キョン「ハルヒが目覚めない」 (20)










涼宮ハルヒが目覚めない









異常事態というのは突拍子もなく起こるものである。
俺は特にこの1年でそれを学んだ。
宇宙人、未来人、超能力者に学ばされたと言っても過言ではない。
そして、いつもながらにして、大体の問題の根源、涼宮ハルヒによって今回の事件も引き起こされた。
時は佐々木やらヤスミやらとのいざこざが解決し、初夏に差し掛かる頃だった。
相も変わらず、雁首揃えて文芸部室にて誰の役に立っているのか分からない団活中の出来事である。

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パチ


静かな文芸部室に駒の音が響く。
俺の一手が古泉の堅兵を取ったところだ。
今日は大将棋なるボードゲームにつき合わされ、下手の横好きの古泉と遊戯に興じている


「……」


真剣に考えているのか、考えているようで何も考えていないのか、いつも通り弱い。
そしていつも通り、長門は読書に勤しんでいるし、朝比奈さんは麗しくお茶を汲んでいる。
少し前の、宇宙人超能力者未来人入り交じりの大抗争とは打って変わり、部室には日常が戻っていた。


「玉露です」

「どうも、朝比奈さん」


このお茶の味も変わらない。いや、むしろ日に日に美味くなっていっている。
朝比奈さんの真面目な努力により、お茶の味と俺の味覚は比例し向上しているのが分かる。
そして古泉は無駄な長考、長門はページを捲り読書を進める。
以前と何も変わらない風景……のはずである。
だが、ここで違和感を覚えた。いつも通りの静かな団活だが、いやに、あまりにも───






静かすぎる。


別に毎日毎時毎秒、奴が騒いでいるわけではないことは分かっている。
静かな団活だって慣れ親しんだもの。しかし、今日はなにかがおかしい。
昨年の夏に感じたデジャビュのような違和感ではない。
ただ単に静かすぎる。
長考中の古泉を尻目に、団長席───ハルヒの方へ目をやる



……いない?



というわけでもなく、どうやら机に突っ伏しているらしい。
デスクトップパソコンのモニターの隙間から姿は確認できる。
居眠りか。たまにあることだ。それなら静かすぎるこの空間にも説明がいく。


パチ


「お待たせしました。あなたの番ですよ」

「ああ」


パチ


古泉の獅鷹が俺の歩兵に制圧された。
少しばかり古泉の眉尻がピクリと動いた気がしたが、そんなことはどうでもいい。
古泉に手番を回し、おもむろに立ち上がる。
こちらもそこまで興味があるわけではなかったが、団長席に足を運ぶ。


「ハルヒ」

「───」


呼びかけるも応答はない。どうやら本当に寝てるらしい。


「涼宮さん、少し前に寝ちゃったみたいで……」



朝比奈さんは気づいていたようで、口元に人差し指を立て、シーっとジェスチャーサインを表わした。
何と可愛らしいお方だろうか。何度でも本当に自分と同じ生物なのかと疑いたくなる。
朝比奈さんの言う通り、眠っているハルヒを起こすのは俺としても少し忍びない。
大人しく自席に戻り、次は古泉の麒麟を取ろうかなどと思案する。
だが、またここで強烈な違和感を覚えた。



「……おい、ハルヒ?」

「───」



気づけばもう一度呼びかけていた。
繰り返しの呼びかけで、朝比奈さんが少し驚いた顔をしている。
視界の端で、長門のページを捲る指が止まったように見えた。
後方の古泉が長考をやめ、こちらに視線を送っている気配も感じる。
そして、ハルヒの応答はない。
……経験則から言おう。






なにかがおかしい。


「キョンくん?」

「すみません、朝比奈さん」


注意を無下にしたことに心からの謝罪をし、ハルヒの左手側に回る。
ネットサーフィンでもしていたのだろうパソコンはとうにスリープモードに移行し、画面は黒く沈黙していた。
腕を枕にし、突っ伏して眠っている……ようにしか見えない。
間違いなく眠っている、しかし……。
肩を揺さぶる。


「───」


反応なし。
少し大きな声を出す。


「おい、ハルヒ!」


反応なし。
朝比奈さんの顔に動揺が見て取れる。


「……悪いなハルヒ」


両肩を掴み、背もたれにもたれさせるべく、状態を起こす。
ただの居眠り程度なら間違いなくここで起きるはずだ。


「……どうなっていやがる」


反応なし。
もたれかかったハルヒは天井を見上げるも、その瞳は閉じたまま。
涼宮ハルヒが目覚めない。


「エマージェンシー」


パタンと本を閉じた長門が発した本日最初のお言葉だった。


一先ず、ハルヒを突っ伏した状態に戻し、わらわらと団長席の周辺に集まった団員の一人に話しかける。


「古泉、説明しろ」


不測の事態。こういった事態に我先にと説明をしたがる副団長様にこちらから先手をうってやる。
ほら、お前の得意分野だぞ。


「……いやはや、これは一体どういうことでしょう」

「分からないのか?」

「お恥ずかしながら、皆目見当つかずです」


こいつをもってしても皆目見当がつかないだと?
得意の説明口調はどこへやら、アルカイックスマイルを崩さず、朗らかに古泉は答えた。


「長門はどうだ? 何か分からないか?」

「分析中。しかし、すぐに解が出ることはない」


長門大明神様をもってしても、か。
となると最後は……。


「す、涼宮さん、どうしちゃったんですかぁ」


愛らしい先輩は今日も愛らしい。どうやらこうなる未来もご存知でなかったようだ。
つまり、この状況は───


「……やれやれ」


やれやれ、などと宣う程度には、俺の精神もまだ余裕があるらしい。
なんてったってSOS団全員がここにはいる。長門は病床に伏しておらず、朝比奈さんは可愛らしく、古泉は古泉だ。
今まで幾度もこういった不測の事態にはこのメンバーで対応してきた。
それに比べりゃ、寝ぼすけハルヒを起こすくらい、時間をかければわけないと。
そう、高を括っていた部分もあった。


「古泉、閉鎖空間は出ているのか?」

「今のところは出現していないようです。気配もまだありません」


となると、今のハルヒになにかしらの負荷が掛かっている可能性は低いはずだ。
嫌な気分だとしたら、ストレスの具現化である閉鎖空間が発せしているだろうしな。
じゃあなんだ?こいつは望んでこの状況になってるってことか?


「最近寝不足だから、誰にも邪魔されず安眠したいという願望……か?」

「涼宮ハルヒは至って健康。変調をきたす予兆もない」

「羨ましい限りだな」


病原菌が裸足で逃げ出すやつだもんな。少しでも寝りゃ大抵のことはなんとかなるだろうな。
だからこそ、この状況がますますわからん。
何故こいつは団活をホッポリ出してスヤスヤと深い眠りについているんだ?


「原因が分からなけりゃ対処のしようもないぞ」

「あなたは、心当たりなどございませんか?」

「俺だって皆目見当もつかん。だからお前に説明を求めたんだ」


古泉や長門に分からんことが俺に分かるもんか。小市民である俺に過剰な期待をするもんじゃないぜ。
佐々木や国木田のような秀才ならあるいは違ったかもしれんが。


「困りましたね。このまま涼宮さんが起きないとなると……」

「ど、どうなっちゃうんですか?」

「世界の崩壊もあり得ます」

「ひえぇ!」


古泉、お前何だか愉しんでないか? 前にも見たぞ、その楽しそうな顔。
世界の崩壊という単語をそうポンポン使って朝比奈さんを脅すような真似はよせ。怯えてらっしゃるだろうが。


「もちろん、すぐにというわけではありません。我々がそれより前に涼宮さんを起こし、解決さえすれば」

「問題はその解決方法ですが……実は先ほど心当たりを思い出しまして」

「何だと」


言えよ早く。世界の崩壊を予見してるなら1秒でも早く打開策を話せ。
と、思いつつ、実は俺にも心当たりはあった。無論、『それ』は絶対に俺の口からは話せない。
そして奇遇にもこいつは『それ』を口にするだろうことは俺の直感がビシビシと伝えていた。


「……言ってみろ」

「では……」


コホンとどこか品のあるわざとらしい咳払いをし、古泉はいつもの笑顔の2割り増しでこう言った。


「アダムとイ───」

「殴るぞ、お前」


いや、言わせなかった。
1年という時間は、互いを理解するのに十分すぎた時間の様だった。
何故か古泉も話を遮られた癖に満足そうだ。待ってましたと言わんばかりに。
ええい、忌々しい。


「お約束の冗談はさておき」

「そんなお約束は存在せん」

「解決方法としては冗談抜きにあの時と同じではないかと思っています」


あの時───それはここにいる、ハルヒを除く面子なら思い当たることは同じだろう。
夜の学校、閉鎖空間、神人……そして、フロイト先生抱腹絶倒のオチまでついてる。


「……確証はあるのか?」

「原因は不明ですが、解決方法はこれしか考えられません」

「らしくないな古泉。証拠より論のお前が過去の証拠を持ち出してこようとは」


と、古泉とやり取りを交わして言ううちに2つの双眸……長門と朝比奈さんの視線が俺を見ていることに気づく。
いや、あえて気づかないフリをしている。何を思っているのか、何を言いたいのか、視線の意味を問いただし、反応を見ることさえ藪蛇だ。

「ですが、閉鎖空間こそないですが、前回と状況は類似しています。言うなれば───」

「sleeping beauty」

「わぁ……」


長門……それはディスプレイの画面の表示だけにしておいてほしかったところだ。
古泉にしろ、長門にしろ、俺が口にできないことを易々と言ってくれるぜ。
だが、まだ他の方法が見つかるかもしれん。


「長門、どうだ? 分析の結果何か分かったか?」

「現在も分析中。解が出るのは数分後かもしれないし、数百年後かもしれない」

「それは……まずいな」


代替案その① 失敗


「朝比奈さん、未来と通信して何か解決方法のアドバイスを頂くことはできますか?」

「えっ、あっ……み、未来と通信できないです!」

「それは……まずいですね」


代替案その② 失敗


「……古泉、ありったけの気付け薬、練り辛子、爆竹を機関に頼んで用意してもらえるか」

「可能でしょうが……本当によろしいので?」

「…………やめておこう。起きた後が怖すぎる」

「でしょうね」


代替案その③ 中止


残念ながら、この短時間で解決策を見出すことは、いかに修羅場を潜り抜けてきた俺たちを持ってしても叶わなかった。
ただ一つの、僅からながらの可能性という、もっとも選びたくない選択肢を残して。


「ハルヒ、起きろ。おい、ハルヒ」


軽く頬をつねったり、つついたりしてみても、以前反応はない。
そもそも動かない。ハシビロコウや長門でももう少し動くぞ。


「涼宮さーん! 起きてくださーい!」


俺だったら逆に眠ってしまいそうな天使の声で朝比奈さんも呼びかけてくれる。
それでもハルヒはウンともスンとも反応しない。


「……───」

「───……」


古泉と長門が何やらコソコソと話している。いよいよやばい段階になってきたのか?
古泉のたまに見せる神妙な顔つき、そして長門の目も1ピコメートルほど見開かれ、火急であることは疑いようもない。
ただ眠るだけでここまで人を慌てさせる、とんだ迷惑者をさっさと起こしてやらねば、精一杯声を上げている朝比奈さんが可哀想でならない。
西日が眩しい時間帯、普段ならそろそろ長門が本を閉じ、解散する頃だ。
……わかったよ。世界の命運がかかっている時に、僅かな可能性を捨てることはできない。
俺1人のはずかしめで世界が救われるなら、お釣りで鶴屋山を買えちまうぜ。
意を決し、言葉を紡ぐ。


「分かった、俺が───」

「では、僕が試してみましょう」

「───うぇ?」


素っ頓狂な声を発したのは、古泉でも朝比奈さんでも、当然長門でもなく、どうやら俺らしい。
古泉、今なんて言った?


「古泉、今なんて言った?」


心の声と発した声が全く同じだった。
それほどまでに動揺したということだろうか?


「おや、ええと……こちらはお約束ではなかったですかね」

「なに?」


俺からの返答が予想外だったらしく、若干の困惑があるようだ。
この時点で俺は先ほどの質問が失敗だったと気づいた。


「僕では役者が不足でしょうと、前に申したはずですが……おやおや」

「分かりやすいジョークのつもりでしたが、あなたのその反応はあの夏と変わらずそのまま」

「いや、むしろ───」

「そこまでだ古泉」


恥の上塗り、いや、これから恥をかくのだから恥の下塗り、とでも言うべきか。
ともあれ、俺は古泉のいうお約束にのれず、古泉の発言に動揺を隠しきれない無様な姿を皆に曝したわけだ。
このまま世界が滅ぶのならいっそこのままでも、と自分の存在を抹消したい衝動を抑え込む。


「これ以上俺を揶揄おうとするな。不快だ、耳障りだ」

「これはこれは、失礼しました。では、あなたにお任せしても?」

「何を期待されているのかは知らん。知らんが───」

「皆、部室から一度出て行ってもらおう」


せめてもの抵抗さ。意味があるとは思えんが。
ついでにコトが終わった後、俺の記憶を消してもらうことを長門にお願いしてみよう。


「が、がんばって?ください!」


果たして理解されているのかいないのか分からない朝比奈さんからの激励を頂き、皆を出ていかせた。
さて……改めてこれから俺がしようとしていることは、このような特殊な事態でない限り実践してはならない。
いや、こんな状況下でも正しい行為とは思えない。こればかりはハルヒが不憫で仕方がない。
過去に作った実績がこんな事態を引き起こすことになるとは、誰しも予想していないだろう。
なぁハルヒ、これは本当にお前が望んだことなのか?


「……」

「───」


再度、ハルヒの両肩を持ち、状態を起こす。
依然、反応なし。
閉じられた瞳は開く気配がない。このまま放っておけばいつまで眠り続けるのだろうか。
飯など食わずとも、この状態で平気に100年だって眠り続けそうだ。
まさにsleeping beauty。俺は呪いを解く王子様って柄じゃあないが……。


「……ふー」

「───」


団長を叩き起こす団員の役目ならかってやるよ。
扉の向こうにはあいつらがいる。それはいったん忘れよう。
俺だって恥ずかしさで死んじまいそうなんだ。
この空気はもう10秒だって耐えることができない。
真正面からハルヒの両肩を掴む。
こういう時は目を瞑るんだっけか?前はどうしたんだっけ?
ええい、ままよ! なるようになれだ。
永遠に感じる程ゆっくりと───あの時と同じくハルヒの顔が俺に近づく。
そして───







「……」

「なにやってんの、あんた」

「……いや」






涼宮ハルヒが目覚めた。
幸運なことに、それは俺と接触する前に。
不幸なことに、それは鼻と鼻がくっつきそうな距離で。



「「……」」



少し距離を開け、お互いにしばしの沈黙。てっきりぶん殴られるかと思った。未遂とはいえ、何の言い訳もできない状況だ。
ハルヒの表情を伺う。嫌悪、疑心、軽蔑、憐憫、激怒など一切の負の感情が混ざった顔のようにも見え、戸惑いや困惑の顔にも見える。
要するに、それはどんな顔をしているのか分からん顔をしてみせた。
というかどんなタイミングで起きてるんだコイツ。実は起きていたんじゃないだろうな。
目を開けていて助かった、いや助かってないかも知れないが。とりあえず、色々未遂ではあった。
さて、次はどう言い訳をしたものか……


「……あのなハルヒ。その、だな」

「あたし寝てたのね」

「……ああ」


スクッと立ち上がり、扉の方に歩き出す。
あまり想像できんが、大声をあげ教師を呼ばれでもしたら何の言い訳もできん。


「何と言ったらいいか……」

「……」


なんと歯切れの悪い。もはや罪を認めているのと変わらんじゃないか。
とはいえ、タイミングで言えばやはり最高であり、最悪のタイミングには変わらない。
俺が二の句を継げないでいると、ハルヒが口を開いた。


「……あたしの顔にイタズラ書きとかしなかったでしょうね」


……


「したかったけどさ」

「ふん。してないならいいわ」


ドスッっと俺の椅子に座り腕を組み口をとがらせる。
ハルヒ……お前ってやつは俺に気遣いをしてくれているのか。どこかでしたやり取りの再現だ。
原因はハルヒだが、心からハルヒに感謝をしてしまいそうだった。


ガチャ


「おや、涼宮さん。お目覚めになられましたか」


古泉、お前は遅いんだよ。
外からニヤニヤ扉を開けるタイミングを伺ってたのが見て取れるのが腹が立つ。


「たまーにあるのよね、いつの間にか意識がなくなってるの。あ、横になっている時とか、座ってるときね。眠気、かしら?」

「年に1回ぐらいかしら? 中学上がってくらいだったわね。学校でなるのは初めてだけど」


俺の席に座ったまま、起き抜けに朝比奈さんにお茶汲みを促し、熱いお茶をゴクゴク飲み干しながらハルヒは言った。もっと味わえ。
当の本人は原因不明の睡眠についてそこまで気にしていないらしい。ハルヒらしい。


「だ、大丈夫なんですか? び、病院とか……」

「平気よ平気! 確か1度親に連れられて行ったけど、何の異常もなかったって言ってた気がするし!」


本人の情報を又聞きのように話すハルヒは、先ほどまでの静けさはどこへやら。
騒がしくも見慣れた、いつものハルヒに、俺だけでなく皆安堵しているようだ。
だがしかし、俺はさっきのハルヒの発言に引っ掛かりを感じている。
この原因不明の事象が中学に上がってから年に1回ほどのペースで起きているという点だ。
それはハルヒの能力発現後の話になるはずだ。


「ですが、暗くなる前に起きられてよかったです」

「そうね、気づけば、というより起きたらもうこんな時間だわ」


古泉、あいつはこの現象を皆目見当がつかないと言った。
だが、ハルヒの能力発現以降、あいつが属す機関がハルヒを陰から観察しているのは言うまでもない。
そんなことをしているやつらが、こんな一大事を何年も見過ごすはずがない。


パタン


「……」

「それじゃ、少し待たせちゃったけど、今日の団活はここまで!」


そして長門、古泉が把握していることをお前が知らないはずもない。
つまり、この2人は初めから全て知っていたのだ。知ったうえで、俺を嵌めるべく、結託し掌で転がしていたのだ。
唯一、神妙な顔でのコソコソ話はおそらくそれだろう。年に1度のアレですね、そう、みたいな会話をしたに違いない。
見事に術中にはまりてんやわんやしていたのは俺1人だったわけだ。


「とにかく、涼宮さんが起きてくれてよかったです」


訂正。多分、朝比奈さんも知らなかったのだろう。
お労しや……。


「今日は皆で帰りましょ! それと、キョン」

「……パソコンの電源落としてあたしのバッグもってきなさい、先行ってるから!」


バタン


乱暴に扉をあけ、スタスタと先に部室を出ていくハルヒ。目で追うことしかできない団員。
そして各々帰り支度をする。
しかし、俺にはヤツを問い詰める必要がある。


「おい古泉」

「なんでしょう??」


確定。十中八九だった疑いが、今の返答で確信に変わった。コイツ、やってくれたな。
いつもの笑顔が詐欺師の笑顔に見えて仕方がない。この借りはいつか返してやる。
古泉には睨みをきかした目をくれてやりつつ、長門に声をかける。


「長門」

「なに?」

「……いいや、なんでもない」


当然、こっちも確定。俺の目は見逃さない。
長門の口角が1ナノメートルほど上がっていたことを。あれはおそらくドッキリ大成功の時の顔だろう。
思い通りに事が進み、しめしめしたり顔といった塩梅か。
……長門が喜んでいるならいいか。古泉、お前は覚えてろ。


「キョンくん、着替えてもいいかな?」

「すみません、すぐに出ますね」


メイド服の着脱のため、朝比奈さんを残し早急に退室せねばならない。
俺はハルヒに指示された、パソコンのシャットダウンを行うべく、マウスを動かしスリープモードを解除する。
ったく、今日は予期せぬ災難だった。終わってみれば、ハルヒと古泉と長門に翻弄されただけじゃないか。
まぁ、これまでの災難に比べれば、かわいいものだったと自分を納得させる他ない。
画面が白く光り、ハルヒが落ちる直前まで検索していた画面が広がる。












『sleeping beauty』












…………これは一体どういうことだろうな。
朝比奈さんからのおずおずとした早く出てほしいという視線を受け、すぐさま全てのウィンドウを削除。
パソコンをシャットダウンしハルヒの荷物を抱え、部室の外に出た。
古泉と長門が扉の両脇に佇んでいた。


「涼宮さんがお待ちです。僕たちは朝比奈さんを待ちますので、お先にどうぞ」

「後から向かう」


そういう2人と着替え中の朝比奈さんを残し、階段を下り、部室棟を出る。
少し先にハルヒの後ろ姿があった。皆と荷物を待っているようだ。
ハルヒに向かって俺は歩く。そして声をかけた。






「ハルヒ!」






振り返るハルヒがどんな表情をしているか、今日の晩飯の次ぐらいには、気になるところだ。

終わりです!
新刊万歳!

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