二宮飛鳥?「幾千もの出逢いを越えて」 (18)
これは、誰かが見た偶像。
或いは、彼方にこれから観測される偶像のお話。
・デレマスSS
・地の文というより、もはやポエム。
・総選挙は二宮飛鳥に。
書き溜めはしてますが誤字確認しながらぼちぼちと投稿。
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◇
ユメを観ていた。[producer]が観なければ、消えてしまうであろうユメを。
『二宮飛鳥』と出逢うユメを。
静岡でLIVEバトルの相手として立ち塞がり、アイドルとしての理由を問うた飛鳥。
どこからともなく聞こえる口笛に惹かれるまま立ち寄った公園で、まさにめぐり逢いの飛鳥。
学校のプールサイドでポータブル・レディオを聞き流しながら夜空を見上げていた飛鳥。
ビルの屋上でフェンスに身体を預け、吐いた息が白くなるのをぼぅっと眺めていた飛鳥。
街中の雑踏の中でひとり、この世界に空いたセカイへの風穴を望む、少し寂しげだけど折れずに煌めきを窺える目をしていた飛鳥。
[producer]が出逢ったのは、どの飛鳥だったか。
[producer]が観たのは、アイドルと、そのプロデューサーとしての出逢いだけではなかった。
同じ学校に通う者として――
授業中にふと右斜め前の方に目をやった時、退屈そうにだがきちんとノートは取っている様を見た。
幼き頃に近所に住んでいた友達として――
朧げな記憶の中に、明るい髪色をした、言葉と振舞いが素敵だと思った女の子のことを思い浮かべた。
親戚として――
ちょっと変わった子だけれど、根は良い子なのだろう飛鳥にお年玉をあげた記憶を見た。
赤の他人として――
喫茶店で物憂げな表情でコーヒーカップに口をつける様を見た。
そして、プロデューサーの――あの日の誓いを思い出した。
飛鳥と出逢ったのはどの[producer]だっただろうか?
そうして、幾度も幾度も、繰り返した。数え切れぬほどの出逢いを。
線が曖昧になって、溶けて一つになってしまいそうなほど。
自分と相手の境界線が自分の領域(コト)を、そして相手の領域を教えてくれるというのに。
なれば、この繰り返しは何のために。
こんな世界じゃあ、ちっともキミのコトを知れやしない――
◇◇
ボクはキミを待っていた。キミがボクを見つけるのを。
ああ、めぐり逢ってもいない相手を能動的な意識下で、待っている。なんてものは、ヒトの……いや、世界の理に反するかい?
世界の外で出逢ったボクらに、世界の理も何も関係ないとは思うけどね。
フム、そうだな……なら、キミが待っていた、ボクがキミを見つけるのを、というのはどうだろう?
やぁ、[producer]。ボクたちのセカイへようこそ。
「飛鳥……なのか?」
[producer]は、"それ"に問いかける。
「そう、ボクはアスカ。二宮飛鳥。キミがボクをそう意識し、観続ける限りは、ね」
"それ"は、二宮飛鳥を名乗る。識ってしまえば、聞くまでもなかったことだった。
ただ一つ、その答えに添えられた言葉が気になった。
「観測(み)るのを辞めてしまえば、どうなる」
[producer]は、"二宮飛鳥"に問いかける。
「さあ、それはボクにも理解らないさ」
さすれば、そんな問いがボクたちの間に必要なのかな。とでも言いたげに"二宮飛鳥"は答えるのだ。
これも、聞くまでもないことであった。
「キミは、ボクと"共に偶像のセカイの頂点にまで上り詰めてみせる"と言ったけれど」
「ああ、そうだ」
「そんなことを疑問に思ってしまう程度には、その気持ちが揺らいでいるのかい?」
「いや、二宮飛鳥と頂点まで上り詰める覚悟に、揺らぎは無いさ」
こうして、決まりきった問答をすることに何の意味があるのだろうか。
◇◇□
「ボクの疑問を一つ、聞いてはくれないか」
暫くの答え合わせのような問答の後、飛鳥はそんなことを言った。
そんな了承を得る必要など無いはずなのに、どうして。
「沈黙は肯定ととらせてもらうよ」
「ボクは一体、何なんだい?」
どうしてそんな、分かりきったことを聞くのだろう。
「キミもそうだ。同じ学び舎に通う同世代の人間が、
いつしか親戚の大人となって子供のボクにお年玉を渡すことなど、起こり得ない」
「あの記憶全てが本当なら、キミも矛盾に満ちた存在だと言える」
ああ、分かっている。
「もう、キミも理解っているのだろう?」
だから、言わないでくれ。
「ボクを知るためにボクを知ったとて、それはキミ自身を知ることにしかならないことを」
飛鳥の声で、そんな諦めたような言い方で語り掛けないでくれ。
その言葉はもっと、心が共鳴(ひび)きあう静かな喜びを含んだ言葉に聞こえたはずなのに。
「仮初の世界で、いつまでキミとボクを演じ続けるつもりだい?」
お願いだから。そんな哀しい顔をしないでくれ。
◇◇□◇
「キミが『二宮飛鳥』に誓ったあの日、ボクという存在が生まれた」
「熱い決意に、ほんの少しの不安をブレンドした一杯のカップ」
「ちょうど、イメージは名も知らぬキミが観たあのカップかな。ボクが物憂げに口をつけたアレ、さ」
「不安は期待の裏返し、とキミも言っていただろう? 不安自体は悪いものじゃないんだ」
「けれど、それはカップ全体に広がり、いつしか心を覆ってしまった」
「口をつけることすら、躊躇するほどに」
「白い決意に、広がる黒い不安。ブラックのコーヒーに注がれたミルクとは、色合いが逆だけど」
「何かがボクらの心をかき混ぜて、ひいてはかき乱してしまったのだろう」
「何かが何か、なんて、あえて言葉にするなんてことは不要さ。だって――」
「キミは二宮飛鳥のプロデューサーなんだろう?」
最後の言葉は、どちらのモノか。
ふたりぼっちのユメの終わりはそのようにして、ふたりぼっちのひとりによって閉じられた。
きっと、それはユメだった。
迷いを残した[producer]の。
そしてオレは、誰が見たかも理解らぬユメから目を醒ます。
◇◇◇◇
時は夕暮れ、目の前の信号は赤を灯していた。
「飛鳥」
助手席に座る、ラジオ番組の仕事を終えた飛鳥に、声を掛けた。
「どうしたんだい? プロデューサー」
「偶像となる選択をしたことに、悔いはないか」
第6回シンデレラガール総選挙。その真っ只中の大切な時に、
こんな不安を煽るような問いをしてしまうなんて、プロデューサーとしてどうなのかとは思わなくもなかったが。
どうしても聞きたくなったのは、どうしてだろうか。
「今日は浮かない顔をしているなと思ったら……そんなことを考えていたというわけか」
担当アイドルに気を遣わせて、本当にプロデューサーとしてどうなのか。
「悔いはないよ。これは真実さ。けれど、ボクが今のままでいいか、と問われれば偽りになる」
「今のままで、か」
飛鳥に、"ありのままに個性を変えていくはずの人生を失う"という代償を突き付けたことが思い出された。
「ああ、今のままでいるつもりは無いよ。だって、」
それもそうだ。だって、
「共にそのセカイの頂点にまで上り詰めなければ、それは代償足りえないからか」
「いや、少々違うな……やはり今日のキミはいささか調子が悪く見える」
どうやら今日のオレは調子が悪いらしい。
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