サトシ「ママが……倒れた!?」 (21)
サトシ「ママが倒れたってどういうことですか!?」
ピカチュウ「ピカピー!」
オーキド『そのままの意味じゃ。命に別状はないが、お見舞いくらいしてやりなさい』
サトシ「……はい」
少しだけ言葉を交わしたのち、サトシは通信を切った。
サトシ「まだ旅はしたいが、そんなこと言ってられないな。早めに戻るか」
サトシ「今は一緒に冒険している人もいないから自由に行動ができる。明日にでも空港に向かおう」
ピカチュウ「ピカ!」
サトシ「それにしても、もうママも若くないのかな……。くそ、今日は眠れそうにない」
ポケモンセンターの宿泊スペースに移動し、荷物を簡単にまとめた彼は早めに床に就いた。
このときポケモントレーナーのサトシ、31歳であった。
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すぐにサトシはカントー地方に戻り、実家へと急いだ。
サトシ「ママ!!」
ピカチュウ「ピカ!!」
ハナコ「あらやだ、ほんとに来たの!?もう大丈夫なのに」
オーキド「おおサトシ、早かったのう」
サトシ「あれ、思っていたより平気そうじゃん」
ハナコ「大げさに言い過ぎなのよ、博士は」
オーキド「いや、そんなことはないんじゃよ。今回は無事で済んだものの」
ピカチュウ「ぴい~?」
サトシ「んー、まあ無事なら良かったや。ママ、腹減ったあ」
ハナコ「もう、この子はいくつになっても子供ねえ」
ハナコ「博士も夕飯ご一緒します?」
オーキド「そうするとするかのう。まだ少し不安じゃから、食事はワシとサトシが作るとするかの」
サトシ「ええ~!?帰ってきたばかりなのにい」
その場は笑いに満ちた。
サトシは、少々拍子抜けしながらもこの優しい雰囲気に安心し、不安な気持ちは消えていった。
オーキド「サトシや」
サトシ「なに、博士」
食事した後にハナコを休ませている間、二人は食器を洗っている。
オーキド「サトシは旅をこれからも続けるのかね?」
サトシ「……正直、迷っています」
オーキド「そうか。どうしてなんじゃ?」
サトシ「この歳で定職にも就かず、ポケモンマスターにもなれず。旅は楽しいですが、以前のように純粋には楽しめなくなっています」
サトシ「同い年のトレーナーが少ないので旅仲間もできないという点では寂しさもありますね。子供を見ると懐かしさで胸が痛みます」
サトシ「極めつけに今回のことです。結果的に大事には至らなかったけどママが倒れて、俺は旅なんてしてる場合なのかと」
サトシ「ママを心配させたくないという思い、ふらふらしてる自分の情けなさ、もしものことがあったらママはどうなるんだろうとか考えると、もう」
サトシ「金銭的な援助もしてもらっているので、そもそも旅自体がママの負担になっていたんです。これ以上負担を増やして疲れさせたくない」
オーキド「サトシなりに考えてはいたようじゃな。ポケモントレーナーでは珍しくもない悩みじゃが、30代にもなると答えを出すべきなのかもしれん」
暗にトレーナーを辞めよと言っているのか一般論を語っただけなのか、サトシにはわからなかった。
オーキド「それにしても後ろ向きじゃのう。旅仲間がいないと色々と考えこんでしまうのかもしれん」
オーキド「かつての旅仲間と近況報告をしてはどうかの?新しく見えることがあるかもしれんぞ」
サトシ「近況報告ですか」
サトシは正直気が進まなかった。今の自分を誰かに見られることは恥ずかしく思えたのだ。
ハナコ「何の話?」
サトシ「うわあママ、何でもないよ」
オーキド「ああ、タケシやカスミと会ってはどうかと言っていたところなんじゃ」
サトシ「え」
ハナコ「まあ良いわね。何年ぶりになるのかしら」
サトシ「と、とにかくママは休んでて!俺が家事やるから!」
ハナコ「ありがとうね~。じゃあお先にお休みするわ~」
ハナコは寝室へと向かう。
サトシ「でも、確かにあの二人が何をしているのか少し気になるな……」
オーキド「久しぶりじゃしのう、直接会ってみると良い」
流れで決まったような気もするが、サトシは二人に会うのが楽しみになってきていた。
あの二人にコンプレックスを抱くことは、まず無いだろう。
【注意】
・本作はポケモンを原作とした二次創作ssです。あとss初めてです。
・本編より21年後を舞台としているため、キャラのイメージに相違があるかもしれません。
・オリジナルの設定やキャラが出てくると思うのでご了承ください。
・ORAS以降は詳しくないので原作との矛盾があるかもしれません。
・過度にえげつない描写はない予定です。
・色々許せるという人向けです。
サトシ「わかった。来週だな」
タケシ『ああ。楽しみにしてるぞ』
予定を組む段階で、サトシは社会人との差を感じていた。いきなり会おうと言っても、タケシもカスミも会えるわけではなかった。二人には仕事がある。
カスミに至っては結婚していた。家庭と仕事を両立している彼女に、誘ったサトシは申し訳なさすら感じた。
サトシ「でも、大人になった二人か。楽しみなのは違いない」
そして約束の日、某レストランにて。
タケシ「おおサトシ、変わらんな」
サトシ「タケシ!ガタイ良くなったな」
カスミ「わー、サトシは変わんないなー!」
サトシ「うわなんかカスミ、大人っぽいな見た目が」
カスミ「大人ですー!いつまでも子供のサトシとは違うんだから」
子供と言われたサトシは素直に笑えなかったが、曖昧に微笑んだ。
サトシ「まあとにかく、こうしてみんな集まったんだ。本当に……ひさしぶりだな」
タケシ「感傷に浸るのが早いなあ。でも本当に懐かしいよサトシ。まだ旅してるんだってな」
サトシ「ああ、まあそうなるな……とにかく、料理頼もうぜ!」
サトシはメニュー表を開いた。
カスミ「そういや何で急にカントーに帰ってきたのよ」
サトシ「ああ、実はママがな……」
サトシは母のことを説明した。特に後遺症もなく、今はもう回復していることも伝えた。
タケシ「そんなことがあったのか。大事に至らずよかったよ」
カスミ「そりゃあ流石のサトシも帰省するわね。元気になったのなら、今度挨拶に行こうかしら」
サトシ「今はもうピンピンだよ。ピンピンといえば博士もだな。あっと、そろそろ注文しないと」
そして彼らは食事を注文し、会話に花を咲かす。
タケシ「ジムリーダーの仕事は悪くないが、旅をしていた方が経験できることは多いかも知れないな」
カスミ「そうね。というか、旅してた時が色々ありすぎたのよ。ロケット団とかもいたわね。伝説のポケモンに会うことすらあったし」
サトシ「俺はカスミやタケシと別れた後もロケット団にも伝説ポケモンにも会ってたぞ」
タケシ「サトシすげえな」
カスミ「何かツイてんのよね、サトシは」
3人でした旅の話は懐かった。二人はサトシがその後に行った地方の話も興味深く聞いた。
しばらくして料理が運ばれてきた。
タケシ「うまいなこれ」
カスミ「はあ、ゆっくり食べるのって良いわね。普段はジムリーダーも事務とか地域振興の仕事とかあって暇じゃないのよね」
タケシ「手を抜こうと思えばいくらでも抜けるが、そういうわけにもいかんしなあ」
二人は仕事を愚痴るが、サトシはそれが少し羨ましいとすら感じてしまった。
サトシ「大変なんだな」
カスミ「サトシだって大変じゃない?色んな地方の新しいポケモンやルールに対策取るの、簡単じゃないと思うけど。旅自体も苦労するでしょ」
サトシ「まあそれはそうだけど。ポケモン好きだし、嫌になることはないぜ」
タケシ「相変わらず、根っからのポケモン好きだ。俺は旅する気力はもうあまり無いから、少しサトシが羨ましいよ」
カスミ「そうね。防衛と事務に気を取られてる私らとは何か根本的に違うわよね。私なんて家庭もあるから、旅なんてもうできないかなあ。ああ、楽しかったなああの頃は」
サトシ「いや、俺も実は不安に思うこともあってさ……」
やはりこのメンバーなら腹を割って話せる。サトシは長く自分で抱えてきた不安や将来の悩みを打ち明けた。
カスミ「正直意外だわ、そんなこと考えてるなんて。バトル中に流れ弾で死んでも気づかずポケモンへの指示を出してそうなくらい戦闘狂なのに」
サトシ「どんな例えだよ」
タケシ「でも真面目な話、そういうトレーナーは少なくない。学歴、資格、経験も無いままに大人になり、稼げずに困る人たちだ。とはいってもサトシほどの実力者なら中堅トレーナーを狙って荒稼ぎもできると思うがなあ。どうなんだそこんとこ」
サトシ「強い人とも戦いたいんだよ俺は。あとバトルは生計のためにしてるわけじゃないし。というか問題は稼ぐ額じゃなくて、何と言うか……。ママを安心させたいってのと、自分が安心したいってのがあるんだ。……働くって、二人が考えているよりもきっとすごいことなんだよ。俺は労働が怖いし、同時に憧れてもいる」
タケシ「お前本当にサトシか?随分悩んでるな」
サトシ「俺だって悩みくらいあるわ。自由を失い働くことと、社会に益を還元して誰かの役に立つこと。どちらも労働で、多くの人がしている」
カスミ「旅ばかりの実質ニートなのに自分なりの労働観はあるのね」
サトシ「もしかしたら、きちんとした息子として働きママを安心させたいのかもしれない。自分が普通の社会から逸脱していることに個人的な焦りを感じているだけなのかもしれない。ここ数年の旅は現実逃避だったのかもしれない。もう、旅は俺にとって良い思い出に過ぎないのかもしれない……」
カスミ「予想以上に深刻だわ、こりゃ」
サトシ「悪いな、変な空気にしちゃって」
タケシ「そこまで思うなら、もういっそのこと働いてみたらどうだ?もし合わなかったら途中でやめればいいさ」
サトシ「でも俺なんかを雇う会社なんてあるのか?」
タケシ「日雇いや派遣ならともかく、正社員は正直難しいだろうな。バイトをしつつ学問を修めて就職する手もあるぞ、長期的な案だけど」
カスミ「それじゃあサトシ40歳手前になっちゃうじゃない、大学出ていても厳しいと思うわよ。実力勝負でポケモンリーグに面接に行ったら?」
サトシ「むむむ……」
サトシは悩む。しかし、二人が真剣に相談に乗ってくれたことが嬉しく、思いのほか気持ちは明るかった。
今回はここまでです
カスミ「それにしてもクヨクヨするなんてサトシらしくもない。でも初めて会った時とかこんな感じだったっけ」
サトシ「あの頃は冒険始めたばかりだし誰だって不安になってるだろ!」
タケシ「お、気になるなその話」
昔のような明るい雰囲気になってくる。ああ、あの頃が懐かしい……。サトシは仲間の大切さを改めて認識した。
一通り話し込んだ後、思い出したようにタケシが言う。
タケシ「そういや就職の話だけど、何なら俺のコネを使っても良いんだぞ?ははは」
サトシ「おい、酔ってきてないか? ていうかコネなんかあるのかよ」
タケシ「俺、一応地元の有力者だし。てかカントー全域でも有名だし」
カスミ「まあジムリーダーが力あるのは確かね。でもタケシ、公私の区別くらいしなさいよ」
タケシ「サトシを紹介するだけだ。このくらい良いだろう」
サトシ「いやまあ、まだ就職したいかどうかも決めてないし」
でも、少し興味はある話だった。
サトシ「まあ今は再開を喜ぶ会だぜ。仕事とかの話はもういいだろう」
サトシ「お、頼んでいた飲み物が運ばれてきた。じゃあ改めて、もう一度乾杯!」
タケシ&カスミ「「乾杯!」」
飲食をしながら少し話した後、その日はお開きとなった。
サトシ(就職か……。考えるよりもまずはチャレンジしてみるというのも良いかも知れない)
サトシ(でも俺、本当に仕事向いてないと思うんだけど。大丈夫かなあ)
帰り道、星空を見ながらサトシはそう思った。
翌日。
サトシは他の仲間たちが現在何をしているのか気になり、連絡を取ることにした。
サトシ「お、繋がった? もしもし。サトシだけど」
マサト『うわ、サトシ久しぶり!』
サトシはまずホウエン地方で共に旅をしたハルカとマサトのもとにテレビ電話をしてみた。出たのはマサトであった。
サトシ「マサト成長したなあ。身長俺より高いんじゃないか?」
マサト『あはは、そうかも。ところで本当に久々だね。何の用?』
サトシは説明をした。旅のこと、就職のこと、母のこと、いまカントーにいること。
マサト『なるほど。相当思い詰めてるみたいだね』
サトシ「悪いな、急にこんなこと言って」
マサト『いや、僕も悩むことはあるよ。実は僕、研究職を目指しているんだけど』
サトシ「すごいじゃないか! 科学者志望ってことか?」
マサト『いや。神話や伝説を調べていて、一応考古学も関係するんだけど、まあ文系の研究だね』
サトシ「へえ。マサト、小さいころから割と知識あったしな。向いてるんじゃないか」
マサト『ジラーチに会ったことが忘れられなくて、ジラーチの伝承を探しているうちにこうなったんだけど』
サトシ「ああ、なるほどな。あの映画良かったよな、内容も興行収入も」
マサト『研究は結構大変だし、学費もかかるし、同期はとっくに就職してるし。そんな中僕はバイトと研究室の往復で』
サトシ「いや、マサトのやってることはすごいよ。自信持て」
マサト『サトシだって、ポケモンマスター目指してその年まで頑張れるのはすごいよ。普通はみんな諦めるんだ』
サトシ「まあ好きでやってるからな。でもその気持ちも揺らいでるんだけど……」
マサト『僕も好きでやっているんだけど、これでいいのかと思わなくもないよ』
マサトは苦笑した。
マサト『でも僕は、この研究に意義を感じているよ』
マサト『何年も伝えられている物語を誰かが研究していて、僕はそれらを整理して他の情報も用いて更に発展して、新しい発見をするんだ』
マサト『人類がかつて知らなかったことを発見する。もしくは今はもう知られていないことを発掘する。これらに勝る喜びは無いよ』
サトシ「あー、難しくてよくわからないがそういうものなのか」
マサト『僕はそう思う。僕が消えても、僕の成果は消えないし、後世の人がそれを参照して何かの役に立つかもしれないんだ』
マサト『僕のジラーチ研究が後世にまで残り、誰かがその情報をもとにジラーチについて何か発見できたらいいと思ってる』
マサト『それに、もしジラーチがまた人と出会うことになったとき、ジラーチとのコミュニケーションに僕の研究が間接的にでも役に立ってくれたら……』
マサト『その瞬間、1000年越しに僕はジラーチに再会できるような気すらするんだ……』
サトシ「マサト……」
マサト『ごめん、語りすぎたね。僕なんてまだ何の結果も出せていない学生なのに』
サトシ「いや。聞けてよかったよ」
サトシ「そこまで考えていたなんてな……。頑張れよ!」
マサト『ありがとう、サトシ!』
サトシ「ところでハルカはいるか? もしよければ話したいんだが」
マサト『姉は結婚して家から出たよ。ここにはいないけど……ってか結婚式呼ばなかったっけ?』
サトシ「えっ知らなかった」
サトシ(カスミもそうだが、俺に連絡くらいしてもいいよな)
サトシ(あとどうでもいいけど、ハルカのことは「お姉ちゃん」じゃなくて「姉」って言ってるのか。何か成長を感じるな)
マサト『最近はあまりコンテストに出てないけど、たまに審査員とかやってるね。全盛期は過ぎたけど未だにホウエンでの知名度は高い方だと思うよ』
サトシ「そうか。元気ならいいんだ。よろしく伝えてくれ」
マサト『うん。サトシも元気でね』
サトシ「急な連絡すまなかったな。今日はありがとう」
サトシは通信を切った。
サトシ(マサト、こんなにしっかりしているのに不安を感じているのか。俺とは次元が違う)
サトシ(でも、元気そうでよかった。ハルカもまあ多分元気なんだろう。……あ、ハルカの連絡先聞いとけばよかった)
サトシ(それにしても、研究者になって後世の役に立つというのが喜びか。やってることは特殊だが、これも確かに社会に貢献している)
サトシ(オーキド博士も研究者だよな。博士だし。博士にも何か職業について聞いてみようかな……)
マサト『でも僕は、この研究に意義を感じているよ』
マサト『何年も伝えられている物語を誰かが研究していて、僕はそれらを整理して他の情報も用いて更に発展して、新しい発見をするんだ』
マサト『人類がかつて知らなかったことを発見する。もしくは今はもう知られていないことを発掘する。これらに勝る喜びは無いよ』
サトシ「あー、難しくてよくわからないがそういうものなのか」
マサト『僕はそう思う。僕が消えても、僕の成果は消えないし、後世の人がそれを参照して何かの役に立つかもしれないんだ』
マサト『僕のジラーチ研究が後世にまで残り、誰かがその情報をもとにジラーチについて何か発見できたらいいと思ってる』
マサト『それに、もしジラーチがまた人と出会うことになったとき、ジラーチとのコミュニケーションに僕の研究が間接的にでも役に立ってくれたら……』
マサト『その瞬間、1000年越しに僕はジラーチに再会できるような気すらするんだ……』
サトシ「マサト……」
マサト『ごめん、語りすぎたね。僕なんてまだ何の結果も出せていない学生なのに』
サトシ「いや。聞けてよかったよ」
サトシ「そこまで考えていたなんてな……。頑張れよ!」
マサト『ありがとう、サトシ!』
サトシ「ところでハルカはいるか? もしよければ話したいんだが」
マサト『姉は結婚して家から出たよ。ここにはいないけど……ってか結婚式呼ばなかったっけ?』
サトシ「えっ知らなかった」
サトシ(カスミもそうだが、俺に連絡くらいしてもいいよな)
サトシ(あとどうでもいいけど、ハルカのことは「お姉ちゃん」じゃなくて「姉」って言ってるのか。何か成長を感じるな)
マサト『最近はあまりコンテストに出てないけど、たまに審査員とかやってるね。全盛期は過ぎたけど未だにホウエンでの知名度は高い方だと思うよ』
サトシ「そうか。元気ならいいんだ。よろしく伝えてくれ」
マサト『うん。サトシも元気でね』
サトシ「急な連絡すまなかったな。今日はありがとう」
サトシは通信を切った。
サトシ(マサト、こんなにしっかりしているのに不安を感じているのか。俺とは次元が違う)
サトシ(でも、元気そうでよかった。ハルカもまあ多分元気なんだろう。……あ、ハルカの連絡先聞いとけばよかった)
サトシ(それにしても、研究者になって後世の役に立つというのが喜びか。やってることは特殊だが、これも確かに社会に貢献している)
サトシ(オーキド博士も研究者だよな。博士だし。博士にも何か職業について聞いてみようかな……)
今回はここまでです
サトシはオーキド博士にも聞いてみることにした。
オーキド「研究者は大変じゃぞ。そもそも博士になるまでが辛いしのう」
サトシ「え、博士と研究者って違うんですか?」
オーキド「博士は学位じゃよ。基本的には大学卒業で学士、大学院修了で修士、そして論文がある程度のレベルだと認められたら博士の学位が授与されると考えていいかもしれんの」
サトシ「いつから研究をしようと?」
オーキド「ポケモンと触れ合う中でいろいろと学んでいったから最初から研究者になろうとしていたわけではないが、小さい頃からポケモンに関われることをしたいと思っていたかのう」
オーキド「ポケモンは、こんなに身近なのに不思議が多すぎるんじゃ。それを知ろうとしていたら、いつの間にか研究をしていたわい」
オーキド「ポケモンは物理法則を無視しているようにしか思えんし、進化に至ってはデータを集めるばかりで原理的なことは何もわかっておらん」
オーキド「進化といえば、例えばピカチュウがライチュウに不可逆的に変身することと、古代のポケモンから現代のポケモンに至る過程の変化は、まったく別のプロセスなんじゃ。フォルムチェンジも考慮すると…」
博士は得意分野に入ったからか、話すことをやめない。
ポケモン好きのサトシにとっても難しくて眠くなりそうな話であった。
サトシ「あの、すみません博士、」
オーキド「おお、すまんすまん。進化の話になるとつい話過ぎてしまうのう」
オーキド「で、何だったかの」
サトシ「いや、博士の若い頃について少し聞こうとしてたんですけど」
オーキド「ああ、まあ今と大体同じじゃよ。好きなことをしているだけじゃ」
あっさりと答えられてしまい、サトシは拍子抜けした。
オーキド「ワシは運よく研究が認められて今の地位にいるが、この地位にいなくてもポケモンと関わることをしていたと思うぞ」
オーキド「休日に趣味でポケモンの本を読むサラリーマンになっていたかもしれんし、旅を続けていればトレーナーになっていたかもしれん」
サトシ「……」
オーキド「まあ、後悔しないように生きるんじゃな」
それっぽいことを言われたが、具体的なアドバイスは無かった。
サトシ「俺……今まで後悔したことは無いですが、これから後悔しそうな気がするんです」
サトシ「ここまでやってこれたことが、これからもできるか……」
オーキド「なるほどのう」
オーキド「いっそのこと就職してはどうじゃ?」
博士はサトシの目をしっかりと見据えた。
オーキド「サトシは一人で考える力をつける前に冒険しすぎたのかもしれんのう」
オーキド「経験を生かすためには、それなりの能力が必要なんじゃ」
オーキド「それは一つの場所にゆっくりと腰をすえて教わっていくものなんじゃよ」
オーキド「自由なサトシだからこそ、一つの決まった場所で周りと関わりながら生活する経験が必要なのかもしれん」
オーキド「アローラ以来じゃろ、そういうのは」
サトシ「確かに……そうですね」
サトシ「でも、俺が就職なんてできるんでしょうか?結構厳しいらしいですけど」
オーキド「可能じゃ。しかし、少しは勉強しないといかんがの」
オーキド「ワシのコネを使えば何にでもなれるじゃろうが、それでは就職した後にサトシが周りに置いて行かれて辛くなるし」
オーキド「ある程度の学力なり技能なりは身に着けてもらうことになるぞ」
サトシは、またコネの話をされたことに少し恥ずかしさを感じた。
サトシ「そうか……今からでも頑張ればまだ大丈夫か」
サトシ「俺はコネなんかに頼らず、自分自身で努力して自分自身の力でやってみますよ!」
サトシ「内定、ゲットだぜ!」
オーキド(いや正直不安じゃな……三十路でこのノリとは)
オーキド(しかし、将来が決して明るくない中でこれほどまでに希望を見いだせる彼は、それはそれで貴重な人材なのかもしれん)
オーキド(経験の豊富さやコミュ力は確かだし、業種によっては案外大物になったりするかもしれんの……)
サトシ(これは旅からの逃げでもない、人生への諦めでもない)
サトシ(何も見えない中、とにかく進んでいくんだ。そういうのには慣れているはず!)
サトシ(これは俺の新たな挑戦だ!)
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