――おしゃれなカフェ――
北条加蓮「何か食べたいけど何がいいだろ。……藍子に任せちゃうよ」
高森藍子「任されちゃいました。う~ん、せめてヒントをっ」
加蓮「いや隠し事とか勝負とかじゃないし、本音探りもいらないわよ?」
藍子「それでも、こう……あなたの考えていることをずばり当ててみたいっ、って気持ちになることって、ありませんか?」
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レンアイカフェテラスシリーズ第75話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「物静かなカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「2人きりのカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「しっとり雨模様のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「真剣勝負のカフェで」
加蓮「なくはないけど、さ……。藍子、この前の勝負からそういうのにハマった?」
藍子「どうでしょうか。自分では、あんまりそういうつもりはありませんけれど」
加蓮「自分でも気づかない自分。よくある話だよね」
藍子「加蓮ちゃんも気付いていない加蓮ちゃん――」
加蓮「……あれとかそれとかって思い出そうとしなくていいから」
藍子「ぎくっ」
加蓮「藍子にはあんまりなさそうだよね、そーいうの。っていうか、あんまり本音とか隠さないタイプだもんね」
藍子「そうですね……。隠しごとが、ない訳ではありません」
藍子「……」
藍子「……あれっ、加蓮ちゃんが乗ってこない?」
加蓮「? 乗ってきてほしかったの?」
藍子「じ~」
加蓮「じー」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……♪」
加蓮「ちなみに藍子」
藍子「はい、何ですか?」
加蓮「私が今乗り気じゃなかったのってね? ……んー、何でだと思う?」
藍子「そういう気分ではなかったから……では、ないですよね?」
加蓮「ハズレー。さて加蓮ちゃんの知ってる加蓮ちゃんのこと、藍子ちゃんに分かるかなー?」
藍子「加蓮ちゃんのクイズコーナーですね♪ ……ぴったり当てたら蹴ってくるのに」ボソ
加蓮「ほう。何か言ったかな?」スッ
藍子「待ってくださいっスマートフォンを構えて何をするつもりですか!? やめましょう、冷静になりましょう加蓮ちゃん!」
加蓮「えー、スマフォ取り出しただけで大げさでしょ……。でも――」
加蓮「止めてほしくば!」
藍子「と、とめてほしければ……?」
加蓮「……、」
藍子「……」
加蓮「…………」
藍子「……。思いつかなかったんですね」
加蓮「……」シマウ
加蓮「正解は既に藍子の秘密は握っていて、このスマホの中にしまいこんでいたからでしたー♪」
藍子「なるほど~。それなら、私が隠しごとがあるって言っても、気にもぉってっ、」
藍子「秘密って何ですか!? 何をしまいこんでいるんですか!?」
加蓮「そうだねー。一部だけ教えてあげる」
藍子「一部!?」
加蓮「夏が近くなって衣装の露出度がちょっと上がるけどだんだん慣れてきて、でもモバP(以下「P」)さんの前では恥ずかしがってるフリをしてる藍子ちゃんの映像」
藍子「してません!!!」
藍子「慣れてっ……慣れてない訳じゃないんですけど! ええと……なんと言うか……それ、いつのことですか!?」
加蓮「3日前のミニミーティングの時かなー」
藍子「ええとその時は確かっ……Pさんがちょっと冗談を言ってた時のだと思います!」
藍子「って、加蓮ちゃん、あの時どこにいたんですか……?」
藍子「ううん。その時にいたなら、私とPさんの会話も知っているハズですよね!」
加蓮「えー。何って言ってたっけ? 忘れちゃったから教えて?」
藍子「……次のお仕事の衣装の相談をしていて、だいたいの案はすぐに決まって、ちょっぴり時間が余ったから、」
藍子「Pさんと、最近あったお話……あの時は、そうっ、いつもお散歩する公園に紫陽花が咲いていたこととか、」
藍子「それと、夕方は涼しいことが多いから、暗くならない間にちょっとお出かけしたいってお話でしたね」
藍子「Pさん、私のことを心配してくださって、行きたいところがあるなら呼んでくれれば……って、仰ってくれたんですけれど、」
藍子「それは悪いなって思って。でも、……ときどきだけなら、一緒に歩いてみるのも――」
藍子「って、加蓮ちゃん?」ジトー
加蓮「うんうん。何々?」
藍子「……どうして加蓮ちゃんの知っていることを、私はわざわざ説明させられているんでしょうか」ジトー
加蓮「藍子の口から聞きたかったからっ」
藍子「もうっ……。ものは言いよう、ですね」
加蓮「~♪」
藍子「加蓮ちゃんは、知っていると思いますけれど」
加蓮「うんうん」
藍子「Pさん、あの時ちょっとした冗談を言ったんです。言ったっていうより、衣装のサンプルを見せてくれて、ただ、それがちょっぴり……色んなところが出ている衣装だったので」
加蓮「藍子、顔赤くしてワタワタってなってたもんねー」
藍子「やっぱり見ていたんですね……。フリじゃないですから。本当ですっ」
藍子「Pさんの前でも……ううん、もちろん加蓮ちゃんの前でも、そんなウソはつけませんっ」
加蓮「嘘っていうより演技というか、駆け引きだと思うけど……」
藍子「駆け引き?」
加蓮「藍子にはまだ早いっか。いや、無自覚にしてくるよりは私が教えた方がいいのかな……」ブツブツ
藍子「?」
加蓮「何でも。でさ、話はちょっと戻るけど、ほら、メニュー」ユビサス
加蓮「お昼過ぎて結構時間経つし、何か食べようよ。藍子が決めてよ」
藍子「は~い。私が選んじゃっても、いいんですね?」
加蓮「うん。藍子が食べたいのを食べたい気分だから」
藍子「ふむふむ……」パラパラ
藍子「……あっ」
藍子「あの、加蓮ちゃん? さっき、"一部だけ教えてあげる"って、他に何の秘密を――」
加蓮「あぁそれ? 消しちゃったから安心して?」スッ
藍子「写真のフォルダ? 本当だ、空になってます」
加蓮「今のネタは使っちゃった後だもんね。いつまでも言い続けるのは好きじゃないし」
藍子「他に写真は入れていないんですか?」
加蓮「……、ちょっと前に整理したからね」
藍子「なるほど~。私も、パソコンに転送したり、写真屋さんで現像してもらった後は、スマートフォンからは消してしまいますね。そうしないと、すぐいっぱいになってしまいますから」
加蓮「うんうん」
藍子「あっ、それよりメニューを決めなきゃ。軽食かな、一品物かな……」パラパラ
加蓮「……」
藍子「加蓮ちゃんと一緒に食べたい物……」パラパラ
加蓮(……今藍子に見せたのはテキトーに作ったフォルダの1つ。つまり他のフォルダに"藍子の隠し事のネタ"を入れてるんだよね)
藍子「加蓮ちゃん、」
加蓮(まあ、自撮りとか風景写真とかをちょっと前に整理したのは事実だし? 嘘はついてないもん――)
藍子「……加蓮ちゃん?」
加蓮「ん、何?」
藍子「……? 注文、野菜定食でいいですか?」
加蓮「えー。お肉にしようよお肉」
藍子「野菜定食にしましょうっ。すみませ~んっ」
加蓮「ちぇ。せめて帰りにいつものとこ寄ってポテトだけ買っていこーっと」
藍子「――はい、お願いします。飲み物は……あとでいいですっ」
加蓮「~♪」(スマホをしまう)
藍子「お願いしますね。メニューを戻してっと――」カサ
藍子「かさ?」ノゾキコム
藍子「あれ、これ……」
加蓮「?」
藍子「メニュー置場のところに、これ、見てください。ハンカチが挟まってました」ヒョイ
加蓮「ホントだ」
藍子「誰かが忘れていったのかな?」
加蓮「置き忘れていっちゃったのかな。大人っぽくてシンプルなハンカチだし……女の人のっぽい?」
藍子「新緑色が素敵ですね……。このワンポイントの花柄も、可愛くて好きかもっ」
加蓮「藍子ー? いくら気に入ったからって持っていっちゃ駄目だよ?」
藍子「そんなことしませんよ~。私、これを店員さんに持っていってきますね」
加蓮「んー」
<店員さ~んっ。これ、忘れ物みたいです――
加蓮(……ん? 前にこのカフェに来たのって確か……5日前くらいだよね?)
<……えっ?
加蓮(まあ、私達以外にもここに座る人がいても不思議じゃないか……)
<あっ……
加蓮(そう考えると、ちょっと不思議な感じ。私と藍子だけの場所に侵入者! って感じもするし。他にこの席でのんびりする人がいるのって、仲間って気持ちもして――)
加蓮(どんな人なんだろーね)
……。
…………。
加蓮「藍子ー、おかえり。ふふっ、お礼にスイーツの1つくらいタダにしてもらってきた? ……って」
藍子「……………………」ズーン
加蓮「なんかすごく落ち込んでる……」
藍子「……」ポテッ
加蓮「人形みたいな動きで座った……」
藍子「……」ベチョ
加蓮「突っ伏せた……」
加蓮「どしたの? なんか言われたの?」
藍子「……そおじゃないです」
加蓮「ホントに? いくら店員でも藍子のことを悪く言うなら許さないし、私から何か言ってくるよ?」
藍子「……わるいこといってるのいつもかれんちゃん」
加蓮「それは藍子のせいだからしょうがないでしょ」
加蓮「で、マジでどしたの」
藍子「……、さっきの、ハンカチ」
加蓮「うん」
藍子「わたしのでした……」
加蓮「……は?」
藍子「……」スッ
加蓮「藍子のって、ハンカチだけ見てなんで店員がそれ分かるのよ。見せびらかした訳でもないんでしょ?」
藍子「……」チョイチョイ
加蓮「何? ハンカチの右下……。"Aiko.T"って」
加蓮「……………………は?」
藍子「……」ズーン
加蓮「……………………」
藍子「……………………」
加蓮「…………、そ、そう。これは確かに藍子のだね……。な、名前の隣にある笑顔のマークかわいいねー……」
藍子「…………」
加蓮「…………」
藍子「……」
加蓮「……」
加蓮「……一応聞いてみるんだけど、これアンタの手縫い?」
藍子「……」コクン
加蓮「だから元がシンプルだし花柄が小振りでメルヘンっぽいのね……。で、名前まで縫い込んだと」
藍子「……」コクン
加蓮「それをいつか置き忘れて、今見た時に自分のじゃないと思い込んだと」
藍子「……」コクン
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「………………ほら……えと……」
加蓮「あ、そうだ。ほら、いつもと違うヘアメイクしてもらった時の写真がさ、後から見て"これ誰?"ってなったりするじゃん。あれと同じだって!」
加蓮「だからそんなに……気に、しなくても……」
藍子「…………」
加蓮「…………」
加蓮「……あ、店員さん。定食できたんだね。ありがとー……いやホントに今回は私じゃないって」
藍子「……」ズーン
加蓮「たぶんほっといたらそのうち復活すると思うし、ほっといてあげて?」
加蓮「うん。後で何か注文するね……」
藍子「……」ズーン
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……いただきます」パン
藍子「……」
加蓮「……」モグモグ
藍子「……」
加蓮「……」モグモグ
藍子「……」スッ
藍子「……いただきます」モグモグ
……。
…………。
□ ■ □ ■ □
「「ごちそうさまでした。」」
藍子「はぁ……」
加蓮「まだ気にしてるの……。ほら、藍子。口のとこついてるわよ……」フキフキ
藍子「うぅ~……」
加蓮「ったくもう」スッ
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……お話、聞いてくれますか?」
加蓮「話したいことがあるなら聞くけど?」
藍子「最近、そわそわすることが多くなって……」
加蓮「そわそわすること」
藍子「ほら、今の季節って、もうすぐ梅雨が来て……」
藍子「そうしたら、道端の紫陽花が綺麗になったり、かたつむりさんがひょっこり顔を出したり、雨の音が聴けるようになったり」
藍子「行くあてもないのに、傘をさして歩きたくなっちゃいます」
藍子「あと、雨上がりの虹が楽しみな季節!」
加蓮「虹の楽しみな季節、か……。ふふっ。また事務所の屋上で見れるといいね」
藍子「とっても綺麗でしたよねっ」
>>22 7行目と8行目の藍子のセリフを修正させてください。かなり大掛かりの修正で申し訳ないです……。
<誤>
藍子「ほら、今の季節って、もうすぐ梅雨が来て……」
藍子「そうしたら、道端の紫陽花が綺麗になったり、かたつむりさんがひょっこり顔を出したり、雨の音が聴けるようになったり」
<正>
藍子「ほら、今は梅雨だから、道端の紫陽花が綺麗に咲いていて」
藍子「また雨が降ったら、かたつむりさんがひょっこり顔を出したり、傘の下で雨の音が聴くことができて……」
加蓮「また“見に行く”なら、今度は私が誘ってあげる。……いや、やっぱりジメジメしてるとこを歩き回るのは面倒くさいから、雨が上がるのを事務所で待とうよ」
藍子「え~。そういう時の町並みも、いつもと違って面白いのに」
藍子「それで、梅雨が終わったら、夏が来ますよね」
加蓮「夏休みっ」
藍子「今年の夏も、やりたいことがいっぱいあるんです。やりたいこととか、行きたいところとか!」
加蓮「でもバテやすい季節でもあるよね。熱中症、気をつけなさいよ?」
藍子「は~い。夏に備えて、今年はスポーツドリンクの作り方も勉強してきました」
加蓮「おー」
藍子「それに、加蓮ちゃんと一緒に行きたい場所もあるから――」
加蓮「私? いいけど、どこ?」
藍子「それは……行くちょっと前まで、ナイショです♪」
加蓮「気になるなー。気になってしょうがないなぁ」
藍子「ナイショですからね~? 何を言われても、絶対に教えません!」
加蓮「気になってしょうがないから、これは藍子をこっそり観察して調べ上げなきゃ」
藍子「へ? 観察? 調べ……?」
加蓮「調べてる途中で違う秘密を入手するかもしれないけど、それはしょうがないよね」
藍子「……怪しいことしてる加蓮ちゃんを見つけたら、Pさんに報告しちゃいますよ?」
加蓮「そしたら未央の差し金ってことにするから大丈夫」
藍子「えぇ……。でも、未央ちゃんも誰かのせいにしちゃいそう」
加蓮「こういう時ってさ、リアクションが2パターンあるよね」
藍子「2パターン?」
加蓮「1つ目がフットワークの軽い人に回すパターン。未央なら、奏とか柚ちゃんとかかな。すぐに「え? 違うよ? 本当は違う子がやったんだよー」って言えるタイプね」
藍子「ふんふん」
加蓮「2つ目がガチで慌てそうな人に回すパターン。卯月とか薫ちゃん、あと奈緒がそうかな。凛……は冷静に反撃しそう」
藍子「なるほど~」
加蓮「未央なら絶対パターン1にすると思うけど、まっ、加蓮ちゃんのせいにならなかったら何でもオッケーだよね♪」
藍子「あんまり騒ぎが大きくなったら、私が本当のことを言っちゃいますよ?」
加蓮「あははっ」
加蓮「で、藍子はそわそわしちゃってるんだね。梅雨と夏が楽しみすぎて」
藍子「はい。最近、それで失敗してしまうことが増えてしまって……」
加蓮「……ぶっちゃけ言っちゃうけど、梅雨も夏も毎年来るじゃん。今年だけの特別なイベントがあるって訳でもないんでしょ。それなのにそわそわしちゃうの?」
藍子「それは、そうかもしれませんね。でも……いつも巡ってくる季節も、その時その時ごとに色んな計画を立てたら、それが楽しみになってしょうがないって気持ち、なりませんか?」
加蓮「んー……。ちょっとならないかも」
藍子「え~っ――って、そっか、加蓮ちゃんは……」
加蓮「昔はずっと、そーいう人生を歩んで来てたからね」
藍子「そうでしたね……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……そういう人生の道から手を引っ張り上げてくれて、平和で楽しい道に導いてくれたのは、藍子なんだから。そこで顔を伏せるのはやめなさい」
藍子「……」
加蓮「それが要らない同情って言うの。それとも、藍子は私を怒らせたいのかな?」
藍子「……気にしすぎるのも、よくありませんよね」フルフル
藍子「それに、今の加蓮ちゃんが楽しそうなら……うんっ。大丈夫ですよね♪」
加蓮「よろしい」
藍子「加蓮ちゃんのためにも、梅雨と夏休みの計画、もうちょっと増やしちゃおうかな……?」
加蓮「コラ。何企んでるの。身体の弱い加蓮ちゃんをどこに連れ回すつもり?」
藍子「連れ回すなんてそんな。ただちょっとだけ、」
藍子「最近できたばかりの気になるカフェと、」
藍子「美味しくて可愛いドリンクのお店と、」
藍子「涼しくなれるアトラクションがいっぱいあるってうわさの、テーマパークと、」
藍子「前のロケで行けなかった観光地に、一緒に行きたいっていうだけですよ」
加蓮「それを連れ回すって言うんでしょ! ……それに最後のは何? すごく遠い場所なの?」
藍子「はい。ここからだと、たぶん新幹線を使って、え~っと、あの駅からあの駅に行って、う~んと……2時間くらい?」
加蓮「……次のロケまで我慢しなさい。それかPさんにおねだりでもしてきなさい」
藍子「はぁい」
藍子「……」ジー
加蓮「?」
藍子「そわそわ……」
加蓮「……」
藍子「うずうず……」
加蓮「……どしたの」
藍子「……加蓮ちゃんとお散歩したい……静かな神社と、せせらぎの音が綺麗な川辺と、あと――」
加蓮「なんか行きたい場所増えてない?」
加蓮「あのね。計画を立てるのはいいけど、そしたらまたそわそわしてミスしちゃうよ? 少しは落ち着きなさいよ」
藍子「すぅ~、はぁ~。……落ち着きましたっ」
藍子「ここがカフェだってことも、思い出せました。いつもの場所にいることって、すごく大切ですよね」
加蓮「落ち着いたところで何か飲む? ほら、店員が食器を片付けに来たしちょうどいいでしょ」
藍子「そうしましょう。すみませ~ん」
……。
…………。
加蓮「ずず……」
藍子「……う~ん」
加蓮「ふう。……私と同じコーヒーにしてもらったけど、そういう気分じゃなかった?」
藍子「ううん。ただ、あまり苦い物を飲む気分じゃ、なかったかもって……」
加蓮「……やっぱりなんか微妙に見抜けない事あるなぁ」ズズ
藍子「こういう時は、店員さんが持ってきてくれたミルクも、残りぜんぶ入れてしまって――」
藍子「まぜて……。ごくごく。う~ん……。まだ、ちょっぴり苦いです」
加蓮「……」ズズ
藍子「ふうっ」
藍子「……、……そわそわ」ウズウズ
加蓮「……」コトン
加蓮「あははっ。藍子、またそわそわしてる」
藍子「はっ」
加蓮「今日の藍子はパッション全開だねー。誰かにあてられちゃった?」
藍子「もしかしたら、そうかも……? いつもみんな、レッスンにお仕事にって、一生懸命だから……私もっ、なんて」
加蓮「そっか。……藍子といると、なんか私までそわそわしてくるんだけど」
藍子「加蓮ちゃんも?」
加蓮「藍子みたいに何かが楽しみとかそういうのは無いんだけどね。たはは」
加蓮「いや、ここは私が落ち着くことでクールっぽさを藍子に影響させよう」
加蓮「このまま藍子がそわそわしてばっかりになると、事務所がおかしいことになりかねない……!」
藍子「事務所がおかしいことに」
加蓮「藍子が落ち着かなくなったら藍子がお世話してるユニットが崩壊するでしょ。具体的には歌鈴と愛梨と……」
藍子「あの、別に私がお世話している訳ではないですよ? 確かに、頼られることが前より増えちゃいましたけれど」
加蓮「いや待って。逆に、そわそわ藍子ちゃんで行こうっ」
藍子「そわそわあいっ……そわそわ私で行く、って?」
加蓮「そわそわ藍子ちゃん」
藍子「そわそわ私っ」
加蓮「違う違う。そわそわ藍子ちゃん」
藍子「私は私ですっ」
加蓮「意地張ってないでちゃんとした名前で言いなさいよ。じゃないと話が先に進まないよ?」
藍子「そもそも進めなくてもいいお話ですし、こういう時の加蓮ちゃん、勝手にどんどん進んじゃうじゃないですか~」
加蓮「まーね。藍子を待ってるといつまで経っても……だし?」
藍子「……」プクー
加蓮「あははっ」
加蓮「具体的な計画はこう。藍子がそわそわする→周りが落ち着かなくなる→そうだ、自分が落ち着くことで藍子ちゃんを落ち着かせてあげよう→歌鈴や愛梨のドジが減る→バナナの皮が捨てられなくなり愛梨は服を脱がなくなる」
藍子「ふんふ……ん……? なんだか、とてもおかしなお話を聞いているような……?」
加蓮「これにて一件落着! ただそのかわりに藍子が転んでしまい服を脱ぐことになるけどね」
藍子「それ、解決になってないですっ」
加蓮「藍子……。さすがにブラジャーとショーツだけでPさんの前ですっ転ぶのは私でもちょっと……」ヒキッ
藍子「勝手に想像して勝手に引くのをやめてください~っ。あと、歌鈴ちゃんと愛梨さんのそのっ……そういうのを一緒にしちゃダメだと思います!」
加蓮「でもさ、ちょっと真剣に考えるけど最近藍子ってちょっと頼られすぎな気もするんだよね」
藍子「そうでしょうか……。頼られるのは嬉しいことですよ? 私にできることがあったら、やりたいですもん」
加蓮「藍子がそう言うなら、それこそお節介になるし私はうるさく言わないようにするけどさ」
加蓮「負担になってることとか、背負い込むこととか、そういうのを誰かの為って言葉で見ないフリをするのは間違ってることだからね?」
藍子「……はい。それは、よく覚えておきますね」
加蓮「ん。それでよろしい……うむ、よろしい。この調子で精進するがよい」
藍子「……?」
加蓮「忘れて。……一応、ホント一応聞くだけだけど、私は藍子の負担になってる? 邪魔してない?」
藍子「何を言っているんですか。ぜんぜん、邪魔なんかじゃないですっ」
藍子「今日だって、加蓮ちゃんのメッセージを見た時、リビングの――」
藍子「……な、なんでもないです」
加蓮「そっかーなんでもないんだー」グイグイ
藍子「そう言いながら、テーブルの下で足を足で挟まないでっ」
加蓮「なんでもないんだねーそっかそっかー」
藍子「いたいいたいっ。もうっ……。分かりました、ちゃんと言いますから!」
藍子「……、」ウズウズ
藍子「ね、加蓮ちゃん」
加蓮「んー?」
藍子「加蓮ちゃんは――」
藍子「加蓮、ちゃんは……」
加蓮「……?」
藍子「……ううん」ブンブン
藍子「加蓮ちゃん。これからも一緒に、やりたいこと、いっぱいやりましょうね」
加蓮「はあ。今さらどしたの……? 今でも、やりたいことは全部やらせてもらってるつもりだし、不満とかもないけど?」
藍子「えっと、そうじゃなくて。……そうですよね。加蓮ちゃんが、ではなくて、私が、なんです」
加蓮「……さっきから何の話よ。1人で握りこぶし作ってないで説明しなさいっ」
藍子「加蓮ちゃん」
加蓮「はいはい?」
藍子「私、行きたいところがいっぱいあって、やりたいこともたくさんあって……。でも、いつも、加蓮ちゃんと一緒にいられる訳じゃないから、」
藍子「その時はまた、ここでお話しましょうね」
藍子「私の見たことと、やったこと、ぜんぶ教えますから」
藍子「加蓮ちゃんも、できれば……私に、教えてほしいな」
藍子「そして、一緒に行ける場所と、一緒にできることは、一緒にやりましょうっ」
加蓮「……、」
加蓮「……」
加蓮「ふふっ。改まって何を言うのかと思えば。それっていつも通りのことじゃん」
藍子「そうかもしれません。それでも、もう1回言っておきたくて……うふふっ」
加蓮「何それー。あっ、こういう約束をしたら裏切られるってお約束あるよね。何々? 藍子ちゃん、平気な顔して加蓮ちゃんを騙そうとしてる?」
藍子「へ? そんなつもり――」
加蓮「じゃあ私か。実は明日身体の魂的なのが抜けてゆるふわ空間に呑み込まれちゃうとか?」
藍子「どうして真面目に受け止めてくれないんですか~っ。もうっ。だから、ゆるふわ空間にのみこまれるってどういうことですか!」
加蓮「ゆるふわ空間に呑み込まれるってことだよ?」
藍子「説明になってませんよ~っ」
加蓮「ひひっ。ごめんごめん。藍子が当たり前のことマジ顔で言うから、ついからかいたくなっちゃった♪」
加蓮「ま……。約束を重ねがけしたい気持ちはよく分かるよ。それを相手への裏切りとか、不信とか、私はそういう風には思わないし」
加蓮「でも、そこまでマジな顔で言うなら……」
加蓮「そだね。付き合える時には、ちゃんと付き合ってあげる」
加蓮「今年の夏は、藍子に誘われっぱなしの夏になっちゃう感じかな?」
藍子「私が……! 帰ったら、もう1回カレンダーを見返さなきゃ!」
加蓮「……なんでそこで張り切るんだか」
【おしまい】
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