このSSは半年くらい前に見覚えがあるかもしれない禁書×グッドルーザー球磨川のクロスSSです。
・ロシア編が終わった学園都市
・独自の解釈
・キャラが崩れる可能性髙し
・パロネタ
などなどがございますのでお気を付けください。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1375269805
話をしよう。
とある男子高校生の話を。
彼は何の前触れもなく、まるで物語の重要人物であるかのように、突然私の学校へとやって来た。
しかし、その異彩さは本当に際立ったモノで、あらゆる人物が彼を避けたいと考えた。
それは当然のことながら私も同様ではあったのだけれども、人間は生きていく以上不条理に立ち向かう事は避けられないので、私は彼に関わった。
転校生を生徒会長の元へ案内する、というのは私の学校ではありふれた当たり前のイベントだった。
しかし彼は、それだけでこの学校の支配者達を纏めて消し去る切っ掛けを作った。
オーキド博士に案内されて向かった研究所が殺人現場になっていたような唐突さ。
魔王を倒すたびに出る報告をしに王様の元へ向かったらクーデターが起こっていたような不条理さ。
陳腐な例を挙げたけれど、彼はまさしくその通りなわけで。
この世のどんな言葉でも彼の本質を表現する事は不可能なのかもしれないけれど、彼の存在はこの世のすべてのネガティヴを表現する事が出来た。
質量あるゼロ。
裏と表のはっきりしないメビウス。
頭と尾が存在しないウロボロス。
それが何なのか、存在すら曖昧なくせに存在感だけは抜群な、吐き気を催す邪悪にドン引きされる正義の味方の敵キャラみたいな意味不明。
人は彼を、こう呼んだ。
混沌よりも這い寄る過負荷、負完全の球磨川禊と。
私、須木奈佐木咲は前述の通り球磨川君と同クラの女子高生であり、球磨川君が生徒会長を務める水槽学園生徒会執行部の唯一の生徒会委員でもある。
球磨川君が生徒会長になってからというものの、この学園は平和というものからかけ離れ――いや、ある意味では平和でもあるのかもしれないけれど、普通という言葉からはかけ離れた。
世界から色が無くなったり、銃で頭を吹き飛ばされた女の子がいたり、氷漬けにされた水着少女がいたり、球磨川君が剣で刺し殺されたり、私が幼馴染に斬りかかられたり。
よくもまぁ、と思う程に日常からかけ離れた日常であると思う。
そんな私達にある日届いた、一通の手紙。
それは生徒会執行部である私達の上司である存在からのもので――正確には、球磨川君の夢に現れる『安心院さん』とやらの陰謀だそうだが――内容は、とある場所を視察してこいというモノだった。
まぁ、他の学校との交流というのは、ありえない話ではないし別に気に留める事ではないだろう。
無論、それがただの交流であるのなら、の話だが。
視察先は、日本の一都市でありながら独自の技術を抱え半ば治外法権化した巨大な実験場、学園都市。
超能力なんて陳腐が真面目に研究され、実際に発現している嘘みたいな場所だ。
まぁ私からすれば、超能力になんて一切合財興味のない私から見れば、色々な機密を抱えた学園都市なんてものは巨大なフラスコにしか見えない。
中では科学的な変化やミラクルが巻き起こってるのかも知れないけれど、ガラス一枚隔てた世界がどんな形であったとしても、レポートを付ける私達の身体が突然変異するわけでもない。
実験レポートの為に頭の中を弄られるのなんて、論外だ。
とまぁ、語ってみたは良いけれど、私のすぐそばには頭を弄る余地がないくらい、もう完成形とも呼べる不完全さがそこにあるのだけれども。
首のあるサモトラケのニケみたいな不用意な不完全だけれども。
球磨川君。
球磨川禊君。
我らが生徒会長、球磨川禊は女子中学校に乗りこみ、一度死んで、そこに通う女子高生を呼び出したと思ったら部屋で死んでいて、挑発したと思ったら友達を唆し……って、何言ってるんだろうとか思われるかもしれないけど、全部事実だ。
死んだところを含めて事実なのだ。
そういえばふと思ったのだけど、球磨川君は犯罪を犯してはいるのだけれども、死んでもいるからそのたびに罪は帳消しになっているのだろうか?
まぁそもそも、球磨川君のやる事はすべて完全犯罪だけどね。
証拠も何も、殺害したという事実さえ『なかった事』に出来るのだから。
そして球磨川君と、友人を洗脳されたことに怒る女子中学生、御坂美琴さんとの戦いが始まる……。
…………って、あらすじにしても荒すぎるような気がしないでもない。
これじゃああらすじというよりも、あらごしだ。
もう少し詳しく語れればいいんだけど、それも面倒なのでココは一つ、私がメモしておいた手帳の内容でお茶を濁そうと思う。
この場所に行けば、とりあえずのここに至るまでの経緯を知る事が出来る……はずだ。
一応機密文書という事になっているので、こういう形にしてはいるが内容は別に深い意味のない、碌でもない走り書きみたいなものだから期待はしないでほしい。
では、そろそろ過去に目を向けるのはやめて、現実から目を背けるのもやめて、目の前の現状を理解しようと思う。
理解したくないけど。
本当に、理解したくはないけれど。
『御坂美琴の電撃視点』
その光景は、あの日あの時のあの男を想起させた。
夜の鉄橋、覚悟をきめた私を止めるために立ち向かった、ツンツン頭の男。
何度私の電撃を受けても、その手には私の電撃をかき消す力がある癖に、あえて体で受けて火傷も痛みも厭わずに。
私を止めて、あの忌々しい事件をも止めたあの男。
上条当麻。
私の恩人、思い人。上条当麻
その男に、こいつは似ていた。
球磨川禊は上条当麻に似ていた。
何度も何度も電撃を当てているのに。
全身の筋肉が断裂する程度の電撃は、すでに浴びせたはずなのに。
それどころか、何度か心臓を止める程度の威力も出しているはずなのに。
なのに、球磨川は立ち上がる。
全身を電撃で焼け爛らせて。
全身から黒い煙をあげて。
それでも奴は、立っている。
私の前に立ち続けている。
やっていることは彼と、上条当麻とまるで同じはずなのに。
なのにどうして、どうしてこんなにも違うのか。
どうしてこんなにも気持ち悪いのか。
どうしてこんなにも恐ろしいのか。
それはまるで――上条当麻も自分と同じ存在なのだと、球磨川禊が言っているように思えた。
『電撃なんて日常的に浴びている』『なんてセリフが言えたら人気が出そうなんだけどね』
眼球の水分が蒸発し、決して人体から出ていいわけがない煙を立ち上がらせながら、球磨川禊は私に笑いかけた。
「……アンタ、学園都市の外の人間よね?」
『どうかな? 僕はみんなに風と呼び慕われている男だ。何処にだっているし、どこにだって現れる。君の家の台所にだって現れてやるぜ』
それはまるで害虫の王のような存在だと思った。
そういえば、あのマンガにも電気を使うキャラが居たっけ。
…………あのキャラは……あまりいい結末ではなかったけれど。
『しかしまぁ』『美琴ちゃんは容赦がないね。でもヒロインはちょっとばかし暴力的なのも魅力的だし』『グッジョブだ』
暴力、ね。
暴力と言うよりは殺意を込めた攻撃なのだけれども、皮肉なことに球磨川はアイツと同じく全力で攻撃をしても何の問題もないらしい。
アイツは無効化し無傷で過ごすのに比べ、球磨川は全身にダメージを負っているにも関わらず、それを感じていないかのように振る舞っているのだが。
まるでホラー映画に出てくるゾンビのような奴だ。
「ダメージの無効化? それとも肉体再生系統の能力かしらね?」
『おいおい』『この僕が』『回復能力みたいな能力を使えるわけがないだろう?』
そう言う球磨川の肉体は、見る見るうちに傷が消えていく。
どういうわけか、衣服のダメージすらも見るからに消えていた。
肉体の細胞を活性化させ傷を癒す、という能力は聞いたことがあるけれど……衣服まで元に戻せるのは理屈に合わない。
「どうして服まで治るのかしらね……」
『衣服ってのは不思議なんだよ』『炎に包まれても焼け落ちるのは上半身の服だけだし』『巨大化しても服は破れず』『元のサイズに戻れば何故か服は着ているもんだ』
よくある設定だ。
服が破れないとか、その辺の非現実さは漫画やゲームでよくあるけれど特に誰も気に留めない。
ジャイアンに殴られて吹き飛ぶドラえもんの体重が123,4キロである事と同じように、現実的に考えればおかしいけれどみんながスルーする点だ。
しかしながら、それは画面の中、紙面の中の話であってリアルにあり得る話ではないのだけれども。
『さて』『美琴ちゃんみたいな可愛い子に焦がされるのもやぶさかではないのだけれども』『そろそろお話を進めたいんだよね』
「……アンタとする話なんて一つもないわよ」
『本当かい?』『美琴ちゃんは例えばロールプレイングゲームやバトル漫画の敵キャラのセリフは全てスキップするタイプかい?』『殺すにしても、死に際のセリフくらいは聞き入れてあげてもいいんじゃあないかな?』
「…………」
その台詞通りだと、球磨川は私に殺されることが確定なのだが。
殺すつもりはさすがにない。
ていうか、殺すつもりで攻撃しても生きているんだから、何やっても死にはしないだろうし。
それはともかく、何を言うのかは知らないけれど、まぁ、聞いてやっても……よくはないけど、聞く気もないけれど、後味の悪い戦いは好きじゃないし、仕方なく口は開かせてやろうかなと思った。
「何を残すの? 遺言? 財宝の在りか? 懺悔の言葉? 佐天さんを洗脳した口説き文句?」
『僕のセリフは常に遺言だし、財宝どころか貯金すら有りはしないよ』『僕は悪くないし、口説くならもうちょっとロマンのある場所を選ぶよ』
減らず口だったのでとりあえず電気を浴びせる。
全身の筋肉が異常運動をする程度の電圧に、球磨川の身体が気持ち悪い動きを見せた。
かなり見たくない光景なので、死ねばいいと思うのは仕方が無いと思う。
死なないけど。
「ま、仕方が無いから聞いてやるわ」
『ありがとう』『美琴ちゃんのそんなところが大好きだよ』『じゃあ話をしようか』
回復、というよりもダメージの『消滅』のような印象を受ける復活の仕方をした球磨川が改めて私の方を向く。
改めてみると、球磨川の容姿は決して悪い方ではない。須木奈佐木さんの話によれば、球磨川は高校三年生らしいけれど実年齢よりも幼く見える。
良くも悪くも、子供っぽい内面が外面にも影響しているのだろうか?
整っているはずの容姿なのに、直視する事を精神の根源が拒否するようなこの気持ち悪さ。
整っているからこそ気持ち悪いのだろうか? 内と外のアンバランスさが奇妙なのだろうか?
人に似せて作り上げたロボットが不気味の谷を越えてしまうように。
球磨川禊という一個の存在は、その不安定さこそがマイナス要素の原因なんだろう。
『僕の目的は、覚えてるよね?』
「……私とアイツをどうにかしたいって奴?」
『美琴ちゃんの恋愛成就』『つまりは美琴ちゃんの好きな人と美琴ちゃんの恋を実らせることなんだけど』『その力になりたくてね』
「……お生憎様、アンタに協力されなくたって、私だけの力で振り向かせて見せるわよ」
『ふぅん』
…………ニヤニヤと笑いやがって。ムカつくわね
『なら、別の事で美琴ちゃんの力になろうかな』
「……別の事?」
『そうだよ』『僕はいつだって可愛い女の子の味方だ』『だから美琴ちゃんが、一人では決して成し遂げられない願いをかなえてあげたいんだよ』
「別に、アンタに協力してもらわないといけないような願いなんてないけど?」
『いいや、あるはずさ』『親友の黒子ちゃんにも』『それこそ当麻ちゃんにも相談できない、心の底からの願い事が』
そう言って、球磨川は笑った。
嘲笑うかのように。
あやすかのように。
それはそれは、優しい笑みで。
こう言った。
『殺したいだろう? 第一位、一方通行をさ』
「……………………は」
その言葉は、まるで電撃のように私の頭を打ち抜いた。
アイツの名前を出された時よりも衝撃的だった。
「な、にを…………」
『美琴ちゃんの夢を踏みにじり』『高笑いしながら』『美琴ちゃんの妹達を』『捩じり』『千切り』『踏みにじり』『潰し』『打ち抜き』『抉り』『引き裂き』『吹き飛ばし』『開き』『抜き取り』『砕き』『削り』『磨り潰し』『均し』『食いちぎった』『一方通行を殺したくて殺したくて仕方が無いんだろう?』
体が重くなったような気がした。
脳が動きを止めているような気がした。
この感覚はなんというのだろうか、紛れもなく恐怖ではあるのだろうけれど、嘗て一方通行を前にした時に感じた恐怖とは違う。
『この世に復讐程正当な権利はないよ』『人にやられて嫌な事を他人にするなってお母さんから習ったでしょ?』『美琴ちゃんは、一方通行ちゃんを殺す権利があってしかるべきだよ』
「私は、殺す、だなんて……」
『沢山の研究所を潰して回った美琴ちゃんが』『人殺しなんかを躊躇するなんておかしいじゃあないか』『研究を潰されたことで路頭に迷い』『死ぬより苦しい思いをした人はたくさんいるって言うのに』
「私は……」
『どうせ学園都市の事だ』『一方通行ちゃんが死んだ所で』『美琴ちゃんは罪には裁かれないよ』『この街の警察機関なんて目の前で起きた現行犯しか捕まえられないし』
底なし沼に脚を突っ込んだ気分になった。
実際に突っ込んだことはないけれど、たぶんこういう感じなんだろう。
自分の立っている場所が、自分を支えていた物が、そこに知れない物にずぶずぶと沈んでいき、何が何だか分からなくなる、無性に叫びたくなるこの感覚は。
あの事件は、終わったのだ。
空に浮かぶ元凶が破壊された今、もうあの事件は再開する事は無い。
もう私たちは救われたはずなんだ。
けれど。
けれど、それでいいのだろうか。
あの事件の事は、もういいのだろうか?
終わりよければすべてよしなのだろうか?
私は、どうしたかったんだろう。
自分の命を捨てて止めようとした私だけど。
もしもアイツが居なかったら。
もしも私が一方通行と戦う術を持っていたら。
私は――――
『たしかに当麻ちゃんのおかげで、妹達ちゃん達は救われたかもしれない』
『けど』
『美琴ちゃんにとっては、救いだけじゃあ足りなかったはずだ』
『復讐したかったはずだ』
『怒りをぶつけたかったはずだ』
『大事な妹を殺した一方通行ちゃんに正当な権利を叩きつけてやりたかったはずだよ』
『美琴ちゃん』
『僕にできるのは手助けだけだけど』
『それでも、意味はある』
『復讐はプラスだ』
『例えマイナスがあろうとも、プラスとマイナスを足してプラスが残るような』
『そんな結末を、美琴ちゃんならきっと残せる』
『一方通行ちゃんを殺そうとすれば、きっと当麻ちゃんが立ち塞がると思うけれど』
『それはそれで、当麻ちゃんと正当な敵対が出来る』
『この復讐は、誰のマイナスにもならないんだ』
『だから』
『僕の事は信じなくてもいい』
『けれど』
『自分の気持ちにだけは、嘘をつかないであげてくれよ』
……いつの間にか、私はその場に座り込んでいた。
気が付けば、私の目には涙があふれていた。
今の演説に感動したわけじゃあない。
球磨川禊と言う人間の評価を改めたわけでもない。
けれど、私は何故か泣いていた。
球磨川が手を差し伸べた。
まるで握手を求めるかのように。
まるで私を救ってくれる救世主であるかのように。
私は、その手を
『大嘘憑き』
握れなかった。
つかめなかった。
意識がggggggggggggggggggggggg
お久しぶりです。
帰国して、勉強したりレポート描いたりジョジョのアニメ見たりジョジョのゲームの限定版予約したりジョジョの漫画買ったり地元に出来たジョジョのバーに行ったりして忙しかったんですが、とりあえず戻ってきました。
……なんか、私のドッペルゲンガーが現れてたんですが、不知火の里に迷い込んだんですかね?
それはともかくとして、ネウロの方なのですが、あっちの方はちょっと最終回までちゃんと書ききってから更新した方がいいと判断したので、とりあえずこの球磨川の方を終わらせることにします。
やっぱりネウロのだいご味は最初から最後までが一本につながってるストーリーですし、なるべくあの空気を再現したいのです。
後、今も決して暇というわけではないので、次の更新はちょっとゆっくりになります。1,2週間後くらいですかね・・・向こうで展開は考えてましたが書いてたわけではないので、書くことも必要なのです。
ではでは、お久しぶりな中ですが、またしばらくよろしくお願いします。
乙
まさか再開が来るとは
乙
待ってたよ
とある×めだボは完結しないss多いしきちんと完結してくれるなら期待
大嘘憑きで洗脳…?と、思ったが操作礼状があったな、そう言えば。
須木奈佐木が協力してくれれば…してくれるか?
待ってましたああああああァァァァァァァ!!
お帰りィ!!
みんな来てくれてあっりがとおおおおおおォォォォォォォ!!!!!
全てを救う上条当麻、全てを壊す球磨川禊
幻想[なかったこと]を壊す力と現実を壊す力
鏡のように似ていてそして対極な存在だな
どっちも消すことしかできないろくでもないスキルだけどな
ついこの前イギリス行った人の偽者が出たけど本物が帰ってくると思わなんだww
ずっと待ってたよ!
済まないがドラえもんの体重は129.3㎏だよ
待ってたで~
読み直して思ったけど「敵対することで相手にとって特別な存在になる」って安心院さんが善吉に言ったのと同じ理屈だな
まだテスト中で更新はもう少しまってくだしゃい。
つなぎとして、このSS内での『幻想殺し』と球磨川勢のスキルとの優劣性についてちょいと解説します。
『幻想殺し』と『大嘘憑き』
・『大嘘憑き』で『幻想殺し』を『無かったこと』にはできない。
・『大嘘憑き』で生き返った人物や治されたものに『幻想殺し』が触れても、効果を破壊される事は無い。
・『大嘘憑き』発動時に球磨川に『幻想殺し』が触れている、もしくは『大嘘憑き』の効果発動対象に『幻想殺し』が触れている場合はその発動を無効化する。
つまり、『幻想殺し』が破壊できるのは『大嘘憑き』の発動のみ、という事です。発動の邪魔は出来るものの、完全に発動しきってしまったものに対しては効果がありません。
『幻想殺し』と『操作令状』
・『操作礼状』は上条当麻に対しても発動可能。ただしプレートを刺す部分は『幻想殺し』の効果範囲外に限る。
・『操作礼状』の効果を『幻想殺し』が破壊するには、プレートに触れる必要がある。つまり『操作礼状』に操られているモノに触れるだけでは効果を破壊することはできない。
上条さんへの洗脳系の効果の程がよくわかりません。アウレオルスの記憶抹消は効果がありましたけど、なんか食鋒さんとかとの関係がある、みたいな感じだと読心は無効化してるんでしょうかね?
この二つを比べると、『操作礼状』の方がやや有利な感じがあります。
とりあえずはこんな感じで。
質問等があれば、答えられる範囲ではなるべくお答えします。
更新はもう少しだけ待っとくれ。
来ないなーと思ったら‥
リアルが忙しいなら仕方ない
スレが落ちない程度にのんびり待ちますわ
帰ってきたんだ よかった
テストは終わった。いろんな意味で。
>>30 >>31 >>35 >>39 >>41 >>45
お待たせしました。どうにか帰ってきました。オルソラみたいなおっぱいには出会えませんでした。畜生。
>>32
完結までは何とか持っていくとお約束します。
>>34
須木奈佐木さんは人の指示ではなるべく操作礼状を使わないようにさせたいです。そういうキャラっぽいので。
>>36 >>37
その辺はSS内でちょいと触れていくと思います。
>>38
ちょっとびっくりしました。続きは気になったんですけどね・・
>>40
oh・・・申し訳ありません。うろ覚えで書くもんじゃあないですね。ちゃんと調べないと
>>42
その辺の原作パク・・・オマージュを少し盛り込んでいくと思います。私自身、そういう雰囲気が好きなのです。恥知らずのパープルヘイズみたいな文章が。
>>44
少しずつ解消されてきてますので、なるべく前のペースに速く戻りたいです。
では、遅れましたが投下。
「……あ、終わったみたい」
音がしなくなったので、様子を窺って見れば地面にぺたりと座り込んだ御坂さんとその前に立っている球磨川君の姿があった。
よく覗いてみると、御坂さんのお腹には球磨川君が良く使う巨大な螺子が突き刺さっていて、それが球磨川君の持つスキル『大嘘憑き』の螺子である事がわかる。
『大嘘憑き』
球磨川君の持つ驚異的な脅威の一つで、どんなことでも『なかった事』にするスキル。
明らかに人知を超えた、尋常じゃないスキルではあるのだがあえてここで脅威の一つ、と称したのには当然理由がある。
なぜなら『大嘘憑き』を持っていようといなかろうと、球磨川君は球磨川禊なのだから。
スキルの有無にかかわらず、きっと球磨川君は永遠にあんな人間なんだと私は確信を持って言える。
もしも球磨川君が変わる時が来るとしたら――それはこの世の誰よりもマイナスである球磨川君と同じ位、この世の誰よりもプラスである存在が現れたとき。
けど、そんなのは、人間じゃあない。
そこまで突き抜けてしまっては、それはもう人間とは言えない。
「あーあー、御坂さん負けちゃったんですか? レベル5なのに」
私の後ろで残念そうにつぶやく佐天さん。
レベル0の彼女は、レベル5の御坂さんに憧れとコンプレックスの両方を抱いていたんだろうなぁ。
だからこそ、御坂さんがやられた事に対して『レベル0としてのざまぁみろ』って気持ちと『レベル5なのに負けるのか』という落胆が混在している。
……まぁ、相手が悪かったとしか言いようがないかな。
強いくらいで球磨川君をどうにかできるなら、蛇籠全生徒会長はきっと球磨川君には負けなかっただろうし。
けれど、『大嘘憑き』があるとはいえ、友人であるはずの御坂さんがお腹を螺子で貫かれているというのにこの態度。
これを人として歪んでいるというべきか、マイナスとして順調に育って、いや、墜ちているというべきか。
でもきっとそれはどちらにしろ、球磨川君には喜ばしい事なんだろうけれど。
『やぁ咲ちゃん涙子ちゃん』『僕の勇敢な負け戦を見てくれたかい?』
勇敢な負け戦て。
意味のある敗北は存在しても、勇敢な負け戦というのは何かおかしい気がする。
「えー? どう見ても球磨川さんの勝ちじゃないですかー」
『あはは』『本当は口だけで説得しなきゃいけないのに「大嘘憑き」を使っちゃったからね』『いわば首脳会談中に相手を射殺した様なもんさ』『これじゃあ勝ちとは言えないだろう?』
また屁理屈を。
まぁ、本人が勝ちを認めないと言うのなら、別に良いんだけどさ。
球磨川君にとって価値のある勝ちとは、一体何なんだろうね。
私にとってはどうでもいい事だけれど。
「ていうか、何を『なかった事』にしたの? まさか命とか意識じゃあないよね?」
命を『なかった事』にすれば、それはもれなく死ぬという事であるし、意識を『なかった事』にすれば……あれ、なかった事にされた意識って取り戻せるのだろうか?
今度球磨川君に聞いてみることにしよう。
『あはは』『そんな物騒なことするわけないじゃあないか』『まったく咲ちゃんは冗談が酷いぜ』
そこは上手いと言ってほしかったな。
別に球磨川君に褒められたって何もうれしくないけど。
『僕がなかった事にしたのは』『美琴ちゃんの箍だ』
「箍?」
『うん』『つまりは、どうしてもやりたいけど周囲の目が気になるだとか』『そういう本心を阻害する感情、躊躇する感情をなかった事にした』
……えーっと、つまり、御坂さんは今、どんなことでも躊躇なく行えるようになった、っていう事かな?
それは確かに好きな人に告白するには都合がいいかもしれないけれど、人生と言う長丁場に対してはあまりにも不便な状態だ。
躊躇いが無いと言うのは、赤ちゃんと同じだ。
どんなことでもやる事に恐怖を感じないのだから。
でも、あくまで『なかった事』にされたのが自制心のみなら、考える事は出来るはずなのでそこまで酷い行動はしないはずだけど……
「でも、自制心が無くなったからって球磨川君に協力してくれるとは限らないんじゃないの?」
『まぁね』『咲ちゃんの「操作礼状」で当麻ちゃんと美琴ちゃんを操ってしまえば安心院さんのゲーム的には一応クリアになるんだろうけど』
どうやらその方法は、球磨川君的にナンセンスらしい。
恋愛ゲームで主人公とヒロインの親密度をデータを弄って無理やりマックスにするようなものだから、確かに風情とかロマンスも何もあったものじゃあない。
ロマンスを語る球磨川君なんて、気色悪い意外の何物でもないけれど。
『でもよくよく考えたら』『美琴ちゃんの恋愛成就ってのは当麻ちゃんに対してのみってわけじゃあないんだよね』
「…………ん?」
『つまり』『僕はこのゲームをこう攻略する』
ビシッと。
格好つけたポーズを決めて、球磨川君はほざいた。
『美琴ちゃんが当麻ちゃんよりも僕の事を好きになればいいんだ!』
「………………」
今世紀最大の絶句だった。
ポカンと口を開けている私だが、マスクのおかげでその間抜けな姿は見られずに済んでいる。
いや、いや、いや。
それはないだろう。
それはダメだろう。
ありえなさすぎるだろう。
『とはいえ』『好感度を上げるにはイベントは欠かせないから』『さっき美琴ちゃんと約束した一方通行ちゃん殺しはちゃんとやるよ』『そのための準備をしなきゃね』
そういって、球磨川君は御坂さんを担ぎ上げて運ぼうとする。
けど、その光景は完全なる不審者のそれだった。
ただでさえ不審が服を着ているような球磨川君なのに、意識のない女子中学生を担いで歩くなんて暴挙をしたら文句なし裁判なしの投獄確定だろう。
「やめといたほうが良いと思うけど……」
しかしそうなると、中学1年生の佐天さんにも無理だろうし……というか、ある程度有名人である御坂さんを担いで移動するって言うのは不可能なんじゃないかな?
『んー…………』
球磨川君は辺りをキョロキョロと見渡し――そして、何かを見つけた。
それは、古い麻袋の様な、砂利とかが入っていたような感じの大きな袋だった。
『アレに入れて担げば何とかなるかな』
そう言って球磨川君は袋をひょいと持ち上げる。
確かに持ちやすくはなりそうだけど、御坂さんの体をあの袋に入れるのも結構難しそうな気がするんだけど、一体どうするつもりなんだろう?
『さて』『ねぇ咲ちゃん涙子ちゃん』
「何? 球磨川君」
「どうしたんですか?」
『二人は、ホラー映画は得意かな?』『日本ホラーと言うよりかは洋画のホラーなんだけど』
「え? うーん……私はあんまり得意じゃないかなぁ」
前に教室で拳銃自殺をした死体を見た事があるけど、決してアレをもう一度見たいとは思わない。
頭蓋の中に納まっているものを見て喜ぶ感覚を理解する日は、たぶんこの先永遠に来ないだろう。
血を見たら卒倒するとか、そういう事はないけどね。
「私も話題の映画とかは見ますけど、うーん、あんまり好き好んでは見ないですねー」
『そう』『じゃあちょっと目を瞑っておいてね』
そう言って、球磨川君は袋の口を開いたまま御坂さんの横にしゃがみ込んだ。
一体、何をするつも――って、って、うええええええええええええええええええええええええええええ!!!?
私と佐天さんは全速力で視線を逸らしつつ、その場から走り去った。
……あの一瞬の光景が見間違いではないのなら。
球磨川君は、御坂さんを『ほぐして』いた。
数十分後。
まるでサンタクロースのように袋を担いだ球磨川君が笑顔で私達に手を振ってやってきた。
その体に、返り血はない。
まぁ有ったとしても『大嘘憑き』で消しているんだろうけれど。
「……えっと、球磨川君。御坂さんは……」
『シーチキンって知ってる?』『そぼろでもいいけど』
「あ、はい、いいです」
思わず敬語になってしまった。
これ以上考察すらしたくないので、会話をまるで面白くない新連載くらい無理やり打ち切る事にした。
『ホテルで美琴ちゃんを元に戻して』『美琴ちゃんと色々話し合いをしなきゃね』『あ、咲ちゃんは袋の後ろをちょっと持って手伝ってね』
「えええ……」
すごく嫌だけど、私は渋々球磨川君を手伝う。
まるで常温に放置したゼリーみたいな感触が伝わってきて、私は泣きそうになった。
『さて』『ファーストステージで大分時間を使っちゃってるし』『ちょっと巻いていこうかな』
そう言って、球磨川君はにこりと笑った。
まるで夢と希望を運ぶサンタクロースのように。
ホテルに戻ると、球磨川君は御坂さん(多分)が入った袋を担いで部屋にさっさと戻ってしまった。
鍵はかけていない様なので、入ろうと思えば入れるけど……きっとあまり精神衛生上よろしくない光景が繰り広げられている可能性が高いので、やめておく。
ちなみに私の部屋のベッドには白井さんが寝かされていた。
よく見たわけじゃないけど、体に外傷とかは見当たらないし、胸が上下しているのがわかるので生きてはいるのだろう。
球磨川君の『大嘘憑き』で生き返っている可能性も否めないけれど、まぁ球磨川君はアレはアレで妙に格好つけたがる所があるから、意外と紳士的な方法で気絶させたかもしれない・
…………いや、考えては見たけど、やっぱりそれはないなぁ。
容赦なく螺子を突き立てたり、氷漬けにしたりするような人だもん。
「あ、そういえば佐天さんはこの後どうするの?」
「うーん、どうしようかなぁ……初春が白井さんの事で御坂さんに電話したっぽいし、今戻ったら色々面倒事になりそうな気がするなぁ」
ぐでー、と寝ている白井さんの横に寝転がる佐天さん。
球磨川君に見定められた、球磨川君に近しい気質を持った女子中学生。
近しい気質、と言ったのは球磨川君と『同じ』存在なんて、決してこの世に存在しないだろうと言う推測が理由だ。
球磨川君という存在は地上でも史上でも完全なるオンリーワンだろう。
あんな存在がもう一人でもいたのなら、そしてもしも球磨川君と手を組んだりでもしたら、この世界は間違いなく終わってしまう。
中二病的表現とかじゃなくて、本当に。
地球を破壊するとかそんなドラゴンボールチックな事じゃなくて、至極真面目に地道に努力して人類を皆殺しにするような、そんな方法で。
ひどく健全に、そして地道に球磨川禊は世界征服を完遂するだろう。
……想像するだけで身震いする。おぞましすぎるホラーだ。
今の季節にはぴったり、とでもいいたいけれどむしろ肌寒いくらいだ。
「ていうか球磨川さんにクレープを奢ってもらう約束だったのにー」
「まぁ、御坂さんが食事出来ない状態だったっぽいし仕方ないよ」
食事どころか、生命活動すら出来ていない状態だった様な気がしないでもないけれど。
しかし改めて見てみると、やはりこの佐天涙子という存在が球磨川君に懐いている事が不思議でならない。
私自身、球磨川君のもとでやって行けているのでこういうのもアレかもしれないけれど、きっと佐天さんにはそもそもの素質があったんだと思う。
何と言うか、マイナスの素質と言うか、堕落の要因が。
球磨川君は普通の人間を言いくるめて犯罪に走らせる、なんて事は多分出来ない。
球磨川君にできるのは、自分と似たような人間を友達にする事だけ。
類は友を呼び、友は周りに影響され、そうして球磨川君の周囲は形成されていく。
球磨川君のパーソナルスペースには誰だって踏み込めやしないだろうけれど、球磨川君の影響を受ける人間は皆マイナスの要素を持ち合わせているんだろうね。
とはいえ、この世に全てがプラスで形成された人間なんてきっといやしない。
それはもう、人間ではないはずだ。
人間味、という成分が失われているのだから。
だからこそ、球磨川君と言う存在の異様さは際立つんだ。
マイナス要素しかないくせに、誰よりも人間らしく振舞おうとする人でなしなのだから。
「あー、でも寮には戻らないと怒られるなぁ……うー、んー、しょうがないから帰りますかね」
私がぼんやりと考え事をしている間に、佐天さんは帰宅を決めていた。
まぁ時間もそれなりだし、特に仲のいいわけでもない人の使ってるベッドの上でごろごろしているよりかは中学一年生としてやらなきゃならないことはたくさんあるだろう。
「うん、球磨川君には私から伝えておくよ。今何してるのかさっぱりだけど」
「お願いしますね、須木奈佐木先輩」
私は先輩呼びで球磨川君はさん付けかぁ。
どっちの好感度の方が高いんだろうか?
これで負けてたら死にたくなる。
今すぐ首を切りたくなる。
役職的な意味でも、物理的な意味でも。
軽いノリで部屋を出て行った佐天さんを見送り(その後白井さんを連れて行ってもらえばよかったと後悔)、私は椅子に座って今日の事を思い返す。
安心院さんとやらから課せられた、学園都市のレベル5に関するゲーム。
まるで水槽学園で行った『勇者の剣を探せ!』のように、何かのストーリーに準えていたりするのだろうか?
御坂さんの恋愛成就が次のステージに進む条件であるのならば、それをクリアすることによって何か意味が発生しなければならないはずだ。
次に関わるレベル5が誰であれ、そこに御坂さんがかかわるのはまず間違いない。
……そうなると、今球磨川君が隣の部屋で行っている『何か』は、御坂さんにどんな影響を与えるのだろうか?
それによって、この次からのステージの難易度が大きく変わってくるんじゃないだろうか?
「……というか、何で私が球磨川君と安心院さんとやらのゲームに巻き込まれなきゃいけないのかなぁ……」
まぁそこは生徒会庶務職だから、というぐうの音も出ない理由があるんだけどさ。
球磨川君の『敗北者』としての精神は並大抵じゃない。
きっとこのゲームも、途中までは例えどれほど順調だろうと最後には負けるのだろう。
決着の仕方は私にはわからないけれど、これだけは言える。
球磨川禊は間違いなく、ゲームには負けるのだ。
「…………ぅ……」
ふと、ベッドから小さな声がした。
声の正体は、ベッドの下に潜り込んだ変質者とかが居なければ、ベッドの上で寝ている白井さんであるはずだ。
やはり気絶状態にあったのか、体の何処かが痛んでいる様子もなく白井さんは頭を抑えながらゆっくりと体を起こした。
「……ここは……?」
「えっと……ホテルの一室、かな」
おずおずと声をかけると、それで初めて私の存在を認識したらしい白井さんがぼんやり眼で私を数秒見つめる。
そして――次の瞬間にはベッドから飛び出す様に跳ね起きて、私から距離を取った。
「須木奈佐木さん……!」
「いや、そんな警戒されてもその戦意には答えられないけどね……」
球磨川君、一体白井さんに何をやったんだろう。
「球磨川君なら隣の部屋で何かしてるよ。何をしてるのかは私もイマイチよくわからないけど……白井さんなら気が付かれない様に脱出するのは簡単なんじゃないかな」
たしか白井さんの能力は空間移動、テレポートだったはずだ。
そんな能力が存在している時点で物理的なバリケードは全て無価値になってしまいそうな気がしないでもない危険な能力、だと私は思う。
まぁロマンって奴だよね、どこでもドアみたいな。
「…………。アナタは球磨川の部下なのでしょう? わたくしを見張って無くてよろしいんですの?」
「部下……まぁ、役職的にはそうだけどすっごく否定したいなぁ……」
あれほど敬えない上司はそうそう存在しないだろう。
「私自身、白井さんがそこで寝てたのをさっき知ったからね。別に球磨川君に何か指示を出されたわけじゃないし……監禁みたいな犯罪、平穏に暮らしたい私からすれば嫌すぎるよ」
「……どうしてそういう考えの人が、球磨川なんかの下に?」
「色々理由と事情があるんだよね……」
やむを得ない事情、という奴だ。
渡る世間は鬼ばかりだね。
まぁ、渡る世間が球磨川君ばかりじゃないだけ御の字という事にしよう。
「……悔しいですが、今のわたくしでは球磨川の前に立てそうにありませんの。須木奈佐木さん、あなたのご厚意……かは微妙ですが、ここは逃げさせてもらいますの」
「別に気にしなくていいよ」
私は本当に何もしていないのだから、お礼を言われる筋合いはない。
見張る、という行動や引き留める、という行動はおろか基本である「ほう・れん・そう」すら行っていないのだ、職務怠慢とは言われてもご厚意と言われるのはちょっと微妙だ。
それに、球磨川君の前に立てない、というのも仕方が無いと思う。
球磨川君のあの超ド級のマイナスを感じて、もう一度立ち向かえる方がどうかしているのだから。
例えるならば、別にすごく強い敵キャラに出くわして苦戦しそうだなぁ嫌だなぁ、ではなくて状態異常とか体力回復とか、そういう強くはないくせして嫌な事ばっかりしてくる奴が常にまとわりついてくるような感じだろうか?
それは明らかなクソゲーだけど、球磨川君に一度関わってしまったらその人の人生がクソゲーになりかねない。
……いや、さすがにそれは言い過ぎかもしれないけど。
とにかく、球磨川君にはとにかく『関わりたくない』という感情を持つのが当たり前なのだから、今こうして対人恐怖症になっていないだけ白井さんは強いと思う。
と、そんな事を考えながら白井さんを見送ろうとした刹那。
狙い澄ましたようなタイミングで、こん、こん、と部屋の扉がノックされた。
「!」
白井さんの身体がビクッと震える。
球磨川君が来たと思ったんだろう。
けれど、球磨川君は部屋の扉をノックするような人間ではない、とりあえずドアノブをひねり、鍵が閉まっていたら螺子を捻じ込んで鍵を破壊するような人間だ。
よって、球磨川君ではない『誰か』が来たという事になる。
「大丈夫、球磨川君じゃないよ。……はい、今開けますー」
高級そうなホテルだし、何かルームサービスとかそういう特典だろうか?
そんな呑気な事を考えて、私は扉を開けた。
すると、そこには――
「はぁい、初めまして☆」
間違いなくホテルの関係者ではなく、私の知り合いでもない女の子がるんっ、とした笑顔で立っていた。
こんな感じで今回でした。
・・・話進んでないな・・
テストが終わったので、次は色んな情報収集をスタートしていかなきゃ・・とりあえず大統領が格好いいです。
次回は今回ほど時間がかからずに更新できるはずです。はずです・・・!
もうちょいお待ちください。
今リアルが立て込んでいて、PCの前にすら行けてないのです・・・
ボロボロですが、一応生きています。
本日分を投下します、あんまり話は進まないですが・・・一番書きたい部分はまだまだ先ですが、気長にお付き合いください
「食蜂操祈……!?」
白井さんが背後で驚いたように呟いた。
その名には聞き覚えが、というよりも見覚えがある。
確かもらった資料にはこうあったはずだ。
学園都市第五位、御坂さんと同じく常盤台中学に通う、もう一人のレベル5。
人間の脳や精神に関するありとあらゆるものを操り、支配する超能力『心理掌握』の使い手。
「自己紹介くらい自分でさせて欲しいんだけどねぇ。ま、私の有名力からしたら自己紹介なんてしなくても皆に名前が知れ渡っちゃってるけどぉ」
最近の若者っぽい、というと偏見があるかもしれないけれど、まさにそんな感じの妙に間延びした話し方だ。
なんというか、文字にすると語尾に小さいあいうえおがついていたり、☆マークがついている感じの。
「何よお、喋り方くらい別に良いじゃない。白井さんみたいに言葉遣い自体を特徴的にしてキャラ付け力を上げてるわけでもないんだしい☆」
「別にわたくしはキャラ付けの為にこの口調なわけではありませんの!」
じゃれ合っているようにも見える……けれど、白井さんの顔にははっきりと「嫌な奴に出会った」的なニュアンスが浮かび上がっていた。
常盤台中学のもう一人のレベル5、御坂さんを慕う白井さんからすれば、もう一人の実力者である食蜂さんを敵視するのは仕方が無い事なのだろうか?
まぁ、その辺はお嬢様学校特有の確執とか、庶民にはわからない色んな事情があるんだろう。
「お嬢様学校って言うか、どっちかって言うと傭兵の選抜部隊の方が近い気がするけどねえ。レベル3以上じゃないと入学出来ないし」
……先ほどから、私と食蜂さんの会話が成立しているように思えるが、私は一切言葉を口に出してはいない。
つまり、私の思考を食蜂さんはリアルタイムで読み取っているという事だ。
こうして、食蜂さんが私の思考を読み取っている、という事を考えている事すら、食蜂さんには筒抜けなのだろう。
「大正解☆ 私の『心理掌握』の前にはどんな隠し事だって出来ないわあ。例えて言うなら私は物語の地の分を読めるようなもの。作者の意図力すら読める私に登場人物が太刀打ちできるわけないものお」
あまりにもひどい、メタなセリフだった。
この世が物語なわけがないのに、世界を一つのノンフィクションストーリーと捉え、それには筋書きを記すストーリテラーが居ると食蜂さんは考えているのかもしれない。
けれど、この地球を支配するどんな人間の思考をも読み取れるのならば、確かに食蜂さんはそれほどの存在だと言える。
この世界を舞台に、人間を駒に、展開を楽しむ『読者』の立ち位置。
「…………あなたも、『支配』に関しては中々のものだと思うけれどねえ?」
「……!」
今、私は『そのこと』に関しての思考はしていない。
心の中で綴った文字だけではなく、本当に脳の中をそのまま覗ける能力、と考えたほうが良さそうだ。
……。
つまり。
「……あーあ、こんなに早く仮面が無駄になっちまうとはよー。ったく、めんどうくせぇ能力だぜ」
「須木奈佐木さん……?」
白井が驚いたように俺様を見つめる。
おいおい、そんな目で見るんじゃあねぇよ。
アレだ、今時流行りのギャップ萌えって奴? いや、別に誰に需要があるかは知らねぇし、供給する気もねぇけどさ。
「『心理掌握』、どうしてテメェみてぇなブッチギリのイカレ能力が五番目なんかねぇ? 応用性はもちろんの事、工業的価値も戦力としてももっと上でいいと思うんだがな」
「知らないわよぉ。まぁ上位三人は学園都市の一番偉ぁい人の『お気に入り』らしいけどぉ? 一つ上のビームおばさんには勝ててもおかしくないと自負してるわあ☆ 別に今更順位に執着なんてないけどねえ」
能力者ってのは全員学生なんじゃなかったのか? おばさん……まぁ、中学生みてぇなガキンチョだと高校生でもそういう扱いをするもんかね。
そういえば、今まで『スキル』を持った大人ってのは、見た事がねぇなぁ。
『スキル』も大人になるにつれて消えていくもんなんかね。
『スキル』も『超能力』も泡沫の夢というか中二病というか、成長と共に劣化していく子供心の具現化みたいなもんなんだろう。
「……私や白井さんみたいな『能力』とあなたの考えている『スキル』っていうのは、完全な別物なのかしらねぇ?」
「だろーな。俺様はてめぇらみたいに脳みそクチュクチュなんてされた事はねぇし、されるつもりもねぇよ」
「……『超能力』『スキル』……『原石』とも違う何か? うーん……別にそれ目的で来たわけじゃあないけどぉ、気になるわねえ」
おー、そうだそうだ。
そうれを聞こうと思ってすっかり忘れちまってたぜ。
あー、食蜂操祈だったか? お前はどうやって『ココ』に来れた? この場所を知ってるのは、御坂美琴の取り巻きだけなはずだ。
それと、何をしにこの場所へ来たか、ってのも重要だぜ。
お前の能力がありゃ、俺様たちを『排除』するのにわざわざ本人が出向く必要はねぇだろうしな。
「そうそう、それよぉ。私だってあなた達と雑談しに来たわけじゃあないのよぉ? ま、偶然御坂さんのオトモダチを見つけたからここに来れたんだけどぉ」
「あん?」
お友達だぁ?
この場所を知ってる御坂美琴以外の人間といやぁ、あの時の三人だけだ。
そのうち一人は球磨川に寝返り、一人はさっき目を覚ましたばかり。
つーことは、あの花畑みてぇな女か。
花が本体なのか人間が本体なのかわからねぇ、『人間を操るスキル』を持った植物に寄生されたってのも有りだな。
もしそうなら、この学園都市は洗脳系スキル多すぎだろと突っ込まざるをえねぇが。
「御坂さんのお友達が随分心配そうな表情で焦ってたから、何があったのかを読ませてもらったのよお。その後は街行く人の頭をとにかく覗いて、あなた方の居場所を探し当てたってわけ」
「……」
街の監視カメラに映る映像から事件の犯人を捜しあてる様に。
道を歩いていて、偶然球磨川や御坂美琴とすれ違った、もしくは見かけた人間が自力では思い出せないような記憶の残滓を覗きながら、ここを探し当てたってわけか。
なんつーか、やってることは人間業じゃあねぇのに地味だな。
シャーロック・ホームズは四つんばいで部屋の中を這い回り証拠を探す奇行があるらしいけれど、まぁそれよりはマトモか。
人間だれであろうとも、相手の頭の中を、心の中を、胸中を探るってのはやってることだしな。
それこそ、あの球磨川であろうともそうだろう。
人の心を理解できるとは思えないし、そもそも球磨川自身に心っつーもんがあるのかどうかすら怪しいが。
だが、球磨川は何を考えているかはわからねぇが、何も考えていないわけではない。
だからこそ気持ち悪いし、好き嫌いの前に『相容れない』っつー感情が出てくるんだろうがな。
「……で、テメェは結局何しにきたんだよ。白井のかたき討ちか? 御坂の仇討か?」
「なんで私が御坂さんのかたき討ちなんてしないといけないのよぉ。あんな何考えてるかわからないヒトの」
嘲笑うように、食蜂は俺にそう言った。
じゃあ、何のため――――と再び俺が問いかけようとしたそのタイミングで、食蜂は肩にかけていた鞄の中からリモコンを取り出し、私に向けた。
「……チッ」
考えを纏め、喋りはじめるタイミングどんぴしゃの行動。
まぁ、俺が動くタイミングなんてのは食蜂にはわかりきってんだろうが。
「変な動きはしないでね☆ あなたがカードを取り出して私に差し込むのよりは早く、私はこのボタンを押せるわよぉ? 思考だけを残して体を一生動かせなくする、なんてのも簡単なんだから」
いつか俺様が球磨川にやったのと同じような、いや、それよりも悪質か。
俺の『操作礼状』は支配者を操るスキル、その特性故、支配欲が薄い人間には効果も薄い。
いや、支配力が皆無な人間なんざ、この世には存在するわけがねぇからある意味じゃあ万能なんだが、この場合はそうはいかねぇ。
食蜂には十分すぎる程に俺様のスキルは効果的だろうが、支配欲の薄い人間は幾らカードを指したところで永遠にその動きを奪う、なんて事は出来ない。
そもそも、食蜂の『能力』と俺の『スキル』では機密動作性が違いすぎる。
強力な力の行使にはリモコンを使うみてぇだが、思考を読むくらいならリモコン無しでもなんとかなる食蜂とは俺はあまりにも相性が悪かった。
「たとえば壊されたオモチャ、盗まれたオモチャ……それを取り返そうとすることを『かたき討ち』と称する人はほとんどいないでしょう? 別に友人としてなんて御坂さんの事を考えた事はないけどぉ、あれが居なくなっちゃったら色々とつまらないのよねえ」
「…………」
沈黙は無駄だと分かりながらも、あえて行使する。
ささやかな抵抗、って奴だ。
「御坂さんは何処にいるの? 後、球磨川って人の居場所も教えて頂戴?」
……ああ? テメェの能力なら御坂と球磨川がどこにいるか、すぐにわかりそうなもんだが。
「御坂さんとは能力の相性が良くないのよお。電磁バリアで私の能力を自動防御しちゃうしぃ」
成程な……とはいうものの、人を操る能力と電気を操る能力は別物の様な気もしなくはねぇが、それが学園都市クオリティって奴なんだろうよ。
しっかし、解せねぇのはそれだけじゃねぇ。
御坂の思考が読めないって言うのはまぁ理解しよう、だが球磨川の思考も読めないってのはどういう事なんだ?
まさか、球磨川には本当に『心』っつーもんがねぇとでもいうつもりか?
まぁ、ありえなくはねぇだろうしその方が納得できる、ってのもあるんだが。
つくづくマトモじゃねぇな、球磨川の奴は。
「……二人とも、隣の部屋だ。何をしてるのかは俺様も知らねぇ。……テメェの能力はこういう時、冤罪の可能性が無くていいな」
「検事とか適職かもねぇ。ま、やる気は無いけど☆」
戯言を呟き、会話がそこで一度終わる。
食蜂は俺から聞き出すべき情報はすべて抜き出した。
後は直接出会っちまえば――思考はなくとも脳で体への命令を下している以上、食蜂操祈は球磨川を倒す事が出来る。
いや、そんな理屈はなくとも、球磨川は結局負けはするんだろうが……
だが、しかし、会話が終わった真なる理由は、情報のやり取りが終わった、なんて平和的なモノではなかった。
隣の部屋から、壁を貫き俺様と食蜂の間の空間を引き裂いたオレンジ色の閃光と熱が、会話というコミュニケーションを打ち止めさせたのだ。
「……あー?」
「今のは……」
どうやら今まで空気だった白井と、目の前の食蜂は今の光に見覚えがあるらしい。
光線の発生源、すなわち隣の部屋と俺様たちの居る部屋を隔てる壁には巨大な穴がぽっかりと開けられていて、隣の部屋の中がこちらから丸見えだ。
そこに、今の現象の原因と思われる光景があった。
まず目に入ったのは、二人の人間だ。
一人は今俺様の背後に居る白井と同じ制服を着た茶髪の女の子、こちらの部屋に腕を伸ばし立っているそいつは紛れもなく御坂美琴だ。
となると、さっきの光が噂の『超電磁砲』って奴か。
そしてもう一人、一人と言っていいのかはもう定かじゃあねぇが、床に倒れ伏した頭のない肉体が一つ。
見慣れた黒い学ランのそれは、頭部が消え失せていても球磨川禊の死体であるとはっきりわかる。
また死んだのかよ、アイツ。
まぁそれはいいとして、御坂の立ち位置、球磨川の死体の転がっている位置の関係から考えて……まぁ考えられる可能性は一つだな。
御坂が『超電磁砲』で、球磨川の頭を吹き飛ばしたって事だ。
……球磨川が『箍』を外したってのは、こういう事だったのか。
人を殺す力を持っていたって、それを行使するのはまた違った力が必要だ。
理性、人間性、倫理といった心の箍。
それは茶漉しみてぇなもんだ。
なのに今の御坂は本来遮られるべき『何か』が原液のまま、あるがままの形で放出される――カッとなって人を殺したって、反省なんか無くなる世界が完成しちまう。
球磨川がやったのは、そういう事だ。
『衝動』を抑えられないってのは、そういう事だ。
「お、お姉様……?」
「……ん、ああ、黒子。無事だったのね、よかったわ」
実に男前なスマイルを見せる御坂。
成程、女子に好かれるってのも納得できるイケメンな雰囲気だ。
もっとも、たった今やった事は紛れもない殺人なんだが。
いくら生き返るとはいえ、御坂は球磨川を実に惨たらしく殺害したわけだが。
「……お姉様……球磨川に、何をされてたんですの?」
「別に、特に何かされたってわけじゃないわ。変な話をうだうだとされただけ。……まぁ、鬱陶しかったから頭吹き飛ばしたけど」
「吹き飛ばしたって……お姉様は、今、人を殺したのですのよ……? いくら相手がどうしようもないクソ野郎だったとしても、お姉様は今、その手を血で汚したのですの!」
「黒子、あんたが私にどんな幻想を抱いてるかは……まぁ、普段の奇行からしてお察しだけどさ。私の手はもう血まみれなの。いや、1万人以上の血が集まれば、それはもう塗れてるっていうか沈んでるレベルかしらね」
いたってクールに語る御坂。
成程ね、箍が外されたってのは暴力衝動だけじゃねぇ、内密にしておきたい話もぺらぺら喋る様になったってわけか。
人格自体には球磨川曰く手出ししてないみてぇらしいから、ああいった面も間違いなく御坂美琴の一面なんだろう。
学園都市風に言うなら、アレも御坂美琴の『パーソナルリアリティ』って奴か。
「……って、何で食蜂が居んの?」
「…………」
余裕ある仕草で御坂は食蜂に向き合う。
対する食蜂は、先ほどまでの余裕な態度は消え失せていた。
……いけるか?
「須木奈佐木、その手をそれ以上動かさないで」
「……」
ポケットからプレートを取り出そうとした瞬間、御坂に口で止められた。
俺様の位置は御坂の視界には入らない場所で、頭の後ろに目でもついてなきゃわからねぇはずだ。
食蜂が何かのサインを出したわけでもなさそうだしよ……
「人間の内面の探索なら食蜂の方が上だけど、地理や動きみたいな物理的なものの探索なら、私の能力の方が上よ。……ポケットに手を入れようとした瞬間に電撃を放つけど、文句はないわよね?」
文句しかでねぇけど。
……ま、これじゃあ俺様も食蜂も下手に動けはしねぇだろうな、俺様の『操作礼状』は完全に封じられちまってるし、食蜂の能力は御坂には効かねぇそうだし。
そろそろ球磨川も復活するだろうしな。
仮面をかぶり直しとかねぇと、より面倒なことになっちまう。
……。
…………。
よし。
「御坂さん、私はもう何もしないから、そんな怖い顔しないで、ね?」
「別に私はシリアルキラーでもサイコパスでもないんだから、むやみやたらと人を傷つけたりはしないわよ。理由と事情があれば容赦はしないけどね」
『あはは』『美琴ちゃんは本当に軸のぶれない良いヒロインだねぇ』
いつの間にか復活していた球磨川君が笑顔で御坂さんの肩に手を置き、いつも通りの気持ち悪い笑顔を見せた。
御坂さんはそんな球磨川君に華麗に裏拳を叩き込み気絶させると、食蜂さんの前に移動した。
並べてみると、同じレベル5とはいえ二人は全然違うなぁ。
「どいて貰える? ちょっとやりたい事と行きたい場所があるのよ」
「……私は御坂さんの思考力は読めないけど、碌な事を考えてないっていうのは想像が出来るわあ。御坂さん、あなたは『あの事件』以来、そういう闇には触れないんじゃなかったのぉ?」
「アンタが目の前の人を想像で語るって言うのは珍しいわね。ま、どうでもいいけど……。安心しなさい、私がやるのはすごく単純な、個人的な逆襲だから」
「逆襲と安心って絶対同じ文章で使っちゃ不自然な単語力だと思うけどねぇ」
「食蜂、自覚してるけど私ってあんまり気が長くないのよね。退くの? 退かないの?」
「…………」
返答はなかった。
けれど、食蜂さんは御坂さんの前に立ち続けている。
まるで、何かを待っているかのように。
「……御坂さん」
「何よ」
「私は、自分の何かを犠牲にしてまであなたを助ける義理なんてないし、そのつもりもないわぁ。けどね、あなたご自慢のお友達力の高い後輩達はどうなのかしらねぇ」
それは、本当に一瞬の事だった。
私の視覚外から、私の目の前――御坂さんの背後に突如現れたのは白井さん。
白井さんの『空間移動』は御坂さんの探索能力を以てしても探る事が出来ない、学園都市の能力者が能力を使うための頭の中の動きが根幹にある。
つまり、肉体的な動きなら事前に止められる御坂さんでも、本当に間を置くことなく移動できる白井さんを止める事は出来ない。
後は、白井さんが対電撃能力者用の風紀委員御用達道具でも使って拘束すれば、この場は終結する。
素人目に見れば、そうなるはずだった。
けれど、学園都市と言うのは案外易々と人の想像を上回ってくれるらしい。
「……ッ!? カッ……!?」
御坂さんの腕を白井さんが掴んだ瞬間、ビクンと白井さんの全身が大きく一度跳ね、そしてその場に倒れ込んだ。
小刻みに不自然に動く白井さんの体はどうやら痙攣しているらしく、体の自由がきかないのか口から涎が流れているのを止める事すら出来ていない。
「自動防御、っていうの? 私より上位のレベル5は全員……って言っても二人しかいないけど、その二人は持ってるらしいのよね。まぁ、私のは全反射とかそんな便利じゃなくて、ただの電磁、じゃなくて電気バリアなんだけど」
「……?」
「なんて説明すればいいのかしらね、学園都市的には第一位の反射膜を電気で再現……って言いたい所なんだけど、まぁやってみたばっかりだし、今は家庭用コンセントくらいの電圧が精いっぱいよ。無意識のうちに展開できなきゃ自動防御にならないし、必要な時のオンオフの切り替えも無意識にできなきゃだからね」
簡単に言っているけれど、人間は雷に撃たれなくたって、家庭用コンセントの電圧で十分すぎる程に感電する。
つまり御坂さんは、無意識のうちに触れるだけで人を殺す鎧を常に纏っている、という事だ。
まさに歩く兵器、と称するに相応しい存在だ。
球磨川君の表現は、言い得て妙だったという事になる。
そう認めるのは非常に癪だけど。
「……やっぱり心の読めない人間なんて、信用ならないものねぇ。私の知ってる御坂さんは少ないお友達にそんな風に攻撃する人じゃあなかったと思うわぁ」
「攻撃っていうか防御しただけなんだけどね。というか、アンタなら黒子が私に攻撃を仕掛けてくるっていう事がわかってたはずよね? それを黙ってたっていう事は、私への敵対を意味するわけだけど……?」
可愛らしく小首をかしげるも、それは檻の中に居れば安全なライオンや熊の仕草によく似ていた。
目の前にいる人物の愛嬌と攻撃性のアンバランスさを目の当たりにすれば、嫌でもその仕草には恐怖を覚えてしまう。
ああ、なんだかなぁ。
皮肉と嫌味で敵と戦ってきた球磨川君的に、この学園都市ってのは凄く居心地が悪いんだろうなぁと思う。
平和を愛する私としても同様だ。
球磨川君と同様、というのはすごく気持ちが悪いけれど、こんなバトル漫画や昨今のラノベのように、武力第一みたいな雰囲気はなんというか、空気が合わないのだ。
「……はぁ、ダメダメねぇ。この距離で御坂さんを私の戦闘力でどうにかできるわけないしぃ、退くしかなさそうねぇ」
「理解が早くて助かるわ。……ああ、そうだ球磨川。出ていく前に一言だけ言わせてもらうわ」
御坂さんは部屋の扉に手をかけながら、倒れた白井さんには目もくれず、飄々としている球磨川君を一直線に見つめながら、こう言った。
「アンタは大嫌いだけど、感謝だけはしてもいいわ。そしてあんたの策に乗ってもいい。でも私の復讐が終わったら、その後は私がアンタを裁く」
そんなセリフを残し、御坂さんは実に軽やかな足取りでその場を後にした。
球磨川君の言った『巻いていく展開』というのは、今この瞬間から始まったのだ。
巻きますか、巻きませんか?
そんな風に事前に聞かれていたのなら、きっと私は巻かなかったと思うけれど。
今回はここまでです。内容的には全然進んでないインターバルみたいな回でした。
次回も話が進むか、といわれるとやや怪しいですが、新たな登場人物が出ます。
次回グッドルーザー球磨川、『孤独の中二モヤシ』、デュエルスタンバイ!
次回、「球磨川死す」デュエルスタンバイ!
吐き気のする邪悪とはッ!!!!!強者を踏みにじる事だ…てめーの都合でッ!!!!!
復讐が終わればッ…私が裁くッ!!!!!
話が進まないと言うけど多めの投下乙
抑制心をなかったことにされたらしい御坂の行き先は
一方か『窓のないビル』か、それとも上条か
いずれにせよロクでもない‥まあ元々素行わr)ドカーン
まぁ元々大して抑制心無かった気もry
グッドルーザー球磨川最終回はいい最終回でしたね
最終回で球磨川さんの大嘘憑きさらに何でもありになったな
アルバイト探しがはかどらない。
>>95 あの次回予告は間違いなく悪意がありますわ・・
>>96 容赦のなさという点ではぶっちゃけ承太郎も漆黒の意志に目覚めていそうな気がしなくもないです。
>>97 美琴はアグレッシブなだけなんですよ、多分。
>>98 須木奈佐木さんがあんなに登場するキャラになるとは思ってなかったです。
>>99 アレ、安心大嘘憑きを不知火ちゃんが進化させたんですかね・・?
では投下。
ぶっちゃけ今回の話は何がしたかったのか、自分でもわかりません。
間違いなく最近読んだ漫画のせいです
その少しあとの話。
食蜂さんは白井さんの携帯から勝手に救助を呼んだため、私達の部屋には多くの風紀委員の人達がやって来た。
当然、私と球磨川君は犯人と疑われたけれど――学園都市外から来たということ、白井さんの状態が明らかに電撃を受けた状態である事などのいくつかの証拠を提示することで、面倒事は避けられた。
まぁ、そもそもどうして視察に来て取り調べを受けなきゃいけないのかという話なんだけど。
壁に空いた大きな穴は球磨川君の『大嘘憑き』によりなかった事にされていたので、突っ込まれることはなかった。
白井さんのダメージも消してやれよ、と思わなくはなかったけれど、今となっては後の祭りという奴だ。
ちなみに食蜂さんは風紀委員が来る前にさっさと帰ってしまった。
御坂さんを取り返しに来た、にしては嫌に淡白な反応だとは思うけれど……まぁ、学園都市の人達とは正直分かり合える気がしないし、その辺はあまり気にしないほうが利口そうだ。
「球磨川君、向こうの部屋で御坂さんとは何をしてたの?」
『いやだなぁ咲ちゃん』『若い男女が密室で二人きりだなんて』『やる事は一つしかないでしょう?』
「うん、真面目に答えてもらえるかな?」
『にらめっこだよ』
…………真面目に答えた、といえるのかどうか非常に判断に迷う解答が返ってきた。
直前の文章から導き出されそうな男子中学生の考えるような解答とは真逆の、微笑ましさすら感じられる遊戯なのだけど、この場でこの解答は私のストレスしか導き出せそうにない。
『まぁそれ以外にもちょっとした雑談はしたけどね』『スカートの下にはく短パンについて熱い論争を繰り広げたよ』『防御と機能性を兼ね備えた短パン至高説を唱えた美琴ちゃんに僕はこう言ってやったね』『それは違うよ!』『ってさ』
なんだか弾丸のように論破を繰り広げられる学級裁判みたいなセリフだった。
それは違うよ、ってセリフもなんだか球磨川君の声に合っているような気がしてすごく気持ち悪い。
「そんな会話じゃ御坂さんが何に復讐したいと思うようになったのかがわからないよ……」
戯言をほざく球磨川君への八つ当たりしか出来なさそうな会話だし。
『その辺の会話はまさに蛇足だったんだけどね』『美琴ちゃんのクローンを使った虐殺実験の犯人である一方通行ちゃんへの復讐の話だなんて』『週刊少年ジャンプじゃお約束の過去編みたいでつまらないでしょ?』
「明らかにそれが一番重要そうだよ!?」
蛇足こそが真髄とは、球磨川君らしいちぐはぐだ。
『昔の一方通行ちゃんならまだしも』『今の一方通行ちゃんには美琴ちゃんなら簡単に勝てるよ』『だから問題は復讐の仕方だね』『美琴ちゃんが主人公兼ヒロインになるためには、健全で誠実な復讐をしなきゃいけないからね』
健全で誠実な復讐かぁ。
よくマンガじゃ復讐は復讐しか呼ばないとか、よく否定的な感じに言われるけれど復讐しない人間なんてこの世には居ないんじゃないかな。
やられっぱなし、ですべてを終わらせられる人間は、それはもう人間じゃない。
気にしない、というならまだしも、たとえば家族を殺されて、それでも復讐心が芽生えないというのならば、よほどの人でなしだろう。
ため込むだけの人生は生きている価値がない。
圧迫されるがだけの家畜と同じ生き方だ。
「けど……本当に復讐なんかで恋愛フラグが立つのかなぁ」
『あはは』『まぁその辺はアドリブが重要さ』『恋を知らないお子様な咲ちゃんにはまだわからないかもしれないけどね』
「いらっ」
私のストレスが学園都市に来てから尋常じゃない速度で溜まり続けている。
このままだと臨界点を突破しそうだよ。
『さて』『今日はもう大丈夫だから』『ゲームセンターにでも行こうかな』
「え? もう何もしないの?」
『場が動くまでは待機だね』『手を緩めるつもりはないけれど』『やる事が出来るのは涙子ちゃんと御坂ちゃんのお仕事が終わってからかな』
おや、佐天さんに何か指示を出していたのか、いつの間に。
まぁここは私たちからしたらアウェーだし、ホームである佐天さんに動いてもらった方が効率がいいのかもしれない。
球磨川君は相変わらず何を考えているのかはわからないけれど。
佐天さんに吹き込んだ作戦だって、きっと碌なモノじゃあないって事だけはわかる。
『さぁ咲ちゃん!』『一番近くにあるゲームセンターを調べるんだ!』『そこで一生モノの思い出になるプリクラを取るんだから、場所は選ばなくっちゃね』
「一生ものなのに一番近場ですませるんだ……」
というか、撮らないからね? プリクラ。
『一方通行の深刻な午後』
今日は朝から黄泉川も打ち止めも番外個体も居なかった。
黄泉川はアンチスキルとしての仕事があるらしい、打ち止めは遊びに行くだか何とか。
番外個体に至っちゃ足を運ぶよォな場所が検討もつかねェンだが、きっと碌な所じゃねェ事は確かだろォな。
そンなわけで、自宅……つって良いのかはわからねェが、俺が今暮らしている黄泉川の家には俺ともう一人の同居人、芳川しかいなかった。
時計の針が二本とも頂点を指すくらいの時間に起きたこの元研究員は、あろうことか俺に飯の用意を言い渡しやがった。
俺は学園都市第一位の頭脳を持ってはいる、が、料理ってのは知識よりも経験だ。
しっかり分量をグラム単位で測って作った素人よりも、目分量で味付けしアドリブでアレンジを加える奴の方が美味しく作れる可能性が高い。
つーわけで、俺は殆ど寄生虫と化しているクソニートの飯としてカップラーメンを顔面に叩きつけ、俺は外に一人で食いに行く事にした。
学園都市は住人の殆どが学生の街、飲食店も学生が利用しやすいファミレスやファーストフードの店が多い。
だが、わざわざそンなところで飯を食うなら外に出向きはしない。
せめて冷凍食品やカップラーメンよりかはマシなもので腹を満たしたかった。
とは言っても、メシなんて栄養が取れりゃどォでもいい、いや、肉が食えりゃどォでもいいと少し前まで本気でそう思っていた俺が学園都市の隠れた名店なんて知ってるわけもねェ。
だから俺は、こォして当てもなくぶらぶらと歩いているってワケだ。
あァ……にしても、腹が減った。
今日は朝から首のチョーカー型バッテリーの調整をしてたから、何も食ってねェ。
金はある、糸目をつけるつもりはねェ……が、外見だけに気を使ったクソくだらねェ店はゴメンだ。
しっかし、そォ考えるとお目当ての店ってのは中々見つからねェ。
歩き始めてそろそろ三十分近く経つ、が、どこもパッとしない。
俺の腹もそろそろ限界が近ェ、イライラも溜まってきた。
いっそのこと、もォファミレスで済ませてしまおうか……。
……と、そんな風に考え始めた時、一軒の店が目に入った。
こじんまりとした、定食屋らしい店だった。
レトロな外見は学園都市じゃ珍しく、人通りのすくねぇ横道に小さな店を構えているだけなのに、一度目に入れば中々存在感があった。
そもそも適当に歩いていたためか、俺が今いる学区自体があまり人が密集してねェ学区である事に今更気づく。
(ここを見逃せばまた探すのに時間がかかりそォだしなァ……ここで済ますか)
そう決めた俺は、店ののれんをくぐり、横開きのふすまの様な扉をあけて店内へと入る。
「いらっしゃいませー」
はきはきとした、しかしどこか穏やかな声が店の中から響く。
学生アルバイトの多い学園都市には珍しく、四、五十代って所のオバサンが店員らしい。
俺は一番身近な空いている席へ座る。
木のテーブルに安っぽい椅子は時代を遡っちまったのかと錯覚しそうだ。
備え付けのメニューに目を通すと、どうやらこの店は定食が主なメニューであるらしく、幾つかの定食やついでに一品、みてェな感じのメニューが殆どを占めていた。
(アジフライ定食に、豚汁定食、焼きそば定食ってのは焼きそばをおかずに飯を喰うのか? 炭水化物はそンなにいらねェし……お?)
上から順に目を通していくと、とある一品が目に入った。
豚生姜焼き定食。
……これにすっかァ。
「すいませェーン」
「はぁい」
安っぽいグラスに並々と注がれた水と共に、店員のオバサンがやってくる。
「豚生姜焼き定食……後、食後にコーヒーありますゥ?」
「はい、ありますよ。ホットでよろしかったですか?」
「あァ、ホットで。以上」
「かしこまりました、では少々お待ちください」
調理場の方に豚生姜焼き一つ、と大声で伝えるオバサン。
料理も頼んだことだし、俺は店内を適当に眺めて暇をつぶすことにした。
ちょうど時間帯も昼頃だからか、店内は中々の賑わいだった。
しかし、客の殆どは大人で俺の存在は酷く浮いているように思える。
まァ、白髪で赤目で杖突いてる時点で殆どの場所にすんなりと溶け込めるとも思えねェが。
店内は賑わっちゃいるが、ファーストフード店みてェな馬鹿が馬鹿騒ぎしているわけでもなく、悪くねぇ騒がしさだった。
得意の客が多いのか、調理しながら客と話しているのは店長だろォか、店員のオバサンも美人とは言わねェが、客にちやほやされてる感がある。
黄泉川や芳川ならこの店にすぐ馴染めそォだが、クソガキと性悪は絶対合わねェだろォな、なンて事を考えながら俺は他のメニューにも目を通してみた。
さっぱりとした漬物系やきんぴらごぼうや肉じゃがみてェな一品、そして今気づいたが、定食はご飯のお替り自由らしい。
定食じゃちょっと物足りなかった、って奴の為に一品料理を用意してあるンだろォな。
そんな事を考えていると、オバサンが俺の所に料理を持ってやってくるのが視界に入った。
どォでもいいが、この店は料理人二人とオバサン一人で切り盛りしてるのか?
店の規模は小さいが、この客入りならもォ少し人員を増やすべきだと思うけどなァ。
「お待たせしました、生姜焼き定食です」
俺の前に、それぞれ別のものを乗せた皿が次々と置かれていく。
・豚の生姜焼き 巨大な肉が五枚、上にたっぷりとダレがかかっている。付け合せは山の様なキャベツの千切りにトマトが六分の一程度、後ポテトサラダ。脇にカラシのようなものが添えられている。
・ほうれんそうのお浸し ほうれんそうの量に対して鰹節がやや多め。
・味噌汁 具材はわかめとねぎで赤みそ仕立て。
・ご飯 量多し。
(……千切りが多いなァ、千切り無くして肉一枚追加してくれっつったら怒られるよなァ)
さすがにそンな提案はできず、俺は割り箸を割って食事にとりかかる。
まずはたっぷりとタレのかかった肉を一口、白米の上に置いて肉で飯を包むように持ち口へと運ぶ。
飯は炊き立てなのか、口の中に放りこむ前から「あァ、熱々だなァ」というのがわかった。
そして口の中へ放り込むと――まず感じるのは肉汁。
大きな肉は一気に口の中には運べず、噛み千切る事になったンだが、それが幸いしてか口の中に溢れんばかりの肉汁が広がった。
人によっては油っぽさが気になるかもしれねェが、俺はこの肉汁こそが肉を肉たらしめる要素だと考えているので、むしろ歓迎する。
次に、ダレの爽やかな風味を感じる。
これは、おろしダレだ。
大根なンざ焼き魚を黄泉川が焼いた時くらいしか食わねェが、肉との相性もいいみてェだ。
肉と野菜のダブルパンチは、白米への欲求をブーストさせる。
気が付けば、肉一枚喰うのに白米を半分以上消費していた。
(やべェなコレ。調子に乗ると胃袋のキャパシティを容易にオーバーしちまう)
とはいえ、内から湧き上がる食欲を抑える事は出来ねェ。
俺は肉の隣にどっさりと置かれたキャベツの千切りを肉で挟み、白米と同じように口へと放り込んだ。
「!」
すると、それまで野菜なンてのは人間が一定以上の健康を保つための薬みてェなモンだとすら思っていた俺が、初めて野菜を、しかもただ刻ンだだけのキャベツを旨ェと感じた。
理由は間違いなくこの肉とのコンビネーションだ。
肉汁とソースのデュエットにキャベツっつー三人目のメンバー加入。
肉の味を帯びたシャキシャキとした触感は衝撃的だった。
(千切り、馬鹿にできねェ……! 俺の能力がありゃキャベツの千切りなンざいくらでも量産できる。後は黄泉川の炊飯器スキルで肉を上手く調理出来りゃァ……!)
一瞬頭の中でそンな風に考えたが、やっぱ無理だなァ。
こォいうのは、雰囲気が大事だ。
たとえ同じ味が再現できたとしても、性悪とクソガキとニートを目の前にジャージ女が炊飯器で生姜焼きを作るのを想像した時点で今みてェな感覚にはなれねェだろォし。
そンなわけで、俺はこの店でしか味わえなさそォな料理を喰う事を続行する。
口の中のリセットを兼ねて、俺はポテトサラダを食ってみた。
こちらはまさに想像通りのポテトサラダで、意外性や驚きってもンはねェ。
だが、たまに大きめの潰しきれてねェイモがいい感じにアクセントになっている。
多分ポテトサラダは自家製なンだろォな、機械のよォな正確さと丁寧さはねェが、大量生産品にはねェモンが確かにポテトサラダに混ぜ合わせられてンのがわかった。
次に、ポテトサラダで汁気が欲しくなった俺は、味噌汁を啜る。
黄泉川が作る味噌汁はいつも白みそだからなァ。赤みその味噌汁ってのは考えてみりゃ初めてかァ?
……あァ、うめェ。
喉を滑り落ちていくこの熱さが心地いい。
具材自体はネギとわかめとシンプルだが、だからこそなのか、ダシの濃厚さが際立っているよォに思えた。
芳醇、っつーのかどうかはわからねェし雰囲気補正みてェなモンもあるかも知れねェが、俺は赤みその方が好みだ。
最後に、唯一まだ手を付けていないほうれんそうのお浸しを喰う。
もろに『野菜』であるこれは、正直俺の好みとはかけ離れている……ンだが、喰わねェのは何となく損な気がすっからなァ。
口へ運ぶと、よく浸かっている、ってのがまず最初のド直球な感想だ。
味は想像通り、俺が好きな味ってワケじゃあねェ。
肉と一緒に喰うのはさすがにキャベツほどは合わねェだろォし、唯一この定食で満足とは言わねェ品だなァ。
残すよォなガキ臭ェ真似はしねェし、他の品が良いからまァ不満とまでは言わねェが。
先にほうれんそうのお浸しをカパカパ口へ運び、小皿を空にする。
ついでに茶碗が空になったからお替りを注文すると、パッと来てパッと持ってきてくれた。
こォいう味意外の所で気を使えるのは店として上等だなァ。
追加された白飯と、残りの肉やキャベツを俺には珍しく味わいながら、しかし休みなく口へと運ぶ。
事務的な食事じゃねェ、まさに『喰ってる』って感じだァ。
……気が付けば、俺は米をもう一度お替りをして、目の前に並んでいた飯を全て平らげていた。
やや苦しいながらも、食ったっつゥ感覚に充足感を覚える。
腹をさすりながら息を吐いていると、俺の食事が終わるタイミングを見計らっていたのか、オバサンがコーヒーを持って俺の席へ向かってくるのが見えた。
「お待たせしました、こちら食後のコーヒーです。ミルクと砂糖はお使いになりますか?」
「いや、いいですゥ」
……気遣いの行き届いてる店だなァ。
雑草みてェにあちこち増えるファーストフード店じゃァこンな風なサービスは得られねェンだろォな、と思いながら、俺はブラックコーヒーを啜る。
独特の苦みと共に喉に突き刺さるカフェインの攻撃力が心地いい。
インスタントじゃァねェな……和食の店だからさすがにコーヒーにそンな期待はしてなかったンだが、拘りが見て取れる。
店主の趣味なンだろォか、だとしたら良い趣味だ。
抱きしめてやりてェくらいだぜ。
コーヒーを飲みながら店内の様子を俺はぼんやりと眺める。
客入りは悪くはねェ、回転率もまァまァ。
だが客の誰もが慌てて食ってたり、だるそォに喰ってたりする事はなかった。
誰もが食ってる時は笑顔で、楽しンでるのがわかる。
「……」
この学園都市のクソ以下な『闇』に触れた俺からすれば、『悪党』としての俺だったならば、この光景を呑気な平和ボケと鼻で嗤ったンだろう。
けど、俺は『悪党』に拘る事はもォやめた。
ガキに、性悪に、ニートに、ジャージ教師。
守らねェといけねェモンを守るには、プライドなンざ捨ててやる。
それこそが、俺が持つべき第一位としてのプライドだ。
「……ごっそさァン。勘定頼む」
「はーい」
俺は伝票を持って、一般人からすればありがたいであろう値段の金額を支払い、店を後にする。
(……今度、アイツらも連れてきて見るかァ)
そンな事を考えながら、俺は腹ごなしにちょっとした散歩に繰り出すことにした。
俺は珍しく、本当に自覚するほど珍しく、『ご機嫌』だった。
帰りに家にいるであろうニートや帰ってきたガキどもに土産の一つでも買ってやるか、とでも思うくらいには。
「……平和ボケしちまったなァ」
俺は誰に言うでもなく、つぶやいた。
「あ、居た居た」
今回はここまでです。
グルメ漫画を描いてる人は凄いと思います。どうやったら美味しさを表現する言葉を学べるんでしょうか。
鉄鍋のジャンくらいしかまともに読んだグルメ漫画がないので、私の趣味が偏りすぎてるというのもあるんでしょうが。
次回は割と早めに来れるはずです。
では今回もご覧いただきありがとうございました
乙
‥学園都市には希少であろういい感じの定食屋とそこに関わる皆様へご冥福をお祈りいたします
西尾作品にしろ禁書にしろこういう食事シーンてそんなにないよね
なんかすげー面白かった
乙ー一方通行が普通に店員に話かけてる図ってかなりシュールだなww
虚数大嘘憑きは正直球磨川が適当なハッタリ言ってるだけの可能性も否めないと思う
飯テロ
レイヴィニア!レイヴィニア!レイヴィニア!レイヴィニアぁぁあああぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!レイヴィニアレイヴィニアレイヴィニアぁああぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!レイヴィニア=バードウェイたんの金色の髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
新訳8巻ためし読みのレイヴィニアたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
SPも発売されて良かったねレイヴィニアたん!あぁあああああ!かわいい!レイヴィニアたん!かわいい!あっああぁああ!
人気投票も開始されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!人気投票なんて現実の人気じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
レ イ ヴ ィ ニ ア ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!明け色の陽射しぃいいいい!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のレイヴィニアちゃんが僕を見てる?
表紙絵のレイヴィニアちゃんが僕を見てるぞ!レイヴィニアちゃんが僕を見てるぞ!レイヴィニアのルイズちゃんが僕を見てるぞ!!
ためし読みのルイズちゃんが僕の膝の上に座ってるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはレイヴィニアちゃんがいる!!やったよマーク!!ひとりでできるもん!!!
あ、はいむらさんのレイヴィニアちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあお姉様ぁあ!!シ、シスターズ!!オルソラぁああああああ!!!御坂ァぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよレイヴィニアへ届け!!明け色の陽射しのレイヴィニアへ届け
※このSSにレイヴィニア=バードウェイの登場予定は今の所ありません
速めに更新しに来ました。このSSは劇場版「とある魔術の禁書目録」Blu-ray&DVD発売記念 103000秒TV ~魔術と科学は世界を救う~を見ながらお送りします。
>>119 学園都市とはいえ普通のお店もあるはずなんですよ。世紀末より治安悪いんじゃないかとは思いますが、種もみ爺さんみたいな良心もあるはずなんです。
>>120 一方通行さんが指喰うシーンと神裂さんが鯛茶漬けみたいなのを作ってるシーンはぼんやりと覚えてます。オルソラのパスタ食べたい。オルソラも一緒に食べたい。
>>121 いつまでもコミュ症ではいけないと、一方通行さんもわかったんですよ・・・・多分。虚数大嘘憑きの謎は後日発売のファンブックとかで発表されたりするんですかね?
>>122 生姜焼きを作りましょう。
量は少ないですが、話を動かす投下です。あと上のコピペ改変、結構ミスがありました。申し訳ない
【上条当麻は不幸を生きる】
ワタクシ、上条当麻は不幸な人間であります。
雨にも負けず、風にも負けず、雪にも夏の暑さにも負けず、たくましく生きようと願う苦学生。
決して身の上に余る豪遊っぷりを見せつけているわけでも、生活力が皆無なわけでもありません。
ただ、喰うのです。
同居人が。
食材を喰らい、食費を喰うのです。
今までには、冷蔵庫が故障し中身が全滅するという事はありました。
しかし、購入した食材がその日のうちに全てなくなるなんて事は、今までありませんでした。
同居人。
インデックス。
神に仕えるシスター。
シスターが、ワタクシ上条当麻の住む家の玄関をくぐった食材を貪りつくすのでございます。
しかし、同居人を受け入れることを決めたのは紛れもなくワタクシでございまして。
それを不幸だと言うつもりはありません。
ワタクシの不幸はもっと日常的な、ささやかな積み重ねでございます。
バスには間に合わず、タイムセールには間に合わず、女子中学生に追いかけられ、同級生からみぞおちパンチを食らい、ロリ担任には補修でーす♪のラブコール。
そんな不幸が日常化しているワタクシ上条当麻は――――
「どうしたんですか? 上条さん、ここのケーキ美味しいですよー」
女子中学生に、逆ナンされていた。
「何だ……何がどうなっている……?」
「?」
確か俺は、補習のせいでタイムセールを逃し、とぼとぼと歩きながら家に帰ろうとしていた筈だ。
その時背後から声を掛けられ、振り向いてみればそこにいたのは長い黒髪と割と豊かなおバスト様を携えたセーラー服の女の子だった。
その手には、俺が先ほど逃したタイムセールをやっていたスーパーの袋があり、中には本日の目玉商品だったはずの卵やらキャベツやらが見えた。
「こんにちは! 私、佐天涙子っていうんですけど……上条さん、であってますよね?」
「え? あ、ああ……俺は上条当麻だけど」
俺が上条当麻本人であることを確認したからか、佐天はニッコリと笑って俺にスーパーの袋を差し出した。
「これ、あげます!」
「え、は? い、いや悪いだろそんなの。それは佐天が買った奴なんだろ?」
「いいんです。私の部屋の冷蔵庫、そんなに入りませんし……それに、私の今日の晩御飯はもう決まってます。JC特性カレーですよ。あ、セール品よりもそっちのほうが良いですか? 華麗にカレーに塗れたカレールイコの方がお好みだったりします?」
「何の話だ!」
トンデモナイ事を言い始めた佐天。
ひょっとして、ちょっと危ない子なんだろうか……?
いや、よく考えたらニコチン中毒の14歳の神父とか、魔術結社のボスをやってる口の悪い幼女とか、もっと危ない奴はたくさんいるか。
「とにかく、これは貰ってください。上条さんにあげるために買った物と考えてくれた構いませんよ? いやーん、JCに貢がせる上条さんステキ!」
「人聞きの悪いを言うな! すいませんそこのお姉さん引かないでください誤解しないでください! 上条さんは裏表のない素敵な好青年です!」
通りすがりの人に必死に弁明する俺を佐天はクスクスと笑っていた。
……悪意はないんだろうけどなぁ。
「……でも、実際いきなりこんなの貰うのは悪いだろ。お金は払うよ」
「お金は月並みに欲しいですけど、JCと金銭のやり取りってより犯罪の匂いがして何か興奮しちゃいますね!」
「…………」
「冗談です。じゃあ近くのカフェで一緒にお茶してくれませんか? それでいいです」
「それでいいならそれでもいいけど、本当にそんな事でいいのか?」
「はい、それが最優先事項です!」
にっこりと笑う佐天に、何故か俺は妙な感覚を覚えた。
そう言うわけで、俺と佐天はカフェに来たわけだが……。
何と言うか、居心地が悪い。
上条さん的には安い、速い、多いの三種の神器が揃った牛丼屋とかがホームなので、こういう男女比が1対9くらいのオシャレなカフェは物凄く浮いているような気がしてしまう。
メニューもカタカナが狂喜乱舞したようなやたら長い物が多く、上条さんが一番最近接したカタカナなんて味関係なしに量を欲する暴食同居人ですよ。
そんな俺の真正面で、幸せそうにケーキと紅茶を楽しんでいる佐天はまるで俺と長年の付き合いがあるかのように、とても友好的に接してきている。
もしかしたら記憶を失う前の知り合いなのだろうか、とも思ったが、佐天自体が初対面であるかのように接してきたのだから、その可能性はないだろう。
けど、そうなると何で俺を誘ったのか、わからない。
まさか本当に逆ナンなわけはないだろうし……そもそもどうして上条さんがタイムセールを利用している事とかを知っているのか。
もしかして、たちの悪いストーカーさんとか……?
「あ、何か今失礼な事考えてません?」
「!? い、いや、何も考えてないぞ!」
「バレバレですよ。男の人の隠し事って、本人が思ってる以上に案外バレるものだから気を付けたほうがいいですよー。見栄貼って童貞である事を隠したりしても、実は周りから鼻で嗤われてるかもしれませんよ?」
「お前本当は俺の事嫌いだろ!」
「いいえ、愛してますよ? 私、上条さんになら何をされても……いやんっ、こんな所で言わせるなんて上条さんのケダモノーッ!」
「わかったぞお前レッサーと同種の人間だな!? 騙されん、騙されんぞ!」
顔に手を当てクネクネと体をよじる佐天。
ああ、周りのお姉さん方からすごく冷めた目で見られているのがわかる……上条さんのガラスの様なハートに罅が……。
「まぁ、元々興味はあったんですよ? あの御坂さんがあんな表情をするだなんて、一体どんな人なんだろーって」
「ん? 佐天は御坂の知り合いなのか?」
「友達ですよ、中学は違いますけどねー。私は能無しレベル0なんで、常盤台みたいな名門校なんか入れませんよー」
能無しレベル0、という言葉に俺は小さな棘の様なものを感じた。
学園都市にはレベル0の方が多い、けどそれをコンプレックスに思う人も多い。
能力なんて、関係ないのに。
その人を構成するのに、能力なんてものはただの付随効果でしかないのに。
「……自分の事を能無しだなんて言っちゃだめだろ」
「いえいえー、能無しですよ。学園都市は超能力の開発がメインなんですよ? 例えるなら、体育大学に入学したのに体育の成績が最低みたいな、そんな感じですよ」
「でも学園都市の能力がすべてってわけじゃない。実際俺だってレベル0だけど――
「あ、それなんですけどね」
佐天はにこりと笑った。
「上条さんのどこが能なし認定のレベル0なんだ、って話ですよ」
俺の言葉を遮る様に、佐天は今までの気楽そうな喋り方とは打って変わって、まるで俺の心に突き刺す様に言葉を吐き出した。
「何を……」
「御坂さんの攻撃を消し、第一位の反射膜を貫き、シスターの喉をつけられた枷を破壊し、世界を救う程の力をかき消して、挙句の果てに天使まで消滅させて。それの何処かレベル0なんですか?」
「……佐天、なんで、それを」
「あらゆる異能をかき消す腕。どんな幻想でも『なかった事』にする腕。それはあの人の力にとてもよく似ているけれど、あの人は上条さんとは違います。あの人は善性を押し付けたりはしない。まるで異能を持っていない一般人であるかのように振る舞ったりはしない」
あの人、というのが誰の事なのかはわからない。
けれど、俺の中にはうすら寒い物が満ちていた。
名前も姿も知らない『あの人』とやらに、俺は間違いなく恐怖を抱いていた。
「結局のところ、上条さんの物語は無能力者が強大な力に立ち向かう話じゃない。一番特別な力を持った主人公が、人の気持ちを間違いだと言いながら他の人をなぎ倒す話でしかないんです。それを、自分がレベル0だの不幸だの……あなたは本当の無能力者の気持ちがわかりますか? いえ、無能力者だけじゃありません、あなたが今まで殴り飛ばした人の気持ちを、ほんのちょっぴりでも理解できてるんですか?」
「…………」
「本当に無能力な人間は、物語の主軸になんてなれないんですよ。だって、物語の軸に置く意味がないですから。無能力者は何処まで行ってもモブでしかありません。凄い人の凄い力を凄いと驚くための役でしかないんです。何なら上条さんのその役に、私が立候補しましょうか? 上条さんが他の人を殴るたびに「や、やったッ! さすが上条さん! 私達にできない事を平然とやってのけるッ! そこに痺れる! 憧れるゥ!」って」
「…………」
「さぁ上条さん。一緒に世に蔓延る他人を殴り飛ばしに行きましょう。そして証明するのです、俺の拳が世界一ィィィイイイイイイ! だって事を――
「なぁ、佐天」
「…………なんです?」
「確かに俺には『幻想殺し』がある。これがなきゃ、今こうして生きてさえいなかったしコレがあったからこそ起こった戦いもあった」
「……」
今も目を瞑れば、鮮明に思い出せる戦場の光景。
第三次世界大戦。
間違った方法で、世界を救おうとした男。
特別な力で特別な力を操ろうとした右方のフィアンマ。
「でも、これはきっかけでしかない。佐天の言うとおり、俺は間違ってると思ったものにたいして、言葉と拳をぶつける事しか出来ないよ。でもさ、それでそいつがもう一度考え直して、もう一度歩き始めてくれたなら、それは紛れもなくそいつ自身の功績だ」
「……」
「何もできない人間なんて居ない。それを証明することは難しいかもしれないけど、それを信じることは誰にだって出来る。だからさ、佐天もレベル0である事をコンプレックスに思う必要はない、超能力が無くなって幸せな人間はたくさんいるんだから」
「無能力者であることは、努力できない言い訳になんか――
「うるせーよ、一般人気取りのご都合主義主人公風情が」
「……は?」
「何が何もできない人間なんて居ない、でーすかー……? じゃあ今この場でケーキナイフでも使ってその辺で遊んでる子供の喉笛でも掻っ切ってやればいいんですかね? そしたら何もできない人間じゃなくて、凶行に走った悪魔にはなれますからね!」
「佐天! お前、自分が何言ってるのかわかってんのか!?」
「うるせーんですけど独善主義者さぁん! 何がわかるんです!? わかりませんよねぇ、わからねぇよなぁ! 無能力者ってのがどんだけ惨めかをよぉ! お前が無能力者ならもう死んでるんだろ!? じゃあ死ねよ! 死んでみろよ! 死んでくださいよぉぉぉおおおおおおおおおお!」
いきなりキャラの崩壊した佐天がそう叫んだ瞬間、ガクン! と佐天は首がへし折れたようにいきなり下を向き、テーブルに思いきり額を打ち付けた。
叫んでいたせいもあってか、周囲の視線が佐天に集中している。
ピクリとも動かない佐天はその姿勢のまま十数秒静止しており、そろそろ声をかけるか、と俺が思い始めたところで何の前触れもなく唐突に、ムクリと起き上がった。
「……いやぁああ……私にはまだまだ球磨川さんみたいな『キャラづくり』は出来ないですねぇ」
そこには、さっき会った時と同じような笑顔を浮かべる佐天の姿があった。
「……ッ!」
俺は恐怖した。
先ほどの得体も知れないあの人、とやらにではない。
目の前にいる、佐天にだ。
あまりにもちぐはぐで、そして得体の知れない佐天に、俺はキャーリサやフィアンマと対峙した時よりも怯えていた。
……ん?
待てよ。
「……佐天、お前今、球磨川って言ったか……?」
球磨川。
その名前に、聞き覚えがあった。
クラスメイトでも、敵対した魔術師でもない。
昨日出会って、少し言葉を交わしただけの、何でもない他人。
そんな奴の名前を、どうしてこんな所で聴く?
「はい、言いましたよ。球磨川禊さん、私の憧れの人ですかねぇ。憧れなんて前向きな言葉はすごく似合わないですけど」
……御坂の友達である人間が、こんな性格をしているとは考えにくい。
もしかしたら球磨川は、洗脳系の能力の様な、そんな力を持っているのかもしれない。
だとすれば、俺が佐天の頭に触れれば。
そう考えた俺は席を立ち、佐天の頭に手を乗せる。
すると、パリンと、いつも通り幻想が砕け散った破壊音が
――――聞こえなかった。
「……なん、で……」
俺の『幻想殺し』に手加減はない。
触れずに生かすか、触れて殺すかのどちらかしかない。
つまり。
佐天のこれは、紛れもない自分の意思だという事になる。
「……上条さん、いきなり女の子の頭をなでるっていうのはどうなんです? セクシャルハラスメントで訴えたら責任取ってくれます? この、お腹の中に生まれた新しい命と共に……」
「いきなり何を言うんだよ!」
「え? だって好きな人に触れたら赤ちゃんが出来るんじゃないですか?」
「さっきまでの発言とは裏腹になんてピュアな考え方! チクショウさっきまでの雰囲気はどこ行ったんだよ!」
おどけてみたけど、やはり不安感はぬぐえなかった。
佐天涙子という人間に対して抱いてしまった恐怖心が消えることはなかった。
『ザザッ』
「……何だ?」
いきなり、何かノイズのようなものが聞こえた。
それは俺の幻聴などではないらしく、俺の周りにいた人たちも一様に辺りを見渡している。
そして、原因はすぐに判明した。
近くの高層ビルの壁面に備え付けられた、巨大モニター。
普段ならニュースなどの番組を流しているそれの画面が、真っ暗になっていた。
「故障か?」
俺は一番ありえそうな可能性を、無意識に呟いていた。
しかし、その言葉に反応する奴が居た。
「違いますよ」
佐天涙子。
紅茶を啜りながら、ニコニコと微笑み、そして続ける。
「始まったんですよ。公開処刑が」
「…………は?」
唐突な、物騒な言葉に俺の思考が一瞬停止する。
そして、その言葉の真意を訪ねる前に次の変化は起こっていた。
暗くなっていた画面に、映像が流される。
ライブ映像らしきそれは、二人の男女が映し出されていた。
椅子に縛られ、気を失っているのか項垂れているのは男。
その傍らに立っているのは女だった。
俺は目を疑った。
そのワンシーンの異常さ、にじゃない。
出演者が、二人とも俺の知り合いだったからだ。
学園都市の最上位。
第一位と、第三位。
一方通行と御坂美琴が、そこに映し出されていたからだ。
「御坂……ッ!?」
御坂の能力があれば、確かに学園都市の電波ジャックは可能だろう。
しかし、なんだって、こんな凶行に?
「わからない、だなんて言わせませんよ上条さん。あなただって当事者の癖に」
紅茶を飲み干した佐天は実に楽しそうに言う。
「御坂さんには理由がある。権利もある。一方通行さんには非がある。責任がある。……何のことか、わかりますよね?」
「……」
理由として考えられるのは……一つしかない。
一方通行と御坂の消しても消しきれない巨大な因縁。
絶対能力者進化計画。
一万以上もの命が失われた、決して表沙汰になる事がないあの悲劇。
『……見たくない人は見なくていいわ。けど映像はやめない。これは人知れず死んでいったあの子達の復讐だから』
そこはまるで牢獄のように薄暗く、どこか埃っぽそうな廃墟的な場所だった。
学園都市には放置された廃墟同然の建物なんていっぱいあるし、映像だけじゃどの場所か判別するのは不可能だ。
『誰にも知られず人を殺したアンタを、あらゆる人間の目の前でこれ以上なく無残に殺す。そのための下準備よ』
そう呟きながら、御坂は画面に映っていない部分から何かを取り出した。
最初は薄暗くてよく見えなかったが、それはホームセンターなどで売っていそうな金槌だ。
殴打部分が金属ではなく硬質ゴムで出来たソレを、御坂はまるで本当に釘でも打つかのように、躊躇いなく、一方通行の頭に振り下ろした。
「……ッ」
画面の中から鈍い音がして、一方通行の白い髪と肌が少しずつ色付き始めた。
周囲から悲鳴のようなものが聞こえるが、俺は画面から目を離せずにいた。
『ぐ、が…………テメェ……第三位、一体何……?』
二度目の振り下ろしは、一方通行の頬を捉えた。
ボタボタと涎交じりの血を流す一方通行を見下ろしながら、御坂は再びカメラ目線になる。
『意識が無いうちに死ねるだなんて、思わないでね。アンタのチョーカーへの干渉がちょっと強すぎて、アンタの意識が飛んだのは私のミスだけど、この先は気を失っても無理やりたたき起こすから』
そう言って、御坂は再び画面外から何かを引っ張ってきた。
巨大な木箱は女子中学生である美琴には重いのか、随分と苦戦しながら画面の中へと引きずり込む。
だが、それも無理はなかった。
御坂が箱の蓋を開けると、中から出てきたのは電動ドリルや鋸、鑢といった大工用具から良くわからない注射器、ヘッドホン、アイマスク、やたら量の多い水……さまざまなものが溢れんばかりに出てきた。
御坂はその中から一つ――大きなペンチを取り出すと、一方通行のすぐ横に立った。
『まずは女子中学生が全力で行うペンチ爪剥がし二十連発。さっきも言ったけど、気絶はさせないからね。……アンタはゆっくり、じっくり、罪を噛み締めながら、これ以上ないくらい残酷に殺されなきゃいけないから』
御坂美琴による処刑ライブ。
それは、まだ始まったばかりだった。
レイヴィニア!レイヴィニア!レイヴィニア!レイヴィニアぁぁあああぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!レイヴィニアレイヴィニアレイヴィニアぁああぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!レイヴィニア=バードウェイたんの金色の髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
新訳8巻ためし読みのレイヴィニアたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
SPも発売されて良かったねレイヴィニアたん!あぁあああああ!かわいい!レイヴィニアたん!かわいい!あっああぁああ!
人気投票も開始されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!人気投票なんて現実の人気じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
レ イ ヴ ィ ニ ア ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!明け色の陽射しぃいいいい!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のレイヴィニアちゃんが僕を見てる?
表紙絵のレイヴィニアちゃんが僕を見てるぞ!レイヴィニアちゃんが僕を見てるぞ!明け色の陽射しのレイヴィニアちゃんが僕を見てるぞ!!
ためし読みのレイヴィニアちゃんが僕の膝の上に座ってるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはレイヴィニアちゃんがいる!!やったよマーク!!ひとりでできるもん!!!
あ、はいむらさんのレイヴィニアちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあお姉様ぁあ!!シ、シスターズ!!オルソラぁああああああ!!!御坂ァぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよレイヴィニアへ届け!!明け色の陽射しのレイヴィニアへ届け
↑改訂版
今回はこんな感じで。冒頭と最後のコピペは完全に悪ふざけです。レイヴィニアが可愛かったんです。
これから話を少しずつ動かしていきたいと思います。
ではまた次回。
最後のコピペで台無しだぜ乙
公開処刑なんて邪魔と妨害しか入らない復讐をやりたがるなんて流石美琴ちゃん、やること成す事全部抜けてるな
球磨川っぽくなるには色んなものを受け入れないといけないからね、仕方ないね
乙
定食屋は無事そうなのはよかった
ただ‥
常磐台の看板が犯罪行為を放送とかイメージダウンとか放送事故どころじゃありません!寮監様急いで!
西尾節と鎌池節が融合したらすんごい狂気全開
これからは堕天さんと呼んでみんなで崇拝しよう!
堕天さんマジ堕天使
>>150二人の力の相乗作用ッ!!!!!
そしてここに神殿を建てよう(邪教崇拝)
上条「レイニヴィアは俺の隣で寝てるぜ?」
(8巻のあらすじ的な意味で)
えーと、上条さんが言いたいのは
「確かに俺が能力抜きであんな戦闘やってたらとっくに死んでるよ。様々な事件に関われて解決に導く為の能力バトルをやれたのも幻想殺しのおかげだ」
「だから、真の無能力者の気持ちを理解することはできない。もっと言えば殴り飛ばした相手がどれほどの覚悟を持ってその行動に出たのかも理解できない」
「でも、例え俺が真の無能力者だったとしても何かしらの努力はしていたと思うよ(相手が異能力者でもね)。それに、殴り飛ばした相手だって大多数はそのままじゃなく、最終的には自分の力でがんばって正しく生きているなりなんなりフォローはあるから安心してくれ」
「まあとにかく周りを見渡してみろ、きっと無能力者でも幸せな奴らはたくさんいるからさ。そう気に病むことはないって」
最初は良くわからなかったけど、こういうことでいいのかな
わりと納得いく
>>111通子!それ食べ物やない、指ガムや!
さて、佐天さんはどんな過負荷に目覚める…もとい、発症するのかな?
あれ? でも過負荷というスキルが発症したら佐天さんの劣等感がなくなって…
>>153つまり佐天さんが言いたいのは
上JO 「我が行動に一片の曇りなし。全てが正義だ。」
堕天「お前は…自分が悪だと気付いていない最もドス黒い悪だ…」
まさにそんな感じでワロタ
上条当麻…今からお前のことをジョジョ(ry
すまぬ、sage忘れた…
いいってことよ
ジョジョオールスターバトル買いました。黄金体験BOXで買いました。
操作性だとかロードが長いとか色々言われたりもしていますけど、あのグラフィックで声ついて、原作の動きをしているというだけでもう私は十二分に楽しんでいます。
ネットワーク対戦も楽しませてもらってます。ジョニィ、川尻、大統領を主に。絶対フーゴも使います。
もうジョジョSS書けよ、というツッコミは勘弁してください。
>>147 つい感情があふれてしまいました。まぁそのあと食鋒さんがかわいすぎて死にそうでしたけど。
>>148 単純に考えてるのに強い、というのは厄介です。まぁ美琴ちゃんの場合は少々違うのですが。
>>149 定食屋は今日もいつも通り回転してます。そして常盤台は今サーバが落ちました。
>>150 どちらの雰囲気で書くかが凄い迷いどころです。というか、どちらもキャラ視点では書かないので三人称で書きたいです…グットルーザー仕様なのは自己責任ですが。
>>151 祈っておこうかな……「建設」の無事を……
>>152 マジだから上条さん死すべし慈悲は無い。
>>153 だいたい>>157さんの言ってるニュアンスでお願いします。言葉ではなく心で理解・・・いや、ごめんなさい。
>>154 納得は大切だって涙目のルカさんも言ってました。
>>155 指を出す定食屋なんてあったらさすがに☆も黙ってないんじゃないですかねぇ・・
>>156 実は佐天さんのマイナスは一応考えてはあるんですが、オリジナルのマイナスになるので出すか出すまいか悩んでいます。出してもいいよー、みたいな感じであれば出そうかとも思いますし、スキルなしで頑張るのこそ堕天さん!みたいな意見が多ければ出さずに行こうとも考えます。
>>157 適切な説明ありがとうございます。大統領も神父もいいキャラしてますよね。ラスボスで一番好きなのは吉良ですけど。
>>158 YES,YES,YES!!
>>159 そのネタははたして何度思い浮かび、何度ジョジョキャラをとあるキャラに置き換えたSSを書こうかと思ったか……
上条「お前が一方通行だな?」
一方通行「そォ言うテメェは上条当麻」
>>160 >>161 仲良くしてくれて先生嬉しいです
「クソッ! 御坂のヤツ、どうしたってんだよ!」
俺は目の前で流れている映像があまりにも信じられなかった。
普通に考えて、こんなものは偽造映像であると考えるのが普通だ。
御坂が、あの御坂が、あんな事をするわけがない。
あんな非人道的な事をするわけがない。
けれど、目の前の映像から目を話せなかった。
何故か、心の底から流れる映像を否定する事が出来なかった。
自分でも意味がわからない程に。
まるで偉大な人間の説教のように。
自らの欠点を指摘されている時のように。
その映像は、無理やりに俺の心に捻じ込まれてきた。
「どっちにしろ、御坂の所に行って確かめなきゃ……ッ!」
俺は携帯を取り出し、御坂の番号をプッシュする。
携帯を耳に当てながら画面を見ると、画面の中の御坂は何かに気づいたように画面外に目を向け、そのまま数秒してから再び一方通行の拷問を再開し始めた。
「クソッ!」
今の行動は、つまり、画面の見えない部分で何かがあった、という事だ。
それがもしも携帯が鳴った、という事ならば……
「でも、どうする……!? どうやってあの場所に行けばいいんだ……ッ!?」
あの映像からじゃどの場所なのか、推理することはできない。
いくら囲われた街とはいえ、この学園都市にはあんな感じの建物は幾らでもある。
元スキルアウトの浜面なら、あの場所がわかるか……?
「知りたいですか? 御坂さんの居場所」
そんな風な事を、佐天は呟いた。
まるで美味しいお店を友達に教える様なテンションで。
「……知ってるのか? 佐天」
「どうでしょうねー。もしもこのまま私にこのお店の名物である「イチゴとマンゴーとメロンとバナナとその他パティシエの気まぐれアルティメットフルコースフルーツケーキプラスコミュニケーションサマーバケーションバージョン」が貢がれる様な事があれば、私のオリハルコンより堅い口が開いちゃうかもですね」
「佐天っ!!!」
俺は佐天に掴みかかった。
周囲の目が再び俺達に密集するが、俺はそんな事気にしてられなかった。
「ふざけてるのか! 御坂がっ! あんな風になってるんだぞ! 心配じゃないのか!?」
「心配に決まってるでしょうがふざけてんのか!」
俺の怒声の三倍くらいの勢いで、佐天が逆に俺の胸ぐらを掴みあげた。
「御坂さんは私の友達ですし、御坂さんにとって私は白井さん以下の大事な友達なんですよ!? 友達が心配じゃあないなんて、そんな非人道的な人間わけないじゃないですかっ!」
「だったら、なんでっ!」
「…………上条さん、あなたは本当に拳で何でも解決してきたんですね。あなたの話はただの邪魔物でしかない。魔術サイドと科学サイド、それのどちらにも入らない、いわば話術サイド的な扱いを受けてきたかも知れませんが……不似合すぎますよ」
まるで憐れむような口調で、俺よりも低い身長で、佐天は俺を見下した。
「本当の話術サイドは、戦いが弱くても、勝てなくても……それでも話せる、そんな人なんですよ。決してあなたのように殴ればオッケーの人じゃあない。……それこそ、球磨川さんのような人こそが話術サイドに分類されるべきなんです」
「…………」
「……いいですよ、教えてあげますよ。御坂さんと、一方通行さんと、後球磨川さんと須木奈佐木さんも居るかな? あの場所に。それであなたに何か解決できるとは私には思えませんけどね……」
そう言って佐天は席を立ち、俺の分の会計も済ませてから何処かへ向かって歩き始めた。
俺は、それに無言で着いていく。
本音を言えば歩かず、走って少しでも早く辿り着きたかったが……佐天しか場所を知らず、そして佐天はきっと口で話す事はしてくれないんだという事は無意識でわかっていた。
たどり着いたのは、驚くほどに俺の家の近所の建物だった。
まるであえてこの場所を選んだかのようなチョイスに、嫌気がさす。
だが、そんな俺の心の内の葛藤など露知らずなのか……実際何も知らないのだろうけれど、佐天は躊躇無しに建物の中へと踏み込んでいく。
否応なしに、俺もそれについていく。
拒否なんて出来るわけがない。
拒絶なんて出来るわけがない。
俺は、確かめなくてはならない。
御坂に何があったのか、そして、俺にできる事は何なのかを。
「上条さん、御坂さん達は多分一番上の階で生放送してると思います。そこに球磨川さんも居るんじゃないかなぁ……実際見たわけじゃあないから私にはわかりませんけど」
「…………」
俺は佐天の横を通り、上のフロアへと続いていく階段を昇る。
人の手から離れた階段は誇りが被っていたが、まるで人が通ったかのように不自然に埃が除けられている部分があった。
俺たち以外の誰かが、ここを通った証拠だ。
「……」
ここ等辺を根城にしているスキルアウトかもしれない。
何か秘密裏の実験をしている科学者なんてのもあり得るかもしれない。
けれど、俺の中にある可能性。
俺が最も望まず、そして最も高い可能性がある光景がそこにあるかもしれない。
…………俺は、一番上のフロアの一番奥の部屋の前で立ち止まった。
雰囲気と言うか、気配と言うか……いや、もっと的確に、適切に言おう。
部屋の中からは、俺が今まで感じた事のない『悪意』を感じた。
アウレオルスも、アックアも、キャーリサも、フィアンマも。
みんな、心の底には何かがあった。
歪んでいたとしても、間違っていた方法だとしても、そこには叶えたい何かがあって、救うべき何かがあって、命を懸けるべき何かがあった。
だけど、この先にはそれが無い。
信念が無い。
まるで、昼休みの三十分前の授業中みたいな、時間経過で自然と訪れる空腹のように、来た衝動にそのまま身を任せるだけの、安易な悪意。
それが、この先の部屋に感じるものだった。
「………………」
俺はドアノブに手をかけ、そして、ゆっくりと、その扉を開けた。
そして、現実のものとして、この目で直接、それを見た。
椅子に固定され、真っ白い肌や髪の殆どを自らの血で赤くした一方通行。
その傍らに立ち、耳の中にドライバーのようなものを捻じ込んでいる御坂。
二人を映し出すビデオカメラ。
それを操作している須木奈佐木。
その後ろに立ち微笑む――球磨川。
「御坂ッ!」
俺は思わず御坂の名を叫ぶ。
御坂はゆっくりとした仕草で俺の方を振り向いた。
その表情に、俺は思わず目を疑った。
その次に自分の頭を疑った。
なぜなら、御坂のその表情は……俺の知っているいつも通りの御坂の笑顔だったからだ。
あの橋の上で見た時のように、何かを隠したような表情ではない。
行動以外は、俺の知っている御坂と何一つ違わない御坂だった。
「あれ? 何でアンタ、ここに?」
「それはこっちのセリフだ! 御坂お前、自分が何やってるのかわかってんのか!?」
「何って…………ああ、コレ? 普通に復讐だけど」
「そんな軽く言っていい事じゃねぇだろ! お前、どうしちまったんだよ!」
「大丈夫大丈夫。今から私は一方通行を殺すけど、これからの私と当麻の関係はきっと何も変わらないから」
にっこりと。
いつも通りの笑顔で、御坂はそう言った。
「…………何?」
「だって、一万人以上を殺した極悪人とだって当麻は仲良くなれたんでしょ? 和解できたんでしょ? だったら今更一人くらい、しかも家族を殺されたかたき討ちをしたところで、当麻が私を嫌いになるわけがないじゃない。でしょう?」
「そ、それとこれとは……話が違う! そもそも俺はそんな――
「無駄だよ、当麻」
そういえば、御坂はいつの間にか俺の事を名で呼ぶようになっていた。
そんな事を考えてしまうくらい、俺はこの状況をどうにかしたかったんだろう。
現実逃避をしたくなるくらい、目の前の光景を否定したかったんだろう。
「当麻がやって来た事は、そういう事。当麻は後から改心さえすれば、私のママの命を狙った奴とでも仲良くできるし、妹を殺した奴とでも仲良くできる。そして私が一方通行に復讐しようとしたら、当麻は一方通行を守るでしょうね。そして当麻は言うの、復讐なんかしてどうなるんだって。じゃあ聞くけれど、一万人以上の妹を殺された私にはなんて言ってくれるの? 「辛い過去だったけど、前を向いて歩いて行け」とでも言うの? そんな無責任な言葉で、殺した側が幸せになれて殺された側が不幸せになる人生を送らせるの?」
俺はその時、目の前にいる御坂は『御天堕し』で中身の入れ替わった御坂なんじゃないかと思った。
いや、その可能性を、米一粒のサイズすらないような、ちっぽけな希望を望んでいた。
けれど、目の前にいるのはどうしようもなく御坂美琴だった。
否定できなかった。
『あれあれ?』『当麻ちゃんってば』『なーに絶望した様な表情してるのさっ』
グン、と俺の左肩に重みが加わった。
気が付けばいつの間にか球磨川が俺の隣まで来て、馴れ馴れしく肩を組んでいた。
『当麻ちゃんは所謂「俺強い系主人公」なんだから、そんな風にウジウジしてちゃあ嫌われるぜ?』『魔人探偵脳噛ネウロのように』『理不尽だろうが何だろうが自分の主義と我儘と信念を突き通さなきゃ』『大丈夫』『君は悪くない』
「……お前が、御坂に何かしたのか」
『僕も悪くない』『仮に僕が美琴ちゃんにマイナス影響を与えていたとしても』『今まで当麻ちゃんが他の人に与えてきた悪影響に比べたら些細なもんだよ』『あ、別に当麻ちゃんの事を責めてるわけじゃあないぜ?』
ほとんど無意識だった。
俺は、球磨川の顔面を殴り飛ばしていた。
今まで俺がこの拳を叩きつけた奴の中で球磨川は一番――――軽かった。
『痛いなぁ』『話術サイドなんて言われるんだから』『もうちょっと舌と頭で戦いなよ』
「……そんな風に言われたことは一度もねぇよ。球磨川、御坂を元に戻せ」
『嫌だ』
「戻せ」
『嫌だ』
「戻せ」
『嫌だ』
「戻せっていってんだろうが!」
『わかった。戻そう』
あっさりと。
今までの否定は何だったのかというくらい、気楽に。
『当麻ちゃんの熱い気持ちに心打たれたぜ』『全力で取り組んでみよう』
「…………」
そういって、球磨川は御坂に向き合った。
『ちちんぷいぷい』『てくまくまやこん』『えろいむえっさいむ』『もとにもーどれっ♪』
球磨川は意味不明な踊りを舞いながら、御坂をビシッ! と指さした。
…………………
数秒、何も聞こえない時間が流れる。
『ごめーん』『やってみたけど無理だった』『てへぺろ』
二度目の殴打。
今度は球磨川は壁に叩きつけられ、頭から血を流した。
「いい加減にしろ球磨川!」
『そっちこそいい感じに手加減してほしいんだけどなぁ』『大体僕は高校三年生だ、先輩だぜ?』『敬語使えよ』
「こ、の……ッ!」
幾度となく、何度でも、俺は球磨川を殴りつけた。
そこには、俺が今まで理由としてきたものが何もなかった。
ただ俺は、こいつはこうしなきゃ駄目だ、なんて考えながら球磨川を殴り続けた。
……。
…………。
………………。
「……おやめくださいですの」
いつの間にかこの場所にやって来た白井が、俺の振り上げた腕をつかむまで。
「…………白井」
「アナタが球磨川を殴っている光景も、学園都市に中継されていますのよ。……個人的にはざまぁみろとしか言いようがありませんけども」
球磨川は、それはもう酷いありさまだった。
もともと年齢よりも幼い印象を受ける顔は、もう晴れていない部分が無いくらいで、本当に球磨川なのかわからなくなる程だ。
だけどそれは、間違いようもなく球磨川だった。
髪の色とか、服装とかで判別したわけじゃなくて。
こんなになるまで殴られ続けて――――今尚口元に笑みを浮かべているなんて、そんな人間が球磨川以外に居るとは思えない。
「……白井はどうしてここに……?」
「生放送の映像をもとに、風紀委員の権限でちょいちょいっと。まぁあまり褒められた行為ではありませんが……それでも、今のお姉様を放置しておくのよりは断然マシですの」
キッと。
あれだけ普段慕っている様子の御坂に向かって、白井は睨みつけるような表情を見せた。
「お姉様を風紀委員として拘束しますの。この場所は既に風紀委員と警備員に知れ渡っていますの。大人しくしてくださいまし」
「黒子、アンタ……」
「……なぜお姉様がこのような事をなさったのか、黒子には理解できませんの。ですが、必ずやお姉様は今の自分を見つめ直し、元に戻ってくれると黒子は信じていますの。だから……」
「ああ、いや、そういう話じゃなくてさ」
あっさりと黒子のセリフを遮り、御坂は小首を傾げながら、こう言った。
「風紀委員だとか警備員だとか……黒子アンタさ、本当にそんなもので私を止められるとでも思ってるワケ?」
ゾッと。
俺と白井の背に、同時に寒気が走ったのは間違いなかった。
そして俺はついに理解する。
この御坂は、もうだめだ。
何かが、御坂美琴としての何かが、決定的に欠落している。
「……でもまぁ、建物ごと爆破とかされたら面倒よね。私はどうにでもなるけど、能力を制限してる一方通行がそれで死んだら溜まったもんじゃないし。どうしようかなぁ……」
『御坂ちゃん』
なんだか久しぶりに聞いた気がする球磨川の声。
見ると、そこには球磨川がいた。
一切の傷が無い状態で。
『今こそ僕の話していたあのやり方をすべきなんじゃあないかな?』『この状況の脱却』『美琴ちゃんの目的』『そしてロマン』『全てに満ち溢れている事だしさ』
「私は単純にアンタのやり方に乗るってのが気に喰わないんだけど……まぁ、こうなったらそれでもいいかな。当麻も居るし、下手に邪魔されると厄介だから」
『だろう?』『じゃあ説明は僕の方からしてあげるからさ』『その代わりと言っちゃあなんだけど』『僕が出した提案は飲んでくれるよね?』
「それが一番不服だけどね。まぁ一方通行を殺すにはそれが一番都合がいいし、仕方なく飲んであげるわ」
『ありがとう』『交渉成立だ』
二人で二人しかわからない会話をした後、球磨川は俺達の方を向いた。
それと同時に、一方通行が座っていた椅子を俺達の方に向かって蹴り飛ばした。
その背景では、白井と同じくいつの間にかやってきていた佐天がカメラの位置を調節していた。
画面の中央に空間を作り、球磨川、御坂、佐天、須木奈佐木が居るサイドと俺、白井、一方通行が居るサイドが形成される。
まるで、これからスポーツの試合をするかのような、そんな画面が映っている事だろう。
『科学の申し子(笑)のみんな』『僕達は、実に君達の世界に忠実な決着の仕方を提案しようと思う』
「決着の仕方……?」
『君達は何時だって拳で、戦闘力で、暴力で物事を解決してきた』『だから僕達もそうしてあげるって言ってるんだよ』
それは、つまりは、提案なんかではなく――――
『学園都市なんて一切関係ない、いわば別世界から来た僕と咲ちゃんの居るこのチームと』『当麻ちゃん率いるチームで行う5対5のバトル』
しんぜんじあい
『親善死合【クロスオーバー】を開催しようじゃあないか』
こんな感じでどうでしょう。
いわゆる王道展開です。めだかボックスでいう生徒会戦挙ですが、これは「とある」と「球磨川」のクロスなので、まんま原作の流れを添うような事はしないようにしたいですね、一応。
次回更新は少し遅くなるかもです。書く時間がなかなか取れないんですよ・・・出かける用事が多いんです。ジョジョは悪くありません。
ではまた次回。今回もアリガトウゴザイマシタ
乙
マイナスだろうがアブノーマルだろうが能力は能力だしそんなパワー手に入ったら幸せ者だろうって気もするかなぁ
まぁラブラブレシアみたいなパターンもありえるか
>>185
確かに怒江ちゃんの人吉に対するラブラブオーラは可愛いが、
怒江ちゃんのマイナスは「ラフラフレシア」だぞ
あと飛沫ちゃんの「致死武器」も目覚めたらきついと思う。ただいるだけで皆を傷つけちゃうし
オリジナル過負荷期待します!
飛沫ちゃんは割りと能力使ってヒャッハーしてたしオンオフまで効いてたから本人主観的には悲惨な感じはしなかったな
まぁまともな人格なら精神的に追い詰められそうなスキルだけど
>>188
最初はオンオフできなかった→そうか、あたしが居るとみんなが不幸になるのか→じゃあ、あたしは他人の不幸を喜べるような人間にならなきゃな→コントロールが効くようになる
だから、相当歪まないとあそこまで使いこなせないはず
『確かにメンタルの違いはあるだろうけど「能力を持ったことによって発生した悩みがある」という点は同じだよ』
『そしてそれは「能力の有無が全てを決める学園都市」の無能力者達から見れば「贅沢者の悩み」でしかない』
『そう、『大嘘憑き』も『荒廃した腐花』も『致死武器』も『不慮の事故』も『操作令状』も『却本作り』も、学園都市では大多数が欲しくて欲しくてたまらない立派な能力(プラス)なのさ』
『無能力者(マイナス)の身からそんなものを手にいれてなお、過負荷(マイナス)を名乗ろうと言うのなら、
涙子ちゃん、君のそのふざけた幻想をぶち[ピーーー]ことにするよ』
球磨川風に反論してみた
20000号「精液がうめェーンだよ精液がァァ!!!!!」
一方通行「実験参加は科学の讃歌ッ!!こいつら妹達は勇気を知らん!!ノミと同類よォ――――ッ!!!!!」
研究者「やったッ!この音!いつも聞く生体電気の逆流する音だッ!!!!!」
木原「北風はレベル6を作ったぞッ!!!!!」
勝手な展開予想や押し付け希望によって1の書きたいようにかけなくなるのであった
>>1の書きたいようにしてやれよ
そんなに己の理想の展開にしたいなら二番煎じになるが自分で書けば?
上JO 「俺の頭がウニみてーだとォ―?確かに聞いたぞコラ―――――!!!」
インデックス「私の全てがイカみてーだとォ―?確か(re」
遊戯王主人公s
「俺の頭g(re」
唐突にこんな意味不明なこと書き込むやつなんなんだろうな どこにでもいるけど
お前ら自分でss作ってそんな展開にしろよ、ここですることじゃねえだろ
いろんな意見ありがとうございました
佐天さんのスキルの件なんですが、せっかく考えたので一応出す方向で行きたいと思います。
でもあんまりオリジナルスキルを前面に押し出してYAHOOO!!!するのもアレなので、球磨川みたいに積極的に使っていく感じではなく、あくまで佐天さんの精神状態が最大の脅威、というスタンスで行こうと思います。
スキルとしては、当然マイナスに分類されるスキルです。どんな感じになるかは、まだしばらく後になると思われますが……よろしくお願いします。
原作主人公、番外編主人公、あと番外編その2での主人公内定者を差し置いてサテンさんの主人公のようなこの人気っぷりときたらww
一方「やめて!乱暴する気でしょ!エロ同人みたいに!」
エロ同人系には相当グロかったりエグかったりするのも稀にあるよね(白目)
事件に被害者として巻き込まれるがギリギリで知り合いが颯爽と登場し助けてくれるスキル『囚割れのお姫様(プリズンプリンセス)』
佐天さんの持ってるスキルはたぶんこれだな! 路地裏に行くとスキルアウトに狙われるけど御坂さんとか白井さんとかが助けてくれるよ!
…まあ、ないですよね
佐天「本当の話術サイドは弱くても勝てなくても話せる人、球磨川さんのような人がなるべき」
球磨川先輩って普通に強くて勝ちまくってる人で、負けた負けた言ってるのは屁理屈でだから当てはまらなくね?
>>214
めだかボックスの世界観的には、『勝ったと思ったほうの勝ち』なんだよ
その辺元裸エプロン先輩は潔癖症だから、綺麗で完璧な勝利以外勝ちと思えない、
だから『勝てない奴』なんだよ。ジャンケンとかの勝率も恐ろしく低いだろうし
あと球磨川は普通に弱いよ。スキルがチート級でキャラクターが鮮烈でゴキブリのようにしぶとく蛇のようにしつこいってだけで、
女子中学生でもフルボッコに出来る程度には弱いよ。じゃなきゃ『却本作り』があそこまで凶悪なスキルにはならんだろ
まあ、でもあいつ負けたくせにキメ顔でかっこつけるから、見てる側としては勝ってるようにしか見えないんだよな。『また勝てなかった』にも括弧つけてるし
sageの方法はメール欄にsageと入力。半角な。「saga」でも「hage」でもないぞ
作者以外の人間は基本的に「sage」るべきなんだよ。作者が投下を開始したか読者が感想を書いただけかの区別がつくようにね。ちなみにこの板に保守はあまり必要ないぞ。VIPじゃないんだから
>>216
つまり経済対決で、年収10億稼いだ人が1億しか稼げなかった人を尻目に『年収100億いかなきゃ勝ちとは言えないぜ』と言えば勝ちではないということか
それと中学生にも負けるって言っても、あいつらモノホンの銃使ってくるわ硫酸ぶちまけてくるわロボだわ明らかにまともな中学生じゃないだろ。そんな奴らに狙われたら普通フルボッコにされるわ
それとも初期に出てきた剣道部の部長辺りならフルボッコにされずにすむっての?
それに却本作りが凶悪そうに見えるのは球磨川先輩が弱いからじゃなくて、使用相手が化け物ばかりだから相対的に普段よりは弱くなって見えるってだけだろ
多分、日向くん辺りがくらったらメチャクチャ強くなってると思うぞ
球磨川は勝ち負け関係なく相手の心を折ることを第一に戦ってるよね
『勝利の末に何かを得ようだなんて、身勝手じゃない?勝っても手に入るものもなければ爽快感もない。それこそが最も高潔な勝利だ!』
…らしいし
>>217
却本作りは『対象のパラメーターを自分と揃えるスキル』だから、封印術の類。
誰に使っても戦いが泥仕合になるだけだからそういう風にはならないよ
>>221
いや、却本作りがそういう能力なのは知ってるよ
つまり剣道部の先輩達をまとめてボコる程度の力しかない日向くんに使えば、軽くネジ(却本作りではない)を投げるだけで相手の肉体に深くねじ込める程の腕力を持つ球磨川先輩くらい強くなれるってことだよね
>>222
はい残念、体力零のクマーとスポーツマンの日向はどちらが強いでしょうか?
腕力皆無のクマーとスポーツマンの日向はどちらが強いでしょうか?
(どう見ても球磨川のほうが強そう)
>>223
あの世界ではトンデモ中学生どもにこれ以上ないくらいのリンチを受けてもすぐに復活(大嘘憑き等スキル使わずに)する奴のことを体力ゼロと言うの?
さっきも言った通りの腕力を持つ奴のことを腕力皆無と言うの?
>>225
体力じゃなくて気力の問題だろ?
ダメージ食らうことにはそこまで体力使わん
ネジの重さはなかった事にしてる可能性微レ存
それでも納得いかないならアンチスレに行くか議論スレに行くかそっ閉じしろ
一々返してる俺もだけど雑談自重な
>>227
気力も体力の内でしょ。それとダメージくらうことに体力は使わないのは当たり前、受けたダメージを耐えたり回復するのに体力使うんだよ
それにネジの重さを無かったことにしてるとなると、子供になった時の球磨川先輩の言ってることがおかしくなる
別に議論したい訳じゃないし荒らしてもいないよ
単に、球磨川先輩が本当に弱いとなると色々おかしなことになるよって言ってるだけ
まだかな
やめて!議論する気でしょ!株取引同人みたいに!
まだかなー待ってる
大変遅くなりました申し訳ない。
182>> 過負荷の率いるチームではありますが、分類的には美琴は過負荷ではありませんのでどうなりますか。
183>> 過度に期待されると悲しみを背負うかもしれないのでご注意を。
184>> その辺をうまく調整したスキルにしたい……とは考えてます、一応。
185>> 異能があれば幸せでしょうけれど、マイナスを使って幸せになるのは人間的にどうなのか、って感じですかね。オンオフ可能ラフラフレシアはマイナスではなくアブノーマルなスキルなんでしょうけれど。
186>> ここから先は週刊連載のようなテンポで行きたいと思います。
187>> 無差別発動、ってのがエグいんですよ、過負荷は。後怒江ちゃんは確かにかわいいです。めだ箱の中で2番目に好きな女キャラです。
188>> 致死武器に対応できる人格だからこそのマイナスとして球磨川に好まれていたんでしょう。
189>> ま、まぁ、自分でマイナスを作って無双した魔王様もいらっしゃるという事で、どうかご勘弁を。
190>> 飛沫ちゃんのぶっ飛び具合が一番過負荷が敵役と思いやすい人だったと思います。球磨川は気持ち悪いし、怒江ちゃんは可愛いし、蛾々丸君はスキルが強すぎてなんかハブられた感が。
191>> 自分の不幸を自分の幸せになるように考える、ってだけなら前向きなんですがね…
192>> その辺ぶれるのもマイナスってことで……なんかマイナスが便利用語みたいになって申し訳ないですが。
193>> 佐天さんの過負荷は結構真面目に考えました。ほかが不真面目というわけではないですが。
194>> 上条さんも某SSのように悪落ちした可能性は十分すぎるほどあるんですよねぇ…
195>> 一方通行さんは割と紙メンタルですね。
196>> 「いやぁ、仁蔵の最後の武器みたいな感じで、悪あがきで得たモノであがくさまってなかなか渋くないですかね!」
197>> 上条さんの身体能力と頑丈さは195センチの肉体と丸太のような足があっても正直違和感ないくらいですよね……上条さんがスタンドに目覚めたら間違いなく近接型、一方通行さんは状況次第では最強になれるスタンドですかね。
198>> 螺子だけに根性もねじれてるんですよ。ごめんなさい
199>> 気を付けてください、花瓶が飛んできますよ。
200>> 「静かに死給え」
201>> スタイルは正直考えるのが面倒臭いです。漢字使いくらいならまだしも……
202>> 申し訳ないです、スキルは一応出すことに・・・まぁ佐天さんの人格も相当えぐくしますが。
続く
>>204 もともとけっこうのらりくらりと書いているので、多分書こうと思ってるシーンを削るようなことは無いです
>>205 書きたいように書いてます、ぬらぬらと。
>>206 上条さんが仗助の髪を馬鹿にするときは間違いなく「そのふざけた髪型をぶち壊す!」ですわ。
>>207 ジョジョネタを盛り込んだ私のせいでもあるんでしょうがね・・
>>208 頭の中の妄想って形にするのは難しかったりしますよね
>>210 なんだかんだ扱いやすい子なんですよね
>>211 申し訳ないが食鋒さんかレイヴィニアちゃんにチェンジで
>>212 ピュアな恋愛ものでお願いします。沙耶の唄は純愛です。
>>213 スキルを考えるうえで何が一番面倒か、それは西尾先生しかり鎌池先生しかり、スキル名です。
>>214 生徒会戦挙一回戦の球磨川のような戦い方をする球磨川みたいな、言葉の嫌がらせや屁理屈や勝敗度外視な人として見てください。
>>216 自分の望んだ形の勝利にならない、から自分は負けている。というのが球磨川の考え方ですね。潔癖症という表現は、かなり的確だと思います。
>>217 めだか曰く「この学校に雑魚キャラなどいない」そうなので……あの剣道部部長も多分真剣持たせたらヤジロベーみたいな動きするんですよ、多分
>>221 勝敗度外視がマイナスの基本だという考えで書いてます。
>>222 あの世界は倒れこむだけで先のとがってない螺子が体に深々と突き刺さりますから……
>>223 平均値を出してほしいですね。解説本とかで出ないでしょうか
>>224 (それを言ってはいけない)
>>225 マリオに出てくる骨の亀みたいな扱いでお願いします
>>227 空想科学読本一冊〇〇使ってもめだ箱世界の法則はきっと解明されない
>>228 スタイル自体その辺の法則無視ですし・・・
>>231 西尾先生の考える「強さ」を理解することは無理なんじゃないだろうか、と一読者。
>>232 お待たせして申し訳ない
>>233 堅実に稼ぎたいです
>>235 お待たせしました。
能力についての審議は終わりが見えないのが終わりなので、ご自重願います。
このSSは深い事を考えて書いてるわけではないので、たとえば幼稚園に通う息子が主役を務める学芸会の演劇を見るような、そんな生温かな目線でストーリーと稚拙さを味わっていただきたい。
クロスオーバー。
本来関わるはずのない二つの作品が記念とかイベントとかでコラボする時によく使う言葉だ。
まぁ、確かに私や球磨川君の生きる世界と、上条君たちの居る世界は間違いなく別物だろう。
例えるなら、漫画とライトノベルくらい別物だ。
……ん? よくよく考えてみたらあんまり離れてないような気がしなくもないぞ?
「球磨川君、そんな事を考えてたんだね」
『まぁ美琴ちゃんの漫画好きな性格的にも合ってるっていうのはあったけど』『こういう王道展開は嫌いじゃあないだろ?』
「私はあんまり漫画は読まないんだけどなぁ……」
確かに、物語の最中のチーム戦とか、格闘大会だとかはテコ入れにも人気取りにもよくつかわれる展開らしいし、ありっちゃありかもしれないけどね。
『形式としては5人対5人のチーム戦』『幽遊白書の暗黒武闘会決勝戦みたいなのを想像してもらえればわかりやすいかな?』
試合形式のテンプレの様な試合形式だ。
後はルールによって戦い方が考えられる程度かな?
例えばリングアウトが存在するなら、何も相手と真正面から戦わなくたって勝つ方法はあるわけだし。
「待てよ球磨川、5対5だと?」
『うん』『だってこっちは4人でそっちは3人だ』『こっち側を一人仲間外れにするのもアレだし数合わせだよ』『やっぱり先鋒次将中堅副将大将の五人編成が基本だよね』
…………ん? こっちは4人?
……球磨川君、御坂さん、後佐天さんで三人だよね?
4人目って、まさか。
「球磨川君!? まさかソレ私も頭数に入ってる!?」
『ははは、当然じゃあないか』『咲ちゃんを仲間外れにするわけがないだろう?』
「いやいやいやいやいや! 私全然戦えないし! 数合わせにもならないんだけど!?」
『大丈夫』『最弱の生物たる僕が参加するくらいだ』『お遊び感覚で参加しとけばいいんだよ』
「ううう……」
何とかして当日サボる言い訳を作っておこう……。
『会場と審判も僕の方で用意しよう』
「お待ちください」
異論を唱えたのは学園都市の自治を司る風紀委員、白井さんだ。
「そちらが用意した審判など、信じることはできませんの」
『大丈夫』『とても平等な、むしろ僕達に厳しくジャッジするような公正な人間を選別する予定さ』『それにどうせ、君達が審判を呼んだところで、僕達から見れば信用ならないぜ』『無限ループに陥るのは面倒だろう?』
「……そもそも、試合だなんて誘い乗るとでも?」
『別に乗らなくてもいいよ?』『ただそうすれば黒子ちゃんは仲間外れになって』『永遠にこの話に絡まなくなるだけさ』
そう言って、球磨川君はさも威嚇するかのようにいつもの螺子を構えた。
白井さんの顔が青くなるのが、この距離でもわかった。
どうやら、やっぱりまだ球磨川君に対するトラウマみたいなのはぬぐえ切れていないらしい。
「…………」
白井さんが黙る。
これ以上絡むつもりはないらしい。
『ルールも審判に決めてもらう事にしようか』『日程は今度メールで連絡しよう』『美琴ちゃんなら当麻ちゃんのアドレスも黒子ちゃんのアドレスも知ってるしね』『それまでゆっくりと残りのチームメンバーを集めなよ』
『ああ、それと』
ふと思い出したかのように、球磨川君は振り返った。
そして、その手に持っていた巨大な螺子を――椅子に縛られていた一方通行に投げ刺した。
「っ! 一方通行!?」
上条君が一方通行に駆け寄る。
そりゃ目の前で人にあんな螺子を突き刺されたらびっくりするよねぇ。
けど、その心配は不要だ。
無意味と言っても問題はない。
なぜなら、むしろ――
「傷が……ない?」
一方通行の身体からは、一切の傷が消えていた。
『ハンデなんて有利なモノ』『マイナスとしちゃあ貰うわけにはいかないぜ』『僕達は正々堂々戦う事に意味があるんだから』
ビシッ! と格好つけたポーズで球磨川君が決める。
別に格好いいとは全然まったくこれっぽっちも欠片も思わないけど。
『さて』『僕達もあと一人の仲間を探さなきゃだからね』『今日はこの辺でお暇しよう』
球磨川君が携帯電話で時間を確認しながら、佐天さんに何か指示を出す。
次の瞬間、佐天さんは躊躇なく、その手に持っていた金属バットでカメラを粉々に破壊した。
……あれ、結構高いんじゃないのかなぁ。
「白井さん」
佐天さんは、呼ぶ。
「……なんですの?」
白井さんは、答える。
「学園都市に見捨てられたものとして、嘲笑われるだけの役立たずとして、マイナスの恐ろしさを見せてあげますよ」
「…………ならわたくしも、見せてあげますの。ちょっとばかし唆されたからって簡単に心変わりをしてしまった人が、劇的な改心をする瞬間を」
両者の視線が一瞬だけ交差して、次の瞬間にはすれ違っていた。
「一方通行」
御坂さんは、呼ぶ。
「……」
一方通行は、答えない。
「あの子達を殺した罪は、アンタが今更何をしたところで償えるものじゃあない。……だからせめて、ありとあらゆる人間の見てる前で殺してやる」
「…………やってみやがれってンだ」
両者の視線は交差せず、ただ会話が交っただけだった。
「当麻ちゃん」
球磨川君は、呼ぶ。
「球磨川」
上条君も、呼ぶ。
『僕らは同じ人間だ』
「俺は、お前とは違う」
『違うと言う意見が違ってるよ』『当麻ちゃんは自分に嘘つきなんだね』
「誰かのために闘いたい、って気持ちが嘘だったことはない。それだけで十分だ」
『……』『まぁいいや』『咲ちゃんの手前、少しばかり僕も自重してはいたんだけど』『そろそろリミッターを外そうかな』『そして「親善死合」で教えてあげよう』『僕の様な』『当麻ちゃんのような』『負完全の生き方を』
「俺だって教えてやる。例えお前がマイナスだったとしても、人間はゼロに向かって行けるって事を!」
二人は何処までも似ていた。
なのに、どこまでも違っていた。
まるで異世界の同一人物のように。
「……アンタたち、出るわよ」
御坂さんがそう言った瞬間、不意に何かとても大きな力に引っ張られ、私の身体が宙に浮いた。
「え、ええ!!?」
しかも、浮いたのは私の身体だけではない。
球磨川君と佐天さんも同じように、御坂さんの周囲を漂うように浮いていた。
そうか、御坂さんの能力は『電気を操る』だもんね……磁力を操って、私達の体を浮かせてるって事か。
……携帯電話、大丈夫かなぁ。
磁気でおかしくなったりしてないかなぁ。
そんな風に割と呑気してたら、結構ビビる速度で窓から飛び出した。
安全運転でお願いするのを忘れていたことを、この時ほど後悔したことはない。
やぁ、久しぶり。
元気だったかい?
まぁ、死んだから君はここに来たわけだから、元気かどうか聞くのは些かおかしい気もするけれど。
それでも基本と社交辞令って奴は、人間にとってはありとあらゆる基礎となるモノだから疎かにはしてはいけないよ。
最も、球磨川君はセオリーと言う概念から誰よりもかけ離れた異端である事は、今更過ぎて言葉にする必要もないけどね。
だから僕があいさつしたのは、球磨川君じゃあない。
もっと大勢の、もっと遠くの、死よりも遠い場所。
僕達の居る世界とは次元の違う世界に居る人達への挨拶だと思ってくれたまえ。
この世界は広いけれど、異世界は多いんだよ。
僕達の住むべき世界と、当麻君や美琴ちゃんが住む世界すら違う。
いわば僕達と彼らは、ファンが捜索で作り上げた二次創作のような邂逅をしたのさ。
となれば当然、それを読む世界の傍観者たる読者も居てしかるべしだろう?
はは、そんな難しい事じゃあない。
立場とキャラ付を理解すれば、この世の誰もが理解できる単純な解答さ。
それを受け入れられるかどうかは、また別の話だけどねぇ。
そうそう、受け入れると言えばで思い出したんだけど。
いや、実際に忘れていたわけじゃあないんだけどね。
もったいぶっていたんだけど、今の話題で話すタイミングを得た、という感じに解釈してくれたまえ。
君が学園都市に行って一番好意的に接してくれている女の子、それだけで奇妙奇天烈と言うレッテルを貼られてもおかしくない一般人の佐天涙子ちゃんだけどね。
彼女、スキルに目覚めてるぜ。
球磨川君、君からしたらこれはあまり良くない状況なのかな?
君は彼女の無能さを買っていたからねぇ。
けれど、スキルの有無なんてものは僕からしたらただのくだらねーカスなんだよ。
もしも球磨川君に『大嘘憑き』が無かったら、君は今のようにひねくれなかった、だなんて夢物語はありえないように。
スキルは所詮、その人間の生き様の副産物でしかないのさ。
僕の一京を超えるスキルも、ただの付加価値でしかない。
その点から言えば、佐天涙子はマイナスとしてのブランドを一つ手に入れただけ、という事になるのかな。
マイナスだから失ったと言う方が正しいんだけどね。
それでも彼女は無能力者な事に酷く劣等感を感じていたから、マイナスと言えどもノーマルな人間には無い力を持つと言うのは嬉しいのかな?
まぁ、彼女が他人にとっての常識や、他人が幸福に感じる事を自身も同じように幸福と感じられるとは限らないという事を知らない限りは、彼女もまだまだお子様だけれど。
それにスキルに目覚めたと言ったけれど、どちらかといえば、発症してると言う表現の方が的確かな?
なぜなら彼女が持っているのは、悍ましいマイナスだからだ。
球磨川君、君の『大嘘憑き』、そして僕が預かった『却本作り』と同じように、世界から忌み嫌われるためにこの世に発症したスキルだ。
君のオリジナルスキルである、僕のあげた『手のひら孵し』を『大嘘憑き』だなんてスキルに改造、改悪出来た球磨川君と同じマイナスに変える、というか堕とす効果を持った『却本作り』のように恐ろしいスキルだ。
個人的には『却本作り』が一番僕に効果的なマイナスだという点では『却本作り』が最も恐ろしいけれど、それでも涙子ちゃんのマイナスを僕は評価したいね。
脅威、という点ではない。
彼女のマイナスこそが、ある意味では僕の求めていた解答に、僕がこの世に人外として生まれてきた意味に最も近づけるマイナスかも知れないのだから。
さすがにそれは言いすぎかなと思わなくもないけれど、もしかしたらてんで的外れな考えかも知れないけれど、この世に出来ない事はなく、それを探す事ことが生き甲斐である僕は彼女が欲しいと切に願うね。
成功人生のスパイスになるであろう彼女を。
サンタクロースにお願いをする純粋な子供みたいにさ。
まぁ、サンタクロースは自分の判断でいい子悪い子を選別する平等な偶像ではないのだけれども。
ちなみに、佐天ちゃんのマイナスは天然ものさ。
君の『大嘘憑き』のように貸し出されたスキルを改悪したわけでもないし、まぁ自然発症というのが一番無難かな。
球磨川君の悪影響が有った事は間違いないけれどね。
それを君にも隠しているという事は、別に悪い事を考えているという事にはつながらないから安心したまえ。
単純に、自分を導いてくれた人を驚かせたいという可愛らしい考えさ。
まぁ、マイナスたる君を喜ばすためにマイナスをまき散らそうというドッキリを思いつく点では、君よりマイナスな過負荷かもしれないねぇ。
ま、球磨川君自身がマイナスのシンボルマークのようなものだから、君よりも下という評価は存在しないだろうが。
とは言え、本当に厳密に言うのであれば、彼女のマイナスを本当にスキルと言っていいのかは微妙なんだよ。
もしかしたら彼女は未だに無能力者の域なのかもしれない。
ただの不幸な少女なのかもしれない。
その人の特性や才能を『スキル』と一括りに考えてしまう事こそが、悪平等なのかもしれない。
まぁ、僕から見たらどっちにしろくだらねーカスなんだけどさ。
おっと、話がそれたね。
それにしてもまぁ、球磨川君。
色々と面倒な事を巻き起こしてくれて僕はうれしいよ。
僕としては少女マンガらしい展開になるような課題を用意したのだけれども、君の手にかかってしまえば熱血少年漫画にアレンジされてしまうというわけだ。
週刊少年ジャンプの影響力はバカにならないねぇ。
その面倒臭さに免じて、僕の方から審判員として相応しい人物を用意しよう。
君が知り得ている情報の中には登場しない人物だから、学園都市の住人じゃあない君の方からコンタクトを取るのは難しいかな。
仕方が無い、彼女の夢の中にでもお邪魔して彼女の方から君に逢いに行くように仕向けてみよう。
きっと彼女の事だから、表面上は快く受け入れてくれるんじゃないかな。
僕のスキルをつかえば無理やりジャッジを付けることは可能だけれども、それじゃ面白くないだろう?
天下一武道会のジャッジの様なノリが欲しいしね。
まぁ、彼女はそう言うキャラじゃないから、あくまで試合を公平に見届けてくれるだけにとどまるだろうがね。
上条君たちは誰を仲間にするのか、その辺も見届けるのは中々愉快そうだ。
上条君の動向、球磨川君の行く先、佐天ちゃんのスキル。
ああ、佐天ちゃんには後々僕が直接彼女のスキルを教えてあげることにするよ。
なあに、彼女の夢の中に現れるくらい、朝飯前だぜ。
夢の中だから、朝飯前なのは当然のことだけど。
まぁそれは置いておいて、僕の思い描いたストーリーから離れた事を優先する球磨川君。
君は本編ストーリーよりもサブイベントを優先してクリアするタイプかな?
だがそのやり方、嫌いじゃあないぜ。
……怒るなよ、誰かをコピるなんてめだかちゃんもよくやってる事じゃないか。
でも本当に楽しみだよ、やっぱり君は期待させてくれる人間だ。
それを裏切るのが、球磨川禊と言う人間だけれどね。
さぁ球磨川君。
今回も素敵な裏切りと落胆を僕に味あわせてくれよ。
「……」
「……」
「……うわぁ」
まさかなぁ。
まさか偶然いきなり御坂さんの手元が狂って、着地の時に球磨川君だけがすごい勢いのまま地面にたたきつけられてカエルみたいに死ぬなんて。
幸か不幸か、球磨川君が死んだのは人気のない裏路地なので誰かが目撃しSAN値が減るような事態は避けられた。
というか、こんな死に方を見て動じない私達の方が明らかな異端ではあるのだけれどね。
まぁ、それはそれとして。
「御坂さん、御坂さんの知り合いに今回の戦いに協力してくれそうな人っている?」
「んー……正直微妙ね。まともな戦闘力を持ってる知り合いなんてそれこそ黒子とか……婚后さんはむしろ私に突っかかってきそうだし、食蜂も論外」
「私の学校もレベル0ばっかりですしー」
うーん、佐天さんも御坂さんもあんまり心当たりがないみたいだ。
となると、やはりスカウトって形になるのかな?
口車に乗せる事だけは人知を超えている球磨川君の頭を使えば、適当な人材なら何とかなるかもしれない。
……まぁ、球磨川君を前にして正気を保ってられるか、という難関が存在しているのだけれども。
そもそも、球磨川君をまともに相手できる時点でその人が正気かどうかという話だけど。
「ていうか、向こうのメンツの方が気になりません? 今の所レベル4の白井さんに学園都市第一位の一方通行さん、その上その第一位を倒したと噂の上条さんですよ?」
たしかに、その面子は驚異的だ。
白井さんの空間移動は圧倒的な能力だし、第一位なんてのはもはや私の想像が及ぶのかどうか、というレベルにすら達しているだろう。
更にいうと、一番厄介なのは上条君だ。
球磨川君の様な、何というか『ラスボス気質』というか、敵キャラとしてこれ以上ないくらい敵役もとい適役の球磨川君に上条君は力を発揮するだろう。
上条君の様な『主人公気質』の人間は。
「……」
私は、球磨川君の死体に目を向ける。
球磨川君は上条君を『自分と同じマイナス』と称した。
けれど、私の視点からすれば、それは少々違うと思う。
球磨川君と同じ人間だなんて、この世にいるわけがない。
上条君はマイナス側の人間だとしても、球磨川君とは同一直線状の対極を歩いているような、そんな人間だ。
合わせ鏡。
背中合わせ。
更なるマイナスに向かって歩く人間と、険しくともプラスを見ようといている人間。
そこには、大きな大きな、学園都市の技術ですら埋められないような溝がある……ような気がする。
ま、球磨川君を深く考察するなんて、その時点で徒労以外の何物でもないんだけどね。
『やれやれ』『ツンデレな女の子の愛情表現は嬉しくもきついぜ』
あ、球磨川君が生き返った。
ひどく気持ち悪いセリフを吐きながら蘇った。
「……もしかしたらアレはミスではなくて、球磨川をあまりにも嫌いすぎる私の内なる本心が起こした悲劇的な事故だったのかもしれないわね」
『美琴ちゃん』『本心は言わない内が美しいんだよ』
球磨川君にツッコミをさせるとは、御坂さん案外対応能力が高い人間なのかもしれないね。
『不慮の事故には縁がある方だとはいえ』『死ぬたびに僕は彼女に会わなきゃいけないんだ からさ』『死ぬのだって楽じゃあないんだ』
安楽死であろうと楽じゃない、という事になるので少々意味がわからない節もあるけれど、要するに球磨川君は殺されるのは別に良いけど好きじゃないって事だ。
殺されるのが好きな人間はもう人間じゃないと思うけど。
球磨川君が人間離れしているのもわかりきってることだけど。
死にたくない、だなんて当たり前の感情が球磨川君にあると言うのも中々奇妙な話だと思う。
死にたくない理由が夢の中に現れる人に会いたくない、という摩訶不思議以外の何物でもない理由でなければ、だけれども。
「……で、こっちはあと一人メンバーが足りてないわけだけどさ。どうするつもり? まさか一選位不戦勝を与えてやってもいいだろうだなんて考えを持ってるわけじゃないわよね?」
『まさか』『そんな相手に失礼な事をこの僕がするわけないだろう?』『それに』『どうせやるなら三戦くらい与えてやらなきゃ面白くない』
三戦与えたらもうその時点で敗北決定なのだけど。
……まぁ、球磨川君は出たところでどうせ負けるだろうから、出ても出なくてもある意味結果は一緒なのかもしれない。
『でもメンバーにしたい候補はすでに何人か考えてあるよ』『僕としては何のとりえもない陰険でネガティブな一般人男子中学生とかを選びたいけど』『美琴ちゃんは嫌がるだろう?』
「だれだってその人選は嫌がると思うけれど……」
どうしてそんな人をチョイスしようという考えを思いついたのか。
『だから』『ココの居る誰もが納得できる人を選ぶつもりさ』
「……? 誰もが納得できるって事は、私達でも知ってる人なの?」
『ある意味では有名人かもね』『単純な話さ』『こっちには第三位の美琴ちゃんが居て、向こうには第一位の一方通行ちゃんがいる』『つまり――――』
「……これからどう動くか、だよな」
俺、白井、一方通行の三人はあの後、一方通行の能力を使って(白井の能力では俺を運べなかったので)一番近所で集まれそうな場所、つまりは俺の家へとやって来た。
同居人であるインデックスには今回の話はあまり聞かせたくなかったのだが、幸いにもどうやら小萌先生の家に行っているらしく、気兼ねなく話し合いが行う事が出来る。
議題は当然――『親善死合』についてだ。
「5人チームでの試合形式……でしたわね」
「こっち側は後二人、メンバーを見つけなきゃならねェが……テメェら、アテはあるか?」
一方通行が俺達の顔を交互に見る。
俺の知り合いで戦えそうなやつは、まぁ魔術サイドには何人もいるけど……正直これは学園都市の、しかも完全なる私事だ。
まったく無関係な奴らを巻き込むのは、出来る限り避けたい。
それに……
「正直、わたくしにはあてはありませんの。……相手チームには、あのお姉様がいらっしゃるので」
そう。
御坂の存在が、俺達が残りのメンバーを決めあぐねる最大の要因だ。
学園都市第三位の超能力者にして最強の電撃使い。
単純な電撃だけではなく、磁力などの電気に関わる全ての事柄を支配する御坂に対抗できる人間は、学園都市はおろか魔術サイドにだってそうそう居ない。
「……第三位は俺のチョーカーに干渉できる。最初から能力発動モードに切り替えときゃ何とかなるが……試合のルール形式によっては試合のケリが付く前にバッテリー切れの可能性もある。相性が良いとは言えねェな」
「わたくしは単純な力量差で、お姉様には勝てませんの。そもそも触れる琴すら今や敵いませんし……となると」
「第三位に確実に対抗できるのは、今の所テメェしかいねぇってわけだ」
二人が俺を見る。
俺の『幻想殺し』があれば、御坂の電撃も砂鉄の剣も無効化できる。
それでも確実ってわけではないけど……絶対にできない、ってわけじゃないはずだ。
「お姉様以外の相手なのですが、佐天さんはレベル0なのでとりあえず保留にするとして……須木奈佐木さんの実力はまるで未知数ですの」
「あの反応を見る限り、戦えるタイプってわけじゃなさそうだけどな」
「ですが、あの球磨川禊と行動を共にしている時点で、常人にはない何かを持っている可能性は十分にありますの。用心するに越したことはありませんの。……そして、球磨川なのですが」
白井の顔が、やや青ざめているのがわかった。
まるでトラウマを指摘されているかのような、そんな表情だ。
「……一度球磨川とわたくしは戦いましたの。結果はわたくしの敗北……になるのでしょう。わたくしには一切の外傷がありませんでしたが」
「……外傷がない、だァ?」
「ええ。わたくしは球磨川に、確かに顔に巨大な螺子を突き刺された……はずですの。幻覚とか催眠術だとかそんなちゃちなものではなく、マジモノのリアルに。ですが、わたくしにはその傷はおろか、わたくしが来る前に形成されたはずのスキルアウト達の死体や血飛沫すら完全に消えていましたの」
「……そういや、アイツは一方通行の傷もなくしてたな」
つまり、球磨川の能力は傷を回復させる能力という事だ。
一切のダメージ蓄積が存在しない、というのは非常に厄介だが……直接相手を倒す戦闘向けの能力ではなさそうだな。
「その能力故か、球磨川は一切のダメージを恐れませんの。わたくしの鉄矢を自らの眼球に敢えて突き刺し、わたくしを怯ませたり……」
「狂人みてェな奴って事だけは、疑いようォがねェな。一撃で気絶させれば楽に済む、なんて甘い話も期待できなさそォだなァその様子だと」
「……つまり、警戒するのは今の所佐天以外の三人か」
「特に警戒が必要なのは、お姉様ですわね。いかにお姉様と類人猿……まぁ、その呼び名は今は自重しましょう。上条さんをぶつけられるか。それが重要ですの」
俺が御坂の相手をするとして……あとの二人をどう対処するかだな。
「相手の5人目が誰だろォと、学園都市産の能力者なら俺で十分だ。例え球磨川だろォとルールが何だろォと、俺の能力が阻害されなきゃいっそ一学区丸ごとひっくり返すくらいの事はしてやる」
「さすがにそんな事をすれば一方通行さんをジャッジメントするしかなくなりますの……ですがまぁ、わたくしも一方通行さんも、相手がお姉様意外なら戦えるはずですの」
一方通行は言うまでもなく学園都市最強の能力者、白井もレベル4の大能力者。
この二人に勝てる奴なんて、学園都市の中にも早々いないはずだ。
「……つまり、俺達が探すべきチームメンバーは……」
「細工の場合を想定して、相手がお姉様だった時でもそれなりの対応策が取れそうな人材、ですわね。そんな人材が居るとは思えませんが……」
第三位の超能力者を相手取って、可能性がある奴なんて居るのか?
神裂なら話せば協力してくれるかもしれないし、戦力としても十分だけど……やっぱり魔術側の人間をこの問題に引き込むのは気が引ける。
じゃあ、土御門ならどうだ?
レベルは高くないが、土御門が「負ける」姿なんてのは俺には想像が出来ない。
……でも、やはり土御門の頭脳を考慮しても、御坂美琴という存在の持つ力の大きさを前にしては安心感が持てない。
やっぱり、今さしあたって必要なのは、第三位という脅威にも負けないわかりやすい力を持った存在だ。
「魔術側には使えそォな奴はいねェのか?」
「……居ないことはない、けど正直この事に巻き込むのはどうかと思ってる。ただでさえ科学と魔術は折り合いが悪いんだ」
「魔術……?」
小首をかしげる白井。
そういえば白井は魔術サイドについて知らなかったんだった。
魔術について知ってるのは俺の他には一方通行に御坂、あと……
「あ」
「……あァ」
俺と一方通行が同時に声を上げた。
多分、同じことを同時に思いついたのだろう。
「そォいや、アイツの周りにいンのは……どォして真っ先に思いつかなかったンだろォなァ」
「だよな……」
「あの、お二人だけでわかる言葉で会話されてわたくしは取り残されているんですが……」
どうも日常生活で関わる事が少ないせいか、白井を取り残して会話を進めてしまう。
だけど、チーム戦をする以上、情報は共有しなくちゃならない。
いや、別に意地悪して取り残してるわけじゃないけどさ。
「ああ、実は俺と一方通行には共通の知り合いの奴が居るんだけどさ……」
「どォしてそォなった、っつー表現がピッタシな環境に囲まれてるみてェなンだよなァ」
「ええと、よくわからないのですが……それはつまり、その方の周りには強い人が居るという事でよろしいですの?」
「ああ」
「ですが、求められているのは相当な戦力ですのよ? 一体どれくらいの戦力がそこにあるんですの?」
「第四位と第二位だな。あァ、後俺の演算パターンをモデルに能力開発されたレベル4の能力者が二人に、レベル5の可能性が一番高ェレベル4なンてのも居たっけかなァ」
白井の目が丸くなった。
まぁ、そりゃそうか、って話だよな。
「……ええと、その方は学園都市のかなり偉い立場にいる人、って事ですの……?」
「元スキルアウトのチンピラらしい」
「どういう事ですの!? まったくさっぱり何もかもがわかりませんの!」
うーむ、改めて周囲のスペックを聞くと規格外だなぁ、アイツ。
「とりあえず、ソイツに相談に行けばうまく行けば味方になってくれンだろ。力づくでいう事聞かせてもいいけどよォ」
「やめてやれよ……」
「……なんだか、ある意味球磨川よりもわからない存在に出会う気がしますの……」
「ま、これで当面の目的は決まったって事でいいな。俺達が味方につけるべきは――
『「第二位、垣根帝督(ちゃん)だ」』
ここまでで。
時系列は正確に決めてなかったので、とりあえず最新刊である8巻を除いた状態であるくらいに考えてください。つまり垣根はカブトムシです。
次回はここまで時間はかからないと思いますが……まぁ気長にお待ちを。
カブトムシとか善い人じゃないですか、ヤダー
ていとくンがどちらにつくのやら……期待乙
乙 カブトムシさんが味方か 勝ったな(確信)
乙
三人「佐天さんは能無しレベル0だから警戒しなくてもいいや」
上条さんはともかくとして、一方さんと黒子は本当に頭が良いのだろうか
球磨川が何か仕込んでる可能性すら考えてない
乙
安心院さん曰く
最も恐ろしいスキル:球磨川の『却本作り(ブックメーカー)』対象のパラメーターを自分と揃えるスキル。安心院さんにとても有効
最も忌むべきスキル:不知火の『正喰者(リアルイーター)』スキルを喰い改めるスキル
脅威という意味でなく評価したいスキル:佐天さんのスキル←New!
佐天さんのスキルは自動発動、もしくは常時発動タイプなんだろうか
いや、隠せてるという点で任意発動タイプ? ふーむ
しかしチームマイナスの今のところの戦力が
球磨川:負けるタイプ。心を折るタイプ
須木奈佐木:戦わせるタイプ
佐天さん:???
御坂:戦うタイプ
と、確実に戦うタイプの人間が一人しか居ない…
しかも両チームが同じ人間をスカウトしようと狙ってる以上球磨川先輩が狙っている人間を味方に付けられるわけがない…
乙
冷蔵庫VSカブトムシなんてこともありえるのだろうか…?
乙
今回の締めはNARUTOのこのシーンに似ている(確か37巻)
ナルト&サスケ「「うちはイタチだ」」
‥と思ったが似てるのはセリフだけだな
(イタチと違って垣根は無駄死にしそうだし)
バレーボールvsカブトムシあるで
全レスはいいけど俺がちょっとイライラしてた時の恥ずかしいレスにまで返信するなよ
質問っぽいレスにだけ返せばええんちゃう?
カブトボーグ大人気だなwww
審判は長者原君かと思ったけど、『彼女』って言ってるし違うみたいだな
誰かな?
>>274
俺も最初長者原だと思ったけど、よく考えたらこの球磨川さんまだ箱庭に来てなかったWWWW
>>234→207
ジョジョファンの作家にひたすらジョジョネタを投下する…
それが俺のファンサービスだ!!
という訳でまたジョジョネタを投下させてくれよな…
おっと投下する時間に遅れる…
ショ…ショックだ… か 彼はぼくの引き出しのネタをかってに使っている
それにもう2度とあのネタはもどらないような気がする 飽きられるまでッ!
2-4のボスルートになかなかたどり着けない間に北上を6人ドロップした。キングスライムみたいにくっつかないかな。
>>263 カブトムシは良い人ですが、あれはもう15巻で出た垣根のファンから見れば垣根ではないのでしょうね…
>>264 第二位ですし、負けるはずがないですよね。ええ。
>>265 球磨川がどんな策を仕込んでいようが、能力のごり押しでぶっ潰す。と考えています。それでもやや違和感がある描写不足になってしまいましたが…
>>266 佐天さんはスキルに目覚めたけどそれを口には出さなかった、タイプですね。飛沫ちゃんみたいに自動発動、任意発動がある程度自由な感じで。そして改めてみると球磨川チーム、「まとも」な戦力が本当に美琴しかいない…
>>267 どうなりますことか、私もよく考えてません。
>>268 同じ人物を狙うという点では似ていますが、サスケポジション(?)が球磨川さんという悲しさ。
>>269 きっとローリング・ストーンズみたいに動いてくれますよね。
>>270 申し訳ありません。
>>271 なるべくすべてのレスに返すようにはしていたのですが、微妙ですかね。一応その辺も考慮してみます
>>272 皆のヒーローですからね、カブトムシは。
>>274 めだか勢のキャラは今の所、安心院さん、球磨川、須木奈佐木の三人しか出す予定はありません。
>>275 まだ転入前ですね、一応。時系列はかなり適当に考えてますが…w
>>276 『投下する』なんて言葉は使うもんじゃあないですよ……『投下する』と心の中で思ったならッ! その時すでに行動は終わっているんだッ!
>>277 ヘブンズ・ドアーにネタを奪われている可能性もあります。今すぐプッツンできるように髪型をサザエさんみたいにしてくるのです。
投下しますが、今回は短いです。
『……それで、私の所に来たというわけですか』
浜面に連絡を取ると、どうやら浜面達がいつも集まっているファミレスに、フレメアと一緒に垣根も来ているらしいので俺達もそこへ向かった。
ファミレスの、何故かその席の周りには誰もいないと言う半分隔離された様な席には浜面の膝の上に座っているフレメア、それをカッ! という擬音が見えそうなくらい目を見開いてみている滝壺、テーブルの上を這う白いカブトムシ、顔を青くしている浜面にそれを見てニヤニヤしてる絹旗、われ関せずと言った様子で雑誌を読んでいる麦野というそうそうたるメンバーが揃っていた。
ちなみに俺は浜面とフレメア以外の名前は知らなかったので、自己紹介タイムもあったんだけどそれはまぁ省く。
事情の説明タイムも省く。
「あの映像、マジモンだったのかよ……俺はてっきり趣味の悪いドッキリだと思ってたぜ」
「馬鹿か浜面。馬鹿面で映像ガン見してるとは思ったけどさ」
「ひどくないですかね麦野さん!?」
「大丈夫だよはまづら、そんなはまづらを私は応援してる。だからその膝の上の泥棒猫をそろそろ引きはがしてくれないかな。……かな?」
「ひぃっ!? マイハニーの背後にオーガ的なモノが見えるんですが!?」
「テメェら漫才やめねェと歯ァ全部ひっこ抜いて代わりに釘打ち込むぞ」
いらいらした様子で一方通行がコーヒーを飲みながら浜面を睨みつけた。
残像が見える程の謝罪速度はもはや職人芸だった。
「まぁ、さっき説明した通りだ。二人の未知数な相手に御坂、油断できる相手はいない。だからこそ、力を貸してほしい」
『……確かに、私は学園都市第二位の『未元物質』を行使することが可能です。ですが、戦闘時に『未元物質』を百パーセント生かした戦い方は出来ません』
「? どういう事だ?」
『かつて私の前の「垣根帝督」が一方通行さんを負い詰めた時、「垣根帝督」は未元物質による『自己の増殖』を行い、麦野さんと一方通行さんを相手取りました。しかしそれは垣根帝督という個体を増やす事であり、その際に今の私から『悪意』が色濃く抽出された個体が発生する可能性が生まれます』
「つまり、あの戦い方をすりゃあの時のクソ野郎が生まれるかも知れねェ、って事か」
『そのクソ野郎も紛れもなく「垣根帝督」ではあるのですが』
「あれをまた相手するのはダルいし、ご遠慮願いたいわね」
『それに、聞いた話と映像を見た限りでの印象を合わせると、今の第三位は悪意に満ちた攻撃手段をとる事に躊躇はないでしょう。一方通行さんのように電気で『未元物質』の構成されたネットワークに介入される事はありませんが、第二位としての能力を行使してなお油断できる相手ではない、という事だけは先に言わせてもらいます』
制限された第二位と、悪意に満ちた第三位。
その差が、一体どんな影響を及ぼすか……余りにも行使する力の大きさが大きすぎて、俺には見当もつかなかった。
『……ですが、その点を考慮したうえで、それでも私の力が必要だと判断されるのであれば、私は力をお貸しします』
「……いいのか? こっちとしては助かるけどさ」
『はい。フレメアさんのご友人である打ち止めさん。その打ち止めさんは一方通行さんを失えば嘆き悲しむでしょう。打ち止めさんが悲しめば、フレメアさんも悲しむ。そして悲しみの連鎖は終わらなくなる。そんな事は、させるわけにはいきません』
「……ケッ。コレが本当に垣根帝督ってンだから、『未元物質』は計り知れねェよなァ」
憎まれ口を叩く一方通行も、内心ほっとしていることだろう。
目の前にいるのは、確かに見た目はカブトムシだ。
けれど、その実はこの場に居る誰よりも『ヒーロー』の素質を秘めている。
「……ええと、今更なのですが……この格好いい事を言っているカブトムシが、第二位ですの?」
こっそりと耳打ちするように、白井が訪ねてくる。
まぁ、疑う気持ちもわからなくもないからな。
『はい。私がまぎれもなく『垣根帝督』です。過去にいろいろとあり、本来の肉体は失っていますが』
「色々ありすぎですの……」
『では、証明の意味も込めて、形を整えてみましょう』
瞬間、カブトムシの体表に亀裂が走る。
一瞬フレメアが慌てたように身を乗り出したが、カブトムシの身体が粉々に砕け散るのと同時に、まるで羽化のように、明らかに質量保存の法則を塗り替えた現象が起こる。
小さな白いカブトムシが消え、代わりにイケメンな白い少年が現れた。
「……っと。白いままだとカブトムシの状態より目立ちますね」
少年がそう言うと、真っ白い陶器のようだった皮膚や衣服に色が付き始め、数回瞬きする間にその姿は何処からどう見ても普通の人間以外の何物でもなくなった。
「コレが、『垣根帝督』の最もスタンダードな形ですね」
茶と金の中間くらいの髪に、整った顔立ち。
一度その姿を見た事はあるが、その時は戦闘中だったし、何より全身が真っ白だった。
だが、いざこうしてみると……
「イケメンは滅べ」
「……今理不尽な怒気を向けられたのですが、気のせいでしょうか。後『お前が言うな』的な電波もどこからか……」
世のもてない男が垣根の討伐に出そうな位、イケメンだ。
俺らの合言葉はただ一つ、人狩り行こうぜ! だ。
「その見た目でその口調だと気持ち悪いわね……」
「ギャップ萌えって奴ですか? 超萌えませんが」
「なまじクソ野郎だった垣根帝督を知ってるからなァ、俺らは」
麦野達と一方通行が気持ち悪そうに垣根を見ていた。
浜面の周りの奴らは昔の垣根とのギャップに戸惑っているらしい。
俺は基本的にカブトムシとしての垣根しか知らないから、よくわからないが。
「……なぁオイ、上条だったか? 助っ人は垣根を入れても後一人、必要なんだよなぁ?」
麦野さんが不意にそんな事を訪ねてきた。
「ん? ああ、そうだけど」
「じゃあ決まりだ、もう一人の助っ人には私が入る」
「いいんですか麦野? 前に一回超電磁砲には超負け――いふぁいいふぁいいふぁい! いふぁいですむぎの!」
両のほっぺたを横に引っ張られて涙目で抗議する絹旗。
それを無視して麦野はサディスティックな笑みを浮かべながら、絹旗への意地悪をやめる事無く続けていた。
「まぁ超電磁砲には前に一度煮え湯を飲まされたことはあるけど、別に関係ないし? でもさぁ、もしも超電磁砲と私が戦うようなことがあればその時は手加減しちゃアレだし思いっきりやってもいいわよねぇええ!?」
怖い。
仲間になってくれるって言ってんのに、麦野さん超怖い。
「……上条さん、わたくし個人的にこの方が仲間になるのは不安を覚えるのですが……」
「ま、まぁ麦野……さんもレベル5だし、戦力としては十分すぎるだろ」
レベル5が三人に、レベル4が一人。
正直、負けるわけがないと思えるようなチームだ。
「これで決まりだなァ。第三位の相手にはなるべく垣根か上条を狙う。それ以外は実力差で無理やりぶちのめす。単純な話だ」
「……」
こんなチームが負けるはずがない。
そう確信を持って言える。
なのに――どうしてだ。
どうして、こんなにも不安を覚えるのだろうか。
From:御坂美琴
本文:明日の正午、窓のないビルの前集合
そんなメールが白井に届いたのが、昨日の事。
俺達は指示された時刻、指示された場所に到着した。
上条当麻、白井黒子、一方通行、麦野沈利、垣根帝督。
俺はともかく、この学園都市が誇る最強と言ってもいい面子が揃った、このチーム。
それに反するのが、今目の前にいるこの集団。
球磨川禊、須木奈佐木咲、御坂美琴、佐天涙子。
御坂はレベル5の第三位であるが、それ以外はレベル0の女子中学生と外の学校の生徒二人。
どう考えても、科学が生み出した超能力には勝てると思えない面子。
比べる事すらかわいそうに思えるような、圧倒的な戦力差がある。
確実にあるはずなのだ。
なのに、俺の心の不安はぬぐえない。
べったりと靴底に張り付いたガムのような、粘つく不信感がまとわりついて離れなかった。
「……で、どォおっぱじめるつもりなンだァ? ここで始めンのか?」
『いやだなぁ一方通行ちゃん』『こんな街中でバトルだなんて』『漫画の読み過ぎじゃなーい?』
「……」
『怒らないでよ』『僕は悪くない』『まぁその辺は、悪平等な女の子が選んだ平等な審判役が決めてくれるらしいからさ』
球磨川が目配せすると、偶然そこに居合わせた人、だと思っていた女性が俺達の方を向いてニッコリと笑った。
安っぽいリクルートスーツの上に白衣を重ねた、スタイルの良い女性だ。
「どもどもどーもー。初めまして、じゃない人もまぁいるっちゃいるけど、それはいいか。私が『親善死合』の審判を務めます、木原唯一でーす」
「……木原……ッ!?」
「……」
女性が名乗る前から反応していたのは垣根で、名乗ってから反応したのは一方通行だった。
垣根は木原唯一本人に警戒しているようだけど、一方通行は『木原』という苗字に反応してるっぽい。
「あー……そういや一方通行は数多君関連で、そっちの『未元物質』に至っては直接面識があるんだった。まーあの時とは違う『自我』を獲得したみたいですし、厳密には直接面識があるわけじゃあないのかな? その辺も探っては見たいけど、今回は色んな事情で中立を務めさせてもらいますね」
頭をガリガリと掻きながら、木原唯一は俺達と球磨川達を交互に見る。
「えーっと、5対5のチームバトルが基本でしたっけね。そっちの球磨川君? だっけ? 一人足りないみたいだけど」
『後々合流するので大丈夫ですよ』『彼は先鋒に出すつもりはありません』
「ふーん、じゃあいっか。事前登録とかそう言うのは面倒なのでナッシング。で、肝心なルールなんですけど」
木原唯一は足元に置いてあった箱を持ち上げた。
箱には穴が開いており、所謂一般的なくじ引き的な外見をしている。
木原唯一が軽く箱をゆすると、中で紙が擦れる音がした。
「5種類のルールを用意したので、それぞれ出場選手がじゃんけんをして、勝った方がこの中から一枚紙を引いてもらい、そこに書かれたルールで戦ってもらうって方式にしたいと思います。フェアでしょ? うはー、『木原』らっしくねー」
くじ引きによるルール決定。
確かに条件はフェアだ。
先にルールに対する対応策が取れないのはネックだが……それは相手も同じはず。
何はともあれ、この一回戦目は重要になるはずだ。
「ではまず、お互いに出場する選手を決めちゃってくださーい」
『上条チーム』
「どうする?」
俺は他の四人と向き合い、最初に出場する選手を相談する。
「最初のルールで他のルールの傾向もつかめりゃ得策だがな、相手が『木原』ってンだからそォ簡単にはいかねェだろォな。なるべく最初は柔軟な対応が取れる奴が良い」
「となると、私は今回は様子見かね。『原子崩し』はお世辞にも柔軟とはいえねぇし」
「能力の幅で言えば俺か垣根のどっちかだなァ」
「あの……一回戦目はわたくしが出たいのですが、よろしいでしょうか?」
白井が手を挙げ、立候補をした。
「あァ?」
「確かに一回戦目は重要な責務があるという事は、重々承知していますの。ですが、だからこそレベル5の皆様にはなるべく多くの情報を集め、後の試合につながるモノを見つけてほしいんですの。……それに、わたくしの能力も中々応用は効きますし」
空間移動。
自在に好きな場所へノータイムで移動できる能力は、一方通行のベクトル操作や垣根の『未元物質』でも再現することは出来ない。
反論する理由は、何も見当たらなかった。
「……頼むぞ、白井」
「まァ、様子見にゃちょうどイイ。せいぜいアイツ等の情報を引き出しやがれ」
「超電磁砲の飼い犬ちゃんよぉ、不用意に負けて足だけは引っ張んじゃねーぞ」
「お任せくださいですの!」
『球磨川チーム』
『えーっと』『じゃあまず一回戦目に出る選手の事だけど――』
「はいはいはーい! 私が出ます!」
ノリノリで、意気揚々と立候補したのは意外も意外、佐天さんだった。
「佐天さん、一回戦目は重要よ? 向こうも高位能力者……私の予想だと第二位か、黒子辺りを選んでくると思うけど」
「ええ、わかってます。でもだからこそですよ。白井さんが出る可能性が一番高いのはここです」
「佐天さん、白井さんと戦いたいの?」
「んー、戦いたいっていうか、やっぱ顔見知りの方が無能力者の私を知ってるわけですし、私がどれくらい変われたのかを思い知らせるのには都合がいいかなって」
うーん、歪んでるなぁ。
手に持った金属バットも猟奇的だ。
『……わかった』『本当は僕が出ようと思ってたんだけど』『涙子ちゃんの熱意に負けたよ』『やれやれ』『また勝てなかった』
「おっまかせください球磨川さん! 私が相手チーム残り全員棄権したくなるような、そんなパーフェクトな試合を見せてあげますから!」
両者のプレイヤー選抜が終了し、選別されたのは、白井さんと佐天さんだという事がわかった。
相手がわかった瞬間ガッツポーズをした佐天さんは、嫌な意味で球磨川君に似ていた。
まぁ、球磨川君に似てると言う時点で嫌以外の何物でもないのは決定的に明らかだけど。
そして二人は木原さんの指示でじゃんけんをする。
じゃんけんの結果は何となく予想してたけど、佐天さんがパーで負けて白井さんがチョキで勝ち、白井さんくじを引くことになった。
自分が引くわけでもないのに、緊張の一瞬だよね。
そして、ドキドキした割にはその結果はあっさりと決まる。
『鬼ごっこ』
と書かれた紙一枚で。
「はい、記念すべき一回戦目の試合は木原印の鬼ごっこ、名付けて『鬼首取りごっこ』に決定しましたー」
今回の投下終了。
ようやく一回戦に移れそうです・・・とおもいきや、多分次回はルール説明で終わりそうな雰囲気。
なので、あまり期間は開けずに次の投下をしたいと思っています、一応。
今日のていとくん
イケメルヘン第二位垣根帝督
↓
冷蔵庫・工場長
↓
無限再生☆垣根ホワイト
↓ ↓
垣根ムシ 内臓
↓
バレーボールていとくん
↓
女体化ていとちゃん
ところで
「魔法美老婆☆マジカル☆ひさこ」っていう不自然な天啓を受け取ったんだけどもしかして>>1って人的資源の首謀者だったの?
>>1が素晴らしすぎて文句のつけようが無いな
何で佐天さんはこんなに自信満々なんだろ。いざとなったら球磨川が生き返らせてくれるから?
新約まだ読んでなかったけど冷蔵庫がカブトムシになってるなんて・・・
乙
『まともな』鬼ごっこならテレポーターである黒子は楽勝だろうが、果たして……
そして佐天さんがいい感じにマイナスだ
今更だけど
前回投下の>>243のやりとりに見覚えがあった気がしたがネウロのあのシーンと比べるのは失礼だよな
‥第VI位?ここでは関係ないよ?
鬼『首取り』ごっこ…いやまさかな
バードウェイ『寝取り』ごっこ…いやまさかな…
乙
マイナスな佐天さんや球磨川くんが浜面をどう思うのか気になる
鬼首取り…鬼の首を取ったよう?
バードウェイの初めての相手は>>1ではない!!この上JOだッ!!!!!
めだかボックスでだれが一番かわいいかという答えは千差万別だけれども、一番性的なのは潜木もぐらちゃんだと思います。
>>295 鎌池先生は垣根に何か恨みがあるのかというくらい変化してますよ…オルゴデミ-ラでもこんな変身しませんでしたよ
>>296 私ならもっとさりげなく嫁のステマをします
>>297 もったいないお言葉です。
>>298 マイナスはポジティヴなんですよ、多分
>>299 ネタバレ申し訳ない。ですが新約も個人的には4巻くらいから面白くなるのでぜひ読んで見てください。
>>300 まともな試合なら美琴以外は勝てる要素零ですからね。
>>301 ネウロの方もいずれ書かなければ……
>>302 首取り、とわざわざつけてるからには意味があるんでしょう、多分
>>303 そもそも私の正妻なので寝とるとかそんな。
>>304 浜面君は正直あんま絡ませる予定がありません。割と善吉君とキャラがかぶってる気もします。
>>305 !!
>>306 君がッ! 泣くまでッ! 殴るのをやめないッ! いや、泣いてもやめないッ!
では投下。ぬるぬると少量ですが
「鬼ごっこ……だァ?」
学園都市最強の怪物、一方通行はその凶悪な顔にはとても似つかわない遊びの名を口にした。
鬼ごっこ。
女の子とはいえ、私だって小さい頃に何度かやった事はある。
というか、日本の子供は鬼ごっこやら色鬼やら高鬼やら、所謂おにごっこのような「おいかけっこ」的な遊びは大体経験してるんじゃあないかな?
しかし、私達が未だ法で守られる脆弱な子供であるとはいえ、この場この雰囲気にはどうも「鬼ごっこ」という言葉はなじまなかった。
「ええ、だって話に聞けばこれはですし学校同士の交流らしいですし、それなら子供らしくこういう遊びで決着つければいいんじゃないかなーって。ま、多少のアレンジは加えさせてもらってますけど」
ひらひらとクジをもてあそびながら、木原さんは楽しそうに言う。
一体何がそんなに楽しいんだろうか。
「だぁぁって。われらが学園都市のトップランカーなレベル5に正面から、学園都市製じゃない何かで挑むだなんて面白そうな話聞かされちゃったもんですからそりゃ楽しみに決まってますよー。そのためにわざわざ『木原』っぽい思想はぎりぎりまで削ってフェアな審判を務めながら『木原』目線で観察するんですし」
さっきから苗字を強調してるけど、この木原って名前は学園都市じゃそれなりに有名なのかな?
一方通行も何か反応していたし、何か因縁があるのかもしれない。
……まぁ、学園都市で有名だなんて、碌なもんじゃあなさそうだってのが私の率直な感想ではあるけれど。
「私としては、あの『安心院さん』とやらもものすごーく、ものすっごく『木原』として研究してみたいんですが、まぁそれは後々。とりあえず今はこの『親善死合』を楽しませてもらいますねーっと。いろんな交換条件も飲んでもらいましたし」
そう言って木原さんは、先ほどくじ箱が置かれていた場所の隣にあったもう一つの箱から銀色に光る何かを取り出した。
それは、動物好きならよく見る機会が多いんじゃないだろうかと思われる代物だった。
「……首輪、ですの?」
「ええ。えーっと、とりあえず白井さん、であってましたっけ? アナタがさっきじゃんけんで勝ったので、これをつけてください」
木原さんから首輪を受け取った白井さんは、怪しげにそれを眺める。
目立った装飾はないものの、側面に小さな箱のようなものがあった。
首輪は留め具で留めるタイプのようだけれども、何故か鍵穴が付いているのが気になる。
チョーカーにも近い雰囲気があるそれを、白井さんは首につけた。
「……お姉様以外の女からの首輪だなんて、屈辱ですの」
『お姉様からの首輪だって!?』『美琴ちゃん!』『もしかして君達は週刊少年ジャンプじゃあ決して載せられない様な秘め事を毎晩――』
ビリィと一撃、球磨川君死亡。
まぁ、この試合が終わるまでには生き返るだろうし、球磨川君の出番が来ても不戦敗にはならないだろう。
戦って負けるだろうけどさ。
「そして佐天さんにはこれを」
そう言って差し出されたのは、どうやら鍵のようだ。
そういえば、さっき白井さんがした首輪には鍵穴が付いていたっけ。
「ルールは簡単です。制限時間は1時間で、範囲は私達が今いるこの学区のみです。制限時間内に佐天さんが白井さんの首輪を『奪う』事が出来れば佐天さんの勝ち、奪われずに逃げ切れば白井さんの勝ちでーす」
成程、だから『鬼首取り』なんだ。
というか、随分とこれは白井さんに有利なルールだなぁ。
普通の鬼ごっこならば鬼は触れた時点で勝ちなのに対し、今回は『鍵を外す』という手間がある。
その上、白井さんはテレポートが出来る能力者だ。
ゲームの元が鬼ごっこである以上、白井さんは敗北する理由が何一つない好条件がそろっている。
佐天さんが可哀想に思える程、不利な条件だ。
『これでいい』
「え?」
『不利じゃなきゃ』『理不尽なハンデを背負っていなきゃマイナスじゃあない』『涙子ちゃん』『期待してるぜ?』
「はーい! がんばりますっ!」
天真爛漫な笑顔を見せる佐天さん。
あれだけ見れば普通に可愛い元気な女の子なんだけどなぁ……。
「ちなみにこの学区から出たら失格で相手側の勝利になりますのでご注意を。試合の様子はモニタリングしていますので決着が付いたらすぐわかりますよ」
「監視カメラでもハッキングしてるのか?」
「滞空回線、っていう便利なものがあるので、それの技術をちょいちょいっと……じゃあ、そろそろゲームを始めますかねっと。あー、そうだ忘れてた。佐天さーん?」
「え? 何です?」
木原さんに手招きされて、佐天さんがトコトコと歩み寄る。
二人の距離が一歩あるか無いかくらいの所まで狭まった、その瞬間。
――木原さんは、ポケットから紫色の液体に満たされた注射器を取り出し、それを佐天さんの首筋に突き立てた。
「っ!?」
「佐天さん!」
その場に座り込んだ佐天さんに、白井さんが慌てて駆け寄る。
佐天さんは一瞬ふらついたものの、どうやら特に異常はないらしい。
薬を注射されたのに、異常がないというのが異常な事態ではあるけれど。
「……木原唯一。一体どういうつもり?」
御坂さんがイラついた様な口調で訪ねる。
『躊躇する心』がなかった事にされている御坂さんがすぐに攻撃を仕掛けないのは意外だったけれど、そういえば別に冷静さをなかった事にされたわけじゃあないから、ちゃんと考えて行動できるって事だ。
ここで木原さんを殺せば、あの液体が何だったのか、どういう効果があるのか、それを聞き出せないという事をちゃんとわかっている。
……それはつまり、一方通行の公開処刑は良く考えた上での行動だった、という事になるから恐ろしいけど。
「落ち着いてください。言うのが遅れましたが、っていうか忘れてましたが、コレが『鬼首取りごっこ』の最大の目玉なんですよ」
「目玉、ねぇ」
「ええ、今佐天さんに注射した薬ですが――あれは文句なしの、純度100パーセントの猛毒です」
その言葉に、ここにいるメンバー数人を除いた全員が緊張するのがわかった。
していないのは言うまでもなく球磨川君、後は緊張はしていないけれど冷めた様子の麦野さん(だっけ?)くらいか。
「毒の開発者によれば、名前を〝恥知らず〟【パープルヘイズ】って言うらしいですけどね。人体に注入すれば、特製の解毒薬以外では決して無害化することはできず、体から取り出す事も出来ません。一時間の潜伏期間を以て、人体の細胞を一つ一つ溶解させる毒というよりウィルスに近いモノですね」
1時間。
ついさっき聞いたばかりの時間。
それはつまり――ゲームのタイムリミット。
「――ッ! 佐天さん! 今すぐそのカギで開錠を!」
『あれれ?』『黒子ちゃん、そんな事をしたら君達のチームの負けになっちゃうよ?』
「たかだか1敗! 佐天さんの命の方が!」
『たかが1敗』『されど1敗だぜ』『黒子ちゃん』『君は自分の都合でチームメイトのみんなを危機に追いやるつもりかい?』
「黙れ、球磨川!」
指すように口を挟んできたのは、上条君だ。
「俺は白井の行動に間違った部分があるだなんて、これっぽっちも思っちゃいない。友達が危険なんだ、当たり前だろ」
「私も、上条さんに賛成です。白井さんの行動には何一つ不可解な点などありません」
「……まァ、そォするっきゃねェよな」
「ていうか残りの四試合で相手をブチコロシすればいいだけだにゃーん」
上条君のチームメイトは誰一人、白井さんの行動をとがめないようだ。
そりゃ、私だって友達の命がかかってたら、球磨川君が率いるチームの勝敗だなんてこれっぽっちも考慮するつもりもなく、同じことをするけどさ。
「……えっと、ルール説明の続きをしても?」
木原さんは、一人場違いの様なテンションで、小首をかしげていた。
「そんなものどうでもいいですの! この勝負はわたくしの負けで結構ですわ! それよりも早く開錠を――」
「鍵で首輪についた小箱を空ければ、中に解毒薬が入ってます。けれどもなんとなんと、鍵の開錠はとある爆弾の起爆スイッチにもなっていまーす!」
ピタリと。
その場にいた全員の動きが、時が止められたかのように停止した。
「……爆、弾?」
「はい。爆弾も毒薬と同じく『木原印』の特別製です。〝爆殺女王〟【キラークイーン】 とか名づけられていましたっけねぇ。破壊力はもちろん、爆発の時に発生する特殊な振動が人体構造に特殊な影響を与え、爆発で奇跡的に残った人体を跡形もなく粉々に出来るそうですよ」
開錠が、起爆の合図。
つまり。
「爆弾がどこにあるのかはもちろん教えません。ですが、今から1時間の間何の起爆コードも入力されなかった場合のみ、爆発しない様にロックがかけられるようになってます。安心設計ですよね」
「……ッ! ふざ、けた事を……ッ!」
「つまりつまり、無差別複数の人命or友達の命がかかったこの鬼ごっこ、鬼が相手の首を取って、鬼の首を撮ったように自分の延命を喜べるかか、それとも顔も知らないどこかの誰かの命を救うため、鬼を退治するか…… それこそが『鬼首取りごっこ』の神髄でーす!」
ありえない内容だった。
非人道的な遊びだった。
許されざる冒涜だった。
文字通り、人の命をゲームのように扱うこのゲーム。
一部を除いて、全員が青ざめる。
私も含め、このゲームに対して、このゲームを考え付いた木原さんに対して、背筋の凍るような悍ましさを感じている。
それを感じていないのは、誰もが認める至低のマイナス、球磨川君と――
「そりゃーっ!」
「っ!」
ぐん! と首を捩じる様に傾け、白井さんは佐天さんが繰り出した鍵の一突きを回避した。
にひひー、と悪戯っぽい笑みを浮かべながら鍵をポケットに仕舞いこみ、持ち込んだ金属バッドを軽く素振りして。
「白井さん、私、まだ死にたくないです。初春のスカートももっとめくりたいし、白井さんの奇行も見ていたい。御坂さんの格好よさにも憧れていたいし、美味しいものも食べたいし恋もしたいし青春だってまだまだしたり無いです!」
だから! と大きく息を吸い、満面の笑みで。
「私を、殺さないでください! 白井さん!」
たった今、躊躇なく、顔も名前も知らない赤の他人を殺そうとした佐天さんだけだった。
恐ろしく短い。申し訳ない……
ですが、戦闘シーンは原作めだかボックスのように、わりと細かく短めに区切っていくスタイルで行くと思います。
一気に長々と書くと、あっさりしすぎちゃうので…
その代り、なるべく早く次の更新ができるよう頑張ります。
ではまた次回
乙
パープルヘイズとキラークイーンktkr
咲ちゃんは混沌すらも操るマイナスだし、思想もぶっ飛んでるのに理性は普通寄りなんだよな
(あの頃の球磨川に友情を感じちゃうあたり感性まで普通とは言い切れないが)
咲ちゃんも蛾々丸君と並んで理性的なマイナスなんじゃないかと思うな
しかしこの勝負、鍵を開けずに箱を壊して薬を取り出すのはありなのかな?
金属バットで中の薬瓶を壊さず外側の箱だけ破壊するなんてかなり無茶だけど。やるとも思えないし
ところで木原はジョジョ読者か何かなのかな? そのうち『腐食緑黴(グリーン・デイ)』とか出てくるんじゃあないか?
ま、佐天さんが吹き飛んでも仲間思いの球磨川が助けるから安心だな
西尾先生!今日は鬼畜ですね
>>307
マイナスがポジティヴならば、『また勝てなかった』なんてないと思うのですが
乙
>>324
プライドが高いんじゃないかな?
完璧な勝ち以外はありえない、みたいな
でもポジティブだから何度でも挑戦するって感じかと
球磨川って改心前は「また勝てなかった」は言わないと思うけど、乙
>>324
マイナス方向にポジティブっつーか、明るく元気にマイナス思考っつーか、そんな感じ
ポジティブなのにネガティブみたいな、そこらへんのわけの分からなさやちぐはぐさもまたマイナス
あいつら辛くて苦しくて勝てなくて正しくない時ほどへらへら笑うらしいし
あと、球磨川さんは負けてばっかりだから勝利に妥協できないし、完全な勝利以外勝ちと思えないし価値があると思わない
そこはあまりネガポジ関係ないと思う。ほら、童貞ほど二次元みたいな完全な女性像を求めるでしょ? それと一緒よ
>>326
グッドルーザー球磨川小説版、完結編、アニメ版で共に『また勝てなかった』は言ってるぞ
ちゃんと買って読みなさい、面白いから。そうでなくとも咲ちゃんと櫛ちゃんが可愛いから
あと箞木ちゃんがスク水だから
>>324
マイナス方向にポジティブっつーか、明るく元気にマイナス思考っつーか、そんな感じ
ポジティブなのにネガティブみたいな、そこらへんのわけの分からなさやちぐはぐさもまたマイナス
あいつら辛くて苦しくて勝てなくて正しくない時ほどへらへら笑うらしいし
あと、球磨川さんは負けてばっかりだから勝利に妥協できないし、完全な勝利以外勝ちと思えないし価値があると思わない
そこはあまりネガポジ関係ないと思う。ほら、童貞ほど二次元みたいな完全な女性像を求めるでしょ? それと一緒よ
>>326
グッドルーザー球磨川小説版、完結編、アニメ版で共に『また勝てなかった』は言ってるぞ
ちゃんと買って読みなさい、面白いから。そうでなくとも咲ちゃんと櫛ちゃんが可愛いから
あと箞木ちゃんがスク水だから
>>324
マイナス方向にポジティブっつーか、明るく元気にマイナス思考っつーか、そんな感じ
ポジティブなのにネガティブみたいな、そこらへんのわけの分からなさやちぐはぐさもまたマイナス
あいつら辛くて苦しくて勝てなくて正しくない時ほどへらへら笑うらしいし
あと、球磨川さんは負けてばっかりだから勝利に妥協できないし、完全な勝利以外勝ちと思えないし価値があると思わない
そこはあまりネガポジ関係ないと思う。ほら、童貞ほど二次元みたいな完全な女性像を求めるでしょ? それと一緒よ
>>326
グッドルーザー球磨川小説版、完結編、アニメ版で共に『また勝てなかった』は言ってるぞ
ちゃんと買って読みなさい、面白いから。そうでなくとも咲ちゃんと櫛ちゃんが可愛いから
あと箞木ちゃんがスク水だから
>>324
マイナス方向にポジティブっつーか、明るく元気にマイナス思考っつーか、そんな感じ
ポジティブなのにネガティブみたいな、そこらへんのわけの分からなさやちぐはぐさもまたマイナス
あいつら辛くて苦しくて勝てなくて正しくない時ほどへらへら笑うらしいし
あと、球磨川さんは負けてばっかりだから勝利に妥協できないし、完全な勝利以外勝ちと思えないし価値があると思わない
そこはあまりネガポジ関係ないと思う。ほら、童貞ほど二次元みたいな完全な女性像を求めるでしょ? それと一緒よ
>>326
グッドルーザー球磨川小説版、完結編、アニメ版で共に『また勝てなかった』は言ってるぞ
ちゃんと買って読みなさい、面白いから。そうでなくとも咲ちゃんと櫛ちゃんが可愛いから
あと・木ちゃんがスク水だから
な、なるほど•••• つまり
佐天「私、能力検査またレベル0だったわー、このままじゃホームレス確定だわー、でも気にしなーい、あはは」
球磨川『僕なんかジャンケン(スキル使用等イカサマ一切不可)で勝たなきゃ安心院さんに存在消されちゃうわー、でも気にしなーい、あはは』
こういうこと?
乙
「精密動作装置(スタープラチナ)」:脳内視力補正装置付きマイクロマニピュレータ
「黄金弾(タスク)」:あらゆる物体を貫く特製貫通弾
こんなのを考えていたら
ジョジョの主人公はそれぞれが人智を超えた(技術では永遠に届かない)スタンド能力を持ってることに気付いたよ
というか他の主人公ズでこの手の能力再現をやるとすればシミュレータぐらいしか思いつかない
うつぼ木盟ちゃんの名前は表示できないのか…
というか、「書き込む」をクリックしたのは1回だけなのにどうして4回も投稿されているんだ…?
スキル…いや、スタイルによる攻撃か!?
乙
今更だけど超電磁砲最新刊で上条さんと佐天さんって既に出会っt(ピッ
ダテンサンハカワイイナー(✪)(✪)
あ…ありのまま 今起こった事を話すぜ!
「俺は一回投下したと思ったら四回投下していた」
な…何を言ってるかわからねーと思うが俺も何をされたのかわからなかった…!
催眠J[ 略 ]ZE☆
「私のレスが800ある」これが私の嘘八百使い
ロベルト=カーツァ「だいとーりょーです☆」(不知火風)
上条当麻「ベイビィフェイス」なんてのもあるのか
そんな全自動孕ませ機あってたまるかwwwwwwwwwwwwwwwwww
クッキーが1秒間に10億枚精製されている。なにこれ怖い
>>319 ネーミングは私の趣味です。今後スタンド名が出てもそれは確実に悪ふざけです
>>321 咲ちゃんはマイナスなのはアブノーマルなのか、ややわかりにくいです。今作では一応『マイナス耐性のあるアブノーマルだけど悪平等な思想』という謎のポジション扱いです。ルールは最初の投稿で補足もしながら書いときます
>>322 どうせ生き返らせてもらえるし、とは考えていないです。一応。
>>323 鬼畜プレイがお好みです
>>324 志布志ちゃん的なマイナスポジティブです。「私がいると人が傷つく、じゃあそれを喜べるようにならなきゃ!」的な
>>325 マイナスのプライドってなんか矛盾しているような気がしないでもないです。
>>326 実は言っているのです・・・
>>327>>328>>329>>330 Dirty Deeds Done Dirt Cheapで隣の世界から同一人物を連れてきた……?
>>332 適当に考えてください。めだかブックスで西尾先生もおっしゃってましたが、作者がすべてを把握していると思ったらそれは間違いなのです。いや、ごめんなさい。深く考えてません。
>>333 AIで尋常じゃない動きをするアメリカンクラッカーを佐天さんの武器にしようとして、やめた過去があります
>>334 シールで指が増えていた可能性
>>335 【警告】それ以上はいけない
>>337 スタンド使いこのSS読みすぎじゃないですかね
>>338 64万人でスレ書き込みとか…
>>339 言彦にでも連れて帰ってもらってください
>>341 吹寄に頭突きされて「スゴくいい!いい頭突きだ!首のスナップといい腰の入れ方といい、こういう元気な頭突きを繰り出せるなら、君の健康状態は間違いなく『良好』だ!」とかいうんですかね。いや、面白いかもしれない
>>342 上条さんのモテ方はシンデレラで肉体改造されてるレベルですがね
まずは『鬼首取りごっこ』のルール説明から
鬼首取りごっこ ルール説明
・原則このゲームは二人で行われる。
・ゲーム時間は1時間とする。
・舞台はゲーム開始時にプレイヤーのいる学区に限る。その学区から出た場合、出た方が反則負けとなる。
・『鬼の首を取る』側は、自らの首につけた首輪を奪われないようにしなければならない。
・『鬼』側は、制限時間内に首輪を奪わなければならない。その際、首輪の破損度は問わない。奪う事が第一である。
・首輪には『鬼』に仕掛けられた毒を分解する薬が仕込まれている。ただしこの薬が収められた箱は専用の『鍵』以外では開けることができず、また外部からの物理的衝撃などでは基本的に傷すらつかない、『木原』の最新金属である。
・鍵穴に鍵を差し込むことで、離れた場所に仕掛けられた爆弾が起爆する。爆発が及ぼす被害は最低でも半径30メートル以内を焦土とし、特殊な振動は100メートル以内の人間に影響を及ぼす。
・見学者が応援を呼ぶことはできない。また、ゲーム参加者も学区の外から助けを呼ぶことはルール違反となる。ただし、偶然学区内で知り合いと出会った場合は、助けを借りてもよい。
※ルールに不備があった場合、審判より連絡が入り改定または追加がなされる可能性がある。
世界を縮める。
なんて凄いな能力なわけではない。
わたくしの能力は点Aから点Bへと移動するだけの単純な能力。
けれど、単純だからこそ、成果もわかりやすかった。
わたくしは風紀委員。
わたくしは守る者。
守るモノは正義。
わたくしの正義。
正義とは学園都市の平和。
正義とは愛するお姉様の安全。
正義とは大切な友人の笑顔。
それらを守るための、わかりやすいたった一つのシンプルな能力。
だけど、思いもよらなかった。
今日、こうして、大切な友人に、心の底から恐怖と嫌気を覚えながら――能力を逃亡に使うだなんて。
「ハァッ! ハァ……ッ!」
切れた息を整えるため、深く深く酸素を肺へと取り込み深く深く外へと吐き出す。
数度の深呼吸をしたところで、身の内から湧き上がる焦燥感はだいぶ薄れた。
何時でもクールに。
感情はいざという時の『パワー』にもなるけれど、そのパワーが『諸刃の剣』であることをわたくしは嫌という程理解しているのだ。
だからこそ、ありえない状況に出くわしても、考えられない敵を前にしても、クールで居る事が重要だ。
もっとも、頭でわかってはいても、心がそうはいかないと叫ぶことはあるけれど。
(……まずは、状況を一つ一つ理解していく事が重要ですの)
その一、対戦者の詳細。
相手はわたくしの友人、佐天涙子。
洗脳でもされているのかと疑いたいくらい、いや、洗脳されているという事が事実であるほうが救われるような、そんな状態。
木原唯一とやらの説明を鵜呑みにし、爆弾が仕掛けられている可能性を知りながら、躊躇なく自分の命と自分の勝利を優先した。
あの様子では、勝つための手段はきっと選ばない。
選択することすらしない。
その二、対戦のルール。
決着の形は単純に考えると三種類。
一つ目は、わたくしの首輪が佐天さんに奪われるという形での敗北。
二つ目は、一時間という試合時間を見事潰し、わたくしが勝利する。
三つ目は、どちらかが定められたエリア外、つまりはこの学区から出てしまう事による反則負け。
しかし、お互いに課せられているそれぞれの『枷』が、あまりにも重い。
その三、成さねばならない事。
コレが最も重要で、コレが最大の難題でもある。
わたくしの敗北――つまりは、この首輪を奪われる事なのだが、この首輪に仕込まれていると噂の解毒薬。
それが、現在進行形で佐天さんの体を蝕んでいる〝恥知らず〟とやらの唯一の解毒剤らしい。
しかし、それを取り出すにはこの鍵を開けなければならず、鍵の開錠はどこかに仕掛けられているという爆弾の起爆コードになっている。
全てわたくしが自分の目で確認した事実ではないけれど、ルールとして説明された以上、これを『真実』として行動するしかない。
わたくしが勝てば、佐天さんが死ぬ。
佐天さんが勝てば、名前も知らない不特定多数の人々が死ぬ。
その二つの解答は、片方が勝ち片方が負けるという世間一般的な『試合』の終結方法は、わたくしにとっての『正答』ではない。
わたくしの正義には、『犠牲』という言葉が存在してはならない。
どれほど理不尽な逆境に立たされようと、『正当』な『正義』を見失う事だけは有ってはならないッ!
(わたくしが目指すのは『誰も死なない』決着のみッ! それ以外は全て負けでしかない!)
まだ解決策は浮かんだわけではない。
だから、わたくし今できる最善の事を尽くしながら『正答』への道を考え続ける。
「……さて、いましたの」
わたくしが居るのは、三階建ての建物の屋上。
そこから見える眼下の大通り、そこを歩いているバットを携えたセーラー服の黒髪乙女。
明らかに周りからは奇異の目で見られているが、本人にそれを気にする様子はなさそうだった。
(向こうも、わたくしの存在に気づきましたわね……。鬼ごっこの必勝法は、『常に相手の姿を確認しながら一定の距離を保つ』事。これさえしていればわたくしが捕まって負ける、という事はない)
もっとも、この作戦は『相手と自分の体力が同等か、自分の方が勝る』場合に限られる。
相手が10歩歩けば、自分も10歩歩く。
相手が3分走れば、自分も3分走る。
それを繰り返していれば、相手との距離は永遠に縮まらず、鬼ごっこという遊びは永遠に終わらない。
終わりがないのが終わり。
そして、今回の鬼は能力を持っていない佐天さん。
わたくしは空間を移動できる能力者。
『体力差』どころの話じゃない、ママチャリとバイクで追いかけっこをするような、そんなクソゲーですの。
(ただし、時間を潰し過ぎても対応策が見つかった時に困る。……最悪でも、30分。それ以内に対応策を見つけたい所ですの)
そんな事を考えているうちに、佐天さんはわたくしがいる建物の外側についた階段を昇り始めた。
3階分の高さなんて、すぐに昇り切ってしまうだろう。
そしてわたくしが何の能力も持っていなければ、屋上という袋小路に追い詰められた圧倒的ピンチな状況なのだけれども、隣の建物の屋上までは高さの差を考えても30メートルもない。
わたくしは、屋上に上った佐天さんから見える位置にある建物の屋上へ、空間を跳ぶ。
いつも通り、目の前の空間はまるでテレビのチャンネルを切り替えた様に、瞬間で、全く別のものへと――
「……へ?」
変わらなかった。
いや、変わってはいるのだ。
変わってはいるのだけれども、殆ど変っていない。
例えるのなら、教室の黒板側の窓から見る景色と、教室の一番後方にある窓から見る光景くらいの差。
見れば、わたくしが空間を跳ぶ前に立っていた場所が、今わたくしが居る場所から5歩程度離れた場所にあった。
およそ2メートルほどだろうか。
わたくしの能力による最大飛距離、81.2メートルに比べればあまりにも短い。
ぴょん、とジャンプすれば跳べてしまいそうな距離だった。
(何故、どうし…………)
て、という一言が言えなかった。
思考が白くなった。
呆気にとられる、という言葉を今わたくしはまさに身を以て文字通り体現している事だろう。
ふとした拍子に。
何の気なしに。
視線を落とせば。
わたくしの、右足が、なかった。
正確には、右足首より下が、目に映らなかった。
わたくしの自慢の美脚、そのくるぶしより下にあるのは、手入れの行き届いていない事がすぐにわかる灰色のコンクリート。
コンクリートから、わたくしの足が生えていた。
灰色に美脚は良く映えた。
なんて、事を言ってる場合じゃない。
言ってる場合じゃないのに、変な事だけが頭の中を巡っている。
今、何をすべきだろう。
わたくしがするべきことは。
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!
ああ。
階段を駆け上がる音が聞こえる。
あれは間違いなく佐天さんだ。
逃げなければ。
距離を取らなければ。
動けない、だなんて言ってる場合じゃない。
早く、足を、抜かないと――
ずるり、と。
足が、皮膚が、筋肉が、えぐれた。
「あ……」
なめらかな白。
鮮やかな赤。
ぶよぶよとした黄色。
あふれる液体。
落ちる個体。
ブラックアウトしそうな視界。
ホワイトアウトしそうな思考。
痛みは、数瞬遅れてやって来た。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
短い。ごめんね。
脚のシーンは手元にショタコンさんの活躍する巻がなくて、すごくイメージで書きました。ごめんなさい。
日曜日くらいに更新するので、短さは勘弁してください。
また次回
このルールだと『気配を無かったことにした』咲ちゃんに頼んで黒子を操ってもらうだけで終わるんだけど
乙
スキル妨害、っていうより物事を失敗させる系のスキルかな?
乙
前に球磨川が学園都市きたSSの天井みたいなやつか?
あれも失敗する確率をどーたらこーたらってやつだった気が…
なんにせよ乙
次が楽しみだ
安心院さんのミッションが存在したことを覚えてる人はどのくらいいるのだろうか
めだか原作に出たセリフ「失恋だtt[ネタバレ防止]」で通すのか?
メインヒロインたる彼女だけに許されるであろうセリフを言い訳に使うクマーとか‥ありうるから困る
乙でした
裸エプロン先輩や御坂にやられて間も置かずこれとか、常人ならとっくにダメになってるぞオイww
>>363
お、おおお覚えてるにききっ決まってるだろ!
>>362
『破綻理論(サイコロジカル)』だったっけ
このssの咲ちゃんはアブノーマルか
追い詰められたときとかによく笑うとか、勝負に正攻法で勝っている描写が少ないところとか、
(vs球磨川:操った生徒会役員が全員螺子伏せられる、vs球磨川:わざと負けようとしたのに殺ってしまう、vs隠蓑姉妹:チェスでは勝たず、スキルによる降参。しかも勝手に邪推した相手が自分から『参った』
vs櫛ちゃん:スキルによるトラップ。 vs球磨川決戦:手駒が全員螺子伏せられ、自分も螺子を螺子込まれる)
アブノーマルだとしてもだいぶマイナス寄りな人格な気がするよな咲ちゃん。しかも思想は悪平等っぽいし……
全貌が掴めなくてもやもやするな、マスクしてるだけに
乙
ていうかこのssの咲ちゃんは混沌すらも操るマイナスじゃなくて混沌すらも操るアブノーマルなのか・・・
めだかブックスで確認したら、須木奈佐木ちゃんは「混沌すらも操るマイナス」と明言されていた…uggggggg…
いや、だって、支配者を操るスキルって自分を不幸へ追いやるマイナスよりも普通のスキルっぽいじゃないですか…偉大なる俺様の洗脳のマイナス版が咲ちゃんなんですかね。
……まぁ、SSなので深くは気にしないでくだされ。不知火ちゃんみたいに割と周りに順応できるタイプで、マイナスとアブノーマルの境界を行ったり来たりしているような、そんな感じでお願いします。
アイドルやってるし、きっと『マイナスの中でも異端』という意味でのアブノーマルなんでしょう、多分。
名瀬ちゃんみたいなのもいるしヘーキヘーキ
バーミーみたいに3種使ってる人もいるから大丈夫だな
ほら、『支配的な空間すら支配できる』ってあたりが、『腐った命の成れの果てである土を操る、故に植物を操れる』荒廃した腐花、
『組み立てや施工すらも“傷の補修”扱いして開く』致死武器とかに通じるところがあるじゃない?
まぁアブノーマルでありながらマイナスの素質がある魔王様とかいたしその逆があってもいいでしょ!
>>369
ただし三種を同時に使いこなすのは前を向きながら後ろを向いて振り返るようなものらしいがな
>>371
『目を瞑る』な
あと22分か
日曜日に来るといったな、ありゃ嘘だ。
……遅れて申し訳ないです。後の展開を色々変更してたら遅れてしまいました。
>>359 咲「気配がなくなるなんて冗談じゃないよ!私は絶対嫌だからね!」的な事を言うと思うので、その作戦は無しの方向で
>>360 ノーコメント
>>362 実はそのSSを読んだ事で遅れた節もあります
>>363 ちゃ、ちゃんと覚えとるし
>>364 黒子のメンタルは禁書界トップクラス。
>>365 咲ちゃんは色々謎の存在でいてもらいたいです。そしてそのオリジナルスキル……くっ。
>>366 よくわからないラインに立ってると思ってください
>>368 そう、魔王様的ポジなんですよきっと!
>>369 バーミーの鴎システムはいいですねぇ
>>370 多分私より読んでくれてる人の方が説明がうまい
>>371 器用なまね、という事です。器用どころじゃないですが
>>372 小さなミスには目を瞑ってあげてください
>>373 遅れてスイマセン。
では、白井VS佐天編第二話です
「あ、が、ぁあが…………ッ!」
身を引き裂くような痛みが――比喩表現ではなく、実際に身が引き裂かれてはいるのだが――わたくしの脳を塗りつぶす様に苦痛という感情が覆い尽くす。
だが、こんな極限状態であろうとも、明らかに不可解な点がある事を必死に残った理性を働かせて考える事が出来るのは、偏に風紀委員としての経験だろうか。
足を失うという、中学1年生の女子にはあまりにも刺激の強い事故。
原因は、わたくしの空間移動。
空間移動の能力は、A点からB点に移動する際、B点にもともとあったモノを『押しのけて』現れる。
これを利用し、薄い紙やわたくしの愛用武器である鉄矢を転移して銃火器の破壊や衣服を縫い付けて拘束するのがわたくしのスタイル。
今回の現象も、それと同じこと。
コンクリートの中にわたくしの足が無理やり『入って』しまい、抜こうとした際に抉れた、という事なのだろう。
過去に、とある空間移動能力者がそんなような事故でトラウマを負い、自己を転移することが出来なくなった、なんて話をどこかで聞いたことはあるけれど……それはまぁ、今はどうでもいい。
今、やるべきことは――
「どぉぉしたんですか? 白井さーん。足が無くなっちゃってますけど、あれですか? 御坂さんとリアル二人三脚がやりたかっただとか、そういう感じですか?」
眼前に迫る、佐天さんをどうにかする事だ。
「あなたが……ッ! 何かしましたの……!?」
「え? やだなぁ、何もしていませんよ。私はあくまで何もしていません。こんなのはただの、不慮の事故ですよ」
不慮の事故とは、言いやがりますの。
わたくしにとって、隣のビルの屋上に移動する程度の演算は、一桁の足し算をするのと感覚的にはそう変わらない。
わたくしのミスであるはずがない。
ならば、何らかの外的要因が加わったとしか、考えられない。
「ぐ、ぅう……嘘、は感心、しませんの……ッ!」
「『大嘘憑き』なのは球磨川さんの専売特許ですよ? まぁ、確かに私にももしかしたら原因の一端を担っている理由があるかもしれません。けど、演算をミスってそうなったんなら、自業自得なんじゃあないですかねぇ」
「……なぜ、コレが、わたくしの能力による傷だと、知っていますの……?」
「…………うっはー。推理小説とかでベッタベタな安易な展開みたいに、私の安易な発言による犯人特定きちゃったかー……やっぱりエリートは頭がいいですねぇ、無能な私とは大違いです」
笑顔で、しかし無感情で囁くように呟いた佐天さんは、その手に握った金属バットをまるでゴルフクラブのように振りかぶった。
「大丈夫ですよ白井さん、安心してください。ビルから落ちた程度の衝撃で誤作動を起こす程、安易な作りじゃあないですよ。たぶん、きっと、おそらくは」
バットが、わたくしのお腹にめり込んだ。
風紀委員として、ある程度体は鍛えてはいるものの、腹筋だってきっと同年代の女子中学生としてならかなり鍛えられている方だけれども、それでも金属バットの一撃は乙女のお腹では受け切れなかった。
中身を全部吐き出しそうになりながら――浮遊感に全身がつつまれる。
いや、浮遊、ではない。
落下。
わたくしの身体は、ビルの屋上から投げ出されていた。
「~~~ッ!!!」
まずい、まずい、マズイ!
このビルは三階建て、学園都市に存在する建物の中ではあまり高くないほうだとはいえ、人体が落下していい高さでは無い事は明らかだ。
お姉様のように磁力で壁面に張り付く事は出来ないし、婚后光子のように物体に空気の噴射点を作り、落下の衝撃を弱めるなんて事も出来ない。
わたくしに出来るのは、空間を移動し落下から逃れる事だけ。
しかし……。
(わたくしは佐天さんの謎の攻撃を受けている……ッ! おそらくは能力の阻害系、本当に空間移動をしても大丈夫なんですの……ッ!?)
先ほどは、右足がくるぶしから下あたりまでコンクリートに埋まる『程度』ですんだ。
だが、もしも、佐天さんの能力がもっと兇悪であったならば。
全身が『いしのなかにいる』なんて事態すらあり得る。
(……だけど、だけれども、試さないわけにはいかない。死ぬわけにはいかない。負けるわけには……いきませんのッ!)
演算、開始。
落下速度計算。
演算終了後の自身の位置計算。
重量計算。
転移座標計算。
演算、終了。
かかった時間は数える程もなく。
わたくしの視界が、目に映る景色が変わる。
『観戦席』
「白井の能力が暴走してるのか……!? くそっ、どうなってんだ! 佐天はレベル0じゃないのかよ!」
「学園都市お得意のきめぇ科学技術ってわけでもなさそうだな」
歯がゆかった。
今まで俺は、すぐに現場に駆けつけてこの拳で問題を解決してきた。
けれど、今は見守る事しか出来ない。
どれほど味方が苦しんでいても、見ている事しか出来ない。
「………………ちっ、だりィ」
そんな事を呟くと、一方通行がポケットから携帯電話を取り出しながら、俺達から離れたところへと歩き始めた。
「ちょいちょいちょーい。誰かを会場に呼び出したり、参加者にアドバイスしたらルール違反ですよー」
「ンな事わかってる。どォでもいい約束を思い出しただけだァ。心配ならテメェは横で聞いてろ」
「当然そうしまーす」
そして俺達から姿が見えない所まで歩いて行った木原唯一と一方通行、だが思ったより早く、三分くらいしたらすぐに二人とも戻ってきた。
『おいおい一方通行ちゃん』『三分だなんてさすがに早ろ――』
球磨川が御坂の電撃で焦げた。
「隣で聴いてましたが、問題ない話題でしたね。ていうか、まったくもって意味不明な話題だったんですが、あれなんだったんです?」
「だからどォでもいい事だって言ってンだろォが。つーか、わかりたくもねェよ」
やれやれ、とため息を吐きながら、一方通行は続けた。
「あンな変態のことなンざなァ」
『試合会場』
「………………やれやれ、ですの」
わたくしが居るのはいしのなか――なんかではなく、かといって上等な場所でもないけれど、狙い通りの裏路地だった。
風紀委員の活動として、この辺りの学区は良くパトロールしていたおかげでこういった小道に詳しい事が幸いした。
わたくしは来ていた上着を脱ぎ、袖の部分を鉄矢などを駆使して破り、即席の、本当に雑な作りだけれども包帯を作り、何とか足の出血を食い止める。
(……とはいえ、長く持つわけではない。衛生的にも、この鬼ごっこが終了する一時間後は本当にギリギリのタイムリミットになりそうですの)
どんどん後からこちら側に不利な事が加わっていく、まるで悪徳商法か詐欺にでも引っかかった気分ですの。
(しかし、改める必要がありますの)
佐天さんは無能力者であると考えて、色々策を練ろうとしていたけれど、それらはすべて一度白紙に戻さなくてはならない。
佐天さんの能力の正体、そして先ほどは失敗し、今は成功した理由、それも明らかにしなくてはならなかった。
(距離……ではなさそうですの。近距離じゃなきゃダメというのならば、ゲーム開始直後や先ほどの落下中の転移の時の方が、失敗した時よりも明らかに近かった)
そもそも、佐天さんに感じるあの異質さ。
アレはわたくしやお姉様の使う能力とは、違う気がする。
どちらかといえば…………
「あ、居た居たー」
振り返れば、そこにはバットを担ぎ笑顔の佐天さん。
笑顔で永遠に追いかけまわすセーラー服の黒髪バット、なんて表現をしたらどこぞのB級ホラーだよというお笑い話にもなりそうだけれども、今目の前の光景はわたくしが現実逃避をしていなければ紛れもないリアルだ。
「あれ、今度はすぐ逃げないんですね?」
「……色々と、考える事がありますの」
「ふぅん、たとえば私のスキルは一体何なんだー、とかですかね? まぁそれについてはわからなくても仕方が無い、的な所は有りますけどね。例えるならまだ公式を習っていない数学の問題、みたいな?」
確かに、平方根の記号すら知らない状態で平方根の問題を出されれば誰だって困るだろう。
今適当に例には出したけれど、もっと単純でもいい。
例えば四則計算だっていいし、そもそも英語だとかフランス語だとか、そう言うのだっていい。
文化が、法則が、まかり通っているモノが、わたくしたちの居る学園都市と、球磨川達の住む世界じゃ違っている。
佐天さんのスキルとやらは、おそらくそちら側に近しいモノなんだろう。
「……」
「ちなみに、自分の能力をぺらぺらと喋るだなんてよく見る小悪党っぷりは見せませんよ! 佐天さんは学習する人間なのです!」
「随分と、楽しそうですのね」
「そりゃあ楽しいですよ! 私は御坂さんや白井さんみたいな強さは無くて、かといって初春みたいな特技もないただただ平凡な、有象無象のモブキャラでしかなかったんですから」
「わたくしは、アナタをそんな風に見た事はありませんの」
「泣かせますねぇ白井さん。…………ねぇ、白井さん。白井さんはこんな風に考えた事はあります?」
佐天さんはわたくしの前にしゃがみ込み、バットを傍らに置いた。
まるで、聞き分けのない子を説得する母親のような雰囲気があった。
「もしかしたら、この世界は誰かが作った物語なのかもしれない、って」
「…………はぁ?」
荒唐無稽な、意味不明な、夢物語のような話。
ファンタジーやメルヘンじゃあるまいし、何を言っているんだ佐天さん、と突っ込みの入るような妄言。
しかし佐天さんは真面目だった。
されど佐天さんは笑っていた。
本当にそう思っているようだ。
本気でそう考えているようだ。
本心からそう感じているようだ。
「私は、気づいちゃったんですよ。それが現実なんだって」
「……何を、言ってますの? そんなわけ……」
「だって、世界よりも進んだ科学技術を持つ特殊な都市が舞台で、活躍するのは少年少女で、普通の人間にはない特殊な力を持つ人がたくさんいて、その街には色んな秘密があって、何かを成し遂げようとしたり悲願を達成しようとして事件を起こす人が居て、街の外からは私達の知らなかった力の持ち主が来て、特殊な力を持った主人公のような人、たとえば御坂さんや上条さんみたいな人は吸い寄せられるように事件に遭遇して、仲間が増えて、解決したらまた新たな敵が立ち塞がって……そんな都合のいいストーリー、誰かが考えてるとしか思えないんですよ」
「だったら、きっと私達のキャラ設定も、最初から決まっていたんです」
「白井さんは、御坂さんの良きパートナーでちょっぴり変態な所もあるけれど、やっぱりみんなから愛される後輩キャラクター」
「私は、無能力者で事件に被害者として巻き込まれる系の基本的には観客に徹するかほかの凄い事ができるキャラクターのリアクションに徹するキャラクター」
「そうやって、最初から設定されてるから私の努力は実らなくて、白井さんは御坂さんのパートナーになれるくらい強くなれた」
「きっと神様は、この物語の紡ぎ手は、私達のパラメーターをリスト化して操ってるんですよ」
「弱キャラも強キャラも、最初からそう言う設定で生まれてくる」
「それじゃあ、どうしようもないじゃないですか」
「そういうキャラなんだから、どうしようもないじゃないですか」
「無能力者、って設定の元生まれてきたんだから、そういう設定の私にはどうしようもないじゃないですかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
ガッ! っと佐天さんは置いていたバットを掴み立ち上がり、私に向かって振り下ろした。
なんていう被害妄想。
まさしくマイナスな考えだ。
そして私は、ちょっと前に呟いたセリフを、何の気なしに無意識に、もう一度呟く事になった。
「やれやれ、ですの」
「…………え?」
ヒュン、と風を切る音だけがむなしく響く。
目を丸くした佐天さんは、どうやら状況が掴めていないらしく、バットを振り切った姿勢のままぽかんとしていた。
一体、何を驚いているのだろうか。
わたくしは、ただ、いつも通り空間移動しただけだというのに。
「わたくしが、謎の正体のビビッてもう能力何か使えない……とでも、思いましたの? 佐天さんアナタ、頭脳がマヌケですのね」
「……そりゃ、白井さんと比べられれば私は間抜けでしょう。けど、結局白井さんは私のスキルが何なのかわかってないじゃあないですか。だったら、何の問題もないです」
「佐天さんのスキル? どうせ、『相手にミスをさせる』とか、そういう感じのつまらないスキルでしょう?」
おお、絶句、と言った様子ですの。
自分の発言で相手が驚く様と言うのは、ちょっぴり悪党っぽいですが、快感ですの。
「…………」
「佐天さんが夢物語を大袈裟に語る間、わたくしは実験していましたの。佐天さんに見えない様に、佐天さんの背後にわたくしの近くにあった小石をいくつか空間移動してその結果を。すると、数回に一度だけですが、わたくしの演算通りの結果が起きなかった。演算を妨害されているような感覚が無かった事から、『演算を邪魔する』系ではなく、『ミスを誘発させる』系のスキルだという事は、まぁ簡単に推測できますの」
実際は、ハッタリも混ぜ合わせてある。
こんな簡単に正確な検証などできるわけもなく、けれど少しでもこちらが気圧されているような様子を見せれば、佐天さんは調子に乗るだろう。
だから、わたくしは強気で行く。
佐天さんが言ったように、強いモノとしての余裕を見せていく。
佐天さんが思い描くままの白井黒子で、あえて行く。
「…………はぁ。はぁぁあああああああああああああああああああ…………」
そして、大きな大きなため息。
佐天涙子は、本当につまらなさそうに、落胆したかのように、絶望したかのように、溜息を吐いた。
「なぁーんでこうなるかなぁ……やっぱり、キャラの性能差って奴ですかねぇ……あーそうですよー、ちょっとニュアンスは違いますけど、大体あってるしいいですかね」
「教えてくれるんですの?」
「もー投げやりですよ。テンション下がるなぁ……ま、仕方ないと考えましょう。それで正解なんですがね」
「私のスキルは〝致命症〟【ケアレスミス】。他人の行動にミスをさせ、そしてそのミスは『結果』が出てからでなければ絶対に気づけない。そんな面白味も何もないスキルですよ」
こんな感じです。
……偉大なる先駆者の考えたスキルとほとんどかぶってた……絶望しました……
ま、まぁ、かぶってるのに気付いてこの後の展開をだいぶ改定したので、とりあえず許してください……
ちなみに安心院さんが佐天さんがほしいと言っていた理由は、出来ないことがない→佐天さんが居る→できるはずの事が出来なかった→どうしてできないのか検証する→検証にミスがあれば永遠に検証が終わらない→ミスしなくてもほかのできる事でミスをするたびに検証ができる。と、永遠に「一時的な『出来ない』」を楽しむことができるからです。
大幅修正するので、次回は少しだけ待ってください。では今回もアリガトウゴザイマシタ。
佐天さんスキルの詳細は、次回更新にて。
佐天さん、なんかギャーギャー言ってるけど、もう無能力者じゃないんだから、能力者になることができたんだから設定通りじゃないよね。どうしようもなくなんかないよね
乙
安心院さんが「全能感」からシミュレーテッド リアリティーにかかったのに対し、佐天さんは「無能感」からかかったのか……
無能っぷりで自分がくっだらねー取るに足らないモブキャラみたいに思い込むのは割りとありそうな思考だとか思う、わしにも厨二の頃とかに覚えがあるし
失敗させることしかできないから人の足引っ張るようなことしかできないし、この感じだと使用者にも殆どコントロール出来てなさそうだな
学園都市最高の頭脳持ちがそろいもそろってツッコミ待ちか?
「空間移動」なら■■ンダイ■の要領で■■■■■■■■すくらいできるじゃん
この頃の球磨川なら、仲間の気配だろうがなんだろうが問答無用で無かったことにしそうだが
実際に『色』を無かったことにしたし
あれはパラレルでしょ?
本編には色あるじゃん
>>398
安心院さんが『色を付けるスキル』とかで戻したんじゃね?
アニメキャラも原作漫画に顔を出してるから、色がなくなったのも正史だと思われ
今日の日付が変わるころに更新予定です。
今になってめだかボックス、グッドルーザー球磨川、めだかブックスを読み返す始末
唯一「脳幹ーッ!紹介するよ!脳幹ってんだ…!私の愛犬でね、利功な科学者なんだ!」
加群「蹴り殺してやるッ!!!!!このド畜生がァ――――ッ!!!!!」ドギャァン
唯一「何をするだァ―ッ!!!!!」
加群「よくも私に生徒を殺させたなァ―ッ!!!!!復讐とは運命に立ち向かう事だァ―――ッ!!!!!」
堕天さんのスキルは魔術的な観点から見れば負の可能性に傾かせると言った感じ?
球磨川は存在そのものに負の可能性を持ち合わせてると考えるぜ☆
めだかちゃんや哀川さんは逆に正の可能性に傾いているのだろう
そんなこと言ったらオティヌスに素材にされそうだが
もうすぐだな
また遅れてしまった…できない約束はするもんじゃあないですね…
>>392 勝ち組キャラだった黒子を負け組設定の佐天が倒す、的な事を考えてると思ってください。
>>393 安心院さんとは全く反対の、反転した思想から生まれたシミュレーテッド・リアリティですの
>>394 割とあふり触れた中二病な気がしますね
>>395 ルパンダイブの要領で佐天さんの服を剥す。かと思いました
>>397 咲ちゃんには裏切られるその時まではいい友達、みたいな感じです、多分
>>398 パラレルなのか正史なのかは私にも…
>>399 その可能性が一番高いですかね
>>400 出演はしていましたね、そういえば……
>>402 脳幹さん蹴ったらディオ以上にえらい目にあいそうなんですが
>>404 細かい説明、というか何といいますか、まぁ今回の更新で
>>405 遅れて申し訳ない……
では投下します
佐天涙子のキャラは不安定だ。
球磨川のように飄々とした時もあれば、須木奈佐木のように誰かの下に居る事を求める事もある。
御坂のような強い人に憧れる事もあれば、初春のように低いレベル同士で仲良くする事もある。
佐天涙子には、自己を主張する個性が無かった。
御坂のような恋も。
白井のような強さも。
初春のような穏やかさも。
婚后のような自信も。
上条のような心の強さも。
須木奈佐木のような平和主義も。
球磨川のような弱さも。
これこそが佐天涙子のアイデンティティ、と呼べる要素を何一つ持ち合わせていなかった。
だから彼女は有象無象。
佐天は主人公になれなかった。
悲劇のヒロインにもなりきれなかった。
ましてや、立ちはだかる巨悪になどなれるはずもなかった。
そんなキャラに設定されるほどの個性がなかったのだから。
だから、佐天は願い求め、焦がれた。
御坂のように微笑ましい恋がしたい。
白井のように何事にも負けぬ強さが欲しい。
初春の様な暖かで穏やかな人間になりたい。
婚后のように常に自身に満ち溢れたい。
上条のように主人公の様なメンタルを手に入れたい。
須木奈佐木のように平穏を求めたい。
球磨川のような、弱くても強い人を鼻で嗤えるような人間になりたい、と。
つまらない、と言っている割には格好つけた言い方だった。
その雰囲気は、どこか球磨川の雰囲気と被る。
……けれど、違った。
佐天さんと球磨川では、比べ物にならないとわたくしには分かった。
悪ぶったって、ひねくれたって、どうしたって佐天さんではその程度なのだと。
「……成程。確かに面白味も何もないスキルですの」
「でしょう? あーあ、もっとわかりやすくて強いのがよかったなぁ」
「…………まぁ、小悪党な佐天さんにはお似合いですの」
「……あ?」
わたくしは、、嘲笑うように言ってやった。
「わざわざ球磨川のような人間に縋って手に入れられるものがその程度でしょう? まったく、お笑いですの。……だからあなたは弱いんですの、佐天さん。強くあろうという信念が貴方にはない」
「だ、ま、れッ!」
佐天さんが大きく振りかぶったバットを、わたくしは落ち着いて転がり回避する。
特殊な能力を持っていたところで、所詮は素人、佐天さんは一般人。
足を失ってはいるけれど、それでも素人の大雑把な攻撃なんて――落ち着けば、回避できる。
「おやおや、先ほどまでの涼しげな顔はどうしましたの?」
「うるさいですよ! そっちなんて足一本ないくせに余裕そうですね! もしかして痛みが快感につながる系の人ですか!?」
「お姉様の電撃ならば、たとえそれが弱い電気だろうとわたくしはヘヴンへ昇天しますが……生憎、そのような趣味はありませんの」
地面を転がる様に回避したわたくしは、同時におちていた小石を一つ拾い上げ、それを佐天さんの顔の前に軽く放るように、下からふんわりと投げた。
当然、こんな投石は攻撃にはならない事など誰にでもわかる。
だけど、突然顔に向かって迫って来るものというのは、それがたとえ弾丸や槍の様な凶器でなくとも、一瞬だろうと何だろうと、それに目を奪われ体は反応してしまう。
その隙に――わたくしは普段は転移させて使う鉄矢を、佐天さんの足の甲へと思いきり突き立ててやった。
「ッ!? い、った…………ッ!」
「大丈夫ですのよ佐天さん、わたくし、太い血管の位置や傷ついたら危ない内臓がある位置は熟知していますの」
ニッコリと笑いかけてやりながら、ゴロゴロと転がり佐天さんから少しだけ距離をとる。
随分と無様な戦い方だけれども、これはこれで中々効果的だった。
けれど、何時までもこうしていられるわけじゃない。
時間が立てばさすがに対処されるだろうし、そもそも試合の制限時間もある。
あまり動けば、足の傷がエライ事になるかもしれない。
そして、佐天さんの能力がいつ発動するか、という懸念もある。
(佐天さんの能力、〝致命症〟とやらはおそらくその名前の通り、ケアレスミスを誘発させるはずですの。たとえばテスト、30点程度しか取れない程のミスは勉強不足になってしまうけれど、98点取れたならばその2点の間違いは記号の間違いや書き忘れなんてウッカリ間違いかもしれない)
つまり、佐天さんの能力は発動したところで『普通に成功する確立』の方が圧倒的に上、という事だ。
圧倒的な正解数の中に埋もれた間違い、それが先ほどの転移ミス。
……まぁ、足を失うというのは、ケアレスミスにしては大きすぎますが。
だけど、その能力は演算にだけ影響を及ぼすわけではないはず。
今みたいな回避行動、攻撃も後から考えれば「うわぁ」となるようなくだらないミスで失敗することだってあり得る。
それを防ぐために、わたくしがやる事は――短期決戦。
(100問のテストと10問のテスト、どちらがケアレスミスが多いかと聞かれれば当然前者。つまりこの戦いも、『行う事』を最小限に、やる事もなるべく単純にするッ!)
そのためには、佐天さんを動けなくする必要がある。
別に両手両足を砕くだとか、そんな事までする必要はない。
気絶でもいいし、もっと単純に縛り付けてもいい。
多少の危険は承知で、鉄矢で縛り付けるのももしかしたらあるかもしれない。
「どうして……どうして邪魔するんですかっ!」
「どうして?」
「私はッ! 無能力者であることをバカにされたから! 幻想御手を使ってまで皆に追いつきたかった! どうしてその気持ちをわかってくれないんですか! 白井さんも御坂さんも初春も! 自分には確固たる力があるからってどうして『出来ない』人のあがきを邪魔するんですか!」
「…………はぁ。佐天さん、あなたは本当にわからないんですの? だったら、あなたはマジモンのお馬鹿さんですの。ランドセルガールに戻って道徳の授業を受け直した方がいいですのよ」
「うるさぁい! 私には球磨川さんが居る! 私は球磨川さんのように、弱くたって馬鹿にされない様な人間になるんだ! 白井さんみたいな強い奴を笑ってやるんだ! だから、私は足掻く! みっともなくたって、足掻き続けてやる! 私はみんなに埋もれない個性を手に入れるッ!」
「その捻くれた根性は大したものですが…………まぁ、もうおしまいですの」
「……え?」
ドスドスドスンッ! と佐天さんの背後で大きな音が連続して響く。
その音にビクンッ! と体を震わせた佐天さんは慌てて振り向き――そこに転がっていたのがその前からこの路地に転がっていたゴミ箱やら段ボール箱やらだった事に気が付き、呆ける。
「敵を前に背後を向くのは、素人ですのよ」
「ッ!」
「そして、敵の言葉通りに動くのも素人ですの」
佐天さんが振り向いた瞬間に、わたくしは自身を転移した。
佐天さんの目の前に。
佐天さんの顔の高さに。
そして佐天さんが振り向いた瞬間――その顎に、少々心は痛んだけれど、健在の方の足で思いきり蹴りを叩き込んでやった。
「……ぁ…………」
「小悪党の幕切れなんて、あっけないモノですの」
狙い通りに脳震盪を起こし、佐天さんはその場に崩れ落ちた。
両足が健在ならば、もっと勢いよくしかも簡単に蹴りを繰り出せたのだけれども、蹴る足はあっても軸足が無くなってしまっている今のわたくしでは無理なので、自分を転移させる必要があった。
まぁ、コレが屈強なスキルアウトならまだしも、女子中学生の佐天さんなら十分でしたけども。
とはいえ、自分を転移させることに恐怖がなかったわけではない。
正直言って、足を失ったのはトラウマだ。
でも、わたくしは負けられない。
恐怖をわがものとし、乗り越える。
それくらい出来なければ、平和を守るだなんて妄言を実行するなんて不可能ですの。
「……さて、と」
わたくしは数本の鉄矢を取り出し、それを一本一本時間をかけて、一本に一分くらいかけて、佐天さんの服と地面を縫い付ける様に転移させる。
よく用心し、落ち着いて、ゆっくりとやれば、ケアレスミスだなんて発生しないのだから。
『観客席』
「……佐天さん、負けちゃったね」
私はそんな事を呟いたけれど、悲しそうにつぶやきはしたけれど、内心はまぁそうだおるな、と思っていた。
佐天さんが球磨川君と同じであれば、試合に負けるのは確定事項みたいなものだから、過程がどうあれ結果はこうなる事は当然だ。
けれど、試合を見てて思った事がある。
佐天さんは、球磨川君と同じじゃなかった。
なんていうのかな、佐天さんは自分の不幸を受け入れて居ないし、スキルを得る事で脱しようとしていた。
でも、球磨川君は自分の不幸を受け入れていないどころか、自分以外の全ての人間を不幸にしようだとか、そんな事を考えている。
あらゆる人間を不幸せにするために生まれてきた球磨川君と佐天さんが同じだなんて、失礼もいい所だった。
佐天さんには球磨川君程、完璧に壊れてしまっている器は無い。
例え彼女が水槽学園に来ていたとしても、きっと彼女じゃ蛇籠元生徒会長の後釜に考えようだなんて考えは思い浮かばなかったことだろう。
そういう意味では、佐天さんは期待外れだった。
でもある意味では、佐天さんは球磨川君のようにそこまで到達してしまったような、救いようのない人間ではなかった、という事でもある。
『…………』
球磨川君は、いつもみたいな捻くれた発言をすることなく、黙って画面を見ていた。
けれどその目は、いつも死んだ魚に蘇生法を試し続けている狂人の様な目をしている球磨川君の目は、この時ばかりはいつもと雰囲気が違った。
例えるなら、2時間並んでようやく食べられたラーメンがそれほど好きじゃなかった時の様な顔。
例えるなら、面白いからと言われて見に行った映画が陳腐なストーリーだったような顔。
例えるなら、大好きな子が他の女の子を虐めて笑っている姿を目撃した様な顔。
つまりは、興味を無くした顔だ。
「球磨川、君?」
『…………はぁ』『この展開も安心院さんにはわかってたのかなぁ』『まったく嫌になるよ』『何処まで行っても彼女の手のひらで踊らされている気がしてさ』
「何が?」
『涙子ちゃんにはどうやら僕みたいなマイナスになるには向いていなかったみたいだ』『僕としても非常に残念だけれども』『彼女は「僕たち側の世界」には適さない子だったみたいだね』
球磨川君が、誰かを見限った。
何だかんだで、それなりに、ある程度は、球磨川君は仲間思いな人間だ。
私を仲間だと思っているかどうかは正直微妙だし、私が球磨川君を仲間だと思っているかどうかを問われればNOと答えさせてもらうけど。
好きな人とダメになり、愛する人と堕ちていく。
そんな事を何よりも望んでいる球磨川君が、誰かを見限ると言うのは本当に珍しかった。
「なんだか、意外だね」
『そう?』『意外性ナンバーワンの男だと読んでくれても構わないけれど』
「丁重にお断りさせていただきます」
『……!?』
何で断られたことが意外だ、みたいな顔を出来るんだろう。
だけどまぁ、決着はついた様なものだよね。
球磨川君の奇行はいつも通りだし、まぁいつもみたいな、結局敗北するって流れかぁ。
『……まぁ』『涙子ちゃんは「僕のように」はなれない、というだけの話なんだけどね』
「…………え?」
『試合会場』
さて。
その後の事は、語るまでもない。
試合は、わたくしの勝利で終わった。
……まぁこれだけではあんまりにも適当なので、一応の経過は顧みようと思う。
あの後、わたくしは佐天さんを拘束し、ある場所へと向かった。
ある人に会うためだ。
その人とは、わたくしの敬愛すべき偉大なる先輩、固法美偉先輩である。
透視能力を持つ固法先輩は、いつも決まった時間にパトロールをしている。
その時間がちょうどよかったので、わたくしは先輩の巡回ルートに先回りし、固法先輩を捕まえた。
……まぁ、足の事で色々と言われはしましたけれども。
それよりも佐天さんが危ない、という事でわたくしはわたくしを病院に連れて行こうとする固法先輩を何とか留め、首輪の内部構造を覗いて貰った。
それを固法先輩にスケッチしてもらい、中の構造を細かく知る事が出来たわたくしは、これをもとに首輪を分解しよう……と考えていたのだけれども、そこに偶然にも、木原唯一に知られると厄介なので偶然という事にしておくけれど、見知った顔が通りかかった。
見知ったというよりかは、忘れたいけど忘れられない難い顔、の方が正しいけれども。
結標淡希。
わたくしよりも強い空間移動能力を持つ、間違いなく学園都市最強のテレポーター。
「小学校の校外活動が……」とかほざいていたけれど、元敵の手を借りるのは物凄く癪だったけれど、わたくしは結標淡希に頭を下げた。
理由は単純で、わたくしが分解するよりも結標淡希の『座標移動』の方が、確実に中の薬だけを取り出せるからだ。
頭を下げたわたくしを結標淡希は物凄く意外そうな目で見ていて、それはわたくしにとってちょっとムカつきましたけれど、結標淡希は願いを聞き入れた。
何と言うか、少しだけスッキリした顔をしていた。
あの日、あの時、あの場所で、対峙した時とは別人の様な、完全にとは言わないけれど何か『救い』の一端には触れられたかのように。
固法先輩の記した図面を基に、結標淡希の座標移動で中の薬だけを移動させ、わたくしは薬を佐天さんの元へもって戻り、まだ意識戻ってない(好都合でしたの)佐天さんの胃袋へ直接薬を移動させた。
後は、意識を取り戻した佐天さんがどれだけ走り回っても絶対に見つけられない場所、まぁ簡単に言うと超高層ビルの最上階的な場所でケータイを弄って終わりましたの。
そして試合開始場所、ようするに上条さん達や球磨川達の居たスタート地点へと、わたくしと佐天さんは戻ってきた。
「はーい、一回戦『鬼首取りごっこ』は上条君チームの勝利でーす。んー、一回戦とはいえ、なんだか盛り上がりに欠ける展開でしたねぇ」
「白井はレベル4で、向こうのガキはレベル0なんだろ? 当然だろ、風紀委員と一般人じゃあ経験値の差もあるだろうしな」
麦野さんがそう呟く。
確かに、レベル0とレベル4では、有利不利どころの話ではない。
上条さんは、お姉様の攻撃をレベル0にして何度も掻い潜ってはいますけどね。
「……レベル0を甘く見ると、痛い目見ンぞ」
「……言われなくても本当はわかってるよ」
レベル5のお二人がボソリと呟いた。
お二人とも、何かあったのだろうか。
……まぁ、わたくしとしては、もっと気になるのは……
「ごめんなさい球磨川さん、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
『……』
球磨川君の足に縋りつき、涙を流しながらただただ謝罪の言葉を述べる佐天さん。
なんだか球磨川君が物凄く悪い奴に見えるけど、まぁ良い奴ではないのは確かなので判定は微妙な所だ。
「……屋上で追い詰めた時、落すって選択肢を選んだのは間違いだったわね。黒子の精神力を甘く見ちゃいけないわ。勝利するための糸口を一つ見失うだけでも、相手が黒子なら形勢を逆転させられる事は十分あり得るもの」
御坂さんからはきついお言葉。
でも、足が無くなってなおあれほどの行動力を持っている白井さんは尋常じゃないとは思う。
明らかに、あの精神力は異常の域だ。
『…………泣かないで』『涙子ちゃん』
「……球磨川さぁん……」
しゃがみ込み、目線の高さを合わせてからその手で佐天さんを涙を拭ってやる球磨川君。
格好いい仕草なのにやってるのが球磨川君ってだけでロマンチックが消失してるなぁ。
『君は良くやったよ』『きっと涙子ちゃんの戦いは学園都市で永遠に語り継がれる事だろう』『負けはしたけれど』『涙子ちゃんには価値があったよ』
「ぅぅうう…………」
球磨川君は優しく、傷口に触れる様に優しく、佐天さんの頭を撫でた。
『そして』『その価値と負けとともに』『君は今日から幸せに生きると良いよ』
「え」
ズドンと。
佐天さんの細い体を、巨大な螺子が貫いた。
「球磨川ッ! あなた何をッ!」
白井さんが球磨川君に慌てて詰め寄ろうとする――が、その間に御坂さんが立ち塞がり、白井さんは歯噛みしながら立ち止まる。
『安心しなよ』『僕はただ涙子ちゃんの「致命症」を「なかった事」にしただけさ』
「……何?」
『まぁ最も』『涙子ちゃんのマイナスは風の噂みたいな』『インフルエンザみたいな一時的なものだったとは思うけれどね』『涙子ちゃんって相当うわさ好きなミーハーじゃない?』『だから僕というマイナスに影響されて、一時的にマイナスブームが彼女の中で起こったんだと思うよ』
マイブームでマイナスて。
それは幾らなんでも自由すぎるだろう。
風の如くの自由さだなぁ。
『黒子ちゃん』『それにみんな』『マイナスが無くなった涙子ちゃんをよろしく頼むよ』『……とはいえ、僕はほんの少し心配だけどね』
「……何がですの?」
『涙子ちゃんの心が、さ』『僕のマイナス影響ってだけじゃあない』『彼女は例えるなら都合のいいキャラ』『読者の考えたオリジナルキャラみたいな立ち位置に立たされやすそうだからね』
「ゴメン球磨川君、私ですら何言ってるかわからない」
『涙子ちゃんは何にでも染まるんだよ』『それこそたとえば涙子ちゃんが「○○の能力かぁ」みたいな特殊な力に目覚める、なんてお話がありえるかもしれない』『元が無味だからこそどんな味付けをしてもどうにでもなるってわけさ』
無味。
人としての無味は、すなわち無個性。
だから何にでも染まる、それは純粋と言うにはあまりにも凶悪で、残酷な言葉だった。
佐天さんが試合中に言っていた「無個性」への嫌悪。
それは、この辺にも繋がっていくんだろう。
『本音を言えば』『僕が安心院さんに預けたスキルを盗られてさえいなければ』『涙子ちゃんを封印したい所だけれども生憎そうはいかないからね』『彼女の事は責任を以て君達が見ていてあげてくれよ』『マイナスが無くなったとしても』『彼女は僕を慕ってくれた可愛い後輩なんだから』
その後輩に螺子をぶっ刺したのは何処のどいつだよ、と言いたい所だけれども。
「……えーっと、お話終わりました?」
唯一さんがこちらを窺うように声をかけてきたので、突っ込まないことにしておいた。
「次の試合は、一週間後で今日と同じ時間同じ場所、つまりはここに集合です。お忘れなくー」
ヒラヒラと手を振り、業務説明というか次回予告と言うか、簡易な内容だけを喋って唯一さんはさっさと帰ってしまった。
試合内容といい幕切れといい、どうにもスッキリしない一回戦だったなぁ……。
その日の夜。
ホテルで夕食(バイキング)を食べている最中、私はふと思い出した事を尋ねた。
「ねぇ、球磨川君」
『ん?』『どうしたの咲ちゃん?』『僕は今カルボナーラの上にかかった粉チーズをよけるのに忙しいんだけど』
じゃあ取って来るなよ、というのは野暮だろうか。
いや、野暮じゃないはずだ。
言わないけどさ。
「球磨川君、第二位の……えっと、垣根君だっけ? 仲間にするって言ってたけど、向こうのチームについてたよ?」
『うん』『何か知らないけれど改心してたっぽいよねぇ』『僕の予想では帝督ちゃんは内臓むき出しの冷蔵庫になっているはずだったのに』
なんだそりゃ。
どういう予想をすればそんな未来が見えるのだろうか。
内臓だけになったりだとか、冷蔵庫になるだとか、ありえない話なのにね、あはは。
『まぁその辺は色々と調べるよ』『改心したって事はきっと何か大事なものもあるだろうし』『人質物質言質……なんでもあるさ』
「要するに脅迫するんだね……」
それで本当に垣根君が仲間になってくれればいいけど。
まぁ、どうせ負けようが勝とうが私にはあまり関係ない話(多分)だろうし、今は夕食に舌鼓を打とう。
やっぱりお寿司は美味しいよね。
日本人だもの、生魚は外国的にはNOでも日本的にはOKだよ。
こういうホテルのバイキング系って、やっぱりステーキとかがメインになりがちだけどさ。
日本人として馴染んだものってのは、やっぱりどこでも好ましいもんだよ。
サラダとかも食べるけどね。
バランスよく平和に食べるのが一番いいよね。
そんな事を考えながら、ストローをマスクの間から入れてドリンクバーから持ってきたウーロン茶を飲んでいると、球磨川君のポケット辺りから似合わない程軽快な音楽が流れた。
えっと、何か最近すごい人気の若手ミュージシャンだったよね。名前は確か不老山……なんだっけ。
『…………』
その文面を見て、球磨川君は微妙に震えているように見えた。
どうしたんだろう、有料サイトの料金請求でも来たのかな。
『咲ちゃん!』『ねぇねぇねぇこれ見てみて!』
ズイズイズイッ! と凄まじく鬱陶しいテンションで球磨川君は私に携帯を押し付けてきた。
賑わっていたバイキング会場も、今の度を超えた大声でシィンとしてる。
うう……目立ちたくないのに……。
私は渋々、嫌々、球磨川君の携帯の画面を見る。
すると、そこには。
From:佐天涙子
本文:球磨川先輩に、大事なお話があります。今日の0時に、○○学区の公園のベンチで待ってます。
……と。
何だろう。
何だろう、コレ。
『この文面』『間違いなく愛の告白だよね!』『ついに僕も彼女持ちかぁ!』『ゴメンね咲ちゃん』『これからは寂しい思いをさせるかもしれないよ』
「ブチ殺すぞ」
度を超えたイラつきに一瞬マスクを外しかけた。
何とかピクピクするコメカミを押さえ、私は携帯を球磨川君に返した。
「……いや、今日あんなことがあって告白に発展するってありえないとおもうけど」
『咲ちゃん』『ありえないなんてことはないんだよ』『もしかしたら僕の螺子は涙子ちゃんの身体ではなくハートを貫いてしまったのかもしれないね』
「ゴメン球磨川君、本当に勘弁してもらえないかな? 吐くよ? この豪華なディナー会場を阿鼻叫喚の渦に叩き込みたくないよ私は」
少女マンガでよくありそうなセリフも球磨川君が言うだけで「お前はもう死んでいる」的な意味合いのセリフに意味が変換されていた。
ある意味才能だよね、マイナス才能。
『こうしちゃいられない!』『僕は今からシャワーに入って公園で涙子ちゃんを待つよ!』『女の子を待たせる男は最低だぜ』
心底気持ち悪いセリフを吐いて、球磨川君は足早に出て行った。
……まだ、7時過ぎなんだけど。
まぁ、どうでもいいか。
私は引き続き夕食に舌鼓をうつことにしよう。
あ、天ぷらも美味しい。
今回はここまで、駆け足でした。駆け足な内容でした。
週刊連載のようなテンポの良さで進みたいですね。
ではまた次回。
過負荷はなかったことにできないんじゃ?
乙
風邪のひきはじめみたいな状態だったんだろう
乙
『普通の女の子に戻れて良かったね佐天さん、これで再び実らない努力と絶望を繰り返しながらも能力者にシッポ振って安寧を得ようとする卑しい無能力者の日々を享受できるぞ。おめでとう!』
乙
まともなキャラほど二次創作で魔改造されやすいの法則ですねわかります
乙
やっぱり、というかいかにも佐天さんらしいテンプレ的な終わり方になったね
ただ球磨川さんのセリフは若干気になるとこだけど・・・
鍵開けないと解毒剤取れなかったのか
‥応用次第で鍵かかったまま外した首輪から中身を取るくらいできそうなんだけど
ゼロを倍にしても、マイナスにしても、答はゼロです!
そりゃ『大嘘憑き』なんて強大な力を当たり前のように使ってくる奴、何の身の保証もなしに馬鹿にするなんて恐くてできねーわな
結局、黒子は非難するだけ非難して佐天さんの辛い気持ちを理解しようとすらしなかった訳か……
というか黒子ってこんなキャラだったっけ? 相手は友人である佐天さんだから結標の時とは状況が違うし、もう少し理解しようとするんじゃ?
話は変わるのだが、前スレの最初から読み返してみて思った事がある。
上条さんの攻略法って、『優しい言葉をかける』じゃあないだろうか。
何だかんだで叱咤激励されたことはあっても、優しくされたことってほとんど無いだろうし。
須木奈佐木との会話シーンを読んでそう思ったよ。
だとすると、上条戦一番のダークホースは咲ちゃんって事か?
>>441
数少ない上条に対して有効なスキル持ちだしな
ただし即刻で学習されるが
異能は確実に無効化されそれ以外の攻撃も予知レベルで回避、
有効手段で攻めても驚異的な速度で学習し弱点を看破、
完璧な包囲網をその場の思いつきで突破
クリティカルを入れても100%発動の気合いのハチマキで持ちこたえる
なんだこの化物
ただの主人公補正の塊だよ
何を言ってるんだ。上条さんは毒ガスでも吸わせれば一発だろ
撃てば死ぬし突けば死ぬし殴れば死ぬハズなのになあ…
今回の更新は短いです。そして嫌いな人は本当に好きじゃあない展開だと思います。ご注意ください。
>>430 佐天さんの場合は超付け焼刃マイナスだったため、なかったことにできたということで。
>>431 そんな感じです。早期治療が効果的でした。
>>432 ところがどっこい。
>>433 今回その展開の極地を目指しました。
>>434 腑に落ちない、盛り上がりに欠ける展開こそマイナスです。
>>437 鍵を開けずに解毒剤を取らなければいけない、というのが今回のポイントでした。そのための座標移動さんです。描写省きましたが
>>438 持たざるもの、という新時代の主人公はまだ早かったみたいです。
>>439 信用する、ってのは重大な事なんです。
>>440 球磨川と御坂という今のところの二大危険要素を何とかしてから佐天さんをなんとかしようと思ってる、という感じでお願いします。まぁいろいろほかにもあるにはあるのですが。
>>441 人を信じることで破滅をもたらす、という手段が一番有効的でしょうねぇ。
>>442 操作礼状も上条さんには一応通用する設定ですしね。二人が戦うかどうかはまだわかりませんが
>>443 マトリックス的なアレなんじゃないですかねもう
>>444 愚行権の人呼びましょう
>>445 息止めたままで、もがなちゃんと戦えそうなんですが……
>>446 学習と耐久力が最強って敵として一番厄介ですよね
『……』
「あ、球磨川さん、早かったですね」
『嫌だなぁ涙子ちゃん』『僕はこの方女の子を待たせたことが無いぜ?』
「イイ心がけだと思いますよ? 女の子はそういう気遣い、嬉しいですから」
『だろう?』『女の子を待たせる男は最低だ』『僕はマイナスだけれども』『マイナスと言う名の紳士だからね』
「なんだか変態な熊さんみたいですねぇ」
『おや』『涙子ちゃんも週刊少年ジャンプの愛読者かな?』『まぁ正確には週刊の奴じゃあないんだけれども』
「私はイマドキの中学生ですよ? 漫画もアニメもゲームだって、楽しそうなのは嗜みますよ」
『成程』『やっぱり涙子ちゃんとは気が合いそうだね』
「私もそう思いますよ」
『それで涙子ちゃん』『こんな場所に呼び出して』『一体どんなロマンチックな言葉で告白してくれるんだい?』
「いろいろ考えましたよ。純情な感情をどうやれば三分の一以上伝えられるかって。でもその前に、聞きたい事があるんです」
『?』『何かな?』
「球磨川さんは、球磨川さんのようになるには「受け入れる」事が大切だって言ってましたけど、あれってどういう事なんですか?」
『はは』『簡単な事さ』『自分のマイナスを』『自分に降りかかるマイナスを』『不快に思っているようじゃあ100年経ったって僕のようにはなれないってことさ』
「つまり?」
『愛しい恋人のように、受け入れるんだ』
『不条理を』
『理不尽を』
『堕落を』
『混雑を』
『嘘泣きを』
『言い訳を』
『偽善を』
『偽悪を』
『いかがわしさを』
『インチキを』
『不幸せを』
『不都合を』
『冤罪を』
『流れ弾を』
『見苦しさを』
『みっともなさを』
『嫉妬を』
『風評を』
『密告を』
『格差を』
『裏切りを』
『虐待を』
『巻き添えを』
『二次被害を』
『そのすべてを、受け入れる事さ』
「……成程」
『はは』『中学生の涙子ちゃんには少し難しいかな?』
「いえ、わかりますよ。やっぱり私には、球磨川さんみたいにはなれないなって事が」
『……ふうん?』
「私は、不幸なんて大っ嫌いです」
『へぇ』『言うじゃないか』
「はい、私は正直者ですから」
『……マイナスなスキルを持っていたとは思えないね』『涙子ちゃん』
『君は、結局のところどうしたいんだい?』
「私は、幸せに生きたい」
「不幸な人を嗤って、幸せ側として生きたい」
「私は不条理に関わらず生きていたい」
「理不尽な目に合わずに生きていたい」
「堕落じゃなくてダラダラしていたい」
「混雑はなるべく避けて生きていたい」
「嘘泣きがうまく出来る様になりたい」
「言い訳がうまくつける様になりたい」
「偽善でも人に好かれる様に生きたい」
「偽悪は自分以外の誰かにお願いしたい」
「いかがわしい人には近寄りたくない」
「インチキする人はいなくなってほしい」
「不幸せな人を鼻で嗤って幸せになりたい」
「不都合からは目を背けて生きていたい」
「冤罪で捕まりたくなんかない」
「流れ弾で死にたくない」
「見苦しい人からは目を背けたい」
「みっともない生活は改めたい」
「嫉妬じゃなく祝福される様な恋がしたい」
「風評被害なんか受けたくない」
「密告はしてもされる側にはなりたくない」
「格差があるなら上の方になりたい」
「裏切られる前に裏切りたい」
「虐待する親だったら殺したい」
「巻き添えにあうくらいなら友達をやめたい」
「二次被害を受ける前に逃げたい」
「私は、たとえ誰をマイナスにしても私の幸せを手放したくありません」
『……やっぱり涙子ちゃんは僕の様なマイナスとは違ったタイプだね』
「そうですね。そうなんでしょうね」
『けれど君はマイナスだ』
『マイナスな幸せをノーマルな幸せに感じられるタイプのマイナスだよ』
「それは褒め言葉ですか? まぁ褒められてると考えたほうが得ですしそうしますけど」
『涙子ちゃん』『きみは幸せになりたいとは言うけれど』『マイナスというスキルは君を幸せにしてくれるような便利なモノじゃあないぜ?』
「でも〝致命症〟があった時は、たとえどれだけ使えないスキルだったとしても、うれしかったんです」
『ちなみにマイナスを戻すことは出来ないよ?』『「大嘘憑き」でなかった事にしたものは決して元には戻らないんだ』
「いえ、いいんです。いいんですよ。私はもう、『あの程度』じゃあ満足できないんですから」
『?』『それは一体、どういう意――』
『がっ、ぐっ!?』
「やっぱり球磨川さんは、白井さんとはちがいますね。思いっきり振りかぶったバットでも、当たってくれます
『……』『バットは涙子ちゃんにとって思い入れのあるモノだと思ってたから』『それを婚約指輪代わりにプレゼントされると思っていたぜ』
『いやだなぁ、もしそのつもりならもっといいものをあげますよ。私、お嫁に行くまでは清い体で居るつもりですから』
『イイ心がけだぜ』『そういう心遣いは男の子はうれしいんだぜ』
「ですよね。知ってます。知ってるからこういう発言してまーす。よっと」
『……ッ!』『……で、涙子ちゃん』『僕の頭蓋骨はもうだいぶ砕けたけど』『コレが君の愛情表現かい?』
「いえ、これは通行料です」
『……通行料?』
「ええ。球磨川さんの言葉にたまに出てくる「安心院さん」、その人って球磨川さんが死ぬたびに会ってるんですよね? そして球磨川さんは、〝大嘘憑き〟を安心院さんからもらったらしいですね?」
『…まさか……』
「ええ、そうです。球磨川さんと一緒に死ねば、私も安心院さんに会えるかもしれないじゃないですか。そして私は〝致命症〟よりも〝大嘘憑き〟よりも良いスキルをもらって、もっと個性を伸ばすんです」
『……涙子ちゃん』『僕の推理は間違っていなかったよ』『君は僕にはなれない』『けれど――』
「んで、撲殺は辛いので、ナイフを持ってきました。えっと、頸動脈ってどこでしたっけ? まぁ、首全部切れば何とかなりますよね?」
『――僕よりも最低でめだかちゃんよりも異常なキャラに改変する事は出来るみたいだ』
「それじゃあ球磨川さん、あの世で会いましょう。3人で、ね」
『告白されてようやく僕も彼女持ちの勝ち組になれると思ったのに』『やれやれ』
『また、勝てなかった』
やぁ。
初めまして。
まさかこんな場所で、こんな死後で君に会うとは思っていなかったよ。
そう、君の目論見は見事成功したわけだ。
僕の名前は安心院なじみ。
親しみを込めて、安心院さんと呼びなさい。
さてと、まずは球磨川君、君について色々話そうか。
色々話したい事はあるけれど、色々言いたい事はあるけれど、球磨川君。
君は今回、少しばかり温すぎるんじゃあないかな?
混沌よりも這い寄る過負荷たる君は、どうも学園都市じゃあその過負荷を発揮できていないように思えるね。
例えるなら、ただキャラが好きだから書いただけの二次創作の小説の様な、そんな有様だよ。
球磨川君、僕が期待しているのは君を過負荷中の過負荷としてのマイナスな思考とマイナスな行動なんだよ。
ありとあらゆる期待を裏切る球磨川君が見たいんだ。
つまらない裏切りなんかじゃあなく、あっと驚く様な劇的な裏切りが、何処までもマイナスな裏切りが見たいんだ。
なぁ、球磨川君。
君はもしかして改心してしまったのかい?
いや、過去形じゃあないな。
球磨川君、君は改心できる人間だったのかな?
後手に回る受け身の球磨川禊だなんてぬるいキャラ、僕は知らないぜ。
君もよくあるラスボスなのかい?
そう、たとえば君の大好きで君を大っ嫌いな女の子、めだかちゃんに説き伏せられて改心するだとか、そんな事があり得るのかな?
……怒るなよ。
そんなに感情をむき出しにするなよ、球磨川君。
僕は可能性の話をしているだけさ。
君が格好つけるのを、カッコつけるのをやめる日が来るとは僕には今の所思えないんだからさ。
まぁ、君がそれをやめる日が来るとしたら、漫画で言えば10巻を超えたあたりかな。
案外その方が人気は出るかもしれないけれどね。
君ほど捻くれたキャラの方が、案外読者人気はとれるもんなのさ。
さて、言いたい事を全て言うと僕が生まれてから今日まで過ごしてきた時間とほぼ同等の時間を費やしてしまいそうだから、とりあえず一番言いたい事だけは言っておいたよ。
球磨川君、球磨川禊君、君にはもっと過負荷を、もっとマイナスを期待してるぜ。
じゃあ、球磨川君は先に帰りなさい。
今の君には、さほど興味が持てないな。
後は僕と涙子ちゃんで、華の女学生トークとでも洒落込むからさ。
次はもっと球磨川禊らしくなってから、死んでくれたまえよ。
さて。
まぁ座りなよ。
堅苦しい雰囲気も挨拶も抜きにして――とはいえ、僕は君を尊敬している。
佐天涙子、という一人の人間を僕は尊敬するぜ。
尊敬を込めて僕は君を佐天さんと呼ぼう。
僕には一京を超えるスキルがあり、七億を超える端末が居る。
スキルも端末も、僕が僕として、安心院なじみという存在に一体どれほどの『個性』を詰め込めるか、というためだけに持っているのだけれどもね。
そんな僕が、悪平等たる人外が、佐天涙子という人物と巡り合えたことを幸運に思うよ。
君の願望は、常にモデルがある。
あの人のように、あんな風に、アレみたいに。
佐天さん、それじゃあ君だけの個性は得られない。
それで得るのは誰かの模倣、何かのトレースなのさ。
いわゆる二番煎じ、後出しさ。
佐天さん、君はオリジナリティを会得することは出来ないよ。
……おいおい、泣くなよ。
佐天さん、僕はそんな事を言うために君を尊敬したわけじゃあない。
だから泣き止んで聞いてくれたまえよ。
まずはいいかい? 世の中には必ず二つのものがある。
それはつまりは対極、一方とその反対側だ。
球磨川君の反対側は、君は知らないとは思うけれど、これはこれは異常な、凄まじい女の子が居るんだよ。
対極すぎて、似たもの同士のあの二人は本当に見ていて面白い。
この世のすべての人間を不幸にしたい球磨川君に真っ向面から立ち向かった彼女は、いずれ再び球磨川君と闘う日が来るだろう。
その時、もしかしたらプラス方向にしろマイナス方向にしろ球磨川君の心が変わるときが来るかもしれないね。
で、何でこんな話をしたかなんだけど。
佐天さん、はっきり言おう。
君は球磨川君の対極であり、球磨川君の同類でもあり、この人外たる安心院なじみの同種、それこそが君だよ。
……おや、随分と驚いているね。
なんだそのあやふやな立ち位置は、って顔だ。
けれど、そんなに意外な事じゃあないんだぜ?
例えば涙子ちゃん、君の言葉を借りて、この世は誰かが作った物語の中の世界としよう。
そこに現れた球磨川禊、というキャラクターは非常に強烈だ。
球磨川禊が出てくる物語の二次創作小説が書かれた所で、球磨川禊と言うキャラはほとんどぶれる事は無いんだよ。
格好つけて、マイナスで、女の子が大好きな男子高校生というキャラクターは何処に行ったってぶれる事はない。
だけれども、僕は違う。
7932兆1354億4152万3222個のアブノーマルと4925兆9165億2611万0643個のマイナス、合わせて1京2858兆0519億6763万3865個のスキルを持つ僕はきっと作者によって千差万別さ。
そんな僕がどんなスキルを使っても驚かれないのと同じように。
涙子ちゃんはこの世界ではない物語、つまりは二次創作の中では、学園都市や外の世界を舞台にした上条君や美琴ちゃんが主人公を務める本編じゃあないファンアートの中では、どんな能力を使ってもきっと誰にも疑問を抱かれることはないだろう。
ギャグみたいな能力でも、世界を滅ぼす様な能力でも同じことさ。
あらゆる個性を持つ事で一京を超えるスキルを持つ僕と、何の個性も持たない事で無限のスキルを持つ可能性を秘めた佐天さん。
これは似ているようで、対極なようで、まったく同じ存在なんだよ。
所詮は何かの媒体上でしか存在できない僕らにこんな共通点があるだなんて、コレだからクロスオーバー物は面白いねぇ。
クロスオーバーだからこそ許される蛮行。
二次創作だからこそ笑えるキャラ崩壊。
涙子ちゃん、君は恵まれているよ。
物語の中で、君ほど恵まれたキャラはいない。
主人公ならば苦しい戦いの連続が、敵キャラなら悲しい過去が、ヒロインならもどかしい恋心がある中で、涙子ちゃんは苦しい未来も辛い過去も、切ない現在もなく暮らせる上にこっちの世界じゃあやりたい放題やっても許される。
例えば上条君が幻想殺し以外のスキルを使ったらあまりいい目で見られないだろう。
美琴ちゃんがベクトルを操作したら文句を言う人が居るだろう。
でも、涙子ちゃんがベクトルを操ったって、別の物語のキャラクターを召還したって、許される。
だってそれは、所詮はお遊びの二次創作なんだから。
ここまで言えば、わかるかい?
涙子ちゃん、君は君だけの個性は持てない。
けれど、ありとあらゆる既存の個性を持てるんだ。
所謂ダメ人間の妄想の産物だとしても、誰かが想像した時点でそれを君は持てる可能性を持つ。
それは、この僕とは対極の、ただしこの僕とも同等な悪平等なまでの扱いなのさ。
さぁ、佐天さん。
純粋な意味で、たった一人でありとあらゆるキャラの個性を会得できるかもしれない佐天さん。
新時代の主役、人気に這いよるご都合キャラの佐天さん。
思いっきり見せつけてやろうぜ。
キャラがぶれる事なんか厭わずにさ。
ブレブレブレブレぶれまくって。
震えているのがわからないくらいにしてやろうじゃあないか
翌日の事である。
天気は快晴、天気予報の的中率は最近下がったらしいけれど、なんだかんだで高いには高いから信用できる、と思う。
昨晩、球磨川君が佐天さんに呼び出されてからまだ帰ってきた様子はない。
学生の街、学園都市とはいえ完全下校時間が街単位で設定されている中、あの学ラン姿で歩くのは中々目立ちそうな気もするけれど。
もしかして、不審者として通報されたり職務質問を受けてたりするのかな?
まぁ、不審者かそうじゃないかって聞かれれば、文句なしの不審者に該当するんだろうけどさ。
そんな風に球磨川君が逮捕された場合、どうやって余罪追及を乗り切るんだろうかという不毛な事を考えていると、部屋の扉がノックも無しに開かれた。
「ひゃぅっ!?」
『どうしたんだい咲ちゃん、そんなに驚いて』『人に言えない事でもしてたのかな?』
「女の子の部屋のドアをいきなり開けるのは非常識だよっ!」
そもそも球磨川君に常識を求める事が非常識なんだけども。
まぁ、それは置いておいて。
「佐天さんの呼び出しは何だったの?」
『あはは』『特に気にする事じゃあなかったよ』『ちょっとばかし教室デートと洒落込んだだけさ』
制服デートってのは制服のままデートする事を指すのだろうけれど、教室デートって何だろう。
カップルで教室を周って何が楽しいんだろう。
というか、そもそも球磨川君と佐天さんはカップルじゃないよ。…………カップルじゃない、よね?
『で、咲ちゃん』『これからちょっと出かけるから、着いて来てもらえるかな?』
「え? まぁ別に良いけど」
そういえば球磨川君は、学園都市に来るときは持っていなかったはずの少し大きめのバッグを肩に下げていた。
ちょっとした遠出でもするのだろうか?
「私も何か準備したほうが良い?」
『咲ちゃんは別に何もしなくていいよ』『これは会った時に渡す手土産だからさ』
人と会うのに手土産を用意するという当たり前の行為が球磨川君らしくなくて気持ち悪い。
というか、誰かに会いに行くの?
『まぁそんなところさ』『安心院さんに嫌味言われちゃったからね』『見下されるのはいつもの事だけど今回ばかりは特別編だ』『無駄な努力とぬるい友情でむなしい勝利を掴みに行こう』
安心院さんに会ったって、え、結局佐天さんの呼び出しは何だったの?
何一つわからない球磨川君の行動に、というか何をどうすればそういう行動になるのかわからないという状況にただただ困惑する私を置いてけぼりに、球磨川君は笑った。
『とりあえず僕は過負荷らしく』『クロスオーバー物らしく』『「とある魔術の禁書目録」に這い寄るところから始めようかな』
「は?」
『つまり』『物語のベースは僕達じゃあなく』『向こう側ってことなのさ』
ごめん。
説明を聞いてもやっぱりわからなかった。
こんな感じで更新終了です。
安心院さんパートで安心院さんが佐天さんを涙子ちゃん呼ばわりしている場面は、ただのミスですなんの伏線でもありません。
そして非常にメタメタしい展開になりました。ぎゃくに何言ってるのか自分でもわからなくなってきます。
こんかいもありがとうございました
うごご…勉強で追いやられたり追い詰めたりいろいろリアルが苦戦状態です。
もうしばらくお待ちください
名前間違えた
遅れていて本当に申し訳ないです。おそらく、2月頭頃に更新できるかと……
あとまだ新刊買ってないんですが、一体どうなってるんだ…俺のバードウェイちゃんに出番はあるんですかね?
終わってしまった世界でアイアムレジェンド的な生活をするレイヴェニアと上条さんとオティヌスの三角関係ラブコメを期待してもいいんですかね?
すいません遅れてます……が、今週中に一度は必ず投下します。何度申し訳ないです。
久しぶりすぎて文章の書き方がだいぶ変わっていることが自覚できる……お待たせしました。
のんびりのんびり、今後ともお付き合いいただければ
あと最新刊を読んで、ああ、金髪痴女もいいなと思いました。
『――――というわけなんだけど』『美琴ちゃんに咲ちゃんを任せておいてもいいかな?』
球磨川君に連れられて何処へ行くのかと思えば、御坂さんの所だった。
まぁそれは別にどうでもいいんだけれども、どうでもよくない会話がなされたことで正直私の心は全く穏やかではない。
今すぐ球磨川君の頭に『操作礼状』を差込み再起不能にしたほうがいいのではないかと、ほとんど確信めいた予感が頭をよぎる程度には。
「……まぁ、私としてもそのほうが確実だしいいんだけど、あんたそれで大丈夫なの?」
『僕の心配をするなんて』『これは美琴ちゃんのデレがようやく現れ始めたかな?』『ツンデレ比率は0:10でお願いするよ』
「私はツンデレじゃないし、あんたのそれもツンデレって言わないんじゃないの? ……でも、意外ね」
『何が?』
「あんたは口や頭を使った搦手や嫌がらせメインだと思ってたんだけど」
『まぁ本来ならこういう手段はあんまり使わないんだけどさ』『郷に入れば郷に従えっていうじゃない?』『だから学園都市的なやり方がいいかなって』
「学園都市的なやり方、ねぇ。皮肉ね」
『本当に嫌ではあるんだけれどもね』『このやり方はある意味僕の大嫌いな女の子のやり方に近いから』
球磨川君の『考え』、それは確かに実行してしまえばとんでもないことになる。
死なない球磨川君ならまだなんとかなるかもしれないけれど、私の場合一歩歩くごとに三回くらい死にかねない。
「でも、足引っ張りそうだったら置いていくわよ?」
『大丈夫』『咲ちゃんならきっと邪魔にはならないよ』『そして何があろうとも僕は悪くない』
「え」
なんか今、いざという時に見捨てられる的なニュアンスの会話がさらっと流れた気がするんだけれども。
『じゃあ僕はそろそろ行くよ』『この世界のように』『この世界らしく』『この世界の導き手みたいに』
『クロスオーバーらしく行き、マイナスらしく逝こうか』
最先端科学のあふれる街、学園都市には時たま突拍子のないものが平然と道を歩いていることがある。
殆どが所属学校を示す制服姿の学生ではあるが、その中には明らかに機能性という言葉を忘却した状態でデザインされたであろうドレスのような服、B級SF映画に出てくるような駆動鎧なんてものが入り混じっていた。
しかし、それも学園都市に住まう住人からしてみれば、一々足を止めてみるほどの珍しさではない。
だが、そんな環境になれた彼らにも、奇妙に見えるものはあるらしい。
「……居づらい」
ぼそりと呟いたのはTHE☆チンピラという表現がよく似合う生粋の不良少年、浜面仕上である。
彼は今、『アイテム』の面々と買い物に出ていたのだが……
「にゃあにゃあ。だから私が思うに、『アイテム』じゃなくて『はまづら団』に改名するべきだと思う」
「……私たちは『アイテム』で、そこにキサマのような泥棒猫の居場所はない……ッ!」
色あせたジーンズにジャージ姿の彼に肩車された金髪碧眼少女フレメア=セイヴェルン。
その横でガラガラとバス停標識を引きずりながら目のハイライトを失わせたピンクジャージの少女、滝壺理后。
真横と真上で行われる女子特有のドロドロとしたコールタールのような戦いに浜面の精神がガリガリと抉られていく。
救いを求めるような目で振り返ると、呆れた様子の絹旗最愛、我関せずといった様子の麦野沈利、苦笑いを浮かべている垣根帝督が何歩か離れた場所を歩いているのが見える。
「チクショウあいつら薄情だな!!」
「はまづら、そろそろその泥棒猫を下ろすべき」
「にゃあ! この場所は私の特等席なのだ!」
「や、やめろ滝壺! よじ登るな! いくらいとしのマイハニーとフレメアが軽いといってもこんなところで浜面クライミングはダメぇええええええええええええ!」
浜面の肩に手をかけよじ登ろうとする滝壺の顔をグイグイ押すフレメア、無意識に足に力が入っているのか、フレメアのストッキングに包まれた足が浜面の首を絞めているためどんどん顔が青くなっているのだが残念ながらヒロインふたりは気づいていない。
「なーにやってるんですかね。あの馬鹿面、馬鹿メア、馬鹿壺さんトリオは」
「まぁまぁ平和で微笑ましいじゃないですか」
「微笑ましいっていうかもはやコントの粋じゃない。芸人としてはブサイクなのも才能だし、浜面もそっちの路線で行くべきなんじゃないかしらね
容赦ない麦野の辛辣の言葉に垣根はため息をつく。
『人間』という生物ではない垣根はたまに自分と他人、例えばフレメアや浜面達と自分の価値観は果たして本当に共有できうるものなのだろうか、と迷うことがある。
しかし、彼女や彼女の周りを守ることを自分の存在理由とする垣根は、幸せそうなフレメアを見ることに確かな充足を得ていた。
「滝壺さんもフレメアもそろそろ落ち着いてください。ていうか浜面、前から超約束してた映画を見に行くっていうこの絹旗様との約束はどうしたんですか? 忘れたとは超言わせませんよ?」
「あれ、それ今日だっけ? まーでもどうせいつものブッ飛んだ映画だったら初日に見に行かなくたって……」
「馬鹿ですね浜面、ああいう映画は初日初回放映を超期待して見に行ってボロボロに打ちのめされるのがいいんじゃないですか!」
「何その絶望的な映画鑑賞」
「はまづら……? ふれめあだけじゃなくてきぬはたにも手を出すの……? はまづらは生粋のろりこんさんだったの……?」
「まさか私とフレメアが超同列に見られてる!? 滝壺さん!? その罵倒は私にも超飛び火してるんですけど!?」
「安心しろ滝壺! 俺は絹旗みたいなお子様体型よりも滝壺みたいなバインバインな体の方が超好みだからっていやぁああああああああ! やめろ絹旗! 『窒素装甲』で俺の股間に狙いを付けるなぁあああああああ!」
「バカが増えやがった」
「はは……」
更にギャーギャーと騒ぎ立て、あたりの注目を浴びる浜面を中心とした集団。
道行く一般人達は、浜面達に視線こそ向けども、近寄るような真似はしなかった。
誰だって、暖かそうだからといって、ゆらゆらと燃え盛る炎を見つめ続けると吸い込まれそうな感覚に陥るからといって、火の中に自ら飛び込むような真似はしない。
しかし、それは常識的な人間の考え。
ふとした一瞬、無意識と無意識のあいだにある刹那的な意識に芽生えるちょっとした破滅願望、破壊願望。いわゆる『魔が差した』という状態は、一般人には誰にでもありえ、かつ滅多に起こるわけのないことなのだが。
あの男だけは。
この男だけは、この世に存在するありとあらゆる指標をも以てしても測ることのできない。
『やぁ沈利ちゃん』『いい天気だね』
「……よぅ、球磨川」
麦野沈利の纏う空気の温度が急激に冷えたことを、浜面は離れた場所でも敏感に察知した。
垣根と麦野以外は、話に聞いてはいたものの、球磨川禊という人間の実物を直接目指するのは初めてだった。
球磨川禊に対し、浜面が最初に抱いた感覚は――
(……? なんだ、こいつ? 別に、どうってことなさそうだが)
特に、特筆すべきところはない、というものだった。
人畜無害そうな風貌は、聞かされていた印象とは気持ち悪いくらいかけ離れていて、どちらかといえば大人しそうな、スキルアウトに路地裏に連れ込まれてパンチ数発と引き換えに財布を奪われていそうな、そんな人間に見える。
第三次世界大戦や『グレムリン』との死闘をくぐり抜けた上条当麻があれほど警戒する理由が、浜面には全く理解できなかった。
「あれが球磨川って奴なのか? なんか、聞いてた話よりも……」
隣にいた滝壺に同意を求めるように、浜面は何気なく視線を向ける。
そしてそこで、浜面は初めて気づいた。
彼女が自分の肩を抱きながら、がたがたと震えていることに。
「……滝壺?」
「は、はまづら……私、あの人が怖い。なんでかわからないけれど、でも怖いって事だけはすごくわかる」
普段から持ち前の能力ゆえ、浜面のような無能力者にはわからない何かを微量ながらも感じている滝壺だからこそ感じ得た悪寒だったのかもしれない。
恋人の異常な反応を見て、浜面は改めて球磨川禊の姿を視界に捉える。
やはり、外見はどこにでも紛れ込んでしまいそうな、特筆すべき点のないビジュアル。
特に、奇抜な外見の人間が多い学園都市では、球磨川の外見は人ごみに埋もれてすぐに消えてしまいそうだ。
だが、浜面はここで一つ、違和感を覚える。
特筆すべき点のないビジュアル。
なのに、その姿が目をつむっても目をそらしても頭から離れない事に。
ノーマルな外見に見合わぬアブノーマルなほど強い印象。それに気づいた瞬間、球磨川禊という人間の異常さの一端に浜面は触れた。
初めて、球磨川禊という人間に恐怖した。
(な、なんだアイツ……冗談じゃねぇぞ! 意味がわからねぇ、まるで理解できないのに印象だけが強烈に頭の中に残りやがる! あんな奴がどこにでもいたら、間違いなくこの世の中はどうにかなっちまってる!)
第一位のような、外見だけで判断できるような驚異を全く持たない。
どこにでもいて、誰にでも這い寄ってくる存在。
生まれた時からの人生の隣人である死のように、球磨川禊という人間が存在することに浜面仕上は遅いながらも心底恐怖する。
『……ああ』『沈利ちゃん達は遊んでる最中だったかな?』『ゴメンね』『空気も読まずに話しかけちゃって』
「テメェに空気を読むなんて行為、最初から期待しちゃいねぇよ。……それよりもなんの用?」
『用』『ってほどのことでもないんだけどさ』『少しだけ話したいことがあって』『どこかのお店で腰を据えて話すのはダメかな?』
「誰がテメェなんかと相席するかよ」
『厳しいねぇ』『まぁいいか』『じゃあ僕も手短に話そう』『親善死合の事なんだけどさ』
「なんだ、勝てそうにもないから棄権しますってか?」
『あははは』『僕みたいなマイナスがそんな簡単に棄権するわけないだろう?』『でもまぁ、当たらずとも遠からず、って所かな?』
「……あ?」
『いやね』『僕のような過負荷がいる時点で、たとえ美琴ちゃんみたいなエリートがいてもチーム戦は負けが確定しちゃってるようなもんなんだよ』『僕は過負荷だから勝ちがない』『勝ちの価値を知らないし持ってない』『あるのはせいぜい負荷価値くらいなものさ』
「つまらねぇ言葉遊びなら私は行くぞ」
『ごめんごめん!』『じゃあ本題を言うね』『だから、このままじゃ勝てそうにないから――』
『試合関係なしに、君たちのチームごと学園都市の人間を皆殺しにしようと思ってね』
瞬間、麦野沈利の視界がぶれる。
違う。
ぶれたのは、視界だけじゃない。
あまりに唐突な出来事に、自体を把握しないまま状況が進んでいるだけだ。
左からやってきた強烈な衝撃。
訳あって機械性の義肢がひしゃげる感覚。
義眼が砕ける前に、麦野は衝撃の正体を知った。
それは、どこを走っていてもおかしくないような、ありふれたトラックだった。
(馬鹿な……っ!)
不慮の事故、であるわけがない。
そもそも麦野沈利であるならば、たとえ深夜不意打ちでトラックが数台同時に襲いかかってきてもまとめてなぎ払うくらいのことは余裕でできるのだ。
それが、たった一台のトラックの接近に気づかないだなんて、明らかに普通ではない。アブノーマルな出来事だった。
「麦野っ!!!」
浜面の叫びが響くとほぼ同時に、麦野の体は道に隣接している店のショーウィンドへと勢いよく突っ込んだ。それに追い討ちをかけるようにトラックが店へと突っ込んでいく。
しかし。
「――させません」
トラックを白く輝く無機質な物質が包み込み、その勢いを完全に殺しきった。
学園都市の最上位に位置する能力の一つ、『未元物質』
単純な順位だけなら、麦野よりも上位に位置する学園都市が生み出したゲテモノの一つだ。
「――おかしい。トラックを止めると同時に私の『未元物質』を潜り込ませ内部構造を全て把握しましたが、不自然な部分は何一つ見つからない。学園都市の外で売っていても不自然じゃないほど、一般的なトラックです」
タイヤに『未元物質』を巻き付かせ、前進も後退も出来ないようにした垣根が球磨川に向き合う。
「この街のおぞましい技術が絡んでいるわけではない。そしてこのタイミング。あのセリフ。……あなたが何かしたのですね?」
『僕はただあのトラックから「気配」や「音」を「なかったこと」にしただけだよ』『運転手の顔も名前も知らないし、話したことは……まぁあるかもしれないけど』『だからきっと僕は悪くない』
「あの野郎……ッ! 何が悪くないだ――
今すぐにでも球磨川に殴りかかろうとした浜面を、絹旗が小さな手で制する。
「超落ち着いてください浜面。アイツが何をしたのかは超わかりませんが、あの麦野をノーマルなトラックで跳ね飛ばせるような意味のわからない『何か』を持ってる相手です。正直、垣根以外ではリスクが高すぎます」
「……ッ!」
「にゃあ……カブトムシ……」
『フレメアちゃんが帝督ちゃんを心配そうに見てるね』『あー』『帝督ちゃんじゃなくて、カブトムシちゃんって呼んだ方がいいのかな?』
「……私は紛れもなく『垣根帝督』です。カブトムシであることも間違いありません。どちらの名であろうとも、私を指し示すには問題ありません」
『いいや違うね』『君は垣根帝督じゃあない』
「…………?」
『みんなの思い描く帝督ちゃんはチンピラみたいな帝督ちゃんなんだ』『今の君は帝督ちゃんじゃあない』『みんなの望む垣根帝督じゃあないんだよ』
「……」
『まぁそんなことはどうでもいいんだ』『とりあえず、やるべきことを先にやっちゃおうか』
そう言って、球磨川は持っていたスポーツバッグを開けて中をゴソゴソと探り始める。
取り出したのは、西瓜よりもやや小さめの球状の物体だった。新聞紙に包まれているため、その中身は見えない。
『本当は沈利ちゃんが断らずにどこか一緒に喫茶店にでも入ってくれた時にフレメアちゃんに手土産として渡そうと思ってたんだけどね』
丸い物体を抱えて球磨川はフレメアの方へと歩き始める。
瞬間、球磨川の目の前に白い翼が突き刺さった。
『……』
「申し訳ありませんが、あなたを彼女に近づけることは許可できません」
垣根だけではない。絹旗と浜面もフレメアをかばうように、一歩前へ出て明らかな警戒を球磨川に向けていた。
はぁ、と球磨川はため息をつき
『わかったわかった』『僕が持ってるこれが爆弾か何かで』『自爆テロをするのかとでも疑ってるんだろう?』『悲しいなぁ』『信頼しあうことは人間関係を築く上で欠かせないことだっていうのに!』『仕方がない』『そっちの方に蹴っ飛ばすからさ、勝手に見てくれる?』
そう言って、球磨川は仮にも『手土産』と言ったものを容赦なく蹴り飛ばし、浜面達の方へと寄せた。
「……」
「……」
絹旗と浜面は顔を見合わせ――絹旗がその包へと歩み寄る。
仮にそれが爆弾だったとしても、絹旗の持つ能力『窒素装甲』を貫く事はほぼ不可能に近い。
窒素を圧縮し固めるその力は至近距離から放たれた銃弾すらも受け止めるほどの物理防御力を誇る。
だから、球磨川が寄越した『それ』が、何であろうとも問題ない。はずだった。
静かに絹旗は、中身を隠している新聞紙をめくる。
そして、その動きがピタリと止まった。
「………………ッ!」
「ど、どうした絹旗。一体何が「浜面ァ!」
浜面の言葉を遮るように、絹旗が怒声とも取れるような大声を上げる。
「何があろうとも絶対にフレメアをこっちに来させないでください! 絶対に!」
そう叫んだ絹旗は、包を抱えたまま球磨川の方へと走り出した。
「絹旗さん!いけません!」
「くゥゥゥゥゥゥゥまァァァァァァァがァァァァァァァわァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
絹旗が拳を握る。
自動車ですら一撃でひしゃげさせる程の圧倒的な破壊力を秘めたその拳を、絹旗は一瞬の躊躇もなく球磨川の顔面へと叩き込んだ。
拳は、恐ろしい程簡単にめり込んだ。
まず、皮膚。
人間の皮膚は思っている以上に防御に優れている、が、それを易易と引きちぎり拳は内部へと侵入する。
皮下脂肪、筋肉――層のように重なったそれも、絹旗の拳を遮る盾としてはあまりに貧弱だった。
骨格――人体で最も防御に優れるそれは、ビスケットのように簡単に砕け散った。
あとはもう、惨劇の一言だ。眼球や脳と言った人体の重要な部分は、癇癪を起こした子供が床に叩きつけた粘土細工のように形をひしゃげさせ、すぐに再生不能レベルにまで砕け散る。
球磨川禊という人間の首から上は、その瞬間この世界から消失した。
「……ッ! 垣根! これをどこかへ――」
絹旗は抱えていたモノを垣根に渡そうと、顔のなくなった球磨川の死体には一瞥もせずに向かう。
だが、ポン、と絹旗の肩に優しく置かれた手が、絹旗の熱くなった思考を一瞬で冷却し、その動きを完全に止めた。
「――――は」
振り返り、その存在を目で確かめる前に、事の真相は発覚した。
『いい拳だ』『きっと最愛ちゃんなら世界を狙えるよ』
ザワリと。
耳から入って脳内をのたうちまわる様な、ゾッとする声。
ほとんど反射的に、脳を介さない反応で、絹旗は振り向きざまに拳を放つ――が、その拳は虚しく空を切った。
まるで這いよるかのように、なぜそのまま倒れないのかわからないくらいの前傾姿勢で、球磨川禊は巨大な螺子を構え、不敵に笑っていた。
(な、んで――こいつの顔は超粉々に砕いたはず――)
「絹旗さんっ!!!」
球磨川が絹旗の顔面にねじ込もうとした螺子を、垣根の白い翼が弾き飛ばす。
だが、球磨川の顔から笑みは消えない。
ぐるん、と蛇口をひねったような、人体がやると気持ち悪すぎる動きを球磨川は見せた。
その視線の先には――絹旗が駆け出したことによって発生した空白の先には、フレメアが。
「最初から狙いはフレメアさんでしたか……ッ!」
理解してからの垣根帝督の動きは素早かった。
その背中から生じた純白の翼は、ただ一度のはためきで垣根の速度を音速以上にまで跳ね上げる。
どういう原理なのか、どういう物質なのか、その特異性は学園都市でも一部の例外を除けば最上位に位置する『未元物質』で作られた翼は、音速を超える際に発生するはずの、発生しなければおかしいはずの衝撃波を一切発生させず、周りへの被害を最小どころか無にしながらフレメアのもとへ最短で接近した。
球磨川が一歩を踏み出すよりも先に、球磨川とフレメアのあいだに割り込んだ垣根は翼を操り、球磨川の持っていた螺子を弾き飛ばした。
(反応速度は常識の範囲内。ならば、フレメアさんに何らかのアクションを起こそうとしても、相手が行動してからでも対応は間に合う。戦闘能力に関しても、この分なら――
と。
垣根帝督は、学園都市第二位の頭脳を持ってして正確な分析をする。
スーパーコンピューターに匹敵するほどの演算力を人間に詰め込んだ学園都市の技術の英知。
しかし。だからこその悲劇。
最高の技術を持ってして作り出されたシステムは、誤作動の存在しない精密さは、イレギュラーへの反応を持ち得なかった。
球磨川禊という、計算や予測と言った言葉から最も兼ね離れたところにいる男のことを。
「――え?」
垣根帝督の思考に生まれる、一瞬の空白。
完璧なシステムのあいだに生まれたイレギュラー。
垣根帝督は、静かに自らの腹部に視線を落とす。
そこには、深々と突き刺さった球磨川の螺子が。
「…………馬鹿、な…………ッ!?」
『僕の最愛ちゃんへの攻撃を帝督ちゃんが防げることは予想できた』
『そして僕の本当の狙いがフレメアちゃんであることを予測できることも予測できた』
『さらにその狙いに気づいてから、僕の行動を邪魔する力を持っていることも予測できた』
『けれど、本当に本当のところ』
『僕の狙いは最初から帝督ちゃんだった』
『今ここでの話じゃあない』『親善死合が始まる前から、僕は帝督ちゃんを狙っていたよ』
『帝督ちゃんならフレメアちゃんの代わりに自分を犠牲にするだろう』
『その再生力に物を言わせてありとあらゆる攻撃を受けるだろうって』
『でもお生憎』『僕は君以上に不老で不死身で不滅な存在を知っている』
『君はよけなかった』
『一撃必殺をよけないという弱点が僕には見えていたよ』
「そん、な……ッ!」
「垣根っ!」
浜面が声を上げる頃には、垣根はその場に倒れた。
だが解せない。垣根の能力ははっきり言って『無敵』と言っても差し支えないような、究極の再生力と想像力を兼ね備えた圧倒的な力だ。
それを、いくら巨大だからといってネジを突き刺されたぐらいで『一撃必殺』というほどの効果を与えるものだろうか?
『……ああ』『仕上ちゃん、何か勘違いしているかもしれないけれど』『ネジを刺したから一撃必殺ってわけじゃあない』『僕はただ帝督ちゃんの――
そこで言葉が不意に切れる。
球磨川の上半身が、不健康な光を放つ熱線によって消失したからだ。
「麦野!?」
光線の発生源に立っていたのは、まるでスプラッター映画の終盤に出てくる強敵のようなおぞましい形相を浮かべた麦野だった。
表情だけではなく、機械化された腕や眼球が奇妙に拉げているせいで、余計恐怖を助長する。
「くーまがわぁ……舐めくさった真似しやがって……いいよ、試合なんざ関係ねぇ、関っ係ねぇぇぇんだよぉおおおお!!!!」
雄叫びとともに、麦野の周りに収束していた光が一斉に放たれる。
曖昧な形のまま固定された電子を強制的に操り、絶大な破壊を引き起こす学園都市第四位の能力『原子崩し』は、鋼をも紙のように安安と引き裂く破壊力を持つが、それを人体に向けて放てば、それが人体に命中すればどのようなことが起きるのか――考えるまでもなかった。
連続で放たれた原子崩しが、球磨川の約60%程残っていた肉体に虫食いのような穴を開ける。
――――だが、次の瞬間には、球磨川が死んだと、そこに居てそれを目撃した誰もがそう思った瞬間には、球磨川禊という人間は傷一つなく、汚れ一つなく、欠損一つなく、そこで笑っていた。
『レーザービームは男のロマンだ』『沈利ちゃん』『君はまるで少年漫画のヒーローが乗るスーパー兵器みたいだね』
「うっせぇんだよクソ野郎が!」
再び麦野は原子崩しを放つべく、球磨川に狙いを付ける。
原子崩しは強力な破壊力を持つ反面、機密動作性にはやや欠ける。
そのため、確実に狙い通りに目標を打ち抜くためには冷静な思考が必要なのだが、今の麦野からはそれがやや欠如していた。
「テメェみてぇなヨソモノが、この街のゲテモノ相手に余裕こけると思ってんじゃねぇぞ!」
『余裕、ねぇ』『生まれてこのかたそんなものを感じたことはないなぁ』『ああ、それと――』
球磨川は実に楽しそうに、まるでサプライズバースデーパーティのネタばらしをするかのような気楽さで歌うようにこういった。
『さっき言ったかもしれないけれど』『僕が敵に回したのは君たちだけじゃあない』『この街全てだよ』
「……あぁ?」
『具体的には代表者たちに、だけれどね』『君たちに会う前に僕はこの街の偉い大人達』『統括理事会だっけ?』『その全員に対してちょっとテロってきたんだ』
「何……?」
『まぁほんのさっきの出来事だから』『まだ後始末に追われてたりするのかな』『そろそろ学園都市の権力者がこぞって僕を狙ってくると思うんだけど』
「……わからねぇな。それでテメェには何の得がある?」
『得?』『得だって?』『いやだなぁ、沈利ちゃん』
カラカラと、あっけらかんとした笑いを見せる球磨川。
『僕は得を考えて行動したことなんて今まで一度もないぜ』
「……」
『まぁ僕的には、こんな直接的暴力が絡む野蛮なやり方はしたくないんだけどね』『口と頭脳で軽快に』『女の子たちの人気を鷲掴みにできそうな昨今のイケメンキャラのように計略を張り巡らせたかったんだけども』『まぁ今回はせっかくのクロスオーバーだし』『君たち流のやり方にしてみたよ』
「……一応聞くが、私たち流ってのは?」
『決まってるじゃないか』『最高の頭脳だとか科学の結晶だとか』『そんな笑っちゃうような設定をすべて忘れた暴力的なやり方だよ』『殺し合って勝ったほうが正義っていう今時の週刊少年ジャンプでもやらないような古いやり方だ』
「……なるほどね、ま、この街の暗部じゃ人が死ぬことなんて朝飯食うより頻繁に起こることだし間違っちゃいないかもね。でも、それってつまりさ――――
麦野沈利の持つ能力が放つ光が、より一層輝きを増した。
「私が暴力でテメェを八つ裂きにしたとしても! なんの文句もねぇってことだよなぁ!」
嗜虐的な笑みとともに、麦野沈利が原子崩しを放つ。
先ほどよりも巨大で、強大で、強力な死の光を。
学園都市の英知が生み出した、圧倒的な『暴力』を。
だが。
「その考えは合ってるんだが、まぁ、暴力を暴力で阻止されるってのもの仕方がねぇ事なんだよな、この街じゃあ」
軽快な声だった。
さわやかな声だった。
澄みきった声だった。
それでいて、訪れたのは惨劇だった。
もともとトラックが突っ込んできた時点であたりの一般人は全員逃げ出していたのだが、その瞬間にこの一体からは人だけではなく、建造物すらもが消え去った。
たったひとりの人間を中心に起こった理解不能の現象、衝撃があたり一面を蝕み、喰らい尽くし、そしてまとめて吹き飛ばした。
絹旗も、麦野も、球磨川さえも、その衝撃に飲まれて何処かへ吹き飛んでいった。
あとに残ったのは少し離れた場所にいて警戒していた浜面達と――その惨劇の元凶。
「――――――カブト、ムシ?」
フレメア=セイヴェルンの疑問。
それに、少年は笑顔で答える。
「間違っちゃいない。間違っちゃあいないんだがな。確かに俺はカブトムシって呼ばれてた。だが、それ以前の呼び方が、本来あるべき呼び方が一番しっくりくるようになった」
高級ブランドのジャケットをまとった、痩身の少年。
嘗ての戦闘により肉体を失い、自らの能力で自らを補うすべを入手し、少女の傍らで少女とその周りを守ると約束した白い甲虫。
光学迷彩により色を得ていたその肉体は、本来その物質があるべき色を取り戻している。
生来の血が通い、今ここに生を取り戻した、ある意味での奇跡の体現。
「――俺は、垣根帝督だ」
第一位に敗れた存在。
悪意の中から芽生え自画を得た白い感情。
それらすべてを塗りつぶし、再び学園都市第二位という存在は学園都市に降り立った。
久しぶりの投稿、今日はここまでです。
書かない間に原作も超電磁砲もだいぶ進んで……ついていくだけで大変です。
今回の更新は、球磨川禊が学園都市風のやり方の変更。メタ的に言えば、どんな理由があっても、どんなに頭のいいものどうしだろうとも、どんなに変わったやつらどうしでも、結局「とある」なら戦うんだから、こっちから戦いを売ってやろう、それに乗ってやろうというやり方に変えた、という感じです。
まぁ、風先輩のこのあとの行動がどうなるかはイマイチ把握してません。考えてません。
では、次回の更新で。
あれ、いつの間にかアクセスできるようになってた。
というわけで、更新しようと思ってたタイミングでアクセスできなくて放置してたんですが、久々に来たら治ってたので更新に来ました。短めですが
垣根帝督。
総人口230万人を誇る学園都市の頂点である、7人のレベル5。
その中でも、第2位という序列に君臨する彼は、もはや疑うべくもなく、人類の頂点へと到達することが可能であると断言できるほどに優れていた。
物質を生み出す能力、その柔軟性は人間の臓器を生成できるほどに高く、演算から生み出される力に質量保存の法則は適応されない。
この世のありとあらゆるルールに縛られない、絶対的な超能力。
しかし、ならばなぜ彼は学園都市第一位ではないのか。
なぜ彼は、この世の頂点に居ないのか。
その答えは――天才的な頭脳を持っている垣根帝督でさえ、まだ知らない。
「あー……ちょいとばかし力加減ってのをミスったか? まぁ球磨川は殺しても死なねぇとして、麦野や絹旗も死んじゃあいねぇだろ」
気だるそうに首を鳴らし、垣根帝督は己の力で吹き飛ばしたあたり一面を見渡しながら、つまらなそうに呟く。
被害に巻き込まれなかった浜面、滝壺、フレメアの三人は、内側から湧き出る動揺と恐怖を必死に押さえつけながら、その一挙一動に目を見張る。
(まずい、まずい、不味すぎる! あれはフレメアの携帯にくっついてる時のカブトムシじゃねぇ、あの日、『アイテム』が一度バラバラになったときの、その引き金になった垣根帝督だ!)
浜面の脳裏に去来するのは、あの日まるで王者のように君臨し、圧倒的な力ですべてをねじ伏せた第二位の姿。
同じくレベル5である麦野沈利を撃退したことがある浜面だが、麦野沈利と垣根帝督では同じ序列であるからといって同列に見ることができない。
無限。
ただひとりの人間が完璧な形で人類の最終地点であるその概念を再現する垣根帝督に、戦闘という純粋な行動で勝るモノが果たしてこの世に存在するかどうか。
「さて、と。これからどうするか……やることはいっぱいあるんだが、スタート地点をどうするか、だな」
『そこはまず僕に協力して欲しいところなんだけどなぁ』
いつの間にか垣根の傍らに立っていた球磨川が、ニコニコと笑みを浮かべながら垣根の肩に手を置く。
垣根は振り返ることはせず、前髪を軽くいじりながら
「協力、なぁ」
『君にしか頼めない仕事がある』『これができるか否かで僕のやりたいことが成功するかどうかが大きく変わるんだ』
「まぁ、話だけなら聞いてやってもいいが」
球磨川は垣根に『頼みたいこと』の詳細を伝える。
垣根はその話をだるそうに聞いてはいたが、聞き流してはいなかった。
距離のせいで、浜面たちにはその内容が聞こえていないが――麦野よりも深い闇の中にいた第二位と球磨川の共謀など、ろくなことがないに決まっている。
「……なるほどな、第三位でもある程度はやれそうだが、その範囲まで行くと俺にしかできなさそうだな」
『ぜひともお願いするよ』『お礼はちゃんとするからさ』
「テメェみたいな奴がくれるお礼なんざ、たかが知れてそうだが」
『両の目をくりぬいて君に差し出すよ』
「どこのバスケ部主将だ。キセキ的なのはテメェの頭ん中だろ」
『ははは』『じゃあよろしくね』『こう見えて僕も結構立て込んでてさ』『やらなきゃいけないことがまだまだあるから』
ひらひらと手を振り、球磨川はその場をあとにする――――
『あ、そうそう』
と、思いきや唐突にピタリと立ち止まり、フレメアにニッコリと笑顔を向けて。
『そうそう』『お土産、ちゃんと渡せてなかったね』
ぽーんと、軽くそれは投げられた。
地面に落ちた衝撃で、ソレを包んでいた包装は剥がれ落ちる。
ふわりと、金色の長い髪が衝撃に揺れた。
かつては澄んだ空のように透き通ったブルーの瞳は、今やドロドロに濁り虚空を見据えている。
見覚えのある顔だった。
忘れられない顔だった。
そこにあってはならない顔だった。
絹旗がそれをフレメアに見せまいとした理由を、浜面仕上は理解する。
だが、既に遅かった。
フレメア=セイヴェルンは、その現実を認識してしまった。
「――――ぁ」
嘗て仲間を裏切った少女。
嘗て仲間に引き裂かれた少女。
フレメアのたったひとりの肉親。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
フレンダ=セイヴェルンの死に顔は、球磨川禊の冥土からの土産は、あまりにもショッキングで、狂気的なサプライズとなった。
気がつけば、球磨川はもういなかった。
追いかけるべきか、それとも泣き叫ぶフレメアをなだめるべきか、フレンダの首をどこか遠くへ持ち去るべきか――浜面には今この時の最善の行動がわからない。
滝壺がフレメアを抱きしめ、なにか声をかけてはいるがフレメアの頬を伝う涙が途切れることはなかった。
様々な逆境に、苦難に、絶望に襲われてきた浜面だったが、今この時ほど自分の無力さを悔いたことはない。
何もできなかった。
ただ単純な戦闘力、というわけではない。
球磨川禊という人間に対し、何をすればいいのか、どうすればいいのか、何を理解すればいいのか、何一つわからなかった。
ただそこに立っていることしか、できなかった。
「…………」
「おい」
「…………」
「ぼーっとしてんじゃねぇよ、このタコ」
ドスン、と腹部に鈍い衝撃を感じ、浜面の意識は僅かな吐き気とともに戻ってきた。
片膝を地面につく大勢の浜面の目の前に、垣根が不機嫌そうに立っている。
「……ッ! 垣根……帝督……」
「Exactly。お前らがよく知っている垣根帝督だ。カブトムシじゃあなくてな」
垣根は浜面から視線を外し、フレメアの方に目を向ける。
滝壺がその視線に気づき、フレメアを守るように小さな体をさらに強く抱きしめた。
「…………」
「かきね。この子はカブトムシのことが大好きだった。でも、今のかきねはカブトムシじゃない。だから、この子を傷付けるつもりなら、どこかに行って」
「はっ。大人しそうなやつかと思いきや、思ってたより気が強いらしい。そういや前もそこの雑魚を逃がすために俺に立ち向かったっけな」
垣根の背に、巨大な白い翼が出現する。
垣根を学園都市第二位足らしめる究極の想像の力、『未元物質』により形作られた翼だ。
「……ッ!」
垣根は、その白い翼を一度だけ振るう。
滝壺は最後まで目をそらさず、垣根を睨みつけたままフレメアを強く抱きしめ――
そして、自身の身には何も起こらなかった現実を理解する。
「……え?」
変化があったのは、すぐ近く。
無造作に、不条理に転がっていた小さな少女の姉の首。
生前の形を色濃く残したグロテスクな破片が、垣根の起こした風によって、まるで風化現象の映像を早送りしてみているかのように、風に溶けていくようにして消えていった。
「よぉ、ガキ」
垣根はしゃがみこみ、フレメアと同じ高さの視線になった。
フレメアの顔から絶望が消えたわけではない。
しかし、その目からこぼれ落ちる雨粒は、止まっていた。
単に、目の前で起きた現象が理解できず脳の処理が追いついていないだけかもしれないが。
「テメェはフレンダの妹なんだってな。フレンダ=セイヴェルン、学園都市暗部組織『アイテム』のメンバーで、人を殺して金を稼いでた外道だ。その上仲間の情報をゲロって粛清でぶっ殺された」
「……! 垣根! それ以上――
垣根が告げる、一切の間違いのない『現実』を食い止めようとした浜面の腹部に再び衝撃が走る。
先ほどの蹴りとは比べ物にならないほどの強い衝撃の正体は、垣根が飛ばした一辺の羽。
本気であれば、ただ一枚でも人を殺すには十分すぎる威力を持つであろうそれを容赦なく叩きつけてきた垣根は、浜面には視線すら向けていなかった。
「この街の裏側はクズの塊だ。クズがクズを使ってクズみてぇな仕事をこなしてる。テメェの姉は、そんな掃き溜めに落っこちたゴミひとつだったんだよ」
「…………」
「人を殺して生きるっつー生活を『日常化』してた時点で、フレンダにはもう人並みの幸せなんざ得る資格はねぇ。そして最後には自分で飛び込んだ闇に食われてあっけなく死んだ。てめぇに残されたのは、人の血の匂いがこびり着いた薄汚ぇ金だけだ」
だがな。と垣根は言葉を切った。
「真っ白なテメェが生きてりゃ、テメェが闇に落ちねぇまま生きていられるのなら、フレンダ=セイヴェルンが人を殺してた意味ってのは少しはあるかもしれねぇな」
カブトムシと呼ばれた人格が主人格になる直前、垣根帝督は一方通行にこう言われたことがある。
『垣根帝督』に関する膨大なデータが出てきたとしても、それはオマエを示すものなんかじゃないと。
そんな彼が、フレンダの残したたったひとりの肉親にそう言った。
麦野よりも長く、一方通行よりも深い闇をさまよい続け、何も見つけられず、何も残せず敗北した垣根帝督はそう言い放った。
死の淵をさまよい、その全てを利用し尽くされ、自らの能力で再生を術を得て、そこまで至ったのに最後の最後で他人のデタラメな力で生き返ってしまった垣根帝督は、そう言い放った。
「もう会えないってのは覚悟してたんだろ? だったら首の一つや二つ見たくらいでうろたえるな。この街がその気になれば、その程度のことは序の口だ。一々うろたえるようならこの街から出たほうがいい」
浜面は、垣根にひとつの違和感を感じた。
嘗て対面したとき、垣根の言葉の一つ一つが他者を嘲笑するような、見下した言い方であった。
だが、今の垣根の言葉には刺はあるものの、あの時のような悪意は感じられない。
無論、カブトムシのような『正義の塊』と言えるほどの潔白さを感じるわけでもない。
目の前にいる男は、本当にあの時の垣根帝督なのだろうか?
「……まぁ、フレンダに情報吐かせたのは俺たちなんだけどな。この点に関しちゃ何を言われようが仕方がねぇ。俺を殺したいなら殺しに来い。返り討ちにはするけどな」
それだけ言って、垣根は静かに立ち上がった。
伸びをするように、垣根の白い羽が一度大きくそのシルエットを巨大化させ――次の瞬間、羽は無数の蝶へと変貌し、あらゆる方向へと飛び立っていった。
「さて……まぁ球磨川の方は適当にやりながら、こっちはこっちでやりてぇことをやらせてもらうか。大物を釣り上げるには、まずはとびっきりの餌を用意しなくちゃならねぇよな」
そんなことをつぶやきながら、垣根は新たに出現させた翼をはためかせ、一瞬で空へと消えていった。
「…………なんだったんだ?」
「わからない。……けど、なんだか静かだった」
「静か?」
「うん」
滝壺がこくりと頷く。
「前に垣根のAIM拡散力場を感じた時は、まるで台風みたいだった。でも今は、すごく静か。なんだかものすごく透き通った海を覗き込んでるみたいな、そんな感じだった」
「……」
滝壺の感じているものがどのようなものか、浜面には理解することができない。
だが、垣根に対して違和感を感じているのは、滝壺も浜面も同様だった。
「超変に感じてるのは、私たちもですけどね」
「絹旗! それに麦野も」
振り向けば、そこには体中擦り傷だらけの絹旗と麦野が立っていた。
あれほど大きく吹き飛ばされたにもかかわらずその程度のダメージなのは気になるが、何よりも最初に浜面の目に付いたのは
「麦野……それ」
「ああ。意味がさっぱりわからねぇ。どういうつもりなのかもね」
嘗て能力の暴走により失われた麦野の腕と眼球。
それを学園都市製の義肢で補っていた麦野であったが、先ほどのトラックの追突によりそれは大きくひしゃげ、使い物にならない程度には破壊されたはずだった。
だが――今の麦野には、一切傷のない腕があった。眼球が健在だった。学園都市の技術で作られた精密機器をも上回る『人体を再現』する白い物質によって、かつての欠損が補われていた。
「垣根の能力……?」
「自分を無限に分身させられるほどだ。腕の一本や目ん玉の一個作るのなんざ朝飯前なんだろうが……私を吹き飛ばしながら自分と違う肉体を能力で再現し定着させるだなんて、どこまで行っても化物ねホント」
たったひとりで、この世界に存在する全ての医療分野を塗り替える能力。
脳によって作られる能力によって、脳を作り出せるほどの自由度。
それほどの力を持って、垣根帝督は果たして何をしようというのか。
「とりあえず、私たちが今すべきことはなにか、それを超考えるべきです」
「あー? そんなの決まってるでしょ」
麦野は『未元物質』によって作られた腕の調子を確かめながら、気だるそうに続けた。
「球磨川禊を、ぶち殺す。単純明快ストレートなゴールが見えてるでしょ?」
こんな感じで、短いですが今日の更新を終わります。
垣根の立ち位置はまだ不明です。本編でもこの頃の垣根が帰ってこないものか……
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