ユミル「平和だな」 (44)

巨人が突然姿を消し、一転平和になった世界で暮らす21歳になったユミルの一人称で語られるお話を考えました。

15歳で訓練兵を卒業したその六年後という設定になっています。

ユミルとクリスタは共同出資で花屋を立ちあげています。
その二人の日常や店を立ち上げるまでの回想を書きました。

よかったら見てってください。
書き溜めしてあるのですぐあげ終わると思います。鬱陶しい前書きすみません。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1376729779

私とクリスタはよく寝不足による体力の低下をいつもより少し贅沢な食事で補おうと考える。


憎きウェディングブーケの制作で疲れ切った体をなんとか動かし、店に入る。


前々から混んでいる混んでいると言われていたがなんとか座れた。注文も済ませた。




湯気だつ厨房とこちら側を隔てているカウンターは窓から入り込む朝焼けを跳ね返して不自然なぐらいに輝いている。


それがそこを陣取る老猿の群れをピカピカと照らしている。



「まるで出来たてホヤホヤの剥製の陳列棚だな。」

私はあからさまな悪意を込めてクリスタにこう耳ごちた。


クリスタは不謹慎だよとでも言いたげな顔で私を見る。
構わず私は続ける。

「きっと死後間もないまま無理に笑った表情作らされて樹脂やなんかで固められたんだろうよ。」




クリスタは自分の体と反対側にある厨房の方に向き直り
「まだかなーまだかなー」
と言い、私の敵意に取り合わない姿勢を表明した。



老猿たちは徒党を組んでコックに詰め寄り、トマトや豆の産地やついてを聞き出そうとしている。


内地で生まれ、内地で育った人間に土にまみれた汗臭い仕事は無縁だ。



そんな奴らの相手に精を出すコックの甘っちょろい寛大さに私は怒りを隠し得ない。



私やクリスタのメシをないがしろにしてまで………そのババア共に………

この店、チルチルバンズ?チルキーズの売りはなんと言って新鮮な野菜を使った創作意欲たっぷりの料理だそうだ。クリスタの受け売りだが。



開拓地から送られて来た野菜の中でも特に

甘かったり
辛かったり
固かったり
柔らかかったり
旨味がなんとかだったり
美味しかったり
するようなものをコックが趣向の限りを凝らしてアートに仕立て上げるらしい。クリスタの受け売りだが。





しばらくうんざりしてると先ほどの老猿の群れは引き揚げており、禿げ上がった小柄なコックが汗だくで野菜を火にかけているのが目に入った。



ムッシュ・ちんちくりんだ。


辞書の「醜男」の項目に挿絵をつけるならこいつの顔だな、なんて風に考える。





身の毛もよだつ
チルチルバンズ?チルキーズというどうしようもないネーミングと
このコック。

果たして今から出されるメシがこの双子の汚点を拭い去ることができるかどうか見物だな…………


ちなみに私は野菜ではなく肉の塩漬けを一番大きいサイズで頼んだ。


上目で前髪をいじるクリスタのみを捉えていた私の目の焦点を少し緩める。そして気取った内装の店内に目を…………



(……………?。なんだありゃ?……うっ!!!!!)






クリスタ「ユミル、どうしたの?具合悪いなら言ってね?」


私はクリスタの背後のカウンターの上に高らかに掲げられたコック?チルチルの肖像画に目をやっている。



………笑いがこみ上げてくるが押し[ピーーー]しかないよな。




「あぁ…大したことじゃないさ。さっきは気を悪くさせたみたいだったからな、その……腹が減ってるんだ」



間の取り方や呼吸の入れ方なんか
神がかった誤魔化し方だろ?



私は前衛芸術と化したチルチルキーを前にして腹からこみ上げてくる笑いをどう処理すべきだろうと考えている。



クリスタ「そうだったんだ!確かにお料理出てくるの遅いしお腹空いたよね。もうちょっとだからお話してようよ」



にっこり笑うクリスタとにっこり笑うチルキー坊やの顔の対比にもう堪えられない…………



クリスタ「気にしないでね!お腹空いてるとき余裕なくなるのは私も同じだか「ブフぉ!!!!」


クリスタ「………………。」


クリスタ「変だよユミル。何がおかし「はははは!!!あれ見ろよ!!」



クリスタ「……?…………!!」



クリスタ「あははははははは!!!!な、なにあれ!!おっかしい!!」



「目、目があっちまった!!お、恐れ多くもミスターチルキー殿の!……チルキー殿の!」




クリスタ「あはははは!ユミル!なにいってるのユミル!!!ここのコックさんは…フォレスターさんだよ!!」




「ぎゃははははは!!!」


クリスタ「あはははは!!て、適当なこと!い!言わなで!!!」




コック?フォレスター「大変お待たせ致しましたお嬢様方」



クリスタ「…………………。」
「…………………。」


クリスタ「あはははははははは!!!!」
「ぎゃはははははは!!!!」




…………………………。






クリスタ「追い出されちゃったね。」

「あぁ。」


クリスタ「すごく悪いことしちゃったね」


「あぁ。」


クリスタ「お腹減ったよ」


「次探すか」



この後私たちはバンズ・チルチルキー殿下の持ってきた青みがかったトマトの奇行種と肉の塩漬けが見るからにまずそうだったことで再び笑いあった。


そして次の店でベジタリアンへの当て付けと言わんばかりの量の肉を二人で食べてチルキーの店の前を通って帰った。




長い共同生活の中でクリスタは徐々にだが私に毒されていっている。

チルキーの一件の後、昼は三時もすぎた頃だ。


互いに激務による疲れが出てきた。




「クリスタ、蜂蜜とって」


クリスタ「あー………あ、そこ。」



「じゃなくてとってくれよ」




クリスタ「もー。はい。」




「どうも」




クリスタ「なんでも面倒くさがってたらすぐに老けちゃうよ?」




「悪いがそこのミルクジャーも」





クリスタ「ちゃんと私の話聞いてる?」




「あー聞いてる聞いてる!にしてもこのパイ美味いな!」

クリスタ「どうも。ところでさ、さっきから全部自分の方が近いんだから自分でとりなよ」




「いやな、このシナモンパイお前始めて作るんだろ?それがとびきり美味いもんだから私はお前の記念すべきシナモンパイ第一号に最大限の敬意を払ってだな」



クリスタ「作った私へは?それに木苺とかスモモのならいつも作ってるじゃない」



「シナモンのは始めてだろ?」



クリスタ「もう…………分かったよ。それで、気に入った?」

「さっきから言ってるだろ。お前は天才だ」


クリスタ「ありがと。また作るね」


「頼むよクリスタちゃん。ところでミルクジャーとってくれ」


クリスタ「……………」


クリスタ「仕事に戻ってるね」

そういうとクリスタは素早い動作で店の名前が刺繍されたエプロンを羽織った。


私のとはお揃いの色違いだ。
私が赤でクリスタが黄色。


そして一階に駆け下りる。



私は遥か彼方のミルクジャー見つめる。




取ってくれよ…………。
まぁ確実に私のが近いが

……。


午前と午後の仕事の間にとっている休みは毎度実に有意義だ。


もっとも今日は仕事の都合上こんな時間にだが。



まぁこの時間の後じゃ私は何時間だって働きたいと思うね。


実際は二時間もすりゃあ変わってくるけど。


ここんとこ激務が続いている。
忌々しいウェディングブーケの注文が増えてるからだ。



私たちの店は手入れして並べた花を誰かが買い取って行くのを待つ以外にも各種気の利いたサービスを展開している。



冠婚葬祭はもちろん押さえてるし、…………。



そういやエレンとミカサのバカ夫婦もうちに来たっけか。


エレンのやつ意気込みやがって

ブライダルフラワーが欲しいんだ。ミカサにピッタリな色のを選んでくれ」だなんて言ってたな。


どこでそんな言葉覚えてきたんだよ全く。


一番色気のある言葉が
キョジン!リッタイキドウ!
の程度だったくせしてこいつは。


まぁいい。


当店では冠婚葬祭、あらゆる場面を美しく彩る花々をご用意しております。


店はふたりでやってる。

クリスタ、私。以上です。


花の管理や事務作業の負担はきっちり二等分してある。開店して以来続くただ一つのルールだ。


「店の半分は私が」


どんな仕事でもきっちり二人で分ける。どっちが受けた仕事だとかそんなのは関係ない。


店を開くことになったのは私たちが事実上、兵団をクビになったからだ。

巨人がいない世界で立体機動を使って飛び回る人間なんて間抜けだろ。


兵団解体に異議はない。
仕方なかったんだよ。



私達兵団員のクビを告げる通知書なんかふざけてたぜ。


『君たちは今はとりあえず必要がなくなった!またその時がくれば招集する!健闘を祈る!さらばだ!』

ざっくり言うとこんな感じだな。



クリスタなんかもう
生きる望みを失った!みたいな顔してたな。


私たちは近衛兵になろうとしなかったから荷物をまとめさせられてさっさと兵舎を出て行くよう責めたてられた。



私は帰りたい場所なんかなかったしクリスタにいたっては帰る場所自体がなかったそうだ。


後で聞いた話だけどね。


思いつめた顔をして荷物をポイポイ適当に詰めるクリスタを見て私はこいつを一人にしておくとすぐにでも死のうとするな、と思ったんだ。

だから一人で行かぬように引き留めた。死に場所探しなんかさせないよってね。


ーーーーーーーーーーーーー


「クリスタ、そんなに急いでどこ行こうってんだ?」



クリスタ「帰るの。おうちに」


「嘘が下手だな」







クリスタ「……………。嘘ついてどうなるの?」

こいつは目鼻立ちが少し強いから睨まれると引いちゃうんだよな。
それでもこれは嘘をついてる顔だ。




「もうやめろよ。生まれのせいで一生自殺願望者でいる必要ないだろ?お前はお前だ」




クリスタ「………………。」



ユミル「死に方なんか何十年後になってでも選べるさ。それよりお前は自身今を楽…………」


私の声をクリスタの言葉が遮る。

クリスタ「分かったような口聞かないでよ!!!」


「…………………。」


クリスタ「ユミルには分かんないよ!生きてるだけで疎まれる人間がやっと意味のある死に方を見つけられたと思って……それなのに」


変わらないな。こういう変なところで真に頑ななところ。


「それなのに?」


こいつが言いそうな答えなんか一通り知っていたが……



クリスタ「………………ひどいよ。何もかも………」


今までに見た事がないぐらい弱々しい主張だった。


ここで一旦中断します。
すみませんごはんいってきます(T_T)

読んでくださってるかたいらっしゃいますでしょうかorz


一時間もすれば再開しますm(_ _)m


再開します。
ーーーーーーーー

「…………。クリスタ、酒を飲もう。いつかみたいに。もう明日が兵站歩哨訓練だとか考えなくてもいいんだから」


クリスタ「…………。今よくそんな事が言えるね」


「私からの退役祝いだ。今日はおごるよ」


クリスタ「いかないってば」


「いーくんだーよー!!」


強引に腕を引っ張るがクリスタも激しく抵抗する。


クリスタ「離してよ!………離しなさいよ!バカユミル!」


「お、元気じゃん。今日はしこたま飲もうぜ」


クリスタ「離せー!」


騒ぐクリスタを右肩に持ち上げる。
左手には私のお粗末な荷物の他にクリスタの小さなトランクもついてきている。

足や腰を痛めた軽微な負傷者向けの緊急時の撤退動作だ。



クリスタは相変わらず手足をジタバタさせている。


私の胸や腕を蹴り下ろすブーツのつま先が結構痛い。


背中の生暖かい感覚、これは多分クリスタの涙だろう。泣いてるんだ。泣くといいさ。




しばらくしてクリスタは手足の抵抗をやめた。



クリスタ「ユミル、降ろして」


「逃げないか?」

クリスタ「逃げない」


「もうすぐつくぞ」





小汚い酒場は意地汚い駐屯兵団崩れの男や中途退役になった訓練兵のガキどもで溢れていた。


「混んでるな。クリスタ、何飲もう?」


クリスタ「りんご酒」

さっきから一転してしおらしい態度だが油断はできない。


やっとの思いで座った席の周りには幸いにも馬鹿そうな飲んだくれのオヤジごった返していた。


店から逃げるのは骨が折れるだろう。


しばらくしてまだ栓を空けられてないりんご酒の中瓶が二本届いた。

肴に頼んでおいたのは芋の香草炒め。


これがまた不味いんだ。



この時代は何かにつけて
芋、芋、芋、だから嫌になるよな。



「二人の生還とこれからの人生に乾杯だ」


頭の中で浮かんだ適当なフレーズをくっつけて強引に言葉にしていく。


クリスタ「……………乾杯」



……………。


沈黙が二人の間を冷たく隔てる。


「なぁ………この後どう生きていこうかね」


クリスタ「知らない」

自暴自棄の兆候が見られるな。


「私はな…………結婚はどうでもいいが家は欲しいかな」


クリスタ「………。」



「そんなに広くなくてもいいから、他の所で贅沢しまくって周りのやつらに『こいつは金を持ってる!』って思われながら過ごしたいんだ」


クリスタ「…………。」



「貧乏でも楽しんでやるつもりだよ」



「お前は人生に何を求める?」



クリスタ「今は静かに[ピーーー]る場所、出来るだけ綺麗な所」

隣の席のババアがギョッとした顔を浮かべてこちらの席を眺める。
そしてなんて罰当たりな!という目でこっちを見てきやがったから睨み返してやった。


「お花がいっぱいのところか?」



クリスタ「そう」


「綺麗な毛並みのお馬さんもいて」


クリスタ「そう」


「小鳥さんたちも君を祝福している~」


クリスタ「そう」



「……………。」



「なぁクリスタ。思うに」


「お前の人生はまだ始まってもいないんだよ?やっと自由になれたのに」

クリスタ「…………。」



私は痺れを切らしてクリスタのりんご酒の瓶を強引に口に持って行った。


「憂鬱は酔ってわすれようぜ!」


私はイライラしていた。

ここまでの一連が始末の悪いエゴの呵責だなんて自分が一番よく分かっていた。




「ほら、いい飲みっぷりじゃないか!お前はいける口だな!」


瓶から流れ落ちるりんご酒の大半がクリスタの上着に滴り大きなシミを作っていく。

安酒特有のアルコールの主張が強すぎる不快な匂いが漂った。




周りの馬鹿そうな客が私にけしかけている。

「やれ!もっと飲ませろ!」

ぶん殴ってやろうかと思った。




ところでだ…………。



パンッ!!



クリスタの平手が私の頬をはたきのけた。


クリスタはうつむいている。顔は見えない。


クリスタ「叩いて………………ごめん。もう行くね。今までありがとう、それじゃ」


私には飲んだくれをかき分けて店を出ようとするクリスタの背中を眺めることしかできなかった。


そしてクリスタが店から姿を消した瞬間、これが最後になるかもしれないことに気づいた。

今までにこんなに泣いたのは始めてってぐらいに泣いた。


頬が熱を帯びていた。
これがあいつの残した最後の温もりだ、なんて馬鹿なことを考える暇があったら今からでも追いかけてまた腕をつかんでやればいい。



しかし私にはできなかった。


こんな最後はあんまりだ、と思った。


でも私の耳には床に落ちるりんご酒のポタポタという音しか聞こえなかったし酒場の薄気味悪い調度品しか見えなかった。

私は目の前で人形になった店主に冷たい硬貨を渡した。人形でごった返す無機質な酒場を離れる。




友達を失った。ほっときゃクリスタは死ぬだろう。

探す手だてもないときてる。
そうなるといよいよ八方塞がりだ。





友達を失った。クリスタは一人で死んでいくのだろう。
あいつはどんな死に方を選ぶのだろう。




風が涙に濡れた頬に当たる。風は私の頬から血の気を吸い取ってなお吹き付ける。


痛い。



店を出て鼻をすすって辺りを見渡す。



すると店の看板の下でトランクに腰掛けたクリスタがいた。

またメソメソグズってる。


私をぶってなんか言うからそりゃぶったさ。


なんでか分からないけど。
多分こんなこと言われてなくてもぶってた。私があんなことをした後でもだ。


クリスタ「ごめんねユミルごめんね」


冷たい風に焼かれて真っ赤な顔をして泣きわめくクリスタに怒鳴りつける。

「馬鹿野郎!ふざけやがって!ふざけやがって!」


泣きじゃくるクリスタを私は二回ぶった。かわいそうにな。


クリスタ「痛いよ…………ごめんねユミルあんなこと言って心配させて。ほんとにごめんね」


私はこいつをもう一度だけぶった。
クリスタはビイビイ泣き始めた。


「いいかクリスタ。お前が私をどう思ってようと知ったこっちゃないがな、今度また死にたいなんて言ってみろ!私がぶん殴ってやる!」

クリスタは泣くばっかりだ。


「もう、心配させるなよな」


私は膝を折って泣いているクリスタの目の高さぐらいまで崩れ落ちた。


クリスタ「死にたくないよ!…………さびしいよ!………でもどうやって生きて行けのいいか分からない……私どうすれば…」


本当によかった。もう一度会えた。



クリスタを抱いていると自然に泣けた。

小さくて華奢な体を抱きしめる。こんな細い体で一生懸命生きてきたんだ。



そしてずっと苦しんでる。今も。


こいつはずっと自分で決めた自分の心にがんじがらめにされている。私には分かる。


小さな体で、心で、今の今まで死に物狂いで死のうとしてきた。


そんなの悲しすぎるだろ?


お前はお前が自分自身に(あなたはこういう人間なの)と言い聞かせる人物像でもないし


(あなたはこういう生き方をして死ぬの)と言い聞かせる人生でもない。




クリスタ「ごめんなさいユミル。あなたは私の一番大切な友達だよ。私最低だね」

「あぁ、知ってるよ。お前は最低だ。私も最低だ。そして二人ともグズで間抜けだ。これからも仲良くしよう」



本当によかったよ。


「私は故郷なんかには帰らない。お前どうする?」


「家に帰るのか」


クリスタ「死んでもやだよ」


「その意気だ」

この後安宿に酒をしこたま持ち込んで朝まで騒いだ。





ぐるぐると回転する世界の中で将来について話す。





「なぁ、どうやって生きてくかなー」



クリスタ「おみせやってみたいかなーはははは」

火照った顔を私の方に向けて
輪郭のはっきりしない言葉を話す


「なんの?」


クリスタ「おうまさん。ブルヒヒヒイィン」

私はその達者な物真似に笑ったし
クリスタ自身自らの馬の声真似のあまりの出来の良さに驚いていた。


「馬かー。高いぜー」


クリスタ「だよねー」


「やるとしてどこに?」


クリスタ「どこでもいいよー二人ならねー」


「そいつぁどうも!」

私が近寄ってクリスタの髪を犬をあやすみたいに乱暴にクシャクシャするとクリスタは抵抗の色が伺えない声色でキャーと叫んだ。



クリスタ「お店だねー」



「店だなー」



それからどうしようもない案ばかりの応酬が続いた。これが本当に楽しかった。


馬が駄目なら牛を売ろう。

臭いから却下だ。

立体機動装置の教官になろう。

もう兵士はこりごりだ。

なら立体機動装置を作って売ろう。

もう出回ってるものがあるのに誰が買うんだよ。


じゃあ娼婦にでもなれっていうの!?


やりたいのかよ?


やりたいワケないでしょ!!

クリスタ「あ、お花屋さんは?私、いじるのも育てるのも得意だよ」

「さっすがお嬢様」


茶化す。


「ありがとーう!」



クリスタが背中に抱きついてくる。


顔を見ると少し腫れていた。


クリスタ「小さい頃庭で勝手にやってたんだ。私、話す人いなかったから」


「……………。」


クリスタ「わー!暗くならないでよ!もう昔の話なの!気にしないで!素養も経験もあるって話なの!」



「そうとは言っても………」


クリスタ「ユミルも私も飲みたりていないんだよ!まだお酒はたくさんあるんだからもっと飲もう!」


「ちょっと待て!花屋だな!花屋!よし!私もいいと思う!酔って忘れるからメモしとこう!」


……………………。

次の朝、クリスタも私も互いのパンパンにむくんだ顔を見ながら目覚めた。


交わされる言葉はない。



今はうだるような胸焼けと頭痛だけが二人の共通項だ。


「チェックアウトの時間だ…………。忘れ物は?」


クリスタ「ないよ。これユミルのポーチ?」

「私のだ。ありがと」


クリスタ「行こう」



私たちは安い茶屋で少し寝て時間を潰し、部屋を借りるため、街中を歩き回った。


そしてやっと見つけたのが低俗をレンガで固めたような物件の中に存在した比較的まともそうな一室だけだった。



雀の涙ほどの退職金を封筒から引っ張り出して契約印を押した。

今思えばもっとちゃんと探しておけばと思うがこの部屋での生活は最高に楽しかった。


二人で取るに足らない仕事をいくつもやった。


出来上がったパンにピクルスを挟むだけの仕事や返却される本をただひたすら受け取るだけの仕事。


でもそれだけじゃ何年続けても店を建てるのに足るだけの資金は得られないから私たちは新設された公安警察や近衛兵団の募集事務所の受付をやった。


たまには酒も飲みに行ったし海に遊びに行ったりもした。クリスタはどこにいっても抜群に目立った。







何年も何年も二人で続けた。
そして小さな小さな店を手に入れた。



ーーーーーーーーーーー




そして今に至るというわけだ。

今になっても苦労は尽きない。
ウェディングブーケはクリスタのオハコだが私にとってはクリアすべき障害でしかない。
花に飛んできたり茎に卵を産む虫も相変わらず苦手だ。




そして今も寝不足だ。




これを終わらせてクリスタと私の服を買い、104期の宴会に向かう。


それが終われば次の仕事だ。




この暮らしはキツイが悪くない。


万事上手くいっている。


私の愛すべき小さな相棒はいつもそばにいるし人生を最高に楽しんでる。



クリスタは常日頃からおしゃれもしてるし男人気も相変わらず絶好調だ。


花屋の評判も上々。常連もついた。







だから親友の私も楽しいし、人生は悪くないと思う。



万事上手くいっている。





さて、ウェディングブーケだ。
クリスタご自慢のシナモンパイの残りを頬張る。



私はクシャクシャになった自分の色のエプロンを掴んで一階に降りた。






ーおしまいー

終わりです!

少し長かったかもですが読んくれた人ありがとう(^^)クリスタユミルコンビには原作でも幸せになって欲しいものです!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年08月16日 (火) 22:36:25   ID: b1eghrHd

ジャンが主人公だったSSの、前日譚なのかな?

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