【飛電インテリジェンス 社長室】
スーツの男「会社のお金は貴方の私用に使えるお金ではないんですよ!分かっているのですか、社長!」
青年「……すいません」しょぼん
スーツの男「全く……どうしてこんな男が社長に……次の社長はどう考えても私だったというのに……」
スーツの社長「貴方はこの飛電インテリジェンスの社長なのですよ?自覚はありますか?飛電或人社長!」
社長室の椅子にしょんぼり座っている、顔色と真逆な位に明るい髪色の年若い人物は【飛電 或人(ヒデン アルト)】。
多機能携帯端末【ライズフォン】や人工知能搭載の人型ロボット【ヒューマギア】を製造、開発、販売する、この会社の社長である。
先代社長の秘蔵の孫であり、遺言状の内容によって社長に就任した。
彼専用ライズフォンと【ゼロワンドライバー】と言うアイテムを使用し、街の平和を守るヒーローとなった……のだが、それは今のところ秘密。
実のところ、インテリジェンスのメンバーは彼のことを全く知らなかった。それ故に、社員は突如現れた若き新社長に内心複雑のよう。
例えばスーツのこの男、【福添 准(フクゾエ ジュン)】もそのうちの一人───
福添「それで、この領収書……何枚あるんだよこれ!何買ったんですか!」ばさばさばさー
或人「新しい衣装だけど?」
福添「だけど?じゃないでしょう!貴方はもうお笑い芸人じゃなくて社長!分かってください……」
かつての経験から、お笑い芸人を志望している或人だが、そのセンスは壊滅的。彼のギャグで笑う者はいない(たった一人を除いて)。
ひょんなことから会社の社長兼正義のヒーローをやることになった彼は、今日も福添副社長にみっちり叱られながら業務をこなす。
と。
秘書ヒューマギア「或人様」
或人「イズ?どうしたの?」
或人のところに一人の女性が歩いてくる。
人間で言う耳のところに、コードレスのヘッドフォンにも似た機械が装着されていた───ヒューマギアの最も分かりやすい特徴である。
そしてこちらは【イズ】と言う名の、社長秘書。
イズ「街で活躍しているヒューマギアの映像が届きました。モニターに写します」
ヴンッ……
美食家ヒューマギア『……美味しい!まずこの肉の柔らかさ、適切な温度での保存、ならびに調理がされている事が伺えます』
美食家ヒューマギア『これは最新鋭の急速冷凍ですね?細胞も殆ど死滅しておらず、この新鮮さを保ったまま口に運べるのは奇跡に近い技術と言っていいでしょう……』
美食家ヒューマギア『更に調理も完璧です。付け合わせのソースも甘すぎず、肉からにじみ出る肉汁を引き立たせる為にベリー系の味付けになっていて最高!』
アンジャッシュ渡部型ヒューマギア『このお店は☆5つ!この私、【美食けんさくん】のお墨付きですよ、皆さん是非いらしてください!』
福添「美食家なヒューマギア?馬鹿馬鹿しい」
※やられる前にやれと聞いたので
※本編と色々矛盾してますがそれでも良ければよろしくお願いします
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1568171156
或人「すげー!あのヒューマギア、食べ物のおいしさを判定出来るんだ?やっぱりヒューマギアは人類の夢、希望なんだよ!」
イズ「或人様にお喜び戴いて何よりです」
福添「まさか、あのヒューマギアの仕事を見てみたい、なんて言い出しませんね、社長?」
或人「ええー!?なんで、ダメぇ?すっごくいいと思うんだけどな」
福添「ダメに決まっているでしょう!いいですか?ヒューマギアは人間の生活をサポートするために開発された、人工知能を搭載したロボットです」
或人「……」むすー
くどくどと説明し始める福添。
福添「力仕事やら、人間が行うには困難な作業であればまだ分かりますよ、まだ!ヒューマギアを使うには有効でしょうから!」
福添「それが何ですか美食家って!人間に対して提供されている食事を、機械で判断すべきではないと思うんです!」
福添「旨い不味い、味のセンスというのは千差万別ですし、それらを柔軟なAIがあるとは言え画一化してしまうのはまだ早い、そう思いませんか!」
福添「第一、それを行ってしまえば人間とヒューマギアの境と言うのが曖昧になってしまって……社長、聞いておられますか、しゃちょ……」
副社長の秘書ヒューマギア「お言葉ですが、副社長」
福添「……? 何だね、シェスタ君」
シェスタ「社長は既に御退出なさっています」
怒りを吐き出した福添が社長席に目を向けると、既にそこに或人はいなかった。
福添「……社長ーーー!!!」
【飛電インテリジェンスの外】
奔放な若き社長がなにを考えているのか、福添には良く分からない。
インテリジェンス社員に知らされていなかった孫である。降って湧いた突然の不幸と言っても差し支えは無いかも知れない。
先代の社長亡き後、会社の建て直しや新事業のことを考えれば当然、古参であり以前から副社長であった福添が社長になると、ほとんどの者が信じていた。
実際、福添は自分の肖像画を発注したり、それを社屋に飾ろうとしていたくらいだ(※一度飾られたが、或人のおかげで数時間で撤去された)。
福添「全く……誰が社内の混乱やら何やら、尻拭いをしていると思っているんだか……」
会社運営には疎い或人の代わりに、内部は福添が手を加えていた。立場以外は社長とあまり変わりないのだが、出世欲も強く、何より或人に対して疑心もある為にそれほど喜べてはいない。
時々思う。
……そもそも、何故私が現社長のやらねばならぬ仕事の一部まで請け負う必要が?
福添「はぁ……」
疲れた。溜息を付きながら、つい先程シェスタから受け取った缶コーヒーのプルタブを起こす。
カシュッ、と缶の開く音がして───
??「いいものに目を付けましたね」
福添「うわっ!?何だおま……お前は!」
そこにいたのは、つい数分前に目にしたばかりの、美食家ヒューマギアだった。
美食「初めまして……ですよね?どこかでお会いした気がしますが」
福添「え?……そうか?そう言われるとなんだか俺も、そんな気が……」
美食「そんなことより!」
福添「!?」
ぽん、と肩を叩かれる。
美食「貴方の手にしている、それ!ジュージアの新製品じゃないですか!私もそれ、大好きなんです!」
福添「あ?ああ……そうなの?」
美食「ええ!」ピピッ
美食「美食データベースにも平均☆4.3と高水準の評価が蓄積されています。実際私も飲みましたが、非常にレベルの高い飲み物でしたね」
そんなものを、さらりと手渡してくるとは。自身の秘書の有能さが嬉しく思い、表情が綻んだ。
福添「……さすがは我が秘書シェスタ君、と言うところか」
美食「どうです、ここで会ったのも何かの縁。貴方とは何かのつながりも感じますし……どこかお食事でも」
福添「……え?」
【某高級フレンチのお店】
妙なことになったな、と福添は思っていた。
自身が朝否定したはずの美食家ヒューマギアに、「私が今一番美味しいと太鼓判を押せる店です!」と来たことも無いような店を勧められて、その席に座っている。
さすがに本人(?)を前にして「お前は間違ってる!」などと喚くほど福添も子供ではない。が、そんな相手に歓迎されているのは複雑な心境だ。
美食「お代は私が持ちますから」
福添「いや、いいよいいよ!さすがに誘われた席でそれは失礼で……」
美食「とんでもない!私が個人的に誘ったんです。気にしないでください」
福添「そもそも、金はどうするんだ?」
美食「ええ、そこもご安心を。私のデータベース、並びにそれを整理したブログがあるんですが」
福添「ヒューマギアがウェブログを」
カルチャーショックだ。
美食「それをユーザーが利用した際や、ブログへのアクセスで得られた資金が常に私のところに入ってきています」
美食「それに、仕事で得られる報酬もありますからね。ユーザーから希望があった店をレビューする仕事です」
福添「……なるほど、それらの報酬が電子マネーで支払われ、それがインターネットを経由して貴方のボディにそのまま……」
支払いもそのまま電子マネーで終了する。物理的なコインを持たずして決済できるシステムが一般的に普及したこの街ならではのシステムと言えよう。
福添「なるほど……」
話を聞くうち、福添は素直に感心しきっていた。
現代人はこと、時間に余裕がない。生まれた僅かな余裕で、ほんのささやかな楽しみを得たい。
その欲求は、美食レビューにも通じている。
つまり───数に限りある食事ならば、どうしても美味しいものを食べたいと思う層がいる。そして、そのために忖度無くはっきり結論を出せるAIが上手くマッチした。
調べれば、美食けんさくんは非常に良い仕事をしている。一般人が立ち入れないような高級フレンチから、誰もが口にする安価なファストフードまで、のべつまくなしにレビューしていたのだ。
福添「なるほど……」
感心しきりでもはや「なるほど」bot化しようとしていた福添の前に、コースはスタートしていく。
■
福添「昼から酒かね」
美食「アペリティフ、食前酒ですよ。胃腸を活発化させて、食欲を増進させる働きがあります」
福添「ん……ワイン?」
美食「キールと呼ばれるカクテルです。クレーム・ド・カシスを白ワインで割ったものですね。こちらで使用しているのは確かルジェ・カシスでは?」
シェフ「その通りです」ぺこ
福添「そう、なのか……すまない、あまり詳しくなくて」
美食「いいんです。私もつい、癖と言うか……そういう機能的に、喋ってしまいますが」
■
福添「生ハムとサーモンのマリネ?」
美食「この生ハムが大変に美味しくて。現地に買い出しに行っているんでしたね」ピピッ
福添「確かに美味しい。このかかっているソースは?」
美食「マリネの為だけに厳選された食材を使ったソースです。レモンも地中海の特産ですから」
■
福添「魚の後にシャーベット?」
美食「ソルベ、と呼ばれる口直しですよ。今日は……うん、これも美味しい。変化球ですが、抹茶ですね」
福添「抹茶がくどくないおかげで口の中がさっぱりするのか。しかし、まさかフレンチで抹茶とはな」
美食「フレンチも和食も関係ありません。その時に美味しいものを全力で調理する。料理は、料理人の魂ですから」
福添「……魂」
■
福添「なんだ、見たことのない肉だが」
美食「コンフィ・デ・カナール。今日のメインです」
福添「コンフィ……?」
美食「油で低温調理することを指す用語ですね」
福添「鳥……だが、なかなか食べたことのない味がする」
美食「はい、この肉はカナール……日本語に訳すと、アヒルです」
福添「!?」
美食「とは言え、これは食用のものですし、聞き馴染んだ名前で呼ぶなら、『鴨』ですよ」
福添「……アヒルなのに、鴨?」
美食「野生のものと食用で飼育されているもの、それらは本来呼び分けなければいけないんです。野生が鴨、食用はアヒルです」
美食「なので、フランス語をそのまま直訳すると『アヒルのコンフィ』と言うことになりますが、日本で意味を通すなら『鴨肉』と呼ばないとわかりにくいと言うわけです」
福添「な、なんだ……驚かすなよ」
■
【店の外、町中】
なんだかんだ、フルコースを楽しんでしまった。
美食「ところで福島さん」
福添「福添だよ!……なんだ」
美食「いかがでしたか?あのお店は」
福添「……ああ、そうだな」
ほう、と息をついて、福添は考える。
なんと言おうか悩み抜いたが出てきた言葉は───
福添「───美味しかった。」
それしかなかった。
けれども、それを見てけんさくんは、笑う。
美食「よかった。貴方に気に入ってもらえて」
屈託無く。ただ純粋に。
嬉しそうに、笑う。
福添「……ふん、俺はお前の仕事ぶりには感心したが、だが!やっぱりヒューマギアに飯を勧められるのは複雑だよ……」
美食「ふふ、そう言う方は多いです。だけど私は、人が喜んでくれるならそれでいいんです」
ああ、これがヒューマギア。福添の心が少しだけ、動かされた。
その時、街に風が吹く。
??「みーつけ、た」
彼らの前に何者かが現れた。フードを被った、男。あまり表情は見えていないが、少なくとも唇は笑っている。
福添「? 誰だお前は」
男「お前には用はないよ。話したいのは、そっちのヒューマギア」
福添「……まさか、お前……先日の本社襲撃の時にいた……!」
男は指さし、けんさくんは少し困ったように一歩引いた。
一方、福添は思い出す。先日、飛電インテリジェンス本社でヒューマギアが突如暴走、【マギア】と言う敵性機械となり人々を襲った。
その時に、ビル守衛ヒューマギアを或人の目の前でマギアに変貌させた男が、まさにこの男そっくりなのだ。
彼は【迅】。テロ組織【滅亡迅雷.net】の一員にして、ヒューマギアを改造暴走させる実行係だ。
迅「達したんだね、【シンギュラリティ】に」
美食「貴方、いったい何の話をしているんですか……?」
迅「じゃ、僕とあーそぼ?」
すたすた。迅がけんさくんに迫る。お散歩くらいの優雅な足取りだったはずだが、気付けば眼前まで迫っていた。
迅が手に持っているものを見て、二人の顔色がそれぞれ変わる。あれは。
美食「!?」
福添「ッ、やめろ!」
迅「うっさいなぁ、君はあーとで!」
ガッ!
福添「ぐ……!」
吹き飛ばされる福添。
美食「福岡さん!」
福添「だから……福添だよ!」
■
■
或人「おかしいなぁ……この辺にいるって聞いたんだけど」
社長特権で車を走らせ、或人は街で美食家のヒューマギアを探していた。のだが、どこに行っても見つからない。
今度こそと車を降りると、イズとともに街を歩きながら、あちこちに視線を走らせる。
或人「あれ?福添さん……と、あいつ!」
遠くの方に見たことがある顔を見つけ、ふっと笑みを浮かべた或人だったが、その顔はすぐに凍り付いた。以前、自分の目の前で大切な家族を暴走させた張本人がそこにいたからだ。
イズ「或人様、非常事態かと」
或人「分かってるよ!イズ、ベルト!」
イズ「こちらにございます」
悲しいかな、変身したとてこの距離を走っても止められる距離ではなさそうだと言うのが、或人に分かってしまっているのが辛かった。
或人「……変身!」
■
美食「ぐ……ぅぅ……」
迅によって、けんさくんに【ゼツメライザーベルト】が取り付けられた。これを付けられたヒューマギアはAIをハッキングされ、改造されてしまう。
迅「抵抗とか無駄だよ。君のやるべき事は分かるでしょ?人間を殺すことだよ」
美食「違う……違う!私は、人のために美食を探し求める事が……」
迅「違うよ」
冷たく言い放つ言葉が、とどめのように突き刺さった。
迅「君の使命は人を殺すことだ」
美食「ッ……ああァァァァ!」
ばちん、とイヤな音がする。何か、切れては行けないものが切れてしまったような。
福添「……え?おい、美食?けんさくん?」
迅「……ははは、あははははは!あはははははは!!」
狂ったように笑う迅が何かを手渡し、そしてけんさくんは立ち上がった。
美食「私の使命は……人を殺すこと……」
福添「おい、嘘、だよな?」
けんさくんは真顔で手に持ったそれを起動させる。【ゼツメライズキー】と呼ばれる、絶滅種の因子を宿した破壊のプログラム。
名称、『メガロドンゼツメライズキー』。
躊躇い無くベルトにそれを差し込んだ。同時に力が溢れ、その全身の装甲はパージされて───
「……ォオォオオォオォォオオ!!」
そこに、怪人のようなものが現れた。
迅「やっちゃえ、メガロドンマギア」
メガロドン「人間は殺す」
福添「な……」
以前に襲撃してきた、アレと、全く同じようなものが、なぜ。どうして美食家のヒューマギアが、こいつはいったい何故そんなことに。
理解が追いつかない。
それを置き去りにして、いつの間にやら、先程の男……迅は姿を消していた。
メガロドン「……ォォオオオ!」
福添「はっ!や、やば……」
転がっている福添の方へと、メガロドンマギアが歩いていった。そのまま、手は首へと伸びていき、首を絞めながら体を持ち上げた。
福添「か……はっ、おま……え……」
メガロドン「……」
福添「旨いもの……レビュー、するのが……おまえの……」
メガロドン「……」
あ、ヤバい。酸素が足りず、意識が朦朧とし始めた。このまま、死ぬのか?社長になれずに。むしろ、あの社長を置き去りにして?福添が遺書を書かなかったのを後悔しているさなか、それは訪れた。
???「たあっ!」
メガロドン「!?」
がぎん、と音がして、メガロドンマギアが横から殴られた。どさっ、と落とされた福添……をキャッチ失敗して、てへぺろと笑っているようなジェスチャーを行うのは、突然現れた鮮やかな蛍光イエローと黒のボディの男。
【ゼロワン】……実は、これが或人がドライバーと【プログライズキー】を使い変身した姿だ。そして、そう。
ゼロワン「お前を止められるのはただ一人……俺だ!」
メガロドン「お前は……?」
ゼロワン「俺は【ゼロワン】……人類の夢、ヒューマギアを守る男だ!」
メガロドン「猪口才な。お前も喰ってやるよ」
戦闘は始まった。
イズ「……」
福添「な、何が……いったい何が起きているんだ……?」
福添はひたすら、驚愕しながらそれを見ていた。
鮫の原種であるカルカロドン・メガロドンの力を与えられたけんさくん、メガロドンマギアは、端的に言えばメガロドンの能力を使うことが出来る。
両の肘に鋭い歯のようなものが並び、それが振るわれる度にゼロワンの装甲を削っているようだ。
福添「あれは……何なんだ……?」
イズ「【ゼロワン】」
福添「!?」
イズ「暴走したマギアを止めることが出来る、唯一と言っても良い存在です」
福添「……なんでお前がここにいる」
イズ「……黙秘します」
福添「ヒューマギアに黙秘の権限なんてあったか?」
ばきぃ、と鋭い打撃音がした。
はっ、として福添が顔を上げれば、ゼロワンがメガロドンマギアを殴っているではないか。
……この時、ゼロワンは【ライジングホッパー】と言うプログライズキーを使っている。
プログライズキーもゼツメライズキーも、共通するのは『動物の能力を封じており、ベルトに使用するとその力を引き出すことが出来る』というものだ。
そしてゼロワンが使ったプログライズキーのライジングホッパーは、バッタ。特に脚力の強化に特化したキーであった。
必然、移動速度や回避、攻撃力がメガロドンマギアを上回るのは当然のことであり……
メガロドン「何故……何故だ、何故当たらない!」
ゼロワン「遅いんだよ!」
ガガガガガッ!
メガロドン「ぐああっ!?」
……圧倒した。
ゼロワン「街に被害が出る前に、ここでトドメを刺すしかない……!」
福添「ま、待ってくれ!」
ゼロワン「……え?」
福添「待て、待つんだ。そいつは……そいつはただ、人の為に食を追い求めたヒューマギアだぞ!」
ゼロワン「……福添さん」
気付けば、福添が這うようにしてゼロワンの傍らにおり、その手を握っていた。
福添「本当は……げほっ、こんなことをするやつじゃない……だから」
福添「壊すな……頼む、俺はあいつに……」
ゼロワン「……それは……」
メガロドンマギアはもはや風前の灯火。しかし、もとはマギアなどではないことを知っているが故に、この先の結末を考えるとどうしても、悲しくて仕方がないのだ。
抗えないのかと、縋って。だが、答えはひとつしかなくて。
イズ「一度ハッキングされたヒューマギアは、破壊するしかありません」
福添「……貴方は……社長、ですよね、或人社長」
ゼロワン「! なんで、それを……」
さすがの福添も愚かな男ではない。以前に会議で見たベルトで、すぐに分かった。それに、社長秘書が側にいるのだから、そう言う解釈になるのも自然な話である。
福添「社長……止めてください、あいつは……美食けんさくんは……そんな……!」
ゼロワン「……」
福添「あいつ、笑ったんですよ……機械は、味なんて分かるはずないと、思っていたのに……笑ったんです……!」
ゼロワン「……」
或人の脳裏に過るのは、守衛ヒューマギアを改造されてしまった時のこと。
あの時も、そうだった。自分が家族だ、と伝えた直後に改造されてしまった。大切な存在のはずのヒューマギアを、敵にされ、思い出を汚された気さえした。
だが。思い出だからこそ、これ以上傷つけてはいけないのだと、思い直す。
ゼロワン「福添さん」
福添「……社長」
ゼロワン「俺も、出来れば壊したくないです」
福添「だったら……」
ゼロワン「だけど、その手段はまだない」
福添「!」
ゼロワン「だから。他の人が犠牲になる前に。福添さんの思い出が無くなる前に」
ゼロワン「あいつを……止めます」
福添「……しゃちょおぉぉーーーー!!」
分かった。分かってしまった。
このスーツは、まるで仮面を被っているように見えると言うこと。
ゼロワン「はぁっ!」
その仮面がまるで、泣いているように見えること。
メガロドン「ぐおおお───!!!」
ラ
イ
ジ
ン
グインパクト
ズドオオォォォォー……ン
■
■
【飛電インテリジェンス 社長室】
福添「だからと言って突然社外に飛び出されるのは非常識です」
戦いが終わったあと、或人は強制的にビルに連れ戻されていた。
その眼前にはご立腹の様子の福添。首には指のような跡が残り、顔色は依然あまり良くないように見える。それでも病院などに行かなかったのは、ある種の強がりでもあった。
或人「それは……はい、すみませんでした……ついつい、美食家ヒューマギアに会いたくて……」
福添「ただ、」
或人「ん?」
福添「……助けていただいたことは、感謝します。ありがとう……ございました」
ぺこっ、と頭を下げる福添。頬は軽く紅に染まり、目は泳いでいる。ついでと言わんばかりに、隣でシェスタも「私からもお礼です」と頭を下げていた。
或人「ほんとに……無事で良かった」
福添「……はい」
或人「ところで、」
福添「はい?」
或人「新しいギャグを思いついたんだ!」
福添「……」
或人「美食なんて食べちゃったら……ビー、ショォォォック!!」変顔
或人「はい、アルトじゃー、ナイト!」
福添「」
或人「……福添さん?福添さ、気絶してませんか福添さん!?」
イズ「今のは美食と『ビーショック』の懸詞で、『ビーショック』とは『ビー』と『ショック』、つまりこれから起こり得るであろう味に対する衝撃を表しt或人「ギャグを説明しないでぇぇぇぇ!!」
■
【余談・数日後】
福添「シェスタ、製造部門にこのヒューマギアの製造を検討するように伝えてくれないか」ぴっ
シェスタ「データ確認させていただきます」
シェスタ「……? これは……」
福添「……どうだ?」
シェスタ「『美食けんさくん アルファルファ』ですか」
福添「あの美食レビューシステムをこのまま埋もれさせるのはもったいないと思ってな!折角なので様々な追加機能とバージョンアップをだな……」
シェスタ「素晴らしいと思います」
福添「よし、それなら製造を打診」
シェスタ「名前以外は」
福添「」
ストーリー中か、映画版か分からないけど絶対やられそうな気がしたので気付いたら書いてた。
最近仮面ライダーにハマりました。Wを全部見て非常に面白かったので、次はオーズかフォーゼかそのへんを見たいですね。
劇場版でアナザーゼロワンこと福添准さんを待ってます。
また思いついた頃に。
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