【β版】ラストデザイア (3)


【※注意!】
 当作品は>>1の過去に執筆した二次創作SSをオリジナルの小説に書き直したものであり、内容や設定は変えつつも見覚えのあるものとなります。
 閲覧する上でお気づきになられた方がいましたら、まず当方の酉を確認された上で上記にご注意・ご了承下さい。

 尚、基本的に書き溜めはしません。
 当スレッドに逐一投稿された物が書き溜めのような物となります。以降、よろしくお願いします。



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●開幕

 それは、何も考えていなかった時間。
 ただ思い思いのままに。
 純粋に自分の気持ちに素直でいられた瞬間の積み重ね。

「ねえ、おんぶしてよ」

 硬い床を歩いていると、どんなに良い履物をしていても足が痛くなった。
 そんな時、私は彼にこう言うのだ。
 両手を伸ばして──私を背負ってとお願いをする。そうすると彼はいつだって私に照れた様な、微笑む様な、微妙な笑顔を浮かべてこう言うのだ。

「はい」

 私はそんな彼との一瞬が大好きだった。



●第一話


 荘厳な絵画が並ぶ回廊に年若い男女の声が響いている。

「乗り心地はどうですかぁ」

「追加で褒めて欲しいならのんびり歩く以外にもあるんじゃない?」

「はいはい、我が愛しのお姫様を大至急お部屋にお連れ致しますねぇ」

 床一面に敷かれた大理石をブーツの踵が小さく打つ音。
 音が殺された、少しでも揺れを抑えようとする歩み。それでも足音が隠せないのは、歩いている人物の背中には一人の少女が背負われているからだろう。

 少女を背負う青年。
 長い金髪を簡素な装飾のサークレットで持ち上げ、男性らしい硬さを持ちながら優しい眼差しをした彼に。少女は耳元で苦鳴混じりに囁いた。

「ねぇ、アラン」

「……んー?」

 名を呼ばれ、振り返らずに返事をする青年……アラン。
 彼の背に揺られている少女はポコン、と細い指を束ねた拳で目の前の金髪を軽く叩いた。
 その適当な声が気に入らなかったのか。少しだけ拗ねた声音で彼女は続ける。

「私、最近重くない?」

「突然ですなぁ」

「だって、一昨年は着れたドレスが着れなかったのよ。気になるじゃない」

「シーラ王女殿下はまだ今年16になったばかりですので、これから着れなくなる服は増えますよ」

「そんなのこの前も聞いたわ。私が気になるのはそうじゃなくて、本当に背丈だけの問題なの? ってこと」

 シーラ、と呼ばれた少女は体重を預けながらアランの肩に額を乗せる。
 その際に彼女の長い……腰元に届くサラサラとした銀の光を携えた髪がアランの前に垂れ、彼はそれを後ろ手にシーラの側へ戻してやりながら「ふむん」とちょっとだけ悩む声を漏らした。

 シーラ・ローゼンブラード──彼女は王女だ。
 ホルムルンド城の主の愛娘であり、姫であり、王妃亡き今は彼女は次期国王となる存在だ。
 だが年齢もさることながら、年頃の娘である。多少ふくよかになることもあるだろうとは思うが、それを正直に言えばどうなるかアランはよくわかっていた。

 アランは小さく顔を後ろに向け、銀の髪を揺らすシーラの深い青瞳を覗いた。

「世の中にはもっと沢山の衣装があるものです。嘆くのはそれらを試してからでも遅くないのでは?」
 


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