ミカサ「あったかい」 (162)


——はじめに——

ミカサの幼い頃の話です

両親存命時代はミカサの言動が本編と異なります

アニメ未放送分のネタバレはありません



各キャラ略称

ミカサ父→父
ミカサ母→母
ミカサは8歳から始まります(本編の回想シーンでは9歳)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1371388045



——843年・夏——



ミカサ「お父さん何してるの?」

父「トウモロコシを収穫しているんだよ」


父「やぁ……今年もよくできたな」


ミカサ「私もとる」

父「お、ありがとう」


ミカサ「ん……んっ……」

ミカサ「んんーー」


ミカサ「…………」


ミカサ「お父さん……とれないよぅ」


父「ははは……背が届かなかったか」

父「ほら、抱えてあげるからとってごらん」

ミカサ「うん」


父「さぁ、持ち上げるぞ」

父「……よっと」


ミカサ「……どうやってとるの?」

父「掴んでそのまま下に引っ張るんだ」


ミカサ「ん……」


父「下のほうの幹は折っていいぞ」

ミカサ「うん」



——パキン


ミカサ「わぁ」


父「おっ、ずいぶんキレイにとれたなぁ」

父「さすがオレの子だ。偉い!」

ミカサ「お父さん……!」パァァ


父「じゃあ、とった野菜は全部この箱にいれて運ぼうか」

ミカサ「はぁい」


父「トウモロコシとチシャトウとニンジン……どれもうまそうだ」


ミカサ「……重い」

父「ミカサじゃ持ち上がらないだろう。お父さんが運ぶから、先に家に入ってなさい」

ミカサ「私も運びたい」


父「お手伝いさんだなぁ……このザルに少しわけるから、持ってくれるかな?」

ミカサ「うん!」

父「さぁ、お母さんが待っているぞ。朝ごはんにしよう」



———

——


母「ミカサ。とってきたトウモロコシの皮をむいて、持ってきてくれる?」

ミカサ「うん」


ミカサ「……何本?」

母「二本でいいわ」

ミカサ「もってくる」パタパタ

母「……ふふ」


——



ミカサ「お母さん……これ、虫にいっぱい食べられちゃってた」


母「いいのよ、これで」

ミカサ「そうなの?」

母「これが当たり前なの。お母さんは自然のままの姿が一番好きだから」


父「そうだよ。虫に食われるってことは美味しいってことさ」

母「そうね。ほらミカサ……見てごらん。まだ半分以上残ってるでしょ?」

ミカサ「うん」


母「そこの粒を拾っていただきましょう」


父「とりたてだからな。生だけど、この粒をそのまま食べてごらん」

ミカサ「……」パク


ミカサ「!」


ミカサ「甘くておいしい」

父「そうだろう? トウモロコシはとった瞬間から、あっという間に味が悪くなっていくんだ」

父「一番おいしいのは、朝採りしたてをすぐに食べる! 味がもつのはせいぜい三時間ってとこだよ」

ミカサ「そうなの?」

父「ああ」



ミカサ「お母さん」

母「ん」

ミカサ「私も台所に立ちたい」

母「あら嬉しい。でもミカサに届くかしらね」


ミカサ「……お父さぁん」

父「この箱を踏み台にしなさい」

ミカサ「ありがとう」


ミカサ「……」ジー


母「じゃあ、このチシャトウの葉っぱを全部もいでくれる? こうやって」

ミカサ「うん……これどうするの?」

母「茎の皮をむいて輪切りにして三分ゆでるの。サラダでいただくからね」


母「葉っぱも捨てちゃダメよ。お昼に炒めるから」

ミカサ「はぁい」


——



母「できたわ。食べましょう」


父「いただきます」

ミカサ「いただきます」


ミカサ「……おいしい」

母「ええ」ニコ



———

——



母「ミカサいらっしゃい。髪をすいてあげる」

ミカサ「うん」


ミカサ「あ……お父さんー」

父「ん?」

ミカサ「先にアレやって」


母「……まあ」

父「はは。おいで」

ミカサ「うん!」タタタ



母「ミカサはお父さんに頭を抱いてもらうのが本当に好きねぇ……」

父「こうすると安心するそうだよ」ギュウ

ミカサ「うん」ギュウ


父「お父さんも安心するよ、ミカサ」ナデナデ

ミカサ「……」

父「……」ナデナデ


ミカサ「お父さんの腕……大好き」

父「そうか」


ミカサ「頭もほっぺも首もあったかくなるの」

父「お父さんもあったかいさ」

ミカサ「……」ムギュ


母「いいわね」

父「お……おっと、お母さんが待ってるよ。そろそろ行きなさい」

ミカサ「……うん」


——



母「……」スゥ

ミカサ「……」

母「……」スゥ

ミカサ「……」


母「ツヤのある綺麗な黒髪をしてるわね」

父「そこはしっかりお母さんに似たんだなぁ」

母「あら、ありがと」フフ


ミカサ「……じゃあ、私もお母さんみたいな美人さんになれる?」

母「まぁ!」


父「ミカサは今でも自慢の美人さんだよ」

ミカサ「ほんと?」

父「本当だとも」

母「ええ、そうね」


ミカサ「あは」



母「さぁ、終わったわ」

ミカサ「ありがとう、お母さん」

母「どうしたしまして」


ミカサ「外に行ってきていい?」

父「あ……待った。お母さん、アレ」

母「そうでした。ミカサ、ちょっと待ちなさい」


ミカサ「?」


母「これ、アナタの新しい帽子よ」

ミカサ「わぁ……かわいい麦わら」

母「かぶってごらん」


ミカサ「うん!」



ミカサ「……どう?」

父「おぉ、本当にかわいらしいな」

母「よく似合ってるわ」

ミカサ「ありがとう。お父さん、お母さん」


父「あまり遠くに行ってはいけないよ」

母「いってらっしゃい」

ミカサ「いってきます」


——

地味めな内容で更新も遅めです



ミカサ「いい天気」


ミカサ「……」

ミカサ(大きな雲)


ミカサ「……あ」

ミカサ「この前のザリガニどうなったかな」


——



ミカサ(カゴの中に水はまだある)


ミカサ「ん……元気そう」

ミカサ(二匹いるからそのうち増える?)


ミカサ「エサとってこないと」


ミカサ「網と水桶どこ……あった」

ミカサ「……」テテテ


——



ミカサ(この小川はこのへん浅いから……)

ミカサ「……」ジー


ミカサ「ドジョウがいた」

ミカサ「網ですくえる?」ソー


——チャポン


ミカサ「あ」

ミカサ「逃げちゃった……速い」


ミカサ「……」ジー

ミカサ(岸辺の草かげにいそう)


ミカサ「!」


ミカサ(小魚……メダカ?)

ミカサ「……」ソー


——スィー


ミカサ「あ、あ……」

ミカサ「また逃げちゃった」


ミカサ(石のかげにザリガニ)

ミカサ「そっと……」


ミカサ「ん!」

ミカサ(つかまえた)


ミカサ「……」

ミカサ(ハサミ広げて怒ってる)


ミカサ「あなたはメダカやドジョウより強いのに、なんですぐ捕まるの?」


ミカサ「……よくわかんない」


ミカサ(三匹もいらないから……かえそう)

ミカサ「またね」


ミカサ(うちのザリガニ……)


ミカサ(一昨日とってから、まだちゃんとしたご飯あげられてない)

ミカサ「飢えちゃう」


ミカサ「あの石にタニシがくっついてる」

ミカサ(ザリガニってタニシ食べる?)


ミカサ「……捕まえとこ」


ミカサ「風……」


ミカサ「!」

ミカサ(いま雷鳴がした)


ミカサ「あ……雲が」

ミカサ(降ってくる……急がなきゃ)


ミカサ「水草だけとって帰る」


——



ミカサ(降ってきちゃった……服がびちょびちょ)

ミカサ(お母さんに怒られちゃう)


ミカサ「ザリガニさん……大丈夫?」

ミカサ(……じっとしてる)


ミカサ「タニシと水草しかないけど」

ミカサ「あなたたちにパンあげたら、また怒られちゃうから」

ミカサ「これでもいい?」


ミカサ「食べてね」


——



ミカサ「ただいま」

父「おお、帰ってきたか」

母「ミカサ、ずぶ濡れじゃないの!」

ミカサ「ごめんなさい」


母「遠くに行くなってお父さんに言われていたでしょ」

ミカサ「うん……」シュン

母「まったくもう。風邪ひいちゃうから早く脱いで、お父さんとお風呂に入ってらっしゃい」

ミカサ「!」


ミカサ(今日はお父さんと!)パァァ

ミカサ「はぁい」


——



ミカサ「お父さん。頭洗ってー」

父「はいはい」

ミカサ「わぁ」


父「……」ワシャワシャ

ミカサ「気持ちいい」

父「そうか。痛くないかな?」

ミカサ「うん!」


父「お母さんも言ってたけど、本当にキレイな黒髪だなぁ」

ミカサ「……」テレ

父「よし、一緒に背中も洗って流すぞー」

ミカサ「うん」


父「細いな。まぁ、ミカサぐらいの歳だとこんなもんか」

ミカサ「……細い人ってきらい?」

父「いや……そうじゃないけど、ミカサにはやっぱり丈夫でいて欲しいからね。親としては」

ミカサ「ふぅん」


父「でも女の子だから、細くてもいいんじゃないか」

ミカサ「お母さんも細い」

父「そうだね」

父「ミカサはお母さん似だからな」


ミカサ「私もお父さんみたいなあったかい人と結婚したい」

父「ミカサならきっと良い人と出会えるさ」

ミカサ「ほんとう?」

父「ああ。お父さんの自慢の娘だからな」

ミカサ「……ぇへ」



———

——


ミカサ(昨日は一日中雨だった)

ミカサ(エサちゃんと食べてくれたかな)



ミカサ「ザリガニさん……元気?」


ミカサ(あれ?)


ミカサ「!」


ミカサ「え……」

ミカサ「ザリガニが……ザリガニ食べちゃっ……た」



ミカサ「…………お父さーん!」


——



父「小川までもうちょっと」

ミカサ「……」トボトボ

父「生き物を飼うのは大変だってわかったね?」

ミカサ「……うん」グス


父「さぁ、ついた。そっと川に帰してやるんだ」

ミカサ「うん」

父「ちゃんとごめんなさいするんだよ」

ミカサ「……」コク


ミカサ「ザリガニさん……ごめんなさい」グス

父「よくできたね。良い子だ」


父「帰ろう」


ミカサ「……」


父「ミカサ」

ミカサ「……」


父「ミカサは自分の間違いがちゃんとわかる子だから」

父「お父さんもお母さんも怒ってないさ」

ミカサ「……うん」


ミカサ「お父さん」

父「ん」

ミカサ「あそこ」


父「虫の死体か」

ミカサ「アリが運んでる……」


父「巣に持ち帰ってエサにするんだよ」

ミカサ「……」


ミカサ「お父さん」

父「ん」


ミカサ「死んだらああやって食べられちゃうの?」

父「それが自然の掟だからね」

ミカサ「おきて?」

父「決まりごとさ」


ミカサ「……」


ミカサ「こわい」


ミカサ「お父さん……私こわい」ギュウ

父「……」


父「ミカサ。アレしようか」

父「ほら、お父さんの腕だぞ」フワ


ミカサ「……」

ミカサ「あったかい」

父「……」ナデナデ


父「まだ怖いかな?」

ミカサ「……」

ミカサ「ううん」

父「そうか。怖がりさんのミカサ」ニヤ

ミカサ「む」


ミカサ「……ちょっと暑い」

父「ははは。ごめんごめん」

父「さ、家まであと少しだよ」

ミカサ「うん」



———

——



——843年・秋———



ミカサ「お父さん。キャベツと玉ねぎの苗ができてるよ」

父「お、もう植え付けできるな」

ミカサ「やっていい?」

父「ああ。お父さんは狩りにいってくるから、お母さんと一緒に頼めるかな?」

ミカサ「はぁい」

母「畑は任せておいてくださいね」



父「よし、じゃあそろそろ」

母「あなた」

父「おっ!」


父「……」チュ

母「……」チュ

ミカサ「……」


ミカサ「お父さん。私もする……ほっぺ」

父「おぉ」

ミカサ「……」チュ


父「……可愛らしいキスでお父さん百人力だよ」ヨシヨシ

母「……」クス


ミカサ「私はお父さんの口にしちゃダメ?」

母「ダメです」

父「ミカサの唇は結婚する人のためにとっておきなさい」

ミカサ「……うん」


ミカサ「私のほっぺにもして」

父「そら……んー」チュ


ミカサ「お母さんも」

母「はいはい。じゃあ反対のほっぺにね」チュ


父「では行ってくるよ」

母「気をつけてくださいね」

ミカサ「いってらっしゃい」


——



ミカサ「お母さん。キャベツ植えていい?」

母「ええ。株間は35cmで植えるんだよ」

ミカサ「かぶま?」

母「植えるのに空ける間隔のこと」


ミカサ「こう?」

母「そうそう」


母「春と秋だと成長する大きさが違うから、秋のときは少し狭めに植えます。覚えておいてね」

ミカサ「うん」


ミカサ「玉ねぎはどうするの?」

母「15cm間隔でいいけど、植え方がちょっと難しいわ」

ミカサ「ん」


母「キレイな形の球を作るには、2.5cmぐらいの深さで植えないといけないの」

ミカサ「んー」


母「それより深いと縦長の球になるし、浅いと平らな球になっちゃうからね?」

母「あと根っこはなるべく傷つけないこと。そこが野菜の生命線」

ミカサ「むずかしい」


母「お母さんの真似しながら、ゆっくり覚えればいいよ」ニコ

ミカサ「はーい」


——



ミカサ「いっぱい植えた」

母「これが最後の一本。ごくろうさま」


ミカサ「畑おしまい?」

母「あとは寒くなる前に霜よけのワラを敷くだけ」

ミカサ「ふぅん」



ミカサ「……」

ミカサ(畑のすみっこ)

ミカサ(カマキリがカマキリ食べてる……)

ミカサ「……」


母「どうしたの?」

ミカサ「……ううん」

母「そろそろお父さんも帰ってくるから家に入りましょう」

ミカサ「うん」


——



父「おーい」

母「あら、早かったのね」


父「ああ! ほら見てくれ。キジだ」

母「まぁ、お見事」パチパチ

ミカサ「わぁ」


父「あと山のリンゴも赤くなってたから少しとってきたんだ」

母「豊作ねぇ」

父「お母さんとミカサのキスが効いたかな」

母「……お父さんったら」



ミカサ「……」ジー

父「ん……小さいの一つやるか?」

ミカサ「かじっていい?」

父「かまわないが、少しにしておいたほうがいいぞー」


ミカサ「……がぶ」

ミカサ「……」シャリシャリ

ミカサ「…………すっぱぁい」


父「はっはっは」

母「ふふ」

母「山のリンゴは甘くないもの。すりおろしたり、漬け込んだりして使うんですよ」


——

これ何の話? 要点がつかめない。

>>52
失礼しました。進撃の巨人SSです
ミカサが両親と暮らしていた幼い頃の日常を書いてみているものです



ミカサ「……」

父「どうしたんだ。元気ないな、ミカサ」

母「本当ね」


父「せっかくの夕食が冷めちゃうぞ」

ミカサ「……」

母「悩み事かしら? お母さんに話してごらん」


ミカサ「……さっき畑のすみっこで」

母「ええ」

ミカサ「カマキリがカマキリを食べてたの」

母「そう……」


ミカサ「前に……ザリガニもザリガニを食べちゃった」

父「あぁ。あったな」


ミカサ「虫も死んだらアリとかに連れていかれちゃう」

母「そうね」


ミカサ「ねぇ、お母さん、お父さん」

ミカサ「人間も……殺されたり食べられちゃったりするの?」


母「!」

父「!」



ミカサ「……」


母「ミカサ。お母さんの膝の上にいらっしゃい」

ミカサ「うん」


母「……ミカサ」ギュ

母「人間は食べられたりすることは無いよ」

ミカサ「どうして?」

母「壁の中には人間より強い生き物はいないから」


ミカサ「壁の外の巨人は……?」

母「巨人は人間を食べることがあるかもね」

ミカサ「……」ブル


母「だからミカサ。決して壁の外に出てはいけないよ? 絶対にね」ギュウ

ミカサ「……うん」


ミカサ「お母さん」

母「はい」

ミカサ「人間も人間に殺されたりする?」

母「……」



父「世の中にはそういう悪いやつも……少しいる」

父「でも良い子にしてれば来ないよ。会うことは無いさ」


ミカサ「ほんと?」

父「あぁ……もしそんなやつが来たら、お父さんがこの銃で追っ払ってやる!」

母「お父さんは頼もしいんだから! 大丈夫ですよ」

ミカサ「……うん!」


父「……ミカサ。明日はキノコ狩りに行こうか」

ミカサ「! いく」

父「お母さんも行くかい」

母「ええ」

父「よし、じゃあみんなで出よう」



———

——


ミカサ「暑くなってきた……」

父「これだけ動いてるからね。でも山の中では決して素肌をさらしてはいけないぞ」

ミカサ「うん」


ミカサ「お父さん、あれ見て」

父「ん?」

ミカサ「キノコが……ならんで生えてる」


父「おお、これは」

母「あら……珍しい。菌輪ね」

ミカサ「きんりん?」


父「良いものを見たなぁ」

ミカサ「良いものなの?」


父「私たちは妖精の輪っていうよ」

ミカサ「ようせい……」


母「妖精たちがね。夜中に手をつないで輪になって踊るの」

父「その踊ったときの足跡がキノコになるんだ」

母「だからこのあたりは、妖精たちが安心して歌って踊れるくらい良い場所ってことなのよ」

ミカサ「わぁ」


ミカサ「じゃあ、このキノコは食べちゃダメ?」

母「そうね。それにこれは、もともと食べられるキノコではないわ」

ミカサ「そうなの」


父「おっ、本当に良い場所だったぞ。あっちを見てみなさい」


母「まぁ」

ミカサ「うわ」

父「マイタケだ」


母「……すごい大きさね」

父「これはご馳走だよ。まさに今の時期の恵みだ」

父「この場所は覚えておこう。だいたい同じ場所に生えてくるから」

ミカサ「うん」


母「あなた。あそこにアケビがなってる」

父「おおっと、これも立派」


ミカサ「ちょくちょく鳥に食べられてる」

父「十分さ。周りも食べれるし、むしろ中身がないほうが軽くていいかもしれないぞ」

母「私は中身のほうが好きですけど」

ミカサ「私も」


父「そうかそうか。ちゃんとお父さんが採って帰るから安心するんだ」

母「私も持ちますよ」

父「すまないな」


ミカサ「お母さん。あれってなに? ヒラタケ?」


母「あら、またミカサが見つけたわ」

父「才能あるなぁ」


母「……これはタモギタケ」

ミカサ「食べれる?」

母「食べられますよ。歯ごたえがあって味が深いの」


父「……これでもう荷物がいっぱいだな。そろそろ戻ろうか」

母「そうね」


父「次にくる時は、またミカサにキノコ探しをお願いしたいもんだ」

ミカサ「うん。やる」

父「お母さん。うちには豊猟の女神がいるから安泰だぞ」

母「ふふ」



———

——



——843年・冬——



ミカサ「星がすごくきれい」

父「ああ。今夜は一段とすごいな」

ミカサ「冬はいつも星が……まぶしい」

父「空気が澄んでいるせいかもしれないね」

ミカサ「……」


父「本当にここの星空は見事だよ」

ミカサ「ここの?」

父「町からだとこんなに見えないんだ」

ミカサ「……」


ミカサ「でも町の光もきれい」

父「そうだね」

ミカサ「お父さんは町には住まないの?」

父「お父さんは静かなここが好きなのさ。お母さんもね」


父「ミカサは町に行きたいのかな」

ミカサ「ううん」

ミカサ「……お父さんとお母さんがいる所ならどこでもいい」

父「そうか」


父「風が出てきた。そろそろ家に入ろう」

ミカサ「うん」


ミカサ「あ」

ミカサ「うちの窓にクモの巣ができてる」

父「そっとしておいてやりなさい」

ミカサ「……」


ミカサ(……クモがガを食べてる)

ミカサ(……)

ミカサ(考えない……何も見てない……)

ミカサ「……」ブル


父「なんだ。震えてるじゃないか」

ミカサ「……さむい」

父「外にいすぎたな。家の中は暖かいぞ」

ミカサ「うん」


——



ミカサ(暖炉で……ちょっとねむい)


ミカサ「……んー」

母「疲れた? ミカサ」

ミカサ「……んーん」


ミカサ「ねぇ、お母さんは何をぬってるの?」

母「みんなの服の穴とか、はずれそうなボタンを直してるの」


ミカサ「お父さんは?」

父「狩りの革靴が穴あいてたんで、縫いなおしてるのさ」

ミカサ「ふぅん……」


父「ミカサ、飽きちゃったんだろう。それ……お父さんが代わりに縫ってやるか?」

母「ダメですよ、あなた。ミカサの仕事はミカサにやらせなきゃ」

父「そ、そうだな」

母「まったく甘いんだから」


ミカサ「お母さん。私ちゃんとやるもん……」

母「ええ、知ってますよ。ミカサはあと何が残ってるの」

ミカサ「ぞうきん三枚」

母「……もうひと頑張りね」

ミカサ「……うん」チクチク


——


ミカサ(おわったけど……)

ミカサ(目がつかれちゃった)

ミカサ(でも、ふとんが気持ちいい)


母「ミカサ。もうちょっとそっち寄れる?」

ミカサ「うん」モゾモゾ

父「おいでおいで」

ミカサ「……ぅん」


ミカサ(並んで寝るのって暖炉よりあったかいから好き)


母「あったかいわね」

父「ああ。冬はこれに限るね」

父「ミカサは寒くないか?」

ミカサ「……ホカホカする」

母「真ん中だもの」クス


ミカサ「おやすみなさい」

父「おやすみ」

母「おやすみなさい」



———

——



——844年・春——



ミカサ「お父さん。私も自分の畑ほしい」

父「お、それはいいかもしれないな。一人でやったほうが早く覚えるぞ」

父「よーし、そしたら畑の端っこをミカサ専用にしよう」

ミカサ「!」


父「じゃあロープで区切ってくるか」

母「よかったわね、ミカサ」

ミカサ「うん!」


——



ミカサ「今年もそろそろトウモロコシのタネまく?」

父「そうだな。ジャガイモも植え終わったし……もう播き始めて良い頃だろう」


父「やり方はいつもどおりだ」

ミカサ「十日おき」

父「ああ、そして少しずつ苗作り!」


ミカサ「私もちょこっとタネもらっていい?」

父「かまわないが、直接じぶんの畑に播くのかな?」

ミカサ「うん」


父「……」

ミカサ「?」

父「……いや、最初はそれでやってみなさい」

ミカサ「はぁい」


——



ミカサ(地面にたっぷり水かけて)

ミカサ(水がしみこんだら指で穴あけて)


ミカサ「……」チョイチョイ


ミカサ(……ヘソが下)

ミカサ(土かけておしまい)


ミカサ「……」

ミカサ(元気な芽でて)ポンポン


——



ミカサ「……」ジー


ミカサ(三日目……)

ミカサ(お父さんのトウモロコシもまだでてないから)

ミカサ(私のもまだ)


ミカサ「……」

ミカサ「水あげとく」


——



ミカサ「……」ジー


ミカサ(五日目……)

ミカサ(トウモロコシはそんなにすぐ芽でない)

ミカサ(がまん)


ミカサ「……」

ミカサ「また水」ジャバ


——



ミカサ「……」ジー


ミカサ(七日目……まだ芽でない)

ミカサ(お父さんのはいくつか芽でてきたから)

ミカサ(きっともうちょっと)


ミカサ「……」

ミカサ「水たりない?」ドボドボ


——



ミカサ「……」ジー


ミカサ(十日目……ひとつもでてない)

ミカサ(お父さんは次のタネまいてる)

ミカサ(……私のまだ?)


ミカサ「……」ソワソワ


——



ミカサ(二週間目……)

ミカサ(……でない)

ミカサ(??)


ミカサ「……お父さぁん……」


父「どうした」

ミカサ「私のトウモロコシの芽がでない」

父「……む。見てみよう」

ミカサ「うん」


父「おかしいなと思ったときは」

父「……こうやって少し土を掘って種の状態を確かめてみるんだ」

ミカサ「……」ジー


父「播いたのはこのへんだね?」

ミカサ「うん」


父「…………」

父「どこにも無いな」

ミカサ「……ぇ」


父「たぶん……鳥がほじって食べちゃったんだろう」

父「トウモロコシや豆は鳥の大好物だからね」

ミカサ「ぜんぶ?」


父「どうかな……お!」

ミカサ「……残ってた?」

父「ひとつ残ってたが……腐ってる」

ミカサ「……」


父「腐るのは水のあげすぎだ……」


ミカサ「……ぜんぶダメ?」

父「全部ダメなようだ」


ミカサ「…………」ジワ


父「毎日ずっと様子を見てあげていたんだろうね……」


ミカサ「うわぁぁぁん」


父「……よしよし」


父「なに、最初はみんな失敗するんだ。失敗するとうまくなるんだよ」

父「まだまだ種播きは間に合うし、新しいのをあげるからもう一度やってごらん」ナデナデ

ミカサ「……ぅん」グス


父「苗作りが大切なことがわかったね? 今度はお父さんと同じように一緒にやろう」

ミカサ「うん」


父「きっとうまくいくよ。お父さんはミカサが作ったトウモロコシを食べたいな」


ミカサ「……うん! がんばる」

父「偉い偉い」


——



父「トウモロコシは水をあげすぎてもダメだけど、十分に水を吸わないと芽が出ないんだ」

ミカサ「……よくわかんない」

母「お母さんも最初はわからなかったよ」


父「そこで種を一晩水に浸けておく」

ミカサ「これ?」

父「そうだ。ちょうど今日また種を播こうと思っていたから浸けておいた」

ミカサ「ふくらんでる」

父「これが十分に水を含んだ状態だね」


父「これをこの細かい仕切りがついた木箱に播いて、網で覆って苗を作る」

父「じゃあ、これをテラスに置いてきてくれるかな」

ミカサ「はぁい」



母「ふふ……本当に素直な子ね」

父「ああ。それに芯が強いよ……怖がりでちょっと甘えたがりだけど」

母「それはあなたが甘やかすから」

父「そ、そうか?」

母「……まぁいいわ。まだ子供だもの」

父「そうさ」



———

——



——844年・夏——



父「おお。ミカサの畑のトウモロコシもよく育ってきたなぁ」

ミカサ「うん!」


父「そろそろ下の雌穂をかき取らないと」

ミカサ「しほ?」

父「実になる部分だよ。ほら、上のほうと下のほうに一つずつ付いてるだろう」

ミカサ「うん」


父「これの下をむしるんだ。じゃないと上がうまく太らないからね」

父「やってごらん」


ミカサ「……」パキ

父「やぁ、上手にとれた。そしたら皮をむいて」


ミカサ「……ベビーコーンになってる」

父「そうだ。ミカサの大好きな甘くて柔らかいベビーコーンだよ」


父「ミカサの畑の初収穫じゃないか。やったな!」

ミカサ「わぁぁ」


ミカサ「……お母さん見て」タタタ

父「……よかった」



———

——



ミカサ(今日もいい天気)


母「ひまわりがキレイに咲いたわねぇ」

ミカサ「うん」


母「今日は久々に暑いわ」

ミカサ「うん」


母「朝晩は冷えるのに」

ミカサ「うん」


母「……もう。さっきからウンしか言ってないじゃない」

ミカサ「うん」


母「……なにを見ているの?」

ミカサ「カマキリがバッタを食べてるの」


母「あら……ミカサはそういうの苦手じゃなかったかしら」

ミカサ「……こわいから……あんまり考えない」


母「それなのに見ているの?」

ミカサ「……うん」

母「変な子ねぇ」ハァ


父「おぉい。玉ねぎとジャガイモの収穫を手伝ってくれ」

母「はーい」

母「ミカサ。お父さんのお手伝いをしましょう」

ミカサ「はぁい」


父「収穫時期を過ぎたら腐ったり割れたりするからな」

母「こういうものはすぐに一斉に採らないとダメなのよ」

ミカサ「うん」


父「山だから普段このあたりは涼しくて助かるが……」

母「今日は暑いわ」

父「動いているから余計にな」


母「終わったらお茶にしましょう」

父「おお、それは頑張りがいがある」


母「まずは熱いお茶からですよ」

父「東洋式の納涼法か」

母「ええ。後で冷たいお茶をいただきましょう」

父「いいね」

ミカサ「……がんばる」


——

エレンはでてこないの?



ミカサ「……」グテ


母「お茶が入りましたよ」

父「待ってました」


母「……ミカサは寝ちゃったの?」

父「あぁ、風が通って一番涼しい所を占領している」


ミカサ「……」スゥスゥ


母「プッ……まるでネコね」

父「ははは……まったく」

>>100
後で出てきます


母「重い物をたくさん運んだから疲れちゃったのね」

父「ミカサは頑張り屋さんだから」


父「今年は玉ねぎもジャガイモもよく太って豊作だったなぁ」

母「あの玉ねぎを全部吊るすのは大変だったわ」

父「そのぶんだけ飢えずにすむさ」

母「そうね」



ミカサ「……」スヤスヤ


父「……後でミカサに何かかけておいてあげなさい」

母「ええ」

父「年々おまえに似ていく……良い旦那に恵まれるといいな」

母「本当に……そうですね」


母「可愛い子」



———

——

>>96
痛恨のミスをしました
ヒマワリの開花時期と、ジャガイモや玉ねぎの収穫時期は合いません
後でハナショウブに変えようと思っていて忘れていたので、文面を差しかえます

>>105



ミカサ(今日もいい天気)


母「ハナショウブがキレイに咲いたわねぇ」

ミカサ「うん」


母「今日は久々に暑いわ」

ミカサ「うん」


母「朝晩は冷えるのに」

ミカサ「うん」


母「……もう。さっきからウンしか言ってないじゃない」

ミカサ「うん」



ミカサ「……」ソワソワ


ミカサ「ん……」


ミカサ(……窓の外)ジー


母「ミカサ」

ミカサ「!」

母「心配しなくても大丈夫よ」

ミカサ「……うん」


ミカサ「お母さん」

母「なぁに」

ミカサ「お父さんが集めたシイタケの原木売れたかな……」

母「きっと売れてますよ」


ミカサ「売れてなかったらどうしよう」

母「大丈夫。毎年ちゃんと買ってくれる人がいるから」

ミカサ「うん」


ミカサ「お母さん」

母「はいはい」

ミカサ「お父さんはどうして一緒に町につれていってくれないの?」

母「……町は危ないからですよ」


ミカサ「お父さんはここが静かだから好きって言ってた」

ミカサ「町はうるさい?」

母「そうね……」

ミカサ「町の光はきれいなのに」

母「ええ」



——おおーい


ミカサ「!!」

ミカサ「お父さんの声がした」ダッ

母「あ、ミカサ。待ちなさい」

ミカサ「外にお父さんきてる」タタタ

母「……もう。せっかちなんだから」


母「ミカサ。ドアはゆっくり開けなさい」

ミカサ「うん」



ミカサ「……お父さん?」ギィ

父「お、ミカサか。良い子にしてたか?」

ミカサ「うん……」ギュ

父「おおぅ。よしよし」


母「あなた……お帰りなさい」

父「ただいま。待たせたな」

ミカサ「おかえりなさい」


父「これを見てくれ」

父「シイタケの原木は全部売れて、今季の小麦粉がこんなに買えたぞ」

母「まぁ、すごい」


父「それからこれも買ってきた」

母「新しいお鍋とお皿ね……ありがとう」


父「ミカサにもお土産あるぞー」

ミカサ「ぇ」


父「ほら、新しいワンピースだ。こういうの欲しがってただろう」

ミカサ「わぁ……」

父「着て来てみなさい。きっとあの帽子にも似合うよ」

ミカサ「うん!」



ミカサ「……どう?」


父「いやいやこれは……とてもよく似合ってるな」

母「ミカサにぴったりね」

父「ああ、美人さんが引き立っているぞ」

ミカサ「……」テレ


母「よかったわねぇ」


ミカサ「お父さん」

父「ん」

ミカサ「どうもありがとう」

父「どういたしまして」


母「ミカサはずっとお父さんの帰りを待っていたものね」

父「そうか。心配かけたかな?」

ミカサ「……」コク


父「じゃあお詫びにアレをやろうか」

ミカサ「!」

ミカサ「うん」タタ


父「よしよし」

ミカサ「……」ギュウ

父「心配をかけてごめん」ギュ

ミカサ「……んーん」


母「甘えたがりさんは相変わらずねぇ」


ミカサ「お父さんの匂い……好き」

ミカサ「ほっぺも頭もあったかい」

父「そうか」ナデナデ


母「まったく……妬けちゃうわ」ハァ

父「はは」



———

——



——844年・秋——



ミカサ「寒い」


父「夏が終わったばかりなのに急に寒くなったな」

母「今年は秋らしい秋が殆どないわね」

父「ああ。まったくおかしな気候だ」



——844年・秋——



ミカサ「寒い」


父「夏が終わったばかりなのに急に寒くなったな」

母「今年は秋らしい秋が殆どないわね」

父「ああ。まったくおかしな気候だ」

>>119
ダブリました。投稿ミスです


ミカサ「……」

母「どうしたの? ミカサ」

ミカサ「寒くなったらお父さんにもらった服が着れなくなっちゃう」


父「……あれは春秋用の長袖だから、山間のこのあたりでもまだ大丈夫だろう」

母「冬でも家の中ぐらいだったら着れるんじゃないかしら」

父「そうだな」

ミカサ「よかった」


母「そういえばあなた」

父「ん?」

母「そろそろ甘薯を掘らないと」

父「そうだった」


ミカサ「かんしょ?」

母「……お母さんのご先祖様がサツマイモって呼んでいたお芋のことよ」

ミカサ「サツマイモなら好き」


父「甘薯より、そっちのほうが呼びづらいのに……覚えないんだなぁ」

父「ミカサはやっぱりお母さん似だよ」ハハハ


——



ミカサ「大きいおイモがいっぱいできてる」


父「そうだろう。これは普通の野菜と違って、やせた土のほうがよくできるんだ」

父「なぁ? お母さん」


母「そうね。変わっているけどありがたいわね」

父「肥料は殆ど使わないからな」

ミカサ「ふぅん」


ミカサ「虫食い穴がいっぱいあいてる」

父「……ちょっと畑が肥えてたかもしれない。虫を呼んでしまったようだね」

母「でもいいの。お母さんは自然のままの姿が一番好き」


ミカサ「お母さん、いつも同じこと言ってる」

母「そうです」

父「お父さんも一緒の意見だからな。うちはこれでいいんだよ」

ミカサ「……」コク


父「ミカサ。向こうの山を見てごらん」

ミカサ「?」


母「……あら」

ミカサ「紅葉!」

父「急に寒くなった年は紅葉がキレイだ」


父「……だから寒いのも悪い事ばかりじゃないだろう?」

ミカサ「うん」


母「悪い事ばかりっていうのは世の中には無いんですよ」

ミカサ「はぁい」

父「このあたりの木は紅葉するものがあまりないから、残念ではあるけど」


ミカサ「しん……しんよぅ……」

母「針葉樹」

ミカサ「しんようじゅ」


母「じゃあ紅葉するのは?」

ミカサ「こうようじゅ」

母「よくできました」


父「あとはスペルも書けるようにしないとな。広葉樹って」

ミカサ「……うん」


ミカサ「でもお父さん」

父「ん?」

ミカサ「紅葉は遠くから見たほうがキレイかも」

父「どうしてそう思うのかな」


ミカサ「町といっしょ?」

父「町?」

ミカサ「近くだとうるさいけど、遠くから町の光を見たらキレイ……」


父「……わは」

母「プッ」


父「確かに……なんでも自分の近くにあればと憧れはするが」

母「……遠くにあったほうが逆にわかることもあるわね」


父「ミカサは目のつけどころがいいなぁ」

母「そうねぇ。親バカじゃなければいいですけども」


父「親バカじゃないさ……いい子だよ……なっ?」ナデナデ

ミカサ「……」テレ


父「よーし、寒いなら寒いなりに楽しもうか」

ミカサ「なにをするの?」

父「ここに芋があるだろう」

ミカサ「うん」


父「本来は二週間以上置いたほうが美味しくなるんだけど」

母「……やりましょうか」ニコ

父「たき火で焼いて食べてしまおう。味見だよ」

ミカサ「わぁ」


——



——パチパチ


ミカサ「……焼けた?」

父「まだまだ」

母「お芋が大きいから結構時間がかかりますよ」


ミカサ「んー……」

母「暇してきたかしら」

ミカサ「寒くないから平気」

母「そう。もうちょっと待ってね」

ミカサ「うん」


ミカサ「あ」

父「どうした?」

ミカサ「アリが……みんなでエサ運んでる」

父「あぁ。もうじき冬だから、みんな蓄えに忙しいんだなぁ」


ミカサ「……」ジー

父「怖いか?」

ミカサ「んーん。あったかいから……こわくない」

父「そうか」


父「お、そろそろいいんじゃないか」

母「そうみたい」

父「ミカサ。焼けたぞー」

ミカサ「!」


母「これで刺して取って……ナイフで周りのコゲを落としてくださいね」

ミカサ「……」プス

ミカサ「こう?」

父「串は二本使って広げて刺さないと落とすよ」


ミカサ「重い……」

父「お父さんが取ってあげよう……お皿に乗せて三等分でいいかな。お母さん」

母「ええ」


父「……ほら、ミカサの分だよ」

母「熱いから気をつけて」

ミカサ「うん」


ミカサ「……いただきます」パク

ミカサ「……」ハフ

父「まだそんなに甘くはないだろう?」


ミカサ「んーん」

ミカサ「……おいしい」ホッコリ

母「そう。よかった」ニコ



———

——



——844年・冬——



ミカサ(今日は晴れてるのに……すごく寒い)

ミカサ(嫌な感じ)

ミカサ「……」ブル


父「ミカサ、寒いのかな?」

母「もういい加減、そのワンピースを着るのやめて冬服にしなさい」

ミカサ「今日だけ……」


父「しょうがないな。風邪をひくんじゃないぞ」

ミカサ「……うん」



父「しかし、ミカサも来年は十歳か……月日が経つのは早いもんだ」

母「そうね……」


父「本当に今日やるのか?」

母「ええ、決め事ですから」

母「ミカサもわかっているわね?」

ミカサ「……」コク


父「そうか……」


父「お父さんはミカサの痛がる顔を見たくないな」

母「私だってそうですよ……」

ミカサ「……」


ミカサ「お父さん」

父「ん?」

ミカサ「私……痛がらないから」

ミカサ「……だから終わったら……アレやって」

父「お……おお……やってあげるとも。最後まで我慢できたら、いくらでもギュってするさ」

ミカサ「うん」


母「じゃあ、そろそろ始めましょう」

母「あなた。お水と布巾をお願いします」

父「ああ」


母「ミカサ。右腕をまくって出して」

ミカサ「うん」

母「刺青だから……消えない印が刻まれるからね。ちょっと時間かかるけど、頑張ってね」

ミカサ「……」コク


———

——




——————ズキ……

————ズキ……

——うぅ……



ミカサ「うぅ……痛いよぅ……」


母「よく我慢できたね、ミカサ」


母「——ミカサも自分の子供ができた時には、この印を伝えるんだよ?」

ミカサ「……?」グス


ミカサ「ねぇ、お母さん……どうやったら子供ができるの?」


母「さぁ……お父さんに聞いてみなさい」

ミカサ「ねぇー。お父さん」

父「もうじきイェーガー先生が診療に来る頃だから聞いてみようか……」


——コンコン


父「さっそく来たみたいだ」カチャ


————

——


——

————


父「イェーガー先生。お待ちしてました」ドス


父「……?」


父「う……ぅ…………」

父「が……は……」ドサ



暴漢「どうも……失礼します」


ミカサ「……?」

ミカサ(イェーガー先生?)


母「……!」

母(……あなた!?)


ミカサ(……お父さん?)


暴漢「いいか? おとなしくしてろ」

暴漢「この斧で頭を割られたくなかったら——」


母「う……」


母「うあぁぁあぁぁあぁぁーーーっ!!」


暴漢「うぉぉ!? この女!」



ミカサ(え……なに?)


ミカサ(お母さん……なにしてるの?)


——なにが起こっているの?



<ミカサ!!>


<逃げなさい!!>


え…………お母さん?


<ミカサ!!>


えっと……逃げるって?


お父さん……どこ?


<早く!!>


お母さん……なんで暴れてるの?


え……なに? ……なに? イ……ヤダ……ヨ……



<ああ!! 何やってんだ馬鹿!!>

<殺すのは父親だけだと言っただろ!!>



…………お母さん?


<ミ……カサ……>


お母さん?



<…………>


……なんで血を出しているの?



<…………>


なんで……たおれているの?



……お父さん?



<…………>


……あ……いた……



<…………>


体が動かないの?

お母さんも?


<…………>


何か……しゃべってよ……ねぇ……?


————

——


——

————


ミカサ(寒い……)


ここはどこ?


ミカサ(知らない家……)


手首が縛られてる

でも全身が動かない


ミカサ(寒い……)


お父さん……やっぱり……この服もう寒い……


——

————


ミカサ(寒い……)


ここはどこ?


ミカサ(知らない家……)


手首が縛られてる

でも全身が動かない


ミカサ(寒い……)


お父さん……やっぱり……この服もう寒い……

>>147
エラーです。連投失礼



ミカサ(この家にも暖炉がある)


お母さん……暖炉に火つけて

お父さん……またたき火しよ

お芋はまだいっぱいあるから


ミカサ(…………)


三人で並んで眠ればあったかいのに……


いないの? ……お父さん……お母さん……



いないよ

死んじゃったもの


……壁の中なのになんで?



———世の中には悪いやつも……少しいる

———でも良い子にしてれば来ないよ


来ちゃった

私が悪い子にしてたから?


———……もしそんなやつが来たら、お父さんがこの銃で追っ払ってやる


お父さんが銃もってなかったから?



……わかんないよ



私の畑のトウモロコシ……

お父さんもお母さんも喜んでくれて嬉しかった



今度は玉ねぎ食べてもらいたくて

去年お母さんに教わったとおりに頑張ったのに

……もう食べられない



去年のマイタケも美味しかった

妖精の輪もかわいかった


……今年も生えていたのかな

また三人で行きたかった……



悲しいはずなのに涙がでない

心の中が凍りついて

えぐられるように砕けて消えて

ただ……ただ……寒い



お母さん……私は……

どこに逃げればよかったの……?



お母さんもお父さんもいない所は……

私には寒くて生きていけない



お父さん……

最後まで我慢したらギュっとしてくれるって言ったのに



……約束したのに



<——ください>

物音が聞こえる



<小屋が見えたから……>

……人の声?



<ありがとう……おじさん>

……男の子だ



<もう……わかったから……>

……だれ?





エレン「死っっっんじゃえよ…………ッ!! クソ野郎ぉがぁぁぁあああぁぁぁぁ!!!!」



———猛り狂った餓狼のような咆哮が———


エレン「ぅらぁぁぁあああああっっっ!!」


———迸る衝動に焼かれるような熱気が———


エレン「おまえらなんか……こうだ!!」


———凍てついた心に突き刺さる———


エレン「こうなって当然だ!!」




犯人二人が死んだ……

あの男の子に殺された……



……あなたは……だれ?



私を縛った縄が解かれる

……でも死んだ犯人は二人だけ



ミカサ「三人いたはず……」

エレン「え?」



暴漢「…………」



暴漢「てめぇが殺ったのか!?」

エレン「……ッ!?」



男の子が首を絞められてる



……また人が死ぬ?


ミカサ「あ…………」


……こわい



<————ぇ!!>

男の子がなにか叫んでる



<戦うんだよ!!>

戦う? ……私が?



エレン「戦わなければ……」

…………………………?



エレン「……勝てない!!」


ミカサ「…………ッ!!」



——勝てない……?


  ——できない!                           
      殺すなんて……                       
                                    
               ——できなければ死ぬ           
                                    
                        ——自然界の掟     
                                    
       ——犠牲になったカマキリ                 
                                    
              ——食べられたザリガニ           
                                    
——私も死ぬの?                            
                                    
                             ——こわい  
                                    
   ——巣に運ばれてエサになる                    

                                    
                ——イ……ヤダ……何も考えない     

                                    
      ——戦わなかったら死んだ?                 
                                    
                    ——無くなった         
                        お母さんの愛      
                                    
           ——消えた                    
               お父さんのぬくもり……          


この光景は知っている

今までに何度も……何度も……

……見てきた



そうだ……この世界は

残酷なんだ



……でも



———— 私はその世界でまだ ————


———— 生 き て い る ————



<戦え……>

世界が自分の内に入ってくる



<戦え!>

もう……何でもできる



<<<戦え!!>>>



私は跳んだ——

   ——男の子がいるところ
    
        ——あの光に向って!!


————

——



——ミカサ

私を呼ぶ声がする



グリシャ「ミカサ」

ミカサ「……」

グリシャ「覚えているかい? ——」



……お父さんが話していた先生

そうだもう……犯人は全員死んだんだ……



ミカサ「イェーガー先生……私は」

ミカサ「……」

ミカサ「ここから……どこへ向って帰ればいいの?」



ミカサ「寒い……」

ミカサ「私にはもう……帰る所がない……」


エレン「……」

エレン「やるよ」スッ

エレン「……これ」グルグル



……マフラー?



エレン「あったかい……だろ?」



…………

この感じ……



ミカサ「あったかい……」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年07月10日 (日) 07:52:44   ID: qjfELgMC

ミカサが明るくって、涙出ちゃった

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