――おしゃれなカフェ――
高森藍子「む~……」
北条加蓮「……レジ前で仁王立ちして何してんの?」
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レンアイカフェテラスシリーズ第109話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「くもりのち晴れのカフェで」
・北条加蓮「Zzz...」高森藍子「加蓮ちゃんが寝ているカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「色々思い浮かべるカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「春隣のカフェテラスで」
藍子「あっ、加蓮ちゃん。こんにちは♪」
加蓮「こんにちは。……今から帰るところ?」
藍子「来たばっかりですっ。ほら、加蓮ちゃん。これ、見てみてください。レジのところのクッキー」
加蓮「クッキーだね。んーっと……」
加蓮「男性専用、ホワイトデーお返し用クッキー? そっか、ホワイトデーだよね」
藍子「ホワイトデーですよね。これ、ホワイトデーまでの限定販売のクッキーらしいんです。そして、これには味が3種類あるみたいで」
加蓮「プレーンとチョコチップと……マカロン風味? あれ、これマカロンじゃなくてクッキー……?」
藍子「はい。そうみたいですよ。一見するとマカロンみたいだけれど、実は……っていう、ちょっとしたサプライズを狙った商品みたいなんです」
藍子「ホワイトデーに、ただお礼をお返しするだけではなくて、ちょっと盛り上げるためにっ」
加蓮「おー」
藍子「あるいは、真面目にお返しするのは、ちょっぴり照れちゃう……という方向けの、パーティグッズでもあるみたいなんです」
加蓮「ふふ。そういうのってちょっとだけ臆病になっちゃうもんね」
藍子「それから、マカロンみたいな見た目のお菓子を見て、クッキーもいいけれど、マカロンも食べたいっ。ってお話になったら、一緒にお出かけする口実にも……? っていうのも、狙っているみたいです!」
加蓮「策士だねー」
藍子「ふふっ。加蓮ちゃんを待っている間、店員さんに聞いてみたんですよ~」
藍子「いろいろなことを考えて作ったオリジナル商品だって、教えてくれました」
加蓮「随分詳しいと思ったらそーいうこと。……っと、藍子。ほら、こっち」グイ
藍子「ふぇ?」ヒッパラレ
加蓮「(小声で)そこの会計しようとしてた男の人。藍子の説明を聞いて興味を持ったみたい」
藍子「(小声で)……あっ。買っていきましたね♪」
加蓮「藍子の営業が売上に貢献しちゃったね。そのうち実演販売? のお仕事とか来ちゃうんじゃない?」
藍子「実演販売……。う~ん。うまくできるかな……」
加蓮「できるできる。その時は練習に付き合ってあげるね」
藍子「お願いします、加蓮ちゃん」
加蓮「……で。クッキーにとても詳しい藍子ちゃんは、一体何に怒ってたの?」
藍子「ふぇ?」
加蓮「…………」ジトー
藍子「……、あっ、そうでした! そうそう、聞いてくださいよ加蓮ちゃんっ」
加蓮「うん。何?」
藍子「このクッキー、男性の方限定みたいなんです」
加蓮「はあ」
藍子「なので、私には買えないんです」
加蓮「はあ」
藍子「でも買いたいんですっ。店員さんがすごく詳しく説明してくださったから、どんな感じなのかとっても気になって――」
藍子「……って、加蓮ちゃん。お話、聞いていますか?」
加蓮「聞いてるけど……。そりゃ……。藍子は男の子じゃないし。買っちゃダメなんじゃない?」
藍子「やっぱりそうですよね……」
加蓮「……まあ、とりあえずいつものとこに座ろうよ。クッキーの実演販売を続けたいなら止めないけど、ここにずっといたら他の人の邪魔になるよ?」
藍子「それもそうですね」
藍子「……それもそうですけれど」
藍子「う~……。他の2種類のクッキーも、絶対おいしいのに……」
加蓮「はいはーい。高森さーん。お仕事は終わりですよー。撤収しますよー」ズルズル
藍子「ひっぱらないで~~~~っ」
……。
…………。
藍子「ぶす~」
加蓮「ふふっ。まだ膨れてる」
藍子「ぶす~」
加蓮「そんなに気になるなら試しに店員さんにお願いしてみたら? 買わせてください、って」
加蓮「藍子のお願いなら聞いてくれるんじゃない? っていうか、ホワイトデーっていうネタがネタだから男性限定って書いてるだけで、藍子以外が言っても多分、売ってくれないってことはないと思うし」
藍子「それは駄目です」
加蓮「はあ」
藍子「だって、あのクッキーは男性の方限定のものなんです。私が買いたいって言っても、店員さんは困ってしまいます」
加蓮「はあ。……じゃあ諦めたら?」
藍子「……」
藍子「……ぶす~」
加蓮「あはは……。これは時間がかかりそうかな?」
藍子「ぶす~」
加蓮「……、」チラ
加蓮「でも、藍子の気持ちも分かるなー。きっと藍子、店員さんからクッキーの説明をいっぱいしてもらったんでしょ。マカロンっぽいヤツ以外の2つも」
藍子「……」コクン
加蓮「だから、藍子もどうしても食べたいって思っちゃったんだよね」
藍子「……」コクン
加蓮「男の人限定って言うんだから、藍子は買えないのに……その気にさせちゃって」
加蓮「って考えると、店員さんもちょっと悪いことをしちゃったのかもね」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「ぶす~」
加蓮「そっか。……ふふっ。いいよ。折り合いがつくまで付き合ってあげる」
加蓮「ま、たまには意地を張ったまま、周りの人をほんのちょっとだけ困らせてもいいんじゃない?」
藍子「む~……」
加蓮「……」
藍子「ぶす~」
加蓮「……」
藍子「……何ですか、加蓮ちゃん」
加蓮「ううん。藍子、すっごく不機嫌そうな顔してるなーって思って」
藍子「不機嫌ですっ」
加蓮「それだけ」
藍子「む~」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「…………」
藍子「……ぶす~」
藍子「あ、そうだっ。……ねえ、加蓮ちゃん」
加蓮「んー?」
藍子「私、実は男の子だったってことにできませんか?」
加蓮「は?」
藍子「今だけ――ううん。あのクッキーが食べられるのなら、これからずっと男の子になっても構いません……! なんとかなりませんか、加蓮ちゃんっ」
加蓮「……………………」
藍子「か、加蓮ちゃん? あの、目がものすっごく冷たいんですけれど……?」
加蓮「…………じゃあやってみれば?」ガサゴソ
藍子「はい。やってみますねっ」
藍子「ええと、まずは自分のことを、私ではなくて別の呼び方にして――」
加蓮「え、ホントにやるの……?」
藍子「おれ――う~ん。それよりは、ぼく? の方が、言いやすいのかな……」
加蓮「……まぁいっか。面白そうだし、しばらくほっとこー」
藍子「男の子になるということは、普段のモバP(以下「P」)さんのマネをすればいいんですよね」
藍子「Pさんは……いつも優しい笑顔で、いろいろなことを教えてくれて――」
加蓮「そこだけなら藍子も同じでしょ」
藍子「そうでしょうか……? あっ、でも、ときどき語調が強くなる時もありますよね。う~ん……思い切った言い方をしてみれば、Pさんみたいになれるでしょうか」
藍子「おほんっ。私――じゃなくて、ぼ、僕は、藍子で……だ」
藍子「僕は、藍子だっ」
加蓮「……うくっ……!」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「な、なんでもない。……ほら、藍子って名前も変えた方がよくない? 誰がどう見ても女の子の名前でしょ」
藍子「確かに……。名前を少し変えてみましょう。公演に参加させてもらう時に、役の名前をつけるのと同じ感じでっ」
藍子「う~ん……。でも、違う名前なんてなかなか思いつきませんね」
藍子「……藍子ではなく、藍、なら、ほんの少しだけ男性っぽくなるかもっ」
藍子「僕は、藍です。……ああっ、またいつもの話し方に。もっと思いっきり変えた方がいいのかな」
藍子「僕は、藍……藍、だ、だぞ~」
加蓮「うくくくっ……!」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「なんでもっ……!」
藍子「……?」
加蓮「ほ、ほら。あとほら、服装とかも変えた方がいいんじゃない?」
藍子「それもそうですね。Pさんはいつもスーツを着ていますが、私……あっ。ぼ、僕はスーツを持っていません」
藍子「どうしましょう……。あ、でも、今日はスカートを履いていないので、ひょっとしたら大丈夫かも!」
藍子「自分の呼び方と、語尾と、名前と、話し方と、服装」ユビオリカゾエ
藍子「……うん。これで、たぶん大丈夫っ」
加蓮「お疲れー」
藍子「では、行ってきま――」
加蓮「ちょっと待ちなさい」ガシ
藍子「ひゃ」
加蓮「はい。ストップ」
加蓮「うん。見てて……うぷぷっ……み、見てて面白いけど、さすがにね? 店員さんがびっくりしちゃうからね。まさかそこまでマジにやるとは思わなかったし」
藍子「離してください、加蓮ちゃん! 私は今から、店員さんに――」
加蓮「そろそろ冷静になろう? ……いいや、説明メンドイし。はいこれ」スッ
藍子「スマートフォン?」
加蓮「今の藍子の作戦……っていうか迷走を録音してあげたから。1回これ聞きなさい。はいイヤホン」
藍子「はあ」カチャ
加蓮「それ聞いてでも行けるって思うなら、もう止めないから。はい再生ー」ポチ
……。
…………。
藍子「」プシュー
加蓮「だから言ったのに」
藍子「」プシュー
加蓮「はい、スマフォ返してねー?」ガサゴソ
藍子「」プシュー
加蓮「イヤホン……を引っこ抜く前に録音を止めて。さすがにこれをカフェ内に流すのは気の毒すぎるし」
加蓮「録音データは……」
加蓮「んー」
加蓮「……」チラ
藍子「」プシュー
加蓮「……さすがに消しとこっか」ポチポチ
加蓮「本気で詰めたら1つの役にはなると思うけどね。イケメンな藍子ちゃんもいいけど、気が弱そうだけどいざって時に活躍するみたいな方が藍子には似合――」
加蓮「……奈緒にオススメしてもらったアニメにつられちゃってるかなぁ」
加蓮「って言っても、そーいうのって種類? が多すぎてよく分かんないんだよね」
加蓮「今度相談――」チラ
藍子「」プシュー
加蓮「……やーめた。藍子をいじっていいのは私だけだし? なんてっ」
藍子「うぅ……」ヨロヨロ...
加蓮「お帰りー」
藍子「ただいま……?」
加蓮「今回はダメージ大きかったみたいだね?」
藍子「……加蓮ちゃん、できれば、今回の録音データは――」
加蓮「もう消したよ。どこかに保存も送信もしていないから。安心しなさい?」
藍子「ありがとう……」
加蓮「ふふ。これは貸し1つだからね。今度何かで返してよ?」
藍子「は~い……」オキアガル
加蓮「……あはは。ホントに重症だ」
加蓮「あ、店員さん。やっほー♪」
藍子「こんにちは、店員さん……」
加蓮「……あのね? 藍子が弱ってるからってまず私を睨むのはやめなさい? 今回は店員さんも悪いんだからね?」
藍子「…………」
加蓮「え、いや、店員さん。そこまで狼狽えなくても……」
藍子「…………」
加蓮「ああもう、面倒くさい……! えーっとさ、店員さん」
加蓮「レジのとこにあるホワイトデー用のクッキー、あれ私が買っちゃダメ?」
藍子「あ、加蓮ちゃん! それはいいですから、」
加蓮「どこかの実演販売員がすっごく美味しそうに語るからさー、どうしても買いたくなっちゃった。ね、ダメぇ?」
加蓮「……え、期間限定メニューのクッキーが同じ物? よければそっちの方を、って」
藍子「限定メニューの……?」パラパラ
藍子「あ、本当だっ。今の期間限定メニューが……。見てください、加蓮ちゃん。ホワイトデーのクッキーっていうメニューがありますよ」スッ
加蓮「あはは、そうだったんだ……。なぁんだ」
藍子「最初から、メニューを確認しておけばよかったですね」
加蓮「まーまー、店員さんは気にしないで? じゃ、このクッキーを2人分と……ついでにこっちの桜パフェっていうのも頼んじゃおっか」
藍子「加蓮ちゃん、両方食べられる?」
加蓮「うーん。じゃ私はミニサイズので。藍子は?」
藍子「私は、普通サイズでっ」
加蓮「食べるんかい」
藍子「はい。お願いしますね。……よかった。クッキー、食べてもいいんですねっ」
加蓮「良かったね。ま、店員さんだって意地悪するだけの人じゃないもん。メニューにあってもおかしくないよね」
藍子「加蓮ちゃん――」
加蓮「何? 私はただクッキーが食べたくて勝手にお願いしただけだよ?」
藍子「……もう。まだ何も言っていませんよ~」
□ ■ □ ■ □
加蓮「――で、テレビでホワイトデーの話題になったんだけど、そしたらお母さんがさ。加蓮も何か作れるんじゃないの? って言ってさ」
加蓮「絶対に作れないって言ったら嘘になるし、でも作れるって言ったらものすごく面倒臭いことになるじゃん」
加蓮「どう返すか悩んでたら、察したみたいな顔になってさ。そのまま話が終わっちゃった」
藍子「あ~……」
加蓮「すっごい失礼だよね! 私だってお菓子くらい作れるわよ! アイドルやってる時に勉強したしっ」
藍子「それなら、お礼に何か作ってあげたら――」
加蓮「絶対やだ」
藍子「ふふ。時間がかかっちゃいそうですよね」
加蓮「…………」
藍子「本当のことじゃないですか!」
加蓮「まーね。……あ、来た来た。ありがとー、店員さん」
藍子「わあっ……♪ 桜のパフェ、かわいいっ」
加蓮「思ったよりシンプルで量も多くないんだね。これなら私もレギュラーサイズでよかったかも?」
藍子「桜色のアイスの周りに、緑色の……これは抹茶のクリームでしょうか」
藍子「その中にちょっとだけ見えてる、ちいさなピンク色は、いちご?」
加蓮「土台はチョコとクリームのストライプ模様になってるんだね」
藍子「メニューの説明のところに"今はまだ、カカオが多めの桜です"って書いてあったような……?」
藍子「あっ。ひょっとしたら、まだ桜の咲き始めってことかもしれません」
加蓮「抹茶は葉っぱで、その中にある小さないちごは……」
藍子「桜のつぼみですねっ」
加蓮「土台のチョコは、桜の木や枝をイメージしてるのかな? ふふっ。なんだかオシャレだね」
藍子「そういえば、確か……」パラパラ
藍子「うん、やっぱりっ。この限定メニュー、"桜が散る頃まで"って書いてあります」
藍子「ってことは、桜が咲き始める頃にはこのパフェも……?」
加蓮「ぜんぶ桜色になったり?」
藍子「かもしれませんね♪」
加蓮「それならさ、藍子」 藍子「ね、加蓮ちゃんっ」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……藍子の方からどうぞ?」
藍子「まあまあ。加蓮ちゃんが、先に言っていいですよ?」
加蓮「いつもは私が誘ってるんだから、こーいう時くらい藍子が言ってよ」
藍子「加蓮ちゃんに誘ってもらえる方が、私は嬉しいですからっ」
加蓮「……そんなこと言ってー。欲張りだと思われるのが嫌だから、自分から言いたくないだけじゃないの?」
藍子「む。加蓮ちゃんこそ、素直に言うのが恥ずかしいから私に言わせようとしているんじゃないんですか?」
加蓮「いつも普通に誘ってるんだから恥ずかしい訳ないでしょ。ほら、どうぞ?」
藍子「加蓮ちゃん。私が何を言おうとして、それが加蓮ちゃんが今言おうとしたことが同じだってこと、わかっていますよね」
加蓮「それは藍子もでしょ!」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……くすっ」
加蓮「……あははっ」
藍子「加蓮ちゃん、意地っ張りなんだから」
加蓮「クッキーに未練たらたらだった藍子には言われたくなーい」
藍子「ごほんっ。加蓮ちゃん。また、桜が咲いた頃に、一緒にこの桜パフェを食べに来ませんか?」
加蓮「藍子がそう言うなら仕方ないなー、付き合ってあげる」
藍子「ふふっ」
加蓮「馬鹿みたいっ」
藍子「あっ。ずっと桜のパフェのお話をしていたから、クッキーのことを忘れそうになっていました」
加蓮「店員さんの言ってた通り、レジのところにあったヤツと同じだね。わー、これホントにマカロンみたい」
藍子「ですねっ。では、いただきます。まずはクッキーから♪」サクッ
加蓮「私もクッキーからもらお。いただきまーす」サクッ
藍子「もぐもぐ……ん~♪」
加蓮「……ん。美味しー♪」
藍子「ホワイトデーの味ですねっ」
加蓮「ホワイトデーの味だねー」
藍子「あっ、でもこっちのチョコチップは、バレンタインを思い出すような味ですっ」サクサク
加蓮「マカロン風のは――」サクッ
加蓮「やっぱりマカロンじゃなくてクッキーだね。でも見た目は完全に……」
藍子「もぐもぐ……。確かに……マカロンだと言われたら、信じてしまいそうですね」
加蓮「いやクッキーなんだけど、マカロンだよね」
藍子「マカロンですねっ」
加蓮「これと本物のマカロン両方買って事務所に持っていって、どっちがマカロンでしょうってやってみよっかな?」
藍子「みなさん、答えられるでしょうか。あっ、でも、みなさん食べ慣れているから、きっと正解できます」
加蓮「って。持ち帰りのは買えないんだったね、私達」
藍子「そういえば、そうでした……」
加蓮「面白そうなのに、って思っちゃった?」
藍子「……」コクン
加蓮「帰る時にもう1回店員さんにお願いしてみよっかなぁ……」
藍子「でも、そうしたら店員さんが困ってしまいますよ?」
加蓮「私が人を困らせて何か悪いことでもあるの? 私、加蓮ちゃんなんだよ?」
藍子「わけが分からないですっ」
加蓮「あははっ。ったく。藍子はホント、変なところで変な意地を張るんだから」
藍子「どうしても、気になっちゃって。こうして食べられてよかったですっ」
加蓮「よかったね。藍子」
藍子「桜パフェ……」モグ
加蓮「抹茶の味、なんだか久しぶりかも」
藍子「~~~♪ 抹茶、久しぶりに食べるんですか?」
加蓮「最近ポテトばっかり食べてるから、ちょっと斬新ー♪」
藍子「あはは……。加蓮ちゃん、最近は見るたびにいつもポテトを口にくわえていますよね」
加蓮「大丈夫大丈夫。たまにはハンバーガーも食べてるから!」
藍子「そうじゃありませんっ」
……。
…………。
「「ごちそうさまでした!」」
加蓮「こーいうのを食べた後は、やっぱりコーヒーだよね」ズズ
藍子「今日のコーヒーは、ちょっぴり大人な味……。甘いものを食べた後だからかな?」
加蓮「子供になったり大人になったり、忙しいよね」
藍子「子どもでいられるうちは、子どもでいた方がいい……って、Pさんが言ってました」
加蓮「Pさんだって子供っぽいとこあるのにー」
藍子「……くすっ♪ そうですね」
加蓮「ね」
加蓮「ふう」コトン
藍子「ふぅ……」コトン
加蓮「考えてみたら、ホワイトデーってホントに意識したことないなぁ。なんだか縁がない感じ」
藍子「そうなんですか?」
加蓮「やっぱりね。あと、なんだろ。私お返しとかあんまり期待しないタイプなんだよね。まっ、もらえるものはもらうけどー♪」
藍子「Pさんも、きっと今ごろ、何かすてきなお返しを探して――」
加蓮「…………」
藍子「って、あれ?」
藍子「ひょっとして……また、Pさんと喧嘩しちゃいましたか?」
加蓮「ううん。そうじゃないけど――」
加蓮「私さー、今年のバレンタイン、テキトーに済ませちゃったんだよね」
加蓮「ほら、オーディションの……。バレンタインのヤツに落ちたから」
藍子「あっ……」
加蓮「今思い出すと、こう……もうちょっと何かできなかったかなぁ、なんて思っちゃった。Pさんもがっかりしちゃったかなー……なんて」
藍子「ま、まあまあ。でも、贈ったことには贈ったんですよね。Pさんは、喜んでくれなかったんですか?」
加蓮「ううん。ありがとうって言ってくれた。あと……次からまた頑張ろうな、だってさ」
藍子「Pさんも、加蓮ちゃんの気持ちがわかったんですね」
加蓮「かなぁ……」
藍子「それなら、期待してもいいハズですっ」
加蓮「……テキトーに贈ったヤツのお返しにすごいのもらってもあれだけど……」
藍子「もらえるものはもらうんじゃなかったんですか?」
加蓮「あははっ。そうだったそうだった。じゃ、遠慮なくもらっちゃおっか!」
藍子「うんうんっ」
藍子「もし、どうしても加蓮ちゃんが納得できないのなら――」
藍子「加蓮ちゃんも、Pさんに何かお返ししちゃいましょうっ」
加蓮「……お返しのお返しを?」
藍子「お返しのお返しを♪」
加蓮「もしそれで、Pさんがまたお返しをくれたら?」
藍子「お返しのお返しのお返しのお返し……ええと、あっていますか?」
加蓮「……たぶん。これ以上はややこしくなるからやめよ?」
藍子「そういえば、ホワイトデーって何の日なのでしょう」
加蓮「何って、女の子がチョコのお返しをもらう日じゃないの?」
藍子「ふふ、そうですね。でも、そういうことではなくて――」
加蓮「あぁ、起源とかそーいう? 確かバレンタインは何かあったよね」
藍子「名前は忘れちゃいましたけれど、昔、結婚が禁止されていた国で、恋人さん達の結婚式をこっそりやっていた方が、処刑されてしまった日……だったかな?」
加蓮「昔はそういうのがすごい厳しかったらしいね。自由な恋愛っていうのも全然なかったって言うらしいし?」
藍子「そうですね……。今だと、ぜんぜん考えられません」
加蓮「今はアイドルが結婚式のプロモを撮ったりする時代だもん」
藍子「その方も、きっと喜んでくださってますよね」
加蓮「バレンタインはそうだけど、ホワイトデーってそういうのなかったんじゃなかった?」
藍子「う~ん……。歴史の授業では、聞いたことはありません」
加蓮「調べてみよっと」ポチポチ
加蓮「……ああうん、やっぱそうだったよね。ホワイトデーって、お菓子屋業界が決めた日なんだって」
藍子「お菓子屋さんの業界が?」
加蓮「色んな説はあるみたいだけど、どれが正解だったとしても黒幕はお菓子屋っぽい」
藍子「へぇ~……。……黒幕?」
加蓮「黒幕」
藍子「バレンタインの由来は、学校の授業で聞いたことがあるから知っていましたけれど……ホワイトデーのことは、気にしたこともありませんでした。お返しができる日だな、ってだけ思ってて」
加蓮「……お返しって、藍子が?」
藍子「はい。ちいさい頃から、チョコレートをくれたお母さんやお父さん、それから、バレンタインの時にチョコレートをくれたクラスのみなさんにも、お返しを配っていたんですよ。クッキーやマシュマロをっ」
加蓮「いやアンタもらう側でしょ」
藍子「そうかもしれませんけれど、何かもらったらお返ししたくなっちゃうじゃないですか」
加蓮「……そう?」
藍子「せっかくホワイトデーっていうきっかけがあるんですからっ」
加蓮「ふぅん……。そーいうものなんだ」
藍子「はい。そういうものです♪」
加蓮「ま、藍子らしいって言えば藍子らしいけどさ」ズズ
藍子「それで、加蓮ちゃんは結局、お返しを贈るんですか?」
加蓮「……はい?」
藍子「贈らないんですか?」
加蓮「……えーっとさ。いや、だから私もらう方――」
藍子「じ~」
加蓮「なんか圧が……。もし贈るって言ったら、どうなるの?」
藍子「ふっふっふ~」
加蓮「何その顔……」
藍子「そうですね。まずは愛梨さんに相談してみましょう。愛梨さん、よく加蓮ちゃんと一緒にお菓子を作りたいって言っていますから、きっと大喜びですっ」
加蓮「もー……ホント。私、そーいうの上手くないって言ってるのにさ。しつこいっての」
藍子「もちろん、私も手伝いますよ。愛梨さんに声をかけるのなら、春菜ちゃんと歌鈴ちゃんにも話した方がいいのかな?」
加蓮「そのメンバーになるなら私と歌鈴は食べる係になる」
藍子「えぇ~」
加蓮「いくらでも味見してあげるから、安心して作って?」
藍子「加蓮ちゃんも作るんですっ。あと、どうして歌鈴ちゃんも?」
加蓮「あの子をキッチンに入れたらそこら中がクリームやメレンゲまみれになるけどそれでもいいの?」
藍子「……き、きっと、そうなる前に誰かが助けますから」
藍子「あ、それならっ。歌鈴ちゃんがもし失敗してしまっても大丈夫なように、加蓮ちゃんがついていてあげてくださいっ」
加蓮「やだよ。藍子がついててあげれば? その方が喜ぶでしょ」
藍子「ついてあげられる時はついていますけれど、私もときどき熱中してしまうから……。加蓮ちゃんは、いつでも冷静に周りのみなさんを見ることができるじゃないですか」
加蓮「……ったく。いいように言っちゃって」
藍子「なにごとも、前向きに言っちゃいましょ?」
加蓮「ちょっと思ったことあるんだけど」
藍子「何ですか?」
加蓮「そもそもなんだけどさ。藍子はホワイトデーにお返しをあげる派かもしれないけど、他のみんなはどうなの? 普通、ホワイトデーって私達はもらう側でしょ?」
藍子「あっ」
加蓮「あと、私達なんか途中からバレンタインっぽいイメージで喋ってたけど、ホワイトデーってさ。あんまりお菓子の手作りとかしなくない?」
藍子「……え~っと」
加蓮「藍子ってわざわざ作ってお返ししてたの?」
藍子「……買ってましたね」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……あ、でも、ほら。加蓮ちゃんのお母さんは、加蓮ちゃんに何かお菓子を作ってほしいって言っているんですよね? それならっ」
加蓮「あー……」
加蓮「……きっかけとか理由とか、あんまり考えないようにしよっか」
藍子「はい。それよりも、やりたいことをやっちゃいましょ?」
加蓮「藍子の話を聞いてたらさ、たまにはお母さんのために何かお返しをしてもいいかなって思っちゃったし――」
加蓮「……あのね。目を輝かせてるみたいだけど。アンタの"せい"だからね?」
藍子「まあまあ。量を作れば、Pさんにもお返しができますよ? 今こそ、バレンタインの失敗を取り返してしまいましょ?」
加蓮「リベンジかぁ。……ふふっ。そういうのもいいかもね?」
藍子「はいっ。……ふうっ。コーヒー、ごちそうさまでした」コトン
加蓮「ホワイトデーの話をしてたら、さっきのクッキーもう1回食べたくなっちゃった」
藍子「私も……。もう1回、食べてしまいましょうか」
加蓮「食べちゃお食べちゃお。すみませーんっ」
【おしまい】
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