【ミリマス】笑い飛ばすような君の夢を見せて (10)

ミリマスの矢吹可奈ちゃんのSSです。

同級生視点かつ可奈以外のアイドルは名前を除き登場しません。

短いですがよろしくお願いします。

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「あはは。なれるわけないだろ」

俺は笑う。目の前で張り切る少女を。

「もー! またバカにして!」

目の前で顔を真っ赤にして怒るのは矢吹可奈。俺の同級生だ。
とても元気で歌が大好きでアイドルに憧れている。だけど致命的な問題を抱えている。

「可奈は~♪ めざすぞ~♪ アイドルを~♪」

とても音痴なのだ。

「今度オーディション受けるんだ。これで受かれば~♪ 可奈も~♪ アイドル~♪」

うきうきで歌うその歌を俺は嫌いじゃない。
けれど現実は甘くないしおそらく落ちるだろう。
それでも君は夢を見て歌うのだろう?

「あはは。やっぱり落ちたじゃないか」

俺は笑う。目の前で落ち込む少女を。

「アイドルになりたい子なんてたくさんいるのにそんなへたくそな歌で本気で受かると思ってたの?」

「うう……」

言い返す気力もいつも見たく歌う元気もないようだ。

「そうじゃないだろ」

俺はそんな顔を見たいんじゃない。

「1回落ちたくらいで諦めるような夢だったのかい? そんな夢なら叶うわけないじゃん」

「あっ!」

驚いたように顔を上げる。

「うん。そうだよね」

すぐに気持ちを立て直す。単純すぎるよ、まったく。

「やるぞ~可奈は~♪ あきらめな~い♪」

どうせ放っておいても勝手に立ち直ってまた挑戦しただろう。
俺はそんな君を笑って背中を蹴り飛ばしただけ。
納得できるまで何度でも繰り返してあげるから好きなだけ行ってこいよ。

「あはは。物好きな事務所もあるんだね」

俺は笑う。目の前で喜ぶ少女を。

「可奈は~♪ なれるぞ~♪ アイドルに~♪」

現在世間の注目を集める765プロが彼女を合格させた。その事実に驚きを隠せないのをごまかすために。

「合格してもそこからどうなるかわからないよ。埋もれてくアイドルなんていくらでもあるんだから」

現在デビューしている13人すべてのアイドルが活躍している765プロ。
だけど次もそういくとは限らないのがアイドル業界だ。

「それでもうれしいんだ! 憧れの春香ちゃんや千早ちゃんがいる765プロで私はアイドルになれるんだ!」

嫌味も気にせずニコニコと満開の笑顔を浮かべる姿に思わず見惚れる。

「ま、おめでとう。いつかCDでも出せたらお祝いに1枚買ってあげるよ」

そのときはへたくそな歌を何度も聞こう。
今からそれが楽しみで笑いそうになるのを必死に隠した。
だから頑張れよ。

「あはは。何泣いてるのさ」

俺は笑う。目の前で泣きじゃくる少女を。

「それは……」

口ごもる可奈。でも大体わかってる。バックダンサーとして出演した初めてのステージで失敗したことで落ち込んでるのだろう。
彼女はこけた。それはもう天海春香を連想させるほど芸術的に。隣で踊る少女を巻き込んで。

ただ疑問がある。オーディションに落ちた時だってここまでひどいことにはなっていなかった。

失敗してもまた次頑張る。大抵の場合可奈はそうやってまた立ち上がれるはずだ。

ヘタクソだとデタラメだと笑われても歌ってきたんだから。

「どうせ可奈はおっちょこちょいだから本番でも何かやらかしたんだろう」

気になった俺は何も知らないふりをしてかまをかけた。

「それもだけど」

やっぱり他に理由があったらしい。

「私は! 志保ちゃんの、早くデビューしたい志保ちゃんの邪魔をしちゃった!」

北沢志保。可奈と同期の少女。一緒に練習する機会が多いらしく可奈は彼女の話をよくしていた。
なかなか打ち解けられないけど、誰よりも一生懸命に頑張る彼女はすごいんだと、仲良くなりたいのだと話していた。

巻き込んでしまった彼女が北沢さんだったのか。
それなら合点がいく。
自分自身の失敗よりも誰かを傷つけてしまうことに一番ダメージを受けるんだ可奈は。

「で、それでどうするのさ。泣いてへこんで彼女のためになるの?」

「ううう……。分かってるよ。だけど私は!」

もう見てられないな。

「二度とチャンスがないわけじゃないでしょ?」

「へっ?」

この世の終わりのように落ち込んでいた可奈はやっぱりそのことすら頭になかったらしい。

「北沢さんと一緒に歌いたいんでしょ。だったら次のステージで彼女と一緒に大成功させてチャンスをつかみ取れよ」

「あっ! えへへっ。そうだよね」

涙をぬぐって顔をあげた。その瞳には強い力がこもっていた。

「私! もっと練習する。ありがとう! 今度こそ~♪ だいだい~せいこ~♪ 志保ちゃんといっしょに~♪ 歌うんです~♪」

そうだよ。大切なもののためにならいくらでも君は頑張れるんだ。

「本当、単純だよな。落ち込んだり張り切ったり」

走り去っていく彼女を見て思わず笑う。

可奈は決して強くないし壁にぶつかれば人並みにくじける。
それでも何度だってまた歩き出す姿を見ているから応援したくなるんだ。
だからその先にある道を信じていてよ。

「あはは。本番で歌詞間違えてるなんて何やってるのさ」

俺は笑う。失敗してそれでもなお観客を沸かせた少女を。

「へ? 来てくれてたの?」

しまった。先日発売したCDの感想だけ言うつもりだったのに。

「ちっ!」

「なんで舌打ちするのかな~♪ そんなはんの~♪ ひどいかな~♪」

どうにかごまかせないかと思ったけど駄目なようだ。

「ああもうそうだよ。すごかった」

きらきらとした目で見られて思わず褒めてしまう。

相変わらず上手くはない、失敗もする、けれどすごく心に沁みる矢吹可奈じゃないと歌えない歌。

歌が大好きでみんなに笑顔になってほしいという思いがこっちにまで伝わってくるメロディー。

「えへへ。ありがとう」

「また来てくれる?」

本当は一番最初のバックダンサーから見ている。けれど言ってやるもんか。

「気が向いたらね」

言わないけれど絶対に行くさ。
勝手に応援させてもらうよ。
次もその次もそのまた次も何度だって見せてくれると信じているから。

最高の夢を。

可奈はどんどん叶えていく。今の彼女を見ていたらとうてい無理だと笑い飛ばしてしまう夢を。

だから俺はこれからも無理だと笑おう。

俺が幻想だと笑い飛ばしたその夢を現実にしてくれる君の姿を見たいから。

終わりです。初投稿SSでした。

お読みいただきありがとうございました。

実際に可奈がいたら他の道を選べばいいと、アイドルなんて向いてないと笑う人はきっといるでしょう。
けれどそんな笑われるような夢を叶えて想像の上を行く姿は見ている人にとってとても爽快なんじゃないかと思い書いてみました。

間に合えば可奈の誕生日にも投稿したいなと思っています。
そちらでは可奈と他のアイドル同士の話を書く予定です。

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