サシャ「いい趣味してますね」(78)
・サシャ「この味だけは、譲れません」の続きです
・たぶん大丈夫だとは思いますがグロ&エロ注意
・たぶんネタバレありです
―― 夕方 教官室
アルミン「――以上の点から、この夜間忍耐訓練は有意義であると言えます!」
キース「……アルレルト」
アルミン「はっ!」バッ!!
キース「この訓練を行いたいがために、ここまで丁寧な計画書を作成したことは評価しよう」パラッ
キース「だが貴様……この内容で、私が許可を出すと思っているのか?」ギロッ
アルミン「はい! 思ってます!」
キース「……隣にいるフーバーもか」
ベルトルト「はっ!」バッ!!
キース「……」
キース「……いいか? 我々は貴様らを道楽で飼い慣らし、訓練を受けさせているわけではない」
キース「日頃の訓練や休息は、こちら側が立てた綿密な計画によって管理・調整されている。貴様らの思いつき程度で、こちらの計画を変更するわけにはいかない」
キース「本来、このような訓練は検討するまでもないのだが……」チラッ
キース「貴様ら、運がよかったな。……いや、悪かったと言うべきか」
アルミン・ベルトルト「?」キョトン
???「……ふふふふふふふ」
アルミン・ベルトルト「!?」ビクッ
???「やあ、話は聞かせてもらったよ!」ヒョコッ
ベルトルト(!? 教官の机の下から出て来た!?)
アルミン「……誰か知ってる?」ボソボソ
ベルトルト「……ううん、知らない」ボソボソ
アルミン「あの、キース教官……そちらの方は」
キース「ああ、この方は――」
???「いいですよキース教官、私のほうで自己紹介しますから」
キース「そうか。……それでは、私は席を外す」スッ
???「ええ、三十分ほどで終わると思いますので、その頃にまた」
キース「……ではな」ガチャッ バタンッ
???「というわけで、自己紹介からはじめよっか。――私は調査兵団で分隊長を務めてるハンジ・ゾエ。よろしくね!」ニコッ
アルミン「えっ!? ちょ、調査兵団の……!?」バッ!!
ベルトルト「!!」バッ!!
ハンジ「やだなぁ、そんな固くならなくていいんだよ? 訓練兵なんだから、もうちょっと緩めでも私は気にしないし」ヘラヘラ
ベルトルト「いえ、そう言われましても……」オロオロ
ハンジ「ところで君たち、さっきは面白い話をしてたね? 計画書見せてくれる?」
アルミン「は、はいっ、これです」スッ
ハンジ「ふむふむ、兵舎内で肝試しかぁ……いいねえいいねえ! よしっ、この訓練、私がバックアップしようじゃないか!」
アルミン「えっ? 本当ですか!?」
ハンジ「この私に二言はないよ! それでこれ、企画したの君たちだよね? 私のほうで少し手直ししてもいいかな?」
ベルトルト「はい、それは構いませんが」
ハンジ「よしよし、じゃあまずはっと……流石に訓練兵全員は無理だから、参加者は成績上位者のみに絞ろうか」ブツブツ
ハンジ「えーっと、名簿名簿」ガサゴソ
ベルトルト「……あの、あまり教官の机を漁らないほうがいいのでは」
ハンジ「バレなきゃいいんだよバレなきゃ。……おっ、あったあった」ガサゴソ
ハンジ「んー……当然だけど男子の人数が偏ってるね。男女ペアにしたいんだけどなぁ」ブツブツ
アルミン「それなら、僕たちは今回裏方に回ろうと思ってるのでなんとかなると思います」
ハンジ「えぇー? そんなのだめだめ! こういう思い出はみんなで作っといたほうがいいよ?」
ベルトルト「みんなで……ですか」
ハンジ「うんうん。後で思い出した時、自分一人だけ参加できなかったって思い出は結構さびしいもんだよ? だから、君たちもちゃんと参加してね? っていうか、言い出しっぺだから当然参加してもらうけど」
アルミン「……はい、わかりました」
ハンジ「人数はこっちで調整しておくよ。まあ三人組のグループもできちゃうかもしれないけど仕方ないよね。あとは……兵舎内っていうのも変更しようか、うん」
ハンジ「……というわけで、第104期訓練兵団成績上位者限定の肝試し大会、もとい夜間忍耐訓練! 開催決定!」ビシッ!!
―― 数日後 昼 営庭
\アアアアー.../ \アッチイヨー.../ \ミズヲクレー/
アニ「……死屍累々だね」
ミーナ「ほとんどの男子が地面に倒れ込んでるよ……営庭五十周でこの状態って」ゾクッ
ミカサ「今までの成績を元に、体力のある人ほど負荷をかけている。ので、こうなったらしい」
ユミル「それで体力自慢も何人かぶっ倒れてんのか。……確か女子も秋に同じ訓練やるんだろ? あーやだやだ」ケッ
サシャ「みなさーん、水袋とタオル持ってきましたよー!」タッタッタッ
クリスタ「よいしょ……っと。えっと、係の割り当てはどうなってたっけ?」ドサッ
ミカサ「私が心拍数を計って歩く。サシャは記録をお願い」
サシャ「はい、任せてください!」
アニ「数値間違って書くんじゃないよ」
サシャ「……はい」ショボーン
ミーナ「私とアニは水を配ればいいんだよね?」
クリスタ「うん。私とユミルがタオルの担当だよ!」
ユミル「ったく、洗濯面倒だよなぁ……しかも野郎の使用済みを洗わせられるなんてよ……」ブツブツ
クリスタ「文句言わないの、ユミル」
ユミル「へいへい、クリスタ様は優しいこって。……ところで、上位組の姿が見えねえけどどこ行ったんだ? いくら負荷かけてるって言っても、もう終わっててもいい頃だろ?」
ミカサ「あそこにいるアルミンに聞いてみよう」スタスタ...
アルミン「……」バタンキュー...
ミカサ「アルミン、アルミン」ツンツン
クリスタ「うわぁ、アルミンすごい汗だよ!?」フキフキ
ミーナ「大丈夫? お水持ってきたけど飲めそう?」
アルミン「」コクコク
サシャ「あらら、そうとう疲れちゃってますね」
ユミル「声も出せないってやりすぎだろ。ってかアルミン、その調子じゃ晩まで保たないんじゃないか?」
アルミン「そんなことないよっ!!」クワッ!!
アニ「わっ」ビクッ
アルミン「せっかく今日は肝だめ……夜間忍耐訓練なのに、こんなところで倒れてられないんだ! 僕は!!」クワッ!!
ミカサ「ミーナ、アルミンが暑さで熱くなってるから、頭から水をかけてあげて」
ミーナ「はーい。アルミン、ちょっとごめんねー」バシャッ
アルミン「うわっ! ……あれ?」パチクリ
ミカサ「アルミン、アルミン。私は誰?」
アルミン「ミカサ……だよね?」キョトン
ミカサ「正解。正常に戻ってよかった。――ところで、エレンがどこに行ったのか知っているなら教えてほしい」
アルミン「ああ、エレンたちならまだ走ってるよ。ほら」ユビサシ
サシャ「……エレンどころか上位の男子がみんなで走ってますね」
アルミン「うん、みんなで何周走れるか競ってるんだよ。今日の夜の訓練は男女ペアなんだけど、どうしても男子二人の班ができるからそれを決めてるんだ」
アルミン「僕は確定だけど、もう一人は……あっ、決まったみたい」チラッ
コニー「くっそ、一周負けたー……」フラフラ
マルコ「昼ご飯、食べ過ぎだよ、コニー……」ゼエハア
コニー「だって、メシ、食わねえと、背が伸びねえじゃんか……」
マルコ「だからって、負けてたんじゃ、意味ない、だろ……」
アルミン「……コニーに決まったみたいだね。ということは、僕とコニーは一緒の班だ」
クリスタ「私、タオル渡してくるね!」タッタッタッ
ミーナ「私も、水持っていくねー!」タッタッタッ
ミカサ「サシャ。私たちも行こう」テクテク...
サシャ「はい、わかりました!」テクテク...
ジャン「つ、疲れた……水……」フラフラ
サシャ「はいはい、お疲れさまでした。でも倒れるのはまだですよー」
ミカサ「休む前に心拍数を計る。こっちに来て」チョイチョイ
ジャン「みっ、ミカサが計るのか!?」ドキーン!!
ミカサ「そう。早く腕を出して」
ジャン「おっ、おうっ!」バッ
ミカサ「……」スッ ピトッ
ジャン「……」ドキドキドキドキ
ジャン(ミカサの指が、ミカサの指が……っ!! 俺の手首に当てられてる……!!)ドキドキドキドキ
ミカサ「……終わり。次に行く」スタスタ...
サシャ「はーい! ……よかったですねー、ジャン」ボソッ
ジャン「……うるせえな、早く行けよ記録係」
サシャ「ふふっ、照れ隠しですか?」ニヤニヤ
ジャン「……あとで覚えてろよ」
サシャ「聞こえませーん」テクテク...
ジャン「ていうか水、どこでもらえんだよ……どこにもそれらしき姿が……」キョロキョロ
ミーナ・クリスタ「「はいっ! ジャン、これどうぞ!」」
ジャン「うぉわっ!? ……って、ミーナにクリスタか。ありがとな」
ミーナ「……」ピタッ
クリスタ「……」ピタッ
ジャン「……? おい、睨み合ってないで早くくれよ」
ミーナ「……ジャンは水が欲しいみたいだよ、クリスタ」
クリスタ「……まずは汗を拭いてからのほうがいいと思うな、私は」
ミーナ「……ちょっと待って? クリスタって全然そういう素振りなかったよね? どういう風の吹き回し?」
クリスタ「これは、その……この前、掃除の時に迷惑かけたお詫びだよ!」
ミーナ「……」チラッ
クリスタ「……」チラッ
ジャン「……な、なんだよ」
ミーナ・クリスタ「「ジャン、どっちにするの!?」」クワッ!!
ジャン「いや、どっちでもいいから早くくれよ……」バタンキュー
マルコ「……」ジーッ...
コニー「? どうしたんだマルコ、ジャンのほう睨んで」
マルコ「いいかいコニー……目に焼き付けておくんだ。あれが無自覚なハーレムというものだよ」
コニー「ふーん……いいから、早く俺らにも水とタオルくれねえかなぁ」グデーン...
ベルトルト(最近ずっとアルミンたちと打ち合わせしてたから、寝不足だよ……疲れた……)バタンキュー
アニ「……」
ベルトルト「……」
アニ「……」
ベルトルト「!? アニ!?」ガバッ
アニ「いいから寝てなよ。疲れたんでしょ」
ベルトルト「で、でも……」
アニ「これ、水」スッ
ベルトルト「……これ、僕のために?」
アニ「? みんなに配ってるから。ついで」
ベルトルト「そ、そうだよね……」シュン
アニ「ねえ、最近寝てないんでしょ。ちゃんと寝なきゃダメだよ」
ベルトルト「……なんでわかったの?」
アニ「顔見ればわかるよ。付き合い長いし」
ベルトルト「そ、そっか……顔見れば、わかるんだ」
アニ「じゃあね」スタスタ...
ベルトルト「あっ……ありがとう、アニ!」
アニ「……」ヒラヒラ
ベルトルト「……」
ユミル「……」ニヤニヤ
ベルトルト「な、何? ユミル」ビクッ
ユミル「いやいや、幸せそうで羨ましいこった。純情でかわいいねえベルトルさんは」ニヤニヤ
ベルトルト「……」
ユミル「そんなに睨むなよ。……ほら、タオルだ。汗拭け汗。かわいい顔が台無しだぞ」ポイッ
ベルトルト「……どうも」フキフキ
ミカサ「サシャ、サシャ」クイクイ
サシャ「はい、なんですか?」
ミカサ「あそこでライナーが倒れてる。仰向けで」ユビサシ
サシャ「…………えっと」
ミカサ「これ、水とタオル」ポイッ
サシャ「いや、でも、仕事がまだ、途中ですし」
ミカサ「あとは教官に報告しに行くだけだから平気。……れっつごー」グイグイ
サシャ「じゃ、じゃあ、行ってきますね……///」モジモジ
ミカサ「そうそう、もしできるのであれば、――してあげると、喜ぶ。たぶん」
サシャ「……難易度高くないですか?」
ミカサ「れっつちゃれんじ」グッ
サシャ「……わかりました、頑張ってきます!」ダッ
ライナー「……」バタンキュー
ライナー(ああくそ、土が熱いな……)グデーン...
サシャ「ライナー、大丈夫ですか?」ノゾキコミ
ライナー「……お前、記録係だったんじゃないのか?」
サシャ「私たちの担当の分は終わったので、来ちゃいました。お水飲めます?」
ライナー「あー……顔にかけてくれ。半分くらい」
サシャ「じゃあかけますね。鼻に入らないように息止めててくださいよー?」キュッキュッ
ライナー「おう。いつでもいいぞ」
サシャ「よいしょっと……」トポトポトポトポ...
サシャ「……これ、気持ちいいんですか?」
ライナー「それなりになー……」ダラーン...
サシャ「顔拭きますね。濡れちゃいましたから」フキフキ
サシャ(よしっ、ミカサ、私はやりますよ……!)グッ
サシャ「……ちょっと、失礼しますね」グイッ ポスッ
ライナー「…………待て、何やってるんだ」
サシャ「えっと、その…………膝枕、です」
ライナー「……」
サシャ「すみません、嫌でしたか? やめます?」アセアセ
ライナー「……………………いや、そのままでいい」
サシャ「あの、顔どころか耳まで真っ赤ですよ? どうしました?」ツンツン
ライナー「……暑いだけだ」
サシャ「そうですね、暑いですもんね……お疲れさまでした。ハンカチあるんで、少し扇いであげますね」ソヨソヨ
ライナー「……おう」
ミカサ「……」ジーッ
エレン「なーなーミカサー、黙ってないで持ってる水袋くれよー」クイクイ
ミカサ「エレン、そこに寝そべってほしい」
エレン「は? やだよ。いいから水くれ水」
ミカサ「へい! へいエレン! へいへい!」チョイチョイ
エレン「……暑さでテンションおかしくなってねえか? お前」
―― その日の夜 立体機動訓練場前
ユミル「全員幌付き馬車で移動なんて、贅沢な訓練だなー」
クリスタ「立体機動訓練場の前だよね、ここ」
ミーナ「うーん……どこも似たような場所だから、どこなのかわかんないね」
アニ「……どこでもいいから早く帰りたいよ、私は」
クリスタ「そういえばサシャ、珍しい服着てるね? パーカー?」
サシャ「はい、この前お出かけした時にミカサが見繕ってくれたんです!」
ミカサ「ノースリーブなので夏でも涼しい。……ただ、フードが大きくて顔が全部隠れてしまうことだけが難点。こんな感じ」ポフッ
ミーナ「前っていうか顔が見えなくなっちゃうね、それだと。……あれっ? 二人のパーカー、もしかして色違いなの?」
サシャ「はい! お揃いですよお揃い!」エッヘン
ミカサ「……アニともお揃い」クイクイ
アニ「パーカーってだけでしょ」
ミーナ「私着替えてくる」ダッ
アニ「張り合わなくていいから」ガシッ
クリスタ「……今度私もパーカー買ってこようっと」
ユミル「女神が買ってくるとなっちゃあ私も買わないわけにはいかないな」ニヤニヤ
アニ「やめてったら……」
ミカサ「……そろそろアニも、素直になるべき」
サシャ「そうですよ、お揃いですよお揃い!」
アニ「……あんたたち、なんか前より仲良くなってない?」
サシャ「前からこうでしたよ? ねーミカサ?」ニコニコ
ミカサ「ねー」ニコニコ
アルミン「……」ジーッ
エレン「どこ見てるんだよアルミン。集合場所もう少し奥なんだろ? 早く行こうぜ」
アルミン「ああ、いや……ミカサが女の子と一緒に笑ってるの見て、いいなって思ってさ」
エレン「……そうだな。シガンシナ区には、同い年の女子いなかったもんな」
アルミン「お兄ちゃんとしては安心?」
エレン「アルミンだってそうだろ? 結構気にかけてんの知ってんだぞ?」
アルミン「あはは、バレてたか。……いい友だちができたよね」
エレン「ああ。俺たち三人とも、な」
ジャン「なあ……妙な訓練だよな、これ」
ライナー「ああ。……そもそも忍耐って何を耐えるんだ?」
マルコ「単純に考えれば……夜の林での怖さとかを耐えるのかな?」
ジャン「けどよ、ここは訓練場だろ? 野犬がいるわけじゃねえし、何も怖がる要素なんかねえだろ」
コニー「夜の山は確かに怖いし危ねえけど、訓練場じゃなー……緊張感ねえよな」
ライナー「そもそも、怖いものがあったら兵士なんてやってられないだろ」
マルコ「それもそうだよね。……ねえベルトルト、君は何か知ってる?」
ベルトルト「……さあ? わからないなぁ」
ライナー(……あれは確実に知ってる顔だな)
―― 数分後 とある立体機動訓練場内
ハンジ「はいはーい、みんな揃ったかな? 私はこの夜間忍耐訓練を担当する『臨時教官』のハンジ・ゾエ! 隣にいるのは私の部下のモブリット! みんな、今日はよろしくね!」フリフリ
ベルトルト「臨時教官って……そういうことになったの?」ボソボソ
アルミン「うん。上司の人にバレたらまずいんだって」ボソボソ
ミーナ「あの、ハンジ教官。……始める前に、少しいいですか?」
ハンジ「はいはい? えーっと君は……ミーナだっけ?」
ミーナ「はい。……あの、私はどうして呼ばれたんでしょうか? 自分で言うのもなんですが、私、みんなと比べてそこまで成績よくありませんし……自分が選ばれた理由がわからないんですけど」
ハンジ「んーっとね、数合わせ!」キッパリ
ミーナ「ひどくないですか!?」ガーン!!
ハンジ「っていうのは冗談だよ。同じ部屋の子が二人いなくなっちゃったら寂しいと思ってさ! まあ、特権だよ特権。ありがたく受け取っておきなさい」ヒラヒラ
ミーナ「ハンジ教官……!」ジーン...
ハンジ「さてと、他に質問はないね? ――じゃあさっさと進めたいから、みんな組み分けのクジ引いてくれる?」
―― 数分後
サシャ「えーっと、私とペアの人は……」キョロキョロ
ライナー「……」
サシャ「……」
ライナー「……」
サシャ「……何番ですか?」
ライナー「6番だ」
サシャ「……なんかここ最近ずっと一緒じゃないですか?」
ライナー「きっと誰かの意思が働いてるんだろうな」チラッ
ミカサ「……♪」ニンニン
エレン「ミカサ、何番だ?」
ミカサ「当然エレンと同じ番号」キリッ
ハンジ「さて、組み分けも終わったところで……この訓練を受ける君たちに、ちょっとお話ししておかないといけないことがある。――即ち、今回の訓練の目的だ」
エレン「目的……ですか?」
ハンジ「うん。世の中には意味のないことなんてないんだよ。この訓練にもちゃんと意味がある」
ハンジ「今回、君たちに立ち向かってもらうものは――『恐怖』だ」
ハンジ「人類は、恐怖と共に進化・成長してきた。人類にとって原初の恐怖は炎だった。今なら巨人になるのかな?」
ハンジ「では、この恐怖に立ち向かうにはどうしたらいいか? ――第一には、相手を知ることだ」
ハンジ「私たち人類は『うなじ』という巨人の弱点と、『立体機動装置』という対抗策を知った。これで、私たちは巨人に対抗できるようになった。――成長した、とも言えるね」
ハンジ「大切なのは恐怖とどう向き合うかだ。……一番ダメなのは、恐怖に慣れてしまうことかな。そんなのはただの思考停止だからね」
ハンジ「今回は恐怖を『乗り越えろ』とか『打ち勝て』なんて、偉そうなことは言わないよ。そうだなぁ……『知って』『受け入れる』ってのが、今の君たちに求めるラインかな」
マルコ「では、『忍耐訓練』というのは……」
ハンジ「そう、『恐怖に耐え忍ぶ』訓練だね! 怖がってる自分がいることを受け入れて、正しく知って……少しでもいいから、成長してくれたらいいな!」
ハンジ「……説教臭くてごめんね? でもこれ一応訓練って扱いになってるからさ、建前上こういうこと言わないといけないんだよね」
ハンジ「まあでもぶっちゃけコレお遊びだから、今聞いたのは全部忘れていいよ!」
モブリット「……分隊長、ぶっちゃけないでくださいよ」ボソボソ
ハンジ「まあまあいいじゃないモブリット。――でも、『肝試しなんてイマドキやってられっかよ!』なーんて内心思っちゃってる君たちには、もう少し真剣に打ち込んでもらうためにスペシャルなおしおき……もとい、お話をご用意しましたー!!」
クリスタ「……お話?」キョトン
ハンジ「というわけでアルミン、ベルトルト。よろしくね」
アルミン「任せてください!」バッ!!
ベルトルト「十分で形にして見せます!」バッ!!
―― 同刻 とある立体機動訓練場 樹上の会話
ヘニング「……で、これは一体何の冗談だ?」
リーネ「優秀な後進を育成するための訓練だってさ。私たちはその見回り」
ゲルガー「育成……? 嘘だな。絶対嘘だ。分隊長の趣味だろ。もしくは遊び」
ヘニング「優秀な奴らは全員憲兵団に行くに決まってるのにな。調査兵団希望なんてあの中に一人いればいいほうだろ」
ゲルガー「あーあ、ちくしょう、巻き込まれる前にさっさと帰ればよかった……」
ヘニング「まだいいだろ、非番なのに呼び出されたんだぞ俺は」
ナナバ「……そういえば、ペトラとオルオがいないね。あの二人も本部で見かけたのに」
ゲルガー「お漏らし組はお留守番だとよ。空中で撒き散らされたらたまんねえからな」
ナナバ「……なるほど」
―― 十分後 とある立体機動訓練場内
ハンジ「どれどれー、仕上がりはどうなってるかな?」
エレン「俺もう夜中にトイレ行けない……」シクシクシクシク
コニー「まんじゅうこわいまんじゅうこわいまんじゅうこわい」ボソボソボソボソ
ジャン「くそっ……最悪だよ、ちくしょう……ちくしょう……」ブルブルブルブル
マルコ「もうダメだ……おしまいだ……ああ……」ブツブツブツブツ
ライナー「ベルトルト、お前……恨むからな……」ガタガタガタガタ
ベルトルト「……人を呪わば?」ニッコリ
エレン・コニー・ジャン・マルコ・ライナー「その話はやめろ!!」ガタガタガタガタ
ミカサ「……」カタカタカタカタ
アニ「……」
サシャ「もったいないおばけが……もったいない……」プルプルプルプル
クリスタ「うぅ……っ」グスッ
ユミル「なななな泣くくらいいいならささ最初から参加かかかかするるるなってんだよよよよよよ」ガタガタガタガタ
ミーナ「豚小屋出身……家畜以下……家畜小屋……血まみれ……」ブツブツブツブツ
アルミン「ご覧の通り、全員仕上がりました! 通常時より恐怖に対する耐性が格段に落ちています!」バッ!!
ハンジ「はいはーいご苦労様! ……じゃあ私からももう一つ、ここの訓練場の逸話について話しておこうかな?」
ミーナ「!? まだ話すんですか!?」ビクッ!!
ハンジ「あはは、そんな怖くない話だから大丈夫大丈夫。気楽に聞いてよ」
……実はここね、もう使われてない、放棄された訓練場なんだよ。何故かわかる?
数年前の、夏期の期末試験だったかな。うん、ちょうど今の時期だね。訓練兵の死亡事故があったんだよ、ここで。……まあ、そのこと自体は珍しくない話ではあるんだけど。
その死んじゃった訓練兵ってのは、君たちと同じくらいの年の女の子だった。人当たりがよくて、明るくて、仲間にも好かれてたらしいよ。
……ただ、成績はそこまでよくなかったんだよね。特に立体機動は下から数えたほうが早いくらい。
どうしても憲兵団に行きたかった彼女は、かなり焦ってた。この期末試験だけはどうしても落とすわけにはいかないって、思いつめて……無茶したんだ。
少しでもタイムを伸ばすために、枝葉が密集しているところを、彼女は無理矢理突っ切っていった。
立体機動が得意な子ならわかると思うんだけど、そういうところは普通避けるよね? どう考えても、そこを迂回したほうがずっと速くゴールに辿り着けるもの。
移動ルートの選定は、立体機動には欠かせない要素の一つだ。彼女はそれすらできてなかった。……って言っちゃえば、それまでなんだけど。
……話が逸れたね。そして、彼女はミスをした。射出したアンカーが幹に刺さらないで、密集していた枝葉に絡みついちゃったんだ。ワイヤーも変に枝を噛んじゃって、回収できなくなっちゃったみたいだね。
そこまで立体機動が得意じゃなかった彼女は、瞬く間にパニックに陥った。
自分が今どういう状態なのかわからないまま、彼女は宙づりになってもがくだけもがいた。
―― お願い誰か助けて、死にたくない、って悲鳴を何人も聞いたらしいよ。
……彼女が見つかったのは、期末試験の一週間後だった。
体に絡まった枝と葉のせいで、運悪く体が隠れちゃったんだよね。その子が見つけてもらえたのも、カラスが集ってたかららしいし。
この時期に逆さ吊りのまま放置されてたわけだから、遺体の損傷と腐乱がすごくてね。ワイヤーと枝と葉が体に食いこんで、そりゃもう大変な有様だったって話だ。下に落ちたほうがまだマシだったかもね。
当時の教官は責任を問われて開拓地送り。訓練場も、使える状態になるまで半年くらいかかったって話だよ。
……その訓練場で訓練が再開された後から、妙な噂が聞こえてくるようになった。
そこの訓練場で訓練していると、自分のアンカーの射出音に混じって、何かを切断する音が聞こえてくるんだって。
実際、訓練が終わった後の訓練場には、秋でもないのに枝や葉がたくさん落ちてたんだ。異常なくらいに。
自然に折れたんじゃなくて、何かに……いや、ここまできてぼかすのはやめておこうか。その跡は、超硬質スチールの刃に切られた跡によく似ていた。
……そうそう、言い忘れてたんだけどね。亡くなった彼女の立体機動装置には、おかしなことに刃が一本も残ってなかったんだ。
これってどういうことなんだろうね? 彼女がどこかで落としたのかな? 誰かが持ち去ったのかな? それとも、何か他の要因があるんだと思う?
……まあ、刃の行方はともかくとして。その当時の訓練兵のみんなは、亡くなった彼女が未だに訓練場を飛び回ってるんじゃないかって考えた。
「これ以上、私のような子を出さないように」って。……彼女は優しい子だったからね、そう考えるのが自然だよね。
……ん? どうして訓練兵の『みんな』がそう思ったかって? ――いい質問だね。実はね、ここで訓練していると、時折聞こえるんだよ。彼女の声が。
―― どうして、私を助けてくれなかったの?
―― どうして、私を見つけてくれなかったの?
―― どうして、どうしてどうしてどうして首が痛いの痛いの痛いの取れない取れない助けて死にたくない!!
……そのうち、ここの訓練場は使用禁止になった。
木の幹がアンカーの穴だらけになっちゃって使い物にならないとか、生えてる木が古いものばかりになっちゃったとか色々理由はあるらしいけど、実際のところはどうなんだろうね?
……とにかく、アンカーの射出音が聞こえてきたら、気をつけて。
音が近づいてきたら、決して後ろを振り返ってはいけないよ? 全速力で駆け抜けるんだ。
え? なぜかって? ……言ったじゃない、その子は立体機動が下手くそだったんだよ。
―― もしかしたら、今度は君の首が間違って刎ねられちゃうかもしれないよ?
シーン ・ ・ ・
ハンジ「……というわけで、前フリ長くて本当に悪いね! じゃあ始めよっか、肝試し!」パンッ!
モブリット「……分隊長、やりすぎですよ」ボソボソ
ハンジ「そう? ――えっとね、因みにそういう時はしりとりが有効だよ! 幽霊は終わりがないものを避ける傾向にあるんだ!」
アルミン「!! ――その話、もっと詳しく聞かせてください!」キラキラキラキラ
ハンジ「あっははは、アルミンはいい子だね! よしっ、後でいっぱい話そうじゃないか!」
アルミン「やったー!」ワーイ
モブリット「分隊長、その辺で」クイクイ
ハンジ「ああそうだ! 暗くて誰も見てないからってズッコンバッコン始めないでねー?」ニコニコ
モブリット「分隊長おおおおおおおおお!?」クワッ!!
ハンジ「あっははは、冗談だってーモブリット。――ちなみにそういう行為を見かけたら、同意あるなしに関わらずまとめて開拓地送りだからね? 越えちゃいけないラインくらい、君たちにもわかるでしょ?」ニッコリ
ハンジ「というわけで、順次スタートしてもらおっかな。灯りは見回り用のランタン一つだけね。――それじゃあ、いってらっしゃい!」
―― マルコ・ミーナ組
マルコ「……」
ミーナ「……」プルプルプルプル
マルコ「ジャンと一緒がよかった? ミーナ」
ミーナ「えっ? ……私、そういう顔してた?」
マルコ「ううん。昼間の君とジャンのやりとり見てたから、気になっただけだよ」
ミーナ「私は……純粋に、ジャンを応援したいだけだよ」
マルコ「……応援?」
ミーナ「うん。……私は別に、誰かの特別になりたいわけじゃないんだ」
ミーナ「ここの生活はたった三年だけだけど……ううん、たった三年だけだから、できればみんなが仲良くできたらなって思うからさ」
ミーナ「ジャンがミカサのこと好きなの知ってるから……そのために、色々手助けしてあげたいだけなの。だから、昼間のも変な意味はないよ。『頑張れ』っていう、私なりのエールのつもり」
ミーナ「あはは……もしかしたら、嫌なことしてるのかな。私」
マルコ「……頑張るのも、応援してあげるのも、その人の勝手じゃないかな。だから、ミーナがやりたいようにやればいいと僕は思うよ」
\パシュッ/
ミーナ「うん……うん、ありがとう、マルコ。頭がいい人は慰めるのもうまいんだね? りんご」ダッ
マルコ「はは、そんなことないよ。ゴマ」ダッ
ミーナ「だって私、とっても勇気づけられたもん。自信を持っていいと思う! マルコ」タッタッタッ
マルコ「……褒めすぎじゃないかな。コニー」タッタッタッ
ミーナ「マルコも……ううん、マルコはとっても頼もしいよ! 一緒にいて安心するもん! ……ねえそれって『い』? それとも『に』?」タッタッタッ
マルコ「……ありがとう、ミーナ。どっちでもいいと思うよ」タッタッタッ
リーネ「……なんであの二人、しりとりしながら走ってるんだろうね」
ヘニング「流行ってんだろ」パシュッ
―― ジャン・アニ組
アニ「あんたさ、本当はミカサと組みたかったんでしょ」
ジャン「おう」キッパリ
アニ「……懲りないね」
ジャン「なんだよ、そういうお前は組みたい相手とかいないのか?」
アニ「私? ……別に、いないよ」
ジャン「だってよ、例えば……そうだ、対人格闘とかエレンと組んでるだろ」
アニ「格闘術教えろってしつこいから、仕方なく組んでるだけ」
ジャン「へえ……でも、男以外ならいるだろ。組みたい奴」
アニ「……?」
ジャン「ミーナと仲いいだろ、お前。一緒にいて楽しいんじゃねえの?」
アニ「……そっか、そう、見えるんだ」
ジャン「?」
\パシュッ/
アニ「」ビクッ
ジャン「!? お、おい……今のって……」ビクビク
アニ「」ダッ
ジャン「!? おい待てよ、ランタン持って先に行くな!」ダッ
アニ「聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない」ブツブツブツブツ
ジャン「おい、置いていくなよ! 待てってば!」タッタッタッ
ゲルガー「なんだあいつら、競争でもしてんのか?」
ナナバ「あれは男の子の声が幽霊の声に聞こえちゃってるパターンかな。……まあいいや、次に行こうか」パシュッ
―― ベルトルト・ユミル組
ベルトルト「……」
ユミル「……不満そうだな」
ベルトルト「うん」
ユミル「普通はそう思ってても顔には出さないもんだぜ、ベルトルさんよ。それに今の言葉、私以外の女ならビンタ喰らっても文句は言えねえぞ?」
ベルトルト「わからないかな。君にだから言ったんだよ」
ユミル「ああ、特別扱いしてくれたのか。嬉しいねえ。……ところで、春に話したこと覚えてるか?」
ベルトルト「……もちろん」
ユミル「今のところ私が一歩リードってところかな」
ベルトルト「……負けないよ」
ユミル「そっちの敗色濃厚って感じだけどな」ケケケ
ユミル「ところで今回のこれ、ベルトルさんも一緒に企画したんだって?」
ベルトルト「うん。アルミンと二人でね」
ユミル「へー……意外だな、ベルトルさんがそういうの好きだなんて」
ベルトルト「そうだよね。意外だよね。君みたいな人が怖い話苦手なんて」
ユミル「…………ベルトルさん?」ピタッ
ベルトルト「まさか、君への復讐の機会がこんなにも早く巡ってくるなんてね……」ニコッ
ユミル「ひっ……ちょっ、ちょっと、よしてくれよ、なあ?」
ベルトルト「……これはね、とある訓練兵の話なんだけど」
ユミル「」ダッ
ベルトルト「逃がさないよ、昼間の仕返しだ!」ダッ
ナナバ「……こっちの組も男が女を追いかけ回してるよ」
ゲルガー「何やってんだあいつら」
―― アルミン・コニー・クリスタ組
クリスタ「……」カタカタカタカタ
コニー「……」カタカタカタカタ
クリスタ「さ、三人の班で、私、よかったかも……」カタカタカタカタ
コニー「ああ、それに、アルミンと一緒の班で、よかったよな……」カタカタカタカタ
アルミン「二人とも、大袈裟だよ」アハハ
コニー「でもよ、やっぱりそういうのが平気な奴がいると、なんていうか……安心感が違うよな!」
クリスタ「うん、頼りにしてるからねえええええええアルミンアルミン後ろ後ろ後ろ!!」
アルミン・コニー「後ろ?」クルッ
ハンジ(生首)「やっほー」ニタァッ...
クリスタ「いっ、いやああああああああああああでたああああああああああああ!!!」
コニー「おっ、落ち着けよクリスタ!! アルミンなら……アルミンならきっとなんとかしてくれるはずだ! アルミンを信じろ!!」
アルミン「わぁい、生首だぁっ……!」キラキラキラキラ
クリスタ「!? アルミンアルミン、そっちの趣味にいっちゃだめ! だめだよ!!」ユサユサユサユサ
コニー「おいおいおいお前が行っちまったら俺たちどうすりゃいいんだよ、迷子だぞ迷子!!」ユサユサユサユサ
アルミン「ハンジさんハンジさん、それどうやってやってるんですか?」
コニー「聞けよ!!」
ハンジ「こらこらアルミン、生首に話しかけるのはルール違反だよー?」
アルミン「あっ……すみません、興奮してて」エヘヘ
ハンジ「これはね、黒い外套を羽織ってるんだ。ランタンの灯り程度なら簡単に引っかかるよ」バッサバッサ
アルミン「へえ……! すごいや……!」キラキラキラキラ
クリスタ「ダメだよ……アルミン完全にあっちの世界に行っちゃった……どうしよう……」ジワッ...
コニー「心配すんなよクリスタ……アルミンが使い物にならねえ以上、俺がなんとかしてやっからよ……!」グッ
クリスタ「こ、コニー……!」グスッ...
コニー「アルミンがいなくったって、二人で無事にここから脱出しようぜ!」
クリスタ「うんっ! 頼りにしてるよコニー!」
コニー「……」
クリスタ「……」
コニー「……ところでここどこだ?」
クリスタ「えっと、周りを見ないでアルミンの背中についてきたから、わかんない……」
コニー「……」
クリスタ「……」
コニー「……俺たち迷子?」
クリスタ「……そうなるの、かな?」
―― エレン・ミカサ組
エレン「ミカサ、手の包帯はどうしたんだ? どこか切ったのか?」
ミカサ「……これは、友情の証」ナデナデ
エレン「? よくわかんねえけど、俺がランタン持つよ。怪我した手で持つの辛いだろ」ヒョイッ
ミカサ「……エレンは優しい」
エレン「はぁ? 普通だろ、これくらい」
ミカサ「……それでも、嬉しい。ありがとうエレン」
\パシュッ/
エレン「」ビクッ
ミカサ「」ビクッ
エレン「……ミカサ。俺に黙ってどっかに行くんじゃねえぞ」
ミカサ「うん、どこにも行かない。……私は、エレンのそばにいる。ずっと」
エレン「……絶対だぞ?」ガシッ
ミカサ「うん、絶対」ギュッ
エレン「絶対だぞ!!」ダッ
ミカサ「うん、絶対離れない!!」ダッ
エレン「絶対だからな!!!」ダダダダダダダダ
ミカサ「わかってる!!! エレンのそばにいる!!!」ダダダダダダダダ
ヘニング「……大声出して恐怖を誤魔化してるな」
リーネ「あれは放っておいていいんじゃないの?」
ヘニング「だな、次行くか」パシュッ
―― ライナー・サシャ組
サシャ「……ライナー、何か喋ってくださいよ」テクテク...
ライナー「そういう時は言い出しっぺがなんとかするもんだぞ」テクテク...
サシャ「えーっと、じゃあ……ライナーって怖い話苦手だったんですか?」
ライナー「そんなつもりはなかったんだがな……ベルトルトのアレは反則だ」ゾクッ
サシャ「アルミンの話もすごかったですよ……あれで食べていけるんじゃないですかね?」ゾクゾク
ライナー「そういう仕事はないからな、残念ながら」
サシャ「ですね……」
サシャ(結構ライナーも怖がりさんだったんですね。――よし、ここは私が勇気づけるべきですよね!)
サシャ「怖くっても大丈夫ですよ、ライナー! 私がついてまふっ!?」ガリッ
ライナー「……」
サシャ「……」ヒリヒリ
サシャ(……噛んじゃいました……恥ずかしい……穴に入りたい……///)カアアアアアッ
ライナー「」ブフォッ!!
サシャ「!?」
ライナー「おっ、お前っ……! そっ、そこで噛むか普通……っ!」プルプルプルプル
サシャ「わっ、笑わないでくださいよっ! 私は真剣なんですよ!?」
ライナー「だっ、だってよ……お前……っ、だ、ダメだ、腹いてぇ……っ!」プルプルプルプル
サシャ「なっ、なんですかぁっ! もうっ! ひどいですひどいですひどいです!!」ポカポカポカポカ
ライナー「た、叩くなって、悪い、悪かった、俺が悪かった!」
\パシュッ/
サシャ「」ビクッ
ライナー「」ビクッ
サシャ「……今の」サーッ...
ライナー「……だよな」サーッ...
サシャ「ていうか、あの……さっきから、気になってたんですけど」
ライナー「……なんだ、何かあったのか?」
サシャ「あの……あっちのほう、何かぼんやり光ってません……?」ユビサシ
ライナー「……」
サシャ「……」
ライナー「……」
サシャ「……わかりました。私が言い出しっぺですもんね」
ライナー「いや、何も言ってないぞ」
サシャ「私が光の正体確かめてきます!」ピョンッ ダッシュ
ライナー「!? おい、ランタンも持たないのに一人で行くな! ……ったくあいつは!」ダッ
―― 立体機動訓練場の端 とある細い川
サシャ「とうっ!」ガサガサッ
サシャ「あれっ? ここは……」
サシャ(ここ……この前みんなで遊びに来たところじゃないですか)キョロキョロ
サシャ(馬車で移動してきたから気づきませんでしたね)キョロキョロ
サシャ「……あ」
サシャ「光ってたのってこれですよね……えいっ」ポフッ
サシャ「えーっとこれは……虫?」ノゾキコミ
サシャ「おおー……お尻が光ってます、きれいですねえ……」
ライナー「……おい」ガサガサッ
サシャ「あっ、ライナー! 捕まえましたよ! 光ってるの! 虫でした!」エッヘン
ライナー「……それで?」
サシャ「はい、なんだかふにふにしてました!」
ライナー「…………他に言うことは?」
サシャ「えっと……怖がりなライナーを一人にしてすみませんでした!」
ライナー「……」
サシャ「……?」キョトン
\パシュッ/
サシャ「ひぇっ!?」ビクッ
サシャ「……」プルプルプルプル
ライナー「……で、誰が怖がりだって?」
サシャ「はい、私です……ごめんなさい……」プルプルプルプル
ライナー「勝手にうろちょろするんじゃない」
サシャ「はい、すみませんでした……」ショボーン
ライナー「……頼むから、目の届くところにいてくれ」
リーネ「……聞かれたかな、今の音」
ヘニング「聞かれてもいいって言ってなかったか? 分隊長」
ナナバ「……女の子のほうが叱られてるね」
ゲルガー「ここがゴールなんだが……コース突っ切って来たのか? あいつら」
リーネ「? ……ちょっと見て、何か様子変じゃない? あの二人」
ナナバ「どれどれ? ……あ、男の子のほうがランタン地面に置いたね」
ライナー「ったく……口で言ってもわからない奴には、おしおきが必要だよな」
サシャ「えっ……あの、痛いのは、嫌なんですけど……」ビクビク
ライナー「そんなことするわけないだろ。……そこから動くな」
サシャ「……? それがおしおきになるんですか?」キョトン
ライナー「ああ。それと、フード被って両手で掴んでろよ、絶対離すな」
サシャ「は、はい……こんな感じですか?」ギュッ
ライナー「そうそう、いい子だ」スッ
サシャ「あの、ライナー……?」
ライナー「――たまには俺にもいい思いさせろ」
ゲルガー「はい挿入開始ー」
リーネ「生々しい表現するんじゃないよ」
ヘニング「……アウト?」
ナナバ「いやー……ギリギリセーフかな。フードに顔突っ込んでるだけだし」
サシャ「えっ、あのっ、何してるんですっ?」
ライナー「おしおきって言っただろ?」ボソボソ
サシャ「ひぅっ……、っ、もうっ、耳元で言わないでくださいよっ」
ライナー「首と耳弱いよな、お前」ボソボソ
サシャ「……聞かなくても、知ってるくせに」
ライナー「確認だ、確認」ボソボソ
リーネ「……ねえ、アウトの基準なんだっけ」
ゲルガー「腰から下はアウト」
ヘニング「手は肩に置いてるな」
ナナバ「女の子のほうは一生懸命フード掴んでるね」
リーネ「……キスはセーフ?」
ナナバ「うーん……ギリギリセーフ、かな……?
ヘニング「ディープキスでもか?」
ゲルガー「いや、あれは首筋にキスしていると見た」
サシャ「ちょっ、ちょっと、待ってくださいって、のびっ、伸びちゃいますってばぁっ、ふふふっ」
ライナー「……? 何笑ってるんだ?」
サシャ「だって、ふふっ、くすぐったいんですもんっ、髪の毛……」
ライナー「……」グリグリ
サシャ「やぁ……っ、あははっ、ちょっ、やめてくださいって」
ヘニング「わかった。……ありゃ壁ドンだ」
リーネ「壁なんかどこにもないよ」
ゲルガー「あのフードが壁代わりなんだよ。しかも女のほうにフードを掴ませることで、同意の上の行為だって錯覚させてやがる」
ヘニング「そして女の恥ずかしがる顔を独り占めし、更に相手の女の視界を狭めて行為に集中させる……かなり高度なテクニックだ」
ゲルガー「なんてこった……! あいつ、自分の手を汚さずに、相手の退路を断ってやがる……!」
リーネ「……変態だね」
ヘニング「ああ……すげえ逸材だ。正直驚いたぜ」
ナナバ「いや、そういう分析がすぐできるほうも大概だよ」
ライナー「……ブラウス訓練兵、状況報告は正確にお願いします」
サシャ「ふぇっ!? あ、あの……えっと……ぶ、ブラウン訓練兵の、頭髪がですね、その、私のっ、首筋に、接触してまして」
ライナー「それで?」
サシャ「ひゃうっ!? うっ、動かさないでくださいよっ」
ゲルガー「……で、これはアウトなのか?」
リーネ「うーん……アウト、かなぁ……?」
ヘニング「余裕でアウトだろ」
ナナバ「……いや、もう少し様子を見よう」
リーネ「見たいだけじゃないよね?」
ナナバ「正直それもある」
ゲルガー「おい」
リーネ「? ちょっと待って、なんだか周りが騒がし――」
マルコ「トロスト区!」ガサガサッ
ミーナ「はぁっ!? なんでまた『く』なのおかしいでしょ!?」ガサガサッ
アニ「聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない」ガサガサッ
ジャン「くっそ……なんで夜まで持久走なんだよ!」ガサガサッ
ベルトルト「出して出してここから出して教官きょうかーん」ガサガサッ
ユミル「やだやだやだやだやだやめてやめてって言ってるだろベルトルさん!!」ガサガサッ
エレン「おらぁっ! 着いたぞ文句あるかぁっ!」ガサガサッ
ミカサ「流石エレン、頼りになる!」ガサガサッ
コニー「よっしゃあああああああ着いたああああああああっ!!」ガサガサッ
クリスタ「やったぁ! ゴールだ!!」ガサガサッ
アルミン「ちぇっ、もう終わっちゃった……」ガサガサッ
ハンジ「はーい到着! みんなお疲れさまでしたー!」ガサガサッ
ライナー「!!」バサッ
サシャ「わぷっ」バサッ
ハンジ「やあ! 君たち着くの早かったんだね!」ヘラヘラ
クリスタ「そっちのフード被ってるのはサシャだよね? 変な幽霊じゃないよね!?」
ユミル「幽霊なんているわけないだろ馬鹿馬鹿しいっ!!」クワッ!!
ベルトルト「……もしかして、邪魔した?」
ジャン「あー……悪いな、その……」
ライナー「いや……いいんだ。気にするな」
エレン「なあ、なんでサシャはフード被ってるんだ? 顔全部隠れてるぞ?」
ミカサ「サシャ、二人で何してたの?」
サシャ「……なんだったんでしょうね」モソモソ
アルミン「あっ、ホタルが飛んでる!」ワーイ
ハンジ「本当だねぇ、綺麗だ綺麗だ」ニコニコ
―― 数時間後 消灯時間前 男子寮 エレンたちの部屋
ライナー「……便所行ってくる」ガチャッ バタンッ
エレン「……? ライナー、腹でも下したのか?」
ベルトルト「うん、そういうことにしておこうか。ライナーの名誉のためにも」
アルミン「いいところでお預けだもんね、仕方ないよ」
エレン「お預け……? メシでも食い損ねたのか?」
ベルトルト「……本当ストイックだよね、エレンは」
アルミン「いや、滅多に来ないけどエレンも僕の本借りに来るよ?」
ベルトルト「そうなの? 意外だな、そういうことに全然興味ないのかと思ってたよ」
エレン「……ああ! わかった! お預けってそういう」
ベルトルト「言わないでねエレン」クチフサギ
―― 同刻 女子寮 ユミルたちの部屋
サシャ「……」ゴロゴロ
ユミル「……おいサシャ、髪梳いてやるからこっち来い。そのまま寝ると傷むぞ」チョイチョイ
サシャ「はーい」
ユミル「ほら、ここ座れ。――ミカサみたいに切る気がないなら、手入れくらいちゃんとしろってんだよ。あまりクリスタに世話かけんな」
サシャ「えへへ、すみません」ポスッ
ユミル「笑ってんじゃねえっての。――それで、今日は楽しかったのか?」
サシャ「はい、楽しかったです! ……あ、でも」
ユミル「? なんだよ、ライナーに何かされたか?」
サシャ「えっと……その……」モジモジ
ユミル「なんだよ言えよ。ここでやめたら気になるだろ」
サシャ「パーカーのフードに顔を突っ込まれました」
ユミル「」ボトッ
サシャ「櫛落ちましたよーユミルー」クイクイ
ユミル「それは、その…………もちろん、被ってない状態だよな。頭に」
サシャ「いえ、被ってる状態でしたけど」
ユミル「」
サシャ「こう……手は耳の横で、こんな感じで私がフードを持って」
ユミル「」
サシャ「それで、えっと、首筋に……」
ユミル「わーわーわーわーわーわーやめろ! 生々しい描写はやめろ!!」
サシャ「じゃあやめますけど」
ユミル「なんでそこでやめるんだよ続けろ!!」クワッ!!
サシャ「理不尽すぎますよ!?」
ユミル「ったく……お前それ絶対クリスタの耳に入れるなよ。クリスタが汚れる」
サシャ「言いませんよ……第一ユミルが聞きたいって言ったんじゃないですか」
ユミル「でも、なるほどなぁ……ついにそこまでやっちゃったか……ってかやらせちゃったのか……」
サシャ「ユミル?」
ユミル「……どっちもいい趣味してるよなぁ、お前ら」ハァ
サシャ「?」
おわり
終わりです。読んでくださった方、レスくださった方、前回ネタ提供してくださった方ありがとうございました! 肝試しと川ネタ詰め込んだらこんな感じになりました
いろいろ考えたんですがキース教官が肝試しの許可くれそうになかったので、ハンジさん+調査兵団の四人に頼ってしまいました。イメージと違ってたらすいませんっていうかプレイ実況させて本当にすみません
最近密着度もといエロスが足りないって思ったのでぶちこんでみたんですけど、ここまで我慢させすぎたせいでライナーがとんでもねえ変態さんになってしまいましたごめんなさい
というわけで以上!
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