【シャニマス】私の輝きは智代子いろ (20)

2作目

読んでも読まなくてもいい前作できれば読んでみてね
【シャニマス】普通の私は憧れの先に憧れる
【シャニマス】普通の私は憧れの先に憧れる - SSまとめ速報
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「はぁ、はぁ、はぁ……」

 息が絶えるほど、疲れた。

 プロデューサーさんにアイドルをやらないかと誘われた。

そして私はそれを葛藤しながらも、彼の熱心な言葉に打ちひしがれた。

 心が躍動して、今まで経験したことのない感情が溢れ出した。

 普通の私でもアイドルはやれるのだろうか。やれる、やりたい。輝きたい、輝かせてほしい。

 挫折を経験した私は、二度とこういうことを積極的にやらないだろうな、と考えていたから自分でも驚いている。

 それにしても。

「疲れた……こんなに運動するんだ……」

 アイドルも大変なんだ。

 そう強く実感した。

 運動が得意でない私はトレーナーさんの言うことを聞いてその通りに動かすだけで息が上がる。

経験したことのない運動量に、心臓は幾ばくと飛び跳ねる。

「おつかれ、智代子」

 レッスン室の壁にもたりかかって息を整えていると、入口の方から男の人の声が聞こえてきた。

「あっ、お疲れ様です! プロデューサーさん!」

「疲れてんなら無理して立ち上がろうとしなくていいよ。そのままでいい」

「おつかれ、智代子」

 レッスン室の壁にもたりかかって息を整えていると、入口の方から男の人の声が聞こえてきた。

「あっ、お疲れ様です! プロデューサーさん!」

「疲れてんなら無理して立ち上がろうとしなくていいよ。そのままでいい」

 立ち上がろうとした私を制止した。私は再び冷たい地べたに腰を下ろした。

「はい、新しいタオルと飲み物。ちゃんと身体のケアしような」

「あ、ありがとうございます……」

 私の元に歩み寄ったプロデューサーさんから飲み物とタオルを受け取る。
ペットボトルの水滴をタオルで拭いてキャップを開けて、口元へ運ぶ。冷たい液体が乾いた喉をスーッと通る。

 瞬間、火照った体を内側から冷やす。

「どうだ智代子。レッスンはついていけてるか?」

 そして私の目線に合わせるように屈んで私の目を見ながら様子を心配してくる。

 ずるいなぁ、と思いながら彼の視線から逃れるように目をそらす。

そんなに愚直な瞳で見つめられたら、嘘なんか言えないんだもん。

「ちょっと初めてのことだらけで、疲れます」

「ん、そうか。まあそうだろうな」

 微笑んで再び立ち上がる。

「何かあったらすぐ言ってくれよ。サポートをするのは俺の仕事なんだから」

 彼の言葉に、はい、と答えるしかなかった。

 私は、本当は不安なんだ。

ある程度の覚悟を持ってこの道に進んだけど、ざわざわする鼓動は一向に止まることがない。

「どうした、智代子」

「えっ!? な、何がでしょうか!」

「うんにゃ、元気がないから。いや、まあレッスンで疲れているから当然か。すまん、余計なこと言ったかも」

 慌てた私を見かねてそう言葉をかけた。

「あ、そうだ。智代子、この後時間あったよな。この後、ユニットのメンバーと顔合わせと、一緒にレッスンしてほしいんだ」

「ユニットの……メンバー」

 プロデューサーさんの考えているユニット。

どんなのだろう、どんな子たちがいるんだろう。

 不安に隠れていたワクワクが一瞬だけ顔を出した。

「……楽しみだな」

 不意に飛び出した言葉は多分、私の本心。

これから楽しみを積み重ねられる、のだろうか。

分からないけど、そうだといいな。

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◆◆◆

 案の定、私はみんなのダンスについていけなかった。息を枯らしながら失敗するステップ、複雑に絡みあう振り付けは覚えられなくて何度も足を止めた。

みんなに迷惑をかけている。その罪の意識が、私の心をむさぼって枯らす。

 下を向いて汗が垂れている地面を眺める。きれいに磨かれているフローリングだから変に汗をかいている自分の顔がぼやけながらも視界に入る。

「ご、ごめんねみんな。私、ついていけてない」

 みんなはすごい。分からないけど、すごい。

私にとって大変なこともそつなくこなす。

アイドルだ、アイドルにふさわしい。

「大丈夫かよチョコ」

 樹里さんが私を見かねて声をかけてきた。そして背中に手を当てさすってくる。……優しくて心が痛いな。

「智代子、無理は禁物よ。あなたはまだできなくて当然だもの」

 突きつけられた夏葉さんの言葉に、私はすっと腑に落ちてしまった。

 そうだ。

 私は、できないんだ。

 泣きそうになったけど私はくっと堪えた。

「おい夏葉! 言い方があるだろ!」

「……そうね。ごめんなさい智代子。忘れてほしいわ」

 忘れたくても鎖のように巻きついた言葉の棘々はチクチクと蝕むように心を締め付ける。

 できない。できないんだ。

「一回中断しようかな」

 パンッ、と柏手を鳴らす音が聞こえる。プロデューサーさんが鳴らす、乾いた音。鼓膜にじんわりと響く。

「智代子。まあなんというか、疲れただろ」

 少し落ち着いた彼の声。私は少し戦慄した。

 あれ、なんで私はここにいるんだっけ。もしかして見限られたのかな。

「他の人は続けよう。とりあえず、智代子は俺と話そうか」

 心がしんどくて今にも爆発しそうで、壊れそう。

◆◆◆

「何があった? まあわかる気はするけど」

 レッスン室を出て廊下でプロデューサーさんと対面する。壁に背を預けている。息を吐いて私を見る。

「レッスンについていけなくて落ち込んでたんだろ」

 そうだけど、そうじゃない。

 私は個性を出せない。だからあのユニットにいていいのだろうか、と嫌悪感に駆られるんだ。

「みんなは、ちゃんとレッスンできてて、私ができてなくて。本当に私はアイドルできるのかなぁって。みんなは個性的で、でも私は何もなくて、劣等感だけが募っていくんです」

「……そうか」

 一言だけ。プロデューサーさんは伏し目がちになって、私から視線を逸らした。

「なんで俺が智代子をユニットに入れようと思ったか、分かるか?」

 分からないから苦しんでる。だからこそ、その答えを渇望している。

 プロデューサーさんは再び私の目を見る。瞳に吸い込まれそうなぐらい、不思議な引力を感じる。

「最後のピースだと思ったんだよあのユニットの。智代子はあの中で負けじと輝けると思ったから。お前を入れるとあのユニットはさらに輝くんだ」

 根拠はなんだろう。単純に疑問に思った。

 プロデューサーさんが私にどうして、どのようにしてそんなことを見出せたんだろう。

「プロデューサーさん。そう言ってくれるのはすごく嬉しいです。だけどやっぱり私は自信がなくて……なんでそんなに簡単に言えるんだろうって疑問が私の中で何度も何度も、私の自信を無くさせていきます」

「何でだろうな」

 不敵に彼は笑って寄りかかった壁から背中を外し、ずいっと私のそばに近づく。

「これから話すのは俺の自論だ。だから怒らないで聞いてくれ」

「自分が普通で個性がないから。それはもしかしたらそうかもしれない」

「やっぱり、私はーー」

「こっからが重要な話だ」

「アイドルってさ、どんな人が憧れるんだろうなって」

「どんな人が……?」

「そう」

「アイドルに憧れるのは、普通の女の子の特権なんだよ。輝きたいと切に願い、憧れる。彼女らは智代子が思っているように個性的かもしれない。でも智代子と一緒の、普通の女の子だ」

「私と一緒で、普通……」

「アイドルというものに惹かれ、この世界に遅かれ早かれ飛び込んだからな。

 夏葉は自分を高めるのが普通だと思っているし、凛世は大和撫子であることが普通だと思ってる。
樹里は……もしかしたら自分は普通じゃないと自覚しているかもしれないな。でも俺から言わせてもらえれば普通だよ。
ヒーローに憧れるのは普通だと果穂は思ってる。

 自分を普通だと思っていた女の子たちが輝くんだ。アイドルを目指して、アイドルとしてステージ上でキラキラするんだ」

 私は、憧れたんだ。

 アイドルというものに、キラキラとしたものに憧れた。

 普通の日常から逃げたくて、そんな普通でしかない私は変わりたくて変わりたくてしょうがなかった。

 幾ばくと心臓が高鳴るのを感じた。確か、名刺をもらった時もそうだった気がする。

「私は、本当にあの中で、私らしく輝くことができますか?」

「できるよ」

「普通の私でもですか?」

「できる。だからスカウトしたんだ」

「でも、私はレッスンについていけなかった」

「それはそうだよ。他は智代子が来る前からレッスンしてたんだから」

「私は、」

 何を言っても本気の声色ですぐ返答してくる。

 この人は、本気で私をアイドルにするんだって分かってしまった。

 言葉が詰まった。

「前も言っただろ。俺は原石を見つけて磨くのが仕事だって。そこに個性とかは関係ない。心配だろうけど、心配すんな」

 ポンっと頭に柔らかい感触があった。私よりも大きくて安心する温もりが全身に伝わってポカポカする。

「ーーーー! ーー!!」
「ん?」

 レッスン室の入り口から物音が聞こえる。話し声のようなものがひそひそと聴こえて、次第にそれが大きくなっている。

 次の瞬間、ドアが開いて人がなだれ込んできた。私と同じユニットの4人。

 身体が重なり山のようになっていた。

「うわっ! お前らレッスンはどうしたんだよ!」

「ごめんなさいプロデューサー。気になってしまって」

「だから止めろっていったのに」

「智代子さん……如何なる時も凛世がいます……」

「ちょこ先輩! アイドル、やめちゃうんですか!?」

「ちょこ先輩って、私のこと?」

「そうですっ! でも、さっきも苦しそうで……うぇ~ん……」

「な、泣かないで!」

 私より背の高い、年下の女の子が私の目の前で泣いている。年相応なんだって感じた。

「果穂はずっと智代子が来ることを楽しみにしてたんだ。まあ他の奴らもそうだけど」

「そうだったんだ……ありがとう果穂ちゃん、樹里さん、夏葉さん、凛世さん」

 私がそういうと樹里さんは訝しげな表情を浮かべている。

「なんつーか、その呼び方距離感じる」

「え?」

「これからユニットとして一緒に活動するんだろ。そんな呼び方だと、アタシもやりにくいというか……あーもー、呼び捨てでいいよってこと!」

「そうね、まだ遠慮しているように感じたわ。智代子、私のことはちゃん付けで呼んでみなさい。そうなったら、私たちもっと仲良くなれる気がするの」

 不思議と彼女たちの心から溢れる温もりを感じた。

 泣きそうなほど優しくて暖かい。

 ずっと求めていた自分の居場所は、もしかしたらここなのかもしれない。私を必要としてくれている、私が本当に輝ける場所。

 だから、泣きそうだ。

「ありがとう、夏葉ちゃん、樹里ちゃん、凛世ちゃん、果穂」

 けど、やっぱり弱気なところは見せられなかった。だから笑う。プロデューサーさんは私の笑顔を選んでくれたから。

 信じたい。

 この人たちを信じて、私の居場所を私の輝きを守りたい。

 私自身も輝くから。

「智代子」

 私を見つけてくれた声がする。

「プロデューサーさん」

「チョコアイドル、頑張ろうな」

 あぁそうだ。

 私が普通だから、と一生懸命考えた私だけの個性。

 智代子だから、チョコ。チョコアイドル。

 プロデューサーさんに提案した時はちょっと困惑していた表情をしていたけど、今見るとその時とは打って変わって優しく微笑んでいる。

「あの時はさ、全然智代子がそんな風に個性がないとか普通だとか、それに苦しんでただなんて思ってなかったんだよ」

 プロデューサーさんは私の頭に手を置いた。そして、じんわりと、私は、堪えていたものを、溢れ出して、しまう。

「泣くな」

「……はい」

「あーーーー!! プロデューサーさんがちょこ先輩を泣かせてますっ!」

「待て果穂。これは違う」

「あーあ、これは社長やはづきに報告してやらねーとな」

「プロデューサーさま。凛世は……幻滅いたしました……」

「樹里も凛世も! あーもー智代子も泣かないでくれよ!」

 そうだ、みんなの言う通り。

これはプロデューサーさんに泣かされた。私にあんなに期待して優しくしてくれてるんだもん。私に場所をくれたんだもん。

「チョコアイドル、頑張ろうな。俺は智代子が信じた道を信じる。背中を押してやるから」

「……はい!」

 私はアイドルになる。

 そして普通の女の子は変身をする。キラキラと輝く星のようなものになる。

 星は不思議なもので、道しるべになったり個々では小さい輝きだろうがたくさんあれば大きな輝きになる。

 その輝きは、どんな色だろう。私に秘めた星はどんな色になるんだろう。

 私の輝きは智代子いろ。

 私の、私だけの特別ないろ。

 プロデューサーさんはそう言ってくれた気がした。プロデューサーさんは私と一緒に歩いてくれるんだ。

 私はアイドルになる。

 今度はプロデューサーさんに届けるために。私という智代子いろの星の輝きを届けて、プロデューサーさんの理想よりも遥かに輝く私を見つけてほしい。

 とびっきりの笑顔で、とびっきりの元気で、とびっきりのチョコアイドルを。

 私のことを好きになってくれるファンと、あなたのもとへ。

ぬわつか。

前作は3000文字ほど。今回は7000文字ほど。このぐらいが読みやすいと思うけどどうだろうか

自分にとって智代子は、背中を押してあげたいアイドルです。そのままでも十分輝けるけど、自信がなくて踏み出せないアイドルです。

その想いを込めました。

拙い文章でしたが、ここまで読んでくださりありがとうございます。
次はもっと楽しい話でも書いてみたいな

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