ウサギ「決着つけようぜ……どっちが最速かをよ!」カメ「うむ!」 (93)

ウサギのアジト──

ウサギ「決めたよ」

ウサギ「オレ、カメと決着つけるわ」

ウサギ「どっちが世界最速か、いい加減ケリつけねぇとな」

アキレス「えええええっ!?」

タヌキ「マジっすかポンポコ!?」

ウサギ「大マジだよ」

ウサギ「どいつもこいつも、みんなオレとカメのどっちが速いかを知りたがってる」

ウサギ「一方で、どっちが速いかは決めちゃいけねえみたいな空気もある」

ウサギ「もういい加減、ウンザリなんだよ。シロクロつけてぇんだ」

タヌキ「ですが……月に許可も取らずにっすかポンポコ」

ウサギ「タヌキ」

ウサギ「また背中に火ィつけられて、湖に沈められてェか?」ギロッ

タヌキ「い、いえっ……ポンポコ」

ウサギ「どうせ月に申し出たって、許可なんか下りやしねえよ」

ウサギ「もし、オレが負けでもしたら、月の威信にも関わってくるわけだからな」

ウサギ「あと語尾にポンポコつけんのやめろ。うぜェから」

タヌキ「すんませんっす! オイラ、人里でゆるキャラデビューしたくてつい……」

ウサギ「口調だけ可愛くしても意味ねぇんだよ」

アキレス「しかし、勝算はあるのかね?」

ウサギ「勝算?」

アキレス「私も昔カメとかけっこをして大敗し、地位も名誉も全て失った」

アキレス「私の足でも、カメには決して追いつけなかった!」

アキレス「君があのカメに勝てるとはとても思えな──」

ウサギ「……アキレス」

ウサギ「アキレス腱出せや」

アキレス「えっ……」

ウサギ「今すぐ人生をゴールしたくなきゃ──」

ウサギ「出せ」

アキレス「は、はいっ……」ガタガタ…

ブチィッ! ブチィッ!

アキレス「あぎゃあああああっ!!!」ゴロゴロ…

ウサギ「オレが勝てる相手とだけケンカする三流とでもいいてえのか」

ウサギ「アキレス。お前如きが、オレを値踏みするなんざ百年はええ」

タヌキ(両足のアキレス腱をぶっちぎった……!)

タヌキ(ひぇぇ……ウサギさんの制裁は恐ろしすぎるっす!)

ウサギ「ま、もう決めたことだ」

ウサギ「この山を騒がすことになるかもしれねえが、オレはやる」

ウサギ「日時はちょうど一週間後だ」

ウサギ「タヌキ、この挑戦状をカメのアジトに届けてきてくれるか」スッ

タヌキ「はい、任せて下さいっす」

タヌキ「泥船に乗った気持ちでいて下さいっす!」

ウサギ「それをいうなら、大船だろが!」

タヌキ「す、すんませんっす!」

カメのアジト──

カメ「ふぅ~む……」

浦島太郎「どうしたんじゃ? さっきからうなっておるが」

カメ「さっき、ウサギのところのタヌキが届けに来た手紙だ」

カメ「読んでみろ」ピッ

浦島太郎「どれどれ……」ガサッ

浦島太郎「こ、これは!? ウサギからの挑戦状ではないか!」

カメ「うむ」

カメ「ウサギめ、ついにシビれを切らしたようだ」

浦島太郎「どうするんじゃ、カメよ」

カメ「浦島、こういう時俺がどうするかぐらい分かってるだろう?」

浦島太郎「ふっ、愚問じゃったな」

浦島太郎「おぬしは、挑まれた勝負から逃げるような男ではない」

浦島太郎「まして、スピード勝負となればなおさらじゃ」

カメ「そのとおりだ。もちろん受けて立つ」

カメ「玉手箱で老人になって、さらに男前が上がったな? 浦島よ」

浦島太郎「ほっほっほ。もちろん、最初は年老いてしまって戸惑ったがのう」

浦島太郎「ジジイになったおかげで、今やのんきな年金暮らし」

浦島太郎「電車やバスでは勝手に席を空けてもらえ」

浦島太郎「ちょっと体調悪いフリすれば、みんな気遣ってくれる」

浦島太郎「ジジイ最高じゃよ! ほっほっほ!」

浦島太郎「“クソジジイ”などと陰口叩かれとることも知っとるが」

浦島太郎「この命尽きるまで、若人から甘い汁を吸いまくってやるわい!」

浦島太郎「ほ~っほっほっほっほ!」

カメ「まったく、乙姫はとんだ老害を生み出してしまったようだ」

カメ「ツル! すまんが、返事の手紙をひとっ飛び届けてきてくれ」

ツル「分かりましたわ」バサバサッ…

ウサギとカメが、かけっこで決着をつける。

だれもが待ち望みつつも、決して口には出さなかった両雄の対決。



どちらが速いのか──

否、どちらが世界最速なのか──

否、どちらが上なのか──



この衝撃的なニュースは、瞬く間に世界中を駆け巡った。

「ついにやるのか……」 「こりゃ世界が動くぜ」 「誤報じゃねえのか?」

「どっちが勝つと思う?」 「ウサギだろ!」 「いや、カメだ!」

月──

かぐや姫「なんですって!?」

付き人「ええ、間違いありません」

かぐや姫「まったく、ウサギにも困ったものね」

かぐや姫「私に断りもなく、そんな重大なかけっこを行うなんて……」

付き人「いかがいたしますか?」

かぐや姫「こうまで騒ぎになっては、今さらかけっこの中止はできないわ」

かぐや姫「そして月の威信にかけて、ウサギの敗北は断じて許されません!」

かぐや姫「こうなったら私自ら、地球に向かうわ」

かぐや姫「すぐに船を準備なさい!」

付き人「ははーっ!」

竜宮城──

乙姫「ほう、カメがウサギとかけっことな……?」

タイ「はい、ちょうど一週間後に行われるそうです」

乙姫「ふむ……」

乙姫「もしカメが負けるようなことがあれば、竜宮城の名誉に傷がつく」

乙姫「なんとしても、カメを勝たせねばならぬ」

乙姫「タイ、ヒラメ! わらわは地上に出向くぞ!」

乙姫「竜宮城の総力を挙げて、カメに勝利をもたらすのだ!」

タイ「はいっ!」

ヒラメ「了解っ!」

ウサギの特訓──

タヌキ「かけっこまで残り数日……なのに」

タヌキ「なにか変わったトレーニングをするかと思いきや──」

タヌキ「ひたすら走り込み、疲れたら昼寝、の繰り返しっすか」

ウサギ「秘策やら奇策やらに頼るなんてのはな、三流のやることだ」タッタッタ…

ウサギ「オレみたいな一流は、地道なトレーニングが一番効率がいいんだよ」タッタッタ…

アキレス「だが、こんな特訓であのカメに勝てるとはとても思えんがね」

ウサギ「!」ピクッ

ウサギ「アキレス……アキレス腱繋がったみたいだな? よかったな」

アキレス「ああ、あれからすぐ手術をして──」

ウサギ「出せ」

アキレス「えっ……」

ブチィッ! ブチィッ!

アキレス「ぎぇあぁぁぁぁぁっ!!!」

タヌキ(ひえ~っ! 口は災いのもとっすねえ)

カメの特訓──

カメ「…………」ノソノソ…

カメ「…………」ノソノソ…

ツル「…………」

ツル「ものすごくゆっくり歩いてますね。普段より遅いくらいですわ」

ツル「カメさんは、ウサギさんを少し甘く見すぎなのでは……」

浦島太郎「いや、あれでいいんじゃよ。おツルさん」

ツル「えっ?」

浦島太郎「かけっこでは足の速さはもちろんじゃが、なにより爆発力がものをいう」

浦島太郎「カメはああやって普段よりゆっくり動くことで」

浦島太郎「当日に向けて“爆発力”を溜めておるんじゃよ」

ツル「爆発力……」

浦島太郎「甘く見るどころか、ウサギをあなどれぬ相手と認めているからこそ」

浦島太郎「カメは、あのようなトレーニングを行っておるんじゃ」

ツル「なるほど、さすがカメさんですわね」

かけっこ前日(ウサギサイド)──

タヌキ「いよいよ明日っすね」

タヌキ「お二人のかけっこ、世界中で注目されてるっすよ」

ウサギ「関係ねェよ、オレはオレのレースをするだけだ」

ウサギ「もちろん、オレのレースをするってことは勝つってことだがな」ニッ

アキレス「正直、ウサギ君が勝つヴィジョンが浮かばないがね」

ウサギ「出せ」

アキレス「はいっ!」

ブチィッ! ブチィッ!

アキレス「あはぁ~~~~~んっ!!!」ゴロゴロ…

かけっこ前日(カメサイド)──

ツル「いよいよ明日ですわね」

ツル「すでにレース会場には、大勢の野次馬が詰めかけているとか」

カメ「まったくヒマなヤツらだ。他にすることはないのか」

浦島太郎「それだけ、皆がおぬしらの対決を待ち望んでいたということじゃよ」

浦島太郎「そんでもってワシも、群衆の中でケツや胸を触り放題じゃ~!」

浦島太郎「ほ~っほっほっほっほ!」

カメ「せいぜい逮捕されないように、気をつけろよ」

カメ「また身元引受人として警察署に行くのはゴメンだ」

かけっこ当日──

パァンッ……! パンッ……! パァンッ……!

「焼きそば~、焼きそば~」 「たこ焼きあるよ~!」 「かき氷いかがっすか~」

ワイワイ…… ガヤガヤ……



ウサギ「花火に出店……まるで縁日だな」

ウサギ「たかがオレとカメがかけっこするだけだってのに。なに考えてんだ」

タヌキ「そりゃあ、こんなに盛り上がるイベント他にないっすからね」

アキレス「あまり騒がしいのは好まんな」

カメ「おはよう、ウサギ」ザッ…

ウサギ「カメ……よくオレの挑戦を受けてくれたな」

カメ「お前が挑戦してこなかったら、俺から挑戦していたところだったからな」

ウサギ「決着つけようぜ……どっちが最速かをよ!」

カメ「うむ!」

ガシィッ!

ツル「なんて力強い握手なのかしら……」

タヌキ「好敵手ってやつっすねえ」



ザワザワ…… ドヨドヨ……

「お、おい!」 「あれ、かぐや姫じゃないか!?」 「乙姫もいるぞ!」

「超VIPじゃねえか!」 「すげえ!」 「月と海底のトップ二人だ!」

かぐや姫「ウサギ、お久しぶりね」

ウサギ「おう、かぐや」

ウサギ「わざわざ月から、応援に駆けつけてくれたのか」

かぐや姫「ええ、それにあなたには月の威信にかけて負けてもらうわけにはいかないわ」

かぐや姫「この機械から出る光線を浴びせれば、カメの動きを封じることができます」

かぐや姫「もちろん周囲に発覚することはありません」

かぐや姫「だからかけっこが始まったら、これを使いなさい」

かぐや姫「分かってるわね、これは命令よ」

ウサギ「…………」

乙姫「元気そうだな、カメ」

カメ「乙姫か」

カメ「まさか、海底から来てくれるとはな」

乙姫「ふふふ、おぬしに負けてもらうわけにはいかんからな」

乙姫「おぬしにはこの催眠ガスを授けよう」

乙姫「無色無臭の特別製だから、絶対にバレぬ」

乙姫「かけっこ開始と同時にこれを使えば、ウサギはねんねしてしまうことだろう」

乙姫「竜宮城代表として、これを使って必ず勝て」

カメ「…………」

パシッ! パシィッ!

かぐや姫「いたっ! なにをするのよ、ウサギ!」

乙姫「ぐっ……殴りおったな、カメ!」

ウサギ「オレたちはあくまで、自分のためにかけっこするんだ」

カメ「うむ、竜宮も月も関係ない」

ウサギ「もし下らない勢力争いのために」

カメ「俺たちのかけっこに茶々入れるような真似したら……」

ウサギ「月だろうが──」

カメ「竜宮城だろうが──」



ウサギ&カメ「ツブす」

かぐや姫&乙姫「…………」ドキーン

かぐや姫「ウサギったら……」

かぐや姫「あんな目で睨まれたら、惚れ直しちゃうじゃないのよ、もう……」ポッ…

乙姫「うむ……お互い難儀じゃな」

乙姫「なんで、わらわはあんな爬虫類に惚れてしもうたのか」

かぐや姫「ホントねえ」

かぐや姫「私もなんで帝より、ウサギなんかに心を奪われてしまったのかしら」

乙姫「とにかく、もはやわらわたち女の出る幕はないようだ」

乙姫「恋する乙女同士、ここは黙って二人を応援するとしよう」

かぐや姫「そうね、そうしましょ」

ウサギサイド──

タヌキ「勝って下さいっす! 勝てるっす!」

ウサギ「ありがとよ、タヌキ」ニッ

アキレス「君がカメに勝てるワケがない」

ウサギ「治ったアキレス腱、大事にしろよ。アキレス」ニッ

アキレス「ちぎって下さいよぉぉぉぉぉっ!!!」



カメサイド──

浦島太郎「いよいよじゃのう」

浦島太郎「野次馬どもは騒ぎ立てておるが、気楽にやることじゃ」

カメ「もとより周囲の雑音なんか耳に入らん」

ツル「行ってらっしゃいませ」

カメ「ああ」

キジ『ケーンッ!』

キジ『お待たせいたしましたケン!』

キジ『いよいよウサギとカメの、世紀のかけっこが始まるケーンッ!』

キジ『実況と審判は私、キジが務めるケーンッ!』

キジ『ちなみに桃太郎さん、イヌ、サルは鬼が島に出張中だケン!』

キジ『また解説として、スピード自慢の豪華ゲストも呼んでいますケンッ!』

メロス「メロスは解説した」

チーター「オレはスピードキングだ!」

音「俺様に任せとけっ!」

光「よろしく頼むよォ~」

キジ『ゴール地点は、10km先にあるあの丘の頂上ケーンッ!』

キジ『さあ、ではさっそくかけっこ開始ケン!』

キジ『両者、位置について!』



ウサギ「…………」スッ…

カメ「…………」スッ…



タヌキ「二人とも、クラウチングスタートっすね!」

浦島太郎「当然じゃろう。あれが一番理にかなっとる」

キジ『よーい……』

漁師「キジも鳴かずば──」チャッ

漁師「撃たれまいっ!」

ドゥンッ!

キジ『いてっ!』



ドギュゥゥゥゥゥンッ!!!



キジ『さあ、私が銃で撃たれるのを合図に、両者走り出したケンッ!』

キジ『速い、速い、速い!』

キジ『でも、あれ……?』

ズドドドドドドドドドド……!

キジ『どんどん二人とも、あさっての方向に走っていくケーンッ!』

キジ『そっちはゴールじゃないケン!』

キジ『これはいったいどういうことか、誰か解説してくれケン!』

メロス「メロスは困惑した」

チーター「え、どういうことだ?」

音「オイ、どうなってやがんだよ! 俺様に分かるように誰か教えろ!」

光「おっかしいねェ~……」

キジ『なんの役にも立たねえケン、こいつら!』



アキレス「二人とも全力で走るなど、本当に久しぶりのことだったはず」

アキレス「だから、自分の走る方角を制御しきれていないんだろう」

ツル「だったら、制御できるぐらいのスピードに緩めればよいのでは……?」

アキレス「ウサギとカメが、そんなタマかね?」

ツル「……ですね」

ドドドドドドドドドド……!

キジ『すでに二人の時速は80km/h!』

キジ『メロス氏の最高時速を上回りましたケーンッ!』

メロス「メロスは敗北した」

キジ『さらに、まもなく150km/hに到達し、チーター氏も抜かれたケン!』

チーター「マジかよ!」

ドドドドドドドドドド……!



かぐや姫「いくらなんでも速すぎよ、ウサギ……」

乙姫「こんなに速かったのか、カメは……」

タヌキ「いや、こっからどんどん上がっていくっすよ!」

ドドドドドドドドドド……!

キジ『すでに二人の姿はこのかけっこ会場から消え──』

キジ『人工衛星で二人を追いかけて中継しているという状況ケン!』

キジ『ただいま、二人の時速が1300km/hと確認されたケーン!』

キジ『音速を超えましたケン!』

音「俺様が負けただとぉ!? ウサギとカメのくせに生意気だ!」

ドドドドドドドドドド……!



アキレス「というか、さっきからこのスピードは誰が計ってるんだ?」

タヌキ「事前に二人に取りつけた装置で、分かるみたいっすよ」

ツル「ずいぶん丈夫な装置ですわね」

浦島太郎「まあそこはメイドインジャパンパワーってやつじゃよ」

ドドドドドドドドドド……!

ウサギ「カメよ」

ウサギ「お互い、だいぶ体があたたまってきたな」

カメ「うむ」

ウサギ「まだまだ加速できるか?」

カメ「もちろんだ」

ウサギ「よっしゃ、手加減しねえぜえっ!」キッ

カメ「望むところ!」キッ

ギュンッ!!!

キジ『お~っと!』

キジ『ついに二人のスピードが、地球を脱出できる第二宇宙速度に到達!』

キジ『ウサギとカメは地球から飛び立ってしまったケ~ンッ!』

キジ『さよぉ~なら~!』



キラッ…… キラッ……



アキレス「あの地表から飛び立つ二つの流れ星が、おそらく二人だ」

タヌキ「いってらっしゃいっす!」

ツル「気をつけて下さいませ~!」

浦島太郎「宇宙旅行とは、元気じゃのぉ~……ほっほっほ」

ギュオォォォォォ……!

ウサギ「宇宙空間に来たのは初めてだが、案外なんてことねえな」

ウサギ「空気がないのは寂しいが、オレたちは空気ぐらいなくてもしゃべれるし」

ウサギ「足で宙を蹴れば、ぐんぐん進むしよ」

カメ「うむ」

カメ「そろそろ俺たちの速度は光を超える」

カメ「いっそ、このまま太陽系を脱出してしまおう」

ギュオォォォォォ……!



キジ『二人の速度が、ついに光速を超えた! まだ伸びてるケン!』

光「やれやれ、こうもあっさり抜かれるとはまいったねェ~」

銀河大魔王「フハハハハ……」

銀河大魔王「我が超高重力圧縮四次元砲で、この宇宙を丸ごと消滅してくれる!」

銀河勇者「くそっ、これで宇宙は終わりか……」



ウサギ「オイ、なんかやってるぞ。ドラマ撮影かなんかか?」ギュオオ…

カメ「ジャマだな。どかしてしまおう」ギュオオ…



ドゴォンッ!!!



銀河大魔王「げぶうっ!?」

銀河勇者「いったい何が起こった!?」

かくして宇宙は救われた。

やがて二人は、何もない世界に到着していた。



ウサギ「どこだここ?」

カメ「どうやら宇宙の果てを突破し、宇宙の外にある無の空間にたどり着いたようだ」

ウサギ「なにもねえな。色も音も……時間の流れすら感じねえ」

カメ「それはそうだろう。なんといっても無なのだからな」

ウサギ「こんなところにいてもつまらねえな。地球に戻ろうぜ」

カメ「うむ、地球で決着だ!」

ギュオッ!

かけっこのゴール地点──

タヌキ「もう夕方っすよ……」

タヌキ「いったい宇宙に飛び出したっきりどこに行ったのか……」

ツル「心配ですわ……」

アキレス「隕石などにぶつかったのだろうか……」

浦島太郎「なあに、二人ならきっと無事じゃよ」

かぐや姫(ウサギ……)

乙姫(カメ……)

「あっ、戻ってきたぞ!」 「ホントだ!」 「二人ともヘトヘトだ!」



ウサギ「ハァ……ハァ……」ヨタヨタ…

カメ「ゼェ……ゼェ……」ヨロヨロ…

キジ『さぁ、さきにゴールにつくのはどっちケーンッ!』



ウサギ「負け……るか、よ……」ヨタヨタ…

カメ「俺が……勝つ……」ヨロヨロ…



キジ『ゴールまであと50メートル!』



ウサギ「うおぉ……」ヨタヨタ…

カメ「足よ……動け……」ヨロヨロ…



キジ『10メートル!』

タヌキ「ウサギさん!」

アキレス「ウサギ君!」

かぐや姫「ウサギッ!」

ツル「カメさん!」

浦島太郎「カメ!」

乙姫「カメ!」



ウサギ「最後の、力を……!」ヨタヨタ…

カメ「振り、絞る……!」ヨロヨロ…



ドサァッ……



キジ『両者、ほぼ同時にゴールに倒れ込んだケン! 果たして勝者は!?』

キジ『判定──』

キジ『…………』

キジ『わずかに首の長さの差で──カメの勝利ケーンッ!』



ワァァ……! ワァァ……! ワァァ……! ワァァ……!



カメ「ウサギ……紙一重のいい勝負だったな」

ウサギ「フッ、オレの完敗だ」

ウサギ「かけっこで負けた者は全ての名誉を失う……もちろん、覚悟の上だ」

ウサギ「誇ってくれ、カメ」

カメ「いや、どうやら──」チラッ

タヌキ「すげえっす! 感動したっすよ!」

かぐや姫「よくやったわウサギ、よくやったわカメ!」

ツル「お二人とも、ゴールおめでとうございます!」

浦島太郎「年取ると、涙腺がもろくなっていかんわい」ウルッ

乙姫「ふむ、カメもウサギもあっぱれじゃ」

キジ「泣けるケーンッ!」

メロス「メロスは感激した」

チーター「ヒャハハッ! 二人ともすげえぜ!」

音「お前たちは心の友だぜ~!」

光「わっしも感動したねェ~……」



カメ「宇宙をまたにかけたこのかけっこ。もはや皆、勝敗など論じてはいない」

カメ「失ったものより、得るものの方がだいぶ多そうだな、ウサギ」

ウサギ「ケッ……バカヤロウどもが……!」グスッ…

カメ「ウサギ……今日は楽しかった。またかけっこしよう!」

カメ「俺はいつでも受けて立つ!」

ウサギ「ふん、絶対リベンジしてやるぜ!」

アキレス「あ、あの……」

ウサギ「どうした、アキレス?」

アキレス「いったとおりだろう? やっぱりウサギ君は勝てなかったね」ニコッ

ウサギ「……出せ」

アキレス「はいっ! 派手にやっちゃって下さい!」

ブチィッ! ブチィッ!



真っ赤な夕日が、皆がいる丘をあざやかに照らす中、

アキレスのアキレス腱が派手な音を立てて切断された。



ウサギとカメのかけっこ、これにておしまい。

ありがとうございました!

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