持田亜里沙「虹をみせて」 (64)
夏の手前だった。
モバP「は? 欠航?」
P「いやーちょっと……勘弁してくださいよ。こっちも仕事なんでね……」
P「時間遅れては出ないんです?」
P「天気予報じゃ夜から晴れるらしいじゃないですか」
P「……波でダメと」
P「分かりました。じゃあ、明日の朝イチのやつで」
P「……」
P「朝イチじゃなくて昼イチですね、これ」
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――
亜里沙「どうしたの、Pくん」
P「ええと、すみません」
P「どうも昨日からの雨で、今日の便が終わりまして」
亜里沙「そうなの?」
P「会社には言いましたけど、事故を起こしても仕方ないですから……」
P「僕らは次の予定に間がありますし」
亜里沙「でも、Pくんはお仕事があるんじゃないかしら」
P「そ、そうですね」
P「まあ、なんとかなりますよ!」
亜里沙(大丈夫かしら)
P「ちょっとしたオフだと思いましょう」
P「波は高いし、海岸沿いは少し大変だと思いますから、島の内側の観光とかどうですか?」
亜里沙「そうね……あ、それなら、学校に行ってみない?」
P「え、学校?」
亜里沙「ほら、今回もお仕事で訪問させてもらったじゃない」
亜里沙「『ありさ先生と全国の子どもたち』シリーズってことで」
P「確かに……」
亜里沙「お礼はもちろん言ったけど、せっかく時間が空いたなら、子どもたちと本当に遊んであげたりとか……」
P(うずうずしてるんだな)
P「幼稚園じゃないですけど、いいんですか?」
亜里沙「大丈夫よ! ただ遊ぶだけなら、ケガに気を配るのには得意だし」
P「まあ、この時間帯なら、そろそろ授業も終わる頃でしょう」
P「交渉してみますかね……」
亜里沙「えへへ、ありがとう」
P(う~む、安請け合いしてしまったかな)
――
P「……えー、それでですね、彼女はその」
P「純粋に遊びたいだけ……いや、交流を深めたいと……」
P「プール掃除? いいじゃないですか」
P「力仕事とか、好きなんですよ……」
P「……先生もついてらっしゃいますし、ご迷惑にはならないように」
P「いや~! 今回は本当にお仕事でも、ありがとうございますと!」
P「お礼を兼ねてますから!」
――
P「う~、なんだ、もう晴れてきたじゃないか」
先生「天気変わりやすいですからね」
先生「でも、アイドルがプール掃除とか、いいんですか?」
P「いいんですよ、というか、子どもたちとね、一緒にいるのが好きな人なので」
P(本当にただ遊びたいだけなんじゃないかなぁ)
先生「はぁ……」
亜里沙「よぉし、みんなぁ~! おみず撒きますよ~!」
『はぁーい!』
先生「はーい、いいかー、ブラシ使って第一レーンから洗っていけー」
「はぁーい」
亜里沙「はーい♪」
先生「すみませんが、男手があるのはありがたいんで、あなたもやっていただけますか」
P「ん……」
先生「はい」
P「はい?」
先生「どうぞ」
P「え?」
亜里沙「ごし、ごし♪」
P「ぐええ……腰にくる……」
「せんせー、掃除うまいな!」
亜里沙「ありさ先生はプールそうじも出来ますよ!」
亜里沙「さぁ、おみずかけながら、ごしごしやっていくわねっ」
P「げ、元気ですね」
亜里沙「Pくんはだいぶお疲れね?」
P「そりゃ、プール掃除なんて……やったこと、なかったですからね、はぁ……」
亜里沙「そうなの?」
P「ふー」トントン
P「……プールがない学校だったんで、プールの授業は借りてた気がしますね」
P「しかも室内プールだから、こんな生徒が洗う必要もなかったような」
亜里沙「あら~、じゃあ貴重な体験になったんじゃない?」
P「……」
P「そうかなぁ~」ゴシゴシ
亜里沙「おみずですよぉ」シャー
「わーっ、虹だーっ」
亜里沙「きれいだねぇー」
P「んー」
「先生ー、虹ってどうしてできるの」
「なんで七色なの」
先生「えーっと、それは」
亜里沙「ごほん」
亜里沙「実はね、虹はもともとお日様の光なんですよ」
亜里沙「お日様の光にはもともと、いろんな色が詰まっているんだけど、いつもはそれが分からないの」
亜里沙「それで、雨が降ったりすると、雨のつぶつぶに光がぶつかって、そのいろんな色が見えてくるんです」
「えーなにそれー」
「わかんなーい」
亜里沙「みんなも、もともといろんな得意なものを持ってるけど、いつもはそれが分からないでしょ?」
亜里沙「給食の時間になると、食べるのが得意な人が分かる……感じかなぁ?」
子どもたちが笑いだした。
亜里沙「よーし、みんな、虹を創りましょう!」シャー
「きゃー!」
「わー!」
P「うおっ」
先生「はーい、遊ばないでくださいねー」
亜里沙「ごめんなさーい!」
――
P「ああ~! もう、ちょっと、クタクタだわ」
亜里沙「声が出るうちは、まだまだじゃないですか?」
P「それ、トレーナーさんが言ってたやつですね」
亜里沙「えへへ、そうです」
亜里沙「でも、だいぶはかどったから、もう大丈夫ですって」
P「そうですか。じゃあ、俺達はこのまま休憩させてもらおうかな」
キャハハハ……
P「おー、楽しそうにしてら」
亜里沙「これからプールの季節ですものね」
P「それにしても、虹に詳しいとは知らなかった」
亜里沙「ちゃんと伝えられているか、わからないですけど……」
亜里沙「ただ、空はどうして青いのか、とか、素朴なギモンにもっと答えてあげたいなって」
P「ああ、前に言ってたやつですか」
亜里沙「はい」
亜里沙「アイドルになってから、思ったんです」
亜里沙「もっと、先生をちゃんとやればよかったな……って」
P「ああ」
亜里沙「うまく答えられなくても、一緒に考えてあげてたり、あとで一生懸命調べたり……」
亜里沙「そういうのって大事ですよね」
亜里沙「ほらっ、『おしえてありさせんせー!』ってコーナーもありますし」
P「確かに」
P(でも、なんだろうな。何か……)
P「亜里沙さん、先生辞めたのって後悔してますか?」
亜里沙「まさか!」
P「本当に?」
亜里沙「……少しだけ、泣いちゃいましたね」
亜里沙「でも、ほら! 春になったら、卒園があるんですよ」
亜里沙「先生、お別れも、知ってますから」
P「そ、そうですか」
P「変なこと聞いてすみません」
亜里沙「いえ……」
先生「掃除おわりー!」
『はぁーい!』
P「ん、終わったみたいですね」
亜里沙「そうですね」
P「ああ……もう、グラウンドでサッカー始めてる。元気いいなぁ」
亜里沙「遊びに行かない!?」
P「あなたも元気すぎますよ!?」
――
……グラウンドの隅で、ボールを抱えている子がいる。
P「あれ、あの子」
亜里沙「あら?」
P「なんでサッカーに入らないんだろ」
亜里沙「ふっふっふ」スチャ
P「ああ、出番ですね」
亜里沙「さすがにプール掃除で使うわけにはいかなかったウサ」
「……」
亜里沙「どうしたウサー?」
「わあっ」
亜里沙「みんなサッカーやってるウサー」
「わ、私は別に、いいんだよ」
P(ああ、女の子なのか……)
P「サッカー、やりたいんじゃないの」
「やりたくない!」プイッ
亜里沙「でも、本当はやりたいウサ?」
「……」
「みんな、私が女だから嫌がるんだ。きっと」
「女子でサッカーやってるやつなんていないし」
P「そんなことないだろ。女子の選手だって、最近は増えてきているし……」
P(うちのアイドルにも……)
「だって、こんな島から選手になる人なんていないよ」
「女子でチームも作れないし、みんなに混ぜてもらえなきゃ練習もできない」
亜里沙「……」
「どうしようもないよ、私なんて」
「島から出なきゃいけないんだ、島から……」
「そんなの無理だし」
「そんな夢、絶対かなうわけない!」
P「いや、それは……」
P(な、何か言われたのかな。男子に)
亜里沙「ねぇ」
亜里沙がしゃがんで、目線を合わせていた。
亜里沙「サッカーの選手になりたいの?」
頷く。
「でも……」
亜里沙「おねえさんもね、夢が叶わなくて、あきらめて大人になったこと、あったよ」
「え……」
亜里沙「その夢は、別の形で叶えることができたの」
亜里沙「本当はどうしても、あきらめきれなかったから」
亜里沙「だけどね、だけど、その夢を一度あきらめたときも、ただ封じただけじゃなくって」
亜里沙「ちゃんと自分の好きなことを探そうって思って先生になったの」
亜里沙「全部なかったことには、したくなかったから」
亜里沙「だから、その時のことは、夢をかなえる力になったんだよ」
「……」
亜里沙「みんなに、ちゃんと話そう?」
「……」
亜里沙「全部なしにするのは、怖いわよね」
「……でも」
亜里沙「だいじょうぶ、ウサコがついてるウサ!」
「でもぉ」
P「仕方ない、それじゃあ、俺が練習に付き合ってやろう」
亜里沙「えっ」
「えっ、おじさんが?」
P「おじさ……まあいい。そっちの小さいネットの張ったやつは空いてるだろ。一対一で勝負だ」
「おじさん、できるの?」
P「大人をなめるな」
亜里沙「Pくん、大丈夫なの?」
P「サッカー経験はないですが、まあ任せといてください」
P「小学生には負けませんよ」
P(ふふふ、たまに事務所で勝負を吹っかけられてるからな。慣れてるのさ)
――ザカッ!
P「ぐわーっ!!」
「だめじゃん」
亜里沙「だめだめウサ……」
P「これ絶対、翌日ウルトラ筋肉痛コースだ」
亜里沙「でも、本当にうまいのね」
「へへ……」
「なにやってんだー?」「なんかやってるぞ」
「!」
亜里沙「あ、ほら、みんなやってきたウサ」
「で、でも、私」
亜里沙「チャンスウサ。これを逃さず、がんばって!」
「あ、あ、えっと……」
「……なんだよ」
亜里沙「みんな、ちゃんと聞いてあげてね」
「私――」
――
二人は宿に戻ろうとしていた。
P「結局、なぜか俺もサッカーやっていた……」
P「……あれってなんだったんですかね」
P「あの子がうまいから、嫉妬されてハブられたって感じ?」
亜里沙「多分、あの子が本気だったから余計に……」
亜里沙「一人だと、どうしたらいいか分からないもの」
P「ケンカしてムキになっちゃったのか」
亜里沙「結構ひどいことを言われたみたいだから、叱っちゃったけど」
亜里沙「仲直り、できたかしら」
P「……まあ、本格的にやるなら、島を出るしかないんだろうけど」
P「みんなと一緒に腕を磨いていけば、分からないか?」
亜里沙「そうですね」
亜里沙「でも、やっぱりおねえさんが大事だと思うのは……」
P「ん、あれ、宿のカウンター、荷物が……」
亜里沙「え?」
P「あのぉ、今日欠航になっちゃったからもう一泊って連絡はしたんですけど」
P「いや、それで元の部屋を使わせてもらいたいと」
P「え? え?」
P「他の客も増えたから一部屋詰めないといけない……?」
亜里沙「Pくん、どうしたの?」
P「ちょっと困っちゃいましたね」
亜里沙「お部屋を詰めないといけないってこと?」
P「そうなんですけど、詰めるにしても元々スタッフを詰め込んだ部屋がいっぱいで」
亜里沙「あ、じゃあ、先生の部屋って元から一人だったじゃない?」
亜里沙「誰か一人、来ればいいんじゃない」
P「いやぁ、だって全員男ですよ」
亜里沙「Pくんがいるじゃない」
P「は?」
P「なぜこんなことに……」
亜里沙「仕切りを作るから、ここから入らないようにすれば大丈夫ウサ!」
P「あっはい」
亜里沙「それに、Pくんも疲れたでしょ」
亜里沙「何もせずに、すぐ眠っちゃうわよ」
P「まあそうですかね……今日はいろいろありましたから」
P「仕事に、搭乗手続きキャンセルに……」
亜里沙「そっちなの?」
P「大人だと嫌なことばっかり頭に残って、嫌ですねぇ」
亜里沙「そうねぇ」
P「食事前に温泉入ってきますね、温泉」
亜里沙「あ、じゃあ先生も」
P「疲れちゃいましたしね」
亜里沙「明日はすぐ帰るの?」
P「そうしたいですけど、昼イチになるんで」
P「ぐでーっとダラダラ食事をとって宿を出るか」
亜里沙「それはもったいないなあ」
P「言うと思ってました」
亜里沙「じゃあ、学校じゃなくって、近くの公園とか、どう?」
亜里沙「ただの公園じゃなくて、アスレチックみたいな大きな遊具があったでしょう」
P(うずうずしている)
P「遊び足りないんですか」
亜里沙「えへへ、実はそうかも」
P「じゃあ、スタッフさん、というか、港に荷物を預けて、午前中に行くんでどうですか?」
亜里沙「いいわね♪」
※温泉はカットしました。
P「はぁ……多少は筋肉痛も収まるのかな」
P「ん、亜里沙さんはまだか」
P「食事にビールでも頼もうかな」
P「……いや、飲んだら飲まれるな……主に同室の人が……」
P「ま、ここはしっかりいただいて、ちゃんと休みますか」
P「虹か……」
P(光にはいろんな色がもともとあるんだけど、いつもは見えない)
P(雨が降ると……)
P「俺もそういうのがあったのかな?」
P「……ないか」
亜里沙「お風呂頂きました~」
P「うーっす。もう食事きてますよ」
亜里沙「あ、ほんとね」
P「お酒はよしてくださいね」
亜里沙「まだ何も頼んでませんよ?」
P「ん、うむ。おいしい。」
亜里沙「……」
P「どうしました?」
亜里沙「え? ううん。おいしいわ」
P「……」
P「仕方ないですね。一杯だけですよ」
亜里沙「もう、違います!」
亜里沙「おねえさん、別に飲んだくれって訳じゃないのよ?」
P「何か気になることありました?」
亜里沙「んー……ちょっとだけ」
P「はい」
亜里沙「ほら、Pくんが、先生を辞めたの、後悔してないのかって言ったでしょ?」
P「あ……」
亜里沙「お風呂に入って考えてたの」
亜里沙「子どもたちって、いろんなこと考えてるんだなぁって」
亜里沙「私、そのいろんな色を、見ていく仕事って……好きだったな」
P「えっと」
亜里沙「きっと、先生を続けていたら、もっと長く、子どもたちのことを見ていられたわ」
P「……はい」
亜里沙「でも、この仕事をしなかったら、いろんなことに答えられなかった」
P「それは……」
亜里沙「今日の子もね。きっと、私の言葉だけじゃ、足りないでしょ」
亜里沙「夢を叶えるには、練習や思いだけじゃない、何かがいるの」
亜里沙「だって、みんながみんな、まっすぐ叶えられるわけじゃないですものね」
P「……先生は、その、まあ、なんですか」
P「亜里沙さんの夢って、なんでしたっけ」
亜里沙「うたのおねえさん! 憧れだったの」
P「でも、それはその……ホントの、おねえさんじゃないじゃないですか」
P「なんていうかな……」
亜里沙「そうよね」
亜里沙「そうなのよね……」
P「……」
亜里沙「だから、アイドルってすごいなって」
亜里沙「先生にもなれるし、おねえさんにもなれるし」
亜里沙「ホントはもっと、簡単にできたんじゃないかなってくらい、いろんなことができるのね」
P「いろんな……」
亜里沙「あ、私っておねえさんだけじゃなかったんだって」
亜里沙「やりたかったことも、ちょっと違うこともあるけど……」
亜里沙「もっともっと、『みんなのアイドル』で夢見てもいいんだって」
P「そうか、そうですね」
亜里沙「も、もちろん、その……Pくんのおねえさんでもある、けど」
亜里沙「Pくんは、どう?」
P「俺ですか?」
亜里沙「Pくんの夢ってなんだった?」
P「俺は……どうだったかなぁ」
P「俺にはそういうのなかったんじゃないかな」
亜里沙「そうなの? サッカー選手になりたい、とか」
P「ないっすよ。何させてもあんまり」
亜里沙「でも、今日は自信満々だったじゃない」
P「勝てると思ったんですよ、ハハハ」
P「ないから、そういういろんな色が見られる業界にきちゃったのかな」
P「アイドルって、ほら、元から、いろんな色を持ってる子たちなんじゃないっすか」
亜里沙「そんなことないと思うわ」
P「そうですか?」
亜里沙「アイドルだけじゃなくって、みんな持ってるもの」
亜里沙「Pくんも」
P「俺も?」
亜里沙「ええ。だって、おねえさんをここまで連れてきてくれたじゃない」
P「……」
亜里沙「虹って、太陽とは反対の方にできるんですって」
亜里沙「いつもは見えない色って、そういう方を見ないと見えないんじゃないかしら」
P「俺は……」
亜里沙「違うかな」
P「う~ん、そうだなぁ」
P「俺の夢か」
……
亜里沙「お腹いっぱいー」
P「部屋を詰めてもらったお詫びだからって、結構つけてもらったんですよ」
亜里沙「そうなんだ」
P「満たされると、もう今日は休みたい……」
亜里沙「うふふ、じゃあもうおねんねしちゃいますか?」
P「そ、そうだなぁ」
P「かなり早いけど……」
P「先生、さっきの話だけど」
亜里沙「はい~?」
P「俺も昼間に子どもと遊んでたら、みんないろいろ考えてるなって」
P「俺も昔はそうだったかなーって思ったんですよ」
亜里沙「うん」
P「でも、多分、大人になると忘れちゃったんすね」
P「夢とか、気になったギモンとか」
P「だって……みんながみんな、まっすぐには叶わないんでしょ」
亜里沙「ああ……」
P「そういうの、亜里沙先生みたいな人がいたら違ってたのかな?」
亜里沙「……ううん」
亜里沙「だって、先生も。この道を選ばなかったら、夢は叶うって言えなかったもん」
P「そうか。言ってましたね」
P「そうか……」
P「俺の場合は、忘れられない夢なんてなくって」
P「きっと嫌なこともまるごと忘れようとしたら、全部忘れちゃった、みたいな」
亜里沙「ああ」
P「だから、みんなが夢が叶うって言えるところにいられるのは、まだいいですね」
P「楽しくて」
亜里沙「そう?」
P「これでちひろさんが笑顔で仕事押し付けてこなけりゃ最高なんですけどねぇ~」
亜里沙「それは大人だもの」
P「あはは」
P「ずいぶん話し込んじゃいましたね」
亜里沙「普段はあまり、二人きりにはならないからかしら」
P「サシ飲みするとひどいことになるからでは……」
亜里沙「あ、そういえばお酒頼みませんでしたね」ガタッ
P「結構です!」
亜里沙「すみません、フロントさん」
P「あっちょっ」
朝。
P「うー、頭イテ、体イテ」
亜里沙「さあ、時間いっぱい遊ぼうね!」
P「なんで元気なんですか、あなたは」
亜里沙「だって、昨日はたっぷり寝たでしょう?」
亜里沙「Pくんも朝、こんなに寝たのは久しぶりって言ってたじゃない」
P「社会人の睡眠時間については言及しないでください」
P「先生は筋肉痛も二日酔いも関係なさそうな感じでしょ」
亜里沙「あまり……」
亜里沙「ほら、滑車でシャーってするやつあるよ!」
P「うぇーい」
亜里沙「ひゃっほー♪」ゴオオオオオ
P「せーい」
亜里沙「ジャングルジムみたいなのに網が張って、ゴロゴロ転がれるよー!」
P「ふぉーい」
亜里沙「きゃー!」ザザザザ
P(前から思ってたけど、あの人意外とスポーティな着こなしもイケそうだよな)
亜里沙「ちょっと木登りしてくる!」
P「勝手に登っていいんですか?」
亜里沙「これ、登っていいやつだって」
P「大人もいいんですか~?」
亜里沙「もう、Pくんってば」
<対象年齢 12才>
亜里沙「ひっくり返したら21才にならないかしら……」
P「ちょっと落ち着きましょうね?」
P「んー、俺もようやく、昨日のが抜けてきたかなぁ」
亜里沙「じゃあ、遊ぶ?」
P「まあまずは散歩とか、そういうので」
亜里沙「あっ、あそこ」
P「ん? ほー。大縄跳びか」
亜里沙「学校でやるのかしらね」
……縄跳びから子どもが一人、出てしまった。
亜里沙「あら?」
P「ん」
亜里沙「どうしたウサー?」
「な、なんでもない」
「下手くそで全然跳べないんだよ」
亜里沙「でも、みんなで力を合わせるのが大事ウサ」
「それは……」
「だって、そいつが大きいから」
「回すのも下手くそだし」
亜里沙「ええと、それは、ね」
P「待てい!」
「誰?」
P「俺は縄跳びのプロだ」
「プロ……」「はあ?」
P「お前らは、下手だから跳べないと言ったが、大縄は6割回すやつにかかっている」
P(適当に言っているけど)
P「ほら、俺はこいつよりも背が高いぞ」
P「だけどもっと跳んでみせるが、それにはもーっと回すやつが全身で回してもらわないといかんのだ!」
P「ほれ、かかってこい!」ダッ
「ええー……」
亜里沙「よーし、じゃあ先生も入っちゃう!」ダッ
「えっ」
亜里沙「先生が先頭に立つから、先生の頭を越すように回してね」
P「気をつけてくださいね」
亜里沙「がんばるウサ」
亜里沙「ほら、きみも」
「う、うん」
P「後ろは俺の頭を越すように回してみせろ! いいかぁ!」
「えらそーだぞー!」「うるせー!」
P「ええい! 先生、お願いします」
亜里沙「はぁーい!」
亜里沙「せーの」
亜里沙「いーち!」
『いーち!』
亜里沙「にーい!」
『にーい!』
亜里沙「さーん!」
『さーん!』
……――
P「はあ、はあ、ど、どうだ。22回できたぞ!」
「おっさんが一番引っかかってたじゃん」
子どもたちが笑った。
P「うるせー!」
亜里沙「うふふ」
P「いいか、真ん中を頂点と考えるんじゃなくって、両端の時点である程度のな……」
P「……まあ、とにかく、これで練習すれば本番はばっちりだぞ!」
「はぁーい!」
亜里沙「みんな、力を合わせてがんばるウサー!」
『はぁーーい!!』
P「はぁー疲れた」
亜里沙「あら? Pくん、そろそろ時間ね」
P「うわ、ホントだ」
P「よし、じゃあみんな、さよならだ」
「さよならー」
亜里沙「バイバイウサー」
「バイバーイ」
P「うわ、結構やばいな、時間」
「先生!」
亜里沙「あ……昨日の」
「私、がんばるよ」
「なかったことに、したくないもんね」
P(いい子だなぁ)
亜里沙「うん。一緒に、がんばろうね」
「ありがとう」
P「なんとか、船に乗り遅れずにすんだか……」
亜里沙「よかったぁ」
P「これで帰ったら、書類整理ですよ」
P「まあ充実したオフだったかな」
亜里沙「Pくん」
P「はい?」
亜里沙「ありがとう」
P「何かありましたっけ」
亜里沙「いっぱいわがまま聞いてくれて」
P「子どもに戻ったようなものですから」
P「それ言ったら、お互い様ですよ」
亜里沙「Pくんは、子どもの時の楽しかったことも、忘れちゃってるみたいだから」
亜里沙「だからお互い様じゃなくて、お礼」
亜里沙「おねえさんが楽しかったことを、覚えていてね」
P「あ、ああ。そう、ですか」
P「……俺も、楽しかったですよ。ありがとう」
亜里沙「ほんと?」
P「ほんと、ほんと」
P「いやー、なんならあの島にアイドル連れて、もっかい行きますか。ライブにでも」
亜里沙「思い出の地ね!」
P「ご飯もおいしかったし」
亜里沙「お酒も……」
P「お酒は勘弁して~!」
おしまい
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