――おしゃれなカフェ――
高森藍子「zzz……」(加蓮の膝の上で寝ている)
北条加蓮「……ふわ」(藍子を膝の上に乗せている)
加蓮「ぁー……藍子を見てると私まで眠くなるぅ……」フワ
藍子「すー……すー……」
加蓮「…………zzz」
加蓮「はっ」バッ
加蓮「いけないいけない」キョロキョロ
藍子「くー……」
加蓮「むむ」
加蓮「…………」ツン
藍子「むにゃ……」
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――まえがき――
レンアイカフェテラスシリーズ第50話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「静かな部屋で」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「薄明るい自室で」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「過ぎた後のカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「靄々の桜流しに」
加蓮(先に到着していた藍子は、なんだか眠たそうにしていた)
加蓮(聞いてみたら、日記を書いていたらすごい時間になった、って)
加蓮(昨日の日記……ではなくて)
加蓮(あの桜流しの日の日記を)
加蓮(……なんで数日経った今? って続けて聞いた頃には、もううつらうつらとしていた)
加蓮(やがて、ぽてっ、と)
加蓮(力尽きたので)
加蓮(……まぁ放っておくのも悪いかもだし、藍子の方へ移って、それからなんとなく膝に乗っけてあげて)
加蓮(今に至る)
藍子「くー……」zzz
加蓮「…………ほっぺたむにむにー」ムニムニ
藍子「むぅー……」zzz
加蓮「ねえ。実は起きてるでしょ。起きてて加蓮ちゃんの様子を窺ってるんでしょ」
藍子「……すー……」
加蓮「…………」ヤレヤレ
加蓮(私、今日まだ何も話してないんだけどなー……)
加蓮(遅れを取り戻すレッスンの話とか、モバP(以下「P」)さんのスマフォ事情のこととか)
加蓮(ドックフードを食べてみようと挑戦したらひどいことになった話とか、奈緒ちゃんコスプレへの道とか)
加蓮(奏にLIVEバトルで大敗して泣きそうになったこととか、茜がやたらお茶の話を振ってくることへの追及とか)
加蓮(話したいこと、いっぱいあるのに。その相手はすやすや眠っちゃってさー……)
加蓮(このモヤモヤとした気持ちはどこへぶつければいいんでしょう。そう思って睨むように藍子の顔を見た)
藍子「…………えへ…………」zzz
加蓮(怒る気力が失せた)
加蓮(怒る気力が失せた)
加蓮(……)
加蓮(……魔女だ。膝の上に魔女がいる)
加蓮(ん? 膝の上に魔女を乗っけてる私ってじゃあ何? 少なくとも人間じゃないよね。魔女を手懐けてるから……魔王?)
加蓮(魔王かー。魔王になったら何しよっかなー)
加蓮(とりあえず喉が乾いた。私……えーと、我? に飲み物をよこすのだー)
加蓮(……魔王はいいや。何すればいいかわかんないし)
>>6 1行目はなかったことにしてください。重複してしまいました。申し訳ない。
加蓮「すみませーんっ」
加蓮「アイスコーヒーを……店員さん? 店員さーん? なんで固まってるの? おーい……?」
藍子「……ふゃ……えへ……」zzz
加蓮「あ、うん。気持ちも分かるけど注文――おーい? 聞いてるー? ちゅーもーん」
……。
…………。
加蓮「ふう……」ゴクゴク
加蓮「注文するまで10分もかかった……。やっぱりこの子は魔女だ……」ゴクゴク
加蓮「その分、コーヒーすぐ持ってきてくれたからいーや」ゴクゴク
加蓮「うんっ、苦い! うんっと苦くしてって言ってみたんだよねー」
加蓮「あそこで飲んだコーヒーよりはずっと飲みやすいけどー」ズズ
加蓮「なんだかんだ慣れてるんだなー、私」
藍子「……いい……にお……?」
加蓮「匂い? ……コーヒーかな? そうだねー。藍子ちゃんの大好きな、カフェの匂いだよー。ほれほれ」
藍子「えへぇ……」ガシ
加蓮「がし?」
藍子「……かれ……ゃんの、に……がするぅ……♪」zzz
加蓮「」
藍子「……えへ……」zzz
加蓮「……え、ええー……」
藍子「くー……」zzz
加蓮「聞かなかったことにしよ……」ズズ
加蓮「……ホント、安心しきっちゃって」ツン
藍子「すー……」zzz
加蓮「最近は藍子、しょんぼりした顔になってばっかりだったもんね……」
加蓮「ケンカして、泣いて、そんなことばっかりだったもんね」ナデナデ
加蓮「だいたい終わったし、えへへ顔にもなりたくなるよね」ナデナデ
藍子「……ぇへ……」zzz
加蓮「安心しきってうたたねしながら、しがみついてくるなんて……なんだか小さな子供みたい」ナデナデ
加蓮「……もー。そんなにしがみつかれたら動けないじゃない。私は抱きまくらか何かかっ」
加蓮「抱きまくら……そりゃー藍子よりは? 柔らかいかもしれないけど?」
加蓮「……」
藍子「…………ふふ……」zzz
加蓮「……ダメだ。寝てる相手に煽っても何も面白くない。っていうか惨めになるだけじゃん」ズーン
加蓮「はー」
加蓮「……」ズズ
加蓮「……思えば変な話だよね。私といて、ケンカばっかりして……むしろ私がいるからケンカになっちゃうこともあるのに」
加蓮「どうしてこんなに、落ち着いた顔になるんだろうね」
加蓮「……私と同じ理由なのかな」
加蓮「ねぇ、藍子」ナデナデ
藍子「……みぃ……」zzz
加蓮「みぃ、じゃないわよ。猫かアンタはっ」フリカブリ
加蓮「……っと。さすがにはたいちゃマズイよね……」モドシ
加蓮「……」ナデナデ
藍子「……ごろん……♪」zzz
加蓮「寝返りうった」
加蓮「うっわーこうして見ると思ったより間抜けな顔ー。幸せそーだけど」ツン
加蓮「……ね、藍子」
加蓮「色々言ったけど……怒鳴ったり、冷たくしたりもしたけど、やっぱりさ」
加蓮「私、藍子と出会わなければよかった、って、思ったことは一度もないんだよ」ナデナデ
加蓮「どんなことがあってもさ、藍子と出会えてよかった、ってばっかり思うんだ……」
加蓮「藍子もそうなのかな? だからこんなに、やすらげるのかな?」
加蓮「……」ナデナデ
藍子「……えへへ…………」zzz
加蓮「……こーいうのってやっぱり起きてる時に言わないと意味ないよね。あはは、私って何言ってるんだろ」スッ
加蓮「げー、もうコーヒー残ってないし。あの激苦の飲みたかったのにー」
加蓮「すみませーん。コーヒーのおかわり――いや店員さん。さっきも見たでしょ。なんでまた固まってるのよ……」
……。
…………。
加蓮「ごくごく」
藍子「……ん……」ゴソゴソ
加蓮「お?」チラッ
藍子「…………ふわ……」
藍子「んー……」ゴシゴシ
藍子「……?」キョロキョロ
藍子「……かれん……?」ボー
加蓮「」ヒクッ
加蓮「待って呼び捨てはやめていつものにしていつものに」
藍子「……ふぇ……?」
加蓮「……。おはよう藍子。よく眠れた?」
藍子「……うん……。かれん……」
加蓮「ちゃん」
藍子「かれん……ちゃん?」
加蓮「そうそう」
藍子「ここ……かふぇ……?」
加蓮「カフェです。藍子ー、私が来るなり寝ちゃったんだよ?」
加蓮「こう、ぽてっ、って。人形が倒れちゃうみたいに」
藍子「そういえば、そう……だっけ……」ゴシゴシ
藍子「ふわ……」ネムイ
加蓮「顔でも洗ってくる? それとも、このとびきり苦いコーヒーでも飲んでみる?」
藍子「それなら……どっちも、で……」ヨイショ
加蓮「よくばりさんめ」ハイ
藍子「ごく……」
藍子「~~~~~~~~~~っ!?」バッ
藍子「苦っ!? え、何!? じゃりって言いました今! 何ですかこれ~~~~っ!?」
加蓮「コーヒーじゃない?」
藍子「けほけほっ……。なっ、何か他に飲み物とかっ、あっ、甘い物とか……!」
加蓮「ないよー」
藍子「ぅー。ひどいです、加蓮ちゃん」
加蓮「ひどいってこれ私が飲んでた奴なんだけど……。それを藍子が飲んだだけだよ」
藍子「私、寝起きだったのに……」プクー
加蓮「あの時さ、私が苦い苦い言ってたコーヒーを平気そうな顔で飲んでたし、これくらいなら大丈夫かなって思ったんだけどなー」
藍子「苦さの種類ってありますからっ。あのコーヒーは私の舌にあっているけれど、こっちのコーヒーは……その、少し無理です」
加蓮「そーいうのあるんだ。そういえば元々苦いのは苦手なんだっけ」
藍子「……むぅー」
加蓮「ほらほら、膨れないの。ばっちり目は覚めたでしょ」
藍子「うーん……ふわ……まだちょっと、眠いかもしれません」
加蓮「顔でも洗ってきなさい」
藍子「はーいっ」
藍子「……なんだか今の加蓮ちゃん」
加蓮「何?」
藍子「お母さんみたいっ」
加蓮「ホント好きだねお姉ちゃんネタ――ちょっと待って? 今なんて言った? ねえ、なんて言った?」
藍子「……顔、洗ってきますねっ!」ダダッ
加蓮「こら! 逃げ――もうっ」
□ ■ □ ■ □
藍子「ごくごく……」(甘い甘いココアを注文しました)
加蓮「ごくごく……」(コーヒーの残り)
藍子「ふうっ」
加蓮「ふうっ。ちょっと短時間で飲みすぎちゃったかなー。お腹の中ヤバイことになってそう」
藍子「加蓮ちゃん、すごいですね。私はそれ、もう一口も飲めそうにないです……」
加蓮「今日は苦い物を飲みたい気分だったからねー」
藍子「そうなんですか?」
加蓮「なんとなく。あと、藍子があまりにもすやすやと寝てたから、私まで眠たくなっちゃって……ちょっとした眠気覚ましかな?」
藍子「ふふっ。ぐっすり、眠っちゃいました♪」
加蓮「今日は暖かいもんね。どうせならテラス席に出てみる?」
藍子「うーん……今日は、ここで」
加蓮「はーい」
藍子「……」
加蓮「んー? どしたの?」
藍子「……あの、……もう1度、借りてもいいですか?」
加蓮「借りる? ……あぁうん。はい、どうぞ」ポンポン
藍子「じゃあ、失礼しちゃいますっ」ポテッ
藍子「……♪」
加蓮「……」ゴクゴク
加蓮「珍しいね。カフェで膝枕なんて」
藍子「そうですか? 前にも、同じことがあったような……。ほら、私が眠ってしまった時、加蓮ちゃんが膝を貸してくれたこと、ありましたよね」
加蓮「あったっけ?」
藍子「雪が降った日……」
加蓮「あー」
※第36話でそういうことがありました
加蓮「あの時は眠たくなったからでしょ。テーブルに突っ伏せたら身体によくないし、服も汚れそうだし……」
加蓮「どしたの? まだ寝たい?」
藍子「ううん……あまり眠たくはないです。それにせっかくですし、起きて加蓮ちゃんとお話していたいですっ」
加蓮「ふーん」
藍子「ただ、なんだか今日はここにいたい気分で。……だめ、ですか?」
加蓮「いーよいーよ」
藍子「よかったっ」ゴロン
加蓮「……ぁふ」フワ
藍子「……♪」
藍子「ぼー……」ジー
加蓮「……前にも思ったけど、下から視線を感じるのってなんだか斬新だね」
藍子「斬新?」
加蓮「普段は周りとか前とか後ろとか。下から視線を感じるってそうそうないでしょ。ていうか普通は犯罪でしょ。覗きじゃん」
藍子「……あはは、確かに……。じゃあ、貴重な経験ってことにしちゃいましょうっ」
加蓮「だね」
藍子「ぼー……」
藍子「……」ゴロン
藍子「……」メヲツブル
藍子「……♪」ゴロゴロ
加蓮「アンタは猫か」
藍子「もし猫さんになったら、1日中ここで丸くなっていたいですね……」
加蓮「退屈だよ?」
藍子「退屈になっちゃったら、加蓮ちゃんの肩によじ登ってしまいましょう」
加蓮「肩かー。ちょっとくすぐったそう」
藍子「それなら頭の上っ」
加蓮「事務所で1日猫を乗っけて生活してみようか。たぶん私のキャラが大崩壊する」
藍子「ふふっ。事務所でなら、大丈夫だと思いますよ」
加蓮「……うん。今さら猫を乗っける程度じゃインパクトにもならないか」
藍子「なれるといいですね、猫さん」
加蓮「私は人間のままでいいよー」
藍子「えー。1日くらい、猫さんになってみるのも面白そうじゃないですか?」
藍子「それで、猫さんのまま歌を歌うんです。他の野良猫さんもいっぱい集まって……」
藍子「ふふっ♪ 加蓮ちゃんはどんな姿でもアイドルのままですね」
加蓮「……あはは。勝手な妄想で語られても」
藍子「……♪」
加蓮「ココア、まだ残ってるみたいだけど、飲む?」
藍子「せっかくなので、飲んじゃいますね」オキアガル
藍子「ごくごく……」
加蓮「……」
藍子「ごくご……? 加蓮ちゃん?」
加蓮「……」
藍子「……?」
加蓮「いや……ほら、早く飲み終わってほしいなーって」
藍子「???」
加蓮「……膝の上」
加蓮「ちょっと寂しいし」
藍子「……はーい。少し、待っていてくださいね」ゴクゴク
加蓮「……」
藍子「ごくごく……」
加蓮「……」
藍子「ふうっ」
藍子「えい」ポテッ
加蓮「お帰り」
藍子「ただいま、加蓮ちゃんっ♪」
加蓮「さっきより暖かいね」
藍子「ココアを飲んだからでしょうか? それとも、さっき加蓮ちゃんが寂しがっていたからかも……?」
加蓮「かもね。……なんだろうね、この安心感。いつもカフェにいる時とはちょっと違う感じ」
藍子「私もです。今日は、いつもよりのんびりできて、安らげて……」
加蓮「膝枕ってやってる側にもパワーをくれるんだねー」ナデナデ
藍子「……♪」ゴロゴロ
加蓮「だからアンタは猫か」
藍子「にゃー?」
加蓮「もっかい」スッ
藍子「……スマートフォンを構えないでください」
加蓮「そこは"構えないでくださいにゃー"でしょ! アンタそれでもアイドルなの!?」
藍子「そんなことで声を荒らげないでくださいよ! アイドルと関係ないですしっ!」
加蓮「そんなこと!? そんなことって何!? 私の新作コンビニスイーツ代をそんなこと呼ばわり!?」
藍子「いや新作スイーツ代って何ですか!? 録音して何をどうすればコンビニスイーツになるんですか!?」
加蓮「え? モバP(以下「P」)さんに売りつけるけど」
藍子「やっぱり! そんなことするなら私だって加蓮ちゃんの写真を流しちゃいますよ!」
加蓮「既にやってるじゃんそれ!」
藍子「もっとです!」
加蓮「いやいや藍子。藍子ちゃん。そういうのはやめよう。ね?」
藍子「……まぁ加蓮ちゃんがやめてくれるのなら、」
加蓮「私が藍子を困らせる。藍子は私に困らされる。それで解決。オッケー?」
藍子「…………」ムギュウウウウ
加蓮「痛い痛い、太ももつまむのやめなさいっ」ペチ
藍子「猫さんなら爪くらい立てますよね。がりがり。がりがり」
加蓮「痛いってば~」
□ ■ □ ■ □
加蓮「……」ナデナデ
藍子「……♪」
加蓮「……」ナデナデ
藍子「……♪」
藍子「ふわ……」
加蓮「あふ……。うつった」
藍子「うつしちゃいました」
加蓮「……」ナデナデ
藍子「……♪」
加蓮「……」ナデナデ
藍子「……♪」
藍子「……コーヒー、ちょっぴり飲んでみたくなっちゃったかも」
加蓮「コーヒー?」
藍子「さっきの、加蓮ちゃんが飲んでいた」
加蓮「……やめといた方がいいと思うよ?」
藍子「うーん、そう言われると余計に?」
加蓮「藍子も変なところで意地を張るよね」
藍子「加蓮ちゃんにつられてしまったのかもしれませんね」
加蓮「私も藍子を見習おっかなぁ。何を見習おう」
藍子「うーん……?」
加蓮「とりあえず……」
藍子「とりあえず?」
加蓮「茜のランニングについていけるだけの体力」
藍子「……そ、それはいきなりハードルが高すぎると思いますよ?」
加蓮「やっぱり?」
藍子「私だって、ついていくのも難しいですから」
加蓮「じゃあ、未央のパーリィ力についていけるだけのノリ」
藍子「それは、もう持っていると思いますっ」
加蓮「そっかー」
藍子「はいっ」
加蓮「……」ナデナデ
藍子「……♪」
藍子「……ねぇ、加蓮ちゃん」
加蓮「なに?」
藍子「加蓮ちゃんは今、何を見ていますか?」
加蓮「へ? ……えーと、それは哲学的なの? それとも未来のビジョンがどーのこーのってヤツ?」
藍子「いいえっ。今の加蓮ちゃんが、今まさに見ているものを、そのまま教えてくれるだけでいいんです」
加蓮「今、ねー。んー……カフェから見える外の景色とか?」
藍子「ふんふん」
加蓮「出入口とか。……あ、扉のところに小さなこいのぼりがついてる」
藍子「そういえばついていましたね。お散歩している時にも、よく見るようになりました」
加蓮「やっぱり気付いていたかー」
藍子「今年の連休は、ずっとお仕事です」
加蓮「スケジュールびっしりだもんね。詰め込んでもらったの私だけど」
藍子「あ、そういえばPさんから聞きましたよ。加蓮ちゃんがまだ無茶をし始めてるって」
加蓮「……まーたあの人はホントに何でも……。大丈夫、体調は崩さない程度に――」
藍子「ふふ、知っています♪」
加蓮「え?」
藍子「無理するな、とは言いません。そんなこと言ったら、加蓮ちゃん、余計に自分を追い込んじゃいそうですから」ギュ
藍子「でも、たまにでいいので……私を、膝に乗せてくださいねっ」ニコ
藍子「そして、こうしてのんびりお話がしたいです」
加蓮「……」ナデナデ
加蓮「……」グシャグシャー
藍子「きゃーっ。髪の毛が乱れちゃいますっ」
加蓮「よし」
藍子「もうっ」ナオシナオシ
加蓮「……で、私の見てるものがどうかした? あ、1つ忘れてた。蕩け顔の藍子がいるね。見えてる物はそれくらいかな……」
藍子「いいえ。……なんとなく、加蓮ちゃんのお話が聞きたくなっただけです」
加蓮「そっか」
藍子「はいっ。だって……ほら、あの日は、私がお話を……自分の気持ちを、言ってばかりでしたから」
加蓮「……桜流しの時?」
藍子「はい」
藍子「それで最近、加蓮ちゃんのお話を聞いてないなぁって」
加蓮「私もけっこー話したと思うけどなぁ。ダウンしてた時とか、藍子がお見舞いに来てくれた時とか」
藍子「あれは"想い"を聞いたんです」
加蓮「想い?」
藍子「加蓮ちゃんの想い。うーん……うまくは説明できませんけれど、想いとお話は、私の中で別なんです」
藍子「もちろん、加蓮ちゃんの想いを聞くのも好きですけれど……今日は、加蓮ちゃんのお話が聞きたいなって!」
藍子「……あ、あはは、変な言い方でごめんなさい。自分でもよく分かっていないことなんですけれど……」
加蓮「……あはは。藍子はたまーに変なことを言うね」ナデナデ
藍子「♪」
加蓮「見える物かー。今日はあんまりお客さんがいないね。あったかいから、みんなどこかに出かけちゃったのかな」
藍子「遊びに行っちゃったのかもしれませんね~」
加蓮「ゴールデンウィーク明けにさ、1日だけお休みがあるんだ。……あるっていうかPさんに入れさせられた」
藍子「実は、私もそうなんです。連休中はずっと忙しいだろうから、1日くらいはゆっくりしなさい、って」
加蓮「藍子もなんだ。もしかして同じ日にちかな」
藍子「……みたいですねっ」
加蓮「未央にさー、次のパーティーは私が企画しろって宿題出されたの。アドバイスくれない?」
藍子「分かりましたっ。じゃあ、……、……」
加蓮「?」
藍子「……理由なんてなくても、いいんですよ?」
加蓮「もっかいくしゃくしゃしてやるー」グシャグシャ
藍子「きゃーっ。せっかく直したのにーっ!」
加蓮「これでよし」
藍子「もう!」ナオシナオシ
加蓮「なんか美味しい物とか食べたいよね」
藍子「私は、行ったことのない場所に行って写真を撮ってみたいですっ」
加蓮「じゃあ、行ったことのない場所で、美味しい物でも撮ろっか」
藍子「それなら、私と加蓮ちゃんのやりたいことが同時にできますね」
加蓮「行ったことのない場所かー……。たまに思うんだ」
加蓮「いつかそんな場所はなくなって、周りにあるものぜんぶ知りつくした物になって、退屈になっちゃうんじゃないかって」
加蓮「でも、このカフェだって。何十回も藍子と来てるのに飽きないから、きっと退屈になんてならないよね」ナデナデ
藍子「♪」
加蓮「ふわぅ……。ん? あ、店員さんがあっちに歩いてってる。どうせだから何か食べよっかなー」
藍子「少しお腹が空きましたし、クッキーでも食べましょうか」
加蓮「そだね。そういえば今の限定メニューってどうなってるだろ」パラパラ
加蓮「あー定食系か。ならいいや……すみませーん」
藍子「!」
加蓮「飲み物……はいいかなぁ。コーヒーがお腹に溜まってるし。あ、店員さん。いつものクッ――分かった、分かったから同じネタ3度もやらなくていいから。もう分かったからそれ」
加蓮「いつものクッキー2人分、お願いね。……ちょっとー? 聞いてる? だいたい藍子ももう起きてるんだし固まることなんて――」
藍子「す、すー、すー」
加蓮「…………何してんのアンタ?」
藍子「わ、わたしはいまねむってるんです。すー、すー」
加蓮「は?」
加蓮「まぁいっか。店員さん、クッキーお願いします」
加蓮「……クッキーお願いします」
加蓮「…………ここの常連辞めるよ!?」
加蓮「って反応早っ! う、うん、バタバタしなくてもまた来てあげるから……何度も何度も頭を下げなくていいから……。とにかくいつものクッキーお願いね。……今ならサービスしますとかそういうのホントいいってば。ゴメンね?」
藍子「おねがいしま――はっ。……すー、すー」
加蓮「やっぱ魔女だ……。で? 藍子は何がしたいの? 寝たフリとか」
藍子「……も、もういませんか?」
加蓮「いないいない」
藍子「その……なんだか急に、恥ずかしくなっちゃって」
加蓮「何が?」
藍子「膝の上に乗せてもらってるってことが……。だ、だってなんだかちいさな子どもみたいじゃないですかっ」
加蓮「藍子もそういうことは気にするんだ」
藍子「私だって、気にする時には気にしますよ」
加蓮「意外ー。起きてても寝てても同じじゃない?」
藍子「それはそうですけどっ。こう……寝ていたら加蓮ちゃんが乗せてくれた、とか、そんな感じで見てもらえるかな、ってちょっぴり思ったんですっ」
加蓮「そう……。私には分かんないや……」
加蓮「あ、店員さん。早いねー……いやだからそのリアクション何回目――」
加蓮「ん? ってことは」チラ
藍子「す、すー、すー……」
加蓮「…………」
加蓮「…………」
加蓮「……で、店員さん、クッキー渡してもらえる? お腹すいちゃったんだけど。……聞いてる? ねえ?」
□ ■ □ ■ □
※膝枕継続中
加蓮「はい藍子」スッ
藍子「ありがとうございます。あむっ」
加蓮「あむ」
藍子「……美味しいっ♪」
加蓮「美味しー♪ もう1枚、あむ」
藍子「もぐもぐ……」
藍子「……ふふっ」
加蓮「んー?」
藍子「加蓮ちゃん、すっごく美味しそうに食べるなぁって♪」
加蓮「そう? あー、でもなんだか今日はクッキーがすごく美味しく感じるかも。いつもと同じなのに」
藍子「みたいですね。それなら、私の分まであげちゃいますっ」
加蓮「いいよー。きっと今日のクッキーは特別製なんだよ。だから藍子も食べないと損だよ」
藍子「それは……もし本当なら、確かに損ですね」
加蓮「でしょ?」
藍子「後から、食べておけばよかった~、なんてなっちゃうかもしれません」
加蓮「なるなる」
藍子「やっぱり、私ももらっていいですか?」
加蓮「いいよー。はい」スッ
藍子「あーんっ♪ ……ホントだっ。さっきと同じハズなのに、なんだかすごく美味しいですっ!」
藍子「…………」ジー
加蓮「……あげないよ?」
藍子「加蓮ちゃん、あのカフェに行った時、私のパンケーキをほとんど食べてしまいましたよね」
加蓮「ねー知ってる藍子。あの日さ、帰り道の電車賃、藍子の分まで私が出してるんだー」
加蓮「ほら、切符を買ってた時に藍子ってカフェ特集のパンフレットを見てたでしょ?」
藍子「……」モグモグ
加蓮「……」モグモグ
加蓮「……いつも食べるクッキーが、なんだかわかんないけどすごく美味しくて」
藍子「?」アムアム
加蓮「いつもいる藍子が、なんだかわかんないけどすごく安らいでて」ナデナデ
藍子「♪♪」
加蓮「今日は、ここがいつもより暖かいんだよね。どうしてだろうねー……」
藍子「……」モグモグゴクン
藍子「それは、きっと……終わった後だからですよ」
加蓮「終わった後?」
藍子「終わった後だからです。いろんなことが」
加蓮「そっか。終わった後だからかー」
加蓮「終わった後にこうなれるなら、何かあるのも悪くはないのかもね」
藍子「できれば、悪いことは起きない方が……」
加蓮「やっぱり?」
藍子「そうですよ。泣いている加蓮ちゃんは見たくありませんし、私だって泣きたくありません」
加蓮「そだね。それは私も。あ、でも私が泣くことは慣れてるから、そこは藍子とちょっと違うね」
藍子「違いますね。……もしまた加蓮ちゃんが泣いちゃったら、次は私が抱きしめる番ですから」
加蓮「無い方がいいんじゃなかったの?」
藍子「じゃあ、泣いていなくても抱きしめます」
加蓮「それってぎゅーってしたいだけじゃん」
藍子「そうかもしれませんねっ」ギュ
加蓮「変なのー。もぐもぐ……ん」スッ
藍子「あむっ」
加蓮「……」ナデナデ
藍子「?」
加蓮「……」ナデナデ
藍子「……♪」
加蓮「んー」
加蓮「いつもの場所に戻っていい?」
藍子「えっ」
加蓮「えっ」
藍子「……も、もうちょっとだけダメですか?」ウルウル
加蓮「うるうるしてもダメ」
藍子「ええっ」
加蓮「なんだか気分が変わっちゃった」タチアガル
藍子「あぅ」ショボン
加蓮「いつも通り、藍子の向かい側に座って」ストン
藍子「あと1時間くらいごろごろしていたかったなぁ……」オキアガル
藍子「でも、これでいつも通りですね」
加蓮「何気に1時間って長いね」
藍子「それくらい、暖かくて心地いいってことです」
加蓮「そっか」
加蓮「……うん。藍子が向かい側にいる。いつも通りだ」
藍子「……あはっ。いつも通りですね」
加蓮「ふふっ。こんなもんなんだね」
藍子「こんなものなんですね」
加蓮「こんなことかー」
藍子「こんなことなんです」
加蓮「ね、藍子。そういえば話してないネタがいっぱいあるんだけど、聞いてくれる?」
藍子「はーいっ。喉が乾いたら、また何か注文しちゃいましょうか」
加蓮「お腹が空いたら晩ご飯も済ましちゃおっか。今のうちにお母さんにはメールを送って」
藍子「遅くなりすぎて、怒られてしまわないように」
加蓮「きっとそんなものだって言って許してくれるよ」
藍子「……はいっ。きっと、そうですね」
加蓮「そうそう。でさー、この前の加蓮ちゃん復活LIVEの時の話なんだけど――」
藍子「あっ、そのLIVEなら私も見に行きましたっ。確か――」
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。
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