魔女「私って天才じゃん?」(23)
男「え?」
魔女「私って天才じゃん?」
男「聞き取れなかったんじゃなくて頭大丈夫?のえ?なんだけど」
魔女「この世界で50000人に一人しか使えない魔法を使える私は選ばれし人間なのよ!」
男「あのー、街中ですよ。お静かに」
魔女「だからさぁ、皆もっと私を恐れ、尊敬し、称賛すべきなのよ!なのにっ!!」
猫「まぁまぁ落ち着けよ。プライドたけーな」
魔女「あぁん?話しかけんな野良猫!」
猫「おーこわ」
男「何言われたか知らないけど猫にムキになるようじゃなぁ……」
魔女「動物と話せる魔法使えるのなんて世界で私だけなのよ……天才よね?」
男「あー天才天才」
魔女「感情こもってないぃ!」
男「じゃあ感情こめた本音言おうか?」
魔女「……言ってみなさいよ」
男「戦闘に使えない魔法なんてゴミ」
魔女「ふ、ふん!これだから魔法の使えない人間は」
男「魔法の評価基準が戦闘に使えるかなんだからゴミ。魔物とは話せないってなんなの?そもそも欠陥魔法だよね」
魔女「うっわー!なーんも分かってないわね!!」
男「役立つ才能を持ってるのが天才と言うんであって、ゴミみたいな才能持っててもゴミなだけだよね」
魔女「うぅ……えっぐ………ひっく」
男「え………」
魔女「わだじ……がえる」
男「あ………っと……」
エルフ「やっちゃったねー。なんでトドメ刺すようなこと言っちゃうかなー」
男「エルフ!?聞いてたのか……」
エルフ「面白そうなこと話してたからねー。追いかけないの?」
男「まさか泣かれるなんて思ってなかったらなんて声かければいいのか……」
エルフ「他の魔法使いから馬鹿にされても魔法が使えるってこと自体にすがり付いて自分保ってるみたいだったからねー。それぶち壊しちゃったら泣くよねー。ひどいやつも居たもんだよねー」
男「うっ………確かに言い過ぎたかもしれない。でも魔女の泣き顔見た時俺……」
エルフ「うん」
男「すっごい興奮した」
エルフ「は?」
男「いつも魔女の我が儘聞いてるからたまにはいいだろと思いきって罵倒してみたけど自分にこんな要素があるとは思わなかったよ」
エルフ「待って。何この流れ」
男「ムチの次はアメだよな……ありがとう!慰めてくる!!」
エルフ「行動は正しいけどその考え方は間違ってるよ!」
魔女の家・庭
魔女「…………」パクパク
魔女(おいしいな。フランスパン)
魔女「…………」パクパク
魔女「あれ……あれ?………」ポロポロ
魔女「うぅ………えぐっ………」パクパクポロポロ
エルフ「うわーあれ相当キテるね。君のせいだよ。反省してる?」
男「ハァ……ハァ……かわいいな……」
エルフ「いぃ!?……すごく気持ち悪いし怖いんだけど。今すぐ縁切りたいくらい」
男「そ、そんなにか?この気持ちに目覚めたばかりだから周りからどう写るのか分からないんだよなぁ。気を付けよう」
エルフ「暴言の反省はしてないんだね……」
小鳥「どうして泣いてますの?」
魔女「小鳥さん………聞いてくれる?」
小鳥「勿論ですわ……魔女様のお話ならなんだって聞きますのよ」
魔女「あのね……私の魔法……戦いで使えないからゴミなんだって……」
小鳥「そんなことないですわ。私達とお話できるのは魔女様だけですもの!凄いことですわ!天才ですわ!」
魔女「そんなに凄いことなのかな……戦いの役には立たないのに」
小鳥「今は魔物を倒すことしか人間達は考えてませんの。平和な時代になればきっと魔女様は重宝されますわ。天才ですわ!」
魔女「時代が私に合ってないってことかな?」
小鳥「そうですの。魔女様は本来歴史に名を残す偉大な魔法使いになれるお方ですわ!天才ですわ!」
魔女「天才……そうよね。私は天才なのよね。そう……私はゴミなんかじゃない……」
小鳥「当たり前ですの。ゴミと言う人がゴミなのですわ。魔女様だけが私達の味方。天才ですわ!!!」
魔女「ふ……ふふ。そうよ!私は偉大なる魔法使い……誰もが尊敬し羨む至高の存在……」
小鳥「そうですわ!天才ですわ!!!」
魔女「私こそが天才!!!」
男「いや、ゴミだね」
魔女「ひっ……」
男「至高の存在?ナルシストも大概にしてほしいね。自分でどう思おうが世間ではゴミって事実は変わらないんだよ」
魔女「あぅ……うぅ……」ポロポロ
男「小鳥に何を吹き込まれたか知らないけどすぐ調子に乗るんだから救い用が無いね」
魔女「う"わぁぁぁ………!」ポロポロ
男「っ!」ゾクゾク
エルフ「ちょ、ちょっと!慰めるんじゃなかったの!?」
男「あ、しまった………つい」
魔女「なんで男にそんなこと……男は私のこと……えっぐ……」バタンッ
エルフ「あーあ、しばらく出てこないよこれ」
男「アメの役を小鳥に取られた悔しさでつい……」
エルフ「ブレないね君は!!!」
─酒場─
エルフ「完全に引きこもっちゃったじゃないか。どうするんだい?君のせいだよ」
男「今さら罪悪感感じても遅いよな……。俺、変わっちまったよ……人を傷つける奴嫌いだったのに俺がそうなっちまった」
エルフ「別人になったねもう………いや、抑えてたものが解放されたって感じかな?」
男「解放……?」
エルフ「君はずっと魔女の受け皿だったから。内に溜めてた物があったのかもしれないねー。その妙な興奮は自分の殻を破るために無理した結果。自己催眠かなにかなんじゃないかと私は分析してみるよ」
男「そんな馬鹿な話が……」
エルフ「ここで全部吐き出しなよ。今は私が神父様。ただ、神父様のようになんでも許しはしないよ。内容によっては……ね?」ニコッ
男「うっ…………そうだな。興奮したのは確かだけど、あれは考え無しで言った暴言ってわけでもないんだ」
エルフ「話して」
男「俺が魔女と出会った頃、あいつは自分で天才とか言う奴じゃなかったんだ。地味だけど努力家で真っ直ぐで、俺は魔女に憧れてた」
エルフ「へぇ……今と印象違うね」
男「だけどある頃から魔女は自分を天才と自称し始めて、魔法の使えない人を見下して、努力をやめたんだ。俺はそれが嫌だった」
男「昔は剣も弓も俺よりうまく扱えたんだ。なのに、魔法使える天才が剣を使う必要はないって剣を捨てた。悔しかったなぁ。すごい奴なのに勿体無いって」
エルフ「なるほど。動物と話せる魔法を馬鹿にしてくる他の魔法使い達に、自分を認めさせるには魔法しかない。魔法以外は価値がないと思ってしまったのかな」
男「多分今の魔女は空っぽなんだよ。虚勢だけで生きてる。だから俺、その虚勢の仮面をぶち壊して元の努力できる魔女に戻したい……のかな」
男「魔法以外なら活躍できる素質のある奴なんだ。魔法にあぐらかいて立ち止まってちゃ勿体ない奴なんだ」
エルフ「理由は分かった。でもあのやり方はだめだよ。君は気付いてるかどうか知らないけど魔女の支えは君だったんだよ。それが急に攻撃してきたらもう立ち上がれないよね」
男「反省してます……。しっかし魔女はなんでああいう方向に突き抜けたのか」
エルフ「その答えはさっきあったよね」
男「え!なんだ?」
エルフ「小鳥と話してるうちにどんどん自信家に戻ってったよね。あれは動物達になにか吹き込まれてるんじゃないかな」
俺「……言われてみれば!なんで今まで気づかなかった俺!」
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