勇者「魔法を使うやつが大っ嫌いなんだ」(133)

勇者さんが左に剣を構え、力を溜める。

勇者さんお得意の回転斬りだ。

―――シュンッ!!

風を切る一瞬の音。

崩れ落ちる魔物。

私がこのパーティに加わってから何度も見てきた技だ。

この技を食らって、上半身と下半身がつながったままでいられた魔物は、一匹もいない。

戦士さんが大きな斧を上段に構える。

ミルキィアークスというそうだ。

可愛い名前に似合わず、恐ろしい外見をしているが。

―――グチャァアッ!!

怖気の走る音を立てて、魔物が叩き潰された。

何度も振るううちに切れ味は悪くなる一方だが、戦士さんの腕力によってより凶暴な武器となっている。

岩や鎧の魔物でさえ、戦士さんの腕力によってことごとく潰されてきた。

コテがおかしい……!?
まあ、ええか

武闘家さんが目を閉じて正拳の構えを固める。

鍛え抜かれた肉体は、細身ながらも恐ろしいオーラを放っている。

どんな者が見ても、一目で「達人だ」と結論を出すだろう。

達人の構えは一瞬で解かれ、目に見えない速度のこぶしが魔物に叩き込まれる。

―――ボシュッ!!

こぶしから放たれた衝撃波は魔物を貫き、大きな穴をあけた。

力の使い方によっては、穴をあけずに力を体内に残し、爆発四散させることもできるそうだ。

盗賊さんが魔物の死体からモノになりそうな素材をナイフで切り離している。

珍味として重宝されているアンデッド系魔人の脳みそ。

ローブの材料や調合の品として使われる鳥人系の魔物の羽根。

爬虫類系の魔物からはうろこや爪、とがった歯など。

これらの品は高く売れたり、旅を楽に進めるための道具や武器防具に変わる。

さすがに目ざとく、どうやれば最も効率よく素材を得られるか、考えられている。

このパーティで、最も頭が切れるのは彼だろう。

一方私は、といえば。

体が強くもなく。

強力な装備品に守られているわけでもなく。

一撃必殺の強力な技もなく。

できることは傷を癒す回復魔法。

それから敵の魔法を無効化する魔法バリア。

それから火の魔法に氷の魔法に雷の魔法……

魔法には自信がある。

でも……

「魔法を使うやつが大っ嫌いなんだ」

勇者さんのその言葉は私の心を貫いた。

このパーティで、私に発言権はない。

勇者さんの視線は、いつも私を貫いた。

恨みのこもったような。

視線で殺そうとしているかのような。

魔法を使う者すべてを憎み、恨み、目の敵にしている。

理由はわからない。

そんな勇者さんは、今も私をパーティの一員として認めてくれていない。

私は必死だった。

このパーティに入れてもらおうと必死だった。

魔王の支配によるこの世界の混沌を終わらせたい。

そう切実に願っていたからだ。

それを叶えてくれるであろう勇者の一行に出会えたのは本当に奇跡だった。

すべてのプライドをかなぐり捨てて、私は頭を下げ続けた。

「勇者、お前の言うこともわかるが、旅に魔法は必要だぞ」

「こいつの魔法は、確かに強力だった。お前も見たんだからわかるだろう?」

「酒場で突っぱねた魔法使いや僧侶どもなんかより、よっぽど芯があると思うんだが」

「意地張らずによ、入れてやってもいいと思うんだがなあ」

私を推してくれたのは、他ならぬ戦士さんだった。

無骨そうな外見に似合わず、とても紳士的だった。

私が勇者さんに冷たくされていても、優しく声をかけてくれる。

「ふん、一番脳筋のはずのお前がそう言うとはな……」

勇者さんはあきれ顔でそう言っていた。

「私は差別はしない」

「魔法が使えようが使えまいが、関係ない」

「勇者が連れていくというのならそれに従うだけだ」

「しかし魔法というものを完全に信頼しているわけではない」

「私も最終的には、勇者と同じく『信じる物はこの身だけ』と思っている」

武闘家さんは寡黙だ。

でもこのときばかりは、少したくさんお話ししてくれた気がする。

「いや、だからおれは連れて行く気は……」

勇者さんは、なおも困ったような怒ったような表情を浮かべていた。

「あ、おれは危なかったらどんどん回復してね、弱いからさあ」

ひひっと笑って言う盗賊さんは、軽薄そうに見えてとても気遣いのある人だった。

「勇者さーん、こいつがいてくれたら、薬草や回復薬に回すお金が浮くんっすよねー」

「ただでさえ今、魔法がないから道具に頼ってるわけですしー」

「勇者さんに対して極力魔法を使わないって約束して、あくまで魔王を倒すのは勇者さんの剣ってことでー」

「それでサポートをしてもらえたら、このパーティのカネを管理してるおれも、ちーっとは助かるんっすけどねえー」

盗賊さんは、ニヤニヤ笑ってはいるが、まじめに考えている人だなあ、と思った。

「……魔法なんかなくても、強いパーティを組んだつもりだったのにな」

勇者さんは皮肉ではなく、諦めのような感情でそう言った。

こうして、私は曲がりなりにも、魔王を倒す旅に連れて行ってもらうことを許された。

勇者さんは魔法が嫌いだ。

だから私はできるだけ謙虚に、影の努力を続けた。

「私の魔法のおかげで」旅がうまくいっている、なんて、おくびにも出さない。

派手に魔法を放つと勇者さんににらみ殺されてしまう。

少しの傷で勇者さんを回復すると、怒鳴り散らされる。

だから、いつも気を遣っていた。

だけど、そんなこと、苦にもならない。

ここにいられることが、嬉しい。

私は今の立場になんの文句もない。

世界を魔王の支配から解放するためなら、どんなことでもする。

私はただただ、力任せの戦闘の邪魔をしないようコソコソと立ち回って、勇者さんたちが殺し損ねた魔物にとどめを刺して回った。

強力な魔法を使うタイプの魔物相手には、魔法バリアを張る。

決して出しゃばらず、目立たず、勇者さんに嫌われないように一生懸命立ち回った。

実際、ほとんどの魔物に対して、みんなはあまりにも強すぎてサポートのヒマもなかった。

力任せの戦闘で、最果ての小さな島国から、こんなにも魔王城の近くまで旅してきた人たちなのだ。

強いに決まっている。

一部の魔物たちは、恐れて近寄ってこない。

それほど、勇者さんたちは強かった。

鬼のように強かった。

という感じで、また明日です ノシ

「どうしてそんなに魔法を毛嫌いするんだ?」

たき火を囲んで、今日は野営だ。

しっかり準備をして、今日と明日でこの大きな洞窟を抜ける予定だ。

暗くて光源のない、じめじめとした洞窟。

だから私は、火の魔法であたりを照らしていた。

勇者はとてもいやそうな顔をしたが、盗賊さんの「松明を用意する金も馬鹿にならないんすよ」の一声でしぶしぶ認めてくれた。

旅は順調だった。

洞窟内でも、みんなの力技は無類の強さを発揮した。

勇者さんが『回転斬り』で魔物をぶった切る。

戦士さんが『極潰し』で魔物を叩き潰す。

武闘家さんが『稲妻正拳』で魔物を爆発四散させる。

盗賊さんが高価な宝箱を察知し、お宝をどんどん得る。

旅は、順調だった。

少しの油断があった。

火の魔法で洞窟なのに明るいこと。

みんな、桁外れに強いこと。

魔物たちがそれに恐れおののいていたこと。

そこに、わずかな油断があったのだろう。

魔物の瀕死の一撃が、思いもよらぬダメージを勇者さんに与えた。

「おい! 勇者! 目ぇ開けろ!! おい!!」

勇者さんを戦士さんが揺り動かす。

勇者さんは目を開けない。

こんな状態の勇者さんは、見たことがなかったのだろう。

武闘家さんもさすがに顔色が悪い。

盗賊さんもおろおろするばかりだった。

「おい! 回復魔法! 急いで!」

戦士さんがこちらに向かって叫んだ。

「ヒトニエ!!」

ぽう、と私の手の魔力が勇者さんを癒す。

まだ間に合うはずだ。

勇者さんは死んでいない。

でも、魔法で回復して勇者さんは気を悪くしないだろうか。

そんな考えがふと頭をかすめたが、命あればこそだと思いなおした。

目を覚ました勇者さんは、私に怒鳴ることはなかったものの、見たこともないほど不機嫌になった。

不快だ。

汚らわしい。

魔法の力で命を救われただなんて。

魔法の力で蘇ったなんて。

そう言いたげな顔だった。

「ぞっとしたっすよ、目を覚まさないんじゃないかと思って」

「勇者殿がいなければ、このパーティも意味をなさない」

「いやあ、無事でよかったよかった、がっはっは!!」

みんな勇者さんの無事を喜んでいた。

そして、私に気を遣っていた。

そしてその夜、たき火を囲んで、戦士さんが勇者さんに尋ねた。

なぜそんなにも魔法を忌み嫌うのかと。

自分の命が救われたとしても、嫌いなのかと。

勇者さんは答えにくそうにうつむいたままだ。

言うべきがどうか、迷っている。

そんな感じだった。

「言いたくねえのなら無理には聞かねえけどよ」

「でも、これからさらに魔物も強くなるっすよ。無事に旅が続けられるよう、聞いといた方がいいっす」

「勇者殿が私たちを信頼するなら、話をしてほしいな、今後のためにも」

>>45 ミス

そしてその夜、たき火を囲んで、戦士さんが勇者さんに尋ねた。

なぜそんなにも魔法を忌み嫌うのかと。

自分の命が救われたとしても、嫌いなのかと。

勇者さんは答えにくそうにうつむいたままだ。

言うべきかどうか、迷っている。

そんな感じだった。

「言いたくねえのなら無理には聞かねえけどよ」

「でも、これからさらに魔物も強くなるっすよ。無事に旅が続けられるよう、聞いといた方がいいっす」

「勇者殿が私たちを信頼するなら、話をしてほしいな、今後のためにも」

「……おれは町に住む前、山の中の小さな小屋で育ったんだ」

勇者さんがぽつりぽつりと話し出した。

「山ん中で両親と育った。山猿みたいな生活だった」

「でもおれは、それで、十分幸せだったんだ」

少し言葉を切る。

遠い昔を思い出しているようだった。

私も遠い昔のことを思い出して、ふと、悲しくなった。

「ある日、山賊が小屋を襲った」

「今のおれや戦士みたいな力任せの山賊ではなくて、魔法で相手をねじ伏せる山賊だった」

「おれを守ろうとした両親は、山賊にむごたらしく殺された」

「おれは部屋の隅で死んだふりをすることしかできなかった」

「……両親が……死んでいくのを見ていることしかできなかった……」

「そもそも人間は、魔法なんか使えなかったんだ」

「魔王が生まれて、魔物が世の中を我が物顔で歩くようになって、そのうちに人間も魔法が使える種が生まれて……」

「魔法なんてもんは、魔物の呪いみたいなもんだ」

「今人類は、魔物の呪いにやられている」

「魔法名だって詠唱だって、なに言ってるかわかんねえし」

「もともとは魔物のもんなんだ」

「だからおれは、この身一つで、魔法なんかに頼らずに、魔王を倒したいと思ったんだ」

「魔法なんて必要ない、平和な世の中を取り戻したいと思ったんだ……」

誰も、しばらく口を利かなかった。

両親の敵。

魔法を憎むのに十分すぎる理由だった。

それも、魔物ではなく人間が使った魔法。

歪んだ恨みが彼を育てたのだろう。

「こいつの魔法は……魔王を倒すために必要だ」

「それは……理解している」

「今日もおれの命を救った」

「だが……」

葛藤があるのだろう。

魔法が両親の命を奪ったことは、消せない事実なのだ。

だから迷い、悩み、あがくのだろう。

私はその歩み寄りだけで、十分に嬉しかった。

「勇者さん、理由はよーっく分かったっすよ」

「おれたちも、もっと己を磨かなきゃあなあ」

「私も精進しましょう、世界の平和のために!」

みんな、勇者さんの話に心を動かされている。

私の魔法は魔王を討ち取るためにある。

そして、勇者さんの命を守るためにある。

そのために、できることはなんでもやる。

そう、決意を新たにした。

という感じで、また ノシ

【王の間】

「おら、顔あげろ」

「勇者の一行がそんな辛気臭い顔しててどうすんだ」

「胸張って前向いてろ」

「喋るのはおれがやるから」

「お前ら、後ろで見守っててくれたらいいから」

「じゃ、行くぞ」

勇者さんを先頭に、ぞろぞろと王様のいる部屋へと入っていく。

王様が椅子にふんぞり返って勇者さんの報告を聞いている。

魔王の支配が終わったことを喜んでいるけれど、その態度は少し偉そうだ。

戦士さんも、武闘家さんも、盗賊さんも、退屈そうだ。

大きな戦いが終わったから、目標を見失ったような感じだ。

私も同じ。

これからどうしようか。

魔物の制圧の旅をするとしても、いつから? どうやって始める?

そんなことをぼんやりと考えていた。

「で、だ」

王様が話を切った。

「魔王討伐の仲間たちというのは、そこに並んでいる者たちなのかね」

心なしか聞きにくそうに、王様が勇者さんに尋ねている。

「ええ、そうです」

勇者さんは目を逸らしながら答える。

私はぎゅっと胸が痛んだ。

私を仲間と認めてくれる発言は嬉しいけれど、勇者さんが困らされるのは辛い。

「そ、そうか……」

「そ、その、右端の者は……その……」

王様がなおも歯切れ悪く勇者さんに尋ねている。

私はさらに胸が痛くなった。

逃げ出したくなった。

「私なんて仲間と名乗る資格もない、大した存在じゃないので、お暇します!」と言いたい。

「ええ、そいつも、おれの大事な仲間です」

「そいつの魔法がなければ、危なかったでしょうね」

前の勇者さんからは考えられないセリフだ。

嬉しくて涙が出る。

私はぎゅっと帽子を目深にかぶって、顔を隠した。

こんな顔は、勇者さんに見せられない。

「しかし……その者は……その……」

「……魔物……ではないか……」

王様の言葉が胸を突きさす。

これまで勇者さんからどんな視線を浴びたときより、どんな言葉をかけられたときよりも、ひどい気分になった。

「それがどうかしましたか?」

「魔王城には、魔王に心酔した人間だっていたし、おれたちはそれを倒してきましたよ?」

盗賊さんがなんでもないことのように言う。

「おれたちみたいな筋力だけのパーティでは、魔王を倒すのは難しかったですね」

「ほら、猪突猛進のバカばっかりだから、はっはっは!」

戦士さんが豪快に笑い飛ばす。

「大切なのは結果ではないでしょうか」

「私たちは、このメンバーで、魔王を討伐した、それだけです」

武闘家さんが冷静に言い切る。

「と、いうわけで報告、終わります」

勇者さんがさっさとこちらに帰ってくる。

「報酬の話は、また後日、ということで」

「なんせ疲れているものでね」

もう王様の方は振り返らない。

「さ、行くぞ」

そう言って肩で風を切り、王様の部屋を後にする。

私は戸惑いながらも、みんなについていく。

なんだかみんなの背中が、とても頼もしかった。

今から思えば、勇者さんは「魔物だから」私を嫌ったり目の敵にしたりしたことはなかった。

町の魔道士さんたちにも、同じように恨みのこもった目線を送っていた。

彼にとって重要なのは「魔法を使うかどうか」だけだった。

他のみんなも、私を魔物扱いもしなかったし、人間と区別されることもほとんどなかった。

そんなことに、今更気づかされた。

「とりあえず、打ち上げがてら、酒でも飲みに行くか」

首をぐりぐりと回しながら、私の方を見て言う。

私はもちろんこくこくと頷く。

ほかのみんなも異論はなさそうだった。武闘家さんも含めて。

「今日くらいは、飲もうぜ」

勇者さんがにやりと笑う。

私も、笑った。

心から。


★おしまい★

なんか予定より長くなりました
みんながこの後も旅を楽しんでくれたらいいのですが……

    ∧__∧
    ( ・ω・)   ありがとうございました
    ハ∨/^ヽ   またどこかで
   ノ::[三ノ :.、   http://hamham278.blog76.fc2.com/

   i)、_;|*く;  ノ
     |!: ::.".T~
     ハ、___|
"""~""""""~"""~"""~"


コテがおかしい……
janeでは正常なのに……orz


トリじゃね?

>>117
ほんとだ酉か 間違えました
まあこのままいくしかないですかね……

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