綾瀬穂乃香をメインとしたSSです
穂乃香視点、地の文あり、PはBBAです
解釈の違いや文章の拙さ等が出てくるかも知れませんがどうかお付き合いのほどよろしくお願いします
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厚く垂れ込めた雲の下、私は公園のブランコに腰掛けていました
もうすぐバレエのレッスンの時間だというのに溜息が出るばかりで踵は地面を離れません
「どうして満足に踊れないのでしょう」
ここ最近ずっとこの悩みが頭を離れません
同じ教室のみんなにこの悩みを相談しても、そんなことはない、とても上手だ、そう褒めてくれます
バレエの先生に私の技術的な欠点を指摘をよくいただきますが、そこを直してもやはり私は満たされません
コンクールで入賞もしましたが、それでもやはり何かが足りないように感じました
「はぁ」
答えの出ない思考に溜息が溢れます
「隣、いいかい?」
突然声をかけてきたのはスーツを着た40後半から50歳台くらいの痩身の女性でした
「え、あ、はい、どうぞ」
「それじゃ、失礼するよ」
その女性は腰掛けると問いかけてきました
「貴女、名前はなんていうの?」
「私は……綾瀬穂乃香。稲穂の香りと書いて穂乃香です」
思わず名乗ってしまいました
「えと、貴女は…」
「私かい?私のことは魔法使いとでも思ってくれていいさね。そんなことより穂乃香、何か悩みがあるようだね。私に話してみてくれないかい?」
普段だったらこんな自分を魔法使いと名乗るような怪しい人に自分の名前を、ましてや悩みなんて話すようなことはしません
ですがこの日は思いつめていたのか、それとも彼女のの雰囲気に飲まれていたのか、話し始めていました
私は幼い頃からバレエを習ってきました。初めて母と一緒にバレエを観に行った時のバレリーナの演技に魅力されて
帰ってすぐに母に私もバレリーナになりたい、バレエを習わせて欲しいっておねだりをしました
バレエ教師に通うようになってからはプリマになることだけを目指してずっと努力を重ねてきました
あの頃は毎日バレエを踊れることが本当に楽しかったんです。コンクールで上手くいかないことも、失敗して叱られることも、辛い練習に涙を流すことだってたくさんあったりました
それでも憧れのプリマに少しずつ近づいているのだと思えばそんな辛いことも楽しく思えました
どんどんとバレエが上手くなっていくにつれて、自分の表現に満足がいかない気持ちも大きくなってきていました
もちろん単に技術不足から満足いかないこともありました
でもそれ以上に何もミスはないのに何かが足りない、そんな風に感じるようになりました
それを克服する為に、これまで以上に練習に励むようになりました
それでも状況は変わりませんでした
「今では毎日の練習も辛く感じるようになってしまって……」
魔法使いを名乗る女性は話を聞き終わると口を開いた
「成る程ね、そういうことならこれをあげよう。これはきっと穂乃香にとってのかぼちゃの馬車となると思うよ」
そう言って鞄から封筒を取り出して渡してきました
「え?あ、ありがとうこざいます……あの、これは一体?」
いつのまにか魔法使いを名乗る女性は居なくなっていました
思ったよりも話し込んでいたようで、バレエのレッスンの時間はとっくに終わっていました
家に帰ると母親に怒られました、バレエの先生が心配して電話をくれていたようでレッスンをサボっていたこともバレていました
私は心配をかけたことを謝り自室に戻りました
部屋で先程の封筒の中身をよく確認するとそれはチケットと名刺でした
「これは……アイドルのライブのチケットですね。どうしてアイドルなんか」
『アイドル』
クラスの流行りに疎い私ですが、そんな私でも歌ったり踊ったりするものだということは分かります
ですがバレエの踊りは、アイドルの踊りともその他の踊りとも大きく違うことは容易に想像できますし、バレエで声を出すことは基本的にありません
「アイドルのライブ、そんなものを観に行って何があるというのでしょうか」
正直半信半疑ではありましたが、最終的にライブにいくことにしました
今度はちゃんとお休みの連絡をいれています
「ここがライブ会場、なのですね」
宮城県内だというのに辿り着くのに少し苦労しました
バレエの公演とは客層など少々雰囲気は異なりますが、同じように皆が開演に浮き足立っているようでした
物販も行われていたようですが到着した時には既に売り切れていたためそのまま座席に向かいました
「会場内は外よりも更に盛り上がってますね」
会場の中では音響テストの為か、既に楽曲が流されていて、それに合わせてペンライトを振っている人達も多く見受けられました
そうこうしているうちに、音楽は止まり開幕を告げるメッセージが聴こえてきました
出演者の挨拶が終わると早々に1曲目のイントロが聴こえてきました
~♪
『Yes party time!』
曲が始まった途端客席全体が観客のケミカルライトによって煌々と照らされ、会場の温度が一気に上がったかのように感じました
「これがウルトラオレンジっ、予習はしていましたがこんなに明るいなんて」
まるで第一幕の冒頭にオディールの24回フェッテ※を見せつけられたかのような衝撃を受けました
※白鳥の湖は全四幕で構成されており(脚本により減ることもあり)、24回フェッテは第三幕終盤に行われる高い技術が求められる技で白鳥の湖で最も盛り上がるシーンの一つ
最初の楽曲の興奮覚めやらぬまま、2曲目3曲目とアップテンポな曲が続き、小休止のトークを挟んで次の曲へと移ります
今度は明るい青のドレスを着た女性が1人でステージでスポットライトを浴びていました
~♪
『そっと聞き入る あなたの吐息』
~♪
『どうせ なんて言う私を』
先程とは打って変わってしっとりとしたバラードで、観客全員が聴き入っていました
「まるで……誰かを想うような……心に響く凄い表現力です」
それからも様々なアイドルがそれぞれの楽曲を披露していき、3時間を超えるライブの公演時間はあっという間に終わりを告げていました
演者の表現は十人十色でしたが一つだけ共通点がありました
それは観客の、そして私の心に演者の想いが伝わってきたことです
「これがアイドルの表現なのですね……」
アイドルのライブを観終えた私には、一つの決意が芽生えてました
そしてあの日から少しして……
「次の方、どうぞ」
「はい、綾瀬穂乃香17歳です。幼い頃からプリマを目指してバレエを続けてきましたが自分の表現力に限界を感じるようになりました。その壁を打ち破るため、ここに来ました。よろしくお願いします」
私は新たな一歩を踏み出し始めたのです
以上です、お時間いただきありがとうございました
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