【ミリマスSS】夢の国へ御招待 (25)

アイドルマスターミリオンライブ!のSSです。
地の文があります。

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ここは、私たちだけの秘密の部屋。
ユニットのみんなで秘密を共有する時に、可憐さんが教えてくれた、大切な場所。
プロデューサーさんに確認したら、ここはステージの下にある「奈落」という部屋のさらに奥にあって、何に使う部屋か良く分からないらしいです。

だから、好きに使って良いよ。って言ってくれました。
私たちFleurangesが秘密のお話をする時には、この秘密の部屋を使います。それ以外にも、一人でのんびりしたい時なんかは、みんなに隠れてこっそり使っちゃったりしています。

えへへ、これもみんなには内緒ですよ。
可憐さんも新しいアロマを試したり、美也さんも将棋の問題をゆっくり考えたい時なんかに使っているみたいです。可憐さんが使った後は良い匂いがするんです。
 


今日は、この部屋で学校の予習をしようと思います。
事務室にたくさんの人がいて賑やかなので、お邪魔になっちゃうかもって思って、この部屋にやってきました。

コンコン、カンカン。

頭の上から、人が歩く音と一緒に、何かがぶつかる音が聞こえます。
そういえば、今日はステージの設営があるんでした。邪魔になっちゃうかな?
ちょっと様子を見ていましたが、奈落に人が下りて来る様子はありません。大丈夫そうです。

奥の部屋に入ると、不思議な匂いがしました。
可憐さんの新しい香水でしょうか。

息を吸うと、頭がふわって浮いちゃうみたい。
うーん、私が知らない香水みたいです。
あんまり得意な匂いではないけど、すぐに慣れて気にならなくなりました。
早速勉強を始めようと思います。えーっと、まずは英語から……。
 

 
「星梨花ちゃん。今日は危ないから、ここ、使わない方が良いよ」

ドアの前に立っていたのは、小さな女の子でした。
いつの間に入ったのでしょうか。ドアが開いた音は聞こえませんでした。
スタッフさんのお子さんでしょうか。私は見たことがありません。

「あなた、どこから来たの? お父さんとお母さんは?」
「私はげき子。星梨花ちゃん、この部屋、変なにおいするでしょう?」
「え、うん……」
「ステージで使う塗料は身体に悪いの。この部屋は匂いが溜まりやすいから、設営中は使わない方が良いよ」
「そうなんだ、知らなかった。ありがとう」
「だから早く出たほうが良いよ。扉も開けておくから」
 

  
女の子がそう言うと、手も掛けていないのに勝手にドアが開きました。
そのまま、女の子は部屋を出ていこうとしてしまいます。

「あっ、待って」
「他の子たちにも伝えておいてくれると嬉しいな。それじゃあ、またね」

私が勉強道具を鞄に仕舞っているうちに、女の子は奈落の暗闇に溶けるように見えなくなってしまいました。
慌てて追いかけましたが、もうその姿はどこにもありませんでした。
劇場に来るスタッフさんがお子さんを連れてきたという話は聞いたことがありませんし、劇場の入り口は警備員さんがいるのでいたずらっ子は入れないはずです。

一体あの子は、どこから来たのでしょう……。
 

 
「というわけで、げき子ちゃんっていう女の子が、変な匂いがする時は危ないよって教えてくれたんです」
「そっか……。ご、ごめんね、私がちゃんと伝えていれば……」
「とにかく何事もなくて良かったですね~。それで、そのげき子ちゃんという子は、誰なんでしょうか~?」
「うーん、迷子さんなのかねぇ。プロデューサーには聞いてみたのかい?」

後日、私はFleurangesの皆さんを秘密の部屋に呼んで、その日に起こったことを伝えました。
今日はもう工事はしていないので、変な匂いはしません。可憐さんが持ってきてくれたアロマキャンドルの良い匂いが部屋いっぱいに広がっています。バラの香りを胸いっぱいに吸い込みます。
狭い部屋なので、四人が集まるとちょっとぽかぽかして温かい気持ちになります。
 

 
「プロデューサーさんにも聞いてみたのですが、入り口の監視カメラにはそんな子は映っていなかったらしくて……」
「この部屋にはカメラはありませんからな~」
「そ、それなんだけど、あの……」
「どうしたんだい可憐さん」

「こ、この部屋に、私たち以外の人間が入った匂いがしなくて。し、知らない人の匂いがあれば、すぐに分かると思うんだけど……」

それって……。
私たちは互いに顔を見合わせます。可憐さんはビクビクとあたりを伺っているようでした。
 

 
私とひなたさんは、何となく同じことを考えているみたいでした。でも、口に出す勇気はありません。

「しかし~」
美也さんが口を開きました。

「可憐ちゃんなら、幽霊さんの匂いも嗅ぎ分けられるのでは~?」
美也さんは、時々すごいことを言います。

「い、以前みんなと病院で肝試しをしたときは、幽霊さんからもヒトみたいな匂いがしたから、不思議だなって……」
可憐さんも、時々すごいことを言います。

ということは、ここには女の子も幽霊さんもいなかった、ということでしょうか。
うぅ……、もしかしてあれは、私が居眠りをしてしまって、夢を見たということなんでしょうか。もしそうだったら、とっても恥ずかしいです……。
 

 
「コロポックルみたいなもんなのかねぇ」
「コロポックル?ってなんですか?」
「内地の方だと、座敷童子って言えば良いんだろか」
「お~。妖怪さんですな~。では、可憐ちゃん?」
「ざ、座敷童子さんの匂いも嗅いだこと無いよぉ」

うーん。どこかで聞いたことがあるような気がするのですが、どんな妖怪さんだったかはしっかり覚えていません。
でも、もし妖怪さんだったら、やっぱり怖いお話なのでしょうか。
 

 
「大丈夫だよ星梨花ちゃん。座敷童子は、見ると幸運をくれる、優しい妖怪さんなんだよぉ」
「優しい……。確かに、危ないことをしていた私を助けてくれました!」
「きっと、星梨花ちゃんのことが大好きなんですね~」

何も知らなかった私が悪いのですが、げき子ちゃんのおかげで危ないことにはならなかったことは確かです。
もしげき子ちゃんが悪い妖怪さんだったら、こんなことはしないはずです。
そう考えると、なんだか心がぽかぽか温かくなってきました。

「あの、私、げき子ちゃんにお礼が言いたいです!」
「お~。それは良いですな~」
「ありがとうって、いっぱい言えば良いんだべか。ありがとう~!」
「あ、あんまり大きな声を出すとこの部屋がバレちゃう……」
「あ、そっか。ごめんねぇ可憐さん」
 


こうして、Fleurangesの四人でげき子ちゃんにお礼をすることになりました。

「お菓子とか、お酒とかを神様にお供えするんだよぉ。あれ、妖怪さんの時はどうすれば良いんだべか」
「座敷童子さんは小豆が好きみたいなので~、豆があると良いのでは~」

ひなたさんと美也さんは、こういうことに詳しくて、とっても頼りになります。
みんなでこっそり劇場の冷蔵庫を開けて、お供えできそうなものを探します。

「くんくん……。料理酒もちょっとだけ頂いちゃおっか」

小さなお皿や、お月見の時に使った台も一緒に持って、みんなで秘密の部屋に戻ります。
プロデューサーさんや、律子さんにだって言っていません。誰にも言わずに、みんなでこっそりと戻ります。
だって、あの部屋はFleurangesだけの秘密ですから。
えへへ、またみんなの秘密が増えちゃいました♪
 

 
秘密の部屋に戻ると、げき子ちゃんがいました。

「あっ、げき子ちゃん。どこから入ったの!?」
「おや~。あなたがげき子ちゃんですか~。初めまして~」
「初めまして。美也ちゃん、ひなたちゃん、可憐ちゃん。私はげき子」
「はや~、小さいのにしっかりした子だねぇ。偉いねぇ」

ひなたさんがげき子ちゃんの前に屈みこんで、頭を撫でています。
またどこかから忍び込んだのでしょうか。今日は劇場にスタッフさんも来ていません。げき子ちゃんだけが知っている秘密の道があるのかもしれません。

妖怪さんかもしれませんが、私たちの目に映るげき子ちゃんは可愛らしい小さな女の子です。育ちゃんと同い年くらいでしょうか。
小さくて可愛いげき子ちゃんの周りに集まって、思い思いの言葉を投げかけながら可愛がっています。Fleurangesに妹ができたみたいで、皆さんの顔が緩みます。
……可憐さんを除いて。
 

 
「あ、あなた一体、なんなんですか……?」
「驚かせてごめんね可憐ちゃん。私は劇場の魂。765プロを応援する人々の夢のカケラが集まって生まれた存在」
「あ。そ、それでヒトじゃなくて劇場の匂いがするんだ……ほっ」
「劇場の匂い? 私、そんな匂いするの……?」

「よく分からないけど、みんなでげき子ちゃんにお礼を言おうって話をしてたんだよぉ。ありがとねぇ」
「そうでした! げき子ちゃん、あの時はありがとう!」
「そう、そのことなんだけど、お供えはやめてね。勿体ないし、ここ湿気っぽいから」
「確かに~、ここに置いていたらすぐに悪くなってしまうかもしれませんね~」
 

 
「良いことを思いつきました~」

美也さんが、ぽむっと手を叩きました。
美也さんの手はとっても柔らかいので、大きな音は鳴りません。

「それでは、げき子ちゃんも一緒に、ここでお茶会をしましょう~。そうすれば、持ってきたお菓子も無駄になりませんよ~」
「えっ、でも私はモノを食べられないし……」
「げき子ちゃん、クッキー嫌い?」
「歌舞伎揚げもあるよぉ」

げき子ちゃん、小さいのに遠慮しちゃって可愛いです。なんだか桃子ちゃんを見ているみたい。
みんなでげき子ちゃんに目線を合わせて、寄ってたかってお菓子を押し付けます。お酒は誰も飲めないから持って帰ろうね。
美也さんは早速お湯を温め始めています。ここは電源も通ってるから、この前ポットを持ってきたようです。食器だって沢山あります。取り分けやすい小さなお皿も沢山。
 

 
「ね、げき子ちゃん。一緒にお茶しよう?」
「う、うぅ……わかった」

その後もげき子ちゃんは「じごしょり」がどうとか言っていましたが、こういう時は少しだけ強引に席に着かせちゃうのが一番です。ピコピコプラネッツで小さなお友達がたくさん出来たので、ちょっとだけお姉さんっぽい振る舞いに慣れてきました。えへへ。
こうして、今日の秘密のお茶会に、新しいお友達が加わりました。

「げき子ちゃん。ルマンド食べるかい」
「いや、私は……」

まだげき子ちゃんはちょっと遠慮気味。小さくて可愛い妹が出来た気分なのか、ひなたさんがいつもより色んなお菓子を勧めています。いつもは私が勧められる立場なので、なんだか面白いです。
 

 
「げき子ちゃんは、いつも劇場にいるんですか~?」
「いるというか、劇場そのものだね」

「え、えっと……じゃあ、その姿は……」
「適当。普段はみんなの前に姿を見せないし、見せちゃいけないから」

「あっ、じゃあこの前は私が危ないことをしていたから、無理して姿を現してくれたんだね。ありがとう、げき子ちゃん」
「別に。ただ、あのプロデューサーとかいうヤツがもう少ししっかりアイドルを見ているべきというか……」

そっか。げき子ちゃんは劇場の魂だから、プロデューサーさんのことも美咲さんのことも知っているんですね。もしかしたら私たちが知らないプロデューサーさんのことを知っているのかもしれません。
美也さんも同じことに気が付いたみたいで、私と顔を見合わせてにんまりと微笑んでいました。
 

 
「げき子ちゃん。げき子ちゃんから見て、私たちのプロデューサーさんはどうですか~?」
「どうって、劇場を大事にしてくれて感謝はしてるけど。アイドルを外に連れ出そうとするから、なんていうか、いけ好かない」
「ふむふむ、げき子ちゃんもプロデューサーさんのことが大好きなんですな~」
「どう聞いたらそうなるのよ」
「あたしたちが帰った後のプロデューサーのことも見てるんだよね? あの人、無理したりしてないかい?」

少しだけ考えるような仕草を見せるげき子ちゃん。
げき子ちゃんは、昼も夜も関係なく、私たちみんなのことをいつも見てくれています。
だから私たちは劇場でお仕事するときはいつもより安心するし、劇場に戻ってきたときには「ただいま」と言ってしまうのかもしれません。
 

 
そんな私たちよりもずっと長く劇場にいるのは、プロデューサーさんなんだと思います。
だからこそ、げき子ちゃんから見たプロデューサーさんのことが気になります。

「まぁ、頑張ってるとは思うよ。あの人が倒れたらアイドルみんなが困るんだから、もっと自分のことを大切にしてほしいと思うけど」
「そ、そうだよね……。げき子ちゃんでもそう思うんだ、心配だなぁ……」
 

 
どうしましょう。今度、秘密の御茶会に誘ってみましょうか。といったお話をしていた矢先、げき子ちゃんが申し訳なさそうに口を開きました。

「でも、今日私がみんなに話したことは、忘れてもらわないといけないの。ごめんね」

そういえば、げき子ちゃんは姿を見せてはいけないと言っていました。
アイドルの皆さんも、プロデューサーさんだって、げき子ちゃんのことを知りませんでした。
 

 
「大丈夫だよげき子ちゃん。この部屋でお話したことは、秘密だから」
「そうですよ~。私たちFleurangesは、このお茶会にいつも秘密を持ち寄って、秘密を共有しているんです~」
「げき子ちゃんのこともみんなには絶対に秘密にするから、安心してねぇ」
「げ、劇場のみんなは、この部屋のことも知らないから……」
「いや、そうじゃないんだけど……」

げき子ちゃんが困った顔をしています。
ひなたさんが、秘密をみんなに喋るかどうか悩んでいた時の顔に少し似ています。

またみんなで身を乗り出して、げき子ちゃんの次の言葉を待ちます。
言いたくないことは言わなくて良いし、言ってくれたことは絶対に秘密にする。それがこの秘密の御茶会の決まりごと。
 

 
「……分かった。確かにこれまで、ここでの秘密は誰も話していないみたいだし、見逃してあげる」
「えへへ、じゃあこれは、私たちとげき子ちゃんの間だけの秘密ですね♪」
「そうですね~。なんだか嬉しいです~」
「じゃあ、今度はあなたたちの秘密を教えてもらおうかな。劇場のこと、アイドルのこと」
「そうだねぇ。劇場といえば、あたしたちはデビューの前から――」
 
私たちとげき子ちゃんは、いっぱいいっぱいお話しました。
楽しい時間はあっという間で、いつの間にかテーブルの上のお菓子はきれいさっぱり無くなってしまいました。

秘密の部屋でげき子ちゃんとお別れして、みんなでまたこっそりお皿などを戻しに給湯室へ。
そのまま解散になって、私だけが事務室に残りました。
秘密の部屋を出てから、誰もげき子ちゃんのことを口にしませんでしたが、私はしっかり覚えています。きっとみんなも同じ。
 

 
「あっ星梨花。丁度良かった。この前見た女の子の話だけど、あの後スタッフにも色々聞き込みを続けているんだが……」
「すみませんプロデューサーさん。その話、私がうとうとしちゃって夢を見ていたみたいです。忘れて下さい♪」


おわり
 

終わりです。HTML依頼出してきます。
げき子とFleurangeを絡ませたかったんです。

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