小松伊吹「キス魔奏」 (13)
奏「私、キスが好きなの」
奏「柔らかさを感じられて、上品なものが好き。輝くような光とともに、感触と味を確かめるの」
奏「キスの味……そうね。初めて味わったときは、自然と涙が出てきたわ。きっとあの頃の私はまだ子供で、キスの刺激に耐えられなかったのでしょうね」
奏「今では、むしろ大好き。気がつくと、体がキスを求めているの」
奏「だから……ね? いいでしょう?」
伊吹「いや、だからって回転寿司に来てキス(鱚)ばっかり食べるのはもったいなくない?」
奏「だって好きなんだもの。光り物の中でも群を抜いているわ」
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奏「柔らかくて淡白ながらも脂ののったネタ……上品な味わい。いくつ食べても飽きないわね」
奏「初めて食べた時はあまりの刺激に泣いちゃったけど」
伊吹「それ、キスじゃなくてわさびのせいでしょ」
奏「そうね」
伊吹「そうねって……」
奏「ちなみに、唇を使うキスは上品なものよりも情熱的なものが好みかしら」
伊吹「そ、そう」
奏「ふふ、これだけで赤くなるなんて、伊吹ちゃんかわいいのね」
伊吹「う、うるさいな……すみませーん、イサキひとつください!」
奏「伊吹ちゃん、イサキが好きなの?」
伊吹「まあね。梅雨の時期がおいしいらしいよ」
奏「へえ。キスも初夏から梅雨の時期あたりがおいしいらしいわよ」
伊吹「つまり、お互い今の時期が旬ってことだね」
奏「そうね」
伊吹「せっかくだし、次のイサキ食べたら私もキス頼んでみようかな」
奏「いいわね。それなら、私も次はイサキを頼んでみようかしら」
伊吹「いいの? キスオンリーじゃなくて」
奏「同じものばかりだと飽きるじゃない」
伊吹「ちょっと前の自分のセリフ思い出せ~」
奏「でも、キスばかり食べるのにも理由があるのよ」
伊吹「理由?」
奏「お店によってはキスを取り扱っていないこともあるから、キスが置いてあるお寿司屋さんでたくさん食べておこうと思うの」
伊吹「ふーん、置いてないことあるんだ。どうしてだろ」
奏「昔からの慣習で、『キスを食べないことで疫病神から身を守り、船の神様に船旅の安全を祈る』というものがあるらしいわ。それが今の時代まで続いている、ということでしょうね」
伊吹「つまり、縁起がいい願掛けってこと?」
奏「そう」
伊吹「へー……おいしいのに、なんかもったいないね」モグモグ
奏「伊吹ちゃん、そういう願掛けとかは信じないタイプ?」
伊吹「んー。まあそんな感じかな」
奏「この前プロデューサーと恋愛運の上昇するパワースポットに行ったって聞いたけど」
伊吹「そ、それとこれとは別っ!」
奏「ふふっ」
伊吹「にしても……アタシまでキス食べてると、本格的にキスの皿ばっかりとってることになっちゃうなあ」
奏「いいんじゃない? 常識的な範囲なら、同じネタを頼んでも」
伊吹「ここにもキス、あっちにもキス……」
伊吹「ワントゥー」
奏「キスキス」
伊吹「………」
奏「………」
奏「なに言わせるのよ」プッ
伊吹「てへ、なんとなく」
奏「さて。イサキもおいしくいただいたことだし、次はなにを食べようかしら……」
奏「ハマチとか、いいかも……」
伊吹「………」
奏「今『ハマチ奏』とかくだらないこと考えてなかった?」
伊吹「なんだよエスパーか!?」
伊吹「ていうか今さらだけど、食べるの早いね。奏」
奏「成長期なのよ」
伊吹「まだ成長する気か、このセクシー娘」
奏「セクシーね……体つきなら、伊吹ちゃんだって相当なものだと思うけど」
奏「……うん、やっぱりこれにしようかな。すみません」
店員「へい、なんでしょう」
奏「キス……いただけるかしら?」
店員「き、キス……あ、魚の。へ、へい」ドキドキ
伊吹(お寿司を注文するだけで男をときめかせる女がなにを言ってるんだか……)
奏「おいしいわ」モグモグ
伊吹「結局またキスに戻ってるし……しかもペースが速い。アタシの倍くらい食べてない?」
奏「好物はいくら食べても平気なのよ。魚だからヘルシーだし」
伊吹「確かに、頭よくなりそうだしね。DHCだっけ?」
奏「DHA」
伊吹「あはは、惜しい惜しい……って、あれ?」
奏「どうしたの」
伊吹「今入ってきたの、奏のプロデューサーさんじゃない?」
奏「えっ」
伊吹「あ、やっぱりそうだ。こっち気づいた。おーい、奏のプロデューサーさーん!」
奏「………」イソイソ
伊吹「奇遇だね、そっちも今晩はお寿司? アタシたちもここで食べてたんだけどさ、奏が」
奏「あらPさん、奇遇ね。一緒に食べる?」
伊吹「ちょい待ち。なんでアタシのほうに自分が食べたお皿寄せてるの」
奏「あら、そうだったかしら」
伊吹(プロデューサーさんにめっちゃ食べてたこと知られたくないんだな……)
奏「………」
奏「え? キスにがっついてたところ、ばっちり見えてた……?」
奏「そう、見ていたのね。覗き見は感心しないけれど、今回は許すわ。キスはお寿司のネタの中だと一番の好物だから、ついつい勢いよく食べてしまうのよね」
伊吹(うわあ、言葉は平静装ってるけど耳真っ赤になってる……)
伊吹(……しょうがない。ここは年上のお姉さんらしく)
伊吹「ほら、プロデューサーさん! ここ空いてるし、座って座って!」
伊吹「アタシも今日はお腹いっぱい食べるつもりだし、プロデューサーさんもいっぱい食べよう! ねっ」
伊吹「みんなでたくさん食べれば、みんな仲良しって感じじゃん?」
奏「………」
奏「ふふっ」
奏「ありがとう………イサキちゃん」
伊吹「イブキだよ!」
奏「ごめんなさい、今のは素で間違えたわ」
伊吹「どんだけテンパってたんだよ……」
奏「改めて。夕食、ご一緒させてもらえるかしら。Pさん」
奏「一貫くらいなら、奢ってあげてもいいわよ。私からのプレゼント」
奏「なにをご所望かしら」
奏「………」
奏「キス……そう。キスが欲しいんだ。それは、どこまで深く意図を読み取ればいいのかしら」
奏「なんてね。冗談よ」フフッ
伊吹「またいつもの冗談が始まってる……思わせぶりなんだから」
奏「お店の中じゃまずいものね。本番はふたりきりのところで」
伊吹「えっ?」
奏「甘く、熱く、情熱的な……」
伊吹「えっ? えっ? ホントに?」
奏「なんてね」
伊吹「ハマチィ!」
奏「速水よ。伊吹ちゃんにも一貫奢るわ」
おしまい
おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
奏や伊吹と寿司食いたい
過去作
小松伊吹「ハラミ奏」
速水奏「小松菜伊吹」
小松伊吹「カラミ奏」
小松伊吹「なんだよエスパーか!?」
だいたい似たような感じですがこちらもよろしくお願いします
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