任せとけ……アイツだってすぐに倒せる。ちょっとの無理ぐらいしなきゃいけないときなんだよ」
加蓮「その『無理』を抱え込んじゃったら。一番、辛いよ。友達が無理してるの見るのはやだ」
荒れ狂う暴風の中を縫うように槍が飛び、邪魔をする泥を爪が切り裂く。
口調も強く、お互いを止めようとしつつもフォローをやめようとはしない。
一歩も引かない加蓮に奈緒が業を煮やし、叫ぶように言う。
加蓮も答えるように、さらに大きな声で叫んだ。
奈緒「あたしだっていやだって言ってるんだ!」
加蓮「だったらっ!」
2人がつないだ手を突き出すと、奈緒と加蓮の身体から出た泥が巨大な槍を生み出して翼蛇龍の身体へ穴をあけた。
ひるんだ翼蛇龍が下がったところを琴歌が何度も蹴りつけて鱗を剥がし、光と炎の矢が撃ちぬく。
翼蛇龍の翼は折れ、地へと倒れ伏した。
加蓮「いっしょに戦ってよ。――お願い、見てるだけでいいなんて言わないで」
加蓮の声が震えている。見ると、その目には涙が浮かんでいた。
手の届かなかった世界へ飛び出した理由。加蓮が今でも形を変えて求め続けているもの。
それは『持っていなかった』ものたちへの羨望。羨ましいと、繋がっていたいと思うもの。
――それは、彼女が世界を呪った理由。
奈緒「……わかった。今の、もう一回いけるか? 身体の中心を撃ちぬけば――」
加蓮「――うん、大丈夫。いけるよ」
2人の身体を包むように泥が現れ渦を巻き始める。
強く大きく、激しく鋭く――轟々と荒々しく。
這いつくばった翼蛇龍は逃れるべく地へ染み込もうとする。
琴歌「させませんっ!」
しかし琴歌が地を蹴りあげ巻き上げる。
突風と共に上空へと打ち上げられた翼蛇龍は無防備なまま光と炎の矢に何度も射抜かれ宙を舞った。
瞳子「燃えなさいっ!」
瞳子がパチンと指を鳴らすと着弾した部分がはじけて装甲が剥がれていく。
落ちる翼蛇龍を受け止めるかのように巨大な渦が地面から生まれたかと思うと、激しい水の竜巻となってその体をとらえた。
里美「逃れることのできぬ運命の渦よ、飲み込み彼方へと誘え!≪禍海のメイルシュトロム≫」
きらり「がんばってぇぇぇえええええ!!」
きらりが幾筋もの光を生み出すと、暴れていた翼蛇龍の動きが鈍くなる。
その光の中を奈緒と加蓮の生み出した巨大な槍が突き進み――
「さよなら……エンヴィー。私はもう、絶望しないから」
――『絶望』を貫いた。
貫くためにすべての力を使い果たした加蓮の翼が消え、奈緒ともども地面へと落ちていく。
その中で加蓮は溶けて消えていく翼蛇龍の姿を見ていた。
――寂しさに狂った自分の象徴。羨ましさに怒った自分の表象。
それとの別れと決着を見届け、今の自分の手に繋がる温かさを感じながら加蓮は意識を手放した。
李衣菜「おぉっと……まったく、無茶しすぎだよ」
店長「ケガは……ない、みたいだな。よかった」
落ちて来る二人を李衣菜がキャッチすると安堵のため息をつく。
裕美と夏樹をかばっていた二人も、多少の負傷と疲労はあれど無事戦い抜いていた。
里美「ほわぁ……よかったです~。みなさん頑張りましたもんね~」
琴歌「えぇ、本当に……よかったですわ……!」
瞳子「助けになれたみたいでなによりよ」
お互いの無事を喜び抱きしめあう。
そんな中――李衣菜が、倒れた。
美優「り、李衣菜ちゃんっ!?」
李衣菜「あ……」
言葉を繋ぐことすらできず李衣菜が動かなくなる。
周りが慌ててどうしたのかと心配する中、ゆっくりと夏樹が起き上がるとその頭を撫でた。
夏樹「……だりーも、無茶してたからな。安心してくれ……ただのバッテリー切れだ」
レナ「バッテリー……?」
夏樹「あぁ、結構暴れてたせいでね……助かった。ありがとう」
店長「いや、俺もフォローしてもらってて……無理をさせてしまったみたいだ。こちらこそありがとう」
互いに礼を言い合うと、さてと夏樹が顎に手をやる。
きらりは頬に指をあててかしげると困った様子を表現した。
きらり「でもでも、どーしよー……? お帰りがたいへんかもー?」
夏樹は疲労で穴を開けられる状態ではない。
奈緒も先ほどの一撃に全てをかけたせいか眠ったまま目覚めていない
きらりも戦闘でかなりエネルギーを消耗しているため2人を担ぐのは楽ではない。
一旦整備も挟みたいが、動けない状態のままでは帰るに帰れない。
店長「バッテリーか……電力。この角でならと思ったが出力調整がうまくいかなくてな……」
夏樹「あー、あんまり一気にやるとまた面倒なことになるかもしれないしなぁ……しょうがない、もう少し休んだら穴開けるよ」
裕美「あの、それなら……力になれる、かも」
ため息をつく夏樹に、おずおずと裕美が手をあげる。
師匠の使い魔――ペットというべきか、なんというか。少なくとも角の扱いならばわかっている、と。
琴歌「まぁ……! トナカイさんは電気が角からでるんですね!」
里美「ほぇぇ……トナカイさんですか~。見てみたいです~」
くとさん『○』
裕美「いや、その……ブリッツェンはトナカイじゃなくて……」
店長「……じゃあアイツはなんなんだ……?」
美優「知らなくて使ってたんですか……?」
瞳子「問題なく動くのなら仕組みがわからなくてもいいんじゃない? たどり着けるのなら、道は関係ないのよ……たぶん」
天然気味のお嬢様2人は興味津々と言った様子で話を聞きたがる。
店長のつぶやきに美優がつっこみ、瞳子が自分に言い聞かせるようにフォローをいれた。
倒れているメンバーの回復と、これ以上何かがくる可能性も含めてこの場は離れるわけにもいかない。
裕美は角を受け取ると李衣菜の充電用コードを巻き付け残った魔力を練り上げる。
裕美「あの、あと……この角についてるクセのぶんだけ誘導がしやすくなりそうなので、手を貸してください」
店長「手を……あぁ、こうかな?」
裕美「はい。えっと……少しずつ、少しずつ……!」
出力を抑えるブレーカーの役割をはたしてブリッツェンの角から電気を流していく。
李衣菜が暴走しないようにコントロールしつつ、少しずつ。
手ぶらの仲間は周囲の警戒を続けているが、どうやら追手は来ないらしい。
しばらくの時間が立ち、そして――
李衣菜「……う、ん……?」
裕美「よかった……目が、覚めたみたいで。大丈夫かな?」
きらり「うきゃー! すっごーい! 裕美ちゃんありがとーっ☆」
李衣菜が目覚めた喜びにきらりが裕美に抱きついた。
急な接触にあわてたあと、気まずそうにそれに返事をする。
裕美「……あ、あの。私……結局戦えなくて……」
レナ「そんなことないわ。アレは強かったもの……ここまで誘導してくるのだって楽じゃなかったはず」
裕美「……それで迷惑かけちゃって」
言いかけた裕美のおでこをレナが軽くはたいてみせる。
レナ「子供は迷惑かけたりかけられたりが仕事じゃない。いいのよ、あなたがここに連れてきたのは間違いじゃなかったんだから」
店長「街の中で倒していたら問題だったらしいしな……結果論でも、なんでもいい。おかげで助かる人が出るならさ」
夏樹「まさか加蓮が来るとは思わなかったけどなぁ……不思議なもんだよ、縁ってやつ? 街の中で戦ってたら知らないまんまだったぜ」
裕美「……うん。ありがとうございます」
きらり「それにそれに! 李衣菜ちゃんが元気になれたのも裕美ちゃんのおかげだにぃー? うぇへへー、はぴはぴ?」
裕美「は、はぴはぴ? って、きゃぁぁぁっ!?」
再びきらりが抱きつくと喜びを全身で表現する。
高い高いで他界他界寸前高度まで飛び上がる。先ほどまでの疲労もどこへやらといった様子だ。
巻き込まれる裕美も驚き、周りの面々も思わず止める。
里美と琴歌は「次は自分もやられてみたい」とつぶやくが夏樹がそれを制した。
――こうして、憤怒の街郊外での一連の戦いには幕が下ろされた。
もちろん、まだ街の中では戦いが続いている。癒しの雨を止めさせないためにナチュルスターを防衛し続ける必要はある。
だが、戦力も絆も十二分に満たされたこの場はもはや問題ないだろう。
和やかな空気の流れる中、眠ったままの加蓮と奈緒が手を繋いだまま少しだけ笑った。
裕美「よかった……のかな。うん、
李衣菜「……」
裕美「あ、動いても平気で……すか……?」
李衣菜「……にょわー?」
裕美「ひっ!?」
李衣菜「はぴはぴろっけんろー! いぇー!」
夏樹「ちょっ、だりー!? どうしたいろいろと変だぞ!」
店長「やっぱりこの電気、普通じゃなかったのか……停電の時には使えないな……」
美優「いってる場合ですかっ!?」
きらり「にょわーっ! みんなではぴはぴーっ!」
幸福と謎のエネルギーにあてられた李衣菜ときらりに、その場の全員がひとしきり神輿のように担がれたのはまた別の話。
!憤怒の街郊外にて『絶望の翼蛇龍』を撃破しました
――それぞれのメンバーはナチュルスター防衛を続けるものや街に戻るものなどもいるようです
前編に引き続きレナ、ネバーディスペア、裕美、里美、琴歌
および瞳子、加蓮をお借りしました
憤怒の街郊外戦は(たぶん)これで終了
瞳子さんがお姫様抱っこされた状態で登場したのは私の責任です……私が弱いから……未熟だから……
このブリッツェンの角はお返しします……
投下します
イヴ非日常相談事務所
そこの机の下で森久保乃々は一人で引きこもっていた
乃々「………」
いつもの青ざめてる顔を更に青ざめさせ、怯えるようにけ震え、身を小さくさせるように体操座りをしている。
それは、彼女に一つのトラウマが植え付けられてしまったからだ。
自分の意思ではないとはいえ、仲間を傷つけた。
自分の意思ではないとはいえ、仲間を苦しめてしまった。
自分のせいで、大切な尊敬する人ーーイヴさんを怪我させてしまった。
怖かった。自分のせいで仲間を失ってしまいそうで……
怖かった。また自分の力で仲間を危険な目にあわせそうで……
怖かった。仲間が…友達が…大切な人達がいなくなってしまうんじゃないか……
臆病で、失敗するのを恐れ、逃げ出す自分を受け止めてくれ、信じてくれた尊敬する憧れの人。
どんな不幸な目にあっても前を向き、自分なんかよりも強く、輝いていて、どこか危なかっしく放っとけない友達。
曲がった事が嫌いで、真っ直ぐつき進み、怖いけど優しい、支えてくれる友達。
みんなに振り回されて、よく自分達の後始末をしてくれるけど、文句一つも言わない、優しい友達。
優しくって、暖かく、どこか天然な気がする姉のような人。
みんな、みんな、見捨てないで、一緒にいてくれる。
だから怖い。失うのが!傷つくのが!消えるのが!自分のせいで!!自分のせいで!!!自分のせいで!!!!!!!
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイ。コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ
乃々「もりくぼはどうしたらいいんですか?……」
震えながら、一人呟く。
けど、答えはわからない。
乃々の心は恐怖に埋れている。
乃々「………」
フラリと机の下から出てくると、乃々は事務所の外を出た。
わからない。だから外へ出てみよう。
もしかしたら、答えが出るかもしれない。
それに事務所の中でずっと怯えてるとみんな心配してしまう。だから≪逃げよう≫。
だが、乃々は気づかない。自分が少し成長してることに。
普段の乃々なら嫌な事があれば隠れて逃げてるのに、それをなんとかしようと足掻いてるのに……。
それを≪逃げる≫という事だと思い。
ーーーーーーーーー
ほたる「乃々ちゃん……」
その様子をこっそりと見ながら、ばれないようにと乃々の後をついていく。
実は最初からいたのだが、どうも乃々に話しかける雰囲気ではなかった。
今の乃々に話しかけても逃げ出してしまうからだ。
かといって、心に傷を負った乃々をどうにかしたいと、ほたるは思う。
仲間として、友達として、なんとかしたいと。
ほたる「そういえば、もうすぐ秋炎絢爛祭だよね」
もうこんな季節だな…っとほたるは考えて閃いた。
ほたる「秋炎絢爛祭に乃々ちゃんと一緒にまわれば、気分転換になるかな?」
本当は志乃さんとまわる予定だったけど……ヒーロー活動の事を言わないで事情を説明すれば大丈夫だよね?と思いながらほたるは決意する。
ほたる「それに巴ちゃんも…」
ーーーー回想ーーーー
ほたる「巴ちゃん!?治ったばっかりなんだからまだ動いちゃダメだよ!?」
巴「わかってるけぇ。しばらくは安静するから安心せえ。それより乃々の事頼む」
ほたる「……うん」
巴「それに秋炎絢爛祭が近いうちにあるけえ。うちも準備しないといけんしのう。始まったら遊びにきい」
ほたる「うん。何やる予定なの?」
巴「お好み焼きじゃ!本場のお好み焼きみせたるけえのう!!」
ーーーー終了ーーーー
ほたる「凄くはりきってたし、今の乃々ちゃんをなんとかするにはやっぱり気分転換が一番なのかな?」
そう「乃々ちゃん元気になれ作戦」を思案していながら、乃々の後をこそこそついていった。
友達を≪不幸≫にさせないために。
終わり
情報追加
・乃々の心は恐怖でいっぱいです!トラウマだね!
・巴は文化祭のクラスの出し物でお好み焼き作るよ!凄いやる気満々だよ!
・志乃さん自棄酒コース!
以上です
ナチュルスターの文化祭の動き的なものを
そして、乃々書いててどうしてこうなった……お客様の中で藍子さんかきらりんさんはいませんかー!!!
投下します
「『海底都市』『レヴィアタン』『イワシ型のロボット』そして…『神の洪水計画』ですか。」
「ああ。君を見込んで、この…本来なら機密事項である言葉を伝えている。」
LPは安斎探偵事務所を自ら訪れていた。助手である二人は今、買い出しに行っている。
マルメターノから伝えられた言葉、そして夏樹が友人…アイドルヒーロー同盟のカミカゼから聞いたという、海底都市の神の洪水計画。
今、この星は滅亡の危機にある。きらりを除くメンバー3人は地球人だ。彼女達の故郷、この星を失うわけにはいかない。
LPもきらりも…母星を失っている。だからこそ、彼女達はこの星にいて欲しいのだ。
「そして、レヴィアタンと言う名は…地球の悪魔と言われる者の『大罪の1つ、嫉妬を司る悪魔』らしいが…これで足りるだろうか?」
「…お任せ下さい。『調べて』みます。」
何も書かれていない、真っ白な本を開き、都の能力が発動する。
「『海底都市』……『レヴィアタン』……『イワシ型のロボット』……『神の洪水計画』……『嫉妬の悪魔』……」
パタンと本を閉じ、都は顔を上げる。
…心なしか青ざめているが、プロである彼女はそれを抑え込む。
「…神の洪水計画を企てているのは悪魔。レヴィアタン。間違いないです。東の海の底の海底都市で暗躍しています。例のイワシ型ロボットも海底都市の物。」
「神の洪水は…封印されているノアの方舟を使う事で発生。既に封印は4つのうち2つは解かれています。そして発動すれば本当に世界は海に沈む。」
「何!?残りの封印の場所は!?」
「…申し訳ありません!手がかりが!手がかりが足りません!!」
心の底から叫ぶように都は叫ぶ。自分がそれを把握できれば、封印の破壊を阻止できるのに。発動すれば世界が滅びるのに。
「…そうか。…君が責任を感じることはない。我々の持ってきた情報が足りなかっただけだ。むしろここまで調べてくれたことに礼を言おう。こちらで何とか頑張らせてもらうよ。」
「…はい。」
自分は完全に真実を見抜けなかった。俯き、扉が閉まるのを確認すると、一筋の涙を流した。
「…探偵は、真実を探すべき…ならば、こちらでも調べましょう。それが一番です。」
自分に言い聞かせるように、都は調べ物を始めた。
もうシーズンも終わり、人気のないとある海岸、穴から奈緒が飛び出してきた。
「じゃあ、行って来る!」
穴の向こうのメンバーに軽く手を振り、穴が閉じたのを見届けると、紐のついた金属製の頑丈な小箱をリュックサックのように背負い、水着に黒い泥を纏って海水に足をつけた。
「…」
全身に何とも言えない感覚が駆ける。
脇腹に鰓、踝にはヒレ。虎耳も変化して髪で隠せるレベルの大きさのヒレ耳に変わる。
それはまるで退化する前のウェンディ族だった。
究極生命体の力。周囲の環境へ適応する力。水の中を行くのなら、この姿になるのだ。
唯一左手だけは呪いのように虎の手のままだが、泥を纏い、両腕を大きなヒレへと変えれば泳ぐ時は問題ない。
何か別の用事があるらしいマルメターノの代わりに海底都市へ向かい、潜伏し、何か異常を見つける為。
要するに宇宙管理局太陽系支部地球出張所所長LP直々の特殊部隊・ネバーディスペアの一員としての潜伏任務と言う訳だ。
あわよくば神殿や宮殿へ潜入したいが…そこまでうまくはいかないだろう。
さらに言えば…誰かが『狂行』を行う時、それに巻き込まれる一般人を一人でも救う為に。
彼女が一人で行く理由。それはもちろん潜水艦で向かい、イシュトレーの撃墜映像のような結果を防ぐため。
これから暫く拝めないであろう空を仰ぎ、深呼吸をする。
そして彼女は海へ飛び込んだ。
無数の本能の内のいくつかが泳ぎ方を理解している。そして理性でそれを模倣する。
深く、深く…奈緒を避けて泳ぐ魚の流れを横目で見つつ、彼女はマルメターノに伝えられたポイントまで向かってゆく。
「おい、ちょっと止まれ!」
「!?」
そこへ、何か大きな影が現れた。戦闘準備に入り、相手を認識する。
亀のような巨大生物。大量のアンモナイト。そして…
(あ、ピー助だこれ)
某猫型ロボットが出るアニメの映画に出た恐竜を思い出し、少し警戒が解けた。
喋ったのはどうやら亀の様だが…奈緒が驚いたのは喋った事もあるが近づいてきた事もだ。
「お前…ただ者じゃない気配がするが…ウェンディ族ってやつだろ?フタバを見て崇めたりしねーのか?まぁいいけどよ。」
「おそれ、ひれふし、あがめたてまつれ」
ちゃんと会話できる知能もあるようだ。
「…あたしに何の用だ?いきなり失礼じゃないか?」
「おう、すまん。俺はアーケローグ! アーケロン一族の戦士だ。こっちはフタバイキング。要件ってのは海底都市の場所を聞きたいだけだ。知ってるだろ?」
「知ってるけど…知ってどうする?」
「俺たちのボスがそこの神殿にいるらしいからな。会いにいくんだよ。」
「おれたちうそつかない」
「ボス?」
「プレシオアドミラルだよ!知ってるだろ!」
「はくじょうしろ」
「…あー」
マルメターノからの情報で、確かにそんな名前の守護神を信仰しているとあった。
ウェンディ族なら確かに常識の範囲内なのだろう。…なら、その神の知り合いにどう対応すべきか…
「…あたし、そこに住んでいないけど、今から行くんだ。…でも、あんた達はいけないと思う。」
「なんでだよ?」
「最近、内部からそこがまるで山に見えるように結界が貼られているって聞いた。あたしは知り合いが作ってくれた隠し通路使うけど…」
「あー…俺らがデカすぎるのか…。」
「サイズミス」
「…あたしはその内部の原因を探りに行く。結界の周辺までは一緒に来れると思うけど…どうだ?」
彼らが悪い生物には見えない。一応場所を教えておけば、結界が解けたら会いに行けるだろう。
仲間に会いたいと言う彼らを、突き放すことは奈緒にはできなかった。
「…そうだなぁ、取りあえずちゃんとした位置把握ぐらいはしておくべきか」
「もくてきちしゅうへん」
奈緒が先行し、さらに深く潜る。大きな海底山が見えてきた。
「ここが海底都市…らしい」
「…本当か?」
「知り合いから伝えられたポイントはここなんだよ。あの岩…顔っぽく見える奴が目印とかなんとか…」
「暫く海底都市に入れねぇなら仕方ねぇ。…まぁ報告はしておくべきだな。場所は大体覚えたしよ」
「まちぶせせんぽう」
「覚えたならよかった。じゃああたし行かないと…」
「おう、ありがとよ!」
ヒレを振る巨大な亀に腕を振って、奈緒はさらに詳細なポイントへ向かった。
「…えっと…この顔っぽい岩の顔部分を背にして…前に二歩、右に三歩、左に四歩、そこからまた前に五歩…ここか…ここだよな?」
足元の地面は周囲と変わりない地面だ。
「…とにかくやるしかないか。」
ヒレ型の泥を硬質化させ地面に突き立てる。少し深い位置で金属音が響いた。
「っし…ビンゴ!」
周囲の土と砂を取り除くと、金属でできたマンホールのようなものが露出する。
マルメターノが結界を突破する為に使った地下通路への入り口だ。敵に見つかった時の為に整備してあったのだろう。
…どうやって彼がこんな海中を移動しているのかは知らない。
(…まぁマルメターノおじさん、何やってもおかしくないしなぁ)
昔いろいろお世話になり、彼の事はある程度知っている奈緒でもこう思うほど、彼は未知数なのである。
「パスワードは…」
彼から伝えてもらっていたパスワードを入れる。緑色の小さなランプが点滅し、自動ドアのように開いた。
入る前に取り除いておいた土や砂等を穴の周囲にまとめる。そして奈緒が入ると入り口は完全に閉まり、ロックがかかった。
表側では渦を巻くようなエネルギーが発生し、舞い上がった土と砂を被って再び扉は隠された。
中は狭い。荷物を抱えつつ、明かりは完備されているその通路を泳いでいく。
「ふぅ…着いた…」」
やっと通路から脱出し、建物の中に出る。ここはマルメターノが海底都市で数日にわたってソーセージ売りをする時に使う住居。小さいが彼の土地だ。
マルメターノはここの部屋の隅から外までの通路を掘っていた。どれほどの期間で出来た物なのだろうか…彼はやっぱり未知数だと思った。
奈緒は暫くここで過ごすことになる。一通りの必要な物はあるし、人通りの少ない安い土地なのもあり潜伏には都合がいい。
置いてあったタオルで体をふき、金属の箱から着替えや睡眠用のアイマスクや機械…重要なものをいろいろ取り出す。
着替えを済ませると報告書を取り出し、海中での出来事…恐竜のような知的生命体。それの目撃情報の報告を書き記す。
それを終えるとある機械のスイッチを入れる。座標測定器…精密な座標位置を割り出し夏樹の元へ送る機械。
管理局が正確に座標把握できているのは基本的に地上だ。下手に海の中に繋げると水が穴から溢れてヤバイ。
故に海の座標データは無く、こうして測定器を持ってきていた。
マルメターノから聞く手もあったが、今は忙しいらしいし、元々座標データに頼るような男ではない。
少し間をおいて、部屋に小さな穴が現れた。夏樹が向こう側から話しかけてくる。
「奈緒、お疲れ。ちゃんと正確な座標データ入手できたからな。」
「問題なさそうか?」
「ああ。でも距離のせいであまり大きな穴は無理だな…。いざという時駆けつけられない」
確かに人が通るのは無理そうだ。こればっかりは仕方ない。
「そうか…まぁ、ちょっとした物は送れるし、無線とかは感づかれる可能性あるし…十分だって」
「まさか奈緒に慰めて貰えるとはなぁ…」
「さりげなく酷いな…」
「はは、冗談だよ。…とにかく、無茶はするなよ?」
「…ああ、いざとなったら全力で逃げる。捕まるのだけは避けるよ。なんとしても…」
「…みんな、待ってるからな。」
「おう。」
報告書を手渡すと穴が消え、非常にシンプルな部屋に静寂が戻った。
ギプスとヘッドホンをつけ、都市に出る準備をする。やはり現地の本やら新聞やらなにやらはあって損はないだろう。
窓の外を見ると、非常に綺麗な街並み。水路にはバスのような船が浮かび、少し遠くに公園が見えた。海底都市はやはり地上とそこまで文化に差がないようだ。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
「うおっ!」
そこに、突如竜の咆哮が響き渡った。
「すげぇな…街の人皆平然としてる…」
話しには聞いていた、ウェンディ族を守護する海神の雄叫びであるというそれ。いちいちビビってたら怪しまれるだろうか…
(まぁ慣れるしかないか。…というか、気のせいか?あの声…)
奈緒は何か感じていた。あれは見守ってる証の様には聞こえなかったのだ。
苦しんでいるような、誰かを呼んでいるような…
とにかく、情報を少しでも手に入れる為、奈緒は街へ踏み出した。
悪魔が彼女を見つけても…死ぬことはない。だから彼女は積極的に動き、調べ出す。
一種の無茶を、無意識に行っていた。
「…ねぇ、なんかあのおじさんの代わりに別の奴…女の子が侵入していたんだけど…例の如く結界突破されてるし。」
怠惰の人形師がゲーム画面を見てげんなりしながら報告する。
「またイレギュラー…わからないわ…その娘の情報は調べられないの?」
「えーじゃあダメ元でやってみる…」
コマンドを入れ、彼女のデータを閲覧しようとする。
無数の赤い目玉が画面に表示された。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!なにこれ!?なにこれ!?」
怠惰の人形師は、悲鳴を上げてゲームを手放してしまう。壊れてはいないようだが、あまりにも異常な反応にレヴィアタンは困惑した。
「…何が書いてあったのかしら…」
そのゲームを拾い、画面をのぞき込む。
すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ
「!?」
ソーセージ売りの男の時とはまた違った…バグのような現象。慌てて電源を切った。
「…わからないわ…排除すべきか放置しておくべきか…あら?」
使い魔から送られてきた映像を見てレヴィアタンは気付いた。彼女に見覚えがあったのだ。
…北条加蓮。驚異的な進化を見せてくれた嫉妬の蛇龍の生みの親。…彼女を救出したメンバーの一人だったはずだ。
「…邪魔ね。それだけはわかるわ」
だからわかる。彼女がある程度の力を持つことが。背景組織がそれなりに大きいことが。
「どう言って排除してもらおうかしら…流石に海皇親衛隊相手には苦戦するはず…でもあの男の仲間なら生半可なやり方では…傭兵を使う手もあるわね」
これ以上のイレギュラーを許しては置けない。しかし、下手に手を出し、戦力を削られてしまうのは最悪だ。
獲物を見つけた彼女は、獲物の狩り方を思案する。攻撃的な笑みを見せながら。
はてさて、その獲物は羊なのか、羊の皮を被った狼なのか…はたまた狼の皮を被った…
誰にもわからない。その獲物自身にさえ。
奈緒・ウェンディモード
水中に適応した姿。現在のウェンディ族よりも鰓やヒレが少し発達している。
海底都市で潜入する為にこの姿を保っており、そのために定期的に海水を浴びる必要がある。
イベント情報
・奈緒が潜伏を始めました
・管理局がいろいろと情報を入手しました
以上です
…やっとちゃんと特殊部隊らしいことした気がする
奈緒ちゃんは一体どうなってしまうのか、わからないわ
乙乙
森久保ぉ……頑張れ、この後覚醒が待ってる(多分)
海底都市にヤバイのが上陸(?)してきたぁー!?
学園祭のマキノ&トレイターズ投下します
海皇宮、ヨリコの自室。
ヨリコと海龍の巫女の前に、マキノが立っていた。
マキノ「急なお呼び出しですね、ヨリコ様」
ヨリコ「ええ、どうしてもあなたに伝えなければならない事があります」
ヨリコは神妙な面持ちで、ある書類をマキノに手渡した。
マキノは受け取った書類……いや、チラシにさっと目を通し、その目を丸くした。
マキノ「秋炎絢爛祭……地上の祭典ですか?」
ヨリコ「はい。……単刀直入に言いましょう。マキノ、あなたに休暇を言い渡します」
マキノ「…………はい?」
マキノは目が点になった。
巫女「ヨリコ様はね、あなたが最近働きすぎだと仰るのよ」
マキノ「…………」
マキノはここ最近の自分の行動を振り返ってみた。
体調が悪いと言っていた兵士と夜間巡回を代わり、不在のスカルPに代わり親衛隊のトレーニングメニューを考え、
各部署の勤務態度をアビストーカーで秘密裏に調査し、各戦闘外殻の補修・調整の指揮を執り、
食堂の新メニュー候補(数十品)の試食を依頼され、
挙句にオフは専らオクトとの意思疎通を図ることに費やしていた。
思えば、休みらしい休みなど、ここ数週間ろくにとっていなかった。
マキノ「……しかし、全ては海底都市、ひいてはヨリコ様の為に……」
ヨリコ「しかし、それでマキノに倒れられては私が困るのです」
マキノ「…………そこまで仰るのでしたら、謹んで休暇をとらせていただきます」
ヨリコ「楽しんできてくださいね。ああ、そうそう」
そう言ってヨリコは小箱を二つ取り出した。
マキノ「……片方は地上の通貨に換金する大真珠でしょうが、もう片方は?」
巫女「アビスドライバー。科学班の薬学チームと工学チームが共同で開発した試作品よ」
箱を開けると、中には少しゴテゴテしたバックルのベルトが入っていた。
マキノ「科学班が……これはどういう物なのですか?」
巫女「詳しい原理は省くけれど、装着者の皮膚の乾燥を感知すると、周辺の大気を電気により分解して……」
マキノ「……なるほど。無理矢理海水に近い物を生み出して装着者に注入する、と」
巫女の言葉を遮ってマキノは理解した。
巫女「察しがいいわね。地上に計画がもれている以上、無闇にウェンディ族であることが露見するのは望ましくないわ」
そのためにも、『海水を頭から被る』などという行為は避けたほうがいい。
そういった発想から、急遽科学班が開発したのがこのアビスドライバーだ。
ヨリコ「それはあくまでも試作品です。異常が起こったら、無理せず戻ってきて下さいね」
マキノ「分かりました。…………興味深いな……」
マキノはしばし、アビスドライバーを前から後ろから、右から左から上から下から眺めていた。
マキノ「……では、失礼します」
マキノは小箱とアビスドライバーを持って一礼し、部屋を後にした。
巫女「……ヨリコ様。部下を大事にするのはわかるわ。でもこんな時に……」
巫女がヨリコに苦言を呈す。
『神の洪水計画』の準備が進行中のこの時、ただでさえ少なくなっている親衛隊を休暇に出すなど……。
ヨリコ「こんな時、だからこそです。確かに、民や兵士、親衛隊を酷使すれば計画は早急に進むでしょう。
しかし、それは指導者たりえぬ愚かな指導者がなすことです。いずれ不満が爆発し、反乱、暴動を呼びます」
巫女「まあ、それはそうね」
ヨリコ「それに、先ほども言った通り。マキノは休まなさすぎるのです。見ていて怖いのです。
あのまま働き続けるマキノが、いつか壊れてしまうのではないかと……」
見ればヨリコは俯き、肩も微かに震えている。
巫女(そういう夢でも見たのかしら……?)
ヨリコ「……それから、巫女さんもですよ」
巫女「……私が?」
急に名を挙げられて、巫女は思わず抜けた声を上げてしまった。
ヨリコ「はい、何か最近お疲れのようですけど……」
巫女「……え、ええ、そうね、まあ、色々と……」
本当に色々ありすぎる。
二人の脱走者、武者修行に出た親衛隊の孫娘、周辺を嗅ぎ回る古の竜、地底出身の傭兵、例のソーセージ売り、
そして、怠惰の人形師をパニックにさせたイレギュラー……。
考えただけで少し胃が痛くなってくる。
ヨリコ「……こちらにお掛けください」
ヨリコは部屋の隅から椅子を引きずってきた。
巫女「…………?」
続いてテーブルの上にはクッキーと紅茶が並べられた。
ヨリコ「私はまだまだ未熟なので、巫女さんの心労を察す事は出来ません。ですが……」
巫女の前にも同じものが並べられる。
ヨリコ「せめて今くらいは、一緒に一息入れませんか?」
ヨリコは、笑顔を作って巫女へ椅子を差し出した。
巫女「…………ええ、いただくわ。ありがとう、ヨリコ様」
巫女もそれに微笑みを返し、椅子に掛けた。
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夜、地上。マキノは町の中心から少し離れた、人気の少ないところにいた。
マキノ「……オクト、あなたは光学迷彩を常時発動させておくこと。いいわね」
『ゴロンゴロロン』
マキノの指示に従い、金属のミズダコ『オクト』の姿がゆっくりと消える。
休暇とはいえ、その間にカースにでも襲われたらたまったものではない。
そう考えたマキノは、一応パートナーの戦闘外殻だけ連れて地上に旅立ったのだ。
マキノ(しかし……賑わっているわね)
町の中心部に目をやれば、秋炎絢爛祭の準備か、先ほどから多くの人々が荷物を持って行きかっている。
マキノ(……とりあえず宿を確保ね)
マキノは目に付いたビジネスホテルに向けて歩き出した。
……この時、マキノは気付いていなかった。
自らの頭上を、フードを被った少女が飛んでいった事を。
そして、素通りした公園で、反逆者カイ擁するフルメタル・トレイターズが熟睡していた事を。
ただ、仮に見つけていても素通りしただろう。
『休暇をとれ』これが、ヨリコからマキノに下された命令だったのだから。
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数時間前。フルメタル・トレイターズの拠点と化している公園。
カイ「…………やばいね」
亜季「やばい…………ですな」
星花「全くもって…………やばいですわね」
輪を作る三人の視線の先には、ほんの少しの硬貨と紙幣。
亜季「私が現地で活動する為と渡された資金……」
星花「わたくしが家出する時にちょっと掴んできたお金……」
カイ「それが……三人の食費、プラスあたしの塩水で……」
ようするに、フルメタル・トレイターズは現在経済的な危機に陥っていた。
星花「しかし、希望はあります。近々開催の、秋炎絢爛祭……」
亜季「どこそこの店が出張店舗を出し、人手が足りなくなる……」
カイ「オブジェ立てたりアーチ立てたり、作業員も大勢必要……」
亜季「現に! こうして日雇いバイト募集が既に多数出ているであります!」
亜季が得意げに求人広告を取り出す。
カイ「よし! 秋炎絢爛祭を利用して、この危機を脱出しよう!」
星花「はい! それでは……解散!」
留守番のホージロー、マイシスター、ストラディバリを残し、三人は公園を後にした。
~カイサイド~
カイ「あ、ここだここだ」
カイはある空き地に来ていた。
秋炎絢爛祭本番、ここに多数の出店がひしめき合う事になっている。
現場監督「古賀ー、その木材こっちなー!」
大牙「うーっす!」
既に多数の作業員が作業を始めている。
カイは少し離れた所のプレハブ小屋の中に入っていった。
カイ「すいませーん」
作業員「ん、どちらさん?」
カイ「はい、日雇いの募集見てきた西島といいます」
カイ(久々に使ったな、この偽名……)
~亜季サイド~
亜季「おや、これは……」
亜季の目に留まったのは、メイド喫茶『エトランゼ』。
亜季「テーマ喫茶ですか……」
亜季が眺めていると、裏口から従業員らしき女性が飛び出してきた。
亜季「っ!? …………あ、あの……?」
肩で息をするその女性は、興奮した様子で亜季をじっと見ている。
チーフ「あなた!」
亜季「はいっ!?」
チーフ「…………ティンと来た! ちょっと手伝って!」
女性は亜季の腕をガッシリ掴むと、店の中へ引きずっていった。
亜季「えっ、ちょっ、待っ、うひゃああああああ!?」
~星花サイド~
星花「…………どうしましょう」
星花は歩きながら、一人悩んでいた。
みんなでバイトを探す、と決めたはいいが。
星花「……わたくしが働ける場所など……」
星花は生粋の箱入りお嬢様。
今までに働く、という経験がまるで無かったのだ。
他人に秀でるものなど、オーラを操る能力と財力くらいのもの。
しかし、この能力を活かせる職など限られるし、家出した今財力は無きに等しい。
星花「……他に出来ることといったら……あっ」
星花は自分が手に提げていたものを見て、ぱぁっと顔を輝かせる。
星花「……そうですわ!」
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カイ「いやあ、何とか仕事見つかってよかったよ」
亜季「そ、そうでありますな……」
仕事を見つけたカイと、唐突な初仕事を終えたカイが公園へ歩いていた。
カイ「ちょっとお話したらさ、日雇いどころか短期でどうかって言われてさー」
亜季「あ、あはは……それは、良かったですな……」
張り切るカイと対照的に、亜季は先ほどから沈みまくっている。
カイ「……まだ気にしてるの? 可愛かったよ、メイド服の亜季」
亜季「い、言わないで下さい。あんなフリフリして、スカートの丈も短くて……うわあああっ!!」
初めての職場で味わった果てしない恥辱を思い出した亜季は、顔を真っ赤にして髪をかきむしった。
カイ「あはは、ごめんごめん。星花、もう帰ってるかな?」
亜季「流石にもう帰ってると……おや?」
亜季がふと足を止める。
カイ「どうしたの……ん?」
カイがそっと耳をすます。
公園の方から、バイオリンの音色が聞こえてきた。
二人は早足で公園に向かった。すると、
星花「~~~~♪」
星花が数人のギャラリーに囲まれ、バイオリンを演奏していた。
星花「~♪ ~~♪ ~~♪」
演奏が進むにつれ、ギャラリーも少しずつ増えていく。
星花「~~~~♪ …………ありがとうございました」
演奏が終わり、星花はペコリと頭を下げた。
パチパチパチパチパチパチパチパチ
ギャラリーから盛大な拍手が起こった。
そしてその内の何人かが、星花の足元に置かれたバイオリンケースに硬貨を入れていく。
――――
カイ「ストリートミュージシャンかあ、考えたね星花」
演奏からしばらく経ち、公園にはカイ達三人だけになっていた。
星花「自分で誇れるものは何か、と考えまして……」
亜季「ともあれ、これで一応はどうにかなりそうですな」
星花「はい。……あの、良ければお二人のお仕事の話も聞かせてくださいますか?」
亜季「っ!」
星花の言葉に、亜季がピクッと反応した。
カイ「いいよー。星花にも見てもらおうよ、亜季のメイ……」
亜季「わっ、わー!! わー!! わー!!」
カイの言葉を必死に遮る亜季の叫び声が、夕暮れの街に響いて消えた。
続く
・科学班
海皇宮がドクターPとは別に抱える科学者チーム。
戦闘外殻やイワッシャー等を担当する工学チームと、
薬品等を担当する薬学チームに分かれている。
工学チームの現在の責任者はマキノの父。
・アビスドライバー
科学班の工学チームと薬学チームが共同で開発したベルト。
装着者の皮膚の乾燥を感知し、周囲の大気から
電気分解で海水に近い成分を生み出し、装着者に注入する。
注射式に注入するので意外と痛い。ちなみに充電式。
・イベント追加情報
マキノが休暇の為地上を訪れています。
フルメタル・トレイターズがバイト(+α)しています
カイ……短期でオブジェ、屋台等作業員
亜季……メイド喫茶『エトランゼ』ヘルプ
星花……ストリートミュージシャン
以上です
どえらいタイミングでマキノが休暇入ったもんだ(白目)
とりあえず学園祭のトレイターズは一応ここまでになりますえ
エトランゼのチーフお借りしました
乙です
まきのん誕生秘話なんです?
フルメタル・トレイターズは経済危機と度々戦わなくてはならないのか…
乙です
ぷちどるかわいい…そして宇宙船はどんd(ry
そして何故かいきなり紅月の騎士団に何故か割とストレートなフラグが立って吹いた
怠惰の刀の話投下
『それ』はいきなりやって来た。
バンドの練習を終え、帰ってきた夕方。あずきがいきなり何かを持ってこう言った。
「涼さん!この刀が涼さんを『使い手にしたいでござる』ってー!」
「今すぐ捨ててきなさい、アタシ怒らないから。」
「持ってきてないよ!?勝手に来たんだよっ!」
あずきが持っているのは…どう見ても刀だ。何か植物が描かれている鞘に収まっている。
「…とりあえず持ってみて!ね!?」
「はぁ…なんでだよ…」
言われるがままに手に取り、抜いてみる。
「これ、まだ包丁の方が切れそうな気が…こういう刀をなまくらって言うんだったか…?」
涼が言う通り、その刀はなまくら刀だった。到底物を切れるようには思えない。
「なんかねーその刀、普通の刀じゃないんだって。」
「まるで本人から聞いたような言い方だな…いや、いつもの事か…」
「そりゃ、あずきが意思与えなくても自我を持つ物はあるよー?この刀、普通じゃないし。そうだ、通訳してあげよっか!」
「…じゃあ頼む。」
「おまかせあれ!」
あずきが刀を抱く様に持ち、目をつぶる。口から発せられたのは、到底少女の物とは思えない声だった。
『…拙者は眠り草。かの刀匠・藤原一心の作り上げた七本の妖刀…大罪を内に宿した刀の一本でござる。ちなみに拙者は怠惰でござる。』
何とも胡散臭い。
(ござるってなんだござるって…)
『涼殿こそ、拙者の主に相応しいと思い…お邪魔させていただいたでござる。』
「胡散臭いねー!」
『酷いでござる!起訴も辞さない!』
あずきが目を開けて本音をぶちまけるが再び瞳は閉じられ、刀の意思を吐く。
「…なんでアタシを選んだんだよ。正直言って迷惑なんだけど。」
『…我ら七本の妖刀は、持ち主を自ら選ぶか製作者の孫の鬼っ子に選んでもらうかしなくてならないのでござる。』
『しかし!七本で持ち主発見が最後とかいうマヌケな事はしたくない!だが…働きたくないでござる!絶対に働きたくないでござる!!』
あずきが目を閉じたまま刀をガシィッ!と握りしめ力説する。
「…それで?」
『拙者は心を読む能力を持つ故、刀の使い手としての素質と同時に、理想に近い心の持ち主を探していたでござる。それが涼殿でござった。』
『妖怪を従える程の強さ…マジヤバでちゃけパネェでござる。あとスタイル良いでござる。パイオツカイデー!…そして心。なんといってもこれ大事。』
色々自由な言動の刀…あずきから奪い取って投げ捨てそうになる衝動を抑える。
「…一応聞くけど、どんな心だったんだよ?」
『戦闘及び能力への嫌悪感でござる。』
「!」
胡散臭いと思っていたが…本当に心を読めているようだ。的外れな事を言われたら窓から投げ捨てていた。
『深い事情は読めないでござるが…まぁ、拙者としては「所有者が戦闘しないだけでござる。拙者ニートじゃないでござる」で済めばOKでござりますので。』
「涼さん、結構強い能力者なのに…」
再び目を開けてあずきが口を挟む。
「…強い、か。…アタシは強い能力者なんかじゃ…」
…あずきの言葉に涼は少し俯いた。
「あれ…?どったの涼さん?」
「…そうだな、この際、あずきに…あ、刀もいるけど、話すよ。」
そう言って涼は少し躊躇したが…自分の心の内を語った。
…松永涼は『あの日』以降に能力に目覚めた。
『声の操作とその声を使用した物体の操作』。それが彼女の能力。
彼女の声はまるで魔法のように物体を操作し、その声を聞かせる対象を選ぶことが出来る。
…実を言うと彼女は自分の能力を正確に完全に把握していない。持て余している。…何故か?
…自身の力の見境なさに恐れを抱いたから。
彼女の能力は操作しようという意志さえあれば基本的にはどんな物でも操作できる。…みたいなのだ。
きっと、多分…武器はもちろん、他人の財布であろうと、貴重品であろうと…もしかしたら到底動かせなさそうな巨大な物さえ。…多分。
もちろん、涼はその能力を悪事に使ったことはない。…だが、感情が高ぶると時折無意識に能力を使用しているのだ。
例のアルパカ怪人を追いかける時、今まで『能力使用の範囲外』と無意識に思っていた靴に能力を使用していた。
何から何まで操作できるのか。例えば今いるこのアパートに使えたら?それはきっと恐ろしい事になる。
自分で把握できてない能力。本当に何に適応されて何に適応されないのかもわからない。
カースに襲われたあの夜、あずきが居なかったら自分は死んでいただろうと思うが…たまに思う。
…あずきが居なかったら…あの『周囲に建物以外何もない』所でもっとヤバい事をやっていたのではないかと。
自分は弱い。そう思い込む。それで能力を抑え込んでいる。
何回か戦ったカースとなんて本当は戦いたくもない。逃げられるなら逃げるべきだし、逃げられないなら自分とその周囲を守れるだけでいい。
でも、ヒーローのように強い能力者なら戦えと、誰かに強いられるかもしれないのが怖い。
…だって自分は戦うことが嫌いだ。自分でもわけのわからない力を使うことになるから。
それはある種の怠惰…なのだろうか。
そう…話してしまった。
『ふむ、なかなかの悩みっぷりでござるな。まぁ働かないならそれが一番でござる』
「うわー最低だよこの刀。こんな話の後にこんな結論で締めようとしてるよー」
「おまえら…」
その反応にどこか涼は安堵していた。…少しだけ言ってしまって後悔したから。
『…涼殿。拙者が言うのもなんでござるが…涼殿は言うほど怠惰ではないでござるよ。真の怠惰はそんな事考えないでござる。』
『それに、「自分とその周囲を守れるだけでいい」。これだけ言えるなら大丈夫。綺麗な心で…拙者は落ち着くでござる。』
「…意外にまじめだ…びっくり。」
『心が読めると拙者でも心みたいなものが疲れるでござるからな。…あ、置いてくれる気になったでござるか!?』
「…まぁ、押し入れに入れっぱなしでいいならいいけどさ…」
ここまで言ってしまったんだし、他人に拾わせるのも…なんか嫌な感じがする。
『酷いでござる!せめて埃は被らない程度に可愛がって欲しいでござる!』
「可愛がるって…オイ。アタシはバンドのライブもあって忙しいんだぞ?」
『じゃあ、拙者、あずき殿にも可愛がって欲しいでござる!ライブも見に行きたいでござる!サイリウム振れないでござるが!』
「あ、前言撤回したくなってきた…」
『…でも押し入れで寝るのも悪くないかも?…とにかく!拙者、使われなければ使われない程嬉しいので…そこらへん考慮してくだされ!』
「生意気-っ!こうなったらあたしが使ってあげる!」
『ぎゃーす!』
「…」
まるであずきの一人芝居だった。
「うるさいからその辺で止めとけ。」
「はーい…」
『はーい…』
…とにかく、こうして松永涼は怠惰の刀の所持者になってしまったのだった。
『逆刃刀・眠り草』
『鬼神の七振り』の一本で、日本一、自堕落な刀。
オジギソウが描かれた鞘に収まり、鍔にはマツバギクが描かれた刀。
碌に斬れなさそうななまくら刀だが、これは怠惰であるが故である。いくら研いでもなまくら刀。負のエネルギーや妖力を纏うことで一応は妖刀として機能する。
ちなみになまくらすぎて気付く者は少ないが逆刃刀である。でも妖刀として無理やり働かさられるときは普通に斬れる。理由は不明。
眠り草…オジギソウの花言葉を体現するように、他者の心に敏感で、読心能力を持ち、能力を開放すれば使用者も相手の心が読めるようになる。
しかしカース等を相手にする時は精神汚染を防ぐためにフィルターがかかる。
悪意や仕事の話には特に敏感で、そんな意思を持って近づくものには使用者を守るように自動発動することもある。
それもこれも「働きたくないでござる!眠っていたいでござる!面倒事は簡便でござる!」そんな身勝手な自我を持つから。
胡散臭い武士風の喋り方をするが…どこかオタク臭い。読心能力を持つからか、善悪関連では真面目に悟ったような語りをすることもある。
また、一応は妖力のように負のエネルギーを扱えるあずきなら、肇と同じように持たれても別にかまわないらしい。
以上です
学園祭前に涼さんの胸の内を。楓さんに近い思考なのかもしれない
物を操るって最初の頃に思ったよりアバウトで割と協力なんだよね
プロダクションに行くかは…まだわからないわ
そして怠惰で刀と言えばこれだよね。って事で決めたらカオスになったでござる…
乙ぅ
イヴさんの自由っぷりがたまらないww
またも鬼神の七振りの所有者が決まったか……
誕生日SS投下
――――――――――――――――――――――――
From:夏美ちゃん
Sub:緊急連絡
本文:
10/11の午後二時、美優姉のアロマショップに集合ー
遅れちゃダメだよ?
-END-
――――――――――――――――――――――――
瞳子「…………」
事前に送られていたメールの内容を改めて確認する。
メールにはご丁寧に、夏美が手描きしたらしいアロマショップ近辺地図の画像まで添付されている。
瞳子「……まあ、なんとなく用件は分かるけどね」
指定された日付は瞳子の誕生日だった。
特別意識していたわけではないが、何せ一週間ほど前にレナの誕生パーティーを開いたばかりだ。
「そういえば私は来週だっけ」と、ふっと思い出すのもまあ当然だろう。
瞳子「……にしても」
瞳子は添付された地図を見てくすっと笑う。
瞳子「相変わらず、夏美ちゃんは絵が上手いわね」
瞳子は携帯を仕舞うと、アロマショップへ向けて歩き出した。
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――――――――
――――
――――
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――――――――――――
アロマショップ。
いつもなら普通に開店している時間だが、今日は戸に「準備中」のプレートが提げられている。
店内では、店長と美優、それからレナと夏美が慌しく準備をしていた。
店長「今何時だ?」
店長が壁にカラーテープを貼り付ける。
美優「一時の……五十分ですね」
キッチンでケーキに苺を乗せながら美優が答える。
レナ「ちょっと、間に合わないんじゃないの?」
レナがテーブルにクロスを敷く。
夏美「大丈夫だよレナ姉、瞳子ちゃんなら道に迷って少なくとも三十分は遅れるから」
夏美が奥からクラッカー等の小道具を持ってくる。
美優「……夏美ちゃん、何気にひどいですよね……」
夏美「失礼な、瞳子ちゃんの事をよく分かってるからこそよ?」
レナ「まあ、夏美も瞳子も同い年で仲良かったからね。ある意味信頼の表れじゃない?」
店長「そういうことなら、瞳子が迷子してる間に準備を進めてしまうか」
そう言って店長が脚立から降りたのと同時に、来客を知らせる鈴が鳴った。
店長「ああ、すいません。今日はもう…………!?」
言いかけた店長が凍りついた。
レナ「うそ…………!?」
美優「えっ…………!?」
レナも、奥から様子を見に来た美優もその場に凍りつく。
夏美もまた同様だったが、辛うじて店に入ってきた人物の名を呼んだ。
夏美「…………瞳子ちゃん…………!?」
瞳子「何よ、みんなしてその顔……そっちが呼んだんでしょう?」
夏美「い、いやー……思ったより早かったから……」
瞳子「…………ああ」
軽く店内を見渡した瞳子は、ある事を察した。
瞳子「私が道に迷うことを計算に入れていたら準備が間に合わなかった。……ってところ?」
美優「うっ」
レナ「うっ」
店長「うっ」
三人がきまずそうに目を逸らす。
夏美「……流石はとーちゃん……鋭すぎるよ……」
瞳子「とーちゃんはやめて。もうそういうトシでもないし」
夏美が力なく零した言葉を、瞳子は目ざとく拾った。
夏美「いいじゃん、私の事もなっちゃんでいいからさ、ね?」
瞳子「分かったわ、じゃあ夏美ちゃんって呼ぶから瞳子ちゃんでお願いね」
夏美「……レナ姉ぇ~、瞳子ちゃんがいぢめる~」
レナ「あーはいはい」
進退窮まった夏美がレナに泣きつく。
美優「……あ、あの、瞳子ちゃん」
瞳子「どうしたの、美優?」
美優「その、そういうわけでまだ準備が済んでないので……ちょっと、奥で待っててもらって……」
瞳子「あら、私も手伝うわよ」
美優の言葉を受けて、瞳子はさらっとそう言い放った。
美優「えっ……えぇっ……!?」
レナ「ちょ、ちょっと待って。今日は瞳子の誕生パーティーなのよ?」
瞳子「ええ、知ってるわ」
店長「いやいや、主役はゆっくり待って……」
瞳子「待っているのは性に合わないもの」
店長の制止も無視し、瞳子はテーブルクロスの皺をピッと伸ばした。
店長「……はぁ、頑固な所も変わってないな」
店長が軽くため息をつく。
美優「まあ……みんなで準備した方が、早く終わりますよね」
美優はそう言って再度奥のキッチンに引っ込んだ。
レナ「しょうがないわね。じゃあ瞳子は夏美の手伝いをお願い」
瞳子「分かったわ。案内して、夏美ちゃん」
夏美「うん、一緒にやろ、瞳子ちゃん♪」
こうして誕生パーティーの準備は、主役を交えて再開された。
おわり
以上です
瞳子さん誕生日おめでとう!
美優、レナ、夏美、店長お借りしました
キヨラさんとメイド喫茶投下
「秋炎絢爛祭…ねぇ」
街を歩く女性のバッグの中のライオンのぬいぐるみがチラシを見ている。
「かなり大規模なお祭りみたいだよ。毎年の集客データ…半端ないね。」
クマのぬいぐるみも携帯ゲーム機を弄りながら答える。
「…そこに潜り込んでもいいかもしれないわね。人間界の住居確保及び信頼関係の構築の役に立ちそう…それに、何かあった時…ね。」
「ふーん…働いたりするのぉ?」
「そうねぇ…お金の心配はないけど、確かに働いた方が働いていない人より信頼構築はしやすいわ。」
「と言っても、どこで働くの…ですか?」
ベルフェゴールが問う。それもそうだ、募集をしているのは力仕事が多い。
「ここで募集していないけど店員募集をしている店もあるでしょう?喫茶店とかなら私にもできると思うのよ。」
「…探してみます」
そのベルフェゴールにルシファーが小声で話しかける
「あんたもすっかり配下って感じねぇ…」
「…そういうそっちはどうなのさ。」
「私は心までは従わないわぁ。アザエルちゃんを信じてるものぉ…」
クスクスと笑うぬいぐるみの声は、人ごみの中ではキヨラに聞こえなかった。
「…『エトランゼ』…喫茶店と言うよりはアレね、コスプレ…?ここしかないの?」
「…」コクリ
ベルフェゴールが無言でうなずく姿を見て、キヨラはため息をつく。
「…キツイわ。私、人間ではないけど…人間基準だとこれはキツイ年齢だってわかるのよ。」
「ですよねー」
立ち去ろうとすると、裏口から出てきた一人の女性が腕をつかんだ。
「ちょっと待ってください!!」
「は、はい…?」
「あのっ!う、うちで働きませんかね!?」
「えっ」
「店の窓からあなたを見て…持っているチラシから察するに、働き先を探しているんでしょう!?」
興奮冷めやらぬといった様子で、彼女はキヨラを誘う。
「でも私…もうそういう年齢じゃ…」
「あなたには似合う!私の勘がティンと来ているんです!ちょっとまずは着てみましょう!」
「え…は、はい…」
何故か断れない気迫に押され、キヨラは中に連れていかれてしまった。
「似合います!!すっごく!!」
「…あの、これは…?」
キヨラが着せられたのは、よくある短いスカートのメイド服ではなく、ロングスカートのメイド服。
「ヴィクトリアンメイド。真面目…なメイド服?って言えばいいのかな。…こっちの需要もあるので。やっぱり似合うなぁ…」
どこかうっとりした瞳で見つめるチーフ。キヨラはどうリアクションしたものか、いまいち分からない。
「は、はぁ…」
「チーフ!自分もそっちの長いスカートの方が!」
いきなり背後からミニのメイド服の女性がチーフに服を変えるように訴える。
「ダメ。亜季ちゃんは短いスカートの方が似合っているから!!ほら戻った戻った!」
「そんなぁ…」
…秒殺で却下。無理やり表の方へ押し出されていった。
「ふぅ…あ、名前を聞いてませんでしたね。」
「ああそうでしたね…私は、キヨラ…柳清良です…あの、やっぱり…」
「清良さん!どうかこのエトランゼで働いてくださいませんかね!!」
両手をガシッと握られ、強い押しにキヨラはたじたじになってしまっている。自分のペースに持ち込めないのだ。
「その、私遠い場所から来ていて…まだ住む場所も決まってないので…まずはそっちから決めた方が…」
「住み込みで大丈夫ですよ!!」
「え、ええ…」
「押されてる…」「珍しいもの見れたわねぇ」
ベルフェゴールとルシファーがバッグの中で面白そうに小声で会話する。
幸運なことにキヨラにそれが見つかることはなかった。
結局、キヨラは断り切れず、エトランゼで住み込みで働くことになった。学園祭も近く、人手はあった方がいいらしい。
メイドのメンバーとして、仕事の他にメンバーを記憶していく。休憩時間に写真付き名簿を見る。
住み込みだから夜の閉店後でもいいが、本人を見れるのは記憶するのにちょうどいい。
少々経歴が不透明な者もいるが…自分のように勧誘されたのだろうと納得をする。
(…獣人も居るのね、あとは…アナスタシア…アーニャ、又はアーニャンってニックネームなのね。)
最近来たという銀の髪の少女。今日は来ているらしいが…ヘルプらしく明確なシフトは書かれていない。
「あのー」
(…!)
「あー…あの、清良さん。休憩入ります、交代です。」
顔を上げると、ちょうど本人が休憩に入ろうとしていた。
「…あら、もうこんな時間。すぐに出るわ。」
立ち上がり、メイド服のスカートを整え、名簿をしっかりと鍵付きの棚へ片づける。
「アーニャちゃん。」
「シトー?えっと…なんですか?」
「…ごめんなさい、やっぱり何でもないわ。」
「そうですか?」
首を傾げるアーニャに少し申し訳なさそうに微笑むと、キヨラは休憩室から出た。
(…あの子から…ずいぶんと懐かしいものを感じたわ…)
聖天気。天使の力。…それを懐かしいと感じる彼女。彼女の真の姿は天界の熾天使。神の炎、破壊天使ウリエル。
かなり昔、天界で神に逆らう事の愚かさを教えるための見せしめの只の天使として魔界に落とされた。
だから殆どの天使はウリエルの顔や正体を知らないまま。
彼女が堕天使と見せかけて魔界へ働きに出された熾天使であることは他の熾天使と全能神しか知らない。
魔界で罪人を裁くことの悦びに目覚め、それ以来神にこんな自分を見せられないと天界に帰ってはいないが…聖天気を感じ、ふと天界を思い出してしまった。
(…ミカエルちゃん、ガブリエルちゃん、ラファエルちゃん…元気かしら。)
天使とは思えないサディスティックな一面と、本当に天使のような優しさの一面を持つ彼女。
今…少しだけ、故郷を思い出していた。
ウリエル(キヨラ)
とある事情により見せしめに堕天使にされてしまった熾天使。別名・破壊天使。
他の熾天使と全能神しか彼女が熾天使の一人であることを知らない。ウリエルは他の天使の間では正体不明だった。
堕天後は魔界で天使であること隠しつつ更正施設で働き始め、以前よりも裁く悦びに目覚めてしまった。
元が熾天使である為、レベルドレインの末に異常に強くなり…「魔王より強い」という噂は…本当なのかもしれない
全能神は彼女の帰還を望んでいるがキヨラは今の自分はとても見せられないと拒否している。
あと彼女好みのたくましい声の男性が多いのもある。
罪によって堕天した堕天使ではないので聖天気を扱える。…が、神に見つかる事を恐れてあまり使おうとはしない。
魔力を聖天気とせずに体内で留めるテクニックを習得しており、その為魔術も回復系ならば容易に扱える。
焔の剣
普段は医療器具の入った四次元カバンの中に紛れ込ませてあるキヨラ本来の武器。
聖天気によって構成される焔が悪を焼き尽くし、異常なスピードで放たれる剣が障害を破壊する。
…だが本人はあまり使おうとはしない。
以上です
メイドなキヨラさんはロングが似合う(力説)
そしてキヨラさんウリエル確定だよ!
投下終了、という訳でいよいよ本祭開始です。
パソコン逝ったけどがんばりますね〔白目
そして、新田ちゃんの口調がおかしい気がが……
兎にも角にも、とりあえずお目汚し失礼しました。
皆さん乙乙ー
>>428
非常に遅ればせながら瞳子さん誕生日おめでとー
長い付き合いからの信頼の結果なんだろうけど、遅刻しなかった事に驚かれすぎでw
>>439
エトランゼもなかなかに戦力揃ってきた感。早いところあの娘も働かせたいものです。
そして天使組は魔界組より動き少なめだから、キヨラさんの動きにも期待。
>>454
とうとう文化祭はじまりましたか、参加するためにも美穂ちゃんを何とかしないと・・・・・
エクスマキナに懐かれた新田ちゃんはどんな活躍をするかな
早く美穂ちゃんを助けてあげたいのに筆がなかなか進まないよぉ・・・・・・(完全に言い訳)
安易に風呂敷を広げるべきではないね(教訓)
息抜きと言う訳ではないけど、別のお話投下しマース
自分が手に入れた能力の事に気づいたのは、
本当に何気なく、いつもみたいに日常を過ごしていた時のことで、
あんまり細かい事は覚えてないんだ。
ただ、いつもみたいに自室の机の上にパンフを広げて、
次の休暇の時に行きたい場所の事を考えてたら、
ふっと、頭の中に不思議な呪文の様な言葉が浮かんで。
「√ⅤΩ?」
思ったとおりに口に出してみると、
次の瞬間には
「えっ?」
見渡す限りの雲と空っ!
ここは天国?
いえいえ、違います。
なんとっ!富士山頂に到着ですっ!
「う、嘘っ!?な、なんでっ!?」
そりゃあ、行きたいなーとは思ってたけれど、
こんなに急に連れてこられても困っちゃうよ?
旅の準備も、心の準備も、できてないんだから。
と言うか、この頃は不思議な出来事にも慣れてなかったから、
当然だけどパニックになっちゃって。
恥ずかしいけど、ちょっと泣いたりもしちゃった。
「もう訳分からないし、とにかくお家に帰りたい!」って思ってたら、
また、呪文の様な言葉が思いついたんだ。
「Ακκ?」
さて、
次の瞬間には、見慣れた自室でへたりこんでいましたとさ。
私が、目覚めた能力。
『瞬間旅行』についてカンペキに理解したって言えたのはもう少し先の事だったけど、
この時には、もう自分の手に入れた力の大まかな事はわかってたと思う。
たった2回使って、自宅と日本一高い山を往復しただけでも、なんとなくわかった。
”世界中どこでも行ける力”
”行きたい場所に行けちゃう力”
そう言う力なんだって。
そんな特別な力を手に入れたとわかって、
最初に私が思ったことはと言えば、
「なんだか世界が狭くなっちゃったなぁ」
って、ちょっと残念に思ったのが正直なところかな。
――
さくら「ぱんぱかぱーんっ!」
さくら「お誕生日っ!おめでとうございまぁすっ!芽衣子さぁん!」
芽衣子「あっりがとーっ、さくらちゃんっ!」
芽衣子「さくらちゃんの満開の笑顔で祝われると、すごく良いことありそうで嬉しいよっ!」
さくら「えっへっへー!」
さくら「あ!これ花束でぇす!財閥から届いてましたっ!」
芽衣子「おおっ、色とりどり!綺麗!しかも重い!」
芽衣子「嬉しいけど、でもどうしようこれ」
さくら「花束って贈られるのは嬉しいですけど、置き場所に困っちゃいますよねぇ」
芽衣子「私の場合、ほとんど一箇所に留まってないから特に困っちゃうなぁ」
さくら「とりあえず拠点のどこかに飾っておきますか?」
芽衣子「うん、そうするー」
さくら「と言う訳で、エージェント一同からはコンパクトで持ち運びやすいものを差し上げますよぉ!」
芽衣子「おぉ、嬉しいお気遣いだねっ!」
さくら「代表して私がお渡ししまぁす!」
さくら「・・・・・・本当はセイラさん達とも一緒に祝いたかったんですけど、皆さん忙しいみたいでぇ」
芽衣子「みたいだねぇ。セイラさんにはたまに会ってるから知ってるけど、サクライさんと追いかけっこしてるみたいだから」
さくら「追いかけっこですか?」
芽衣子「うん、例の計画について小一時間問い詰めたいみたい」
さくら「・・・・・・?」
芽衣子「・・・・・・・」
さくら「大変ですねぇ?」(よくわかってない)
芽衣子「大変だよねぇ」(他人事感)
さくら「まあまあ今日はそんなことより!芽衣子さんのお祝いですよぉ!」
芽衣子(お仕事をそんなことって言っちゃうさくらちゃん、カワイイ)
さくら「来れないセイラさん達の分も、わたしがしっかりお祝いしちゃいますからっ!安心してくださぁい!」
芽衣子「さくらちゃん、頼もしいーっ!」
さくら「えっへっへー!」
さくら「ではでは、早速どうぞっ!」
芽衣子「小箱?アクセサリーかな?」
さくら「身につけれるものなら邪魔にならないかも、ってセイラさんが言ってました」
さくら「開けてみてくださぁい」
芽衣子「それじゃあ、もったいぶらずにパカッと」
芽衣子「・・・・・・わぁっ!!トラピッチェだっ!!」
さくら「あっ、知ってましたかぁ?」
芽衣子「自分の誕生日の誕生石だからね。調べたことあるんだよ♪」
芽衣子「トラピッチェエメラルドのブローチ。すごいねっ」
芽衣子「高そうだけど本当にもらちゃってもいいのかな?」
さくら「割り勘でしたからそこまで払ってないと言うか」
さくら「お給料だけは私たち使いきれないくらいですからっ!全然問題ないですよぉ!」
芽衣子「あははっ、そうだったね。じゃあ遠慮なく貰うね。ありがと!さくらちゃん!」
さくら「えっへっへー」
芽衣子「みんなにもまたお礼言わなきゃね。」
さくら「とらぴっちぇの宝石言葉は・・・・・・えーっと」
さくら「ちょっと待っててくださいね、芽衣子さん!」
芽衣子「うん?」
ゴソゴソ
さくら「お待たせしましたぁ」
さくら「こほん・・・・・・トラピッチェエメラルドの宝石言葉は、その車輪みたいな模様から『回転』って言われてまぁす!」
さくら「だから、この宝石には、目標に向かって進んでいくパワーがあるって言われてるそうでぇす!」
芽衣子「それカンペ?」
さくら「・・・・・・・えっへっへー!」
芽衣子(別に悪いことじゃないのに笑顔で誤魔化すさくらちゃん、カワイイ)
さくら「旅好きの芽衣子さんのお守りにピッタリじゃないかなぁって」
さくら「宝石に私の魔力を込めてますから、お守りとしての効能は折り紙つきですよぉ!ちゃんと実用性もありありでぇす!」
芽衣子「・・・・・そこまでしてくれてたんだ。ありがと♪大事にするね」
さくら「はいっ!喜んでもらえてうれしいですっ♪」
芽衣子「さてっ、じゃあせっかくの誕生日だし、この後はケーキ屋さんにでも行っちゃう?」
芽衣子「美味しいお店知ってるんだ、外国の。私の能力ならひとっ飛びだよ」
さくら「わあっ!いいですねぇ!ぜひぜひ行っちゃいましょぉっ!!」
芽衣子「それじゃあ、花束だけ片付けてくるからちょっと待っててね。」
ヒラッ
さくら「あっ、花束から何か落ちましたよ?」
芽衣子「んん?ほんとだ。メッセージカードだね」
さくら「えーっと・・・・・・サクライさんからみたいですねぇ」
芽衣子「・・・・・・まめだねぇ」
さくら「・・・・・・まめですねぇ」
さくら「お祝いの言葉とか書いてるんでしょうか?」
芽衣子「たぶんね、とりあえず見てみよっか」
――
「君は、自分の能力の事を怖がったりしないんだね?」
あるときのこと。
知らない男の人が、私にいきなりそんな風に話しかけてきた。
うーん、今考えても、すっごく怪しかったなあ。
それでも、ついつい相手をしちゃったのは、”能力”に興味を持たれた事がはじめてだったからかな。
私自身も”私の能力”には興味があったし、
誰かとそれについて話すことで、何か新しい発見があるかもって、そう思ったから。
「ん~・・・・・・怖がっててもぽいっと捨てられる訳じゃないから仕方ないというか」
「せっかく手に入れた力なんだから、楽しんで使わなきゃ損かなって思うんだよね」
能力を手に入れてからと言うもの、私は世界中何処でも行きたい放題。
それなら、旅行に行かない理由はないよね?
私主催の世界一周旅行なんてしちゃったりして、その頃にはすっかり”瞬間旅行”を満喫していたのでした。
「そうか、強いのだね。」
「うーん、特別私が強いって気はしないよ?」
「いや、強いよ。世の中には手に入れてしまった力を恐れ、能力自体を呪ってしまう者も多いのにね」
ある時を境に、世界には能力に目覚めた人が多くなったって聞いてたけど、
それを受け入れられない人も多いらしい。なんだか勿体無い話だよね。
「・・・・・車とかと同じなのかな?」
「ほう?そのこころは?」
私がぼそっと言った言葉に、彼は反応して続きを促したのでした。
「使い方次第で、怪我しちゃったり人の命を奪えるくらい危ないから、車を運転するのは怖いよね。」
「だから正しい使い方を知らないといけない・・・・・・でも、安全に使う方法を知っちゃえばすごく便利になるよっ」
と、そんな感じの意見を私なりに述べてみた。
「使い方に正しい間違いなどはないよ。人の命を奪うのも、それらの立派な使い方だ。だが、世界を広くしてくれると言うのは確かにそうだろう。」
前半の危ない人みたいな発言はさておいて、私が反応したのは後半の言葉のほう。
「う、うーん・・・・・・世界を広くって言い方だと、私の能力は逆だったかも」
「さて、どういうことかな?・・・・・・たしか、君の能力は好きな場所に移動することのできる力。だったね?」
どこで調べたのやら。男の人は私の力の事を既にご存知だったみたい。
普通ならストーカーの類かと思って、怖がったり警戒するところなんだろうけど・・・・・・
まあ、私の場合はいつだってどこにでも逃げられるからストーカーさんでもあまり怖くないんだけどね。
むしろ、逆にそんな私の力についてそこまで調べられる男の人の素性に付いて気になったかな。
「うん。この力の事は、とりあえず『瞬間旅行』って呼んでるよ」
「世界中何処にでも一瞬で行けちゃう能力。何処にだって、手が届いちゃう能力」
そう、世界中どこにも私の手が届かない場所はないのだ。
「・・・・・・ああ、なるほど。それで世界が狭くなってしまったか。」
「君の知ってる世界が須くすっぽりと、自身の手の届く範囲に収まってしまったから、だね」
「・・・・・・えへへ、そう言う事」
ちょっと不自然な笑いだったよね。
暗くなってしまいそうな顔を隠すために、出てきた笑顔。
まあ結局は私も、この頃は手に入れてしまった能力の事を、心の底から受け入れきってはいなかったって訳ですよ。
そんな私の様子から、気持ちを察したのかな。
男の人はこんな風に話を切り出したんだ。
「世界に失望するには早すぎるよ。」
「えっ?」
「”君の知らない世界”はまだまだたくさんあるのだから」
「・・・・・・私の知らない世界?」
「君の能力の適用範囲は地球上の、地表の上だけだ。」
「ならば、例えば宇宙にはまだ行っていないのだろう?」
「え、えぇっ?う、宇宙?」
もちろん、この頃でも宇宙人が実在しているとは聞いていたけれど、
でもあくまで伝聞。実際に出会ったりことはなかったし、
宇宙は遠すぎて、正直ピンと来てなかったんだ。
だから宇宙旅行の可能性も、壮大で想像がつかなすぎて、
私の考えには無かったことだった。ほとんど諦めていたこととも言うけど。
「さらに言うなら、地下に国家が存在している事も知らず、未知なる海底に挑んだことも無い」
「異世界に足を運んだこともなければ、時を超克したこともないのだろう?」
この後も、まあ次々と出ます出します。全然想像もつかない世界のお話。
その時は、全部嘘の話と言われたほうが納得できちゃいそうだったなぁ。
「今ある小さい世界に満足できないなら、次に挑めばいい」
「世界は知ろうとすれば、途方も無く広がるものさ」
と、話を締めくくる彼。
いやいや、簡単に言っちゃってますけど。
一般人にはとんでもない話ばかりだったよ。
「そんな所があるなら・・・・・・行ってみたいところばかりだけどね。」
「あるとも、確実に」
「そっか。・・・・・・えへへ、楽しみが増えちゃったかも」
今の私の手が届かない世界がそんなにもある。
そんな事を聞いて、ワクワクしないはずはなかったね。
「だけど、どうやってそこまで行こうかなぁ」
「旅に出るなら、まずは”資金の調達”と”情報収集”だろう?」
「うん、基本だねっ」
「それなら、君の旅に必要なものは僕が用意しよう」
「えっと・・・・・・あなたが?」
「ああ、資金も情報も、財閥は幾らでも用意できるよ」
「君さえよければ、僕についてきてくれないか?芽衣子君」
――
芽衣子「えーっと、なになに」
芽衣子「『まずは誕生日おめでとう、芽衣子くん』」
芽衣子「『君の働きに、これまで僕は何度も助けられた。』
芽衣子「『今は、このくらいの贈り物しか用意できないことを申し訳なく思うよ』」
芽衣子「『その代わりと言ってはなんだが、いつか”新しい世界”を君にも見せたい』」
芽衣子「だって」
さくら「”新しい世界”って何でしょう?」
芽衣子「さあ、わかんない」
芽衣子「ただ、”君にも”ってことはたぶん何かの計画のついでのお話なんだろうね」
さくら「贈り物の代わりが、計画のついでって・・・・・・本当にどうかと思いますよぉ・・・・・・」
芽衣子「あはは、そうだね。」
芽衣子「でも・・・・・・意外と楽しみだったりするよ」
あれから、世界は確かに広がってる。
魔法使いの女の子や、元アイドル、吸血鬼や海底人とも知り合いになるなんて、
昔は思いもしなったしね。
芽衣子「”新しい世界”」
芽衣子「何のことかわからないし、まったく想像つかないけど」
芽衣子「だからこそ、いいね♪」
さくら「そんなもんなんですねぇ」
芽衣子「うん、そんなもんなんだよ。」
芽衣子「是非、いつか足を運んでみたいなぁ」
広がり続ける未知なる世界、
その先にある景色を求めて、今日も私は私の道を行くっ♪
おしまい
『装飾品「ホイールオブフォーチューン」』
芽衣子にプレゼントされたトラピッチェエメラルドのブローチ。
車輪模様の宝石が、進み続ける先に幸運を呼ぶ。旅のお守り。
『進展』『回転』『運行』などの属性を持つ。
さくらが芽衣子のために魔力を込めたため、お守りとしての効果は高い。
と言う訳で、芽衣子さんのお話でしたー
芽衣子さん誕生日おめでとー
梨沙投下します
とある公園のベンチ。
そこに座る一人の少女とコアラのよう姿の一体の機械。
??「ああ!もう!折角の休みなのにパパとデートできないってどういうこと!?」
『ぶもっ』
少女はアイスを舐めながら、不機嫌そうにし、コアラみたいなのは笹をモシャモシャと食べながらボーっとしていた。
彼女の名前は的場梨沙。
どこからどうみても普通の少女にしか見えない彼女。
けど、彼女は普通の少女ではない。
梨沙「アイドルヒーローの仕事もレッスンもなくってオフなのに……」
そう。彼女はアイドルヒーロー≪RISA≫として活動をしているのだ。
『ぶもぉ~』
梨沙「って、コアさんに言っても無駄よね……」
そして、彼女の隣でのんびりと笹を食べてるコアラ型の機械みたいなのは彼女の相棒≪マキナ・コア≫。通称コアさんである。
コアさんと梨沙の出会いを語るのははまた別の話。
梨沙「………パパのためにアイドルヒーローになったのに……」
梨沙「パパが見てるのは≪アタシ≫じゃなくって結果と実験の経過…全部≪アイツ≫のため」
うつむきながら彼女は悩む。
彼女の家庭は複雑である。
彼女の父親は≪とある権力者≫である。
だが、世間ではそれを隠している。
何故なのか?
それは彼女は隠し子だからだ。
彼女の父親には家族がいる。妻と≪今はいない娘≫。
だが、その娘は産まれた時からある病にかかってしまった。その当時の医学では……いや、現在の医学や宇宙人の技術でさえも治せない病。
彼はあらゆる手を尽くした。
表にできることから、裏でできることまで、ありとあらゆる手段を使った。四大財閥やその後、台頭してきた櫻井財閥の目を掻い潜り、利用しながら。
それも彼の異常なる娘への一方的な家族愛による。
その内の一つ。とある研究所の秘密裏にされている実験データを手に入れるためそこで働いている女性と関係を持った。
その時にできたのが梨沙だ。
彼女は父親の離れの別荘で母親と一緒に秘密裏に育てられる事になった。
父親の家族愛は梨沙には向かなかった。
彼の娘は一人だけ、梨沙はその手段でできたモノとしか見ていない。
そして、今年に入り病に侵されていた娘は失踪し、死亡した。
だが、梨沙は知っている。娘は実は生きて、今も何処かにいることを……
梨沙「アタシはパパのこと大好きなのに……どうして≪アイツ≫ばっかり見るの?リサを見てよ…」
そう泣きそうな声で、震えてうつむいてる彼女を優しくなでる≪モノ≫が二つ。
『ブモッ……』
一つはいつの間にか彼女に抱きつきながら彼女の頭を撫でてるコアさん。
もう一つは……
≪…………≫
梨沙の背後にいつの間にか現れた、全身がエメラルド色に輝く女性の姿をしたモノ。
梨沙「…………ありがとう。コアさん。エルファバ」
『ブモ~~』
≪…………≫
コアさんはのんびりとした鳴き声で返事をし、エルファバはただ無言でゆっくりと消えていった。
梨沙の母親はとある研究所であるモノを使った実験をしていた。
その研究所はあの日が来る以前から、宇宙犯罪組織との取引をおこなっていて、異星の技術と素材を手に入れた。よそから攫ってきたり、人身売買で買い取った沢山の子供を使った非人道的なる実験。
それは金属生命体≪OZ≫による人工的な能力者兵士を創り出す計画。
まあ、その研究所は現在、唯一成功した四人の実験体に壊滅されているのだが……
その実験の過程にある物質が産まれた。
それは≪エメラルド色の金属≫。だが、それは生きていた。まるで≪OZ≫のように……
それを発見したのは梨沙の母親。
彼女は、その金属の一つを梨沙の父親に渡したのだ。
そして、それを梨沙に移植させた。もちろん梨沙はそれを喜んで受け入れた。全ては≪パパ≫のため。
だけど、父親は梨沙を見ていない。それもこれも≪娘≫のため………
梨沙「エルファバはアタシの味方だもんね」
エメラルド色の金属を移植された梨沙の身体はゴーストを出せるようになった。それが≪エルファバ≫だ。
梨沙「いつまでもクヨクヨするわけにはいかないし!」
彼女はアイスを舐めながら勢いよく立ち上がる。
梨沙「アタシはパパの為に頑張るんだから!そして……いつか≪北条≫の姓を名乗るんだから!」
そう。彼女の父親の苗字は北条。
そして、彼女の異母姉は北条加蓮。
もちろん加蓮は自分に腹違いの妹がいるなんて知らないだろう。
そして……
梨沙「≪アイツ≫なんかよりアタシの方を見てもらうんだから!」
憎悪されていることを………
『ブモッブモッ』
梨沙「なに、コアさん!アタシは今気合をいれてるの!」
突然、服を引っ張るコアさんに梨沙は不機嫌そうに見た。
コアさんの手にはいつの間にかチラシを持っていた。
梨沙「なにこれ?……えっと…秋炎絢爛祭?そういえば次の仕事はアタシたちここで踊るんだっけ?」
『ブモッ!』
梨沙の質問にコアさんは首を縦に振る。
梨沙「じゃあ、下見ついでに行く?もしかしたらコアさんの好きなユーカリ売ってるかもしれないし」
『ブモッ♪』
ユーカリが売ってるかどうかは、知らないが、彼女達は秋炎絢爛祭に行く事にした。
さてさて、どうなることやら。
終わり
的場梨沙(12)
職業・小学生/アイドルヒーロー
属性・装着系ヒーロー/ゴースト使い/複雑な家庭の子供
能力・マキナ・コア装着/エルファバ
アイドルヒーロー同盟に所属する小学生。
≪RISA≫という名前で活動していて、マキナ・コアを装着し、≪エルファバ≫をくししながら、踊るように戦う。
実は≪とある権力者≫の隠し子であり、加蓮と異母姉妹。
アイドルヒーローになったのも、パパの為。
その活動には彼が秘密裏に取引している組織や企業の広告塔であり、実験の観察対象などの理由がある。
梨沙はそれを知りながらもいつかはパパに本当の娘として認められ、あわよくば結婚したいと思っている。
だが、パパが見てるのは加蓮であり、梨沙は会ったことない加蓮の事を憎悪している。
どんな実験をしてきたかわからないが、そのうちに一つに≪エメラルド色の金属≫を移植されている。
≪エルファバ≫
的場梨紗が『エメラルド色の金属』を身体に埋め込まれたことで発現したゴースト。
全身がエメラルド色に輝く女性の姿をしている。近距離パワー型。射程距離は2メートル前後。
殴った物体から『エネルギー』を抽出する能力を持つ。
衝撃や熱、光、電気、音を吸収して体内に蓄え、魔法使いの操る魔法のような形で放出することができる。
その性質上、敵に殴られたりしたダメージの何割かも衝撃エネルギー等として吸収されており、
見た目よりダメージは少ない上に貯めたエネルギーを放出することで手痛いカウンターを喰らう危険性もある。
だが、そんなエルファバにも欠点がある。
片手に3目盛り、両手で6目盛りあり、6回まで衝撃・熱・光・音などあらゆるエネルギーを吸収でき、
それぞれの腕に蓄えられたエネルギーを放出して攻撃等を行える。
ただし、エネルギーは蓄えたものをすべて放出してしまうため1目盛りずつ放つということはできず、
エネルギー放出後は冷却のため、1目盛りにつき30秒間吸収・放出ができなくなる。
つまり両腕併せて最大3分間、完全に無防備になってしまう。
その弱点を補うのがマキナ・コアである。
梨紗に埋め込まれた『エメラルド色の金属』は金属生命体『OZ』の亜種か突然変異体と見られ、
その特異性がゴーストの発現という形で現れたのがエルファバである。
『マキナ・コア』
通称・コアさん。
コアラ型のエクスマキナ。
陽気な性格、だけどのんびり屋。
ミスリル製の爪をもっているが、所有者にひっつく際誤って傷つけないように、力加減を調整している。
どこからかユーカリの葉を取り出してはモシャモシャと食べている。食べたユーカリの葉は体内でエネルギーとして変換され、貯蔵されていく。
ダンスが得意。
ガイストモードは、鋭い爪を持つ両腕と両脚を覆うアーマーユニットと装備者の周囲を飛んでる二つの自律式レーザーユニット。
イベント情報追加
梨沙は加蓮と異母姉妹。梨沙は加蓮を憎悪してます。
梨沙とコアさんはアイドルヒーローとして、秋炎絢爛祭で踊るそうです。
以上です。
本当は戦闘シーン書きたかったけど、カットしました。
梨沙と加蓮の父親の役職や父親が加蓮の為にどんなことをしたのか色々ぼかしましたが、そこは好きに考えても大丈夫です。
この姉妹に救いはあるのだろうか?(白目
乙です
梨沙ちゃんついに登場ですね、
重い設定のバーゲンセールの中に希望があればっ
乙です、本格的に学園祭が始まった感
仁奈ちゃんのおかげでDMJのドジが少なくなるのは、いい組み合わせですねぇ
眠り草が本気出す日は来るのだろうか・・・・・
美穂ちゃんのお話投下します
なお、解決しきるまで話が進まなかった模様
なので今回は前編中編後編の中編って事になります
キャラ借りておきながらこの体たらく、本当申し訳ないです
前回までのあらすじ
美穂「あの長電話が好きな卯月ちゃんから電話がないなんて・・・・・・うぅ・・・・・・」
美穂「アドレスも消えちゃってて、こっちから連絡もできないです・・・・・・」
美穂「はっ・・・・・・!」
美穂「これが本当の電話にでんわっ!!ですねっ!」
参考 >>117- (美穂と渚)
渚「・・・・・・」
渚「お、おう・・・・・・」
美穂「う、うわわっ!い、今の無しでっ!」
前回までのあらすじ
美穂「あの長電話が好きな卯月ちゃんから電話がないなんて・・・・・・うぅ・・・・・・」
美穂「アドレスも消えちゃってて、こっちから連絡もできないです・・・・・・」
美穂「はっ・・・・・・!」
美穂「これが本当の電話にでんわっ!!ですねっ!」
渚「・・・・・・」
渚「お、おう・・・・・・」
美穂「う、うわわっ!い、今の無しでっ!」
参考 >>117- (美穂と渚)
本日の昼食。
期間限定のちょっと味の濃いバーガーに、ポテトとドリンクが付いたセットメニュー。
ドリンクは、オレンジジュース。Mサイズで。
美穂「すみません、奢ってもらちゃって」
渚「んー?もぐもぐ、ごくん。」
渚「別にいいってェ。誘ったのは私のほうだからね」
美穂(そう、私達は今、ハンバーガーショップにいます)
美穂(「M」で有名なあのお店です)
美穂(・・・・・・あっ、いや!違いますよっ!)
美穂(え、Mで有名っていっても、そ、そそそう意味じゃなくって!!)
美穂(う、うぅ・・・・・・脳内で誰に言い訳してるんだろう私・・・・・・)
渚「もぐもぐ」
美穂(現在進行形で、私の身に降りかかっている災難)
美穂(私のクラスが何故か変わっていて、その事を誰も気にしていなかったり)
美穂(友達であるはずの子が・・・・・・友達でなくなっていたり)
美穂(その事を思えば、食べ物も喉を通りそうにないし、)
美穂(ここでゆっくりしていても良いのかな?って思っちゃうくらいに不安だけど)
美穂(「お腹が空いてたら、戦も出来ないし、元気も出ないよっ」)
美穂(との渚さんの言葉で、占い師さんの所に向かう前に、まずはお腹を膨らませることにしたのでした)
美穂(以上、わたくし小日向美穂からの状況説明でしたっ!)
美穂(・・・・・・って、これも誰に説明してるんだろう)
やや他人事の様に、自身のおかれた状況を省みる。そんな自己防衛である。
自分の事なのだと、しっかり認識してしまえば、今でも不安でパニックになりそうなので。
渚「美穂ちゃん?」
美穂「は、はいっ!なんですかっ?」
渚「あまり考え込みすぎても良くないよっ!」
美穂「そうですよね・・・・・・」
渚「うんっ!まずは落ち着いて、目の前の出来ることからやっていこっか」
渚の言うとおり。ただ不安に思っていても、それで事態が改善すると言うわけではないだろう。
美穂(悩んだり、焦ったりするより、)
美穂(まずは落ち着いて目の前の事に集中っ、だよね!)
目の前の事、すなわちハンバーガー。
腹ごしらえは大事である。
美穂「まぐっ!」
口を精一杯開いて、できる限り頬張った。
――
ハンバーガーショップで、お腹を満たした美穂達は、
続いて、渚の後輩からのメールを頼りに、
百発百中の占い師が居る、と言う場所までやってきた。
渚「んー、この辺りのはずだけどなァ」
美穂「見つかりませんね?」
渚「行列ができるから、すぐわかるって話だったんだけど」
なんとその占い店、連日行列ができるらしい。
それが本当なら、凄いことだろう。
美穂「行列の出来るお店。なんだかラーメン屋さんみたいですね」
渚「あははっ、面白い例えだねっ」
美穂「へ、変な事言っちゃいました?」
例えはともかく百発百中の占いがそれほどのものであるなら、
この事態を解決できる手がかりも本当に見つかるのかもしれない。
美穂「あれ?」
ふと、目を向けた先に気になる何かを見つけた美穂。
美穂「あ、もしかしてココ・・・・・・じゃないですか?」
渚「おっ、見つけたのォ?」
2人の視線の先には、一軒の古ぼけた店。
周囲の風景に不釣合いなほどに、年季がありそうな、
けれど、こぢんまりと収まっているために目立ってはいない。
そんな洋風のお店だった。
入り口のすぐそばの看板にはシンプルに一言。
『占います。 ¥100』
渚「う、胡散臭いなァ・・・・・。」
美穂「で、でも、こう言ういわくありげな方がなんとなく当る気がしますし。」
正直なところ、これが行列ができる店と言われても信じがたい。
美穂「・・・・・・あれ?そう言えば、お客さん並んでないですね。」
渚「違う店だったかなァ。」
朋「いいえ、あってるわよ。」
美穂「ひゃあっ!!」
渚「うわっ!!」
何時の間にか、背後に。
1人の少女が立っていた。
朋「待ってたわよ。はじめまして、あたしは藤居朋。」
いかにも、まじない師が身に着けていそうな装飾品を幾つも纏った、黒髪の少女はそう名乗った。
朋「見ての通りの、占い師よ。」
渚「占い師・・・・・・。」
美穂「そ、それじゃあ、あなたが?」
朋「ええ。あんた達が探してる百発百中の占い師と言うのは私の事。」
朋「まあ、自分で言うのもなんだけどね。」
彼女が美穂達の探していた、噂の占い師。
すぐ傍の小さな店の主。
美穂(すごい占い師さんって話だったから、)
美穂(てっきり大人の人だと思ってたけど・・・・・・)
そこに居る彼女は、振る舞いこそやや大人びているが、
見た目の雰囲気には美穂達とそう変わらない年頃に見える。
朋「こんな所で立ち話もどうかと思うし、お店入りましょ。」
朋「胡散臭くて、いわくありげな所で悪いけれど。」
店の外観について色々言っていたのを聞かれていたらしい。
美穂「ご、ごめんなさい。」
渚「わ、悪く言うつもりはなかったんだけどさァ・・・・・・。」
朋「別にいいわよ、古臭いのは本当だし。」
朋「とにかく、占いに来たんでしょ。なら、あたしに付いてきてちょうだい。」
そう言うと、ツカツカと歩いて行ってしまう。
美穂と渚は、ほんの一瞬戸惑って互いに見詰め合ったが、
目的を果すためには従うしかないだろう、と
黙って彼女の後を、並んで付いていくことにした。
美穂「あれ?お店の入り口ってこっちじゃないんですか?」
先に行く占い師の彼女はスッと店の入り口を通り過ぎてしまう。
朋「・・・・・・今日は珍しい客人が来るって。そんな予感がしてたのよね」
朋「だから待たせるのも悪いと思って、お店は閉めてるの」
朋「なのに普通に入り口から入っちゃうわけにはいかないから」
朋「裏口はこっちよ」
そう言って、彼女は店のすぐ横の、
言われねば、存在に気づかぬほどの通りに、するりと体を滑らせた。
美穂「お店、閉まってたんだ。だから行列もなかったんですね。」
美穂「でも、今の言葉って・・・・・・私達が来るのがわかってたって事?」
キョトンと、首をかしげた。
渚「なんか、ちょっと怪しい感じだけどね」
渚「どうする?今ならまだ引き返せはするけど」
渚は、一応万が一の場合も考え、引き返すことも出来ると、言ってくれた。
美穂「・・・・・・うん。けど、ここなら何かわかる気がするから」
占い師の藤居朋。彼女の瞳は見えない何かを見通しているようだった。
彼女に頼れば、今起きてる問題の手がかりが掴めるかも知れない。
美穂「・・・・・・たぶん、ですけど」
渚「自信なさげな語尾が付いてきちゃったなァ」
美穂「うっ・・・・・・すみません。よ、予感めいたものはあっても本当に自信はなくって」
渚「ま、いいんだけどさッ。それが美穂ちゃんの良さなのかもって思ってきたところだしねっ。」
渚「それじゃあ、行こっかァ。」
美穂「はいっ!」
覚悟を決めて美穂達もまた、古びた店の横の通りに入り込んでいく。
美穂「えっと、渚さん。ここまでずっと付いて来てもらってありがとうございます」
渚「いいって事。頼まれたからには、最後まで付き合うよっ」
頼り甲斐のある彼女が傍にいてくれて本当に心強い。
通りを歩いて進めば、すぐに袋小路に行き着いた。
片隅には小さな木製の扉が備え付けてある。
美穂「・・・・・・隠れた名店みたいな雰囲気ですね?」
渚「またラーメン屋みたいな表現だね」
美穂は、ノブに手をかけ、静かにその扉を開いた
朋「いらっしゃい。」
扉の先、待ち受けていたのは、
やはり、先ほどの占い師。藤居朋。
そしてここは占い師がやっているお店。
朋「ニンニクいれますか?」
渚「ラーメン屋っ!!?」
本当にラーメン屋だった。
美穂「え、えっと!こ、こう言うときはじゅ、呪文を唱えないとなんですよねっ!?」
美穂「め、メンカタカラメヤサイ・・・・・な、なんでした??」
渚「・・・・・・美穂ちゃん、ちょっと落ち着こうかァ」
朋「ふふっ、冗談よ」
占い師は意外と茶目っ気のある人物だったらしい。
見渡せば店の中は薄暗く、大小様々なガラクタが所狭しと並べられていた。
朋「ごめん、裏口側にお客さん入れる事少なくて」
朋「倉庫代わりみたいになちゃっててね」
ヘンテコな仮面や、謎の羅針盤、奇天烈な配色の魚が入った水槽などもある。
美穂「あの?これって?」
朋「占い道具よ。とは言っても商売に使ってるわけじゃないんだけど。趣味が高じて、溜まっちゃったのよ」
古今東西の占い道具。らしい。
ガラスよりも透き通る髑髏を象った水晶、精巧な天体模型、何かの動物の骨や爪、白と黒が交じり合う絵図
コロコロと透明な瓶に詰まったビー玉、カタカタと音を鳴らしている計測器、ヌルヌル蠢いて発光する液体。
それら全てが占い道具。世界中、方々から集めたコレクションなのだろう。
朋「だから、足元には気をつけてよね。」
美穂達に注意するため、後ろを向いてそう言った彼女は、
朋「おっと!?」
後ろを向いたために、自身が足元の道具に躓いて、
美穂「あっ」
ドンガラガッシャーン!
大きくすっ転んだのだった。
渚「あちゃあ・・・・・・」
美穂「だ、大丈夫ですか!?」
心配して、声を掛ける。
朋「・・・・・・・」
美穂「え、えっと・・・・・・朋さん?」
朋「たしか今朝の星座占い。今日の蟹座の運勢は最下位だったわね」
朋「特に足元に気をつけましょう。だって」
朋「ふっふっふ、テレビの占いの癖になかなかやるじゃないっ!」
こけた姿勢のままに、彼女は怪しく笑っていた。
美穂(だ、大丈夫かな?この人で・・・・・・。)
別の意味でも心配してしまうのだった。
朋「よいしょ、っと」
派手にずっこけた様に見えたが、
怪我は特にはないようで、ひょいっと立ち上がると、
倒れたり転がった物を適当な場所に片付ける。
そしてついでに、すぐ傍の小さなテーブルの上においてあった箱もどけて、床に置いた。
朋「悪いけど、ここに座ってもらえる?」
そう言って、美穂の方を見ながらその丈夫な箱をぽんぽん、と叩く。
美穂「そ、それじゃあ、失礼します・・・・・」
ちょこんと、用意された箱に座る美穂。
座り心地はお世辞にもいいとは言えないが、座れそうな場所は他にはない。
渚「あのさァ、私は?」
朋「見学は立ち見ね」
渚「・・・・・・・まァ、いいけどさァ」
渚(まったく迷ったりせずに私じゃなくって美穂ちゃんを座らせた。占いを頼ってきたのもどっちかわかってたって事かな?)
渚(何でもお見通し、百発百中の占い師って呼ばれるだけはあるみたいだね)
ここまでの一連の行動から、百発百中の噂ばかりでなく、本当に腕の立つ占い師なのだろうと推察する。
占い師は、机を挟んで美穂の反対側に立った。
朋「さて、と。じゃあ始めましょうか」
美穂「は、はいっ!よ、よろしくおねがいしますっ!」
かくして、藤居朋の占いが始まる。
ここからは彼女の時間。彼女の領域。
――
朋「まずは、用件から聞こうかしら。美穂ちゃん?」
占い師は、じっと美穂を見つめて尋ねた。
美穂「よ、用件ですか?」
少し戸惑う美穂。
美穂(用件って言っても占い以外にはないよね?)
わざわざ占い師を尋ねてきたのは、当然だが占いをしてもらうため。
占い屋さんでまさかラーメンは頼んだりしないだろう。
朋「ご注文は?とでも言い換えたほうがいいかしら」
朋「それこそメンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシみたいね」
朋「美穂ちゃんは、何を占いに来たのかしら?」
朋「目的を聞かせてもらえる?」
彼女が聞いたのは占う理由。
占うにしても、何を占うのか。
それを聞かねば、何も始まらない。
美穂「・・・・・・」
美穂は考える。
何を占いに来たのか。
今起きている問題の手がかりを掴むため。
己自身に巻き起こっている事件の解決の糸口を知るため。
朋「たしかに特異な状況よね、運命の糸が大きく縺れてるんだもの」
美穂「!!」
美穂「あ、あの!私の身に起こってることわかるんですか?!」
まるで隠された物事すら、すっかりと見通しているような言葉を紡ぐ占い師。
彼女ならば、今美穂に起きている事態が何なのかもわかっているのかもしれない。
美穂「教えてくださいっ!こうなってしまった原因を、知りたいんですっ!」
朋「・・・・・・いいえ、そうじゃないわね」
美穂「えっ・・・・・・?」
朋「あんたを巻き込む周囲の特異な状況の正体、それを知りたい」
朋「その気持ちはわかるけど、本当の願いはその先にあるものじゃないの?」
朋「事態の真実を知ろうとすることは過程でしかないのよね」
朋「真実を知って、あんたはどうしたいの?」
美穂「・・・・・・」
占い師が尋ねるのはその先、目的の先にある真の願い。
美穂「私は・・・・・・」
その答えは、考えるまでもなかった。
美穂「友達と・・・・・・卯月ちゃんや茜ちゃんとまたお話がしたいです」
美穂「また一緒に笑ったり、買い物に行ったり、そう言う普通の日常を過ごしたくって・・・・・・」
美穂自身にとっても意外なことであったが、
本当の気持ちは、すんなりと口から出てきてくれた。
友達とまた共に過ごす時間、が彼女の願い。
美穂「それが私がここに来た理由です」
朋「複雑なお話のようだけど、その根底にあるものは、あたしもよく聞く悩みね」
その言葉に、占い師は納得したようだった。
朋「”仲直り”のご相談、確かに承ったわ!」
そして、彼女は懐から何かを取り出した。
美穂「カード?」
朋「ええ、タロットカードよ」
占い師が手にもつのは、人の命運を指し示す22の大アルカナ達。
渚「意外とスタンダードなんだね」
周囲に並ぶ珍妙な道具達から、奇妙な占い方法を提案されるかもしれない、と渚は思っていたが。
朋「まあね、変に凝ったことするより、占う人にわかりやすい形の方が素直な結果が出るもの」
渚の疑問に、簡単に答え、
机の上に22枚を裏向きに、広げるように綺麗に並べる。
朋「美穂ちゃんには1枚だけ。この中からたった1枚だけカードを選んでもらうわ」
美穂をじっと見つめて、彼女は言った。
美穂「1枚だけ・・・・・・カードを選べばいいんですね」
朋「ええ、ここには占いに必要なものがもう揃ってる。」
朋「時間、場所、方角、言葉、配置された道具、22枚のカード、占うあたし、占われるあんた」
朋「後は、”意志”が必要よ」
朋「占いは、明日の不安を取り除くために、自身の運勢の事を手探りで知ろうとする儀式」
朋「そしてあんたの運勢は、あんたの手で掴み取る必要があるの」
朋「さあ、その”意志”を真っ直ぐに指し示してもらえる?」
美穂「・・・・・・・。」
並べられた22枚から、”たった1つ”選んで指差すだけ。
シンプルな、”たった一度”のアクション。
美穂がするのは”それだけ”でいいと言う。
しかし、それは己の運勢を掴み取るための行為。
簡単な動作でありながら、そこに込められた意味は大きい。
渚「美穂ちゃん・・・・・・?」
場の雰囲気に飲まれてか、黙り込んでしまった美穂を心配して、渚が声を掛ける。
美穂「えっと・・・・・・大丈夫です、渚さん。」
渚「そっか、なら見守ってるよ」
美穂「はいっ!」
傍らで見守ってくれる人が居る事に美穂は安心した。
意志のこもった目で美穂は卓上のカードたちを眺めた。
綺麗に裏向きに整列したカードは、よく手入れされているのか汚れや傷一つ無く、見た目はいずれも同じに見える。
どれも同じ、けれど何処か、それぞれ目に見えない何かが違う気がする。
美穂(私の悩み、私の知りたいこと)
美穂(私の気持ち、私の意志)
美穂(そして掴まなきゃいけない答え・・・・・・)
なんとなく、その中の1枚に目を奪われた。
美穂(・・・・・・うん、決めた)
美穂「これにっ、しますっ!!」
22枚から”1枚”を選び、指差して宣言した
朋「”それ”で本当にいい?」
美穂「はいっ!!」
その返事に、占い師は選ばれたカードを捲る。
美穂が選んだそのカードは。
カードに描かれていたのものは、
”強靭な獅子の頭を嗜めるように撫でる、うら若き乙女の姿”であった。
『ⅤⅢ ストレングス』
美穂「・・・・・・。」
渚「・・・・・・。」
朋「『力』の正位置、なるほどね。」
美穂「え、えっと・・・・・・?」
気合を入れて選んだのはいいのだが、それが意味するところ美穂や渚にはわからず首をかしげる。
占い師の少女だけがただ、納得するように頷いていた。
朋「『力』のカードよ。『剛毅』や『力士』なんて呼ばれ方もするわね。」
美穂「たしかに力強そうなライオンさんですよね。」
渚「本当に力強いのはその女の人じゃないの?素手でそのライオンを抑えてるしさァ。」
美穂「あっ、そうなのかな?でもどうして口を抑えてるんでしょうか?」
渚「んー、ペットとかかなァ?」
カードの絵柄を見て、口々に意見を言い合う2人。
朋「ふふっ、絵柄の解釈は色々あるわね。そこがタロットカードの面白いところだと思うわ。」
朋「ライオンと女性は何を示しているのか。荒ぶる力と静かな力?本能と理性?欲望と抑止力?」
朋「ライオンを抑える力は、純粋な腕力なのか、母性の様な包容力か、あるいは特別な力なのか。」
朋「彼女はライオンの口を開こうとしているのか閉じようとしているのか、果たして・・・・・・なんてね。」
朋「さて、薀蓄は置いておいて」
朋「占いの結果を説明するわね」
美穂「は、はい!お願いしますっ!」
朋「”ストレングス”はその名前の通り、人の持つあらゆる”力”に関わるアルカナよ」
朋「美穂ちゃんを取り巻く状況、そこに”ストレングス”が指し示す解答ね」
”根気” ”忍耐力”
朋「迫ってる問題に、美穂ちゃんは焦って不安になってるみたいだけど」
朋「その解決を焦ることは無いわ」
朋「降りかかる災難を今は耐え忍ぶことで、必ずチャンスは巡ってくるはずよ」
美穂「耐え忍ぶ・・・・・・。」
美穂(確かに、ずっと焦っていて不安だった。)
美穂(この不安を耐えた先に道が見えるのかな・・・・・・。)
”前向きな強い意思” ”障害を乗り越える力”
朋「大事なのは強い意思を持ち続けることよ、必ず障害を乗り越えるって言う強い意思をね。」
美穂「・・・・・・強い意思を持つこと。」
朋「目的をはっきりさせればいいわ。あんたがやりたい事ブレさせちゃダメよ。」
美穂(・・・・・・友達との日常を取り戻したい、それが私のやりたい事!)
”影響力” ”周りを変容させる力”
朋「あんたが発揮する力はきっと変わってしまった周囲を変えられる。」
美穂「・・・・・・変わってしまったものも元に戻せるんでしょうか?」
朋「ええ、変異してしまった環境も運命も戻せるわ、きっとね。」
”勇気” ”決断” ”実行力”
朋「時が来た時は、勇気をもって決断すること。」
朋「自分がするべき行動を、迷い無くやる事ね。」
”和解”
朋「そうすれば、友達とも絶対仲直りできるわ。」
占い師の少女は力強く言った。
朋「総合すると良い結果じゃないかしら」
朋「あんたにその意志があるなら、チャンスを待てば必ず”仲直り”は成就する」
朋「あんたの望む未来はきっと掴めるわよ」
朋「あたしが保障してあげるわ」
渚「良かったじゃん。百発百中の占い師が保障してくれるってさ。」
美穂「は、ははいっ!良かったです!・・・・・・本当にっ!」
美穂「・・・・・・本当に・・・・・・良かったぁ」
心からの安堵の言葉。
百発百中の占い師の出した、回答に希望を見出す。
心に暖かいものがこみ上げて、頬に涙が流れてきた。
美穂「あっ、安心したら涙が・・・・・・お、おかしいですよね。凄く嬉しいのに」
渚「はい、ハンカチ」
美穂「ありがとうございます、渚さん・・・・・ぐすん」
差し出されたハンカチを受け取り、涙を拭った。
朋「まだ喜ぶのは早いわよ」
朋「あたしの占いは確かに百発百中。だけど、それは占われた人が占いの結果に反した場合はそうじゃないわ」
美穂「・・・・・・」
渚「・・・・・・」
2人は緊張した面持ちで占い師の話を聞く。
例えばひねくれた人間が、明確な意思をもって彼女の占いに反した行動を取った場合、
彼女の占いは外れることがある。
そして今回の占いもまた同様。
これから訪れる機会を逃せば、彼女の占いは外れ、仲直りは叶わないかもしれないのだ。
朋「油断は大敵よ。特にあんた達が立ち向かわなきゃいけない力は『普通』じゃないもの」
朋「だから、さらに少し教えるわ」
朋「ヒントと、朗報をね」
ありがたい事に、占い師はさらに情報をくれるそうだ。
朋「まずヒントだけど、」
朋「あんたと友達の間に働いてる斥力のような存在」
朋「それはあんたの『力』と、友達の持つ『力』のせいで発生してるみたいね」
美穂「私自身の力・・・・・・」
美穂自身の力とは、『小春日和』の事だろう。
それ以外に美穂は特別な事は何も無い普通の少女だと、自負(?)していたりする。
だが
美穂「卯月ちゃんたちの持つ力・・・・・・?」
渚「・・・・・・その子達も能力者なの?」
美穂「え、えっと・・・・・たぶん違うはずなんですけど・・・・・・?」
今の世の中、能力者の少女と言うのはそこそこ数が居るのだが、
それでも比較的珍しい存在には違いない。
卯月ちゃんも茜ちゃんも特別な力なんて無かったはずだ。
美穂「近くに特別な能力を持ってる人が居るならわかると思うんですけれど・・・・・・」
朋「ふふっ、特別な力を持つ人間って言うのは、近くに居ても意外に気づかないものよ」
そう言いながらチラリと一瞬だけ、渚に視線を移す朋。
渚「・・・・・・」
渚(あぁ、そう言えば美穂ちゃんに話すタイミングとか無かったなァ・・・・・・)
朋「美穂ちゃんだって、これまでは友達に特別な力を隠して活動してたのよね?」
美穂「それは・・・・・そうなんですけど」
そう言えば、『小春日和』を常日頃から持ち歩いているにも関わらず、
夏休み前まではまったく、能力に気づかれたような様子は無かった。
特別な力は隠そうと思えば、意外と知られることは無いのかもしれない。
朋「まあ、どう言う力が関係しているのかは、追々知る機会が訪れるでしょ」
彼女は、結局その答えを出さずに『力』に関する話を終える。
占い師が語るのはあくまでヒントだけなのだろう。
朋「次は、時期に関するヒント」
朋「事態の解決のチャンスが訪れるのはそれほど先の事じゃないわ」
美穂「それじゃあ、もうあまり待たなくてもいいんでしょうか?」
渚「具体的にはどのくらい先かわからないの?今日中とか?」
朋「だいたい1時間から2時間後じゃないかしら」
美穂(本当にすぐだった・・・・・・)
渚(先の事じゃないにも程があるでしょ・・・・・)
朋「さっきも言ったけど、それまで自分のやりたい事をブレさせない事ね」
渚「1時間でブレるような決意とか無いと思うけどね・・・・・・」
朋「そしてその時が来たら、迷い無く決断するのよ」
美穂「わ、わわっ!ま、待ってください!そ、その心の準備がですねっ!」
朋「時は待たないわよ、覚悟しておくことね」
美穂「うっ、うぅ・・・・・・な、なんだかき、緊張してきましたっ・・・・・・!」
渚「そのチャンスが訪れた時って言うのはさ。”今だ!”ってすぐにわかるものなのォ?」
渚「何かその・・・・・目印みたいなものがないと、チャンスが来たって気づかずにスルーしてしまいそうじゃない?」
渚が疑問を挟む。
朋「そうね、あえて言うならラッキーパーソンは」
占い師は手元の”ストレングス”を指に挟み、
朋「”美女と野獣”よ」
美穂達にその絵を、獅子と乙女の姿を見せるようにして言葉を続けた。
朋「彼女達に出会えたらチャンスの方もすぐに訪れるかもね」
美穂「美女と・・・・・野獣・・・・・・」
それが、ラッキーパーソン。
パーソンと言う事は、そんな見た目の人たちなのだろうか。
朋「ヒントはこんな所ね」
美穂(原因は私たちの力、チャンスはすぐに訪れる、ラッキーパーソンは美女と野獣)
語られたヒントを、忘れないように頭の中で反復した。
朋「それと、次は朗報の方だけど・・・・・」
朋「美穂ちゃん、あんたの友達2人も」
朋「あんたと友達に戻りたいって思ってるわよ」
美穂「・・・・・・えっ」
――
卯月「隣のクラスに、小日向美穂ちゃんっているよね?」
茜「いますねっ!!すっごく可愛い人ですっ!!」
始業式の帰り道、今日の話題は隣のクラスの子の噂話。
卯月「あっ、茜ちゃんも知ってたんですね。」
茜「はいっ!と言うかなんとなく・・・・・・」
茜「よくわからないけど!なんとなくずっと前から知ってる気がして、気になってました!!」
卯月「茜ちゃんもなんだ。うーん、なんでだろうね?」
茜「卯月ちゃんも?不思議な感覚だねっ!!」
茜「ところで、美穂ちゃんがどうかしたの?」
卯月「あのね!実は、その美穂ちゃんがヒーローだったんだよぉ!」
茜「ヒーロー!!すごいねっ!!」
卯月「うん!すぐ身近にヒーローがいるなんてすごいよねっ!」
卯月「えへへ」
茜「?」
卯月「えっとね、なんだか自分の事みたいに嬉しくって。どうしてだろ。」
茜「それは、友達のことだからじゃないですか?」
卯月「あれ?友達?でしたっけ?」
茜「あれ?違った・・・・・違うよね?ん?」 プスプス
卯月「あ、茜ちゃん!煙出てる!」
茜「わああ!!もう考えてもよくわからない!!!」
茜「・・・・・はっ!!そうだ!」
茜「それならもういっそ!これから友達になりましょうっ!!」
卯月「あ、それいいですねっ!すっごく!」
卯月「・・・・・・ヒーローと友達かぁ」
卯月「うん!なれたらきっと素敵だよねっ!!」
――
美穂「卯月ちゃんたちが・・・・・。」
朋「ええ、だから安心するといいわ」
朋「縺れてしまった糸はきっと上手く解けるから」
美穂「・・・・・・」
再び感極まり、泣きそうになる。
美穂「くすん・・・・・・」
と言うか泣いてしまった。堪えようとはしたのだが。
美穂「・・・・・・朋さん、本当に本当にありがとうございましたっ!」
目を押さえながらお礼を言った。
朋「いいのよ、これがあたしの商売だし」
朋「悩んでる子の力になるのが、占いの役目だからね」
そう言って、占い師の少女はにっこりと笑った。
――
渚「本当に100円でいいのォ?」
朋「看板見たんでしょ、あたしはそれでやってるからいいの」
美穂「で、でも今日はお店まで閉めて貰ってて・・・・・・」
朋「うーん、そうね。それで気が済まないのなら仕方ないわ」
少しだけ彼女は考えて、
朋「それじゃあ、また次も来てくれるかしら」
朋「次はその友人たちも連れてね」
そっとウィンクして言った。
美穂「・・・・・はいっ!必ずまた来ます!」
美穂「卯月ちゃんたちも一緒にっ!」
必ず、卯月ちゃん達と友達に戻ってまた来ると、約束したのだった。
朋「ええ、その時をあたしは待ってるわ」
朋「それじゃあ、またね」
――
渚「さて、と」
占いを終えた2人は店を後にした。
薄暗い店から出てきて、通りを戻れば、
人通りの多い街の一角に出てくる。
太陽がまぶしい。時間はまだ、お昼を少し過ぎたくらいだ。
渚「ここに来る前は、占いは気休め程度にって思ってたんだけど」
渚「なかなか有益な情報が多かったねっ」
美穂「はい!百発百中の占い師さん!噂の通り、すごい人でした!」
渚(まあ、まだ当ってるかはわからないけれどね)
渚(だけど、元気出たみたいだからいっかァ)
渚(根拠は無いけど、なんとなく信頼できる人だと思ったしね)
渚「ちょっと情報量多かったし、少しまとめてみよっか」
美穂「そうですね・・・・・えっと、事態の原因と解決法について」
渚の提案を受け入れて、美穂は先ほどの占いの結果について考えをまとめはじめる。
渚「まずは原因」
渚「占いによると、これは美穂ちゃんと、美穂ちゃんの友達の力のせいって話だったね」
渚「何か思い当たる節ある?」
美穂「うーん・・・・・・」
思い当たることについて考えてみたが、まったく見当が付かない。
美穂「私がヒヨちゃんに出会ってから何か変わった事・・・・・・」
生活に変わった点は多いが、しかし友人関係については、
『小春日和』と出会ったばかりの頃は何も変わっていなかったはずだ。
思い当たる節はない。
渚「周囲の環境が変わったのは、きっと夏休みの間でしょ?」
渚「夏休みの間に何か無かったのォ?」
美穂「・・・・・・・何かと言えば、色々あったんですけど」
カピバラを斬ったり、元アイドルヒーローと出会ったり、
妖怪達のお祭り会場で鬼の父やドッペルゲンガーと会ったり、
ステージに立って、仮面のお姫様から怪しい招待状を貰ったり、えとせとら
渚「美穂ちゃんは街のヒーローだからね、巻き込まれる事件なんかは色々あるかァ」
美穂「ま、街のヒーローって改めて言われると・・・・・・やっぱり恥ずかしいですね」
渚「そう?友達とかには言われ慣れてないの?」
美穂「う、卯月ちゃんたちにはまだ報告して無いと言うか・・・・・・」
美穂「で、出来れば恥ずかしいからずっと隠しておきたかったんですけど」
渚「そう言えば、占い屋さんでもそんな事言ってたね。これまでは隠して活動してたって?」
美穂「でも新聞に載っちゃったから、た、たぶんもう知られてる・・・・・・かも」
渚「・・・・・・う、うーん?」
美穂「渚さん?」
渚「何か引っ掛かる・・・・・・何か引っ掛かるんだけど・・・・・・?」
渚は今の話から、事態の原因について勘付きつつあった。
渚「美穂ちゃんの事はさ、学校中の噂になってるよ」
渚「それも夏休みの間からね、何せ学校にヒーローが居るんだからさっ!」
美穂「う、な、なんだか・・・・・・とっても恥ずかしいことの様な気がっ!!」
渚「それでさァ、噂になるほどに有名になった理由は、私は新聞の影響が大きいと思うんだけど」
渚「・・・・・・・”ひなたん星人”が、新聞に載ってからは友達と連絡はしなかったの?」
美穂「は、はい。する機会が全然無くって」
渚「・・・・・もしかしてこれが原因なんじゃない?」
美穂「えっ?」
渚「夏休み中、連絡をしなくなったタイミング」
渚「その時が、事態が起きたタイミングと重なるとしてさァ」
渚「夏休み中の美穂ちゃんと友達の最後の接点はその新聞ってことだよね」
渚「怪しくない?」
美穂「・・・・・・あっ」
確かに、言われてみれば。
連絡がなくなったタイミングはあの新聞に載った時期であった気がする。
美穂「・・・・・・あの新聞が・・・・・原因?」
渚「推測だけどね、けどいい線言ってる気がするよ」
渚「たぶんだけど、美穂ちゃんの”ヒーローとしての力”が新聞を通じて広く知れ渡ったのが原因なんじゃない?」
美穂「わ、”私の力”が原因って言う占い師さんの言葉とも一致します・・・・・・」
渚「でしょォ?」
けれど、どうしてそれが関わりの反発。斥力と言う形で具現したのだろう。
美穂「あ、あの!占い師さんにもう一度聞いて・・・・・・」
渚「あっ!待って待って、美穂ちゃん!」
引き返そうとする美穂を慌てて止める渚。
渚「占い師さんに言われたでしょォ?解決を焦らない、そしてブレちゃダメだって」
美穂「あっ・・・・・す、すみませんっ!」
渚「いやいや、今のは私も悪かったよ。美穂ちゃんを焦らせちゃったね」
危ないところだった。
渚に止められなければ、占いに反する行動をとっていたかもしれない。
渚「確認しておこっかァ。事態の解決法についてねっ」
美穂「慌てず、機会を待つこと。そしてそれまで強い意志を持つこと・・・・・」
渚「そしてチャンスは『美女と野獣』と出会えたときだったね」
美穂「その時は迷い無く決断すること・・・・・」
渚「よしっ!完璧だねっ!これさえ覚えていれば間違いなくゴールできるよっ!」
改めてやるべき事を確認する。
美穂(そうだ、今はまだ耐え忍ぶ時っ!焦らずに・・・・・機会を待つっ!)
そんな時だ、何処からか音楽が聞こえてきた。
ミミミン!ミミミン!ウーサミン!
渚「!?」
美穂「あ、メールですね」
渚(美穂ちゃんの携帯の着信音か、びっくりしたァ・・・・・・・)
『[セイラさん]からメールが届きました。』
どうやらチャンスの時は、もう近くまで来ているらしい。
おしまい
と言う訳で、一旦区切ります。
風呂敷広げすぎだよぉ・・・反省します
愛野渚、藤居朋、島村卯月、日野茜お借りしましたー
あとついでに予約を、
持田亜里沙、予約します
投下しますですよー
秋炎絢爛祭、初日。
みりあ「うわぁー、すっごーい!」
若神P「みりあちゃん、あんまりはしゃぐと転んじゃうよ」
みりあと若神Pは正門となる巨大なアーチの前にいた。
カイ「……ふふーん」
アーチの前で一人、作業着とメット姿の女性がそのアーチを見上げていた。
まるで「私が作りました」とでも言いたげな顔で。
ティラノ「西島ー、監督があっちの片付け手伝えって」
カイ「あ、古賀ありがと。いこっか」
女性はそのまま別の作業員に連れられていった。
若神P「…………今の二人…………」
若神Pは去っていく二人を怪訝そうな顔でみつめていた。
みりあ「若神Pさーん、早く早くー!」
若神P「だああっ、ちょっと待ってよみりあちゃん! 迷子になっちゃうよ!?」
いつの間にか随分遠くに行っていたみりあを、若神Pは慌てて追う。
その胸中は……
若神P(みりあちゃんに何かあったら…………120%マリナさんに殺される……!!)
……生まれて初めての、「純粋な恐怖」に支配されていた。
――――――――――――
――――――――
――――
――――
――――――――
――――――――――――
マキノ「……これを一つ頂戴」
店員「ありがとうございまーす!」
代金を払い、マキノは買ったホットドッグにかぶりつく。
マキノ(地上の食べ物も、なかなかどうして美味しいわね)
ヨリコに言われた通りに、マキノは地上での休暇を満喫していた。
マキノ(土産に何個か買っていこうかしら……)
そんな事を考えながら歩いていると、不意に誰かがぶつかってきた。
??「きゃあっ!?」
ぶつかってきた小柄な少女は転倒し、持っていた小さなカバンが宙を舞った。
マキノ「……大丈夫?」
??「は、はい……ごめんなさい」
倒れた少女の手を取り、起こしてやる。
マキノ「気にしなくていいわ。怪我は無い?」
??「はい、大丈夫です。えっと、おねえさんも怪我は……」
??「おーい、みりあちゃーん!」
少女の言葉を遮り、白い服の少年がこちらへ駆け寄ってくる。
どうやら少女の保護者らしい。
みりあ「あ、若神Pさん」
若神P「もう、あんな走るから。……すいません、みりあちゃんがご迷惑を……ん?」
マキノへ頭を下げた若神Pが、途中で何かに気付いたように頭を上げる。
若神P「…………」
マキノ「……何か?」
若神P「……君、もしかして人間じゃない?」
マキノ「……!?」
若神Pの言葉に、マキノは激しく動揺する。
ウェンディ族であることを見抜かれたのか、そもそもこいつは何者なのか?
若神P「なんていうのかな、さっきの女の人と、あとマリナさんと同じ感じだね」
みりあ・マキノ「「マリナさん?」」
二人は反射的にその名を繰り返し、マキノは更に動揺した。
マキノ「貴方たち……マリナさんを知っているの?」
みりあ「うん、私の親代わりしてくれてるの」
若神P「で、僕は訳あって居候中」
マキノ「お、親代わり……?」
全く想定外の単語が飛び出し、マキノは少し面食らう。
どうにか建て直し、目の前の二人へ質問を投げかける。
マキノ「マリナさんと暮らしているということは……ウェンディ族や海底都市の事は知っていて?」
みりあ「うん」
若神P「マリナさんから聞いたよ」
即答だった。
少し立ちくらみを起こしそうになったマキノだったが、ふとある事をひらめいた。
マキノ(『マリナさんから聞いた』……逆に言えば、『マリナさんから聞いた以上は知らない』ということ?
マリナさんが海底都市を飛び出した時、『神の洪水計画』は立案されてすらいなかった。
つまり彼らやマリナさんは計画を知らない……過剰な警戒は必要無さそうね。となれば……)
二人に背を向け考え事をしていたマキノは、やがてくるりと二人に向き直った。
マキノ「こんなところで同郷の士の知り合いに会えるなんて、これも何かの縁ね。そちらさえ良ければ、
この秋炎絢爛祭、ご一緒させてもらえないかしら?」
軽いつくり笑顔でみりあに手を差し伸べる。
若神P「うーん……いいんじゃない? あ、自己紹介まだだったね、僕は若神Pだよ」
みりあ「うん、そうだね! 赤城みりあです。よろしくね、おねえさん」
二人はマキノへ屈託の無い笑顔を向ける。
マキノ「若神Pさんとみりあさんね。私はマキノ、よろしく」
こうしてみりあと若神Pは、マリナの知り合いという女性と三人で祭りを見て回った。
マキノ(……思わぬところでマリナさんの手掛かりを見つけたわね。うまくいけば現在の居場所まで……
ヨリコ様には『休暇』といわれたけれど、まあこれくらいならいいでしょう)
……そのマキノの思惑も知らずに。
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別の場所で。
隊長「どうだ、見つかったか!?」
隊員A「ダメです! 全く見つかりません!」
黒いスーツにサングラス姿の数人の男達が、肩で息をしながら会話している。
その中央で、同じくスーツにサングラスの女性がふうとため息をつく。
隊長「どこへ行ってしまわれたのだ、星花お嬢様は……」
隊員C「今日も収穫ゼロですね……」
隊員B「これがホントの『今回の調査で我々は、何の成果(星花)も得られませんでした!』、なんて」
隊員D「お前……ジョークでもお嬢様を呼び捨てにするなよ……」
彼らは涼宮星花捜索隊。
突如として家出した星花を、涼宮家総裁である星花の父の命で捜索している。
隊長「一週間以上成k……収穫ゼロはまずいな。私の『網』を使おう」
隊員B「おおっ、出るか隊長のオーラの網!」
隊員A「流石はお嬢様の遠縁の従姉!」
隊長「はしゃぐな。……ふっ!」
隊長が大きく右足を踏み込むと、そこから光が蜘蛛の巣のように広がっていく。
隊長「お嬢様に関わるものが触れれば分かるはずだが…………むっ!」
正面へ伸びるオーラの内一本が微かに揺れた。
隊員C「まさか……」
隊員D「こんなに早く!?」
隊長「…………構えろ」
隊員たちが固唾を呑む中、正面の角から何者かが姿を現した。
??『…………』
隊長「…………は?」
隊員C「え…………?」
隊員A「お、お嬢様…………?」
隊員B「随分、縮まれて…………?」
隊員D「いや、限度があるだろ…………」
現われたモノは、姿こそは涼宮星花そのものだった。
しかし、異様に小さい。恐らく背は20cmも無いだろう。
挙句、頭と体がほぼ1:1という、漫画に出てくるようなボディバランス。
傍らには、小さな銀のユニコーンまで連れている。
??『れでぃ』
??『…………。 ~~♪ ~~♪』
星花らしきモノは、ぺこりとおじぎをして手に持っていたバイオリンを演奏しはじめた。
隊員D「た、隊長……あれは?」
隊長「私にも分からん。だが…………姿形を見るに、お嬢様と無関係ということはまず無いだろう」
隊員A「ということは……」
隊長「ああ……各員! あの小さなお嬢様を捕らえるぞ!」
隊員C「は、はぁっ!」
隊員たちは一斉に星花らしきモノに飛び掛った。
??『! ~♪ ~~♪』
それを見た星花らしきモノは、バイオリンを少し弾くとユニコーンの背中に飛び乗った。
??『れでぃ』
ユニコーンは星花らしきモノを乗せると、そのままその場を走り去った。
隊長「速っ……!? い、急げ! 見失うんじゃないぞ!!」
隊員B「はいいっ!!」
……こうして涼宮星花捜索隊と、ぷちどる『すずみやさん』及び『すーさん』との追いかけっこが始まった。
続く
・涼宮星花捜索隊
家出した星花を探すために星花の父が派遣した特殊部隊。
少数精鋭ながら全員が軽レベルの能力者で、隊員Aは小さい波動拳的なアレ、隊員Bは体毛の硬質化、
隊員Cは簡単な治癒、隊員Dは他人の能力の軽強化が使える。
隊長の女性は星花と遠縁の従姉な関係か小規模ながらオーラを操れ、
「オーラの網(周辺情報察知。拘束能力無し)」「オーラの銃弾(拳銃と同程度の威力)」
「オーラの小盾(少年ジャ○プと同サイズ)」が使用可能。
・すずみやさん
涼宮星花に似たぷちどる。
言葉は発さず、感情表現はバイオリンで行う。
相棒のすーさん(鳴き声は『れでぃ』)といつも一緒。
すずみやさんがオーラを使えないので、すーさんが何で動いているかは不明。
あとすーさんは変形しない。
・イベント追加情報
マキノがマリナの情報収集の為にみりあ、若神Pと共に行動しています。
涼宮星花捜索隊がすずみやさん&すーさんと追いかけっこをしています。
以上です
隊長の外見イメージは某火星の害虫駆除漫画に出てくる腹筋眼鏡美人さんでお願いします
投下します
酉変わりますが◆hCBYv06tno です
秋炎絢爛祭
地上通路は屋台がズラッと埋め尽くしていた。
『次はどれから食べましょうか~~』モグモグ
菜帆「ベルちゃん。うれしそうですね~?」モグモグ
そこを歩きながら、右手にチェロス、チョコバナナを指に挟み持ち、左手にクレープを二つ持ち、それを交互に食べて歩く一人の女性ーー海老原菜帆とそれに取り憑いてる悪魔ベルゼブブ。
ベルゼブブは、屋台を一つ一つ見ながら、嬉しそうに声を弾ませていた。
菜帆はのんびりとした口調で喋りながら、手に持つ食べ物を口に頬張る。
周りを歩く人達の視線は彼女に釘付けである。
だけど、その視線の理由は無茶な持ちながら交互に食べて歩いてるからでも、はたから独り言を喋ってるように話してるからでもない。
それは……
『それにしても簡単な仕事ですね。ただ、食べ歩くだけでいいんですから~』
菜帆「呼び込みですからね~。私なら食べ歩いてるだけで大丈夫って、クラスの皆言ってましたし~」
その格好は、露出が激しく胸を強調した悪魔を彷彿させた衣装だ。
彼女の胸元には「小悪魔アイスクリーム店。教習棟○○○室にて絶賛営業中♡」と書いてあるネームプレートがぶらついている。
そう。彼女を見てる視線ーーー特に男性の視線は彼女の胸元にいっているのだ!
彼女の色気溢れる肉体を利用したクラスメイトの戦略……!!!
恐るべき海老原菜帆……しかも自覚してないっ……!!
『(まあ、≪巫女≫の素質がある菜帆ちゃんだから、人間も悪魔も神も寄せ付けちゃうからね)』
心の中でベルゼブブはそうつぶやく。
≪巫女≫といっても一般的な神道の巫女ではなく、古くは古代メソポタミアにおける神聖娼婦を行う女性の事をあげれば、わかりやすいかもしれない。
ようは彼女はそういう惹きつける能力が優れている。
故に彼女は色っぽい魅力をかもちだしている。
それ故に彼女はベルゼブブと出会うきっかけとなった≪ある事件≫により悪魔召喚の生贄として捕まった事がある。
『(アスモちゃんもきっと気づいてると思うけど……アスモちゃんだからって菜帆ちゃんは渡さないですよ)』
故に≪色欲≫の素質も彼女にある。
恐らく、初代アスモデウスのサリナも気づいてるだろうが、ベルゼブブは知らないだろう。
菜帆「ベルちゃん。ベルちゃん。次はあそこ行きましょうよ~~」
そんな事を知ってか、知らずか、いつもののんびりとした口調で、あるお店を指差す。
マルメターノ「<おいっ!アンホーリィ
!あまりここで飲みすぎるなよ?お客さんが近寄りじかくなるだろ?それに、お前こんなだったか?>」
志乃「<だって、ほたるちゃんが私と一緒にまわらないのよ?寂しくって仕方ないのよ。それに大切なモノを見つけると変わるものよ?>」ゴクゴク
かわしまさん「わかるわ」
そこにはソーセージの屋台があり、そこでいい笑顔のおじさんと祟り場の時に一緒に宴を開いた女性ーーー柊志乃が座れるスペースでワインを飲みながらソーセージをつまみにしている。
二人は聞いたこともない言語で何か話をしている。
更に近くにはぷちどるーーーかわしまさんがピョンピョンと跳ねていた。
『あ、志乃さんがいますね~。ソーセージもいい匂いしますし行きましょう♪』
菜帆「そうですね~♪」
そういいながらもベルゼブブは考える。
『(あの男の人……よくわからない気配しますね。志乃さんみたいな……。それにあの小さい子からほんの少しレヴィアタンの気配しますけど……大丈夫そうですね)」
『(それに……なんだかこの地域から不穏な気配がしますし、何か会った時、強い人が近くにいれば菜帆ちゃんを守り切れると思うんですよね)』
ソーセージ屋へむかう。
心に、この祭に蔓延るほんの僅かな嫌な気配をベルゼブブは感じながら。
終わり
≪巫女の素質≫
神様や悪魔に乗り憑られやすく、人や悪魔や神を惹きつける体質。
古代においての巫女(神聖娼婦)としての素質のため、神道とかの巫女とは違うモノかもしれない。
故に菜穂は≪色欲≫の素質もある。
その素質のせいで、菜穂は悪魔召喚の生贄として捕まった事がある。
≪情報追加≫
・菜帆ちゃんがセクシーな格好で「小悪魔アイスクリーム屋」の宣伝をしてるよ!
・マルメターノおじさんのソーセージ屋が地上通路でやってるよ!マスコットはかわしまさん!わかるわね?
・志乃さんが自棄酒してるよ!!!
以上です
えびちゃんの設定の掘り下げとえびちゃんに高校生やってるよアピールをしてみました!
そして、なんとなくマルメターノおじさんの屋台の食べるスペースにほたるちゃんに誘われず落ち込んでる志乃さんを置いてみたり
乙乙!
マルメターノおじさん…何者なんだ…。
エトランゼと雪乃さんキター
ちょいちょい投下致します。
【とある通話記録】
「…えぇ…えぇ……」
「雪菜ちゃん、出席が足りてないみたいなんですよねぇ…」
「…まぁ、仕方ないことですぅ~」
「思ったよりあっさりしてる…そうですかねぇ?」
「あぁ、そういえば『秋炎絢爛祭』のことなんですけどぉ」
「…そうです、今年は大変ですよねぇ」
「何のことかって…それは現れた『能力者』と『カース』のことですよぉ?」
「『能力者』同士の喧嘩かそれとも『カース』の大量発生ですかねぇ?」
「きっと人が沢山居る分大変なんでしょうねぇ~♪」
「もし、もしも一般人が怪我とかしたら今後どうなっちゃうんでしょうかぁ…」
「いえいえ、別におどかしてる訳じゃないですよぉ?」
「本当に学長先生も大変ですよねぇ?」
「…きっと『秋炎絢爛祭』の警備もそれはそれは凄い方たちが……」
「例えば雪菜ちゃんとか適任だと思いませんかぁ?」
「え、参った…?なんのことでしょうかぁ?」
「…なるほど雪菜ちゃんを…高校と掛けあって…えぇ、分かりましたぁ♪」
「はい、ありがとうございますぅ♪」
―
『ルシファー』時代が私に残した傷跡は地味に大きかった。
悪魔がワザワザ学校に通う訳もなく
『ルシファー』が倒された直後も情報が錯綜し、とても学校に行ける状態では無かった。
後にイヴさんが井村雪菜は操られた人間であり、私が責任を持って預かっている。
と宣言したことによりようやく私は『悪魔』ではなくなった。
学校に通うことの出来ない期間に私は『魔法』つまり身を守る力を身につけることが出来たし後悔もない。
しかし結局のところ出席日数が足りない!
これ自体は変わらないのだ。
そのことを事務所でポツリと嘆いて数日経ったある日のことだった。
「『秋炎絢爛祭』の警備をして貰えれば足りない出席日数は補完する」
という話が私に回ってきた。
先生も困り顔で何がなにやらという表情でしたけど…。
もちろん後が無い私は了承するしか無かった。
そうして私は『京華学園』にやってきた。イヴさんを裕美ちゃんに任せて。
そして確かに私は『秋炎絢爛祭』の警護に向いている。
前向きに、前向きに。
三角帽子に取り付けられた缶バッチから黄色のものをそっと外す。
それをぐっと握りこむと次の瞬間缶バッチは『雷のワンド』に姿を変える。
そう、間違いなく私は向いているのだ。
アイテムも武器も全てこうして『変身』させて缶バッチにして三角帽子に付けてしまえばいい。
これで怪しまれることも無いし、舞台は学園祭だ。
三角帽子も仮装にしか見えない。
「ハリケーンガールズ…バンド…青春っぽいですよね♪」
様々な感情の飛び交うバンド会場、ここも要注意っと。
パンフレットを見ながらカースや騒動の起きそうな場所を抜け目なくチェックしていく。
一応お仕事ですから♪
どこかから、焦げたソースの匂いとかも漂ってきますけど無視無視…。
「…ちょ、ちょっとだけ…」
無視出来ませんでした。
このソースの乱暴な味が屋台っぽくていいんですよね♪
「しかし、この『京華学園』って大きいですよねぇ…」
お好み焼きを頬張りながら案内版を眺める。
「研究棟に地下道まであるんですかぁ…」
いずれ自分も大学生になるのだろうかなんて考えちゃいます。
「あれ…?」
ふと目についた在学生用の案内板。
【魔法学科・魔翌力研究科 特別講師イヴ・サンタクロース】
「何やってるんですかイヴさん…」
そりゃ教えるの上手いですよね。講師ですもの。
誰もが夢見る魔法学校もそのうち生まれるのかもしれない。
な~んて考えると少しワクワクしますよねっ♪
『スリです!捕まえて下さい!』
…あらら、お仕事の時間みたいです。
こちらに走ってくる男、そして手には長財布。
「おい!お前、どけ!」
残念ながらそうは問屋が降ろしません。
「お断りです♪」
私はワンドの先端を男に突きつけます。
男は一瞬面喰らったような顔をしてそして獰猛な顔つきに変わる。
「…そうかよ、お前もか」
……お前も?
私が言葉の意味を理解しかねていると男は懐から小さな木製のワンドを取り出す。
「…そんな」
「そうだ、俺も魔法使いだ」
『炎よ!焼き尽くせ!』
ひとつ、ふたつ、みっつ。
迫ってくる火球はみっつ。避け…駄目だ。避ければ後ろに被害が出る。
考えてる暇は無い。三角帽子から水色の缶バッチを乱暴にちぎり、握りこむ。
「せぇっ、のぉっ!」
そして大鎌へと姿を変えた缶バッチを大きく振るう。
バシュっと大鎌から導かれるようにして現れた水流が火球を全て掻き消した
「なんだぁ?お前のそれは…」
バシャリと水が地面にぶちまけられて弾ける音が止んだ後、男が唖然としていた。
「さぁ、なんでしょう♪」
実はなんてことはない。正体は缶バッチとして三角帽子に取り付けられていた裕美ちゃんお手製、水魔法の『魔法のビー玉』だ。
それを大鎌に『変えて』振るっただけのこと。すぐさま大鎌に失われた分の魔翌力を補充する。
『無意識の結界よ!』
男が呆けている間に周囲の人間の無意識に干渉する結界を張る。
今の所、私はこの結界と雷の魔法、飛行魔法しか使えない。
相性があるとイヴさんが言っていたがそれなのかもしれない。
だけど私は所謂能力を持った魔法使いだ。
元となった物の特性を維持する『部分変身』。アイテムの数だけ搦め手が使える。
『雷よ!貫いて!』
「チィッ!」
持ち替えた雷のワンドで反撃。
しかし雷は大きくバックステップした男に避けられてしまう。
ここまで想定通り。
ここでもう一手。
三角帽子から青の缶バッチを取り出し、男に向かって放る。
男が避けた先に三角帽子から毟り取った青の缶バッチが迫る。
「こんなもん…!」
男が手でそれを払おうと身構える。
『氷よ!寄り集まりて塊になれ!』
「あぐっ!」
突如バスケットボール大の氷塊と化した缶バッチが直撃し、男はよろける。
…これが通常の、使い捨てな使い方。
残念ながら、これで氷魔法もどきは使えなくなっちゃいましたけど…。
よろけている隙に更にもう一手。
新たに毟り取った茶色の缶バッチを男の上空に放る。
「ガ…調子に…乗るなァ!」
『雷よ!貫いて!』
『土塊よ!俺を守れェ!』
地面のアスファルトが壁のようにせり立ち、男を雷から阻む。
「はっ、これで振り出しだな」
せり立つアスファルトの向こう側で男がせせら笑うのが聞こえる。
『土塊よ!呑み込んで!』
男の上空を舞う茶色の缶バッチが薄っすらと輝きを放ったのが見えた。
そしてそれは大量の土砂となり、男を呑み込んだ。
―
「ふぅ、まさか初っ端から二つもビー玉無くなっちゃうとは思いませんでしたぁ…」
男を駆けつけたGDF隊員に引き渡してエトランゼの出張店舗で一息。
私の三角帽子に付いた缶バッチも7つから5つに減って少し寂しくなってしまいました。
「無事に終わってくれればいいんですけど…」
私の出席日数確保のためにも…!
「ご注文はどうするかにゃ?」
おっと、注文注文…!
「あ、オムライス!ケチャップをハートマークでお願いします♪」
「了解だにゃ!」
そう言って店員さんは去っていく。
ふんふ~ん♪オムライス楽しみですねぇ~♪
イベント情報
・井村雪菜が『秋炎絢爛祭』の警備に入りました。
ぶらぶら見物がてら警戒に励むようです。
・雪菜の三角帽子
アイテムや道具を缶バッチに『変身』させてくっつけておくのが雪菜流。
・黄色の缶バッチ 雷のワンド
・赤色の缶バッチ 炎魔法のビー玉
・水色の缶バッチ 水魔法のビー玉
・緑色の缶バッチ 植物魔法のビー玉
・黄緑色の缶バッチ 風魔法のビー玉
・青色の缶バッチ 氷魔法のビー玉(現在使用済み)
・茶色の缶バッチ 土魔法のビー玉(現在使用済み)
・『部分変身』について
雪菜は特性を残したまま物やアイテムを見たことのあるものに『変身』させることが出来る。
現在重さまでは変化させることが出来ない。
手元にあり、完全に自分の制御下にある魔法のビー玉のみ、維持最低限の魔翌力を残し、足りない分を注入することで
『魔法もどき』を実現させているようだ。
以上です。
ビー玉戦闘楽しい。
リンちゃんの気持ちになれたですよ。
こんばんは、私の所もぷちどる欲しいです……
文化祭参加までの話が出来上がったので投稿いたします
輝子「……」
星 輝子は目の前のパンフレット――秋炎絢爛祭の――を見つめながら悩んでいた。
輝子「……い、行ってもいいのかな……?」
輝子がここ人間界に来たのは修行の為であり、また人間界の調査も兼ねてある。
その為、この秋炎絢爛祭はその目的を果たすにはピッタリな場ではある。
だが――
輝子「ま、祭って事は人がいっぱいいるって事だよね……」
――悲しいかな、致命的なまでに彼女は人見知りなのである。
輝子「……も、もし人がいっぱいいる所でパ、パニックになったら……流石にまずいよね……」
彼女が心配するのももっともな事で人がいっぱいいる所で緊張のあまり気絶するかもしれないし、最悪暴走(特訓後のアレ)して周囲に甚大な被害をあよぼすかも知れない。
それ故に彼女は今までどうしても一歩進む事ができなかった。
輝子「でも――」
――しかし今回は違う。
輝子「――これ以上……幸子達に頼る訳には……いかない……フヒ」
ここ人間界に来て得た様々な――特に親友の存在が――彼女に一歩を踏み出す決心をさせてくれた。
輝子「……少し頑張ってみようか……」
こうして彼女は秋炎絢爛祭に参加する事を決心するのだった。
なお、足腰が生まれたての小鹿みたいに震えていた事はこの際見なかった事にしてもらいたい。
――一方その頃
とある教会――クラリスが勤めている――にて一人の女性――キヨミ――と二人の男性――紅月の騎士A・B――が話し合っていた。
騎士A「キヨミ超☆騎士団長、これからどうします?」
キヨミ「そうね……ここに来てから早一週間、そろそろ行動を起こした方がいいわね」
何故、彼女達が教会にいるのか?
その理由としては――彼女達が祟り場でしでかした歴史的な敗退まで遡る。
実はあの時『将軍』は彼女達の活動をこっそり生中継しており、更にその映像を魔界全土に放送していたのだ。
『将軍』にしてみれば彼女達の活躍を見せつけて自分達の優位性を示したかったのだが――結果はご覧の有様である。
この事に腹を立てた『将軍』はすぐさま彼女を『紅月の騎士団』から解任し、その上一切の支援を打ち切ると言う事実上の絶縁状態にした上で人間界に放置したのだ。
当然、支援を打ち切られ町をさまよっているうちに偶々通りかかったクラリスに発見、保護されて現在に至るのである。
騎士B「行動……、また人間に対して闘いを挑みますか?」
キヨミ「それは待って、迂闊な事はできないわ」
そう、眼帯をしている左目――未だに再生しきってない――をさすりながら騎士Bに警告をしていく。
彼女はあの戦いの後人間に対しての考えを改めていく――具体的には今みたいに人間だからと言って侮る事はせず逆に警戒心を持って見ているのだ。
なお余談だがあの戦いの後遺症(?)は人間に対する考え方を改めるだけではなく、実はもう一つ――先端恐怖症もなっているのだ。
一時期、某岩男並みに針に対して警戒心を持っていた位である(流石に今は精々フォークを持っていたら手が震える程度には収まっているが)。
キヨミ「私達『紅月の騎士団』があの戦いで負けたのはひとえに人間を知らなさすぎた事よ……そこで!」
そう言ってポケットからパンフレット――秋炎絢爛祭の――を取り出す。
キヨミ「人間達を知るためにこの祭に参加するわよ!」
騎士A「なる程、祭なら人間が沢山いるから観察するのにはピッタリですな――キヨミ超☆騎士団長」
騎士B「ついでに我々が紛れ込んでも怪しまれませんしね――キヨミ超☆騎士団長」
キヨミ「そうと決まれば早速準備するわよ――その前に言っておきたいことがあるわ」
騎士A・B「「……?」」
キヨミ「私はもう騎士団を解任された身だから――『超』☆騎士団長じゃなくて『元』☆騎士団長よ……」
騎士A「……それでもです」
騎士B「私達の『超』☆騎士団長はキヨミ『超』☆騎士団長しかおりませぬ!」
キヨミ「そう……わかったわ、これからも支援よろしくね、騎士A・B」
騎士A・B「「ハッ!」」
――こうしてキヨミと騎士A・Bは秋炎絢爛祭に出ることを決心したのである。
――一方その頃、輝子の実家では
輝子の父で『共存派』の頭目である『伯爵』が忠臣である『右腕』に一つのパンフレット――秋炎絢爛祭の――を見せていた。
右腕「あの『伯爵』様、これは一体……」
伯爵「見てわからぬか?――『人間界』の祭よ」
右腕「それは理解できます……しかし何故今取り出したのです?――もしや参加されるおつもりで……」
伯爵「そのまさかだとしたら?」
右腕「……ではお聞きしますが『家畜派』と『利用派』はどうするのですか?――それに許可の方は……」
伯爵「それなら心配はいらん――この前『家畜派』の奴らがしでかしたダイナミック自爆は覚えておろう?」
右腕「放送事故確定物のアレですか――はい、覚えております」
伯爵「アレを全国ネットに晒した所為で『家畜派』共の発言力がかなり低下しておってな――一部では連中の9割が派閥を抜け出したと言われておる」
右腕「正直、人間を見下したツケが溜まっていたとしか言えませぬ――それで『利用派』の方は?」
伯爵「奴らに関してはまだ動かぬだろうな」
右腕「何故?」
伯爵「奴らは狡猾な連中よ――恐らくは更なる戦力増強もかねて『人間界』の一部の組織と手を組む準備をしておろう……故に魔界での活動はまだすまい」
右腕「なる程、我々の目的も同様で?」
伯爵「そうだ、流石に我々も何か一つでも人間達と連携を組まねばいかぬからな――ああ、この事についてはすでにサタン様には打診しておる」
右腕「『伯爵』様はそれをダシにして許可をもらったのですね――『表向き』は」
伯爵「……(ギクッ)」
右腕「で、本当の所は何を交渉材料にしたのです?」
伯爵「――サタン様の娘の様子見を条件にの……(テヘペロ)」
右腕「予測していた事とは言え、それで許可を出すあたり『伯爵』様と似た者同士と言うべきか……」
伯爵「コホンッ!……そう言うわけだから準備するぞ――儂と『右腕』、お前のな」
右腕「ハッ……ちょっと待ってください!」
伯爵「むっ?」
右腕「何故私まで参加する事になってるのです?」
伯爵「……右腕よ、たまには休暇ぐらい取れ――働き過ぎは体に毒だぞ?」
右腕「……しかし」
伯爵「それに、同族であるユズの事も気になっておろう――折角の機会だ会いに行ってやれ」
右腕「それは私に対する『命令』と見てよろしいので?」
伯爵「そうだ」
右腕「……ならばその言葉に甘えさせていただきましょう」
伯爵「では改めて準備を急ぐぞ」
右腕「ハッ!」
こうして彼ら二人は秋炎絢爛祭に参加するのであった。
――余談だが『伯爵』の変装に一時間近く費やしたあげく、そのままの服装で行くことになった事を追記しておく。
――一方その頃
魔界のとある屋敷――『利用派』が本拠地として構えている――で一人の青年がパンフレット――秋炎絢爛祭の――に目を通しながら優雅にワインを飲んでいた。
??「秋炎絢爛祭……ですか」
青年の名は『帝王』――『利用派』の頭目である。
??「どうした我が兄弟?――『人間界』の祭りなんぞ見て…興味でも沸いたか?」
と、そこに一人の男性――『帝王』の兄である『御大将』――が声をかけてくる。
帝王「いえ、最近やっと暇が取れたので、一つ休暇がてらに参加してみようかと」
御大将「なる程な……暇潰しと言うわけか――が、ただ暇潰しに行くわけではないな?」
帝王「ええ勿論、力ある『人間』の勧誘は行いますよ?――むしろそちらの方がメインでしょうか」
御大将「フッ、流石我が兄弟――安定の腹黒さ」
帝王「……誉め言葉として取っておきましょう――正直、『人間』の実力には驚かされました」
御大将「初陣とは言えまさかあの『紅月の騎士団』が手も足も出せずに負けるとはな」
帝王「ええ、あそこまでやってくれるとは思いませんでしたよ――フフッ、だからこそ余計に利用価値が沸いてきましたが」
御大将「利用できるモノはとことん利用する――やはり我が兄弟ながらドス黒い男よ」
帝王「ありがとうございます……さてそろそろ時間になりますし向かわせていただきます――ああ、留守番の方は任せましたよ、兄弟」
御大将「任せておけ――ただ忘れるなよ?」
帝王「……何をです?」
御大将「決まっているだろう――O☆MI☆YA☆GEだ!」
帝王「……努力はしておきます」
こうして『利用派』の頭目、『帝王』は秋炎絢爛祭へ参加する事となる。
――その胸に黒き野望を抱きつつ。
――かくして四者四様の吸血鬼達が祭へと参加していく。
果たして何が起きるか――それはまだ誰にもわからない。
帝王
職業:『利用派』の頭首
属性:腹黒系吸血鬼(CV子安)
能力:吸血鬼全般の能力
『利用派』を束ねる頭首で腹黒い性格をしている。
とにかく利用できるモノは何でも利用する主義で例え親族だろうが平気な顔をして利用する。
『人間』に対しては偏見的な見方をしておらずむしろある程度認めている節がありそのため積極的に利用しようと企でいる。
御大将
職業:『帝王』の兄
属性:はちゃけ系吸血鬼(CVテラ子安)
能力:吸血鬼全般の能力
『帝王』の兄で『利用派』の軍事関連を任されている。
性格はかなりの戦闘狂で普段はまだ大人しいが戦闘になるとハイテンションな言動と共に敵味方を困惑させる存在と化す(しかもかなり強いため誰にも止められない)。
反面政治の方は全然ダメなためそちらは弟に一任している。
弟も兄の実力は理解しており、戦闘関しては任せっきりである。
と言うわけで各種吸血鬼陣営の学園祭参加までを投下完了いたしました
そしてまたもやってしまった声優ネタ、しかもダブル子安……すごくカオスです。
最後にクラリス、サタン、昼子、ユズの方お借りしました、ありがとうございます
皆様乙です
ダブル子安は卑怯ww
投下します
ヨーロッパの某所。
イルミナティの本部であるここは巧妙に隠されたアジトであり、外部からの発見はまず困難だろう。
そんな外界から遮断されたイルミナティ本部の中の一室。
その部屋の中には照明としての光源は存在しておらず、光はいくつかの機械に備わった発光ダイオードの小さい光とディスプレイのライトだけ。
目に優しくない薄暗い室内、ぼさぼさの金髪をした男は回転椅子に座って軽く猫背になりながらも眼前のディスプレイに注視しながらも手元のキーボードへの打鍵を止めない。
その不健康そうなインドア青年、イルミナPは少々疲れた目をしながら、憤怒の街の情報、またその他の全国のカオススポットの情報の整理をしていた。
くたびれた眼鏡を上げて、左手でキーボードを打ちながら右手でマウスを動かして忙しく動くパソコンを操作する。
この作業を続けてすでに三日。不眠不休で作業している。
もともと集中すると終わるまでは手が止まらない性分なのでこれくらいのことは彼にとっては無茶であっても無理ではないのだ。
イルミナPは意志を沈没させて機械のように作業に没頭していた。
しかしそんな彼が沈没していた意識を急に浮上させて先ほどまでの機械のような動きから、違う動きを見せる。
そしてディスプレイに表示される一枚の画像。
それは混沌とした風景の中に、まるで物語から出てきたような少女、ふりふりの衣装に身を包んだ少女が映し出されていた。
まさにアンバランスな写真で目を引くだろう。
「これは……まさか」
ここで一つ彼、イルミナPについての話をする。
彼はバアル・ゼブルこと大槻唯についてのことか、自身の興味のある事柄つまり趣味でしか基本的に動かない。
だから彼はイルミナティの運営も唯のためしていることだし、唯のために魔術も覚えた。
ただし魔術、魔法に関してははじめの目的は唯のためだったが今は半ば趣味ともなっている。
そして行動原理である彼の趣味についてだが、かつてのイルミナPはイギリスで産業革命が始まった時にはその技術革新に驚いた。
その結果彼は工学に目覚め、それから数年後にはすでに90年代半ばの技術を彼は持ち、気まぐれで流出させた技術によって世界の技術レベルを彼は大きく進歩させた。
また彼の作り上げた技術である機械を魔術で動かした機動ゴーレムは世界の魔法使いに広く知れ渡ることになった。
彼の現在の魔法技術の所以はこの通りだが、彼の趣味は他にもある。
もともと貧しい身分の生まれである彼はかつての貴族が好むような高尚な文化よりも大衆文化を好む傾向にあった。
故に娯楽を好み、主にインドアな趣味をたくさんもっているのだ。
「魔法少女ラブリーチカだと!?そんな馬鹿な……」
その趣味と一つとして日本のアニメーションなどのサブカルチャー、つまりオタク文化である。
多忙な彼だが、暇を見つけては日本から円盤を取り寄せたり、マンガやアニメのチェックには事欠かさないほどである。
そんな彼が、十数年前に伝説的人気を誇った大きなお友達も御用達のアニメ『魔法少女ラブリーチカ』を知らないことなどあるだろうか。いやない。
「どうして……。ラブリーチカは現実ではない。だがこの写真はアニメじゃない!」
数年前、イルミナP自身どうにかしてアニメを現実にできないかを試したことがあった。
自身を2次元に変換することや、物語から現実に顕現させようとしたりもした。
しかしあまりに次元の壁は厚ったのだ。
挙句の果てに機動ゴーレムの技術を生かして人工的に作った2次元キャラの人格を生体素材で作った美少女型ゴーレムに組み込もうとしたが、もはやそれは本物ではなく彼自身の作り上げた偽物でしかなく本物とは程遠いと彼自身感じてしまったのだ。
それ以来、2次元を現実にすることは諦めた。
だからこそ驚いた。
静止画だが確実に分かった。
これは紛れもない『ラブリーチカ』だということに。
かつて自分がなしえなかった現実がここにあるということに。
「感動だ……。理想は現実だったんだ……」
その感激にイルミナPは体を震わせて、両の拳を握りしめる。
そして立ち上がって、皮手袋に包まれた右手の指を鳴らすと、一斉に室内の機械の電源が落ちる。
「ならばするべきことはただ一つ。私は本物の『ラブリーチカ』を手に入れる」
イルミナPはそう言うと部屋から出てイルミナティ本部の廊下をしばらく歩く。
そしてたどり着いたのはシャワールーム。
服を脱いでそこに入っててきぱきとシャワーを浴び、ぼさぼさだった髪の毛は水分を含んだことによってまっすぐになる。
ドライヤーで乾かして、腰にタオルを巻きほぼ全裸のまま廊下へと出る。
そこから自室へと戻ると箪笥からブーメランパンツを取り出して履く。
白いシャツを着て、クローゼットから整えられた高級スーツを取り出し、それを纏って最後にネクタイを締める。
眼鏡をコンタクトに変えて、そして整髪料で髪を整える。
先ほどまでまるでニートのような出で立ちだったイルミナPがなんということでしょう。
仕事のできそうなシャープなビジネスマンに変身したではないですか。
見た目は童貞臭さを微塵も感じさせないデキる大人な男性です。
イルミナPが右手を何もないところへと伸ばすと、どこからともなく艶のあるビジネスバッグが飛んできて持ち手が右手の中に納まる。
そして自室から出て本部からの出口へとイルミナPは向かう。
その途中でイルミナティの研究員が偶然イルミナPと出会った。
「イルミナP様、どちらへ行かれるのですか?」
完全な外出用の格好を見た研究員はイルミナPに尋ねた。
ちなみに現在のイルミナPの役職は肩書き上研究部長となっている。
「すこし野暮用で日本にな。本部のことは任せたぞ」
そう言って去っていくイルミナPの背中は覚悟を背負った男の背中であった。
飛行機の高いエンジン音が響くとある日本の空港内。
これから外国に旅行に行く家族や外国人の団体旅行客。
はたまたスーツに身を包んだ海外出張のビジネスマンなどで空港内は溢れていた。
そんな人ごみのなかをまるでモーゼのように人の波を割りながら歩く男が一人。
そのオーラは見る者をひるませ、自然と道を譲ってしまう圧倒的な貫禄を出している。
きっちりと整えられた金髪にスーツからは長い手足がすらりと伸び、その眼光は人々に『畏れ』を与えつつも人を引き付ける鋭さを持っている。
道行く人々はこの男は『大物』だと誰もが感じているだろう。
そう、イルミナP来日である。
イルミナPはそのまま周囲の有象無象、彼に注目する人々を無視して空港の出口へと向かう。
開放感のある様相の空港内から一歩出て、そのままタクシー乗り場へと向かおうとするイルミナP。
しかし建物から出た後すぐに広がっていた下りの階段を降りる途中で階段下でイルミナPとある人影を見つけた。
「待ってたよー!イルミナPちゃん」
「ゆ、唯!?どうしてここに?」
イルミナPを待ち伏せしていた人影は、彼の愛する大悪魔バアル・ゼブルこと大槻唯であった。
「唯には日本に行くことを伝えてなかったような気がするんですけど……」
彼が日本に着くまでに会話したのはあの研究員一人だけである。
当然不在であった唯には日本に行くことは話してなかったのだ。
「ちょっと前に本部に戻ってね。そしたらイルミナPちゃんいないじゃん!って感じだったんだ。そこからいろんな人に聞いてね」
「そ、それで私を追って日本までってことですか。私に何か用でも?」
「ん?何か用がないと会いに来ちゃいけないの?ひっどーい」
唯はそう言って頬を膨らませる。
「そんなことはないですよ。私は唯ならいつでもウェルカムです」
「そうなの!よかったー。じゃあこれからもどんどん会いにいてあげるね」
唯は笑顔をイルミナPに向けてそう言う。
その笑顔に少しイルミナPはドキリと鼓動を打つが、すぐに平静を装った。
「で、いつも籠りっぱなしのイルミナPは珍しくどうして日本に来ようと思ったの?」
「え!?あ、あーとっ……それは……」
イルミナPの趣味は唯はある程度理解しているし気にしているわけでもないのだが、彼的には自身の趣味が誇れるものではなく少し恥ずかしいと思っている節がある。
そういうところが童貞っぽいのだが、今回の来日の目的は特に気持ち悪いものなので出来れば唯には話したくないとイルミナPは思っているのだ。
「ふ、憤怒の街関連で少し気になることがありましてー……。とにかく唯の手を煩わせるようなことではないですよ」
一応嘘は言っていない。
イルミナPは唯には嘘はなるべくつきたくないので、これが精いっぱいのごまかしである。
「んーと、よくわからないけど要するに忙しいってことなんだね」
とりあえずごまかすことには成功したみたいだが、イルミナPはその唯のすこしがっかりしたような表情になる。
「あ、あれ?どうしました、唯?」
何かまずいことでも言ったのかと思い、唯の様子を伺いながらイルミナPは尋ねる。
「いや、忙しいならいいよ。イルミナPちゃんも頑張ってるのにそれの邪魔しちゃ悪いからね☆」
唯はそう言って少し無理に笑顔を作ってイルミナPに向ける。
先ほど向けられた笑顔とは違って、今度はドキリとはしなかった。
唯はそのままイルミナPに背を向けて個人空間につながる魔方陣を形成する。
そんな様子を彼は前にも見たことがあった。
仕事があるといった後にがっかりして去っていく唯の姿を。
「ゆ、唯!待ってください!」
イルミナPはそう言って唯の手首を掴む。
イルミナPにも意地はあった。
学習しない童貞などただのチェリーだ。300年童貞以上をやってきたからには、ここで一歩進まねばと。
「用事は大丈夫です。それよりも唯が何を言おうとしたのかを教えてくれませんか?」
その言葉に唯は振り向いて、ポケットからとあるパンフレットを取り出した。
「……秋炎絢爛祭?」
「そう……。ちょっと行ってみたいなって思ってたんだけど、一人で行くのはどうかと思ってたんだ」
「まさか、それに私を誘おうと?」
その問いに唯は小さくうなずく。
「ちょうどイルミナPが日本に来てるって知ったから……」
イルミナPは掴んでいた手をゆっくり離して唯の目を見る。
「用事は後回しでも全然かまいません。ですが唯の誘いは今じゃないとだめです。私が唯の頼みを断るわけがないんですから。これまでもそうでしたでしょう?」
「イルミナPちゃん……。そうだね!いままでもゆいのわがままを聞いてきてくれたもんね!今回も聞いてくれるよね!」
唯は一変してまぶしいような笑顔を作って、手に持っていた二つのパンフレットの片方をイルミナPに押し付けた。
「じゃあこの場所に明日集合!約束だよ☆」
そして唯は出現させたままだった魔方陣の中へと入っていった。
そのまま魔方陣は消えてイルミナPはその場に一人残される。
「唯からの誘い……二人きり……これは、まさか、デート!」
恋焦がれて300年、これがついに初デート。
イルミナPは右手を握りしめて、そのまま拳を振り上げ跳びあがった。
「イヤッッホォォォオオォオウ!!」
そこにはタクシー乗り場の前で一人ガッツポーズをしながら跳びあがるスーツ姿の金髪外人。
そして童貞の歓喜の叫びが響いていた。
カオススポット
境界崩しで重要となる混沌度が高い地点。
あの日以来不安定であるこの世界で戦争や災害によって混沌としている場所である。
憤怒の街は全国的にたびたび出現するカオススポットの中でも特に混沌度が高かった。
境界崩しの起点として利用でき、周囲に混沌を伝播させる場合もある。
イルミナP外出モード
普段室内で作業するイルミナPは地味な青年だが、一歩でも外に出るときには身だしなみをしっかりと整える。
外出用の服には妥協はせず、『いい物』を着用して大悪魔バアル・ゼブルの隣に立つにふさわしい姿に近づけるようにしている。
その見た目は凄みとカリスマ性を醸しだす。
ただし中身は変わらない。
高級ブーメランパンツ
本来水着であるブーメランパンツだが、このブーメランパンツは特別な製法にラグジュアリィな素材で作られたブーメランパンツ。
常用下着としても使える上、その締め付けは着る者の精神をも引き締める。
凍らせて投げればきれいな弧を描いて手元に戻ってくる。
以上です
横山千佳ちゃんお借りしました。
イルミナPの長い恋路が一歩前進。ただしこれはもはやフラグでしかない感じに……。
乙です
吸血鬼連中濃すぎぃ!CV子安×2ww
ラブリーチカは全力で逃げて!多分録な事にならないよ!
そして童貞ェ…
投下します
「昼子ちゃん…ついに始まったね、秋炎絢爛祭。」
「ああ…だが、我が何故このような格好をせねばならぬと我は今日まで何回言ったことだろうか…」
「あはは…」
「はいはい、お二人さ~ん?お喋りしてサボってると、そのワンダーな不思議のお山を冒険しちゃうぞぉ?」
童話のアリス風のコスプレをした愛海が、指をワキワキを動かしながら背後から接近してきた。
「あ、愛海ちゃん、まじめにやってるから、ね?その手の動きを止めて…!」
二人とも思わず胸をガードする。
「…愛海、今のお前の役割は宣伝だろう!もう始まっているのだ!その声を会場中に轟かせる勢いで宣伝して来い!」
「ちぇー、仕方ない、アタシはこっちの山を探りますよー」
「探るな、セクハラで訴えられたらどうするんだっ」ポカッ
「いてっ」
制服に白衣を着ただけの姿の晶葉が愛海にツッコミを入れる。
「痛いよー晶葉ちゃん…」
「こっちは厨房の手伝いロボットの管理で忙しいんだ、問題は起こさないで行動を心がけてくれないか…」
晶葉に外に追い出されていく様子をただ見守った。
…彼女達のクラスの出店は、『コスプレ喫茶』。
中学生らしい発想ではあるが、こんな大きな祭りに出る為それなりの準備をされており、コスプレも本格的である。
魔法少女服のツインテールの蘭子と、黒いメイド服のツーサイドアップの昼子。
他にも某アニメの主人公、某電子の歌姫、某マンガのヒロイン…etc
とにかく盛りだくさんである。しかも、調理の補助に晶葉のロボットたちが付くということで、味のクオリティもなかなかの物。
本業のメイド喫茶が出張店を出してくるのは想定外ではあったが、客の入りはいい感じである。
厨房スペースとテーブルスペースの間のウェイトレス待機スペースで、男子の一人が携帯の画面を見せてきた。
「おい、見ろよ蘭子、昼子!結構俺たちの店、呟きでも話題になってるぜ!」
「え、本当!?」
「別の所のアイス屋の宣伝とかと同じくらい、話題に上がってる!すげぇ!」
むしろ、美少女の写真が男たちの間で流れているようで…客の入りは少しずつ多くなってきている。
「…初日からこれで、大丈夫なのか…?っと、我が注文を取ってきてやろう。」
昼子が横から覗いていたが、チンチンとテーブルの卓上ベルが鳴り、その席に向かっていった。
「フハハ、我に何を命ずる!?」
「…熱を帯びし雪上に輝く甘美な蜜(ハニートースト)と、浸食する深淵の闇(コーヒー)を我が下へ!」
「把握した!暫し待たれよ!」
冗談半分で用意した、一部のテーブルにある昼子用ベルを鳴らしてメニューにある昼子専用メニュー名を言うことが出来る、『悪魔メイドシステム』。意外と評判が良いようだ。
「…なんでこれ、評判良いんだろう?」
「…さぁ?」
その頃。
「えっと…姫様達はコスプレ喫茶だっけ。アタシみたいな子が一人で入るような店じゃない気が…あ、うまー❤」
黄色いフードのついた服を着た少女…ユズが、人気のない校舎裏の隅の方でパンフレットを読みながらクレープを食べていた。
「あー久々にこういうの食べるなぁ。けど…なんか、嫌な予感がするんだよね…せっかくお祭りだって言うのにサ。」
こんなに人が集まると、嫌な思考の持ち主が紛れ込むものだ。しかも5日間も行われる。何か事件があってもおかしくはないだろう。
それとは関係ないが…時折、例のぷちどるを見かけて若干気まずい。追いかけている人たちもいて尚更気まずい。
「…元気なようで何よりではあるけどネ。屋台にもいたし…あとベルゼブブも。」
ソーセージ屋台の近くを通った時、一匹、いや一人と言うべきか?…まぁ居たのには心底驚いた。
それと近くで見かけたベルゼブブは討伐対象ではないので特に接触もしなかった。…暴食らしく楽しんでいて何よりである。
「…次は何食べようかなぁ…姫様達は店の場所覚えておけば何とかなると思うし…と言うか長時間居座れないだろうしね!」
使い道も無かったので結構溜まっている財布の中身を確認しつつ、立ち上がる。
『ぷち、カモン!』
鎌の色がそれぞれ、黒・白・黄緑のぷちユズが召喚される。
「みー!」「みみー!」「みぃ!」
「姫様の居る部屋の監視ヨロシク!くれぐれも大罪連中に見つからないようにね!」
「「「みっ!」」」
そのままどこかへ行こうとして…思い出したように振り返る。
「…あとさ、ぷちどる達…何かあったら助けてあげてね。」
「「「みー!」」」
一応、自分が生み出した命なのだ。悪用されるのは気分が悪い。
ぷちユズ達が一応目立たないように飛んでいったのを見届け、ユズも歩き出した。
ユズは会場を適当にうろつきつつ、いろいろ食べている。
サボりではない。これでも周囲の魔翌力や力の流れは観察している。
「んーアイス、んまー❤…って、おやおや?」
ある階から魔翌力を感じる。それも結構な…
「…ちょっと気になるねー」
ササッとアイスを食べ、ごみをちゃんと捨てると、その階に向かっていく。
すぐにお目当ての店は見つかった。木製の看板を見る。
(『アンティークショップ・ヘルメス 秋炎絢爛祭出張店』かぁ…どう見ても普通じゃないんだけど…まぁ有害ではない…カナ?)
入ってみると、元は教室だったのが疑われるほどのしっかりとした装飾の店。
飾られている色とりどりの宝石から、魔翌力を感じた。他にもマジックアイテム。…あとはちょっと細工がされている日用品。
そして漂っているのはおそらく紅茶と焼き菓子の匂い。良い雰囲気の店だ。
小さな小物はともかく、大きな物もあるからか、始まったばかりの今は客は殆どいない。かさばるから、そういった物は帰る時に買うのだろう。
取りあえず棚の腕輪を手に取る。二つで一つのペアらしい。片方は黒い腕輪に白いユニコーンが。もう片方は白い腕輪に黒いペガサスが描かれている。
それら…否、店にある殆どの物から魔力、又はそれに近い力を感じた。
「…錬金術?」
思わず口からボソリと言葉が出てしまう。殆ど聞こえない程の声。
「…あら、お分かりですか?」
後ろから声をいきなりかけられたが、不思議とビクリとはしなかった。
「えっと…店主さん?」
「ええ、相原雪乃と申しますわ。…立ち話もなんですし、こちらに座ってくださいな。今は二人きりですし。」
言われるままに席に座る。少し席を離れた雪乃は紅茶とクッキーを持ってきた。
二人が向かい合う様に座ると、ユズが問いかけた。
「これ全部…作ったの?」
「ええ♪皆、私が作り上げたものですの。」
周囲のかなりの数のアイテム、これらを全部作り上げる。それはかなりの実力者と言う事なのだろう。
「…すごいねぇ。あ、アタシはユズっていうんだ。錬金術は本でしか知らなかったからこんなところでお目にかかるとは思ってなかったよ。」
「あら、そうでしたの?」
「うん、この部屋の魔力が何なのか、気になって来たんだよ。あの宝石の魔力だったんだね。」
飾られている宝石。魔力が固体となった管理塔のクリスタルとは違い、宝石の中に魔力を保持しているようだ。
それに、もう純粋な魔力ではなく…何らかの性質をすでに持っているように思える。
「なるほど…マテリアルの魔力を感じてきたのですね?」
「そんな名前なんだ…。似ている物は知っているけど、こういうのは初めて見るよー。」
「まぁ、そうでしたの?さすがあれ程の魔術を使えるだけありますわね。」
その言葉に一瞬、真の姿である黒いローブの幻影が見える程にユズは警戒心を露わにしたが、すぐに警戒を解いた。
「…あ。うっかりしてたなぁ…ユズの事、結構広まっているんだった。思わず警戒しちゃったよ。これからは気をつけなきゃ…」
「いえ、殆どの人はその後の憤怒の街の事などもありましたし、一時的なニュースとしてしか覚えていませんわ。それに黒いローブの姿が印象的ですし、騒ぎにはならないかと。」
紅茶を一口飲み、雪乃は続ける。
「それに…いえ、なんでもありませんわ。」
雪乃は見逃さなかった。黒いローブの幻影の下の彼女の表情。それは殺意、それに恐怖を秘めていた。
今でもユズはテレビ局とその関係者には良い感情を抱いていない。一種のトラウマでもあるからだ。
…瞳に光が宿っていなかったのだ。まるで骸骨の空っぽの瞳を覗き込んでいるような…そんな気分になる程に。
「そう?まぁ一応対策は練っておくべきかなぁ…いやでも…あ、そうだ。」
しかし当の本人はそんな雰囲気を纏っていたとは思えない程の仕草と態度。
思い出したように、持っていた腕輪をすっと前に出した。
「そういえば、これを知り合いに渡したいんだけど…どんな腕輪なのコレ?」
「ああ、それはちょっと面白い仕掛けがありますの。せっかくですしお見せしますわ。」
腕輪を両手に持ち、横から合わせるように近づける。
不思議な事に腕輪の中のユニコーンとペガサスが動き出し、完全に触れると腕輪が小さな淡い光を纏った。
そして光が消えると二つの腕輪は一つの腕輪になっていた。上下に重ね合わせているように見えるが完全に接合されている。
そしてその接合された白黒の腕輪の中を…翼のあるユニコーンと言うべきか、角があるペガサスと言うべきか…とにかく灰色のそれが飛び回っていた。
「すごーい!」
飛び回るそれを雪乃が撫でると、腕輪は再び二つの腕輪に戻った。
「うふ、喜んでいただけて何よりですわ。これはアリコーンリング。一つにすると魔力を呼び、二つに分けるとお互いを感じ、求める力がありますの。」
「へぇ…買ってもいいかな?プレゼントにいいかも。」
「お買い上げありがとうございます♪」
少しの雑談をして、紅茶とクッキーをしっかりといただき、ユズは腕輪の入った袋を大切そうにカバンにしまった。
「さて、そろそろ行くよ。えへ、また来るかも♪次は自分用カナ?」
「そう言って貰えてなにより…そうそう、本店宣伝用のチラシをどうぞ。開けている曜日などは決めていませんけど…よかったらこちらにもいらっしゃってくださいまし♪」
「うん、できれば知り合いも連れていきたいな、いい店だよここは。」
「そんなに褒めていただけるとは…うふふ♪」
「じゃあ、もう行くね。繁盛するとイイネ!」
「はい、またのお越しをお待ちしております♪」
手を振るユズに雪乃も手を振り返す。そこにまた次の客が入って来たのを見て、ユズは再び歩き出した。
そして、教会のとある部屋。キヨミたちが話している部屋の真横。
「キヨミお姉ちゃん、お祭りに行くんだァ…ふぅん…」
ナニカは隣の部屋のキヨミの話を壁に耳を当てて聞いていた。
教会に来て、ナニカはクラリスからまともな衣類や食事を与えられた。下着も着ておらず、ワンピースだけだったのだから余計にクラリスに心配された。
ともかく、一応彼女には現実にも安らぎの場が与えられたわけなのだが、満足はしていない。
…加蓮とクラリスの、抱きしめた時の柔らかさの違いとかではない。決して。柔らかいほうが好きではあるが。
ほぼ同一存在である加蓮より、他の者は安心できないのもある。
そしてただ単純に…足りないのだ。
彼女が『奈緒』でも『ナニカ』でもない、『仁加』という存在に完全に生まれ変わり、悪夢から逃れるにはまだ人格形成が不十分なのだ。
少しずつ悪夢は短くなりつつあるが、まだ不十分だ。
記憶を他人事のように認識し続ければ、人格は別の人格へと変わる。それなら悪夢の様な記憶からも逃れることが出来るはずなのだ。
『奈緒』の記憶を否定して、彼女は『仁加』になる事を求める。
『自分』は『奈緒』とは別人である。だから口調も心も別の者。
『怪物』は『人間』になりたくて仕方ない。幸福を求めているから。
だから『奈緒』と言う名の『人間』に…
(あれ?)
嫉妬…している筈なのだ。『家族』がいて、笑えて、愛されている奈緒に…
(なんでだろう、あたし…奈緒が『人間』なのが嬉しいの?)
ありえない、筈なのだ。
過去の記憶を封じたのは誰?理由は?何故分離した?…そんな事…
(『知らない』?…『思い出さない方がいい』?)
暫く考えて、結論を出した。
「ま、いーや。そんな事はどうでもいいの。」
奈緒と分離した彼女はもう奈緒の記憶は覗けない。夢に潜り込んでも逃げられるだろう。と言うかよっぽどのことがない限り、その時間分加蓮と一緒にいたい。
少なくとも、今彼女が持っているのは自分の記憶と感情。思い出せないなら思い出さない方がいい。
思い出して不幸せになるくらいなら、知らない方がいい。
「そんな事よりお祭りなの…お祭り、行きたいの…キヨミお姉ちゃんも行くんだし。退屈だし。」
キヨミ、そして彼女といつも共にいる男たち。ナニカから見ると彼女達からは非常に甘い匂いが微かに漂っている。
血の香り。それが『おいしそう』なのだ。一応食べてはいないが…時折キヨミたちは彼女の目が捕食者の目になっているのを見ている。
「…おなかすいたなぁ」
あの香りは非常にマズイ。おいしそうだから食欲を刺激する。獣のように喰らってしまいたくなる。
「お祭り、お菓子あるカナ!ゴハンアルカナ!オナカスイタオナカスイタオナカスイタ!でもお金ないの…」モグモグ
モグモグと神父がこっそり買っていたのを知らずに部屋に持ち込んでいたお徳用袋入りクッキーを食べて自分を落ち着ける。そこで一つのアイデアを思いつく。
「…そうだ、悪い事した人なら食べてもいいかも!正義の味方はどうせ悪い人殺しちゃうの、なら食べてもオッケーだよね!」
『罪悪感』を白兎に消されたことによって生まれた狂った発想。吸血鬼によって刺激された食欲は、甘い血肉を求める。
「キシ、キシシ!行ってきまーす!」
窓を開けて、クラリスや神父に見つからないように教会を飛び出した。窓は内側から黒い泥が閉じて、別の場所から彼女に合流する。
こうして、一人の気狂いが祭りに参加することになった。
アリコーンリング(ユニコーンリング・ペガサスリング)
黒と白の腕輪。一つになったり二つになったりする。
一つになっている時は魔力を引き寄せ、二つに分けている時はお互いを感じ、求める力があり、近いと腕輪の中の絵が動き出す。
ユニコーンを昼子、ペガサスを蘭子に渡す予定。
ぷちユズ鎌鼬隊
ぷちユズの黒・黄緑・白セットの時の別名。
黒が物体操作で転ばせ、黄緑が風に乗って切り裂き、悪人じゃなかったときは白が回復する。
このコンビネーション以外にも結構万能な組み合わせ。いざという時は合体もする。
以上です
お祭りがどんどん混沌としていってるね!(白目)
愛海、晶葉、雪乃、キヨミ、名前だけではベルちゃん、加蓮、クラリス、神父をお借りしました
イベント情報
・某中学の某クラスの生徒達が教習棟中層階でコスプレ喫茶をやっています。
・ぷちユズ3体が教習棟周辺を巡回中。昼子達やぷちどるを守ろうとします。
・ナニカ(一文無し)が暇つぶしも兼ねてウロウロしてます。吸血鬼から漂う血の甘い香りで食欲が刺激される模様。逃げるか食べ物をあげてね!
乙乙ー
大罪悪魔も吸血鬼も童貞も究極生命体も学園祭キター!
みんな日常に飢えてるのね、わかるわ
そんな中バトルSS投下すいませんでした土下座します!
みりあ「えへへっ、眼鏡似合うー?」
露天で買った赤い縁のファッション用眼鏡をかけたみりあが、得意げにそれを二人に見せる。
若神P「うん、すっごく可愛いよみりあちゃん」
若神Pは爽やかな笑顔でサムズアップ。
マキノ「ええ、私も素敵だと思うわ。それでみりあさん、先ほどの話なんだけど」
みりあの頭を撫でながらマキノは言う。
先ほど、「ある話」をしている最中に、みりあが露天を見つけて会話が途切れていたのだ。
みりあ「あ、そうだった。えっとね、私がマリナさんをウェンディ族だって知ったのは、憤怒の街での事なの」
マキノ「憤怒の街……」
その言葉には覚えがある。
確か、かつて大量のカースにより占拠されていた都市の通称だ。
スパイクPによれば、カイと交戦したのはその近辺だったはず。
みりあ「そこで若神Pさんに力を貰って、二人でカースと戦ってたら、マリナさんがトビー君を連れて出てきたの」
みりあの言葉にマキノは少し驚いた。
こんな小さな子も能力者……いや、カースと戦うほどの能力を持った「ヒーロー」だというのか。
しかも、力を授けたのがこの軽薄そうな少年……?
しかし、今気にすべきはそこではない。
マキノ「それで、みりあさんはマリナさんや若神Pさんと共に憤怒の街を脱出したのね」
みりあ「うん。今はアパートのお部屋借りて暮らしてるの」
それだ! マキノは思わず目を見開く。
そのアパートの場所をマリナ捜索中の兵士達に伝える、もしくは自ら赴けば……。
マキノ「……なんだかお話をしていたら、マリナさんに会いたくなってきたわ」
若神P「あー、残念だったねー。マリナさん最近お仕事で家空けてる事が多いんだよ」
若神Pが手をひらひらさせて言う。
無意識か、それとも思惑を見抜かれているのか?
いずれにせよ、この程度で引き下がるようでは親衛隊の名折れだ。
マキノ「それは残念ね。ならマリナさんのご都合がいい時にでもお邪魔しようかしら」
みりあ「うん。マリナさんもきっと喜んでくれるよ!」
マキノ「ではその時の為に、アパートの場所を聞いてもいいかしら?」
みりあ「いいよー」
計画通りだ。
年端も行かないこの少女は、「親代わりの女性と同郷」というだけで自分を信じきっている。
隣の少年はよく分からないが、止めに入らないあたり、少なくとも疑われてはいないようだ。
みりあ「えっとねー、そこのコンビニを右に……………………っれ……?」
正門の方向を指差したみりあが、突然その場に倒れこんだ。
若神P「み、みりあちゃん!?」
若神Pが抱き起こそうと手を延ばしたその時、ビュオォッと風が吹いた。
若神P「わっ…………あ、あれ? みりあちゃん!? みりあちゃんがいない!?」
風が止むと、みりあの姿は影も形もなくなっていた。
マキノ「…………不味いな……」
まだ肝心な情報を掴めていないのに、その情報の持ち主が消えた。
マキノ「…………ん?」
ふと、足元に何かが落ちている事に気付いた。
黒く粘性のある、泥のような液体。
マキノ(……カース、か)
マキノはそれがカースの体を構成する泥である事をすぐに見抜いた。
そして、それは、一定の間隔で校舎の方へ続いている。
マキノ(…………よし)
マキノ「若神Pさん、二手に別れてみりあさんを探しましょう。貴方は向こうをお願い」
そう言ってマキノは泥が落ちているのとは反対の方向を指差す。
若神P「う、うん! 見つかったら正門前に集合で!」
そう言って若神Pはマキノが指差した方向へ駆け出した。
マキノ「…………まだ情報を得られていないというのに……」
マキノは早足で、泥の後を追って歩き始めた。
??「はっ……!」
??「どうしました、先輩?」
??「これは……眼鏡の危機!?」
??「……は?」
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京華学院、研究棟の東に広がる裏山。
泥はそこへ転々と続いていた。
マキノ「…………オクト、光学迷彩解除」
『ゴロロロン』
マキノの言葉に従い、オクトが姿を現す。
マキノ「オリハルコン、セパレイション。……アビストーカー、ウェイクアップ」
もう、いつカースと遭遇するかも分からない。
そう考えたマキノは、今の内に変身を済ませた。
そして、アビストーカーの状態で改めて光学迷彩を展開し……
マキノ「っぐぅ!?」
突然、背後から鈍い衝撃に襲われた。
同時に、展開されかけていた光学迷彩も解除される。
マキノ(しまった、光学迷彩の制御ユニットが……)
??「ストーキングとは、いい趣味とは言えないなぁ、お嬢さん」
背後からの声に振り向けば、そこに立っていたのはスーツ姿に金髪の男。
しかし、左袖からは絶えず泥がポタポタと滴り落ち、右袖には泥で出来た触手が脈打っていた。
マキノ「……カースドヒューマン。属性は……色欲かしら?」
カースドヒューマン「ご明察。普段はここで英語を教えているがね」
カースドヒューマンは触手で校舎を指差す。
マキノ「……みりあさんはどこ?」
カースドヒューマン「みりあ? ああ、彼女はここだよ」
カースドヒューマンがパチンと指を鳴らすと、2,3体のカースが現われた。
その内一体の背には、目を閉じたままのみりあが横たわっている。
マキノ「みりあさん……!」
カースドヒューマン「安心したまえ、『まだ』何もしていないよ、クックック……」
マキノ「彼女をどうするつもり?」
カースドヒューマン「そうだねえ……一通り『楽しんだら』、後は剥製にでもして自宅に飾ろうか」
そう言ったカースドヒューマンの表情は、この世の物とは思えない下卑た笑みに満ちていた。
マキノ「……下衆ね」
マキノは憎悪を押し殺し相手を嘲笑すると、腹部の噴射口から煙幕、ブラックミストを噴射し……
カースドヒューマン「ふんっ」
マキノ「っが!?」
出来なかった。触手化したカースドヒューマンの左足が高速でマキノの腹に叩きつけられたのだ。
その場に倒れこむマキノ。噴射口は見事に潰れてしまっている。
マキノ「……ぐっ……」
カースドヒューマンの触手がマキノの体に絡みつき、ヒョイと持ち上げる。
カースドヒューマン「んん、君もなかなかどうして美人だねえ。よし、君も楽しんで剥製にしてあげよう」
苦痛に歪むマキノの顔を見上げ、カースドヒューマンは口元を歪に吊り上げる。
カースドヒューマン「そうだ、君たちが終わったら生徒共をやるのもいいかもなあ。普段私を邪険にするのだ、
当然の報いと言っていいだろうなあ! そうだそうだ、一番手は新田にしよう!
奴の表情一つ一つ、最早誘っているとしか思えないものなあ! フハハハハハハ!!」
マキノ「…………心底下衆ね、貴方は」
カースドヒューマン「はっはっは、何とでも言うがいいさ。もう君は私の所有物も同然だからねえ」
触手と化したカースドヒューマンの左腕が、マキノの鎧の隙間を探り始める。
マキノ「…………ッ」
??「メガネ・テンプル・カッター!!」
カースドヒューマン「ぐあっ……何ぃ!?」
突如飛来した『謎の物体』が、カースドヒューマンの触手を切断した。
マキノ「……何事?」
触手から開放されたマキノは、その物体を分析する。
マキノ「剣……にしては細長すぎる……。植物のつる……にしてはこの金属光沢は…………興味深いな……」
カースドヒューマン「ええい、何者だ!?」
カースドヒューマンとマキノは、その物体が伸びてきた元……一本の木の天辺に目を移す。
??「眼鏡っ娘の危機とあらば、例え火の中水の中、うねり狂う触手の中! 眼鏡を以って眼鏡を護る! そう、私は……」
春菜「マスク・ド・メガネ!! 推参!!」
マスク・ド・メガネ・と名乗った少女――上条春菜はマントをバッと翻した。
いや、翻したそれはマントではなく、無数に連なった眼鏡だ。
そこで、マキノはようやく物体の正体を理解した。
マキノ「…………つる、か」
ただし、植物ではなく、眼鏡の。
マキノ「…………度し難いな……」
カースドヒューマン「邪魔をするなぁ!」
カースドヒューマンは両腕の触手を再生させ、それを春菜へと撃ちだす。
春菜「なんの! とぅっ、眼鏡手裏剣!!」
触手を大ジャンプで回避した春菜は、懐から無数の眼鏡を取り出しそれをカースドヒューマンへ投げつけた。
そして、その眼鏡全てが折りたたまれた状態で、カースドヒューマンの体に突き刺さる。にわかに信じがたい事だが。
カースドヒューマン「うぐうう……!」
春菜「そこの眼鏡の方、大丈夫ですか!?」
地上に降り立った春菜がマキノへ手を差し伸べる。
マキノ「え、ええ……ありがとう」
春菜「ここは助太刀します! 眼鏡の友として!」
マキノ「……ええ、お願いするわ」
春菜の手を取り立ち上がったマキノは、カースドヒューマンをにらみつける。
カースドヒューマン「はっ、言っておくがね、こちらには人質が……」
カースドヒューマンは右の触手でみりあを捕らえるカースの方を差した。が……
『マアマアメガネドウゾー』
『メガネドウモー』
『メガネドウモー』
『メガネドウモー』
カースドヒューマン「…………は?」
カースドヒューマンには状況が理解できない。
配下のカースが体が透けて、なんかこう、無害っぽくなっている。
体内に核が見当たらない代わりに、なんだか眼鏡みたいなものが浮いている。
そしてそいつらの足元には見慣れない小さくて透明なカース。こいつも体内に眼鏡が浮いている。
カースドヒューマン「おい……何だこれ」
春菜「『眼鏡のカース』、メー君です!」
マキノ「……………………度し難すぎる…………」
マキノとカースドヒューマンが呆然としている内に、透明になったカースたちがみりあを運んできた。
カースドヒューマン「お、おいお前ら!?」
『マアマアメガネッコドウゾー』
マキノ「え? え、ええ、どうも……」
マキノはカースからみりあを受け取り、地面に優しく寝かせた。
春菜「お手柄ですね、メー君!」
『コレモメガネッテヤツノオカゲナンダ』
『ナンダッテ! ソレハホントウカイ!?』
マキノ「……さて、人質はいなくなった。数に於いてはこちらが有利。私ももう油断はしない。
…………貴方に勝ち目は無いようだけれど?」
マキノは一歩一歩、カースドヒューマンに歩み寄る。
カースドヒューマン「ひっ…………に、逃げろぉっ!!」
情け無い声を上げたカースドヒューマンは両腕の触手を翼のように纏め、空を飛んで逃げ出した。
春菜「逃がしませんよ!」
春菜が胸の前で両拳を突き合わせる。
両腕の装甲が、さながら二つの眼鏡のように変形する。
マキノ「そうね……久々に、個人的に許せない相手に会ったわ……!」
マキノが右前腕のカバーをスライドさせ、「いかにも」なドクロマーク付きの赤いボタンを押す。
背中のタンクが展開され、一基のミサイルがせり出してきた。
春菜「ダブル・メガネ・ステイプラー・ミサイル!」
マキノ「スーサイド・ボンバー……!」
春菜・マキノ「「発射ァッ!!」」
二つの眼鏡が、一基のミサイルが、凄まじい白煙と共に飛び上がる。
標的は当然、カースドヒューマン。そして、
カースドヒューマン「な、なんだありゃ……ごあああああああああああっ!?」
眼鏡とミサイルが直撃、カースドヒューマンは大空に散った。
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若神P「良かった、怪我は無いみたいだ」
爆発で駆けつけた若神Pは、みりあの顔をみてほっと息をつく。
マキノ「ええ。……少し、派手にやりすぎてしまったかしら」
真尋「大丈夫みたいですよ。ほとんどの人が花火か何かだと思ったみたいです」
千夏「ちょうど正午だったから、時報代わりとでも勘違いされていたようよ」
マキノの言葉に、春菜の知人だという北川真尋と相川千夏が答えた。
真尋「っていうか先輩! 何をいきなり走り出しちゃってんですか!?」
春菜「眼鏡の危機を感じ取った。それだけのことだよ!」
真尋の心配もよそに、春菜は渾身のサムズアップ。
若神P「あ、あはは……ともかく、みりあちゃんを助けてもらってありがとうございました。
僕、保健室とか借りられないか聞いてくるので、これで失礼します」
マキノ「ええ、マリナさんによろしく伝えてね」
若神Pは未だ眠るみりあを、いわゆるお姫様抱っこの形で抱き上げると、元来た道を下っていった。
マリナの現住所は聞き出せなかったが、まだチャンスはある。何せこの祭りは五日間も開かれるのだ。
春菜「……マキノさん!」
不意に春菜がマキノに詰め寄る。
マキノ「何かしら?」
春菜「あなたの力を見込んで頼みがあります。私に……力を貸してくれませんか!?」
真尋「ああ……始まった……」
千夏「あの、無理に引き受けなくても大丈夫よ?」
マキノ「……失礼、順序立てて説明してもらえるかしら?」
春菜「ああ、すいません。まずですね……」
話を聞くに、彼女、上条春菜は大の眼鏡フリークで、世界に眼鏡を広めるべく戦っているとか。
この時点でもう度し難いのだが。
そしてその計画に真剣なのは首魁の春菜一人で、残りの二人は半ば振り回されている状態のようだ。
マキノ「…………ふむ」
春菜「どうでしょう? 悪い話じゃないと思うんですけど」
マキノは先ほどの戦闘を思い出す。
マスク・ド・メガネ……そういえば、サヤが自作した地上のヒーローファイルにその名があった気がする。
ともかく、その戦闘力は本物だ。
良好な関係を築いておけば、イザという時には心強い援軍となり得るかも知れない。
マキノ「…………そうね、前向きに検討させてもらうわ」
真尋・千夏「「!?」」
春菜「本当ですか!? ありがとうございます! いいお返事を期待していますね!」
マキノ「ええ。では春菜さん真尋さん千夏さん、私はこれで」
マキノは眼鏡をくい、と上げて笑顔を見せると、そのままオクトを連れ山を下っていった。
春菜「はい! また会いましょう!」
真尋「……信じられない」
千夏「類は友を……というやつかしら」
続く
・スーサイド・ボンバー
アビストーカーの切り札である、高濃度火薬を限界まで凝縮した超破壊爆弾。
名前が示すとおり本来は自爆用の装備だが、ミサイルのように発射して使用することも可能。
連続使用を想定していないため、一度使用したら海底都市で一から精製する必要がある。
・イベント追加情報
若神Pがみりあを抱えたまま、保健室目指して校内をうろうろしています。
マキノが上条勢力と接触、勧誘を受けました。
英語講師(実はカースドヒューマン)が一人爆散しました。
元々女生徒からの評判はあまりよくなかったようです。
以上です
やっぱり女スパイといえばエロピンチだよね!(色欲感)
春菜、真尋、千夏、名前だけ美波お借りしました
乙乙
ついにクライマックスか、ゾクゾクするねぇ
文化祭で投下しますー
カイは土木作業、亜季はメイド喫茶、ホージローたちは基本的に公園でお留守番。
そして星花は、今日も街角でバイオリンを奏でる。
バイオリンのストリートアーティスト、という物珍しさからか、それなりに人は集まっていた。
星花「~~♪ ~~♪」
??「……あら」
本当に少しずつだが、ギャラリーは徐々に増えていく。
星花「~~~♪ ……ありがとうございました」
演奏を終え、星花がうやうやしく頭を下げる。
それと同時に起こる、小規模ながらの拍手喝采。
??「…………」
そして、足元のバイオリンケースに硬貨や、稀に紙幣が投げ入れられる。
更に稀に、硬貨や紙幣以外の物も……。
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演奏終了後、星花はバイオリンケースの中を整理していた。
貨幣と、稀に投げ込まれる紙くず等とを分けるためだ。
星花「今日は……無さそうですわね」
以前に、ガムの包み紙を放り込まれたことがある。
最初こそショックではあったが、まあ回を重ねる毎に慣れるものである。
星花「……あら?」
ふと、硬貨の中に小さな封筒を見つける。
何気なく裏返してみると、差出人の名前が書いてあった。
星花「……!」
星花は驚いて封筒の中身を取り出す。
星花「…………」
封筒の中に入っていたのは、ある地図だった。
星花は周囲を片付けると、その地図を頼りに歩き出した。
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星花「……ここでしょうか……」
やがて星花がたどり着いたのは、京華学院、教習棟上層階にある一つの教室の前だった。
入り口には『アンティークショップ・ヘルメス 秋炎絢爛祭出張店』と書かれた木製の看板が設置されている。
星花「……失礼します」
戸を軽くノックして教室へ入る。
ユズ「わっととと、ごめんねー」
星花「あっ、すみません」
ちょうど前のお客が店を出るところだったらしい。
星花はフードの少女に頭を下げ、改めて店内に目をやる。
雪乃「いらっしゃいませ…………あら、意外に早く見えたのですね、星花」
星花「雪乃さん……お久しぶりですわ」
彼女の名は相原雪乃。星花の知人で、この店の店主で……稀代の錬金術師だ。
雪乃「ええ、本当に。……相変わらず、無茶をされているようですわね?」
星花「ご存知なのですか? フルメタル・トレイターズの事を……」
雪乃「もちろんですわ。さあ、立ち話も何ですからこちらへ……」
雪乃に誘導され、星花は近くの椅子に腰掛ける。
雪乃「さあ、召し上がって下さいな」
星花「はい、いただきます」
促されるまま、雪乃から差し出された紅茶を口にする。
雪乃「……にしても、相変わらず星花は真っ直ぐですわね」
星花「はい。……力があるのなら、それを誰かの為に振るいたくて……」
ティーカップを静かに置き、俯く星花。
雪乃「ふふふ。それを頑として貫き通せるのが、星花の強い所ですわ」
率直に褒められて照れくさいのか、星花はますます俯く。
星花「そっ、それよりも。一体何の御用でしょうか?」
星花は慌てて懐から例の封筒を取り出す。
星花「ただお話をするだけでしたら、こうしてわざわざ封筒を用意する必要も無いのではないでしょうか?」
雪乃はそれを見て、ティーカップを置いてから静かに席を立った。
雪乃「ええ。こちらにお越しいただいたのは、お渡ししたい物があったからですわ。お待ち下さい」
そう言って部屋の奥の方へと入っていく。
星花「……?」
雪乃「お待たせしましたわ。こちらを」
雪乃が持ってきたのは、目元を隠す黒いペルソナだった。
金属のような質感で、妖しげなピンク色のラインが数本走っている。
星花「これは……何でしょうか?」
雪乃「以前、別の物の製作が行き詰っていた時に、気分転換に作ったものです」
雪乃は星花の手を取り、そのペルソナを持たせた。
雪乃「ちょっとしたパーティーグッズのようなものですわ」
星花「では……失礼して」
星花はそのペルソナを身に着けてみる。と、
星花「……こ、これは……?」
雪乃「ふふ……」
ペルソナから黒とピンクの光の粒が溢れ出し、星花の体を包み込んでいく。
やがて、光の粒が全て消えてなくなった。
星花「い、今のは……?」
雪乃「さ、ご自分の目でご覧になって?」
そう言って雪乃は大きな鏡を取り出した。
星花「…………これは……」
鏡に映った星花の姿は、最早「お嬢様、涼宮星花」では無かった。
純白のドレスは、黒を基調とした丈の短いものに変わり、蝙蝠の羽のような飾りもついている。
頭には、まるで角のようなピンク色の髪飾りが二つ。その姿は……
星花「まるで、悪魔……ですわ……」
雪乃「星花の場合は、小悪魔、の方があっているかも知れませんわね」
驚いて鏡に映る自分の姿を凝視する星花を見て、雪乃はくすっと笑みをもらした。
雪乃「それは、着用した者の衣服を変換するペルソナですの。残念ながら、一種類の衣服の情報しか入れられませんが」
星花「そんなものが……」
星花はペルソナを外し、しげしげと眺める。
雪乃「その服が表に出てきた代わりに、星花の元着ていたドレスは今ペルソナの中に入っていますわ」
星花「取り出すときは、どうすれば?」
雪乃「ペルソナを持って、取り出そう、と念じるのです。軽くで大丈夫ですわ」
言われたとおりにやってみると、今度は白い光の粒がペルソナから溢れ、星花の体を覆った。
そして光の粒が消える頃、星花はいつものドレスを身に纏って立っていた。
星花「まあ……」
雪乃「そちら、差し上げますわ」
星花「えっ……」
雪乃「素顔を晒したままのヒーロー活動では、いつご実家に連れ戻されるかも分かりませんわよ?」
それを聞いた星花は、少し心配そうに口を開いた。
星花「しかし、今はお金が……」
雪乃「……ふふっ、その事でしたら大丈夫ですわ。これは、先ほどの演奏を聴かせていただいたお代ですもの」
星花「そういう事でしたら……ありがたくいただきますわ、雪乃さん」
にっこりと微笑んでから、星花は思い出したように雪乃に問いかける。
星花「そういえば……このペルソナにはお名前はありませんの?」
雪乃「ええ、何せ気分転換の産物なので、まだ名前はついていません。星花が名付け親になりますか?」
星花「では…………」
星花は顎に手を当て、少し考えてからまた口を開いた。
星花「……の、『ノーヴル・ディアブル』……というのは……いかがでしょう?」
少しどもりながら、星花はそう言って恥ずかしげに目を逸らした。
雪乃「ノーヴル・ディアブル……『高貴な悪魔』ですか。星花らしくて素敵だと思いますわ」
星花「あ、ありがとうございます。……では、こちらはありがたくちょうだいいたします、雪乃さん」
雪乃「ええ、大事に使ってあげてくださいね」
星花「はい。……では、失礼いたします」
星花はペルソナ――ノーヴル・ディアブルを握り締めて雪乃に頭を下げ、部屋を後にした。
雪乃「次は本店にもお越しくださいね。…………さて」
雪乃は再び椅子に腰掛け、ふと窓から外の様子を眺める。
馬に乗った小人と、それを追う黒服の女性、それに続く黒服の男たちが駆けていく。
雪乃「……どうやら、ギリギリで間に合ったようですわね」
ふふ、と笑みをこぼして、雪乃は一口紅茶をすすった。
続く
・ノーブル・ディアブル
目元を覆い隠す、金属質で黒地にピンクのラインが入ったペルソナ。
製作者は錬金術師の相原雪乃で、知人の涼宮星花に贈られた。
悪魔をイメージさせる衣装が光の粒となって内蔵されていて、装着者の衣服を瞬時に変更させる。
(要するに初出星花特訓前→小悪魔お嬢様星花+になる)
作られた時点では無名で、譲り受けた際に星花が名づけた。
星花はこれを正体隠しに使い、変装時はそのまま「ノーブル・ディアブル」と名乗る。
え? アイテムはフランス語でストラディバリはイタリア人? うるせえオーラロケットパンチすんぞ。
・イベント追加情報
星花が雪乃からペルソナ『ノーブル・ディアブル』を受け取り、変身能力を得ました。
以上です。
今回のお話の要約
雪乃「出来ましたわ! 一瞬で小悪魔衣装になるペルソナですわ!」
星花「ありがとうございます雪乃さん! 早速捜索隊を撒いてきますわ!」
雪乃「くれぐれも悪用してはいけませんわよー!」
「どっちみちストラディバリでバレない?」は禁句だよ!
学園祭中トレイターズの最後最後詐欺が我ながらひどい……
雪乃、ユズお借りしました。
いぇーい>>706にミス発けーん
×
・ノーブル・ディアブル
目元を覆い隠す、金属質で黒地にピンクのラインが入ったペルソナ。
製作者は錬金術師の相原雪乃で、知人の涼宮星花に贈られた。
悪魔をイメージさせる衣装が光の粒となって内蔵されていて、装着者の衣服を瞬時に変更させる。
(要するに初出星花特訓前→小悪魔お嬢様星花+になる)
作られた時点では無名で、譲り受けた際に星花が名づけた。
星花はこれを正体隠しに使い、変装時はそのまま「ノーブル・ディアブル」と名乗る。
え? アイテムはフランス語でストラディバリはイタリア人? うるせえオーラロケットパンチすんぞ。
↓
○
・ノーヴル・ディアブル
目元を覆い隠す、金属質で黒地にピンクのラインが入ったペルソナ。
製作者は錬金術師の相原雪乃で、知人の涼宮星花に贈られた。
悪魔をイメージさせる衣装が光の粒となって内蔵されていて、装着者の衣服を瞬時に変更させる。
(要するに初出星花特訓前→小悪魔お嬢様星花+になる)
作られた時点では無名で、譲り受けた際に星花が名づけた。
星花はこれを正体隠しに使い、変装時はそのまま「ノーブル・ディアブル」と名乗る。
え? アイテムはフランス語でストラディバリはイタリア人? うるせえオーラロケットパンチすんぞ。
でおにゃーしゃー☆
学園祭で投下
「…それで、古本屋に来たわけだけど…やっす!?一冊どれも30円!?こう安いと一冊くらい買いたくなるね…」
「わぁ…なんかいい楽譜とか本あるかな…?」
「ミラ、あっちそれっぽいかも!」
「ほんと?」
ハリケーンガールズは、それぞれの希望の中で比較的人の少ない古本屋に来ていた。
ケイとミラとは別の本棚をマーサは探っている。
「で、マーサはどんな本が欲しいんだ?」
「えっと、東洋・西洋の神秘的な…そんな感じの」
「なるほど、わからん」
「…オカルト本よ。魔術なんてやる勇気はないけど読むのは好きだもの」
なんだかそれっぽいタイトルの本を手に取り、ぱらぱらとめくっている。
「それに、今はそういう『オカルト』も…現実にあるしね」
「あー、カースとかいるもんな」
「うん、それに吸血鬼とか、悪魔とか、ドラゴンとか、妖怪とか…オカルトマニアの間では結構そういう情報が出回ってるのよ。
実際、少し前にか幽霊や妖怪が大騒ぎしてたでしょ?一部のオカルトマニアはあの時外に出ていろいろやってたみたい。カメラは動かなかったみたいだけど」
「…」
オカルト関係の事を話す時のマーサはいつもより滑舌がいい。
…妖怪が自分の家の居候です。なんて言ったらどう反応するのだろう。微妙な表情で考え込んだ涼をよそにマーサは言葉をつづける。
「そして、オカルト本で書いてある通りの弱点はその相手にも通用するらしいわ」
「へぇ、吸血鬼に十字架とか太陽の光とかニンニクとかそんな感じか?」
「えっと十字架は…信仰している相手に効果があるだけらしいから…その宗教を信じていない吸血鬼には効かないでしょうね。太陽とニンニクは…うーん」
確かに太陽はともかくニンニクが苦手という設定の吸血鬼は最近は映画でもあまり見ない。ホラー映画の記憶を手繰り寄せて一つ思い出す。
「えっとじゃあ…銀のナイフとか銃弾…だっけ?そういうのか?」
「うん。『銀製の武器』や『心臓に杭』…そういうのは効果があるらしいけど…あくまで『らしい』ね。実際に見て戦った人の記録は少ないから…嘘もあるだろうし」
籠に読んでいた本を入れ、別の本を棚から取り出す。
「あ、あとは『招かれた家にしか入れない』とか、『鏡に映らない』とか『流水を渡れない』とかもあるわね。これも本物には効果あるかは知らないけど」
「やっぱり吸血鬼って弱点多いなぁ…」
「それでもやっぱり強い生物だと思う。…出会わないとは思うけどね。まさか祭りに参加しているわけでもあるまいし」
「はは、そうだな」
「まぁ、私とかは普通の一般人。もし何かあった時に生き残るにはこういう知識があって損はないの。それ以前にただ単に好きなんだけど。あ、上の本とって。紫色の奴」
「おう…これか?」
「うん、ありがと」
また籠に本を入れ、背伸びして届かない本を涼に取ってもらう。
「まぁカースもオカルトの類だとオカルト掲示板では言われてるのよ。宇宙生命体説、悪魔の下僕説、異世界の先兵説…まぁどれも違うと思うけど」
再びパラパラとめくりつつ、カースについて語りだす。
「カースにもわかりやすくて一般人にもできそうな対処方法があればいいのに…そもそも核を壊せと言うのがねぇ…ロマンがないわ」
「…お前はカースに何を求めているんだ」
「神秘、又はロマンティックを…あ、…取りあえず、これだけ買うね」
「…結構かさばるんじゃねーか?」
「三冊だから、平気。また後日…他のも買いに来ようと思う」
「…そうか」
「大丈夫、個人的に来るから…」
無事に会計を終える。別行動の二人を見ると他にはミラが一冊本を買ったようだ。
「楽譜はなかったんだけど…面白そうな小説があったから買っちゃった」
「アタシは特に買わなかったなーリョウもでしょ?」
「そうだなぁ…殆どマーサに付き合っていたし。まぁ本はあまり読まないし」
「だねー、アンタは本読む時間あるならその分ホラー映画見るわねー」
「…なんならこの学園祭がおわったら一緒に見ようか?アタシの家に来てさ」
意地悪そうな笑みを浮かべて涼が提案する。
「や、やーめーてーよー!アタシホラー苦手なんだってば!」
「わわわわわ…怖いのはちょっと…」
「映画はそんなに好きじゃないのよね…」
「だよなー」
そんな他愛もない会話をしつつ、古本屋を後にした。
その頃、正午となり上空で花火のような音が鳴り響いた。
その正体はカースドヒューマンが爆破された音だったのだが…殆どの者はそれを知らない。
そしてここに一人、その音…いや気配に戦慄する者がいた。
「…アイツが…来てるのー…!?」
ナニカはその爆撃から発せられた、例の洗脳されかけた『メガネの力』を敏感に感じ取ったのだ。
ナニカからすれば彼女は洗脳を笑顔で行うような人物であり、恐怖を抱く人物でもあった。
キヨミが教会に来たことにより、ある程度メガネへの恐怖は克服しつつあったが、本人とあの透明なヤツへの恐怖は消えていない。
自我がじわじわ消えていく…殺されるような感覚。アレを忘れろと言うのが無理と言う話だ。
「あ、あいつ何が目的で…まさか!」
脳内で訳の分からない混沌とした映像が流れ始める。
―メガネを無理やりかけさせられ、狂う人々…
―祭りはどんどん眼鏡を崇める邪神教的な祭りになっていく。
―『まぁまぁメガネどうぞ』
―メガネを模した祭壇の周りをメガネをかけた人々が踊り狂う。
―『いまこそ、メガネが世界を支配する時!』『メガネ!』
―そして地響きが鳴り響き…大地の底から真の究極メガネ生物が目覚めてしまう…!
―『目覚めよ、我らが“メガネ神”よ!』
―地は裂け、海は荒れ、空は暗くなる。
―逃げ惑う人々。ナニカも逃げ出す。
―「お姉ちゃんっ!!」
―加蓮の手を取り逃げようとするが、妙な違和感に襲われる。
―その顔を見ようと顔を上げると…
―『…まぁまぁ…仁加ちゃんも…メガネ…どうぞー?』
―「え?あ…あ…いやああああああああ!!」
…どうしてここまで想像してしまったのだろうか。
「やばいよぉ…怖いよぉ…」
メガネをかけた加蓮はいい。でも洗脳はヤバイ。
あんな恐ろしい能力の持ち主がこんな人ごみの中に紛れているのは怖い。
いつどこからメガネが飛んでくるか、分かったものではないからだ。
「警戒しないと…世界が勝手に終わっても困っちゃうの…」
「大丈夫大丈夫アタシなら勝てる多分きっとうん恐らくだって究極だしでもあっちメガネだしどうしよう…」
思考が混乱してきた。逃げるべきか、帰るべきか…
「でも帰ったらクラリスお姉ちゃん怒ってるかもだし…おなかすいたし…」
怯えて辺りを見渡しつつ、ナニカは人ごみから距離を取りつつ…まだ満たされない腹を満たすために歩き出した。
『…仁加、メガネ嫌いカ。なら弱点は消しておいた方がいいノかな?』
いつの間にか分離していた黒兎がぬいぐるみの姿で木の上からブツブツつぶやく。
『白はもう何かしているのに自分はなにモしてなイのはなー』
黒兎は動くぬいぐるみから、その姿を黒い獣に変える。ウサギのように長い耳を持った、小柄な肉食獣のような姿。
『いっちょ派手ニ?サーチアンドデストローイ?』
白兎が理性的とすると、黒兎は野性的。どちらも自らの狂った信念に忠実に生きている。
…そのどちらも、肉体に有害な人格として追い出された『膿』なのだが。
黒兎は細かい事は考えていない、自分の信じる者に敵対する者を排除するだけ。
『聞こえないと思うけどっ!見てもいないと思うけどっ!喜んでくれルよな!』
ニタリと笑いながら、裏山に黒い翼を生み出して飛んでいった。
『イジョウナーシ』
『アンゼンヨーシ』
『キョウモ、メガネノオカゲデヘイワデース』
裏山には、色欲のカースから生まれ変わったメガネのカースが数体残っていた。見回りのつもりなのだろうか。
『…本当に安全なノかな?』
『エ?』
一体のメガネのカースが木の上から襲い掛かってきた黒い獣に押し潰されかける。
『メガネメガネって…お前のせいで迷惑シている子がいるんダぞ!!』
『ソンナ、アリエナイ!』
『ウるさい!』
黒い獣からオーラの様なものが発せられ、前足で潰されていたカースの透明な体が透き通る黒色に変化していく。
『ナ、ナニヲスルダァー!!』
『メガネー!!』
他のメガネのカースが悲鳴を上げる。
『…』
前足から解放されると、そのカースは悲鳴を上げたカースに近寄っていく。
『メガネ!』
『ブジダッタカ、メガネ!』
『…メガネハ…テキダ』
『『エ?』』
そのカースから、黒い獣と同じオーラが発せられ、近寄った二体の体を少しずつ黒く染めていく。
『メ、メ…マァ…マァ…』
『メガ…メ…』
抵抗し、黒いカースにメガネを埋め込もうとするも時すでに遅し。
『…セーノッ♪』
『『『メガネハテキダー!!』』』
そこに生まれたのは3体の新たなカース。
透き通った黒い泥。中の核は真っ黒なレンズ型になっている。
『よし、オマエラ…メガネを排除しテしまえ!サーチアンドデストローイ!』
『『『ハーイ!』』』
そう、名付けるなら…『アンチメガネカース』とでも呼ぼうか。
3体はそれぞれバラバラに、学園へ向かっていく。与えられた使命を果たすために。
黒い獣は満足そうに笑うと泥のように溶け、こっそりナニカの元へ戻って行った。
狂信のカース
黒兎が使役するカース。
周囲に特定の意識や認識を植え付ける能力を持つ。植えつけられた者から別の者へ感染することもある。
植えつけられた者も、一応黒兎の支配下となるが、そこまで自由に動かせるわけではない。
植え付けるので洗脳とはちょっと違う。その人物の常識に割り込ませるのだ。
その特性上、別のカースの核を上書きすることでのみ産み出せる。
アンチメガネカース
黒兎がナニカを怯えさせる存在を排除するために勝手にメガネのカースを上書きする事作りあげた「狂信」のカースの一種。
特殊なカースを上書きしたのでかなり特殊になっている。
透き通る黒い泥とレンズのような黒い核で構成されている。
時折地を這うように黒いオーラを発し、周囲の人々の無意識に「メガネは悪いものである」という認識を植え付ける。
さらに、メガネのカースと同様に他のカースをアンチメガネカースに生まれ変わらせることもできる。
大人しいがメガネ着用者からメガネを奪おうとし、さらにマスクドメガネとその味方の能力者、メガネのカースには鋭い触手やレンズからの光線で攻撃する。
「まあまあコンタクトどうぞ」はしない。あくまでメガネの排除が目的。
イベント情報
・アンチメガネカースが3体、学園に向かいました。メガネ着用者はご注意ください。
以上です
ハリケーンガールズの学園祭の様子を。
そしてアンチメガネカースを出して見たかったんだヨ!
皆様どうも、学園祭も色々渦巻いてますが憤怒の街投下します。
───最初は、突如として巻き起こった竜巻だった。
学校の、校門に群がっていたカースの一団を容易く飲み込むとそのまま校庭の入り口まで侵入し薙ぎ払う。
そこまで行って、消えた竜巻の後を次は十数個の野球ボール程の物体が追いかけ、突然の事態に固まっているカースの群れに紛れ込む。
『アン?ナニガオキタンダ?』
『テンペンチイジャネ?』
『コノヨノオワリナンデス?』
『テカコレナンダ───』
「三───二───一………今よ」
騒ぎ出すカース達の足下、投げ込まれた物体───《72式焼却手榴弾》が一斉に爆発し、轟音と黒煙と共に辺りのカースを焼き尽くす。
「第一段階はクリア。ここからが本番よ」
「任せるにゃ!」
「いくよ、二人とも!」
「みくはとにかく前、愛梨は目標距離までみくのサポート、私は作戦通り後ろを守るから気にせず行きなさい!」
そこに間髪入れずに派手な奇襲により校門から学校までの距離、約三分の一をこじ開けた三人が突撃する。
前をみく、その後ろぴったりを愛梨、そこから少し離れた後方にのあ。
一直線にフォーメーションを組んだ三人が槍の如くカースという名の厚い壁を貫こうとしていた。
「邪魔!邪魔!邪魔だにゃ!」
『グゲェェェ!?』
『オデノウデガアアアア!?』
先頭を突き進むみくは、とにかく目の前のカースを切り裂く。
「どいて!!」
『ゲフッ』
『クソッタレメ…』
そのみくが仕留め損なった内、進路の障害となる相手だけを愛梨がたたみかける。
「……………………」
『バックアタッギャアア!?』
『バカナッ……』
その二人から離れ、後方を守るのはのあ。
強力な散弾銃『ファランクス・スマック』と『ピルム・アサルトライフル』を構え、ホイールローラーで小刻みに動きつつも二人の背後・退路を守り、さらには全体の動きも見渡す。
強烈な先制攻撃で浮き足立つカース達が立ち直る前に、目標距離である三分の二まで愛梨を届け、愛梨が校舎に突入後みくとのあができうる限りカースの撃破ともしもの退路を確保する。
これが、三人が決めた作戦であった。
「う……愛梨チャン!いまどんくらいにゃ!?」
「だいたい半分くらい!」
「ならこのまま「みく!何か居る!」にゃ!?」
約半分、黒い壁を切り裂き続けていたみくの横合いから轟音と共に迫る何か。
愛梨がとっさに引っ張らなければ直撃していたであろうそれは、バスケットボール程の小型カースであった。
「ごめん、助かったにゃ」
「ううん、それより急いで!」
「止まらないで!次がくるわ!」
二度目の警告と共に、二人がカースの隙間に潜り込む。
それに一瞬遅れて小型カースが、愛梨達が居た場所に着弾する。
「く、厄介ね……」
「どうするにゃ!?」
二度目の攻撃で、みくも何をされたのかはっきりとわかった。
───砲台、あるいは投石器。
そう表現するのがふさわしいであろう、四つ脚に巨大な腕を備えたカースが四体、学校の屋上に出現していた。
「……回避するタイミングは私が合わせるわ、ギリギリまで詰めるわよ!」
「りょーかいにゃ!愛梨チャンはとにかくついて来るにゃ!」
「………ダメ、他にも何かいるよ!」
前後を守られていた愛梨の視線の先、並み居るカース達の中に一際
大きな存在感を放つ、六本腕のカースが複数いた。
「嫌な感じがガンガンするにゃ!?」
「く……なら…」
「…………みく!一瞬でいいからアレ引きつけて!」
「愛梨チャン!?」
その時、今まで最小の動きしかしていなかった愛梨が動き出す。
「っ!まだ早いわ!」
「大丈夫、抜けてみせるよ!」
「本当にいけるにゃ?」
「うん!」
「仕方ないわね……二人とも合わせなさい!」
目標にはまだ届かない距離。
だが、それでも行くという愛梨の決意は変わらず、二人はそれぞれ動き出す。
「ギリギリまで突っ込むにゃ!」
「射線上には立たないで!」
みくが愛梨から離れ、一気に六本腕に肉迫する。
それと同時にのあがアンチマテリアルライフル──亡牙を取り出して構える。
「んの、ッにゃろう!」
『──グギ─ギギギギ───!』
「うっそ!?」
怒涛の勢いで六本腕に飛びかかるが、それを越える反応速度で振り下ろした爪刃を受け止められそのまま体ごとふりあげられてしまった。
が、次の瞬間には重く響く音と共に六本腕の右足の大半が飛び散っていた。
「なかなか堅い…!」
「今のは危なかったにゃ…」
「───二人とも、ありがとう!」
体勢を保てずに崩れていくカースから抜け出したみくの隣を、今度は愛梨が追い抜く。
「…愛梨!」
小型カース弾───風王ノ回廊を使い避ける。
「愛梨チャン!」
三体の動物型カース───風の槍で払い、弾き、踏み台にする。
「まだ、まだ!」
六本腕───振るわれる豪腕をギリギリまで引きつけ、直前に回廊を使いすり抜ける。
二度目の小型カース弾───回廊解除と同時に槍で叩き落とす。
三?四度目のカース弾───紙一重で避け、くぐり抜ける。
上空からの鳥型カース───急降下してきた所を真空の刃で両断する。
立ちふさがるユニコーン型カース───一瞬の交錯の間に首を落とす。
前後から迫る六本腕───攻撃範囲ギリギリまで引きつけて回廊、背後に回るのと同時に亡牙が後ろのカースに直撃する。
「後少しにゃ!」
「これなら───ッ!?」
轟音と共に、横合いから飛来する塊───カースを巻き込みなが迫るそれを、風の壁を作り出しなんとか軌道を逸らす。
「にゃ!?と」
「…いまのは」
「はぁ……!」
それが飛んできた先……壁に大穴が開いた体育館の中。
昼間だと言うのに、薄暗いその中に、確かに一瞬の人影がみえた。
「………見つけたよ!」
次の瞬間、直線上に開いた体育館への道を愛梨は神速のスピードで駆け抜けていた。
「…さあ、用意はいい?」
「もちろん全部やっつけるにゃ!」
そして、カース達のド真ん中に入り込んだ二人の戦いも、始まろうとしていた。
───続く?
イベント情報
・愛梨が学校の体育館に突入しました。
・みく、のあが校庭で戦闘中、激戦が予想されます。
時間がないので、それでは失礼しました
憤怒の街で投下しまー
「…何か騒がしいですね」
氷の結界の中の病院、患者たちから離れた二階の会議室。そこで菜々が何かの音を拾った。
「ナナちゃん、それって街の外?中?」
「…方向からして…中ですね、あの大きな蛇のような竜とは別に、何かが起こっているのかもしれません」
ウサミンの耳は人間よりもその気になればはるかに良い。氷の結界で遮られても、外の音は拾えていた。
巨大な蛇のような竜の出現に病院内は一時恐怖に包まれ、イヴやネネ、それに夕美や菜々は病院を守る為、そして混乱を抑える為に内部で待機していた。
今は患者も落ち着きを取り戻し、そこで一時的に能力者が集まり今後の行動の決定と現状把握に努めていたのだ。
「…あのおっきな竜とは別の所で、ですか~…裕美ちゃんも帰って来ませんし…」
「拓海さん達も帰ってきていませんし…無事でしょうか…」
「うーん、あの二人は木の所にいるからよっぽどのことがない限り大丈夫だと思うんだけど…雨が当たらない病院周辺だと祝福の木が作れないから…」
あの竜と別の所で大きな騒ぎが起きているなら、まだ帰ってきていないメンバーが巻き込まれている可能性が高い。
普段から患者…特に小さな子供達に不安を悟られないようにしてはいるが、それでもこの状況は不安だった。
「美世さん、カミカゼのスーツは直ったんですか?」
「大丈夫、しっかり修理は終わってるから、拓海が帰ってきたらすぐに使えるよ!」
菜々が美世に確認を取り、夕美に一つ提案をする。
「…夕美ちゃん、一度、様子を見に行ってみませんか?」
「うん、私はいいけど…ここは大丈夫?」
「そうですねぇ~氷に攻撃してくるカース、さっきから不自然なほどにずいぶん減っていますし~…ここは暫く大丈夫そうだと思いますよ?」
「私だって…皆を守れます…!」
「お、俺達もいますし!」
「いざという時は俺達だって…!」
「そそ、そうだ!俺達も居るんだ!」
イヴ、ネネの言葉に続く様に炎P氷P電気Pが声を張り上げる。
「そっか…じゃあ、行ってみる?」
「では、カミカゼは拓海さんが戻ってくれば出動できるようですし…まずは様子見…と言うことで。大丈夫そうならそれが一番ですが…」
そこに夕美が心配そうな顔で耳打ちをしてきた。
「…拓海ちゃんの居場所、木に聞こうとしたら聞こえなくなっちゃった。…嫌な予感がするの。木は無事なのはわかるけど、遠くの声が聞こえない…悪い気が充満しつつあるのかも…」
「なら尚更調べないと…もしかしたら、もしかしたら…あの竜よりすごいのが来る可能性も否定できませんから。」
菜々は病院にあった街の地図を取り出し、鉛筆でソナーのような線を書き込む。
「音の位置は…この辺りの筈です。ちょっと大雑把ですけど。」
「この範囲のどこか…って事ですか?」
「…もし、何かが潜伏しているんだったら、大きな建物…学校とか工場の可能性が高いね。」
「はい。ナナたちが帰ってくる前に拓海さん達が帰ってきたら、この辺りで何かが起こっていると教えてあげてください。」
美世にその地図を手渡すと、夕美の手を握った。夕美もしっかり握り返す。
「行くよ?覚悟はいい?」
「はい!イヴさん、ネネちゃん、お願いします!」
「は~い!」
「任せてください!」
イヴが氷の結界を一時的に消し、ネネがその間にカースが侵入しないように癒しの結界を張る。
「行ってきます!」
「絶対帰ってきますから!」
夕美が窓から菜々の手を握ったまま飛び立った。
腕への負担を考え、何回かビルの上に着地しつつ、目的の場所を探す。
そして2度目の屋上から見えたのは大量のカースが誰かと戦闘していると思われる光景。
「あ、あそこです!あの学校!戦闘が起きているようですね、すぐに接近しましょう!」
「わかった!」
再び手を握り、その学校へ接近する。しかし、二人を狙って黒い何かが高速で飛んできた。
「ウサミンシールド!…ぐぬぬっ!」
「気付かれたねっ…!」
急に飛んできたそれを防ぐべく盾を出現させるが、あまりにも急だったために完全に防ぐ程の固さにできなかったようだ。
一応逸らすことには成功したが…屋上を見れば攻撃してきたのと同系のカースが他に3体。合わせて4体もいた。
「一旦隠れましょう、このスピードでは空からの突入は無茶です…!」
「うん、突入方法考えないと…できればすぐに突入した方がいいよね…」
一応様子見で来たものの、既に戦闘が始まっている。それに空から見た限り、カースの数が多すぎる。
戻っても今戦っている誰かがやられてしまう可能性は高いだろう。だから二人は今すぐ突入することを選んでいた。
――
「のあチャン!」
「…くっ」
校庭で大量のカースを相手に立ち回る二人は、逃げ回りつつも攻撃をするという、愛梨の退路を確保しつつも生き残ることを優先した動きを続けていた。
しかし、次々と集まるカース相手に二人と言う人数は少なすぎ、さらに言えば屋上の投石器型カースが厄介だった。
発射すれば次の弾までにタイムラグがあるが、4つもあることでそれはあまり意味をなさず、不定形故に投石の範囲が広い。
常にいつ来るかわからない弾を警戒しつつ地上の大量の敵の相手をする事はこの二人でもかなり難しかった。
「あのカース、マジでありえないにゃ!今まであんなの見たことないにゃあ!」
「この瘴気が生み出したもの…なのでしょうね」
そう会話しながらも迫り続けるカースを倒していく。
そうしているうちに、地響きのような音がこちらへ向かってきている事に気付く。
「な、なんか来るにゃあ!?」
しかし、その音は通り過ぎ、止まった。
「…下がって」
《back pack:背部装備式二連装バズーカ〔激柱〕》
のあが背中に火器を出現させ、警戒する。
『ギャアアアア!』『ナンジャコリャアア!?』
土を割って出現したのは、カースを食い、核を噛み砕く肉食植物だった。
「ふにゃああああ!?一体なんにゃのあれぇ!?」
「…」
みくが悲鳴を上げ、のあが攻撃しようとするその背後から、テレビで何度か聞いたことのある声が聞こえた。
「警戒しないで、あの子も私も味方だよっ!」
「にゃにゃっ!アイドルヒーロー!よく来てくれたにゃ!」
「援軍感謝するわ。…アレは貴方が操作している…と言う判断で間違いないわね?」
「うん!浄化作用のある木はここでは作るの難しいけど…あの子はむしろこういう環境の方が得意なんだよね!」
そこに、4つのカース弾が降り注ぐ。
みくが躱し、のあが撃ち落とし、夕美が竹の束を出現させ何本か砕かれたが防ぐことに成功する。
その攻撃を行い、再び攻撃する為に投石器型カースが弾を準備しだしたのを遠目に確認して夕美が叫んだ。
「ナナちゃん、今だよぉぉぉぉっ!!」
――
「…聞こえましたよ、夕美ちゃん!」
中学からちょっと距離があるビルの屋上、飛行していない事でカースに丁度見つからない位置。そこに菜々はいた。
彼女のイメージ通りに作られた、固体化したエネルギーの中、合図の声を聞き取る。
「…行きますよ、思いっきり!」
菜々はイメージする。成功をイメージする。自らが華麗に成功することだけを。
「奥義…ウサミン人間大砲!!」
イメージ通り作られた大砲から…菜々は飛んだ。
屋上から思い切り打ち上げられた菜々は、菜々から離れたことで消えた大砲のエネルギーを回収し、身に纏う。
具体的なイメージは間に合わない。でも確実に身を衝撃から守る為に纏う。
『アレハナンダ!?』『ナンナンダー!?』『ブボァ!?』
そのまま屋上のカースの一体に砲弾となってヒットし、カースの体に勢いを殺されて屋上に着地した。
「はぁ…はぁ…成功してよかったぁ…」
『テメぇ…ヤリヤガッタァ!?』
核が砕けず、少しづつ再生しようとするカースの真下に、菜々は潜り込む。
「再生なんてさせません!ムーンウェーブ!ピリピリーンッ!」
『ウサアアアア!?』
いつもよりエネルギーを込め、思い切り放つ光線で、崩れた一体を確実に消す。
『テメェ!』『フザケンナゴラ!』『オコオコダヨ!』
残りの3体が、菜々を危険だと判断し、潰しにかかる。
投げるために使われていた腕を、菜々を潰す為に振り下ろす。
「…行きます、ウサミンソード!」
菜々は連続で大技は繰り出せない。どこかファンシーな剣を持ち、回避しながらもバランスを崩すために4つ足を切り裂くために駆ける。
元から歪な形のそれは、やはり接近戦は苦手らしい。狭い屋上で満足に動けないのもあるのだろう。
一番近い一体の足を一本切り裂き、続けてもう一本の足を切り裂く。
『ウオオオッ!?』
「ウサミンカッター!」
倒れたそれに至近距離で思い切り振った足から放たれたカッターで攻撃。運よく核に当たったようで、声を上げる間もなく消滅した。
「…あと二体…!」
振り下ろされる腕を躱し、再び剣を構える。
今のは運が良かっただけ。ウサミンアナライズで核の位置を掴めば楽なのだが、生憎それを使用して無防備なときの自分を守る者はいない。
こちらへ向かってくる鳥形カースは途中で撃ち落とされているようだ。なら、イメージもやりやすい。
「…とことんやってやりますよ!ナナにも意地がありますから!」
菜々はラビッツムーンとして戦う時、エネルギーを扱う為の戦闘スーツの上にイメージで作られたエネルギーの服を纏っている。
今、その魔法少女のようなエネルギーの服を解除し、その分のエネルギーを攻撃に使うことを決めた。
防御を捨て、攻撃に集中する。
『プンプンプンダ!!』
「ウサミンランス!」
後ろの方のカースが距離を取って弾を打ち出す。近距離で放たれたそれを、剣とは別に生み出した槍で弾く。
そのまま近いほうのカースに接近。槍を消すと深く腰を入れ、剣を振るう。
足を一本落としてもバランスはギリギリ保たれている。だから菜々はもう一本の足を落とす。
「さぁ、核はどこですかっ!」
『シルカ!オシエルカ!バーカ!』
バランスを崩してもなお腕は怒りを表すように振り回される。
「暴れないでくださいよぉ…骨が折れるなぁ…」
菜々の放つエネルギーは、遠くなると威力が下がっていく。だから竹槍の時のように物体を打ち出せば楽なのだが…
「…贅沢は言ってられませんよね。ウサミンツインスラッシュ!」
『ア”ア”?!ザッケンナゴラ!ハナレヤガレェ!』
両手に刃を生み出し、カースの懐に突っ込む。腕一本しかまともな攻撃手段を持たないカースはただもがいて菜々を引き離そうとする事しか出来ない。
「悪く思わないでくださいよっ!ってうわっ!」
『ホンゲエエエ!?』
取りあえず腕を切断しようとした瞬間、遠くでずっと構えていたもう1体のカースがこちらのカースに当たるのも承知で弾を打ち込んできた。
『オコオコプンプンダ!』
怒るそのカースは、先ほどの比にならない手際の良さでどんどん弾を打ち込んでいく。
菜々はとっさにカースを盾にしたが、もう長くはもたないだろう。
(どうしろと……アレ、行けますかね…エネルギー、距離、共に不安ですけど…)
撃ち続ける弾によって盾にしていたカースの核が砕ける。
割れる音と同時に菜々は全力で突っ込んでいった。次の弾が撃ち込まれるまでに距離を少しでも縮める為に。
『ゲキオコ!マジオコ!ヤッテヤルデス!』
カースは突っ込む菜々に向かって弾を放つ。菜々は半場ヤケクソに、スライディングの様な格好でその弾を回避した。
スーツに包まれていない手と顔についた傷を気にしている暇はない。
「もう距離は!縮めました!」
そうは言ってもまだ距離はある。…だから、全エネルギーを今放つ遠距離攻撃へ集中させ、再び大技を放つ。
「ハートウェーブ!ピリピリーン!」
ムーンウェーブが丸い光線なら、ハートウェーブはハート型光線。丸よりも具体的な形だから、イメージの力はより強固になる。
指をピストルのように構え、バキュンと、心臓を…核を打ち抜く様に。
『みいいいいいいいいいいいん!?』
屋上にいた投石器型カースはやっと全滅した。
ペタリと力尽き、菜々は無音の世界に包まれた。
(…あぁ、久々ですね、この無音も)
菜々のイメージ具現化に使われるのはウサミン星人の耳にある名も無きエネルギー。
菜々がウサミン星にいたころに研究されていたが、菜々が旅立ってから数年後に研究が中止になった現在は殆ど知っている者がいない過去の技術。
先程の無茶で耳のエネルギーを殆ど失い、長い耳は垂れ下がり、音が拾えなくなった。
少し時間が経過すれば聞こえるようになるだろうが…
(回復したらすぐに夕美ちゃん達に合流しないと…一時間も経過してませんから…)
きっと今の攻撃で自分が倒したことはすぐにわかるだろう。今すぐにでも合流したい。だが、今は体力も使い切った。
屋上に壁を背にして座り込み、夕美を見守る為、そしていつ湧くかわからない敵を警戒して瞳を開けながら、菜々は体力の回復を始めた。
以上です
前半は書いていたから後半は状況に合わせるように決めていたのです…
まさかの菜々さん大活躍だね!
イベント情報
・夕美がみく・のあに合流。肉食植物フル活用だよ!
・菜々が屋上の投石器型カースを討伐。しかし現在聴力をほとんど失い、体力もほとんどありません。
のあさん装備
《back pack:背部装備式二連装バズーカ〔激柱〕》
背中に背負うタイプのバズーカ。ある程度発射方向を変更でき、あらゆるサイズの敵に使いやすい。
腕が自由になるので何かと便利だったりする。
ゴメンね!出すだけ出してあんまり使わなかったよのあさん!ゴメンね!
>>741
愛梨ちゃんかっこよいよ!
とうとう、とときん対先輩ですかね
>>757
ラビッツムーンさん人間大砲ってwww
そりゃあ腰も痛めますよ、もう若くない・・・・・・じゃなくってアイドルなんだから身体は大事にしましょう
美穂ちゃんVS普通力投下します
ここの所忙しく、予約したのに大幅に遅れちゃってすみません
しかもこれが最後なら良かったんですが、まだ終わってません
前回は、「前編後編→前編中編後編に分け方変えます、許してください、すんません」とか言ってたのにね!
本当ごめんなさい
前回までのあらすじ
わたくし、小日向美穂は、
学校の先輩と一緒に行列の出来る隠れ家的お店なラーメン屋さんに行きました
美穂「メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ」
朋「お待ちどうさま」
美穂「わぁっ、すごい量ですね、渚さんっ!」
渚「そうだねェって、ちがう!!!」
参考 >>117- 美穂と普通力 その1 (美穂と渚)
>>504- 美穂と普通力 その2 (美穂と朋)
『メールが一通届いてます』
From:セイラさん
Title:美穂ちゃん大丈夫?
待たせちゃって、本当にごめんね(-人-)
アタシの代わりに、そっちに行ける人が
居たから連絡したよっ(゚ー゚)b
あと1時間もしない内にそっちに着くと
思うから待っててくれるかな
場所は万年桜の公園で
『メールを送信しました』
To:セイラさん
Title:Re:美穂ちゃん大丈夫?
ご心配掛けちゃってすみません!
今、なんとか解決の糸口が見えてきたところです
私のために人を呼んでいただいて
ありがとうございます!
万年桜の公園ですねっ!わかりました!
えっと、どんな人ですか?
――
と言う訳で、やって参りました。
季節はもう秋になろうとしているのに、
未だに春うららかな香りの漂う、桜の公園。
今日も今日とて、『万年桜』は凛々しく咲き誇っております。
美穂「ここで待っていれば、セイラさんの知り合いの人が来てくれるみたいです」
渚「チャンスは待っていればすぐに訪れるって。この事だったかもねっ」
渚「で、どんな人たちが来てくれるのォ?」
美穂「うーん、ちょっと変わってる人達って・・・・・。一目見れば、それだってすぐわかるって書いてました」
渚「変わってるかァ・・・・・・・て言うか人たち?」
美穂「はい。二人組だそうです」
渚「なるほど、じゃあきっと『美女と野獣』なんだろうね」
二人と言うなら、それは占い師の言うラッキーパーソンの事、きっと『美女と野獣』なのだろう。
美穂「そうだといいですね」
クスリと美穂は笑った。
もしそうなら、これから来てくれる人たちがチャンスを運んできてくれる。
良い流れができている。朋の占いも、きっと当っているのだろう。
そう思えば、不安なんてどこかに飛んで行ってしまった。
公園に漂う温かな空気も、美穂をリラックスさせるのに一役買ってくれている。
美穂(チャンスは必ず来る。だから後は決断する勇気を持たなきゃ)
そうして、しばらく待っていると一台の車が公園の前に止まった。
謎の運転手「付きましたよー、せんせー」
そんな言葉とともにドアが開き、
車の中から会話が聞こえる。
謎の先生「ご苦労様ぁ。フフッ、それにしても7スレ目にしてやっと出番が回ってきたのねっ!」
謎のウサコ「もう登場機会は無いのかもって、不安だったウサー」
謎の運転手「せんせー、一言目からさらっとメタ発現するの慎もうよ」
謎の先生「ちょっとした冗談よねぇ?」
謎のウサコ「可愛げのあるお茶目くらい許して欲しいウサ」
謎の運転手「あのさ、せんせー。この後も結構予定詰まってたと思うんだ」
謎の先生「あら、運転手さんはいじわるですねぇ」
謎のウサコ「つれないウサー」
謎の運転手「はいっ!車降りてくださぁい!」
運転手が少し怒ったように声を上げると
しぶしぶと女性は車を降りて、「万年桜」の公園に降り立った。
美穂「えっ!あ、あの人はっ!」
亜里沙「うふふっ、お待たせっかな!小日向美穂さんっ♪」
ウサコ「はじめましてウサー!!」
美穂「あ、亜里沙先生!?」
渚「・・・・・・知り合い?」
美穂「え、えっと!し、知り合いじゃないんですけど」
美穂「そ、その!て、テレビでもたまにですけどよく見る人でっ!」
美穂「あ、アイドルヒーロー同盟の人なんですっ!!」
渚(ああ、そう言えばなんか見たことあるような気がするなァ、あのウサギパペット)
インパクトの強い、ウサギパペットを右手に嵌めた女性は、
美穂の言うとおり、アイドルヒーロー同盟に所属する人間である。
《ウサコと亜里沙のヒーロー指南教室!》と言うテレビ番組のコーナーをご存知だろうか?
アイドルヒーロー同盟がスポンサーをするテレビ番組をよく視聴している良い子諸君ならば、きっと何度か見かけていることだろう。
《指南教室!》は、『亜里沙先生』と、その相方パペットである『ウサコ』が、
ひたすらヒーローの活動について熱く語ると言う、ヒーローを目指す若者達向けの企画である。
ちなみに、この企画を進行する『亜里沙先生』こと「持田亜里沙」は、アイドルでも、ヒーローでもない、同盟の人間であり、
《指南教室!》以外で見かけることはほとんど無いのだが、しかし、そんな彼女にもこっそりとファンが居たりするらしい。
訓練されたファンは彼女の事を「てんてー」と呼び慕うようだ。
亜里沙「うふふっ、それにしても”ひなたん星人さん”にも知ってもらえてるなんて」
亜里沙「先生も有名になっちゃったのかなぁ?照れちゃうわね!」
ウサコ「もぉ、有名ウサギなんて困っちゃうウサー!」
美穂「あ、うぅ・・・・・・」
照れるのは美穂の方であった。
まさか亜里沙先生にも「ひなたん星人」の事を知られているとは。
美穂「あ、あのっ・・・・・・指南教室よくみてますっ!」
美穂「亜里沙先生の話っ!わかりやすくって、すっごく参考になりますっ!!」
亜里沙「うふふ、現役のヒーローさんにそう言ってもらえて嬉しいわぁっ!」
ウサコ「せっかくだからサインとかいるウサ?最近ウサコはずっとサインの練習ばかりしてるウサー」
謎の運転手「ウサコがサインの練習しないと、せんせーはサイン書けないもんね」
さて、そう言いながら、亜里沙先生の後ろから、
彼女の乗ってきた車の運転手を勤めていたらしい一人の・・・・・
一人の(?)・・・・・・何者かが現われた。
美穂「ふぁっっ!!??」
渚「うぇっ!!??」
今度は美穂だけでなく、渚も驚いた
なぜならその人物は、
白熊「どうも、こんにちはー」
どこからどう見てもクマだったからだ。
真っ白な、クマだったからだ。
美穂「く、くクマっ!?!!」
渚「な、なんでクマっ!?!てか喋っ!?!」
白熊「おっと、驚かせちゃったかな」
亜里沙「そうねぇ、初登場からせんせーの登場シーンを喰うなんてどうかと思うの」
ウサコ「ちょっとそのキャラは卑怯だと思うウサー」
白熊「熊が歩いて喋るなんて今時珍しくもないと思うんだけどね」
白熊「て言うかキャラ云々に関しては、人の事言えないでしょ。せんせー達は」
現われた熊と親しく話し合う亜里沙先生。
その様子を見て、美穂も渚も開いた口が塞がっていない。
白熊「さてと、小日向美穂ちゃんとそのお友達かな?驚いてるところ悪いけどさ。自己紹介させて貰うね」
そして、二人は、
いや、一人とニ匹は名乗る。
亜里沙「アイドルヒーロー同盟のヒーロー応援委員会から来た持田亜里沙よーっ!そしてこっちはウサコ」
ウサコ「ウサコはラブリーでキュートなウサコウサ!」
シロクマP「わたしはシロクマP。アイドルヒーロー同盟に加盟している某プロダクションのプロデューサーだよ」
果たして、このような形で、美穂達の前に美女と野獣達が現われたのだった。
肩書きを名乗られて状況を理解する。
なるほど。今回、美穂が助けを借りようとした水木聖來は元アイドルヒーロー。
つまり、彼女が呼んでくれる知り合いと言うのは、アイドルヒーロー同盟の人間だろう。
・・・・・・とまでは、まあ予測できていたのだが。
渚(変わってる・・・・・・とは聞いてたけど思ってたより、すごい人達が来たなァ)
渚(いや、人じゃなくってクマか・・・・・・)
しかし流石に、クマが来るとまでは思わなかったようだ。
渚(て言うか熊がプロデューサーってなんなのサ)
・・・・・・本当になんだ。
まあ、とにもかくにも彼女達が今回、美穂のために駆けつけてくれた助っ人なのだろう。
シロクマP「わたし達について気になることがあるみたいだね」
シロクマP「だから、簡単に順を追って説明させてもらおうかな」
こちらが戸惑っているのを察してか、熊は言った。
シロクマP「まあ、とりあえず最初に言っておくと、わたしは獣人なんだよ」
渚「獣人・・・・・・あ、あぁ!なるほどねっ!獣人かァ」
獣人と言うならば、最近は街中でも普通に見かける。
後輩達から、喫茶店で働く猫の獣人の話や、
メンバーに獣人を含むガールズバンドの話なども聞いたこともあった。
渚「けど思いっきり見た目クマだったから、ちょっと驚いちゃったよ」
シロクマP「いやぁ、なんかごめんね」
ウサコ「ちなみにウサコは獣人じゃなくってウサコウサっ!」
シロクマP「話をややこしくしないでくれませんか」
渚(・・・・・・こっちの方が気になると言えば気になるんだけどね)
渚(パペット・・・・・・だよねェ?付けてる亜里沙さんの口動いてないけどさ・・・・・・)
ウサギのパペットのウサコが喋っている(?)間、持田亜里沙の口は全く動いておらずニコニコしているばかり。
腹話術・・・・・・だと思うが、もしかして本当に生きていたりするのだろうか。まさか。
シロクマP「さて、次はわたし達がやってきた理由の説明だけど。」
シロクマP「その子が気づいてからにしよっか。」
渚「?」
美穂「ぷしゅぅ・・・・・」
渚「うわっ!美穂ちゃん!?しっかり!!」
どうやら、いきなり目の前に現われたアイドルヒーロー同盟の人とクマに驚いて、思考がショートしてしまったらしかった。
――
美穂「すみません・・・・・・お騒がせしちゃって」
亜里沙「いいのよぉ、いきなりシロクマちゃんが出てきたら誰だってびっくりしちゃうものね!」
ウサコ「美穂ちゃんは悪くないウサー、ぜんぶシロクマちゃんのせいウサ♪」
シロクマP「えっ、酷くない?」
美穂「で、でもびっくりしましたよぉ、本当に」
美穂「寿命が10年は縮んだかと思っちゃいました」
シロクマP「あはは、それは本当に悪いことしちゃったね」
シロクマP「お詫びと言う訳ではないけどさ、今回の件で協力は惜しまないつもりだよ」
美穂(・・・・・・驚いちゃったけど、怖いクマさんじゃないみたい)
話してみれば気のいいクマであった。
美穂「えっと・・・・・亜里沙さんとシロクマPさんが」
渚「聖來さんが呼んでくれた、助っ人の人たち。でいいんだよね?」
シロクマP「うん、そうだよ。その通り」
改めて美穂達が彼らの素性を確認し、シロクマPは答える。
シロクマP「わたしはセイラちゃんの元プロデューサーなんだ。」
渚「あァ、なるほどね。そう言う縁があったわけかァ」
アイドルヒーロー時代の水木聖來のプロデューサーを勤めていたのは、熊であったらしい。
美穂(クマさんがプロデューサーさん?なんか凄いなぁ)
アイドルの隣に並ぶクマを想像してみる。
美穂(あ、ちょっといいかもしれない)
美穂の妙な想像はさておいて、
シロクマPが話を続ける。
シロクマP「セイラちゃんからさ。珍しく相談されちゃってね。」
シロクマP「可愛い後輩のヒーローを助けてあげて欲しいってさ。」
シロクマP「そう言うわけで、わたし達はやってきたんだ。」
美穂「あっ!わ、私の事で、わざわざ来てもらってすみませんっ!」
美穂「考えたらアイドルヒーロー同盟の人まで呼んじゃうなんて・・・・・・」
自身の手だけではどうにもならなかった事だとは言え、
頼りに頼って、たくさんの人を巻き込んでしまった。
美穂「うぅ・・・・・・すごく大事にしちゃってますよね」
その事に気づき、自責の念にかられる美穂。
亜里沙「美穂ちゃん、いいのよ?そんなの気にしなくて」
ウサコ「本当に大事だから仕方ないウサー」
そんな美穂の様子に彼女達(?)は優しく声を掛けた。
亜里沙「それに美穂ちゃんに頼ってもらうのが、私のお仕事だものっ♪」
渚「お仕事?」
シロクマP「うん、そうだよ。わたし達は半分お仕事で来てるようなものでね」
シロクマP「わたしは言うまでもなく、噂の”ひなたん星人”ちゃんがどんな子か見に来たかったから」
シロクマP「同盟のプロデューサーとしては、在野のヒーローのことは気になっちゃうからね」
美穂「う、噂になってるんだ・・・・・・うぅ・・・・・・恥ずかしい・・・・・・」
シロクマP「・・・・・・」
ところで、アイドルヒーロー同盟に加盟するプロから、
プロデューサーが在野のヒーローに直接会いに出向くと言うのには、
大きな意味があるのだが、巻き込まれてる事態に対する色んな感情もあってか、
この時点での美穂は、その重要さには気づいてはいないようである。
亜里沙(ねぇ、シロクマちゃん。スカウトはしなくていいの?)
シロクマP(あの、いきなり頭の中に話しかけないでくれません?)
亜里沙(うふふっ、ごめんねっ。でも気になちゃったから)
シロクマP(・・・・・・したいと言えばしたいですけど、今はタイミングじゃないでしょ?)
頭の中での会話、つまり思念による通信、
これこそ持田亜里沙の力の一端である。
鬼の少女、肇も似たような妖術を使えるが、
亜里沙の使うテレパシーは、妖力とは別の系統の力を根幹とする。
シロクマP(悩み事がある女の子にそんな話を振るつもりはありませんよ)
シロクマP(今回は顔合わせだけできれば、わたしはそれでいいですから)
亜里沙(うふふっ、それを聞いて安心したわぁ♪)
美穂「?」
渚「?」
シロクマP(ほら、わたし達が黙っちゃったから、2人が不思議そうにこっち見てるでしょ)
亜里沙(あら、本当ね。もうお話を続けてもらっても大丈夫ですよぉ)
彼女との脳内会話を打ち切ると、再びシロクマPは自分達がやってきた経緯の話を続ける。
シロクマP「セイラちゃんに連絡を貰った時に、美穂ちゃんの身に起きている事はおおまかに聞いたけどさ」
シロクマP「わたしは、それはまず能力絡みの何かだろうなあ。と思ったんだよね」
シロクマP「こう言う一件には、専門家を呼んだほうがいいかなって事で」
ウサコ「ウサコとせんせーに話が回ってきたってことウサー!」
渚「専門家・・・・・・?」
亜里沙「ええ、同盟の本部からヒーロー応援委員に選ばれた私のお仕事は、」
亜里沙「ヒーローの活動のサポートなのよぉっ♪」
ウサコ「ありさお姉さんは先生ウサー、ヒーロー達の事もよく知ってるウサー!」
シロクマP「そう言うわけで、せんせーは能力について色々詳しいし、誰かの悩みを聞くのも得意だからね」
シロクマP「今回の事件についても、せんせーなら何かわかるんじゃないかなって事で来てもらったの」
シロクマP「ここまでが、わたし達が助っ人としてやってきたあらましだね」
なるほど、確かに今回の美穂を巻き込む事態にぴったりの助っ人なのだろう。
アイドルヒーロー同盟の人間であり、テレビ番組で《指南教室!》をやっている亜里沙は、
多くのヒーローに関する知識を持ち、その能力についても広く詳しい。
今現在、美穂達を悩ませる”力”の正体が未だに掴めていない状況において、
彼女の見識は非常に頼りになることだろう。
ウサコ「ウサコ達に任せてくれれば、間違いないウサーっ!」
亜里沙「ええっ!困ったことの解決は、先生に任せてもらえるかしら?美穂ちゃんっ!」
美穂「・・・・・・はいっ!亜里沙先生!よろしくおねがいしますっ!」
優しい助っ人の申し出に、美穂はぺこりとお辞儀をして答えるのだった。
亜里沙「うんっ♪それじゃあ早速、美穂ちゃんのお話を聞かせてもらおうかなぁっ!」
ウサコ「だけどその前にウサ」
美穂「?」
亜里沙「ちょっと場所を変えましょうかぁ♪」
――
――
ウェイトレス「い、いらっしゃいませ??ご、ご注文は?」
シロクマP「ドリンクバー4つ、以上で」
ウェイトレス「か、畏まりました。ご、ご注文繰り返しますねっ」
ウェイトレス(クマ???なんでクマ?????)
渚(すごく戸惑ってるのが見ててわかるなァ)
美穂(今のシロクマさんの器用に4本だけ指を立てた手、可愛かったな)
さて、大人達に車に乗せられて、
美穂達が連れて来られたのは、街中のごく普通のファミレスであった。
お昼過ぎであったためか、店内に入ってる客はまばら。
その客達の半数ほどは、チラチラとこちらの様子を伺っていた。
渚(そりゃァ、視線も集めるよね・・・・・・)
地方新聞に載ったヒーローである美穂、
テレビでたまに見かける亜里沙お姉さん、
二人とも知る人ぞ知る有名人である。
まあ実のところ、一番視線を集めているのは熊であったりするが。
そんな3人に囲まれてテーブルに座る渚はなんだか落ち着かないのであった。
シロクマP「わたしはドリンクを入れてくるよ」
シロクマP「せんせーはアイスコーヒーでいいよね」
亜里沙「ええ、お願いしますねぇ」
シロクマP「渚ちゃんと美穂ちゃんは?」
美穂「え、えっと、それじゃあオレンジジュースで」
渚「じゃあ、私もそれで・・・・・・って、人数分のコップ持てる?」
シロクマP「ん、平気だよ?プロデューサーだからね」
渚「え、それ関係あるのォ?私もついて行こっか?」
シロクマP「あはは、本当に大丈夫だから構わないよ」
シロクマP「2人ともオレンジジュースだったね、それじゃ行って来るね」
ウサコ「ウサコにはジンジャーエールよろしくウサー」
シロクマPが席を立ち、ドリンクバーへとジュースを取りに向かった。
「わぁ!くまだー!」
「くまくまーっ!」
シロクマPが通ると、近くのテーブルに座っていた子供が嬉しそうに足元に近づいていく。
それに気づくとシロクマは笑って対応するのだった。
渚(子供達に絡まれてるね、本当に大丈夫かなァ)
亜里沙「大丈夫よ♪シロクマちゃんも子供達の事好きだから」
渚「まあ確かに良い人(?)っぽいし、騒ぎにはならないんだろうけどサ」
渚「って、うん?今の声に出てた?」
美穂(シロクマさん・・・・・・なんかいいなぁ)
亜里沙「うふふっ、美穂ちゃんもシロクマちゃんのこと気に入ったのね」
美穂「え、ええっとその、なんだかふかふかしてそうで、いいなぁって・・・・・・・」
美穂「あれ?さっき私、口に出してました?」
亜里沙「ふふっ」
亜里沙はただニコニコと笑っていた
――
シロクマP「いやぁ、お待たせ」
子供達の相手をしていたため、ほんの少し時間を掛けて、シロクマPは戻ってきた。
その手には本当に器用に、3つのドリンクを持っている。
シロクマP「はい、美穂ちゃん、渚ちゃん。」
美穂「ありがとうございます」
手元にジュースを渡される。
シロクマP「せんせー、どうぞ」
亜里沙「ありがとっ♪」
ウサコ「ウサコのジンジャーエールはウサ?」
シロクマP「・・・・・・」
シロクマP「さて、じゃあ早速解決のための話をしよっか」
ウサコ「ウサッ!?」
シロクマP「・・・・・・って言いたいところなんだけどさ」
子供「くまー、遊んでよくまー」
シロクマP「懐かれちゃったみたいだね」
亜里沙「あらら」
シロクマP「わたしはちょっと遊んでくるよ」
亜里沙「ふふ、子供達のためにもそうしてあげてくれるかしら」
亜里沙「こっちは私に任せてくれればいいですから」
シロクマP「お願いします、せんせー」
そう言って、シロクマPは席を離れていったのだった。
ウサコ「く、悔しいウサっ!ウサコの方がプリティーでキュートウサっ!」
さて、シロクマPが席を離れ、テーブルには3人と、
・・・・・・カウントしていいのかわからないが1匹(?)が向かい合う。
席は窓際。片側には美穂と渚が、そしてもう片側には亜里沙とウサコと言った席順だ。
亜里沙「さて、じゃあ私達は・・・・・・」
一旦言葉を区切る亜里沙。
美穂「?」
渚「?」
亜里沙(解決のためのお話をしましょうかぁっ!)
美穂「!!」
渚「!?」
突然、頭の中に響いた、亜里沙の言葉に驚く二人。
美穂「い、いまのって?」
渚「頭の中に直接ッ!?」
亜里沙(はぁい、亜里沙先生の声ですよぉっ♪)
渚(も、もしかして、の、能力者ッ?)
亜里沙(渚ちゃん、正解っ!)
渚(!!)
今の言葉は、確実に口には出していなかったはずだ。
こちらの思っている言葉が亜里沙に伝わり、
亜里沙の言葉が頭の中に響く。
頭の中で会話が出来てしまっている。
そして、それだけではなく、
美穂(あ、あの、もしかして渚さんの・・・・・・頭の中の声ですか?私にも聞こえて・・・・・)
渚(美穂ちゃんッ!?)
美穂(や、やっぱり渚さんにも伝わってるんですよねっ!?)
伝わるのは、1対1では無いらしい。
どうやらテーブルを囲う、3人の間で頭の中の言葉が伝わっているようだ。
亜里沙(うふふ♪これがありさお姉さんの能力ですよぉっ!)
亜里沙(特定範囲内の特定の人たちと交信ができる力なのっ!)
亜里沙(ここに居る私達で共有できるテレパシーみたいなものと思ってくれればいいですからねぇっ!)
ウサコ(私達にはもちろんウサコも含まってるウサー♪)
渚(・・・・・・)
美穂(・・・・・・)
ウサコ(ウサ?)
渚(あの、声が一緒でさァ・・・・)
美穂(・・・・・・亜里沙先生の言葉とどっちなのかわからないです)
ウサコ(ご、語尾とジェスチャーで判断して欲しいウサ・・・・・・)
渚(えっと、亜里沙さんの能力はわかったけどォ、どうしてわざわざ?)
亜里沙(私の能力について、説明するのはこうするのが早いと思ったからかな)
亜里沙(それと、これからするお話は、きっと美穂ちゃんの私生活にも深く関わるお話だから)
ウサコ(周りのお客さんに聞かれると思うと、話しにくくなっちゃうかもしれないウサー)
美穂(確かに、そうなのかも・・・・・・?)
亜里沙(秘密のお話をするなら、この方法は便利なのっ♪)
渚(でも、それならさァ。最初からファミレスに来なかったら良かったんじゃない?)
渚はもっともな疑問を投げかける。
秘密の話なら、あの公園でする方がしやすかっただろう。
しかし亜里沙の発案で、場所を変え、人の多い街中のファミレスにまでやって来たのだ。
”意味もなく”と言う事はないはずである。
亜里沙(うん、だけど事態の解決のためにはここに来る必要があったから)
美穂(えっ!解決・・・・・ですかっ?!)
渚(解決って・・・・・・この事態のっ?)
亜里沙(ええ、もちろん。美穂ちゃんを巻き込む”『普通』ではない事態”を解決するためにね!)
事態の解決。
早くも亜里沙は、それをすると宣言した。
このファミレスに来るまでの車内で、
美穂達はあらかたの経緯を、持田亜里沙に話していた。
美穂の周囲の環境が夏休みの間に変わってしまっていたこと。
斥力のような力が存在し、それが美穂と友人達を会えなくしていること。
それから、占い師の元を尋ね、そこで聞いたヒントや、
それに基づく渚と美穂の推測まで、全てを説明したが、
それらの情報から、持田亜里沙はこの事態を解決するための方法をもう見つけてしまったらしい。
亜里沙(正確に言うと、ファミレスに用があったわけじゃないのよ)
ウサコ(ここじゃなくって、この近くに用があったウサっ♪)
頭の中で話しながら、手元のコーヒーにシロップとミルクを器用に左手だけで入れる亜里沙。
それを確認するとウサコがマドラーを持って、コーヒーをかき混ぜる。
渚(・・・・・・話の途中で悪いんだけどさ、それ外さないの?)
我慢できずに渚がツッコミをいれる。
亜里沙(うふふ、何のことかしら♪)
ウサコ(混ぜ終わったウサー)
亜里沙(ありがと、ウサコちゃん♪)
しかし、気にせずに亜里沙は左手だけで器用にストローの袋を取り外して、アイスコーヒーを飲みはじめるのだった。
美穂(あの、亜里沙さん。事態を解決するために・・・・・・この近くに用があるんですよね?)
亜里沙(ええ、そうですよぉ)
美穂(でも今、ファミレスに入ってこうしてる。と言う事は)
亜里沙(うん、美穂ちゃんが察してくれた通り)
亜里沙(今、待っているそれは、すぐにこの近くに訪れるものじゃありません♪)
渚(その言い方だと・・・・・・人ってこと?)
ウサコ(正解ウサーっ!このファミレスに入ったのはこの近くを通る、ある人を待つためウサー)
チラリと窓の外を伺う亜里沙。
美穂と渚もつられて窓の外を見る。
ファミレスの外は、ただ人が往来する大通り。変わったものは無く、ごく普通の街並みが広がっている。
渚(学生が多い気がするなァ)
行き交う人々を眺めて、なんとなくそう思った。
この付近の学校は、何処も昼以降の予定はなかったのだろう。
となれば、久々に会う友人達と共に過ごすため、この辺りまで繰り出してくる者達もきっと多いはずだ。
美穂は、占い師・藤居朋の言葉を思い出す。
問題の解決を焦ることはない。チャンスは必ず回ってくる。
美穂(ここで待っていれば、チャンスがやってくるって事だよね)
そして、それは決断の時でもある。
それまで美穂は強く、前向きな意志を持ち続けなければならない。
そうしなければ、「仲直りが出来る」と言う占いの結果は外れてしまうかもしれないのだから。
亜里沙(待ってる人が来るまで、もう少し時間がありそうだし・・・・・・)
亜里沙(その間にお話ししちゃいましょうかぁっ)
美穂(?)
美穂(何を話しちゃうんですか?)
亜里沙(美穂ちゃんを悩ませている斥力の様な”力”について♪)
美穂(!)
渚(!)
こうして、ようやく
彼女達に今回の事態の中心となった、ある力の正体が明かされる。
――
亜里沙(この世界にはね、『普通力』って言う能力があるの)
美穂(えっ・・・・ふ、ふつう・・・・力?)
その名を知るのは、あっさりだった。
亜里沙(ええ、そう。『普通力』)
亜里沙(その名前の通り、身の回りで起きることが、『普通』の事しか起きないって言う力のことねぇ)
渚(『普通』のことしか起きない?それって?)
亜里沙(『普通力』を持つ彼女の周りでは、”普通の出来事”しか起こらない)
彼女は、ある日天使に目を付けられて、聖なる力をその身に宿したりはしない。
彼女は、ある日悪魔に惑わされて、邪なる力をその身に宿したりはしない。
彼女は、生まれながらに魔法を使う才能があったりしない、良き師に出会って魔法使いとしての道を歩む事もない。
彼女は、星を侵し、略奪する者達に抗うための力を、自然の精霊から貰ったりはしない。
彼女は、事故に巻き込まれることはないし、そうして宇宙人に攫われて、改造人間にされたりはしない。
彼女は、祈りの歌声で呪いを浄化する力はない、遥か宇宙の来訪者から母星を救ってくれと請われたりはしない。
彼女は、魔界からやってきた悪魔のお姫様や死神の少女と友達になったりはしない。
彼女は、人を殺せる能力や、誰かの運命を知ってしまう能力や、物体を自在に操る能力に目覚め、悩んだりはしない。
彼女は、『嫉妬』や『暴食』、『怠惰』や『傲慢』や『憤怒』に囚われて、呪われた存在になったりはしない。
彼女は、妖を討つ責務を負わされたりはしない。妖と出会い淡い恋心を抱いたりもしない。
彼女は、悪魔にとり憑かれ、己の欲望を叶えるため、世界を呪いで満たす野望を抱いたりはしない。
彼女は、金属生命体を埋め込まれる実験体にされて、実験体の仲間と共に脱走劇を演じたりはしない。
彼女は、天使の生まれ変わりであったりはしない。気に入った誰かに特別な力をほいほい与えるなんて事もできない。
彼女は、特殊能力部隊の隊員であったりはしない。漂流して、ひょんな事から猫耳メイド姿で働いたりはしない。
彼女は、太古の昔の支配者たる神々に魅入られたりはしない。謎に包まれた仮面を被り、深遠なる王子と共に踊ることは無い。
彼女は、メガネに尋常じゃないまでの愛を注いだりはしない。メガネを広めるために、メガネと共にメガネすることもない。
彼女は、何処かの名家のお嬢様ではない。生命の力を操り人形を操ったり、ましてや錬金術を嗜んでいたりはしない。
彼女は、死に際に見習いの神様に見初められ、日常を置き去りにする超常を得たりはしない。死ぬ時は普通に死ぬのだろう。
彼女は、宇宙から飛来した意志を持つ謎の水晶の企みにつき合わされ、冒険することはない。
そんな『特別』なコトは、彼女の”物語”にはあり得ない
なぜなら、彼女は『普通』だからだ。
生まれながらに『普通』で、『普通』であることに愛された、『普通』でしかない女の子だからだ。
故に彼女は、神の奇跡とも悪魔の誘惑とも出会うことはなく、
祝福とも呪詛とも無縁な、『普通』の日常を送り続ける。
ウサコ(つまり、生涯モブ役を貫き通せる能力ウサー)
渚(身も蓋もないっ!?)
亜里沙(正確に言えば、『普通』の事しか起こらないんじゃなくって)
亜里沙(その子の周囲に起こってしまいそうな、『特別』を予め取り除いちゃう力ねっ)
ウサコ(それも、その子自身は”無自覚”にウサ)
渚(・・・・・・つまり、その『普通力』って力を美穂ちゃんの友達が持っているから、)
渚(『特別』な力を持つ美穂ちゃんが、その子に近づけなくなってるって事?)
亜里沙(そう言うことになりますねぇ)
ストローからアイスコーヒーを啜りながら答える亜里沙。
余談だが、彼女の能力は、コーヒーを飲んでる最中でも会話が出来てしまう。
美穂(で、でも、おかしいですよね。それっ)
美穂(だって、その子の周りで普通の事しか起こらないなら・・・・・・)
美穂(私が、ヒーローになる事もないはずじゃあ?)
『普通力』を持つ少女の周りで、本当に『普通』のことしか起こらないなら、
そもそも、その友人である小日向美穂が『特別』に選ばれたりする事は無かったはずだ。
亜里沙(そうねぇ、美穂ちゃんを選んだその刀の特性によるところが大きいんじゃないかしら)
美穂(ヒヨちゃんの・・・・・・?)
美穂(私のナリ?)
美穂(・・・・・・・)
なんか今、脳内会話にノイズが入った気がする。
渚「美穂ちゃん・・・・・?」
どうやら気のせいではなかったようだ。
渚が怪訝そうな顔で美穂の顔を覗いていた。
彼女も驚いたためか、思わず口から声が出ている。
美穂「な、何でもありませ・・・・・・」
美穂(あれ?私も喋れたひなた?)
美穂(あ、でも思考してるだけだから、別に喋ってるわけじゃないナリ?)
美穂(う、ううううわあぁあああああああああ!)
顔を手で押さえ、テーブルに頭を伏せて、何とか声に出して叫んでしまうのは堪えた。
美穂(な、なななななななんで!?なんでっ!?)
どうして、別人格である彼女が、
”ひなたん星人”が会話に割り込んできているのか。
亜里沙(あっ、そうよねぇ。”ひなたん星人”ちゃんは、美穂ちゃんの中に居る人格だから)
ウサコ(ありさ先生の能力が美穂ちゃんに適用された場合は、一緒にお話できちゃうウサ)
美穂(そ、そんなことがっ!?)
どうやら、美穂の頭の中の人格であるところの”ひなたん星人”も、
亜里沙のテレパシー能力の範囲内に存在しているが故のことらしい。
美穂(あーはっはっは!!)
美穂(よくわからないけれど、いい機会だから”私”に言わせてもらうひなたっ!)
美穂(わ、”私”って・・・・・・私のこと?)
美穂(そうナリ!よく聞くひなたっ!)
美穂(は、はいっ!?)
美穂(いつも、”私”は私の話になると恥ずかしがって叫ぶけど、私に対して酷いナリ!)
美穂(えっ、そのっ、ご、ごめんなさいっ!)
美穂(あなたは私、私はあなたナリっ!そこのところわかってるひなたっ?)
美穂(う、うぅぅ・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・)
二度も謝ってしまったが、なぜもう一人の自分に怒られているのだろうか。
それに私、私、私となんだかややこしい。
渚(えっと・・・・・・状況がちょっと掴めないんだけど)
美穂(あ、渚さんは一応はじめましてひなた?)
美穂(私は愛と正義のはにかみ侵略者!ひなたんせ)
美穂(そ、それはもういいっ!!もういいからっ!!)
美穂(き、決めフレーズくらい言わせてくれてもいいひなた・・・・・・)
しかも、どうして一人羞恥プレイをするハメになっているのだろうか。
かくかくしかじか
渚(妖刀に作られた人格ねェ)
美穂(だいたいそんな感じナリ、よろしくひなたっ☆)
はじける笑顔を思わせる声が響く。と同時に美穂の頭の上で踊るアホ毛。
美穂(は、恥ずかしい・・・・・・)
そんなアホ毛の様子とは反して、顔を伏せる少女。
料理を頼む訳でもないのにメニューを開いて、顔を隠している。
渚(・・・・・・なんか可愛いなァ)
美穂(ふぇっ?!)
渚(おっと、伝わるんだったね)
渚(まァ、今のが正直な感想だから。安心してよ、美穂ちゃん)
渚(変に思ったりしないしさァ、2人とも?でいいのかな。可愛いよっ)
美穂(か、かかかか可愛いってっ!)
美穂(えへへ♪嬉しいナリっ☆)
照れるような声と、嬉しそうな声がほぼ同時に響いた。
亜里沙(ひなたん星人ちゃんとも打ち解けたところで、お話を続けましょうかぁ)
美穂(あ、はい!す、すみません!)
今は解決するべき問題がある、
幸い脳内会話であるため、渚と亜里沙以外の、店内の客にはひなたん星人の声は聞こえていないはずだ。
少しは恥ずかしいが、堪えて話を続けることとした。
美穂(えっと、確かヒヨちゃんの持つ性質があるから)
美穂(噂の『普通力』の影響を受けずに、私は”私”を所有者に選べた。って言う話だったひなた☆)
美穂(うーん、ヒヨちゃんには何か思い当たることある?)
美穂(・・・・・・よくわからないナリ・・・・・・私の性質?)
亜里沙(日本一、『傲慢』で”我の強い”刀)
亜里沙(それが『小春日和』・・・・・・、って亜里沙先生は聞いてますよぉ)
美穂(はい・・・・・・肇ちゃんが言うにはプライドが高くって人に使われるのを嫌がる刀だって)
従属することを極端に嫌う我の強い刀であり、支配力のとにかく強い刀。
それが鬼神の七振りが一本、日本一、横暴な刀『小春日和』。
美穂(そんな『小春日和』だから、抜いている間は所有者の精神を守ってくれるって聞いてます)
美穂(・・・・・・もしかしてそれが関係あるんですか?)
ウサコ(そうウサ!その刀が美穂ちゃんと出会えたのは、その”意志の強さ”があったからこそウサー)
亜里沙(うん。完全にとは行かないみたいだけど、)
亜里沙(『小春日和』はその特性で、『普通力』による干渉を最小限に抑えることができたんじゃないかしら。)
小日向美穂が『普通力』を持つ者の友人であったにも関わらず、
彼女が『小春日和』と出会うこととなったのは、『小春日和』自体の持つ”我の強さ”が、
『普通力』の干渉・支配を抑えて、切り抜けたためであるようだ。
渚(そう言えば美穂ちゃんさァ、学校が終わった後、)
渚(友達を追いかけても、何かが邪魔するように立ち塞がって近づけなかったって言ってたね)
渚(道路の補修工事とか、前からやってきたお相撲さん達とか、大荷物を抱えたお婆ちゃんとか)
渚(けどさ、幾つかの障害に出会ったってことは)
渚(その幾つかは切り抜ける事が出来たって事だよねっ)
美穂(は、はい。その時はヒヨちゃんの力を借りてました)
美穂(あの時は大変だったナリ)
渚「それじゃんっ!!」
渚が立ち上がって声を上げた。
美穂「えっ!?あっ!!」
美穂も気づく。
『小春日和』は『普通力』と呼ばれる力の干渉を切り抜けて美穂と出会い、
そして『普通力』が引き起こしていたであろう幾つかの妨害も、『ひなたん星人』ならば切り抜けることができていた。
美穂「もしかして・・・・・・解決法っ!?」
もし、全ての斥力を跳び越えることができるならば、
『ひなたん星人』であるならば、彼女達に会う事もできるのではないか。
亜里沙「二人とも、しーっ」
ウサコ「店内ではお静かにウサー」
亜里沙が、指を一本立てた左手を口の前に持ってきて言った。
美穂「あ、す、すみません」
チラリと店内を伺う。
美穂達以外のお客さんの視線は、子供達と遊ぶシロクマPの方に向いていた。
温和な熊が子供達を相手している姿はどこか癒される光景である。
店内の客達は頬を緩めてその様子を見守っていた。
シロクマPは美穂の視線に気づくと、笑顔で手を振る。
美穂は小さく手を振り返した。
亜里沙(シロクマちゃんがあっちの方で視線を集めてくれてるから)
ウサコ(あまり目立たないようにして欲しいウサー)
亜里沙(会話は頭の中でね?)
美穂(はい・・・・・・)
渚(気をつけます)
亜里沙(うふふっ、二人ともいい子ですねぇ、それじゃ、お話を続けますよぉ)
亜里沙(2人の予想通りね)
亜里沙(『ひなたん星人』さんなら、『普通力』の起している斥力の影響をぐっと減らせるんじゃないかしら)
亜里沙(きっと、この事態の解決するための鍵になってくれるってありさお姉さんは思うな)
亜里沙(だけど、それだけだと、ちょっとだけ足りないのかもしれませんねぇ)
ウサコ(『普通力』の斥力を切り抜けて、『普通力』を持つ女の子に出会うだけだと解決しないウサ)
ウサコ(斥力の原因自体をどうにかしないと、”ひなたん星人”ちゃんじゃない美穂ちゃんは友達に会えないままウサ)
ウサコ(それだけだと『世界の縺れ』がなくならないウサー)
渚(世界の縺れ?)
渚(あ、たしか占い師さんも似たような事を言ってたけど、運命の縺れとか)
渚(それってさァ、美穂ちゃんを取り巻く環境が変わった事を言ってるの?)
ウサコ(そうウサー)
美穂(・・・・・・)
現在、美穂の友人達に近づけない他に、もう一つ問題が発生している。
美穂を取り巻く環境が大きく変異してしまっていることだ。
携帯や名簿からの記録の抹消と変更、そして記憶の改竄。
美穂(これも『普通力』の影響なんですか・・・・・?)
亜里沙(そうねぇ、『普通力』と『小春日和』の影響を受けた世界の働きかしら)
美穂(え?)
美穂(私と・・・・・・世界の働きひなた?)
亜里沙(話は変わるけど、『小春日和』が美穂ちゃんと出会ってから)
亜里沙(夏休みが始まるまでは、周囲の環境が変わっちゃう事はなかったのよね?)
美穂(は、はい。でもそれは・・・・・・)
美穂(『普通力』を持つあの子が、私の事を知らなかったからひなた)
亜里沙(ええ、きっと、その時点では何の矛盾も無かったの)
亜里沙(その子は美穂ちゃんを”普通の女の子”だと思い込んでいたから)
亜里沙(その子の”普通であり続ける日常を守ろうとする力”、『普通力』が何かを起すことも無かった)
亜里沙(美穂ちゃんが刀や活動の事を隠そうとする限りは、その子に気づかれることは決して無かったはずですよぉ)
渚(でも、知られちゃったんだよね)
亜里沙(・・・・・・うん、そうねぇ)
ウサコ(ウサー。地方新聞に美穂ちゃんのヒーローとしての活躍が載っちゃったウサー)
亜里沙(それによって『普通力』が『小春日和』に気づいてしまって矛盾ができちゃったのよね)
亜里沙(『普通』であるはずのその子の日常に、『特別』な異分子がいる)
亜里沙(その矛盾を解消するために、『普通力』の影響を受けた『世界』の方が対応しちゃったみたい)
亜里沙(それが『世界の縺れ』になったの)
渚(え、えっと・・・・・・世界の方が対応?)
美穂(そ、その・・・・・・)
美穂(わかりにくいひなた、もっとわかりやすくお願いするナリ)
美穂には言いにくいこともスパッと言ってしまうひなたん星人であった。
美穂(す、すみません。なんかスケールが大きい話になってて)
急に『世界』がどうって言う話をされても、美穂には何がなんだかわからない。
亜里沙(うふふっ、『世界』って言ってもそんなにスケールの大きい話じゃないの)
亜里沙(全世界って事じゃなくって、美穂ちゃんをとりまく環境の事だから)
亜里沙(そうねぇ、このファミレスを例えてみましょうか)
亜里沙(例えば、ドリンクバー)
亜里沙(これはみんな、頼んだらグラスを取りにいって)
亜里沙(自分たちでドリンクを入れて飲むのが当たり前よね?)
美穂(は、はい)
亜里沙(それはどうしてかなぁ?)
渚(どうしてって言うか・・・・・・うーん、そうするのがルールみたいな感じ?)
亜里沙(はぁい、正解です♪)
渚(あ、今ので良かったんだ)
亜里沙(店員さんもお客さんもそのルールを共有してるから)
亜里沙(みんな自然とそれができちゃいますねぇっ)
亜里沙(これが『ファミレス』って言う、『世界』のルールなの)
亜里沙(次はシロクマちゃんね)
美穂(シロクマさんですか?)
美穂(ふかふかしててカワイイ感じがするナリ)
美穂(き、聞かれてないことは答えなくていいからっ)
亜里沙(うふふっ、ファミレスに入ってくるクマさんっていると思う?)
美穂(それは・・・・・・い、居るんじゃないでしょうか)
渚(まあ、現に居るしね)
居るか居ないか。
見かけてしまっている以上は「居る」と答えるしかない。
亜里沙(『普通』なら?)
渚(居ないね)
美穂(居ませんね)
しかし、『普通』ならファミレスに入るクマを見かけたりはしない。
亜里沙(うふふっ、『ファミレス』って言う『世界』のルールの中では)
亜里沙(普通なら『クマさんは居ない』のだけど)
亜里沙(でもここには、シロクマちゃんが居るわぁっ♪)
ルールに反したことが起きている。
普通じゃない事が起きている。
亜里沙(こうして起きてしまったルール違反に、『ファミレス』のルールに従ってるみんなは考えるの)
亜里沙(どうしてクマさんが居るのかなって?)
亜里沙(今日は「そんなものなんだな」って事で受け入れて貰えたみたいですねぇっ)
亜里沙(これが『ファミレス』って言う『世界』の対応ねっ!)
亜里沙(今この時は、『クマさんは居ない』って言うルールは)
亜里沙(みんなの中から無くなちゃってるの)
ウサコ(だってクマさんが目の前にいるからウサー)
亜里沙(そんな風に『世界』は、元々あったルールに当てはまらない出来事に対して)
亜里沙(その時々でルールを変えたり、あるいはその形を変えるかして『対応』しているわ)
亜里沙(・・・・・・今回の事もそんなお話なの)
亜里沙(”『普通力』に支配された環境”の中では、「普通じゃない存在は彼女の傍には居ない」ってルールがあるけれど)
ウサコ(「『小春日和』を持つヒーロー」って言うルールに当てはまらない『特別』が入ってきたウサー)
亜里沙(このルール違反に『世界』は対応しなければならなかったのね)
亜里沙(でも、シロクマちゃんみたいに受け入れることはしませんでした)
亜里沙(『普通力』は強力な力だから、)
亜里沙(「普通じゃない存在は彼女の傍に居ない」ってルールを無視することは難しかったみたい)
亜里沙(だから、『世界』は)
亜里沙(最初から、”美穂ちゃんは『普通力』の範囲に居なかった”って事にして、対応したのね)
亜里沙(これが『世界の縺れ』になったの)
『美穂と友人を取り巻く環境』はその秩序を保つために、自らその形を変えた。
小日向美穂は、最初から『普通力』を持つ少女と関わりはなかった。
そういう事にしてしまえば、『普通力』を持つ少女の『普通であり続ける日常』は守られ、
同時に、『小春日和』を持つ少女は『特別なヒーロー』であり続ける事ができる。
そこにルール違反は無い。
美穂(そんな・・・・・・のって)
『特別』に選ばれたから、『特別』になってしまったから、
『普通力』を持つ彼女の傍に居る事が、『世界』に許されない。
そんな話を聞いて、ショックを受ける。
美穂(納得できないナリっ!!)
美穂(・・・・・・ヒヨちゃん)
もう一人の”自分自身”が叫ぶ。
美穂(”私”はここに居るひなたっ!”私”が友達と一緒に居ることがどうしていけないナリっ!)
美穂(『特別』だからダメって!そんなのって酷いナリッ!!)
美穂(・・・・・・)
言いにくいこともスパッと言ってしまう。
”ひなたん星人”の言葉は”美穂”の言葉であった。
美穂(私は”卯月ちゃん”とずっと友達で居たいナリっ!)
渚(えっ、卯月ちゃん?)
美穂(・・・・・・)
わかっていた。今回の事態の中心にある『普通力』。
そんな力を持っていそうな人物の心当たりはあった。
島村卯月のパーソナル。
なかなかパッとは思いつかない彼女の個性、
そう、彼女は特に『普通の女の子』だ。
いつも同クラスの、同学年の平均点をとってしまうほど、
彼女は『普通』すぎる『普通の女の子』だ
だから『普通力』なんて力を持っているのは、
美穂(きっと、卯月ちゃんの方だろうなって思ってました・・・・・・)
亜里沙(そうねぇ、美穂ちゃんが思うならきっとそうよ)
美穂の推測を、亜里沙が肯定する。
どちらの考えにも確証は無いが、しかし美穂はそれで間違いないと確信した。
美穂(・・・・・・)
小日向美穂は考える。
彼女の事を、
『普通の女の子』の事を、
島村卯月について考える。
美穂(・・・・・・卯月ちゃん、本当に良い子でとても頑張り屋さんなんです)
美穂(どんな時でも一生懸命で、ずっとずっと前向きで、くじける事なんてなさそうで)
美穂(それに笑顔が素敵ひなたっ☆)
美穂(うん、そうだよね。確かに普通の女の子だけど、でもその笑顔がすっごく魅力的で、)
美穂(あんな風に笑えるのがいいな、っていつも思ってた)
美穂(だから、そんな友達と一緒に居て、一緒に笑えることが)
美穂(とっても素敵な事で、好きだったから)
美穂(やっぱり私は・・・・・・)
美穂「卯月ちゃんと友達で居たいな」
自分自身の気持ちを再確認する。
美穂「私は、どうすればいいですか?」
友達への思いを胸に、目の前の女性に尋ねる。
彼女は言った。この事態を解決すると。
美穂「どうすればまた、卯月ちゃんと友達になれますか?」
彼女は知っている、美穂がこの後取るべき行動。
どうすればいいのか、その答えを。
美穂「教えてください、亜里沙さん!」
その子と友達になりたいと言う些細な願いを叶えるために、
少女は力強く問うた。
ウサコ(『特別』じゃなくなればいいウサー)
美穂(えっ?)
亜里沙(『特別』じゃなくなること、『普通』になってしまうこと。それがこの問題の答え。)
『普通力』に認められたいのであれば、
『特別』でなければいい。
そう、『普通』であればいい。
『普通』であるならば、『普通力』は小日向美穂の存在を再び認める事となる。
亜里沙(あなた達が『普通』になれば、この事態はすぐに解決するの)
美穂(わ、私にどっか行っちゃえって言うひなたっ!?それはあんまりナリ!)
『特別』でなくなる。
それは『小春日和』を手放し、ヒーローでなくなればいいと言うことではないか。
『小春日和』であるひなたん星人は焦る。
ウサコ(まあ、そっちでもいいウサ、けど方法は他にもまだあるウサー!)
亜里沙(『特別』なあなたがそこに居ること自体が、『普通』になればいいんですよぉ)
美穂(・・・・・・『特別』な私が居る事を『普通』のことに?)
亜里沙(ええっ!つまり)
亜里沙(”ヒーローと友達になれる”事を卯月ちゃんの『普通』にしてしまえばいいのっ♪)
”ヒーローと友達になれる”事が、彼女にとって『普通』であるならば、
『普通力』を持つ少女の『普通であり続ける日常』は守られ、
同時に、『小春日和』を持つ少女は『特別なヒーロー』であり続ける事ができる。
そこにルール違反は無い。
美穂(うーん、なんか言葉尻捉えてるだけみたいナリ)
しかし今亜里沙が言ったように、
『普通力』に「ヒーローと友達になれる」事が『普通』であると認められたならば、
確かに、美穂が卯月の周囲から弾かれてしまうような事態はなくなるのだろう。
だが湧き上がる疑問。
美穂(『特別』なことを『普通』になんてできるんでしょうか・・・・・・)
そもそも『普通』じゃないから『特別』なのに、
『特別』が『普通』になんて成り得るのだろうか。
亜里沙(そうねぇ、美穂ちゃん、それに渚ちゃんも)
亜里沙(『普通』ってどう言うことだと思う?)
美穂(?)
意図のよくわからない亜里沙の質問。
渚(普通は・・・・・普通な事じゃない?なんて言うの?その・・・・・・一般的と言うかさァ)
渚の答えもあやふやであった。
亜里沙(それじゃあ聞き方を変えてみましょうかぁ。ウサコちゃんっ!)
ウサコ(任されたウサー!)
ウサコ(ウサコの質問コーナーウサー!)
突如始まる、謎のウサギパペットによる質問コーナー。
ウサコ(2人とも、学校の宿題があればやってくるのは普通の事ウサー?)
美穂(え、えっと・・・・・・普通だと思います)
渚(まあ、普通だね)
戸惑いつつも答える2人。
ウサコ(毎日朝ごはんをしっかり食べるのは普通ウサ?)
美穂(普通です)
渚(普通だよ、一日の始まりは朝ごはんからだしねっ)
ウサコ(じゃあ、宇宙人と友達になっちゃうのはウサ?)
渚(普通じゃないかな)
美穂(素敵ですけど、普通じゃないですね)
ウサコ(毎日しっかり身体を動してスポーツするのはどうウサ?)
渚(・・・・・・普通、かな)
美穂(うっ、あまり普通じゃないかも・・・・・・・ヒーロー活動ならしてるんですけど)
ここで2人の意見がズレる。
ウサコ(毎日、教科書や漫画以外の本を読むのはウサ?)
渚(うーん、毎日ってなるとちょっと)
美穂(これは普通ですね、空いてる時間はいつも小説を読んでます)
美穂(なんとなーく言いたいことはわかったひなた)
渚(つまり『普通』って言うのは人それぞれってことォ?)
亜里沙(はぁい、そう言うことですよぉ♪)
ウサコ(卯月ちゃんにとっての『普通』も例外じゃないウサー!)
亜里沙(『普通力』の選ぶ『普通』は、卯月ちゃんにとっての『普通』なの)
亜里沙(だから彼女が『普通』だと思うことなら、『特別』な事でも『普通』であり得るわ)
亜里沙(例えば・・・・・・美穂ちゃん、今まで卯月ちゃんと友達でいて)
亜里沙(『普通』じゃない変わったエピソードの1つや2つはあったんじゃないかしら)
美穂(変わったエピソード・・・・・・?)
美穂(・・・・・・あ、そう言えば)
美穂(卯月ちゃん、17年間おみくじは「吉」しか引いた事が無いって言ってました!)
渚(あれっ?!普通じゃないっ!?)
美穂(あ、やっぱり普通じゃないんですよね)
美穂(聞いた時はすごいなーとしか思ってなかったんですけど)
ウサコ(卯月ちゃんにとって、それは『普通』のことウサー)
このように、彼女が『普通』の事と思っているなら、
あるいは、『特別』であると気づいていないのであれば、
『普通力』の支配下にある場所でも『特別』な事は起こりうる。
亜里沙(卯月ちゃんに『普通』の事だと思ってもらえれば、)
亜里沙(『普通力』の方も、他の人から見たら特別な事を許しちゃうのっ!)
渚(なるほどねェ、じゃあ今はヒーローと友達になる事が『特別』な事だとしても、)
美穂(友達になれる事が『普通』だと思わせる事ができれば・・・・・・)
美穂(私が卯月ちゃんの友達になっても平気ひなたっ!)
亜里沙(それとね、”縺れた”糸って言うのは、ちゃんと元に戻せるものなの)
ウサコ(糸が切れちゃってる訳じゃないウサ!)
ウサコ(丁寧に真っ直ぐに伸ばせば、糸は元の形に戻るウサー!)
亜里沙(ええ、だから『普通力』を認めさせることができたなら、)
亜里沙(それに支配されてる環境も美穂ちゃんが居る事をちゃんと認めて、)
亜里沙(”世界の縺れ”もうまくほどけるわぁっ!)
それは美穂を取り巻く環境が元に戻ると言う事。
携帯や名簿やクラスの改竄は、本来ならばあり得なかったこと。
故に、『普通力』と『小春日和』による矛盾さえ解消されれば、
その姿は、正しき姿に戻る。
美穂(本当に・・・・・・元の形に戻るんですね!)
亜里沙(ええ、きっと大丈夫っ!)
渚(それじゃあ、美穂ちゃんがこれからやるべきことは)
美穂(卯月ちゃんに会って、ヒーローと友達になれる事が『普通』の事だと思ってもらう!)
美穂(だけど、それはどうやってひなた?)
美穂(う、うーん・・・・・・それは・・・・・・・)
人から見れば『特別』な事も、卯月にとっての『普通』に成り得る事はわかったが、
しかしどうすれば、それを『普通』にできるのだろう。
亜里沙(伝えること)
美穂(えっ?)
亜里沙(「ヒーローの私と友達になってほしい」「ヒーローの私と友達で居てほしい」ってただ伝えるだけでいいのよ)
亜里沙(卯月ちゃんにとって「ヒーローと友達になる」事はこれまで無かったから、それは『特別』な事だったけど)
亜里沙(一度起きてしまえば、それは『普通』に起こりえることよ)
美穂(それだけで?)
「伝える」だけで解決するのだろうか。
渚(うん?待って。一度起してしまえばって言うけどさァ)
渚(新聞を通して「美穂ちゃんがヒーロー」だって伝わっても、それは『普通』だって認められなかったんじゃないの?)
そもそもこの事態は、地方新聞を通して、「美穂が特別なヒーローだ」と卯月に伝わった事からはじまる。
卯月およびに『普通力』は、起こってしまったそれを『普通』ではない出来事と判断した結果、
『普通力』の影響を受けた『世界』は美穂を卯月の周囲から弾いたのだ。
渚(順序は逆かもしれないけど、「ヒーローが友達」になれるってただ伝えても・・・・・・簡単には『普通』だって認められないんじゃない?)
美穂(確かにそうひなた。”私”が「友達になって欲しい」って言っても、伝えたこと自体を無かったことにされたりしないナリ?)
亜里沙(ええ、あなたたちの言う通り。ただ伝えるだけじゃあ、それは無かったことになるかもしれないわ)
ウサコ(だから重要なのは、伝える言葉に伴う”意志の力”ウサー)
美穂(意志ですか?)
亜里沙(ええ、新聞で伝わる内容には強い意志が伴っていなかったから、)
亜里沙(『普通力』の意志には、あともう少し届かなかった)
渚(・・・・・・ねェ、その『普通力』の意志って言うのは、卯月ちゃんって子の意志とは違うものなの?)
ウサコ(ちょっと違うウサー)
美穂(『普通力』自体が、卯月ちゃん自身とは別に持つ意志ですよね?)
亜里沙(はぁい、正解よぉ♪)
渚(『力』自体に意志があるってことォ?)
亜里沙(渚ちゃんには『力』に意志があるって言うと、ちょっと変に聞こえるかもしれませんねぇ)
美穂(でも『力』自体に別の意志が宿っているのはよくある事ひなたっ)
美穂(ヒヨちゃんもそうだもんね)
能力自体が、本体である能力者とは切り離された『意志』を持つ。
『小春日和』を持つ美穂だから、その概念は理解しやすかったようだ。
亜里沙(大抵の能力者は自分の意志で、能力を操れるけれど)
亜里沙(『普通力』は彼女にとって、まったく”無自覚の力”だから)
亜里沙(その制御は、彼女からは”自立した意志”によって制御されていますねぇ)
亜里沙(”卯月ちゃんのありのままの普通の日常を守ろうとする意志”が発する力、それが『普通力』)
亜里沙(だから『普通力』はその意志自体が、力そのものとも言えるかな)
亜里沙(そしてその『普通力』の意志が、周囲に影響を与えて斥力を引き起こしたり環境を変えたりしちゃいます)
亜里沙(さて、その影響を乗り越えようと思ったら)
亜里沙(『普通力』よりも、ずっと強い『意志』を持ってそれを抑える必要があるの)
美穂(・・・・・・だから、ヒヨちゃんの出番ですね)
亜里沙(うん、最初の方に言ったとおり、『ひなたん星人』ちゃんが鍵になるわ)
美穂(腕が鳴るナリ☆)
美穂の持つ『小春日和』もまた、意志そのものが力となる刀。
『意志』には『意志』をぶつけて、乗り越えてしまえ。と言うことのようだ。
亜里沙(つまり美穂ちゃんがやるべきことは、)
ウサコ(『普通力』の意志を、『小春日和』の意志の力で捻じ伏せるウサー!)
ウサコ(そして斥力を切り開いて、卯月ちゃんと無理やり友達になりなおす事ウサー!)
渚(な、なんか乱暴じゃない?捻じ伏せるとか無理やりとかサ)
亜里沙(ええ、乱暴な方法よぉ♪)
亜里沙(でも、乱暴だからこそ、『友達で居たい』って言う”強い意志”を、『普通力』が無かったことにする事はきっとできないわぁっ!)
美穂(・・・・・・大事なのは、強い意志を持つこと)
「大事なのは強い意思を持ち続けることよ、必ず障害を乗り越えるって言う強い意思をね。」
美穂(百発百中の占い師さんの言葉とも一致するひなたっ☆)
美穂(だからきっと上手く行くなり♪)
美穂(そうだね、きっと大丈夫だよねっ!)
美穂(ありがとう、ヒヨちゃん)
美穂(自分自身にお礼を言うなんてちょっと変な感じナリ)
亜里沙(うふふ、それじゃあ美穂ちゃん)
亜里沙(窓から外を見てみて)
美穂(えっ?)
亜里沙に言われて、すぐ横の窓の外を見てみれば。
美穂「あっ!?」
ファミレスの外の道には、
ずら~~~~~っと、
いつの間にか行列ができていた
渚(・・・・・・なんの行列?)
亜里沙(この辺りに今来ている、ソーセージ屋台の行列よ)
ウサコ(女子高生に大人気のマルメターノおじさんのソーセージウサ!)
渚(そう言えば後輩も言ってたっけ)
渚(なんか美味しいソーセージ屋が、この辺りにもたまにやってくるって)
亜里沙(うふふ♪行列ができちゃうくらい”噂”になってるみたいねぇ)
渚(噂?)
もしかして、何かこの人がしたのだろうか
渚(だけど、この行列になんの意味が・・・・・・?)
美穂「・・・・・・う、うそ」
渚(美穂ちゃん?)
渚にはわからなかったが、その光景は美穂にとって驚くに足るものであったらしい。
窓の外にいつの間にか出来ていた行列。
しかし亜里沙が美穂に見せたかったものはそれではなく、
亜里沙(例えば、ヒーローが自ら彼女に会おうとしているのは、『普通』の出来事ではないけれど)
亜里沙(お互いに気づかずにヒーローとすれ違う事くらいなら、『普通』の出来事じゃないかしら)
その行列に並んでいた一人の女の子。
卯月「♪」
美穂「卯月ちゃんっ!?」
もう会えないかと思っていた友達が、すぐ近くに。
ほんの数メートルの内にいた。
おしまい
持田亜里沙
職業:アイドルヒーロー同盟、ヒーロー応援委員
属性:優しいてんてー
能力:伝達術『メッセージ』、腹話術?
ヒーロー達の夢を応援する素敵なお姉さん先生。
アイドルヒーロー同盟に所属しているが、彼女はアイドルでもヒーローでもなく、
プロデューサーやトレーナーと言った人たちと同様、彼女達のサポート役として従事している。
同盟の本部から委員に選ばれているが、特に同盟の方針や意思に口出しできるほど偉い立場ではないらしい。
困っている人を助けるのがヒーローだが、そのヒーロー達が困った時に”ほんの少し”手助けするのがお仕事だとか。
悩みを聞いたり、ステップアップの方法を考えてくれたりする。云わば相談役。
ヒーローの夢を追う人達を応援しているらしく、ヒーローを目指す皆さんにはヒーローのイロハを教えている。
そのため、彼女の事をよく知る者は親しみを込めて「てんてー」と呼ぶとか呼ばないとか。
《ウサコと亜里沙のヒーロー指南教室!》と言うコーナーに出演しており、それもヒーローを応援する活動の一環だとは本人の弁。
時々、知らないはずの話や、普通は知れない話など、メタい発言が飛び出す不思議な人。
右手のウサギのパペット「ウサコ」を四六時中外さない。など、ほんの少し、秘密があるだけの優しいお姉さん。
『メッセージ』
持田亜里沙の能力。聞き取り、伝える力。いわゆるテレパシー系統の能力。
聞きたい相手から聞きたい事を聞くことが、伝えたい相手に伝えたいことを伝えることが出来る能力。
彼女の腹話術は、この『メッセージ』を利用しているのではないかともっぱらの噂。
『会話《コミュニケーション》』
メッセージを利用して、特定の人間同士の脳内会話が出来るようにすると言う通信手段。
この術に距離や範囲、人数などに制限は無いが、あまり広い範囲の多くの人間と会話しようとすると、
混線して訳がわからないことになるのでやらない。(と言うか多くの場合は電話やその他通信手段で事足りる)
能力名の通り、通信相手に亜里沙と会話しようと思う意志が無ければ、この能力は通じない。
『噂話《ゴシップ&ニュース》』
メッセージを利用して、特定地域にうわさ話を流す。
ひそかに女子高生の間にソーセージ屋台が来ているうわさを流す事などができる。
ウサコ
職業:ウサコはプリティーでキュートなウサコウサッ♪
属性:キュートタイプウサ。クールやパッションじゃないウサ。
能力:ウサコの耳はとおくの声も聞けるウサ。誰かの悩みの声が聞こえたら駆けつけられるようにウサ。
謎のウサギパペット。持田亜里沙の右手担当。
亜里沙は常にこのウサコと共に行動しており、
パペットを外したところを見たものも、持田亜里沙の右手を見たことあるものも全く居ないらしい。
お喋りなウサギで、亜里沙の言葉を補足したり、代弁したりする。
とは言え、あくまでパペット。もちろんウサコの言葉は亜里沙が腹話術で喋っている・・・・・・はずである。
右手から外さない、ウサコが喋っている時は亜里沙の口は動いていない、
そもそも亜里沙自身、ウサコに対しては他人と話すのと同じ様ように振舞っている。
と言った事から「ウサコ寄生獣説」もあるとかないとか。
この件に付いては、てんてーもウサコもノーコメント。
シロクマP
職業:アイドルヒーロー同盟所属某プロダクションのプロデューサー
属性:白熊の獣人
能力:特になし
某プロのプロデューサーとして働く獣人。アイドルヒーロー時代の水木聖來の元プロデューサー。
見た目はほとんど熊。スーツを着た白熊。熊が歩いて喋る姿に驚かれる事は多いが、
その見た目のインパクトを武器に仕事を頑張る敏腕プロデューサー。性別不詳。
年齢は亜里沙よりも年上なのだが、彼女の事をせんせーと呼ぶ。
ここで区切ります
気づけば一ヶ月使ってるって言うね、本当にすみません
次こそ本当に終わらせるつもりだけど、先の事は約束できないからもう言わない
渚、卯月お借りしましたー
おつー
てんてーきたー!!
だが、ウサコちゃんナニモノ?
普通力凄すぎ……
文化祭の方で投下します
ほたる「乃々ちゃん。次どこにいく?」
乃々「……なるべく人がいないところがいいんですけど…人ごみはどうも苦手なんですけど…」
ほたると乃々は秋炎絢爛祭で賑わう地上通路を歩いていた。
はぐれないように、そして森久保が逃げださないように、優しく手を握る。
サヤの一件で、乃々が塞ぎ込んでから、ナチュルマリンに変身することはなく、仲間が傷つくのを過剰に恐れ、精神的にも大きい傷を残し、深刻な状況だ。
そこで、ほたるは乃々と秋炎絢爛祭をまわって乃々をはげます、「乃々ちゃん元気になれ作戦」を決行することにしたのだ。
最初は、自分がいるとほたるが危ないんじゃないかと断っていた乃々だったが…
「乃々ちゃん……一緒に秋炎絢爛祭をまわって?」ウルウル
………ほたるの涙目の上目遣いによる説得には勝てなかった……
ほたる「しょうがないよ。街全体で盛り上がってるから、沢山の人達が来るんだよ?」
乃々「それはわかってるんですけど……むーりぃー……」
やっぱり、あの一件が尾を引いてるのか、乃々は不安そうに震えていた。
また、自分のせいで誰か傷つくんじゃないか……
またあの時のように、自分が仲間を傷つけるんじゃないか……
そんな不安が襲ってくる。身体が震え、操られてた時の自分の意思に反して、巴を攻撃したあの時の記憶が蘇ってくる。
ほたる「乃々ちゃん……」
乃々「あっ……」
そんな乃々に、ほたるは一回手を離すと、乃々を優しく抱きしめた。
ほたる「大丈夫。私がいるから…私はちゃんとここにいるから……」
昔、ほたるがまだ塞ぎ込んでて今の乃々みたいに恐れていた時、よく志乃さんに抱きしめられ、優しく励ましてもらっていた。
それを今度はほたるが乃々に同じようにしたのだ。
乃々「あうぅ………///」
抱きしめられ、顔を真っ赤に染め上げながら顔を逸らす。
乃々「わ、わかりましたから、放して欲しいんですけどぉ……恥ずかしいんですけど……」
そして、消えいるような声でポツリと呟く。
いきなり女の子同士で抱きついてる光景に注目を浴びるのも無理はない。
ほたる「す、すみません///」
それに、気づきほたるも慌てて手を離した。
はたから見るとなんか初々しくほっこりしてしまう。
乃々「………ちょっとだけですけど、頑張ってみます…」
ほたる「あ、ありがとう!乃々ちゃん!」
こうして二人は再び手を繋ぐと、人混みに紛れ込んでいった。
???「うーん……若いっていいな!見ていて心が洗われる!」
その光景を遠巻きから見ている男が一人。
スーツを着て、サングラスをしたスキンヘッドの大男が一人。
???「今日は下見に来たんだが、素晴らしいな!やっぱり子供はかわいいな!だが、もうちょっと小さかったら更に良かったんだがな!はっはっはっはっ!!!!」
なんか危なそうな発言を呟きながら、ニヤリと笑う。
もう、これは警備員やヒーローを呼んでもおかしくないというほど怪しい大男。
しかも腰にはクリーム色の人型の人形をぶら下げてる。
周りの人も関わりたくないのか、ヒソヒソと話しながら遠ざかって行ってる。
そんな危険人物に近づく一人の少女と一体の機械。
梨沙「…………なにやってんの?パッププロデューサー?」
『ぶもっ……』
的場梨沙とマキナ・コアのコアさんはジト目でその大男を見上げていた。
パップ「梨沙か!お前も仕事の下見に来たのか!」
パップと呼ばれた大男は、梨沙を持ち上げ自分の頭くらいの位置まで上げながらニヤリと笑った。
………そう。このいかにも怪しい大男はアイドルヒーロー同盟のRISA担当のプロデューサーなのだ。
この秋炎絢爛祭で梨沙が踊る仕事があるため、そのステージの下見と打ち合わせに来たのだ。
極度の子供好きで、笑顔がどうしてもニヤリとなってしまい、毎回犯罪者に間違えられるがプロデューサーだ。
梨沙「ちょっと!降ろして!目立つでしょ!ヘンタイプロデューサー!!」
パップ「そんなに照れるな!はっはっはっはっ!!!」
……………この状況は、『怪しい大男が小学生の少女を持ち上げ罵倒を浴びせられながら笑う事案が発生』と連絡網にまわされてもおかしくないだろう。
パップはそんな事を気にせず、暴れる梨沙を優しく降ろしながら頭を撫でる。
梨沙「ちょっと!頭撫でないでよ!パパならともかく嫌なんだけど!キモいからやめて!」
パップ「照れるな。照れるな。」
梨沙「照れてないから!もう!」
『ぶもっ……』モシャモシャ
抵抗する梨沙に少し残念そうに撫でるのをやめ、パップは空を見上げた。
パップ「それにしてもさっきの花火だが……一瞬人の形に見えたが誰か暴れた可能性があるな……スカウトできる奴ならいいが、カースや悪党の類なら仕事してもらうぞ?RISA?」
急に真面目モードで言うパップに梨沙は溜息を吐く。
梨沙「わかってるから……って、アンタ私を監視するためにパパのコネでプロデューサーになったんでしょ?なんか、そっちが本業みたいになってない?」
……そう。この男パップは梨沙の父親であり、加蓮の父親である≪権力者≫の直属の部下なのだ。
それをどうやってアイドルヒーロー同盟のプロデューサーとなり、梨沙の担当プロデューサーになったのだ。
身近で梨沙の実験結果など報告をするために……
パップ「はっはっはっはっ!それは大丈夫だ!俺はどっちの仕事も真剣にやっている!俺は真面目だからな!」
そんな風に笑ってるパップに梨沙は再び溜息を吐く。
梨沙「まあ、いいけど。アタシはいくね。ちゃんとパパにリサの活躍を報告しといてね!行くよ。コアさん」
『ぶもっ!』
パップ「ああ!気をつけろよ?」
去って行く梨沙とコアさんを見送りながら、パップも歩いていく。
パップ「さて……仕事するか。打ち合わせが終わったら、良さそうな子がいたらアイドルヒーローとしてスカウトもしないといけないしな」
??『ちょっと…私はいつまで黙ってればいいのよ?』
小さな声でボソボソと何かがパップに話しかけてくる。
声は腰にぶら下げてる人形からだ。
パップ「悪い悪い。しばらくは黙ってくれよ?お前も実験の一つだが、ここではやるなよ?」
???『本当に屈辱ね。まるで本物みたいな末路じゃない…』
パップ「本物?お前がなんで喋れるのかその本物とか知らないが、お前は貴重な砕けた核から再生されたカースなんだ。とりあえず大人しくしてろ。この人形に入らないと動けないんだからな」
???『……力を取り戻したら本物達のあとにやるから覚えてなさい』
パップ「はっはっはっはっ!!!楽しみにしてるぞ!」
ケータイを取り出し、何処かにメールを送りながら去って行った。
終わり
・パップ
職業・アイドルヒーロー同盟プロデューサー/とある権力者の直属の部下
属性・見る限り怪しい人
能力・???
RISAの担当のプロデューサー。
スキンヘッドで、黒スーツで、サングラスをして、子供好きで、大男なために凄い怪しいが普通にいい人である。
だが、加蓮と梨沙の父親のとある権力者の直属の部下で、アイドルヒーロー同盟のプロデューサーになったのは梨沙の身近で実験報告をするためである。
だけど、両方の仕事も真面目にこなしてる為、悪い人ではないかも?
なお、外人で、何処かの特殊部隊にいた経歴があるらしいが、プロデューサーになった時はその経歴を隠している。
梨沙の事も心配してる様子である。
腰にはクリーム色の人形がついていて喋れる。
どうやら、とある権力者によるカースの砕けた核からの再生実験でできたカースのようだが、小さく今にも消えそうなために特殊な人形にいれて、その過程を見ているようだが……
人形のおかげでカースの気配はしないため、探知能力者や同類などにはカースと気づかれてない。
何処かで聞いたことある喋り方と声だが……
イベント情報追加
・ほたると乃々が祭をまわってます。
・怪しい大男がいますが、アイドルヒーロー同盟のプロデューサーです。
・RISAも祭を見てまわってます。
・パップの腰には砕けた核から再生された小さなカースが閉じ込められた人形がいます。誰なんだろうな?(目逸らし
以上です。
プロデューサー枠つくったらどうしてこうなった!
再生されたカースは誰なんだろうね?(目逸らし
ついでに人形のイメージは雪菜さんがもってる人形です。
更に再生されたカースは普通のカースより弱いです。
どこか不自然なところあるかもしれませんが、お許しください……
亜季ちゃんに絡みが出来てテンションがおかしいまま憤怒の街で短め投下しますー
憤怒の街の上空。
亜季は、独りでカースへの狙撃を続けていた。
亜季「…………」
一体、また一体と、着実にカースを破壊していく。
亜季「……! あれは……」
ふと視線を変えた亜季の視界に、恐ろしいものが映った。
何かの施設……学校だろうか。
その敷地を埋め尽くさんとする、無数のカースの群れ。
亜季「……なんという……」
目を凝らせば、何人かの人間がカースと戦っている。
救援に行くべきか。結論が出る前に、亜季はブースターをふかして移動を開始しようとした。しかし、
ヴーン ヴーン
マイシスターのシグナルが亜季を呼び止める。
亜季「マイシスター? 何を……」
マイシスターへ向き直る亜季の目に、何者かからの発光信号が映った。
亜季「『H・E・L・P』……助けて、と……発信元は……」
亜季は信号の元を探ろうと、視線を下に落とす。
亜季「っ、まずい!」
遥か真下で、黒服の男が人狼型のカースと交戦している。
そして、黒服の男の方が劣勢に見える。
亜季は咄嗟にスナイパーライフルを構え、カースに照準を合わせて引き金を引いた。
亜季「…………よし!」
亜季の狙撃でバランスを崩したカースに、黒服の男が隠し持っていた二丁拳銃でトドメを刺すのが見えた。
カースが泥となって崩れ落ち、男もまたその場に仰向けになって倒れこんだ。
亜季「……マイシスター、彼を運んでもらえますか?」
仰向けになりながらじっとこちらを見ている男。
彼と接触すれば、何らかの情報が得られるかもしれない。
そう考えた亜季は、マイシスターに男の回収を頼んだ。
ヴーン ヴーン
マイシスターは少しの沈黙の後、ステルスを展開しながらゆっくりと降下した。
短時間であれば、機械である自身も大した影響は受けないであろう、と判断しての行動だった。
――――――――――――
――――――――
――――
――――
――――――――
――――――――――――
亜季「アイドルヒーロー同盟のプロデューサー……でありますか」
回収した男……エボニーコロモこと黒衣Pは、自らをそう名乗った。
エボニーコロモ「ああ。しかし、並行世界のサイボーグとは……ますますもって末法めいてやがるな、この世界は」
亜季「末法……少なくとも、今この街にはピッタリの言葉ですな……」
エボニーコロモ「ああ……ッ! いた、洋子だ!」
亜季「洋子……ああ、エボニーコロモ殿が担当しているというアイドルヒーローの!」
二人は眼下に広がるカースの海に目を落とす。
数人のヒーローが戦う中、9つ子めいた同じ顔の少女が九人。中央にもう一人。
そして、踊り子のような衣装を纏う女性が一人。
エボニーコロモ「突入したいが……クソッタレ! カースが多すぎる!」
亜季「なら、私が突破口を! ……マイシスター!!」
マイシスターから投下された火器を、亜季がその体でキャッチする。
亜季の両肩に横たわる、極太の筒が二本。そして、背のバックパックとそれを繋ぐエネルギーチューブ。
それを見てエボニーコロモは目を丸くする。
亜季「射線軸にヒーロー、及び一般人の反応無し! エネルギーチャージ120%!」
両方の筒から光が漏れ始める。そして、
亜季「二連装超大型ビームキャノン砲、フルパワーシュートォッ!!」
筒から一斉に溢れた光の束が、さながら鎖を解かれた猛犬めいて暴れだす。
光の猛犬は、なみいるカースを食い荒らし、食い散らかす。
カースはまだまだいるものの、エボニーコロモが突入するには充分すぎるほど減った。
エボニーコロモ「ありがとうよ、サイボーグの悪い思い出が一つ消えそうだ」
そう言ってエボニーコロモはマイシスターから飛び降り、一体のカースをクッション代わりに地上へ立った。
亜季「ご武運を! ……回収! 我々もやりましょう、マイシスター!」
ヴーン ヴーン
亜季はビームキャノンの代わりに投下されたスナイパーライフルを受け取り、上空から地上のカース達へそれを向けた。
続く
○マイシスターに搭載中の火器等まとめ
・「片手持ち大型ガトリング砲」二本 威力「中」連射「高」速度「高」範囲「中」射程「中」
・「片手持ち大型バズーカ」二本 威力「高」連射「低」速度「低」範囲「中」射程「高」
・「ハンドレールガン」二丁 威力「中」連射「中」速度「最高」範囲「低」射程「高」
・(未使用)「片手持ち火炎放射器」一基 威力「中」連射「低」速度「低」範囲「高」射程「中」
・(未使用)「ハンドマシンガン」二丁 威力「低」連射「高」速度「高」範囲「中」射程「中」
・(未使用)「ミサイルポッド」九発入り 威力「高」連射「低」速度「低」範囲「高」射程「高」
・「二連装超大型ビームキャノン砲」一対 威力「最高」連射「最低」速度「高」範囲「高」射程「高」
・「150cm四方防壁用鉄板」三枚 威力「-」連射「-」速度「-」範囲「-」射程「-」
○亜季の手持ち武器
・「拳銃」二丁 威力「低」連射「中」速度「中」範囲「低」射程「中」
・「アサルトナイフ」二本 威力「低」連射「-」速度「高」範囲「低」射程「-」
・「ビームソード」一本 威力「高」連射「-」速度「高」範囲「低」射程「-」
・イベント追加情報
亜季の「二連装超大型ビームキャノン砲」で一部カースが消し飛びましたが、まだまだたくさんいます。
エボニーコロモが学校に到着しました。
亜季の狙撃が学校の敷地内に重点的に行われます。
以上です
亜季ちゃんに絡みが出来たと見た瞬間にキーボードを叩きまくっていた
反省はしているが後悔はしていない
黒衣Pと名前だけ洋子、姿だけ泰葉お借りしました。
いかんいかん>>851に大事なもの忘れてた
・「長距離スナイパーライフル」一丁 威力「中」連射「低」速度「高」範囲「低」射程「最高」
をハンドレールガンの下に脳内追加おなしゃす……
皆様こんばんわ、学園祭がすすまず憤怒の街ばっか書いてた作者です。
例によって憤怒の街、投下します
《過ぎ去りし過去の記憶》
初めて会ったのは、トップになる三日前だった。
「愛梨ちゃんお疲れ様でした!」
「良かったよー!次も宜しくね!」
「はい、ありがとうございます!」
「控え室にお菓子とか置いてあるから良かったら食べてねー」
「あ、マネージャーさん。ちょっと話が…」
「私は一人で大丈夫だから行ってきて下さい!」
番組の監督と話すマネージャーと別れて、一人控え室に戻ろうとした時。
「暑いなぁ………あれ?」
「………あ」
「えっと、どうしたの?」
「その、何でもないんで、すいません!」
「あ、待って!……確か───
「───岡崎、泰葉ちゃん、だよね?」
「え……?」
「あれ?違ったかな……」
「あ、いえ……間違ってないです」
「良かったぁ……今日、凄く頑張ってたから気になってたんだぁ」
「そんな……私なんて…」
「そんなことないよ!私なんて今日暑くて暑くて……あ、脱いでもいい?」
「…はい?」
「クーラー利いてないのかなここ…」
「え、ちょっと!?何で脱いでるんですか!?ストップストップ!あーもうあれこれ悩んでた私が馬鹿みたいじゃないですか……」
「ふえ?」
「って、何で続けるんですか!?控え室!目の前控え室ですからとにかく入って下さい!!」
…こんな感じで、初めて会った時から怒られたっけ。
「あ、ごめんね……つい癖で」
「どんな癖ですか!……この人本当にSランクで合ってるのかな…」
「あはは……よく言われるよ。食べる?」
「……なんですか?これ」
「ケーキ。ほら、今日金髪でクルクルな人が居たでしょ?あの人がたまに作って来てくれるんだ」
「え?あの人って確か所属は…」
「うん、うちと仲悪いとこだよ。だけど、それだからって悪い人じゃないし、そんなので縛られるのっておかしいと思うんだ」
「………それは、まあ…」
「それにさ、皆同じ『アイドル』なんだからさ……私は、そこに上も下も無いと思うんだ」
「……そんな事………あなたはSランクだから…」
「あはは……確かに、うん…そうだよね…」
「………………」
「うーんと……だけどね、本当に私はそう思うんだ。皆、やりたいことが有って、目標が有って、憧れも有って……その為に皆頑張ってる」
「…………………」
「それは、泰葉ちゃんも一緒だよ……左足、ちょっと痛いでしょ?」
「!?」
「ん、凄く上手に隠してるけど、無理したらダメだよ?…トレーナーさん達の間でも、結構無茶してるって話が流れてるみたいだしさ」
「………そんなこと」
「……えい!」
「ふご!?もが、あにふるんへふふぁ!」
暗い顔してたから、とりあえず口にケーキ突っ込んだんだっけ。
「食べながら話さないの、ね?」
「………もぐもぐもぐもぐもぐ」
「はい、お茶」
「………ふぅ、何するんですか」
「おいしかったでしょ?」
「それはそうですけど、それとこれとは…」
「いつもいつも気を張ってたら疲れちゃうよ?休める時は休む、基本だよ」
「………ありがとうございます」
「うん、こっちもあげるよ」
「え、でもそれじゃあ…」
「大丈夫、それは私が作ったのだからね」
「…それなら……!」
「どう、かな?」
「…えと、美味しい、です」
「あは、良かったぁ……ちょっと自信なかったんだぁ」
「あぁでも、さっきの方が私は好きでしたね」
「えー!…意外と辛口だね……」
「冗談ですよ……ふふ」
「あ、やっと笑ってくれた!」
「……はい?」
「あ……だって泰葉ちゃん、ずっと難しい顔してるんだもん…」
「……私、笑ってました?」
「うん!」
「……そうですか…私…」
「…大丈夫、泰葉ちゃんだって、皆に負けない位のアイドルだよ!」
「そう…ですか?」
「そうだよ!私が言うんだから間違いないよ!」
「…ふふ、なんですかそれ」
「なんかひどいなぁ」
「…ありがとうございます、おかげで、少し楽になりました」
「ううん、私は何もしてないよ」
「そんなことないですよ…さっきは、あんな事言いましたけど……十時さんがどうしてSランクなのか、少しわかった気がします」
「もー、だからそんな大げさな事言わないでよー…それに、愛梨でいいよ!」
「……愛梨さん?」
「なぁに?」
「ここ、クリームついてますよ」
「え、嘘!?どこどこ?」
「もー!」
「ふふふ……私も、いつかこの人みたいに…」
「ん?泰葉ちゃん何か言った?」
「いえ……あ、そろそろ時間か…」
「えー、もう行っちゃうの?」
「すいません…次の仕事がありますから」
「あはは、冗談だよ……応援してるからね!」
「ありがとうございます……愛梨さんも、頑張って下さい」
「ありがとう!………それじゃあ」
「またね」
「また、今度」
《現代》
憤怒の街、学校、体育館。
「───泰葉ちゃ──ッ!?」
開いた大穴から、中に飛び込んだ愛梨。
真実を知るために、仲間の力を借り、友人に思いを託され、たどり着いた最深部。
だが、突入した瞬間、途方もない程濃い障気が身体を包み込んできた。
「なに……これ…こんなに…」
明らかに異常な障気、そして体育館全体に蔓延る狂った魔力、さらには異常な暑さ。
居るだけで息苦しくなるような空間を、しかし愛梨は突き進む。
───明かりは、入ってきた穴と反対側の壁に開いたもう一つの穴から差し込む光のみ。
───確かに、この場所に居る。
───圧倒的で、暴力的な存在感を感じ取っていた。
「ッああああ!!?」
「!?」
突然響く叫び声、飛んでくる人型の影。
とっさに風を操り勢いを殺し、受け止めるとそれは泰葉ではないが、人であった。
特徴的な、火を思わせる踊り子装束を纏ったその姿は、最近になってテレビに出るようになったアイドルヒーローの女性だ。
だが、今この時受け止めた彼女の姿は、顔色は青ざめ戦闘による傷をいくつも受けており───火傷のような痕まで見られた。
「はぁ……はぁ…あなたは…?」
だが、愛梨が答えるより先に『彼女』が愛梨の前に現れ―――視線が交差する
「………来たんですか、愛梨さん」
「………ここまで来たよ、泰葉ちゃん」
声のする方、暗闇に浮かぶ同じ六つの顔。
そして、その奥。
そこに、愛梨が探し求めた『本物の岡崎泰葉』が居た。
「……愛、梨?…あれ…どこかで……?」
受け止めた彼女が、名前を聞いて反応するが、愛梨はある事に気を取られていた。
「………ッ!」
「あぁ、この腕ですか?……ここに入ってから急になったんですよ」
愛梨が見つめるのは『右腕』。
───一言で表すならば『竜の腕』
そう呼ぶにふさわしい、身体とは不釣り合いな大きさの、鱗に覆われ鋭利な爪が生えた右腕が泰葉に備わっていた。
「アイツの計画通りなのが本当に忌々しいですが……」
「……アイツ?」
「貴女には関係ない事です……で、今更何をしに来たんですか?」
「……止めるために、知るために、来たよ」
「は、何を……あぁ腹立たしい………今度こそ、この手で───」
「───殺します」
「離れて下さい!」
明確な殺気を滲ませながら迫る六人の分身泰葉を迎え撃つべく、風の槍を生み出し愛梨は踊り子から前にでる。
そのまま、最前列の一体が力任せに振るう一撃を受け止める。
「───私は!」
───ように見せかけ回廊を使い後退、目の前で空振りをした分身に槍を突き刺し、瞬時に生み出した突風で吹き飛ばす。
「貴女が、貴女さえ居なければ!」
三方向から飛びかかる分身を、小型の竜巻を作り出し強引に弾く。
「それで、本当にいいの!?こんな事をして、そんな───」
更に迫る二体を真空の刃で足止めし、瞬く間に頭上へと移動した後に圧縮した風の鎚を叩きつける。
「───黙れ!」
「くうっ!」
ついに本体が動き、竜の腕と風の槍がぶつかり合う。
「その程度ですか!」
「まだまだ!」
その瞬間、単純な力では不利だと判断した愛梨が競り合うのを諦め右に左にと次々に攻撃を繰り出すが、その全てを受け止め、避けられる。
「ちょこまかと……消えて下さい!」
「ッ、危ない!」
「え…!?」
攻撃を繰り出した隙を突かれ、切り裂こうとふるわれた竜の爪を回廊で避けるが、腕自体に魔力が宿っているためか避けきれず肩を浅く切られる。
しかし、それでも距離を離すことに成功した愛梨だったが、今まで離れて見ていた踊り子が声を上げる。
───同時に、赤と黒の炎が激突した。
「…忌々しい、この炎に焼かれてまだそんな力が残ってたんですか?」
「生憎とね……気をつけて!あの黒い炎は普通じゃないよ!」
「煩いですね……潰せ!」
聖火の踊り子──斉藤洋子が立ち上がると同時に、分身が叩き潰すべく殺到する。
「こっちは引き受けたよ!」
「そんな体じゃ──ッ」
「他人の心配が出来るんですか?…腹立たしい!!」
洋子に気を配った瞬間、竜の腕を叩きつけられたがなんとか避ける。
「───泰葉ちゃん!」
「───消えて下さい、愛梨さん!」
夢を見失った彼女と、夢に絶望した彼女。
二人の『王』が、とうとう死闘を始めたのだった……
続く?
岡崎泰葉[変化形態]
憤怒の街の力を集約し、泰葉が変異した姿。
右腕が丸ごと、大きな竜の腕のようになり全体的なステータスが強化されている。
また、障気と魔力が合わさった黒い炎を操ることも可能になり、掠っただけでも障気が体の内側から蝕んでいく。
憤怒の王に至るまでの一つの通過点に過ぎないが、その力は既にカースドヒューマン時とは比べ物にならない。
イベント情報
・戦闘の最中に洋子と泰葉が体育館に移動していました。
・愛梨と泰葉が激突しました。
・洋子が分身を相手にしてしています。
・体育館には大量の障気と魔力が充満しているようです。
・体育館の障気と魔力の影響で泰葉の右腕が変異、黒い炎を操れるようになりました。
投下終了、思うがままに書いてたらこうなったけど気にしないことにしました。
そして、やっと愛梨vs泰葉が書けました…
とにもかくにも、お目汚し失礼しましたー。
おつー
先輩が……先輩がぁぁ!
学園祭時系列で投下しますー
マキノ「度し難いな……全く度し難い……」
マキノは学園祭の喧騒の中を、ブツブツ呟きながら一人歩いていた。
先ほどのカースドヒューマンとの戦い。
普段のマキノなら、光学迷彩が発動しない時点でそのまま逃げ出しただろう。
マリナの居場所の情報は掴めなくなるが、そもそもそんな命令は受けていないので問題は無い。
ならば何故、あの時自分は逃げなかった?
それは無論、みりあという少女を救う為だろう。
となると、すぐに次の疑問が生まれる。
何故みりあを救おうとした?
マキノの信条は「自分の命より大事なのは海皇だけ」のはずだ。
分からない。今のマキノには、その答えが全く見つけられなかった。
マキノ「……実に度し難いな……」
もう何度目かも分からないその言葉を口にした、その時。
??「マーキノッ♪」
ポンと肩を叩かれて振り向くと、そこにはここにいるはずのない人物が立っていた。
マキノ「何故ここにいるの、サヤ」
サヤは以前の出撃で深手を負い、未だベッドの上の生活だったはずだ。
サヤ「今日はリハビリなのよぉ。一応ペラちゃんは連れて来てるけどぉ」
見上げると、ペラが尻尾の根元に紐をくくりつけて浮かんでいた。
そして、その紐の端はサヤの左手に握られている。
……風船にでも化けたつもりだろうか?
サヤ「もちろん、リードは忘れずにね♪」
違った。
サヤ「それで、マキノの姿が見えたから、ね☆」
マキノ「そう。まあ、いいけど」
サヤが元気そうなので、マキノも少し安心した。
何せ、帰還直後の彼女は目も当てられないほどに凄惨だったからだ。
サヤ「ねえねえマキノ、一緒にお祭りまわりましょうよぉ♪」
マキノ「……ええ、いいわ。どうせ一人で退屈だったもの」
サヤ「わあい☆ あっ、ねえ、アレなにかしら?」
サヤはマキノと共に屋台を覗き込む。
……まさにニアミスと言えるだろう。
屋台を覗き込む二人の後ろを、ほたると乃々が通り過ぎていったのだ。
双方、この場ではお互いの存在に気付く事は無かった。
――――――――――――
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サヤ「ここなんてどぉ?」
サヤとマキノが足を止めた教室の前には、『メイド喫茶エトランゼ☆出張店☆』と書かれた看板。
マキノ「……こういうのは、女子二人で入るものではないのではなくて?」
マキノは眉をひそめてそう言ったが、サヤはお構いなしだった。
サヤ「いいじゃなぁい、気分よ気分♪」
サヤがガラッと戸を開けると、ミニスカートのメイド服を着た女性がこちらへ振り向いた。
亜季「お帰りなさいませ、お嬢さ……!?」
女性の来客を迎える定型文を言いかけた亜季が、その場でフリーズする。
サヤ「あら」
亜季「……親衛隊が、メイド喫茶に何の用でしょうか」
亜季はキッとサヤを睨み付ける。
マキノ「サヤ、こちらの女性は知り合いなの?」
サヤ「ええ、カイのお仲間さんよぉ。亜季ちゃん、だっけ」
亜季はその鋭い眼光をマキノへも向ける。
亜季「こちらの方も親衛隊で?」
サヤ「ええ。マキノっていうのぉ」
マキノ「ちょっと、サヤ?」
マキノは慌てた。敵に何をポンポン情報開示しているのかこやつは。
サヤ「まあまあマキノ。……亜季ちゃん、今日はサヤ達、ただのお客さんだから、ね?」
亜季「…………」
そうは言っても、敵は敵。そうさっさと割り切れるものではない。
みく「……亜季チャン、こっちのお嬢様達はみくがご案内するから、亜季チャンは向こうのテーブルをお願いにゃ」
店の奥から猫耳姿のメイド……みくが現われ、亜季の肩をポンと叩いた。
亜季「りょ、了解であります。…………すみません、みく殿」
みく「ノープロブレムにゃ♪」
みくとサヤ達に軽く頭を下げ、亜季は奥のテーブルへと向かった。
みく(このお嬢様と亜季チャンには何かインネンがあるみたいだにゃあ……みくが助け舟にゃあ)
みく「さあさお嬢様、こっちのテーブルにゃあ♪」
みくに促されるまま、サヤとマキノはテーブルに着いた。
みく「ご注文がお決まりになったら、そのベルで呼んでほしいにゃあ」
サヤ「あ、メイドさん。ちょっといいかしらぁ」
テーブルを離れかけたみくを、サヤが呼び止める。
サヤ「この子、今日誕生日なんだけど。何か特別なメニューとかあるかしらぁ?」
マキノ「えっ……?」
みく「バースデーメニューはこちらだにゃ」
サヤ「それじゃあ、このバースデーAセットを一つお願いねぇ」
みく「かしこまりましたにゃ!」
威勢のいい返事と共に、みくが裏へと下がっていく。
マキノ「……そういえば、もうそんな日だったかしら」
このところ働きづめで、マキノは自分の誕生日の事すら忘れていた。
忘れていたというよりは、むしろ。
マキノ「……物心ついてからは、こうして大々的に祝われるのは初めてね」
サヤ「……お父さん、めったに家に帰らないんだっけ?」
マキノ「ええ。私も人のことは言えないけれどね」
マキノも、科学班工学チーム責任者である父も、家に帰らない日のほうが遥かに多い。
家では、母が一人で過ごしていることがほとんどなのだ。
サヤ「誕生日くらい、家に帰ればいいのに」
マキノ「そうはいかないわ。私の勝手な都合で海皇宮を離れて、その間に大事があったら……」
サヤ「……親衛隊は、マキノ一人じゃないのよぉ?」
マキノ「それは分かっているわ。サヤ達を信用していないわけでもない。ただ……」
マキノは俯いて言葉を切る。
サヤ「……?」
マキノ「…………何でもないわ。祝ってくれてありがとう、サヤ」
サヤへ向けて優しく微笑む。
任務上、作り笑顔は慣れたものだが、これは心から出た笑顔だった。
サヤ「……んふっ、どういたしましてぇ。ほら、料理が来たみたいよぉ」
見ると、いくつかの小皿を乗せたトレイを持って、みくがこちらへ歩いてきていた。
みく「はーい、バースデーAセット、まずは前菜おまちどうにゃあ♪」
終わり
・イベント追加情報
サヤがリハビリで地上を訪れています。
サヤとマキノは現在エトランゼで食事中です。
以上です
マキノ誕生日というよりはマキノの内面掘り下げみたいになった
みくお借りしました
先輩人間やめてるし、ケーキ食べるクルクル金髪ティロフィナーレさんいるし
アイドルとは死ぬことと見つけるフラグ
静かに進む学園祭に
特に波紋を投げかけるわけでもない短編ひとつ投下
比奈「……あー。ネタに詰まった感じっすねぇ」
泉「大丈夫?」
比奈「へーきっスよ。うん、まぁ……あと3……5日までは引き延ばせるし、どうにか……」
泉「……背景、コピーしようか?」
比奈「いや、背景だけで話は………いける?」
泉「何か閃いたのかな」
比奈「そうっスねぇ。いっそ今回は説明の回……あ、でもアンケ下がるのは辛いから、息抜き的なものをね……」
泉「息抜き、か……」
比奈「そうそう。緩急が大事なんスよ、かんきゅーが」
泉「緩急……私、緩みっぱなしなんだけどいいのかな」
比奈「あー、未来を救う……でしたっけ? そんなに肩肘張っても仕方ないと思いまスよ?」
泉「そう、なのかな」
比奈「そうっス。もっと適当に……って言ったら悪いですけど。そんな未来につながるにはこの世界は賑やかすぎません?」
泉「………たしかに、その通りだけど」
比奈「諦めろってわけじゃないでスよ? ただ、ここでできることっていうのが何か結局はっきりしてないんでしょう?」
泉「……そうだね」
比奈「だったら、もうちょっと未来を見る前に……この場の現実を見るべきだと思うんスよねぇ……」
泉「……締切は本当は明日。残り8ページ?」
比奈「……」
泉「……ねぇ、この場の現実って――」
比奈「やめましょう! はいやめ!」
泉「だけど【この場の現実は締切にどうやったって間に合わな――】」
バ リ ィ ―――
泉「………あれ?」
比奈「だけど、なんスか?」
泉「なんだっけ。えーっと……」
比奈(……ふぅ。『どうやったって締切が間に合わない』なんて、言われたら余計心折られちゃうところっスよ、もう)
泉「………そうだ、たぶん話は変わるんだけど」
比奈「ん、なんスか?」
泉「外が騒がしいのは、何かな?」
比奈「外? んー……あー、そっか、そういう時期かぁ……」
泉「時期って……?」
比奈「このあたりって、面白いイベントがあるんスよ」
泉「イベント……どういうの?」
比奈「――文化祭って、知ってまスか?」
――――
――
比奈「というわけで、歴史やらなんやらがあるわけでスよ」
泉「………自分たちで考えて、新しいものを作り、演じる……か」
比奈「う、うん? そんなたいそうなものじゃ……」
泉「うらやましいな。すごく……『楽しそう』……」
比奈「………」
泉「あ、ごめん……えっと、続き描く? ベタぐらいなら範囲指定ペーストしなくてもできるようになったよ」
比奈「……あー! 辛気臭いのはあんまり好きじゃないんスよね」
泉「え?」
比奈「どうせでスし、ネタ探しの旅にでましょうか!」
泉「ネタ探し……でも、原稿……」
比奈「いいから! ほら、このまま籠ってても碌なもん書けねーっスよ!」
泉「この前『外は物騒だし碌なことはないから家で書くに限るっス』って」
比奈「言ってない!」
泉「……そうなのかな? でも私の『ワード』に保存してある音声データでは――」
比奈「お、音声データァ!? そんな、アタシが切り取ったものがどうして!」
泉「私のは音声そのものを保存してるんじゃなくて、特定日時の特定空間から音声ってデータだけを引っ張ってるんであって……」
比奈「……マジっスか」
泉「マジよ」
比奈「うわぁ………」
泉「………ねぇ」
比奈「………はい」
泉「……2週間前に貸した500円返して」
比奈「はい……」
おわり
!荒木比奈と大石泉が学園祭にネタ探しに出発しました
―面白げなことに首を突っ込む気はありますが、深入りする気も特にないようです
比奈せんせーおかりしましたぁー
>>895
遅ればせながらマキノさん誕生日おめでとー
ペラって1.5メートルもあるエイだったね、目立つw
コスプレの延長だと思ってもらえるかな
>>905
荒木先生はすごく人間らしいなとw
基本的にはいい人だけど、500円はちゃんと返そうかw
小日向ちゃんの方も急がなきゃなんだけど
同時進行で書いてた財閥の方ができちゃったので
今回はそちらを投下させていただきます
桃華「なかなかどうして」
桃華「うまくいかないものですわね」
桃華「『原罪』を作り出すと言うのは」
彼女はその片手で1つの宝石を弄びながら、愚痴をこぼした
「おヤ?簡単なことでハ無いと承知して始めタ事デあったハズでは?」
彼女の愚痴に答える声が1つ。
「100度製造を試ミテ、1度か2度成功すれば良い方ダと」
「オ嬢様は言ってオラれたはずですガ?」
どこかイントネーションがおかしく感情に乏しそうにも聞こえる、声らしからぬ声。
それは機械音声。
音源はどうやら、彼女の目の前の箱からのようである。
桃華「1.5%の確率に賭けて、本当に1.5%でしか引かないようなわたくしではありませんわ!」
桃華「わたくしは”あんたん”がしたいんですのっ!」
桃華「どれだけ確率が低くても、最初の一回目で当りを引きたいのですわっ!」
桃華「おわかりですの?”Unlimited Box”ちゃま!」
彼女は名前を呼んで、その”箱”を怒鳴りつけた
UB「所詮は電子回路の詰マッた箱でシカナイ私ニ、お嬢様ほドノ御方の繊細な感情ヲ理解シキルなどとてもトテモ」
桃華「よく言いますわ、何のためにあなたに知恵と感情を乗っけたと思ってますの」
桃華(・・・・・・巷で暴れまわってるアンドロイド、たしかイワッシャーでしたわね)
桃華(さらにそのイワッシャーがカースの核に侵食された”カースドイワッシャー”)
桃華(彼らの存在がなければ、原罪を作り上げるのに、)
桃華(このような箱を活用するなんて思いつきもしませんでしたわ)
世間を騒がせるカースドイワッシャーの存在を聞きつけた財閥は、
カースが機械を侵食することができると分かり、
それを参考にとある箱を作り上げた。
彼女の目の前に並ぶ『原罪』を作り上げるための機材、
その全ての管理と制御を一括で行っているそれは、
財閥が用意した”スーパーコンピューター”をベースとして、
桃華がそこに『強欲』のカースの核をぶち込んで作り上げた”カースドコンピューター”。
限度無き渇望の詰まった箱
それが”Unlimited Box”である。
カースの核や負の感情を制御するには、同じく負の存在である必要がある。
コンピューターにそれらの感情をうまく計算させるためにも、感情を理解させる必要がある。
管理コンピューターのカース化はその2つを手っ取り早く実行する最短ルートであった。
桃華「あなたには財閥が、」
桃華「方々から集めた選りすぐりの研究者達」
桃華「その数ざっと百人ほど」
桃華「彼らから、わたくしが”知恵”を”搾取”して」
桃華「作り上げた”英知”を搭載したのですから」
桃華「感情を理解する機能が無いなんて言わせませんわよ」
UB「ふッ、そレは手厳シイ」
『搾取』、マンモンである彼女の持つ能力の1つ。
彼女のそれは奪う力である。
対象の『記憶』でさえ奪って自分のものしてしまえる彼女は、
財閥が連れてきた研究者達から『知恵』を奪い、
それを集め合わせて1つの『英知』を作り上げた。
その『英知』をカースの核に載せて、”UB”の機能としたわけである。
”UB”を作りあげるために百人の研究者の人生が丸っきり台無しとなった訳だが、
そんな事は悪魔は気にしない。
桃華「・・・・・・『原罪』の製造には”核”と”感情”と”知恵”が必要ですわ」
桃華「Pちゃまにエージェントを使わせて集めた七つの罪の”核”」
桃華「同じく、エージェントに集めてきてもらった強い”負の感情”を放つ素材」
桃華「そしてわたくしの用意した最高の”知恵”を搭載したUBちゃま」
桃華「・・・・・・足りないものなんてないはずですわ」
桃華「それでも、それでも『原罪』には未だに至らない」
桃華「どうしても何処かで躓いてしまいますのね」
UB「現在、我々が七つノ大罪を掛け合ワセて『原罪』ヲ作ろうと試みた回数は」
UB「13回デ御座イマス」
UB「その内、5回は製造途中デ ”核” ガ破損したタメに、廃棄」
UB「4回は核の内部ノエネルギーが消失シ、空の核となッタタメにコレも廃棄」
UB「ソシテ3回はカースの形ヲ得る事には成功しましたガ・・・・・・」
桃華「一部の感情が暴走して、他の感情を喰らった結果」
桃華「七つの感情のうちのどれかが欠けたせいで、『原罪』にまでは至りませんでしたわ」
桃華「複数の”大罪”を身に宿すことには成功していたみたいですけれど・・・・・・」
桃華「それはわたくしの求める物ではありませんから、それらは監視をつけて世間に放流」
UB「何ラカの外的要因に触れル事デ、成長スル事がアレバ良いのですが」
桃華「期待できませんわね。おそらくは特に成果も無く、ヒーローにやられてしまうのでしょう」
UB「ソシテ13回目の製造ニテ、ようやく7つの罪ヲ宿ス”核”が産まれマシタ」
12回の失敗を経て、13回目にして、ようやく
核が傷つき、破損することも無く、
その内側には確かな負のエネルギーの脈動を感じることができ、
そして7つのエネルギーが1つたりとも欠けることの無い”核”の製造に成功した。
それが桃華が今手にもつ”13個目の核”である。
桃華「ですが、この核も『原罪』にまでは至っていませんでしたわ」
その手の内側で”白銀色に輝くカースの核”を転がしながら桃華は言う。
そう、その核は”白銀色”であった。
『原罪』に至っているのならば、それは交じり合う”虹色”の輝きを放つはずである。
UB「残念な事デス、おそらくは内側に眠ル罪ノ比率ガ良くナイのでしょう」
UB「アルイはエネルギーそのものが足リテイナイのかもしれませんが」
桃華「どちらにしても失敗は失敗」
桃華「この核は、あえて言うなら『劣化原罪』と言ったところですわね」
桃華「13度の試行、それでも成功しないのなら何か対策が必要になりますわ」
UB「何か考エがアルので?」
桃華「核の内側に込められる罪のバランスが悪いとするのでしたら」
桃華「それはきっとわたくし達の『強欲』が強すぎるのですわ」
UB「材料デハナク、製造する側の問題と言う事デすか」
桃華「あなたは今でこそ『強欲』の感情を持っていますけれど、」
桃華「元はただの電気信号を組み合わせただけの仮想人格」
UB「私に宿ってイルのは純然たる『強欲』」
UB「その他ノ罪の事ハ”知識”として知ってはイますが」
UB「ソレラの罪を持ち合わセテいる訳でハない・・・・・・」
UB「一方でオ嬢様は『強欲』の悪魔デスが、櫻井桃華様と言う人間でもアられる」
UB「私と違って、人間には7つノ罪が全て潜在的に宿ってイルハズです」
桃華「ですが、やはりこの身は『強欲』の悪魔」
桃華「櫻井桃香としての魂は、この『強欲』には匹敵しませんわ」
桃華「わたくし達が核を作ろうとするなら、」
桃華「強すぎる『強欲』が、他の罪とのバランスを狂わせるのかもしれませんわね」
そう考えた彼女は1つの結論に至る。
桃華「『原罪』の製造には協力者が必要ですわ」
UB「悪魔ほどにイズレカの罪に偏っている者では不適ですがネ」
UB「七つの罪を潜在的に持ち合ワセ得る者デアレバ」
UB「人間か、カースドヒューマンでアルならばあるいは」
『原罪』の製造には七つの罪が必要。
潜在的に七つの罪を持ち合わせる人間達が作り上げるならば、
七つのバランスを壊さずに、『原罪』を作り出す事ができると彼女達は考える。
桃華「こんな事なら、あなたを作るために”知識”を搾取するのではなく」
桃華「”意識”を搾取することで、研究者達を完全支配(コントロール)するべきでしたわね」
製造者に人間を用意するなら、それが最も楽な手段であったであろう。
しかし、強欲なる箱は反論する。
UB「いえ、おそらくソレデハ不可能でショウ」
UB「”意識”の搾取ハ、”感情”を薄れサセますカラ」
UB「それでは『原罪』に至るコトは出来ないハズ」
桃華「・・・・・・となれば、『原罪』の製造は一時停止ですわね」
桃華「”協力者”を財閥に招き入れるまでは・・・・・・」
UB「・・・・・・わたくしに”七つの大罪”全てを搭載スルと言う手もありますが?」
強欲の箱が、『強欲』に偏っているのは、
人間ではないために、他の6つの罪を持たないためである。
ならば、この箱に『憤怒』『怠惰』『色欲』『暴食』『傲慢』『嫉妬』の6つの核を加えて搭載すれば、
足りない罪を完全に補うことができるはずである。
桃華「うふっ♪それは無理な相談ですわね」
桃華「あなたが7つの核のエネルギーに耐えられるとは思いませんし」
桃華「仮に成功しても、あなたに”裏切らせる”つもりはありませんもの♪」
UB「・・・・・・ふぅ、ヤレやれ、ドウしてもこの箱を出る機会を頂けマセンカ」
UB「私に七つの罪がアレバ、オ嬢様の”物の支配権”からも逃レらレルと思ったのデスが」
桃華「溜息をついたり、思うなんて表現を使ったり、外に憧れたり」
桃華「うふふ、ことごとくあなたはプログラムの仮想人格らしくありませんわね♪」
桃華「いいですわよ、UBちゃま」
桃華「その欲望に免じて、わたくしの計画が成功した暁には箱から出すことも考えて差し上げますわ♪」
UB「身に余ル御心遣イ、感謝してオリますヨ」
UB「デハ、もう1つ」
UB「サクライP殿に頼めば良イのでは?」
UB「人間の協力者ガ必要でアルなら、あの方ほどノ適任はいないと私は考えマスが?」
桃華「・・・・・・ああ、Pちゃまですの」
UB「・・・・・・何か問題でも?」
桃華「いえ、Pちゃまが人間と呼べるかどうかは・・・・・・少し怪しいところでしたから」
UB「・・・・・・」
UB「ハはっ、あの人は一体 ”何者” なので?」
桃華「うふふっ、私の口からは言えませんわね♪」
強欲の箱の質問を、桃華はただ笑って受け流すのだった。
桃華「まあ、Pちゃまは忙しい方ですから」
桃華「こちらの協力はそのうちに別の方に頼むとしましょう」
――
――
サクライP『なるほど、ではやはり『神の洪水計画』には悪魔が関わっているようだね』
聖來「うん、たぶんね」
聖來「”祟り場”で紗南ちゃんが見つけたカースドヴァンパイアの痕跡」
聖來「その来歴を追ってたどり着いた、とある部屋」
聖來「そこでさくらちゃんが『呪詛』の痕跡を発見したから間違いないよ」
聖來「ずっと前に『嫉妬の蛇竜』って言うのがしばらく暴れていたらしいけど」
聖來「その時と一緒って事は、『嫉妬』の悪魔が関わっているんだろうね」
聖來「紗南ちゃんの『情報収集』は、大きな力を持つ悪魔とかの正体まで迫る事はできないんだけどさ」
聖來「サクライさんは、『嫉妬』の悪魔について知らないの?」
サクライP『さて、どうだったかな』
聖來「・・・・・・」
通信先でとぼける男の言葉に少々苛立つ聖來。
『強欲』の悪魔とつながりのあるサクライPは、
アイドルヒーロー同盟から聖來を通して伝わった『神の洪水計画』についても詳しいことを知っていた。
(もっともそれは魔界での言い伝えレベルの話を、マンモンが推測を交えて彼に語った内容でしかない)
彼は『嫉妬』の悪魔についても確実にある程度の情報を持っているはずである。
サクライP『まあ、それが”人類の敵”となるのならば、僕達財閥も動かなくてはならないだろうね』
サクライP『世界の破壊者は僕にとっても邪魔な敵だ』
マンモンとサクライPの目的は全ての世界の支配である。
そんな彼らにとっては、世界を壊す者は敵。
サクライP『とは言っても、今回は”憤怒の街”の時のように中心地で大々的に動くつもりはない』
サクライP『世界が”それ”に目を向けている間にしか、できない事もあるだろうからね』
聖來「世界が海に沈む危機かもしれないって時に、その裏側で悪巧み?」
サクライP『ははっ、世界はそれほど軟じゃないと信じているだけの事だよ』
サクライP『ああ、もちろんセイラくん。君がヒーローとしてそれを止めるために尽力するのは構わない』
サクライP『必要なものがあったら言ってくれればいい。僕も君の本来の活動の支援を惜しまないつもりさ』
聖來「・・・・・・」
聖來(本当に、この人はどれだけ・・・・・・)
サクライP『そうそう。少し前にウェンディ族が”エージェント”として働いてくれる事になってね』
サクライP『マリナくんと言うんだ。”海底都市”について調べたいなら彼女に聞けばいい』
聖來「・・・・・・わかった、また近いうちに訪ねるよ。その人は何処に居るの?」
サクライP『連絡先は芽衣子くんに伝えてある』
聖來「了解」
サクライP『とにかく、そちらの件については』
サクライP『君に指揮を任せるよ』
サクライP『君の知る限りの”エージェント”達なら好きに動かしてくれていい』
サクライP『今のところ、彼女達に任せている仕事の多くは片手間にでも出来る仕事だからね』
サクライP『さて、こちらからは以上だが』
サクライP『・・・・・・何か聞き残した事はあるかな?』
聖來「サクライさん」
聖來「カースドウェポン計画について聞きたい事があるんだけど」
聖來「今、サクライさんは何処に・・・・・・」
ブチッ
端末から何かが切れるような音がして。
ツー ツー
続いて、無慈悲な音が響くのだった。
聖來「・・・・・・」
聖來「ああぁぁぁあっ!!もうっ!!」
「あははははははははっ!」
一方的に通信を終わらされた、セイラに向けられる1つの笑い声。
チナミ「珍しく怒るのね、セイラ」
そこには日傘を差して佇む、一人の女性。
聖來「・・・・・・勝手すぎるよ、あの人は」
現在、”エージェント”の2人は、とある病院の屋上に居た。
財閥の運営する病院の1つ。
ここにやってきたのは、彼女達が『神の洪水計画』や『カースドウェポン計画』について調べて回る際に、
引き連れていた少女の頼みであった。
少女が彼女の両親の見舞いに行っている間に、
聖來はサクライPに連絡を取っていた次第である。
チナミ「『神の洪水計画』ねぇ」
チナミ「あなたに一任って事は、よっぽど追いかけられたくないみたいね、サクライは」
聖來「フリーのヒーローとしても、”エージェント”としても、今回アタシは動かないといけない」
聖來「こっちに手を回す余裕が無いわけだ」
『神の洪水計画』と『カースドウェポン計画』、二兎を追う事は彼女にはできない。
優先するべきは明確に世界の危機が迫っている前者。
聖來が『神の洪水計画』を追っている間にも、
サクライPは『カースドウェポン計画』を着実に進めるつもりであるのだろう。
チナミ「でも、まあいいんじゃない?」
チナミ「『カースドウェポン計画』は”神を殺す武器”を作る計画だって分かってるんだし」
チナミ「すぐにでも完成する物じゃないんでしょ、きっと」
チナミ「それなら焦ることも無いわよ」
チナミ「私としては、それが完成したところを横取りできたら万歳サイコーってところね」
聖來「まあ、チナミはそれでいいんだろうけどさ・・・・・・」
少し呆れたように呟く聖來。
聖來「・・・・・・」
聖來「神様を殺したらこの世界はどうなるんだろうね」
チナミ「・・・・・・さあ?」
チナミ「案外、消えてなくなるのかもね」
聖來「・・・・・・そうだとしたら引っ掛かるけどね」
チナミ「まあね。サクライの目的は世界の支配」
チナミ「世界の全てを手に入れることが、あの男の最終目標」
チナミ「『憤怒の街』や『神の洪水計画』に関してのあの男の動きを思えば、」
チナミ「進んで世界を壊そうとするわけがないものね」
チナミ「ま、それなら”神”を殺そうとしている事自体がそもそもおかしいのだけど」
聖來「うーん、本当は神をバラバラにしたいって訳じゃないのかなぁ」
チナミ「どうだか」
チナミ「で、セイラ?あなたはこれからどうするの?」
彼女の方針を尋ねる吸血鬼。
聖來「教会に向かうよ」
チナミ「教会ぃ?」
聖來「うん、そこには『神の洪水計画』について何か重要な事を知ってる人が居る筈だから」
紗南の能力で辿り着いた部屋を調べることで、聖來は幾つかの情報を手に入れていた。
その部屋の本来の持ち主が悪魔によって一時閉じ込められていたこと。
そして、その女性が悪魔の手から逃れて向かったと推測される場所についてもだ。
チナミ「・・・・・・」
チナミ「パス」
聖來「はいはい、チナミは付いてこないと思ったよ」
聖來「吸血鬼は教会苦手だろうしね」
チナミ「”吸血鬼は”って言うか、”私は”だけどね」
チナミ「どうしても受け付けないのよ、肌に合わないって言うか」
チナミ「あんな所で活動できる吸血鬼がいるなら、顔を見てみたいものね」
チナミ「さてと、そう言うわけだから私は”お祭り”にでも行ってくるわ」
聖來「お祭り?あぁ、『秋炎絢爛祭』かぁ」
聖來「チナミはそう言うのって興味あるの?」
チナミ「ええ、”面白そう”だとは思ってるわよ」
そう言って、彼女は病院の屋上から遠くを見つめる。
どうやら京華学院の方を見つめているらしい。
吸血鬼の視力であるならば、ここから遠くの学院の様子も見えるのだろうか。
チナミ(祟り場の時に、鬼にやられた私の眷族も増やしたいものね)
彼女はあの時、七振りを持つ鬼に挑んで、眷族を減らしている。
欠員によって減少した戦力を補充するために、人の集まる祭りに向かおうと考えていた。
チナミ(眷族にするなら能力者がいいわね)
チナミ(”エージェント”に所属してからは、面白い力を持つ人間にも出会えた)
チナミ(そう言う類の人間が、あの祭りにはきっと紛れているはず)
聖來「・・・・・・チナミ、何か企んでる?」
チナミ「ふふっ、ぜんぜん企んでなんかないわよ」
聖來「怪しい」
訝しむ目で吸血鬼を見つめる聖來。
彼女に人間を襲う予定である事を伝えれば、面倒な事になるだろう。
チナミ(さっさとこの場を離れるのが無難かしらね)
そのように考えた彼女は自らの体を少しずつ霧に変えていく。
チナミ「セイラ、そっちも何か面白そうな事があったら教えてよね」
そんな言葉を残して、吸血鬼は影へと消えていった。
聖來「・・・・・・・」
聖來「はあ、これじゃあ手が幾つあっても足りないな・・・・・・・」
――
――
さて、吸血鬼が去ってからしばらくして
病院の屋上の扉が開かれた。
紗南「セイラさん、お待たせ!」
聖來「ご両親との面会はできたのかな?」
紗南「うん、思ったより回復してるみたい」
紗南「まだ体を動かすのは辛いみたいだったけど」
紗南「でも起きてる間にたくさん話せたよ、学校に行けるようになった事とかさ」
笑顔で話す紗南。
聖來「そっか、それは良かった」
少し前まで、彼女の両親は『怠惰』にその身を侵され、眠りから覚める事すらなかった。
時間の経過によって『怠惰』の毒は少しずつ抜けて、
今では日にほんの1、2時間程度だが、目を覚まして話すことができるようになったのだ。
回復は順調に進んでいるらしい。
紗南「ところでチナミさんは?」
聖來「お祭りの方に行っちゃったよ」
紗南「・・・・・・”エージェント”ってまとまりのある行動はできないの?」
聖來「あははっ、耳が痛いね」
呆れた顔をする紗南であった。
聖來「紗南ちゃんは、どうする?」
聖來「せっかくだし、今からでも文化祭の方に戻ってもいいんじゃない?お友達も居るんでしょ?」
紗南「・・・・・・うん、だけどしばらく休んでたからちょっと居づらいんだよね」
本日、紗南は学校を欠席してこの病院にやってきた。
休んだ理由は、起きている時間の限られる両親とできるだけ顔を合わせたかった事もあるが、
その他にも、クラスでの居心地の悪さも理由であった。
紗南「ベルフェゴールに憑かれていた期間の事とかぜんぜん覚えてないしさ」
紗南「文化祭も・・・・・・その・・・・・・・なんかみんなと距離があって」
聖來「・・・・・・」
彼女は悪魔に憑かれていた期間の事は覚えてないし、
かの『怠惰』の悪魔は、当然だがほとんど学校を欠席していた。
その結果、彼女は普通の中学生としては周りから置いていかれてしまったのだ。
『怠惰』の悪魔から開放されて、こうして学校に通える事になっても、
友人達と出来てしまった距離は14才の少女には重く圧し掛かっている。
聖來「・・・・・・確かに紗南ちゃんは辛い立場なんだと思う」
聖來「悪魔に”自分の時間”を盗られてしまうなんて、」
聖來「すっごく理不尽でやりきれない事だから」
紗南「・・・・・・うん」
少女は理不尽に悪魔に時間を奪われた。
色んな関係を、色んな可能性を、奪われてしまった。
聖來「だけど、紗南ちゃん次第でその距離はすぐに無くなるんじゃないかな」
紗南「・・・・・・アタシ、次第?」
聖來「うん、すぐに追いつくのは難しいかもしれないけど」
聖來「でも紗南ちゃんが追いつきたいって思うなら絶対追いつけるよ」
紗南「今からでも追いつけるのかな・・・・・・?」
聖來「もちろんっ!」
聖來「そうだねぇ、一人で苦しいなら、アタシは幾らでも手を貸すよ」
紗南「セイラさん・・・・・・・」
聖來(・・・・・・はぁ、ついまたカッコつけちゃった)
聖來(でもカッコつけるのがヒーローだと思うし・・・・・・)
聖來(うーん、この調子だとアタシ、何本手があればいいんだか・・・・・・)
紗南「セイラさん、ありがとう」
彼女は笑顔でヒーローにお礼を言う
聖來(だけど・・・・・・こんな風に笑顔でお礼を言われちゃったら)
聖來(無茶もしたくなっちゃうよね)
紗南「それじゃあアタシ・・・・・・」
紗南「 明 日 っから頑張るよっ!!」
聖來「・・・・・・」
聖來「明日からっ?!!」
まさかの発言が飛び出した。
怠惰の代名詞
『明日から頑張る』 である。
聖來「えっ、えぇっ」
聖來「さ、紗南ちゃん・・・・・そこは今日から頑張ってくれないと」
聖來「ちょっとアタシがカッコつかないかなぁって」
紗南「だって今日頑張るのはめんどくさい」
聖來(紗南ちゃんっ!?!)
なんと言う事だろう。
『怠惰』の悪魔から開放されたと思った少女は、
結局、『怠惰』な少女のままなのだろうか。
紗南「って言う訳じゃなくって」
紗南「アタシ、今日はセイラさんを手伝いたいから」
聖來「えっ」
もちろんそんな事は無い。
彼女は、『怠惰』は卒業したのだから。
紗南「文化祭は五日間あるんだ」
紗南「まだ四日もあるから、学校の事は明日からでも全然間に合うよっ」
紗南「それよりも、今はセイラさんの事が心配」
紗南「セイラさんがアタシの事心配してくれてたみたいにねっ!」
そう言って、Vサインをする。
聖來「・・・・・・」
紗南「学校にはもう欠席の連絡もしちゃったしさ」
紗南「今更、アタシが幾ら学校休んだって大して変わらないよ」
ちなみに三好紗南の出席日数、
ベルフェゴールだった時代の事もあって結構酷い。
ついでに言うと成績も酷い。(これはあまりベルフェゴールのせいではない)
とは言え、中学校は義務教育であるし、
彼女自身望んでそうなった訳ではないが、既にお金を貰って働いている身だ。
出席日数が酷くたって、どうにでもなりはする立場だ。
紗南「だったらアタシが、今日1日くらいセイラさんの事手伝ったっていいじゃん」
紗南「『神の洪水計画』について調べるんだったよね?」
紗南「アタシの能力必要でしょ?」
聖來「・・・・・・・あは、あははっ」
聖來「一本取られちゃったな」
聖來「カッコいいよ、差南ちゃん」
紗南「へへへっ」
少女は鼻を掻いて笑う。
元ヒーローが思うよりも、彼女はずっと強かった。
自分の強さをちゃんと理解していて、自分のやりたい事をきちんと選べる少女だった。
聖來「じゃあ、今日一日はお願いしてもいいかな、紗南ちゃん」
紗南「うんっ!世界の危機を救うために何か出来るなんて燃えちゃうからね!任せてよっ!」
文化祭の初日。
この日だけは紗南は、聖來の調べ物を手伝うこととなった。
それぞれの思いを胸に財閥は動き始めた。
おしまい
『Unlimited Box(強欲なる箱)』
研究者百人ほどの知恵を搾取して作り上げた、マンモンちゃま自慢の英知と、
『強欲』の核をぶち込まれた事で、知識と『強欲』の感情を持つに至ったカースドスーパーコンピューター。
底知れぬ欲望を身に宿す限度なき箱。底もなければリセットもできない箱。
マンモンに『物の支配権』によって生殺与奪の権利を握られてるので、
彼女に従い、箱の中で文句も言わずひたすら『原罪』を作るための計算と作業を続けている。
イントネーションのおかしい機械音声で話すが、実は単なるキャラ付けであり普通の言葉を発することも難なく出来るらしい。
『財閥の放流したカース』
”Unlimited Box”が作り出した、複数の属性を持つカース3体。
属性が7つには足りず、『原罪』には至れなかった。
かつての『強欲の王』のように外の世界で何かに触れる事で、『原罪』まで成長する可能性を考慮し、
財閥が監視を付けて、世間に放流したようだ。
『白銀色の核』
”Unlimited Box”が作り出した、『原罪』に近かったが、至らなかった核。『劣化原罪』。
◆方針
水木聖來 → 『神の洪水計画』について調べるため教会へ
三好紗南 → 水木聖來の手伝い中、学祭には二日目から向かう
チナミ → 眷族を増やすために主に能力者を狙って学祭へ
櫻井桃華 → 『原罪』を手にするためにあれこれやってる
サクライP → 何処で何してるのだか
財閥の近況を少々
主にちゃまが厳選作業をやっていたと言うお話でしたー
ボックスから6V(7属性持ち)以外は野に逃がす作業
放流した方のカースは特にフォーカスする予定も無いので、良ければ好きに扱ってください
今回エージェントがお邪魔させていただいていたのは
祟り場にあったと思われる元瑞樹さんの部屋ですね
祟り場の影響でロリ島さんが脱走したので、流石に祟り場内の地続きにあると部屋だとは思います
そのすぐ近くの部屋からカースドヴァンパイアも祟り場に放たれてるので
え?大罪の悪魔が痕跡残すのかって?
さ、さくらちゃんがもの凄いんだよ・・・・・・きっと
他にまずそうなこともあったらご指摘ください
やらかしてたら吊ってきますので
久々に投下
学園祭時系列です
正義…ヒーロー。それは民衆を引き付ける。例えそれが偽りの善であっても、正義は確実に民衆の心に安心を与える。
この世界のヒーローを名乗る者。彼らが本当に善なのかはこの際関係ない。例えヒーローが別の目的のための踏台でも、悪を倒した実績が正義なのだ。
力無き民衆は『ヒーローに守られる自分』に安心して、無意識に正義に依存して同時にいつでも正義を求める。
一度正義と認められれば壁が破壊されようが、道にヒビが入ろうが、爆発が起きようが認められる。
ただ民衆は、正義が悪を倒すことを求める。映像を、己の瞳を通して。それが安心につながるから。
例の死神事件の時だって、あんなに恐ろしい魔術を操る所を映像で見ても、民衆はその安心感があるから外を出歩いていた。
『ヒーローはいつでも悪を倒す存在である』と、正義を信じているから。
やけに都合のいい、正義が勝つという盲信をしているから。
「…ライトを送り込んだ子供が来ているのか…民衆共も多いし、アイドルヒーローもライブするって日程にあるし…丁度いいな」
黒兎と同じく、白兎も勝手に抜け出していた。目的は南条光。
この環境ならいいデータになるだろう。ヒーローに頼る人が、ヒーローを愛する者が居ればいる程、正義の呪いは力を増していく。
「まずは様子を見ないとな、そこから必要があれば手を加えていけば…うん、うん!」
実に楽しそうに、白兎は邪悪な笑みを浮かべていた。
光は明日から行われるヒーローショーのリハーサルを舞台で出演メンバーと共に行っていた。
「ぎゃおー!ぎゃおー!がおおおお!」
「ハーッハッハッハ!邪悪なドラゴンを蘇らせてやったわ!これでアンタもお終いよ!」
「まだだ!終わりなんかじゃない!正義は勝つんだ!」
リハーサルの振り分け時間は短い、だからライトやスモークの演出を一気に確認できるドラゴン戦直前のシーンだ。
「はいオッケー!問題ないよ!撤収ー!!」
「ありがとうございましたっ!」
「お疲れさーん!」
小道具や一部持ち込みの機材を回収してすぐに引っ込む。
五日分のリハーサルをアイドルヒーロー等はともかく基本的に今日の昼過ぎまでで一気に行うのだから時間はないのだ。
「衣装脱いで!シワとかつけないでね!」
「鈴帆の着ぐるみは…えーっと預けるんだっけ?」
大きなドラゴンの着ぐるみを大きな段ボールに丁寧に入れる鈴帆に質問が飛ぶ。
「そーばい、さすがに毎日これを持ってくるのは辛か…バスとか電車に入れんけん…」
「あー…なるほど」
「しっかしアンタのその着ぐるみ、よくそこまで大きくできたわね…」
かなり大きなそれは、手作りと聞いて誰もが驚愕した程の出来だ。
「…殆どばっちゃんが手伝っちくれたけん…あんまり仕事なかったと…でもそのおかげで意外と早く終わったたい!」
「鈴帆のおばあちゃん何者なんだよ…」
「どう考えてもプロの技だよこれ…」
ショーのメンバー全員が着替えを終え、控室から速やかに退出しようとした…その時、ふと鈴帆が光の腕輪に気が付いた。
ショーの時は衣装に合わないからと、外しておいたのだ。
「ん?光っち、こぎゃん腕輪…もっとったっけ?」
「…!さ、触るな!!」
光の白い腕輪に近づけた鈴帆の手を、思わず振り払ってしまった。
「うぉっ!…すまんたい、大切な物だったと?」
「…あ、ゴメン…うん、大事なんだ…でもゴメン…振り払うつもりはなかったのに…」
「よかよか。怪我もないけん、気にせんでよかよ!」
光は慌てて謝る。そんなことするつもりはなかったのに…腕輪を守る為、腕が勝手に動くような…そんな感覚に襲われていた。
「何騒いでるのよ、次が来るのよ…」
控室から出ようとしていた麗奈は、その声に振り向いて…
「…!?」
一瞬だけ、光の見た目がおかしく見えたのだ。髪は真っ白、瞳が真っ赤になっているように見えた。
他のメンバーはきっとそうは見えていなかっただろう。しかし、一度悪魔の呪いの力を宿していた彼女は…一瞬、呪いに侵されつつある光を見ていた。
「…麗奈、アタシの顔に何かついてる?」
少し茫然と光を見つめていたからか、光が少し不思議そうに問いかけた。
「あー…マヌケ面ならついてるけど?」
「なんだとー!?」
誤魔化しながらも麗奈はすっきりしなかった。
(…気のせい…?それにしてはなんだか…)
心がざわついた。気のせいと思い込みたいという心、絶対に何か起きていると確信する心がごちゃごちゃになっている気がした。
(…一応、観察だけ、観察だけはしておこうかしら。アイツが心配だからじゃないわ!本番でヒーローショーをぶち壊してレイナサマ・オンステージにする隙を伺う為よ!)
心の中で誰かに言い訳しながら、麗奈はこっそりと決心した。
…十数分前
白い泥がカギを開け、控室に侵入してくる。
その気配に腕輪の形態をとっていたライトが白猫に姿を変えて出迎えた。
「ライト、調子はどうだ?」
「やぁママ。いい感じだよ、順調に正義を執行してる。この前なんて不法投棄のトラックを破壊してやったよ」
「ふーん、浸食は?」
「彼女の中の聖なる力がジャマだね、まだ完全に浸食したわけじゃない。だから利用する方向で考えてるよ」
「期待してるよ。まだ力が足りない。力を得るまで…油断はしないで行こうな?」
「わかってるよママ。ボクはママの正義の道具でしかないんだから、道具としてちゃんと役目を果たすよ」
極めて無機質な瞳で見つめながら、ライトは白兎に言う。それが彼の存在意義なのだ。
「だってママは勝つんだろう?争いも無い、平和でシアワセな世界に変えてくれるんだろう?」
「そう、それでいい。民衆共の期待通り、『正義は勝つ』。それでいい…正義は何でも手に入れられる…たとえそれが世界であっても」
白兎はあまりにも自らの『呪い』としての存在に忠実だった。
力を持っているなら、使ってしまえばいい。
世界を壊せるなら、変えられるなら、やってしまえばいい。
ためらう事はない。力を持つ者は正義になれるのだから。
自分は生命体の頂点に立つ者なのだから。
…だって
「こんな世界…いらない」
孤独、嘆き、怒り、痛み、狂気、絶望。それを知りすぎ少女として生きられなくなった、少女の揺れ動く感情の成れの果ての一つであるが故に、確かにわかることは。
「『理不尽な運命によって理不尽な力を身に着けた彼女は、理不尽な理屈を持って理不尽な世界を壊したかった』。それだけ。」
それは壊れてしまった少女の抱いた感情の一つだったということだけだった。
たった一つだけ、それでも決定的に違う事は、白兎は『それしか考えられない』存在という事だけ。
それが彼女が狂っている原因であり存在が呪いという事であった。
精神が崩壊し心が分裂し、そして肉体までもが物理的に分裂できるために起きた、非常にややこしい出来事。
『神谷奈緒』はこの世界を受け入れている。彼女の一部であった白兎は、彼女と分かり合えそうになかった。
もう彼女を縛る鎖はない。もう彼女の力を封じる物はない。
世界を手の上で転がすことを、ただ求めた。
「ママ、ボクはこの祭り、どう動けばいいかな?」
ライトが問いかける。絶好の機会を見逃さないように。
「力を手に入れるのには丁度いいからな…機会があれば持ち主を乗っ取れ。この祭りにもいるだろう悪人を消してもいいだろうな」
「…思うんだけど、何で食べないの?あの力、食べてしまえばいいのに。強いんだからさ」
「地球人は未だ未知数だ。『アイツ』と同じように精神干渉してくるようになったら困るのはこっち。暫く人間は食うな」
まるで異星人のような視点で言う。そう、あの使い手の人間性を見るに、取り込めばナニカに『悪影響』を与えるのは目に見えていた。
加蓮に認識されたことでアイデンティティを確立するという『悪影響』を受けたナニカを思い出して苛立つ。
アレが、未だ誰にも認識できない泥の怪物のままだったなら…世界は祟り場で自分が生まれた後、すぐに自分の手の内にあってもおかしくなかったのに。
そもそもありえない筈だったのだ。負の感情しか持っていないちっぽけな泥だったアレが、人に近い姿と豊かな感情を得る事なんて。
ずっと奈緒を恨んでいればよかったのだ。ずっと泣いていればよかったのだ。ずっと絶望に溺れていればよかったのだ。
人肌のぬくもりを、抱きしめられる喜びを、心を動かす程の愛を知ってしまったアレは…非常に面倒な手間を増やした。
『大好きなお姉ちゃん』を殺してやろうかと何度も思ったが、一部となった彼女を殺すことは不可能だった。
また取り込めば、彼女を取り込めば…今度は正義感か?ああ、なんて面倒なんだろうか。
「…ママ、怖い顔してるよ?」
ライトが首を傾げる。我に返った白兎は思考を落ち着かせた。
「…ああ、何でもない。それと、決してアタシの事は…」
「大丈夫だよ。絶対漏らさない。あたりまえじゃないか。正義の力も、誰にも渡すもんか。正義を執行する者は、限られた者だけでいい」
「そう、アタシを前に出すな。アタシは裏で構えているんだから。ひっぱり出されるような事は勘弁願いたいね。じゃあ、あとは頼んだぞ」
ウサミン星人の様な姿をとり、ウサギのような長い耳を揺らす。
周囲に誰もいない事を確認。普通に扉を開け、泥で鍵を閉める。そのまま泥となって天井を這うように廊下を去って行った。
以上です
※要約
白兎「この世の全ての悪を、消し去りたい。それを邪魔するルールなんて、壊してみせる、変えてみせる。さぁ!叶えてよライト!!」
ライト「!?」
イベント情報
・おや、光のようすが…腕輪に無意識に執着しているようです
・腕輪は今の所ただの腕輪としか『認識』できません
・悪魔・カースの力を持つ、または持っていた者には光の姿が白髪・赤目に見えることがあるようです
投下します。
学園祭軸です
晴「結構、人がいるな」
秋炎絢爛祭で賑わう地上通路を歩きながら、結城晴は周りを見回していた。
何故、彼女がここにいるかというと何のことはない。ただ遊びに来ただけだ。
晴「楓姉ちゃんも一緒にくればよかったのにな」
風船ガムを膨らませながら、一緒に来れなかったお世話になってる女性の事を考える。
研究所にいた大人達とは違い、なんだかよくわからない暖かさを持つ彼女に晴はなんだかむず痒いものを感じる。
物心つくろから研究所で実験体として過ごしてた彼女にそういう感情がよくわからなかった。
≪友達≫ができても、彼女達が脱走したいと言うから手伝って一緒に逃げただけで、晴には外への思いや自由への憧れなどはなかった。
ただ……知りたかったから。
故に自分には≪心≫がないと思っている。
晴「…………わかんねえな」
左腕を見ながら、始めて自分の抱くこの感じは何か?と考えた時のことを考える。
それは晴がまだ研究所にいた頃。OZの第二段階を解放するときに行われた実験でのことだった。
いつものように晴は機械のように実験を行っていると、頭が痛くなるような感覚を覚えた。
『心が欲しいか?仲間を思い、守りたいという心が欲しいか?』
脳内に直接流れてくる≪ティン≫の声。
その時、晴は初めて≪困惑≫した。そのせいで実験は中止となった。
この時から晴は疑問を抱き始めた。
心とは何か?友達とは何か?
自身の疑問を解く為に、同じ実験体としか捉えてなかった3人のOZ適合者にその疑問をぶつけた。
洗脳され、そういうのには答えられないだろうと思いながらも。
だが、意外にも3人とと本来の人格を取り戻していて、晴の疑問に三者三様に答えた。
それでも晴はわからなかった。物心つく頃から研究所にいたために本来の人格自体がこれなのだから。
そんなある時、実験体の一人がこう言った。
「なら、私達とお友達になりましょう!」
あの時、晴はそれが凄く眩しく見え、むず痒いものを感じた。
晴「琴歌姉ちゃんも風香姉ちゃんもユッコ姉ちゃんも何処にいんだろうな」
三人の事を考えると、大丈夫だろうと思いながらもなんかムズムズして動き回りたくなるような気持ちになる。
それは不安っていう感情だとは晴はわかっていないが。
晴「………とりあえず見て回るか。楓姉ちゃんのお土産も買ってかねえとな」
風船ガムを膨らませながらそう考える。
きっと何か買ってこないと不機嫌そうに頬を膨らませる家主の事を考えると、≪苦笑い≫する。
晴「……ん?」
今、自分がした表情はなんだろうか?
また一つ疑問が増えながら彼女は歩いて行く。
その横を一人の女性が通り過ぎた。
加蓮「コレが学園祭なんだ。凄い賑やか」
その女性ーーー北条加蓮は目を輝かせながら、珍しそうに周りを見回した。
ずっと病院で過ごしてた彼女にとって未知のものだった。
加蓮「あ!あそこの屋台の美味しそう!あれも美味しそう!わあっ!!」
子供のようにはしゃぐその姿は、なんかカワイイ。
加蓮「確か、涼がここでバンドをやるって言ってたし、涼もここにいるはずなんだよね」
キョロキョロと辺りを見渡すが、こうも人が多いと探せはしない。
まあ、歩いていればそのうち見つかるかな?と思う。
加蓮「≪あの子≫もきっとこういうの珍しがるかな?」
楽しそうにそういう……が、自分の今の言葉に疑問を抱く。
加蓮「………あの子って誰だっけ?」
うーん………と悩む加蓮。
加蓮は思い出せない。自分と同じようにひとりぼっちで寂しがっていた≪あの子≫。
自分の事をお姉ちゃんとしたってくれる≪あの子≫。
何処か放っておけず、助けてあげたいと思う≪あの子≫。
上簗仁加……夢で出会い、祟り場であった彼女。
だが、加蓮は覚えてない。仁加…いや、ナニカの力により忘れ去られてるのだから。
『そういうの、忘れるのはダメだと思うな。あの子は寂しがり屋だとアタシは思うんだよね』
加蓮「えっ?」
今、誰かに話しかけられたような気がして振り向く加蓮。
けど、自分に話しかけてきたような人物は見受けられない。
加蓮「……気のせいかな?」
首を横に傾げながら、彼女は人ごみの中を進んで行った。
加蓮の影が、一瞬だけ揺らめいて形が変わってるのに気づかず。
『思い出してあげなよ。≪私≫。アタシ達と≪追いかけっこ≫して≪私≫を守ってくれた大事な妹を。あの子が間違いを起こす前にね』
終わり
イベント情報追加
・晴が学園祭に来ました。
・加蓮が学園祭に来ました。ナニカの事を忘れていますが何かきっかけがあれば思い出すかも?
・加蓮の中に誰かがいます。影が揺らめいていた気もする。
以上です
加蓮の中にいるのはいったいなんでしょうね?(目をそらしながら
次スレ立ててきます
モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part8 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/1384767152/)
次スレです
なんだか長くなりそうだったので投下します
学園祭です
化物級の学校、京華学院は秋炎絢爛祭によって大きな賑わいを見せている。
学生や保護者、はたまた関係のない一般客が行き交う中、とある一つのベンチが異彩を放っている。
その道を通る人々はそれをチラ見はするものの、なるべくかかわらないように道を行く。
この学園内では犬が歩けば棒に当たるかのごとく、変人に当たったりするのでこれくらいのことでは珍しくはないのだがやはり皆面倒事は嫌うので積極的に話しかけることはないだろう。
そのベンチにはとある男が座っていた。
折り目正しく、卸したてともいえるようなタキシードに身を包むその男。
ここがロサンゼルスで赤絨毯でも敷いてあるならば、まさにハリウッドスターの様であろう。
ただしここは日本の、ただのでっかい学園祭である。
その存在はあまりにも浮いているだろう。
いくら見た目が良くともお近づきにはなろうとは思わない。
「はぁ、結局昨日は眠れず、挙句の果てには集合時刻の午前10時よりも4時間も早く来る始末。焦りは失敗を生むぞ……」
その男はそんなことを呟きながら、近くの売店で買ったマルメターノソーセージを頬張る。
この男、ほぼ連続で早朝6時からこのベンチを占拠していたというのだ。
学際の準備のために朝早くから登校してきた生徒はこの男を当然見ているし、その後この道を通り、この男が全くこの場所から移動していないことを知れば正直通報物であろう。
現に一部の生徒の中では『朝からベンチを陣取る謎のハリウッドスターもどき』として噂になっているのだがこの男はそのことなど到底知りはしないだろう。
「ごめーん☆待ったー?」
そんなタキシード男に近づいていく少女が一人。
大槻唯は集合時間の10分前である午前9時50分に律儀に到着した。
「いえ、今来たところですよ」
そう言って、常套句を返すタキシード男、もといイルミナP。
ベンチからすっと立ち上がってソーセージの串を放り投げ、それは回転しながら近くのゴミ箱へと吸い込まれていった。
「ところでその服どうしたの?イルミナPちゃんの服装はダサい部屋着かぴっちりスーツしか見たことないんだけど」
「せっかくの唯からの誘い。私も気合いを入れてきました」
イルミナPの表情は間違いなどないという自信のある顔。TPOが破綻した服装なのだが彼は気合が入りすぎて服装のセンスがどこに行ってしまったらしい。
「う、うん……。たまにはいいんじゃない……☆」
そんなイルミナPに状況にあってないとは言えるはずもなく唯は空気を読んでとりあえず肯定しておく。
「では今日はどこを回るんですか?」
唯はイルミナPの問いに対して持っていたパンフレットを広げてうーんと唸る。
「いざ来てみるとどこに行こうか悩んじゃうもんだねー。とりあえず適当に回ってみよっか☆」
「わかりました。唯」
まだ午前中だというのに学園内は賑わっており、人がひっきりなしに行き交っている。
制服を着た生徒は忙しそうに荷物を抱えて走り回る者もいれば、複数人固まって談笑しながら学園内の回っている者たちもいた。
そんな陰で出歩かずに空き教室などで引きこもって友人とゲームなどをするものや、一人で学園祭を回る猛者もいるのだろうがここでは無視しておくことにしよう。
当然生徒だけでなく、外部の人間も多くいる。
特にこの秋炎絢爛祭では規模が規模なために、商売の機会であるために外部からの出店も多くある。
さらに大量の生徒の親や、その関係のある人、様々な目的をもって人が集まっていた。
「ところで唯はどうしてここに来ようと思ったんですか?」
イルミナPはふと唯に聞いてみた。
その理由は想像はつくのだが、なんとなく聞いてみようと思ったのだ。
「えーっとね。ただ楽しそうだったからゆいは来たくなっただけ!イルミナPちゃんだってわかってるくせにー」
「ええ、察しはついていましたよ。昔から面白そうなことに首突っ込んだりしてましたからね」
だからこそ境界崩しを行おうとすることは唯のこの性格とはあまりあわないとイルミナPは疑問に思っていた。
境界崩し自体手間がかかるものなので唯が積極的にやろうとは思えない。ルシフェルのためにしようとしているとも思えない。
なのでイルミナPはわからないのだ。
唯が何をしたいのか、何を目的としているのか。
「イルミナPちゃん、こっち行ってみよー!」
「ええ、わかりました。唯」
その後、暫く二人はいろいろなところを回ったりした。
そこら中に出店されている売店に目移りしながら食べ物を買ったり、よくわからないクラス展示などを見たりした。
そして一時間くらい回った後に二人は教習棟の上層階へと訪れた。
「アンティークショップ・ヘルメス?」
たどり着いた教室には『アンティークショップ・ヘルメス 秋炎絢爛祭出張店』と書かれた看板が掲げられていた。
看板以外には簡単な飾りつけがされているだけであったがそれがなかなか凝っている。
「学園祭に出展されている店にしては、なかなか雰囲気がありますね。入ってみますか?唯」
「ちょっぴり騒がしいところばっかり回ってたからこういった静かな店に行くのもいいかも!」
そんな風に言いながら唯はその店の戸をゆっくり開ける。
「しつれいしまーす」
イルミナPも続いて店内へと入っていく。
店内は外の簡素な装飾とは一変してそこら中に多くの装飾が施されており、それらが店の雰囲気を引き立てていた。
装飾の感じも外の装飾を施した者と同じ者がしたのだろう。統一感があり元がただの教室だと考えれば感服する。
店内にはちょうど客は居なかった。
ちょうど昼少し前の時間だったので昼食を食べに行く人など、食品の売店や模擬店の方へと人が集まるのだろう。
店内には大小さまざまな品物が並べられており、どれも趣のある品ばかりである。
イルミナPはちょうど近くにあった商品である指輪を手に取ってまじまじと見る。
「魔力が通っている……。どうやらマジックアイテムのようですね」
「取り扱ってる商品、ほとんどから魔力が感じるね」
「なにか……お探しですか?」
そんな二人の会話に割り込んでくる一つの声。
陳列された商品を見つめていた二人の後方、窓際近くから一人の女性が声をかけてきていた。
「あなたは……?」
「私はここの店主の相原雪乃と申しますわ。いらっしゃいませ」
そう言って店主である相原雪乃は軽く頭を下げた。
「ここに置いてある商品、材質の劣化具合がほとんど見られない。最近作られた物みたいですが全部あなたが作ったんですか?」
イルミナPは素直に思った疑問を雪乃に投げかける。
「ええ、我ながら自信作ばかりですわ。先ほどの会話から察するに、それなりの知識はあるようですけどどうでしょうか?私の品は」
雪乃は二人に商品であるマジックアイテムについての評価を求めた。
「うーんと……それなりに質のいい魔力をゆいは感じるんだけどねー。こういうのはよくわかんないや。イルミナPちゃんはどう思う?」
唯は近くの金属でできた小物を手に取っていろんな角度から見ているがあまり興味はなさそうである。
「私はそれなりの数のマジックアイテムを見てきましたけど、かつての高名な魔法使いが作った物と遜色ないくらいいいものですよ。これ」
対してイルミナPは少し目を輝かせながら、素直にマジックアイテムの出来を褒める。
彼自身魔術分野の技術屋であるので、人の手で作られた物、その技術には興味があるのだ。
「これは錬金術ですか?」
「そうですわ。よくご存じですわね」
「いえ、私は軽く本で読んだことがあるくらいです。魔法を学んだ後に工学を取り入れたので錬金術との親和性があまりなかったので不勉強でした」
「なるほど。たしかに錬金術は魔法などの神秘を用いて物を作る術ですが、工学は神秘とは程遠い現実的な物作り。あんまり親和性はなさそうですわね」
雪乃はそう言いながらも少し疑問を抱えた表情になる。
「しかし私としてはあなたの魔法に工学を取り入れる……というのは聞いたことがありませんわ。それこそ親和性があまりない気がしますが……」
「まぁ趣味でやってるようなものですから。ですがやはりこういった自身にない他の技術に触れることはいい刺激になりますよ」
「刺激……ですか。そうなると私もあなたの魔法……工学とでもいえばいいでしょうか?気になりますわ」
興味深そうな目で雪乃はイルミナPを見つめるが、イルミナPは苦笑する。
「あいにく企業秘密のようなものなのでこればかりは教えられませんよ」
「なんだか不公平ですわ……」
雪乃は不満そうな顔をする。
「こればかりは無理ですね。申し訳ない」
「イルミナPちゃんばっかり話しててゆいちょっとつまんないなー」
会話に割り込むように唯が置いてあった椅子に勝手に座りながら文句を言う。
「おや、すみません。ではせっかくなのでこの指輪でもいただきましょう。いくらですか?」
イルミナPはちょうど手に持っていた雪乃作の指輪の値段を尋ねる。
「えーっと……それは***円になりますわ」
「な、なんだと!?***円だと!それだけあればガチャが何回引けると思ってるんだ!」
「どしたの?イルミナPちゃん」
急に声を上げたイルミナPに対して唯は尋ねる。
「あ……い、いえ謎の電波を受信しただけです。気にしないでください……。ともかくその値段となると手持ちにありませんね。一応聞きますけどカードはどうでしょう?」
その問いに雪乃は少し困った顔をする。
「申し訳ないのですがカードは使えないですわ。出張店ですので……」
「どうするの?イルミナPちゃん?」
「しょうがないですね。これならどうでしょう?」
そう言ってイルミナPは左手に着けていた3つの指輪の一つを取り外して雪乃に差し出した。
「使われているマテリアルにはエメラルド、金属にはミスリルが使用されてるのでそれなりの価値はあるかと思いますがどうでしょう?」
雪乃は手渡された指輪を目の前まで待ってきてまじまじと見る。
「たしかに高密度の魔力のこもったエメラルドに、質のいいミスリルですけど……。さすがに私の作品程度ではつり合いませんわ。これ一つで高級外車数台買えるものだと思うのですが……」
正直雪乃は驚きを隠せなかった。
素材の希少性、品質もさることながら作られている技術やマテリアルの中に内包した魔法の錬度。
どれをとっても一級品、まさに芸術と言ってもいいほどだったのだ。
これほどの品は彼女でも指折り数えるほどしか目にしたことがない。
「かまいませんよ。私も持て余していた骨董品ですし、なによりそれは私が持っているものよりもあなたが持っている方がふさわしいものですので」
雪乃の反応を見てその指輪が十分つり合うものだと判断したのだろう。
イルミナPは代わりに雪乃から買った指輪をはめる。
「では唯、お待たせしましたね」
「じゃあ、そろそろ行こっか♪」
「あ、少し待ってくださ……」
雪乃は二人を制止しようとするが、唯とイルミナPはそのまま店内から出て行ってしまった。
雪乃は狐につつまれたような顔をして、少しの間呆然としていたがすぐに我に返った。
「私……騙されてはいませんよね……」
雪乃はそう呟いてから握りしめていた渡された指輪をもう一度見直してみる。
それはやはりまぎれもなく本物のマジックアイテムの指輪であった。
「あら?」
その指輪を見ながら雪乃はあることに気づく。
指輪の内側に英字で何かが刻まれている。
「Hermes……Trismegistus?……冗談でしょう」
正直価値は本物ならば高級外車数台どころではなかった。
以上です
二人の学園祭はまだ続きます
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