「ね、ママ」
「ん? どうしたの?」
「どうしてじゅんぺーと結婚したの?」
淳平くんと結婚して早10年の歳月が流れた。
いつも一緒に居ることが当たり前になると高校時代のような関係性を維持することは難しいけれど、淳平くんは未だにあたしのことをワクワクさせてくれる。それが1番の理由だ。
「パパを見てるとワクワクするからだよ」
「たとえば?」
そうだな。たとえばいま現在なんてまさに。
「ほら純、パパたちを見て」
「じゅんぺーよだれ垂れてる」
「うん。平司と同じ寝顔してる」
「でもへーじはママ似だよ?」
「うん。そんなところが面白くて、将来どうなるんだろうってワクワクする」
長女の純はパパ似で、弟の平司はママ似だ。
ほんとは長女が生まれた時に淳平くんの淳って名付けたかったんだけど、他ならぬ淳平くんが淳だと"あつし"って読めるからと主張して字違いの"純"になった。今となっては良い思い出だ。平司は淳平くんの"平"とつかさを漢字で書いて"司"。時代劇に出てきそうな名前だけど、女顔で、我が子ながらかわいい。
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「へーじはいいな」
「どうして?」
「ママに似てかわいくて羨ましい」
「へーじはいいな」が純の口癖だった。弟の手前、姉としての威厳を保ちたいのか純はあまりあたしやパパに甘えない。だからつい、甘えん坊の平司ばかり構ってしまいがちだ。
「純だってとってもかわいいよ」
「だってあたしはパパ似だもん」
どうやら淳平くんに似ていることが純にとってはコンプレックスらしく、ぷくっとほっぺを膨らませながら、こんな文句を口にした。
「もっとかっこいいパパなら良かったのに」
「パパはかっこいいよ」
「えー!? どこがー!?」
やれやれ。純にはまだパパのかっこよさがわからないらしい。仕方ない。ママの出番だ。
「パパはね、ママに懸垂しながら好きだって言ってくれたんだよ」
「なにそれ! ダッサ!」
ダ、ダサイかな。そんなことはないと思う。
「でもそんなことするのパパだけだったんだよ。だからママはパパに惹かれたの」
「ママ……見る目ないね」
失礼な。純は知らないのだ。パパの魅力を。
「あのね、純。こう見えてもパパは高校時代モテモテだったんだよ」
「えーっ!? 嘘だぁー!!」
「嘘じゃないよ。ママ、負けそうだったよ」
「ええーっ!? ママがぁー!?」
淳平くんはモテた。あたしもそれなりにモテたけど、淳平くんの周りには素敵な女の子ばかりだった。それぞれ好きになった理由は違うと思うけど、今思えば懸垂がきっかけのあたしがよく勝てたと思う。うん。頑張った。
「最後の最後までヒヤヒヤしたよ」
「ほかのひとにあげれば良かったじゃん」
「そしたら純は生まれてこなかったでしょ」
こうして家庭を持ってつくづくあの時頑張って良かったと思う。正直、何度淳平くんから手を引こうと思ったことか。でも駄目だった。あたしには、あたしをワクワクさせてくれるのは淳平くんだけだった。だからね純。
「パパ似は褒め言葉だぞ」
「ぜんっぜん褒められてる気しない……」
「だってママ、パパのこと大好きだから。だから、パパに似ている純も大好きなんだぞ」
もちろん自分に似ている平司のことも大好きだけど、純にはどうしてもパパを重ねてしまう。ていうか、淳平くんは高校時代から髪の毛サラサラでわりとかわいい顔してたし。その血を引く純は昔読んでた少女漫画に登場する"藤岡ハルヒ"みたいであたし好みだし。まあ、それを言っても伝わらないだろうケド。
「純も恋すればわかるよ」
「そうかなー?」
「そうだよ」
恋なんて遠い世界の出来事だと思っていた。
それでもあの日あの時あの瞬間、あたしは懸垂しながら告白する淳平くんに、恋をした。
「懸垂は乙女の美学だぞ」
「ママが乙女ー!?」
失礼な。ママも乙女だったよね、淳平くん?
「むにゃ……ママは、今も……かわいい」
「~~~~~~~っ……淳平くん、好き」
よく言った。偉いぞ、淳平くん。大好きだ。
「ママ、かお真っ赤」
「パパにキスしちゃおっかな」
「やめて! みたくない~!!」
高校時代の未来が今現在。あたしは幸せだ。
「純もこれからパパに負けないくらい良い人見つけないとね。まあ、無理だと思うケド」
「じゃあ、じゅんぺーと結婚してもいい?」
「そ、それはだめっ!?」
「あははっ! ママ、かお真っ青!」
あたしは知ってる。娘にじゅんぺー呼ばわりされてパパは満更でもないことを。たまに膝に乗ってくる我が子を愛しく思っていることを。自分に似ている娘が可愛くない筈ない。
「あたしがじゅんぺーにキスしよっかな」
「ぜったいダメ! パパはママのもの!!」
実の娘に何を張り合っているのやら。いつまで経ってもあたしはハラハラドキドキ。だけどスリル満載で楽しい。ワクワクしている。
「それにしてもパパたち起きないねえ」
「へーじもぐっすりだね。ん? ねえ、ママ」
「どうかした?」
「へーじ、うんち漏らしてるよ」
「フハッ!」
「淳平くん!?」
突如として愉悦を漏らしたパパにびびった。
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
これは、フハッ咲く男の美学……なのかな。
「じゅ、淳平くん……」
「ママ。やっぱりじゅんぺーはだめだよ」
高らかに哄笑するパパに母子共々ドン引き。教育上よろしくないと判断して叩き起こす。
「こらーっ! どんな夢見てんだよ!?」
「ふあっ!? に、西野!?」
「今は淳平くんと同じ"真中"だろ!?」
昔のような口調で寝ぼけた亭主に喝を入れると、淳平くんは何やらキョロキョロして。
「あれ? ウンスジいちごパンツは……?」
「な、なに言ってんだよ!? 」
「だって今さっき、西野が漏らして……」
「漏らしたのは平司だよ!!」
あらぬ疑いをかけられたあたしが憤激して事情を説明すると、淳平くんはおもむろ胸に抱く平司のズボンの中を確認してなにやら納得したような顔で頷き、衝撃的な発言をした。
「平司め。勝手にママのパンツ穿くなよな」
「はあっ!? なにソレ!? どゆこと!?」
「やっぱりウンスジいちごパンツだったよ」
にっこり笑顔の淳平くん。なに嗤ってんだ。
「ママっていちごパンツ穿いてるの……?」
「だ、だって淳平くんが穿いて欲しいって」
おかげでタンスの中はいちごパンツだらけ。
「ともあれ、平司の未来が愉しみだな!!」
「まったく……さすが淳平くんの息子だよ」
不安だけど、ワクワクする。You're my love.
【いちご100フハッセント West side story】
FIN
やっぱり『西野』ですよね。
そして五等分の花嫁でも『一花』ですよね。
わかる人にはわかると思います。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
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