赤松「逆転ラブアパート?」 (235)

最原「性格逆転スイッチ?」
最原「逆転紅鮭団?」

に続く三作目です。

また書き溜めなしでチクチクやります。

今回は短めになると思いますが、おそらく亀進行になるでしょう。

ネタバレオンパレードなのでクリア後推奨なところも変わらず!

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1486641625

前回までの、最原の奇妙な冒険!

恋愛観察バラエティ、紅鮭団に強制参加させられた十六人の超高校級の高校生たち。
しかし、ここは通常の世界とは違う世界線で行われる紅鮭団だった。
つまるところ登場人物の性格がおおざっぱに全部逆転しているのである!

この物語は、全人類が待望したダンガンロンパ最新作の、本編の殺伐とした雰囲気とは真逆なほのぼのおまけモードである!

性格逆転まとめ

赤松:しっかり者のお姉ちゃん⇔グレてやさぐれまくったひねガキ
春川:不愛想で他者と壁を作る女性⇔コミュ力カンスト気味のうざいくらい朗らかな女の子
入間:エロ方面に下品かつ妙なところで初心⇔しずしずとした雰囲気の姉御
茶柱:男死は死ね⇔女死は死ね
百田:滅茶苦茶な言動を繰り返す熱血漢⇔理路整然とした冷静沈着の男
東条:滅私奉公で一種機械的なメイド⇔仕事はできるがどこか隙だらけのドジっ子
星:生きる意味を見失ったニヒルダンディ⇔悪に堕ちる。欲望のために
アンジー:神の敬虔なる従者⇔完全なる金の奴隷
夢野:おっとりマイペース口リ⇔感情丸出しスピード狂
真宮寺:主人格がデフォで是清⇔主人格がデフォで是清姉
王馬:有ること無いこと駄々流しの嘘吐き⇔落ち着き払った優雅なカリスマ
キーボ:人間に見下されることを嫌うロボット⇔ロボットが地球を支配する未来を夢見るディストピア脳
白銀:委員長タイプのオタク⇔孤高のスケバンかつオタク
天海:ミステリアスでクールな少年⇔鼻たれ小僧
ゴン太:心優しき昆虫博士⇔ダークネス街道まっしぐらのマッドドクター
最原:自分の才能に対して後ろ向きで謙虚⇔自分の才能に対して前向きで慢心気味

赤松(この狂った学園生活を強要されてから数日が経った)

赤松(そろそろ他の連中のネジが数本飛んだ言動や挙動にも慣れ、私も落ち着きを取り戻している)

赤松(まあ茶柱には常時イライラさせられているが、それ以外は比較的普通の……)

赤松(うん、まあ……最低限? の付き合いはできている、はずだ。うん。多分)

赤松(そして私はいつも通り、朝食を食べるために食堂へと赴くことにする)

赤松(この学園生活において数少ない楽しみが東条の作るご飯だ)

赤松(さて、今日は何が出るかな。パン系か、ごはん系か……)

ガチャリ

入間(下着姿)「ほらさっさと脱ぎなさい! そろそろ冷えてきたのよ!」グイグイ

東条「いやああああ! 脱げちゃう! 服が脱げちゃう! 誰か助けてぇーーー!」ヒィィ

赤松「ああっ、くそっ! せっかく慣れてきたと錯覚してたのにィ!」ガビーンッ

赤松「何してんの入間! ていうか何で下着姿!?」

入間「長い話になるわ」

赤松「あ、じゃあ話さなくていいよ。面倒くさいから」

入間「……」

入間「実は私様、一人じゃ着付けができないのよ」

赤松(無視かいッ!)

入間「だから倉庫にあった廃材から着付けロボットを組み上げたのだけれども」

入間「今日の朝に使ってみたら壊れてたことに気付いたの」

入間「修理はしたけど、今はグロスと接着剤が渇くのを待っている段階」

入間「それまでは比較的背丈の近い東条さんから服を貸してもらおうと思って」

東条「か、貸すよ! 貸すけど今着ているヤツを強奪することはないんじゃない!?」

入間「あなたが寄宿舎に行って服を持ってくるまで、私様に下着姿で過ごせと?」

東条「あっ。た、確かにそれはちょっと可哀想かも……」

赤松「東条! しっかりして! これ入間の口車だから!」

赤松「ああもう……仕方ないな」ゴソゴソ

赤松「ひとまず私の替えのベストを貸すよ。だから東条が服を持ってくるまで待ってれば?」

入間「いやよ。そんなストレート膨張色のベストなんて。私様までデブって見えるじゃない」

赤松(人様の厚意を、この女ァ……)イライラ

入間「第一、私様とあなたでは決定的に違うでしょう。胸囲が」

赤松「」ブチッ

東条(あ、な、何か切れた音が……)アワワ

同時刻、食堂の外の通路

最原「あー……疲れた。本当に疲れた」ドヨーン

百田「俺としたことが……貴重な睡眠時間を削って一体何を……」ドヨーン

茶柱「どうしたんですか、この二人」

春川「あー。なんかねー。二人で小説の英訳を頑張ってたんだって」

茶柱「は?」

最原「図書室で『推理小説とかないかなー』とか探してみたら、江戸川乱歩全集を見つけてさ」

最原「でもそれ全編英語で……どうしようかなって思ってたら百田くんが『英訳してやろうか』って言ってくれてさ」

百田「実際やってみたらのめり込んでしまってな……」

百田「お陰で最原と共に図書室で貫徹するハメになってしまった」ドヨーン

茶柱「うわー。頭いいんだか悪いんだかわからないですね、二人して」

春川「ていうか元が日本語の小説の英訳されたものを再翻訳って、逆に難しそうだよね」

春川「さっすがモモタン。でも心配だから、もう貫徹とかはやめてね」

百田「無論だ。宇宙飛行士は体が資本だからな……」

最原「あー、もう。僕もう今にも寝そうだよ。ちょっとしたショックで一気に落ちそう」

百田「俺も似たような感じだ。食堂でホットミルクでも貰ったらすぐに寄宿舎に直帰して……」


ガチャリ

赤松「待て入間ァ! あんたの嫌いな膨張色のベストを何が何でも着せてやる!」ドタバタ

入間「東条さん! 早くそれ脱いで! 早く!」ドタバタ

東条「いやー! いやー!」ドタバタ

百田&最原「……」

百田&最原「」バターン スヤァ

春川「もっ、モモターーーン!」

茶柱「最原さぁぁぁぁぁぁぁん!」

真宮寺「状況の面倒さに脳細胞がショートを起こしたようね。気持ちはわかるわ」

茶柱「あ、真宮寺さん。いたんですか」

真宮寺「ずっと食堂の隅にね。この分じゃ朝食が出るのはもうちょっと後になりそうだけれども」ヤレヤレ

数十分後

王馬「とまあこのように、良くも悪くもみんなそれぞれ学友と打ち解けはじめ」

王馬「かと言って面倒ごとが減るかと言ったらそうでもなく、逆に増える始末なのでした」

キーボ「王馬クン、誰に言ってるんですか」

白銀「朝っぱらからピーチクパーチクしてんじゃねーよ……こっちも発注ミスの始末……」

白銀「じゃなくて、エンドレスエイトのリレーで忙しかったんだからよ」

赤松(苦行!?)ガビーンッ

入間(斬美ルック)「……あなた、赤松さんより胸が小さかったのね……失敗したわ」

東条(下着の上に赤松ベスト着用)「早めに気付いてほしかったなぁ」シクシク

夢野「速さと聞いて!」ギュンッ

天海「うわぁ、びっくりした!」

星「……」ムラッ

東条「星くんの目がいつにも増して凄い怖いよぅ!」

アンジー「あー。大丈夫大丈夫。いざとなったらアンジーが守ってあげるよー」

アンジー「……財力で!」ギンッ

赤松(この学園じゃお金は意味ないけど、欲の塊の星相手なら利いちゃうんだよなぁ……)

獄原「ところでアンジーさん。また僕の研究教室から標本を盗んだ?」ゴゴゴゴゴゴ

真宮寺「私の研究教室からもいくつか物が消えているのだけれども……」

アンジー「……し、知らないよー。なんでもかんでもアンジーを疑うのはよくないんじゃないかなー」ダラダラ

真宮寺「こっちを向きなさい」

獄原「……次はマゴットセラピーの実験かな……」ゴゴゴゴゴゴ

真宮寺「傷を付けたいのなら日本刀を貸すけど」

アンジー「」

夢野「まごっと?」

天海「ウジ虫療法のことだね。一度実際に見たことがあるけどグロいんだー!」

赤松「……」

赤松「あれ。最原と百田は?」

茶柱「食堂の隅で寝てます」

赤松「え、なんで?」

茶柱「あなたたちの悍ましい争いのせい、と言いたいところですが、まああればっかりは自業自得ですね」

赤松「?」

春川「えへへ、モモタンに膝枕。えへへ」ニヘラー

赤松(食堂の隅には、百田に膝枕をしている幸せそうな春川と、死んだような顔で寝ている百田)

赤松(そしてその隣で寝ている最原がいた)

赤松「……百田は春川に任せるよ。最原は後で私が運ぶね」

茶柱「送り狼ですか? 不潔ですねッ!」

赤松「違うわァ!」ガァ!

東条「みんなー。遅れてごめんなさい。ひとまず全員分の食事ができたよー」

天海「わーい! ごはん! ごはん!」

赤松(ともかく、私たちはなんとかこの学園で共存できている)

赤松(そして、東条の朝食と共に、またこの学園での日常が始まる――)

赤松(……はずだった)

エグイサルs「おはっくまー!」ガシャァァァァァンッ

東条「私の作った朝ごはんがテーブルごと粉砕されたーーー!」ヒィィィ!

天海「俺のごはんがーーー!」ガビーンッ

赤松「……って、言ってる場合じゃないでしょ!」

赤松「え、えええええエグイサル!? なんでここに!?」

エグイサルレッド「中間発表に来たんだよ!」ギランッ

赤松「ちゅ、中間発表……?」

エグイサルブルー「この学園生活も、期間が残るところ半分を切ったからなァ!」

エグイサルブルー「一番優秀な生徒を発表するとともに、賞品も与えてやろうという催しだ! イカスだろ!?」

アンジー「およ? 半分ー? もうそんな経ったんだー」

星「ふむ。しかし俺の知る限りだが、恋仲になった男女は今のところ……」チラリ

春川「……いやん」

星「一組もいない。これで優秀も何もないだろう」

春川「なんで無視したの!? なんで無視したの!?」ガビーンッ

赤松(いや、私でもあのペアは無視したくなるし……)

エグイサルブルー「聞いて驚け! 今のところ他の生徒と最も仲良くなっている優秀な生徒は――」

エグイサルグリーン「最原終一クン、ダヨ」

エグイサルブルー「あっ、なに先に言ってんだコラァ!」

赤松「……えっ、最原?」

天海「ということは、赤松さんと最原くんはもう出る資格はあるってことー?」

夢野「あとは期日を待つだけで学園からの脱出が可能というわけかの? 流石の速さじゃ!」

赤松「えっ? い、いいいいいいいや私は最原のことそんなこと思ってないしししし!?」ワナワナ

赤松「さ、最原がどうしてもっていうんなら考えなくもないけどさ!」アタフタ

茶柱「あ、わかりやすすぎるんで、そういうのはいいです」

赤松「ああん?」ギロリ

茶柱「ん? 何か文句でも?」ニコニコ

白銀「やめろ鬱陶しい。で、実際のところどうなんだ? エグイサル」

エグイサルレッド「もちろん――」

エグイサルイエロー「そんな簡単な話があってたまるかい!」

エグイサルイエロー「干し草の中から針を探すようなもんやないかい!」

王馬「それは難しいことの例えだったはずだけど」

エグイサルピンク「ともかく、まだ卒業の要件を満たしている生徒は一組たりともいない、とだけ言っておくわ」

エグイサルピンク「最原くんと並ぶ勢いで、茶柱さんも結構いいところに行ってるんだけどね?」

茶柱「えっ?」

茶柱「……えっ? 転子が? 誰と?」

エグイサルピンク「えーっと、茶柱さんと一番仲がいいのは夢野さんね。実にいい感じのラブラブ度で、アタイ感動しちゃったわ」

茶柱「はぎゃッ!?」

夢野「んあ? ウチか?」

天海「あれ。恋愛関係じゃなくっても卒業できるの?」

真宮寺「天海くん。世の中にはね、いろんな種類の恋愛が……」

茶柱「きええええええええええっ!?」ブンッ

真宮寺「あわばっ」

キーボ「あっ、ちょっ、こっちに飛ばさないであぶっ」ドカァァァァァン!

東条「真宮寺くーーーんっ!」ガビーンッ

エグイサルイエロー(いや、実はこのラブラブ度システムは『友情』でも上昇するから、実は恋仲にならなくっても大丈夫……)

エグイサルイエロー(ってことを言うのは後にしたろ。なんかオモロイし)

伝えました

茶柱「な、なんですかそのガバガバシステム! 恋愛と友情の区別もつかないなんて!」

茶柱「どうせ夢野さんと転子との関係も測定ミスに決まってます!」

茶柱「転子は夢野さんのことが大嫌いです! むしろ宿敵です! 天敵です!」

茶柱「一生涯かけてでも必ず倒して見せると、つい先日に夢野さんに宣言したばかりですよ!?」

夢野「ウチも『受けてたとう。全力でな』と返したばかりじゃな! 確かに!」

白銀「強敵と書いて『とも』と書くタイプの友情じゃねぇか! そりゃ上昇するわ!」

天海「これだけガバガバなシステムだと、脱出するのも楽そうだねー」

王馬「意外と攻略の日は近い……か?」

キーボ「あ、あの……ボクのことを誰か修復してくれませんか……ボクの理想郷で生きる権利をあげますから……」ガタガタ

入間「はいはい」

エグイサルレッド「それじゃあ、オイラたちからプレゼントを渡すよ!」

天海「って言っても、肝心の最原くんはまだ寝てるしー」

東条「あれだけの衝撃音で起きないって、相当疲れてたんだね……」

春川「モモタンもだけどね」

エグイサルレッド「あ、いや最原くんは寝てていいんだよ」

エグイサルレッド「だって、このプレゼントは優等生以外の全員に渡すものだもん」

赤松「……ん? なんて?」

エグイサルレッド「百田くんには後で誰かが渡してね。それじゃあ、プレゼントの御開帳ーーー!」

ジャラジャラジャララン

赤松「……鍵?」

天海「が、十五本。確かに最原くんを除いた全員分あるね」

白銀「レインマンかお前は」

獄原「……それぞれの鍵に全員の名前が刻印されてるみたいだね」ゴゴゴゴゴゴゴ

エグイサルピンク「それは誰かに譲渡できないようにするための措置よ」

エグイサルブルー「一応言っておくが『貸与はダメだが一方的に借りるのはセーフ』とか」

エグイサルブルー「そんなクッソ甘っちょろい措置も取らないから覚えておけよ!」ヘルイェー!

エグイサルイエロー「じゃ、そういうわけで」

エグイサルs「ばーいくまー!」

ガシャガシャガシャコン

東条「あ、消えちゃった……」

東条「でも私の作った朝食は潰れたまま……うう……」

赤松「で。なんなのこの鍵……どこの鍵?」

赤松「ていうかそもそも、どうして最原の分だけがないの?」

王馬「……これは……そうか、なるほど」

夢野「心当たりがあるのか? ならばウチがひとっ走りして確かめてくるが?」

王馬「いや。今は待とう。というより……」

王馬「悪だくみの時間だ。みんなちょっと話を聞いてくれ」ニヤァ

赤松「……ん?」

赤松(今まで傍観に徹していた悪の総統が、初めて我を見せた)

赤松(なんとなくイヤな予感がする……)ズーン

夜時間。カジノ周辺

百田「……で。これは一体どういう集まりだ?」

春川「さあ? 私は、これにかこつけてモモタンと夜デートできるから乗っただけだし」

王馬「さて。最原ちゃん以外の全員がここに集ったね」

王馬「じゃあ始めようか! 悪の総統企画、ラブアパート探索をね!」

赤松「ラブアパ……なに?」

星「ああ。カジノの近くにあった、あのいかがわしい施設か」

星「使えるものなら東条あたりを浚って閉じ込めて手籠めにしてやろうかと思ったんだが」

東条「ふえっ!?」ガビーンッ

星「確かあそこは立ち入りできなかったはずだな」

星「エントランスに続く自動ドアすら開かなかったはずだ」

王馬「いや、開くんだよ。夜時間ならね」

王馬「まあひとまず行ってみようか。十五人全員で遊ぶとなると時間が足りないかもだしね」

赤松(遊ぶ……?)

ラブアパート。エントランス

看板『この施設を利用するには愛の鍵が必要です』

赤松「愛の鍵……って、まさかこの鍵って」

王馬「ほぼ間違いなくこの施設の鍵だろうね」

赤松「帰る!」

王馬「まあまあ、落ち着いて。俺のことを信用してくれって」

王馬「俺は嘘を吐かないことを信条にしている。退屈はさせないよ」

百田「……」ペラペラ

春川「モモタン、何読んでるの?」

百田「そこのラックにあった、この施設のパンフレット……らしいな」

百田「……ここは……そんなことがありえるのか?」ペラペラ

王馬「試してみる価値はあると思うけど」

百田「……ふむ」

百田「最初は俺がやろう。危ない橋かもしれないしな」

王馬「キミならそう言ってくれると思ったよ」フッ

赤松「えーっと……話が見えないんだけど」

王馬「まあまあ。見てなって」

百田「……」ガチャリ

赤松(百田はエントランスの奥にあるエレベーターに鍵を差し込み、回した)

赤松(エレベーターは扉を開け、百田はそれに乗り込む)

王馬「それじゃあ、どれくらいで帰ってくるかわからないし、UNOでもやる?」

白銀「この人数でか? 多いだろ」

キーボ「それでは区分けしてトーナメント形式にしたらどうでしょう」

キーボ「まあボクが下劣なる人類に負けるとは思えないので、優勝は確実でしょうけどねぇ!」

入間「発明家の頭脳を舐めないでちょうだい」

春川「んー。モモタンがいないのはちょっと残念だけど、お泊り会みたいで楽しいかも!」

赤松「え? そう?」

春川「あ、最下位の人は罰ゲームね。星におっぱい揉まれるって内容の」

星「おっしゃああああああああああ!」ズガーンッ

赤松「なんでアンタは軽率にそんなこと言っちゃうかなぁ!」ガビーンッ

三十分後

星「……」モミモミ

春川「まさか星自身が最下位になるとは……」

白銀「今にも自殺しそうなくらい暗い顔で自分のおっぱい揉んでるな……」

獄原「凄く引きが悪かったんだろうね。僕が勝つくらいだから」ゴゴゴゴゴゴゴ

チーン

王馬「あ。ちょうど百田ちゃんが帰ってきたみたいだね」

春川「あ! モモタン! 寂しかったー! ……ん?」

百田「……」

春川「……なにかいいことあった?」

百田「別に」

春川「う、嘘だ! 絶対なにかいいことがあった顔だよコレ! どうしたのモモタン!」

赤松(私にはいつも通りの無表情にしか見えないんだけど?)

百田「……あの鍵は……ある意味で危険なものだった」

百田「が、しかし、いい機会かもしれないな」

百田「いいだろう王馬。お前の企画に乗ってやる」

王馬「おっし! 百田ちゃんのお墨付きキタコレ!」ガッツポーズ

赤松「……そろそろ事情を説明してもらえる? じゃないと本当に帰るよ?」

王馬「いいよ! じゃ、説明は百田ちゃんから!」

百田「あのエレベーターの先には最原がいた」

赤松「え?」

百田「そして……最原は俺を相手に妄想を始めた」

赤松「え? え?」

百田「妄想の内容は今は言いたくない。ひとまず黙秘させてもらう。が、これでわかったことがある」

百田「この鍵は『最原の妄想を具現化させる』。つまりある程度ではあるが、最原が自分のことをどう思っているかがわかるんだ」

東条「あ、あのぅ。色々と質問は山積みなんだけど……」

百田「なんだ?」

東条「その説明を聞く前に春川さんが鍵を使ってエレベーターに乗り込んじゃった……みたい?」

天海「夫の浮気相手を殺しに行く団地妻みたいな顔してたねー」

百田「……アイツは……!」ギリッ

こっから先は集中力を必要とする内容なので、今日のところは寝ます!

次の更新は朝か昼!

ラブアパート。個室内

春川「モモタンのことを弄んだ泥棒猫はどこ!?」

春川「暗殺者の私がじきじきに相手してあげるよ! 生まれて初めて、私怨によってね!」キョロキョロ

最原「……」

春川「なんか最原がいるけど、これが関係あるとは思えないし……」

春川「くっ。泥棒猫はもう既に逃げたか……逃げ足の速いヤツ……夢野みたい」

最原「まあまあ。春川さん、落ち着きなよ。やっと仕事が終わったばっかりなんだからさ」ニコニコ

春川「……」

春川「……ん? 仕事?」

最原「はあ。それにしても今日の敵は手強かったね。まあ、僕と春川さんのコンビなら、なんてことないんだけどさ」

春川「コンビ……?」

春川(……ん? あれ……そういえば、何でこんなところに最原が?)

最原「本当にさ。僕は感謝しているんだ。春川さんと一緒に仕事できる幸運に」

最原「元探偵と元暗殺者。この二人が組めば、どんな犯罪者やテロリストが相手だって負ける気がしないよ」

最原「知ってる? 警察署内ではさ、僕たちのこと『最強コンビ』って呼ぶ人もいるらしいよ?」

最原「捻りが無さ過ぎて笑っちゃうけど……でもちょっと嬉しく思ってるんだ」

春川「えっ」

春川(最原と私が……警察……?)

春川(なんだろう。ノリはわからないけど……単なるごっこ遊びって感じはしない)

最原「あのさ、こんなことを今更訊くのは恥ずかしいんだけど……」

最原「春川さん、僕が相棒ってことに、どう思ってる?」

最原「ちょっと自信がなくってさ……だって春川さん、凄く優秀だから。他にいい相棒がいるんじゃないかって」

春川「あの最原から自信がないなんて言葉が出るなんてね」アハハ

春川(……って、うっかり乗ってしまった)

春川(でも最原と一緒に、悪党を捕まえる仕事か……それは……多分、楽しいだろうな)

最原「はぐらかさないでよ。僕は本気で訊いてるんだ」

春川「……んん」

春川(むずがゆい、ていうか面はゆい。状況はまったくわからないけど、言葉通り本気らしい)

春川(仕方ない。事情はわからないけど、乗ろうか)

春川「最原が私の相棒に相応しいかどうかはわからないけどさ」

春川「一緒にいて一番楽しい友人はあんただよ」

春川「だから、多分、まあこれでいいんじゃない?」

春川「最原はどう? 私と一緒にいて、楽しくない?」

最原「楽しいに決まってるじゃないか! キミと一緒に悪党を倒すこの仕事が、僕の生き甲斐になってるくらいだ!」

最原「でも、それだけでいいのかなって……春川さん、国際警察にスカウトされてるんだろ? この前聞いたよ!」

春川(どれだけ優秀なんだよ私!)ガビーンッ!

最原「諜報機関からも、軍事機密局からも、国防総省からもスカウトを受けていることも知ってるんだ!」

春川(いや本当にどんだけ優秀なんだよ私ッ!)ガビビーンッ!

最原「僕は……最高の友人のキミを、送り出すべきなんじゃないかと思うんだ」

最原「だってどの組織も全部、キミのキャリアにとってのチャンスだからさ……!」

春川「最原……」

春川(……最高の友人、って。いよいよもって顔が熱くなってきたんだけど)

最原「キミと別れるのは、辛いんだけどさ」

最原「僕がキミの足手まといになってるんじゃないかって思ったら、もう考えずにはいられなくってさ……!」ポロポロ

春川「泣かないでよ。なんか、そういう湿っぽいのはやだよ」

春川(意味はわからないけど、貰い泣きしそうだし)

春川「……それに、最原は足手まといなんかじゃないよ」

春川「多分だけどさ。私は仕事のことが好きで、それ以上にあんたのことが好きだから相棒やってるんだ」

春川「……もちろんライクの方だけどさ。ラブの方はモモタンに捧げてるし」

最原「春川さん……!」

春川「だから自信を取り戻せ最原! 最原だって、私ほどじゃないにしろ優秀だからさ!」ニコニコ

最原「……は、はるがわざんんんんん……!」ボロボロ

春川「うわっ、一気に泣き顔が汚くなった! あーあー……ほら、ハンカチ貸してあげるから……」

最原「……僕は、誰かを守るために警察を続けるよ」

最原「最高の友人の春川さんと一緒に!」

最原「もう迷わない……定年まで、一緒に駆け抜けようね! 春川さん!」

春川「おうっ! 頼りにしてるぞ、相棒!」

春川(その後、私たちは他愛のない話を……ほぼ私には覚えのない話だったけど)

春川(とにかく話をしてから別れた)

春川(……最高の友人、か……暗殺者の私には、しばらく縁遠いものだと思ってたけど)

春川(こんな未来があったら、本当に楽しいだろうな……)

春川がエレベーターに乗り込んでから三十分後。エントランス


春川「ただいまー」ホクホク

アンジー「解斗とは違って魔姫はわかりやすくていいねー」

アンジー「いいことがあったって顔にデカデカと書いてあるよー」

春川「あー……えーっと、まあいいことって言ったらそうかもだけど……」

春川「……モモタン、なにあれ?」

百田「説明を聞く前にお前が出てったんだろうが……」

春川「あっ! すっごい呆れられてる! ごめんって! だっていてもたってもいられなくってさ!」

百田「改めて、だ。あのエレベーターに乗った先には個室がある」

百田「そこにいるのは最原だ」

百田「最原は、鍵を使った人間に対して妄想を始める」

百田「内容は……おそらくだが、人それぞれ、だと思う」

百田「『普段そいつのことをどう思っているか』と『どうなりたいか』という願望が混ざった妄想になるはずだ」

百田「……仮説だがな。春川、実際どうだった?」

春川「あー……そう言われると、確かに最原ってばそんな感じだったね」

春川「私のことを『最高の友人』だって、臆面もなく言うんだもん」

春川「嬉しかったけど、恥ずかしすぎて顔が爆発しそうだったよ」

赤松「……」ホッ

アンジー「おっ? 楓、今ホッとしたねー」

アンジー「『実は終一は魔姫のことが好きなんじゃないか』って、ずっと不安だったのかなー?」

赤松「ち、違うって」プイッ

入間「なるほど。だからこそ、最原くん以外の全員へのプレゼントだったのね」

入間「成績優秀者が一番入れ込んでいるのは誰かを知るバロメーター……それがこの鍵の正体」

真宮寺「……確かに乗る価値のある企画ね。で、次は誰がやるのかしら?」

赤松「あっ、わっ、私っ……」ゴニョゴニョ

入間「私が行くわ」ガチャリンコ

赤松「入間ァ!」

入間「ふふふ……まあ、彼が私様にどんな妄想を抱いているのか、ある程度想像は付くけど」

入間「余興よ。たっぷりと甘やかしてあげるわ……」

東条「うわぁ、自信と慢心と過信たっぷりに行っちゃったよ……大丈夫かなぁ……」

百田「……まあ、最原は入間に色んなものを作らせているからな」

百田「ヤツの自信も、そこまで的外れではないはずだ」

赤松「……」イライラ

白銀「ちょっとは落ち着け」

東条「うーん。長丁場になりそうなら、全員分のドリンクを何かしら用意してくるね。何がいい?」

赤松「ココア! ホットで!」

東条「はーい」

春川(……あれ。そういえばモモタンに最原がどんな内容の妄想してたのか聞いてない)

春川(ま、いっか!)

最原「……」

入間「……ふっ。本当にいたわね」

入間「まあ、あなたが私様をどう思っているかなんて既にお見通しよ」

入間「この美貌、この頭脳。私様はすべてにおいて完璧だわ」

入間「さあ、その華奢な体に秘められた情熱を、すべて私様に見せて――」

最原「おい。何調子に乗ってるんだよ」

入間「え」

最原「いつ僕がキミに喋っていいって言った?」ギンッ

入間「……んっ? 最原くん?」アセアセ

最原「最原くん……? 違うだろ」ハァ

最原「『ご主人様』……だろ?」ギロリ

入間「……」

入間「……えっ」ダラダラダラ

最原「やれやれ。やっぱりキミは出来の悪い下僕だ。僕の授業のことをすぐに忘れちゃうんだからさ」

入間「げ、下僕ぅ!?」ガビーンッ

最原「こうなったらもう……補修、するしかないね。今度こそ忘れないよう、しっかりと」スタスタ

入間「ちょ、待ちなさい。こっち来ないで。なんで私様の方が下僕なの!? だって、逆じゃ――」

最原「よっと」ガシッ ポイッ

入間「あっ」

入間(……腕を掴まれたかと思ったら、引っ張られてバランスを崩して……)

入間(私様は部屋に備え付けられていたベッドに仰向けの状態になっている)

入間(視界の隅には不機嫌そうな無表情の最原くん)

入間(えっ、ちょっと待って。補修? 私様、何をされるの!?)アワワワワ

最原「よっと」ノシッ

入間「……お、乙女の体に馬乗りになるなんて、あなたどういう教育を……」

最原「右手を出して」

入間「はい」

入間(……ハッ! うっかり素直に差し出してしまった! 何故!?)

最原「……」チュッ

入間「ヒッ……」ゾクッ

入間(思考が止まるような痺れ。その正体は、最原くんが私様の右手のひらに落としたキスだった)

入間(それは天才である私様にとっても未知の感覚……痒いようで、むずがゆいようで、熱い)ゾクゾク

入間(随分と長いキスで、差し出した右腕の和服の袖が捲れていく)

入間「……って、あ、あなた、何を……」

最原「補修だって」チュッ

入間「ああっ!」ゾクゾクッ

入間(少し口を開いた後、すぐに最原くんはキスを再開する)

入間(……ん? 待って、今こころなしか、キスの位置が下がったような……手首あたり?)

入間(いや、どっちにしろおかしい! なんでキスだけで、こんな……!)

最原「……」カプッ

入間「痛っ……」

入間(……いや、痛くはない。刺激はちょっと強いけど、単なる甘噛みだ。前腕のあたりをドーナツのように齧られている)

入間(さっきから右腕ばっかり……な、なんでこんなマニアックな責めを……!)

最原「……物足りなさそうな顔だね」

入間「はっ?」

最原「キチンとおねだりできたら、もっといいのをあげるよ?」

入間「……じょ、冗談でしょう……私様が、そんな……そんな簡単に……」ワナワナ

最原「……」ガリッ

入間「あああああああっ!」

入間(今までで一番強い力で、親指を噛まれる。いきなりだったので、つい声が出てしまった)

入間(こ……この私様が……この私様が……こんなぁぁぁぁぁぁぁ……!)ゾクゾクゾクッ

最原「……で? いつまで反抗するの?」

入間「……」ハァハァ

入間「ご……ご主人様……この何もわからない入間美兎に……もっと……補修を……」

最原「よくできました」ガバッ

入間「あっ」

数十分後 エントランス

入間「……」ズーン

百田「凄い沈んでいるな」

キーボ「まあ、あれだけ目をかけていた最原クンが入間さんのことを『下僕』だと思っていたと知ったら、さもありなんでしょう」

キーボ「やはり人類は醜いことこの上ないですね」ヤレヤレ

東条「い、入間さん。元気出して……」オロオロ

入間「うう……単なる下僕扱いだったならまだしもよかったのかもしれないのに」

入間「後で最原くんに仕返しすればいいだけなのに……」

入間「わかる!? 東条さん! 私様は、あの最原くんに体だけじゃなくって心まで屈服させられたのよ!?」

入間「鎖骨! 内もも! 二の腕! その他諸々は散々弄んだのに!」

入間「どれだけ強請っても口にキスをくれなかったときの私様の恥辱がわかる!?」

入間「あの男っ! どうせやるんなら最後までやればいいものをおおおおおお……!」サメザメ

東条「わ、わかったよ。もうわかったよ入間さん! やめよう! なんか聞いてるこっちが恥ずかしいから!」カァァ

赤松「……」

夢野「羨ましい、とか思ってはダメじゃぞ? あれはダメな例じゃ」

赤松「はあ!? 全然思ってないし!」

星「……! ……! ……!」ヒーヒーッ

白銀「おい! 大変だ! 星が笑いすぎて息ができてない!」

入間「そのまま窒息して死ねばいい! 私様もすぐトイレットペーパーで首を絞めて死んでやるッ!」

天海「あ。フックの法則を使うといいよー。多分ギリギリ死ねないことはない強度になると思うよー」ニコニコ

東条「止めてよぅ! 勧めないでよぅ!」

百田「こういうこともあるのか……意外と危険だったな、この鍵」

赤松(ちょっと怖くなってきたかも……)

百田(……しかし、そんな大量にキスをされたのなら、着衣は乱れててしかるべきだろう)

百田(だが出てきた入間の服はしっかりと着こまれていて、目立ったシワもなかった)

百田(今日の朝のドタバタは入間が『自力で和服を着れないから』起こったものだ)

百田(……もしかすると、あの部屋で起こったことは『現実では起こっていないこと』なのかもしれない)

百田(最原の人格をあれだけ再現するのは難しいから、あの部屋にいる最原そのものは本物だろうが……)

春川「モモタン、何を考えてるの?」

春川「……あっ。えっと、その……あんまりマニアックなプレイは、私はイヤかなって……」カァァ

百田「……」

星「……でっ……で? 次は誰が行く……はぁーっ……はぁーっ……」

白銀「まだ息が乱れてるぞ。どんだけ笑ったんだ……」

東条「入間さん。きっと最原くんは、あなたのことを下僕だなんて思ってないよ」

東条「下僕にしたいとは思ったかもしれないけどさ……」

東条「だから、元気出してよ。ね?」

入間「東条さん……ありがとう。ところでちょっとあなたの鍵を出してくれる?」

東条「え? こう?」

入間「で、エレベーターの傍まで私様と一緒に来てくれる?」スタスタ

東条「え? こう?」スタスタ

入間「よし」ガチャリンコ

東条「えっ」

赤松(入間が東条の手を鍵穴に導いて、ドアを開けさせた……!)

入間「あなたも同じ目に合えばいいのよ。そしたら私様の気持ちがわかるわ」ゲシッ

東条「ふえええええ!?」ガビーンッ

赤松「と、東条ーーーッ!」ガーンッ

赤松(次の犠牲者は、入間にハメられた東条!?)

入間「ふふ。ふふふふふ。ふふふふふふふふふ」

王馬「完全に正気を失ってるね」

アンジー「そっとしておいてあげよー」

休憩します

東条「……」

最原「……」

東条(本当にいる……どうしよう。入間さんみたいに過激な妄想だったら)

東条(さすがにそういう方向は対応できそうにないなぁ……やってやれないことはないと思うけど……)ズーン

最原「……あのさ。何か悩みでもあるの?」

東条「へっ?」

東条(あ、あれ。心配されてる? よかった。入間さんみたいに一方的に下僕にされたりはしないみたい)ホッ

東条「う、ううん。なんでもないよぅ。心配してくれてありがとう、最原くん」

最原「はは、なに、最原くんって。先生みたいだ」

最原「いつも通り『シューくん』って呼んでよ。斬美お姉ちゃん」ニコニコ

東条「」

東条「……」

東条「……シューくん!?」ガーンッ!

東条(いや、ていうか斬美お姉ちゃんって。私は最原くんの何なの!?)

最原「……そうだ。そろそろ僕がここに引っ越してきて三年くらいだね」

最原「ということは、斬美お姉ちゃんと遊ぶようになってから、三年くらい経つってことだよね」

最原「お母さんがさ、褒めてたよ。『いつも留守にしがちだから、斬美ちゃんが家事をしてくれて助かってる』って」

最原「僕もさ、斬美お姉ちゃんの作ってくれる料理、大好きなんだよ!」

東条(き、近所のお姉ちゃん設定かーーー!)

東条(よ、良かった! これなら対応できる! やれる! 私ならやれるよぅ!)

最原「あの……さ。良かったらなんだけど……」

最原「明日、一緒に買い物に出かけない?」

東条「買い物?」

最原「うんっ! いっつも斬美お姉ちゃんにはお世話になってるから、今度は僕の番!」

最原「コツコツ貯めたお小遣いで、お姉ちゃんにプレゼントしてあげる!」

最原「……あんまり高いのは、ダメだけどさ……でも、これが僕の気持ちだから」ニコニコ

東条「……」キュンッ

東条(あれ。なんか心臓が締め付けられたような……)

最原「……もしかして、イヤ?」

東条「えっ」

東条「あっ……い、イヤじゃない! イヤじゃないよ、さいっ……シューくん!」オロオロ

東条「でも、私が好きでやってることだから、お礼なんていいのに……って思ってさ」

最原「あはは。じゃあ僕と一緒だね。僕も好きで斬美お姉ちゃんにプレゼントするんだ」

最原「……お願いだからさ。僕にも斬美お姉ちゃんに、何かさせてよ」

東条「……」キュンキュンッ

東条(ふああああ……こ、これいいかも……なんか凄く胸がポカポカして……)ギュッ

最原「きっ、斬美お姉ちゃん!?」

東条「……ハッ!?」

東条(私はいつの間にやら、シューくん、じゃなくて最原くんを抱きしめていた)

東条(完全に無意識の行動だった!)ガーンッ!

東条「あ……あの、これは……」ダラダラダラ

最原「……あはは。いつまでたっても、斬美お姉ちゃんからは子ども扱いだなぁ」

東条「ご……ごめん」ギュゥ

東条(とか言いつつ離れるタイミングを見誤る私。なんか、放したくない……)

東条(具体的にこの感情に名前を付けるなら庇護欲!)

最原「ね。斬美お姉ちゃん。お姉ちゃんは僕にとって頼れるお姉ちゃんだよ」

最原「だからさ……僕がキチンと大人になったら、今までのこと、何万倍にして返してあげる」

最原「そのときはもう、子供扱いなんてやめてよね。約束だよ」

東条「……約束?」

最原「うん、約束。指切りしよう、指切り」

東条「……」

東条(私はシューくんから体を放し、笑顔で小指を絡ませる)

東条(向き合った彼の顔は、さっきよりもどことなく大人びて見えて――)

数十分後 エントランス

東条「……」ポケー

百田「なるほど。『頼れるお姉ちゃん』か」

茶柱「むう。納得ですね。東条さんの家事スキルはこの中の誰よりもぶっちぎりで優れてますから」

入間「納得できるわけないでしょっ!」ダンッ

入間「なんでっ、私様が下僕でっ! 東条さんが頼れるお姉ちゃんなの!」

春川「入間。最原になにかしたんじゃない?」

入間「覚えがないわよ……!」ワナワナ

星「いや、俺はわかるぞ。すました女の顔をグッチャグチャにしたいという欲望はな……」

星「男なら誰しもが持つものだ。別に入間が悪いわけではない」フン

春川「……男の子って、そういうもの?」

百田「俺に聞くな」

星「さて。傍から見ているのも爆笑ものだったが、そろそろ俺自身が行くとしようか」

赤松「えっ」

赤松(そろそろ私が行こうかなと思ってたのに)

星「……くっくっく。超高校級の探偵である最原が、超高校級の囚人でもある俺のことをどう思っているのか」

星「しっかりと確かめさせてもらおう」

獄原「……」ゴゴゴゴゴゴゴ

獄原「……アンジーさん。今、僕のポケットから鍵をスろうとした?」ゴゴゴゴゴゴ

アンジー「……し、してないよー。いやだなー」ダラダラダラ

赤松「どさくさに紛れて何してんの……」


ガチャリンコ

ご飯食べてきます!

最原「……」

星「よう。最原」

最原「星くん……」

星(さて……妄想の中では、俺は一体どんな存在になっているのやら……)

星(楽しみでたまらない。好かれているとはまったく考えてもいないが……)

最原「はは……いつも通りだね。星くん」

最原「明後日には処刑されちゃうっていうのにさ……」

星(そう来たかーーーッ!)プルプル

最原「なんでちょっと笑いこらえてるの?」

星「い、いや。なんでもない。続けてくれ」

最原「星くん。キミの貸した依頼はすべて完遂したよ」

最原「レポートは後で纏めて看守に渡すから、目を通しておいてね」

星「依頼?」

最原「キミが言ったんじゃないか。『俺はもうここから動けないから、お前が代わりに行ってくれ』って」

最原「星くん、この世に残ってる未練を全部押し付ける勢いで依頼したでしょ」

最原「キミの母校の先生を探して会ったり、部活の先輩に伝言したり」

最原「はたまた、一度は行ってみたかったっていう絶景スポットの写真まで撮らされたんだからね」

最原「忘れたとは言わさないよ」

星(妄想だから覚えがなくて当然なんだが)

星(ふむ。しかし、そういう趣向も悪くない。実際そんなことになったらマジで最原にやらせるか)

最原「この依頼をこなしている間、まるで僕自身が星くんの人生を追体験しているような気分だったよ」

最原「不思議な旅だったな……はは」

星「……どうした。お前は依頼をやり遂げたんだろう?」

星「だったらもっと胸を張れ。なんでそんな浮かない顔をしている?」

最原「……」

最原「……ぐっ……うう……星くん……!」ポロポロ

星「最原?」

最原「僕は……泣かないって決めてたんだ……決めてたのに」

最原「キミの生涯最後の友として……笑って見送るつもりだったのに……」

最原「や、やっぱり無理だよ……なんで……なんでなんでなんでなんで……!」

最原「星くんが死ななきゃいけないのさッ!」ダンッ

星(……)

星(何も残っていない俺の、『生涯最後の友』、か……それがお前の望む関係なんだな)

星(甘いな。甘くて、甘っちょろくて、優しすぎるヤツだ。赤松とかが惚れ込んだのも、こういう面なんだろうな)ヤレヤレ

星「最原。お前はよくやってくれた。俺はお前という友を持てたことを誇りに思う」

最原「……星くん」

星「……くっくっく。やはり俺の人生は素晴らしいものだった」

星「欲望に走り続けた俺の生は、きっと間違いだらけだったが……」

星「最終的に残った未練が一つだけなら上出来すぎる」

最原「え?」

星「わからないか? お前が俺の生涯最後の友なら」

星「お前は同時に、俺にとって生涯最後の未練なんだぜ?」

最原「……」

最原「……はは、参ったな。絶交でもする?」

星「いや。俺は業突く張りだからな。死んだ後でも欲望に走ろう」

星「俺は地獄行きだろうからな。閻魔大王にでも自慢するさ」

星「『俺には最高の友がいたんだぜ』ってな」

星「この絆は持っていく。仮にお前が絶交しようが関係なくな」

星「ふははははは! なんてことだ! 今まで楽しむために生を謳歌していたっていうのに」

星「今では死ぬのが楽しみになっているときている!」

星「ああ、全部お前のお陰だ最原。だから泣くな! 笑え笑え!」

星「ふはははははははははは!」

最原「……ふふっ。あはははは……」

星「ああ……いい顔だ。本当に! 涙でぐっしゃぐしゃなのが気になるが!」

星(俺は実際にそのときが来たときでも、こんなふうに最原を笑顔にできるだろうか)

星(……いや。やってやろう。弱気なのは性に合わない)

星(生涯最後の友になりたいと思ってくれるコイツのために)

星「俺は……最後の瞬間まで、生きて生きて生きて……生き続けてやる!」

星「うおおおおおおおおおおおおおお!」

数十分後 エントランス

星「酒! タバコ! ……は、未成年なので論外だが」

星「女! 食べ物! 娯楽! なんでもやるぞ!」

星「俺は……真の意味で生きることを決意したのだからな!」

赤松「えっ。いつも通りじゃない?」

白銀「あー、いやー……心なしか悪化してる気がするな」

真宮寺「元から精力に溢れてたけど、今は精力が噴火してるって感じね」

白銀「マンガ的表現ならここで目から炎が出てるぞオイ」

百田「生涯最後の友、か」

赤松「アイツなら言いそうだけど」フン

茶柱「なんであなたが誇らしげにしてるんですか」

赤松「さ、さてと。それじゃあそろそろ私が……」ドキドキ

獄原「許さないよ……今度はこのミツバチさんの針による針治療の実験に付き合ってもらう」ゴゴゴゴゴ

アンジー「いやー! いやー! 助けてー! 助けて諭吉ーーー!」ダダーッ

アンジー「あ、間違えた! 終一ーーー!」ガチャリンコ

赤松「何その流れ!?」ガビーンッ

白銀「次はアンジーか……確かアイツ、恒常的に『終一をお婿さんにする』とか言ってなかったか?」

白銀「サブリミナルは恐ろしいぞ。人間がカタツムリになるくらいな」

赤松「……む、ぐ……」

夢野「まあ、早めに好意を伝えたアンジーじゃ。入間みたいな目には遭わんじゃろう」

入間「……」ズーン

最原「……」

アンジー「ぜぇっ……ぜぇっ……あー……怖かったー。本当に怖かったよー……」

アンジー(……んー。勢いでうっかり入っちゃったけどー)

アンジー(終一はアンジーのことどう思ってるんだろう)

アンジー(美兎みたいに、劣情をぶつけられたりするのかなー……)

アンジー(……それはそれでいいかもねー)ムラッ

最原「……はあ……」

アンジー(あ、あれ。なんか様子がおかしい)

アンジー(アンジー、呆れられてるー……?)

最原「また悪いことをしてきたんだね。まったくいい加減にしてほしいよ」

アンジー「あ、あれっ。終一? もしかしてその……怒ってるのかなー?」

最原「見てわからない?」

アンジー「……」

アンジー(うう……や、やっぱり普段からアンジーのことを鬱陶しく思ってたのかなー……)

アンジー(全然不思議じゃないけど)

最原「次に何か悪いことをやるときは、僕も一緒だよって言ったはずだ」

最原「アンジーさん一人だけじゃ、やっぱり不安だしさ」

アンジー「……」

アンジー「……んっ? 逆転ホームランの流れ!?」キュピーンッ!

最原「いやまあ、犯人側になるのは僕だってイヤだけどさ」

最原「アンジーさんが『また』あんなことになるのは耐え切れないし……」

アンジー(アンジー過去になにやらかしたんだー!?)ガビーンッ

最原「キミは僕にとって目の上のタンコブだけど、同時に悪い友人でもあるんだ」

最原「どうしても何かやりたいことがあったらさ、相談してよ。度が過ぎてるものならともかく、ほぼなんとかできると思うからさ」

アンジー「しゅ、終一は……こんなアンジーのことを大事に思ってくれてるの……かなー?」

最原「……まあ、ことここに至っては……」

最原「離れるのはイヤだなって、思う、よ……」カァァァァ

アンジー「……」

アンジー「……」ムラムラッ

アンジー(じ、じじじじじ自分が正気ではなかったことに感謝するんだねー……)

アンジー(い、いいいいいい今ここで終一を襲っても何も得られるものはない……)ガタガタ

アンジー(にゃ、にゃはははははははは……にゃはははははははは!)

最原「また悪いこと考えてる顔だ」

アンジー「にゃははー! もう心配はいらないよー!」

アンジー「アンジーと終一は、もうどこに行くにしても絶対に一緒だからねー!」

アンジー「……吐いたツバを飲み込んだら、第六親等の家族まで破滅させるよ。アンジーの財力で」

最原「……肝に銘じておくよ」

アンジー「……あ、ああ、もう限界が近い……なー」

アンジー「だ、抱き着くくらいなら、いいよねー……?」

エントランス

アンジー「本当にすみませんでした。多分またします。でも許してください」ドゲザッ

獄原「ミツバチの針、六回刺しくらいで勘弁してあげるよ」ゴゴゴゴゴゴゴ

百田「悪い友人……ここまでの妄想はほぼ良識の範囲内だな」

入間「私の『下僕』以外はね……」ズーン

春川「そろそろ誰か入間みたいな爆弾引いてよー。コイツそろそろマジで自殺しちゃうよー?」

真宮寺「……ふぅ。仕方ないわね。次は私が行くわ」

赤松「真宮寺が?」

真宮寺「ん。まあ、私ってこんなナリだし。多分妄想も結構斜め上のものになると思うのよね」

茶柱「真宮寺さんの存在そのものが、どこか斜めってますしね」

真宮寺「それじゃあ、行ってきます」

茶柱「行ってらっしゃーい」

アンジー「あっ……ああっ……! い、痛い……でもっ……!」

獄原「あと……五回……」ゴゴゴゴゴゴゴ

百田「頼むからもうちょっと端でやってくれ」

最原「……」

真宮寺(さて……一体どんな妄想になるのかしら)

真宮寺(今までの傾向から考えると、最原くんの性癖は割と世間一般のそれに近いようだし)

最原「やあママさん! また来たよ!」

真宮寺「……ん? 今なんて?」

最原「あ……ごめん。もしかして今は営業時間外だったかな」

最原「今すぐ報告したいことがあったから、外の看板見ずに来ちゃった」

真宮寺(え、私、居酒屋かスナックか何かのマスター役ッ!?)

真宮寺(何故っ!?)

真宮寺「……ひとまず座ったら? 何も出せないけど」

最原「あ、うん! ありがとうママさん!」ニコニコ

真宮寺(普段見ないくらい上機嫌ね……)

最原「……でさ、ママさん! 聞いてほしい報告っていうのはさ」

最原「なんだと思う? なんだと思う?」

真宮寺(見当もつかないのだけれども)

最原「実はさ……僕、今度結婚することになったんだ!」

真宮寺「あらそう。それはよかっ……」

真宮寺「は?」

最原「あっ! 相手はママさんも知ってる人だよ! 初めてこのバーに来たとき、僕の隣に座ってた『あの人』だよ!」

真宮寺(当然ながらまったく心当たりはない)

最原「ママさんはそんなつもりはなかっただろうけどさ……」

最原「僕、ママさんに感謝してるんだ」

最原「ママさん自身はそう思ってないだろうけど、あなたって本当に話し上手だからさ」

最原「……他の友人には、とても言えない本音とかも零したことがあるんだよ?」

真宮寺「え? 本当に?」

最原「うん。ママさん、口が堅いしさ」

最原「それに、本当に楽しいんだ。ママさんの話す民俗学の講義とか……」

最原「たまに不気味に思ったりもするけどね」アハハ

真宮寺(最原くんが、そんなこと……全然気づかなかった)

最原「僕の知ってる友人の中で、一番話してて楽しい人だよ」

最原「……まあ、ずっと一緒にいると疲れるけどさ」

真宮寺「なんですって?」ギンッ

最原「うわ、怒った」

最原「……ということで、結婚式の日にちが決まったら、絶対に呼ぶよ」

最原「あ。スピーチはさせないけどね。話が長くなっちゃいそうだし」

真宮寺「あら。それは残念だわ」

真宮寺(って、既に慣れてきてしまった……)

最原「……ママさん。改めて、ありがとうね」

真宮寺「いいのよ。その決断も、その結果も、全部あなたのものだわ」

真宮寺「私は全然関係ないじゃない」

最原「……はは。ママさんらしい」

最原「ねえ。僕は今、幸せだよ。この幸せの一部分くらいはさ、友人として、いつかおすそ分けできたらいいな」

真宮寺(……幸せを分けてあげてもいいと思われる程度には、友人だと思われていたのね)

真宮寺(ああ、なんというか……まあ、この程度の距離感は、私にとっても心地いい……)

数十分後 エントランス

真宮寺「――という感じで、設定自体は奇抜だったけど、どうも普通に友人とは思われていたようね」

真宮寺「ポジションは『話してて楽しい友人』ってところかしら」

入間「死のう」

夢野「やめい!」

百田「ふむ……真宮寺でもダメとなると……」

百田「今度こそ正真正銘、爆弾を抱えている可能性がオーバーフローしているヤツを送った方がいいな」

赤松「……キーボ」

キーボ「まあいいでしょう! 敵情観察に利用するため、あなたたちの提案にあえて乗ります!」

春川(コイツ、人類を愚かと切り捨ててる割には、私たちと一緒にいて楽しそうだよなぁ……)


ガチャリンコ

晩御飯作ってきます

最原「……」

キーボ(さて。最原クンは一体、ボクのことをどう思っているのか……)

キーボ(勇んで来たのはいいのですが、完全に予想が付きませんね)

最原「……やあ。来てくれたんだね、キーボくん」

最原「忙しかっただろうに、悪いね」

キーボ「忙しい? ボクが?」

最原「うん。だってさ。世界は今、大変なことになってるじゃないか……」

最原「キミの率いる機械軍と、ボクが率いる人類軍。その最終戦争の真っただ中だから、仕方ないんだけどさ」

キーボ(り、理想郷の実現間近なんですか!)

キーボ(ていうか人類軍のリーダーが最原クン!? すごっ!)

最原「……あはは。なんでこんなことになっちゃったんだろうね。もう涙を通り越して笑いしか出てこないよ」

最原「むかしはこうじゃなかったのにさ……」

キーボ「ボクは最初っから人類のことは嫌いでしたけどね!」

最原「そっか。こうなるのも、必然……運命だったのかもしれないね」

キーボ(待てよ。人類軍のリーダーが、機械軍のリーダーのボクを呼び出した……?)

キーボ(まさか、ボクのことを暗殺する気なのでは……)

キーボ(やはりみんなの大方の予想通り、ボクの鍵も爆弾付きだったようですね)

最原「……あ。安心していいよ。少なくとも僕は完全にプライベートで来てる」

最原「暗殺の心配はないからさ」

キーボ「はっ?」

最原「その様子だと、そっちも同じみたいだね……」

キーボ「……わかりませんね。理解不能です。一体、ボクを呼び出して、あなたは何をするつもりなのですか」

最原「キーボくん。遊ぼうよ!」

キーボ「遊び?」

最原「うん! 明日になったらまた僕たちは殺しあわなくっちゃいけないでしょ?」

最原「だからさ。お互いに後悔しないよう、今のうちに一生分を遊ぶんだ!」

最原「むかしみたいにさ!」

キーボ(最原クンの妄想の中では、ボクたちは幼馴染なのでしょうか)

最原「……ダメ、かな?」

キーボ「まったく理解不能です……が、しかし、断る理由もありませんね」

キーボ「せっかく足を運んだのですから、少しは何かしていかないと、それはそれで非効率です」

最原「キーボくん……!」

最原「不思議だよね。キミはずっと人類に対しての敵意をむき出しにしてきた」

最原「キミは僕たちにとっての天敵だ」

最原「なのに、今はこうやって、友人みたいに普通に遊ぶこともできる」

最原「感情があるのは、ロボットも人間も同じなんだね」

キーボ「何を当たり前のことをしみじみと」

キーボ「で。何をして遊びます?」

キーボ「……これが終わったら、もうボクたちは今まで通り敵同士ですからね」

最原「うん! わかってるよ! それじゃあ最初は……」

キーボ(天敵、か……)

キーボ(キミは僕のことを、ちゃんと敵として認識してくれるのですね)

キーボ(ならば、ボクも容赦はしませんし、今まで通りのスタンスを崩しません)

キーボ(ボクはボクの理想のために活動を続けます)

キーボ(それがボクの存在意義……希望だから)

エントランス

キーボ「というわけで、最原クンはボクのことを『天敵』と認識してくれていました!」

キーボ「やはりボクの鍵もしっかり爆弾付きだったということです!」

赤松「……い、いや。なんか違う。なんか思ってたのと違うよ!」

天海「うーん、なんていうか、それってかなり」

入間「爽やかーーーッ!」ウワァァァン!

百田「ああ。少なくとも入間みたいに決定的に見下してはいないな」

王馬「うーん。こうなったらもう、最原ちゃんとの関係の間に爆弾を抱えている人材なんて……」

赤松「……王馬は?」

王馬「えっ。俺っ?」

春川「あー……犯罪者だしねー。探偵の最原の天敵ではあるかも」

百田「……王馬。行け」

王馬「うーん、仕方ないなぁ」ガチャリンコ

最原の妄想備忘録

百田:本人黙秘のため不明
春川:最高の友人
入間:下僕
東条:頼れるお姉ちゃん
星:生涯最後の友人
アンジー:悪い友人
真宮寺:話してて楽しい友人
キーボ:天敵

今日のところはここまでっすかね。

大丈夫! 茶柱さん以外は全員ある程度考えてる! 茶柱さん以外は!

おやすみなさい

最原「……」

王馬(ふむん。さて、俺の場合はどの方向性で来るか)

王馬(キー坊系統か、あるいは入間ちゃん系統か)

王馬(まあどっちにしても、つまらなくはないだろうけど)

最原「小吉! パパはとっても悲しいよ!」

最原「また学校でイタズラしたんだって? 先生から苦情の電話が来たよ!?」

王馬「えっ」

王馬「……えっ。パパ?」

最原「バレンタインチョコの付属の手紙を、それぞれ他のヤツと入れ替えるなんて」

最原「とてもじゃないけど人間の沙汰とは思えないよ!」

王馬(あ、あーーー! 確かに俺ならやりそう!)

最原「ああ、もう。キミってヤツは本当に問題児だよね!」

最原「学校では誰が誰に告白されたのかわからなくて大混乱だったらしいじゃないか!」

最原「もう二度とこんなことしないように!」

王馬「うん、わかったよパパ! 今年はもう二度としないよ!」

最原「今年のバレンタインはもう終わったんだよ!」

王馬(ちっ。流石にバレたか)

最原「……ごめん。一方的に怒って」

最原「小吉がこんなことするのは、ちょっとは僕のせいでもあるのにさ」

王馬「え? なんで?」

最原「なんでって……僕はキミのママとの再婚相手だろ?」

最原「だからさ、ちょっと距離感がわからなくって……」

最原「キミには寂しい思いをさせたかもしれないね……」

王馬(いや、俺が実際こんな状況になったとしても、多分それは関係ないと思う)

最原「イタズラをやめろ、という権利は僕にはない」

最原「なんだかんだでキミ、程度は考えてるしね。怒りはするけど、憎むことはできない」

最原「本当、僕もキミも問題児だよ。どう付き合えばいいのか微妙に困る」

王馬(これ、ある程度は本当の最原ちゃんの本音も出てるな。多分だけど)

最原「……でもさ、一緒にいて退屈しないっていうのも本当なんだ」

最原「ずっといると胃に穴が開きそうだけど」

王馬「パパ……」

王馬「俺もおおよそそんな感じだよ。本当さ。俺は、嘘を吐かないことを信条にしてるからね」

最原「うん、知ってる」

最原「……今日はちょっと夜更かしして、ゲームでもする?」

王馬「いいね! 負けた方は罰ゲームとして、勝った方とゲームするってのはどう?」

最原「エンドレスで眠れなくなるじゃないか!」

王馬「飽きるまでは遊んでいたいのさ。わかるだろ」

最原「やれやれ……」

王馬(……しかし問題児か。この学園では比較的おとなしくしてたはずだけど)

王馬(DICEの事件簿とかを見て妄想を膨らませたのかな)

王馬(……考察は後にするか。今はこの茶番を楽しもう)

エントランス

百田「……王馬も爆弾ではなかったな」

春川「今まででは一番『厄介な相手』だと思われているみたいだけどね」

王馬「うん。なんか知らないけど最原ちゃんからは『問題児』扱いされてたよ」

王馬「犯罪者なんだから当たりまえ、納得できるんだけど」

入間「……」

百田「……チッ。仕方ない。そろそろ最後の手段を取るか」

百田「どうせ全員が鍵を使用するつもりだった。結果は同じだし、問題あるまい」

赤松「最後の手段?」

百田「白銀。行ってくれ」

白銀「……あ? 私か?」

百田「これはあくまで俺の勘。論理的な証拠は何もない。だが」

百田「お前はもしかすると、入間以上の爆弾を抱えている可能性がある」

百田「勘違いならそれもよし。本当に爆弾付きなら、それもよし、だ」

白銀「なんかよくわかんねぇが……まあ、いいだろう」

白銀「そろそろ私も、最原にどう思われていたのか気になるしな」

百田「……」

春川「……モモタン、どうしたの? なんか顔が怖いよ?」

百田「いや……爆弾付きと、スカ。どっちが生易しいだろうなって考えてた」

春川「はて?」


ガチャリンコ

最原「……」

白銀(……さてと。一体私は最原にどんな妄想を……って……)

最原「……」ニコニコ

白銀「……ん? なんか上機嫌だな。既に」

最原「それは上機嫌にもなるよ、白銀さん。いや……」

最原「史上最悪規模の誘拐事件、『恋愛観察バラエティー紅鮭団』の首謀者! 白銀つむぎ!」

白銀「」

白銀「……ハッ! 一瞬呼吸が止まってた!」

白銀(う、うろたえるんじゃあないッ! コスプレイヤーはうろたえないッ!)

白銀(そうだ、これは最原の妄想なんだ! 決して! 本当に! 私が首謀者とバレているわけでは……!)

最原「確かに今は決定的な証拠は何もない。でも……」

最原「僕は確信しているんだ。キミこそが、この事件の首謀者だって!」

白銀「な、なにを根拠に?」

最原「勘!」ズギャーン!

白銀(すっげぇーなコイツの勘!)ガビーンッ!

白銀「……いやいやいや! 勘じゃ何も証明できないだろうが! ふざけてんじゃねーぞコラ!」

最原「確かに、ふざけていることは否定できない」

最原「面白半分でキミを犯人だと突き付けていることは否定できない!」

白銀(探偵として致命的すぎる!)ガビーンッ!

最原「……でもキミが本当に首謀者なら……」

最原「僕にとって、キミは獲物だ。絶対に逃がしはしない」

最原「だから……」ドンッ

白銀「うおわっ」ドサッ

白銀(最原に突き飛ばされた私は、ベッドに倒れこみ、そして……)

最原「……覚悟しておけよ」

白銀(最原は倒れ伏した私に覆いかぶさり、顔を限界まで近づけ、宣言した)

白銀(……も、妄想の……はずだよな)ドキドキ

白銀(あとこのドキドキは、多分異性としてじゃなくって、恐怖感から来るものだよな……?)ドキドキ

エントランス

白銀「……」ズーン

春川「うわー。マジで爆弾だったっぽいよ」

東条「し、白銀さん。一体、あの部屋で何があったの? 最原くんに、何を……」

白銀「やめろっ! 聞くな思い出させるな連想させるなっ! 胸が悪くなるッ!」ガァ!

東条「ひい! ごめんなさいぃ!」

白銀「あの野郎……よりによって私を『獲物』だと……ふざけやがって……ふざけやがって……!」

入間「……ふっ」

白銀「……おい。私のことを見下せる立場か? 『下僕』ごときがよ」

入間「なんとでも言いなさい。ただ私様とあなたは同類よ」

入間「お互いに、傷を舐めあう方が建設的だと思うけど?」ニコニコ

白銀「舐めあうも何も……ああっ、くそっ! 間違ってもあの場で起こったことを説明できるか!」

赤松「一見して、白銀と最原はそこまで仲が悪く見えなかったけど……」

赤松「なんで?」

百田「……」

茶柱「あー。いやー。合気道家として意見していいですか?」

天海「どうぞ」

茶柱「ありがとうございます。転子はネオ合気道を収めている性質上、ゾーンが見えるんですけどね」

茶柱「一般的にパーソナルスペースと呼ばれているアレのことなんですけど」

茶柱「なんていうか……最原さん、白銀さんと話しているときだけ、微妙にそのゾーンが広がるんですよ」

茶柱「つまり、白銀さんは最原さんに『何故か』警戒されてたんです。表面は普通に仲良くしてましたけど」

白銀(全然気づかなかった……!)

茶柱「あ、あと天海さんもですね。天海さんも何故か白銀さんと話すときゾーンが広がります」

白銀(天海もかいッ!)

天海「うーん、なんでだろう。白銀さんと話すと首の後ろがチリチリするんだよね」

白銀「平和ボケして油断してたか……? くそっ、これからはちょっと気を引き締めないとな」

百田「さて。これで爆弾探しは終了だ。入間も元気になったしな」

入間「うふふ」

赤松「あ! じゃあ今度こそ私が!」

ガチャリンコ

赤松「……ん? 今誰か、エレベーターのドアを開けた?」

アンジー「ぜぇーっ……ぜぇーっ……ご、ゴン太だよー」

赤松「ご、ゴン太ァ!? なんで!?」

茶柱「ていうか、色々はだけてて背中が丸見えなんですけど」

茶柱「見苦しいのでさっさと服を正してください」

アンジー「らじゃー」セッセッ

最原「……」

獄原「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

最原「……あっ! 先生! この前提出した僕のレポート、どうでした? 自信があるんですけど!」

獄原「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

最原「……はは。先生は厳しいな。今回ばっかりは褒めてくれると思ったんだけど」

獄原「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

最原「でも、今回のことも次に活かします! 先生の笑顔を見ることが、僕の一つの目標ですから!」

獄原「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

獄原「……ふっ」

最原「あれ。今笑いました?」

獄原「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

最原「気のせいか……」

エントランス

獄原「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

赤松「い、いつの間にか行って、いつの間にか帰ってきてた!」ガビーンッ

獄原「……笑顔を見たい、と言われた……」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

獄原「そんなに不愛想だったかな……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

赤松(そもそも表情に影がかかってて見えないんだって。眼光だけはギラギラしてるんだけど)

獄原「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

赤松「ま、まあいいや。とにかく今度こそ私が」

茶柱「転子が行きます」ガチャリンコ

赤松「はあ!?」

茶柱「いえ、決して当てこすりなどではありませんよ。決して!」

赤松「聞いてないし、実際当てこすりだろっ! ああ、くそっ!」

夢野「……ふむ。いや、これでよいのかもしれん」

夢野「ここまで来たら、赤松は大トリを飾るべきじゃろ」

夢野「なんだかんだ、本命の可能性が一番高いのは赤松じゃからの」

赤松「む……ううう……」

天海「夢野さん、口が上手いねー」

夢野「頭の回転もフルスロットルにしておるからの! かっかっか!」

転子は「良い子なんだけど好き嫌いの激しい妹」ポジションと予想

最原「……」

茶柱(ふう。さてと。ひとまず赤松さんより先に到達することは成功しましたよっと)

茶柱(最原さんのことは嫌いではありませんし、赤松さんのことは大嫌いですが)

茶柱(流石に『隣の芝生は青い理論』で彼をぶんどったりしたら、転子はただのいじめっ子ですしね)

茶柱(速め速めの地雷除去。ここだけは夢野さんに倣うとしましょう)

茶柱(できれば春川さん系の妄想ならベストなんですが……)

最原「……どうしたの? そんなに見つめて。お腹でも減った?」

茶柱「え? いや……」

最原「今日のご飯は何がいい? 注文は聞くよ?」ニコニコ

茶柱(……あれ。転子は最原さんにご飯を作ってもらうような仲なんですか?)

茶柱(うーん、そういう伏線はなかった気がするんですが……)

最原「いつものキャットフードがいい? それとも猫まんま? それとも猫缶にしようか?」

茶柱「……」

茶柱「ん? キャット?」ダラダラダラ

茶柱「ちょっと待ってください。転子は人間ですか?」

最原「あはは、また言ってるよ。転子は本当に人間になりたいんだなぁ」

最原「まあ、当然かな。キミは世にも珍しい『喋る猫』なわけだし。人間のことが嫌いなわけないよね」

茶柱「しゃっ、喋る猫ォ!?」ガビーンッ

茶柱(最原さんは転子のことなんだと思って……い、いや、というか!)

茶柱(今、転子は最原さんにどう見えてるんですか!?)ガーンッ!

茶柱「あ、あの! 最原さん!? 今の転子、どう見えます!?」

最原「え? どうって?」

茶柱「なにかあるでしょう! 毛並み綺麗だなー、とかなんだとか!」

最原「毛並み?」ポンッ

茶柱「ひゃっ」

茶柱(無遠慮に頭を触られた!? ああ、いや猫相手なら当たり前!?)

最原「いつも通り、手触りがいいよね。艶のいい黒だと思うけど」ナデナデナデ

茶柱「はふぅぅぅぅ……はっ!」

茶柱「き、気安く触らないでください! いくら最原さんと言えども、怒りますよ!?」バシッ

茶柱(危うく、心が取り返しのつかないどこかに落ちるところでした!)

茶柱(恋ではありません、が! 多分人間としての尊厳が落ちるどこかに!)

最原「……あっ、そんなこと言っちゃうんだ?」ニヤッ

茶柱「えっ」

茶柱(最原さんはイタズラ好きの子供のような、無邪気な笑顔を浮かべています)

茶柱(普段見ないその表情に見とれている内に……)

最原「それっ」ギュッ

茶柱(最原さんは転子に抱き着き、そしてそのままベッドへと倒れこんでいきました)

茶柱(転子も当然、共にベッドに倒れこむ形になります……)

茶柱(って、これはまずい! 多分、入間さんと同系統! この流れは、この流れだけは!)アワアワ

最原「うりうり」ナデナデワシャワシャ

茶柱「ああっ、ちょっ、そんな無遠慮に撫でないで……ひゃっ! ああっ!」

茶柱「だ、ダメーーーッ!」

エントランス

茶柱「転子、まさかの爆弾組でした!」ウワァァァ!

茶柱「最原さんから『喋る猫』だと思われていましたッ!」

茶柱「……喋る猫ってなんですかッ!?」

百田「一種の比喩表現かもな。猫を連想させる可愛らしい女子、といった具合の」

赤松「しゃべっ……ふふっ……喋る猫っ……」プルプル

赤松「ああ、ダメ。耐えられない! 茶柱、猫って……あははははは!」ゲラゲラ

茶柱「わっ、笑わないでください! 投げ飛ばしますよッ!?」

赤松「やめて、こっち来ないで。服に猫の毛が付いちゃう」

茶柱「投げる」ギンッ

赤松「あははははははは!」ダッ

茶柱「待てーーー!」ドタバタ

夢野「……ああいうじゃれ合いしてるから猫だと思われるんじゃろ?」

天海「追いかけっこもそこそこにねー」

「茶柱さんってネコっぽいなー」ぐらいの妄想が増幅されただけだから…

最原の妄想備忘録

百田:本人黙秘のため不明
春川:最高の友人
入間:下僕
東条:頼れるお姉ちゃん
星:生涯最後の友人
アンジー:悪い友人
真宮寺:話してて楽しい友人
キーボ:天敵
王馬:問題児
白銀:獲物
ゴン太:笑わせてあげたい
茶柱:喋る猫

残り、夢野、天海、赤松の三人。

ぺ、ペットは家族の一員だから
ある意味友人や下僕より上だから

赤松「ちゃ、茶柱ァ……マジで投げるなんて……」ブルブル

茶柱「ふんっ!」

夢野「……さて。次は天海が行くがいい」

天海「えっ。俺?」

夢野「ウチは赤松に回復魔法『いたいのいたいのとんでけ』をかけるからの」

赤松「き、気休め……!」

春川「天海かー。今までもそうだったけど、天海もどうなるのか予想不可だよね」

春川「……なんだかんだで謎が多いしさ」

茶柱(あ、春川さんのゾーンが露骨に広がった。天海さんのこと結構警戒してたんですね)

天海「……俺そんなに怪しくないと思うんだけどなー」

天海「ま、いいや。とりあえず行ってきまーす!」



ガチャリンコ

最原「……」

天海「……さて」

天海(俺の場合はどんな妄想に……)

最原「ふう。今日は運が良かったね。キチンとした屋根のある場所で寝れるなんて」

天海(あ、やっぱり冒険系か。無難だなー)

最原「願い事は残り二つだから、できる限り節約しないといけないし」

天海「願い事?」

最原「ん? 天海くんが言ったんじゃないか」

最原「『ランプの魔神が叶えられる願い事は全部で三つ』って」

天海「えっ、アラビアンナイト系? てかランプなんてもんどこで拾ったの?」

最原「どこって……本人が忘れてどうするのさ」

天海「は?」

最原「ランプの魔神って忘れっぽいんだね」

天海「あっ、俺が魔神なの!?」ガビーンッ!

最原「ほら、忘れたの? 初めて会ったのは砂漠のど真ん中でさ」

最原「三日三晩、ほぼ飲まず食わずでさ迷った僕は今にも倒れそうになっていたじゃない」

最原「で、そのときたまたま拾ったランプにキミがいて」

最原「一つ目の願い事は『オアシスに連れてって』だっただろ?」

天海(徹頭徹尾アラビアンナイト!)ガーンッ!

最原「そこからはまあ、一緒に旅を続けて、その内に願い事が見つかればいいかなーって思ってて」

最原「もう三か月の付き合いになるじゃないか」

天海「あ、あー。ごめん。そうだったね。すっかり忘れてたよ」アハハ

最原「まったくもう……天海くんってば」

最原「……」

天海(急に黙っちゃった)

最原「あのさ、天海くん。僕との旅は、楽しくない?」

天海「え?」

最原「旅している間、ずっと不安でさ……」

最原「だって、天海くんってずっと笑ってるけど、それってほぼ誤魔化しの笑いだよね」

最原「僕は天海くんとの旅は楽しいと思ってるよ。思ってるけどさ……」

最原「よくよく考えてみたら、僕は天海くんのことを何も知らない」

最原「友人のはずなのに、キミとの距離を遠くに感じるんだ……」

天海「最原くん……」

天海「俺だって、自分のこととか、もうちょっと最原くんに話してあげたいよ」

天海「でも、どうしても無理でさ……だって本当に思い出せないんだもん!」

天海(……って、しまった。ついうっかり熱が入っちゃった)

天海(妙に妄想と現実に重なる部分があるからなー)

最原「天海くん……ごめん、困らせちゃったね。そんなつもりじゃなかったんだ」

最原「……そうだ! じゃあこうしよう。二つ目の願いが決まったよ!」

天海「えっ」

最原「僕のことを知ってほしいな! キミのことを知れない代わりと言ったら変かもしれないけどさ」

最原「過去のことは思い出せなくっても、これからの記憶は作っていけるでしょ?」ニコニコ

天海「最原くん……」

最原「これから友達になっていこうよ。むかしのことはひとまず置いといてさ!」

最原「ね?」

天海「……」

天海(俺はちょっとだけ不安だった。夢野さんたちと遊ぶのは大好きだけど)

天海(一人だけ才能のことを思い出せないこの状況が、気にならないと言えば嘘になる)

天海(まるで一人だけ仲間はずれにされているようで)

天海(……でも、そうじゃなかったのかー。そっかー……)

天海(過去がなくても、これからがあれば、友人になれるのかー……盲点だったなー)

天海「いいよ。その願い、聞き届ける! キミの『未来の友人』として!」

最原「やったぁ! じゃあ僕の家族構成はね……」

エントランス

百田「『未来の友人』……ね」

春川「……ごめん! 天海! 私、天海のこと誤解してたよ!」

天海「ううん、いいんだよ春川さん! 実際、自分のことを忘れたって言って、信じてもらう方が難しいんだしさ!」ニコニコ

夢野「ウチは既に天海と友達のつもりじゃぞ! これからももっと遊ぶんじゃ!」

夢野「なあ転子! そう思うじゃろ!?」

茶柱「急に話を振ってきましたね!」

夢野「ウチは速いのが好きじゃからの! 急なのも大好きじゃ!」

夢野「ウチは天海と友達で、転子も天海と友達!」

天海「うん! それで夢野さんは茶柱さんと友達――」

茶柱「言わせませんよ、そんな悍ましいことッ!」ヒィィ!

夢野&天海「「友情ばんざーい! 友情ばんざーい! ヒャッホーーーウ!」」

星「俺と同じパターンだな。天海も吹っ切れたようだ」フン

東条「あれは多分、大事な何かが吹っ飛んだ、って言うんじゃないかな……」

夢野「さて。次はウチじゃな。その次が赤松」

春川「あー……多分夢野は……爆弾組じゃないよね」

夢野「どうじゃろうなぁ。一見して爆弾抱えているとはわからなかった転子がああじゃったからなぁ」

夢野「……ま、ウチは最原のことを信じることにする」

夢野「疑うのは実際そういう目に逢ってからでも遅くないが、信じるなら速めに限るからの!」

赤松「信じるなら速め、か……」

夢野「さあ、行くぞ! 最原の妄想に!」ガチャリンコ

百田「……茶柱。夢野と話しているときの最原のゾーンはどうなってた?」

茶柱「特に異常は見られませんでした。いや……むしろちょっと狭まってましたね」

茶柱「つまり最原さんは夢野さんのことを『普通よりちょっと好き』程度には思ってるはずです」

赤松「……あ、あの。じゃあ私のときは?」

茶柱「教えるわけないじゃないですか!」ニコニコ

赤松「だよねー。死ねばいいのに」ニコニコ

入間「……あなたたち、実は仲いいでしょう」

最原「……」

夢野(ふむ。段々と吹っ飛んできた内容の妄想も増えてきたことじゃし)

夢野(そろそろ覚悟を決めんとな……)

夢野(最原の中のウチは大魔法使いだったりするんじゃろうか……)ドキドキ

最原「夢野さん……ついに僕は突き止めたんだ……」

夢野「んあ? 突き止めた?」

最原「この街で起こる一連の事件……その犯人であるリバース夢野の弱点を!」

夢野「……」

夢野(設定がまったく掴めん……じゃと……!?)ガーンッ

夢野「待て最原よ。リバース夢野とはなんじゃ!?」

最原「そうか。今一度確認したいんだね。わかった、振り返ってみるよ」

最原「この街で起こった一連の事件……その始まりは、リバース夢野が起こした粒子加速装置の爆発だった」

夢野「んあっ?」

最原「粒子加速装置の暴走によって、街中に魔法使いが続出!」

夢野「んあっ!?」

最原「そのほとんどが悪事を働き、街中は日々大混乱!」

最原「そんなとき、僕の所属する研究機関が見つけたのが、この暴走によって魔法使いになったキミというわけだよ」

最原「キミは僕たちと一緒に悪さをする魔法使いを次々に相手取り……」

最原「そして、たどり着いたんだ……この事件の首謀者。リバース夢野の存在に!」

夢野(なんか設定がことごとく『某赤い閃光』っぽいーーー!?)ガビーンッ!

最原「リバース夢野は許せないよ……粒子加速装置の爆発で数百という人間が死んでいるし」

最原「僕の研究施設の仲間たちも大勢犠牲になってるんだ……!」

最原「タネなし人体切断とかタネなし空中浮遊とかタネなし水中脱出とかで!」

夢野(リバース夢野悪ッ! タネなし人体切断は普通に人体切断じゃろ!)

夢野(ウチは魔法使いじゃから関係ないけど!)

最原「……でも彼女の無双もここまでだ」

最原「夢野さん。次の戦いのときは全力でサポートさせてもらうよ」

最原「僕は……キミを信じる。だからキミも、僕のことを信じてくれ!」

夢野「待て待て待てェェェェェ! 最原はウチのことをなんだと思っとるんじゃ!」ウガー!

最原「……何って……」

最原「ヒーローだけど?」

夢野「……は?」

最原「……夢野さんは凄い。とてもマネできない、っていつも思ってるよ」

最原「でもさ、こうなりたいっていつも思うんだ」

最原「知ってるかな? 夢野さんの速さには、僕以外の人も助けられてるんだよ?」

夢野「……そ、そうなのか?」

最原「そうだよ」

夢野「……そ、そうなのか……」ニヘラー

夢野「別にそんなつもりはなかったんじゃが……」

夢野(ウチはみんなと仲良くしたかっただけじゃし)

最原「……今まで必死に走り抜けてきた夢野さんだけどさ」

最原「たまには、立ち止まってみるといいよ」

最原「ゆっくりしてれば、聞こえるはずだからさ。僕を含めたみんなの感謝の声が」

夢野(……)

夢野「考えておく」

最原「うん! それじゃあ、話を元に戻そうか! リバース夢野を相手にするには……」

夢野(ウチが、ヒーロー……か。まったく予想だにせんかったわい)

エントランス

夢野「……って、感じじゃったぞ。爆弾一歩手前みたいなモンじゃな」

春川「夢野がヒーロー……ヒーロー……ね……」

春川「……あー。いい機会かもしれないな」

夢野「んあ?」

春川「私がモモタンに告白するときさ、夢野が手伝ってくれたでしょ?」

春川「そういえば、今の今まで感謝してなかったなって……」

春川「……ありがとね。最原もそうなんだけど、夢野にも勇気づけられたからさ」

春川「最原が思ってるのと同じ程度には、私にとっても夢野はヒーローだよ」

夢野「や、やめい。妄想している最原からならともかく、春川まで……」アセアセ

天海「うんっ! 俺を真っ先に誘って遊んでくれた夢野さんはヒーローだよね!」

星「くっくっく。意外と様になってるんじゃないか?」

夢野「んあー! もう! 揃いも揃って! ウチはそろそろ顔から火が出るぞ!」プンプン

百田「さてと。じゃあ残っているのはあと一人……」

赤松「私だけ……だね」

赤松「……ど、どうしよう。今更だけど足がすくんで……」

赤松「さ、最原ぁ……あ、今最原いないんだった……」ガタガタ

王馬「滅茶苦茶テンパってるね」

アンジー「今ここにいない終一に助けを求めるあたり、かなり追い詰められてるねー」

入間「不安の元凶がそもそも最原くんなんだけれどもね」

白銀「あー……いくら何でも赤松が爆弾組ってことは……ないだろ?」

百田「……茶柱。俺になら教えてくれるだろう? 赤松を相手にしたときの最原のゾーンはどうなってる?」

赤松「!」

茶柱「うーん……女性陣の中では間違いなく赤松さんが、最原さんのゾーンを一番狭めることができます」

赤松「え? ほ、本当? 嘘じゃないよね?」

茶柱「ええ。嘘は言ってませんよ」ニコニコ

王馬(……あ。確かに嘘は言ってないだろうけど、なにか黙ってるなコレ……)

赤松「……ゆ、夢野……速さは力、だよね?」

夢野「なんでこのタイミングでウチに……」

夢野「いや、言うまいよ。そうじゃ。速さは力じゃ!」

夢野「勢いに任せてドーーーンと行くがよい!」

赤松「う、うんっ!」

赤松「……」スーハースーハー

赤松「……」ギンッ

赤松「行くよ!」ガチャリンコ!

王馬「……赤松ちゃんは行ったか」

王馬「ねえ茶柱ちゃん。赤松ちゃんに何か『言い忘れたこと』があるんじゃない?」

茶柱「いえ、大したことじゃありませんよ」

茶柱「ただ『最原さんのゾーンを一番狭められる人間は女性ではない』ってだけです」ニコニコ

百田「……」

最原の妄想備忘録

百田:本人黙秘のため不明
春川:最高の友人
入間:下僕
東条:頼れるお姉ちゃん
星:生涯最後の友人
アンジー:悪い友人
真宮寺:話してて楽しい友人
キーボ:天敵
王馬:問題児
白銀:獲物
ゴン太:笑わせてあげたい
茶柱:喋る猫
天海:未来の友人
夢野:ヒーロー

最原「……」

赤松「……さ、最原……」

赤松(つ、ついに来てしまった。私の番!)

赤松(これから私、どうなるんだろう。い、入間みたいに下僕扱いされたり……)

赤松(茶柱みたいに愛玩動物扱いされたり……するのかな?)

赤松(あっ、い、いや! ああいうのは御免だけど!)

最原「お帰りなさいませ、お嬢様」ニコニコ

赤松「……」

赤松(神は私に味方した……!)グッ

最原「なんてね。はは、久しぶりにまともに執事っぽいことしてみたけど、どうだった?」

赤松「執事設定……」

赤松(白銀の語彙を借りよう……これが……『尊み』……)

赤松「ああ、うん。良かったんじゃない?」

最原「……今日は眉間に皺が寄ってないんだね。よかった。今日は特別な日だったからさ」

赤松「特別な日……えっと、なんだっけ?」

最原「お嬢様の誕生日だよ。忘れてたの?」

最原「……ま、いっか。今思い出したでしょ? 今日は僕が精いっぱい祝うから、楽しみにしててよ!」

赤松(最原が執事。そして誕生日。特別な日。命令し放題)

赤松(これは色々かこつけて、普段はできない命令をするチャンスなのでは……)ワナワナ

最原「今日から九歳か……お嬢様も大きくなったよね」シミジミ

赤松(ば、場合によっては……口に……き、きききキスとか……)

赤松「ん?」

赤松「……待って。今、誰が何歳って?」

最原「お嬢様が九歳。ケーキに立てる蝋燭も九本だよ」

赤松「……」

赤松「……あぽ?」

赤松「ハッ。あ、な、ななな」

赤松(なんでだあああああああああああ!)ガビーンッ!

赤松(……って、叫びを心の中に仕舞った私を誰か褒めてほしい!)

赤松(い、いやわからないでもない! 確かに私の今までの振る舞いは幼稚だったかもしれない!)

赤松(私自身、何回か自分の性格のことを『捻くれたガキ』だと自嘲したことがある! それも最原の目の前で!)

赤松(だからって……だからって……)

赤松(最原の中の私の認識、九歳の女の子かよォーーー!)orz

赤松(あ、あんまりだ……あんまりだよ、こんなの……!)シクシク

最原「うわあ! お嬢様、どうしたの!?」オロオロ

赤松「うう……わかったよ。最原。アンタが私のこと、どう思ってるか……」

最原「え?」

赤松「もしかしたら……って期待してたんだけどさ。アンタが私のこと好きなんじゃないかって」

赤松「でも、それ完全に私の勘違いだったみたいだね……」

赤松「流石に精神年齢九歳の女の子に、恋とかできないもんね!」

最原「……あー……うーん……」

最原「おませさんだなぁ」

赤松「ほらそういう反応する! ちくしょう!」ダンッ

最原「……うーん、でも嬉しいよ。お嬢様が僕に好かれたいって思ってることは」

赤松「そんな気休め……」

最原「ほら、顔を上げて! お嬢様、笑えば可愛いんだからさ」

赤松「……うん」

最原「あー……涙でグッショグショだよ」ペタ

赤松「……ッ!」

赤松(困ったような顔をした最原は、私の涙を指で拭う)

赤松(執事としてはちょっと行儀が悪い行為だけど……最原に触られることが、ちょっと嬉しい)

最原「ほら。お嬢様、笑ってみて。にぃーって」

赤松「……に、にぃーっ……」

最原「うん。やっぱりキミの笑う顔は、本当に眩しいよ」

赤松(……そういえば、現実の方で、私が最原に笑いかけたことってなかったな……)

赤松(後悔先に立たず……もうちょっと最原に優しくしていれば、こんな……)ズーン

最原「さてと。それじゃあリクエストの時間にしよう。誕生日プレゼントに、何が欲しい?」

赤松「……」

赤松「……キス、とか?」

最原「おませさんめ」

赤松(だぁーーーっ! 子供扱いをやめろーーー!)

最原「仕方ないな」ズイッ

赤松「えっ、ちょっ、いきなり何っ、近っ……ひゃっ」

チュッ

赤松「……」

赤松「……おでこじゃん」

最原「流石に九歳の子を相手に、口にキスはできないよ」

最原「そうだな……どんなに最低でも高校生くらいになったときは、流石にするよ」

最原「……まあ、そのときまで僕のことを好きかどうかはわからないけどね」アハハ

赤松(既に高校生なんだって……)

赤松(……でも、まあ。今はこれでいいや。私には資格がなかった)

赤松「絶対に最原が見返すくらいの成長してやるから」

最原「楽しみにしてるよ」

赤松(い、今に見てろよ……!)

エントランス

茶柱「きゅっ……九歳の……ワガママお嬢様……」ブルブル

赤松「いいよもう! 笑いたきゃ笑いなよ! もうそっちの方がいっそ気が楽だよ!」ウガァー!

百田「なるほど。これでわかったな」

百田「今のところ、最原が恋愛的に好きな人間は、この中には一人もいない」

王馬「……え? 何言ってんの? 可能性がある人間なら一人いるじゃん」

春川「え?」

アンジー「そうだっけー? もう全員、鍵は使ったよねー?」

王馬「いや。だけど報告していない人間が一人残ってるだろ?」

王馬「ねぇ……百田ちゃん」

百田「!」

百田「……」ダラダラダラ

春川「……も、モモタン?」

真宮寺「ふむ。なるほど。ありえない可能性ではないわね。世の中には男と女、どっちでもいける人間なんてごまんといるし」

百田「待て。違う。ヤツにそういう趣味はない。ちゃんと向こうで聞いた」

赤松「……向こう?」

百田「!」

王馬「大分慌ててるみたいだね。口が滑っちゃったみたいだよ、百田ちゃん」

王馬「つまりそういう確認をしたくなるくらい、向こうで百田ちゃんと最原ちゃんは仲が良かったんだろ?」

百田「……」ダラダラダラ

春川「……も、モモタン? 違うよね? モモタンが一番好きなのは、私だよね!?」

百田「……」ダラダラダラダラ

アンジー「ずっと黙ってるところが怪しいよねー」

春川「そ、そんな……」

百田「違う。そうじゃない。ただ単純に恥ずかしいから言いたくないだけだ。後ろ暗いことは何もない」

赤松「じゃあ言いなよ!」

茶柱「あ、珍しいこともあるものですね。赤松さんがド正論を言いましたよ」

百田「……チッ」

回想

最原「……」

百田(本当にいた……あのパンフレットに書かれていたことが事実なら、ヤツは妄想を始めるはず)

百田(コイツの脳内、どうなっているのか見物だな……)

最原「あ! 所長! お疲れ様です!」

百田「……所長?」

最原「……おっと。勤務時間外だからいつも通りでいいんだよね。百田くん」ニコニコ

最原「いつもお疲れ様。僕は書類整理が苦手だからさ、それを一手に引き受けてくれる百田くんには感謝してるんだよ?」

百田(……俺は最原の上司らしいな)

最原「それにしてもさ、本当に助かったよ!」

最原「あのとき、百田くんに土下座とか泣き落としとか色々仕掛けて、無理やり所長に就任させてなければ、今ごろ僕は過労死してる!」

百田(どれだけの仕事を俺に押し付ける気だコイツは……)

最原「というわけだから、服を脱いで」

百田「は?」

最原「少なくとも薄着にはなって」

百田「……お前、そういう趣味か?」

最原「違うよ、マッサージするって言ってるの! ほら早く!」グイグイ

百田「ぐ……!」

百田(無理やり上半身の服をはぎ取られた俺は、最原のマッサージを受けている。主に腰のあたりに)

百田(悔しいが、気持ちいい……)

最原「どう? 百田くん? 気持ちいい?」

百田「……悔しいが、認めざるを得ない……まあプロには劣るが、それでもな」

最原「でしょ?」

最原「……あー。楽しいな。本当、百田くんと一緒にいるのはさ」

最原「百田くんは僕にとって、一緒にいて一番楽しい友人だよ。百田くんはどう?」

百田「……」

百田「……」スヤァ

最原「……」グリッ

百田「ぐっ!」

最原「聞いてた?」

百田「……すまん、もう一回言ってくれ」

最原「もう、仕方ないなぁ」

赤松「もういい! もーーー聞きたくないっ!」

赤松「アンタらホモだ! ホモでしょ!」

百田「こうなるから言いたくなかったんだ」ハァ

春川「モモタン! マッサージなら私もやってあげるから!」アセアセ

春川「お願いだから一番愛してるのはお前だよって言ってよーーー!」エグエグ

百田「こうなるから言いたくなかったんだッ!」

王馬「わ、悪かったよ……そんな声を荒げないでよ……」

キーボ「二回言うほどに不快だったんですね。愚かな人類とは言え、流石に同情を禁じ得ません」

入間「……まあひとまず、これで正真正銘、本当に企画は終了ね」

茶柱「あー……本当に疲れましたねー……」

最原の妄想備忘録

百田:一緒にいて一番楽しい友人
春川:最高の友人
入間:下僕
東条:頼れるお姉ちゃん
星:生涯最後の友人
アンジー:悪い友人
真宮寺:話してて楽しい友人
キーボ:天敵
王馬:問題児
白銀:獲物
ゴン太:笑わせてあげたい
茶柱:喋る猫
天海:未来の友人
夢野:ヒーロー
赤松:手のかかるお転婆お嬢様(九歳)

寄宿舎に戻る道中

王馬「あー。つまらなくなかった。みんなもそう思うだろ?」

入間「……人によるんじゃないかしら。私様はもう最原くんをまともな目で見れなさそう」

入間「気を抜いたら……その、またご主人様とか言いそうだし……」ポッ

東条「入間さん、目を覚ましてーーーッ!」

白銀「私も同感だ。これからは最原との付き合いを考え直さないとな……」

茶柱「転子に関してはもうどうしようもなさげなので、いつも通りに行きます」

キーボ「爆弾組はやっぱり最原クンへの物の見方が変わってしまいましたね」

赤松「……気持ちはわかるけど。はぁ……笑い方の練習しなくちゃ……」

夢野「ウチが魔法で笑わせてやろうかの。アンジー、協力を」

アンジー「あいさー。なんでも協力するよー」ニコニコ

獄原「今度僕の部屋のスカラベを芸術品の装飾に使おうとしたら、寄生虫の量を増やすからね?」ゴゴゴゴゴ

アンジー「……つ、使わないってー……信用ないなー」ダラダラダラ

春川「……」

百田「……どうした? 春川」

春川「ん? あはは、やっぱり私の変化に気付くのはモモタンなんだね。惚れなおしちゃいそう」

春川「……いやさ。今日は本当に楽しかったなって」

星「……それはしみじみと確認することなのか?」

春川「うん……だってさ、この学園生活は、期間が残すところ半分しかないでしょ?」

赤松「!」

春川「おかしいよね……最初は『こんな学園すぐにでも脱出したい』って思ってたのにさ」

春川「いや、今でも『もうすぐ学園生活が終わる』とか思ってるんだけどさ」

春川「……なんでだろう。まだこうやって、みんなで下らない企画とかやってたい自分もいるんだ」

春川「おかしいよね……本当……」ポロポロ

百田「……春川」

赤松(……泣いても笑っても、あと少しでこの学園での生活は終わる……)

赤松(無理やりクラスメートにされた寄せ集めのメンバーだけど、確かにいざ離れるとなると……)

夢野「うわああああああああん! ウチだってイヤじゃあああああああ!」ビエエエエエンッ!

赤松「アンタは泣くのも速いの!?」ガビーンッ!

東条「……確かに、今となってはもう、このメンバーから離れるのは……」

東条「わ、私もちょっとイヤ……かなって」ポロポロ

赤松「や、やめてよ東条まで!」

赤松「なんか……私まで泣けてくるじゃん……」ウルウル

最原「はい、ハンカチ」

赤松「ありがとう最原……」エグエグ

赤松「……」

赤松「……最原ァ!?」ガビーンッ!

最原「何もそんなに驚くこと……」

全員「!?!?!?」ガビーンッ

最原「あれっ!? 赤松さんだけじゃなくってみんな驚いてる! なんで!?」

百田「お前、どこから来た?」

最原「どこって……寄宿舎からだけど。さっきまで寝てたんだけど、目が覚めちゃって」

東条「えっ!? そんな、嘘だよ! だって最原くんはさっきまであの部屋に……!」

百田「……いや。多分あそこにいたのは最原の『人格』のみだ」

東条「え?」

百田「ラブアパートのパンフレットに気になる記述があったんだ」

百田「ここで起こることはすべて夢として処理される……ってな」

入間「……なるほど。一種のバーチャルリアリティ」

入間「あの部屋の正体は、電脳空間に類するものだったのね」

赤松「えっ、全然意味わからないんだけど。何それ?」

百田「本人に確認するのが一番だろ。おい最原。お前寝ている間、どんな夢を見てた?」

最原「みんなの夢を見てたよ?」

赤松(……あっ。なんかイヤな予感)ダラダラダラ

最原「百田くんにマッサージをしてあげたり」

百田「ふむ」

最原「春川さんと仕事してたり」

春川「ん」

最原「入間さんに……その、色々したり」

入間「……」ボッ

最原「東条さんがお姉ちゃんだったり」

東条「ふえ……」

最原「星くんと人生のこと話したり」

星「ふははは」

最原「悪だくみするアンジーさんを心配したり」

アンジー「にゃはははー!」

最原「真宮寺くんが経営するバーに行ったり」

真宮寺「まあ」

最原「キーボくんと戦争したり」

キーボ「ふむ」

最原「王馬くんと遊んだり」

王馬「へえ」ニヤニヤ

最原「白銀さん……はノーコメントで」

白銀「……チッ」

最原「ゴン太くんが僕の先生だったり」

ゴン太「……」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

最原「茶柱さんが猫だったり」

茶柱「……にゃー、とか言ってみたりします?」

最原「天海くんと冒険したり」

天海「あはは」

最原「夢野さんがフラッ……」

夢野「言わせんぞ!」

最原「……で、赤松さんが可愛い小さな女の子だったり」

赤松「……」

赤松(マジで覚えてる……! ちょっと待って。私、あそこで何言ったっけ!?)アワアワ

最原「……まあ、詳しい内容は全然覚えてないんだけどね!」

赤松「覚えてないんかいッ!」

最原「いや、そんなことよりさ。なんでみんな、こんな時間に揃ってるの?」

最原「僕を仲間はずれにして、何かした?」

赤松「う。そ、それは……」

赤松(流石に最原の頭の中を覗いた、とか言ったら怒られるかな……)

赤松(よくよく考えたら、私たち、かなり最低のことしたんじゃ……)

春川「みんなして最原の頭の中を覗いてたんだー」ケロリ

赤松「はぁーるぅーかぁーわぁーーーッ!」ガビーンッ!

結局全部話しました

最原「……えっ。そ、そんな……ひ、酷いよ! みんなして、そんな……」

最原「そんな楽しそうなことを僕抜きでッ!?」

赤松(……)

赤松(……そうだよ。アンタはそういうヤツだったよ……)ズーンッ

最原「……ああ、でもそっか。そういうことか。なるほど」

入間「ん? 何をしたり顔でうなずいているのかしら?」

最原「ああ、いや。実は起きたら部屋のテーブルにこんなものが置いてあって」

ジャラジャラジャランッ

赤松「……え? 愛の鍵?」

キーボ「妙ですね。みんな自分の鍵は持っているのに、どうして鍵がもう一組?」

天海「またしても十五人分。あれ、でも書かれている名前は……」

天海「全部、最原くんのだね」

赤松「……ま、待ってよ。もしかしてこれって……!」ガタガタ

最原「うん、多分みんなの妄想に入れる鍵だろうね」ニコニコ

全員「」

最原「じゃあ、今度は僕が行ってくるね。みんな、おやすみ!」ダッ

入間「……」

入間「やっ……ややや……やややややや……」

入間「やらせるかァーーーッ! ドモーン召喚!」ブオオオオオンッ

白銀「ドローンだろっ! ああ、いやでも確かにアレはやばい! 絶対まずい!」

赤松「と、止めて! 誰でもいい! アイツを止めてぇーーー!」

星「おいおい。アイツの妄想を覗いておいて、俺たちのは覗くなってのか? 随分と都合がいい話だな」

入間「黙って! あなたに爆死組の何がわかるっていうの!」

星「ふん。まあいい。同じ企画を楽しんだよしみだ。俺もアイツを止めるのを手助けするとしよう」

星「久しぶりの殺人テニスだ! 腕が鳴るなぁ! ふはははははは!」ジャキンッ!

春川「んー。私は割とどうでもいいんだけど。モモタン、どうする?」

百田「……すまない。止めてくれ」

春川「りょーかい。まーかせてっ」ダッ

キーボ「……おや? ゴン太クンは?」

アンジー「美兎のドローンより先に終一を止めに行ったよー」

アンジー「……さてと。隙ができたのなら、スカラベを取りにいかないとね」

アンジー「にゃははー」スタスタ

天海「アンジーさん懲りないねー」

真宮寺「もう放っておきましょう。どうせロクな死に方しないわ」

夢野「早起きをするためにウチはもう帰って寝るぞ!」

東条「私も……朝は早い方だから、そうしようかな」

王馬「……こうして、俺たち超高校級の生徒の夜は更けていくのだった。ちゃんちゃん」

キーボ「誰に言ってるんですか」


エッ チョットミンナ ナニヲスル グアーッ!

ドカァァァァァンッ!


茶柱「そして最原さんは、あの鍵の危険度を知っている者に刈り取られ、朝日を拝むことができないのでした。ちゃんちゃん」

キーボ「だから誰に言ってるんですか」

エピローグ

最原「ぐ……ぐはっ……みんな酷いよ……僕が何したって……」ガクリ

春川「はーい、制圧完了。みんなお疲れー」

入間「……もう……寝るわ……今度こそ……」フラフラ

白銀「十五本。確かに回収したぞ、最原。これは私が責任をもって封印する」

星「今夜は本当にいい夜だった」スタスタ

獄原「……!」ゴゴゴゴゴゴゴ

獄原「しまった。アンジーさんが何か悪さをしている気配が……」シュンッ

赤松「あ、消えた……」

最原「……」スヤァ

百田「……赤松。手伝ってくれ。コイツを部屋まで運ぶ」

赤松「う、うん」

春川「モモタン、頑張った私にご褒美はー?」

百田「コイツを運んだ後でな」

春川「やったぁ! モモタン、大好き!」

赤松「……たまにアンタの素直さが羨ましくなるよ……」

最原の自室内

赤松「さてと。最原はベッドに寝かしたけど」

赤松「百田はこの後どうするの?」

百田「……春川にひたすら抱き着かれながら、話相手をする作業だ」

赤松「アンタも大変だね……」

赤松「……ずっと聞きたかったんだけど、アンタって春川のこと、好きなの?」

百田「それなら最優秀の生徒の名前が俺になっているはずだろう」

赤松「あ、それもそっか」

赤松「……え? じゃあまったく好きじゃないってこと? それは……」

百田「それも違う」

赤松「……そ、そっか。私には関係ないことだけど、ちょっと安心したよ」

赤松「じゃあ、アンタは春川にあそこまで好かれてること、どう思ってるの?」

百田「……」




百田「嬉しいに決まってるだろ。ただ、誰にも言うなよ」ニヤリ

赤松(あ、笑った……珍しい)

赤松(百田は鍵などの後始末を全部私に押し付けて帰って行った)

赤松(……そのとき、春川と一緒に百田の私室に入って行った気がしたけど……)

赤松(い、いや。信じよう。一線は超えてないはずだ。超えてないといいな。超えてないですよね?)

最原「大丈夫だよ。春川さんの性格なら『そういうこと』したら絶対に次の日にでもピンクオーラ駄々流しにするはずだから」

最原「それがないってことはやってないんだ」

赤松「ああ、なるほど……」

赤松「……起きたの?」

最原「うん。今ね」

最原「あー、残念だったなー。みんなの頭の中を覗き見たりしたかったのに」

赤松「冗談じゃないよ……いや、覗かれた最原に言うのも何なんだけどさ」

赤松「あれ本当に危険だし……それに、あれ……」

最原「何?」

赤松「私が最原をどう思ってるかくらい、自分の口で伝えたいし……」カァァ

最原「……」パチクリ

赤松「何その顔」

最原「多分だけど、鳩が豆鉄砲を食らったような顔だよ」

赤松「……たっく」

赤松(コイツは本当に……私のことを舐め腐ってる)

赤松(でも仕方ないんだよね。だって今までコイツの優しさに甘えて、成長することを放棄してたんだから)

最原「はは。ちょっとは成長したんだね、赤松さん」

赤松「……ちょっと?」ブチッ

ズイッ ドサッ

最原「……ん? 赤松さん?」

赤松(私は一体何をしているのだろう)

赤松(ベッドに寝ていた最原にまたがり、顔を近づけていく)

最原「赤松さ――」

赤松「高校生になったらいいんでしょ?」

チュッ

赤松「……やっぱりおでこじゃ我慢できなかったから」

最原「……えっ」

赤松(出来る限り平静を装いながらベッドから降り、歩き、外へのドアノブに手をかけ、そして振り向く)

赤松「じゃあ、おやすみ最原」ニコリ

最原「えっ、ちょっ、赤松さん!? 今もしかして口に……」

最原「赤松さーーーん!?」ガーンッ


バタム

赤松「……ふう……」

赤松「……や、やってやった。やってやったぞバーーーカ!」

赤松「私のことを子供扱いするからだぞーーー! はははーーー!」

赤松「……ああーーー……」

赤松「やばい。恥ずかしすぎて死にたい……!」ズーン

赤松(でも……くくく。最原のあの慌てた顔は本当に愉快だった)

赤松「……寝よ」

そんな火照った状態ですぐ寝つけるんですかねぇ…

最原の自室内

最原「ええーっ……完全に予想外だったなー……」

最原「でもまあ、あんまり悪い気はしない、かな」

最原「……」

最原(テーブルの上に置いてあった愛の鍵。その傍にオマケのように置いてあったメモの一文を思い出す)

最原(辛い現実を忘れられる一夜の夢……)

最原「……もうあの鍵はいらないや。現実の方がよっぽど面白いし」

最原「うん。本当に楽しい」

最原(この学園での残り半分の期間、そろそろ僕たちは迫られている)

最原(誰とこの学園を去るのかを)

最原(でも、なんとなく大丈夫な気がした。だって、みんな少しずつ成長しているから)

最原(ちょっと前の赤松さんなら、あんな行動は絶対に想像が付かなかった)

最原(フィクション、あるいは夢そのもののようなこの学園での生活は……)

最原(きっと、バッドエンドで終わるはずがない)

最原(僕たちの物語は……)

最原(絶対に、バッドエンドなんかで終わらせない)




おまけも頼むよ

気を抜くとうっかり語尾に「にゃん」をつけるようになった転子ちゃんが見たい

夢野さんの夢の元ネタは海外ドラマのTHE FLASHでした。

HTML化依頼出してきます!


一番最原くんと距離を縮めてたのがモモタンとは
なんだこれは、たまげたなぁ…

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