紗枝「シリウスに手を伸ばす」 (24)
「つっかまーえたー」
そんな声と共に目を覆われたのは、中学3年の9月のことだった。
よくおっとりしていると言われるが、下校途中にこんなことをされて何も感じないほど抜けてはいない。
それに、その時聞こえた声はよく知っているものだった。
「えらい長いこと顔も見せんといて、やっと帰ってきた思ったら……
まさかこないなことしてくれはるとはなぁ」
するりと抜け出して後ろを振り返ると、そこには周子はんが立っていた。
少し後ろには、すーつを着た男の人も。
「久しぶりに会ったのに普通文句から入る?
あー、しゅーこちゃん傷ついたなー」
「放蕩娘がこれくらいでどうにかなるなら苦労なんかしてまへん。
それで? 今日はわざわざ逃げ帰ってきたん?」
「ちゃんと働いてるってば! 幼馴染なのにひどいなー。
ちょっと見ない間にお腹が真っ黒になってるし」
「あらー? うちは真っ白どすえ?
少し見ない間に尻尾を振ることだけは上手になりはったみたいで」
「んー? キツネの方がタヌキよりはかわいいと思うよー?
それから、あたしは自分の心に素直なだけだし」
「愛嬌が足りてへんよー? しょせん狐七化け、狸八化けやしー。
わざわざ及ばんて自分で言うてくれてありがたいわぁ」
周子はんの後ろでは男の人が頭を押さえていた。
――このくらい、幼馴染なら普通ですやろ?
「変わってないねぇ、紗枝はんは」
「半年ちょっとで変わるわけありまへんよ」
「……そっか、まだ半年なんだねー」
そう言う周子はんの目は、どこか遠くを見ているようだった。
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「っと、本題に入ろっかな」
周子はんがちらりと後ろを振り返る。
後ろに居た男の人が、周子はんの隣に並ぶ。
「はじめま――」
「今あたしってさ、アイドルやってるんだよね」
「はぁ、あいどる……?」
「周――」
「それで今日来たのはね、紗枝はんも一緒にやってくれないかなって思ってさ。
勧誘だよかんゆー」
「はぁ……そうどすか」
話し出すたびに周子はんに遮られる男の人が気になって、周子はんがあいどるなんかになってたことに驚いて、返事が曖昧になってしまった。
「なーんか反応悪いなー……やろーよ。結構楽しいよ? アイドル」
そう言ったときの周子はんの顔は、うちと一緒だったときと同じくらい楽しそうで。
なんとなく、それが気に食わなかった。
「……話も長くなりそうやし。うっとこ、おいでやす」
――なんてことも、ありましたたなぁ。
目を開くと、照明の光に視界が真っ白になった。
明るさに徐々に慣れていくと、目の前にあるのは9代目しんでれらがーるの授賞式。
すてーじの上には初代から8代目までのしんでれらがーるが揃っている。
十時愛梨、高垣楓、渋谷凛、安部菜々、島村卯月、神崎蘭子、赤城みりあ、望月聖の名前は、あいどるに興味がなくても聞いたことがあるような、そんな存在。
そこに立っている9人目は、塩見周子。
うちのゆにっと――『羽衣小町』の相方だ。
年に一度、とっぷあいどるが集まるお祭り。
その会場は見たことがないほど大きくて、熱気も比べ物にならない。
さいりうむの光もなくて、熱狂から取り残されたような関係者席に座っていても分かるくらいに。
――なんで、こうなったんやろなぁ。
子供のころから、3つも上だったのに妹みたいで、それでいて姉みたいで、いつも一緒に居たのに。
あの青い星が、今は遠い。
……………
………
…
「朝、か……」
隙間から差し込む光に、開いた眼を細める。
眩しさに手を翳して、すぐにその腕が布団の上に落ちた。
朝は特に体が怠い。
まだ昨日の余韻が残っているような気がして、動くのも億劫だった。
とはいえ、いつまでもこうしているわけにはいかない。
今日は朝から事務所に呼ばれている。
『羽衣小町』として、今後についての話があるらしい。
何を話すのか分かりきっていても、顔は出さなければならない。
ため息を吐いて、一気に起き上がった。
朝食は食堂で和食を軽く適当に。まだ朝早いため、殆ど人が居なかった。
朝食を終えると、一旦部屋に戻って和服に着替えて外に出る。
駅の人混みの中を歩くのにももう慣れた。
周りからの視線もいつものことだ。
これはうちが小早川紗枝だから、ではない。
いくら色々な人が居る街でも、和服を着た子供は殆ど居ない。
――こんな街にまで来て、うちは何をしてるんやろ?
どうしてここに来ようと思ったのか。
理由なら覚えている。でも、それができたかというと……
これ以上は考えても意味がない。
その結論だって、今日これから変わるのだから。
「おはようさんどす~」
会議室にはもう周子はんとプロデューサーはんが居た。
プロデューサーはんの顔が引き攣っている。
また周子はんがプロデューサーはんをからかっていたのだろう。
最近は特に多い。やりすぎはよくないと思っているのだが。
「おはよー」
「おはよう。紗枝も来たことだし、簡単な会議を始めるか。議題は今後の活動について」
プロデューサーはんに向けて、軽く頷く。
逃げる口実に使われたことは一先ず置いておく。
「まず基本的には、『羽衣小町』での活動を優先する」
「……わかりました」
言われたことに理解が追いつかない。
「俺もこれが一番いいと思っている。周子からの要望もあったし、紗枝が同意してくれるなら決まりだな。
シンデレラガールの仕事は優先せざるを得ないが」
普通ならあり得ない、はず。
しんでれらがーるの影響力は絶大で、自らそれを殺すような真似は普通ならしない。
――ほんに、何を考えてはりますのやろ?
「周子はんも、好きどすなぁ。こういうの」
「別に熱い展開とかじゃないし。こうしとかないとアタシの……ま、いいや」
途中で言葉を止めて、右手をひらひらと振る。
どうせいつもの気紛れだろう。そんなことは、今はどうでもいい。
「のんびりしてられまへんな。ほな、きばりましょか」
「あー、うん、ほどほどにね」
どうにも、周子はんの気が散っているように見えるが……
「それじゃあ今後のスケジュールの打ち合わせだ。どの仕事を受けるか意見をくれ。
選ぶだけでもかなり大変だからな」
そう言って、プロデューサーはんが指差したのは紙の山。
抱えきれないくらいあるあれが全部出演の依頼だとしたら、そう言いたくなるのもわかる。
あいどるになってからは必死に売り込まなければ仕事もなかったはずなのに。
なんだか、遠いところに来てしまったような気がする。
「よし、始めるぞ。時間がもったいない」
このままで、本当に大丈夫なのだろうか。
その後は、忙しい日々がずっと続いた。
周子はんの仕事はもっと多くなったけど、うちも今までにないほどの量を周子はんと一緒にこなしていった。
そこでは、9代目しんでれらがーる塩見周子とそのおまけ。
人気に差がありすぎて、対等なアイドルとして見られていないことが嫌でもわかる。
実力だって、徐々に縮まっていたはずだ。
要領のいい周子はんが積み上げた1年分の経験を、凡人のうちが追いかけられていた。
途中までは。
人気が実力を増大させる。
場を支配する力は名声と深く連動している。
実力を正当に評価して貰える場なんて、批評家の前だけ。
大多数の目には確かな違いなんてわからないもの。
それを超えるとしたら、頂点に近い実力を持つ者のみ。
あいどるとしてはそのどちらも持っていないうちでは、この壁は突破できなかった。
――誰も、うちのことなんて見いひん。
努力は続ける。
ただし、それが報われるとは――
……………
………
…
最近、紗枝ちゃんがおかしい。
なにがって、優しくなったような気がする。
ここのところ激しく罵られた記憶がない、と思う。
一応言っておくと、あたしは別に特殊な趣味を持ってるわけじゃない。
どんな心境の変化があったかは……いいとして、それがどこに向かったんだろう?
どっちにしろ、あんまりよくないことってことは間違いない。
だからこうして寮の1階でソファーに座って待ってるわけだけど……
「あ、おかえりー」
「ただいま。こないなとこで座ってはるなんて珍しいなぁ。どうしはったん?」
台本を閉じてテーブルの上に放り出す。
よし、予定通り捕まえた。
これでそれまでは決してだらだらと過ごしていたわけじゃなくなった、はず。
「ちょっと紗枝はんとお話ししたくなってね。最近忙しかったでしょ?」
「周子はんのおかげどすなぁ」
「あはは、ここまでだとは思ってなかったけどね」
「でも、周子はんとは昨日もお話したんと違いますか?」
「周りに人が居るとこでね。それじゃ色々と言えないじゃん?」
「確かにそうどすなぁ。周子はんが怠けてはることなんて言えへんし」
「力を抜いてるだけだし。誤解されるような言い方はやめてほしいなー」
「あら、堪忍しとくれやす」
こうして話していても、いつも通りに感じる。
「パンケーキのお店見つけたんだけど、今度行ってみない?」
「ええどすなぁ。周子はんの予定は――」
でも、最初からこうだったっけ?
「また暑うなってきはりましたなぁ」
「それ着てるからじゃないの? もっと涼しいやつ探せば――」
昔はもっと――
「紗枝はんはそろそろテストがあるんじゃないのー?
どう? 勉強してる? なんなら教えてあげようかー?」
「ええわそんなん。うちは周子はんよりは――」
もっと、自由だったはず。
「もうあれから1年半になるんだよね」
「周子はんが押しかけてきてからどすか? 懐かしいわぁ。
連絡一つ寄越さんといてのこのこ出てきはったなぁ」
「だからあれは悪かったって言ったじゃん」
「反省してはるならよろしい」
そのときは、昔に戻ったみたいで。
だからだろうか。この言葉も、自然に出てきた。
「ねぇ、紗枝はん。紗枝はんがいてよかったよ。
こっちにでは独りで寂しかったからさ。紗枝はんが一緒にいてくれて、あたしは幸せ者だよ」
「……うちも、周子はんと一緒で幸せや」
紗枝ちゃんの笑顔は滅多に見られないくらい本当に綺麗で。
「うちはそろそろ寝ますかなぁ」
京都にいた頃、お稽古で見た表情に似ていた。
「ちょっと紗枝は――」
「周子はんも、夜更かしはあきまへんよ?」
「待っ……!」
そのまま、紗枝ちゃんは階段の向こうに消えていった。
紗枝ちゃんを見送って呆然と立ち尽くしながらも、左手は無意識に画面を叩いてていた。
「なんでだろ。幼馴染で、お姉ちゃんで、ずっと一緒にいて、なのに……」
「もしもし?」
1コールで、スピーカーから声が聞こえてくる。
「はは……あたしって、情けない……」
「おい、どうした?」
「こんなはずじゃなかったのにな……どこで間違えたんだろう。あの日、京都に行かなきゃよかったのかな」
「周子!」
「あたしのことはどうでもいい、ってこともないんだけど、助けてほしいんだ」
「だから分かるように――」
「ねぇ、プロデューサー。紗枝ちゃんのこと、お願いね」
自分でも支離滅裂なのがわかっている。言いたいことはたくさんあるはずなのに、黙って先を促してくれた。
「ごめん。もうあたしじゃ届かない」
「詳しく聞かせろ。すぐ行くから外出の準備をしておけ」
そう言ってくれて、どれだけ心強かったことか。
……………
………
…
いつものように事務所に来た。
今日はうちだけが呼ばれている。
ここで2時間話したのは現状の再確認のようなことだけ。
今のうちがどうかなんて、うちが一番よく知っている。
これからのことなんて変わらない。
それをもう一度突きつけられて、何か意味があるのだろうか。
「――それから、本業も大切だ。せっかくいい高校に行ってることだし、学業をおろそかにするのはもったいない。
学校の方で何か問題はないか?」
「別に、これくらいなんでもあらしまへん」
「さすがに優秀だな。関東と関西のどちらでも選べるわけだし。
進路は早めに決めておくといいかもな」
なんでもないことのようにそう言われて。
前のめりになったところで――なんとか抑えた。
「今のうちに、将来本当にやりたいことを見つけておくといい」
「……東京に連れてきた思ったらここにきてほったらかしよって」
こんなこと、いつものプロデューサーはんなら言わない。
それも、話の中に何度も織り交ぜてきて。
挑発だとわかってはいても、もう我慢が出来なかった。
「どれだけ努力しても周子はんとの差は無くならへん。
周りは学校を大事にしいやって周子はんには言わへんことばっかり。
うちは何のためにここに来たん? なんであいどるを続けとる?
あんたはうちをどうしたいんや!?」
止めなければならないとわかってはいても、一度口に出してしまうと止まらなかった。
プロデューサーはんが言ってほしいと思っていたから余計に。
「わかっとっても、もう……疲れたわ……」
こうならないようにしていたつもりだったのに。
思っていた以上に限界が近かったようだ。
「周子に言われるまで気づかなくてすまなかった」
「本音と建前なんて誰でも使い分けてますやろ?」
「紗枝のは年季が入りすぎなんだよ。
それで、周子の人気は1年もすれば落ち着くし紗枝の人気も上がっているからそこまで我慢すれば勝手に横に並べる。
実力だって、いくら周子が要領がよくて1年分のアドバンテージがあると言っても紗枝の成長には及ばない。
そう理解はしていても、それまで我慢ができなくなった……ということでいいんだよな?」
「プロデューサーはんはきっちりしてはりますなぁ」
「いや、嫌みじゃなくてな。ここからすれ違ってたら話が進まないだろ?」
そうは言っても、気にならないかとは別問題だ。
「それにしても、やっぱり周子はんどすか」
「最近罵られた気がしなくなったから気づいたとよ」
「わぁ……うち、そないな人知らへんわぁ……」
「おい、マジで引くな」
「そないなこと言われてもなぁ……」
周子はんは違うはず。プロデューサーはんの冗談のはずだ。たぶん。
「まぁ、誰にも原因がないことで勝手にへんねし起こして、それぶつけるわけにもいきまへんやろ?」
「それが原因か。気持ちはわかるがな。
それなら、早く言ってくれればよかったんだ」
「言うて変わりました?」
「言わなければどうにもならないだろ。
上司に言って引き立てて貰った坊さんもいることだし」
「……『法の橋の下に年経るひきがへる今ひと上がり飛び上がらばや』?」
「わかりやすい例えだろ?」
「今物語を知らへんかったらわかりまへん」
「それは置いておくとして、解決策のひとつは紗枝が周子に追いつくことだ。
周子の人気が落ち着く前に並べば減衰を抑えて利益も大きくなるだろうし」
「正気どすか? まだあにばーさりーも終わってへんのに」
「まだまだ人気は上り坂だ」
「相手はしんでれらがーるですやろ?」
「そうだな」
「Cランクと、どれだけ差があると思うてはります?」
「たった2つだ。それで、やるのか? やらないのか?」
「……何をうじうじ悩んでたんやろ、あほらし。1回だけ、やってみましょか」
今やっていることと何も変わらない。ただ周子はんの後を追いかけるだけ。
それでも力が及ばなかったら、将来の道を考える切っ掛けにもなる。
「都に帰る前に、あの憎たらしい幼馴染の顔を張っ倒さな気が済まへん」
結局うちは、自分の力で周子はんの隣に居たかっただけだから。
「それで、方法は考えてあります?」
「任せとけ。伝手と権限は使うためにあるんだ」
……………
………
…
「紗枝はーん」
「あら、周子はん?」
寮に帰るとまたこの前と同じ場所に周子はんが居た。
「んー? 紗枝はんなんか変わった?」
「あらー、気づきはります?」
「うん、すっごくよくなったと思うよ。これで安心かな」
「うちは安心できへんなぁ。周子はんがなんや変態らしいて聞いたし」
「え、違うけど。それどういうこと?」
「なんやったかなぁ……確か、どえむ、言いましたかなぁ?」
「それ違う! 誰、ってプロデューサーからだよね!? 何言ってんのあの人!」
「思い出せまへんわー。ほな、夜更かしはあきまへんよ?」
「逃げるな紗枝はんっ!」
「きゃー、おそわれるー」
早足に階段を上ると、下から周子はんの笑い声が聞こえてきた。
心配させたようだけど、もう大丈夫なはず。
あとは、うちの問題だから。
……………
………
…
うちの前に立っているのは青木麗はん。
当初の竹刀を握って険しい表情をしていた面影は、今はもうない。
「小早川。そろそろやめないか」
れっすんを始めて半日。青木はんの要求する水準を超え続けて、ついには止められるようになった。
「うちはまだ動けます」
「動けることとレッスンができることは違うだろう」
「うちは少しでも上に行かなあきまへん。動いて身になる間は絶対に辞めたくありまへん。
うちの限界はうちが一番わかってます」
今まで会ってきたとれーなーはんと比べても格段に優秀な人だ。
普通ならそれに従っていればいいのだろうけど、うちにはそれでは足りない。
「そうは言ってもな」
「芸事は泣いても喚いてもするものどす。
あいどるはどんなもんやろて思うとりましたけど、これならお稽古の方がなんぼかしんどいわぁ。
一番しんどいれっすんて、この程度どすか?」
「……この負けず嫌いが。いいだろう、最期まで付き合ってやる」
「おおきに」
その言葉が欲しかった。プロデューサーはんが用意してくれた最高の環境は完全に活かし切らないといけない。
そうやって、何をしてでもうちは――青の一番星(シリウス)に、手を伸ばす。
……………
………
…
あにばーさりーらいぶの本番直前。
今年の主役はしんでれらがーるの周子はん、のはずだったけど。
その枠は『羽衣小町』として出ることになっている。
うちの実力は周子はんと比べても遜色ないところまで来ている。
それでも、世間の評価にはまだ大きな差があった。
「それでも、周子はんと並べるならええわ」
「あたしもだよ。でもさー、緊張して台無しにしないでよー?」
「誰に物を言うてはります?」
「シンデレラガールに気後れしないようにねって」
「たかだかその程度で天狗になりはって、周子はんは随分幸せ者どすなぁ」
「ほら、あたしって大天狗だし? むしろ九尾も兼任だし?」
「隠れ蓑笠をほかす用意は忘れんようにな?
そもそも、芸歴ならうちが16年先輩やし。周子はんこそ、足元掬われんよう気い付けなはれや」
うちらの出番は1曲目から。
すてーじに立ったら広い会場は青い光で満たされていた。
それも、今は関係ない。
他者のことは意識の外へ。
客席も気にする必要はない。
これから披露するのは、寸分の狂いも無く完成された舞。
何事にも左右されることなく、だからこそ美しい。
世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
さぁさ、咲き誇れ――
赤と青の和服を着て、赤と青の傘を持って、すてーじの上で周子はんと並ぶ。
傘をくるくると回して、あちこちに振り回して、何度も何度も赤と青が交差する。
体がぶつかりそうな距離でも、傘が掠りながら交わっても、一切の動揺はない。
光の花吹雪が降り注ぐ中、ふたりきりで夢幻のような空間に居るような。
意識が浮いているような感覚に包まれていると、最初の4分間はすぐに終わった。
音が止むと、一気に現実に引き戻される。
聞こえる歓声はしんでれらがーるに向けられるものと遜色ない。
いつの間にか、会場は青とぴんくが半分ずつで染まっていた。
「なんかさー、やり切ったね」
「言うんが早いわ。まだ始まったばかりどすえ」
周子はんが気の抜けたような表情をしている。
すてーじの上でも、うちらがしていることはいつもと変わらなかった。
それがなんだかおかしくて。
2人でまいくに拾われるのも気にしないで、しばらく声を上げて笑っていた。
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