P「つまり、アイドルとして上を目指すにはもっと親しみやすさが必要だと思った、と」
千秋「ええ。それで、たまたま事務所に置いてあった雑誌に『これでアナタも人気者！　良い友達の四つの条件』という見出しを見つけたの」
P「……はぁ」
千秋「これだ、と思って読んでみたわ。そうしたら……私には、この条件を満たした、友達と呼べる人が一人も思い浮かばなかったのよ」ｼｭｰﾝ
P「さいですか」
千秋「生返事ね。私のプロデューサーなら、もっと危機感を覚えるべきだと思うのだけど」
P「いやぁ、だって……なぁ」

P「例えば、水野さんは千秋にとってどういう関係なんだ？」
千秋「翠さんは……そうね、大切な仕事のパートナーよ。友達というカテゴリーとは少し違うわね」
P「じゃあ、雪美ちゃんは」
千秋「佐城さん？　妹よ」ｷｯﾊﾟﾘ
P（『みたいなもの』とも言わずに言い切ったよこの人……）

P「千秋も、水野さんや雪美ちゃん、レッドバラードの面々、って仲間はちゃんといるんだし、別に大丈夫じゃないかと思うんだがなぁ」
千秋「いいえ。トップアイドルというのは万人から愛される存在。そうであるからには、友達も多いのが自然なはずだわ。逆に言えば、友達が少なければトップアイドルにはなれないのよ！」
P「うーん、正論といえば正論、なのか……？」
千秋「それで、これからこの雑誌に書いてある条件に合うアイドルの子に色々教えて貰いたいの。だからプロデューサーさんも、手伝ってくれるかしら」
P「……分かったよ。それで、その雑誌に書かれてる友達の条件ってのはどんなのなんだ？」
千秋「そうね、まずは簡単そうなところから……『ニックネームで呼び合う』ね」

友達の条件①：ニックネームで呼び合う

P「というわけで、ニックネームといえばこの人、本田未央さんをお呼びしました」

未央「はい！　呼ばれて飛び出てミツボシキラリ、本田未央です！」

千秋「今日はよろしくお願いするわ。本田さん」

未央「今日は千秋さんと一緒に、あだ名を考えればいいんだよね？」

P（……ん？）

千秋「ええ。本田さんのラジオではニックネームを付けるのが恒例なんでしょう？　頼りにしているわ」

未央「まっかせて！　まずは千秋さんにもクールなあだ名を――」

P「ちょっと待った」ﾁｮｲﾁｮｲ

未央（プロデューサー、どうかした？）

P（どうかしたも何も……ラジオの箱番で君が名付けた『くろちー』はどうした？）

未央（あ、やっぱり知ってた？　いやぁ、ラジオの時はその場のノリでついあんな名前を付けちゃったんだけど……
　いざ本人を前にしたら、ちょっと呼びづらい雰囲気というか、怒らせちゃったらどうしようというか……）

P（それで日和った、と）

未央（いやいや、センリャク的テッタイだって！　千秋さんも自分のお気に召すクールなあだ名の方が、やりやすいかなぁって）

P（せっかく付けたあだ名があるのに遠慮して呼ばれなかったなんて千秋が知ったら、それこそ千秋のプライドは傷つくぞ）

未央（それは、そうかもだけど……）

P（ま、見てなって）

千秋「内緒話は終わった？　あまり感じの良いものではないわよ」

P「すまなかったな。実は、本田さんはラジオで千秋にもあだ名を付けてるんだよ」

千秋「まあ。そうなの？　どんなのかしら？」

未央「あー、えっと……くろ、ちー……です」

千秋「くろちー？　そう……くろちー……ね」

未央（うう……やっぱり怒ってるんじゃ）

千秋「とても可愛らしいニックネームね、嬉しいわ。ありがとう、本田さん」

未央「あれ……千秋さん、怒らない？」

千秋「怒る？　どうして？　だってこの名前は、本田さんの私への親しみの証ということでしょう？
　こんなに可愛らしいニックネームを貰えるなんて、とても光栄だわ」

未央「そうなんだ……千秋さん――ううん、くろちーに気に入って貰えて私も嬉しい！」

P「だから言ったろ？　くろちーはこう見えて可愛いもの好きなんだ」

千秋「こう見えてとは失礼ね。それと、貴方にくろちーと呼ばれるのは気持ち悪いからやめて」

千秋「じゃあ、私も本田さんのことをニックネームで呼んでもいいかしら」

未央「おっ、いいね～。くろちーの付けるあだ名、楽しみ！」

千秋「そうね……本田未央……ほんだみお……ホン・ダミオ……」

未央（今、何か不穏なイントネーションが聞こえたような）

千秋「思いついたわ！」

未央「はい！　どうぞくろちー！」

千秋「ンダミちゃん、というのはどうかしら」

未央「へ？」

千秋「多田さんのことを木村さんはダリーと呼ぶでしょ？　そこからヒントを得たの。
　ほ・ん・だ・み・お、の真ん中三文字を取って、ンダミちゃん」ﾄﾞﾔｱ

未央「……」

P「……」

未央「えーっと」

千秋「駄目、かしら……」

未央「だ、ダメじゃないけど！　ちょっーと前衛過ぎるかなーとか、
　ンから始まるのって言いにくいかなーとか、その辺りがちょっと、ね？」

千秋「言い繕わなくてもいいわ。そこの笑いを堪えているプロデューサーさんを見れば、
　あまり良い名前ではなかったんだろうな、ということは分かるもの」

未央「まあ、その……」ｺｸﾘ

千秋「分かったわ。本田さんのニックネームは、保留にさせてもらえるかしら。
　いつか、本田さんのお気に召してくれる名前を考えてみせるわ」

未央「うん。楽しみにしてるね！　じゃあ、気を取り直して次の条件いってみよう！」

千秋「次の条件は……『気付いたら一時間以上長電話をしている』ね」

友達の条件②：気付いたら一時間以上の長電話をしている

未央「今回の助っ人は～、こちら！　趣味は友達と長電話、我らがしまむー！」

千秋「まさに適役ね。心強いわ」ﾊﾟﾁﾊﾟﾁ

卯月「えっと、突然未央ちゃんに呼ばれたのでよく分かりませんけど……頑張ります！」

未央「その意気だよしまむー。じゃあ、二人とも。早速電話してみよう！」

千秋「善は急げ、ね。よろしくね、島村さん」

卯月「え？　え？」

卯月（結局、よく分からないまま未央ちゃんに流されて千秋さんと電話することに……）

卯月「ねえ未央ちゃん、千秋さんと何をしていたの？」

未央「うーん、くろちーのお手伝い、かな？　ま、しまむーもすぐに分かるよ」

卯月（千秋さんも意外に乗り気で、プロデューサーさんと一緒に隣の部屋に移っていったけど……）

Prrr

卯月「わっ！？　かかってきました！」

未央「さあ、出るんだしまむー。そしてその長電話スキルを遺憾なく発揮したまえ！」

卯月『も、もしもし？』

千秋『もしもし島村さん？　黒川千秋よ。今日は突然呼び出してしまってごめんなさいね』

卯月『いえいえ！　別に予定はなかったので大丈夫です』

千秋『それなら良かったわ』

卯月『それで、なんで私は呼ばれたんでしょう？』

千秋『ああ、それは私のともだ――いえ、本田さんは何て説明したのかしら？』

卯月『未央ちゃんは、千秋さんのお手伝いだって』

千秋『そうね……私は今、とある課題に直面していて、本田さんにはその解決を手伝って貰っているの。
　それで次の課題は長電話だから、島村さんが適任ということになったの』

卯月『そうだったんですね……私なんかでよければ、頑張ります！』

千秋『ええ、頼りにしているわね』

卯月『……』

千秋『……』

卯月『……えっと。何を話せばいいんでしょう？』

卯月『昨日は学校でこんなことがあって――』

千秋『そう、それは楽しそうね』

卯月『千秋さんは、昨日は何か楽しいことありましたか？』

千秋『昨日は……特にないわね』

卯月『そ、そうですか……』

千秋『……』

卯月『……』

卯月『千秋さんは、休日何をしているんですか？』

千秋『出掛ける予定がないときは、クラシックを聴きながら部屋の掃除をしたり大学の課題を片付けたりしているわ』

卯月『わぁ！　オシャレですね』

千秋『？　別にお洒落なことなんて、何もしていないと思うのだけど』

卯月『あ、はい……』

千秋『……』

卯月『……』

卯月「だめです～。何度やっても千秋さんとの会話が続きません……」

千秋「ごめんなさい。私がもっと気の利いた会話が出来ていたら……」

未央「うーん、しまむーの長電話スキルが効かないとは」

P「効かないも何も、まだ友達でも何でもないんだから当たり前じゃないのか？」

未央「しまむー、そうなの！？」

卯月「ええっと……はい……千秋さんと話すのは、まだちょっと緊張します」

千秋「昔、緒方さんにも同じことを言われたわ。……成長していないわね、私」

卯月「そんな！　千秋さんは悪くないです」

千秋「いいえ、私が――」

未央「はい、ストーップ！　そんな二人には、この未央ちゃんが仲良くなる秘訣を伝授してしんぜよう」

卯月『も、もしもし？　く、くろちー？』

千秋『ええ、私よ。し……しま、むー』

P（何この光景……）

未央「こらー二人ともー。あだ名を呼ぶときは照れない照れない。もっとしゃきっと！　堂々と！」

卯月『きょ、今日はいい天気ですね！　くろちー』

千秋『そうね！　曇りだけど、いい天気ね。しまむー』

卯月『そそそうでした！　曇りですね。くろちー』

P（無線か何かかな？）

未央「うーん、あだ名で呼び合うのは二人にはまだ早かったかー……」

未央「結局、あだ名で呼ぶのも長電話もくろちーにはまだ早かった、と」

卯月「お力になれずすみません……」

千秋「いいえ、島村さんは悪くないわ。私が不甲斐ないだけよ。
　……次こそは必ず、達成してみせるわ」

未央「お、まだ燃えてるねーくろちー。次の条件は何かな？」

千秋「次は、『一緒に取ったプリが百枚以上ある』ね。……このプリというのが何か、二人は知っている？」

未央「そこから！？」

友達の条件③：一緒に取ったプリが百枚以上ある

＠ゲームセンター

千秋「これが……プリなのね」

唯「そうだよー☆　一緒に写真撮ってー、色々盛ってー、色々デコれちゃうスゴいヤツ♪」

未央「いやー、ゆいゆいが居てくれて助かったよー。私としまむーだけじゃ、
　くろちーにプリの極意を教えるのは荷が重いからさー」

唯「あはは☆　そんなことないっしょー。プリなんて写真撮ってデコるだけじゃん？」

未央「いやいや！　これまででくろちーは結構天然さんって分かったから、
　きっとすごいボケをかましてくれるんじゃないかと」

卯月「ちょっと未央ちゃん、千秋さんに失礼じゃ――」

千秋「いいのよ島村さん。今日は本田さんには色々と情けない姿を見せて
　しまったから……でも、ここで名誉挽回してみせるわ」

唯「いいねーアツいねー☆　それじゃ、早速行ってみよっか♪」

千秋「それにしても……このコーナーは女性しかいないのね」

唯「ここのプリは男子禁制だからねー☆」

千秋「ああ、だからプロデューサーさんは事務所に残ると言ったのね」

唯「そうそう！　あ、でもカップルなら男も入ってもいいから、
　Pちゃんも連れてきたいならくろちーのカレシってことにすれば大丈夫♪」

千秋「お、大槻さん！？　何言ってるの？？？」

唯「あはは☆　慌ててるくろちー可愛い♪」

唯「最初はゆいがフレームとか色々決めちゃっていい？」

千秋「ええ、任せるわ」

未央「異議なーし！」

卯月「私も大丈夫です！」

唯「枠はこんな感じで～、ほい、ほい、ほいっと」

千秋「手慣れてるわね」

唯「まぁね～。んじゃ、撮るよ～♪」

千秋「えっもう？」ﾜﾀﾜﾀ

唯・未央・卯月「はいっ」ﾎﾟｰｽﾞ

3、2、1……ﾊﾟｼｬ!

千秋「……」

唯「あっはっはっはっは☆」

卯月「これは……」

未央「見事な真顔ですなぁ」

唯「いやー面白いよくろちー☆　マジで証明写真じゃん♪」

千秋「いえ、狙ってやったわけではないのよ……」ｼｭﾝ

唯「よしっ。くろちー初プリは証明写真、と……」ｶｷｶｷ

千秋「！？　文字が書けるの？」

唯「そだよー。こうやってメッセージ入れて～、思い出の一ページ、的な？」

千秋「そうなの……良い機能ね」

千秋「今度はさっきよりも上手く撮れたと思うわ」

卯月「はいっ、ポーズも決まっていてかっこいいです！」

未央「まあ、ここは『クールにキメる』ってお題を出した未央ちゃんのプロデュース力が――」

唯「まあ、ラクガキしちゃうんだけどね～♪」ｶｷｶｷ

千秋「！？」

卯月「ああ、千秋さんのすましたお顔にネコミミと丸鼻と三本ひげが！！」

未央「ゆいゆい容赦ないね！？」

千秋「大槻さん……」

唯「あ、マズった……？　でもほら、イヤなら消せるから――」

千秋「素晴らしいわ！　黒猫川千秋……ふふっ、佐城さんに見せたら喜んでくれるかしら」

未央「あっダメだこの人」

卯月「これで一人ずつお題を出すのは一巡しましたね」

未央「くろちーの『一番自信のある表情』は難関だった……」

千秋「でも、本田さんのとびきりのスマイルは素敵だったわ。
　さあ、まだまだこれで五枚、あと九十五枚撮るのだからどんどん行きましょう」

未央「……へ？」

千秋「え？」

卯月「千秋さん、今日で百枚撮る気なんですか……？」

千秋「当然でしょう？　こういう数値目標があるのは分かりやすくて良いわね。達成さえすれば良いのだから」

唯「あっはっはっはっはっはっはっは☆　くろちーホント面白いねー♪」

唯「でもねー、それだとあんまり意味ないってゆいは思うなー？」

千秋「意味がない……？　そうなのかしら」

唯「そうそう。一回遊んで五枚撮ったしたら、プリ百枚って二十回遊ぶってことじゃん？
　二十回も遊んでるから、プリが百枚溜まるほどの友達ってことっしょ？」

千秋「……確かに、その通りね」

未央「ゆいゆい、くろちーが何でプリ百枚撮ろうとしてるか知ってたんだ」

唯「まあ、プリ百枚って言ったらあの記事のことかなってねー？　あの雑誌を事務所に持ってきたの、ゆいだし？
　まさか、くろちーが真に受けてホントにプリ百枚撮ろうとするとは思わなかったけど♪」

千秋「え？　真に受ける、って……あの記事は嘘なの？」

唯「嘘っていうか……逆？　アレをしないと友達じゃない、なんてあるわけないじゃん？
　友達だからあだ名で呼び合えるし、気付いたら電話も一時間しちゃうし、プリだって百枚溜まる。そういうことっしょ」

千秋「そういう、ことだったのね……私は今日、なんて無意味なことを……」ｼｭﾝ