傭兵「死ぬだけの簡単なお仕事です……?」 (695)
◇ ◇ ◇
傭兵ギルド
◇ ◇ ◇
傭兵「なんて依頼文だ……興味を惹かれるぜ。えっと内容は、っと……」
傭兵「……っ! おい……なんだこの高待遇はっ……!」
傭兵「給料も申し分ないし、働き次第では一週間連続の休みももらえる……」
傭兵「なにより正規登用してそのまま働かしてくれる……だと……!?」
傭兵「よしっ! おじさん! この依頼を受領してくれっ!」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1363601723
ギルド長「あ〜……これな。本当にいいのか?」
傭兵「ん? 俺が受けたらダメな理由でもあるのか? ここには『教会の加護さえ受けてればそれで良い』としか書いてないけど」
ギルド長「いや、そうじゃねぇんだが……もう十一人ほど途中で辞めちまってるんだよ、この依頼」
傭兵「俺は大丈夫だって」
ギルド長「そう言って辞めてった奴らが八人だけどな……まあ、良いか。向こうも辞めてもらう前提だって言ってたしな」
傭兵「え? 向こうもそう言ってんの……? まさかそんなにキツいとは……」
ギルド長「止めとくか?」
傭兵「いや、やるけどね」
ギルド長「物好きだな……まあ分かったよ。オレは一応止めたからな」
傭兵「俺が最初の長続きする人になるかと思うとワクワクするぜ……」
ギルド長「続けばな」
ギルド長「それじゃあ、向こうに連絡しておいてやるよ」
ギルド長「えっと、事前の連絡だと……おっ、ちょうど明後日、勤務先に直接面接に行けるぜ。どうする?」
傭兵「んじゃそれで」
ギルド長「分かったよ」
傭兵「っていうか、勤務先ってどこ?」
ギルド長「お前……ちゃんと読めよ……この国の城だよ、お・し・ろ」
傭兵「ほ〜……お城ねぇ〜……」
傭兵「…………」
傭兵「……んっ!?」
とまぁ、毎日三十分ほど少しずつ投下していきます
オリジナルのイタイご都合主義オナニーSSです
〜〜〜〜〜〜
翌々日
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
城前
◇ ◇ ◇
傭兵(まさか……この国からの依頼とは思いもしなかった……)
傭兵(っていうか、国直々に「死んでくれ」って依頼はどうなんだ……?)
傭兵(まあ、実際に死ぬことは無いんだけど……)
傭兵(それでも死ぬほど辛いことをさせられることに変わりはないわけで……)
傭兵(……なにをさせられるんだ……? こうやって城の前に来て今更ながらに不安になってきた……)
受付嬢「お待たせいたしました」
傭兵「はいっ!?」
受付嬢「?」
傭兵(しまった……声が上擦った……)
傭兵「……ごほん……すいません。えと……」
受付嬢「あ、はい。本日、傭兵ギルドからの面接があると確認が取れましたので。担当者がいますお部屋にご案内致します」
傭兵「あ、それはすいません。ありがとうございます」
受付嬢「では、私についてきて下さい」
門番兵達「「ご苦労様です」」
受け付け嬢「はい。ご苦労様です」ニコッ
傭兵(門番の詰め所のすぐ後ろに受け付け用の部屋、か……)
傭兵(城の中に簡単に入らせてもらえないところを見ると、警備は厳重な方なのか……?)
傭兵(魔物はこの大陸からいなくなったのに、こうなってるところをみると……警戒しているのは人、か……)
傭兵(……死ぬ依頼を出すのと何か関係があるのかね……)
◇ ◇ ◇
城内
◇ ◇ ◇
コツコツコツ…
傭兵(ほ〜……やっぱ、城の中はキレイだな……)
傭兵(内装も凝ってるし、靴越しの絨毯の感触がハンパなく柔い)
傭兵(……柔いって表現しか出来ない自分の育ちの悪さよな)
受付嬢「こちらになります」
傭兵「えっ、あ、はい。どうも」
コンコン
受付嬢「失礼します」
???「どうぞ」
ガチャ
受付嬢「面接をお受けになる傭兵さまをお連れしました」
???「ありがとうございます。受付嬢さんは、お仕事に戻って頂いて構いませんよ」
受付嬢「では、失礼致します」
受付嬢「どうぞ、傭兵さん」
傭兵「あ、はい。失礼します」
パタン
???「では、早速面接を行います。とは言いましても、傭兵ギルドの紹介で来られた以上、特別何かを訊ねることはありませんがね」
傭兵「えっ……と……」
???「どうかされましたか?」
傭兵「いえ、その……失礼ですけど、メイドさん、ですよね?」
メイド「? ああ……面接をするのがただのメイドとはどういうことなのか、といったところですか」
傭兵「まあ……」
メイド「ご安心ください。ただの趣味ですので」
傭兵「趣味……?」
メイド「はい。趣味です」
傭兵「…………」
メイド「…………」
傭兵「…………」
メイド「……では他に質問は無いようですので、早速移りましょう」
傭兵(え? あれ? スルー?? もしかしてボケか何かだったのか??)
メイド「まず確認からさせていただきますが……あなた、その腰に差してある二本の剣で戦えますか?」
傭兵「まあ、はい」
メイド「傭兵ギルドからの紹介ですから当然ですよね……なら結構です」
傭兵「えっ? それだけですか?」
メイド「はい。それだけで十分ですよ」
傭兵(え〜……? そんなもんで良いのか……?)
メイド「では、教会の加護を受けていると証明できる書面を見せていただけますか?」
傭兵「あ、すいません。俺、ちょっと加護証明書ってのを持ってなくて……」
メイド「持っていない……」
傭兵「あの……もしかして、ダメですか……?」
メイド「いえ……では、服を脱いで、胸にある刻印を見せていただけますか?」
メイド「それで結構ですよ」
傭兵「では、失礼して」
>>1に期待してる
メイド「……やはり、ちゃんと鍛えているのですね」
傭兵「え?」
メイド「触ってもよろしいですか?」
傭兵「えと……なんのために?」
メイド「刻印が本物かどうかの確認ですよ」
傭兵「まぁ……」
傭兵(なんか胡散臭いけど……)
傭兵「……構いませんよ」
メイド「では、失礼して」サワッ
傭兵「っ……!」
メイド「おぉ〜……ちゃんと鍛えていらっしゃいますね……」グッ、グッ
傭兵「その……もういいですか?」
メイド「はい。構いませんよ」
傭兵「…………」
メイド「……あっ」
傭兵「え?」
メイド「……いえ、別に」
メイド「刻印を確認しませんでしたが……まあ良いでしょう」ボソッ
傭兵「いやものっそい聞こえてますからね」
メイド「え〜……ごほん。では、しっかりと加護を受けているのも分かりましたので——」
傭兵(なんか二度手間だったな……もうすでにちょっと疲れてるんだが……)
メイド「——早速、あなたに何をしてもらうのかの説明に移りましょう」
傭兵「はい。お願いします」
メイド「……少し、落ち着かれましたね」
傭兵「え?」
メイド「なにやら、緊張していらっしゃったようでしたので。もう少し肩の力を抜いてもらえないかと思っていたのです」
傭兵「あ……」
傭兵(もしかしてこの人は……俺が緊張してるのを知ってわざわざあんなことを——)
メイド「とでも言っておけば良い話しっぽくなるでしょう」ボソッ
傭兵「——そうして考えを口に出すの、止めた方が良いと思いますよ」
メイド「いやですね。冗談ですよ」
傭兵(……もう何がホントで何がウソか分かんなくなってきたな……)
メイド「で、何をしてもらうのか、ですけれど……」
メイド「あなたには、ある人と戦ってもらいたいのです」
傭兵「ある人?」
メイド「その人が誰かは詳しく説明できないのですが……」
メイド「ただその人も加護を受けているので殺してしまっても大丈夫、だということです」
傭兵「はあ……」
傭兵(わざわざ城に招くってことは……どこかの貴族か誰かか……?)
傭兵(……もしかして、貴族殺しの罪でも着せられるか……? って、加護を受けてるって話だからそれは無いか……)
メイド「殺して欲しい理由はただ一つ。その人に加護の副作用が出ているからです」
傭兵「副作用……」
メイド「あなたも加護を受けた人なら、一度説明は受けていらっしゃると思いますが……その副作用とは、人によって様々です」
傭兵(俺は一度もなったことがないから分からんが……確か、加護を受けたことを後悔したり恨んだりして、長い間一度も死なないと発症するんだったか……)
メイド「『一日に一人、誰かを殺さないと理性が切れる』……それが、その殺して欲しい人の副作用です」
傭兵「ああ……だから『死ぬだけの簡単なお仕事です』ってこと」
メイド「そういうことです」
ああ、死んでも生き返るのか
傭兵「でもそれなら、どうして戦って欲しいってことになるんです?」
傭兵「要はワザと、一日に一回殺されれば良いんでしょう?」
メイド「それはそうなのですが、出来ればあの人を一度殺して欲しいのです」
メイド「そうすればしばらくの間、副作用による殺人衝動は収まってくれますので」
傭兵「なるほどね……」
傭兵(つまり、殺されても殺してくれても、どちらでも構わない、と……)
傭兵(雇われてる俺が殺されれば、その人は一日正常で——)
傭兵(——俺がその人を殺せば、約十日ほどもその人は正常でいてくれる、と……)
メイド「と、言いますか」
傭兵「はい?」
メイド「あの人を殺して、あの人がしばらく正常でいてくれている間しか、あなたのお休みはありませんよ?」
傭兵「えっ!? あっ、最長一週間のお休みってそういうこと!?」
メイド「はい」
傭兵「ってことは、殺されている間は休み無しってことか……」
メイド「そういうことです」
メイド「ですが依頼書にも記載した通り、お休みの間もちゃんとお給金は発生いたします」
メイド「ですのでぶっちゃけ、そのあたりでお休みに関してはイーブンだとお考えいただければ幸いです」
傭兵「っつーことはつまり、その人に勝ち続けるのなら月に三回ほど戦うだけであの依頼料が毎月入ると、そういうことですか」
メイド「そういうことです」
傭兵(なるほど……そういうカラクリだったのか……)
傭兵(……まぁこれだけの高待遇ならある意味納得か……)
傭兵(それに毎日休み無しで殺されたとしても、普通に働くほどの給料はあるしな……)
メイド「他は……そうですね。特に説明しておくことも無いでしょう」
メイド「何か質問はありますか?」
傭兵「いや、特にはないです」
傭兵「強いて挙げれば、どこで・どれぐらいの広さで戦うのかを教えて欲しいぐらいです」
メイド「それはこれからご案内致します」
メイド「というか、出来れば今日からでもお願いしたいのですが」
傭兵「早速今日から、ですか……」
傭兵(ふむ……まあ、相手の実力を測るって意味でも、構わない、か……)
傭兵「良いですよ、大丈夫です」
メイド「それは良かったです」
メイド「ではこちらを」スッ
傭兵「これは?」
メイド「通行証みたいなものです」
メイド「本日は面接があったのでお昼からにしていただきましたが、明日からは依頼書通り、城での受け付けが始まって〜正午の鐘がなるまでに来ていただきます」
メイド「ですので、その通行証を見せていただければ、門番はあなたを通してくれますよ」
傭兵「……いきなりこんなの渡して……危なくないですか?」
メイド「ご安心を」
メイド「それで行けるのは、兵の訓練施設だけです」
傭兵「は?」
メイド「これから一度入り口に向かい、そこから一本道で訓練所へと向かう道を教えます」
メイド「その通行証はその道へ向かうのでしか使えませんので」
メイド「もし城内に入ろうものなら、すぐさま城前にいた兵に斬り捨てられると思っておいてください」
傭兵(なんでそんなことを笑顔で言えるのか……)
コツコツコツ…
傭兵「…………」
メイド「…………」
傭兵(お昼までには、か……依頼書を見た時は特に気にもならなかったが……話を聞いてから改めて考えると……)
傭兵(それってつまり、例の「その人」に“極力普通に過ごせる時間を与えたい”、ってことだよな……)
傭兵(倒して欲しい、ってのもつまり、そういうことだろうし……)
傭兵(……やっぱ、貴族様とかなのかね……)
メイド「そういえば」
傭兵「はい?」
メイド「傭兵さまは、どちらにお住まいですか?」
傭兵「あ〜……恥ずかしながら、西の下町です」
メイド「なるほど……」
傭兵「すいません……柄が悪い場所で」
メイド「? どうして謝るのですか?」
傭兵「えっ?」
メイド「図々しくもあなたがその住んでいる場所の柄を悪くしているとでも?」
傭兵「いえ、そんなつもりは……」
メイド「でしたら謝らなくても良いじゃないですか」
傭兵「あ、ああ……まぁ、そう……なの、かな……?」
傭兵(俺が言うのもなんか変な感じだけど……)
メイド「それよりも、その場所からだと結構城から遠いですね」
メイド「朝は苦労してしまうかもしれません」
傭兵(……なんか、変なところで純粋だな……この人……)
傭兵(ま、このメイドさんも育ちが良いってことか……)
◇ ◇ ◇
訓練所
◇ ◇ ◇
メイド「では、道は覚えていただけましたか?」
傭兵「はい。正面から横に逸れて……ってな具合ですよね」
メイド「それなら結構です」
傭兵「……で、もしかしてこの目の前の建物が……」
メイド「はい。あなたに倒してもらいたい人がいる場所です」
傭兵(訓練場の片隅……円形に建てられた倉庫のような、石造りの建物)
傭兵(広さは……結構あるな。障害物の無い場所での戦いになるか……?)
傭兵(それとも中は結構複雑になってたりとか……?)
メイド「ここは、兵達の訓練用道具を仕舞う倉庫を改装した場所です」
メイド「中の武器も抜いて別の場所に移動させておりますので、かなり広く戦えると思いますよ」
傭兵「あ、どうも」
傭兵(倉庫の流用……ってことは、二階部分もあるか……?)
傭兵(……いや、そこまでの高さは無い、か……)
メイド「本日はこの中で戦った後、そのまま教会で復活させて頂ければ、そのままご自宅に帰ってください」
メイド「また城に戻ってくる必要はありませんよ」
傭兵「分かりました」
メイド「もちろん、明日以降も同様です。戦い終えればそのままご自由にしてくださって構いません」
メイド「では、ご武運を」
ギィ…
ガラガラガラ…
傭兵(ほぉ……真っ暗、ってわけじゃないのか)
傭兵(ちゃんと壁に沿うように灯ったランプがかけられてるからか、十二分に明るい)
コツ…
傭兵(……って、ん? 中には誰も——)
…コツ—
—ザクッ…
中途半端ですが今日はここまで
明日も多分同じぐらいの時間
明日からはもうちょいペースが落ちるかも
>>9 期待してくれてありがとうございます。ただそれに応えられる自信は無いんだ…
>>13 イメージとしてはドラ○エ。全滅させられたら教会に戻される感じで
ちょっと数レスだけ投下できる暇が出来たので数レスだけ投下
◇ ◇ ◇
教会
◇ ◇ ◇
傭兵「」パチ
神官「お、目ぇ覚めたか?」
傭兵「ここは……教会……?」
神官「ご名答」
傭兵「…………」
傭兵(……あ〜……不意を衝かれて一撃で殺されたのか……)
傭兵(あのザクッとした感触の後の力の抜け方……間違いなく後ろから首を切られた)
傭兵(……あのメイドが……? ……いやいや、さすがにあの人が動けば気配で気付く)
傭兵(ってことは、あれか。入ってすぐの入り口上で待機してたってことか……)
傭兵(油断してたつもりはないんだけど……まさか一撃とはなぁ……)
神官「にしても久しぶりだな。お前が殺されるのは」
傭兵「新しい仕事を請けたんだよ」
神官「なんだ? 東の大陸にまで行ってたのか?」
傭兵「この街の中に決まってんだろ」
神官「はっ、オマエも相当怠けてんだな。こんな平和ボケした街で殺されるなんてよ」
傭兵「……返す言葉もねぇな、本当」
神官「で、どんな仕事だったんだ? 裏組織の一つや二つをぶっ潰せとか、そういうのか?」
傭兵「死ぬだけの簡単なお仕事だよ」
神官「は……? ……なんじゃそりゃ?」
傭兵「そのまんまの意味だよ」
傭兵「っつーことで、これからほとんど毎日、お前に蘇らせてもらうことになると思うわ」
神官「ふ〜ん……ま、よくは分かんねぇが……お前が不幸になってんなら、それで良いや」
“加護”を受けるとは、不死になることと同義だ。
寿命や病気による死は避けられぬが、怪我や毒による死は避けることが出来るようになる。
その癖必要なものは教会への多大な寄付のみだというのだから驚きだ。
あとはただ契約の儀を交わせば終わりとなる。
契約した教会が特定の祈りを捧げれば、契約を交わし死んでしまった人物全員が、教会へと「生き返る一歩手前」の状態で転送される。
仕組みは分からない。
曰く、神の奇跡だそうだ。
あとはその「生き返る一歩手前」の肉体に向け、また別の祈りを捧げれば、その人間は蘇るということだ。
この転送と復活の祈りは、どこの教会でも一日に何度か、定期的に捧げられている。
だから人間は、金さえあればほぼ死なないでいられるようになったというこだ。
だがもちろん、欠点はある。
まず一つ目は契約の場所。
契約の際発行される契約書、これを使えば一度だけ、復活させてもらえる教会を変えることが出来る。
だが、あくまで一度だけだ。
変えたり、変えずともその契約書を失くしてしまった場合、同じ教会でしか生き返れなくなってしまう。
……もっとも、神官と親密な関係であるのならこの限りではないのだが……。
そして二つ目に、一度この加護を受けると、解除が出来なくなる。
つまり天寿を全うするまでは死ねないということだ。
あらゆる薬物も毒とみなされてしまう以上、後戻りが出来なくなるということになる。
それが例え病気であろうとも、死んで生き返れば元通りというわけだ。
……ま、例外はあるにはあるが……。
そして最後に……副作用。
コレは最早言うまでも無い。
俺が今依頼を請けていることそのままだ。
しかし逆に考えれば、この三つだけの欠点と大量のお金だけで、死なないでいられるということでもある。
魔物に殺されても生き返ることが出来、人間に恨まれ刺されても助かり、毒を盛られ苦しんでも死ぬことは無い身体になれるということ。
だからか……傭兵業を営む者や冒険者といった人、東の大陸の魔物を駆逐するために派遣される「勇者候補者」のそのほぼ全てが、加護を受けている。
〜〜〜〜〜〜
翌日
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
訓練所
◇ ◇ ◇
傭兵「さて……」
傭兵(昨日は不意打ちでやられたからな……)スッ
傭兵(今回は、最初っから剣を抜いて入るとするか)
傭兵「…………」
傭兵(昨日と違って鍵はとっくに外されてる……準備は万端ってことか)
傭兵「……では、と」
ガラガラガラ…
傭兵「……へぇ」
傭兵(今日はちゃんと、不意打ちせずにいてくれるってか)
コツ、コツ、コツ…
傭兵(反対側の壁際……アレは……ベッド、か……?)
傭兵(……なるほど……寝て起きれば副作用の状態になるから、寝るときは必然この部屋になってしまうか)
…ガラガラガラ…ダン
???「…………」
傭兵(もしかして……副作用を受けてるのは、女の子なのか……?)
傭兵(あんなに小顔で小柄で可愛いのに男、ってことはないよな……?)
傭兵(……って、そうやって油断したらダメだ)
傭兵(昨日はアイツに不意打ちで殺されたんだ)
傭兵(見かけでの判断をしてはいけない)
???「…………」スッ
傭兵(一般的な長さの剣……この国の正式採用剣だろう。確か門番の兵も腰にぶら下げてた)
傭兵(あれだけ小柄だと扱い辛そうなものだが……)
傭兵「…………」スッ
傭兵(なんにせよ、リーチの差を埋められるかどうか……)
傭兵(俺の剣はあの一般的な剣よりも短く、短剣よりは長い中途半端なもの)
傭兵(予備の一振りを使っての二刀流、なんて器用な真似が出来ない以上、不利なことに変わりは無い)
???「…………」
コツコツコツ…
ギャリギャリギャリ…!
???「…………」
傭兵(切っ先を引きずり歩いてくるその瞳から、感情は読み取れない……)
傭兵(……目線もどこに向いてるか分からないな……これじゃあ攻撃の軌道が読み辛くなるな……)
傭兵(……まぁ、仕方が無いか。本人も副作用のせいで動いてるだけだしな)
傭兵(ったく……見れば見るほど、考えれば考えるほど不利でしかないな……)
傭兵「だがまぁ、とりあえずは……」
傭兵(今日はその実力……不意打ちじゃなく正面からぶつかった場合のものを、測らせてもらおうか……!)
本当は夕方に投下したかった分終了
明日(というかもう今日)は予定通りにちゃんと投下します
遅れに遅れたけど再開
誰だ夕方予定通りとかほざいたヤツは無理に決まってんだろ
◇ ◇ ◇
教会
◇ ◇ ◇
神官「よぉ。昨日言ってた通り、また来たな」
傭兵「…………」
傭兵(昨日不意を衝かれた時点で強いのは分かってたが……まさかここまでとはな……)
傭兵(あの子の実力を測るために手加減をしていたが……それを差っ引いても強かった)
傭兵(……でも、圧倒されるほどじゃなかった)
傭兵(明日、本気を出したら……勝てる……!)
神官「おいこら。無視してんじゃねぇぞオイ」
〜〜〜〜〜〜
依頼挑戦
三回目の後
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
教会
◇ ◇ ◇
傭兵(あっれ〜? 昨日の目測だと本気出せたら勝てると思ったのになぁ〜……)
傭兵(まさかまた負けるとは……)
傭兵(……いやでも、戦い方に工夫を凝らせば勝てる)
傭兵(明日こそは……!)
〜〜〜〜〜〜
依頼挑戦
四回目の後
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
教会
◇ ◇ ◇
傭兵(おかしい……あっれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?????)
傭兵(あそこでの攻撃の隙が無くなってた……?)
傭兵(なんか、また強くなってなかったか……? あの子?)
傭兵(いやでも、攻撃に重きを置いてるのが分かった)
傭兵(アレはたぶん、リズムを掴めば掴むほど強くなるタイプだ)
傭兵(だったらこっちは防御に重きを置いて……隙を見つけて、リズムを狂わせる一撃で、そのまま畳み掛ければなんとか……)
傭兵(……よしっ!)
〜〜〜〜〜〜
依頼挑戦
五回目の後
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
教会
◇ ◇ ◇
傭兵(つえええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!)
傭兵(アレ絶対強くなってる! なんか段々と手ごわくなってきてるんですけどっ!?)
傭兵(やっぱアレか! 成長率かっ!!)
傭兵(あれぐらいの年齢だとむしろこっちの小手先なんてすぐに適応してくると!)
傭兵(自分が作ってた隙なんてすぐさま塗り替えてしまうとっ!)
傭兵(そういうことですかっ!!)
傭兵(……ちっ……仕方が無い)
傭兵(段々と弱点が無くなっていってるっていっても、また次の弱点は出てきてる……)
傭兵(それを衝き続けて……最終的には適応出来ない隙を作り出して……打倒する!!)
〜〜〜〜〜〜
依頼挑戦
十回目の後
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
教会
◇ ◇ ◇
傭兵(いやムリ……アレ勝てねぇわ)
傭兵(かれこれもう九回目……いや、初日の不意打ち一撃死を含めりゃ十回目だ)
傭兵(夢の大台二桁目!! ってかオイ)
傭兵(こりゃ十一人が挫折してるってのも納得だわ……)
傭兵(全力を出してやられ、まだこちらも裏の手があると挑んでやられ……)
傭兵(本気出せてなかったんだと自分に言い聞かせて挑んでもやられ)
傭兵(やられ、やられ、やられ続けて……並みの戦士ならプライドがボロボロになって戦意喪失するわ、ホント)
傭兵(自分の本気はこんなもんじゃない……とか奮い立たせて己に言い聞かせるその心を折ってくる)
傭兵(なまじ相手がいつも自分の少し上の実力でぶつかってくるだけに、あと少しで勝てるって気持ちにずっとさせられる)
傭兵(あと少しで傷を付けられるって思わせてくる)
傭兵(でも実際は、そんなことはない。一向に傷つけられず、有効となる一撃もぶつけられない状態が続いてしまう)
傭兵(……こりゃ、普通なら諦めるわ)
傭兵(でもまぁ、そこは俺よ)
傭兵(やられることには慣れている)
傭兵(敵わない壁に打ち負けてきてばかりで、自分の実力と畑を理解している俺だからこそ、そんなことで心は折れない)
傭兵(というかそもそもの依頼内容は、あの子に殺されること、だ)
傭兵(出来ればあの子を倒して副作用を一時的にでも止めて欲しい、ってのは、いわばオプションみたいなもの)
傭兵(俺もそれを叶えてやりたかったが……生憎と、あの戦場で普通に剣を突きつけ合うだけじゃ無理だ)
傭兵(だったらまぁ、答えは簡単……)
傭兵(……負け続けてやればいいんだよ。そしたらお金は入る)
傭兵(どうせ死なないんだ。死んで死んで死んで、殺され続けてやってやろうじゃないか)
〜〜〜〜〜〜
依頼挑戦
十一回目の後
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
教会
◇ ◇ ◇
傭兵「っ!」バッ!!
傭兵「はぁ……はぁ……はぁ……!」
傭兵(おいおいおいおいおいおい……マジかマジかマジかマジかマジか……!)
傭兵(手を抜いただけで……あそこまでするか……!?)
傭兵(どうせ勝てないからと諦めて、死んでやるだけでいいんだろと開き直った途端……戦いを止めて拷問に移るとか聞いて無いぞ……!)
傭兵(指先から肩まで細切れにして、気を失いそうになったらまた痛みを与えてきて、足を切って脛を折って膝を砕いて腿を裂くとか、尋常じゃないだろオイ……!)
傭兵「ぐっ……!」
傭兵(くっそ……まだ痛みが身体に残ってる……!)
傭兵(気を失えないギリギリ、失血死する限界まで痛めつけやがって……!)
神官「おいおい……大丈夫かぁ?」
傭兵(うっせぇ……ニヤニヤして心にもない言葉かけてくるな!)
神官「おぉ……怖い怖い。そんな睨むなよ。オレは生き返らせてやってる恩人だぞ?」
傭兵「…………」
神官「しっかしまぁ、どうもオマエは不幸そうだな。こりゃたまらなく嬉しいわ、マジで」
神官「その依頼、続けろよ?」
傭兵「っ!」
バンッ!!
◇ ◇ ◇
街中
◇ ◇ ◇
傭兵「くっ……!」
傭兵(ちっ……! まだあの痛みが残ってるような気がするってのに飛び出して来てしまった……!)
傭兵(……いや、今はアイツの近くにいる方が不快だ。飛び出してきて正解だ、うん)
傭兵「くっそ……!」
傭兵(なんか、腕とか足がくっついてないか不安になってくる。見るとちゃんとくっついてるし、それも理解できてるんだが……どうも不安になる)
傭兵(ったく……まさか手を抜いただけでこんなことになるとはな……)
傭兵(これじゃあ死ぬだけの簡単なお仕事じゃあねぇだろ)
傭兵(なぁにが『一日に一人、誰かを殺さないと理性が切れる』副作用だ)
傭兵(あれは『一日に一回、誰かと戦わないと気が済まない』って感じなだけじゃねぇか)
傭兵(まるで遊び相手が欲しい子供そのもの——)
傭兵「——子供……?」
傭兵(そうだ……アレはまさに子供なんだ。“戦闘”という遊びをしているだけの)
傭兵(だから手を抜いて怒ったから、あんなことをしてきた)
傭兵(手を抜いたらこうなるから全力で来い、と示してきた)
傭兵(真剣に遊んでくれないから、おもちゃを投げつけてきた)
傭兵(本当に、ただの駄々っ子のような——)
傭兵「——いや、違う……」
傭兵(そうじゃない……引っ掛かったのは、そうじゃない……)
傭兵(……いや、別にその考えが間違えていると思うつもりは無い)
傭兵(でも今、違和感を覚えたのは、それじゃない)
傭兵(それじゃなくて……! 俺はっ……!)
傭兵(あの子がまだ子供だってことを、見落としていた……!)
傭兵(あの子が子供だって思っていたのに……ずっとずっと忘れていた)
傭兵(すぐに勝てるからと思っていた油断なのか……勝てないと諦めて、負け続けてやればいいと思うようになってしまったせいなのか……ともかく、忘れてしまっていた)
傭兵(俺はそもそも、あんな小さな女の子が、あんな薄暗いところで眠ってしまっている現状をどうにかするべきだと、考えないといけなかったんだ)
傭兵(すぐに勝てるから良いとかじゃなくて……)
傭兵(負け続けてやれば良いなんて考えは論外で……)
傭兵(報酬なんてものは、二の次にして……)
傭兵(あの子があそこに囚われていると知った瞬間には、あの子を救うために頑張ってやらないと、いけなかったんだ)
——大人は子供の前に立ち、後ろを歩く子を守り、時には転ぶであろう子供に手を差し伸べてやる——
傭兵(……俺の生まれた村で、俺の前に立っていた大人全員が身をもって教えてくれたそれを……)
傭兵(俺は守るために、誇りとして胸に秘め、燃やし、実行していこうと誓っていたはずだ)
傭兵(それなのに……俺は……!)
傭兵「くっそ……!」
傭兵(負けるのには慣れている……? 何を言ってるんだ大バカ野郎っ!)
傭兵(んなこと今は関係ねぇ! 重要なのは……あの子のために、なんとしても勝つことだ……!)
傭兵(あの女の子のために……! あの子に手を差し伸べてやるために……!)
傭兵(俺が己の内に宿した、誇りのために……!)
〜〜〜〜〜〜
依頼挑戦
十二回目の後
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
街の中
◇ ◇ ◇
傭兵(とかなんとか昨日は息巻いていたのになぁ……)
傭兵(結局今日も負けてしまった)
傭兵(全力で戦ったのに呆気なく)
傭兵(……これじゃあいつになったらあの子を救えるのやら……)
傭兵(というかどうもあの子、ただ単に相手の少し上の実力を出してくるだけじゃないらしい)
傭兵(……正直、今日は自分でも集中力が散漫になっているのが分かった)
傭兵(救うための方法に意識が向きすぎていたせいだ)
傭兵(でも、そのおかげで気付けた)
傭兵(あの子はたぶん……一度上がった実力を、元に戻せていない)
傭兵(アレはたぶん、今日みたいに集中力が乱れる前の俺の、少し上だ)
傭兵(……その日の全力を出してさえいれば、拷問される心配は無いってことか……)
傭兵「…………」
傭兵(……いや、思考に耽るのは家に帰ってからの夜でも出来る)
傭兵(今はともかく、勝てるための手段を講じないといけない)
傭兵(そのために、まずは……!)
今日はここまで
また明日の夜にでも続きを投下していきます
乙とか本当ありがとうございます
読んでくれてるのが分かるだけでモチベーション上がるわマジで
再会しまっさ
◇ ◇ ◇
王城
◇ ◇ ◇
傭兵(ま、普通に戦場視察だわな。息巻いておいて地味過ぎるが)
傭兵(でもあの空間に何か仕掛けでも出来ればあるいは……)
門番「あれ? お疲れさん」
傭兵「おう。むしろそっちの方がお疲れさん」
門番「今日はもう中に入ったよな?」
傭兵「まぁ、な。ついでにいうと、今日はとっくに一度殺されたよ」
門番「いきなり外からやって来たってことはそうだろうな」
門番「で、じゃあどうしたんだよ?
傭兵「もう一度入って、ちょっと中を見ておきたくてさ」
傭兵「そろそろ、本気で勝ちに行こうかと思って」
門番「へ〜……今まで依頼請けた奴らの中で、そこまで真剣に戦おうとしたやつなんていなかったな……」
門番「ま、兵の訓練はまだだし、それまでなら入ってもいいぜ」
傭兵「そりゃありがたい」
傭兵「もしかしたら『一日一回だけの通行だ』って突っぱねられるかもと思ってたところだったんだ」
門番「まだ昼前だろ? それまでなら入れていいって話しだし、回数の制限も無いからいいだろ」
傭兵「知り合いになったアンタが融通の利くやつで助かったよ」
門番「にしても、よくあの姫相手に何度も戦えるな」
傭兵「姫?」
門番「あっ……」
傭兵「……あ〜……口滑らせちまった感じか」
傭兵「良いよ。聞かなかったことにしておく。融通利かせてくれたしな」
門番「わりぃな……ちっ、やっちまったぜ……」
傭兵「それよりもその口ぶり、まるであの子と一度戦ったことがあるみたいだな」
門番「まるで、じゃなくて実際にあるんだよ」
門番「っていうか、ここに勤める兵士は全員最低一度は戦ってる」
門番「本当は何度も戦っていいことになってるんだが、あの勝てそうで勝てない感じが続くとな……みんな五回目ぐらいでリタイアしてるんだよ」
門番「だからお前とか、今まで依頼を請けてたやつとか、よく何十回もチャレンジ出来るなって思うわけよ」
門番「尊敬するわ、ホント」
傭兵「なるほどね……」
傭兵(訓練の一環、みたいな感じか)
傭兵「……で、その兵士達の中で勝てた奴はいるのか?」
門番「騎士長だけだよ。俺も含めて他は全然。途中で心折れるし」
門番「だからって訓練して強くなっても再挑戦する気は起きないしな」
傭兵「なんで再挑戦しないんだ? 強くなってる実感があるんなら試してみたくなるだろ」
門番「なるにはなるんだが……あの子相手にはどうもな」
門番「それになんていうか……あの子に対して、ある噂があるんだ」
門番「そのせいでどうにもな……勝てない気しか起きなくなっちまう」
傭兵「噂?」
門番「なんでもあの子は、王が作り上げてる人間兵器らしいんだよ」
傭兵「人間兵器?」
傭兵「なんか、えらく突拍子もない話だな」
門番「そうかもしれないけど、でもよく考えてもみろよ」
門番「死んでも蘇ることができる、一対一の戦いで無敗を誇る強さを持った人間」
門番「人間兵器ってのはつまりそういうことだぞ」
門番「もし戦争になって城攻めにあった場合、あの子と城の中にいる神父と一緒に逃げてれば、何度もその強い人間兵器を戦わせることが出来るだろ?」
傭兵「なるほど……つまり、人間自身を使っての堅牢な盾、ってことか」
傭兵(それも、相手を傷つけることが出来る、剣も併せ持った攻撃的で強力な盾)
門番「そういういこと。だからま、そもそも兵器として育てられてるのが相手だと勝てないだろう、って思っちまって、挑めねぇんだよ」
◇ ◇ ◇
訓練所
◇ ◇ ◇
傭兵「さて……」
傭兵(戦場となる部屋はとっくに鍵がかけられてる、か……)
傭兵(ふむ……ま、ぶっちゃけ中には何も無いことは知ってるからな。用は無い)
傭兵(伊達に、何度も中で戦っちゃいない)
傭兵(仕掛けが施せるかどうかの確認をジックリとしたかったが……仕方が無い)
傭兵(この周りからどうにか出来ないか調べるか……穴でも開けれたら言うこと無いんだが)
ザッ、ザッ、ザッ…
傭兵(にしても……人間兵器、か……)
傭兵(もしその噂が本当なら……俺や兵士が戦わされてるのって、実は彼女を強くするためだけだったりするのか……?)
傭兵(この依頼を含めたその全てが……上手く使われてしまってるだけ、だったり……?)
傭兵(それに……あの門番が口を滑らした内容……)
傭兵(姫……っていうのが、もし王女のことを指すのだとすれば……)
傭兵(この国の王が、自分の子供を盾にしようとしていることに他ならない、ってことになる)
傭兵(……まぁ、姫って言葉だけでそこまで考えるのは早計か……)
傭兵(当初の推理どおり、どっかの貴族の娘さんかもしれない)
傭兵(日頃の雰囲気がお姫様みたいにキレイだから、とかそんなかもしれないし)
傭兵(口止めだってまぁ、貴族だとバレたくないから、ってだけの理由かもしれないし)
傭兵(……それにまぁ、人間兵器にせよ王女にせよ、今はあの副作用からあの子を助けてやるのが先であることに変わりは無い)
傭兵(加護を受けたことを後悔してるからこその副作用なわけだから、副作用を一時的に解除してやってもなんの解決にもならないが……)
傭兵(解除させればもしかしたら、正常な状態のあの子と話が出来るかもしれないし)
傭兵(そこから後悔している理由も聞き出して、助けてやればいい)
???「……本当にいらっしゃるとは……」
傭兵「えっ?」
メイド「どうも」
傭兵「あ、これはどうも。初日以来ですね、メイドさん」
メイド「そうですね」
傭兵「で、どうかしましたか?」
メイド「どうしたもこうしたも……門番からあなたがやって来たと報告を受けたので、様子を見に来たのです」
傭兵「あれ? もしかして追い出される感じですか?」
メイド「いえ。あの子を倒してくれるための視察という話ですし、そんなことはしません」
メイド「むしろ、そこまで真剣になってくれて、感謝しているぐらいです」
傭兵「そうですか。それは良かった」
メイド「とはいっても、兵の訓練の邪魔にはならないで欲しいので、時間は厳守してもらいますが」
傭兵「分かってますよ」
メイド「…………」
傭兵(さて……メイドさんも来たことだし、余計な思考ばっかりしてないで、なんとか勝つための方法を見つけ出さないとな……)
傭兵(……いやでも、今の内にあの子の副作用について気付いたことを話しておくべきか……?)
メイド「その……」
傭兵「あ、はい?」
メイド「お忙しいところすいません。ですが、訊かせていただいてもよろしいですか?」
傭兵「え? なんですか?」
メイド「どうして、そこまでしてくれるのですか?」
傭兵「そこまで?」
メイド「今まで依頼を請けてくれた方は、そこまではしてくれませんでした」
メイド「戦って負けて、負け続けて折れて、そのまま辞めていった……」
メイド「それなのにあなたは、その人たちと同じぐらい負けているのに、折れるどころかさらに必死になってくれています」
メイド「それは、どうしてですか?」
傭兵(どうして、か……)
傭兵(……この場合、大人だから当たり前、って返したところで、あんま理解してもらえないんだよなぁ……)
傭兵(なんか、見知らぬ誰かのために頑張る、ってのは、例えその対象が子供のみであったとしても、どうも裏があるように思われるみたいだし)
傭兵(……俺の村って特殊だったのかなぁ……世界を見てた時もなんとなく思ってたけど……)
傭兵「……まぁ、理由は色々ありますよ」
傭兵「ただ、子供が副作用を想定して、寝るときからあんな薄暗いところに行って眠って、起きてその日の副作用を終えて意識を取り戻したら誰かの死体が転がってる……」
傭兵「なんて、不幸な出来事に見舞われ続けるのは、あまりにも可哀想だからですよ」
メイド「ですが……あの子はあなたにとって、この依頼を請けるまではなんの関係もなかった人でしょ? それなのに……」
傭兵「確かにそうだけど……だから、それだけが理由じゃないんですよ。色々あるんですよ、色々」
傭兵「それこそほら、傭兵としての報酬とか、ね」
メイド「…………」
メイド「……そう、ですか……」
傭兵「そうなんです」
メイド「……ありがとうございます」
傭兵「いえ、ですからその……頭を下げる理由なんて無いんですよ? 報酬が出るからやってるだけで……」
メイド「そういうことにしておきます」
傭兵「そういうことにって……」
メイド「ですが、そういうことにする前に……一言だけお礼を言っておきたかったのです」
メイド「見知らぬあの子の為に頑張ってくれて、本当、ありがとうございました」
傭兵「ですから——」
メイド「いえいえ、これは私の勝手な勘違いです」
メイド「勘違いで勝手にお礼を言ってきただけのバカ女、とでも思って、てきとうに受け止めておいてください」
傭兵「——…………」
傭兵「……はぁ……」
傭兵「分かりました。では互いに、そういうことにしておきましょう」
傭兵「それよりも、ここ最近戦っていて、あの子の副作用について気付いたことがあるのですが」
メイド「副作用について……? どうされました?」
傭兵「あの子、『一日に一人、誰かを殺さないと理性が切れる』って副作用ではないみたいです」
メイド「えっ?」
傭兵「アレはどちらかというと、『一日に一回、戦わないと気が済まない』——いや、『一日に一回、“戦い”という遊びをしたい』って方が正しいかもしれません」
メイド「それは……! でも……。……いえ……どうしてそう思われるのですか?」
傭兵「こちらが手を抜いた時、いたぶるような、拷問じみたことをされたんです」
傭兵「まるで手を抜くなって叱ってるみたいに」
メイド「そういえば……勝手に辞めて行った人がいたことがありましたが……まさか……」
傭兵「たぶん、それのせいでトラウマにでもなったんでしょう」
メイド「ですが、それだけでそう決め付けるのは早計なような……」
傭兵「でも『誰かを殺さないと理性が切れる』っていうんなら、手を抜いた瞬間に俺を殺してないとおかしいですし」
傭兵「だって殺していないと理性が切れている、ってことはつまり、戦っている段階では理性が切れてるってことですよね?」
傭兵「となったら、そんな手加減じみたことが出来るはずもありません」
傭兵「それと他にも、あの子の力加減もそう思わせる要素の一つです」
メイド「力加減?」
傭兵「最初は、段々とあの子が強くなっているのかと思ってましたけど……冷静になって考えてみれば、それはあり得ないんです」
傭兵「あれは段々と、抜いていた手を加えていっていただけだと思います」
メイド「それはまた……どうしてですか?」
傭兵「俺の前に十一人、この依頼を請けて辞めている人がいたからです」
メイド「……どういうことです?」
傭兵「単純に、俺が弱いってことですよ」
傭兵「段々と強くなっていってるから勝てない、っていうんなら、そもそもその十一人の傭兵が俺より弱くないと話しにならない」
傭兵「それは絶対にありえない」
傭兵「まさか十一人もいてそんなことがあるはずもない」
傭兵「となると、あの子自身が最初は力を加減し手を抜いていることになる」
メイド「だから……手加減をしていたのは、出来るだけ長く戦っていたいから……と、そういうことですか」
傭兵「そうだと思います」
傭兵「相手より少し強くなるように加減しているのはまぁ、子供だからでしょう」
傭兵「遊びだと思っていても負けたくないんだと思います」
メイド「ですが……それこそどうして、今までの十一人の傭兵は気付いてくれなかったのでしょうか……」
メイド「副作用に関しては仕方ないにしても、せめて手加減されていることぐらいは気付いても良さそうなものですが……」
傭兵「そりゃまぁ、俺みたいに『自分は弱い』なんて認めてる傭兵のほうが少ないですし」
傭兵「まして、女の子に手加減されているなんて認めたくないでしょう」
傭兵「よしんば認めていたとしても、それは結局あの子に勝てないって形にしか作用しない」
傭兵「で、作用したらしたで、報酬のために手を抜いて戦って、それにあの子が怒って拷問されて恐怖して逃げ出して……ってなってりゃ、まぁ気付かないでしょう」
傭兵「それでまぁ、あの子が手加減してくれてるなら、ってことで、一つ俺みたいなザコでも勝つ方法を一つ思いついて、こうしてココにやってきたのですが……」
傭兵「……ちょっと確認ですが、ココで戦うことって出来ないですか?」
メイド「ココって……訓練場で、ってことですか?」
傭兵「はい」
メイド「それは……ちょっと、難しいかと思います」
メイド「そもそもあの子をこの中で戦わせているのは、外に見られたくないからなんです」
傭兵「見られたくない?」
メイド「はい……その、少々事情がありまして……あまり明るみにはしたくないのです。あの子の存在は」
傭兵(人間兵器としてか……それか、姫として、か……)
メイド「ですので、あの外で戦うのはちょっと……」
傭兵「そうですか……じゃあまた、別の方法を考えないとな……」
傭兵(やっぱ壁か床に小さな穴開けるしかないか……なんとか違和感なく開けれる場所は無いものか)
メイド「…………」
メイド「……ですが……」
傭兵「ん?」
メイド「もし、なんとかなるのなら、絶対に勝っていただけますか?」
メイド「あの子を、少しの間だけでも、副作用から救ってくれますか?」
傭兵「……もちろん」
メイド「そうですか…………」
メイド「…………少々、お待ちください」
〜〜〜〜〜〜
メイド「お待たせいたしました」
女騎士「どうしたのさメイドさん。ボクをこんなところに連れてきて」
女騎士「っていうか、コイツ誰?」
メイド「お忙しいところすいません。こちら、今あの子の相手をしてくださっている、傭兵さんです」
メイド「それで傭兵さん、こちら、この国の騎士長をしている、女騎士さんです」
女騎士「ふ〜ん……」
傭兵「どうも」
女騎士「……で、コイツがどうしたの?」
メイド「実は彼が、この訓練場であの子と戦わせていただけないかとおっしゃってまして……」
女騎士「はぁ!? なんでまた」
傭兵「それは——」
女騎士「どうせ外に出たって勝てないんだからさ、面倒なことさせないでくれない?」
傭兵「——…………」
女騎士「アンタは知らないのかもしれないけどさ、あの子はあんまり明るみに出したくない子なの」
女騎士「あ、なんで? とかは聞かないでね。説明するのも面倒だから」
女騎士「でね、その子を外に出して戦わせるってことは、あの子と戦ったことがある信用できる兵だけで、訓練場に誰も近付かないように見張らないといけないの」
女騎士「そこまでのことをさぁ……勝つ見込みのないアンタのためにするのって、正直やってられないのよ」
女騎士「環境が変われば勝てるとか、そんなことないんだからさ」
傭兵「…………」
女騎士「分かった? 分かったらこの話はおしまいっ」
傭兵「……………………」
女騎士「っていうかアンタ、見ただけで分かるよ。あんまり強くないよね」
女騎士「ある程度は鍛えてるみたいだけど、そもそもそんなに才能ないんじゃない?」
女騎士「大人しく魔導書でも読んで細々と魔法の勉強してた方が強くなれてたんじゃない?」
傭兵「………………………………」
女騎士「あ、それとも魔法覚えられるほどの頭も魔力もないとか? だから仕方なしにそんな肉付きで傭兵なんてやってるの?」
女騎士「だったらもう辞めて畑でも耕してなって。才能無いやつが加護を受けて無理して戦ってても、悲しいだけだよ?」
傭兵「…………………………………………」
傭兵(………………………………………………うっぜぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!)
傭兵(なんだこのチビは……! ちゃんと成長しきった顔してるからコレもう絶対成長止まってるだろっ!!)
傭兵(なんでテメェみたいなお子ちゃま体型にそんな全存在否定みたいなこと言われねぇといけねぇんだよクソがっ!!)
傭兵(死ねっ! 無残に死ねっ!! 溝にハマって抜けなくなってそのまま餓死しろっ!!!! 巨人にでも踏みつけられてしまえこのガキがああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!)
傭兵「…………」
ス〜…ハ〜……
傭兵(……いやいや、仮にも騎士長だぞ?)
傭兵(落ち着こう、落ち着こう)
傭兵(俺みたいなザコが見ても隙が無いのは分かってるぐらいには強いわけだし)
傭兵(っていうか今もいつでも腰の剣に腕を伸ばせる自然体だし)
傭兵(確実に戦ったら負けるだろうし)
傭兵(そんな相手から見たら確かに俺はザコな訳だし)
傭兵(本当のことしか言われて無いわけだし)
傭兵(……うん……そうだ。そうだよそうだよ)
傭兵(だから、落ち着け……落ち着け…………)
傭兵(言ってることも間違ってないんだ)
傭兵(確かに俺には接近戦の才能はほとんど無い)
傭兵(だから、言われても仕方がない……仕方がないことなんだ……うん)
傭兵(本当のことを言われて図星を突かれただけでキレて襲って反撃されて殺されたら話しにならないからな……うん)
傭兵(今必要なのは……そうしてキレることじゃなくて……)
傭兵(冷静に……冷静に……)
傭兵「女騎士、一つ聞いていいか?」
女騎士「は? 呼び捨て?」
傭兵「テメェなんて呼び捨てで十分じゃこらぁっ!!」
本日はここまで
明日はちょっと書き溜めるので続きは明後日で
再開します
傭兵「……ごほん。え〜……一瞬取り乱した、ごめんごめん」
女騎士「いや、許さないけどね」
傭兵「じゃあ無視する」
傭兵「んで、聞きたいんだけど」
女騎士「え? まさか答えてもらえると思ってるの? ボクはまだ許してないんだけど??」
傭兵「オマエって、あの子に勝てたことあるのか?」
傭兵「あ、無様に負けたんなら答えなくていいよ。答えるのも恥ずかしいもんね。まさかこの国の騎士の長が一人の女の子にも勝て無いってなるとさすがに——」
女騎士「勝てたわよっ! 何勝手に決めつけてんのっ!?」
傭兵「そっか勝てたか……で、どうやって勝ったの?」
女騎士「ふんっ。それは答えないわよ」
傭兵「まぁ大方、あの子が合わせられないほど強いから勝てたんだろうけど」
女騎士「合わせる……? なんのこと……??」
傭兵「力バカらしい勝ち方だってこと」
女騎士「おいこら殺すぞ」
傭兵「でまぁ、俺の場合はその力が無いから勝てないと見込んで協力できないってことだろ?」
女騎士「ちょっと、ちゃんと謝れってよさっきから」
傭兵「でもさ、そんな力任せじゃない別の方法で勝てるとしたら、どう?」
女騎士「え? んな方法あるわけないじゃん。バカじゃないの?」
傭兵「それがあるんだよ」
傭兵「で、それを今から証明する」
女騎士「さっきから都合のいい部分ばっかで返事しないでよちょっと」
女騎士「っていうか証明なんてどうやるつもり? 出来るわけないじゃん」
傭兵「じゃあ、出来たら協力しろよ?」
女騎士「ふんっ。出来たらね。見張りぐらいやってやろうじゃないの」
傭兵「というわけでメイドさん、聞いていましたよね?」
メイド「あ、はい」
傭兵「では、これから証明します」
傭兵「ですので、女騎士が言葉を覆した場合の証人、お願いしますね」
メイド「分かりました」
傭兵「では、いきます——」
〜〜〜〜〜〜
傭兵「——とまぁ、こんな具合でどうだろう?」
女騎士「…………」
メイド「…………」
傭兵「今まで接近戦しかしてこなかったのに、突然これだけの威力を持った魔法も絡めれば、さすがに対応できないだろ?」
傭兵「といっても実際はこれほどの威力をぶつけるつもりはないけどさ
傭兵「でもまぁ、あの子を打倒できる証明にはなるだろ?」
女騎士「……ふんっ。……つまり、力で超えられないから魔法を使おうってこと?」
傭兵「厳密にはちょっと違うけど、ま、そういうことだ」
女騎士「……分かった。いいよ。そういうことなら協力してあげる」
傭兵「やけにあっさりだな……てっきり駄々をこねられるかと……」
女騎士「アンタはボクのことをなんだと思ってるんだよ……さすがに、こんなに訓練場をメチャクチャにされるほどの魔法を見せられたら納得もするよ」
女騎士「アンタの力をある程度認めるしかないかな、ってさ」
女騎士「それにボクだって、出来ればあの子の副作用をどうにかしてあげたいんだし」
女騎士「仕事さえなかったらボク自身がするってのに……」
傭兵(……周りに愛されてるんだな……あの子)
傭兵「……ま、ともかく協力してくれるんならありがたい」
女騎士「といっても、これだけ出来てもボクには勝てないだろうけどねっ」
傭兵「そのドヤ顔止めろ」
傭兵(とはツッコむけど……俺もそんな気はしている)
傭兵(例え魔法を使っての総合力で戦っても、一対一で戦ったら負ける)
傭兵(そんな雰囲気が彼女にはある)
傭兵(間違いなく彼女は……強い)
傭兵(子供みたいな見た目に反して相当な実力があるのが分かる)
傭兵(あの子に勝ったという話も納得だ)
傭兵(……っていうか実際にはいくつなんだ……? こんなガキっぽいのに騎士長なんて位の高さだから結構な年齢なのか……??)
傭兵(……って、今はそんなこと関係ないな)
傭兵(重要なのは、明日だ)
傭兵(明日……本当にあの子に勝てるかどうか……)
傭兵(そこに全てが、懸かってる)
〜〜〜〜〜〜
依頼挑戦
十二回目
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
訓練所
◇ ◇ ◇
傭兵「さて……」
傭兵(ギャラリーはこれといっていないように見えるが……どうも囲まれている感じがする)
傭兵(ちゃんと見張りはいてくれてるってことか……)
傭兵「……よしっ」
傭兵「それじゃあ、今日で終わりといこうか」
ガラガラガラ…
…コツ
傭兵(ともかく、まずは当初の予定通り外へと出さないと——)
傭兵「——っ!」ザッ!
ヒュンッ…!
ダンッ!!
???「…………」
傭兵(っぶねぇ……入ってすぐ上から一撃とか……初日にされた攻撃の再現かよ……!)
傭兵(……まぁ、決着をつけるには相応しいか……)
傭兵(それにこの方が——)
ザッ!
傭兵(——外へと誘き出しやすいっ!!)
傭兵「さぁ——」スッ…
傭兵「——来い」ジャキ
???「……っ」ザザザ…!
キィン!
傭兵(かかった……!)グググ…!
傭兵「さぁ……差を、広げようかっ……!」ギィィ…ン!
鈍い音と共に、あの子の剣が俺の剣から離れる。
何十回もの戦いで分かっていた。
単純な力だと、瞬間的にはこちらが上回れると。
だからこうして相手との鍔迫り合いを中断し、バックステップを繰り返し大きく距離を取り——
——あの子が再び距離をつめるよりも早く、こちらは剣を上へと投げ、力強く地面を踏みつけた。
魔法とは、大地の力を天へと届かせる際に発生するもの。
大地のエネルギーを天へと放出する際に発生する余波エネルギー。
それこそが魔力の正体だ。
だからこそあの『倉庫の中(けっとうじょう)』では使えなかった。
こうした屋外でしか、魔法は使えないのだ。
ダァン! と響く足音と共に、その踏み締めた箇所から円形に、泥沼のような水溜りが広範囲に出来上がる。
その範囲は俺の周囲からこの訓練場の果てまで。
これで高速に動くあの子の足を、確実に遅くできる。
戦場が広くなったからと不利になることもなくなる。
これが俺の第一の狙い。
そう、第一だ。当然これだけで勝てるとは思っていない。
これはあくまでも、昨日まで戦っていた場所とイーブンにするための手段でしかない。
広さは素早い向こうが有利だろう。
だが足を捕らわれるこの場所は不利になるだろう。
そうすることで一対にしようという考えだ。
だから、次の手を打つ。プラスマイナスゼロで終わらせないための手を。
俺は目の前を通り過ぎ、重力に導かれ泥沼へと落ちる剣をそのまま見送り、次の魔法を発動するためにしゃがみ込む。
先ほどのように、足で魔法を発動させることは出来る。
が、一番良いのはやはり手で触れること。
広範囲に大雑把に効果を及ぼすことしか、足では出来ない。
細やかな指示を送るのは、やはり直接地面に手を触れさせ、天高くと手を掲げるのが一番だ。
……俺の属性は水だ。
属性とは、その人が使える魔法の系統。
天へと打ち上げた際の余波エネルギーは、この属性へと姿を変える。
そして人は、この属性のみを自由に操れる。
それこそが魔法だ。
伝承に残る勇者は複数の属性を使いこなせ、さらには勇者限定の属性まで使っていたようだが、俺のような一般人は基本五属性のうち一つだけが当たり前となる。
しかし、こんなものは応用でどうとでもなる。
水しか製造・操作できないからといって、勝てないことにはならない。
俺は自らの周囲に水の触手を五本生み出し、自らの左右に一本ずつと、背後に三本配置した。
触手……といっても、ウネウネとは動かない。
いや、動かすほどの腕が俺には無い
故に、直立不動の柱と同等。
だが俺の意思で動かし、突進させることは出来る。
それは矢を超える速度で、槍を上回る威力を誇る。
水の塊でありながら、人を壊せるほどの力を発揮させられる。
……が、当然欠点はある。
大きな理由としては自動で動いてくれこと。
だから自分の身体を動かしながら、この柱触手へと指示を出すよう並列して脳を動かさなければならない。
つまり、かなりの集中力が必要だということ。
(……短期決戦だな……)
いつもは三本で戦っている。
だがそれよりも二本増やしている。
全盛期の頃の自分の全力に等しい。
鈍った集中力でやるには持て余してしまうかもしれない。
だがそれでも、昔のように扱いこなせないと、彼女には勝てない。
それは何十回も死んだ俺だからこそ、一番分かっている。
>>77 ×→大きな理由としては自動で動いてくれこと。
○→大きな理由としては自動で動いてくれないこと。
治したいとこが他にも見つかったけどこのミスは大きいので
先ほどは見送り、泥へと半分以上沈んでいる剣を抜いて、立ち上がる。
……俺は女騎士のように、単純な力ではあの子に勝てない。
こうして昔の全力を出して、おそらくはようやくといったところ。
それほどまでに俺は弱い。
一対一の戦いに圧倒的に向かないのだ。俺は。
だがそんな俺でも、勝てる方法を見つけ出した。
……あの子は、こちらといい勝負をしながらも勝てるような手加減をしている。
だがもしその目測よりも圧倒的に強い力を、突然俺が出してきたなら?
それは確実に、対応が出来ない攻撃となる。
それがこの魔法なのだ。
俺は今まで、魔法を使わずにあの子と戦ってきた。
そんな俺に合わせていたあの子が、突然魔法を使えるようになった俺に合わせられるはずも無い。
……いや、きっとすぐには合わせてくる。
だが合わせるにも時間は掛かる。
その時間こそが、勝負。
その間ならば、俺でもあの子に勝つことが出来る。
だから、一瞬でもいいのだ。俺が全力を出せるのは。
その一瞬で、あの子を仕留める事が出来るのなら……それで……。
そう……勝てる方法は、二つ。
女騎士のように、あの子に合わせられないほど強い力で立ち向かうか……。
俺が今やろうとしているように、瞬間的にでも彼女の目測を超えるか……。
その二つだ。
「……さぁ……勝負だ。……俺が一度でも、殺してやるよ」
〜〜〜〜〜〜
???「」
傭兵「はぁ……はぁ……はぁ……」
傭兵(勝てた……)
傭兵(……っていうかおい……勝てたのが奇跡に感じるって……本当、ただの偶然の産物にしか思えないって……あの子、どんだけ強いんだよ……)
傭兵(まさか全力を出したってのに、腹を貫かれるとは思いもしなかった)
傭兵(本当に、一瞬だった)
傭兵(真正面から一本・上空から二本・背後に回って一本……)
傭兵(その攻撃の包囲網をすり抜け迫る彼女に攻撃されながらも、なんとか足止めして……)
傭兵(こっちの攻撃を避けられた瞬間、カウンターで刺されて……)
傭兵(でもなんとか、その攻撃で腕を掴んでいる隙に、最後の一本を頭上から落として……)
傭兵(……ったく……相打ちじゃねぇか、これじゃあ)
メイド「……お疲れ様です」
傭兵「……あぁ……どうも……」
メイド「……勝っていただき、ありがとうございました」
傭兵『いえいえ、どういたしまして』パクパク
傭兵(っ……! くっそ……もう声が出ないか……)
傭兵(っていうか、もう……瞼がすっげぇ重いし……)
傭兵(力も……抜けてきてるし……)
メイド「……また、明日で構いません」
メイド「本日は本当に……ありがとう、ございました」ペコ
傭兵(ああ……そうかい)
傭兵(それはありがたい)
傭兵(こんなもん。蘇らせてもらっても、すぐに戻ってこれるほどの体力がねぇからな)
傭兵(明日で良いってんなら……相打ちだってのは、明日言わせてもらおうか……)
メイド「これであの子は……少しの間でも、救われます」
メイド「本当、あなたのおかげです」
メイド「できればまた……よろしくお願いいたします」
傭兵(ああ……当たり前だろ。むしろこちらからお願いしたいぐらいだ)
傭兵(何より、そういう契約だろ? 大事な大事な、食い扶持さ……)
傭兵(だから……明日からもまた、任されたよ……——)
第一部・終了
キリが良いので今日はここまで
第一部終了です
本当はプロローグにしようと思ったけど長かったのでもう第一部ってことで
前回戦闘シーンがセリフと音だけでよく分からなかったのでそこだけ実験的に文章形式にしてみた
でも俺ド下手だから、あんまり文章形式はやりたくないんだ…
だから次もまたこうするかどうかは分からない
というわけでまた明日
続きいきます
〜〜〜〜〜〜
翌日
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
城門前
◇ ◇ ◇
傭兵「あれ?」
メイド「どうも。お待ちしておりました」
傭兵「どうしたんです? 一体」
メイド「休暇についてのお話をしようかと思いまして」
メイド「他にもお給料の話とか、色々と積もる話でもしようかと」
メイド「今日も一応は来てくださると思い、待っておりました」
傭兵「ああ、そういうこと」
メイド「では、お話しするためのお部屋にご案内致します」
傭兵「あ〜……ちょっと待って」
メイド「はい?」
傭兵「あの子と戦った場所って、今もまだ見せてもらうことって出来ます?」
メイド「それは……まあ……」
傭兵「それじゃあ、そこで話をしませんか?」
メイド「え?」
傭兵「このままだと、結局一人では勝てそうにありませんからね。また兵達に訓練場を見張らせるのも悪いですし」
傭兵「ですから、これからしばらくは時間があるわけですし、ちょっと細工でも出来る場所でも見つけようかな、と思いまして」
傭兵(それにま、あの差を埋めさせない戦い方は、次は使えないだろうし)
コツコツコツ…
メイド「まさか、もう次のことを考えてくださるとは……」
傭兵「そうでもしないと、ありゃ勝てませんよ」
傭兵「さすがにまた何十回も殺されてからようやく対策を見つけるのは勘弁だからな……」
傭兵「今の内に、不意を衝ける場所を見つけて準備しておけば、その回数を大きく減らせるって訳ですよ」
メイド「……本当、ありがとうございます」
傭兵「いやいや、これが依頼されたお仕事ですから」
メイド「それでもですよ。って、このやり取り、前もやりましたね」
傭兵「そうですね。もうしつこいってぐらいやってる気がします」
メイド「……でも、それだけ本当に感謝しているんです」
メイド「昨日のことといい、まだ引き受けてくれることといい……ね」
傭兵「…………」
メイド「……まぁ言葉はタダですから。気が済むまでかけさせてくださいよ」
メイド「お礼の言葉でお茶を濁してお給料を払わない、なんてことはないんですから」
メイド「いえむしろ、このお礼を聞くのもお給料の内と思っておいてください」
傭兵「……そう言われたら反論できなくなるなぁ……」
メイド「ふふっ……ええ。ですから、反論しないで、受け止めてください」
◇ ◇ ◇
訓練所
◇ ◇ ◇
ギィ…
ガラガラガラ…
メイド「ではどうぞ。私の話はながら聞きで結構ですよ。それがあの子の為になることですし」
傭兵「あ、はい」
メイド「さて……では休暇についてですが……まぁこちらは説明するまでも無いでしょう」
メイド「あの子がまた副作用を発症するまでの間、基本的には休んでもらっていて大丈夫です」
メイド「もちろん今まで通りなら、今日のように訓練所になら来て頂いても構いません」
メイド「そして依頼書に書いておいた通り、この休暇中もお給料は発生いたします」
メイド「ですので、十分にお休みになるのもご自由です。ご安心ください」
傭兵「……あの」
メイド「はい?」
傭兵「あの子はさ、副作用を発症していない時はどこで寝てるんです?」
傭兵「まさか、発症している時と同じでココ?」
メイド「いえ。さすがに城内にあるご自分のお部屋でお休みになられております」
メイド「それがどうされました?」
傭兵「いや、発症したその朝に呼び出されるのかなぁ、って思いまして」
メイド「いえ。その日は女騎士様がなんとかしてくださいます」
メイド「ですので傭兵様の手をお借りするのは、その翌日からですね」
傭兵「…………」
傭兵「……ん〜……」
メイド「何か他に、気になることが?」
傭兵「……あの子が誰なのかは、教えてもらえないんですよね?」
メイド「……申し訳ありません」
メイド「あの子を助けてくれたあなたに教えないのは、本当に悪いと思っているのですが……」
傭兵「ああ、いやいや。所詮俺は雇われの身分ですから。信用しないのが正しいんです」
傭兵「そうして教えないことのほうがむしろ納得できる」
傭兵「ちょっと一つ依頼をこなしてもらったからって秘密をあっさりと明かすのは、あまりにも素直で、迂闊過ぎで……」
傭兵「逆に、疑ってしまいますよ」
メイド「そう言って頂けると、助かります」
傭兵「ただ……まぁほら、アレですよ」
傭兵「少なくとも外部の人間には、あの子が誰なのかを教えられない程度には上の身分ってことですよね?」
メイド「……そう、ですね……はい」
傭兵「そんな子が加護を受けるってことは、命を狙われてるってことで……」
傭兵「それも、あの子自身も殺されるかもしれないと自覚している、ってことになります」
傭兵「……そんな子がどうして、加護を受けたことを後悔しているのかなぁ、と思いまして」
メイド「…………」
傭兵「一定期間殺されないことはあくまでも発動条件でしかなく、前提条件はあくまで加護を受けたことを後悔することです」
傭兵「もしそれさえ克服できるなら……わざわざ俺みたいなのを雇う必要も無いんじゃないですか?」
メイド「ですがそれですと、あなたの仕事がなくなりますよ?」
傭兵「女の子一人をちゃんとした意味で救えない仕事なんて、無くなっても構いませんよ」
メイド「…………」
傭兵「? どうしました?」
メイド「いえ……実は、とっくに試したんですよ」
傭兵「え?」
メイド「克服。出来るかどうかを」
メイド「ですがまぁ本当……それが出来れば苦労はしないんですけどね〜……って感じです」
傭兵「? 失敗したってことですか?」
メイド「失敗……と言って良いものかどうか……」
メイド「そうですね……全部は言えないので、とてももどかしいですが……まぁ、アレですよ」
メイド「加護を受けていない人が好き、って人を好きになってしまったが故、ですかね」
傭兵「???」
メイド「恋をしたんですよ、ある人に」
メイド「その人が、加護を受けていない人がタイプ、なんだとか」
メイド「今時の若者にしては珍しく、純正人間が好きな人だったんですよ」
傭兵「……あ〜……」
メイド「本当、恋とは本当に厄介なものですね……はい」
〜〜〜〜〜〜
翌日
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
訓練所
◇ ◇ ◇
傭兵(整理をすると、だ)
傭兵(“あの子”には好きな人がいて……)
傭兵(その好きな人が、加護を受けていない人が好きとかいう古い考えを持っている人だから……)
傭兵(加護なんて無ければいいのに! と考えて、副作用を発症させてしまっている、と……)
傭兵「…………」
傭兵(……まぁ、そこまでは家に帰ってから何度も考えていたことで……)
傭兵(惚れてしまった相手が誰なんだとか、その程度で加護を拒絶するなんて本当に子供だなとか)
傭兵(そういうのも気にはなるけれども、それ以上に……だ)
傭兵(そもそもどうして加護を受けることになったのか、だ)
傭兵(……やっぱり俺のように、受けさせられた、って考えるのが妥当か……)
傭兵(この城に住むぐらいのお嬢様だしな……誰かに襲われても最悪死なないために、って考えで子供の頃に受けさせられたのかもしれない)
傭兵(だからこそ、心の底からの実感が無くて、好きな人の好みってだけで後悔してしまっているのかもしれない)
傭兵(でないと、自分の意思と覚悟をもって受けたのに後悔している、なんておかしなことになる)
傭兵(まだちゃんと理解していない頃に受けさせられたか、それとも勝手に受けさせられたか、のどちらかだろう)
傭兵(……やっぱり、生物兵器——というよりかは人間兵器として運用するために死なないようにされているとか……か?)
傭兵(それならムリヤリな加護の理由にもなるし、好きな人に受け入れられない自分を嘆くのも説明がつく。アレだけ強いんだからむしろ正しいようにしか思えない)
傭兵(……でもそれなら尚のこと、今でもこの空間に住まわされそうなもんだけどな……)
傭兵(強くて危ない兵器なはずなのに、閉じ込められることなく今は普通に城での一室って過ごしてるってのがどうも……)
傭兵「……………………」
傭兵(昨日は調べ忘れたから改めて調べてみたが……やっぱりこの空間、とりあえず寝るための設備しかない)
傭兵(具体的にはベッドのみで、後はもうホント戦うためだけの場所になってる)
傭兵(ということは副作用がある間は、着替えてからここで寝ていたことになる)
傭兵(じゃあやっぱり副作用が無い今のような日々は、ちゃんと城の中で寝泊りしてるってことだろう)
傭兵(そうじゃなけりゃもうちょい何かしらの荷物があってもおかしくはない)
傭兵(……まぁ、副作用が無い間だけ持ち出してるって可能性もあるにはあるが……)
傭兵(それよりも可能性としてあるのは、やっぱりあの「生物兵器」にされている子自身が、どこかの貴族の子、って線か)
傭兵(王様に取り入るために我が子を生贄として差し出した……的なね)
傭兵「……この辺のことが聞けたら良いんだけどなぁ……」
傭兵(もしこの考え全てが間違えていてくれて……自分の意思で加護を受けたんなら、その頃の気持ちを思い出してもらうだけでどうにかなるってことになるのにな……)
傭兵(おかしなことになってる気持ちを説得を続けるだけで正せる、という希望が持てるようになるってのに……)
ギィ…
傭兵「ん?」
ガラガラガラ…
???「あっ」
???「本当にいらっしゃいましたわ」
傭兵(あの子……戦っていた“あの子”か……?)
傭兵(……間違いない。動きやすい格好じゃなくてドレスだったからすぐに気付かなかったが……)
???「どうも。こうしてお話しするのは、初めまして、ですね」
傭兵「そう、なりますね」
???「失礼ながらわたくし、あなたのことを死体ででしかお見受けしたことがなかったので……なんだかこうして会話しているのが、不思議な感じですわ」
傭兵(そりゃこっちもだよ)
傭兵(っていうか、そんな声と喋り方だったのか。なんか意外だ)
姫「どうも。わたくし王の娘で、姫と申します」
傭兵「なっ……!」
姫「えっ?」
ちょっと短いけど今日はここまで
書き溜めを直してると思いのほか時間食っちまった…
続きはまた明日にしますすいません
再会しまっす
読者がいてくれるのが分かるだけで頑張れる
そんな日々
傭兵「いや……いやいやいや! そんなあっさりと自分の正体言っちゃダメだろっ!!」
姫「え? ですが自己紹介は大事なことだと教わりましたので……」
傭兵「いやそりゃそうだろうが……」
傭兵(俺が敵国のスパイとかだったらどうするんだよ……)
姫「それよりも、あの……あなたのお名前は?」
傭兵「あ? ああ……すいません。傭兵です」
姫「傭兵さま、ですか……」
傭兵「……っていうか、俺の話ぐらい聞いたことあるでしょ?」
姫「聞きましたけれど、やっぱりご本人に自己紹介してもらったほうが、なんだか嬉しいじゃないですか」
傭兵(……そういうもんかね……)
傭兵「…………」
傭兵「…………あの、お姫さま」
姫「そんなお姫さまだなんて……姫とお呼びください」
姫「あなたはわたくしを助けてくれた方なのですから」
傭兵「いや、さすがに王族の方を呼び捨てにするのは……俺でも気が引けるというか……」
姫「そうですか……」
傭兵(なんで落ち込むんだよ……)
傭兵「ってそれよりも、一つ聞いてもいいですか?」
姫「あら? はい。なんでしょうか?」
傭兵「もしかして、ココには黙ってこられました?」
姫「正解ですっ。よく分かりましたね。スゴイですっ」
傭兵(そりゃあ、な……)
傭兵(こんな迂闊——っていうか、素直で純粋な子と会わせるのは躊躇うだろう)
傭兵(っていうかぶっちゃけ会わせない方が良いと考えていたはずだ)
傭兵(現にメイドさんが必死に隠そうとしてた身分のこと、あっさりと自分の口からバラすような子だし)
姫「実は、おねえちゃんに内緒で会いに来たんです」
傭兵(お姉ちゃん……?)
姫「傭兵さまが来ている事は使用人達が話していたので知っていたのですが、いくらお願いしても会わせてくれなかったんです」
姫「それを相談したら、もしかしてここでは、と家庭教師の方が昨日教えてくださったので、試しに来てみたんです」
姫「そうしたら、いてくれましたっ」
傭兵「……で、そこまでして会おうとしてくれたってことは、俺に何か用事ですか?」
姫「はい」
姫「やはり自分の口から直接、お礼を言いたかったので」
姫「今回のことは本当、ありがとうございました」
傭兵「こりゃ……どうもご丁寧に」
傭兵「でも本当、気にしなくて良いんですよ」
傭兵「こちとらお金をもらってやったことなんですから」
姫「そうはいきません」
姫「例えおねえちゃんの言っていた通り、お金の亡者でやりたいからやっていたのだとしても、結果的にわたくしを救ってくれたのことに、代わりは無いのですから」
傭兵「……まぁ、分かりました」
傭兵「ご丁寧にどうも、ありがとうございました。お礼の言葉、ありがたく頂戴いたします」
姫「いえ。こちらもお礼を言えて、ようやく胸のつかえが取れたような清々しい気分です」
傭兵「それは良かった」
傭兵「でもまぁ、どちらにせよ……自分の正体をアッサリと明かすのは止めた方が良いですよ?」
傭兵「貴女は立場のある人間なんですから。たとえそれが礼儀で、とても素晴らしいことだとしても、ね」
姫「はぁ……」
傭兵(あ、この納得して無い感じ。たぶん同じ状況になったらまたするな)
傭兵(たぶんメイドさんが注意してるときもこんな感じなんだろうなぁ)
傭兵(……もしかして、ちょっと強情な子なのか……?)
姫「では、そうですね……交換条件、というのはどうでしょう」
傭兵「交換条件?」
姫「はい。わたくしの情報を教えたのは、あなたのことを教えてもらいたいから」
姫「そういう契約を結んだということにしてしまえば、何も悪いことにはならないのではないですか?」
傭兵「う〜ん……」
傭兵(ならない、ってことにはならないと思うが……)
傭兵(でも……この流れならこちらもワザと余計なことを言った後になら、聞きたかった情報を引き出せるかもしれないな……)
傭兵「……じゃあ、それで良いですよ」
姫「それは良かったです」
傭兵「つっても、あなたが俺なんかに聞きたいことなんてあるんですか?」
姫「そうですね……では、こうしてわたくしのための依頼を請けてくれる前のあなたは、一体何をしていらしたのですか?」
傭兵「……本当に興味あるんですか? それ」
姫「外のお話ですから、それなりには」
傭兵(……なんか、ムリヤリ見つけてもらったみたいで、悪い気がしてくる……)
傭兵(……向こうの提案に乗っただけなのになんで俺が罪悪感を抱かなきゃならんのか……)
傭兵「……まあ、いいでしょう」
傭兵「俺は、勇者候補者をしていましたよ」
姫「ゆうしゃこうほしゃ……? って、なんですか?」
傭兵「ほら、今隣の大陸、魔物だらけでしょ? 魔王もまだ存在してるし」
傭兵「あそこを開拓するための足懸かりとして、魔物を討伐し、魔王をも殺そうとしている人たちのことを、勇者候補者って言うんですよ」
姫「へ〜……ですからわたくしに勝てるほどお強いのですね」
傭兵「いや、俺は弱いですよ」
傭兵「貴女に勝つのに何度死んだことか……」
姫「それでも、最終的には勝てましたし」
傭兵(自分の強さを分かりきってるって言葉だな……まあ実際強いんだけど……)
傭兵「でももう勝てないですよ。だから次も勝つために、ここにいて対策を練っているわけですし」
姫「対策?」
傭兵「罠的な何かですよ。ま、詳しく言って無駄になるかもしれない以上、これ以上は言いませんが」
姫「なるほどぉ……でもそうして事前の準備を行うからこそ、お一人でも魔物を相手に戦えたのですね」
傭兵「あ、いや。俺は一人で勇者候補者をしていませんでしたよ」
傭兵「むしろ俺は、チームの中では弱い分類でした」
姫「……勇者候補者というのは、強い方々の集まりなのですね……」
傭兵「そういう意味では挫折してここにいる時点で、俺の強さはお察しですよ」
傭兵「俺たちは、三人チームだったんです」
傭兵「全員同じ村出身の、幼馴染だけで組んだパーティ」
傭兵「俺も含めた全員が前衛で、戦いながら互いにフォローしあうような、そんなメチャクチャな戦い方をしていた奴らの集まりですよ」
傭兵「昔は、無茶で無鉄砲な戦い方と思っていたもんですが……今思うと、あの戦い方が一番性に合っていたように思うんです」
傭兵「チームワークが良かったんでしょうかね……」
姫「そういえば、今は一緒におられないのですか?」
傭兵「……ま、色々とあったんですよ」
傭兵「それよりも、今度は俺が話しすぎましたかね?」
姫「そうでしょうか? ……ん〜……言われてみれば、そんな気もしますね」
傭兵「よかったらもう一つ、少しで良いので聞かせてもらえませんか?」
姫「あら? なんですか?」
傭兵「ずっと気になっていた噂なんですが……——」
???「ここにいましたか」
姫「あ……おねえちゃん……」
メイド「全く……」
メイド「……はぁ……あなたはもう……あれだけダメと言ったのに……」
姫「ごめんなさい……ですが、わたくし自身でどうしてもお礼が言いたかったんです」
メイド「……で、自分の身分を明かしてしまったと……」
姫「ど、どうしてそれを……! まさかおねえちゃん、最初から見ていましたね……!?」
メイド「いえ。カマをかけただけです」
姫「あ」
メイド「はぁ……そして、案の定でしたか……全く……」
メイド「本当、外の方には警戒しろとあれほど……」
姫「でも、わたくしを助けてくれた人ですし、大丈夫かな、と……」
メイド「あなたを狙うスパイなら、むしろ第一段階達成ってところでしょう?」
姫「お、おねえちゃんっ!? 本人目の前にしてそういうこと言うのはどうかと思いますよっ!?」
メイド「それぐらいのこと、傭兵さまなら理解してくれてますよ」
メイド「むしろ言われて当然だとさえ考えてくれているでしょう」
姫「えっ、そうなのですか?」
傭兵「ま、そうですね。全然気にもしていないですし、失礼な人だとも思ってませんよ」
傭兵(むしろアンタが純粋過ぎるだろうとさえ思ってるぐらいだし)
メイド「それよりも、そろそろ家庭教師の方がお見えになりますよ」
姫「えっ、もうそんな時間っ?」
傭兵(うっわすっげぇ嬉しそう。表情が全く見えないのに喜んでるのが丸分かりだ)
傭兵(……ってことは、もしかして……)
メイド「はい。ですから探していたのです」
姫「分かりました! すぐ部屋に戻りますっ!」
姫「それでは傭兵さんっ、ごきげんよう!」
姫「また次も、よろしくお願いしますねっ」
タッタッタッタッタ…
傭兵「……元気の良いお姫さまですね」
メイド「……元気過ぎて困っているぐらいですよ。全く……」
メイド「それよりも……彼女の身分について、改めて説明いたしましょうか?」
傭兵「いや、いいですよ。この国の王女だって分かりましたから」
メイド「そうですか……」
葉柄「ま、俺が知ったことは十分に警戒の対象になると思うんで、注意しておいてください」
メイド「……それって、自分で言うことなんですか?」
傭兵「言っておいた方が逆に怪しく思われないかな、なんてコスい考えをしているだけかもしれませんよ?」
メイド「…………はぁ〜……困りますねぇ……そういうのは」
傭兵「だからって、いくら自分で弁明しても信じてもらえないでしょう?」
傭兵「俺は王女だとかそういうの全く興味の無いただの一傭兵でお金さえもらえればそれでいい」
傭兵「って表明、薄っぺらくありません?」
メイド「……ま、そうですね……」
メイド「何をどう言おうと結局、あなたを警戒することに変わりはないんですよね……」
傭兵「そういうことです」
傭兵「信頼関係なんてものは、時間が無いと出来上がらないものですからね。当然ですよ」
傭兵「それよりもあのお姫さま、メイドさんのことを“姉”と呼んでましたけど……」
メイド「ああ……アレはクセみたいなものですよ」
メイド「お互いが小さな頃からお付きのメイドをしてたので、姉のように慕ってくれているんです」
メイド「昔の呼び方がそのままなだけですよ」
傭兵「ああ、なるほど……」
メイド「こういうことになるから“おねえちゃん”は止めろって、注意してはいるんですけれどね……」
傭兵「一向に直らない、ですか」
メイド「そうですね」
メイド「あの素直過ぎてすぐに正体を明かしてしまうのも含めて、本当、どうしようもないです」
傭兵「…………」
傭兵(……言う割りには、優しい笑顔を浮かべるんだな……この人は)
今日はここまでで
明日は多分こんな深夜じゃない時間に投下する
むしろそこぐらいしか時間が作れないかもしれない
再会します
〜〜〜〜〜〜
翌日
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
訓練所
◇ ◇ ◇
傭兵(結局のところ、聞かずとも悟れたことだけれど、人間兵器として彼女を製造しているという噂はガセっぽいな)
傭兵(たぶん、あれだけの強さを比喩したものが、一人歩きを続けた結果なんだろう)
傭兵(……さすがに、王女を生きた戦闘兵器化の計画のために利用するなんてゾッとしないしな)
傭兵(…………そんなゾッとしない話も昔ならあり得たから、今もあるにはあるか……?)
傭兵(……いや、そこまで疑いだすとキリがない。あの王女が自分から進んで戦闘兵器になろうとした可能性まで考えないといけなくなる)
傭兵(とりあえず、それらの可能性は潰しておこう)
傭兵(ってなると、次はどうして加護を受けることになったのか、か)
傭兵(現状、こんな部屋で寝るぐらいは協力的なところを見ると、加護を受けたことには納得していると見るべきだろう)
傭兵(自分の意思で受けたにせよ誰かに勝手に受けさせられたにせよ)
傭兵(でないと、副作用の間大人しくこの部屋で寝続けるとは思えない)
傭兵(あれだけの強さがある以上、無理矢理加護を受けさせられたのなら、本来の部屋に留まり暴れ回ろうとした方が十二分に賢い)
傭兵(あの女騎士以外はどうもあの子を抑えられないっぽいし、それぐらいはするだろう)
傭兵(でもそれをしていないってことは少なくとも、加護を受けていることに納得はしているってことだ)
傭兵(なら、他に理由があるはずだが……)
傭兵(……今更だが、コレって周りから見れば「自分の職を失うことを積極的にやってる」ってことになるんだよな……)
傭兵(普通の人が見たら明らかにおかしなことをしている人そのものだよな……金にならないことを必死になって考えてるわけだし)
傭兵(……あれ? 俺ってかなり怪しくね?)
傭兵「……ま、まぁ、ちゃんと仕掛けもやってるから、怪しまれても大丈夫か……」
傭兵(大丈夫だとか考えてる時点で色々とおかしい気もするが……)
傭兵(……にしても、あの子がどうして加護を受けたのか、は、現状の情報では推理しようも無い、か……)
傭兵(誰かに狙われたとき、せめて殺されるようなことは無いように受けた、と考えるのが妥当だろうが……)
傭兵(なんせ、王女だしな)
傭兵(もしこの考えが正しいとなると……その好きになった人の好みが加護を受けていない人だったから、ってのを前提条件に据えて考えるに……)
傭兵(現在加護を受けたことを後悔しているのは、加護を受けていたからこそ助かったと言えるほどの大きな事件に巻き込まれていないから、ってことになるのか……)
傭兵(好きな人の好みに反するものが便利なのは分かっているけれど便利だと実感できていないからいらない、と考えてしまっているのだろう)
傭兵(俺に殺されたり女騎士に殺されたりとかだって、そもそも加護を受けていなければ起きなかったことだ)
傭兵(っつーことは、だ。こうして殺し続けて副作用を抑えていくのは、現状マイナスイメージを植えつけることにしかならないってことになる)
傭兵(だからって今は他に抑える方法が無いのも事実か……)
傭兵(思い切って賊でも侵入して彼女を殺してくれりゃ、突然の死を実感できて加護のありがたみが分かってくれそうなもんだが……)
傭兵(王女だからって加護を受けていることを知られていると、殺さず誘拐され生かされ拷問されて死んだ方が楽なのに加護のせいで殺してもらえない、ってなって余計に酷くなってしまう)
傭兵(……そういう人を相手にどうやって加護の大事さを教えれば良いんだって話だよな……)
傭兵(ましてあのお姫さま自身、それが容易に出来るほど弱い人じゃないってのがどうもな……)
傭兵(あの強さ、勇者候補者として隣の大陸に渡しても簡単には死なないだろうし)
傭兵(俺みたいに何度も何度も魔物に殺され仲間に迷惑かけてってのを自覚できりゃ、加護のありがたみも分かりそうなもんだけどな……)
傭兵(ま、とりあえず俺に出来るのは、こうして仕掛けを作るぐらいか)
傭兵(例え悪い方向にしか行かないと分かっていても、な)
傭兵(ここを踏めば地面が割れて、後は直線上の天井に穴でも開けてりゃ魔法が使える)
傭兵(それを切り札にすりゃ、なんとかこの室内でも勝てる……か……?)
傭兵(……あれだけ強いと自信が無いな……)
傭兵(不意を衝けてもいけるかどうか……本当に見極めたタイミングで使わないとな……)
傭兵(……他にもこれと同じ仕掛けと、別の仕掛けを置けるような場所を探すか……)
ギィ…
傭兵「ん?」
傭兵(またお姫さまか……?)
ガラガラガラ…
???「…………」
傭兵(男……? ……服装も雰囲気もお偉いさんっぽくないが……)
???「あなたが傭兵さんですか?」
傭兵「そうだけど……あんたは?」
???「どうもすいません」
男「あの子の家庭教師をしております、男、と申します」
傭兵「家庭教師……?」
男「はい。とは言っても、お城の一室をお借りし住ませてもらっているので、家庭教師と名乗るのはおかしいのですが」
男「なんでもあなたは、この城下町からココに通っているようですが……僕も以前はそうだったんです」
男「その中でお姫さまに認められ、王にも認められ、一室を借りて今のようになったというか……」
傭兵「ああ……それで家庭教師という役職が残ったまま今に至ると」
男「そういうことです」
傭兵(ってことは今は、どっちかっていうと宮廷教師みたいなもんか……まぁ俺とは違って頭はいいってことに違いはないな)
傭兵「で、その家庭教師さんが俺みたいなのに一体なんの用事で?」
男「一言、お礼が言いたかったんです」
傭兵「お礼?」
男「あの子を助けていただき、ありがとうございました」
傭兵「ああ……そのこと」
傭兵(家庭教師にまでお礼を言わせるとは……本当に愛されてるな、あの子は)
傭兵「ま、俺はお金をもらってるからやっただけだし」
傭兵「今こうして罠を仕掛けてるのだって、楽をしようって考えているだけですよ」
傭兵「だからま、お礼なんていりませんよ」
男「それでも、あの子の苦しみが一時的にでも無くなったのは事実です」
男「それに、僕自身も助かりましたし」
傭兵(……なにが……?)
男「ですから、あなたの意図はどうであれ、僕はお礼を言いたかったのです」
男「本当に、ありがとうございました」
傭兵(……誠実な人だ)
傭兵(自分の生徒が助かったからってわざわざお礼を言いに来るなんてな)
男「本当は何か手土産か何かを用意するべきだったんでしょうが……」
男「実は明日、一度実家に帰ることになってまして……なんの用意も出来ませんでした」
傭兵「ああ、いいよいいよそんなの」
傭兵「あんただって『お姫さまの学力が上がったお礼です』とか言って急に兄弟姉妹を名乗る人に菓子折りを渡されても戸惑うでしょ? それと一緒」
男「お姫さま、というのは……?」
傭兵「ああ、そういう知らないフリはしなくていいよ。あの子自身が名乗ったんだし」
男「あ、そうですか……」
傭兵「にしても、一度実家に帰るってのは? 元々城下町に住んでたんじゃないのか?」
男「アレは仮住まいみたいなものですよ」
男「本当はもうちょっと離れた村出身なんですよ」
男「ちょっと、様子を見に帰ったほうがいい気がしたので」
傭兵「虫の知らせ、ってやつか……」
男「あまりこういう直感を信じるタイプではないのですが……何故か少し、気になりましてね」
男「姫様もしばらくは苦しまないで済むようですし、しばらく三日ほど勉強を休ませるのも兼ねて、ちょうど良いかと思いまして」
傭兵「なるほどね……」
傭兵「ま、気をつけて帰ってください」
男「ありがとうございます」
ガラガラガラガラ…ダンッ
傭兵(至って普通の男だったな……頭が良さそうにも見えんかった)
傭兵(でも……ああいうのがお姫さまの好みなんだろう)
傭兵(昨日のあの授業が迫ってるって知ったときの様子じゃあ、確実だろう)
傭兵(ま、俺とは違って誠実そうな好青年だったじゃないか)
傭兵(わざわざこうしてやってくるぐらいには優しいし)
傭兵(さらには頭も良いとくりゃ、勉強を教えてくれたりすることを思うと惚れたってなんもおかしくはないしな)
傭兵「…………」
傭兵(……ん? 誠実そう……?)
傭兵(そのくせ『加護を受けている人はイヤだ』って考えを持ってるのか……?)
傭兵(……やっぱ、頭が良いヤツってのはどういう考えを持ってるのか分からんなぁ……)
傭兵(カタブツそうだし……いやでももしかしたら、案外あの男の方に『加護を受けている人も良いな』と思わせる方が楽か……?)
ギィ
傭兵「ん?」
傭兵(また来客か……今日は多いな)
ガラガラガラガラ…
女騎士「やあ」
傭兵「げっ」
女騎士「げっ、とはなんだげっ、とは」
女騎士「せっかくボクが来てやったってのに……」
女騎士「それともなにか? ボクに対してやましいことでもあるのか? オマエは」
傭兵「そんなことはないが……」
傭兵「っていうか、おまえこそなんの用だ?」
女騎士「ちょっと暇になったからさ」
女騎士「どんな仕掛けをしているのか、騎士長であるボクが直々に見てやろうというわけさ」
傭兵「あっ、そ」
傭兵「いらない」
傭兵「どうせ見張りも兼ねてバカにしに来ただけだろうしな」
女騎士「捻くれてるなぁ……」
女騎士「ま、実際は見張る気も仕掛けを見る気も無いんだけどね」
傭兵「……じゃあなんで来たんだよ」
女騎士「ちょっと、手合わせしない?」
傭兵「はぁ?」
今日はここまで
なんか主人公なのに傭兵の口調がイマイチ安定しない
女騎士だって安定しない
ちゃんとキャラ把握し切れて無い>>1の技量不足が窺える
…頑張ろう、ホント
>>129
人間の口調なんて安定しないもんだよ
気にならない程度だから安心せい
乙っした
再開させてもらいます
女騎士「あの子に勝った実力をちょっと見てみたいと思ってさ」
傭兵「……厄介なことを思うな、お前は」
女騎士「メイドさんから聞いて無いかな? ボクがオマエを認めたって」
傭兵「そりゃ確かに聞いたけど……」
女騎士「だから、試させてよ」
傭兵「やだよ。めんどい」
女騎士「あ、魔法は無しね」
傭兵「おい聞けよ」
女騎士「純粋なキミの実力を測りたいんだよ、ボクは」
傭兵「ダメだコイツ……頭もおかしけりゃ耳もおかしい」
傭兵「大体、お前だって自分で言ってただろ? 俺じゃお前に勝てないって」
傭兵「それなのに戦うなんて、ただの弱い者いじめになるだろ」
女騎士「失礼だなぁ……ボクはキミを認めてるって何度も言ってるだろ?」
女騎士「それに、弱い中にも伸び代があるかどうかを確認したいんだよ」
傭兵「二十代にもなって伸び代なんてあるわけねぇだろマジで……」
女騎士「ん〜……そこまでイヤ?」
傭兵「イヤだ」
女騎士「じゃあ訊くけど、キミは今何してるの?」
傭兵「お前知ってるだろ……次またあの子と戦った時勝つために色々としてんだよ」
傭兵「っていうかお前はそれを応援してくれるんだろ? だったら邪魔しないでくれ」
女騎士「邪魔する気は無いって。むしろ、ボクと戦うこと自体が手助けになると思う」
傭兵「はぁ?」
女騎士「あの子の戦いの師匠はこのボクだ」
傭兵「えっ……?」
女騎士「だからま、あの子の剣筋はボクの剣筋でもある」
女騎士「ボクはそれを、君の力に合わせて振るおう」
女騎士「どうだい? 手合わせする価値はあるだろ?」
傭兵「…………」
傭兵(これは……コイツなりにあの子のために頑張りたいってことなのか……)
傭兵(それとも俺に協力しようとしてくれてるのか……?)
傭兵(……いや、多分前者だろう)
傭兵(自分自身で戦ってあげたいけど忙しくて無理だから、今の空いた時間に俺に教えられる限りのことを教えたい、ってな感じか)
傭兵(……なら、無碍にするのも悪いか)
傭兵「……分かったよ。手合わせ、してやるよ」
女騎士「さすが。話が分かるね」
傭兵(要はコレでクセを見抜いて見切れるようになれと、そういうことだろう)
傭兵(良いさ。やってやろうじゃないか)
〜〜〜〜〜〜
傭兵「はぁ……はぁ……はぁ……」
女騎士「ん? もうそろそろ時間かな? じゃ、終わりにしようか」
傭兵(やっぱつえぇわ……分かりきってたことだけど)
傭兵(魔法が使えても勝てねぇ相手に魔法なしだとここまでの差があるか……)
傭兵(手も足も出なかった……)
傭兵(っていうか小柄な身体のどこにあんな剣を振り回せる力があるんだ?)
傭兵(重心移動が巧いのは分かるが、それ以上に筋肉に無駄が無さ過ぎるだろ)
傭兵(剣に振り回されてるように見えて、振り回されていない)
傭兵(むしろ振り回される際の力を逆に利用している)
傭兵(だからってその大きく見える隙を衝けば力を抜いて剣を一度離し、その利用していた力全てをリセットして攻撃してくる……)
傭兵(小柄さを最大限利用した戦い方だ。だからこんなに細く見えるのに、とてつもなく強いのか)
女騎士「で、どうだった? 倒れるまで戦った感想は?」
傭兵「どうだったもこうだったもコレ……実力の少し上を出す方法……お前が教えたのか?」
女騎士「少し上……? ああ……メイドさんが言ってたっけ。あの子の本当の副作用と一緒にそんなこと」
女騎士「いや、でもボクは教えてないよ。多分特訓の最後のシメに手合わせする時はこんな感じだったから、もしかしたら勝手に身につけたのかも」
傭兵(……結局……あの子も俺とは違って戦いの才があるってことか)
傭兵「っていうか、なんであの子に戦いの技を教えてるんだ?」
傭兵「王女なんだろ? あの子」
女騎士「え……? いや、そんなことは……」
傭兵「あ〜……そういうウソいいから」
傭兵「昨日、本人が来て言ってったし」
女騎士「そうしてウソ言って聞き出そうって魂胆?」
女騎士「カマかけようとしてるんでしょ?」
傭兵「……あの子の師匠なら分かるだろ? もしあの子がここに来たらあっさりと口を滑らせるだろうな、ってことぐらい」
傭兵「というより、カマかけにしてもいきなり王女かどうかなんて推理できないって」
傭兵「普通の思考してる人間なら、こんな薄暗い場所で寝るのが王女かどうかなんて考えないって」
女騎士「……ま、確かにそうか」
女騎士「でもまあどちらにせよ、どうして戦うための技を身に付けてるかってのは教えられないんだ」
女騎士「あの子の正体をボクの口から言えないのと同じでね」
傭兵(……ま、それぐらいの口止めはするか……)
女騎士「それよりも、キミのクセだよ」
傭兵「は?」
女騎士「戦っていて気付いたんだけど、キミって集中力乱れ過ぎじゃない?」
傭兵「あ〜……」
女騎士「なぁんかボクしかいないしボクとしか戦わないって分かりきってるのに、どうもボクの周囲にまで気がいってるって言うか……」
女騎士「他に誰もいないことなんて分かりきってるのにそんなに集中力を分散してたら、そりゃ勝てるものも勝てないって」
女騎士「……といっても、ボク一人に集中したからって勝てるわけじゃあないんだけど」
女騎士「それでも、あの子にぐらいは勝つ機会が巡ってくるようになると思うけど? それなのに本当、勿体無いよ」
傭兵「でもこれ、直せないんだよ」
女騎士「直そうとしたの?」
傭兵「いや、むしろ利用しようとした」
女騎士「そういうのは臨機応変にしないと」
女騎士「複数に囲まれる可能性があるならそれの方が良いんだろうけど……」
傭兵「でもそうすると精度が落ちそうだからさ」
女騎士「そうは言うけど……でもやっぱ、一人で戦うんなら多少は仕方ないんじゃない?」
傭兵「……昔は、一人じゃなかったからな……」
傭兵(二人も、俺のフォローをしてくれる人がいたからな……)
女騎士「え?」
傭兵「いや、なんでも」
傭兵「ま、前向きに検討しておくさ」
〜〜〜〜〜〜
真夜中
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
城内
◇ ◇ ◇
姫「男さま……」
男「やあ。ごめんね、こんな夜遅くに」
姫「そ、それはその、構わないのですが……その、どうかされたのですか? こんなお時間に、それも授業中に呼び出されるなんて……」
男「ふふっ……そんなにソワソワしなくても大丈夫だよ」
姫「あ、いえ、そんなことは……」
男「ほら、僕は明日——いや、今日の陽が昇る頃には、一度実家に帰っちゃうからさ。その前に一つの区切りとして、キミに言っておきたいことがあって」
姫「は、はははいぃ!」
男「……ふふっ。本当、キミは可愛いね」
姫「か、かわっ……!?」
男「……もしかしたら、もうなんとなく悟っているのかもしれないけれど……」
男「……僕はね……キミのことが——」
◇ ◇ ◇
傭兵の家
◇ ◇ ◇
ダンダンダンダン!
傭兵「うっせぇなぁ〜……だれだ? こんな夜中に」
ガチャッ!
女騎士「失礼する!」
ツカツカツカ…!
傭兵「な……女騎士!?」
女騎士「…………」キョロキョロ
傭兵「おいおいおい……いきなり人の家にやってきて、なんなんだ?」
女騎士「お前たち!」
兵士達「「「「「はっ」」」」」
傭兵「しかもそんなぞろぞろと連れてきて……」
傭兵「俺の家はこんな大人数がパーティ出来るほど広くはないぞ?」
女騎士「くまなく探せ! どこに何があるか分からんからなっ!」
兵士達「「「「「はっ」」」」」
傭兵「なっ……おい、いきなり家主の許可なしに家捜しとは感心しないな……どういう了見だ?」
女騎士「…………」
傭兵「……ちっ。だんまりかよ」
兵士達「いません!」「こちらもです!」
女騎士「もっとしっかり探せ! 隠し扉の類があるかもしれないだろ!」
傭兵「いや、ねぇけど」
女騎士「地下室がある可能性も考慮しろ! ここに連れられた可能性が一番高いんだっ!!」
兵士達「「「はっ」」」
傭兵「地下室なんてあるわけねぇって。ただのボロ家なんだからよ」
傭兵「つーか、何個も部屋がある家じゃあねぇんだから、入ったらすぐにでも分かるだろ」
女騎士「そんな言葉、信用できないよ」
傭兵「おっ、やっと返事してくれたな」
女騎士「少し黙っていて。オマエには、後で問い詰めなけきゃいけないことがあるんだから」
傭兵「俺としちゃ、いきなり家に押し入られて、なんにもないこの家の家捜しされてる時点で怒鳴りつけたい気分なんだが」
女騎士「…………」
傭兵「ちっ。まただんまりかよ」
兵士「騎士長! やはりここには……」
女騎士「ちっ……! オイッ!」
グイッ
ダンッ!
傭兵「ぐっ……!」
女騎士「オマエ……! あの子をどこに連れて行ったっ!!」
傭兵「……いきなり襟首掴まれて壁に押さえつけられてんなこと訊かれて答えるヤツがいるのかよ」
女騎士「いいから答えろっ!!」
傭兵「……はぁ……あのな、あの子ってのはそもそも誰なんだ?」
女騎士「しらばっくれる気か……!?」
傭兵「しらばっくれるも何も……俺、数時間前から家出て無いし」
女騎士「口ではどうとだって言えるっ」
女騎士「それを証明できる人間だっていないでしょっ?」
傭兵「……まぁ、確かに」
女騎士「さあ! どこに連れて行った! 家に直接連れてこないとは知恵が回るようだけど……!」
傭兵「だからさ、誰を探してんの? お前らは」
女騎士「……っ」ギリッ…!
傭兵「あん?」
女騎士「オマエが連れ去った……姫さんだよっ!!」
今日はここまでにします
>>131さんに慰められたその次の日から女騎士の口調をどうしようか困りだした今日この頃
それでも深く気にしすぎないようにしつつ頑張ります
再開しまっす
傭兵「姫……? ああ、あの子ってのはそのままだったか……って、お姫さまが城からいなくなった?」
女騎士「さっきから白々しい……! オマエが連れ出したんだろっ!」
傭兵「だから違うって。証拠でもあるのか?」
女騎士「オマエと姫様が出会い、オマエが姫様だと知ったその翌日に姫様が消えたんだ!」
女騎士「オマエを怪しまない方がどうかしてるっ!」
傭兵「いちいち叫ぶな……」
傭兵「っていうか、どうやって連れ去るんだよ。俺は城の中にも入れないんだぞ?」
女騎士「あれだけ魔法が使えるんだっ。どうとでもなるだろ」
傭兵「お姫さまの部屋なんて、俺は知らないぞ」
女騎士「探知できる魔法もあると聞く。それを使ったに違いない」
傭兵「あるにはあるが……そもそも俺がお姫さまを連れ去る利点は?」
女騎士「オマエが他国のスパイなら説明がつく」
女騎士「傭兵なんて、どこの馬の骨かも分からぬ輩ばかりだからな」
傭兵「……ま、疑われる要素は十分にあるのは分かった」
傭兵「でも、俺には無理だ」
女騎士「まだオマエは……!」
傭兵「いやいや、そうじゃなくてさ」
傭兵「そもそも他国のスパイだったとしても、ようやく信頼され始めたって段階で行動に移ると思うか?」
傭兵「国の重役を誘拐するなんて任務を課せられたのだと想定した場合、普通ならこんな短い期間の任務だなんてあり得ない」
傭兵「だから、期日が迫っただなんて可能性も無い」
傭兵「手柄を急いだとしても、すぐに疑われてしまう状態で手を出してしまったら、それこそ手柄も何も無くなるだろ?」
女騎士「そう思わせるのが狙いなんでしょ? やるはずのないやつがスパイだったら完璧に裏を掻いたことになるからなっ」
傭兵「そんなつもりはないが……まぁ、俺が疑われるのには納得だからな」
傭兵「でも俺じゃない以上、せめて疑いを晴らそうってぐらいには考えるんだよ」
女騎士「ふんっ。やったことをやっていないことにしようってこと?」
傭兵「だからそんなつもりは——いや、今はどれだけ言っても無駄か」
傭兵「それよりも、あの城には魔法を封じる魔法があるだろ?」
女騎士「あるにはあるけど、当たり前のように解除されてた。ま、オマエが解除したんだろうけど」
傭兵「それでも、解除された後どんな魔法が使われたのかの形跡はあったはずだ」
傭兵「それを教えてくれないか?」
女騎士「自分のことなのに知らないフリ? あらまぁ随分と丁寧」
傭兵「なんでも良いから教えてくれ」
傭兵「ほら、演技している俺を見抜こうとしてくれりゃいいから」
女騎士「ちっ……ねえ。説明お願い」
兵士「はっ」
兵士「城の敷地内で発動されていた魔法は、どうも土を柔らかくする類のものだったようです」
傭兵「土を柔らかく……?」
兵士「はい」
兵士「落ちても怪我をしないように、といったものでしょう」
傭兵「……ふむ……」
傭兵(魔法の属性が水である以上、俺でも可能なことに変わりは無いか……)
傭兵「……魔法を使って侵入されたような形跡は?」
兵士「簡単な調査のみですが、そのような形跡は……」
傭兵「そうか……」
女騎士「なに? 見つかってなくて安心した?」
傭兵「……いや、土を柔らかくしてあったんだよな?」
傭兵「ってことは、外から連れ出された可能性って低いんじゃないか?」
女騎士「は?」
傭兵「その柔らかくされてた場所って、窓のすぐ下?」
兵士「そう、ですね……はい。そのように報告されたと記憶しています」
傭兵「ほら。どっちかっていうと、飛び降りた、って考えるのが妥当じゃないか?」
女騎士「じゃあ何? 姫様が自分から飛び降りたっての? 魔法を使って?」
女騎士「無理無理。だってあの子、魔法が使えないもの」
傭兵「じゃあ……城の中から突き落とされた……?」
女騎士「そう。ボクもそう思うよ。城の中へと侵入したオマエの手でさ」
女騎士「事前に落とす場所を想定して土を柔らかくして、あの子を気絶させて突き落としたんじゃない?」
傭兵「もしくは……誰かの手引きで柔らかくしてもらって飛び降りた、とか」
女騎士「……さっきからなに? 何が言いたいの?」
傭兵「確かに今日は、俺がお姫さんの正体を知った翌日だ」
傭兵「だがそれよりも、正確に日付を刻むなら、もっと重要な日だろ?」
女騎士「? なに? どういうこと?」
傭兵「正確に日付を刻むなら、今日は俺がお姫さんの正体を知った翌々日ってことになる」
傭兵「なにより今日は……お姫さんの大好きな家庭教師が、帰る日だ」
女騎士「……? それが?」
傭兵「まだ分からないか?」
傭兵「これは誘拐じゃなくて」
傭兵「駆け落ちじゃないか、ってことだ」
女騎士「は……? いや……いやいやいや」
女騎士「そんなこと、あり得ない」
女騎士「あり得ない……あり得ないっ!」
女騎士「あの子に限って……そんな……っ!」
傭兵「でも状況的にはその可能性もあるにはあるだろ」
女騎士「あり得ないの! 絶対にっ……!」
女騎士「アンタ、自分の疑いから目を逸らすためって言っても、あまりにもてきとうな事言わないでっ!」
女騎士「あり得ないんだから! それはっ! 絶対にっ!!」
傭兵「…………」
傭兵「……まあ、俺はお姫さまのことはなんも知らないからな」
傭兵「長い付き合いで師匠である女騎士が言うんならそうなんだろ」
女騎士「そう……そうだ……そうだよ……そんなはずがない……駆け落ちなんて……そんな……」
傭兵(……とは言っておくが……普通に考えるなら自分から飛び降りたと考えるのが妥当な気がするな……)
傭兵(好きな人が『加護を受けた人がイヤ』ってだけで加護を受けたことを後悔する子だからな……いきなり駆け落ちに気持ちが傾く可能性なんて大いにある)
傭兵(好きな人に必要だと迫られるのは、あの年代だと中々に魅力的に映るだろうし)
傭兵(それに、あの男が来たときに言った「僕自身も助かった」という言葉……アレは一度寝て覚めても副作用がなくなっているからこその言葉なんじゃないかと、今ならば思う)
傭兵(一時的にでも抑えられてくれたから、駆け落ちした後も余裕があるって意味で)
傭兵(……なんだかんだで結局あの人も、加護を受けていようといまいと姫が好きだったのでは、と思う)
傭兵(ただあの姫が勝手に、その何気なく話してしまった好みを、ずっと引きずり続けているだけで……)
傭兵(それの証明をした今、案外副作用はあっさりと無くなるのかもしれないな……)
傭兵(俺たちの目の届かないところで、な……)
女騎士「誘拐じゃなくて駆け落ち……? そんな……そんなことはない……!」
女騎士「そうだ……そうだよ……!」
女騎士「大体、さっきからの話のどこに……! オマエが犯人じゃないと否定できる要素があったって言うんだ!」
女騎士「話を逸らして嘘をつき、誤魔化しきってしまおうとする意思が丸見えじゃないかっ!」
傭兵「……俺的にはこれだけでも十二分に俺じゃないって証明になると思ってたんだがなぁ……」
傭兵「ま、それで納得してもらえないんなら、もう一つ否定する材料はある」
女騎士「……なに?」
傭兵「これは確認なんだが、魔法が封じる魔法ってのは、解除されたらすぐに分かるよな?」
女騎士「当然。そうできない者を、宮廷魔法使いとして迎え入れるわけがない」
傭兵「まさに完璧な警護って訳だ」
傭兵「物理的には兵士が見回り、魔法的には宮廷魔法使いの手で結界魔法が張られてる。それも解除してもすぐに異常と知らしてくれる魔法無力の完璧なものがな」
傭兵「そんなもの、外側から破ることなんてほとんど不可能だ」
女騎士「なに? それが出来た自慢?」
傭兵「さすがに、もう突っかかるのは止めてくれ……俺が一番怪しまれてるのは俺が一番理解してるし、認められないのも動揺しているのも分かるが……話が一々止まる」
傭兵「まあともかくはだ、解除してすぐに異常を察知したんなら、すぐにその場所に兵が向かったんだろ?」
女騎士「もちろん。そしてそこには魔法を解除した形跡と、さっき話した魔法の痕跡が見つかった」
傭兵「ほら、やっぱり俺じゃあ無理だ」
女騎士「は?」
傭兵「城の高さとかよく知らないけど、結界魔法を解除してからすぐ、その窓のある階に行けるものなの?」
女騎士「魔法を使って壁を登れば行ける」
傭兵「でもその痕跡は無かったんだろ? あったのは着地時に怪我をしないようにするための魔法だけだ」
傭兵「それを応用して壁を登る方法があるんなら教えてくれ」
傭兵「それともあれか? 宮廷魔法使いの目を誤魔化せる魔法を俺が使ったってのか?」
女騎士「あれだけのことが出来るんだ。出来てもおかしくは無い」
傭兵「……そうか……そこまで評価を高くしてくれるのは、純粋にちょっと嬉しいな……」
傭兵「でも生憎と、俺には無理なんだ」
女騎士「口ではなんとでも言える」
傭兵「確かに」
傭兵「じゃあ言い方を変えよう」
傭兵「俺がしたにしろそうでないにしろ、どっちにしてもこれが誘拐劇だった場合、一人じゃとても無理だってことだ」
傭兵「魔法を使って城を昇ることが出来たとしても、そのまま連れ去れるほどの時間まで、その結界が解除された場所を兵が駆けつけられなかった筈が無い」
傭兵「そこは女騎士が訓練させていることから自分でも分かるだろ?」
女騎士「…………」
傭兵「だから、地面を柔らかくしてからその宮廷魔法使いにも見つけられない魔法を使ってお姫さんのところに向かって、彼女を気絶させて逃げるほどの余裕は当然無い」
傭兵「建物の中には地面が無いから、城の中から窓の下に向けて魔法を遠隔で発動させる術も無い」
傭兵「だから万一城になんとか侵入出来たとしても、女の子一人抱えて誰にも見つからずに脱出するなんてのは無理だってことになる」
傭兵「荷物があって遅くなってるってのに兵の見回りを掻い潜り脱出できるほどのヤワな見回りはしてないだろ?」
傭兵「つまり、事前に打ち合わせしていた可能性——駆け落ちの可能性が無いと女騎士が否定するんなら、一人じゃ無理だってことになる」
傭兵「誰か協力者がいないと出来ないってことだ」
女騎士「そんな……」
女騎士「……いや、確か熟練した魔法使いは大地がなくても魔法が使えるって聞いたことがある」
女騎士「ボクのところにいる宮廷魔法使いの中にだって数人はいたはずだ」
女騎士「ならオマエにだって出来るんじゃないのか?」
傭兵「出来ることは出来るが……でもそうなってくると今度は大地を柔らかくする理由が見つからなくなる」
傭兵「地面から窓がある階までの厳密な距離は分からないが、容易に侵入を果たさぬよう結構な高さなんだろ?」
傭兵「となると、それほどの距離に対して魔法を使うんなら、確実に人一人を浮かせられる魔法ぐらい使えたはずだ」
傭兵「例えば俺なら、宙に浮く水を生み出して空から逃げる、とかな」
傭兵「だから、わざわざそんな地面に痕跡を残す理由がなくなる」
傭兵「もし地面に痕跡が無ければ、兵士が姫を連れ去られた可能性を考慮する時間を少しでも稼げるからな」
女騎士「くっ……」
傭兵「まぁもっとも、これすらもそう思わせるためのワナだって言うんなら、さすがに弁明のしようが無いかな」
傭兵「さて……女騎士。俺をまだ、疑うか……?」
女騎士「……当たり前」
女騎士「…………とはいえ、警戒レベルは落としてもいいとも、思う」
スッ
傭兵「ふぅ……やっと離してくれたか」
女騎士「……すまなかった……」
女騎士「……姫さんがさらわれたせいで、ボクも冷静じゃあなかった」
女騎士「それでも、オマエに指摘されずとも、それぐらい推理できないといけなかった」
女騎士「騎士長として恥ずべきことをした」
女騎士「だから……」
傭兵「いや、良いってば。俺が疑われるのは分かるって言っただろ?」
傭兵「それになんだかんだで女騎士は、まだ俺のことを疑ってるだろ?」
女騎士「もちろん」
女騎士「今も、何か他の方法があってそれから目を逸らすためにああ言ったんじゃないか、って疑ってるところ」
傭兵「そう。それでいい」
傭兵「所詮俺は傭兵だ。金での雇われでしかない」
傭兵「それが正しい」
女騎士「……ふん」
女騎士「で、その話だと誘拐した犯人は複数いるってこと?」
傭兵「それだけじゃあない」
傭兵「誘拐が確かなら、城の中にもスパイがいるってことになる」
女騎士「え……!? まさかそんなっ……!」
女騎士「……いや、でも……そうだ……誘拐するのに必要な人数は、地面を柔らかくするための魔法を使う人と、姫を上からその地面に向けて落とす人」
女騎士「城への侵入をその段階で許していないとするなら、城の中にいないと辻褄が合わない」
傭兵「そういうことだ」
傭兵「あくまでも、城に侵入されるという万が一がなかったなら、って前提だけどな」
女騎士「でも……だったら城の中にいるスパイとオマエが通じていて、オマエが姫を受け止めたという可能性もあるということ……?」
傭兵「それはそうだな」
傭兵「だから、俺のことは疑ったままで良いって言ったんだ」
傭兵「でもさっきも言ったけど、俺は駆け落ちしたんだと思うけどな」
女騎士「だから……あの子に限ってそれはあり得ないんだって!」
傭兵「でも、根拠はある」
女騎士「根拠なんて……——」
女騎士「——……いや、良いよ。聞かせて」
女騎士「誘拐したことについて、何か口を滑らせるかもしれないし」
傭兵「それはどうも」
傭兵「で、根拠って言うのは何を隠そう、お姫さま自身の存在だ」
女騎士「……どういうこと?」
傭兵「常識的に考えてもみろよ」
傭兵「地面に突き落とされるってことは、あの姫を気絶させるか、窓辺に呼び出した彼女の不意を衝かなきゃならない」
傭兵「あの姫を不意打ちでやれる人なんて、そもそもいるのか?」
女騎士「……あっ……!」
傭兵「女騎士はあの子に勝てるからその考えに行き着いてなかったみたいだが……普通にあの子は強い」
傭兵「俺は副作用の時のあの子としか戦ってないが、副作用中だからって特別強くならないことを鑑みると、そもそものあの子が強いってことになる」
傭兵「そんな子に不意打ち?」
傭兵「その場から突き落とす? 気絶させる?」
傭兵「そんなこと、不可能に近いだろ」
女騎士「…………」
傭兵「だから、自分から飛び降りるしかないって俺は考えた」
傭兵「じゃあその理由は?」
傭兵「となると、好きな人にお願いされたから、って考えに行き着いた」
傭兵「だからこその駆け落ち説なんだ」
女騎士「でも……そんな……」
傭兵「それで確認なんだが、家庭教師の男って奴は、今でも城にいるのか?」
女騎士「それは……確か、全員いる」
女騎士「兵達全員に部屋を見回らせた時にはいたって報告はうけた」
女騎士「その時に姫さんがいなくなってるって気付いて、今こうして捜索に出ているぐらいだし」
傭兵「家庭教師が今でもいるってことは……やっぱり下であの子を受け止める協力者はいたってことか……」
傭兵「住み込みの使用人とかは全員いた?」
女騎士「そこまでの確認はまだ……でもたぶん、城に戻れば報告は上がってると思う」
傭兵「じゃあ使用人が協力者だった可能性もあるな……いなくなってる人がいれば、だけど」
女騎士「でも駆け落ちを提案した男がどうしてまだ城に——」
女騎士「——って、そこで実家に帰る日と重なる、って話に繋がるんだ」
傭兵「そういうこと」
傭兵「どうせ夜が明けたら普通に実家に帰れるから、今もまだ城にいるんだよ」
女騎士「その協力者が男の実家近くに姫を送ると約束していて、向こうで合流すればそれで済む話」
女騎士「今問い詰めたところで、半日ぐらいならシラを切り通されてしまう」
女騎士「今更、実家行きを阻止することも出来ない」
傭兵「だからって当日に追いかけても、向こうには土地勘がある。あっさりと振り切られてしまうだろう」
女騎士「ってことは、姫を見つけるのは……」
傭兵「日が昇るまでが限界、ってことになる」
女騎士「だったら……」
傭兵「ああ。急いで城に戻って情報を整理しよう」
女騎士「うん」
女騎士「……って、なんでオマエが仕切ってるんだ?」
女騎士「ボクはまだオマエを疑ったままなんだぞ?」
傭兵「あ、いや……なんか、流れで」
女騎士「全く……分かってる? これは協力じゃあない」
女騎士「オマエを城へと連行するだけだからな」
今日はここまでにします
今気付いたけど>>151で女騎士の口調直すの忘れてたな…まぁいいか。激昂してるから、ってことでお願い
乙
二つばかり疑問点
副作用についての疑問点。
発症者は副作用が発症している間に死なないと、それを抑える事が出来ないって事でいいのだろうか?
『姫』の優先順位についての疑問点。
これは話が進んで、姫の正体や裏が判明した時点でわかるんだろうけど、
騎士団長の通常任務より、優先順位の低い姫の扱いって何なんだろう?
王族でも価値がないと考えられているのか? 王族以外ではない貴族の娘なのか?
再開します
>>169さんの疑問の答え
・副作用
副作用は発症していない間に死んでも抑えられる設定。
だからもし傭兵が加護を拒絶していて、副作用が今にも発症しそうだった時に姫に殺されてしまっていた場合でも抑えられるということ。
だからほとんどの人は自害することで解決している。
ただ王族だからそれをさせてしまうのはいけないってのと(誇り云々ではなく、王族が加護を受けているとバレると誘拐された際、舌を噛み切って自害させてもらえない状況を作られてしまうから。自害してしまえば蘇らせてもらえ、そのまま救出される状況になるのに、そうできなくなるから)、あとは多分なる過保護の結果、今のシステムになってます。
・姫の優先順位
「姫」の優先順位はこの城の中では二番目です
後は追々
疑問に感じてくれてありがとう
それだけ読んでもらえてると分かるとなお頑張れるわ
〜〜〜〜〜〜
ガタガタガタ…ゴトン、ガタン…
姫(……ん?)
姫(ここは……?)
姫(……真っ暗……?)
姫(いえ……この感触、目隠しをされているのですね……)
姫「……っ」
姫(猿轡まで……それに、この揺れは……)
姫(馬車、でしょうか……?)
姫「…………」
ギチギチ
姫(腕も縛られていますね……)
姫(ですが後ろ手ではなく、上に両手を挙げられ壁に縛り付けられるような形ですか……)
姫(……体勢も、寝転ばされるのではなく、座らされておりますし……)
姫(どちらにしても、逃げ出せない状況というわけですか……)
ガタガタ…ゴトッ、ガタ…
姫(背中からも揺れが実感できるところを見ると、結構広い馬車……商業用の屋根つき荷台とかでしょうか……?)
姫(早く逃げ出して自由になりたいところですが……)
姫(どうもわたくしの力では解けないほど強く腕が結ばれているようですし……)
姫(足だってギチギチに結ばれてます)
姫(……そもそもわたくし、そこまで力は強くありませんし……)
姫(全て体重移動の為せる業ですからね……こうなってしまっては元も子もありません)
姫(ですが……どうしてこうなってしまったのでしょう……?)
サワッ
姫「っ!」ビクッ
姫(今、太ももを……!?)
野太い声1「おっ、コイツ起きたようだぜ」
野太い声2「なんだよ、着く途中で目が覚めちまったのかよ」
野太い声3「オマエが何回も触るからだろ、このロリコンが」
野太い声1「へへへ……だがお前らも着いてから楽しむんだろ?」
野太い声4「当たり前だろ? 王族の女なんてそうそう抱けねぇだろうしな」
姫(抱っ……!)
野太い声1「こんなガキでも、やっぱこの白い肌はたまんねぇよなぁ」
サワサワ
姫(くっ……いや! 止めて下さいっ!!)
姫「…………っ!!」モゴモゴ
野太い声1「ははっ。なぁに言ってるのかわかんねぇや」
野太い声1「こういうの、たまんねぇよなぁ……」
姫「んーーーー!! んーーーーーーーーーーーっ!!」
ジタバタ、ギシギシ…!
野太い声1「どうすることもできねぇって状況の相手を犯すのは、やべぇぐらい興奮するぜ……」
野太い声1「必死に抵抗しても、暴れても、何をしてもどうすることも出来ない状況を段々と理解していくこの感じ……!」
野太い声3「おいおい、オマエもうやべぇじゃねぇか」
野太い声5「運転している俺の身にもなれよ? オマエだけで楽しもうとすんじゃねぇよ」
野太い声1「ははっ……分かってるよ……でもなぁ……——」
姫「んーーーーーーーーー!! んーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
野太い声1「——……こんな必死なヤツが、今以上にヤバくなるのってよぉ……もっと見たいじゃねぇか」
野太い声1「泣き叫ぶ様がもっと見たいんだよ」
野太い声1「自分がどれだけ危ないかを理解させたいんだよ」
野太い声1「今以上の悲鳴を上げさせたいんだよ」
姫「んーーー!! んーーーーーーっ!! んーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!」
野太い声1「……こぉんな風になぁ……!」
ビリッ!!
姫「っ!!!!!」
姫「んんんんんんんんんんんんんんんんんんーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
ドンッ! ドンッ! ドンッ!!
野太い声1「へへっ……そう暴れんじゃねぇよ」
野太い声1「いや、もっともっと暴れてみろよ……」
野太い声1「それだけ俺が興奮すんだよ」
野太い声2「ああ〜……ありゃダメだな。変なスイッチが入っちまってる」
野太い声4「服の前を切っただけであれだもんな。今からあの小さな胸でも責め始めるんじゃね?」
姫(っ! イヤ! ダメッ!!)
ドンッ! ドンッ! ドンッ!!
野太い声5「ったく……だからぁ、運転手の俺を置いて楽しむなっつってんだろっ!」
野太い声3「ああ、もう無理だわアレ。目が血走ってるし」
野太い声2「ありゃもう誰にも止められねぇな」
野太い声1「へへっ、そぉんなに暴れるなよなぁ……そんなに暴れたら、服がはだけて大事なモノが見えちまうかもしれねぇだろぅがよぉっ!」
ビリリッ!!
姫「っ! んんんんんんんんんんんんんーーーーーーーーーーーーっ!! んーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!」
野太い声1「たまんねぇ……たまんねぇなぁ……このちょっとしか膨らんでない胸が」グイッ!
姫(っ! やだっ! やだやだやだ! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ!!)
姫「んんんんんんんんんんんんんんんーーーーーーーーー! んんんんんんんんんんんんーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ジタバタジタバタ…
野太い声1「おっと、暴れようとしたって無駄だぜ」ガッ
姫(あ、足を挟みこまれた……!?)
姫(まさか今、この気持ち悪い男は……わたくしの、目の前に……っ!?)
野太い声1「こうして足を押さえ込んだらおめぇは何もできねぇんだよ」
野太い声1「じゃあ、たっぷりと堪能させてもらおうか」
姫「っっっっっ! んんんんんんんんんんんんんんんーーーーーーーーー! んんんんんんんんんんんんーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ドンッ! ドンッ!
野太い声1「へへっ、むだむだむだぁ〜……」モミモミ…
姫(ぐっ……! いやっ……!! 気持ち悪い……っ!! 離して……っっっ!!!!!!)
野太い声1「いいねいいねぇ……目が見えなくても口に布を噛まされてても分かるぜ。メチャクチャ悔しそうにしてるのがよぉ……」
野太い声1「それが一層俺を興奮させてるんだぜぇ、オイ」
野太い声1「この手の平で押さえつけるようにして揉むのが俺は一番好きでねぇ……」グッ、グッ
姫(い、いたっ……!)
野太い声1「ただでさえ小さな胸がさらに小さくなりそうなほど強く押して、それでいて確かな柔らかさと固くなってくる突起の感触がたまんねぇんだよぉ……」
姫(っ!!)
野太い声1「ほぉら、分かるだろ? おまえの脚にこすり付けてるコレがもう固くなってるのがよぉ……!」
姫(やだ……やだやだやだやだやだ!! こわいこわいこわいこわいこわい!! きもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいっっっ!!!!)
〜〜〜〜〜〜
野太い声1「はぁ……はぁ……はぁ……!!」
姫(やっ……! だめっ……!)
野太い声1「おいおいなんだ……? 興奮してきてんのかぁ、おい」
姫(っ! そんなわけないっ! 都合の良いように解釈しないでっ!!)
野太い声1「たまんねぇなぁ……はぁ、はぁ……も、もう我慢できねぇっ!!」
スッ
姫(っ! ま、まさか……!)
野太い声2「おいおい、馬車の中でおっぱじめる気か?」
野太い声1「ああ、ダメだ。もう我慢できねぇ。どれだけ止めようとしても無理だ。もうこれ以上は待てねぇ」
野太い声4「だってよ、運転手。どう思う?」
野太い声5「許さねぇ。あとで全員でヤるのに参加させねぇ」
野太い声4「だとよ」
野太い声1「それだけで良いんなら今ヤるに決まってるだろぉ、おい」
野太い声5「ちっ……勝手にしろカスが」
野太い声1「はぁはぁ、よぉし。許可も出たぞぉ〜……えへ、えぇへへぇ……」
ピト
姫(っ!)
野太い声1「わかるかあ〜? コレが? この手に触らせてるのが何かよぉ……」
姫(……っ!?)
野太い声1「わかったか? げへっ、王族のガキでもやっぱマセてんだなぁ」
野太い声1「つーことは、これからコレをどこにナニされるのかも分かるよなぁ?」
ビリリィッ!
姫「っ!! んんんんんんんんんんんんんんんんんんーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
バタバタバタ!!!!
野太い声1「ほぉら、暴れるなよ。これから足の縄を切ってやるんだからな」
ブチッ
野太い声1「さぁ、下着を脱ぎましょ——」
ブン…!
ガァン!
野太い声1「——があああああーーーーーーーーーー!!」
野太い声1「いてぇ……くそっ、なんだこの女……!」
野太い声1「くそっ……くそ、くそっ!!」
野太い声3「おいおい何やってんだよおまえは」
野太い声3「興奮してんのは分かるが、足の拘束解いたら蹴られることぐらい分かるだろ」
野太い声4「ちょっと必死過ぎんじゃねぇの?」
野太い声2「そうそう。もっと冷静になれって」
野太い声1「うるせぇんだよ! こちとら空腹状態で好物目の前にぶら下げられてんだぞっ!!」
野太い声1「もう何日も抜いてねぇんだ……! この子の年齢聞いたときからずっと我慢してたんだ!」
野太い声1「早く出したくて仕方ねぇんだよっ!」
野太い声1「何回も何回も、この溜め込んだモンをぶち込んでドクドクと出してぇんだよっ!!」
野太い声3「いや、止めてたのはお前の勝手だしな……」
野太い声2「そうそう。そんなことでキレられても知らねぇっての。むしろ自業自得だろ」
野太い声1「うっせぇつってんだろっ!!」
野太い声1「だいたい、このガキが抵抗しなけりゃ良かったのに……!」
野太い声1「コイツが……コイツがっ!」
ガンッ!
姫「ぐっ!」
野太い声1「コイツが! コイツが! コイツがっ!」
ガン! ガン! ガン!
姫「ぐうぅっ!」
野太い声1「コイツがコイツがコイツがコイツがコイツがコイツがコイツがっ!! クソ生意気なのが悪いんだろうがよぉっ!」
ゴッ! ドグッ! ドンッ! バキッ! メリャッ!
姫「ぎゃう、ぐぅううううううう、ううううううううーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
野太い声2「おいおい、なんか人の身体から聞こえちゃいけねぇ音がしたぞ?」
野太い声5「殺してねぇだろうなぁ?」
野太い声4「殺しちまったら神官に蘇らされちまって全部おじゃんだぞ」
野太い声1「っ。おいこらっ! 痛がってるふりしてんじぇねぇぞオイ!!」
姫「ぎゅふううう……! ふうぅぅぅぅ……!! ごぶっ! ぎゃふっ! げふっけふっ!」
野太い声1「へへっ……ほぉら、大丈夫だろ……その辺の加減はちゃんとしてんだよ……」
野太い声4「本当かよ。ちょっと安心してんじゃねぇか」
野太い声3「ま、次はこうならないようにしろよ」
野太い声2「ありゃあ確実に何本か骨折ったな、アイツ。っていうか身体の中何箇所か壊してんじゃねぇの? 噛ませてる布に血がついてるし」
野太い声5「ちっ……! ま、ヤれさえすりゃあ着いても文句言われねぇだろ」
野太い声3「だな。むしろ適度に弱らせたってことで感謝されるかもな」
野太い声2「なぁんかそうなるとすんげぇ不本意だな」
野太い声3「マジでそうだな。好き勝手振舞った結果が報われるとかありえねぇよな」
野太い声4「良いんだよ。そうなっても絶対に混ぜてやらなけりゃぁよ」
野太い声2「ま、確かにそうだな」
野太い声1「ま、まぁ、混ぜてもらえなくてもいいんだよ」
野太い声1「今から全部コイツの中で出しゃあ済む話なんだからな」
スルッ
姫(……っ!)
野太い声1「へへっ……抵抗できねぇかぁおい」
野太い声1「……っ……」
野太い声1「おぉ……こりゃあたまんねぇぜ……すげぇ……キレイだ……」
サワッ
姫「っ!」ビクッ!
野太い声1「ぐふ、ぐふふ……」
ズッ
姫「っっっ!!!!!」ビクビクッ!
野太い声1「へへ……指があっさりと入りやがる……」
野太い声1「やっぱさっきの段階で興奮してたんだなぁ、おい」
「じゃあ、準備万端ってことで、早速……」
グッ!
(っ! い、いや!)
グッ、グッ
「っと、そんな力なく暴れても無駄だぜ」
野太い声1「むしろ挿入したら程よく気持ち良さそうだ……げへっ……」
ググッ!
姫「ふぅーーーー!! ふううぅぅぅぅぅーーーーーーーーーー!!!! うううううううううううううーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
姫(やだ止めろ今すぐ離せ今すぐ死ね! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すころすころすころすころすころしてころしてころして殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して……! 早くっ!! 早くわたくしを殺して助けてっ……!! 誰でもいいからどんな方法でも構わないから早く早く早く早く早く早く殺してっ!!!!!!)
野太い声1「ぐふっ、げふっ、初めてなのかなぁ……? こんなに身を固くして……緊張しなくてもいいんだよ? 今からとっても気持ちのいいこと、してあげるんだからさぁ……」
グググッ…!
姫(やだ! ヤダヤダヤダヤダヤダ! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い助けて助けて助けた誰か助けてお姉ちゃん助けて女騎士さん早く怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいコワイコワイコワイコワイこんなのイヤだこんなのイヤだこんなのイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだこんな形で初めてが無くなるのはイヤだ絶対にイヤだ誰かお願い助けて今すぐ助けて殺して殺して殺して殺してわたくしをすぐに殺してこの場から救い出して殺して助けてこの場から引き離してイヤなのイヤなのこんなのイヤなの殺して早く殺してどうやってもいいから早く死にたいの死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死んで救って早く助けてこの場所から連れ出してどんな方法でもいいから開放してこんなヤツを目の前から消してわたくしの身体に触れさせないで誰も誰も誰も誰も誰も誰も誰でもいいから入ってくるのはイヤだから助けて殺してみんな殺してコイツもわたくしも周りの男たちも世界を犠牲にしてでもなんでもいいから助けて救い出して怖い怖い恐ろしいもの全てを集めて今すぐ呪い殺してヤダヤダヤダ入ってくる入ってくる入ってくる入ってくるあのキモチノワルイものがわたくしの中に入って——)
野太い声1「さぁ、馬車の中での姦通式だ。おめで——」
ザアアアァァァァァァァ…ン!
野太い声2「なっ……!」
野太い声3「なんだなんだ、おいっ!!」
野太い声4「上から誰か降ってきた……だと!?」
野太い声5「バカなっ! 移動中の馬車だぞっ! どうやって……!!」
傭兵「はぁ……! はぁ……! はぁ……! ……どうやら……当たりだった、ようだな……っ!!」
女騎士「…………っ」
姫「っ! ……っ!」
女騎士「……きさま……!」ギリッ
野太い声1「ひっ! お、おいそれ以上近付くんじゃねぇ! 一歩でも動いてみろっ! 王女が傷物に——」
ズブリャァ!!
野太い声1「——……がっ……」
いつの間に間合いを詰めたのか……俺の傍にいたはずの——荷台の中央にいたはずの彼女はそこにはなく……。
気がつけば腰に差した剣を抜き、下から上へと縦真っ二つに、姫の前にいた男は斬り捨てていた。
女騎士「姫さんの身体に汚らわしく触れといて……図々しくも生きてられると思うなっ!!!!」
返り血を浴びながら——お姫さまに浴びせながらのその女騎士の怒号は、少し余裕のある広い馬車を震わせた。
ヒュン
ブツ
姫「……っ!」
女騎士「姫……。今目隠しも解きます! 大丈夫ですかっ!?」
姫「っ……! っ……!」
女騎士「こんな……こんな、裸にされ……まさか、そんな……!」
女騎士「……ぐっ……! ……お前ら……死ぬ覚悟は出来てるんだろうなぁっ!!」
あ〜……やっちゃった……当初の予定から変えちゃったよ
ちょっと待って書き溜めてる方向とは全く違うことやっちゃった
姫が○されるかされないかを書き溜めてるとき悩みに悩んでされる方選んだのに投下前に殺す方向で投下しちゃった
やっぱ俺にはそういうの書けねぇわ……童貞の限界だわマジで
とりあえずちょっと三日ほど休む
次は月曜日で
それまでになんとか矛盾が少なくなるような展開考えるから
っていうかそもそも城に戻ったはずの傭兵と女騎士を助けに寄越しちゃダメだったね…うん
なんとかムリヤリにでも先の展開も含めて辻褄合わせにかかるから本当ごめん
風呂の中で気付いた
>>170の副作用の説明、姫が相手だと普通に矛盾してるじゃねぇか
人間兵器の噂だとかそもそも死ぬだけの簡単なお仕事の依頼が出てる時点で隠す隠さないじゃねぇな
普通にミスってた
「自害で解消を続けてたら余計に『加護がいらない』と思うようになってさらに酷くなる」
って設定を書くのを忘れてた
でももうコレを利用した展開もおじゃんになったから、普通に「自害じゃあ解消できない」って方向に変える
なんか二転三転してごめんね
再開します
時間掛かってる割にまだ先の展開が…という見切り発車
ザッ!!
女騎士「待て! 逃がすと思って——」ダッ
グイッ!
女騎士「——っ! 何をする傭兵! あいつ等はそこの窓から逃げたんだっ! 追いかけないと逃げられ——」
傭兵「いいからっ!」ダッ
傭兵(急げ……姫の手も引いて……外から飛び降りれば間に合うかっ……!!)グイッ
ダンッ!
ドンッ、ダンッ
バアァァァ…ン…!
女騎士「なっ……!」
傭兵「危な、かった……」
傭兵(まさか荷台ごと爆発させてくるとは……馬が驚いて逃げていったが、それすらも計算の内か……?)
女騎士「た、助かった……けど、どうして爆発物があるって分かったの?」
傭兵「あった訳じゃ、なくて……はぁ……! 外に出たヤツの誰かが、魔法で、爆発させた」
女騎士「ちょっと傭兵……やっぱりかなり無茶してるんじゃ……」
傭兵「大丈夫……ちょっと集中し過ぎて、朦朧とするだけだから……」
女騎士「朦朧って……危ないんじゃ……!」
傭兵「いや……もう息も、整ってくるから……大丈夫……」
女騎士「そうは言うけど……とてもそうには……」
傭兵「はぁっ……! はぁっ……。……くっ、はぁ……っ!」
傭兵「……………………はあぁ〜……ふぅ〜……」
傭兵「……ほら、もう落ち着いたから、な」
傭兵「それよりも女騎士、姫の猿轡を取ってやったらどうだ?」
女騎士「あ、あぁ……分かった」
傭兵「それとコレ。俺の上着で悪いが、羽織らせてやってくれ」
傭兵「さすがに、あの格好のままじゃあ可哀想だ」
女騎士「…………うん」
傭兵「……安心しろ。たぶん犯されてはいないはずだ」
女騎士「どうして、そう思うの……?」
傭兵「犯されてたら今頃、手当たり次第に何かで自害しようとしてるだろ」
傭兵「なんせ、誘拐の片棒を担いでいたのが自分の好きな人だったんだ」
傭兵「その上そんなことをされてたら、心が正常なままなはずがないだろうしな」
女騎士「……そっか……分かった」
〜〜〜〜〜〜
少し前
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
傭兵の家の前
◇ ◇ ◇
女騎士「それでアンタは、どうしてそんなに男のことを聞くの?」
傭兵「どうしても何も、お姫さまの好きな人は間違いなくアイツだからだ」
女騎士「え? うそっ……」
傭兵「……なんでずっと師匠だったお前が気付いて無いんだよ……」
女騎士「だってそんな話、少しもしたこと無いし……」
女騎士「いつも強くなるための方法ばかり聞いてきてたから、てっきりそういうのには興味ないかと思ってて……」
傭兵(……この様子じゃあもしかしてお姫さま自身も、女騎士に恋愛相談なんて無駄だと思ってたのかもな……)
女騎士「そっか……そうだったんだ……」
女騎士「……ん? ……でも、ちょっと待って」
女騎士「姫さんは男のことを信用しきってるんだよね?」
傭兵(信用、と言うよりかは、恋、の方が正しいんだろうけど)
女騎士「じゃあ男に呼び出されて、その背後から襲われた、って可能性はないかな?」
傭兵「背後から……? いやでも、だがらあのお姫さまがそんなあっさりとやられるものなのか?」
女騎士「それは、日常生活並に気を張っていたら襲われても大丈夫だろうけど……」
女騎士「でも姫さんはまだ子供だし、お城の中だからって油断していたのはあったと思う」
女騎士「それに……信用している男に呼び出されて——それもオマエの言うとおり好きな人だって言うんなら、舞い上がっていたなんてことは、あり得ない話じゃない」
傭兵「なるほど……」
傭兵(窓辺に呼び出し月明かり差し込む場所で告白した……のではなく)
傭兵(その場所に呼び出し告白されると舞い上がって油断している姫を、その背後から仲間に強襲させた……)
傭兵(使用人の中に仲間がいるんなら、それぐらい容易いはずだ)
傭兵(女騎士が強く否定するように、駆け落ちをしていないことにも辻褄が合う)
傭兵(気絶させた後は、下に待機していた仲間に土を柔らかくさせた後、姫を窓から落とした……)
傭兵(あとはその使用人共々何食わぬ顔で朝を迎えればいい)
傭兵(男は「騒ぎが大きくて大事な教え子が大変なときなのに残れなくて残念だ……」とか言いながら立ち去り——)
傭兵(——使用人はまた別の日に、怪しまれなくなるぐらい時期を開けてから辞めれば良い)
傭兵「くそっ……! そういうことかっ!!」
傭兵「だったら、城に戻っている暇は無いっ!」
傭兵「いや、駆け落ちにしろ誘拐にしろ、そもそも城に戻らずに探しに行った方が効率が良い!」
女騎士「え? なにが?」
傭兵「後で説明する!」
傭兵「今はとりあえず、彼女達を探すことから始めないと……!」
女騎士「探すって……どうするつもり?」
女騎士「今から馬を走らせても、とっくに逃げているであろうそいつらに追いつけるとは……」
女騎士「それに逃げている方向も分からないんじゃね……がむしゃらに探しても仕方ないよ」
傭兵「……魔法を使う」
女騎士「え?」
傭兵「人を乗せても浮いて操作できる泥の円盤を作って乗っていく」
傭兵「途中で何度も降りないといけないけど、上から探せばある程度の範囲は絞れるはずだ」
傭兵「それに誘拐が確定している以上、移動手段は馬車以外あり得ない」
傭兵「それも周りからは見えないよう、城下街から抜け出す際兵に咎められぬよう、屋根のついた荷台のついたものである可能性も大きい」
女騎士「まさか……この時間走っているその馬車を、片っ端から見ていくつもり?」
傭兵「時間も時間だ。夜の今なら台数も少ないはずだ。もうそれしかない」
傭兵「こうなってくると城に戻っている時間さえ惜しい……!」
傭兵「くそっ! 駆け落ちだとばかり思ってたからのんびりしすぎた……っ!」
傭兵「もし誘拐だったら、本当に手遅れになっちまうっ……!!」
女騎士「なるほど……そう言って逃げるつもり?」
傭兵「は?」
女騎士「忘れてるのかもしれないけど、ボクはまだ、オマエの疑いを解いて無いよ」
女騎士「そう言って逃げ出して、誘拐の実行犯と合流するつもり?」
傭兵「今はそんなこと言ってる場合じゃ——」
女騎士「だから、ボクも同行する」
女騎士「ボクも一緒に連れて行け」
女騎士「それなら文句は言わない」
傭兵「——ああ。わかった」
傭兵(騎士長としての立場として、ついて行きたいからついて行く、とは言えないのか……)
女騎士「すまない、兵士」
兵士「はっ」
女騎士「これからボクは、こいつを見張りながら、こいつが言う方法で姫を探す」
女騎士「細かな指示をこれから出すから、城に着いたらその通りに動いてくれ」
女騎士「あと、ボクが離れてる間……頼むぞ」
兵士「かしこまりました」
兵士「ですが……本当に大丈夫ですか?」
兵士「もし彼が本当に誘拐犯の一味だったら、騎士長様が……」
女騎士「ああ。確かにそうなると、ボクはかなり危険なことになるだろう」
女騎士「このままよく分からない場所に連れて行かれるだけかもしれない。捜索に加われないようにされるかもしれない」
女騎士「いや、それならまだマシだ」
女騎士「最悪、何十何百の敵に囲まれてしまうかもしれない」
女騎士「だが、それでもこの方法を取るのがベストだ」
女騎士「アイツの推理をまだ聞いてはいないから不安だし……あの必死さも演技で無い保証も無いが……それでも、だ」
女騎士「……オマエには、城に戻ってからボクが行おうとしていたこと全てを任せる」
女騎士「そうしておけば、捜索させられないようにされても大丈夫だろう」
女騎士「頼んだぞ」
兵士「……はっ!」
兵士「お気をつけくださいっ!」
女騎士「まかせておけ」
女騎士「もし襲われたとしても、ボクがあの程度の相手に負けるわけが無いだろう」
女騎士「例え沢山の人間に包囲される場所に放り込まれても、な」
〜〜〜〜〜〜
ヒュウゥゥゥゥゥ…
女騎士「すごい……本当に浮いてる……足場があるといっても魔法で空が飛べるとは……」
傭兵「集中力を極めれば女騎士でも出来ることだ」
女騎士「ボクのところにいる宮廷魔法使いもそんなこと言ってたな……」
女騎士「もっとも彼女の場合、こんな空高くは飛べてなかったけど」
女騎士「……やっぱり、オマエが犯人なんじゃないのか?」
傭兵「これでも魔法は魔法だからな。魔法無効化の結界が張られてたら落ちて大怪我だって」
傭兵「解除してから浮いて……って方法が取られてないのは、地面が柔らかくなってたって話で分かってるだろ?」
女騎士「分かってるって。ちょっとしたカマかけにもなってないカマかけのつもりで訊いただけ」
女騎士「で、この暗闇の中の、この空の上から、馬車なんて見えるの?」
傭兵「見える」
傭兵「……いや、正確には反応できる、かな」
傭兵「気配的なもので分かるんだよ」
女騎士「気配的……? どういうこと?」
傭兵「……その前に、一度降りよう」
女騎士「え?」
傭兵「この魔法、実際は長時間跳躍してるだけのようなものなんだ」
傭兵「悪いけど、本当に飛べているわけじゃあないんだよ」
ヒュウゥゥゥゥゥ…
女騎士「で、気配的ってのは?」
傭兵「……俺の集中力が周囲に散らばっているのは、一度手合わせした時指摘してきただろ?」
傭兵「俺は色々と、周りが気になりすぎる性分みたいでな……いや、たぶんすごい臆病なんだろう」
傭兵「でもそのおかげか、結構な範囲の気配を自然と探ってしまうんだ」
傭兵「それも、気になった箇所一つ一つを集中する形でな」
女騎士「……つまり、どういうこと?」
傭兵「この上空から広々と見える地上は、光がなくその全てが黒くて暗いだろ?」
傭兵「でも何かが移動したとき、黒さの中にある暗さが移動して、少しばかり色が変わっていくように見える」
女騎士「ああ……まあ、うん。確かに」
傭兵「俺はな、視界の端にでも良いから、少しでもソレが映ればその変化を全て感じ取れる」
傭兵「もしそれが本当に視界の端の端であっても、真正面から見据えたみたいに理解できてしまう。それほどまでに意識がそちらへと向くんだよ」
傭兵「例え何十個視界の中に変化が訪れても、その全てに集中できるんだよ」
女騎士「……ん? それってもしかして、ボクが指摘したみたいに集中力が無いんじゃなくて、逆に——」
傭兵「あ、あの馬車」
女騎士「——え?」
葉柄「あの方向に走ってる馬車。とりあえず行ってみよう」
女騎士「……何も怪しく無いように見えるけど……ただの行商馬車のような……」
女騎士「夜だからゆっくりと走ってるだけの、極々普通な——」
傭兵「それでも、一つ一つ確認だ」
傭兵「ただの馬車かどうかなんて、近付かないと分からないだろ」
女騎士「——そうだね。分かった」
傭兵「とりあえず一旦降りてから、あの馬車の進行方向近くに跳ぶぞ」
〜〜〜〜〜〜
ヒュウゥゥゥゥゥ…
女騎士「くそっ! また、ただの行商馬車だった……!」
女騎士「これで七つの間違い……誘拐されたってことは、馬車で移動してることは確かなはずなのに……!」
女騎士「さすがに王都から出ないままってことはないはずなのに……どうして見つからない……!?」
女騎士「何か……何か見落としているのか……!?」
傭兵「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
女騎士「……ちょっと、さっきから大丈夫? 段々息も荒くなってるけど……」
傭兵「あぁ……いや、大丈夫。ちょっとしんどいだけだ」
女騎士「なんで……って、あっ、魔法……!」
傭兵「やっぱこの魔法、跳躍って言ってもかなりの高さが必要だからさ……もうすげぇ集中しないと使えないんだよ」
傭兵「おかげで、かなり神経磨り減ってきて疲れちまう……」
傭兵「上空から探すのにも、なんだかんだで結構集中するしな……」
女騎士「そんな……なんでそんな辛い方法で探そうとしたの?」
女騎士「確かに空から探せる上に移動手段にもなるコレは便利だけど……でも、だからといって……」
傭兵「なんでも何も、お姫さんが危ないからだよ」
傭兵「急がないとお姫さまが危ない。頑張る理由は、それだけで十分だろ」
女騎士「……ううん」
女騎士「それは……おかしい」
傭兵「……えっ?」
女騎士「オマエは、おかしいことを言ってるよ」
傭兵「……は? ……どこがだよ……」
女騎士「その理由が成立するのは、ボクや兵士達のように、姫さんを慕っている者や姫さんに従っている者だけだ」
女騎士「オマエはお世辞にも、姫さんを慕っていないだろう。従ってもいないだろう。慕うまでに至る理由も、従うほどの契約もしていないはずだ」
女騎士「こんなに自分を犠牲にして、やる前から辛いと分かっていながらもその方法を取る、そんな無理をする理由にはならない」
女騎士「だってオマエはそもそも、お金のために姫さんと知り合ったじゃないか」
女騎士「姫さんに殺され、姫さんを殺して儲けるために、やってきたんじゃないか」
傭兵「…………」
女騎士「いや、それを言い出すと、この状況自体が変だ」
女騎士「今まで受け入れていたこと自体がおかしい」
女騎士「そもそもオマエに頼まれた依頼は“姫さんの副作用”に関するものだけ。それ以外は金にすらならないと考えるのが普通」
女騎士「それなのに息を切らして神経を削って、大量の汗を流しながら切れそうな集中力を持続させ続けているのは、明らかにおかしい」
女騎士「慕ってもいないし親しくもない人を救う人の行動とは、到底思えない」
女騎士「だから、姫さんが危ないって理由だけでそこまでするのは、おかしいんだ」
傭兵「……そう難しく考えるなよ」
傭兵「結果的には助かってるんだから、それでいいだろ」
女騎士「……いや……よくない」
女騎士「この理由次第では、ボクはオマエを信用するかもしれない」
女騎士「だからボクは……いくらでも難しく考える」
傭兵(……はぁ……くそっ、この急いでるときに何を聞いてきてるんだ、この騎士長様は)
傭兵(ただでさえ魔法のせいで集中力がゴッソリ持っていかれて疲れてるってのに、別の言い訳なんて考えられるか)
傭兵(っていうか集中力が無くなってきて辛いって話したばっかだろうが……)
傭兵(……いや、だからこその質問、か……)
傭兵(このタイミングなら嘘をつけるほどの余裕もないだろうって考えか……)
傭兵(敵だと分かるなら早いに越したことは無いからな……疑いが強いのなら取るべき手段としては最良だ)
傭兵(……ああもう……! ……面倒になってきたな)
傭兵(余計に怪しまれる理由になるだろうが……もうどうでもいいや)
傭兵(疲労が酷くて考えられないし、もう良いだろう。うん)
傭兵(疑いが深くなってしまうだろうが、俺の知ったこっちゃねぇわ)
傭兵「……子供の頃からの、村の教えだ」
女騎士「村の……?」
傭兵「ああ。ずっとずっと、村を離れるまで、教えてくれたんだ」
傭兵「直接見せて、やって、聞かせて、示してくれたことだ」
傭兵「大人は子供を守るものだ、ってな」
傭兵「だからそれを守るために俺は、あの子の為に今、頑張ってる」
女騎士「まさか……その理由を信じると思ってるの?」
傭兵「思ってなんて、いないさ。どうも世間的には……コレは、ただの綺麗事を言ってるだけのよう、だからな」
傭兵「でも、お姫様を助ける理由なんて、俺には他に、ないんだよ」
傭兵「ここまで必死になる理由だって、な」
女騎士「……………………」
傭兵「まぁ、信用するしないは、お前が決めてくれ」
傭兵(メイドさんに聞かれた時みたいに、それっぽい理由を見つけ出す余裕なんてねぇわ、マジで)
傭兵(ぶっちゃけ疑いを晴らすことができる気の利いたことなんて言えなかっただろうしな)
傭兵(誘拐犯の一味だと疑われたままであろうと、別の国のスパイだと思われたままであろうと、これだけの無茶全てが演技だと疑われてしまう以上、無駄に決まってる)
傭兵(こうして無茶をして、辛そうにして、追い詰めることで信用を勝ち得ようとしている……)
傭兵(そう思われて仕舞いだ)
傭兵「……それよりも、こうして城下街から離れてきて、一つ……おかしな気配がある」
女騎士「……え? おかしな気配?」
傭兵「この暗い夜の中、森の中の街道を、それなりの速度で移動している影が、あそこに見える」
傭兵「……今まで傍に降りた馬車とは、明らかに違う」
傭兵「この、星と月の明かりしかない、時間帯に、その微かな光すら届かない森の中を、太陽が昇っている時間帯と同じ速度で……はぁ……移動している」
女騎士「それは……でも、夜盗に襲われる可能性があるから、極力急いでるんじゃ……?」
傭兵「それなら、隣の大通りを走った方が、良いように思える」
傭兵「ああ……でもあの大通りだと、森の中を走った先にある、人気の無い場所にはいけないのか……」
女騎士「人気の無い……? 田舎に向けて伸びてる街道を行ってるってこと……?」
女騎士「あっ、もしかしてあの動いた影がそう?」
傭兵「たぶん、な」
女騎士「あんな葉っぱの間からちょっとしか見えない馬車に気付くなんて……しかもこんな上空から」
女騎士「……いや、なんにせよ、この辺他に馬車は見当たらないし、次一度着地した後はあの馬車に向けて飛べば良いんじゃない?」
傭兵「そう、だな」
女騎士「さっきまでと同じ」
女騎士「外れてたら外れてた時だって」
女騎士「……まあ、傭兵に無茶をさせてしまうのは悪いと思うけどさ」
女騎士「ごめん。頑張って」
傭兵「……ああ……当たり前だ」
傭兵(あれ? 今名前……?)
傭兵「…………」
傭兵(……いや、疲れてるからな。気のせいだろう)
〜〜〜〜〜〜
そして現在
〜〜〜〜〜〜
傭兵(そうして、馬車の上空を通過するように魔法で飛んだとき……)
傭兵(荷台の中から口を塞がれた悲鳴が聞こえたから、思い切って荷台の中央に大穴開けるように飛び降りてみた)
傭兵(そしたら見事ビンゴで……姫が襲われそうになっていて……女騎士が一人殺して爆発させられそうになっていた馬車から脱出して、今に至るわけだ)
傭兵「……さて……」
傭兵(爆発音に驚き逃げた馬のように、そのまま四人全員が爆発に紛れてバラバラに逃げるのかと思いきや、どうも周囲を囲ってるみたいだな……)
傭兵(数は五人。最後に真正面から隠れたヤツがいたところを見ると、アイツが馬車を爆発させたヤツか……おそらくは運転していたヤツだろう)
傭兵(……普通なら火属性、と見るべきだが……ああして森火事を気にせずぶっ放したところを見ると、火による要因が無いと見るべきだろう)
傭兵(となると、“爆発”自体が属性と見るのが打倒か)
傭兵(……相手は五人とも、隠れこちらの隙を窺っている……仕掛ける気は満々ってことか……)
傭兵(こちらの数が二人しかいないと分かっての判断だろう)
傭兵(逃げる予定で目くらましに爆発させ、けれども勝てると思い隠れたか……)
傭兵(……いや、もしかしたらこの爆発自体、仲間に異常があったことを知らせるためのサイン、か……?)
今日はここまで
明日ちょっと用事で投下出来ないから長めに
そして書き溜めをほとんど消費するというアレっぷり
とりあえず、次は水曜日に投下します
ついてきてくれている人、本当にありがとうございますm( __ __ )m
ちょっと遅れたけど再開します
みんな辻褄合わせを褒めてくれてありがとう
でもね…>>209で人数ミスを起こしてるんだ……
5人とか書いてるけど4人だよね…敵の数
一人どこから増えたんだよって話だよ本当
とりあえず
傭兵「……さて……」
傭兵(爆発音に驚き逃げた馬のように、そのまま四人全員が爆発に紛れてバラバラに逃げるのかと思いきや、どうも周囲を囲ってるみたいだな……)
傭兵(数は四人。最後に真正面から隠れたヤツがいたところを見ると、アイツが馬車を爆発させたヤツか……おそらくは運転していたヤツだろう)
傭兵(……普通なら火属性、と見るべきだが……ああして森火事を気にせずぶっ放したところを見ると、火による要因が無いと見るべきだろう)
傭兵(となると、“爆発”自体が属性と見るのが打倒か)
傭兵(……相手は四人とも、隠れこちらの隙を窺っている……仕掛ける気は満々ってことか……)
傭兵(こちらの数が二人しかいないと分かっての判断だろう)
傭兵(逃げる予定で目くらましに爆発させ、けれども勝てると思い隠れたか……)
傭兵(……いや、もしかしたらこの爆発自体、仲間に異常があったことを知らせるためのサイン、か……?)
と数の修正です
女騎士「……敵は?」
傭兵「それよりも、お姫さまは大丈夫だったのか?」
女騎士「……あんまり」
女騎士「確かに、その……それは大丈夫だったみたいだけど……やっぱり怖かったみたいで……」
傭兵「そうか……」
女騎士「それで、敵は?」
傭兵「分からないか?」
女騎士「周りを囲ってるのは、なんとなく気配があるから分かる」
女騎士「でも夜だし森の中だから、どうにもしっかりとした位置が掴めない」
女騎士「ちょっとでも攻撃されたらすぐに気付けるんだけど……」
傭兵「そっか……」
傭兵「……ならここは俺に任せて、お姫さまを守っておいてくれ」
女騎士「え? なんでそうなるの?」
女騎士「さっきまで傭兵は無茶してきたんだしさ。今回はボクに任せてよ」
女騎士「さっきだって大分辛そうだったし」
女騎士「今だってたぶん、立って普通に喋って大丈夫そうに振舞うのがやっとだよね? 無理してないで、姫さんを守るのは傭兵がやってよ」
傭兵「いや……戦うのは俺だ」
女騎士「違う、ボクだ」
傭兵「……今お姫さまを守れるのはお前だけなんだ、女騎士」
女騎士「なんで? 傭兵でも任せられるよ」
傭兵「いや。怖がってる彼女に、信用できない傭兵風情が近くにいてもなんにもならない」
傭兵「今の彼女を守れるのは、信用されているお前だけなんだよ」
女騎士「でも——」
傭兵「それに、ここまでが俺のシナリオかもしれないぞ?」
傭兵「いきなり姫を攫いだすかもしれない」
傭兵「こんなに無茶して信用を勝ち取って、その瞬間に裏切るかもしれない。だろ?」
女騎士「——そんなこと……」
傭兵「あるんだよ」
傭兵「俺は傭兵だ。所詮金での雇われ身分」
傭兵「そうあっさり信用しちゃいけないんだよ」
女騎士「…………」
傭兵「だからま、お前はここで姫を守っておけ」
傭兵「んで、俺が死んだ後にでも、残りのヤツを始末してくれ」
傭兵「お前なら一度でも敵を引っ張り出せれば、もう気配を見失わないだろ?」
女騎士「……なんでそうやって……無茶ばっかり……」
傭兵「言ったろ? さっき口を滑らせちまったじゃないか」
傭兵「大人は子供を守るためにある」
傭兵「その誇りのために俺は動いてる、ってな」
傭兵「……ま、これも信用させるためのウソかもしれないけどさ」
傭兵(それに、なんだかんだでお前を戦わせるわけにはいかないんだよ)
傭兵(今のお前は冷静じゃあない。その証拠に姫を犯そうとしていた男を殺してしまった)
傭兵(殺してしまえば加護を受けてりゃ生き返ってしまう。そうなればコチラの情報が伝えられてしまうし、ここに戻ってきてまた戦うことになるかもしれない)
傭兵(最悪、増援を呼ばれて戦う相手の数が増えてしまうことだってある)
傭兵(その判断が出来ず、戦闘不能ではなく一撃死をさせてしまった)
傭兵(……平静を装っているのはお前のほうだ、女騎士。そんな内心の怒りで狂っちまったら、お前自身が怪我をしちまうかもしれない)
傭兵(そしたら、姫がさらに不安になってしまう。俺みたいな信用できない男と二人だけになってしまう)
傭兵(それだけは避けないといけない。彼女にこれ以上ストレスを与えてはいけない)
傭兵(だから、俺が戦うべきなんだ)
傭兵(あの子のためにも)
傭兵「さぁってと……それじゃあ行こうか。四人のクズ共」
誰ともなしに呟いてすぐ、腰に差していた中剣を引き抜き、左側にいる気配目掛けて投擲する。
ガサりと葉を揺らし、その攻撃は避けられてしまう。
それが開戦の合図とばかりに、一斉に真正面以外の他の二方向から短剣が飛来してきた。
だがこちらは相手の気配を既に読み取っている。その攻撃をよけることは造作も無い。
それは向こうも理解しているのだろう。この攻撃はあくまでも牽制。
本命は、真正面に潜んだままの男。
ソイツの気配が一瞬だけ薄くなり、少しだけ前進してくる。
いまだ視界には収まらないその姿。
闇夜の木々草々に紛れたソレを目で見ることは不可能に等しい。
だから俺も見るつもりは無い。
見えなくとも、この真正面の敵の狙いは分かっている。
おそらくはこの気配こそが、荷台を爆発させた張本人。
爆発に類する属性を持った人間だ。
相手方三人は俺と女騎士を殺したって構わない。
生き返りまたやって来られようとも、彼らのアジトを見つけていない以上、逃げて隠れるのが容易い事は明白。
故に、一撃で殺しに懸かってくるに違いない。
そのための攻撃を行うのが、この真正面にいる気配だ。
おそらく少しばかり前進したのは、俺自身を直接爆発させるため。
距離が離れていると、それだけ集中力と魔力が必要になる。
そして前進する前の距離では俺を直接爆発させることは出来ない距離にいたのだろう。
いや、おそらく予定の位置に至ってもその距離にはならない。
飛び出しすぐさま魔法を発動し、こちらが反応できずそのまま死に絶える。
こちらが気配に気付いていないと思っている以上、それが一番理想であり、そのための距離を今測っているに違いない。
他の三人はこちらを殺そうとしながらも、あくまで狙いはその一撃。
死ねばラッキー程度にしか考えていない攻撃。
終の一撃を浴びせるまでの繋ぎでしかない。
そして、あと一人……俺が最初に中剣を投擲した敵。
その狙いはおそらく、女騎士。
だからこそ女騎士に位置を知らせるために、最初に武器を一つ失ってでも攻撃を仕掛けたのだ。
二方向から飛んできた短剣。
その全てを、その場からほとんど動くことなく躱す。
……まだ真正面の敵からの攻撃がない……。
やはり先ほどの攻撃中に距離を詰め切れなかったのか……。
俺が気配を読みきっていることも悟れないとは……実力が知れる。
とはいえおそらく、魔法を抜きにした近接戦闘のみならば、相手四人は俺と引けを取らないだろう。
それだけ俺は弱い。
だがそれはあくまで、一対一で戦った場合の話だ。
複数が徒党を組んでやってきてくれたなら話は違ってくる。
俺ではすぐにやられてしまう……わけではない。
相手が集団戦を望んでくれていることはむしろありがたい。
こちらが一で相手が多。
それこそ俺が十全の力を発揮できる状況だ。
だから俺は、相手の誘いにあえて乗ってやる。
相手が何もしてこないのは、俺にまだ位置を知られていないと思い込んでいるから。
そこであえて、相手のいない方向に向けて攻撃をし、誘い出す。
まるでてきとうな攻撃をしたかのように見せかけて。
それを待っている敵の狙い通りの行動を起こしてやる。
しゃがみ地面に手をつき、その手を天高く掲げる。
足元から伸びた水の鞭が最初に中剣を投げた位置へと伸び、先ほど男が潜んでいた周辺を撓りなぎ払う。
しかし分かりきっていたことに、そこにはなんの手応えもない。相手が移動しているのは事前に分かっていた。
一度場所を示したのだから、女騎士も把握しているだろう。
だが俺はそこへと攻撃した。
それも大きな隙を生み出す魔法で。
ソレを逃す訳がない。
前方二方向から二本ずつ、計四本のナイフ投擲。
さらに一人の男がナイフを構えて駆け出し、右側へと回り込むようにしながら近付いてくる。
……なるほど、と思う。
一つ一つのタイミングが違う完璧な連携で放たれたナイフ攻撃を確実に当てるため、あえて姿を現すことでこちらの動揺を誘う。
それでナイフが刺さらずとも、こちらを魔法の準備をしている男へと近付ける攻撃をするつもりだろう。
もちろん、上手くいってそのまま殺せれば、という考えは言うまでも無い前提条件として据えて。
対し俺は、タン、と足を慣らして簡易魔法を発動。
地面から自分の周りに高圧の水を壁のように吹き上げさせ、飛んできた四つのナイフを上空へと弾き上げる。
その行方を見送る間にも、天へと突き上げなかった手で地面を叩き、先ほど向かわせた水の鞭を操作。
最初に投げて木に刺さったままの中剣を掴ませ、走ってきている敵に投げつける。
突然の飛来物を避けることが出来ず、そのナイフは男の右肩に深々と刺さった。
その怯んだ隙を逃さず、飛び上がるように立ち、間合いを詰め、男の脇腹に蹴りを入れ、魔法を準備しているのであろう男の直線上にソイツを倒す。
さらに再び地面に手を付き、掲げ、投げナイフを弾き上げた水壁を操作。
壁として現れたソレを一本の綱のようにし、弾き上げた剣をすべて掴ませ、草むらの中に隠れたままの投擲者に向けて返してやる。
その攻撃でもう隠れているのは無駄と悟ったのか。
狙われた一人はそのまま武器を構え飛び出してきた。
よく見てみれば、この二人は馬車の爆発前にしっかりと得物を確保できていたのか、その手にはしっかりとした両刃の剣が握られていた。
前へと蹴り倒した男も立ち上がり、肩に突き刺されたナイフを抜いて、襲い掛かってくる。
草むらから出てきた敵は俺の後方へと回り込むように弧を描き走ってきており、このままだと挟み撃ちされるのは目に見えている。
それが分かっていながら俺は、そのままその場に留まり、残っているもう一本の中剣を引き抜いて立ち上がり、構えた。
本来、包囲攻撃となるとそうなる前に逃げ出そうとするか、そうなったとしても抜け出そうとするものだ。
一人を先に倒すなり、僅かな隙間を見つけ出してそこへ移動するなりして。
だが俺の場合は、包囲されたほうが有利に働ける。
この特異な集中力のおかげで。
例え真後ろからであろうとも、攻撃を避けられる自信がある。
いや、避けられぬはずが無いとさえ思っている。
視界が特別広いわけではない。
ただ視界の端にでもその姿を捉えられれば、そこに見えるものへと自然と集中してしまい、理解し、把握してしまう。
攻撃の軌道を、隙を、タイミングを……その全てが見えてしまうから。
故に、避けることが容易くなる。
だがそれだけではない。
それだけで、中央には留まらない。
俺はその自分の集中力を利用した戦い方を作り出した。
ただそれは、相手が複数であり、また互いに連携攻撃を行ってくることが前提ではあるが。
魔物相手に編み出したそれは、人間相手にも十二分に通じるものだった。
いや、魔物のように本能的に効率的な攻撃を行った結果連携となっているのに対し、人間は的確な思考の元連携を行っているのだから、尚のこと簡単だった。
相手の連携を崩し、相手の攻撃を利用し、同士討ちを狙わせるような軌道へと誘導できるよう避け、逸らし、移動する。
それこそが俺の戦闘スタイル。
俺の集中力を最大限利用した戦い方だ。
……集中過多。
俺は集中力が無いわけではない。
むしろ人以上にある。
ただありすぎてしまうが故に一つに集中することが出来ず、他に見え映るもの全てに集中してしまう。
だが思考はその集中全てを処理しきられるほど発達できていない。
故に一対一で戦うと、よく気が逸れているように見られてしまうのだ。
“一つに集中する”と集中すれば可能なのだが、それはまさに集中力の無駄な消費に他ならない。
だからこの特性を利用しようとした。
並列処理が異常に発達してしまっているのに、思考は直列処理でしかない。
そんなアンバランスな俺が戦える方法を探す。
その結果こそが、一対多に対して特化した戦い方を身に付けることだった。
……幸いにも、昔勇者候補者として三人一組でいた頃は、他の二人が一対一に適していたので、その戦い方は有利に働いた。
魔物の姿をすぐに見つけられたというのも大きい。
何度も何度も死にながら、なんとか身に付けたその戦い方……。
魔法ですらも、この戦い方の補助でしかない……。
まさに囲われてこそ真価を発揮する。
追い込まれてこそ戦いになる。
それが俺の戦い方だった。
本当は戦闘が終わるまで投下したかったけど時間が…今日はここまでにします。
本当、自分苦手なんだ…台本形式じゃない書き方…
明日には…明日には読みづらいコレも終わるからもうちょい待って…!
あと綺麗に繋がったって言ってくれてる人みんな、本当にありがとう
はあのタイミングで傭兵が気づくのは無理やりすぎるかなと思ってただけにそう言っていただけると気持ち楽になります
再開します
とりあえず今日の目標は、書き溜め全消費
んで明日書き溜めの日にする
囲まれ、次々と繰り出されてくる二振りの長剣からの攻撃を躱し続ける。
時には受け止め、軌道を逸らし、こちらが避けられないタイミングを狙って放ってきていた攻撃を止める。
攻撃と攻撃の隙間を縫うその攻撃を読み、受け止めることで、その次の同じ間を埋める攻撃へのリズムを狂わせる。
そうして生まれた隙へと攻撃するが受け止められ、その攻撃によって生まれたこちらの隙を狙い澄ました攻撃を、これまた読んで躱す。
それを何十回と繰り返し、一向に攻撃が当たらず、それでいてこちらの手数が増えたことで相手に焦りが見え始めたところで……ようやく、連携を崩しにかかる。
止められ出来た隙。焦りから先ほどよりも大きくなってしまっていたソレを見逃さす、残りの一人からの攻撃の邪魔となるよう、その一人へと魔法を放つ。
足を軽く鳴らし、大雑把に振り回す水の鞭。
誰一人として当たらないその攻撃はしかし、包囲する二人にさらなる隙を作るには十分な代物。
しゃがんで避けた一人の顎目掛けて飛び蹴りを浴びせ、気絶させる。
後三人。
さらにすぐさま着地と同時に地面に手を付き魔法を発動。
また水による攻撃を警戒している残りの一人の足元が泥と化し、足元への警戒を怠っていた一人の身体が一瞬だけグラつく。
その隙を逃さず、ずっと攻撃を受けるのに使っていた中剣を相手の脇腹目掛けて投擲。
刺さり蹲ったタイミングを見逃さず、投げて開いた手で地面を叩き、顔を伏せたその全身を水の球へと閉じ込める。
後二人。
一瞬にして二人……。
本当に僅か——一秒にも満たない刹那の隙。
ずっとずっと隙をフォローしあう連携を取ってきて、時にはリズムを変えて攻撃に特化させたその全てを見破られ、防がれてきていた。
完璧だと思われた連携。
だがちょっとした焦燥によって生まれてしまった、いつもの連携でも埋め合わせられないその隙を、的確に衝いてきた。
あっという間に二人がやられたという事実。
それに女騎士を狙っていた相手も驚きを隠せていない。
女騎士へと向かい合うのを止め、俺を狙うかこのまま隙を窺い続けるかどうかを悩んでいる。
……まさか、とは思うまい。
一対一で戦った場合、こちらの実力とそちらの実力が、実は魔法を抜きにすると肉薄しているという事実があるということを。
こんなに完璧に連携を破ってきたのだからそんなはずは……。
そう考えてしまうのが道理というものだ。
実を言うと、敵の連携は完璧ではなかった。
完璧な連携とは、“狂い”すらも折り込むことだ。
見抜かれ・受け止められ・避けられ、そうしてリズムが狂わされた場合、こうした連携を取る。
自然と身体が動こうと、事前に決めたことであろうと、どちらにしても狂いを正すかのように次に繋げる。隙を作らず埋めるように。
それが出来てこその完璧な連携だ。
だがそれは同時に、狂わされ続けた果てには、取り返しのつかない大きな隙が生まれるということ。
彼等の連携にはその想定パターンは一つも無かった。
自分達の攻撃に絶対の自信を持ってしまっていた。
狂わされることを考えてもいなかった。
狂わされた後を埋めることもなかった。
故にこちらから度々攻撃するしかなかった。
だからこそ“狂い”は小さく、崩し続けることで相手に焦燥を抱かせるしか術はなかった。
つまりこちらから、致命傷を与えられる攻撃をすることが出来なかったのだ。
そういう意味では俺との相性は悪いと言える。
俺の反射神経を超える攻撃や、本当に避けられない必殺の一撃をされる……その次ぐらいには厄介な相手。
しかしそれも破った。
相手が焦ることによって。
だが問題はここからだ。
残りの相手は二人。
だが一人は魔法を使っての一発逆転を狙い続け、もう一人は俺ではない誰かの隙をずっと草葉の影から窺っている。
こうなると連携を取ってくれるはずも無い。
真正面から戦う数が一人になった以上、迂闊な攻撃はこちらの真の実力を相手に知らしめてしまうことになる。
このまま一対一で戦えば勝てるのではと、思わせてしまうことになる。
今はまだ、連携攻撃の果てに二人がやられたおかげで、その考えには至っていない。
勝てないだろうと思わせるハッタリは成功したまま。
だからその考えに至られる前に、ハッタリに気付かれる前に、相手を倒さなければならない。
一対一という、こちらにとっては不利な状況下で。
ならまずは真正面でずっと隠れているヤツからいくのが定石か。
いまだ自分の居場所がバレていないと思い込んで隙だらけの内に、潰すに限る。
……相手にとってはまだ魔法の射程距離ではないのだろうが、俺からしてみれば十分に射程距離圏内だ。
少しの集中力であの隠れている場所に、突然魔法を発動させることは容易い。
今まで気配に気付きながらも手を出してこなかったのは、この攻撃で一息に無力化するためだ。
ダブン! と水に落ちる音が草むらの中からする。
……単純なことだ。
相手の隠れていた地面を、溺れるぐらいの深さまで水に変えてやっただけ。
服の重みもあって、これで溺れ死んでしまうだろう。
……もっとも、殺してはいけないので引き上げるが。
とそこで、先ほど水の球へと閉じ込めたヤツがとっくに動いていないことに気付く。
まだ死んではいない、溺れただけであろうタイミングで魔法を解除して、解放してやる。
これで二人目の無力化だ。
あとは女騎士と姫を狙っていたやつだが……ソイツは俺の視線に気付くと同時、怯えたような気配を露にする。
どうやら向こうは、とっくに俺が気付いていることに気付いているようだった。
にも関わらず、ずっとあの場で動かず、俺が仲間をしとめる姿を見ていた訳だ。
……いや、見ているしかなかった、というべきか。
お姫さまを守るために立つ女騎士。
その隙の無さはどう足掻いても一人では攻めきれない。
迂闊に戦いを挑めば殺されない程度に無力化されるのが目に見えている。
だからこそ、仲間の応援を待つ意味でも、女騎士から距離を取り、こちらを見ていたのだろう。
だが結果はコレだ。
残っているのは自分一人。
そりゃそんな表情も浮かべてしまう。
しかし、ここまでだ。
ここでおしまいだ。
とりあえず、その男と俺との唯一の差とも言える魔法で牽制をかけようと、しゃがみ地面に手をつける。
だがその魔法が発動するよりも速く——敵はその場で、自らのナイフを、その心臓へと打ち立てた。
「っ!」
息を呑む。
同時、しまったとも、やるなとも、思った。
勝てる可能性が低いと思ったから、すぐに自分で自分を殺す。
そして組織に情報を持ち帰る。
そういう算段だろう。
女騎士が最初に殺した奴は、少なくともこちらの強さを明確には理解していなかった。
だがこの自殺した男は違う。
少なくとも俺の強さを知っている。
女騎士が一撃で殺したという事実も客観的に見ている。
戦わない方が良いとか、一気に襲い掛かろうとか、そういうレベルでしか無いだろうが、方針指針を定めることは出来る。
その判断力と思い切りの良さ。
魔法を発動する前の隙を逃さぬ行動力。
素直に、感嘆せざるを得なかった。
死なれてしまったものは仕方が無い。
誰も殺さぬようにしてきていたが、自殺されてしまったのではどうすることも出来ない。
後味は悪いし、消化不良の感じも残る。
それに最終的には少しの失敗を伴った。
だが……これでこの戦いは、おしまいだ。
傭兵「さて……」
傭兵(次にやるべきことは……)フラッ
傭兵「っ……と」
女騎士「ちょっと! 大丈夫!?」
傭兵「あ、ああ……大丈夫……大丈夫……」
女騎士「あんなフラフラだったのに……こんなに魔法使うから……」
傭兵「いや……水の鞭とかは、そんなにだ」
傭兵「むしろフラついたのは、魔法を準備していたやつを仕留めたあの魔法だ」
女騎士「どっちにしても、無茶したことに変わりは無いって」
女騎士「というかもしかして、ボクの時は手加減したとか……?」
女騎士「メチャクチャ強く見えたんだけど……」
傭兵「……俺の集中力については、薄々気付いてただろ?」
傭兵「要は俺って、集団戦に単身で挑むのが得意な神経をしてるんだよ」
女騎士「なるほど……」
女騎士「って、ごめん。しんどいだろうにこんなこと聞いて」
女騎士「ほら、もう良いから。あとはボクで始末をつけるからさ。休んでてよ」
傭兵「始末って……どうするつもりだ?」
女騎士「とりあえず、傭兵は誰も殺さなかったから、全員捕まえるつもり」
女騎士「それから連れ帰って、雇い主が誰かを吐かせる」
傭兵「……それじゃあ遅いな……」
女騎士「えっ?」
傭兵「ごめん。やっぱ俺、まだやることあるから」
傭兵「まだ休めねぇわ」
女騎士「だからそれは——」
傭兵「いや、お姫さまの前ですることじゃないしさ」
傭兵「とりあえず、女騎士はお姫さまを連れて城に戻っててくれ」
女騎士「——……戻っててくれって……何をするつもりなの?」
傭兵「アイツらの現アジトを聞き出すつもり」
女騎士「だからそれはボクに——」
傭兵「今すぐやり始めないと遅いんだよ」
傭兵「向こうに時間を上げちゃいけない」
傭兵「こっちはもうとっくに、二人を相手に返してしまってるんだ」
傭兵(自殺したヤツも最初に殺したやつも、とっくに死体は消えている)
傭兵(相手側の神官に蘇らされた、としか思えない)
傭兵「早々に手を打たないと、逃げられる」
傭兵「まして、生かしたヤツを連れて帰るなんてしたら、それこそ逃げる理由を相手に与えてしまう」
傭兵「それだけは避けないといけない」
女騎士「——…………」
女騎士「……ちっ……分かった。分かったよ」
女騎士「だったらそれをボクが今すぐするから、傭兵は本当に休んで——」
傭兵「ありがとう」
傭兵「でも、そうはいかない」
スパッ
女騎士「——……えっ……?」
傭兵「拷問するところなんて、お姫さまには見せられないだろ?」
バシャアァァ…!
女騎士(なに……ちから……ぬけて……まっく……ら……)ガクッ
傭兵「……余程、俺を信用してくれてたんだな」
傭兵「まさか不意打ちとはいえ、首を一撃で斬れるなんてな……さすがに予想外だ」
…ドサッ…!
姫「あ、ああ……あああ……!」
傭兵「ああ……お姫さま、ごめんごめん」
傭兵「ビビらせちまったな……」
傭兵「でも大丈夫だ」シュッ
トスッ
姫「ぐっ……!」
ドサッ…!
傭兵「すぐに後を追わせてやるから」
傭兵「俺と二人きりだと怖いだろ?」
傭兵「だからま、城に戻っていてくれ」
…カラン…
傭兵(ふむ……死ぬのとほぼ同時に消えた、か……)
傭兵(やっぱ姫を探すとき、定期的に城仕えの神官に復活させてもらうようあの兵士に頼んでいたのか……)
傭兵「さて……と」
傭兵(これで姫は安全圏に移動させることが出来た)
傭兵(手荒い真似だったがまぁ、これで憎まれるのは俺だけで済んだだろう)
傭兵(女騎士がいる前で殺す方法で逃がしてしまうと、女騎士が裏切ったように姫は思ってしまうかもしれなかったからな)
傭兵(それほどまでに今あの子の精神は不安定なはずだ)
傭兵(それなら部外者の俺だけが、憎まれるべきだろう)
傭兵(しかしなんとかこれで、あの子はこの場からいなくなった)
傭兵(一番良かったのは女騎士に連れて帰ってもらうことだったんだがなぁ……まぁ、あそこまで俺に気遣ってくれるのは想定外だったってことで)
タンッ
傭兵(まずは蹴り倒したヤツと、水の球で溺れさせたヤツを一応拘束しておいて……と)
ギチッ
傭兵(これで良し)
ザッザッザッ…
傭兵「…………」
タンッ
ザバァッ…!
野太い声5「げほっ! げほっ! ごほっ! がはぁ……!」
傭兵「あ〜、良かった。結構時間かかっちまったから、溺れ死んじまってるかと思ったわ」
野太い声5「ごほっ、ごほっ……! て、てめぇ……!!」
傭兵「あ〜……無駄な抵抗はしないでくれよ。今のオマエはフラフラで、勝てないことぐらい理解してるだろ?」
傭兵「だったらさ、俺の質問に答えろよ」
というわけで書き溜め分全部終了です
明日は新しく書き溜めるのでお休みする
また土曜日に
質問です
復活の加護って僕達の世界で言うとどれくらいのお値段なんでしょうか?
昨日はごめんなさい
おなか痛過ぎて投下できなかった
お詫びに今日は第二部終わりまで…と思っていたが今日もまだ痛いぜ…
そのせいで第二部終わりまで書き溜まらなかったぜクソが……
それでも今日は出来てるところまで投下する
乙とか待ってるとか楽しみとか皆が嬉し過ぎることを言ってくれるからだ!
あと寄付関係の質問は終わりにでも
傭兵が加護を受けた経緯とか、設定してたけど明かすことは無いつもりだったことも、合わせて書く
野太い声5「あん?」
傭兵「オマエ等が今使っているアジトはどこだ?」
野太い声5「はんっ……んなもん言うわけねぇだろ? バカか……?」
傭兵「あ、そ」
タン
野太い声5「っ……!」ギチッ
傭兵「本当は手足縛って拷問とかしたくなったんだけどなぁ……喋らないなら仕方ないか」
傭兵「ま、見せたくないお姫さまもいなくなってるし、やっても良いだろ」
タンッ
ヒュン…!
パシッ
野太い声5「けっ、そうやって剣を魔法で投げつけられるアピールしたからってビビると思ってんのかっ!?」
野太い声5「そんな方法で喋ると思ってんのかっ!? あぁんっ!?」
傭兵「思って無いさ」
傭兵「それに、やるのはこれからだ。誰も剣をチラつかせてビビらせて終わるつもりは無いんだよ」
傭兵「喋るまでやらせてもらう」
傭兵「死ぬことを許さない拷問を」
傭兵「早く死にたいと思いたくなる方法を」
傭兵「あ、そういえば知ってるか?」
傭兵「強い痛みってのは蘇っても残ってるもんなんだよ」
傭兵「死ぬ際の一瞬の痛みとかは大丈夫なんだが、拷問とかの持続的な痛みってのは精神にも刻まれるんだよ」
傭兵「だからま、生き返ってすぐはその痛みが残っていて、まるで手足が無いような錯覚に陥るんだ」
傭兵「見ればあるのに感覚的には無い」
傭兵「そんな不思議な錯覚にさ」
タンッ
ザブンッ
野太い声5「……?」
傭兵「さてこの水。都合がいいことにオマエの痛覚を全てマヒさせる代物だ」
傭兵「顔以外を全て覆われたこの状態で、何をされるか分かるか?」
野太い声5「けっ! マッサージでもしてくれるってか?」
傭兵「あん? バカなの?」ザシュ
野太い声5「っ!」
野太い声5「……? ……あれ……?」
傭兵「不思議だろ? 指が五本とも切られて水の中でプカプカ浮いてるのに、痛みが無いってのはさ」
傭兵「ま、ともかく、今そういう減らず口に対してすっげぇイライラするぐらい疲れてるからさ。早く頼むよ」
傭兵「アジトの場所、教えろ」
野太い声5「だから、言うわけねぇっての」
傭兵「だろうねぇ」ザシュッザシュッ
野太い声5「っ……」
傭兵「さて……これで足首から先まで両方ともプカプカと浮いてることになるんだが……」
傭兵「そうだな……そろそろどうしたいのか教えようか」
タンッ
バシャァ…!
野太い声5「っ……!」
傭兵「あ、五月蝿いのは勘弁」
タン
ザブンッ
野太い声5「っ……! っっっっっ……!」ジタバタジタバタ
ゴボゴボゴボゴボ…!
傭兵「ああ、息苦しい? ま、そりゃそうか。今度は顔だけに水やってるわけだし」
野太い声5「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!」グッグッグッ…!!
ゴボゴボゴボゴボ…!
傭兵「ああ、それともあれか?」
傭兵「斬り落とされた箇所が痛いのかな?」
傭兵「まぁそりゃそうか」
傭兵「いきなり指と足首が落ちたときに痛みがやってこりゃ当然か」
傭兵「あ、ちなみにその水、声を落とすだけじゃなくて気絶させない効果もあるから」
傭兵「本当に死ぬほどの痛みがやってこないと倒れられないから」
野太い声5「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっっっっっっ!!!!!!」
ゴボゴボゴボゴボ…!
傭兵「……うん。そろそろかな」
タンッ
ザバァッ…!
ザブンッ
野太い声5「ぐっはぁ……! はあぁ……! はあぁぁぁ……!!」
野太い声5「げほげほげほっ!!」
野太い声5「……くそがぁ……てめぇ! 解放されたら覚えてろよっ!!」
傭兵「ああ……聞きたい言葉はそれじゃあ無いなぁ」
傭兵「ま、良いか」
傭兵「他の二人の拷問相手が気絶から蘇るまではまだ時間があるだろうし」
傭兵「じっくりたっぷり……聞き出してやるよ」
◇ ◇ ◇
王城内・神殿
◇ ◇ ◇
女騎士「っ……くはぁっ……」
女騎士「はぁ……はぁ……はぁ……」
兵士「騎士長! 大丈夫ですか!?」
女騎士「ああ……うん。大丈夫……」
女騎士「でも、どうしてお前がココに?」
兵士「神官長から連絡があったのです。騎士長が転送されてきたと」
兵士「ですので、復活の儀に立ち合わせてもらいました」
女騎士「そうか……」
兵士「騎士長がやられるなんて……それほどまでに手強い相手だったのですか?」
女騎士「いや……そうじゃない……そうじゃないけど……」
女騎士「……! 姫はっ!?」
兵士「王女様も同じように遅れて転送されましたが……騎士長様が殺して逃がしたのではないのですか?」
兵士「いざとなったら殺して転送する方法を取るから定期的に、という話でしたのでてっきり……」
女騎士「それだと、順番が逆になってないと」
兵士「あ……確かに。少々焦ってしまってました」
女騎士「それだけ心配してくれたということか。ありがとう」
女騎士「それにしても……姫さんも殺した……? てっきり裏切られたのかと思ったけど、そうじゃないってこと……?」
兵士「騎士長……?」
兵士「なにか、おかしなことでも?」
女騎士「…………いや」
女騎士「それよりも、姫さんが生き返っても、お城に留めておくようにしておいて」
兵士「え?」
女騎士「ボクはまた出る」
女騎士「傭兵の下へと戻ってみるよ」
兵士「傭兵……? ああ、最初に疑った……」
兵士「でも彼も死んだのではないのですか? 城の神殿に契約書がないので、自分の契約書がある教会で蘇っているのでは?」
女騎士「いや、ボクを殺したのは彼なんだ」
兵士「えっ……!?」
女騎士「でもたぶん、裏切った訳じゃあない。もしそうなら姫まで殺す理由が無い」
兵士「ですが……それでも戻られるのは、危ないのでは?」
女騎士「もう油断はしない」
女騎士「それにボクを殺したのは、たぶん姫さんをここへと戻すためだ」
女騎士「きっと危ないことをしているか、姫さんの心に負担をかけるようなことをしているに違いない」
女騎士「だから、助けにいかないと」
兵士「ですが、助けは不要なのではないですか?」
兵士「だから騎士長をこちらに戻したのかもしれませんし……」
女騎士「アレはだいぶ無理をする性分みたいだからな……無理矢理にでも助けに行ってやらないと」
姫「でしたら、それにわたくしも同行させてください」
女騎士「姫さん!?」
姫「危ないことをされているのでしたら、わたくしの力は十二分に役に立つはずです」
女騎士「どうしてここに……」
姫「個室で復活させていってるといっても同じ神殿内です。自分が殺された理由が分かっている以上、女騎士さんを先に探すのは当然では無いですか」
女騎士「ちっ……先に神官長に足止めを頼んでおくべきだったか……」
姫「お願いします。わたくしも連れて行ってください」
女騎士「……いや、やっぱり姫さんは城に残るべきだ」
女騎士「せっかく傭兵が気を遣ってくれたのに一緒に連れて行ったら、おそらく無駄になってしまう」
姫「向こうが勝手にしたことです。わたくしは望んでおりませんでした」
女騎士「望む望まないじゃなくて、彼が今しているであろうことはたぶん、あなたには見せたくないことなんだと思う」
女騎士「だから殺してまで城に帰した」
女騎士「それなのに連れて行けだなんて……王女の権限を使ったとしても、連れて行けない」
姫「わたくしは大丈夫です」
女騎士「例え本当に大丈夫だとしても、ボクはキミを連れて行かない」
女騎士「それに、傭兵自身が自分の行いを見られたくないから返した、という可能性もある」
女騎士「何より、せっかく城に戻れたんだ。また連れ去った相手の元に行って危険に晒されることもないだろう」
女騎士「だからボクに任せて、城にいて欲しい」
姫「……ではわたくしに、お城でお留守番をしていろ、と……?」
女騎士「ああ。分かってくれたか?」
姫「……分かりました」
女騎士「ふぅ……」
姫「ですが良いのですか?」
女騎士「え?」
姫「わたくしがココに残れば、今すぐにでも男さまの部屋に乗り込みますよ」
女騎士「なっ……」
女騎士「いや……それはダメだ……いけない」
姫「その反応……なるほど。どうやら女騎士さんは、男さまが誘拐の片棒を担いでいることをご存知のようですね」
女騎士「いや……まだ厳密な証拠は得ていない」
女騎士「ただそうかもしれないと、傭兵が推理しただけ」
女騎士「もっとも被害者である姫さん自身がそう言った以上、これ以上無い証拠は得ましたけれど」
姫「傭兵さまが……そうですか……」
姫「……では、証拠を得たのなら、男さまを捕縛してもよろしいですよね?」
姫「いえ。連れて行かないなら確実に、わたくしは行います」
姫「わたくしを誘拐した犯人を捕まえる、と言えば、例えあなたに待機命令を出されていようとも、率先して協力してくれる兵は出てきてくれるでしょう」
姫「大丈夫ですよ。絶対に逃げないように致しますから」
女騎士「そうじゃなくて……もしそうしたとしても、アレが自害でもした——」
女騎士「——あ……!」
姫「……そういうことです、女騎士さん」
姫「わたくし、言ったじゃないですか。傭兵さんがどうしてわたくしを殺したのか、その理由が分かっていると」
女騎士「まさか……!」
姫「ええ。おそらくあの方は、男さまの加護契約書の確保へと向かったのだと思います」
女騎士「教会の設備が整っていない場所で復活の儀を行う場合、契約書を持参していないといけない……」
姫「敵地に侵入している者がバレてしまった場合、逃げるのに一番適しているのは自害することですからね」
姫「わたくしを誘拐し、監禁する為の場所を用意しておいたのなら、そこに転送してもらえるよう自分の加護契約書を持って来てもらっている可能性は高い」
姫「ですので、わたくしを誘拐しようとしていた彼等のアジトにいるであろう神官が持っている可能性が高い、ということになります」
姫「もしそれを確保できたのなら、例え男さまが逃げるために自害されようとも、逃がさずに済みます」
姫「あのお方はおそらく、そのために向かったのでしょう」
姫「わたくしを殺したのはおそらく女騎士さんの言うとおり、精神的に参っていたわたくしの前でソレを聞きだすために色々とするのは危ない、という判断なのでしょう」
姫「そして女騎士さんも一緒に殺したのは、わたくしが男さまのところへと乗り込むのを防ぐためでもあると思うのです」
女騎士「そうか……姫さんを一人で城に戻した場合、そのまま城に留まっている男の下へと向かうことになる」
女騎士「城に残っているかいないかなんて、兵に聞けば一発で分かる……!」
女騎士「そうして先に確保に向かわれて、警戒されて自害され、自分が加護契約書を確保する前に逃げられたらいけないと思って、ボクまで殺した……!」
姫「自信はありませんけれど、状況から察するにそんなところだと思います」
女騎士「……姫さん、死ぬ前まであんなに落ち込んでパニックになっていたのに、よくそこまで考えられるね」
姫「なぜでしょうか……一度死んだら、何故か頭の中がスッキリとしまして……」
姫「……いえ、たぶんまだ、わたくし自身の知らぬところで、混乱はしているのかもしれません」
姫「ただ一度、死にたいと願ったままで生きていたのが、一度死んで果たされたから……それまで頭の中を支配していた死への渇望が消失したおかげなのかもしれません」
姫「まあそのおかげで、今男さまを見かければ、おそらくすぐに斬りかかってしまう自信がありますけれど、ね」
女騎士(自分をあらゆる面で裏切った男への復讐心一色だからこその冷静さ、か……)
女騎士(なるほど……こんな姫さんを一人にするのは確かに危ない)
女騎士(でも、だからといってあんなフラフラだった傭兵を放っておくことはボクには出来ないし……)
女騎士(……仕方が無い)
女騎士「分かったよ、姫さん」
女騎士「一緒に行こう」
女騎士「ついでに、道中で誘拐された手段や経緯も話して欲しい」
女騎士「あとついて来るからにはあなたの魔法、アテにさせてもらう」
姫「分かりました」
女騎士「よしっ」
女騎士「では兵士、頼みがある」
兵士「はっ」
女騎士「馬車を一つ用意して欲しい」
女騎士「あと、すぐに出発できる兵を二名と、姫さまの武器の準備を」
女騎士「それとお前には悪いけど、ここに残ってそのまま指揮をお願いしたい」
兵士「かしこまりました」
女騎士「それでは、静かに向かいましょうか。姫さん」
女騎士「もしここで男に勘繰られては、傭兵の行いが結局、無駄になりますからね」
姫「はいっ」
今日はここまでにします
明日こそは第二部終わりたい…!
>>266 加護の値段について
多額の寄付、と書いたけれど、実際はマチマチ
人口が多いところほど高くなるので、必然的に田舎は安いということになる
それでも現実世界の値段価値でいうと、平均百万円ぐらい
ただこの値段は、契約書をすぐさま渡してもらう場合の値段設定でもある
実を言うと、契約書をそのまま教会に保管してもらう変わりに、値段を安くしてもらうことも出来る
この場合の値段も場所によってバラバラだが、大体二十万円〜四十万円と、半額以下
しかしそうして加護を受けた場合、契約書を渡してもらうためには、最初に契約書をすぐさま渡してもらった場合の加護契約よりも値段が高くなる
これはちょっと値段設定はしてなかったな…
つまり
契約書を取り出してもらう値段≧即時契約書発行加護>契約書未発行加護
の順番の値段になる
続ける
続き
契約書に関しては、気になる人は>>26を読んでもらうとして…
(ちなみに、契約書未発行加護で加護を受け、その後契約書を取り出し、どこかの神官に渡した場合、ようやく>>26の契約の場所に関しての項目が適用されるようになる)
(それと、契約書を取り出した場合でも、また契約書を渡すまでは、最初に契約した場所or直前まで契約書を持たせていた場所、で蘇ることになる)
傭兵の加護に関して
傭兵は最初、契約書未発行の加護を受けた、勇者候補者の残りの二人と旅をしていた。
その状況で、男だけが、何回も田舎の村で生き返り、また隣の大陸に向かうという手間を重ねていた。
それを疎ましく思うことなく、仲間二人は傭兵を待ち続けていた。
気にするなと二人は言うけれど、傭兵自身はずっと気にしていた。それ故に強くなろうと足掻き続けていた。
それでも中々強くなれなくて、自分なんか放っておいて旅を続けて欲しいとさえ言ったけれど、それでも二人は傭兵が死んだ場合、近くの集落で彼を待ち続けてくれていた。
そんなある日、傭兵と一緒に死んで、同じ田舎で蘇って、ついに三人とも、契約書をお金を払って取り出した。
それは傭兵が死んでから、二人で魔物を狩り続け、お金をため続けてくれた結果だった。
それにさらに気を遣ってしまう傭兵だったが、それならちゃんと強くなってくれたら良いから、と二人は笑顔で言ってくれて……
そんな幼馴染二人に、傭兵は大きく感謝して、今の戦い方を見つけ出した
みたいな感じの話を想像してた
もうモロに裏設定
当初の予定では絡ませるつもりがなかった
展開変わったからもしかしたら後々物語に絡ませるかもしれないけれど、まぁ良いかなってことで公開した
絡ませたら絡ませたときで
あと、教会の設備が無い場所で蘇らせる場合加護契約書がいる、というのは後付け設定です
当初はそんなつもり微塵もなかったんだぜ!
普通に神官の前に半分死んだ状態で転送されてくる予定だったんだぜっ!
でもちょっと展開的にこれぐらいの枷があっても良いかなって事で加えたんだぜ!
まぁ矛盾が出ないことを祈る
再開します
昨日も休んじまったぜ…でもおかげで体調は万全
しかしながら明日は用事で投下できない
だから今日中になんとしても絶対第二部を終わらせる
例え現状第三部から先をどうしようか全く考えていないとしても終わらせる!
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
森の中の街道
◇ ◇ ◇
傭兵(さて……残りの二人も拷問した結果……最初のヤツと最後のヤツが口を揃えて言った「森を抜けてすぐ、街道から外れた場所にある廃屋」に向かっている訳だが……)
傭兵「……あの数十人もの野郎共は……」
傭兵(どう考えても敵の集団だよなぁ……)
傭兵(くそっ……空を跳んでいけるほど疲れてなかったら、あんなやつ等相手にすることなく無視して行けたのに……)
傭兵「…………」
傭兵(……向こうはたぶん、俺のことを探してるのだろう)
傭兵(教えてもらったアジトまでの距離と、最後に自害したヤツ……そこから三人を拷問にかけた時間を加味して……)
傭兵(それらを踏まえ、ここで見かけたという時間から逆算すると、おそらくは最初に女騎士に殺されたヤツが蘇り、ソイツに応援に向かってくれと言われた奴等だろう)
傭兵(じゃなきゃ、拷問した場所からほとんど歩いてないのに、あんな集団を見かけるはずがない。どう考えても早すぎる)
傭兵(何より、俺らの強さを知って自害したヤツが、おそらくはメンバー全員であろう人数を応援に寄越すとは思えない)
傭兵「……………………」
傭兵(運良く、最後に自害したヤツが蘇ったタイミングとはズレてくれたってわけか……)
傭兵(……さて……それじゃあ、どうするか……)
傭兵(このまま無視していくことも出来るが、そうなるとアジトに引き返されて挟み撃ちになる可能性も出てくる)
傭兵(……あとで背後から襲われるのも面倒だしな……倒しておくのが妥当、か……)
傭兵(……くそっ。魔力も集中力もここまで消耗してなけりゃ、即決だってのによ……)
傭兵(……グチグチ言っても仕方ない……倒させてもらおう)
〜〜〜〜〜〜
ガタガタガタ…ゴトン…
女騎士「男と話していて、告白されると同時に後ろから頭部を殴られ、気絶させられ……気がつけば馬車の中にいて誘拐されていた……なるほど。傭兵の推理通り、ってことか」
姫「さすがのわたくしでも、後ろから殴ってくる人がいて、その人によって気絶させられた後にのうのうと城の——それも自室にいる男さまを、まだ誘拐犯の片棒を担いでいないと擁護できるほど、バカではありません」
姫「まず間違いなく、あの方が誘拐犯の一味であることに違いは無いでしょう」
女騎士「あと背後から攻撃されたってことは、やっぱり使用人の中にもスパイが紛れてるってことにもなるけど……」
女騎士「……ま、そのあたりは後で引っ張り出せばいいか」
女騎士「それにしても姫さんを誘拐しようとした目的って……いや、考えるまでもないか」
姫「わたくしを誘拐することで、お父様に取り引きを持ちかける気だったとしか思えません」
女騎士「ということは、旧貴族組織の誰か、か……」
姫「その辺の調査も紛れ込んでいる偽の使用人と同様、男さまを逃がさぬように出来てからじっくりと調べれば良いでしょう」
女騎士「だね」
女騎士「にしても、見事姫さんが誘拐されたってことは、ちゃんと目的は果たせてたってことになるのかな」
姫「そうなりますね」
女騎士「ま、本当の理想系は誘拐されることなく、返り討ちにすることだったんだけどさ」
姫「……仕方ないじゃないですか」
姫「まさか、これだけの期間を使ったスパイだとは思ってもいなかったのですから」
姫「それに……本当に、好きになってしまっていたのですから」
女騎士「ああ……その、ごめん」
女騎士「そんな責めるつもりじゃなかったんだけど……なんか、そんな感じになっちゃって……」
姫「いえ、そんな……でも事実、責められても仕方がないことですし」
姫「むしろ自分から今の役割を引き受けたくせに、恋愛にうつつを抜かしてしまったわたくしの方が、本当は謝らないと……」
女騎士「いや、好きになるのは仕方ないよ、うん」
女騎士「それにボクも男に関しては警戒してなかったしさ、アレは仕方ないよ、本当」
姫「…………」
女騎士「? どうしたの?」
姫「いえ……恋愛に疎そうな女騎士さんにそう言ってもらえると、少し気が楽になるなと思っただけです」
姫「ええ。好きになるのは仕方ないとか女騎士さんらしくないことを言われて驚いたとか、そんなんじゃないですよ」
女騎士「……やっぱ日頃からボクはそう思われてたのか……はは」
姫「そういえば女騎士さん。傭兵さまを追いかけていて良いのですか?」
姫「あなたの本来の役目は——」
女騎士「ああ、うん。大丈夫」
女騎士「あなたを助けるように頼んできたのが、あの子なんだから」
姫「——でも、もうわたくしは助かりましたよ?」
女騎士「助かったけど、犯人を捕まえるために動こうとしたら一人で無謀なことをしようとしてるから監視している」
女騎士「今は、そんなところだよ」
女騎士「……っと、この辺だね」
女騎士「止めて」
ガタガタガタ…ゴトン……
女騎士「……うん。間違いない」
女騎士「さっきボクたちが殺されたのは、この辺だ」
女騎士「……誰の死体もない……ってことは、とっくに蘇らされたあとか……」
姫「では、魔法を使って探します」
女騎士「お願い」
スッ
タンッ
姫「…………」
姫「……森の中……?」
姫「そこから……ああ、うん……うん…………」
姫「……分かりました」
女騎士「歩いていった方が速い?」
姫「そうですね。馬車だと、道が入り組んでいて、複雑かもしれません」
姫「とは言っても追跡しているのは傭兵さまの足跡ですので、本当はしっかりと馬車が通れる道があるのかもしれませんが」
女騎士「いや、彼の後を追うのが確実だろうから、歩いて追いかけよう」
女騎士「それじゃあ兵士の一人は馬車の見張り。もし敵が襲ってきた場合は馬車を見捨てて構わないから。でもその場合は馬車も道連れにするのも忘れずに」
女騎士「あと一人は、ボクたちと一緒に来て」
兵士達「「はっ」」
ザッザッザッ
女騎士「にしても、姫さんの魔法属性は便利過ぎるね」
姫「そうでしょうか? 『探索』なんて戦闘に役立たないですし、前例がないので使い方もよくわかりませんし……不便で仕方ないですよ」
女騎士「それでも、ボクの基本属性に比べれば便利だと思うよ」
姫「基本属性は使い方の応用が先人達の知識として残っているので良いじゃないですか」
姫「わたくしの場合、魔力の練り方から集中力の磨ぎ方まで、一から自分で見つけないといけないので大変ですよ」
女騎士「逆にそれぐらいの方が敵に対応されなくて便利だと思うけどな〜」
姫「いえですから戦闘には使えないんですって……」
女騎士「それでもボクもそういう希少属性の方が——って、ちょっと止まって」
姫「はい?」
女騎士「……この湖……」
姫「これが……どうしました?」
女騎士「これってもしかして……傭兵の魔法……?」
姫「え?」
タンッ
姫「…………」
姫「……確かに、魔力の反応はありますし……間違いなく傭兵さまが通った形跡はありますが……」
姫「ですがそれならどうして、これだけ広い水たまりを作ったのかの理由が……」
女騎士「……敵を倒すため……とか?」
女騎士「集団で歩いている敵を見つけたから、不意打ちで魔法を放って一撃で倒した」
女騎士「そう見るのが打倒かも」
女騎士「暗くてよく見えないけれど、もしかしたら水底に死体があるかもしれないし……」
姫「復活させられている可能性もある、と……」
女騎士「うん」
女騎士「……それにしても……あんなにフラフラだったのにこんな魔法を使うなんて……」
姫「……敵のアジトをとっくに知っているかのような足取りでしたから、敵から聞きだした場所へと向かっているのでしょうが……」
女騎士「もしかしたら、危ないかもしれない」
女騎士「本当に限界の限界で、フラフラしているのに一人で向かって行ってるのかも……」
女騎士「そんな身体で、これだけの魔法を使う集団と戦ったら……いくら集団戦が得意な傭兵でも……」
姫「危ない、ですな」
姫「……急ぎましょう」
女騎士「うん」
>>304 ×姫「危ない、ですな」
○姫「危ない、ですね」
ですな、ってオイ。ミスです訂正
ザッザッザッ
姫「そういえば傭兵さまは、どうしてここまでしてくれるのでしょうか?」
女騎士「え?」
姫「わたくしはあの方に何かしたわけでも、あの方がわたくしに雇われている訳でもありません」
姫「ただ、わたくしの副作用を止めるためだけにいてくれていただけのはずです」
姫「それなのに、移動中に話してくれた女騎士さんの話では、疑われたのに許して、フラフラになりながらも必死になって追いかけてくれたと言います」
姫「そして今も、辛く苦しい中、わたくしのために、敵の本拠地と思われる場所へと向かっています」
姫「目的はいまだ分かりませんが……ああして敵を倒したであろう形跡がある以上、仲間の下へと向かったということは無いでしょう」
姫「わたくしを裏切っている可能性も低い——というか、全く無いと思います」
姫「ですから尚のこと、どうしてそこまで、と思わずにいられません」
女騎士「あ〜……そういえば、その理由については話してなかったか……」
姫「え? 女騎士さんは聞いたのですか?」
女騎士「まぁ、ね」
姫「一体、どのような理由なのですか?」
女騎士「本当かどうかは分からないけど……どうも傭兵は、子供を守り助けるのは大人の役目だ、って本気で思ってるみたい」
〜〜〜〜〜〜
コソッ
傭兵「…………」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
傭兵(……ふむ……何か揉めてるみたいだが……)
傭兵(まぁ、拷問で殺したヤツも中にはいるし……ここがアジトで間違いない、か……)
傭兵「…………」キョロキョロ
傭兵(さっき水の中に沈めたやつ等の姿は無い……まだ復活させていないってことか……)
傭兵(……どうする? 中に突入して戦うか? その方が集中力も魔力もあまり消耗せずに済むが……)
傭兵(……いや、それをすると、戦っている途中で復活させられてしまうかもしれない)
傭兵(殺された可能性を少しでも考慮されてしまえば必ず行うだろう)
傭兵(さすがに、今の俺じゃあアレだけの集団相手に戦えるとも思えない)
傭兵「……仕方ない」スッ
傭兵(俺自身が倒れてしまうかもしれないが……一撃で、この建物を破壊しよう)
タンッ
〜〜〜〜〜〜
タンッ
姫「……どうやら、この辺りみたいですね」
姫「魔法で足跡が追えなくなりましたので、近いことに間違いは無いはずです」
女騎士「ううん。もう十分」
女騎士「見たところ畑がほとんどの田舎だし。これぐらいなら見つけられると思う」
姫「そうですね。アジト、と言うからには建物でしょうから、片っ端から見ていきましょう」
女騎士「そうしよう」
姫「それでは、三人でバラバラに別れますか?」
女騎士「まさか。そんな危ないことはしてられない」
女騎士「三人で固まって行動。暗いから、絶対に歩いた場所を少しも見逃さないよう、探していこう」
兵士「はっ」
姫「分かりました」
〜〜〜〜〜〜
女騎士「この瓦礫の山は……?」
姫「田舎ですからね……朽ち果てた建物が放置されているだけでは?」
姫「どかせられるほどの資金援助をまだ行えていないようですし……」
姫「見た限り、まずは農耕回復に重点を置いている地方みたいですからね」
兵士「地震でも起きたのでしょうか?」
女騎士「それにしては……他の建物は無事なようだけど……」
女騎士「……ん? ……あの倒れてるのって……もしかして……」
姫「え? ……あっ」
女騎士「傭兵!」
姫「傭兵さま!」
ダッ!
〜〜〜〜〜〜
姫「大丈夫ですか!? 傭兵さま!」
傭兵「…………」
姫「傭兵さま!? 傭兵さまっ!!」
女騎士「ちょっ、落ち着いて、姫さん」
姫「あ、ああ……そうですね……死んでいたとしても、彼が契約書を保管している教会にお願いすればよろしいだけですものね……」
女騎士「というか、その前に……」
姫「え? どうされました?」
女騎士「彼、死んでない」
姫「……え?」
女騎士「たぶん、集中力も魔力も気力も、何もかもが空っぽになったんだと思う」
女騎士「気絶したかのように寝てる」
姫「そ、そうですか……」
姫「それは……良かったです……」
兵士「その、手に握られている紙の束は……?」
女騎士「え……? あ……これは……加護契約書!?」
姫「すごい枚数です……もしかして、わたくしの誘拐を企てた人全員の……?」
女騎士「たぶん、そうだと思う」
女騎士「瓦礫の山の傍に倒れてたけど……たぶん山を掘り返して、神官の能力を持った敵の付近をくまなく探して、見つけ出したんだと思う」
兵士「それで……持って帰るってところで……気絶された……」
女騎士「たぶん」
姫「そう、ですか……」
姫「そう……」
女騎士「にしても……本当、一人でここまでやりきるとは……」
女騎士「とんでもない人だ、この人は」
女騎士「ボクじゃあたぶん、一人だとここまでは出来なかったよ」
姫「これ全てが……わたくしの、ため……」
女騎士「……そうだね……」
姫「文字通り、倒れるまで、頑張ってくれた……」
女騎士「そうなる、ね……」
姫「そ、か……」
姫「……お疲れ様です」
姫「傭兵さま」
女騎士「……さ、てと……それじゃあコレも手に入れてもらえたことだし」
姫「はい……後は、わたくし達でケリをつけましょう」
女騎士「うん。ここまでの頑張りを、無駄にしないためにも」
姫「……はい」
女騎士「それじゃあ兵士、ボクと一緒に彼を馬車まで運ぼうか」
女騎士「姫はこの加護契約書を、手放さないで下さいね」
兵士「はっ」
姫「傭兵さまの頑張りの証です」
姫「任されました」
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
王城内・男の部屋
◇ ◇ ◇
コンコン
女騎士「失礼する」
男「どうぞ」
ガチャ
女騎士「どうも、男様」
男「これは騎士長様。こんな朝早くにどのようなご用件で?」
女騎士「いえ……実は昨晩、我が国の王女が誘拐されまして……」
男「えっ!? 姫様がっ!?」
女騎士「何か、お心当たりはないかと思いまして」
男「誘拐……まさか、この城内で……?」
女騎士「はい。ですので、何か夜中に物音を聞いたとか、些細なことでもいいので手がかりを、と思いまして」
男「……いえ……すいません」
男「僕にはどうも……」
女騎士「そうですか……」
男「お役に立てず、申し訳ありません」
女騎士「……いや、いいよ」
女騎士「そういう小芝居はさ」
男「えっ?」
女騎士「深夜、あなたが姫さんと会っていたという目撃情報があった」
女騎士「それなのに知らないと言うのは……さすがに、無理がありすぎると思わない?」
男「そう言われましても……」
男「アレは、田舎に帰る前に、少し別れの言葉を言っていただけですし……」
女騎士「そんな言い訳が通用するとでも?」
女騎士「そもそも、それを隠していたりするのが怪しいと思うのだけれど?」
男「……もしかして、僕を捕まえるつもりですか?」
男「事前に申請しておいた約束を反故にするおつもり、と……?」
男「この王都は、そこまで束縛激しい国でしたか」
女騎士「姫さんを誘拐したスパイ犯を逃がすほど防衛がヌルい都とは思われたくないので」
女騎士「それに、あなたは姫さんの家庭教師だよね?」
女騎士「自分が出会って最後に行方不明になった生徒のこと、気にならない?」
男「気にはなりますが……それよりも、母の方が気になります」
女騎士「実際に行方不明の生徒より、虫の知らせである親を取ると……?」
男「当たり前でしょう」
女騎士「……ま、当たり前と言えば当たり前だけど……」
女騎士「ただ帰る前に一言告げるほど親しい生徒を相手にその選択は……ボクから見ると、色々と疑念の余地があるように思えてしまう」
男「どう言ってもらっても構いませんよ」
男「僕は、僕の親の方が大事ですから」
女騎士「だから、帰さないって」
女騎士「兵達っ!」
兵士達「「「はっ!」」」
女騎士「彼を牢屋に連れて行って」
女騎士「自害できぬよう、危険物は極力取っ払ってから連行して」
女騎士「そこでなんとしても、聞き出してやる」
◇ ◇ ◇
牢屋
◇ ◇ ◇
キィ…
…ガシャン
男「……まさか、本当に捕まえられるとは、ね……」
男「これは、不当行為になりませんか?」
男「僕が誘拐に関与していたという列記とした証拠がないのにこんなことをしたのなら、貴族達のいい攻撃材料になるだけですよ?」
女騎士「そうかもしれない」
女騎士「でも、ボクはお前が犯人だと知っている」
男「へぇ……」
女騎士「それじゃあ、いくつか質問していくけれど——」
男「ああ、その前に」
女騎士「——なに?」
男「こうして格子越しに訊ねてくるつもりですか?」
女騎士「もちろん」
男「それだと、僕が自害した場合、取り逃がすことになりますよ?」
女騎士「自害なんてするつもり?」
男「とても耐えられない、脅迫に近い事情聴取をされれば、ですけれど」
女騎士「だったら大丈夫」
女騎士「あなたがやったと言えば、それで済む話だから」
男「……そうですか」
男「そんな一方的な、僕に拒否権のない取調べを行う、と……?」
男「自白の強要とは……部下の行動によって王の名声が地に落ちることになりますよ?」
女騎士「だから、あなたは逃げられない」
女騎士「それに、そこからどうやって自害をするつもり?」
男「……ふふっ、そのあなたの慢心が、今の王を降ろしてしまう原因になるのですよ」
女騎士「へぇ……」
ガリッ
男「うっ……」
バタッ
女騎士「……慢心……ね」
女騎士「そんなつもりはないって……」
女騎士「これはただの、確信なんだから」
女騎士「にしても、残念だったね……男」
女騎士「あなたはとっくに、王都から出られない」
女騎士「証拠も、本人が証言してくれる」
女騎士「あなたが今出来ることは……あなたの雇い主である貴族が誰かを教えることだけ」
女騎士「後は……姫さんにでも、痛めつけられてくださいな」
コツコツコツ…
◇ ◇ ◇
王城内・別の牢屋
◇ ◇ ◇
男「なっ……! ど、どうして……」
姫「……どうも、男さま」チャキ
男「どうしてあなたが……ここに……!」
姫「……昨晩、あなたの謀略によって誘拐され、そのまま男達の手で犯され続けている……」
姫「今から自害してその現場に乗り込んで、高笑いを上げるつもりだった……」
姫「そのつもりで、口の中に仕込んでいた即効性の毒薬を噛みましたか……?」
男「なっ……!」
姫「あなたが誘拐犯だと知っていれば、自害のための準備を怠っていないことぐらい、誰にだって予測できることです」
男「そうじゃない……どうしてお前が、ここにいるんだって聞いてんだよっ!!」
姫「簡単ですよ」
姫「助けていただいたのです」
姫「傭兵さまに」
男「なっ……! そんな……!?」
姫「ええ。普通なら、計画通りに進んでいたものが頓挫していたなんて、誰も勘付けないでしょう」
姫「まして、自分の加護契約書が敵の手に渡ってしまっていることも、想像なんてできないでしょう」
姫「当然です」
姫「それが当たり前です」
姫「ですが彼は、その当たり前を覆してくださいました」
姫「相当、無茶をして」
男「くっ……!」
姫「そのおかげで、男さまのその悔しそうなお顔が見れた……」
姫「ええ。それだけで十分ですとも。わたくしを騙したことに対する鬱憤は晴れました」
男「……それで……僕になんの用だ?」
姫「そうですね……わたくしが無事である以上、証拠も揃っております」
姫「あなたが誘拐の共謀者、もしくは首謀者であることに違いはないことは確定しております」
姫「ですが、あなた一人がここまでのことをする理由はございません」
姫「あなたの背後にいる貴族」
姫「それが誰かを教えてください」
男「はっ! 教えるわけが——」
姫「それでは、まずは一撃で」ドスッ
男「——がふっ」ブシャァァアア…!
姫「……神官様。復活の儀をお願いします」
男「……はっ」
姫「お目覚めですか? 男さま?」
男「ど、どういう……」
姫「あなたが教えて下さるまで、わたくしはあなたを殺していきます」
姫「まずは一撃で」
姫「次は二撃で」
姫「そうして段々と増やしていきます」
姫「早く教えてくださらないと……辛い目にあっていきますよ?」
男「なっ……お前……! そんなことが、一国の王女がすることかっ!?」
姫「ええ」
男「っ……!」
姫「反乱分子を駆逐する」
姫「それも、国の上に立つ者の役目ですので」
姫「むしろ王女がして当たり前のことだと思いません?」
姫「さあ……あなたを雇ったのは誰ですか?」
男「教えるかよ……!」
姫「二撃」ザシュザシュ
男「がっ……はぁっ……!」ブシャアァァァ…!
姫「神官様。復活の儀を」
男「……はぁっ!」
姫「さあ、あなたを雇った貴族は誰ですか?」
男「……ぐっ……」
姫「あ、そうそう」
姫「別に、この牢内ならいくらでも逃げてくださって構いませんよ?」
姫「神官様も、牢の外にいらっしゃって安全ですし」
姫「いくらでも、逃げ惑ってください」
男「……くそっ!」ダッ!
姫「ま、それでも、わたくしからは逃げられないでしょうけれど」
姫「……三撃」ズシャシャ
男「がっ……!」バシャアア…!
姫「神官様。復活の儀を」
〜〜〜〜〜〜
男「ひゅ〜……ひゅ〜……ひゅ〜……」
姫「……さすがに、返り血でドレスが重くなってきましたね……」
姫「まぁ、気にならない重さですが」
姫「さて……それで、喋る気になりましたか?」
男「……っ」ビクッ
姫「怯えてらして……お可哀想に」
姫「……三十四撃」
男「止め……!」
〜〜〜〜〜〜
姫「そろそろ、手足の感覚が無くなってきているのではないですか?」
男「っ……っ……」ビクッビクッ
姫「どうも、酷く精神に残るような殺され方をされると、次の復活の際に尾を引くようですね……」
姫「それで、喋りますか?」チャキ
男「やっ……やめっ……」ビクッビクッ
姫「……四十二撃——」
男「ま、待て! 言うっ! 言うからっ!!」
姫「——そうですか」カシャン
男「はぁ……! はぁ……! はぁっ……!」
男「くそっ……! なんだよ……なんだよコレ!」
男「殺す前に身体を何重にも斬り刻んで! 痛いって言ってるのにやめないっ!!」
男「昔好きだった男にすることかよ!! コレがっ!!」
姫「……好きな人だったであろうと、わたくしは王女です」
姫「国のために命を捧げる覚悟を持った人間です」
姫「そのためならこれぐらい、いくらでも出来ますよ」
姫「では、お教え願います」
男「……あ、ああ——」
姫「ああ、そうそう」
男「——っ」ビクッ
姫「こういった拷問、あなたのお仲間全てに行っております」
男「なっ……!」
姫「当たり前でしょう? あなたのお仲間の神官が持っていた全ての加護契約書を手に入れたのですから」
姫「ですのでもし、そのお仲間全員が同じ答えをおっしゃらなかった場合——そうですね……」
姫「事前に拷問にかけられた際に教えよう、と口裏を合わせていたでしょうが、もしそれを仲間の誰か一人でも言ってしまい、その結果あなたの答えと一人でも違えば……全員、無条件で殺します」
男「っ……!」
姫「もちろん、あなたが嘘をついて、誰か一人が本当を言った場合でも、全員を殺します」
姫「口裏合わせを全員が言うと信じるか、みんな心が折れているだろうとおもって本当のことを話すか……ご自由に」
姫「……それに、そろそろいい時間ですし……もしコレで死ねば、翌日まで蘇りませんよ?」
男「あ、ああ……!」
姫「分かるでしょう? 死んだまま放置され、翌日に蘇らされた場合……睡眠が取れなかった状態で蘇らされることに」
姫「食事も殺している間は空腹を感じないようですから、もちろんそのまま与えません」
姫「もし長期化すれば……あなた方はいずれ睡眠不足が重なって、精神が崩壊するかもしれませんね?」
姫「それも踏まえて、では——」
姫「——お教え、願いますか?」
姫「あなたの、答えを」
第二部・終了
中途半端に感じるかもしれませんが、第二部終わり
第三部から先どうしようかなぁ…これから考える
後半駆け足だったのは俺が飽きてきたから
もう第二部良いかなぁ、って思って
ってなるとみんなもきっと飽きてきてるだろうってことで駆け足に
時間掛かりすぎたわマジで…
第三部からは途中で飽きないように注意したい
>>154より
女騎士「じゃあ何? 姫様が自分から飛び降りたっての? 魔法を使っ て?」
女騎士「無理無理。だってあの子、魔法が使えないもの」
傭兵「じゃあ……城の中から突き落とされた……?」
〉女騎士「無理無理。だってあの子、魔法が使えないもの」
探索の魔法普通に使ってるけど。
>>335
基本、使える魔法は一人一系統だけみたいだし、姫は探索系の魔法しか使えないんだろ
女騎士はそれを知っているし、あの段階で誘拐の容疑者である傭兵に、そんな情報を教える必要がない
だから「あの子、魔法が使えないもの」という発言は、別におかしくはないと思うが
>>1のうっかりだと思うけどそんなに鬼の首を取ったように騒ぎ立てることでもないよ。
信頼してないとか、「"そんな"魔法は使えない」といった解釈に特に違和感もないと思うし…
>>337
何を言いたいのか分からん。
使える魔法は1属性のみ。これは伝承に残る勇者という例外を除いて共通。
姫は『探索』という属性の魔法が使えるのだから、それが『魔法を使えない』事にはならない。
傭兵は確かに誘拐の容疑者だったが、姫を不意討ち出来る奴がそう居ない事にも気付かない精神状態、そんな嘘をつけるとも思えないな。
もしある程度落ち着いている状態だとしても、自分から嘘の情報を前提とした話をする事で捜査を混乱させる危険をわざわざ侵す必要もないだろう。
>>341
説明不足かね
姫が飛び降りる魔法が使えない事を、女騎士は知っているから
>>>340が言っているように、そういう系統の魔法を「使えない」と発言してもおかしくはないと受け取った
加えて、あの段階では傭兵が姫を突き落としたと女騎士は思い込んでいるからね
傭兵が姫を突き落とした実行犯だった場合、
姫が魔法を使えずに突き落とされた事を傭兵は知っている、となる
だから「使えない」って発言をしても不自然じゃないなと思ったのよ
実行犯と思い込んでいる相手に、姫の使う属性魔法の情報を、わざわざ教える必要はないんじゃない?
ま、ごちゃごちゃ書いたけど、>>1が来た時に真相を説明するでしょ
再開します
みんな、色々と褒めてくれて本当にありがとう
おかげで頑張れる
傭兵「」パチ
傭兵「……ん? ここは……」
傭兵(広い部屋だ……少なくとも俺の部屋じゃあない)
傭兵(っていうか、あれ……? 無駄に豪華なような……)
傭兵「…………」
傭兵(……ん〜……?)
傭兵(なんだ……なんで俺、こんなところで寝てるんだ……?)
傭兵(そもそも寝る前まで何してたっけか……?)
傭兵(……なぁんか……頭がボーっとするなぁ……思い出せん)
傭兵「……ん」
傭兵(足の指も手の指も力が入る……)
傭兵(立てる……か?)
ガチャ
傭兵「っ!」
メイド「あ」
傭兵「あれ……?」
メイド「どうも、おはようございます」
傭兵「メイド、さん……?」
メイド「はい」
傭兵「どうして、ここに……?」
メイド「どうしても何も、ここはお城の中の客室ですよ」
傭兵「…………」
傭兵「……………………え?」
傭兵「えっと……なんでまた俺は、こんなところに……?」
メイド「覚えてらっしゃらないんですか?」
傭兵「それが……さっぱり」
メイド「傭兵さまは、あの子を救ってくださったのです」
傭兵「あの子……?」
メイド「はい」
メイド「誘拐犯に攫われたあの子を、無関係に等しい貴方が、身を犠牲にして救ってくれた……」
メイド「私はそう、窺っております」
傭兵「…………………………………………あ」
傭兵「そうだ……そういえば、そうだ……」
傭兵(敵のアジトを突き止めて、古い建物だったから魔法で崩して生き埋めにして……朦朧とする意識の中必死に瓦礫を素手でどかして……)
傭兵(相手の神官が立っていた場所を掘り返して、加護契約書を引っ張り出して握り締めて……)
傭兵(帰ろうとして気が抜けたときに……倒れてしまったんだ……)
メイド「思い出されましたか?」
傭兵「……はい」
傭兵「それで、俺はどうやってここに運ばれたんですか?」
メイド「女騎士さんとあの子が連れて帰ってきましたよ」
傭兵「あれ……? 確か俺、二人を殺して突っ返したような……」
メイド「そのようだったようですが、二人とも、あなたが心配ですぐさま戻ったようです」
傭兵「そっか……」
メイド「せっかくお二人を心配して戻して下ったのに、申し訳ございません」
傭兵「ああ、いや。それは別に」
傭兵「どうせ拷問してるのを見せるがイヤだったから返しただけですし」
傭兵「深い理由もなかったので、まぁそれは良いんです」
メイド「そうなのですか? お二人とも、自分たちのことを考えて一度帰してくれた、と嬉々としてお話されてましたが……」
傭兵「そんな意図は無いって。本当に」
傭兵「それよりも、わざわざ誘拐犯の一味かもしれない俺を心配して戻ってきてくれるとは……今度お礼を言わないとな……」
メイド「誘拐犯の一味……? まさかそ。んなことは無いでしょう。傭兵さまに限って」
傭兵「こうして信用させるまでが手かもしれませんよ?」
メイド「ん〜……話を聞いただけなのですが、あの子と一瞬だけとは言え二人きりになれたそうですね?」
傭兵「あ……ん……? ……ああ、はい。そういえばありましたね……」
傭兵(お姫さまを殺すまでの一瞬か……)
メイド「その時に素直に手放した段階で、私はあなたが、少なくともあの子の敵ではないことぐらい、分かりましたよ」
メイド「ですから少なくとも、あの子に関してのあなたの行動だけは、私は信用しています」
メイド「おそらく女騎士さまもあの子も、同じでしょうけれどね」
傭兵「……そう言ってもらえただけで、無理して頑張った甲斐がありますよ」
傭兵「そういえば、俺はどれぐらい眠っていたんですか?」
メイド「運ばれたのが早朝で……それから丸々二日ほどでしょうか」
傭兵「え!? そんなに!?」
メイド「はい」
メイド「傭兵さまを看て下さった宮廷魔法使いさんのお話では、全ての魔力が切れ、緊張も絶え、集中の糸も失せた状態だったとか」
傭兵「……本当、女騎士とお姫さまにはお礼を言っておかないとな……」
傭兵「もしそのままだったらどうなっていたことか……」
メイド「まあ、お二人とも自分の方が助けてもらったと思っているでしょうから、お礼なんて言われても戸惑うだけでしょうけれどね」
傭兵「それでも——っと、そういえば、家庭教師の方はどうなりました?」
メイド「傭兵さまのおかげで無事捕まえ、口を割らせることに成功いたしました」
メイド「首謀者である貴族も取り締まることが出来、国外追放を言い渡すことも出来ました」
メイド「まだ実行は出来てませんが……それでも、通達は出来たのです」
メイド「あとは他の貴族に同意をもらうだけですが……この調子だと飛び火を恐れて庇うこともなく、素直に王に同意をしてくれるでしょう」
メイド「たった二日足らずでですよ? たったそれだけで、それだけのことが出来ました」
メイド「そこまでの証拠と証言を得ることが出来ました」
メイド「本当、あなたのおかげです」
傭兵「いや、それはどう考えても、加護契約書だけでそこまでこじつけた人たちのおかげですよ」
傭兵「俺にそこまでの功績はありませんって」
傭兵「それよりも、ここにい——」
傭兵(……いや待て、もしかして潜入してた使用人ってのは、メイドさんじゃないのか……?)
傭兵「——いえ、どうもしませんよ」
メイド「……ふふ」
傭兵「え?」
メイド「傭兵さまの考え、当てましょうか?」
メイド「私がもう一人のスパイだったのでは? と疑っていらっしゃるのでしょう?」
傭兵「……っ」
メイド「結論から言うと、違いますよ」
メイド「まあ傭兵さまに言わせると、この言葉だけでは信用できないのでしょうけれど」
メイド「ですが実は、傭兵さまが確保してくれた加護契約書。あの中に一枚、復活の儀を行っても蘇ってこなかった物があったのです」
傭兵「え?」
メイド「基本、蘇ってきたのは言うまでもなく、あなたが倒してくれた男たちです」
メイド「ではこの蘇らなかった契約書は?」
メイド「神官長に調べてもらった結果、誰かを突き止めることに成功いたしました」
メイド「敵がどうして持って来ていたのかは分かりませんが、おそらくは例の貴族に協力してくれた神官が彼一人だけだったのでしょう」
メイド「ですので保護しておく意味でも、肌身離さず持っておくしかなかった」
メイド「たぶん、そんなところでしょう」
傭兵「そう、なんですか……」
傭兵「すいません……疑ってしまって」
メイド「いえいえ。むしろ私、少し嬉しいぐらいです」
傭兵「え? 嬉しい……?」
メイド「はい。だってここで私を疑うということは、それだけあの子のことを真剣に考えていてくれていると言うことですからね」
メイド「この一件で犯人を捕まえることに全力を挙げてくれている」
メイド「それだけで嬉しいんですよ」
傭兵「はぁ……」
メイド「それに傭兵さま、これだけ話してもまだ、私の言葉を完全には信用していないでしょうし」
傭兵「いえ、そんなことは……」
メイド「ま、そうして疑ってくれた方が、本当にいいんですよ」
メイド「……やはりあなたは、推薦するに値する人物ですよ」
傭兵「推薦?」
メイド「はい。ま、後で分かることですよ」
傭兵「?」
メイド「それよりも、私の用事を済ませてもよろしいでしょうか?」
傭兵「用事ですか?」
メイド「はい」
傭兵「まぁ、別に構いませんよ」
傭兵「部屋の掃除ですか? では俺はそろそろ家に——」
メイド「いえ。傭兵さまに用事です」
傭兵「——え?」
メイド「丸二日、眠られていたと言いましたよ」
傭兵「はぁ……」
メイド「では、身体を拭かせてももらいましょうか」
傭兵「はいっ!?」
メイド「お二人が連れて帰ってきた時はすぐ宮廷魔法使いさまに看てもらったせいで、服を脱がせるだけで終わってしまいましたからね」
傭兵「あっ! そういえば俺の服はっ!?」
傭兵(今更だけどなんか日頃の俺の服より高そうなゆったりしたもの着せられてるっ!?)
メイド「大丈夫ですよ。ちゃんと洗って持ってきましたので」
傭兵「じゃ、じゃあそれさえ渡してもらえれば……身体なんて拭かなくても……」
メイド「いえいえ、そういう訳にはいきませんよ」
メイド「せっかく綺麗にした服に袖を通すわけですし」
メイド「身体も綺麗になさらないと」
傭兵「だ、だったら一人で出来ますし……」
メイド「まだ起きたばかりで満足に力も入らないでしょう?」
メイド「大丈夫。私に任せてください」
傭兵「いえいえそんな……メイドさんの手を煩わせるほどのことじゃあ……」
メイド「そう遠慮なさらずに……ニヘ」
傭兵「っ!」
傭兵(え!? 何今の寒気っ!?)
——メイド「では、失礼して」サワッ——
——メイド「おぉ〜……ちゃんと鍛えていらっしゃいますね……」グッ、グッ——
——メイド「刻印を確認しませんでしたが……まあ良いでしょう」ボソッ——
傭兵(……っ!? なんで今出会ったときのことを思い出した俺っ……!!)
メイド「さあさあさあ……まずは上を脱いで下さい」
傭兵「い、いやいやいやいやいや……本当、大丈夫なんで……」
メイド「いえいえいえいえいえ……本当、遠慮なさらずに」
傭兵「いやいやいやいやいやいやいやいや」
メイド「いえいえいえいえいえいえいえいえ」
メイド「まあもう無理矢理剥ぎますけどねっ!」
ガバッ
傭兵「ちょっ、止め——」
メイド「止めませんよ〜……さあ、無防備に晒してくださいね〜……ちゃんと綺麗にしてさしあげますから」
傭兵「——いやちょっ、本当……!」
傭兵「って本当に力入らない!」
傭兵「なんでこんなバッチリなタイミングで来たんだこの人!?」
傭兵「さては狙ったなおい!」
メイド「さあ……どうでしょうかねぇ〜……」
メイド「まあ、ともかく力が入らないなら……観念してくださいね〜……」
メイド「……エヘッ」
傭兵「っ……!」
〜〜〜〜〜〜
傭兵「はぁ……はぁ……はぁ……」
メイド「では後ほど、消化に良いお食事を持って参りますので」
傭兵「いや普通に帰ろうとしすぎでしょう!」
メイド「まあまあ。胸筋を触られただけじゃないですか。気にしてないですよ」
傭兵「俺も実際気にしてないけれども! それでもそれはたぶんメイドさんが言うセリフじゃあないっ!」
傭兵「っていうか筋肉なんて俺より鍛えてるヤツなんて沢山いるでしょう!」
傭兵「ここの兵士ならたぶん俺より立派ですよっ!!」
メイド「そう言われましても……私、城の中で気兼ねなく話せるのが、あの子と女騎士さんぐらいなんですよ」
メイド「その二人に筋肉はありませんし……なんだか、珍しいんですよ」
傭兵(だからってあそこまで触るか……?)
傭兵(……って、お姫さまと女騎士の二人だけ……? メイドなのに同僚とかと会話しないのか……?)
傭兵(……ああ、そういえばお姫さま専属としてずっと一緒だったんだっけ……ほかの使用人とは違って微妙に距離感があるのかもしれないな……)
傭兵(そのせいで兵士にも話しかけ辛いとか……?)
メイド「出来ればこれからは傭兵さまとも、気兼ねなく話せるようになれれば良いんですけどね」
傭兵「……えっ?」
メイド「いえ、なんでもありませんよ」
メイド「ではお食事、お持ちしますね」
ギィ…
…パタン
傭兵(しまった……考え事をしていたせいで聞き逃してしまったな……)
傭兵(まぁ、たぶんどうでもいいことだろう。うん)
本日ここまでにします
ありがとうございました
再開します
今日ちょっと短い
ガチャ
傭兵「?」
ギィ…
女騎士「やあ」
傭兵「あ、女騎士……」
女騎士「出てきたメイドさんから目が覚めたって聞いてさ。……どう? 容態は」
傭兵「お前のおかげでほとんど万全だ」
傭兵「ありがとな。ここまで運んでくれて」
女騎士「いやいや、何言ってんの。姫さんのために尽力してくれたのは傭兵だろ?」
女騎士「お礼を言うのはボクたちのほうだ。ありがとう」
女騎士「お前のおかげで姫さんを救えた。敵対していた貴族も一つ潰せた」
女騎士「本当に、助かった」
傭兵「お姫さまを救えたって……俺は危うく間違えた推理をして、彼女を見殺しにしてしまうところだったんだぞ?」
傭兵「力を尽くすのだって、お前には一度言ってしまったけど大人として当たり前のことだし」
傭兵「貴族を潰せたのなんてそれこそここに勤めている人の力そのものじゃないか」
傭兵「俺は本当、そんな大したことはしてないんだって」
女騎士「お前で大したことをしてなかったんなら、ボクなんて何もして無いことになるよ」
女騎士「戦いも全部任せちゃったし」
傭兵「そうしないと、助けに行ったお姫さまを犠牲にしてしまうところだったんだから、当然だろ?」
傭兵「それに女騎士は、誘拐犯の一味かもしれない俺を心配して、戻ってきてくれた」
傭兵「あんなに離れた場所にいた俺を探して、見つけてくれた」
傭兵「それだけで、俺にとっちゃあ十分さ」
女騎士「誘拐犯の一味かもしれないって……姫さんと二人きりになったのに手を出さなかった時点で、その可能性はないでしょ」
傭兵「フラフラだったからそのチャンスを棒に振って、今は懐に潜るためにこうしてるのかもしれないぞ?」
女騎士「それでも、姫さんを殺して一度突っ返すのは効率が悪いだろ」
女騎士「あれだけの魔法が使えるんなら、フラフラだったとしても姫さんを無力化するなんて容易かったはず」
女騎士「ましてあの時の姫さん、魔法を目の前に突き出されても動けなかっただろうしさ」
女騎士「でもそれをせずに殺して突っ返した時点で、姫さんを裏切ることは無い」
女騎士「それぐらい、バカでも分かる」
傭兵「そうでもないだろ」
傭兵「そう思わせるために実は……かもしれないぞ?」
女騎士「……はぁ……どうも、傭兵は謙虚が過ぎるね。そこまで疑い始めてたら、それはもう一味だって決め付けてるようなもんだろ?」
女騎士「なんというか……妙に捻くれてるっていうか……これだけ褒めても素直に受け止めてくれないなんてさ」
女騎士「なんか心に闇でも抱えてるんじゃないのか?」
傭兵「いや、さすがにそれはないと思いたいが……」
女騎士「ま、傭兵がどう思っていようとも、少なくともボクはお前のおかげで姫さんを救えたと思ってるし、貴族を潰せたと思ってる」
女騎士「だからま、このお礼は勝手に言ってるだけだと思っててよ」
傭兵「んじゃあ俺のも、勝手に素直に受け止めることが出来ていないだけだと思っててくれ」
女騎士「全く……どうしてそう素直に受け入れてくれないのか……」
女騎士「お礼の言い甲斐がないだろ?」
傭兵「言い甲斐ってなんだよ。別にそんな感謝して気を遣うことが無いってことだぞ?」
傭兵「もっと気楽に『あ、そう? じゃあまぁいっか』ってぐらいに考えてくれよ」
女騎士「それで本当にお礼を言わなかったら『お礼の言葉だけでもくれたら良いのに』とか考える性質じゃないの? 傭兵って」
傭兵「いやいや、そんなことは——……」
傭兵(……あれ? 意外にある、か……?)
傭兵(なんだかんだでこういったやり取りするのが楽しいと思ってる俺がいたりするしな……あれ?)
傭兵「……——ん〜……?」
女騎士「はぁ〜……なんというかもう……無理矢理自分を悪人に見せようとするところとか、そう素直に好意を受け入れるのが下手なところとか……さっきも言ったけど、本当に妙に捻くれてる」
女騎士「なんか、信頼されることを恐怖しているようにも見える」
傭兵「そんなつもりは無かったんだがな……」
女騎士「感謝されて信頼もされるのがイヤで、けれども感謝だけはされたいって……謙虚とは真反対で、むしろ図々しいよね」
傭兵「そうやって抜き出されるとまるっきり面倒な男だな……俺って」
女騎士「まあでも、それが傭兵ってことでしょ? 無自覚であれなんであれさ」
女騎士「今まで知らなかった一面だったんだと思うと気にはならないし。むしろそんな性格だったんだって、やっと内面が見えただけ」
女騎士「だからボクはそんな傭兵でも、十分に受け入れられるかな」
女騎士「あ〜……それよりも、さ。傭兵」
傭兵「ん?」
女騎士「ん〜……あ〜……その、うん……」
傭兵「……なに? 喉でも痛い?」
女騎士「なんでそうなるっ! じゃなくて……えと……ほら、あれだ……」
傭兵「…………どれ?」
女騎士「……お前は弱い!」
傭兵「いきなり何!?」
女騎士「あ、いや……うんと、ああ……いや、間違えた間違えた……」
傭兵「間違えたのか……いやまぁ、弱いことに違いは無いけど……」
女騎士「そんなことはない!」
傭兵「うおっ!?」
女騎士「アレだけの数を相手に有利に動けるのはむしろ誇っても良いと思う!」
女騎士「確かに一対一では弱かったけど! 模擬戦でのあの動きでそれは認めざるを得ないけどっ!!」
女騎士「でも複数を相手に戦った時のあの動きっ! アレは誰にも真似できないっ! まさに集中力が分散している傭兵だからこそのものだっ!!」
女騎士「だからお前は弱くないっ!!」
女騎士「あの特別な強さは、唯一無二の傭兵自身だと思う!」
傭兵「……いや……弱いって言ったのは女騎士なんだけどさ……」
女騎士「あっ!」
女騎士「……あ、いやだからそれは間違えたんだとあれほど……!」
傭兵「……それで? 結局何が言いたいんだ?」
女騎士「いや、その……あ〜……だから……うん」
傭兵「……本当、さっきから歯切れが悪いな……」
女騎士「ああ、うん。ごめん……」
女騎士「実はその……ほら……模擬戦!」
傭兵「模擬戦……?」
女騎士「ほら一度、手合わせしたよね? あれをまたやらないか?」
傭兵「……なんでまた? どうせ俺が負けるのに……」
傭兵「一度やったし、近くで見たしで、実力差は十二分に分かっただろ」
女騎士「そうだけど……ほら……なんというか……魔法がさ……」
傭兵「魔法?」
女騎士「そう! あの手合わせは魔法使用禁止でやっただろ? でも今度は魔法を使っていいからさ」
女騎士「あの時は一度見せてもらっていただけで、まさかあそこまで魔法を重きに置いた戦い方をすると思っていなかったんだ」
傭兵「ああ……なるほど」
女騎士「ボクも、あれだけの魔法を使える人を相手に、どれだけ戦えるのかを確認したいからさ」
女騎士「ここの宮廷魔法使いに頼みたいんだけど、ほら、彼等も忙しいし」
女騎士「魔法を絡めた戦い方においては遜色ないだろうお前に、お願いしたいんだよ」
傭兵「ん〜……まぁ、お姫さまの副作用が出ないんなら、一回ぐらいは良いか……」
女騎士「副作用……?」
傭兵「いやいや、マジで不思議そうな顔するなよ……」
傭兵「俺が雇われたのは、お姫さまの副作用を解消するためだぞ?」
女騎士「……あ、そうだったっけ……そういえば……」
傭兵「なんで忘れてんだよ……」
傭兵「ま、だから副作用を発症していない間は休みだからさ、本当は極力休むたいし、あの場所での戦いの仕掛けも改めたいんだが……」
傭兵「でもま、助けてもらったお礼に、一日ぐらいなら相手してもいいぞ——」
女騎士「でも姫さん、もう副作用発症しないと思うんだけど……」
傭兵「——って聞いてんのか?」
女騎士「これは王にも話しておいてもらった方が——ってああ! ごめんごめん」
女騎士「聞いてた聞いてた」
傭兵「本当かよ……」
女騎士「休みの日は毎日暇だから相手してくれるんだよね?」
傭兵「マジで聞いてねぇなお前!!」
女騎士「ははっ、冗談だよ。冗談」
女騎士「それにボクにも仕事があるしさ」
女騎士「分かった。それじゃあ一日だけ、頼むね」
傭兵「ああ。日取りはそっちで決めてくれ」
傭兵「……ま、誘拐なんてされたからな……明日からいきなり副作用、の可能性もあるけどよ」
女騎士「いや、それはないだろう」
傭兵「ん? なんで言い切れるんだ?」
女騎士「ん〜……なんとなく、かな」
女騎士「ともかく手合わせの件、忘れないでよ」
傭兵「ああ。分かったよ」
傭兵(ったくまぁ、嬉しそうにしやがって……)
傭兵(どんだけ自分の力を試したいんだよ……)
女騎士「それじゃあ予定確認してから、また暇を見つけて来るから」
傭兵「はいはい」
ギィ…
…バタン
——ああ……結局謝れなかった……——
——あれだけ疑って悪かったって言えなかった……——
——どうせ疑われて当然だったからとか言われるんだろうけど……それでも一回は謝っときたい……——
——このまま流れでスルーしちゃいけないことだし……うん……いつか絶対に……うん……——
——それに……その代わりに、手合わせの約束が出来たし……——
——その時にでも……うん——
傭兵(……ドアの前でデカい独り言は止めろよ……普通に聞こえてきてるし)
傭兵(でもまぁ、謝りたかったのか……本当、気にすること無いのに)
傭兵(……今日の帰りにでも、それとなく気にするなって言っておくか)
——情けないですね——
傭兵(あれ? メイドさん? まさか女騎士が出るまで待ってたのか……?)
——〜〜〜〜〜〜〜っ! ——
——————
傭兵(……声が遠ざかったか……俺に用事、ってわけでもなかったのか……)
傭兵(ま、女騎士って騎士長だしな。お姫さまに関して何か話しておくことでもあったんだろう)
今日はここまで
明日はまたちょっと休む
…本当早く終わらせないと…リアルが迫ってくる…!
投下できなくなる前には終わらせないと
>>386
>…本当早く終わらせないと…リアルが迫ってくる…!
>投下できなくなる前には終わらせないと
もしかして、身体の具合悪いのか?だったら無理せずに休んだ方が良い。
意味は違うが”死中に活”のような題材に、386のような自己レスだと、
心配になってしまうわ。
>>394 ややこしい書き方してすまん
普通に仕事が忙しくなってきただけです
というわけで再開
また一日勝手に休んじまったなぁ…こういうの止めないといけんのんだが…
〜〜〜〜〜〜
傭兵「ごちそう様でした」
メイド「お味のほうはどうでしたか?」
傭兵「えっと……とてもおいしかったです」
メイド「では、シェフに喜んでいたとお伝えしておきますね」
傭兵「はぁ……」
傭兵(っていうかずっと部屋の隅っこに立たれるとか……気になるってレベルじゃねぇぞ)
傭兵(正直、味なんて分かんなかった……)
傭兵(そもそも日頃食ってるものと次元が違いすぎて……もう何がなんだか)
メイド「それと申し訳ないのですが」
傭兵「はい?」
メイド「まだしばらく、この部屋の中にいていただいてもよろしいですか?」
傭兵「え? 正直もう帰っても良いかと思ってたんですが……」
メイド「ちょっと、会っていただきたい方がいまして……」
傭兵「はぁ……」
メイド「会いたいと言っているのに、こちらの勝手で恐縮ですが、まだちょっと時間の都合がつきそうにないんですよ」
傭兵「まぁ、そういうことなら」
メイド「ありがとうございます」
メイド「本当は城の中でも散策してもらえれば、ちょうど良い暇つぶしになるのですが……」
傭兵「分かってますよ。部外者の俺が一人でそこまでのことをするのはいけないんでしょう?」
メイド「申し訳ありません」
傭兵「いえいえ。むしろ当たり前のことですから」
メイド「そう言っていただけると、助かります」
メイド「ただ、この何も無い部屋で一人と言うのも退屈でしょうから、暇つぶしに会話の相手を」
傭兵「メイドさんが?」
メイド「いえ。あの子が」
傭兵「お姫さまがっ!?」
メイド「ま、無いとは思いますが、もし誰かが襲ってきたら守ってあげてください」
傭兵「……え〜……?」
メイド「食事を終えたら来るそうですので——」
コンコン
メイド「——と言っている間にも、来たようですね」
ガチャ
姫「あ、おねえちゃん」
姫「食器持っていくの、手伝いましょうか?」
メイド「構いませんよ。それよりも、訓練をサボる口実を無理矢理見つけてまで話し相手を買って出たんですから」
姫「ちょっ! そ、そんなの本人前にして言わないでくださいっ!」
メイド「あら、すいません」
メイド「ともかくそういうわけなんですから、私なんかよりも会話の相手、お願いしますね」
姫「む〜……分かりましたよ」
メイド「では、お願いします」
キィ…
…バタン
姫「……ん、と……」
傭兵「どうも、お姫さま」
姫「は、ふぁい! 傭兵さま!」
傭兵「……どうしてそんなに緊張してるのですか?」
姫「あ、えと……なんと言いますか……その……」
姫「なんだか、改めて助けてもらったんだなぁ、と思うと、何故か……」
傭兵「助けてもらったのはこちらも同じです」
姫「え?」
傭兵「あの瓦礫の山から連れて帰ってくれました」
傭兵「本当、ありがとうございました」
姫「そ、そんなことでお礼を言わないで下さいっ」
姫「大体そんなの、わたくしが助けてもらったことを思えば些細なことですし……」
姫「むしろお礼を言わないといけないのはこちらの方です」
姫「本当、助けていただき、ありがとうございました」
傭兵「いやいやいや……王女が頭を下げないで下さい」
姫「本当は何か、地位とか色々なお礼を差し上げるべきなのでしょうが……」
傭兵「気にしないで下さい。さっきので十分ですよ」
傭兵「あとはまぁ、給料に多少色をつけてもらえればそれで」
姫「えっ? たったそれだけで良いのですか?」
姫「何か大きな請求をされても、大体のものは叶えて差し上げられますが……」
傭兵「俺は、して当然のことをしただけです」
傭兵「それに対してお礼をせびるのは、違いすぎるでしょう」
姫「……女騎士さんの言っていた通りですね」
傭兵「え?」
姫「大人だから子供を助けるのは当たり前と言っていたと、女騎士さんは言っていました」
姫「……思えばわたくし、傭兵さまのことを何も知りません」
姫「副作用を解消してくれて、解消するまでに何回もわたくしが殺していたのに、です」
傭兵「でも、それは仕方のないことでしょう」
傭兵「俺が副作用をどうにかしようとしている間、お姫さまは意識が無いようなものなんですし」
姫「それでもわたくし、あなたを殺してから、死んでいるあなたを見たことなら何度だってあります」
姫「それなのに、知ろうともせず、その日の予定で頭がいっぱいになって……まるで当然のように受け入れていました」
傭兵「それで良いんですよ。それがコチラの仕事なんですから」
姫「あっ、そういえば一度、身体をバラバラにしていたこともありました」
姫「その節は苦しめてしまったようで……どうも、ああいうことをしてしまうと生き返っても感覚が残っているようですし……ご迷惑をおかけしました」
傭兵「ですからそれが仕事なんですよ。本当、気にしないでください」
姫「大人だから当たり前、ですか?」
傭兵「この場合はどちらかと言うと、仕事だから当たり前、ですかね」
姫「……それでも、やっぱり少し、気にしてしまいます」
姫「だってわたくし、副作用をどうにかしようとしてくれていた他方々にも、同じことをして苦しめていたのかと思うと……」
傭兵「それも向こうからしてみれば仕事だから当然だって思ってますよ」
傭兵「殺されるって分かって仕事請けといて、生き返ってしばらくの間だけ後遺症が残るような殺され方をされて不快極まりない、なんてこと言ってんだったら、最初から仕事請けるなって話になりますからね」
姫「……そうでしょうか?」
傭兵「そうですよ」
姫「……そうですか。……そう励ましていただけると、少し心が楽になります」
傭兵「……と言いますか、お姫さま」
姫「はい?」
傭兵「その頃の話をしていて思い出したのですが……なんか、大人しくありません」
姫「えっ!? えあ〜……そんなこと……ないと思いますよ……?」
傭兵「いや、そんなことあると思いますけど……」
傭兵「初めて会いに来てくれた時はもっとこう、活発な女の子っぽかったんですが……」
傭兵「さっきメイドさんにしてたような態度をそのまま明るくして、口調だけ今のように丁寧だったような……」
姫「あ〜……ほら、あの時はなんと言いますか……」
姫「副作用が解けたばかりで、テンションが上がっていたと言いますか……まあそんなところです、はい」
傭兵「はぁ……なるほど……?」
姫「……と、時に傭兵さま」
傭兵「ん?」
姫「男性はお淑やかで物静かな女性が好きだと、礼儀作法の先生が仰っていたのですが……そういうものなのですか?」
傭兵「え……? ……まあ、世間一般的にはそうみたいですね」
姫「……傭兵さまはどうなのですか?」
傭兵「俺? 俺もまぁ……そうですね」
傭兵(そう言っといた方が先生の言葉を信用して、礼儀作法を身に付けるだろう)
傭兵(たぶん、その先生もその方が助かるはずだ)
傭兵「どちらかというと、お淑やかな女性の方が……」
姫「そ、そうですか……そうですよね……」
姫「……っしゃ」グッ
傭兵(……今すっげぇ淑女らしからぬコッソリガッツポーズが見えたけど……まぁ指摘してやらぬ優しさか)
傭兵「そういえば、あの家庭教師だった男以外にも先生はいるんですね」
傭兵(……って、王族だったら当然か……)
姫「…………」
傭兵「…………? どうかした?」
姫「え、ええ……いえ、別に」
姫「それはまあ、当然ですよ」
姫「ただ完全に信用していたのは、男さまだけでしたけれど」
傭兵「あ……すいません」
姫「……どうして謝るのですか?」
傭兵「いや……裏切られて辛いだろうに、思い出させてしまって……」
傭兵「普通に、失言でした……」
姫「別に、大丈夫ですよ」
姫「それに、あの方から情報を聞き出すために拷問したのはわたくしです」
姫「とっくに鬱憤は晴れていますよ」
傭兵「拷問って……」
姫「ですからあの時、殺してまで無理に城に帰すこともなかったんですよ。実は」
姫「……なぁんて、ウソですよ」
姫「一度死んだからこそ、冷静になれた部分はありました」
姫「だからたぶん、あの時は一度殺してもらって正解だったのでしょう」
姫「ですから本当、ありがとうございます」
傭兵「…………」
姫「これは、あの人を信用しきっていた、わたくしが悪いのです」
姫「傭兵さまは、気になさらないで下さい」
姫「まして、わたくしの立場で好きになるだなんてことが、そもそもはダメだったんですし……」
傭兵「…………」
姫「……ねえ、傭兵さま」
姫「わたくし、何を信じていたら良かったのでしょう?」
姫「男さまを信じず、今の礼儀作法の先生も信じず、女騎士さんやおねえちゃんやお父さんだけを信じていれば、良かったのでしょうか?」
姫「それとも……これからは男さまの代わりに、傭兵さまのことを信じていけば良いのでしょうか……?」
傭兵「……俺には、わかりません」
傭兵「ただ少なくとも、その辺にいる雇われの俺を信じるのはダメでしょう」
傭兵「もしかしたら俺は、お姫さまのいるこの国とはまた別の国の人間で、お姫さまのことを狙っている人間かもしれませんよ?」
傭兵「助けたのだって本当は、大人らしいイヤらしい理由があるのかもしれませんし」
姫「……じゃあ、わたくしは、どうしたら……」
傭兵「それは……自分で考えないといけないことなんですよ」
傭兵「考えて、自分なりの他人との距離の掴み方を見つける……たぶん、それしかないんだと思います」
傭兵「俺のように、何もかもを信じず、誰にも信用されないように生きていくのか……」
傭兵「それとも自分が信じられるものを見つけて、裏切られるかもしれない恐怖の中付き合っていくのか……」
傭兵「もしくはその恐怖を押し潰すか見て見ぬふりをして、何も知らない無垢のフリを続けていくのか……」
傭兵「……一度裏切られ、その辛さを知ったお姫さまに残された選択肢は、たぶん、これぐらいです」
姫「…………」
傭兵「俺が出来るのは、たぶんこれぐらいしか選べるものはありませんよ、と例を挙げてあげることだけです」
傭兵「この例の中から選んでもいいですし、もちろん別の選択肢を選んでもいい」
傭兵「それを考えて、自分で選ぶ」
傭兵「酷いですけれど、俺はお姫さまの手を引いてあげられるほど、強くはありませんからね」
傭兵「そうして後ろから、声をかけてあげることしか出来ません」
傭兵「お姫さま自身の足でこれからも前へ向かって進んで欲しい、と無責任に声をかけることしか、ね」
姫「…………」
傭兵「……ただ」
姫「……?」
傭兵「俺のように、何も信じずに生きていくのは、ただの臆病者の生き方です」
傭兵「騙された後が怖いから、周りを疑い続ける」
傭兵「信じてしまった後の裏切りで傷つきたくないから、誰も信じない」
傭兵「期待された通りの事が出来なかった自分を想像するだけで震えてしまうから、信用されないようにする」
傭兵「俺も含めてそういう生き方をする人は、ただの臆病者なんです」
傭兵「そうしないと生きていけない社会で……大人はこうして生きていかないと身を滅ぼしてしまうとしても、ね」
傭兵「……確かに、お姫さまの純粋無垢で真っ白な生き方は危ういです」
傭兵「騙されやすいし裏切られやすい、立場上勝手に期待されて望みどおりのことが出来ていないと非難されるでしょう」
傭兵「それでも俺は……お姫さまの生き方は、素晴らしかったと思います」
傭兵「それに今も……凄いと、思っています」
姫「え……?」
傭兵「だってあれだけ裏切られたのに、すぐに臆病者になることなく、まだ誰かを信用したいと想っている」
傭兵「ともすれば、今まで信用していた全ての人を疑い始めてもおかしくは無いのに、そうならなかった」
傭兵「それは本当に、凄いことですよ」
姫「…………」
傭兵「怖いのに信じて、裏切られるかもしれないのに信用して、騙され傷つけられこうして痛みを負ってもまだ、誰かを信じたいと願っている」
傭兵「……俺には到底、真似できませんよ」
姫「……傭兵さまも……」
傭兵「ん?」
姫「傭兵さまも……誰かに裏切られたことが、あるのですか……?」
傭兵「……いや。俺は無いです」
傭兵「むしろ俺は……裏切った方ですから」
姫「……どういうことですか……?」
傭兵「大切な幼馴染を裏切った……裏切らざるを得なかったとはいえ、大切な人を傷つけた……」
傭兵「だから俺はもう、誰にも信用されたくないと思っているんです」
傭兵「あの時の辛い想いは、もうしたくない」
傭兵「信用されてしまったせいで、傷つけてくれと頼まれて……」
傭兵「そうやって……辛い気持ちを背負わされるぐらいなら……最初から……」
姫「傭兵さま……」
傭兵「……話が逸れましたね」
傭兵「すいません」
姫「それは……昔一緒にいたと言う、仲間のことですか……?」
傭兵「……まぁ、はい……そう、ですね……」
姫「……くすっ」
傭兵「えっ?」
姫「あ、すいません」
姫「落ち込んでいるときに、笑ってしまうだなんて……酷い女ですね」
傭兵「いえ、そんなことは……」
姫「いえ。酷いですよ」
姫「でも何故か、おかしいと思ったんです。今の状況が」
傭兵「おかしい、ですか?」
姫「はい」
姫「好きな人に裏切られて、気持ちは吹っ切れたのに何故かモヤモヤとしていて、話題を出されるとなんだかとても悲しくて……苦しくて……」
傭兵「…………」
姫「それなのに話をしていると、さっきまで気を遣ってくれていた傭兵さまの方が、今はわたくし以上に悲しそうな顔をしていたのが……なんだかおかしくて」
傭兵「……そんな顔してました? 俺」
姫「はい。してましたよ」
姫「よほど思い出したくないことなんだろうなぁ、って思いました」
傭兵「…………」
姫「……わたくし、もう少し考えてみます」
姫「今までみたいにすぐに誰かを信用してはいけないことが分かりました」
姫「ですが、誰も彼も信用しないよう、臆病者にはならないように致します」
姫「前までみたいに、極端に人を信用はしませんが……だからと、極端に人を拒絶もしません」
姫「傭兵さまが、凄いことだって、って言ってくれましたからね」
傭兵「……そんなに、俺の言葉を信じて良いんですか?」
姫「良いんですよ。だってわたくし、傭兵さまのこと——……」
傭兵「……?」
姫「……——い、いえ! 今言うことではありませんでしたっ! す、すいません……!」
傭兵「は、はぁ……?」
姫「そ、その……決して嫌いだとかそういうのではなくて……今言ってしまいますと……その……心変わりばかりしている男好きだと思われてしまいそうで……はしたないですから」
傭兵「そ、そうですか……?」
傭兵「でもお姫さまの年齢なら、普通じゃないですか?」
姫「え、えぇ!? ま、まさか言いたいことがバレて……!?」
傭兵「俺のことを信用している、と言いたかったんじゃないんですか?」
姫「…………………………………………」
傭兵「……あ、あれ……?」
姫「そ、その通りです! はい全くもってその通りです! えぇ!!」
傭兵「?」
傭兵「まぁだから、お姫さまぐらいなら普通だと思うんですよ。誰かをすぐに信用してしまうのは」
傭兵「まだまだ子供なんですから」
姫「こ、子供……」
姫「……ま、まあそうですね……そう思われても仕方ないですよね……」
姫「まだまだ小さいですし……色々とちんちくりんですし……えぇえぇ、仕方のないことです……」
傭兵「優しい言葉をかけてくる大人は、頼もしく見えますからね」
傭兵「ただそれでもやっぱり、俺のことはあまり信用しない方が良いですけれど」
傭兵「……いつ裏切るか、分かりませんからね……」
姫「……傭兵さまは、わたくしを裏切るご予定でも?」
姫「……って、この質問は無意味ですね」
姫「あろうとなかろうと、無い、と答えるのが当然の質問ですし」
姫「……いえ、だからこそ、ですね」
姫「傭兵さまに何を聞こうと、わたくしの答えも変わらないです」
姫「例え、裏切るつもりがあると、そう言われようとも……いくら傭兵さまが拒絶しようと、わたくしは傭兵さまを信じてみようと、そう思います」
姫「また、裏切られてしまうかもしれない恐怖と共に」
姫「目を逸らしながらも、共に歩むように」
傭兵「……それが、お姫さまの選択なら、それで良いと思いますよ」
姫「傭兵さま限定、ですけれどね」
傭兵「え?」
姫「人付き合い全般に関しては、まだまだ沢山考えますよ」
姫「そのためにもまずは、色々と案を出してくれて傭兵さまを信用しようと……そういうことです」
姫「本当、今日は傭兵さまと話せてよかったです」
姫「……実を言うと、もっと沢山、傭兵さまのことを聞きたかったんですけれどね」
姫「わたくしのことばかり話してしまいました」
傭兵「ははっ……俺の話なんて、つまらないですよ」
姫「そんなこと無いですよ」
姫「もしかしたら、少し弱みを見せてくれたおかげで、わたくしは傭兵さまを信用しようと思えたのかもしれませんし」
姫「そうじゃなかったら……たぶん勘違いして、男さまにしていたように、もたれかかる依存に近い信用を寄せてしまっていたかもしれませんし……ね」
傭兵「勘違い……?」
姫「わたくしを裏切らない、ずっと傍にいてくれる絶対無敵の勇者のような存在だと勝手に期待してしまっていた、ってことですよ」
傭兵「それは——」
コンコン
メイド「失礼します」
ガチャ
メイド「傭兵さま、こちらの準備が出来ましたので、お願いいたします」
姫「あっ、もうそんな時間ですか……」
傭兵「——っと、もっとお話しても良かったんですけれどね」
傭兵「色々と、訂正しないといけないこともありそうでしたし……」
姫「まあ、これからはその時間ぐらい沢山取れるでしょうから。その時で構わないですよ」
傭兵「え?」
姫「いえ。なんでも」
キィ…
女騎士「やあ」
姫「げ」
女騎士「げ、とはどういうこと? 姫さん」
姫「い、いえ……別に……」
女騎士「ま、傭兵と話したいからって訓練をサボったことは、あえて責めないよ」
姫「ぐっ……」
女騎士「攫われた自覚と自らの無力さを噛み締める時間も、必要だろうからね」
姫「そ、それは仕方が無いと女騎士さんも……!」
女騎士「うん。仕方が無いと思う」
女騎士「でもそこからダラダラとするのは違うんじゃないかなぁ……?」
女騎士「反省して強くなって油断していてもある程度は対応できるようにならないと……」
女騎士「って、あ、いや。別にダラダラしてた訳じゃないし、そうしないといけないって分かってるけど少し休みたかっただけだよね、うん」
姫「ぐうううぅぅぅぅぅぅ……!」
姫「い、いえ……ここはお淑やかに……淑女の嗜みを思い出して……堪えて堪えて……!」
姫「そ、それよりも女騎士さん……? どうしてここにいらっしゃるのですか?」
女騎士「何を言ってるの? 姫さんを護衛するために決まってるじゃないか」
女騎士「あ、今日は訓練がないから、ノンビリと傍についていてあげるだけにするから、安心して」
姫「そ、そんなに休んだのが許せませんか……?」
姫「先ほどから少しばかり、言葉に棘があるように思えるのですが……」
女騎士「いやいやそんな。好きな人に裏切られて、あれだけのことをされたんなら、傷ついて当然だからね」
女騎士「ボクとしても、姫さんには元気になって欲しいし」
女騎士「そのために必要なことだって言うんなら休んで欲しいよ、当然」
姫「でしたらその嫌味っぽいのはどういうことですか……?」
女騎士「嫌味っぽく聞こえるのはやましい気持ちがあるからじゃないかなぁ?」
姫「ぐ、おおおぉぉぉぉぉ……!」
姫「せめて……せめて傭兵さまの前だけでも……!」
メイド「…………」
メイド「ええ〜……では女騎士さん、この子の事、お願いします」
女騎士「うん。任されたよ」
メイド「それでは傭兵さま、行きましょうか」
傭兵「え、その……二人は?」
メイド「いつものことです」
メイド「それにどういうわけか、この子は傭兵さまが早くいなくなって欲しいようですし」
姫「それは語弊があると思いますおねえちゃん!!」
メイド「ともかく、あまりらしくないまま我慢させるのもアレですしね……私達は行きましょうか」
傭兵「あ、はい」
カツカツカツ…
メイド「時に傭兵さま」
傭兵「はい?」
メイド「子供は、活発な子と大人し子、どちらが好きですか?」
傭兵「子供? どうしたんですいきなり」
メイド「ちょっとした興味ですよ。気兼ねなく答えて頂ければ」
傭兵「そうですね……まぁ、子供は元気な方が良いですね」
メイド「そうですか」
傭兵「まぁ、子供が大人ぶろうと頑張ってるのも可愛くは思いますが……やはり子供らしく元気な方が安心しますね」
メイド「……思うのですが、傭兵さまってロリコンですか?」
傭兵「違うっ!」
メイド「そうなのですか? 子供のためにと言って全身全霊をかけるのでてっきり……」
メイド「ま、ともかくそう伝えておきますね」
傭兵「誰にっ!?」
メイド「え? これから誰に会うかですか?」
傭兵「言ってない! いやでも気にはなりますけれどっ!!」
メイド「これから、王に会っていただきます」
傭兵「ああ、なるほど……」
傭兵「…………………………………………」
メイド「…………」
傭兵「……え!? なんでっ!?」
今日はここまで
昨日投下できなかった分も含めたのでちょっと長くなった
あ、やっと入れた
というわけで再開します
ちょっとしか投下できないけど、明日投下できないから今日中に少しだけでも
メイド「? なにがですか?」
傭兵「いやちょっと理解するのに時間掛かってる間に話が終わったみたいなの止めて下さい!」
傭兵「どうして王様と会うことになってるんです!?」
メイド「それは、当然じゃないですか」
メイド「娘を救ってくれた方ですよ」
メイド「直接お礼を言いたいんだそうです」
メイド「まあ、公務が立て込んでいるせいで、あまり時間が取れないようですが……」
傭兵「……別に王様直々にお礼言わなくても……」
メイド「本人がそうしたいと言ったんですよ」
メイド「あと、直接会って確かめたいとも」
傭兵「? なにを?」
メイド「それは——」
…カツン
メイド「——着いてしまったので、王本人に聞いてください」
傭兵「あぁ……早い」
傭兵「って、王座とかじゃないんですね」
メイド「公務を行う部屋で申し訳ありません」
メイド「ですが、移動する時間も惜しいとのことでしたので」
傭兵「……良いんですか? 王様なんていう要人の部屋を俺なんかに教えて……」
メイド「王自身が言ったことですからね」
メイド「私に反対する権限はありませんよ」
コンコン
メイド「失礼します。傭兵さまをお連れしました」
「入ってもらえ」
ガチャ
メイド「失礼します」
傭兵「し、失礼します……」
カツカツカツ…
王「よく来てくれたな、傭兵とやら」
傭兵(髭の生えた渋いおじさんだな……)
傭兵(いや、おじさんは失礼だ……というか、そんな安っぽい言葉で例えた自分が恥ずかしくなる)
傭兵(威厳と威圧感が、机を挟んで座っているこの人から感じられる……)
傭兵(……俺……場違い過ぎるだろ……)
傭兵(なんで普通に生きてきたら会うはずも無い人とこうやって会ってんだよ……)
王「そう緊張するな。楽にしてくれ」
傭兵(無茶言うなっ!)
メイド「…………」
傭兵(……メイドさんは入り口に立ったまま……王様の傍らには、なんか長身の美女が立ってる……秘書か……?)
傭兵(いや、王様の護衛かも……なんか立ち方に隙が無い)
傭兵(細身のレイピアを腰に刺してるが……装飾品と同じ匂いがする)
傭兵(……魔法使い……か……?)
「…………」チラ
傭兵「っ……!」
傭兵(ちょっと注目し過ぎたか……失礼な行動を取ってしまったな……)
王「さて、今回呼んだのは他でもない」
王「実はキミに、頼みたいことがあるんだ」
傭兵「頼みごと、ですか……?」
王「ああ。ま、とはいえ何か別の国へとスパイに行ってくれとか、貴族の屋敷を一つ潰してくれとか、そんな物騒なものじゃあない」
王「極々平和的なものだよ」
傭兵「は、はぁ……」
王「なぁに。簡単なことだ」
王「キミは確か、姫の副作用を抑えるために雇われたのだろう? 契約書を見せてもらった」
傭兵「あ、はい」
王「その中にほら、正規登用の項目があっただろ? 実はソレを頼みたい」
傭兵「え……? つまり、城に仕えろ、と……?」
王「ま、簡単に言うとそういうことだ」
傭兵(……まさか、その話をするためだけに、王様と直接会ってるのか……?)
王「ただその登用の際に、ついでにしてもらいたいことがある」
傭兵(ですよねー)
王「姫に、魔法の勉強を教えて欲しい」
傭兵「……勉強……?」
王「ああ。ま、家庭教師、というやつだな」
傭兵「そ、それは……お姫さま自身が、あまり快く思わないのでは……?」
傭兵(つい今しがたといっても遜色ないほどの時間に、その家庭教師の役職に就いてたヤツに裏切られたばっかりだったのに……)
傭兵(それと同じ役職に、今までただの傭兵だった俺を登用なんて……不安を与えるだけだろ)
王「そんなことはないだろう」
王「むしろキミを信用できると一番に推薦したのはあの子だ」
傭兵「えっ!?」
王「何を驚く」
王「身を挺して救ったのだろう? 信頼しない方がおかしい」
傭兵「は、はぁ……」
傭兵「ですが、その……そんな簡単に決めて良いんですか……?」
傭兵「その、もうちょっと俺——いや、自分のことを疑った方が……」
王「あの子が信用したんだ」
王「なら、あの子の責任だろう」
傭兵(……それで良いのか……? 王として父親として)
王「それに、そこにいるメイドも、あの女騎士までも、お前は信用出来ると言っていた」
傭兵「えぇっ!?」バッ
メイド「…………」シレッ
王「ならば、一度敵を出してしまった家庭教師という役職、任せてみてもいいかと考えるのは必然だろう」
王「本来ならそんな危ないことが起きた役職なんてものは廃止すべきなのだろうが……姫自身がキミを家庭教師として雇って欲しいと話したんだ」
王「被害に遭った本人がだ」
王「となれば、叶えてやりたいだろう? 親としては」
王「それに、お前は魔法が達者と聞く」
王「あの子に魔法を教えたい親心としても、またとない機会だと思える」
王「勉学は本人のモチベーションに拠るところが大きいからな」
王「あの子自身がキミに学びたいと言っているのなら、成果も十二分に期待できるだろう」
傭兵(……そういえばあの子、魔法がまだ使えないんだっけ……? それをなんとかさせたいのか……?)
傭兵(でもそれって年齢的なものであって、どうにか出来るようなもんでもないと思うが……)
王「どうだ? 傭兵。頼まれてくれるか?」
傭兵「その……自分じゃあ、大したことは教えることは出来ませんし……」
王「ふむ……待遇が悪いのか?」
王「もちろん、給料の方も上乗せするつもりだが……?」
傭兵「そ、そうではなくて……!」
傭兵「それにその、それってつまり、家庭教師としている時、万一敵に襲われた際、自分がお姫さまを守るってことですよね?」
王「ま、そうなるな」
傭兵「自分、そこまで強くありませんよ? 正直守りきれる自身は無いです」
傭兵「そんな重たい責任、背負えませんよ」
王「それでも、一度彼女を救い出した実績がある」
傭兵「それは……偶然、自分に適していただけの話で……」
王「それに、大抵の敵は姫自身が倒してくれるだろう」
王「ただ、不意を衝かれないよう警戒してやれば良い」
王「後は援護とかしてやれれば言うことが無いぐらいだな」
傭兵「そ、それと……それは、副作用の解除も兼ねているんですよね……?」
傭兵「もし俺がその日、副作用の解除を失敗した場合と言うのは……」
王「ふむ……いや実を言うと、副作用の心配はいらないんだよ」
傭兵「……え?」
王「副作用が出るのは、加護を受けたことを後悔した時だろう?」
王「だからおそらくは、副作用なんて起きないんだよ」
傭兵「……どうして、そう思うのですか?」
王「ははっ。それは姫本人にでも聞いてくれ」
王「父である私の口から言うべきことではない」
傭兵「はぁ……」
王「で、どうだ? やってくれるか?」
傭兵「……そもそもこれ、拒否権はあるんですか?」
王「あるにはある」
王「が、出来れば使わないでもらいたいと思っている」
傭兵「でも何も、俺が無理に魔法を教えなくても……」
王「そう言われると返す言葉も無いが……ま、ただ娘の我侭を叶えてやりたい親心なんだよ」
傭兵「我侭……?」
王「あの子には、辛い役目を押し付けている。身分不相応に不自由な世界で生きてもらっている」
王「それならせめて、その狭い身の回りの世界だけでも、あの子が望む人間で固めてあげたいと思ってね」
傭兵「…………」
王「それは親として、救ってもらった人をいきなり家庭教師兼護衛人にすることに抵抗が無いと言えば嘘になる」
王「だが他に二人も、あの子のためにと信用できると言ってきた」
王「だから、信じてもいいかと思えたから、こうして声をかけたんだ」
王「……ま、それに見た感じ、キミは臆病者のようだからね」
王「あの前回の家庭教師とは違い、人を傷つける何かを企める人間でも無いだろう」
傭兵「ぐっ」
王「ははっ、気を悪くしたなら謝るよ」
王「だが、大丈夫かなと思えるには、思えるんだよ」
王「親として。王として」
傭兵「……分かりました」
傭兵「そこまで考えているのなら良いでしょう」
傭兵「お引き受けしましょう」
王「そうか。ありがとう」
王「面倒事も増えるが、よろしく頼む」
傭兵「構いませんよ」
傭兵「ただ、この城には住みたくないですけれどね」
王「それはまた……珍しいな……」
傭兵「ちょっとした事情がありまして……構いませんか?」
王「まあ、構わんだろう」
王「姫も住み込みでとは頼んでこなかったしな」
王「前までのような形だけが残った家庭教師ではなくても良いだろう」
傭兵「……自分、情報を外に漏らすかもしれませんよ……?」
王「それは大変だ」
王「ま、皆に信頼された臆病者のキミが、そこまでのことはしないだろう」
王「しかしまあ……そうやって信頼されぬよう振舞うと聞いていたが、本当に聞いてくるとはな」
傭兵(……なんか、先手を取られたみたいで悔しいな……くそっ)
〜〜〜〜〜〜
傭兵「では失礼します」
メイド「失礼いたしました」
…バタン
傭兵「…………はぁ〜……とんでもない緊張感だった……」
メイド「お疲れ様でした」
傭兵「……っていうかメイドさん……いや、お姫さまも女騎士も、俺をこうして雇うつもりだったんですね?」
メイド「さあ?」
傭兵「しらばっくれないで下さいよ……今日一日の会話で何回かそれっぽいことを言われてたような気がしたのを思い出したんですけど」
メイド「他のお二方は知りませんが、少なくとも私は言っていましたね」
傭兵「やっぱり……」
メイド「ま、引き受けてくれて助かりました」
メイド「あの子の副作用も収まりますし……新しい護衛役を立てることも出来ましたし……ね」
傭兵「とは言っても、四六時中はいませんよ?」
メイド「構いませんよ」
メイド「元々あの子だって気配察知能力は高いのですし」
メイド「あれでも女騎士さんに鍛えられている子なんですから」
傭兵「まぁ、確かにそうか……」
メイド「ただ信頼できる誰かといると油断してしまう、子供っぽいところがあるだけです」
メイド「ですから、あなたが適任なんですよ」
傭兵「……信頼されてる俺自身の気配察知能力が高いから、不意を衝かれても対処できるってことですか?」
メイド「そういうことです」
メイド「それに今までと違い、家庭教師がいる時に兵を置いておかなくて済むのも大きいです」
メイド「私も信頼しているあなたとなら、二人きりにしても大丈夫でしょう」
メイド「なんせ、二人きりになって連れ出せる状況になっても、あの子を殺したほどの人ですからね」
傭兵「お見通しのようで……」
傭兵「でも俺、あの男がしていたであろう普通の授業は出来ませんよ?」
メイド「元々、あまり必要はありませんでしたから」
傭兵「えっ?」
メイド「あの子があの家庭教師のことを好いていたから、解雇出来なかっただけです」
メイド「家庭教師としていた授業はあの子にとっては全てが復習」
メイド「好かれるためにと予習していたのが行き過ぎてしまって、とっくに学ぶことがなくなっていたんですよ、あの子」
傭兵「それは……確かに必要ないですね」
メイド「ええ」
メイド「ですから必要なのは、魔法の知識と、その訓練方法」
メイド「それを教えてくださるのですから、十分ですよ」
メイド「……ま、それでも本命は、あの子の副作用が止まってくれる事なんですけれどね」
傭兵「家庭教師も護衛も、そのついで、と」
メイド「そうですね」
メイド「あの子が苦しんでいた副作用がもう起きないのなら、それに越したことはありませんから」
メイド「他の二つはまぁ、喜ばせるためのオプションみたいなものです」
傭兵「………………………………………………………………ん?」
傭兵「……もしかして、ですけれど……」
傭兵「副作用さえどうにかできれば良かったってことは……」
傭兵「本当は俺が定期的に城に通ってお姫さまと話しさえすれば良かったってことであって……」
傭兵「家庭教師も護衛も、断られること前提で要求してました?」
傭兵「俺が本当に断って欲しくない、その要求を呑ませるために……あえて最初は難しいと思われる要求からしてきていた、とか……?」
メイド「…………」
傭兵「…………」
メイド「……さて、では書類の作成を別室で行いましょう」
傭兵「ハメられたっ!!」
メイド「そんなことはありませんよ。人聞きの悪い」
メイド「ただ傭兵さまは優しいなぁ、ってだけのことですよ」
今日はここまでにします
次は日曜日で
ごめん思いのほか遅くなった
今日は寝る。超眠い
明日の夕方に今日投下分含めて多く投下する
再開しまっさ
え? 夕方じゃない?
それは自分でも分かってるよ
でも気付けばこんな時間さははっ
…いやホントごめんなさい
というわけで本当に再開
〜〜〜〜〜〜
翌日
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
姫の勉強部屋
◇ ◇ ◇
傭兵「え〜……どうも。本日からお姫さまに魔法を教えることになった、傭兵です」
傭兵「改めてよろしくお願いします」
姫「よろしくお願いいたします! 先生っ!!」
傭兵「いや先生はちょっと……そんな器じゃないですし……今まで通りでお願いします」
姫「え〜? ですがそれですと、雰囲気出ないじゃないですか」
傭兵「出なくてもいいですから……本当に」
姫「ん〜……では、交換条件です」
傭兵「はい?」
姫「わたくしが傭兵さまのことを先生と呼ばない代わりに、傭兵さまもわたくしに敬語を使うのを止めて頂けますか?」
傭兵「いやさすがにそれは……王族相手に普通に接するのは……」
姫「ではわたくしも先生と呼び続けます」
傭兵「ぐっ」
傭兵「でも……さすがに俺が敬語を解いて、お姫さまがそのままだと立場が逆転したような感じになって違和感が……」
姫「そこまで複雑に考える必要はありませんよ」
姫「女騎士さんがわたくしにしているような態度で良いんですよ」
傭兵「む〜……」
姫「王女本人が構わないと言っているのですから。気にしないでください」
傭兵「そうは言いますが……」
姫「まあ、無理にとは言いませんよ。先生」
傭兵「ぐっ……やっぱり慣れないな……」
傭兵「……分かりました」
傭兵「ただいきなりは難しいので、徐々にということで」
傭兵「あと、お姫さまのことはお姫さまでお願いします」
傭兵「さすがに呼び捨てまでは俺でも無理ですので」
姫「……仕方ないですね」
姫「それで手を打ちましょう、先生」
傭兵「……認めてくれるまではその呼び方ですか……」
姫「はい♪」
傭兵(うっわ満面の笑み……俺に敬語を使われないことのなにがそんなに良いのか……)
傭兵「というか、お姫さまも敬語を止めてくれれば、こちらとしてももうちょっと楽になるのですが……」
姫「これはもう癖みたいなものですからね……」
姫「完璧でなくともそれっぽく丁寧なら、バカ共も混乱して揚げ足を取ってこないから日頃から心がけなさい、とお父さんに言われてきましたので」
傭兵「……俺の敬語もその類だと思ってくれませんか……?」
姫「先生、女騎士さんに敬語で話していないじゃないですか」
姫「つまり、敬語で無いほうが楽ということですよね?」
傭兵「話す相手によって楽かどうかが変わるのですが……」
姫「……わたくしの方が女騎士さんより距離を感じると?」
傭兵「いや、そりゃ王族相手に距離を感じるなってのが無理かと……」
姫「む〜……ですが、女騎士さんはわたくしに対して普通に接してくれますよ?」
傭兵「正直あの人ちょっとおかしいでしょ」
姫「え、えぇ〜……? それキッパリと言うんですか……?」
姫「で、ですがほら、授業中においては先生の方が立場は上な訳ですし……何も違和感を抱くことは無いですよ」
姫「たぶん女騎士さんも、わたくしに戦い方を教えてくれている時は上だから、その癖がそのまま引きずって他でも普通に接してくるのでしょうし」
姫「ですから先生も、遠慮しないで下さい」
姫「別におかしなことではないのですから。本当に」
傭兵「……つまりお姫さまは、教え教わる立場をキッチリとしておきたいと、そういうことですか?」
姫「え、えぇ……まあ、そうですね……はい」
傭兵(真面目だなぁ……この子は)
傭兵(つまり敬語で教わっていると遠慮されている感じがしてしまうと、そういうことだろう)
傭兵(立場を入れ替えてでもちゃんと、遠慮なく、間違えていない知識を沢山教えて欲しいのだろう)
傭兵(敬語で教えられると、その感じがしないからイヤってところか……)
傭兵(……遠慮されている時間が勿体無いって考えもあろうのだろうけど)
傭兵「……分かった」
傭兵「もうちょっとだけ頑張って、敬語を止めていくようにしま——する……よ……?」
姫「……すごい無理してますね……」
傭兵「度々言葉に詰まるかもしれませんが……今日中にはなんとかしてみます」
傭兵「え〜……まぁ、言葉遣いに関してはこの辺にして……」
傭兵「ともかく、授業っぽいことを始めます」
姫「はい先生!」
傭兵「…………時にお姫さまは、字の読み書きは当然出来るんですよね?」
姫「はい」
傭兵「実は俺……こうして先生役を頼まれましたけれど、自分の名前以外の字の書きが出来ないんですよ」
姫「……え?」
傭兵「だから本当は家庭教師なんて引き受けたく無かったんですよ……」
姫「で、ですがそれだと、どうしてわたくしの副作用を止める依頼を請けることが出来たのですか……?」
姫「確か依頼は文章での契約書だったように思うのですが……」
傭兵「読むことは出来るからですよ」
傭兵「だから俺が出来る授業というのは、俺が蓄えた魔法に関する知識を口頭で伝えること……」
傭兵「後は、本に書いてることの解説ぐらいですかね」
傭兵「とは言っても、書いてあること全てを俺も理解しているわけじゃないですけど」
姫「え? 理解していないんですか?」
傭兵「恥ずかしながら」
傭兵「でも全てを知らなくても、魔法は使えますから」
姫「それで、あれだけの人数を一人で倒せるほどの魔法を……?」
傭兵「知識よりも経験が勝ることがあるんですよ」
傭兵「まぁ、知識に裏づけされている方が効率が良いのは事実ですけれど」
傭兵「と、あれこれ言ってはいますが、まだお姫さまは魔法が使えないんですよね?」
姫「え?」
傭兵「となると……まだ基礎知識に留めておく方が良いかもな……」
傭兵「使えないなら集中力の磨がし方と魔力の固め方を説明しても仕方が無いし……」
傭兵「属性も分からない以上、下手な手を打たないほうが良いのも事実だからな」
姫「あの……」
傭兵「あ、ではとりあえず、本に書かれていることでも……」
姫「いえその前に」
傭兵「はい?」
姫「わたくし、魔法使えますけど」
傭兵「……………………え?」
傭兵「でも確か、女騎士は『お姫さまは魔法が使えない』って言ってたような……」
傭兵(アレは確か……お姫さまが一人で城を抜け出したのでは? って推理した時だったっけ)
姫「ああ、だってわたくし、あまり明るみに出てはいけない人間ですし」
傭兵「え?」
姫「一応わたくし、表向きは戦闘が出来ない魔法も使えない、お人形のような王女ということになっています」
姫「ただ副作用が出た段階で戦闘が出来ないというウソは通じなくなっておりますので、こと戦闘に関しては開き直っていますけれど」
傭兵「明るみに出てはいけないって……それって誰に対しての隠し事なんですか?」
姫「先ほどバカ共と貶した貴族達ですよ」
傭兵「貴族達……」
姫「……先生は、この国出身の方では無いのですね?」
傭兵「えっ? どうして分かったんだ?」
姫「もし出身なら、すぐに分かったことだからですよ」
姫「わたくしのお父さんが、何をしたのか」
姫「いつ、何をして、王に成られたのか」
姫「その結果どうして今、貴族達に疎まれ狙われる存在になっているのか」
姫「お父さんが王になったのは、つい最近のことです」
姫「まだ十年も経っておりません」
傭兵「えっ!? それにしては……」
姫「地盤がしっかりとしている、ですか?」
姫「まあ、お父さんのお父さん……つまりおじいさまから玉座を奪い取り、その地盤をそのまま利用しているのです」
姫「ですから民の皆様には正当な引継ぎにしか思われていないでしょう。ちょうどおじいさまもご病気とされていましたので」
傭兵「……されていた?」
姫「奪い取ったと言ったじゃないですか」
姫「今は、加護契約書を厳重に管理し、城の地下に死体としているはずですよ」
傭兵「……おじいさんのことなのに、淡々と話すんですね……」
姫「ええ。だって、大嫌いでしたから」
傭兵(あのお姫さまが大嫌いって……)
姫「あの人は、民衆をダメにしていました」
姫「自らの贅沢のために税率を上げ、王のために民がいると本気で信じ疑っておりませんでした」
姫「ですからわたくしは、大嫌いなのです」
姫「そんなおじいさまが、お父さんも大嫌いでした」
姫「ですから民から貪った税で贅沢をしているおじいさまに近付き、従順なフリをして親しくなり……」
姫「油断したところで誰にも気付かれることなく、お父さまはその立場を奪うための反旗を翻したのです」
姫「その結果が、今のこの国です」
姫「おじいさまに押し潰され、けれども外面だけは良かった都市は……内面も改善され始めました」
姫「民の皆様はとても喜んでいました」
姫「最初は、おじいさまの息子が跡を継いだことに不安があったようですが……裏での手回し工作と準備、さらにはおじいさまを支持して同じく甘い汁を吸っていた貴族達の中で、一際大きなものをいくつかを潰したのもあって、今では善き王として迎え入れてくれています」
傭兵「……もしかしてお姫さまが貴族達に隠し事をしているのって……」
姫「はい。今でもおじいさまを支持する、旧貴族派閥からの手から逃れるためです」
姫「お父さんがクーデターを起こした時、向こうも大層油断していたのでしょう」
姫「まさか甘い汁を吸って生きている貴族達の中から反乱分子が——それも甘い汁をばら撒いている元凶の息子から発生するとは、思ってもいなかったのでしょう」
姫「故に、こちらの家族構成も正確には把握しておりませんでした」
姫「ですから、そこを利用しようとしたのです」
姫「そのまま極力貴族達を油断させ、わたくしが狙われても、わたくし自身の手で打倒し、隙を広げられるようにと」
傭兵「魔法が使えない、戦闘も出来ないってウソも、その隙を広げるためのものってことか……」
姫「そういうことです」
傭兵(だからお姫さま自身が貴族に狙われてしまって……)
傭兵(そうなった時に王女自身が対抗できるように、王女でありながらも戦闘訓練を受けているのか……)
姫「それに、わたくしの魔法の属性は『探索』です」
傭兵「『探索』……また希少な属性ですね」
姫「はい」
傭兵「それに、戦闘にも利用できない」
傭兵「……もしかして、副作用のせいで戦闘が出来るとバレているのに、それでも表向きは隠し続けているのって……」
姫「さすが傭兵さまですね。その通りです」
姫「戦闘能力があるとバレている以上、さらに魔法が戦闘では使い物にならないという事実までバレてしまうと、魔法が使えないことを前提とした作戦を立てられてしまいます」
姫「だからこそせめて、魔法が戦闘で使い物にならないということはバレないよう、目を逸らすために今でも戦闘に関しても隠し続けているのです」
傭兵「戦闘で使えないってのがバレるだけで相当狭めてしまうからな……」
傭兵「それならいっそ全て——バレてしまっていることを知らないという体でい続け、“魔法ももしかしたら使えるかもしれない。けれども使えたとして属性が分からない”という風に持って行こうと……そういうことか」
姫「戦闘が出来ないと信じていれば油断という大きな隙が……」
姫「戦闘が出来ると分かっていれば、戦闘用の魔法も使えるだろうという体で作戦を立てようとする結果生まれる隙が……」
姫「その二段構えを意図しての、自分の身を表に出さないという行為なのです」
傭兵「なるほど……魔法を使える体で作戦を立てるなら、最も数の多い基本属性で作戦を立てるのが普通だからな……」
姫「そういった形で警戒された方が、都合良くなるかもしれませんからね」
傭兵(なるほど……だからこそのあの密室空間での副作用解除のための戦いか……)
傭兵(外で戦うときに女騎士にとって信頼できる兵で見張らせたのも、少しでも“戦闘用の魔法が使えないかも”と思わせないため、と……)
傭兵「ということは、外での魔法の実践はしないほうが良いな……」
姫「出来ればお願いします」
傭兵「……まぁでも、お姫さまの副作用を解除していたあの部屋。あそこでも魔法を使おうと思ったら使えますから」
傭兵「『探索』の属性なら、密室空間だと外にバレずに練習も出来そうですし、イザとなればあそこを使いましょう」
姫「え? ですが地面と空の下で無ければ魔法は……」
傭兵「実はあの部屋、一部だけ地面が掘りひっくり返るよう、細工がしてあるんです」
姫「えぇっ!?」
傭兵「次、お姫さまの副作用を止めることになった際のための準備ですよ」
傭兵「天井も、その地面の直線上に、小さいながら穴を開けてますし」
傭兵「……まぁ、あの空間内で破壊されることのない魔法を使っているとなると、もしかしたら勘付かれてしまうかもしれないので、あまり積極的には使えませんがね」
姫「そんな下準備を……わたくしのために……」
傭兵「また外に出して戦うのはどうも不都合っぽかったので」
傭兵「勝手に改造したのは謝りますよ。本当に」
傭兵「というわけで今回は、魔法についてどのぐらい知っているのかをお姫さまに教えてもらおうかな」
姫「あ、はいっ」
傭兵「じゃあまず、地面と空が必要なのは理解しているようですけれど、どうしてその二つが必要なのかは分かります?」
姫「魔法とは、大地のエネルギーを天へと放出する際の余波エネルギーを用いて発動させるものだからです」
傭兵「さすが。使っている以上これぐらいは分かるか」
傭兵「ちなみにそれぞれの属性が付与されて発動されるのは、そうして一度人を介しているからってのは……まぁ分かってるか」
姫「その辺は大丈夫です」
傭兵「それじゃあとりあえず今日は……『結界』の属性についてと、魔法を使用できる年齢について教えとこうか」
傭兵「専門的な魔力の磨ぎ方とか、実際に身体を動かしてもらうのは明日ってことで」
傭兵「今日は基礎知識の方を話そうか」
姫「はいっ。お願いします」
傭兵「じゃあ早速だけど、『結界』の属性についてはどれぐらい知ってる?」
姫「えと……言葉通り、何かを守る属性なのかと……」
傭兵「ま、確かにその通りなんだけど」
傭兵「そうだなぁ……属性ってのは五つの基本属性を除くと、人それぞれある程度違うのは分かるよね? 『探索』なんて希少な属性持ちなんだからさ」
姫「まあ、それぐらいなら……」
傭兵「実は五つの基本属性も含めて、人それぞれの属性が実は本質的には違っているものだって説もある」
傭兵「ほぼ瓜二つで似ているだけで、一つ一つ深く深く調べていけば、全く同じものは一つとして無いってやつね」
傭兵「ま、あくまで一説で、それが証明されてるわけじゃない」
傭兵「ただこの説と復活魔法収得術を応用して、万人を全く同じ属性に出来ないかという学術的研究がされた」
傭兵「その結果こそが『結界』の属性なんだ」
姫「え? ということはもしかして、『結界』の属性って……」
傭兵「うん。人類初の、人工的な魔法の属性ってことになる」
姫「ということはわたくしも、『探索』以外にも『結界』の属性を付与すればあるいは戦闘でも……」
傭兵「あぁ、いや。実はそれが無理なんだ」
傭兵「困ったことにこの『結界』の属性、自分の才能ともいえる既存の属性を破棄しなければ付与できないんだ」
傭兵「だからお姫さまが『結界』の属性にしようってなったら、その珍しい『探索』の属性を無くさないといけない」
姫「それは……イザ無くなるとなると、迷いますね」
傭兵「だろ? それにそれは、他の属性でも同じだ」
傭兵「戦闘に応用が利く属性っていうのは得てして、守りの魔法へと応用して使うことも出来る」
傭兵「あえて守りに特化させる必要性ってのは少ないんだ」
傭兵「そういう意味では、自分の個性を捨ててまで城を守ってくれている『結界』持ちの宮廷魔法使いさんたちってのは、かなり重宝される存在なんだよ」
姫「なるほど……」
傭兵「まぁでもお姫さまの場合、『探索』なんてのは本当に戦闘で使えそうにはないからな……」
傭兵「……ま、自己判断に任せるけれど」
傭兵「ただ俺としては、そんな珍しい属性を捨てるのは勿体無いと思うけどね」
姫「そうですか……」
姫「傭兵さまがそう仰るのなら……わたくし、このままでいてみます」
傭兵「とは言っても、俺なんて基本属性使いだからさ」
傭兵「その特別な属性について教えて上げられることなんて何一つ無いから、本当に不便利だと思ったら変えるのもアリだとは思うよ」
姫「そういえば、一つ気になったのですが……」
傭兵「ん?」
姫「基本属性というのは、火・水・土・金属・樹、の四つですよね?」
傭兵「ああ」
姫「もしかしてなのですが、神官さま等が使う復活の儀や契約死体転送法などの復活魔法収得術も、その人工的に生み出された属性の一つなのですか?」
傭兵「あ〜……いや、あれは別」
傭兵「あれは本当、一つの現象みたいなもの」
傭兵「一種の奇跡……いや、神との契約、かな」
姫「契約、ですか?」
傭兵「ん〜……方法としては、他人への奉仕の精神が神に認められればその魔法が使えるようになる、とされている」
姫「奉仕の精神……もしかして、加護契約と同じで金銭さえ積めば学べるものなのですか?」
傭兵「いや、そうじゃない」
傭兵「奉仕の精神はそういうのじゃなくて……」
姫「では、人々を無償で救うような清い魂を持った者がいつの間にか使えるようになっているのですか?」
傭兵「そんなアヤフヤな判断基準でも無い」
傭兵「アレはまぁ……これから先、自分の知る人を殺さないための契約、の結果の力なんだ」
傭兵「もしかしたら悪魔の契約に等しいかもしれない」
傭兵「なんせ、自分の肉体を走るだけで息切れしてしまう程度まで衰弱させることで使えるようになる力なんだから」
傭兵「自分の肉体を劣化させてまで、誰かを死なないようにする契約を結び、実際にその人を助けられる力を得る」
傭兵「自らを犠牲に他人を助ける。それこそが奉仕の精神。……っていう認識らしい。神様曰くね」
姫「ということは、城にいる神官長さまも……」
傭兵「ま、そういうこと」
傭兵「だから寄付とかでお金を募っているのは、その力を使って儲けたいだけの考え、ってことじゃあない」
傭兵「満足に運動もできなくなるから、せめて食べていけるだけのお金は欲しい」
傭兵「そのために徴収しているお金」
傭兵「……と、最初はなってたけど……今はどうなんだろうな……」
姫「そうだったのですか……」
傭兵「だからこれは、お姫さまは覚えない方が良いものですね」
傭兵「狙われてしまえば、本当に殺されるしかなくなりますから」
姫「確かに……そうですね」
傭兵「……ま、方法としては絶対にそうしないといけないってことも無いんですが……」
姫「そうなのですか?」
傭兵「まぁどちらにせよ、戦いばかりになるお姫さまには教えられないことなんですが」
傭兵「では次の話に移りましょうか」
傭兵「魔法を使用できる年齢について」
姫「あっ、これはわたくし調べたことがあるので分かっています」
傭兵「お、さすが」
姫「魔法を使っていく上で、魔力を磨ぐのに必要な情報でしたので」
傭兵「じゃあ、答えを」
姫「はいっ」
姫「魔法を使用できる年齢は、大地から吸い上げたエネルギーが体内を直撃しても傷つかないほどに強くなった年齢、ですよね」
傭兵「その通り」
傭兵「ちなみに、その判断はどうやってなされるかは?」
姫「身体の中にある自己防衛本能、ですよね」
姫「飛んできた物を咄嗟に避けてしまうのと同じで、自己を保身するために自然と行ってしまう本能的な行動根幹部分です」
傭兵「なるほど……これは、俺が教えることは何も無いな」
傭兵「そこまで知ってるってことは、魔力が“地面から吸い上げ天へと放出するまでのエネルギーが、体内を通る際の道なりにある柵と同じ役割”ってのも分かってるよね?」
姫「はいっ。大丈夫です」
姫「集中し、魔力を磨ぐとはつまり、体内を通る大地のエネルギーを如何に効率良く天へと送り届けるか、また体内を傷つけないように守り覆うことが出来るのか、ですよね」
傭兵「あとは余波エネルギーを自分のイメージしている使いたい魔法効果と同率のものへと変換できるか、ってのもある」
傭兵「大地からのエネルギーってのは一定量以上は吸収できない。つまり、生み出せる余波エネルギーも一定だってことだ」
傭兵「その一定量を如何に効率よく運用できるのかは、まさしく魔力の磨ぎ方に懸かってるからね」
姫「それは分かっているのですが……」
傭兵「んまぁ、確かにそんな希少属性じゃあその磨ぎ方を自分で見つけないといけない分、大変なんだろうけど」
姫「基本属性や他の属性の場合、磨ぐ上での意識の向け方などが書いてあるのですが……」
傭兵「そうだね……ま、その辺は俺も協力して、明日から一緒に模索していこうか」
姫「はいっ」
傭兵「んじゃ、今日の授業はここまでにするか」
傭兵「と言っても、本当に口頭で説明しただけで、授業も何も無かったけど」
傭兵「ま、初日だし、これぐらい短い時間で良いだろう」
姫「ありがとうございました」
傭兵「お礼を言われるほどのことはしてないって」
傭兵「っていうか後半に関してはお姫さま、自分でとっくに学んでたことだったし」
姫「……あ」
傭兵「ん?」
姫「いえ、今気付いたのですが……傭兵さま、いつの間にか敬語が取れてますよ」
傭兵「あ、確かに……すいません」
姫「あっ! 戻さないで下さいよ! せっかくお願いしていた通りになったのですから」
傭兵「あ、そっか……そうでしたね」
姫「また戻ってます!」
傭兵「ぐ……改めて意識してしまうとまた……」
姫「これは……また先生と呼ばないといけなくなりますね……」
傭兵「あ〜……! むず痒い……っ! 魔法の説明しているときは大丈夫だったのに……!」
姫「その様子ですと、授業になれば大丈夫みたいですね」
傭兵「おそらくはですが……」
姫「なら、授業を重ねていけば大丈夫ですかね」
姫「それで段々と慣れていってもらいましょうか」
姫「どうせこれからは、ほとんど毎日あるのですしね」
姫「先生」
傭兵「ぐっ……!」
傭兵「……そういえば、お姫さま」
姫「はい?」
傭兵「ほぼ毎日来ることには何の意見も無いのですが……そうすれば副作用が発症することも無いだろうと王に言われたのですが……」
姫「あぐっ……!」
傭兵「それって、どういうことですか?」
傭兵「お姫さま本人に聞いてくれと言われたのですが」
姫「そ、それは……まあ……なんと言いますか……」
傭兵「…………」
姫「ほら、その……アレですよ」
傭兵「あれ?」
姫「そう、アレです」
傭兵「……どれです?」
姫「えと……あの……んと……」
傭兵「…………」
姫「……傭兵さまと出会えたのが、加護のおかげだからです……」
傭兵「っ……!」
傭兵(くっ……! そんなに照れるなら誤魔化してくれ……! 見てるコッチが恥ずかしくなるっ!!)
傭兵(っていうかそんな理由だったのか……! こんな聞いてる方まで照れ臭くなるなら聞かなきゃ良かった……っ!!)
姫「だから……その……加護を受けたことが、もうイヤだとか……そんなことは、思わないといいますか……」
姫「むしろ加護のおかげで、傭兵さまと知り合えたと、言いますか……」
傭兵「あ、ああ〜……そうですか……」
姫「はい……そうなんです……はい」
傭兵「…………」
姫「…………」
傭兵(気まずい……!)
姫(気まずい……!)
傭兵「え、えと……んじゃあこれからは、極力授業が無い日も、来るようにしますね」
傭兵「その方が副作用を発症しないのなら、その方が良いでしょうし」
姫「っ! 本当ですかっ!?」
傭兵「え、うん……」
姫「う、嬉しいです! ありがとうございますっ!!」
傭兵「あ、ああ〜……いや〜……ははっ、うん」
傭兵「そこまで喜んでもらえるなら、良いかな」
傭兵(……こりゃ、授業が無い日のほとんどは女騎士との手合わせになりそうだな……)
傭兵(用事も無く城に来るのはさすがに気が引けるし……それぐらいの用事は作っておかないとダメだろうしな……)
姫「で、では明日の授業も! よろしくお願いしますっ!」
傭兵「あ〜……うん」
傭兵「これからよろしくね、お姫さま」
〜〜〜〜〜〜
そうして、わたくしの新たな生活が始まりました。
知っていたことを知らないフリして授業を受けていた日々から、本当に知らないことを教えてもらう日々に。
悩んでいた魔力の磨ぎ澄まし方について一緒に考え、実践し、扱い辛かった魔法を扱えるようにしたり。
それはとても、充実した毎日でした。
時には、女騎士さんと傭兵さんの取り合いになったりもしましたが、それもまた思い出の一つです。
その七日間は、わたくしにとって、とても輝いたものでした。
男さまのことを好きだった頃抱いていたあの輝きが、また戻ってきたようでした。
男さま自身が濁らせ曇らせ真っ暗にしたあの輝きが……また……。
……ただ、それを意識してしまう度に、思ってしまうのです。
わたくしはただ男さまの代わりに、傭兵さまを利用しているだけなのではと。
自らの傷を癒すために、傭兵さまを傍にいさせているだけなのではと。
好きだった人を上塗りするために、傭兵さまを見ているだけなのではと。
そう、悩んでいました。
ただそれは……すぐさま解消されるのですが。
悲しいことに。
嬉しいことに。
わたくしは、傭兵さまでないといけないことを、知ることになるのです。
八日目……傭兵さまが、やってこなくなりました。
そしてさらに、五日経った、今日……。
あっさりと捨てることが出来た男さまへの気持ちとは違い、傭兵さまだけは……この気持ちを捨てることが出来ないことに、わたくしは気付けたのです。
気持ちはただ、募るだけで……悲しさだけが、心の中に広がって……。
いなくなって、こなくなって……ようやく、初めて……知ったのでした。自分の気持ちが、傭兵さま一人に向いていることに。
今日はここまでにします
明日はまた投下が出来ない…! リアルが憎らしい…!!
ただ明後日に予定通りに投下を始められれば第三部を終わらせられそうな予感
再開します
第三部終わりまでいけたらいいな
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
城内
◇ ◇ ◇
姫「今日で五日目」
姫「傭兵さまが来なくなって、かなり経の時間が経ったような気がしてしまいます……」
女騎士「そうだねぇ」
姫「……わたくし、何か気に障るようなことでもしてしまったのでしょうか?」
女騎士「いや〜……それはないでしょう」
女騎士「あるとしたらボクじゃないかな? なんとなくだけど」
姫「……明るく言ってますけど女騎士さん、結構ヘコんでます?」
女騎士「ボクだったんだ、って確定した瞬間に倒れられる自信がある程度には」
姫「はぁ……どうしてなんでしょうか……」
女騎士「結構キツく当たってたような気もするしなぁ……ボクの場合」
女騎士「嫌われてても仕方ないかも」
姫「はぁ……」
女騎士「はぁ……」
姫「…………」
女騎士「…………」
女騎士「……よしっ、決めた」
姫「え?」
女騎士「ちょっと本人に直接確かめてくる」
女騎士「今日ちょうど非番だし」
姫「あ、それならわたくしもっ!」
女騎士「一国の王女がなに言ってるの」
姫「わ、わたくしの魔法があればすぐに居場所が分かりますよ!?」
女騎士「そんな目立つ使い方しちゃいけない代物でしょうに……」
女騎士「それにボク、傭兵の家一度行ったから知ってるし」
姫「えっ!? 一度行ったってどういうことですかっ!?」
女騎士「……姫さんを攫ったのが傭兵だと勘違いしたときに……押しかける形で……」
姫「……なんだか……ごめんなさい」
女騎士「謝らないで!」
姫「勝手にロマンチックな出来事があったのだと勘違いしてました……」
女騎士「ボクだってその方が良かったよ!」
女騎士「ともかく、家を知ってるんだから、行って確かめてくるよ」
姫「そうですね。行きましょう」
女騎士「いやだから姫さんは城にいてって」
姫「傭兵さまが来ない城の中なんていても仕方ありません」
女騎士「魔力を磨ぐ練習でもしてなよ」
女騎士「せっかく傭兵と一緒に掴みかけたコツを掴まないと」
姫「そのためにも本人が必要ですよね」
姫「さあ。行きましょうか」
女騎士「いやだからダメだって」
姫「どうしてですかっ!?」
女騎士「王女だからだよっ!」
女騎士「お願いだから自分の立場を理解してよ……頼むから」
姫「自分の立場……」
姫「……分かりました」
姫「では王女らしく、大勢の兵を引き連れて行きましょう」
女騎士「おいっ!」
姫「それなら危なくないですし……いいじゃないですか」
女騎士「いやよくないよっ!?」
女騎士「民家訪れるのに護衛として軍勢を連れて行くなんてしたら悪目立ちしすぎるから!」
姫「それでは数人見繕って……」
女騎士「そもそも姫さんより強い兵がいないんだからさ、数が少なくなったら本当に必要ないよね?」
姫「それならやはり女騎士さんがわたくしを連れて行くしかないですね」
女騎士「……ああもう! ちょっとメイドさんに話してくる」
姫「お願いします♪」
女騎士「……いややっぱり姫さん自身で言って来て」
姫「えっ?」
女騎士「ボクが説教されたら腑に落ちない」
女騎士「自分のことなんだから自分で」
姫「……そうですね」
姫「これはわたくしの我侭……」
女騎士「あ、自覚あったんだ」
姫「……ごほん!」
姫「ともかく、わたくし自身の問題です」
姫「ならば、わたくし自身がおねえちゃんを説得してみせましょうっ!」
〜〜〜〜〜〜
姫「まさか一時間も時間を食うことになるとは……」
女騎士「っていうかなんでボクまで……」
姫「わたくしをお姉ちゃんに押し付けて一人で行こうとするからですよ」
女騎士「巻き込まれた……!」
姫「しかしその甲斐あって、了承は得ましたから」
女騎士「神官長に定期的に復活の儀をお願いしておく手配と」
女騎士「姫さんの武器とボクの武器の帯剣許可申請書」
女騎士「そのおかげでさらに時間を食ったけどね」
姫「ですが今から出発してもまだ日は沈みませんし」
女騎士「説教と書類の準備で日が暮れたら笑い話そのままだよ……」
姫「では、向かいましょうか!」
女騎士「軽く変装して行かないといけないからもうちょっとだけ無理」
姫「ぐ……」
女騎士「それに、お忍びだから馬を借りれないし、歩きやすい格好して行かないとね」
姫「……なんだか、面倒なことが多いですね」
女騎士「じゃあ止めます?」
女騎士「姫さんが止めてくれるならボク一人ですぐに向かえるんだけど」
姫「何を言っているのですか! 早く変装しますよっ!」
女騎士「ですよね〜」
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
傭兵の家
◇ ◇ ◇
コンコン
傭兵「はい?」
女騎士「傭兵。ボクだ」
傭兵「……女騎士か」
女騎士「ここを開けてくれないか?」
傭兵「……なんだ? 無断欠勤が長過ぎて解雇通告にでも来たのか?」
女騎士「その辺の事情を聞くためにわざわざ休みの日の時間を割いてやってきてやったんだ」
女騎士「騎士長様が直々にな」
傭兵「そうか……分かった」
ガチャ
姫「…………」
傭兵「……ん?」
姫「お久しぶりです、傭兵さま」
傭兵「……って、えっ!? お姫さまっ!?」
女騎士「というわけで、事情はこの子に教えてやってくれ」
女騎士「休みの日でお忍びとは言え王女を連れてきたんだ。ボクは外を見張ってるよ」
女騎士「ここは正直、あまり治安のいい場所では無いからね」
女騎士「それじゃあ姫さん、ボクの代わりに頼んだよ」
キィ…
…パタン
傭兵「…………」
姫「…………」キョロキョロ
傭兵「……あ〜……その……」
姫「キレイにしてらっしゃいますね。このお部屋」
傭兵「……そりゃどうも」
傭兵「とは言っても、魔法の練習をしているあの場所よりも狭い家ですけれどね」
傭兵「っていうか、もっと広い客間に案内しろ、とか言わないんですか?」
姫「そこまで鳥篭の中の鳥になってるつもりはありませんよ」
姫「わたくしとて、これでも王女なのですから」
傭兵「でも、その王女が来る場所じゃないですよ、この家は。とてもじゃないですけど」
傭兵「……どうして来たんですか? わざわざ変装までして」
姫「似合いますか?」
傭兵「そうですね……髪を隠して修道女のような格好をするだけで、割りと見間違いますね」
傭兵「声を聞いていないと気付けませんでした」
姫「似合っているかどうかを聞いたのですが……もういいです」
傭兵「?」
傭兵「それで、どうして来たんですか?」
姫「生徒が、やってこない先生を心配したらいけませんか?」
傭兵「とんでもない空気感染率を誇る病気を患ってたりしたら、大変じゃないですか」
姫「その場合は、先程女騎士さんが来た時から家を開けなかったでしょう?」
姫「傭兵さんがそれぐらいの良識を持っていることぐらい分かっています」
傭兵「……そうですか……」
姫「……いつの間にか、また敬語に戻ってしまってますね」
傭兵「あっ」
姫「ま、態度がよそよそしくないので、そのままでも良いです」
姫「それとも……前までのように話したくないほど、わたくしのことが嫌いになりましたか?」
姫「その態度も全て、傭兵さまが嫌うようなことをしたわたくしを庇うための、優しい傭兵さまの残酷な所業なのでしょうか?」
傭兵「……違いますよ」
傭兵「俺は、お姫さまを嫌ってなんていません」
姫「……そうですか……」
姫「……………………」
姫「……はあぁ〜……」
傭兵「え?」
姫「ああ、いえ。ちょっと、安心しまして」
姫「本当に嫌われていたらどうしようかと、これでも真剣に悩んでいたんです」
姫「訊ねる時だってかなり緊張しましたし……」
傭兵「……俺が嘘を吐いているとは?」
姫「傭兵さまが相手の時は、わたくしにとって都合の良いことは裏があるかもと疑わないようにしてします」
姫「まして、そうやって訊ね返してくるときは絶対に違うだろうとも知っています」
姫「それが傭兵さまで、それが傭兵さまとの付き合い方だと思っておりますので」
傭兵「…………」
姫「……では、改めてお訊ねいたします」
姫「傭兵さまはどうして、お城に来てくれないのですか?」
傭兵「……行けないんですよ、俺。あの城に」
姫「それは……どういうことですか?」
姫「……道を忘れてしまったとか?」
傭兵「いやさすがにソレは……」
姫「では、どういうことですか?」
姫「ちゃんと納得にいく説明をしていただかないと、今日は帰れません」
傭兵「……時期に陽が沈みますよ?」
姫「それでもです」
傭兵「…………」
姫「…………」
傭兵「……分かりました」
傭兵「俺が城にいけない理由……それは、何度も何度も、殺されているからです」
姫「……えっ?」
姫「それは……どういうことですか?」
傭兵「そのままの意味ですよ」
傭兵「城に向かおうとしたら殺されてしまう」
傭兵「だから城へと行けない。それだけです」
姫「それだけって……どうして傭兵さまが殺されなくちゃいけないんですかっ!?」
傭兵「俺が幸せなのが許せないんだよ。彼にとってはね」
傭兵「そう思われないよう城に住まずに家に帰っていたのに……わざわざ自殺までして自作自演していたんだけど、全部無駄でした」
姫「自作自演って……」
傭兵「毎日お姫さまの副作用解除のために殺されている、ってフリをしてたんですよ」
傭兵「彼は俺がその依頼を請けたのを知っている。それで苦しんでいるよう見せかけていた」
傭兵「そうでもしておかないと、城に仕えることが出来なさそうだったんで」
姫「……そこまでして、毎日来てくれていたんですか……?」
傭兵「うん。俺自身、俺が不幸で無いといけないとも思ってましたし、少なくともそう思われるようにならないといけないと思ってましたけれど……」
傭兵「それでも、お姫さまに慕われ、女騎士に気を遣ってもらうのは嬉しかったんです」
傭兵「そうして幸福を維持しようと偽り、うつつを抜かしていた結果がバレてしまって、このザマです」
傭兵「彼にバレた以上、せめて城に辞めることだけでも伝えに行こうとも思ったのですが……それすらも許されませんでした」
傭兵「もし城に着いて辞める旨を話せば、辞めないで欲しいと止められる幸福があるだろうと言われました」
傭兵「だから俺に相応しいのは、皆にバレることなく、いつの間にかココを去ること……それが彼の考えです」
傭兵「……現在、そうなるよう手を尽くされているはずです」
傭兵「たぶん、今日にはもう……」
姫「そんな……どうして!? どうして傭兵さまが不幸で無いといけないんですかっ!?」
姫「いえそれよりも……そんなことをしてくる輩は誰なのですかっ!?」
姫「なんならわたくしと女騎士さんの二人でその人を倒してしまえば……それで……!」
傭兵「……倒せば、か……」
傭兵「まぁ確かに、俺が勝てないからって、二人が勝てないとは言わないです」
傭兵「これでも俺だって、せめて伝えるだけのことはしないとと必至に抵抗はしたんですけど……分かっていたことでしたが、勝てませんでした」
傭兵「ま、そもそも一対一じゃあ弱い俺じゃ手も足も出ないのは、戦う前から分かりきってましたが」
傭兵「それでもやっぱり、万が一ということも考えたんですが……」
姫「だから……それは誰なのですかっ!?」
傭兵「……昔、俺が勇者候補者だった頃、三人で旅をしていたと話をしたのを、覚えてくれていますか?」
姫「……もしかして……!」
傭兵「そう。……その頃の一人が、俺を殺している相手です」
姫「そんな……! 昔の仲間だった人が……っ!?」
傭兵「ま、理由は分かってますよ。俺自身のことですから」
傭兵「むしろ、俺が不幸でないといけないのは当然の報いだとも、思ってます」
姫「……なにがあったのか……話していただけますか?」
傭兵「……そんなに難しい話じゃないです」
傭兵「俺がソイツの大好きで大切なものを奪った」
姫「大好きで、大切な……」
傭兵「俺とソイツが二人になった原因が、俺なだけ」
傭兵「俺が……もう一人の仲間を、殺した」
傭兵「それだけです」
姫「っ」
傭兵「ソイツが好きだった……もう一人の、幼馴染を……」
姫「……え? 殺して……? 殺してって……どうやって、ですか……?」
姫「だって、勇者候補者になっていたということは、さすがに加護を受けていたのでしょう? それなのに死ぬはずが……」
傭兵「病気であれ毒であれ、加護を受けていたら、一度死ねば治療される」
傭兵「でもそれはあくまで、後々付加された場合のみ」
傭兵「生まれつき身体が弱かったり、加護を受ける前から病気が体内に潜伏していたりしたら……加護ではどうすることも出来ない」
傭兵「……いや、生かしていくことは出来る」
傭兵「苦しみの中生きて、果てて死ねば蘇らせてもらって……そしてまた苦しみの中に生き続ける……」
傭兵「それを繰り返していけるのなら、生きていくこと“だけ”は出来る」
傭兵「ただ俺は、ソレを見ていくことが……耐えられなかった」
傭兵「……教会でも、基本的に加護を取り消すことは出来ない」
傭兵「だがそうした事情があった場合のみ、二度と復活の儀を行わないよう約束してもらうことは出来る」
傭兵「加護契約書を破り捨て、他の教会での復活をさせないようにし……その教会に転送されてきた死体に対し、蘇りの魔法をかけないようにしてくれることがね」
姫「加護契約書がなくなっても、最後に契約書を置いた教会施設での蘇りは可能……」
傭兵「そう。それすらも禁じてくれる方法」
傭兵「封印指定、とも呼ばれている」
傭兵「俺はそれを、アイツに内緒で執り行ってもらったんだ」
傭兵「もちろん封印指定には、封印される本人の契約も必要となる。もちろん彼女は契約した」
傭兵「そして……苦しんでいるあの子の心臓に、俺が刃を刺して、最後の殺しを行った」
姫「…………」
傭兵「……アイツ、彼女のためにさ、自分も神官になろうとしててさ……」
傭兵「でも神官になったら、身体が衰弱するから旅には出られないだろ?」
傭兵「だから、転送の法と加護契約の儀は無理でも、復活の儀だけでも出来て、身体が動けば良いってことで……必至にその方法を模索してたんだ」
傭兵「それが出来るようになって帰ってきたら……俺が彼女を、殺してた」
傭兵「二度と蘇らない形で」
姫「……っ」
傭兵「……分かるだろ? 俺は、アイツが好きな人のためにしてきた努力を、全てフイにしたんだ」
傭兵「きっと血の滲む努力をしたんだろう」
傭兵「実際に、利き腕が動かないようになったけれど、それでも身体能力は衰えることなく、復活の儀は出来るようになっていた」
傭兵「彼女のためだけにそこまでのことをして……彼女とずっと一緒にいたいからと足掻いて見つけて手繰り寄せたソレを……俺が、切り捨てた」
傭兵「だから俺は、不幸でないといけない」
傭兵「それがアイツの望みだから」
傭兵「俺が不幸で、何度も死んで、それをアイツが蘇らせる」
傭兵「苦しんでいる俺を見て、復讐心が満たされる」
傭兵「自分の愛した人を殺した人間」
傭兵「幼馴染を殺して平然と生きている人間」
傭兵「努力をフイにしておいて生きている俺を苦しめ、辛い想いをさせる」
傭兵「それがアイツの望みだ」
傭兵「にも関わらず……俺は他人が見ても幸せな分類な目に遭っていた」
傭兵「自分の愛する人を殺して幸せを謳歌している」
傭兵「そんなこと、許されるはずが無い」
傭兵「他人を不幸のどん底に突き落としておいて自分だけ幸せになるだなんてあり得ない」
傭兵「許されない」
傭兵「だから俺は……ここから離されるんだよ」
姫「そんな……! でもそれは、そのもう一人のお仲間が望んだことっ!」
姫「傭兵さまはそれを叶えただけではありませんかっ!!」
姫「それなのに……! 傭兵さまは! それで良いのですかっ!?」
傭兵「良いも何も……アイツに復讐されることを——恨まれることを覚悟していたのさ、俺は」
傭兵「いや……違うな」
傭兵「復讐心でもなければ、アイツが生きていく希望が無いだろうことは、あの子を殺す前から分かっていた」
傭兵「アイツにとってあの子は……人生そのものだったからな」
傭兵「ソレを殺すんだ……だったら、代わりのものを用意するのは、幼馴染として当たり前だ」
傭兵「ならどうしてやれるのか? ……俺が考え付くのは、これしかなかった」
傭兵「俺の不幸で惨めで苦しんでいる姿を、見せ続けてやることしかな」
姫「そんな……!」
傭兵「……俺にとって、アイツは大切な親友だ」
傭兵「一緒の村で育った、唯一になった大事な幼馴染だ」
傭兵「だから、アイツを生かしておいてやりたい」
傭兵「殺したくない」
傭兵「死にたいと願いながらの一生を迎えさせたくない」
傭兵「だから俺は……これでも、こんな人生でも、楽しく生きていけてるんだ」
傭兵「俺が不幸であることで、アイツが生きてくれている」
傭兵「それだけで俺は……十分だったんだ」
傭兵「……お姫さまや女騎士みたいに、傍に誰かがいてくれることを望んじゃ、いけなかったんだ」
姫「っ……!」
傭兵「俺たちは三人とも、互いが互いのことを信用し、信頼していた」
傭兵「俺はあの子が苦しんでいるのを見ているだけで苦しかったけれど……それでも、アイツならなんとかしてくれるんじゃないかと思っていた。信じていた」
傭兵「でも、あの子に殺してくれと頼まれた時、“あぁ、苦しんでいるのは俺だけじゃなかったんだな……”って思った」
傭兵「俺以上にコイツは、苦しんでいるんだなって思った」
傭兵「だから、殺したんだ」
傭兵「信用し、信頼しているからこそ、あの子は俺に殺すのを頼んできて……」
傭兵「信用し、信頼されているからこそ、俺はあの子を殺さないといけないと思った」
傭兵「その後を……アイツを助け、支えられることを、信じられている、俺だからこそ……俺がやらないといけないと思った」
傭兵「でも……だからって、“ごめんね”はないよなぁ……」
傭兵「何が“卑怯なことを言って”だよ……そんな言葉、聞きたくなかったよ……」
傭兵「“ありがとう”って……言ってくれてたら……もっと……俺は……!」
姫「傭兵さま……」
傭兵「……いや、ごめん」
姫「……傭兵さまは、その方のことが、好きだったのですか?」
傭兵「幼馴染としては、ね」
傭兵「俺からしてみれば、ずっと傍にいた人を……姉のように慕っていた人を好きになる方が、無理だった」
傭兵「アイツはそれが可能で、あの子もそれが出来た」
傭兵「でも……結局アイツ、死ぬまであの子に気持ちを打ち明けてなくてさ……」
傭兵「本当……止めてくれよ……」
傭兵「あんなに露骨に、二人とも互いに好きなのが分かってたのに……本当……とっくに気持ちを打ち明けあってるのかと思ってたよ」
傭兵「……謝られた時にさ、なんとなく、まだ互いに告白して無いことが分かって……本当、辛かった……あの時が。人生で一番」
姫「…………」
その時わたくしは、なんとなく、傭兵さまが言っていた「子供を守り助けるのが大人の役目だ」の言葉の裏側が、見えた気がしました。
コレは正に、茨の道。
つまり彼の望む、不幸そのものです。
そもそも、ソレを教え・態度で示してくれていたという村の方々。
彼等のソレはおそらく、決して一人ではなく、村の人全員が子供を守ると言う、いわば「次世代への投資」的な意味合いがあったように思えます。
いわば、村全てが家族、のような考えです。
ですが傭兵さまの行いは、一人で全てを守ろうという、自己犠牲を伴う、歩くだけで傷つく茨の道。
茨を切り開く己の手だけを傷つけて、他人のための道を開いていく。
同胞を伴わない、己を傷つけ苦しめながら他人のために頑張るという、自己犠牲精神だけの行動そのもの。
なぜそのような道を進めるのか……村の人に教えてもらっていたから、では、どうにも腑に落ちませんでした。
ですが結局のところ、その幼馴染に、自分が本当に苦しんでいるところを見せたいからこそ、進めていたのでしょう。
進めば進むほど傷つく茨の道……それはまさに、その幼馴染の復讐心を満たすのに、ちょうど良かったのだと思います。
共通の幼馴染を殺した自分に復讐したい件の彼は、傭兵さまを苦しめたいと思っている。
その彼の気持ちが傭兵さまには理解できる。
そして、そう思われ・その想いを背負うことを、覚悟している。
だから苦しんでいる共通の幼馴染を殺したその時から、こうして辛い道を進まないといけないという想いが、その根幹に生まれたのでしょう。
そしてそのせいで、誰かに褒められたり功績を讃えられようとも、自分にはそれだけの力は無い、と強く否定してしまっている。
何かを疑われても「当然だ」「仕方が無い」とすぐに受け入れてしまっている。
その冤罪の結果どんな酷いことをされようとも、仕返しをしようと思えなくなってしまっている。
何故なら、罪を犯していないのに疑われるのは辛いことで、だからこれで幼馴染の復讐心を満たすことが出来ると、考えてしまっているからです。
だから彼の本音を明かすのなら……「子供を守り助けるのが大人の役目だ」……ではないのです。
「子供を守り助けるのを名目にし行動を起こすから、俺を次々と苦しめ不幸にしてくれ」
……おそらくは、そんなところになるでしょう。
……と不意に——
バァンッ!
——という轟音が鳴り響きました。
椅子に座り話を聞いていたわたくしは、大きく飛び上がり、構えながら、その音が鳴ったドアの方へと視線を向けます。
そこに立っていたのは……町にある民間用教会の神官服を着崩した、無精ひげを生やした男の方でした。
「…………」
その男の方は無言で、傭兵さまとわたくしを見た後、納得したように大きな舌打ちをしました。
「……やっぱりテメェは……こんなに幸福になってるじゃねぇか……!」
その言葉で、分かりました。
傭兵さまを殺しているのは、彼だと言うことが。
緊張感が身体を支配します。
「神官……」
「やっぱりもう、この街にお前は置けねぇな……思っていた通りだ……こうして心配して、城の使いがやってくるほどなんだからよぉ!!」
怒号が家を震わせます。
ですが、身体を震わせるわけにはいきません。
戦いは、既に始まっているのですから。
腰に差していた剣に手を掛けます。
わたくしの身長に比べれば大きなソレはしかし、この室内で使う分には不利にはなり得ない大きさのものでした。
「……分かってる。神官。もう事情は全て話した。これで俺がしたかったことは終わった」
「お前ももう、神官職を辞める手続きを済ましてきたんだろ? だったら……街を出よう」
「なっ……!」
その言葉に驚いたのは、わたくしでした。
「ど、どうしてそうなるのですか傭兵さま!」
「どうしても何も、ここで争ったところで、お姫さまを傷つけるだけだから」
その顔は、諦めたようなものではありません。
ただ現実を受け入れている、それが当然の流れだったとばかりなものでした。
別れる事に悲しみも何も無い……その態度に少しだけ、胸がチクりと痛みました。
それでも……ご本人が望んでいなかったとしても……わたくしは……!
「そんなことはありません! わたくしがあの人よりも強いと証明して見せます!」
「そうすれば! あの方が傭兵さまを不幸にしようとしていても! あなたを守れますっ!!」
「……俺は、俺自身が不幸であることを望んでいる。だから——」
「だったら! それすらもわたくしの強さで捩じ伏せます!」
「わたくしが彼よりも強ければ、傭兵さまよりも強いと言うことになります!」
「その恐怖で! あなたが不幸であり続けようとするのを、否定しますっ!!」
「——…………」
「……随分勝手なこと言うじゃねぇか、おい……」
「お前みたいなガキが俺を倒す? 倒せるのかオイ」
「倒してみせますっ!」
「へっ……そういや、外にいたあのちっせぇ女。あれはお前の仲間か?」
「え?」
その言葉で、今更ながらに思い出しました。
女騎士さんが、外で見張ってくれていたことを。
「お前……あの女より強いのか?」
「もし弱いんなら……お前、勝てないぞ」
その言葉の後、改めて……その男の足元……その後ろを見てみれば……そこには、血の跡がありました。
「っ……!」
これには、言葉を失いました。
女騎士さんが……負けた……?
そう、受け入れられない自分がいました。
ですが、あの出血量は……間違いなく……。
「で、どうなんだ?」
「…………」
言葉を返せませんでした。
そう……わたくしは思ってしまっていました。
この人には、勝てないと。
女騎士さんに勝った人を相手に……わたくしが勝てるはずが無いと。
その弱気な心はすぐに打ち払いましたが……もう遅いです。
その動揺は、すぐに敵に気取られてしまいました。
「へっ、分かったら大人しくしてるんだな」
「だったらま、殺さないでおいてやるよ」
「そう言われて……大人しく引き下がれますかっ!」
剣を抜いて、構えます。
恐怖を吹き飛ばすために声を荒げながら。
女騎士さんに教えてもらっていた戦い方。
傭兵さまを打倒した剣の腕。
その全てをぶつけるつもりです。
……そう。女騎士さんとは違い、ここは室内。
となれば、相手にとって不利になる得物を相手が持っている可能性があります。
そのことに気付かせないために、あんなことを言って動揺を誘い、わたくしに戦いを諦めさせるつもりなのかもしれません。
ですから、まだ勝てる可能性はあります。
戦って、勝って、傭兵さまを——
「っ!!!!!!」
——そこで、わたくしの思考は途切れました。
彼がその場で、腕を下から上へと振り上げた瞬間……視界が突然真っ暗になって——
——何をされたのか分かる間もなく、殺されてしまいました。
気がつけば、城の中の教会。
女騎士さんと一緒に転送され、一緒に目覚めさせられ……心配し、事情を聞いてきたお姉ちゃんを置いて、わたくしと女騎士さんの二人は、急いで馬を走らせました。
お忍びも何も、頭から抜け落ちていました。
ただ今は、傭兵さまの家へと急いで向かっていました。
とっくに、夕陽が差し込む時間になっていることすら気付かずに、一心不乱に。
しかし……彼の家に着いたときにはもう……傭兵さまも、あの男も、いませんでした。
わたくし達は負け……傭兵さまはこの街から、いなくなりました。
第三部・終了
というわけで第三部終わり
明日はちょっと四部書き溜めるから止めとく
また明後日でお願いします
再開しまっす
第四部は加速度的に早い
理由はもう起承転結でいうと「結」だからって理由が二割
残り八割がゴールデンウィークまでに終わらせないと投下出来なくなるからです
だからって手抜きってつもりはないです。はい
〜〜〜〜〜〜
三年後
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
田舎の村
傭兵の家
◇ ◇ ◇
傭兵「さて……と……」
傭兵(随分この村にも慣れたけど……やっぱ物足りないな……)
傭兵(ずっと農作業と一人訓練ばっかってのもな……さすがに)
傭兵(つい最近税を増やそうとした貴族を神官と一緒に脅しに行ったときは久しぶりに楽しかったな……)
傭兵(……なんだかんだで俺、弱いくせに戦うのが好きなんだな……)
傭兵(……ま、腕が錆び付いて無くて良かったと思うしかないか)
傭兵(……こんなことならまた東の大陸に行って、勇者候補者として復活すればいいのに……)
少年「おじちゃん!」
傭兵「おっ」
少年「きょうも剣のけいこつけてくれるのっ?」
傭兵「ああ、そうだな……」
傭兵「……ま、今日も特に作業が大変でも無いし、やってやるよ」
少年「やったぁ!」
傭兵(剣の稽古……か……)
傭兵(俺みたいなのでも教えられることがあるとはな……)
傭兵「…………」
傭兵(でも……そろそろ辞めないとな……)
傭兵(この前の貴族への脅しのせいで、俺も神官も、村の人から避けられるようになっちまったし……)
傭兵(ここじゃあ争いも無いから神官がいてもありがたいと思われないのも大きい)
傭兵(そろそろ村を離れるべきかと話している以上、この子をあまり俺たち二人に近づけないようにしていかないとな)
少年「?」
少年「どうしたの? おじちゃん」
傭兵「……いや。なんでも」
傭兵「ただお前も、そろそろ一人前かな、って思って」
少年「えっ!?」
傭兵「俺がこれ以上剣術を教えると、変な癖をつけてしまうかもしれないからな」
傭兵「俺の戦い方は、俺にしか出来ないぐらい“おかしい”ってのは最初に話しただろ?」
傭兵「だから誰しもが歩く基本しか、教えられないんだよ」
傭兵「で、お前はそろそろソレを終えようとしている。だからな」
少年「どういうこと? おじちゃん、ここからいなくなるのっ?」
傭兵「いや、いなくはならないよ」
傭兵(すぐには、な……)
少年「じゃあどういうこと!? ボク、分からないよっ!」
傭兵「そうだな……そうだよな……どう説明したもんかな……」
??「もし」
傭兵「ん?」
??「傭兵さま、でいらっしゃいますね」
傭兵「……ああ」
傭兵(誰だ……? 黒いローブを羽織った……全身鎧……?)
傭兵(……まさか……!)
傭兵「……ちょっと待ってくれ」
??「どうぞ」
傭兵「少年、お母さん達のところに行ってるんだ」
少年「えっ?」
傭兵「……もしかしたら今日は、もう訓練をつけてやれないかもしれない」
少年「そんな……! ねえどうして!? ねぇっ!」
傭兵「それは……また会えたら、答えるよ」
少年「っ!」
少年「そんな! そんなの、もう会えないみたいじゃ——」
傭兵「聞け」
少年「っ!」
傭兵「……いいか? ちゃんと、お母さんのお手伝いをするんだぞ」
傭兵「強くなりたかったら、教えたことを復習して……そして、俺じゃない強い人を見つけろ」
傭兵「その人に弟子入りをしろ」
傭兵「それが……一番早く、強くなる道だ」
少年「……おじちゃん……」
傭兵「俺が教えられることはもう、無くなったんだ」
傭兵「卒業、おめでとう」
傭兵「お前はもう、立派な剣士への一歩を踏み出したんだ」
傭兵「俺に認められたこと、誇りに思え」
傭兵「その思いと共に、強くなれ」
少年「……うん……!」
〜〜〜〜〜〜
傭兵「……さて」
傭兵「これで、あの子は巻き込まないでくれるんだろ?」
??「…………」
傭兵「……だんまり、か」
傭兵(大方、この前脅しをかけた貴族の差し金だろう)
傭兵「で、なんの用だ?」
??「あなたを……不幸にするものですよ……」スッ
ザッ、ザッ
傭兵「っ……!」
傭兵(人の気配が森の中からするかと思っていたが……まさか、村側にまでいたとはな……)
傭兵(……囲まれていた、か……)
そのことを理解すると同時、腰に差しておいた中剣を二本共、抜く。
相手の総数は目の前に立つ全身鎧を含めて十一人。
今までのように一本を操り一本を予備にしている戦い方では無理だ。
右手に順手で一本。
そして……同じく右手に、逆手で一本。
左手は魔法を精度良く扱えるよう空手。
周囲にいる人間は鎧を纏っているのかどうか分からない。
全身覆う黒ローブの奥がどうなっているのかまでは見えない。
だからこそ、剣だけではダメージを与えられないことを前提にしなければならない。
それ故の、魔法主体の戦い方だ。
そう……足からのエネルギー吸収でも、精度を上げて魔法を使えるように特訓し、可能となったこの戦闘方法。
片手空手の二刀流。
その、珍しい構えが意外だったのか——
「…………」
——声をかけてきた全身鎧が、黙したまま俺を見ていた。
この隙に仕掛けるか……?
そう算段を立て、実行に移そうとしたその時、相手が先に動いた。
「行けっ!」
号令一家。
単純な一言の命令を下すと同時、当の本人は後ろに飛び退き俺と距離を取る。
そして周囲を囲っていた十人が、一斉に襲い掛かってきた。
……俺はその姿を一度、全て視界に収めた後……足を振り上げ地面を鳴らす。
大地から吸い上げたエネルギーを、天へと掲げた左手から放出する。
余波エネルギーを精度良く体内に残し、実行したい魔法をイメージ。
そして、余波エネルギーを解放。
俺を中心として、水の刃が広がるように放たれた。
……この敵は必ずしも、殺さない方がいいということはない。
こうして一斉に襲いかかれるタイミングなんて早々作り出せない以上、次来るとなってもだいぶ間が開くことだろう。
それに……だ。
何度も来てもらった方が、こちらの暇つぶしにもなる。
段々と人数を増やしてくれるのなら尚更だ。
どうせ俺が殺されたところで神官が復活させてくれるし、拷問されてしまったとしても、俺の苦しむ姿を見るために神官が駆けつけてくれる。
だからこのまま、敵を殺してしまっても問題が無かった。
放たれたこの高水圧の水の刃は、そのまま敵を真っ二つにする。
……はずだった。
どういうわけか、一斉にコチラへと駆け出していた中の一人がその場にしゃがみ込み、地面を叩いて反対側の手を天へと掲げていた。
その魔法動作。
それによって俺の魔法が全て、敵に当たる直前で防がれてしまった。
……『結界』の魔法……!
見えない壁に当たると同時、ただの水になったかのように、ただ相手のローブを塗らしただけに終わってしまった。
「っ!」
驚きを隠せた自信は無い。
そう……まるでこちらが『水』属性の魔法を使うのが分かっていたようなその対応……。
……いやそれ以上に、“こうして一斉に襲い掛かれば俺が魔法を使って対抗してくる”ことを知っていたようだった。
……やはり、前回襲った貴族の差し金なのだろう。
それ故の情報能力で対抗してきている。
前に戦った時の俺の情報を分析し、戦術として組み込んで挑んできた……。
これは、相当に厄介な敵になる。
……が、勝てないということは無い。
何故なら敵の数が、これだけいるのだから。
いればいるほど強くなる俺だからこそ、まだまだこれだけでは負ける要素にはなり得ない。
戦い方? 戦術? 弱点?
……その全ては、俺が長年かけて身に付けたものだ。
一瞬で敵全ての戦い方を見抜き、隙を作り出す戦術を組み立て、弱点を作り上げる。
ソレを行ってきた俺が……負けるわけが無い。
単純な戦闘能力では弱い俺でも……これだけは弱いと、認めるわけにはいかなかった。
だから負けるわけが無いと、自分の中で言い聞かせた。
得物を抜いて襲い掛かってくる敵。
その手には王国正式採用の剣。
貴族が雇っている傭兵ではなく、貴族が呼び寄せたお抱えの兵士なのだろう。
だからこその、リズムの違う完璧な連携攻撃。
互いの隙を埋めるよう訓練された、四方八方からの連続攻撃。
何人かは俺に近付くことなく散らばり魔法攻撃に専念する、その役割分担。
それを認識しながら、まずは近付いてきた敵からの攻撃に対処する。
全てを躱し、順手に持った中剣で受け止め、逸らし、逸らした先で攻撃の邪魔になるようにし、しゃがみ、避けていく。
だがさすがにこれだけでは限界が来る。
このままだと魔法による攻撃も来るだろう。
だからこちらも魔法を発動する。
しゃがんだ拍子に左手で地面を叩き、発動。
空手の左掌の中に、高圧縮の水球を作り出す。
そうしてしゃがんだ俺に背後から攻撃をしようとしてくる敵に向け、逆手に持った中剣を投げて牽制。
だが当然のように、その単調な攻撃は避けられる。
しかし避けられるのとほぼ同時、足を軽く鳴らして左手の中にある水球を操作。
そこから水の鞭を作り出し、避けられたナイフを掴ませ、投げ返させる。
「っ!」
後ろからの攻撃なのに、驚きながらもその攻撃をしっかりと避ける敵。
が、こちらとて無駄に投げ返した訳ではない。
その避けた先には別の敵がいて、その敵へと突き刺さる軌道となっている。
もちろんこちらとて、その結果をただ傍観していたわけではない。
足を何度も鳴らし、左手の中にある水球から鞭を伸ばし、敵を牽制し、時には隙を見せてそこへと誘導し、反撃し、一度躱して同士討ちを狙わせて……。
そうして一人で、踊るような足音共に、敵を次々と戦闘不能へと追い込んでいく。
ただ、敵はまだ一人も死んでいない。
傷つき、動きは鈍くなっているが、そこまでだ。
殺してもいい敵なのに、殺せない……。
そう……こちらは数が減れば減るほど不利になるのだ。
こうして複数相手に戦ってみて分かった。
この敵全て、誰一人漏れることなく、全力の俺よりも強い。
『結界』の魔法を使って援護をしているヤツ。
他の属性の魔法を使おうとして俺に妨害されているヤツ。
その全員がおそらく、近接戦闘も遠距離戦闘も、俺より強い実力をもっている。
だから極力傷つけて、全力を出せないようにもっていく。
そこまでしてからようやく、相手の数を減らしていける。
その考えの元動き、段々と敵の動きも鈍くなってきて……そろそろかと思い始めたとき。
「もういい!」
例の、司令塔と思われる全身鎧の命令が飛んだ。
その命令に応えるように、俺を武器で攻撃してきていた敵が一斉に飛び退いた。
ただそれは命令というよりかは「お願い」に近い形の声だった。
その思ってもいなかった声に、思わず身体が強張ってしまい、追いかけることが出来なかった。
「……やはり、複数で襲っては勝てない、か……」
「……昔と同じ強さのままで、安心しました」
「?」
その、風に乗って届いた呟きに……懐かしさが込み上げる。
「ただ……わたくしは、昔のままではありませんが」
込み上げてきて、分かる。
その鎧によって曇っていた声が、女性のものであることに。
そう、認識して都合が良くなったのか……その言葉遣いに、さらに懐かしい顔がよぎる。
「少し……お見せします」
記憶にある身長とは違う。
声も、体格も、その全てが合わない。
ただ……ああ、そうだ。当たり前だ。
だってあれから……三年も経っているんだ。
成長していない方が、おかしい。
「……まさか……」
己の口から出た声は掠れ、自分のものとは思えないほどだった。
だから、聞こえなかったのだろう。
その全身鎧は、背中に引っ掛け隠し持っていたソレを取り出し、勢いよく振るう。
折り畳み式の中刃槍。
昔は正式採用剣で身の丈に合っていなかったのに、今はその長さの三分の一が刃となっている、槍とほぼ同じ長さを誇る武器で、同じ長さほど身の丈に合っていなかった。
ああ……そうだ。彼女の戦い方は、そうした武器じゃないと行えない。
……女騎士から教わっていた、あの戦い方は……。
「では……いきます」
構える。
尾の近くを持ち、片手で持つ形。
迫る。
一息に間合いを詰められて。
……突きつけられる。
あまりにも突然で、いきなりで……頭の中がこんがらがって……。
感動とか動揺とか疑問とか、色々な感情が入り混じってしまっていて……動くことが、出来なかった。
「…………」
首元に突きつけられた刃。
あと一押しで死んでしまうその状況を……何故か、少し喜ばしい感情で迎え入れている、自分がいた。
……追ってきて欲しかった訳ではない。
会いたかった訳でもない。
それなのに……その姿を見て……何故か、自分は……。
自分から、離れたくせに……図々しくも、俺は……。
「……避けないのですか?」
「……避けられなかった」
言葉を口にした途端、内側にあった感情すらも、表に一緒に出てきてしまって……自分でも分かるぐらい、笑ってしまっていた。
「……もう俺じゃあ、動くことも出来なくなったよ……その攻撃」
「前から強かったけど……さらに強くなったな——」
「——お姫さまは」
「……ふふっ、ありがとうございます」
突きつけた刃を下ろし、地面に突き立てて、その顔を覆っていた鉄の面を外す。
その向こうには……昔の面影を残しながらも、確かに成長した、お姫さまの顔があった。
「お久しぶりです。……傭兵さま」
今日はここまでにします
今回は明日も更新するよ!
月曜日までには終わらせるようにしないと投下する暇が無くなるからねっ!!
駆け足気味で本当にごめん
再開しまっす
◇ ◇ ◇
傭兵の家
◇ ◇ ◇
傭兵「本当に貴族の差し金じゃあないのか?」
姫「違いますよ。当たり前じゃないですか」
姫「わたくし達は貴族達と敵対しているのですし」
姫「というか、何をしたんですか? そこまで警戒するなんて」
傭兵「いや〜……ちょっと、この村の収穫率に対しての税率がおかしいから暴力的文句を言いに……ね」
姫「ああ……なるほど」
姫「だから兵を連れて一応の挨拶に言った時、いつも以上に怯えていたんですね……」
傭兵「挨拶……?」
姫「村の中に兵を招き入れるわけですからね。一応の礼儀です」
姫「その時にいつもとは違って動揺露だったのが気になっていたのですが……そういうことだったんですね」
姫「おそらく、あなたが国に告げ口をして、その調査に来られたとでも思ったのでしょう」
傭兵「それじゃあ、あの貴族だけ特別に親しい相手だったとかでは……」
姫「全く無いですね」
姫「それにしても、村のためにそんなことまでしてあげてるんですね」
傭兵「俺とか神官ぐらいしか出来ないからな。この村だと」
傭兵「あの貴族達、連れてる兵士を使って脅して、こっちが反抗できないのをいいことに好き放題やってたから我慢できなくなってさ」
傭兵「せっかく受け入れてくれたんだから恩返しでも、と思って」
傭兵「……ま、そのせいで貴族からの仕返しを恐れてる村の人たちが、俺たちを遠ざけるようにはなっちまったけど……」
傭兵「仕方ないかな、って思ってる」
姫「傭兵さまたちに怯えているのではないですか?」
傭兵「ああ……それもあるだろうなぁ……たぶん」
傭兵「……って、こんな話をしに来たんじゃないんだろ?」
傭兵「どうしてこんなところに?」
傭兵「まさかこんな辺鄙なところに、王女が出向かないと行けないほどの何かがあったわけでも無いだろ?」
傭兵「わざわざ兵士まで引き連れてるんだ。一体どうしたんだ?」
姫「……言わずとも、わかっておられるでしょう?」
傭兵「……………………」
傭兵「……さあ?」
姫「そうですか? てっきり誤魔化すために、饒舌になっておられるのかと思ったのですが」
傭兵「…………」
姫「……兵を連れてきたのは、傭兵さまの腕が鈍っていないのかどうかの確認です」
姫「わたくし一人では確認しようがありませんからね。傭兵さまの場合」
姫「それにしても、昔は見えてくれなかった戦い方をしてましたね?」
傭兵「ああ……あれはつい最近出来た戦い方なんだ」
傭兵「……お姫さまと魔法を勉強しているときに、ヒントを得てな……」
姫「そうですか……少し、ビックリしました」
傭兵「…………」
姫「それで……改めて、言う必要はありますか? ここを訪れた理由」
傭兵「……いや……」
傭兵「……図々しいことかもしれないけど……もしかして、俺を城へと連れ戻すために、とか?」
姫「はい」
姫「もう無断欠勤が三年ほど続いてますよ?」
姫「そろそろ、仕事に復帰していただこうかと思いまして」
傭兵「それは……」
姫「無理、ですか?」
傭兵「……はい」
姫「……どうして、ここが分かったか。分かりますか?」
傭兵「えっ?」
傭兵「それはもちろん……俺が貴族の屋敷を襲ったから、とか……?」
姫「それはあり得ませんよ」
姫「もし屋敷を襲った人がいたと報告が上がった場合、国の兵が直接赴くことになります」
姫「そうなると、貴族達にとって害とも呼べるわたくし達に、屋敷に手を付ける絶好の機会を与えてしまうことになる」
姫「そんな報告、私設兵を雇っている以上、するわけが無いんですよ」
傭兵「じゃあ……?」
姫「わたくしの魔法です」
傭兵「え……? でも確か、お姫さまの魔法は……」
姫「……わたくしだって、魔法ぐらい鍛えますよ」
姫「傭兵さまがいなくなってからもずっと、魔力の磨ぎ方を学び続けました」
姫「その結果、傭兵さまも『探索』出来るほどの魔法が、使えるようになったのです」
姫「もし国外に出られていたとしても、見つけられる自信がありますよ」
傭兵「それで……」
傭兵「……でも、それをどうしていきなり?」
姫「分かりませんか?」
姫「逃げても無駄、ということです」
姫「これは要求ではありません」
姫「脅迫です」
姫「わたくし達は、傭兵さまを制圧できる力がある」
姫「逃げても逃げても追いかけ、捕まえるという術もある」
姫「だから、大人しくついてきて下さいという、そういう脅しなんです」
傭兵「っ……!」
姫「ですのでもし、城に戻ってくるのを拒絶されるというのでしたら……わたくし達は、実力行使に出ます」
姫「傭兵さまを拘束し、連れ戻します」
姫「それだけです」
傭兵「……随分と、手荒くなりましたね」
姫「言ったじゃないですか」
姫「わたくしは、傭兵さまを不幸にしに来た、と」
姫「ただ……わたくしの本心を告げるのなら、傭兵さまには自分から戻ってきて欲しいのですけれど」
傭兵「……拒否しても連れて帰るのに?」
姫「そうですね……出来れば、無理矢理支えるような形は取りたくないですので」
傭兵「支える……?」
姫「昔、傭兵さまは言っておりました。子供を助けるのが大人の役目だと」
傭兵「ああ……」
姫「今もきっとそうなのでしょう。それは分かります」
姫「それが不幸を呼び込む上での言葉だとしても、わたくしは立派だと思います」
傭兵「…………」
姫「ですがそれで、その大人を支えることをしてはいけないということはないはずです」
姫「わたくしは、その支える人になりたい」
姫「まだまだ未熟で半人前ではありますが、守られてばかりの子供ではなくなったのです」
姫「そのためにここまで強くなりました」
姫「それならせめて、支えるぐらいはしたいじゃないですか」
姫「無理矢理に、ではなく。望まれる形で」
傭兵「……………………」
傭兵「……一国の王女に、そこまでのことはさせられませんよ」
傭兵「お姫さま……あなたはその考えを、国民に向けるべきですよ」
傭兵「もう、立派な大人になろうというのなら、尚更です」
姫「わたくしの役目は、ただ表に立ち続けることだけです」
姫「ですから尚のこと、傭兵さまを支え、傭兵さまに支えられたいのです」
傭兵「表に立ち続ける……? それは……どういうことですか?」
姫「……傭兵さま。もしわたくしが第一王女だったとして、既に成人の儀を終えて一年経ち、十六歳になった今、こうして田舎に兵を引き連れてやってこれると思いますか?」
傭兵「それは……」
傭兵「……っ! それじゃあお姫さまは……もしかして……王女じゃ、ない……?」
姫「いえ。わたくしはれっきとした、この国の王女です」
姫「王である父上から生まれた、子供です」
姫「ただ……“第一”ではないだけ」
傭兵「……え?」
姫「わたくしは妹」
姫「……第二王女なんです」
傭兵「第……二……?」
姫「はい」
姫「わたくしは第一王女の影であり光」
姫「政(まつりごと)を行う姉に代わり、表に立ってあらゆる危険を引き付ける」
姫「暗殺者に狙われるのも、民衆の前に立って顔になるのも。全てがわたくし」
姫「いわば、影武者です」
傭兵「なっ……!」
姫「ですからこうして、わたくし本人が、足を運ぶことも出来たのです」
姫「本当の第一王女ではありませんからね」
姫「まぁ、偽りとはいえ第一王女ですから、お忍びではありますが」
姫「第一王女として表に出る前の最後の我侭、と言うことにして、なんとか」
傭兵「そんな大事なこと……なんで俺にっ!?」
傭兵「その口ぶりだと、外に待機させたままの兵士も——」
姫「はい。わたくしが第一王女だと思っております」
傭兵「——っ」
姫「先程傭兵さまに見せた一瞬の戦いも、本当はしてはいけない約束だったんですけれどね……」
姫「第一王女は武術も魔法もからっきし、という設定でしたから」
姫「まあ、傭兵さまがいなくなってからの三年間、あなたを支えるためにと行っていた特訓で、限界を迎えた設定ですけれど」
傭兵「設定って……いや、それよりもだから、どうして俺に教えたんですっ!」
姫「傭兵さまを、不幸にするためですよ」
傭兵「えっ!?」
姫「傭兵さまは、信頼されることを避けていらっしゃるようでしたから」
姫「まあ、それは当然ですよね……幼馴染を殺すことになってしまったのは、いわば自分が信頼されていたから」
姫「もう同じ目に遭いたくない。同じことをしたく無い」
姫「だから誰にも信頼されたくない」
姫「だからあんなにも、自分を信じさせまいと振舞ってきたのですよね?」
傭兵「っ」
姫「だからわたくしは、傭兵さまを信頼し、国の秘密を打ち明けます」
傭兵「なっ……! それがどうして“だから”につながるんですかっ!!」
姫「傭兵さまを信頼し、その重圧による不幸を与える」
姫「城にいればさらにその不幸が待っている」
姫「そのことを、あなたを連れ去った神官さまにお教えすれば、あなたを城に置いてもらえるかもしれない」
姫「そんな、あなたを傍に置いておきたい、独り善がりな考えですよ」
傭兵「それで無理だったら……無駄に俺に……!」
姫「ええ。国家機密を教えたことになりますね」
傭兵「だったら!」
姫「ですが、お教えしたら傭兵さま、一度は城に戻ってきてくれるのではないですか?」
傭兵「っ!」
姫「……その優しいところが、傭兵さまの良いところです」
姫「何も、責任を感じることなんてないですのに……」
姫「……では、傭兵さまを信頼し、さらに追い詰めるために、これから国家機密を全て、お話ししていきます」
傭兵「……いや、別にいいよ」
傭兵「そこまでされるぐらいなら、もう戻ろうと思うから」
姫「ですが、これだと脅迫みたいじゃないですか」
傭兵「いや、十分脅迫されてるんだけど……」
姫「それにわたくし、本当に傭兵さまのことを信用しておりますので」
傭兵「それも……俺にとっては酷いぐらいの脅迫だから」
傭兵「ここで止めてもらえると助かるんだけど……」
姫「三年間、無断欠勤された報いですよ」
姫「それに、気になりません? 第一王女が誰なのか」
傭兵「俺の会ったこと無い人だろ?」
姫「いえ。わたくしが姉と呼んでいた方ですよ」
傭兵「……………………」
傭兵「…………えっ!? メイドさんっ!?」
姫「はい」
姫「ちなみに女騎士さんは、騎士長であると同時に、姉の専属の護衛も務めている方です」
傭兵「そんな……そんな気配は、微塵も……」
姫「そうですか?」
姫「では逆に聞きますが、姉が召使いの格好をして、その仕事をしているところを見たことはありました?」
傭兵「そういえば……無い……いや、確か魔力も集中力も切れた俺を看病をしてくれていたような……」
姫「あれはかなり特殊でしたよ」
姫「いつもはほとんどの時間、父上の傍にいる姉が、その時だけは傭兵さまの傍にいたのですから」
姫「いつも姉は、父上の公務を手伝っていました。そうすることで、将来国を動かすときのための知識を蓄えていたんです」
姫「その間姉のことは、父の護衛である宮廷魔法使いさんが一緒に守ってくれておりました」
姫「そしてその姉が父の傍にいる時間こそ、女騎士さんが表向きの第一王女であるわたくしを守ってくれていた時間なのです」
傭兵「適度な隙を見せることで敵に仕留める為の計画を練らせると、そういうことですか」
姫「その通りです」
姫「ちなみにこれは、わたくしの提案です」
姫「影武者をすると手を挙げたのも、戦闘兵器の噂をワザと流したのも、ですが」
傭兵「戦闘兵器の噂……そういえばあったな……」
傭兵「あれ……? でもそれって昔話してくれた、魔法を使えることに目を向けさせないためのものと矛盾してません?」
姫「はい。明らかに矛盾しております」
姫「ですが噂話など、色々と飛び交うものではないですか」
姫「それにこの戦闘兵器としての噂が広まれば、周りから恐怖されている姫、となって、女騎士さんが傍にいなくても違和感が少なくなります」
姫「もちろんこれもまた、敵を誘き寄せるために嘘を吐いていたことと、矛盾します」
姫「ですがそうしてあらゆる情報を織り交ぜ・絡ませ・流すことによって、姉が本当の第一王女かも、と別の方向へと目を向け疑うことすらさせないようにしておりました」
傭兵「その中には当然、戦闘が行えないという噂も広げ続けてある……」
傭兵「……でもそれ失敗すれば最悪、お姫さまが魔法を使えることを隠している、ということはバレていたように思うんですが……」
姫「あの時も話しましたが、別に魔法が使えることはバレても良いのです」
姫「バレてはいけないのはあくまで、戦闘用の魔法が使えないということ」
姫「戦闘兵器としての噂があって、魔法を使えることを隠しているのでは、と疑われれば、まず攻撃魔法だろうと繋げるでしょう? 一番の狙いは、実はそれだったのです」
傭兵「なるほど……」
姫「それにしても……嬉しいものですね」
傭兵「?」
姫「傭兵さまが、三年経ってもわたくしの話を覚えていてくれているというのは」
傭兵「っ……! それは——」
姫「ああ、言い訳は止めて下さい。ちょっとこの幸せを噛み締めたままでいたいので」
姫「それに昔も話しましたが、その言い訳をされたところで、わたくしは自分に都合のいいことを信じたままですよ」
傭兵「——っ……そういえば……そんなことも話していましたね……」
姫「はい……」
傭兵「……そういえば、女騎士がメイドさんの専属護衛ということは……お姫さまの副作用が女騎士さんの手で中々解除されていなかったのって……」
姫「はい。暇が中々無かった、というのが本音ですね」
姫「わたくしが人間兵器の噂の元孤立していたので、姉は守れたのですが……そのせいでわたくしに近付く理由も中々作り辛かったのです」
姫「まして、姉の専属護衛を、コッソリと務めていたのですからね」
傭兵「そうか……専属護衛なのがバレたら、メイドさんに何かあるのがすぐに分かるからな……」
姫「そういうことです」
姫「ですから実は城内での女騎士さんの評判、凄く悪いんです」
傭兵「えぇっ!?」
姫「サボって知人の召使いと駄弁ってばかりの給金泥棒」
姫「何も無いところでボーっと外を眺めているサボリ魔」
姫「そんなことを言われてました」
姫「……まあ、実力はあったし、親戚筋なだけではない上に、ちゃんと騎士長としての公務も行っていたので、面と向かっては訴えられなかったそうですが」
姫「本当、迷惑をかけっぱなしでした……宮廷魔法使いさんにもお暇を与えないといけない都合とか、色々と頑張ってくれましたし……」
姫「女騎士さんがいなければ、この方法は取れていなかったでしょう」
姫「それに、わたくしが強くなれることもありませんでした」
姫「わたくしを鍛えるのもコッソリとでないといけませんでしたからね」
傭兵「……大変な役割だったんだな……あんな小柄な体型で……」
姫「そうですね……実は一番楽な役回りは、わたくしですしね」
姫「姉もいずれ、跡継ぎのために隠れて結婚することになる日が来るでしょう」
姫「その時、その結婚相手に国を取り仕切らせないようにするために、必死に勉強してくれていたのですから」
傭兵「……結婚相手が貴族の差し金で、また国を腐敗させられたらいけないから、か……」
姫「結婚しても政は自分でする」
姫「そのために姉は一人、頑張ってくれていました」
姫「わたくしは、勉強も礼儀作法もそこまで好きではありませんでしたので。今のような役割を引き受けました」
傭兵「……でもそれだって、戦闘訓練を受けたり、毎日命の危険に晒されたりと、大変なことには変わり無いでしょ」
傭兵「お姫さまが日常の一部だと思っているほど溶かし込んでいるだけの話で、それが楽だってことはありませんよ」
姫「……そうでしょうか?」
傭兵「そうですよ」
姫「……でしたら、そんな大変なわたくしを、少しでも助けてくれませんか?」
姫「お願いします」
姫「独り善がりなお願いですが……どうか……」
姫「城に……戻ってきてください」
傭兵「…………」
〜〜〜〜〜〜
◇ ◇ ◇
王城
姫の自室
◇ ◇ ◇
姫「予定通り、傭兵さまをお連れ出来ました」
女騎士「っし!」グッ
メイド「……城の内情も、ちゃんと説明しました?」
姫「はい。……あ」
女騎士「ん?」
姫「わたくしが影武者だと知っている人が誰なのかを教えるのを忘れてた……」
女騎士「ま、それぐらいなら良いんじゃない?」
女騎士「たぶん、本人もなんとなく察しがついてるだろ」
メイド「宮廷魔法使いさんは知ってそうですが……さすがに、城に仕えている神官長も、とは気付いていないかもしれませんね……」
女騎士「だったら、後で話せばいい」
女騎士「どうせ今回の作戦に、その件は——っていうか、アイツ自体あんま絡んでこないんだからさ」
姫「……それもそうですね」
女騎士「で、姫さん。ちゃんと置手紙は残してきてくれた?」
姫「もちろん。家も傭兵さまに聞いて、ちゃんと置いてきましたよ。ここに連れ戻すと言う内容のものを」
姫「すぐに出発したとして、おそらく本日の真夜中には来るかと」
女騎士「本来なら、すぐに来てくれるとは限らないが……」
メイド「相手が相手ですし、来てくれると見て作戦を立てておくべきでしょう」
姫「その辺、女騎士さんはどう?」
女騎士「任せてくれ」
女騎士「兵にも指示を出してある」
女騎士「一人の賊が忍び込んだら、ちゃんと訓練場に誘導してもらえるようになってある」
メイド「……どうやって誘導するつもりですか?」
女騎士「小隊を組んで見回りをしているフリをさせる」
女騎士「さすがに、五人ほどが固まっているのを相手取ろうとは思わないだろう」
女騎士「正面入口以外は『結界』の威力を高めてもらうようにしているし、魔法を使える補助の兵も渡しておくつもりだ」
女騎士「だから後はルート通りに移動させることが出来れば……」
メイド「それなら……大丈夫そうですね」
女騎士「ああ」
女騎士「そして訓練場で……このボクが、傭兵を連れ出したアイツの相手をしてやる」
今日はここまで
なんとか明日には終わりそう…
説明口調が多くなってるけど、許してね
この急ぎ足調子で段々と色々と回収していきます
応援してくれている方々、本当にありがとうございます
もうちょっとで終わるのでこのままついて来てくれると嬉しいです
再開しまっす
今日で終われると思う
〜〜〜〜〜〜
静かな……夜の空気の中を割く声。
侵入者がやってきたことを知らせる兵の声。
ボクは立ち上がり、傍に置いてあった剣を手に取り、腰に差す。
ついに……時が来た。
約三年前……自分を殺した相手との再戦。
……あれから、特別なことをしてきたつもりは無い。
今まで通りの訓練を、今まで通りこなしていただけ。
強さはあの頃より変わっていないと思う。
だからこそ……再戦することに意味がある。
……不意打ちで殺されてしまったあの情け無い自分と、決別するために……。
真正面から戦い、勝ってみせる。
「…………」
自然、鞘を握る手にも力がこもる。
……不自然な力は動きを鈍らせる。
それを自覚していながらも……力が、入ってしまう。
……けれども、例の男が走ってこの訓練場へとやってきたのを見た瞬間……。
闘いの時の力に、自然と戻っていた。
「ちっ……どうにも誘導されている気がしたが……なるほどな。誘き寄せられたってわけだ」
抜き身の剣を肩に担ぎながら、男はボクの姿を見据える。
「で……どうも周りの気配が遠ざかってんだが……お前を倒せば仕舞い、ってわけじゃねぇんだろ?」
「いや……ボクを倒せばそれでいい」
「だってそこの中に、お前のゴールがあるんだから」
そう言って、昔道具を仕舞っていた倉庫——姫さんが魔法の訓練で使っていた場所を顎で示す。
「へぇ〜……なんだ? どういうことだ?」
「なんのワナを仕掛けてやがるんだ?」
「ワナなんてものはない」
「あるのはただ、納得のいっていない決着を付けたいという、ボクの我侭だけさ」
「納得のいってない?」
「……そうか……」
その反応で、分かった。
アイツは三年前、ボクを不意打ちで殺したことを、覚えていないんだ。
……それだけ軽く見られていることに、少なからずのショックが積み重なる。
「……お前は、この城にいる傭兵を連れ戻しに来たんだろ?」
「ああ……」
「……そうか……お前あの時、傭兵の家にまで来て連れ戻そうとしていたヤツの一人か……」
「思い出してもらえて光栄だ」
「あれから三回ほど街か村に移動していたからな。忘れちまってた」
「すぐにこの国から出なかったのは、訪れたボク達が城からの使いと知っていて警戒していたからか?」
「その通り。アイツが城で働いてたのは知ってたからな。となれば、すぐに国を出ようとしたところで、関所に連絡が行っていれば出られないよう足止めされる可能性が大きかったからな」
「だから、大人しく国の中に留まって、年数が過ぎれば出るつもりだった」
「そろそろ忘れられてそうだから出られると思ってたんだがな……まさかこうして、また城に戻ってくることになるとはな」
「そこまでアイツに執着して……何の利益がある?」
「別に、お前はそんなことを聞きたいわけじゃないだろ?」
「ただ傭兵が連れ戻されるほど幸福なのが許されない……そうだろ?」
「はっ……分かってんじゃねぇか」
「それで? 俺に一撃で殺されたお前が、俺に勝てるのか?」
「確かに……このボクが不意打ちをされた。それだけで、お前が相当な実力者なのは裏づけされている」
「だが、それでもお前に、ボクの実力が証明されていないのが、ボクは納得できていない」
「ボクをザコだと思っている評価を上げてもらう」
「そのための戦いだ。これは」
「へっ……だからこその一対一、か」
「そういうことだ」
そう言ってボクは、剣を抜く。
身の丈に合っていない、国の正式採用剣・長剣型を。
「勝てばあの空間へと一直線」
「悪い話じゃないだろ?」
「勝負を受ける条件としては上等だと思うけど」
「確かにな……いいだろう。来な」
「負けたときに油断していた……なんて言い訳、通じないよ?」
「油断? するわけねぇだろ。一撃で終わらせてやるよ」
肩に担いでいた剣を片手に持ち、構える。
その構えを見たと同時、ボクは一気に間合いを詰めた。
大振りの振り上げる一撃。
そのバレバレの攻撃は当然とばかりに躱される。
がら空きになった腹に向けて斬撃。
それでこの戦いは終わり。
……素人なら、そう思って攻撃してきたことだろう。
だが相手はその隙を衝いてくることなく、こちらに向けて牽制の素早い攻撃をしてくるだけ。
その攻撃を、攻撃後の隙を物ともしない動きでボクも躱す。
両者共に、あえて隙を見せた攻撃を行い、相手を誘い込みながらも、互いにその誘いには乗らず、ただただ牽制の攻撃を繰り返す。
互いに一撃も当てることが出来ず、全ての攻撃を躱し続けていく。
刃を刃で受け止めることもせず、避けて躱して攻撃に転じての攻守逆転ばかり。
……やはり強い。ここまでボクの動きについてきた人は初めてだ。
左腕が使えないことは姫さんから聞いている。
だからこの男の攻撃は全て、右手一本で握られた武器から放たれている。
評価すべきは、左腕が動かないというハンデを物ともしないその動き方。
後天的に左腕が動かなくなった人間とは思えないほどの滑らかさだ。
……血の滲むような特訓をしてきたのだろう。
もちろん、持ち前のセンスもあるに違いない。
もし両腕が使えたとしたら、武器による戦いでは負けていたかもしれない。
そんなことを考えてしまうほど、相手は強かった。
ボクの戦い方は、基本大振りによる一撃必殺を主体としている。
だがこの基本的な大振りは、あくまでオトリ。
そうしてどうしても生まれる隙を衝いてくる敵を狩り取る。
それが“本当の”狙いだ。
ボクは見た目が細く見える。
だがその中にある筋肉は、女性特有のしなやかさと見えざる太さがある。
残念なことに、そのせいで小柄なまま成長してしまったとも言える。
子供の頃から鍛えてきてしまっていたせいで、筋肉による重みで身長が伸びなかった。
……ただでさえ母親の遺伝子的に背が低いのが確定したのに、さらに低くなってしまった。
でも、だからこその戦い方とも言える。
もし背が高くなれば、姫さんのように特注の武器を作ってもらわなければいけなくなった。
今の騎士長の立場なら可能だろうが、もし一般兵のままならそれも叶わなかったことを思うと、普通の長剣を持つだけで振り回されているように見えるのはかなり良かった点だ。
その筋力によって振り回す剣の威力は約七割。
そして隙を衝いてきた敵の攻撃をあっさりと避けるため、一度剣を手から放し、再び掴んで再び振るう際に十割の力を使う。
もしそれすら避けられたとしても、武器を手放し逃げればいい。
振り回した武器を離す反射神経と筋力。
再び掴む握力としなやかさ。
その二つがあってこそ、この戦い方は出来るのだ。
だがこのままでは、埒が明かない。
変化が必要だ。
……仕方が無い。
魔法を使おう。
ダンッ! と足を踏み鳴らす
手を地面へと着けない分、簡単なものしか使えないが……この互角の状況なら、その小さな変化でも十分だ。
「っ!」
魔法を使われたことを悟り男は足元を警戒する。
なるほど。さすが傭兵と一緒に勇者候補者をしていただけのことはある。
その読みは当たりだ。
ボクがしたことは単純。足元の一部を、広範囲に、バラバラに、あらゆる場所を金属へと変えただけだ。
それに何の意味があるのかと問われれば、ほとんど意味は無い。
ただ踏み込んだ際に違和感が生まれてしまうだけだ。
しかしこの所々の変化によって何かがあるかもと敵は警戒しなければいけない。
そこの隙を衝いて、少しでも傷を付けられれば、それでいい。
そこから先は、段々と差は広がっていく一方だ。
互角な戦いは、ほんの少しの行動で崩れる。
崩れた先は、ただただ滑り落ちていくだけ。
その証拠に男の左肩を浅く斬ってからは……こちらにとって有利な状況が続いた。
段々と相手が完璧に避けられなくなってきて……右腕に、脚に、腹に、頬に、胸に……浅いながらも傷を増やしていく。
「くっ……!」
このままだと負けてしまうと悟ったのだろう。
相手は飛び退いてボクと距離を置く
だがせっかく掴んだ流れだ。そう安々とは手放さない。
こちらもすぐに距離を詰め——
——ようとするボクの行動を読んでか、剣を地面に突き刺して手を天へと掲げ、その場で足を踏み鳴らした。
魔法を使われる……!
このまま距離を詰めるのは危険と判断して、足を止めてこちらも距離を取る。
せっかく掴んだ流れが、相手に掴まれてしまった……だがここで相手の魔法を避けることが出来れば、さらに強く、勝負の流れを掴むことができる。
……相手の魔法は分からない。
だが……避けるしかない……!
ここで避けられないのならどちらにせよ……負けることは決まっている……!
そう覚悟して、相手を見据える。
向こうもこちらの意図を理解したのだろう。
それでも攻撃を止める気配は無い。
魔法に対して圧倒的な自信がある故だろう。
「…………」
……姫さんの話で、腕を振り上げられただけで死んだって話だったけど……一体……。
その答えに辿り着くよりも速く、敵が動きを見せた。
地面に突き刺した剣を抜き、上体を曲げて振り上げる前の体勢を取る。
全身を身体の中心に丸めるように力を込め……。
そして……その身体の中心へと集めたバネを解放するかのように、その場で剣を振り上げた——
——刹那、ボクの左腕が文字通り、吹き飛んだ。
「っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!!!!!!!」
上がりそうになった悲鳴を噛み殺す。
唇を閉ざし必死に堪える。
言葉では表せられないほどの激痛を、どんな言葉でも軽々しくなるほどの痛みを、ただただ意識から外すことに集中する。
何があるのか分からない。
ただ構えから、刃の直線上に立つのは危険と判断し、横へと跳ぼうとした。
それが少しだけ遅かった。
それだけで……左肩から先の片腕全てが、切断された。
……相手の属性が、なんとなくだけれど分かった。
切断された時に耳についた大きな風の音。
おそらくは『風刃』。
間違いなく五属性外のものだろう。
基本五属性ではないものの、数が多い『風』属性の亜種。
『風』属性は人を傷つける際、ここまでの攻撃力は持てないと聞く。
そしてこの切断面。吹き出る血と鋭い切れ口は間違いなく、刃で斬られたもの。
骨と肉がむき出しのソレは、痛いからと残った片腕で押さえるのすら躊躇うほどのものだった。
ここまでのものとなれば、見えざる刃で腕を切断された、と考えるのが妥当だろう。
故に『風刃』だと当たりをつけた。
「ぐっ……!」
足をつき、何とか踏ん張る。
そう……避け切る事は出来なかったが、一撃で死ぬことも無かった。
ならここから、反撃すべきだ。
血が抜け切って、死んでしまう……その前に……!
それに相手も、魔法を放ってから膝をついている。
……復活の儀を修得する際、利き腕を犠牲にしたのだと思う、と姫さんから聞いた。
だが実際は、その体内もほとんどボロボロになっていたのかもしれない。
大地のエネルギーを通すために魔力で覆っても傷ついてしまうぐらい、その中身は既に……。
たぶん、魔法を使うのにダメージを受けない身体だったなら、目測よりも武器の射程を長くして、相手を翻弄する戦いをしたのだろう。
その使い方こそ、あの魔法の正しい使い方だったに違いない。
それが出来ないのに、ボクをここまで追い詰めるほどの強さ……。
……つくづく、その強さに感服する。
だからこそこちらも、本来出来る自分の戦い方を見せてやりたかった。
……負けず嫌いなんだ。ボクは。
だから……例え五体満足だったとしてもボクには敵わない——最悪互角だったと、思わせてやりたい。
「はああぁぁぁぁぁーーーーー……!」
気合を入れ、痛みを気合で誤魔化し、イタイイタイと訴える情け無い自分を殺しながら、走り、相手との間合いを詰める。
武器を手放し空手にし、残った右手を天に掲げ、大地を踏み締める一歩一歩で魔法を発動させていく。
相手に近付けば近付くほど、相手は追い込まれていく。
地面から生えてくるように、背中に、左手側に、右手側に、天に、地面に……次々と鉄の板が現れていく。
そうして相手を閉じ込めてからは、こちらとあちらの一本道を作るように、壁を作り上げていく。
そう……鉄の板を生み出して、細い路地を作り上げていくような形。
これでもう……逃げることは敵わない。
そうして追い詰められながら、フラフラとしながらも何とか抵抗しようとしている男の心臓目掛けて、ボクは最後の踏み込みをする前に生み出した槍を手にし、突き刺——
——さずに、寸でて止めていた。
神官「……なんで、止めたんだ……?」
神官「そのまま一突きすりゃ、俺を殺せただろ?」
女騎士「……お前は、ボクに勝てないと思うか?」
神官「あん?」
女騎士「もし、そんな身体になっていなかったとして、ボクに勝てなかったと……そう思う?」
神官「…………」
神官「……さあ、どうだろうな?」
神官「正直、ここまでのことをされるとな……戦う前の評価は覆った」
神官「少なくとも、いい勝負はしたんじゃねぇの?」
神官「お前だって、手加減してたみたいだし」
神官「こんな走りながら俺を閉じ込めていくことが出来るんなら、いきなり地面から金属の槍を生み出して突き刺すことも出来るんだろ?」
神官「それをされなかっただけで……されてたらどうなってたことか……」
女騎士「ははっ……そっか」
女騎士「その答えを聞けただけで、うん。もう十分」
タンッ
ザバァ…
女騎士「……行って」
神官「は?」
女騎士「お前がボクの評価を改めてくれた」
女騎士「それだけで、十分」
神官「……なに?」
神官「俺を殺して、傭兵を匿うつもりじゃなかったのか?」
女騎士「そんなつもりはないよ」
女騎士「最初に言っただろ? これはボクの我侭だって」
女騎士「ここでお前を殺したら……姫さんのしたいことを、させてあげられなくなる」
女騎士「本当は……こんな負けず嫌いもしないで欲しかったみたいなんだけど……どうしてもやりたくってさ」
女騎士「お前が城に残った時のことも考えて、ね」
神官「俺が……城に残る……?」
女騎士「その辺の疑問は、中で聞いて」
女騎士「姫さんが待ってるから」
ギィ…
ガラガラガラ…
神官「…………」
姫「……よく来てくださいました。神官さま」
神官「……傭兵はいないのか」
姫「ここにはおりません」
神官「ちっ……なら用はねぇな」
姫「少し、お話を聞いていきませんか?」
神官「用はねぇって言ってるだろ」
姫「この城は広いですよ」
姫「もしわたくしの話を全て聞いてくれたのなら、傭兵さまの場所までご案内致します」
神官「しらみつぶしに探せば見つかるだろ」
姫「……今頃、先程戦った女騎士さんが復活している頃でしょうか」
神官「は?」
姫「その傷だらけの身体で、五体満足になった女騎士さんと戦って、勝てますか?」
神官「…………」
姫「次、この城へと来た時は、そう易々と入れることはなくなりますが……それでも構いませんか?」
神官「……………………ちっ」
姫「賢明な判断です」
姫「ですが本当は……こんな脅しみたいな方法、取りたくありませんでしたけれどね」
姫「あなたとは、話し合いで解決できると思っていますので」
神官「はん! おめでたい頭してんな、おい。そうやって脅してなけりゃ今頃、お前の首を刎ねてるかすぐ外に出てアイツを探してるところだぜ」
神官「感謝しろよ? そうやって交渉材料があることをな」
姫「…………」
神官「それで、そのおめでたい頭で話したことってのはなんだ? 聞いてやるよ」
姫「……傭兵さまを、城に置いていて欲しいという話です」
神官「なら却下だ」
神官「俺はアイツの不幸を望んでる」
神官「だからココにはいさせられない」
姫「どうしてですか?」
神官「ココは、アイツにとって幸福が溢れてる」
神官「お前、昔傭兵が借りてた家で俺に殺されたガキだろ?」
神官「三年経っても傭兵を連れて行こうとするほど好いているヤツがいる場所に、アイツを置けねぇ」
姫「……本当に、そうでしょうか?」
神官「あん?」
姫「確かにわたくしは、傭兵さまに対して好意を抱いております」
姫「ですがそれが、本当に幸福なのでしょうか?」
神官「……何が言いたい?」
姫「信頼されている。信用されている。愛されている」
姫「……あなたはそれが、傭兵さまにとって幸福だとおっしゃいます」
姫「ですが、本当にそうでしょうか?」
神官「……なに?」
姫「傭兵さまは昔から、自分が本当に信頼されないように振舞ってきました」
姫「それは確かに、幸福から逃げているように見えるでしょう」
姫「ですが傭兵さまは、信頼されていたからこそ、お仲間を殺すことになってしまったのでしょう?」
神官「…………」
姫「その時のことをお話されたとき、思い出しているだけで辛そうでした」
姫「それだけの辛い出来事があって、本当に信頼されることが幸福だと思われているでしょうか?」
姫「……わたくしはこう思うのです」
姫「自らを不幸に見せるため、というのを盾にして、本当に自分が不幸になることを遠ざけていただけなのでは、と」
神官「……………………」
姫「傭兵さまは、信頼されるという重圧から逃れようとしていたのです」
姫「信頼された結果、幼馴染を失ってしまったのですからね」
姫「当然です」
姫「ですから、本当に傭兵さまの不幸を望むのなら、沢山の人に信頼されなければいけません」
姫「現状の傭兵さまの言動は全て、神官さまを騙し欺き、自分にとって本当に不幸となることを気付かせないようにしているだけに過ぎません」
姫「本当に傭兵さまに与えなければいけない環境は、沢山の人に信頼され、頼まれ事ばかりをされて、一つのミスで信頼を失うかもしれないと言う恐怖の元、何かを行い続けることじゃないですか」
姫「それこそが、傭兵さまにとって一番の不幸な環境です」
姫「あなたの望みは、傭兵さまの不幸ですよね?」
姫「だったら傭兵さまをこの城に置いておくのが、一番だと思いませんか?」
姫「ここにはわたくしも含めて少なく見積もっても三人、彼に全幅の信頼を寄せている人がいます」
姫「あらゆることを頼まれて・苦労して・悩んで・辛そうになる彼を見ることが出来る」
姫「不幸を見たいというのなら、これ以上無い条件ではないですか」
姫「ですから、提案します」
姫「神官さま、あなたもこの城に仕えませんか?」
神官「お前……何を、言ってるんだ……?」
姫「何を? そうですね……スカウト、ですかね」
姫「戦いもこなせ、復活の儀だけとはいえ行える」
姫「これだけの逸材が城にいれば、助かるじゃないですか」
姫「確かに敵対していた人を勧誘するのはおかしいかもしれませんが——」
神官「違う……そうじゃねぇ……それじゃねぇだろ……」
姫「——それではない?」
姫「では、傭兵さまのことでしょうか」
神官「どう考えてもそうだろうが……!」
神官「お前……傭兵のことが好きなんだろっ……?」
姫「はい。大好きです」
姫「ですからこうして、傭兵さまを城に残せるよう、手を打とうとしています」
神官「それがおかしいっつってんだよ!」
神官「好きならそんな……! アイツがさらに不幸になるような提案を——」
姫「あれ? おかしいですね」
姫「神官さまも、傭兵さまを不幸にすることを望んでいるのでしょう?」
姫「それなのにそんな……“本当の傭兵さまの不幸を望んでいない”と仰るのですか?」
神官「——っ!!」
姫「……傭兵さまのことを好きなヤツが、傭兵さまをさらに不幸にするようなことを提案をするのはおかしい……」
姫「そう、言いたいのでしょう? 神官さまは」
神官「…………」
姫「……本当は神官さまも、気付いていらしたのでしょう?」
姫「傭兵さまが“自分のために不幸なフリを続けてくれているだけに過ぎない”と」
姫「そしてあなたも、傭兵さまに本当の辛い目に遭わせたくないから気付いていないフリをしているだけ」
姫「本当は、信頼され始めて、辛くなる傭兵さまから離すために、わたくし達の前から傭兵さまを連れ去ったのでしょう?」
神官「……俺が、そんなお人よしに見えるのか……?」
姫「正直、見えません」
姫「ですが、傭兵さまが大好きだといった方です」
姫「自分の身を犠牲にしてまで、あなたを生かし続けようとした方です」
姫「そんな方が……本当に傭兵さまを不幸にしたいと思えるかと問われると……ちょっとおかしいなと、思っただけです」
神官「…………」
姫「最初、傭兵さまを連れ去られたときは、神官さまのことを酷い人だと思っていました」
姫「ですが、わたくしの大好きな傭兵さまが大好きと言った方が、本当に傭兵さまの不幸のために、こんなことをしたのかと、一年ほど経ってから疑問に思いました」
姫「それまでは本当、酷い人だと思い続けていましたが……」
姫「……たぶん、神官さまも最初はそうだったのでしょう」
姫「本当に、生きる希望を傭兵さまに殺されたときは、傭兵さまを恨んで、傭兵さまの不幸を望んでいたのだと思います」
姫「それが無ければきっと、傭兵さまの言っていた通り、本当に死んでいたのだと思います」
神官「……………………」
姫「ですがわたくしと一緒で、年数が経って、ふと気付いたのではないですか?」
姫「彼は自分のために不幸のフリを続けてくれている、と」
姫「そして、彼が避けている本当の不幸にも気付いて……今まで救ってもらった恩に報いるためにも、その不幸から遠ざけてやらないと、と」
姫「そう……」
神官「…………んなわけ……ねぇだろうが……」
姫「……お互いがお互いのためを想って行動している」
姫「ですがそれは……本当の、互いのためにはなっていないと、そう思います」
姫「ちゃんとした仲直りをすべきだと……そう、思います」
姫「ですからこれは、提案です」
姫「神官さま、あなたもこの城に仕えませんか?」
姫「そしてこれを……お二人の仲直りのキッカケに、してください」
神官「…………」
神官「……ガキ」
神官「俺と、殴り合いの喧嘩をしよう」
姫「…………えっ?」
神官「殴り合いだ」
神官「武器の使用は禁止。魔法は……この建物の中なら使えないだろう」
神官「ルールはそんなところで、どうだ?」
姫「…………」
神官「お前が勝ったら、お前の条件を呑んでやる」
神官「俺が勝ったら……アイツを連れて行く」
神官「それで、どうだ?」
姫(……ああ、なるほど……)
姫「……いいでしょう。引き受けます」
神官「そうか……分かった」
姫(片腕が使えないのに……勝てるわけないじゃないですか。あなたが)
姫(……素直じゃないですね)
姫(ですが……構いませんよ)
姫(負けて、言うことを聞かされたという形を取らないと、踏ん切りがつかないと言うのなら……引き受けましょう)
神官「それじゃあ……始めるか」
姫「……はいっ」
姫(殴り合いの喧嘩なんて……生まれて初めてですが……勝ってあげましょう)
第四部・終了
エピローグ
◇ ◇ ◇
牢屋
◇ ◇ ◇
姫「傭兵さま……」
傭兵「ああ、お姫さま」
姫「すいません。犯罪者、という形で連行するしかなくて……」
傭兵「いえ、構いませんよ」
傭兵「それで、どうしました?」
姫「決着が、着きましたよ」
傭兵「……そうですか……」
姫「傭兵さまも神官さまも、この城に残ることになりました」
傭兵「っ! アイツが……!」
姫「えぇ」
傭兵「説得するとだけしか聞いてなかったけど……一体……どうやって……」
姫「ここで傭兵さまを苦しめるという話をしただけです」
姫「それで、納得していただけました」
姫「これで傭兵さまも、遠慮なく城に仕えることになりますね」
傭兵「……そう、ですね……」
姫「……信頼されるのは、怖いですか?」
傭兵「…………」
姫「……大丈夫です。わたくしがちゃんと、支えますから」
姫「ただ……言ってくださいね?」
姫「本当に辛くなった時や……もう、信頼されても苦痛じゃなくなったら……」
姫(神官さまと、仲直りが出来たら……)
傭兵「……お姫さま」
姫「はい?」
傭兵「お姫さまは、どうしてそこまでするんですか?」
傭兵「もう魔法でそこまでのことが出来るようになったんなら、無理に俺を雇う必要も無いでしょう?」
傭兵「俺なんて、お姫さまの足元にも及ばない強さです」
傭兵「隣に立ったところで、守れるほどの人間じゃない」
傭兵「それなのに……——」
姫「好きだからですよ」
傭兵「——……えっ?」
姫「わたくしが傭兵さまのこと、大好きだからです」
姫「ですから、傭兵さまが不幸になることであっても、自分の傍に置きたい」
姫「そう、独り善がりな想いで、ここまでのことをしました」
姫「昔、五日間来てくれなかっただけで、男さまの代わりに傭兵さまのことを好きになったんじゃない、と思って安堵しました」
姫「だからこそ、傭兵さまを連れ出されそうになったとき、神官さまに戦いを挑みました」
姫「ですが、負けてしまって……傭兵さまは、本当に遠くに行ってしまいました」
姫「それから、何週間も塞ぎ込んでしまって……けれどもふと、副作用が一度も訪れていないことに気付きました」
姫「自分はまだ、やっぱり傭兵さまに出会えたことを後悔していないんだなと、その時自覚しました」
姫「そして、思ったのです」
姫「これから必死に修行をして、魔力も武術も磨き上げ、その過程をずっと続けることが出来たなら、自分は本当に傭兵さまのことが大好きだったんだと証明できるな、と」
姫「苦しい中でも、傭兵さまを取り戻すため、という目標だけで頑張れたのなら……辛い中でも、足掻き続けることが出来たのなら……それは確かな気持ちがあるのだろうと、そう思えました」
姫「もし本当は代わりとして見ていたのなら、そこまでのことは出来ないだろうと、そう……」
姫「……それから三年間、修行して、それまでの挫けそうな全てを、ぶち当たってきた壁を、その全てを傭兵さまのために頑張れて、自分はここまで来れました」
姫「……ですからわたくしは、自信を持って言えます」
姫「恥ずかしいですけれど……自分は、傭兵さまのことが大好きだと、そう……確かに言えるのです」
姫「ですから、もう一度言います」
姫「わたくしは傭兵さまのことが……大好きです」
傭兵「そ……それは……——」
姫「いえ、今すぐ答えを言わなくても構いません」
傭兵「——……えっ……?」
姫「今はただ、辛い出来事を乗り越えることだけを考えてください」
姫「信頼されることの辛さを、克服してください」
姫「この告白だって、そのための試練だと思ってください」
姫「そして……克服してから改めて、考えてください」
姫「それで、構いません」
傭兵「…………」
姫「わたくしの言う“支える”とは、そういうことですから」
姫(それに……わたくしだけ告白して、女騎士さんが何も言っていないままなのは……平等じゃありませんから)
姫「ただ……これだけは、言わせてください」
姫「わたくしはただ、あなたに守ってもらえる——姉を守ると誓った自分を守ってくれる……それが、とてつもなく嬉しかったのだ、と」
姫「だからその気持ちを、あなたにも与えてあげたいのです」
姫「あなたの過去を聞いて、わたくしがその時抱いた気持ちと同じものを、与えたいと思った」
姫「それこそが……あの時言った、支え合いの持論です」
姫「ですから、ちゃんと教えてくださいね?」
姫「不幸でなくなったら」
姫「不幸の中で生きていかないといけない今は、ちゃんと支えますけれど……もう、その必要がなくなったら……」
姫「その手を引っ張って、幸せに連れて行ってあげますからっ」
終わり
というわけで終わりです
中途半端ですか? 曖昧なままですよね
でもしょうがない
そもそもの予定では姫は○されて病んでたんだもの
それを癒していく傭兵の物語の予定だった
だから当初は傭兵と姫はちゃんとくっついたけど…なんかくっつけるところまで書けなかった
というか書いたら不自然かなと思っちゃった
第三部から路線変更したらこうなった
まぁでも満足です
第一部〜第二部
と
第三部〜第四部
でやってることが同じだけど気にしない
質問などがあれば明日にでも答えます
それでは本当
約一ヶ月半、こんな駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました
なんか無駄に期待値高くて困る数レスの後日談投下します
これで本当に終わり
〜〜〜〜〜〜
三ヵ月後
〜〜〜〜〜〜
神官「傭兵を楽にしてあげたい」
メイド「……はあ」
神官「最近、どうも疲れすぎているように見えてな……」
神官「やはり、信頼が重過ぎるように思うんだ……」
メイド「…………」
神官「……なあ、どうしたら良いと思う?」
メイド「……それを私に聞きますか?」
神官「お前だから聞いてんだよ」
神官「書類受け取りに来たついでだし、女騎士には話せないし、あの姫なんてもっと話せない」
神官「となったら、俺が話せる中だと後はお前と神官長と宮廷魔法使いだけだろ?」
神官「だからって宮廷魔法使いは王の護衛で忙しいし……」
メイド「一般兵にも知り合いぐらいいるでしょう?」
神官「嫌味が過ぎるだろオイ……」
神官「こちとら二月で今の立場だぞ」
神官「傭兵とは違って満足に実力を披露したわけでも無いんだ」
神官「どっかの貴族が復活の儀の力を得て調子乗って上の立場に居ついてる」
神官「なんて噂されてるんだからよ」
神官「……貴族を倒してる時だって、割りと前線に立ってても俺のところまで敵がこねぇしな……」
神官「つうかここの兵が真面目過ぎんだよ」
神官「俺のことなんて放っておけばいいのにわざわざ守ってくれやがるから……これじゃあ馬鹿な貴族が自分の実力も知らず無謀に前線に立っていて守るのに苦労するって言われるだけじゃねぇか——」
神官「——って兵への愚痴を言いに来たんじゃねぇんだよっ!!」
メイド「……はぁ……」
メイド「あのですね、私これでも公務で忙しいんですけれど?」
メイド「今もほら、書類を書いているの、見えません?」
神官「俺の目を見てくれてないのは分かる」
メイド「だったら愚痴に対しての一人突っ込みなんて見せに来ないでください」
神官「そんなつもりはねぇってこっちは!」
神官「割りと真剣にアイツのことを心配して——」
メイド「それなら尚のこと、そんなくだらないことを訊かないで下さい」
神官「——く、くだらないって……」
メイド「くだらないでしょう?」
メイド「だってそんなものは、あなたがさっさと謝って、お礼言って、それで終わることじゃないですか」
神官「それが出来ないから相談してんだろうがよ〜……」
メイド「出来ないことでもしてください」
メイド「私にこれ以上仕事を増やさないで下さい」
メイド「以上、私から神官さまに送れるありがたいアドバイスです」
神官「くっ……!」
神官「……はあ〜あ……こりゃもう、城を出て行くしかねぇかなぁ……」
メイド「出て行きます?」
神官「え? いいの?」
メイド「ま、あなたは出て行かないでしょうけれど」
メイド「もし本当に出て行く気なら、私に話をしないでしょう?」
神官「……ごもっともで」
メイド「それに、あなたも分かっているはずですよ」
メイド「これだけ恵まれた仲直りの機会をフイにして、これから先仲直りできる機会なんてないってことぐらい」
神官「…………」
メイド「よしっ、と」
メイド「終わりましたよ」
神官「……おう」
メイド「……はぁ……そう落ち込まないで下さい」
メイド「傭兵さまのことが心配なのは分かりますけれど、私の妹が彼をしっかりと支えてくれてるでしょう?」
メイド「それでも崩れそうだって不安なら、本当……あなたがどうにかするしかないんですよ?」
神官「……分かってるよ」
メイド「……ま、二人きりになれる機会を作るしかないですね」
メイド「もしくは、下手にかしこまらないように謝るか、ですよ」
神官「下手にかしこまらずに……」
メイド「まずは、気軽にでも良いんです」
メイド「そうするだけで傭兵さまも、きっと安心してくれます」
メイド「それだけで十分、助かるはずですから」
ガチャ
キィ…
メイド「おまたせしました、女騎士さん」
女騎士「ああ」
神官「…………」
女騎士「……なんだ? なんか書類持って来た時より暗くなってないか?」
メイド「さあ? なんでしょうね」
メイド「それではあの子のところに行きましょう」
…パタン
カツカツカツ…
女騎士「あ、ああ……」
神官「…………」
女騎士「……おいお前、どうしたんだ?」
神官「……いや、別に」
女騎士「別にじゃないだろ」
女騎士「ボクを追い出してまでメイドさんに相談事を持ち掛けたんだ」
女騎士「何を悩んでるんだ? ボクにも話してみろよ」
神官「……お前に話したら、傭兵の耳にも入るだろ?」
神官「なんのためにお前を追い出したのか考えろよ……」
女騎士「はあ!? せっかくこっちは相談に乗ってやろうと気を——」
女騎士「——って、はは〜ん……なるほどなるほど」
女騎士「傭兵絡みのことか」
神官「っ! なんでっ……!」
女騎士「いや、分からない方が難しいっていうか……普通に言ってるようなもんだろ、アレは」
女騎士「お前、今自分が思ってるより冷静じゃないぞ」
神官「くっ……」
女騎士「でも……ああ……なるほど、ね」
神官「……なんだ?」
女騎士「ま、確かにボク達が傭兵に頼っている部分が多いのは確かで、その信頼が重圧になって彼を苦しめてるのも確かだからね」
女騎士「それがイヤなんだろ?」
神官「なっ……!」
神官「ど、どうしてそれをっ!?」
女騎士「いや、それも考えなくても分かるだろ」
女騎士「お前と傭兵のトラブルなんて今のところ、城に正規雇用される前からズルズルひきずってるものしかないだろ?」
女騎士「それ以外がもしあるってんなら、それはまさしくめでたい出来事だよ」
神官「…………」
…カツン
メイド「ではお二人とも、私は少しあの子と話してきますので」
女騎士「ん? 誤魔化すためにボクも入らなくていいのか?」
メイド「外の警備を任せます。中に傭兵さまもいらっしゃいますし、次は執務室で用事がありますので」
メイド「それを呼びに来た、という形ですし」
女騎士「ああ、なるほど。了解」
女騎士「ま、中は傭兵も姫さんもいるからな。大丈夫か」
メイド「そうですね。おそらくこの城の中で一番の安全地帯でしょうし」
メイド「では」
コンコン
メイド「失礼致します」
ガチャ
メイド「執務室で王がお呼びです。お支度のほどお願いいたします、姫様」
キィ…
…パタン
神官「…………」
女騎士「…………」
神官「……………………で」
女騎士「で?」
神官「どうすれば良いと思う?」
女騎士「どうすればって……そんなもの、早く仲直りすれば良いだけじゃない」
神官「それが出来たらこんなに悩んでねぇっての……」
女騎士「なに? 謝れないの?」
神官「謝れないだろ……あんなに重く受け止めて、今まで必死に俺のためにと犠牲になってくれてたんだ……」
神官「そんな軽い言葉だけで許してもらおうなんて、図々しいだろ……」
女騎士「そうかな?」
神官「は?」
女騎士「傭兵なら、許してくれると思うけど」
神官「なんだ? そりゃ」
神官「なんの根拠があって言ってんだ?」
女騎士「根拠……根拠ねぇ……」
女騎士「ま、なんとなく、かな」
神官「なんとなく……」
女騎士「そ。なんとなく」
女騎士「なんとなく傭兵なら、謝るだけでお前のことを許しそうな気がする」
女騎士「だって、幼馴染で、大親友だったんでしょ?」
神官「それは……昔の話だ」
女騎士「傭兵は、そうは思ってないよ。たぶん」
神官「なんとなくの次はたぶんかよ……」
女騎士「でも、もしお前の言うとおり、傭兵が幼馴染も大親友も昔の関係だって思ってるんなら、お前に付き添ってこの城には勤めてない」
女騎士「アイツだって気付いてるよ」
女騎士「この場が、お前との仲直りの場だってね」
神官「…………」
女騎士「それにさ……謝った後、それっきりって訳でも無いだろうしさ」
女騎士「お前たち二人は、ずっとこの城にいるんだ」
女騎士「だからこの城で、すれ違っていた時間を取り戻せばいい」
女騎士「それがたぶん傭兵にとっても、一番の嬉しい贈り物のはずだよ」
神官「……………………」
女騎士「ま、男らしく酒にでも誘って、その流れで謝ればいいだろ」
神官「……傭兵、酒飲めないんだよ」
女騎士「ああ〜……そっか……そういえばそうだったな……」
女騎士「ボクが誘っても全く来てくれなかったし」
神官「だからキッカケがな……」
女騎士「キッカケね……」
女騎士「だったらもう、アレしかない」
神官「アレ?」
女騎士「出てきたら腕でも引っ張って、人気の無いところに無理矢理連れて行け」
〜〜〜〜〜〜
ガチャ
メイド「お待たせいたしました」
女騎士「で、これからどこに行くの?」
姫「とりあえずは、父上の元へ」
姫「そこでこの貴族の処遇を決めます」
姫「決断されるのでしたら、神官長補佐の神官さまも来てくれますし、その書類も出来ましたので、その辺も大丈夫でしょう」
ガシッ
傭兵「え?」
神官「ちょっと来い」
傭兵「えっ? ちょっ、神官!?」
神官「女騎士! 少し二人のことを頼むっ!」
女騎士「ああ! 頼まれたよっ!!」
傭兵「ちょっ、なんだよ、おい!」
神官「うるせえ! いいから大人しくついてこりゃ良いんだよ!」
姫「…………」
メイド「……ふぅ〜ん……」
メイド「やっと仲直りをする、ということですか……」
姫「もしかして女騎士さん、焚き付けたんですか?」
女騎士「まさか」
女騎士「ただ方法に悩んでたみたいだから、フォローしてやるから無理矢理連れ出せ、って話しただけ」
姫「なるほど……」
メイド「……まぁ、これで傭兵さまも、少し気が楽になると良いのですけれど……」
女騎士「ま、大丈夫でしょ」
女騎士「にしても、これでようやく傭兵にアプローチ出来るなぁ〜……」
姫「えっ!? アレだけのことをしておいて、まだしてないつもりだったんですか!?」
女騎士「いや、してないって」
女騎士「だってまだ結婚すら申し込んで無いし」
姫「ちょっ、ちょっと女騎士さん……!」
姫「それはいくらなんでも話が飛びすぎではないですか……?」
女騎士「いやいや姫さん」
女騎士「あなたこそちょっとノンビリしすぎでしょう」
女騎士「え? もしかしてアレですか?」
女騎士「ちょっと自分専属の護衛に出来たからって、安心に胡坐かいてました?」
姫「わたくしは! 傭兵さまの負担にならぬように配慮していただけです!」
女騎士「ほほ〜ん。自分の消極性を傭兵のせいにすると」
女騎士「だからまぁだなんです。本当」
姫「ぐぬぬ……」
姫「この行き遅れが!」
女騎士「はぁっ!? まだ二十一だし! この国の成人の儀がちょっと早すぎるだけだし!」
女騎士「だいたい若けりゃいいってもんじゃ——」
メイド「そこまでです、お二方」
メイド「良いですか? あの二人が今から仲直りしようとも、今手をつけている仕事は勝手に無くなってはくれないんですからね?」
メイド「まずは、これを片付けてください」
メイド「というか、廊下ということを忘れて大声上げ過ぎです」
メイド「もうちょっとレディとしての慎みを——」
女騎士「……神官がフリーだからって他人事みたいに……」
メイド「——あん?」
女騎士「いえ別に」
姫「でも神官さまって、確実に死んだ幼馴染のこと好きなままですよね?」
女騎士「あ〜、確かに」
姫「アレを超えるのは……大変そうですね」
女騎士「死んだ人は高いよ、本当」
メイド「……あなた方が何を言っているのか分かりませんね」
女騎士「……そういえば宮廷魔法使いさんが言ってたんですが」
女騎士「メイドさん、神官さまのような人がタイプだと仰っていたとか」
メイド「…………なんのことやら」
姫「あ、わたくしは神官長に聞きました」
姫「死んでも一途に思ってくれるような人と結婚したいと話していたそうな」
メイド「……………………」
スタスタスタ…
女騎士「あ、無視っ!?」
メイド「これ以上の無駄話に付き合っていられないだけですよ」
メイド「姫様も、王を待たせているのをお忘れですか?」
メイド「早く移動しますよ」
◇ ◇ ◇
訓練所・倉庫
◇ ◇ ◇
神官「……よしっ、ここなら大丈夫か」
傭兵「……なんだ? こんなところに呼び出して」
神官「あ〜……その、だな……」
傭兵「仕事があるんだ……分かるだろ?」
神官「分かるが……まぁ聞けよ」
傭兵「……なんだ?」
神官「その……なんだ……」
神官(くそっ……! 改めると、やっぱり辛い……!)
神官(すっげぇ言い辛い……!)
神官(今まで傭兵を苦しめてたのが分かるだけに……それ以上に——いや、それよりは下だろうけれど、それでも苦しさが、胸の中に広がってきやがる……!)
神官(なんだよ……謝るって、こんなに辛いのかよ……!)
神官(軽くすら……言葉に、できねぇ……!)
神官(ここは誤魔化して一旦……——)
——だってそんなものは、あなたがさっさと謝って、お礼言って、それで終わることじゃないですか——
神官(——……いや、違う。そうじゃない)
神官(それ“だけ”のことが出来ないで、どうするんだ……俺は……!)
神官(これから先……また……昔みたいに……傭兵と仲良く、なりたかったら……!)
神官(せめてこれぐらい出来ないと、昔みたいにコイツと肩を並べることなんて、出来ねぇじゃねぇか……っ!!)
神官「……傭兵!」
傭兵「……ん?」
神官「……すまなかった」
——今まで、お前一人に、責任を押し付け過ぎた——
——だから……ありがとう——
——俺を、支えてくれて——
——あの子の願いを、聞いてくれて——
——だからこれからは……俺にも、持たせてくれ——
——あの子がお前に持たせた……その願いを——
——好きなあの子の、お願いを……——
〜〜〜〜〜〜
さらに、三ヵ月後
〜〜〜〜〜〜
姫「……傭兵さまと神官さまの二人が、ホ○かと思われるほど仲が良くなってしまった……」
女騎士「どうしたら良いと思うっ!?」
メイド「……さあ」
姫「さあって!」
女騎士「さあって!」
メイド「仲直り出来たんですから、良いじゃないですか」
女騎士「そうなんだけど……そうなんだけど……!」
姫「ですがさすがに休みを合わせてお二人で出かけられるなんて……!」
女騎士「こりゃもうカップルだよ本当っ!」
女騎士「ボクだって告白したのになんか困った表情浮かべられたままだし!」
女騎士「っていうか姫さんに邪魔されたしっ!」
姫「わたくしだって返事を聞いてなかったんですから当然ですよ!」
姫「何勝手に一人だけ返事もらおうとしてるんですか! 図々しいですよっ!!」
ギャアギャアギャア…!
メイド「……はぁ……」
メイド「騒がしくするなら、せめて私の執務室外でしてくれませんかねぇ……」
メイド「まぁ、王女であるあなたがココいることに違和感は無いのですが……ちょっと五月蝿過ぎますよ」
姫「傭兵さまが神官さまと出かけられて、わたくしはここで女騎士さんに守ってもらわないといけないんですよっ!」
女騎士「ボクだって二人を守るために仕方なくここにいるだけだって!」
メイド「ああ……もう、そうでしたね。すいません」
メイド「ですがせめて、もう少しお静かにお願いします」
メイド(まあおそらく、あの二人は私達に対して、お礼の品でも買いに行ったのでしょうが……)
ギャアギャアギャア…!
メイド(……今お二人に言ったところで、無駄でしょうね……)
メイド(それに、あの二人が今まで一緒の休みが取れないぐらい立て込んでいて、あの仲直りから期間が開いていた以上、気付けという方が難しいですか……)
メイド(進んで前線に立っていてさらに忙しかった二人なら、尚更でしょう)
メイド(というか二人とも、嬉し過ぎてテンションがおかしいんですよ……)
メイド(自分のことのように、二人が仲良くなったのを喜んで……肩を並べて戦ってる姿に喜んで……)
メイド(ですがまあ……悪い気は、しませんね)
メイド(私だってきっと、その姿を見れたら……同じぐらい高揚していたでしょうしね……)
女騎士「だいたい姫さんは——」
姫「それでしたら女騎士だって——」
メイド(それにしても……)
メイド(死ぬだけの簡単なお仕事……では、無くなってしまいましたね。傭兵さん)
メイド(あなたにはこれからも、まだまだ頑張っていただかないと……ね)
終わり
「終わり」の一行が入らないぐらい改行しすぎた
急ごしらえだから矛盾出てるかも…まぁ仕方ないよね
ということで今度こそ終わり
傭兵はこのまま三角関係で苦しめばいいよ
この年齢になってやっと青春が遅れてきたと思えばそれで
このSSまとめへのコメント
うわぁぁぁぁぁ‼︎
傭兵と姫さまと女騎士のイチャコラが見たかったぁぁぁ‼︎