美穂の乙女心とお腹の虫と(デレマスSS) (34)


※独自設定有り、キャラ崩れ注意



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 困った。どうしたものだろう、と小日向美穂は思って色々と考えてみたけれどどうしても考えは纏まらず、うあーっとベッドに倒れた。ふかふかのベッドは気持ちよく美穂の身体を支えてくれて、包まれていたくなる柔らかさだった。
 布団と結婚しよう、などと杏が以前に言っていたのだけれど、その気持ちが凄くわかる。この瞬間だけはどんな快楽よりも気持ちのいい瞬間だと思うから。
 困っている、と言ってももちろんそんな深刻なものではなくて、凄く単純なことなのだが。とは言ってもアイドルとしては、重要なことかもしれない。深刻ではないとしても、重大な問題。


 ──お腹がすいちゃった。


 きゅるるる、と美穂のお腹の虫が無慈悲にも鳴き声をあげ密室の部屋に響く。
 ただいまの時間は夜中の二時。幸子がいつもどおりに寝ているとしたら五時間は経っている時間で、卯月は今頃凛か未央、或いは響子と電話をしているくらいだろうか。
 こんな夜中になぜ美穂は起きているのかと言えば、それはとても簡単なことだった。

 お昼寝をし過ぎて、眠たくない。


 今日は美穂が通う学校も休校で朝からレッスンをしていたが、そのレッスンもお昼までに終わり時間を持て余したのでどこかへ行こうかと外出をした。そこからの行動がいけなかった。失敗した。
 お昼ごはんを近所の定食屋で簡単に済ませてから、今日は少し暖かいから、と公園に出掛けてベンチに座っていた。
 すると陽気な太陽が美穂の身体をぽかぽかと暖めて、まさにひなたぼっこ日和と言う他にない環境となっていた。


 だからこれはもう、仕方がないことだったのかもしれない。そうなることは必然だったのかもしれない。
 美穂はベンチで眠ってしまった。
 がっつりと。五時間くらい。
 眠ったのが昼の一時ぐらいで、目が覚めたのが夕方の六時だった。今日は全国的に春めいた四月上旬くらいの気温とは言え夕方になるとさすがに肌寒かった。
 幸子には『美穂さんはもっと危機意識を持ってください!』と怒られたんだけど、あの心地よさにはどうしても逆らえないから仕方ないよね。


 そういうわけで、こんな時間になっても目がぱっちりと開いたまま。眠たくならない。寝られないからと読んでいた本も読み終わってしまっても眠たくない。
 さすがにお昼に熟睡しすぎだった。
 そして、起きている時間が長いと当然のように起こる整理現象。空腹。きゅるるる、とお腹の音が鳴るのが聞こえたのは既に一時間ほど前のことだった。


 この時間まではなんとか耐えた、耐えたけど……そろそろ限界かもしれない。
 何かを食べるか、食べないか。
 けれど、アイドルとして夜の間食はどうなんだろう。衣装はお腹を出すことも多いし、ふっくらとしたお腹をファンの人たちに見せるのは、やっぱり恥ずかしい。
 それでなくても最近、幸子の視線がお腹に向かっている気がしていて、もしかして太ったのではないかとお腹回りを気にしているのだから尚更である。


 だからそう、我慢、我慢。眠ることができればこの空腹ともおさらばできる、と美穂はたかをくくって掛け布団を頭までしっかりとかぶり、暗闇の中で目を瞑る。
 シープワン、シープツー。羊を数えて眠ろうとする。ちなみに英語のスリープとシープの発音が似ているから眠るときに羊を数えると言う説もあるらしい。
 はたして日本人に意味があるのか。
 しかし放っておけば気が付いたら眠っていると言われている某眼鏡の少年のような扱いを時にされる美穂でも、過剰なお昼寝による覚醒と空腹が重なってしまえば眠りにつくのはそう容易いものではなく。


 ──ぐうううっ、きゅるるる。

 今日一番のお腹の虫が鳴いた。


「…………ううっ」

 誰も見ていないとは言え、さすがにここまで大きな音を鳴らしてしまうと少し恥ずかしい。はしたない女の子、熊本乙女としてあるまじき失態である。
 こうなってしまうとさすがに、もうどうしようなんて言ってられない。空腹でこれ以上眠ることができないなんてことも避けないといけない。


 何か食べよう。うん。ちょっとくらいなら大丈夫。たぶん。ケーキバイキングをたっぷり食べるわけじゃないし。
 冷蔵庫を見る。辛子明太子のひとつもない、見事なもぬけの殻だった。あるのはミネラルウォーターのみ。……ど、どうしてこんなことに、と思ったがここのところ食事は寮の食堂で食べてしまうことや外食で済ませることが多く、買い物をしていなかったからだと気付いた。


 お腹回りが気になり出してから無意味な間食を避けるためにおやつを買わないようにとしていたので、簡単に食べるためのものも部屋には存在していない。
 とてもつらい。
 何かを食べようと思った矢先にこれである。ちくしょう、私はいつもそうだ。夜寝られなくなるからお昼寝は適度にしようと思っているのにぐっすりしてしまう。誰も私を寝かせてくれない。


 ……あ、そう言えば、と美穂は閃く。確か女子寮共有備蓄のインスタント食品が食堂にあったはずだと思い出した。
 アイドルが夜中にどうしてもお腹が空いて仕方がないというときのためにと事務所が用意してくれていたものである。
 本来は仕事で遅くなり食堂が閉まっている時間に帰ってきたアイドルのためのものであるのだが、背に腹は変えられない。背中とお腹がくっつきそうなのだ。


 部屋を出て食堂に向かった。当たり前ではあるが、あたりに人影はない。
 灯りの消えた廊下はほんのりと射す月明かり以外に光はないが、部屋を暗くしていたので暗闇には既に目が慣れていてそれだけでも十分だった。
 食堂に着いても人はいない。この時間帯にお腹が空いて出てきたのはどうやら自分だけのようだ。食堂内を少し歩いて隅のほうにある棚が目についた。確かあの中にインスタント食品があったはず。


 横開きの戸を開けると、中には色々な種類のインスタント食品が入っていた。
 さあ、どれにしようかと考える。出来る限り低カロリーで、お腹が膨れる、スープ春雨のような何か。こんにゃくゼリーでもいい。とんこつラーメンも可。
 いや、可じゃない。ダメです。
 ところでカップ麺のとんこつラーメンは博多風などと謳っていて熊本でよく出るものがないのは寂しい。どれも細い麺だし、焦がしにんにくもキクラゲも入っていない。でも嫌いじゃないです。
 どっちみちカップ麺なんてカロリーの高過ぎるもの、食べられるはずない。


「あれ、美穂ちゃん?」

「ふわっ!?」


 突然の声に驚いて思わず大きな声を出してしまう。静かな物音ひとつのない食堂で、声が大きく響いた。
 いけない。他の皆は寝ているのに。
 それにしても──だ、誰?
 こんな時間にまさか自分以外の人間が現れるとは思ってもいなかったのでまったくの無警戒だった。いくらなんでもおばけ、なんてことはないだろう。ない。ないって言ってください。
 もしおばけだったら小梅の部屋に急いで駆け込まないといけないところだ。
 美穂は内心脅えながらも、しかし疑問を否定するために恐る恐る振り返る。


 包丁を持った女の子がいた。
 五十嵐響子だった。


「きょ、響子ちゃん……? どうしてこんな時間に、食堂に?」

「そっくり返しますよ美穂ちゃん」

「わ、私はその……えっと……」

 お昼寝をし過ぎて眠れず、しかも空腹の限界が来たので来ました、なんて。
 恥ずかしくてとても言えない。


「あ、そうだ。夜間徘徊が趣味なの!」

「今、あ、そうだ。って……」

「ぴ、ぴゅ~」

 口笛が吹けていなかった。これ以上話しボロを出さないように──もちろん響子は既に勘づいているのだが──美穂は話題を変えることにした。


「そんなことより響子ちゃんこそどうしてこんな時間まで起きてたの?」

「卯月ちゃんと電話していて、さっき終わったんです。それで少しお腹が空いちゃったから、簡単なお夜食でも作ろうかなって。美穂ちゃんも食べます?」

 もちろんこれは真意に気付いている響子のさりげない気遣いだ。


「わあ、いいの? ありがとうっ!」

 そして、先ほどまで取り繕って無理のある言い訳をしていたことを忘れているのか、物凄い嬉しそうにしていた。
 感謝の心を忘れないことはもちろん大切であるし、素直であるということは美徳なのだが。ここで言い訳をしてしまうほどに美穂は自分を偽れる人間でもなければ、相手の心遣いに対して無遠慮に振る舞えるほどにやさぐれてもいない。


 可愛いなぁ、と響子は思った。

 美穂は自分よりも年上で甘えられるお姉ちゃんのような人であると同時に、何だかお世話を焼きたくなるような人だ。
 ところで着ている熊さんパジャマはどこで買ったんだろう。前はこんなの着ていなかったような気がするけれど。

「部屋から簡単な食材を持ってきているんで、ここにあるインスタント食品に少し手を加えて簡単に作っちゃいますね」

「わーい!」

 ちょっと精神年齢下がってない?




 さて、簡単に作っちゃいますね。とは言ったが──しかし、響子は簡単に作るとは言っても、量が少量だとは言ってなかった。いや、常識的に考えてこんな時間にたくさん出すとは思わないし、それが普通だからわざわざ口にも出さなかったのだろうと思っていたのであって。
 ──机の上に並んだ、ディナーと言っても何もおかしくない料理の量は、さすがに想定外だった。


 お腹が空いていたので、ペロリと食べられちゃいそうなのがまた恐ろしい。
 鯖缶はネギ等の野菜も入った煮付けに変貌しており、焼き鳥缶は刻みネギと刻みノリに温泉卵のセットで丼に。そしてドレッシングで綺麗に彩られたサラダまであり、晩御飯の量としては申し分なく完璧過ぎる。絶対に夜食ではない。
 テキパキと作業していたので時間は十分もかかっていなかったが、この量。
 さすがは響子ちゃんと美穂も感心をしてしまう。


「え、えっと、響子ちゃん。これは二人分……だよね?」

「違いますよ? 私の分はこっちです」

 響子の手にあるのは満足一本な棒菓子だった。一本満足を謳うだけあってその一本はなかなかのカロリーを誇るのだがそれでも目の前の食事よりは少ない。


「持ってきた食材が一人前分しかなかったんです。気にしないでください」

「い、いや、それなら響子ちゃんも一緒に食べたらいいんじゃないかな?」

「だめです。いい機会なんで、美穂ちゃんにはたっぷり食べてもらいますっ。うちの事務所の子たちはみんな痩せすぎですから、少したくさん食べるくらいがちょうどいいんです!」

「私、別に痩せてはないよ!?」

「いいえっ、このお腹、このくびれ、間違いなく痩せてますっ!」

「ちょ、お腹触っちゃダメー!」


 ──その後、二人の騒がしくもかしましい声で目が覚めたと苦情が入ることになったことは、もちろん言うまでもない。





 後日談、或いはオチ。

「昨夜は騒がしいと思ったら、そんなことがあったんですか」

「うう、ご迷惑おかけしました……」

「いえ、ボクは大丈夫ですけどね。……それにしても美穂さん、そんなに太っているようには見えませんが?」

「えっ、でも幸子ちゃん、私のお腹いつも見て──」

「気のせいですね!!」

「でも──」

「気のせいです!!」



おわり

小日向ちゃん復刻ガチャが来たので前回のリベンジにと書けば出るをやろうとしてガチャ期間に間に合わず、そして今日になって限定響子ちゃんまで来た。もう財布の貯蔵は十分じゃない。

ところで3月1日はスターライトマスターシリーズの新作、ピンクチェックスクールのユニット曲である『ラブレター』が表題曲のCDが発売されるから買いに行こうね。

それでは

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