昔話『浦島おれ太郎』 (29)
昔々あるところに、浦島おれ太郎という名前の男がおりました。おれ太郎はいい年をして無職でしたが、彼にとって無職であることはなんら恥じることではありませんでした。ご近所の刺すように鋭い視線もなんのその、おれ太郎は毎日外を出歩いてふらふらしていました。
おれ太郎の両親は、息子が早く職に就いて自立することを願って、なんだかんだと小言を言うのですが、結局は毎月彼に生活費を渡していました。そうして毎日堂々と生活しているおれ太郎を見て、近所の人々は「手の施しようがない」「奴こそ無敵の無職だ」と囁き合っていました。
ある日、おれ太郎が海辺を歩いていると、太った中年男性が屈強な男たちに囲まれているのを見ました。その中年男性はおまえらというものでした。
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屈強な男たちはおまえらになにやら罵声を浴びせています。どうにも険悪な雰囲気です。危険を感じ取ったおれ太郎は、距離を置いて彼らを観察することにしました。無敵の無職も、身に危険が及びそうな場面では空気を読むことができるのです。
かと言って、彼は早々にこの場を立ち去ろうとはしません。おれ太郎は安全な場所から事件を見るのが好きでした。端的に言えば、彼は強烈な野次馬根性の持ち主だったのです。
よくよく見ると、向こうにいる彼らは服を脱いでいました。男たちは下半身が裸で、おまえらは全裸です。すぐ脇には彼らのものと思われる服が散らかっています。
男たちはおまえらに向かって体を小刻みに動かしていますが、何をしているのかよくわかりません。時折おまえらのぷくぷくとした顔も見えます。頬は紅潮し、表情は歪み、なんだか恥ずかしそうです。おれ太郎は
(なんだあのおっさん気持ち悪いな)
と思いながらも目が離せないでいました。
その時、男たちの中心にいたおまえらがなにか甲高い声をあげました。その声は、快楽に必死に抵抗していた者が、ついにそれに屈した際に発するものでした。
「んほお!んほおおおお!!」
その声を聞いて、おれ太郎は彼らが何をしているのか理解しました。どうやらおまえらは男たちにレイプされているようです。
(あれがうわさに聞くおやじ狩りか......)
初めて見るおやじ狩りに、おれ太郎は思わず固唾を飲みました。おまえらが声を出したことで、男たちのボルテージはさらに上がっていくようでした。
おれ太郎と彼らしかいない海辺に、おまえらの声が響き渡ります。まるでおまえらは、誰かに向かってなにかを訴えているかのようです。さすがのおれ太郎もなんだか可哀想に思えてきました。
おれ太郎は、子供のころから、目の前の現実を検討することが苦手でした。つまり現実をきちんと理解できないのです。夢や理想ばかり語り、現実的なことはほとんど考えられない男でした。
そのため浅はかな言動を取ることが多く、その度に周囲の人々は飽きれていました。しかし、この性格のおかげで、彼は無職でありながらも平然としていられるのです。
おれ太郎はおもむろにズボンとパンツを脱ぐと、男たちのもとへ歩いていきました。男たちの盛り上がりは今や最高潮に達しています。おれ太郎は男たちに声を掛けました。
「きみたち、いい加減にしたまえ」
男たちは一斉に振り向きました。そしておれ太郎を見ると、威圧的な口調で言いました。
「ああ?なんだてめえ。邪魔すんじゃねえよ」
おれ太郎は全くひるみません。もはや現実など見えておらず、その安っぽい正義を振りかざして男たちと向き合っています。
「そのおっさんは嫌がってるんじゃないか?そんな下卑たことはやめろ!」
「てめえには関係ねえだろうが!いいからどっか行っちまえよ!」
男たちは突然現れた邪魔者にイラついています。おれ太郎はそんな男たちの様子など気にもとめず言葉を続けました。
「そんなにヤりたいなら俺のを使え」
そう言って、おれ太郎は男たちに背を向けると、自分の尻を突き出しました。張りのある立派な尻が太陽の陽射しを受けてきらりと光りました。男たちは一瞬とまどいましたが、すぐに
「へえ。いいのかい?」
と聞きました。おれ太郎は
「いいと言ってるだろう。その代わり今すぐそのおっさんから離れろ」
と言いました。男たちは喜びながらおまえらから離れ、今度はおれ太郎の周りに立ちました。
「よーし、じゃあ遠慮なくいかせてもらうぜ!」
男のひとりがおれ太郎のアナルに挿入しました。するとその男はすぐにイってしまいました。
「うっ、ぐあああ!」
男は情けなく膝から崩れ落ちました。それを見た他の男たちが騒ぎだします。
「おい!どうした!」「まさかもうイったのか?」
イった男は全身を痙攣させながら
「こ、こいつは名器だぜ……」
と答えました。その言葉を聞いて周りの男たちは急激に色めき立ちます。
「マジかよ!」「おい、俺にもやらせろ!」
おれ太郎は次々と男たちの相手をしていきました。男たちは全員、挿入すると同時にイってしまいました。
「あへ。あへぇ……」
気がつけば、男たちはみんなうつろな表情で海辺に座り込んでいます。おれ太郎は
「なんだ、もう終わりか。ならさっさとどこかへ行ってしまえ!」
と男たちに向かって言いました。男たちはあへあへ言いながらもなんとか立ち上がり、服を持って走っていきました。
あとにはおれ太郎とおまえらが残されました。おれ太郎はおまえらの方を向きました。こうして近くで見ると、おまえらは本当にただのおっさんです。
おまえらはおやじ狩りに遭って疲れたのか、両膝をくっつけて左右の太い足を外側に向けた状態で座っていました。中年太りのお腹は呼吸する度に大きく動いています。おれ太郎は
「大丈夫ですか?」
と尋ねました。おまえらは少し呆然としているようでしたが、こくりと頷きました。おれ太郎はそれを見ると
「よかった。それじゃあわたしはこれで」
と言って立ち去ろうとしました。その時、おまえらはニワトリのように甲高い声で
「待ってください!」
と言いました。おれ太郎は再びおまえらに向き直りました。
「どうかしましたか?」
おまえらは顔を赤らめながら目を伏せ、両手を胸の前でもじもじさせていました。おれ太郎が黙ったままのおまえらを見ていると、おまえらはふいに上目遣いになって
「あの……。助けて頂いてありがとうございました。もしよろしければお礼をさせてください」
と言いました。
「お礼ですか?」
おれ太郎は尋ねました。おまえらは再び頷き
「実はわたしは、海の底にある竜宮城から来たのです。そこには乙おまえら様をはじめたくさんのおまえらが住んでいます。そこで今回のお礼として精一杯のおもてなしをさせてください」
竜宮城のうわさはおれ太郎も聞いたことがありました。はるか海底に建つ竜宮城は、荘厳華麗、豪華絢爛にして地上のどんな建物よりも素晴らしい造りだといいます。
そんな竜宮城に住むおまえらたちもまた美しく、特に乙おまえら様の美しさは言葉では語ることができないほどだと聞いていました。
「竜宮城にわたしを連れていってくれるのですか?」
おれ太郎は聞きました。おまえらは
「はい。あなたさえよろしければお連れします」
と答えました。
特にすることもなく、同じような毎日ばかり過ごしていたおれ太郎は、ぜひ竜宮城に行ってみたいと思いました。
「いかがいたしますか」
あいかわらず上目遣いのまま、おまえらはおれ太郎に尋ねました。おれ太郎は
「ではお言葉に甘えさせてください。わたしも竜宮城に行ってみたいと思っていました」
おれ太郎がそう言うと、おまえらはぱっと顔を上げ、明るい笑顔をおれ太郎に向けてから
「ありがとうこざいます。それではわたしに乗ってください」
と言って四つん這いになりました。おれ太郎はおまえらに跨がると
「よろしくお願いします」
と言いました。おまえらの体はべたべたしていて座り心地があまりよくないのですが、おれ太郎は気にしていませんでした。
「それでは行きますよ」
おまえらはそう言うと、四つん這いのまま海に向かって進み始めました。ぐらぐらと左右に揺れるおまえらの上で、おれ太郎はこれから向かう竜宮城に思いを馳せました。
おまえらは海底の竜宮城に向かってぐんぐん進んでいきました。海の中にいるにも関わらず、おれ太郎は全く息苦しさを感じませんでした。
実はおまえらは不思議な力を持っていて、おれ太郎が海の中にいても息ができるように魔法をかけていたのでした。しかし、おれ太郎はひたすら竜宮城に思いを馳せていたので、海の中でも呼吸ができているということに気づいていませんでした。
おまえらは一生懸命にその太い手と足を動かしています。犬かきのようなその泳ぎ方は、竜宮城に伝わる由緒正しい泳ぎ方です。竜宮城のおまえらたちはみんなこの方法で泳ぎます。
ついに竜宮城に到着しました。竜宮城はおれ太郎が聞いていた以上に素晴らしい建物でした。
その華麗さに心を奪われていたおれ太郎の隣では、おまえらがぜーぜーと苦しそうに肩で息をしながら、竜宮城の門を開けるよう中にいる別のおまえらに頼んでいました。
「あ、あの……はあはあ……お客さんを……はあはあ……連れて参りました……はあはあ……開けて……ください」
おまえらはかろうじでそう言うと、気を失って倒れてしまいました。必死に泳いだので体力を使い果たしてしまったのです。
それでもおれ太郎は竜宮城に心を奪われていたので、おまえらが倒れたことに気づきませんでした。
しばらく竜宮城を眺めていると、門が開きました。そして3人のおまえらが姿を現しました。
ひょろひょろと痩せて背の高いおまえら、眼鏡をかけていて頭頂部があらわになっているおまえら、そしてお酒に酔っているかのように顔が真っ赤なおまえら。着ている服はばらばらですが、みんなピンク色の羽衣を身に付けています。
「ようこそ竜宮城へ。中にお進みください。我々が精一杯あなたをおもてなしいたしますよ」
背の高いおまえらが、妙に甲高い声で言いました。そしておれ太郎を竜宮城に招き入れました。
その時、ふと横を見たおれ太郎は、門の前で倒れているおまえらに気がつきました。おれ太郎は倒れているおまえらを指で差しながら
「彼は大丈夫なのですか」
と背の高いおまえらに聞きました。そのおまえらは
「大丈夫ですよ。気を失っているだけです」
と微笑みを浮かべながら甲高い声で答えました。そうかと思うと急に低い声になり
「ところで我々に『彼』という言葉を使うのはご遠慮頂けますか?我々は性別などというくだらないものには捕らわれない存在なのです」
とつけ加えました。一瞬だけ表情が鋭くなり、おれ太郎は怖いと思いましたが、おまえらはすぐさま柔らかい笑顔に戻り
「さあ、こちらへどうぞ」
と竜宮城の中を案内してくれました。禿げたおまえらと赤い顔のおまえらの二人は、倒れたおまえらを担いで後ろからついてきました。
やがておれ太郎は大きな広間に通されました。広間にはたくさんのおまえらがいて、おれ太郎を待っていました。席は上座に用意してあり、すでに豪華な器が並べられております。背の高いおまえらはおれ太郎を席まで連れていくと
「こちらにお座りください。わたくしどもが精一杯おれ太郎様をおもてなしいたします」
と言ってから離れていきました。
しばらく待っていると、広間に一人のおまえらが入ってきました。そのおまえらはとてもけばけばしい化粧をしている中年男性でした。普通なら、ちょっと派手な若い女性がするような化粧をそのおまえらはしていたのです。
しかしそのけばけばしさの中にも男性らしさが垣間見え、口の周りにはうっすらと青髭が残っています。そのおまえらは、化粧で妙に強調された両目をおれ太郎に向けると
「ようこそ竜宮城へ。わたくしは乙おまえらです。この度はわたくしたちの仲間をおやじ狩りから守っていただきありがとうございました。感謝のしるしとして、これからあなた様のために盛大な遊宴をいたします。どうそごゆるりとお楽しみください」
と言いました。乙おまえら様はもう完全に裏声でした。広間全体が拍手に包まれると、乙おまえら様はゆっくりとおれ太郎の席に近づき、横に座りました。
するとどこからともなく料理が運ばれてきました。さきいかや柿ピー、枝豆などおっさんのおつまみばかりです。小さな瓶も運ばれてきましたが、それはどう見ても普通のワンカップでした。
おれ太郎はこれらが大好きだったので、大変喜びました。早速料理に手を伸ばすと、広場の隅にいた何人かのおまえらが楽器を演奏し始めました。
こうして宴会は始まったのです。
おれ太郎が、乙おまえら様にお酌をしてもらったり料理に舌鼓を打っていると、何人かのおまえらがおれ太郎の前にやってきて躍りを始めました。全員おっさんです。中年特有の疲労感や哀愁を漂わせながら、おまえらたちは時に激しく、時に儚げに躍りました。
その躍りがすさまじいものだったので、おれ太郎はすっかり気をよくしました。おいしい料理とお酒に、素晴らしい躍り。横ではけばけばしい化粧をした乙おまえら様がお酌をしてくれます。こんなに楽しいことが世の中にはあるのかと、おれ太郎は自分の人生観が変わる思いでした。
躍りの後もおまえらたちのおもてなしは続きました。変に裏返った声で歌を歌う者、得意気な顔で手品を披露する者、ちょっと下品な一発ギャグをする者。それらすべての出し物をおれ太郎は大いに楽しみました。
楽しい時間はあっという間に過ぎていきました。おれ太郎はふと今何時だろうと思いました。広間を見渡しても時計はありません。
時間はわかりませんが、もう長い時間竜宮城にいたことは確かです。おれ太郎はそろそろ帰らなくてはならないと思い、乙おまえら様に言いました。
「今日は招いていただいてありがとうございました。とても楽しく過ごすことができました」
乙おまえら様はにこりと笑って
「それはなによりでございます」
と言いました。
「大変なごり惜しいのですが、わたしはそろそろ地上へ帰らねばなりません。家の者も心配しているでしょうから」
とおれ太郎が言うと、乙おまえら様は笑顔を変えずに
「あらそうなんですか?でももう少しだけいいではありませんか」
と言っておれ太郎にお酌をしました。お酒をつがれたので、おれ太郎もついその気になってしまい
「うーん。まあそうですね」
と言いました。
その後もおれ太郎はたくさん食べたり飲んだりしました。おれ太郎はお酒に強いほうでしたが、さすがに飲みすぎたのか、ついに酔いつぶれてしまいました。
それで、その日はおれ太郎は地上に帰らず、竜宮城で夜を明かしたのでした。
次の日の昼前、おれ太郎は広間で目を覚ましました。広間には数人のおまえらがいます。おれ太郎は今日はもう帰ろうとおまえらのひとりに声をかけました。
「昨日は大変お世話になりました。とても楽しかったです。わたしはそろそろ帰ろうと思うのですが」
そのおまえらはにこりと笑い
「さようでございますか。ただ今昼食の準備をしているのですが、お帰りになるのは昼食を終えてからになさってはいかがですか」
と言いました。おれ太郎は少し迷いました。
「いやしかし……」
「ささやかではありますが、お酒などや芸なとも用意いたしますよ」
おまえらのその言葉に、おれ太郎は帰るのは昼食の後にしようと思い直しました。
そうこうしているうちに広間に昼食が運ばれてきました。昼食はおつまみ、お酒はワンカップでした。
おれ太郎は喜んで食事をしました。そのうちおまえらたちによる出し物も始まります。
おまえらたちの躍りは何度見ても見事です。他にも、昨夜は見なかった出し物もありました。竜宮城のおまえらたちはみんな芸達者でした。
おれ太郎は全く飽きることなくおまえらたちの出し物を見ていました。
そうやって楽しんでいるうちに、気がつくとおれ太郎はまた酔いつぶれてしまいました。結局その日は地上に帰りませんでした。
そんなふうに、毎日食事に誘われては酔いつぶれているうちに、ついに竜宮城に来てから5日が経ちました。さすがにもう帰らなければならないと思い、おれ太郎は乙おまえら様に
「もう地上へ帰ります」
と告げました。乙おまえら様は残念そうな顔をしましたが
「そうですか」
と答えました。そして
「では出口まで案内いたします。地上までは別のおまえらがお連れいたします」
と言って門のところまで案内してくれました。
門の前にはすでに何人かのおまえらが立っていました。みんなとても寂しそうです。乙おまえら様はおれ太郎に
「竜宮城は楽しんでいただけましたか」
と聞きました。おれ太郎は
「はい、とても楽しかったです」
と答えました。乙おまえら様はにこりと笑って
「それはよかった。できればまた来ていただきたいのですが、地上でおまえらと会うのは難しいですからね」
と言って、後ろに控えていたおまえらからティッシュ箱くらいの大きさの真っ黒な箱を受けとりました。そして
「おみやげにこれをどうぞ。竜宮城の宝、玉手箱です」
と言っておれ太郎に玉手箱を渡しました。玉手箱もまた地上ではよくうわさされていましたが、おれ太郎はまさか自分がもらえるとは思っていませんでした。
「ありがとうございます」
と言っておれ太郎は大事に玉手箱を受けとりました。玉手箱を渡す際、乙おまえら様はおれ太郎に
「その箱は持ち帰っても決して開けないでくださいね。中には竜宮城の大切な宝が入っていますから 」
と言いました。
そうして乙おまえら様たちに別れを告げたおれ太郎は、竜宮城に来たときとは別のおまえらに乗って地上へ帰りました。海から出たおれ太郎はおまえらと別れると自分の家に向けて歩きだしました。
家に向かう道中で、おれ太郎は玉手箱について考えました。乙おまえら様はこの中に宝が入っていると言いました。おれ太郎は、その宝を売れば、一生働かなくていいくらいの大金が手に入るのではないかと思いました。そうすれば、両親も早く働けなどと言ってこなくなるでしょう。
おれは急いで家へ帰りました。自分の家に着くと、玄関を開けていつになく大きな声で
「ただいま」
と言いました。家の中から人が歩いてくる音が聞こえたので待っていると、出てきたのはおれ太郎の全く知らないおばさんでした。おばさんは厳しい目をおれ太郎に向けると
「あんた誰」
と聞きました。おれ太郎はびっくりしながらも
「この家に住むおれ太郎ですが」
と答えました。するとおばさんは驚いた顔をして
「おれ太郎って、浦島おれ太郎かい?あの無敵の無職と呼ばれていた?」
と聞きました。おれ太郎がそうだと答えると、おばさんは冗談はよしてくれよと言い
「ここに浦島という家族が住んでいたのは100年以上も前のことだよ。息子のおれ太郎はとんでもない無職だったそうだけど、ある日突然いなくなって最後まで帰って来なかったそうじゃないか」
と言っておれ太郎を追い出してしまいました。
おれ太郎はなにがなんだかわからず、家の前に立ち尽くしました。ですがすぐに我に帰り、どういうことなのか考えるために一度海辺に戻ることにしました。
実は、おれ太郎が竜宮城で5日過ごしている間に、地上では130年も経っていたのです。そのことを知らないおれ太郎は、自分の家から追い出されたことでとても混乱していました。
海辺に着いたおれ太郎はしばらく呆然としていましたが、ふと今後の生活費がないことに気がつきました。やはり玉手箱は売らなければならないようです。
玉手箱の中に入っている宝とはどんなものなのでしょうか。おれ太郎は興味がわいてきました。きっととんでもなく豪華な宝で、ちゃんとした所に持っていけば相当高く売れるに違いないとおれ太郎は考えました。おれ太郎はどうしても玉手箱を開けてみたくなりました。
おれ太郎はわくわくしながら、決して開けてはならないと言われた玉手箱を開けました。すると、箱の中からもくもくと白い煙が噴き出しておれ太郎の全身を包み込んでしまいました。
その煙が晴れ、玉手箱を覗いてみましたが、中には何も入っていません。おれ太郎はがっかりしました。乙おまえら様に騙されたのでしょうか。
その時、がっかりするあまり急に性別などどうでもいいものだと感じるようになりました。
悲しみに暮れたおれ太郎は、また竜宮城に行きたくなりました。そう思うと、自然と体は海の方へ動きだし、そのままどんどん進んでいきます。
ついに足が底に着かないくらい深いところまで来ると、おれ太郎は泳ぎだしました。それは竜宮城に伝わる、あの犬かきのような泳ぎ方でした。
そのままおれ太郎は海底深くまで泳いでいき、竜宮城にたどりつきました。そして、そこでおまえらの一人として受け入れられ、乙おまえら様に仕えながら生涯楽しく暮らしましたとさ。
めでたしめでたし
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