― 清々しい朝・女子寮 ―
関裕美「……昨夜ね」
白菊ほたる「はい」
裕美「私、泰葉ちゃんのお家に行ったじゃない」
松尾千鶴「うん。今度裕美ちゃんが出演する舞台の演技相談だったよね」
ほたる「私たちも一緒に行きたかったけど……お仕事だったもんね」
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千鶴「なにかしでかしたの?」
裕美「しでかしてないんだけど」
ほたる「ほんとうに?」
裕美「なんでそう思ったの?」
千鶴「うん。昨夜私とほたるちゃんに泰葉ちゃんからメッセージが来て」
ほたる「『裕美ちゃんが!謝るまで!口をきくのをやめる!』って」
裕美「やっぱりふたりにもメッセージ来てたんだね」
千鶴「分かってて聞いてきたんだ」
ほたる「まるで私たちが何も知らないような口ぶりで話しを始めたよね」
裕美「うん。でも泰葉ちゃんが何を怒ってるのかが分からなくて」
千鶴「昨夜、何をしたのか振り返ってみて」
裕美「そうだね……」(ホワンホワンセキチャン~)
― 昨夜・岡崎泰葉宅 ―
岡崎泰葉「……と言う感じで目配せをすると、何だか思わせぶりな雰囲気を出せるよ」
裕美「めもめも……やっぱり泰葉ちゃんに聞いて正解だったよ」
泰葉「どういたしまして♪私で良ければいつでも相談に乗るよ」
裕美「ありがとう泰葉ちゃん!」
(ボーンボーン)
泰葉「あっもうこんな時間だ。お腹すいたね」
裕美「晩ごはんも食べないで付き合ってくれて……本当にありがとう!」
泰葉「もうっそれは言わない約束だよ」
裕美「泰葉ちゃんは晩ごはん、何を食べるつもりだった?」
泰葉「今日はもう遅いからね。パスタとかの軽食でも作ろうかなって」
裕美「それなら、私が何か作るよ!」
泰葉「そんな!悪いよっ!」
裕美「ううん。今日のお礼もあるから私に作らせて?」
泰葉「でも、食材とかどうするの?」
裕美「実は、今日のお礼に泰葉ちゃんにお料理しようかなって……準備してたんだ」
泰葉「そうだったんだ♪それなら、お言葉に甘えようかな?」
裕美「うん!今日のためにお料理を一つ勉強してきたんだ!」
泰葉「そうなんだ。楽しみだね♪」
― 回想終わり ―
裕美「と、ここまでは和やかな雰囲気だったの」
千鶴「うん。何となく分かるよ」
ほたる「それで、裕美ちゃんは何をしでかしたの?マシュマロを炭化させたり?」
千鶴「明らかに尋常じゃない量の塩をふりかけたり?」
裕美「そんな馬鹿なことするわけないよ!」
千鶴「……そもそも裕美ちゃんは料理結構得意だもんね。パエリヤとか」
ほたる「何が泰葉ちゃんの逆鱗に触れたのかな」
裕美「私はただ、ちゃんぽんを作っただけなんだけどな」
千鶴「ちゃんぽん?長崎名物のアレだよね」
裕美「長崎名物のアレだよ」
ほたる「何か変な物を入れちゃったり?」
裕美「むしろネギくらいしか入れてないよ」
千鶴「ネギくらい?黒豆とかキャビアとか入れてないよね」
ほたる「おはぎとか入れたりしてないよね」
裕美「私を何だと思ってるのかな?ちゃんとネギを添えただけだよ」
ほたる「ネギを添えただけって……」
千鶴「裕美ちゃん。ちゃんぽん麺は使った?」
裕美「ちゃんぽん麺?」
ほたる「具材にお野菜とか豚肉とかは使わなかったんですか?」
裕美「ちゃんぽんに野菜?」
ほたる「……」
千鶴「……」
ほたる「……ねぇ、裕美ちゃん」
千鶴「……食材は何を買っていったの?」
裕美「?うどんとお蕎麦と、めんつゆとネギかな?」
千鶴「……他には?」
裕美「あっ!念のために一味唐辛子と七味唐辛子も買っていったよ」
ほたる「どうしてこんなことに……これも私が不幸なせいなのかな……」
千鶴「ほたるちゃん。裕美ちゃんが残念な子なだけだよ」
裕美「私、何かやっちゃった?」
千鶴「ちなみに、この裕美ちゃん謹製ちゃんぽんを見た後の泰葉ちゃんの反応は?」
裕美「……思い出すのも恐ろしいんだけど」(ホワンホワンセキチャン~)
― 回想始まり ―
裕美「泰葉ちゃん!ちゃんぽんどうぞ!」
泰葉「は!?」(威圧)
― 回想終わり ―
裕美「その後のことはあまり記憶にないんだ……気づいたら私、寮に居た」
ほたる「泰葉ちゃんは芸歴が長いから、時々私たちには計り知れないことが起こるんだよね」
千鶴「ともかく、これで泰葉ちゃんの剣幕の理由がわかった」
裕美「知ってるの!?チヅ電!」
ほたる「語呂が果てしなく悪いよ」
千鶴「コホン。まず裕美ちゃん。裕美ちゃんが作ったちゃんぽんは……」
裕美(ゴクッ)
千鶴「長崎というか、一般的な料理としてのちゃんぽんじゃないよ」
裕美「えぇ!?」
ほたる「本当に知らなかったの?何かの嫌がらせとかじゃなくて?」
裕美「でも、私の故郷ではちゃんぽんといえば、お蕎麦とうどんを半分ずつ入れた……」
千鶴「そんな限定的なちゃんぽん文化があるとは思わなかったな」
ほたる「裕美ちゃん。一般的なちゃんぽんってこんな料理だよ」(スマホスラスラ)
裕美「え?なにこれ?」(ガクゼン)
千鶴「むしろなんで知らなかったの?富山県にもリン◯ーハットは2店あるのに」
ほたる「ちなみに鳥取には3店あるよ。えっへん」
千鶴「福岡には68店あって、これは東京、神奈川に続いて全国3位なんだよ」
ほたる「うわあんマウント取られた!」
千鶴「……とにかく、裕美ちゃんによって泰葉ちゃんの郷土の誇りがずたずたにされたわけだね」
裕美「どうしよう……芸歴の長さのため長崎県要素が少ない泰葉ちゃんにとって大事な長崎県要素に傷をつけちゃったんだね……」
千鶴「……食べ物の恨みは、食べ物で晴らすしかないかな?」
裕美「でも、どうやって……?」
ほたる「私たちで、泰葉ちゃんにぐうの音も出ない長崎ちゃんぽんを作る?」
千鶴「でもねほたるちゃん。長崎県民にとって、下手なちゃんぽんを食べるくらいならリンガー◯ットの方が美味しいって言われてるんだ」
裕美「そんな……」
ほたる「……あっこれを見てください」(スマホスラスラ)
裕美「これは……でもこんな小手先の方法で……」
千鶴「でも、裕美ちゃんが泰葉ちゃんを納得させるにはもうこの方法しか……」
裕美「……分かった。私、プロデューサーさんに相談してくるね!
― 2時間後 岡崎泰葉宅―
(ピンポーン)
泰葉「はーい」
千鶴「泰葉ちゃんこんにちは」
泰葉「こんにちは千鶴ちゃん。裕美ちゃんの焼き土下座の準備はできた?」
ほたる「そんな出会い頭で物騒な……」
泰葉「ごめんねほたるちゃん。でもこれは稲佐山と並ぶ私の大事な長崎県要素なんだ」
裕美「泰葉ちゃん……こんにちは……」
泰葉「ツーン!」
千鶴(今どきこんなあからさまな『口をきくつもりはないよ!』動作は珍しいね)
ほたる(芸歴の長さが災いして王道が外せなくなったのかな?)
裕美「泰葉ちゃん……昨夜はごめんね」
泰葉「ツーン!」
裕美「だから、今日は泰葉ちゃんに本当のちゃんぽんを食べてもらいに来たんだ!」
泰葉「ツーン?」
千鶴「そんな訳だから、泰葉ちゃんはリビングで待ってて」
ほたる「裕美ちゃんが本当の長崎ちゃんぽんを食べさせてくれます」
泰葉「そこまで言うなら……楽しみに待ってるね」
― 5分後 ―
(チーン!)
裕美「おまたせ!」
泰葉「ツーン!?」(早い!?)
千鶴「もう普通に喋って良いんじゃないかな?」
ほたる「きっと泰葉ちゃんにも意地があるんだよ……」
裕美「私が一生懸命選んだ長崎ちゃんぽんだよ!全部食べて?」
泰葉「ツーン……」(いただきます……)
泰葉「……!?こ、これは……」
裕美(ドキドキ)
泰葉「忘れもしない……小さい頃にお父さんとお母さんに連れて行ってもらった……」
千鶴(ハラハラ)
泰葉「◯ンガーハットのちゃんぽん!」
裕美「そうだよ泰葉ちゃん。今はリ◯ガーハットはテイクアウトもしてるんだ!」
ほたる「私たちで頑張ってちゃんぽんを作っても、きっと泰葉ちゃんに満足してもらえない……」
千鶴「長崎県民にとって最も馴染み深いちゃんぽんはリンガーハッ◯だからね」
裕美「どうかな?泰葉ちゃん。一生懸命泰葉ちゃんのお家から一番近いリンガ◯ハットを探したんだよ」
泰葉「私のために、そこまでしてくれたんだね……」
裕美「!……うん!私、昨日の演技相談のお礼もできなかったし……」
泰葉「流石に自信満々にちゃんぽんって言われてお蕎麦とうどんのハーフが出てきたのは戸惑ったけど……」
千鶴「それは私たちでも戸惑うな」
ほたる(ウンウン)
泰葉「ありがとう……裕美ちゃんの気持ち、たくさん伝わってきたよ……♪」
裕美「良かった……じゃあこれからみんなでリンガーハ◯ト女子会だね!」
千鶴「もちろん、私たちの分もテイクアウトしてきてるから」
ほたる「みんなで美味しくいただきましょうね♪」
泰葉「うん♪それじゃ、あらためて4人で……」
4人「いただきます!!!!」
おしまい。
富山県の一部地域のみのちゃんぽんはこんな風だそうです。
https://rocketnews24.com/2017/08/27/945651/
トルコライス「我々は」
カステラ「長崎名物を」
角煮まん「他をさしおいて」
皿うどん「ライバルであり敵である」
レモンステーキ「ちゃんぽんだけに限ったことを」
佐世保バーガー「厳重に抗議する」
ま、名前が同じで別の中身の料理なんていくらでもありますけどね(例。酢豚、カツ丼、おでん、雑煮)
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