廃墟と化した鎮守府の夜明け (589)
「廃墟と化した鎮守府を見つけて」「廃墟と化した鎮守府の秘密」の続きです
今回は解答編となる為、安価は少なめになります
※注意
艦隊これくしょんのSSです。安価あり
また作中には艦娘の轟沈や死に関する内容や表現が含まれます
そういう内容が苦手な方は十分ご注意ください
前スレ
【廃墟と化した鎮守府を見つけて】
廃墟と化した鎮守府を見つけて - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480178936/)
【廃墟と化した鎮守府の秘密】
廃墟と化した鎮守府の秘密 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1482651397/)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1484409241
-地下施設 電子ロックされた扉の前-
時雨「再びここに来たね」
初霜「やっぱりこの扉が最後に来る場所になりましたか……あとはあのカードキーで開くかですけど」
不知火「他に電子ロックされた扉もありませんし、あのカードキーで間違いないはずです」
吹雪「この扉の先には、いったい何があるんだろう……?」
阿武隈「とにかく開けてみよう。時雨ちゃん、お願い」
時雨「うん。扉の横にあるこの機械に……あった。ここにカードキーを通せば」カチャッ
ピーッ
ガコンッ! ヴィィィィィィン
不知火「! 扉が自動で上がっていく……」
初霜「カードキーの認証システムもそうですけど、ここだけ明らかに管理が厳重になっていますね」
時雨「うん……これだけ厳重な設備を施す必要がある部屋。この先にあるのはおそらく……」
ヴィィィィィィン ガコンッ
夕立「扉は完全に開いたっぽい」
阿武隈「それじゃあ、みんな……いってみよう」
来てたのか
BCは司令官の命令(実験体の確保?)で動いてて
Aはそれとは別に本能(他の艦娘の吸収)で動いてたんじゃないかな
時雨BAD以外では割と問答無用でヤられてるし
-地下実験場-
夕立「なんだか広いところに出たっぽい」
阿武隈「何なの、ここ……。すごく広い空間になってるみたいだけど」
初霜「地下にこんな広大な空間があるなんて……」
吹雪「薄暗いですけど、照明が幾つか点いていますね。天井もかなり高い位置にあります」
不知火「ここも我々が電源を復旧させたから電気が点いたのでしょうか?」
時雨「いや、配電室で電源レバーを操作した部屋はすべて回ったから違うはずだ。ここは元から非常電源が機能していたか……」
時雨「そうか非常電源と一緒に元から機能していた特別区画っていうのは、ここの事だったのか」
阿武隈「じゃあ、ここは初めからずっと電源が生きていたって事……?」
時雨「うん……今までずっと、ね」
初霜「よく見えませんけど、色々な機械や物がそこら中に置かれているみたいですね」
吹雪「ほんとだ。ここは機械や兵器の保管場所か何かかな?」
時雨「いや、多分違う。ここは恐らく……『地下実験場』だ」
初霜「地下実験場?」
時雨「地下施設で見つけた資料の中に書かれていたんだ。実験に必要な設備の整った実験場が地下のどこかに存在してるらしいけど、おそらくここがそうだ」
時雨「ここで何らかの実験を行う計画だったらしいけど……」
阿武隈「それにしても、ここからどう進んだものかしら」
初霜「空間の全体像がはっきりとは掴めませんけど、まだまだ奥がありそうですね」
不知火「行きますか?」
時雨「もちろん。この先には……この鎮守府で見つけた秘密、その答えがあるはずだ」
夕立「答え?」
吹雪「何か心当たりがあるの、時雨ちゃん?」
時雨「うん……あまり当たっていて欲しくはないけどね」
阿武隈「なんだか嫌な予感がする……みんな、気をつけて行こう!」
吹雪「奥の方に行くほど物が増えてきてるね」
初霜「作りかけの機械みたいですけど、バラバラにされたまま無造作に放置されてますね」
夕立「あっちにあるのって兵装じゃない?」
吹雪「ほんとだ。砲身みたいなのが付いてるし艦娘用の兵装かな」
初霜「ここにあるのは……艦娘用の艤装ユニット? 内部まで分解して、何らかの調整をしていたのかしら……?」
不知火「もしかしてこれらは、あの開発室で研究されていた試作兵器では?」
時雨「たぶんそうだ。ここは試作兵器の実験を行うための場所だったんだろうね」
阿武隈「何か灯りが見えるよ!」
阿武隈「なんだろう、これ……大きな機械が光を放ってるけど……?」
時雨「……大型のコンピューターだ」
阿武隈「コンピューター?」
不知火「近くにあるのは何かの大型バッテリーのようですね。あちらにはパソコンのような物もあります」
初霜「全て電源は生きたまま……今もなお作動してるみたい」
阿武隈「これはいったい……?」
時雨「……」
夕立「あれ? このパソコンの前に何かあるっぽい」ゴソゴソ
吹雪「それ……手記だ。でも随分新しいような……」
時雨「夕立、見せて」
夕立「ぽいっ」
時雨「たしかに……今まで見てきた資料類と比べて痕跡が新しい。つい最近書かれたみたいだ……」ペラッ
阿武隈「つい最近……」ゾクッ
初霜「手記には何が書かれているんですか?」
時雨「……」
『まさかこのような事になってしまうとは。』
『「Z計画」最終段階は入念な準備とシミュレーションを重ね万全の状態で進めていたが、最後の段階で予想外の出来事が発生した。』
『前段試験の結果を基に改×を重ね、検体生存率及び深海化の影響範囲に関して現理論上最小限までリスクの軽減を行い、その確率は数%代にまで抑えられていた。』
『しかし本試験ともいうべき最終実験。その最後の最後で数%の確率が起こってしまった……』
『失敗の原因は×自身の適性が予想以上に深海に傾いてしまっていたことだろう。』
『万が一に備え用意していた緊急用ワクチンの効力により完全な深海化こそ防げたが、深海化の影響は決して軽度ではない。』
『検査の結果、予想以上に深海化の影響は大きく、その影響なのか×××の感情も殆どが失われてしまった。』
『さらに深海化の状態も今までに確認されていないパターンで進行しており、今の×の状態は艦娘でも深海棲艦でもない。あの化け物たちとも異なるまったく未知の存在になってしまったと言わざるを得ない。』
『しかしそれ以上に深刻なのは、すぐにワクチンを投与したにも拘らず、×の中で緩やかだが確実に深海化が進んでいることだ。』
『このままでは深海化が進み、いずれは完全な深海棲艦……いや、それ以外の怪物になってしまう恐れは捨てきれない。』
『やむなく緊急措置として、×を化学的に仮死状態にし生命機能と共に深海化も止める措置を取り、深海化はなんとか食い止められた。』
『だが状況が極めて深刻であることは依然として変わりない。』
『当面はZ計画を含む全計画を一時中断し、×の状態を改善させることに全力を注ぐ他ないだろう。』
『今となってはこの計画にあ××を使ってしまった愚行を悔やむしかない。私は何と愚かな××をしてしまったのか……』
初霜「Z計画……?」
時雨「この名前には見覚えがある。確か……そう、検体保管室で見つけた『第三次強化実験』ってメモに書いてあったんだ」
阿武隈「そういえば実験室でも似たようなメモを見つけなかった?」
時雨「『第四次強化実験』ってメモだね。恐らくあれらの実験は全てこのZ計画に繋がるものだったんだ」
不知火「強化実験……」
吹雪「深海化ってことは、この実験に使われたのって」
阿武隈「深海棲艦の細胞……」
不知火「他の資料にも艦娘への深海細胞の移植実験という記録などもありましたし、間違いありませんね」
吹雪「それじゃあこのZ計画っていうのは、深海棲艦の細胞を使った艦娘の強化が目的ってこと!?」
初霜「なんてことを……」
時雨「第四次強化実験のメモによれば、実験はここ地下実験場で行うって書いてあった。この手記に書かれている失敗っていうのは第四次強化実験のことだろう」
時雨「実験は失敗し、その結果として実験体になった艦娘は深海化し計画も中断することになった」
時雨「この記述の後はよく分からない事が乱雑に記されてる……。たぶん深海化してしまった艦娘を元に戻すための研究についてだ」パラパラパラ
時雨「……っと、最後の方だけど再び纏まった文が書かれてるね」
『幸いなことに×の状態を安定化させる目途は付いたものの、実行にはまだ細かな調整と更なる研究が必要だ。恐らく安定化には1年は必要になる。』
『このことから考えても、Z計画の失敗により生じた本計画の遅れは最低でも数年規模に及ぶだろう。』
『終末計画の成功により奴らの目がこちらを再び捉える心配は薄いだろうが、実行が長引くほど不測の事態が生じるリスクは高まることを留意しておかなくては。』
『終末計画実行から間もなく1年。外の世界がどのような状況かはわからないが、強力な力を持った新型の深海棲艦が次々と出現していることだろう。』
『どちらにせよもう時間はあまり残されていない。×の件で中断していた本計画を再開し、一刻も早く奴らを絶滅させなくてはならない。』
阿武隈「本計画の遅れ……?」
初霜「Z計画とは別に、他にも複数の計画があったのでしょうか?」
時雨(……遅れが数年規模?)
時雨(それにここに書かれている終末計画の文字。ってことは、終末計画っていうのは……)パラパラパラ
時雨(……あれ? 最後の方にまだ少しだけ記述があったのか)ペラッ
『準備は整った。あとは完成品である「γ-13号弾」の最終実験を行いその結果が良好であれば、遂に我が本懐が成就するのだ。』
『本計画「絶滅作戦」に向けた試作兵器の最終実験は明日16.11.27を予定日として実行する。』
時雨(11月27日? 確か今日の日付って……)
時雨(えっ……)ゾクッ
夕立「んー……? こっちにあるのは何だろう?」
吹雪「あっ、夕立ちゃん。1人でふらふら動いたら……」
夕立「吹雪ちゃん、こっちにも何かあるっぽい」
吹雪「? なにこれ、大きなカプセルみたいだけど……」
吹雪「!?」
吹雪「み、みんな! こっちに来てください!」
阿武隈「どうしたの吹雪ちゃん?」
吹雪「こ、このカプセルの中……」
不知火「カプセル……!?」
初霜「!!」
阿武隈「こ、これって……」
時雨「……電」
電「――――」
すみません生存報告です
前回の更新から何の報告もなく2か月以上放置が続いてしまい本当に申し訳ありません
少し準備をして4月頭から再び再開し、4月中の完結を目指したいと思います
少し遅れましたが明日より再開します
諸々の事情により今までに比べてかなりスローペースになると思いますが、
時間を見つけて進めていき、完結まで持っていきたいと思いますのでよろしくお願いします
遅くなりましたが再開します
整合性を取るためにある程度書き進めてから投下するのでペースは遅めになりますがご容赦を
あと安価は当分は無い予定です
・あらすじ
任務からの帰還途中、廃墟と化した謎の鎮守府跡地がある島に流れ着いた吹雪たち6人の艦娘。
散り散りなってしまった他の仲間を探しつつ廃墟の探索を進めていく吹雪は、途中謎の怪物による襲撃に見舞われながらも、
廃墟と化した鎮守府の工廠内で阿武隈と、本庁舎で時雨・不知火と、そして鎮守府の地下に存在する謎の施設の中で夕立・初霜らと無事に合流を果たす。
仲間たちと合流し島からの脱出が可能になった6人だったが、未だ残るこの廃鎮守府の謎を明らかにするべく再度鎮守府の探索を行い、
この地で行われていた『何か』を裏付ける証拠を手に入れることに成功。
そして吹雪たちは、最後に残された謎の場所『地下実験場』に足を踏み入れた。
阿武隈「まさか……そんな……」
時雨「だいぶ容姿が変わってるけど、あの髪型、胸に付いてるⅢのバッジ。間違いない」
吹雪「白い身体と毛髪。それに頭に生えた赤黒い角……この姿ってまるで……」
不知火「……深海棲艦」
電「――――」ゴポポッ
初霜「カプセルの中は何かの溶液で満たされているみたいですけど、亡くなっているんでしょうか……?」
時雨「……いや、生きてるみたいだ。恐らく仮死状態のような形で眠ってるんだ」
不知火「ではこのカプセルや周囲の機械は、電を仮死状態のまま保管する為の……?」
時雨「うん。一種の生命維持装置か何かだと思う」
初霜「じゃあ、この手記に書かれている深海化してしまった艦娘って……」
阿武隈「電ちゃんだったのね」
吹雪「でもどうして電ちゃんがこんなところに……?」
時雨「…………」
夕立「んー……」キョロキョロ
初霜「夕立さん?」
夕立「この機械をいじれば電ちゃんを出してあげられるっぽい?」
初霜「あっ、だめです! 下手にいじっては――」
「それに触れるな」
全員「!?」ビクッ
阿武隈「誰っ!?」ピカッ
??「…………」
初霜「人? まさか、こんなところに生きた人が残っていたなんて……」
夕立「白衣を着た……おじいちゃん?」
不知火「いえ、髪と髭は伸びきっていますが……40代くらいにみえますね」
吹雪「もしかして、この施設の人……ですか?」
??「…………」
阿武隈「見たところ武器とかは持ってないみたいだけど……」
不知火「友好的な雰囲気とは言い難いですね」
時雨「夕立、その機械から離れて。武器は持ってないみたいだけど刺激しないほうがいい」
夕立「う、うん……」
??「…………」コツ コツ コツ...
??「……」カタカタカタ
時雨(! あの電が入った機械を操作してる……?)
阿武隈「あの、あなたは……いったい?」
??「…………」カタカタカタ
??「……どうやって、ここまで入ってきた?」
阿武隈「ど、どうって……」
時雨「地上の――庁舎の中に置かれていた金庫の中に保管されていたカードキーを使ったんだ」
??「…………」ピタッ
??「……あの金庫には鍵が掛かっていたはずだ。その鍵も、失われていたはず……」
時雨「……庁舎の入り口近く作られていた石碑の下に埋まっていたんだ。妙な手紙と一緒にね」
??「…………そうか」
??「…………」カタカタカタ
阿武隈「何なの、この人……?」
時雨「……そうか。やっぱりあなたが」
時雨「これで……ようやく全てが繋がったよ」
吹雪「……時雨ちゃん?」
時雨「あなたが黒幕だったんだね」
??「……」
時雨「1つ断っておくけど、僕たちはあなたの考えてるような立場の者じゃないよ。偶然ここに迷い込んでしまっただけさ」
??「……」
吹雪「し、時雨ちゃん?」
不知火「この男が黒幕とは……どういうことです?」
時雨「言葉の通りだよ。この人がこの鎮守府で起こった全ての出来事の当事者」
時雨「この地下施設で秘密裏に艦娘を使った人体実験を行い、そして地上を廃墟にした張本人」
時雨「そしておそらく今も、研究を続けている……いや、続けていた、のかな?」
??「……」
初霜「今も研究を?」
夕立「時雨が何を言ってるのかよくわかんないっぽい……」
吹雪「時雨ちゃん、どういうことなの?」
時雨「そうだね。まずは――この鎮守府について。そこからにしようか」
今夜はここまでで一旦終わります
明日お休みなのでそこで出来るだけ進めたい……
お付き合いありがとうございました
休みなんて無かった()
すみません今日はもう無理そうなので続きは木曜日に書きます
私事で恐縮ですが予告した日に更新できそうにない場合はこうして報告させて頂きます
不定期になりますがお付き合い頂ける方はよろしくお願いします
時雨「この鎮守府――いや、鎮守府跡というべきか。明らかに通常の鎮守府とは異なる様相だ」
時雨「未踏の海域内に存在し、僕たちの知る海域図にも記載されていない。友軍の施設だというのに今日まで僕たちの誰も存在を知らなかった鎮守府」
時雨「何より異質なのは、こんなに大規模な地下施設が存在する点だ。それもここにいた艦娘たちにすら知らされていないような秘密の施設がね」
時雨「これだけを見てもここが普通の鎮守府じゃない事は明白だ」
時雨「問題はここが一体何なのかって事さ」
吹雪「それは……」
不知火「これまで見てきたことから考えれば、ここでは艦娘を実験台にして何かの研究が行われていた……。ここが何らかの研究施設であることは確実でしょう」
夕立「研究施設……」
不知火「表向きは普通の鎮守府を装い、裏では艦娘に対して人体実験などを施すなどして、何かの研究を行っていた」
不知火「地下施設の規模などから考えて、ここは初めから艦娘への実験や研究を目的に造られた施設なのかもしれません」
時雨「確かに表面だけを見たらそうなるね」
阿武隈「表面?」
時雨「僕たちが今まで見てきた物事から考えれば、不知火の言う通りここは何かの実験施設だった。って推測に行きつくのは自然なことだ」
時雨「でも、そうだとすると不自然な点が多いんだ」
不知火「不自然な点……?」
時雨「まず、ここが初めから艦娘への実験を目的に造られた施設なら、ここにいた艦娘たちの様子は少しおかしい」
時雨「ここが艦娘を使った実験施設で艦娘は実験材料として集められていたのなら、当の艦娘たちが何も知らず比較的自由な環境で生活していたって言うのは妙な話だ」
時雨「そもそも初めから艦娘への実験が目的だったなら鎮守府に偽装する必要なんてないんだ。それこそ収容所のような施設を作って実験用の艦娘を投獄し纏めて管理していたほうがよっぽど合理的さ」
時雨「艦隊運用なんてリスクの塊だ。出撃させれば脱走のリスクになるし、何より実験体に武器を持たせたりしたら反乱に繋がる可能性すらある」
初霜「確かに……その通りですね」
時雨「次に鎮守府として艦隊を運用しつつ、裏で艦娘への人体実験を行っていた可能性。これも合理性で疑問が生じる」
時雨「下手をすれば艦娘たちに秘密が露見してしまうなんてリスクを負うくらいなら、僻地に造った実験施設に外部から実験に使用する艦娘をその都度送り込む形態にするとか、他に幾らでもいい方法はあるはずさ。わざわざそんな回りくどいことをする意味がない」
時雨「なら艦娘への実験が後天的なきっかけ――つまり元は普通の鎮守府だったけど、ここの提督が独断で実験行為を始めたのか? これもノーだ」
時雨「提督の独断にしては、ここは設備が整い過ぎてる。艦娘たちに気付かれず秘密裏にこれだけの地下施設を作るのもまず不可能だ」
不知火「確かに……普通の艦隊司令官がこんな地下施設まで急増且つ一存で用意出来るとは到底考えられませんね」
時雨「少なくとも、この地下施設は艦娘たちが来る前から存在していた。って考えたほうが自然だろうね」
時雨「そう考えると、ここが初めから艦娘の実験施設だった。とは考えにくい」
時雨「つまり、ここが秘密裏に設けられた艦娘を使った研究を行う為の施設なら、地上に鎮守府という形態を作ったこと自体が不自然なんだ」
時雨「地上と地下。それぞれの施設のコンセプトが大きく食い違っているからね」
阿武隈「じゃあ、ここはいったい何なの……?」
時雨「僕の推測だけど……元々ここにあった『施設』と、今の廃鎮守府は全く別の物だったんじゃないかな?」
限界、いったん寝ます
明日こそ休みとれたので可能な限り進めます
吹雪「別のもの……?」
時雨「うん。地下施設と地上の鎮守府。この2つの施設が1つの目的の下で造られたもので、同時期に運用されていたとすると整合性が合わないけど……」
時雨「これが建設された時期や用途、運用していた時期も全てが異なる別の施設だったとしたら、どうだろう?」
阿武隈「どういうこと、時雨ちゃん?」
時雨「まず、この地下施設についてだ」
時雨「巧妙に仕掛けが施された出入口。それにここの艦娘たちが存在を知らなかったこと等から考えて、地下施設の事は意図的に隠匿されていたのは間違いない」
時雨「しかし、さっき言ったように後から地下施設を増設したとは考えにくい。これ程の施設を鎮守府の誰にも気付かれずに作るのは不可能に近いからね」
時雨「そうなると……この地下施設は初めから存在していた可能性が高い」
夕立「初めから?」
時雨「うん。艦娘たちが鎮守府に着任する前から既にこの地下施設は存在していた。そう考えたほうが自然じゃないかな?」
時雨「僕はむしろ鎮守府自体が後付けで作られた施設じゃないかとすら疑ってる」
不知火「後付けとは?」
初霜「つまり、鎮守府に地下施設が造られたのではなく、地下施設の後に鎮守府が造られたと……?」
時雨「そう。僕の予想では、元々この島にはこの地下施設を主体とした『施設』が存在していた」
時雨「でも何らかの理由で施設は閉鎖することになった。そして、その後に出来たのが地上の鎮守府施設だった」
??「…………」
夕立「でも時雨の言う通りなら、この地下施設は過去に閉鎖された施設ってことになるよね?」
夕立「それがどうして今もこうして残ってるの? ちょっとおかしくない?」
時雨「おそらく潰さずに残す程の価値か……もしくは必要があったんだろう。鎮守府になる前の前身施設には」
時雨「あるいは鎮守府を造った経緯そのものが、前身となった施設の隠蔽にあるのかもしれない」
時雨「だから出入口に仕掛けを施して容易に発見できないように隠し、半ば封印に近い状態にしてこの地下施設を残したまま鎮守府を開設した」
初霜「確かに……そう考えれば辻褄は合いますね」
時雨「さて、ここまでの僕の仮説が正しかったとして……次に見えてくるものが2つある」
時雨「1つは、2つの施設の設立に関わる存在だ」
時雨「鎮守府が出来る前の前身施設だけにしても、これだけの規模と設備の充実ぶりを考えると、施設の設立には大きな力が働いている事は明白だ」
時雨「そして鎮守府とその前身施設……2つの施設は用途こそ違えど、設立に関わった組織は共に同じである可能性が高い」
吹雪「まさか……その組織って」
阿武隈「……大本営ね」
時雨「そう。もしこの施設の設立に大本営が関わっていたとしたら、僕たちが感じていた様々な疑問にも辻褄が合うんだ」
時雨「ここに来るまで誰もその存在を知らなかったこと、僕たちが知る海域図にこの島と鎮守府の存在が描かれていないこと」
時雨「これらは全て大本営によって組織的に情報を操作され隠匿されていたとしたら説明が付く」
時雨「さらに言えば、大本営まで絡んで造られたこの施設で行われていた事……それは相当やましい事なんだろうね」
時雨「それこそ、施設の存在そのものから組織的に徹底して隠匿しなければならない程にね」
初霜「この施設で行われていた事……」
時雨「そしてもう1つは、この鎮守府にいた提督のことだ」
時雨「僕たちが集めた情報によって、この鎮守府には2人の提督が居たことがわかってる」
時雨「1人は初期からここで艦隊の指揮を執っていた『中将司令官』」
時雨「そして中将司令官が失踪し、その後任として派遣されてきた『少将司令官』の2人だ」
??「……」
時雨「今言ったように、ここが大本営によって設立され隠匿されていた施設だとしたら、その地に責任者として置かれる提督の存在は重要だ」
時雨「海域図の件を考えると、海軍の組織内でもここの存在を知っていたのはごく一部の人間に限られ、一般向けには隠されていたんだろう」
時雨「だとすると、大きな秘密を隠したこの地にまったく無関係の人間を配置するとは考えにくいよね」
阿武隈「それじゃあ、やっぱりここの提督は知っていたのね……この隠された施設の存在を」
時雨「うん。僕は、むしろ鎮守府の責任者には前身施設に関係する人間を置いた可能性が高いとも思ってる」
時雨「重大な秘密を外部に漏らさず保持し続けるなら、秘密そのものを知る存在自体を一定に止めておくのが定石」
時雨「わざわざ何も知らない者に秘密を話すより、秘密を知る者を任に充てたほうが漏えいのリスクは減らせるからね」
不知火「だとしたら、それに当てはまる人物は……」
時雨「そう。この鎮守府の最初の司令官である中将司令官。彼は前身施設とも関係のある人物……大本営によって配置された秘密の守り人だったんじゃないかな」
吹雪「秘密の……守り人?」
初霜「ただの提督ではなく、この地に隠された秘密を守る役目を帯びていた……ということですか?」
時雨「うん……。そう考えると、ここを鎮守府にしたのも、秘密の守り人となる人間を常に置いておける形態として鎮守府が最適だった。って理由かもしれない」
時雨「こんな未踏の海域内に意味もなく常に人を置く奇妙な施設を造るよりは、鎮守府にしたほうが違和感はないし逆に妙な目が向くことも無いだろうからね」
不知火「灯台下暗し、という訳ですか」
時雨「さて、ここまでがこの鎮守府と地下施設に関する僕の推理だけど……合っているかな、当事者さん?」
??「……」
時雨「……感想は頂けないか。まあ、いいさ」
阿武隈「時雨ちゃん、そろそろ教えてくれないかな……この人の正体を」
阿武隈「今までの口ぶりからすると、既に見当はついているんでしょ?」
時雨「……」
不知火「もっとも、この男の容姿を見ればおおよその見当はつきますが……」チラッ
初霜「白衣の下に見えるのは海軍士官の制服……。やはりこの方は……」
時雨「この人の正体を考える上で鍵になるのは、『提督の私室』で見つけた『提督の手記』だ」
阿武隈「私室の手記?」
時雨「そういえば、直接あの部屋に入って手記を読んだのは僕と不知火だけだったね」
時雨「不知火。本庁舎で見た『提督の手記』のことを覚えてるかい?」
不知火「ええ、覚えています。確か、失踪した中将司令に代わり着任した少将が書いたと思われる手記でしたね」
時雨「うん。不知火の言う通り、あの手記の内容から書き手は後任者――つまり少将提督だ」
時雨「あの手記からは、少将は大本営からの命令で失踪した中将に代わって着任し、中将の生死を確かめるよう命じられていたこと」
時雨「そして中将の捜索とは別に、この鎮守府で何かを調べていたことが伺える。ここが重要だ」
時雨「少将と大本営がこの鎮守府でいったい何を調べていたのか?」
時雨「それはおそらく……この地下施設のこと。ここを探し出そうとしていたんだ」
吹雪「えっ?」
阿武隈「ちょっと待って……さっき時雨ちゃんは、鎮守府の前身施設の設立には大本営が関わってた可能性が高いって推理してたよね?」
阿武隈「なのに大本営が地下施設を探していたって……おかしくない?」
時雨「確かに、大本営が施設の設立に関わっているのにその場所を知らない。これだとさっきの推理と矛盾があるのは承知の上さ」
時雨「正直この辺りに関しては確たる情報が無いから完全に僕の推測になってしまうけど……」
時雨「あくまで大本営は施設の設立に助力しただけ。パトロンのような立場に過ぎず、現場の詳細までは把握していなかったとしたら、どうだろう?」
時雨「存在ごと隠蔽するほど徹底した機密保持が行われていたのなら、関係者も最小限に止めていて、ここを知る人の絶対数自体が少ない可能性もあるし」
時雨「ここの関係者がどれくらい居たのかはわからないけど、既にその多くが死んでいるか話を聞けない状況にあったとしたら……」
不知火「だから大本営と少将提督は、手探りで探索せざるを得なかった。ということですか?」
時雨「まあ、推測である以上真相ははっきりしないけど……少なくとも大本営が地下施設の詳細を知らなかったのは間違いないはずだ」
時雨「着任した少将の手記の中に地下施設に関することは書かれてなかったし」
時雨「この地下施設の各所で見つけた資料にも、大本営との直接の連絡や関連を匂わせるものは一切出てこなかったからね」
時雨「ここで少し話を戻すけど、この地下施設は何らかの理由で閉鎖し封印されたものじゃないか。って話したよね?」
時雨「だけど僕たちが見てきたように、ここでは鎮守府の艦娘を使った実験が行われていた。一度は封じたこの施設を再び開いた人が居たんだ」
吹雪「それって……やっぱり少将司令官……?」
不知火「艦娘を物同然に扱っていた少将なら……地下施設を発見し、そこで何かの野心に駆られて狂気の実験に手を出したとも十分に考えられますね」
時雨「いや、少将提督は最後までこの地下施設を発見することは出来なかったみたいなんだ」
時雨「それに少将は優秀な人だったらしいけど、いくら優秀でも一朝一夕であんな研究を行えるはずがない」
時雨「少なくとも医学薬学や生物学などにかなり深い造詣があり、艦娘のことにも詳しくないとあれだけの研究や実験は出来ないと思う」
阿武隈「それじゃあ……この人は……」
時雨「そう……。研究に関して造詣がある可能性があり、大本営すら知らないこの地下施設への入り口を知っている人物はただ1人」
時雨「前身施設の関係者で秘密の守り人だった前任の提督――いや、中将司令官だ」
中将「……」
吹雪「ちゅ、中将司令官って」
阿武隈「この鎮守府にいた前任の提督……。でもここが廃墟になる前に突然失踪したって……」
時雨「失踪した。だけど死んではいなかったんだ。むしろ何らかの事件に巻き込まれて自分が死んだように見せかけていた」
初霜「まさか、そんな……」
時雨「前任――つまり中将提督は失踪扱いのまま、大本営側もはっきりとした生死は確認出来ていない。と聞いた時から疑ってはいたよ」
時雨「もし中将の失踪に大本営が関与しているのなら、わざわざ後任の少将に生死の確認を命じる必要はないはず」
時雨「そうなると、中将の失踪は何らかの事件や事故に巻き込まれたか……もしくは意図的に自ら姿を消したって可能性に絞られてくるからね」
吹雪「意図的に姿を……」
時雨「中将提督が生きていたとすれば、この鎮守府で起きていた数々の異変の真相も見えてくる」
時雨「すべてのきっかけは中将提督の失踪――その直前の解任騒動辺りから端を発しているんだ」
時雨「青葉さんの新聞によれば、中将の解任決議という話が出てきたのは2013年の7月頃のことだ」
時雨「新聞でも解任の詳しい理由は不明とされていたけど、大本営からの命令無視や作戦行動に消極的な姿勢等が原因と推測されてもいた」
時雨「それ以前の新聞記事では、この鎮守府は開戦初期から戦っていて、解任騒動の数か月前に発令された大規模作戦でも大きな功績を挙げたと書かれていた」
阿武隈「その時期に行われた大規模作戦って……確か、深海棲艦に対して初めての反攻になったっていう奇襲反攻作戦だったはずだわ」
不知火「今こそ数ある鎮守府の中でも最古参の部隊が参加したという、今となっては伝説的な戦いの1つですね」
時雨「そんな最前線で活躍していた艦隊が、この数か月の間に突如方針を転換し作戦行動に消極的になった。新聞からはそう読み取ることが出来る」
時雨「大本営からの命令無視というのも、おそらく消極的な姿勢というのに関係すること。察するに発令される作戦の拒否とかだったんじゃないかな?」
時雨「まあ、その辺りは想像するしかないんだけどね……」
時雨「問題は、この数か月の間に何があったのか? ってことだけど」
時雨「その理由は、地下施設にあった一室。あの『オフィス』でみつけた日記の内容から窺い知ることが出来た」
中将「……」ピクッ
不知火「日記?」
時雨「あのとき一緒にいた皆には言わなかったけど、あそこで僕は幾つかの資料を見つけていたんだ」
時雨「その中の1冊に日記のような物があったんだけど、あれは多分この人が書いたものだ」
阿武隈「じゃあ、あそこは……この人が使っていた部屋だったのね」
中将「……」
時雨「あの日記に日付のようなものは一切記載されてなかったけど、内容から考えて深海棲艦との戦いが始まった頃からの記述だってことがわかった」
時雨「さらに内容からは、深海棲艦との戦争やその戦況を不安視していたことも窺えた」
時雨「興味深いのはその後の記述。日記の主が怒りを露にして何かを糾弾……あるいは絶望するかのように、激しい文体で記されている部分があったんだ」
時雨「その記述こそが、数か月の間に中将に起こった変化を示していたとしたら、どうだろう?」
初霜「怒り……糾弾……」
吹雪「いったい何が書かれていたの?」
時雨「残念ながら、その箇所は殆ど読み取れなかったから詳しい内容までは解らない……」
時雨「だけど日記にはまだ続きがあった……。そこに書かれていたことが重要なんだ」
時雨「日記の最後は、その前の激しい怒りが一転して吹っ切れたような、そして何かを決意したような記述を残して途絶えていた」
時雨「ここも文字の判別が難しい所が多かったけど……『深海棲艦を根絶やしにする』、『その為には研究を進める必要がある』って読める部分があったんだ」
吹雪「深海棲艦を……根絶やし!?」
初霜「それじゃあ、ここで行われていた研究っていうのは……」
時雨「そう。ここで中将提督が行っていたのは『深海棲艦を絶滅させる為の研究』」
時雨「おそらく中将は深海棲艦との戦いの中で何かを知ってしまったんだ。あるいは中将が突然作戦行動に消極的になった理由もその辺りにあるのかもしれない」
時雨「その結果、深海棲艦を絶滅させることを考えるようになり、そのための研究を開始した」
時雨「一度は封鎖されたのであろうこの地下施設を再び開いたのも、深海棲艦を絶滅させる為の研究を進めるため」
時雨「これは地下施設の各所で見てきた物から考えてほぼ間違いないはずだ」
吹雪「じゃあ……深海棲艦の細胞を使った実験や、艦娘への人体実験っていうのも」
不知火「すべては、深海棲艦を絶滅させるための研究の一環だった……」
時雨「しかし、直後に大本営が中将提督の解任を議論し始める。おそらく中将の異変を察知したんだろう」
時雨「深海棲艦を根絶やしに。という中将の考えを知り危険と判断したのか……それとも何か別の理由があったのかは分からない」
時雨「でも、明確な理由も無くいきなり艦隊司令の解任という話が出ている辺り、この解任騒動と中将の異変が関連しているのは明白だ」
時雨「同時にこのことから、中将が行っていた事と大本営の意思は異なる……つまり僕たちが見つけた研究や実験に関して、大本営は関係していないことが窺える」
阿武隈「深海棲艦の細胞や艦娘を使った実験は、中将の独断だったってこと?」
時雨「うん。中将は大本営に対しても秘密の内に研究に着手し始めたんだろう。何故独断だったのかは、確たる情報が無いから詳しくは解らないけど……」
時雨「もしかすると、前の記述で怒りを露にしていた理由もその辺りにあるのかもしれないね。大本営への反抗……もしくは不信感か……」
中将「……」
時雨「しかし実際には中将が解任されることはなかった。解任決議の最中に中将が失踪してしまったからだ」
時雨「そしてこの失踪も……中将が仕組んだ工作だったんだ」
時雨「おそらく中将は、大本営が自分の行動に気付いて司令職を解任しようとしていることを察して、先手を打ったのさ」
時雨「中将に変化が起こり始めた時期と解任決議のスパンから見て、まだ研究はほとんど進んでいなかったはず」
時雨「もし解任が決まり強制的に提督の任を解かれれば、当然この鎮守府からも離されてしまう。そうなる前に何としてでも手を打つ必要があったんだ」
時雨「その結果、中将が打ち出したのが……自身の失踪を装うという手段だった」
夕立「全部中将さんの自作自演だったってこと?」
時雨「そうさ。この地には、身を隠し更には人知れず研究を続けることも出来る場所も存在しているからね」
初霜「! この地下施設ですね!」
時雨「その通り。施設の存在こそ認知していても、出入りする為の方法までは知らなかった大本営の目を晦ますことができ」
時雨「尚且つ研究設備も整っているこの地下施設は、まさに絶好の隠れ家だ」
時雨「こうして中将は自らが突然失踪したように見せかけ、実際は秘密の地下施設へと潜って秘かに研究を継続していた」
時雨「これが中将の失踪騒動の真相だ」
時雨「中将が失踪し、次に起こったのは後任の提督――少将の着任だ」
時雨「少将に関しては『少将の手記』の内容や今までの流れからも分かるだろうけど、間違いなく大本営の息が掛かった存在だ」
時雨「彼がこの鎮守府に派遣された目的は、失踪した中将の捜索と、中将が行っていた研究に関する調査と抹消。地下施設の捜索」
時雨「そして、中将に代わる秘密の守り人の継承も極秘任務として命じられていたんだろう」
阿武隈「じゃあまさか、少将が着任早々から艦隊の規則とか行動を異常なほど厳しく制限したのは……」
吹雪「艦娘たちに気付かれずに、それらの任務を実行するため……!」
時雨「そう。ここの鎮守府では夜間の出撃などは一切行われず、既定時間以降は全ての艦娘たちが寮の部屋から出ることも禁じられていたみたいだからね」
時雨「たぶん艦娘たちを寮へ追いやり無人になった深夜の時間帯を使って、少将はそれらの任務にあたっていたんだ」
時雨「これら一連の流れや少将の手記の記述からみて、大本営は余程この施設の存在を隠したいらしい」
時雨「更に中将が行っていた深海棲艦に関する研究も、抹消したいほど危険視して少将に捜索を命じていた……」
不知火「……」ゴクリ
時雨「ところが、ここで少将の行動に異変が起こったんだ」
初霜「異変?」
時雨「不知火。僕と一緒に『少将の手記』を読み、執務室や提督の私室の様子を詳しく見ているのは、君だけだったよね?」
不知火「はい。そのはずですが」
時雨「不知火は、この手記の内容と着任後に少将が生活していた2つの部屋の様子を見て、何か感じたりしなかった?」
不知火「え……?」
不知火「…………いえ、特に気になることはなかったと思いますが」
時雨「僕はあの手記を読んだ後、執務室に入って……妙な違和感を感じたんだ」
阿武隈「妙な違和感?」
時雨「僕も最初はその違和感の正体が分からなかった……。だけど、後になって少将提督のことを思い出していた時に気付いたんだ」
吹雪「いったい何が気が付いたの?」
時雨「矛盾だよ。手記の内容と執務室の様子のね」
阿武隈「矛盾?」
時雨「そう。少将の手記の内容を読み解くと、少将は鎮守府内の捜索を行う為に艦娘たちに対して厳格な規則を課していたようだけど」
時雨「実はそれを除いても……少将個人としての性格や思想といった面においても、かなり神経質なところがあったみたいなんだ」
時雨「手記の中で少将は、仕事環境の整理整頓がどうとか、艦娘の公私混同がどうとか……そういう細かなことをかなり気にしていた」
不知火「そういえば……確かにそのような記述がありましたね」
時雨「おそらく少将が厳しい規則を課して風紀を徹底したのも、大本営命じられた任務の為の環境づくりという理由以外に、少将個人としての考え方に基づくところもあったんだろう」
時雨「少将は艦娘を兵器と割り切っていたような記述もあったし……入渠ドックの娯楽施設などの状態を見ても、彼は僕たち艦娘を人として見てはいなかったのかもしれない」
初霜「……」
時雨「それを踏まえた上で、執務室や提督の私室の様子を思い出してみると……何か引っかからない? 不知火」
不知火「私室や……執務室……」
不知火「どちらの部屋も荒れた形跡も少なく、比較的綺麗なままでしたが……」
不知火「…………あれ……ちょっと待ってください。そういえば、執務室の机……」
時雨「そう。僕と不知火が執務室に足を踏み入れたとき、執務室の中は綺麗なままだった」
時雨「だけど室内を探索した時にみた提督の執務机。その上は、本や書類がごちゃ混ぜになってて、かなり散らかった状態だった」
時雨「わざわざ愚痴を書き記すくらい神経質な性格が読み取れる手記の内容と、それとは裏腹に散らかったままの執務机……」
時雨「この2つの奇妙な矛盾が、僕はずっと引っかかっていたんだ」
時雨「もっと言えば、手記に関しても奇妙な点はある」
時雨「少将の手記は着任直後から毎日こまめに記されていたのに、9月12日を最後にぱったりとそれが途絶えていたんだ」
時雨「これも、窺い知れる少将の性格から考えてかなり不自然なことだ」
阿武隈「それが少将の異変?」
初霜「確かに妙な点は多いですけど……でも、それがいったい何を意味していると……?」
時雨「初霜。僕がさっき、少将提督は最後までこの地下施設を発見することは出来なかった。って言ったのを覚えてる?」
初霜「えっ?」
時雨「僕が……今、目の前にいるこの人が中将提督である。とする根拠の1つが、この少将の異変なんだ」
夕立「うーん……。時雨の言ってることの意味、よくわかんないっぽいぃ」
時雨「そうだね。なら単刀直入に言おう」
時雨「中将提督の後任として着任した少将提督。彼は途中からあなた――中将提督によって操られていたんじゃないかな?」
やり直したほうがいい感じ?
吹雪「ええっ!?」
阿武隈「操られて……でも、いったいどうやって?」
時雨「『薬品保管庫』で見つけたメモに、自我を奪う効能を持つ試薬のような物を使っていたって記述があったのを覚えてる?」
時雨「おそらくその薬を使って実験に使っていた艦娘たちの自由を奪っていたんだろうけど、それを少将にも使っていたとしたら……」
不知火「待ってください。仮に少将がその薬とやらを使われていたとしても、疑問が残ります」
不知火「自我を喪失などして正常な行動なんて出来るとは思えません。仮に少将が薬で自我を奪われていたとしても、他の艦娘たちが異変に気付くはずでは?」
時雨「確かに。メモの中でも投与した対象は廃人化してしまうような事が書いてあった」
時雨「しかしメモの最後の方には問題点を改善した試薬の改良型に関する記述もあったから、もしかすると廃人化という点は改善されていたのかもしれない」
不知火「少々強引ではないですか?」
時雨「まあ……実際にその薬の現物も見つけられなかったし、正直確証があるかと問われると微妙な所であることは否めない」
時雨「あるいは少将を取り巻く環境も要因の1つって可能性も考えられるよ。ここの艦娘たちの少将への心証はかなり悪かったみたいだからね」
時雨「艦娘たちと少将の接触が少ない……いや、少なくなるように仕組んでいたのかもしれない」
初霜「だとしても、どうやって少将提督に薬を盛ったんです?」
初霜「時雨さんの仰る通りだとして……中将提督は少将提督の目を逃れる為に地下に潜った」
初霜「そんな状況で地上に出るのはリスクが高過ぎると思います。仮に人目を避けて地上に出たとしても、提督に薬を盛るなんて芸当……とても実行できるとは思えません」
時雨「そうだね。せっかく潜伏したのに頻繁に出入りしていたら露見するリスクは高くなる。中将もそんな愚は犯さないだろう」
不知火「では、どうやって?」
時雨「中将が地下から動けない以上、地上にいる少将に接触を図る方法はただ1つ……。地上に協力者がいたんだ」
吹雪「協力者?」
時雨「うん。中将には、自分が地下に潜伏した後も鎮守府の状況を窺い、時にはコンタクトを取るための協力者が存在したんだ」
時雨「その人物を少将に接触させ、彼に最も近い位置である秘書艦の座に就かせて……薬を盛るチャンスを窺わせた」
阿武隈「じ、じゃあ……その協力者って」
時雨「そう。中将と最も付き合いが長い存在といわれ、さらに中将失踪後すぐに少将の秘書艦に抜擢された艦娘」
時雨「今もそこで眠っている電。彼女が中将の協力者だったんだ」
中将「……!」
電「――――」ゴポポッ
吹雪「電ちゃんが……」
初霜「中将提督の、協力者……」
時雨「少将の手記によれば、少将は着任後の秘書艦選びに難航していたらしいけど、前任の代でも秘書艦を務めていた電の手腕に着目し高評価していた」
時雨「対する電も、少将への不満などは口にせず彼に従っていた。長門さんら他の艦娘達が不審がるほど忠実にね……」
時雨「おそらく電は少将に接近する為に、彼に気にいられるよう演技していたんだ。秘書艦の日誌や他の資料等でも、この頃から電の様子が変わったことが示唆されていたしね」
時雨「そうやって電は見事に少将の信頼を得て彼の秘書艦に任命された。秘書艦になれば少将に薬を盛るチャンスはいくらでもあったはずだ」
時雨「少将が中将たちの手に落ちたのは、あの手記が途絶えた頃……9月の中旬頃には、既に操られていたんだろう」
不知火「しかし、どうしてそんなことを……?」
時雨「理由は大本営の捜索から逃れるため」
時雨「地上で自分の生死と地下施設を探っている少将は、中将にとって目下の脅威であり邪魔な存在だったんだろうけど、だからといって下手に手出しも出来ない」
不知火「強引に排除なんてすれば、それこそ大本営に怪しまれてしまいますね」
時雨「そこで薬を使って少将を操ることで、少将という存在は排除せず脅威だけを取り除くことを思いついた」
阿武隈「なるほどね。少将を操っていたのなら、少将を装って大本営に偽の報告を上げるなんて事も出来るだろうし……。始末するより利用価値があったって訳ね」
時雨「うん。そうやって目下の脅威を除き、さらには地上に便利な代理人を置くことまで成功した中将は、地下での研究に専念できる環境を手に入れた」
時雨「細部まで合ってるとは思ってないけど、だいたいの流れとしてはこんな感じのはずだ」
ピピーッ ピピーッ ピピーッ
時雨「!」
阿武隈「なに……?」
中将「……」カタカタ...ピタッ
時雨(機械の操作を止めた……?)
中将「…………」
中将「……お前は駆逐艦時雨か?」
時雨「! ああ……そうだよ」
中将「大したものだ。まるで見てきたかのようだ」
阿武隈「じゃあ、やっぱり……!」
時雨「僕の推理は正解だった。ってことでいいのかな?」
中将「ああ。まさか時雨がここまで頭が切れるとは……」
中将「私の元にいた時雨はすぐに使ってしまったが……惜しいことをした。いや、個体ごとの差かもしれんがな……」
時雨「!」
不知火「こいつ……っ!」
時雨「なるほどね……。この艦隊の僕は、既にあなたの実験に使われていたから居なかったのか」
夕立「……!」
中将「そこまで分かっているのなら、その先のことも突き止めているのか?」
時雨「……ああ。だいたいのことは、ね」
時雨「少将を支配下に置き、大本営の目をかわせるようになったあなたは、本格的に研究を進め始めた」
時雨「その研究とはさっきも言った『深海棲艦を絶滅させる』為の研究」
時雨「たぶん最初は深海棲艦を倒す糸口を探る為に、深海棲艦に関する研究から始めたんだろう」
不知火「『検体保管室』にあった深海棲艦の標本や資料は、やはり深海棲艦のことを調べていた痕跡だったのですね」
時雨「少将を介して艦隊にも指示を出せるようになったことを利用して、艦娘たちに深海棲艦の残骸等の実験に使う素材を集めさせていたんだろう」
時雨「実際、執務室に残されていた『極秘命令書』にも、それを匂わせる記述があったからね」
時雨「だけど深海棲艦の残骸程度の素材で研究が捗っていたとも思えない……。おそらく研究は直ぐに暗礁に乗り上げたはずだ」
時雨「そこであなたが目をつけたのが……」
吹雪「鎮守府の艦娘、だね?」
時雨「そう。生物の生死に関わる研究なら当然生きた素材が必要になるはずだ。あなたはその素材に艦娘を利用することを思いついた」
時雨「少将を操っていたなら、地上の艦娘たちを秘密裏に攫うことくらいそう難しくはないはず」
時雨「しかも鎮守府では、少将が敷いた厳格な行動規定が設けられていたんだから尚更さ」
吹雪「そうか。任務以外の鎮守府内での行動が制限されてて、人が居ない状況を作り易い環境だったなら」
不知火「他の艦娘たちに知られることなく、特定の艦娘を攫うことも可能……」
初霜「少将提督が敷いた体制を逆に利用したんですね」
時雨「うん。僕の予想通りなら、少将は比較的早い段階で操られ始めたはず」
時雨「しかしその後も鎮守府の自由は制限されていった……これは少将に成り替わった中将の思惑で、実験に使う艦娘を攫い易くする環境を作ることが目的だったんだ」
阿武隈「つまり地上で起きていた『神隠し事件』の真相は、中将によって艦娘たちが次々と拉致され……地下で実験に使われていたってことね」
中将「……ふん」
夕立「でも深海棲艦を絶滅させることと、艦娘への実験っていうのにどういう関係があるの?」
時雨「それに関しては、検体保管室にあった記録から考えることが出来るけど……夕立と初霜は実際に見てはいないね」
夕立「ぽい」
時雨「検体保管室には『深海棲艦細胞に関する記録』が残されていたんだけど、その内容を見ると中将は深海棲艦の細胞に注目していたようなんだ」
時雨「同時にその記録の中には、深海細胞を素に何かを生成したという記述も残っていた」
初霜「何かを生成……?」
時雨「その記録から分かる限りでは『γ17』って名称の物質が実際に深海細胞から生成されたらしい」
吹雪「γ……あれ、これってどこかで……」
時雨「気付いたかい? そう……僕たちが見つけてきた資料の中にもう1つ。同じγという記号の入った物について書かれている資料があるんだ」
時雨「それは……ここにある『真新しい手記』。ここに書かれているγ-13号弾という物にも同じγの記号が使われているんだよ」
時雨「この手記に書かれているγ-13号弾という物は、おそらく『開発室』で研究されていた深海棲艦に対する新型の特殊弾。それの完成品だ」
時雨「そしてこの特殊弾の名称に使われているγという記号が、深海細胞から生成したというγという物質を示すものだとしたら……」
阿武隈「まさか……中将提督が作っていたのって」
時雨「深海細胞を使った対深海棲艦用の生物兵器。これが中将が目論んでいた『深海棲艦の根絶やし』の鍵。その正体だよ」
時雨「地下に連れてこられた艦娘たちは、この兵器を作るための人体実験に使われたんだ」
吹雪「生物、兵器……」
初霜「そんな物を作っていたなんて……しかも実験の為に艦娘たちを……失踪する以前には一緒に戦ってきたはずの艦娘を使うなんて……」
不知火「この男も少将と同類……我々艦娘のことなど、消耗品程度にしか思っていなかったのでしょう」
中将「……」ピクッ
時雨「……だけど、その兵器が完成するまでの間にもう1つ。事件が起きていたんだ」
阿武隈「もう1つの事件?」
時雨「この手記にも書かれている通り、この生物兵器はまだ最終実験というものも済んでいない。完成に至ったのは本当にごく最近のことなんだろう」
時雨「つまり、生物兵器の開発にはかなりの時間が掛かっていた。その間に起きたのさ……この鎮守府を廃墟に変える出来事が」
時雨「操った少将を使って大本営に偽の報告を送り追及をかわし続けていたんだろうけど、やがてそれにも限界が来てしまったんだ」
時雨「不知火、執務室のゴミ箱に捨てられていた命令書を覚えてる?」
不知火「ええ。あのクシャクシャにされた……何かの催促状のような書類ですね」
時雨「そう。不知火の言った通りあの命令書は、大本営から送られてきた少将への報告の催促だったのさ」
時雨「命令書の日付は2014年の1月。この頃にはもう少将を使った時間稼ぎは限界を迎えていたんだろうね」
時雨「一向に調査に進展を見せない少将を不審に思い始めた大本営は、たぶん少将に代わる新たな人間の派遣か、もしくは本格的な調査の手を入れるくらいの検討に入っていたんだろう」
時雨「もしそうなれば、せっかく作り出した研究環境は台無し。それどころか生物兵器が完成する前に全てが露呈してしまう危険すらあった」
阿武隈「進退窮まった、ってことね……」
時雨「追い詰められたあなたは、遂に最悪の手段に打って出た……それが『終末計画』だ」
初霜「終末計画?」
時雨「『オフィス』に残されていた書類の中に、そういう名称の作戦書があったんだ」
時雨「おそらく終末計画とは、大本営に中将の企みを察知された場合を想定した最終手段」
時雨「全てが露見する前に、全てを巻き添えに自爆する計画ってところだろう」
吹雪「じ、自爆!?」
時雨「正確には、自爆した風を装うのが目的。って言うべきか」
時雨「この頃にはまだ生物兵器自体は完成してはいなかったのだろうけど、試作品くらいは出来上がっていたんだろう」
時雨「開発室にあった報告書によると、特殊弾の実験自体は既に何度か行われていたみたいだしね」
阿武隈「じゃあ……それを使って」
時雨「試作段階の生物化学兵器を使い、大本営の手がこの施設に及ぶ前に鎮守府ごと崩壊させたんだ」
時雨「もちろん単なる事故――生物兵器が誤って使用されてしまった可能性も考えられるけど」
時雨「この計画の存在を考えれば、事故ではなく意図的なものだったとみてほぼ間違いないはずだ」
時雨「全ては大本営の目を今度こそ完全に逸らせる為……その為に地上で未知の生物化学兵器が使用されたんだ」
不知火「では、地上に残っていた艦娘たちは……」
時雨「開発室の報告書では、試作の段階でも艦娘と深海棲艦に対して何らかの強力な破壊作用が認められていたみたいだからね」
時雨「詳しい作用は分からないけど地上の惨状を見るに……鎮守府に残っていた艦娘たちは為す術もなく全滅したんだろう」
初霜「なんてことを……」
時雨「結果として計画は成功し、大本営も鎮守府は完全に崩壊したものと判断したんだろう」
時雨「後に大本営が調査の手を入れたかどうかは分からないけど、今日までこの地下施設が閉ざされていたことから、遂に発見されることはなかったんだろう」
時雨「あるいは、ここが崩壊した時点で下手に手出しせず、存在自体を本当に無かった事にしようとしたのかもしれない」
時雨「この地の存在そのものが、大本営にとってかなり都合の悪いものだったみたいだからね」
中将「……」
時雨「これが僕の考えるこの鎮守府で起きた異変の真相。そして鎮守府が廃墟と化した理由だ」
阿武隈「でも、あたしたちを襲ったあの怪物は……」
阿武隈「あれは一体何だったの? やっぱり、実験に使われた艦娘の成れの果てだったとか……?」
時雨「少なくとも初霜と夕立に化けていた2体に関しては、中将が意図的に作り出した物だろう」
時雨「だけどもう1体……。地上からずっと僕たちを襲ってきたあの怪物は、全く異なる経緯から生まれた文字通りの怪物だったんじゃないかな?」
吹雪「ど、どういうこと?」
時雨「地下の『資料室』で阿武隈さんと不知火が見つけたレポートに、あの怪物たちのことと思われる記述があったのを覚えてる?」
阿武隈「うん、覚えてるわ」
時雨「あの記述をよく読むと……深海棲艦化するパターンや、生身の人間に深海の力が作用するとどうなるか? ってことが書かれていると読み取れたんだ」
初霜「生身の人間……」
時雨「仮定だけど、これがもし終末計画実行後に確認されたものだったとしたら?」
吹雪「えっ」
時雨「生身の人間なんて鎮守府の環境上限られるよね。ここにいた人間は2人だけ……今目の前にいる中将でないとすれば、残るのは1人」
不知火「あの怪物の正体は……少将司令、だと……?」
時雨「おそらく終末計画が実行された際、既に用済みになった少将も他の艦娘と共に生物兵器によって始末される計画だったんだ」
時雨「だけどそこで生身の人間だった彼は、中将も予想していなかったような未知の変化を遂げ……結果、あの怪物に変貌した」
阿武隈「じゃあ、あれは少将提督の成れの果て……」
中将「……」パチ...パチパチパチ
時雨「!」
中将「見事だ。まさか部外者の艦娘にそこまで突き止められるとはな」
中将「本当に大したものだ。仮に大本営の手の者がこの場にまで辿り着くことが出来たとしても、そこまで突き止めることは当的無いだろうと思っていたが……」
中将「やはり艦娘にはまだまだ可能性がある。あるいはこの場を……人間ではなくお前たち艦娘が突き止め、足を踏み入れたことも……奇妙な宿縁なのかもしれないな」
阿武隈「何なの……この人」
不知火「イカレてる……」
時雨「……」
初霜「時雨さん、1つ聞いてもいいですか?」
時雨「なんだい?」
初霜「今までの話でこの鎮守府で起きていたことは分かりました。だけどまだ気になることがあります」
初霜「最初に言っていた『この地に初めからあったという前身の施設』という存在……。それは一体何なんですか?」
時雨「ああ、まだそれが残っていたね」
時雨「ここが鎮守府になる以前から存在していたもう1つの施設。鎮守府になった後もリスクを承知でわざわざ残しておく程に重要な存在だったことは間違いない」
時雨「正直、この部分に関しては僕自身まだ半信半疑……確証といえるものが無いんだけど。ここにあったのは恐らく……」
夕立「恐らく?」
初霜「……時雨さん?」
時雨「……」
中将「その様子では、お前は既に察しているのだろう? お前は頭が切れるようだ。何よりあの金庫の中身を見たのであれば、辿り着いているはずだ」
中将「この地で行われてきた悪魔の研究のことに。お前たち艦娘の原点に」
時雨「! それじゃあ……まさか……」
吹雪「艦娘の原点……?」
不知火「この男は、いったい何を言って……」
中将「言うなればここは始まりの場所。お前たちにとっては生まれ故郷ともいうべき場所なのさ」
阿武隈「生まれ……故郷……?」
時雨「やはりそうか……。ここは……ここにあったのは……」
時雨「艦娘の、開発施設」
中将「……素晴らしい」
阿武隈「艦娘の……開発って……」
不知火「待っ、待ってください……時雨さん……何を言って……」
時雨「僕だってまだ信じられない……信じたくない……でもあの金庫……」
時雨「あの中に入っていた10年以上も前の日付が記された資料……。あれはどう考えても、今まで僕が話したこの鎮守府での出来事とは辻褄が合わないんだ」
時雨「資料に書かれていた内容に、この地下施設の設備……それに地下施設で見たあの本……このことから考えられるのは……」
中将「そう……ここは全て元々はお前たち艦娘を生み出す為に用意されたもの。そしてあの金庫の中の資料は、その記憶なのさ」
時雨「!」
中将「お前たちも知りたいだろう? 自分たちがなぜ今ここに存在するのか? どうやって作り出されたのか?」
中将「せっかくここまで辿り着いたのだ……知りたいのなら教えてやろう」
中将「大義の名のもとに狂気の実験に手を染めた、罪深き人間たちの話を。その果てにお前たち艦娘が生み出された……血の歴史をな」
中将「全ての始まりは、ある日突然海の底から現れた謎の艦艇――後に深海棲艦と呼ばれる存在の出現」
中将「人類の持つあらゆる武器の効力を受け付けぬ未知なる存在を前に、人類は成す術なく世界中の制海権を失い、滅亡の危機に立たされた」
中将「その脅威に対抗できる唯一の存在。それが在りし日の戦船の魂を持つ娘――艦娘」
中将「その力と活躍により、人類は制海権奪還に向けた最後の希望を艦娘に託した」
中将「世に広く知られるこの戦争の経緯、お前たちも当然知っていよう?」
時雨「……」コクリ
中将「では不思議に思ったことはないか? 劣勢に立たされていた人類側に突然現れた深海棲艦への対抗手段……艦娘とは一体何なのか? いつ、どのような経緯で誕生したのかと」
中将「お前たち自身答えられるかね? 自分たちが一体何者なのか。どうやって生まれたのか?」
吹雪「そ、それは……」
阿武隈「……確かに、あたしたちは知らないわ。艦娘として今の鎮守府に着任した事以外……それ以前の事も、何も……考えたことも無かった」
中将「だろうな。知るはずがない。何せ今となってはそのことを知る者は殆どいない。お前たちの指揮官である提督も知り得ぬことなのだから」
初霜「何だって言うの……あなたは、何を知っているというんです!?」
中将「きっかけは些細な、誰も予期していなかった小さな出来事だったそうだ」
中将「その出来事の詳細は既に伝承が途切れ、もはや誰も知り得ぬことだが……劣勢に立たされていた人類はある事件をきっかけに、嘗て世界に巻き起こった大戦で用いられた戦船。その魂というべき物の存在と、それが深海棲艦に対する有効手段に成り得ることを知った」
中将「希望を得た人類はすぐに研究を始め、在りし日の戦船の魂を用いた兵器の開発を急いだ」
時雨「……」
中将「当初こそ開発は順調に進み、戦船の魂を機械を通じて伝達させる技術の確立や、それを用いた試作第1号の開発にまでこぎ着けた」
中将「だが開発計画は直ぐに暗礁に乗り上げた。1号を始め、試作される兵器はどれも戦闘での実用性はおろか安定した運用すらままならない失敗作ばかりだったからだ」
初霜「失敗作……」
中将「何故だと思う?」
吹雪「なぜって……」
時雨「……わからないね」
中将「器だよ」
阿武隈「器?」
中将「それまで開発計画を進めていた者たちは、戦船の魂を機械の器――人工物に適応させることで対深海棲艦用の兵器を作ろうとしていた。それ自体が誤りだった」
中将「戦船の魂という大いなる存在を収めるには人工物などでは到底不可能な話。つまりは器となる存在が重要だったのだよ」
初霜「! まさか……」
時雨「……っ、そういう…ことか」
中将「その結果考案されたのが人間を器とした兵器の開発。お前たち艦娘の原型となる研究が始まったのだ」
不知火「人間の……器……」
吹雪「それが……私たち艦娘の……?」
中将「そう、原点だ。そして思った通り人間を器に作り出した試作品はこれまでにない成績を叩き出した」
中将「これにより開発計画の方針が確定し、開発推進の為にさらに多数の人間が器として研究に投じられ、開発は飛躍的に進んだ」
阿武隈「……」
中将「だが計画はまたしても大きな問題に直面した。研究の為に必要不可欠な素材――器となる人間が不足したのだ」
吹雪「……!」ゾクッ
中将「それまでは国家が戦時動員した挺身隊と呼ばれる志願者たちが主に使われていたが、そんな人材はすぐに底を尽きた」
中将「何せまだ手探り状態だった研究では、使用した素材はほぼ使い捨て……再利用率が極めて低かったからな」
初霜「素材……再利用率……っ!?」
不知火「人をどこまで……どこまで愚弄すれば……ッ!」プルプル
中将「……ふん。その台詞はそれを勧めた国家に言うべきだな。我々は国家の命に従ったまでなのだから」
不知火「……貴様はッ!」
阿武隈「不知火ちゃん! 落ち着いて!」
時雨「……」
中将「フッ、フフフ……。この程度で頭を熱くしていては、この先の話はまともには聞けないぞ」
中将「この先こそ……人という愚かな生き物の業の極み。本当の地獄が始まるのだからな……」
中将「素材となる人間の不足により開発計画は中断寸前にまで追い込まれ、より多くの素材の確保は急務になった」
中将「だが自ら進んで生贄になるような志願者はそうそう居るはずがない。追い詰められた国家は、遂に禁忌に触れる決断を下した」
阿武隈「禁忌に触れる……?」
時雨「……それが、あのリストに書かれていた子供たちなのか……!?」
吹雪「リストって、あの」
初霜「金庫の中にあった……まさか、あの資料は……」
中将「そう。あれは狂気に駆られ禁忌に触れた国家により犠牲となった無数の命を記した唯一の記録であり、記憶」
中将「深海棲艦の脅威から国を護るという大義の為と銘打ち、この国は秘密裏に戦災孤児や重病等で回復の見込みがないと判断された子供を集め、兵器開発に利用するという悪魔の手段を計画したのだ」
~~~~~~~~~~
『これまでの研究の結果、器には大人の人間よりむしろ子供――特に少女に適性が高いことが判明しています』
『それはむしろ好都合だ。深海棲艦の襲撃により親を亡くし孤児となった子供、重傷を負った子供は国家が保護しているだけでも数百と居る』
『それだけ居れば、研究もより進展するだろう?』
『正気ですか? いくら何でもそのようなことは……』
『今は戦時下だ。それも国家……いや、人類存亡の危機といっていい情勢。人道だ人権だ等と平和だった時代の価値観を持ち出すのは筋違いもいいところだ』
『よいかね。これは必要な犠牲だ。子供たちには人類の生存と未来の為、今出来る最大の貢献を果たしてもらうのだ』
『それに使うのは身寄りのない孤児や、脳死などで植物状態になり回復の見込みもない子ばかり。未来の無い子供たちが人類の未来のための礎となる……素晴らしいことではないか』
『しかし……』
『海路を寸断され、これまで国家の生命線を他国との貿易に依存していた我が国に時間がないことくらい、君にも分かるだろう?』
『このままでは深海棲艦共の侵攻を待つ前にこの国は終わりだ。下らない議論で時間を費やす余裕は無い』
『…………』
『君とて自ら望んでこの研究に携わったのだろう? 人間を器にするという案も、君が発案したのではないか』
『……』
『実験に使う子供たちと必要な設備の手配は我々が何とかする。軍にも協力を仰ぐ手筈だ』
『君たちは一刻も早く、奴らに対抗しうる兵器の開発に全力を注ぐのだ。無駄な情など捨てたまえ』
~~~~~~~~~~
中将「そして造られたのがこの施設」
中将「表向きは孤児や重篤な障害を持つなど様々な理由で身寄りのない子供たちの為の保護施設を装い、裏ではその子供たちを使った人体実験を行う『艦娘開発施設』それがこの島の正体」
中将「ここは正に、人間の狂気を具現化したような、呪われた聖域」
中将「艦娘という未来を生み出すために……この地では数えきれない程の小さな命が、身勝手な国家と浅ましい人間の都合で無残に奪われたのだ」
吹雪「そん……な……」
中将「駆逐艦時雨。先ほどお前は、この地下施設を閉鎖したあと地上に鎮守府を造ったと推理していたが、それは正確ではない」
時雨「!」
中将「地上の施設自体は元からあった物なのだよ。この島に連れてこられた子供たちは、地上に設けられた施設で普通に生活していた……順番が来るまではな」
阿武隈「順番?」
時雨「……なるほど。あなたが鎮守府の艦娘たちに行っていたのと同じことを、前身の施設でも行っていたのか」
夕立「同じって……」
時雨「つまり、地上には連れてきた子供たちを収容するための施設が、地下には本来の目的である研究施設がそれぞれ存在していたんだ」
時雨「地上の子供たちは何も知らず普通に生活し、実験の順番が来ると地下に移され実験に使われた」
中将「そう。あの子たちは地下に連れられるまで、真実を知らされてはいなかった……」
~~~~~~~~~~
『ねぇ先生。今日の健康診断って、注射とかもあるの……?』
『……注射は嫌いかい?』
『うん……痛いし、きらい』
『……大丈夫。今日の健康診断に注射はないよ』
『ほんと!?』
『ああ……。だけど、注射の代わりにお薬を飲む必要があるんだ。それは平気かな?』
『うん! 注射に比べたらお薬飲むのなんてへっちゃらだもん!』
『……いい子だ』
『心拍数が急上昇しています。血圧も――』
『ユニットの出力が強すぎるんだ! 出力を弱めろ!』
『出力40まで低下。検体の心拍数、依然戻りません』
『くっ……もっと下げろ! 急げ!!』
『! 主任、検体の脳波が――――』
『やはり今の出力では検体がとても耐えられないようですね』
『……ああ。1度ユニットのほうを調整する必要があるな』
『わかりました。では今回の実験はこれで……この遺体はいつものように処理を――』
『…………』
『主任?』
『…………』
~~~~~~~~~~
中将「自分たちが元から殺される為に集められたということ……屠られる家畜のように生かされていたことを、子供たちはこの場所に連れられて初めて知らされた」
初霜「っ、なんて……酷いことを……」
中将「唯一救いと言えるのは、脳死や重篤な障碍を持つ者でも艦娘として適合すれば新たに健常な生を受けられるということ……。その場合は未来を与えられると言える」
時雨「……」
中将「そうして作り出されたのがお前たち、艦娘。数多の命の犠牲の果てに生み出された存在。それがお前たちの正体だ」
阿武隈「犠牲の、果て……」
不知火「馬鹿な……そんな与太話……信じるとでも」
中将「信じられぬかね? 私の言う事など」
中将「なら、そこの名探偵に聞いてみればいい。私の話は全て口からのでまかせ、妄言なのか? とな」
不知火「! 時雨さん!?」
時雨「……不知火」
不知火「なっ……そ……そん、な……」
中将「フッ、フフフフ……」
吹雪「それじゃあ、私たち……元は人間から……」ブルブル
中将「ふん……安心しろ。お前たちはそうではない」
吹雪「えっ?」
阿武隈「どういうこと……?」
中将「ここでの研究によって作り出されたのは、いわば艦娘の原型。艦娘という形態を確立するための試作品」
中将「しかし人間を器にする形式では量産性・安定性共に難があった……」
中将「その問題が解決し、最終的に艦娘が国家に承認され量産に至ったのは、人間に代わる器――『開発資材』と呼ばれている代替品が開発されたことが決め手になった」
中将「人間に限りなく近い人工の器。安価で大量生産でき、尚且つ安定性も高いそれは、まさに画期的な発明だった」
中将「それが出来たことで艦娘を作るのにわざわざ人間の器を使う必要は無くなった」
夕立「じゃあ、それがもっと早くあれば……!」
中将「もっと早くあれば、ここでの犠牲は必要なかった。が、ここでの犠牲が無ければ開発資材もまた生まれなかった……皮肉なものだ」
夕立「……」
中将「開発資材の導入により、今いるほぼ全ての艦娘は開発資材によって生み出された。人間を器に生成された艦娘は初期に生産された十数体ほどだ」
中将「その殆どは既に喪失している。今となっては僅かな記録と私の記憶に残るのみ……歴史の闇に、というやつだろうな」
不知火「っ!」ギリッ
時雨「……そうはさせないさ」ボソッ
訂正>>398
中将「開発資材の導入により、今いるほぼ全ての艦娘は開発資材によって生み出された。人間を器に生成された艦娘は初期に生産された十数体ほどだ」 ×
中将「開発資材の導入により、今いるほぼ全ての艦娘は開発資材によって生み出された。人間を器に生成された完成品といえる艦娘は初期に生産された十数体ほどだ」 ○
中将「やがて完成した艦娘は人類側の希望として大々的に公表され、本格的な配備が始まった」
中将「だが、同時にこの施設の存在と行われてきた非人道的な実験の数々は、決して表には出せない国家の暗部になった」
中将「国民に広く周知され、希望として持て囃されるようになった艦娘という存在は清廉潔白でなければならない」
中将「その為に払われた犠牲と経緯は、国家が喧伝する希望のイメージに相応しくない……そんな理由で、艦娘に関わる闇は徹底して隠蔽されることになったのだ」
初霜「っ、身勝手過ぎますッ!」
中将「ここを管轄していた大本営は、証拠隠滅の為に施設と研究にまつわる資料の全てを破棄することを考えたようだが……結果的には貴重な研究施設と記録の数々を捨てることを惜しみ、残すことを決めた」
中将「これだけの事をして……自ら暗部と認めてもなお、悔悟するどころかまだ利用価値があると打算し、そしてまた繰り返す……。人間の浅ましさ、愚かさ、ここに極まれりだ」
不知火「……くっ」プルプル
中将「そこから先はお前が推理した通り……。地上の施設は鎮守府へと改装され、地下施設は残したまま存在のみが隠蔽された」
中将「そして施設の職員だった私は秘密を守る管理人の役目を帯び、提督という肩書を与えられた」
中将「これが、この施設と……お前たち艦娘の真実だ」
吹雪「そんな……」
時雨「……」
阿武隈「……1つ、聞いてもいい?」
中将「……何だ?」
阿武隈「あなたは……実験に使われた子供や、ここにいた艦娘を……どう思っていたの?」
中将「……なに?」
時雨「阿武隈さん?」
阿武隈「時雨ちゃんの話と、今あなたが言った話の通りなら……あなたは、ここで艦娘開発用に集めた子供たちと指揮下の艦娘に実験を行っていた当事者だった」
阿武隈「でも、地上で見つけた艦娘たちの記述の中でのあなたは、どれも艦娘想いで優しい人。ってものだったわ」
阿武隈「入渠ドックの中にあった数々の娯楽施設だってそう。あれはあなたが艦娘の為に用意した設備……そうでしょう?」
中将「……」
阿武隈「あたしは、あなたが艦娘の前で見せていたっていう優しい顔が演技だったとは思えない……少なくとも、最初の頃は」
阿武隈「なのに……あなたは、艦娘たちを深海棲艦を根絶やしにする為って理由で実験に使い、殺した……」
阿武隈「あなたは本当はどう思っていたの? どれがあなたの本心なの?」
中将「フッ……フフ、フハハハハ!」
阿武隈「!」
時雨「!」
中将「本心……本心か……フッ、フフフフ」
中将「先ほどお前は……私があの少将と同じように、艦娘たちを道具のように思っているに違いないと言ったな」ギロッ
不知火「!」ビクッ
中将「あんな俗物と私を一緒にするなッ! あの若造は艦娘を道具として見ていたが、私は違う! 愛していたさ! 兵器や道具としてではなく、艦娘という人と変わらぬ存在としてな!」
中将「子供たちも同じだ。理不尽に未来のない者と決めつけられ、大義の為と言って本当に未来を奪われた、罪なき……哀れな子供たち……」
不知火「なにを今更……それを奪ったのは、あなたでしょう!」
中将「黙れッ! ……っ、分かっているさ、私の罪くらい……決して許されない罪を犯してしまったことくらいな。しかし私は……やらなければならなかったのだ!」
不知火「!」
中将「お前などに分かるものか……私の気持ちが……私を信頼する子たちを裏切り、手にかける気持ちが……」
吹雪「じゃあどうして……どうしてそんなことをしたんですか!?」
中将「確かに愛していた……子供たちも、艦娘たちも……心の底からな」
中将「だが、それ以上に、私には大切な存在が居る。その為に私は……他の全てを切り捨て、犠牲にしたのだ!」
中将「電……私の、愛しい愛しい電……この子の為に私は、他の全てを捨てた」
電「――――」コポッ
中将「この子を守る為なら……他の全ての艦娘……いや、人類の命であろうと、私にとっては軽いッ!」
時雨「電のため……?」
夕立「っ! そんな……電ちゃん1人の為……それだけの為に、他のみんなを!?」
中将「それだけ……しかし、私にとってはそれが全てだった! 電以上に大切なものなど存在しない!」
中将「それにこれは、お前たちにとっても無関係という訳ではない。むしろ私の研究こそ、お前たちの希望なのだ」
阿武隈「あたしたちの……」
初霜「希望、ですって……?」
時雨「僕もそれだけが分からない。あなたが狂気に駆られた理由……艦隊運用に異変が起こり、大本営からの解任決議に至るきっかけになったのであろう出来事」
時雨「あなたはいったい、何を知ったんだ?」
中将「……私が、罪なき子供たちを手にかけ、膨大な犠牲の果てに生み出された人類の希望、艦娘」
中将「私は信じていた……信じていたからこそ、あのような実験に手を染め……完成させたのだ……しかし、裏切られた」
時雨「裏切られた?」
中将「無駄だったのだよ……全て……。艦娘は、深海棲艦との戦いを終わらせる希望などではなかったのだ!」
中将「きっかけは開戦直後、人類初の大規模反攻作戦となった戦いで確認された新型の深海棲艦」
中将「人型で高い戦闘力に人語を話す程の知能を持った姫級と呼称される新型の敵……それは、時が経つにつれ次々と出現が報告されるようになった」
中将「それと同じくして、艦娘にも弱点というべき部分があることが判明した。激しい戦闘の中で撃破され、轟沈する事例が挙がり始めたのだ」
中将「私はこの2つに奇妙な因果関係があることに気付いた。半信半疑のまま、奴ら深海の細胞を採取し調べた……。そして、身の毛もよだつような事実が判明したのさ」
阿武隈「……」ゴクッ
時雨「……何が、分かったの?」
中将「同じだったのだよ。奴らと艦娘、この2つには共通するDNAが存在したのだ。艦娘と深海棲艦にしかない、未知のDNAが」
時雨「なっ!?」
中将「そして私は気付いた。なぜ在りし日の戦船の魂という存在が深海棲艦にとって有効なのかということ……戦船の魂も深海棲艦も、同じ海から現れた存在であることにね」
中将「2つは同じだったのだ。日を浴びて育った植物と浴びずに育った植物が異なる姿となるように……」
中将「艦娘と深海棲艦。2つは姿こそ違えど本質は同じ……同一の存在同士なのだ」
阿武隈「あたしたちと深海棲艦が……同じ……?」
中将「艦娘と深海棲艦の関係……それはコインの表と裏に等しい」
中将「表が艦娘という面とするなら、深海棲艦は裏……。同一である2つの存在は、同時に2つの面を持つ表裏一体の関係にある」
中将「これが意味することが分かるかね?」
時雨「……表裏一体」
時雨「じゃあ……僕たちが沈むということは……」
中将「そう。2つの面は常に隣り合わせ。それが逆転するきっかけになるのは、深海棲艦が持つ固有の『負の力』という存在」
吹雪「負の力……?」
中将「生への未練、執着、無念といった、死の淵に立つ生物が抱く負の感情。それこそが深海棲艦を形作る最大の要素であると私は考えている。それを抱くのは艦娘も同じ。それが艦娘と深海棲艦を分けるのだ」
中将「戦いの中で沈んだ艦娘……彼女たちが死に際に抱く死への恐れ、生きたいという想い。自らの境遇と運命を恨み、憎む怨嗟……それらが暗く深い海の中で増幅され、負の力となって艦娘を呑む」
阿武隈「ま、まさか……」
中将「そして生まれ変わるのさ。艦娘は深海棲艦に……これがこの戦争の本当の姿だ」
吹雪「嘘……」
不知火「馬鹿な……そんなこと……あるはず……」
中将「……信じられぬなら、この子の姿を見るがいい。この中で今も眠る電……その姿が何よりの証拠だ」
夕立「!」
中将「厳密に言えばこの子がこんな姿になってしまったのは違う理由だが……。しかし、艦娘が深海棲艦になるという例を証明するのに、これ以上の証拠はあるまい」
阿武隈「それじゃあ……本当に……」
中将「そう。これが真実だ。初めからこの戦争に我らの勝利という形での終わりは存在しない……いくら深海棲艦を倒しても、戦いの中で艦娘が沈めば、彼女たちは深海棲艦になって帰ってくる」
中将「人間との絆が強ければ強いほど……最期に抱く無念や執着が強いほど、沈んだ艦娘は、より強力な深海棲艦となって人類の前に現れる」
中将「繰り返される輪廻の如く戦いは続くのだ。やがて人類の力が尽きるとき、ようやく戦いは終わる。人類の敗北と滅亡という形の終焉がな」
時雨「でも……それが事実なら、逆のパターンも考えられるはずだ」
初霜「逆?」
時雨「艦娘と深海棲艦が表裏一体……艦娘が負の力の影響で深海化するなら、逆に深海棲艦が艦娘に転生するってことも、あり得るはず」
不知火「!」
中将「確かにその通りだ。艦娘が深海棲艦になるように、深海棲艦が艦娘に生まれ変わるということも当然起きる」
中将「お前たちが海域に出撃し、深海棲艦を倒した際に新たな艦娘と邂逅する現象……あれは正に、深海棲艦を形作っていた負の力の呪縛から解かれ、艦娘に生まれ変わることで起きているのさ」
初霜「なら……!」
中将「解けるかね? 全ての深海棲艦の呪縛を。艦娘の数は分かっていても、海の底にいる深海棲艦がどれだけの規模なのか……いや、このメカニズムが果たして全て正しいのかすら、我々には分かっていないというのに」
初霜「そ、それは……」
時雨「……くっ」
中将「だから不可能なのだ。この戦争で我々が正攻法で勝つ事など……今までお前たちが必死で戦ってきた奮闘も、勝利も、全て無駄な足掻きに過ぎないのだ」
吹雪「そ、そんな……」
不知火「なら……私たちは……私たちは、いったい……何の為に……」
阿武隈「っ! みんな、しっかりして! あの人に呑まれちゃ駄目っ!」
時雨「あなたは、それを知ってしまったから……だから、急に艦隊運用が消極的になったのか」
時雨「……!」
時雨「じゃあ、その直後に大本営があなたの解任に向け動き出したのは…………まさか、大本営も……」
中将「……私はこの事実に辿り着いた後、すぐに大本営にもこのことを知らせた」
中将「しかしこの国は……その事実すらも、自分たちの保身の為に握り潰したのだ!!」
~~~~~~~~~~
『現状維持!? いったいどういうことですか!!』
『……慎重に協議した上での結論だ。当面、深海棲艦に対する新たな対応策が見つかるまで、現状のまま艦娘は運用し続ける』
『っ! 艦娘の存在が……彼女たちが戦いに身を投じ倒れていく限り、深海棲艦は現れ続けます! 我々は方向を間違えていたんです。艦娘は戦争を終わらせる希望などではなかった!』
『……』
『すぐにでも再度の検討を! このまま艦娘の運用を続けても、戦況の打開など不可能です。それどころか、さらに混迷を深めること――』
『もういい。黙りたまえ』
『!』
『君の話は全て推測だ。そのような話で、今や国防の要となっている艦娘の運用を止めろというのかね?』
『し、しかし……現にDNAの一致や実例の確認も……!』
『艦娘は希望でなくてはならないのだ。莫大な資金を投じ……あんな暗部を作ってまで開発し、国民にも鳴り物入りで喧伝した存在が……今更、使い物になりませんでした。で済むと思うかね』
『っ、ですが!』
『使わねばならんだろう。たとえ君の言う通り、艦娘が使い物にならない存在だったとしても……作ってしまった以上、使わねば国家と軍の沽券に関わる』
『無論、我々もただでは済まない……。それは艦娘開発計画を主導した君も同じだ。そのことをしっかりと認識してから口を開きたまえ』
『っ!』
『とにかく、この事は決して口外してはならん。もし外部にでも漏れれば、軍や国家への重大な影響は避けられんだろう』
『……しかし、艦娘に替わる新たな対策の研究も秘密裏に進めておくべきだな。それまでは今まで通り艦娘を使い、国民には戦局は好転していると信じさせるのだ』
『では、彼女たちは……今も戦場で真実を知らずに、戦争を終わらせる為に命がけで戦っている艦娘たちは……犬死にではないですか!』
『……だからどうした?』
『!?』
『希望になり得ぬ役立たずだったのなら、せめて奮闘しているというパフォーマンスでもやってもらわねば割に合わんだろう』
『何よりあれは、人ではなく兵器。多少金の掛かった消耗品を合理的に活用するのに、何を躊躇う必要があるのかね?』
『……ッ!』
~~~~~~~~~~
中将「だから私は始めたのだ! 己が保身とくだらぬ体面の為に真実を隠し、今も自分たちの都合で艦娘たちを要らぬ死地へと送っている大本営に代わってな!」
中将「本当にこの戦争を終わらせるには、奴らを根源から絶てばいい! それしかない!」
中将「敵を1匹残らず全て滅ぼし! 根絶やせば!! 戦争は終わるッ!!!」
吹雪「ひっ……」ゾクッ
中将「そして作り上げたのさ! 深海棲艦共を細胞の根源から破壊し、消滅させる最高の兵器を……! この力を以てようやく戦いは終わるのだ!」
中将「これを世界各地の海底に存在するであろう深海棲艦の本拠地に向けて放ち! 奴らの全てを消滅させれば、この戦争を終結させられる!」
阿武隈「!?」
中将「フッ、フフフフ……フハハハハハ!!アッハハハハハハハハハ!!!!」
中将「間もなくだ! もう間もなく、私の大望が……遂に成就する! ようやくこの子を、この狂った連鎖の中から救い出すことが出来るのだ!」
中将「そしてこの戦争に! 世界に! 新たな道が拓かれる! 私が拓くのだ! この終わりなき戦いに終止符を打つために!!」
中将「お前たちは運がいい。全くの部外者だというのに、自力でこの隠された場所を探しあて、今この場に居合わせている」
中将「特に駆逐艦時雨。お前の頭脳には脱帽だ。ここに辿り着くだけでなく、この地の秘密まで暴くとは……今からでも私の元に置きたいくらいだ」
時雨「あり得ないね」
中将「フフ……まあいい。その勇気と頭脳に敬意を表し、これから始まる歴史的瞬間に立ち会うことを許してやろう」
時雨「!」
中将「完成したγ-13号弾。これの最終実験を今より行う。お前たちは、戦争を終わらせる真の希望が誕生する瞬間に立ち会うのだ!」
中将「最後の実験は、海上の敵に向けた使用を想定した空中炸裂実験。もし今地上にいれば跡形もなく消滅していただろう……本当にお前たちは運がいい」
阿武隈「!?」ゾクッ
中将「邪魔さえしなければ殺さずにおいてやる。そのまま大人しく見届けるがいい」
時雨「地上にいたら跡形もなく……ってことは、やはりその兵器は深海棲艦以外にも影響を及ぼすのか」
中将「……そうだ。やはり深海棲艦と同一の存在である艦娘。そして人間を含む生物への影響だけは改善のしようがなかったからな」
時雨「そんな物を使ったら深海棲艦だけじゃない! 人間も艦娘も……生きる物すべてに甚大な被害が出てしまう!」
初霜「!」
中将「戦争を終わらせる為だ。多少の犠牲はやむを得ない」
吹雪「そ、そんな……」
時雨「っ! それじゃあ、あなたも……艦娘を生み出す為に子供たちを犠牲にした大本営と、彼らと同じじゃないか!」
中将「ふん……初めにそうしたのは奴らだろう! 己の都合で他者の命を弄び、大義の為にとそれを奪う! それこそ奴らが、人が示し進んできた道ではないか!」
中将「だから今度は奴らが犠牲になるのだ! 私と電の為に……嘗て奴らがそうしたようにな!!」
初霜「大本営の人たち以外にも……全く無関係の人々を多く巻き込んでも、それでもあなたは! そう言うのですか!?」
中将「言ったはずだ。私にとって大切なのは電のみ! 電以外の存在など全て等しく無価値! どうなろうと知ったことではない!」
初霜「っ!」
阿武隈「あなたは狂ってる……あたしには、あなたの考えなんて微塵も理解出来ないわ」
中将「……」
時雨「僕もだ。あなたの考えに全く共感なんて出来ないし、したくもない」
不知火「不知火も同じです」
初霜「あなたの境遇に関しては僅かに理解出来るところもあります。けど……あなたのやろうとしている事を、許すわけにはいきません!」
中将「……理解出来ぬというのか。お前たちが救われる唯一の方策だというのに、なぜそれが分からない!?」
吹雪「……わかりませんよ」
夕立「ぽいっ」
中将「……お前たちも所詮その程度か。そしてお前たちも、私の邪魔をするのか」
中将「ならば貴様らは全員、私の敵だ」ギロッ
時雨「っ!」ゾワッ
不知火「いくら弾薬がないとはいえ、不知火たちが人間のあなたに後れを取るとでも?」
中将「本来なら、侵入者に備えて独房の中で待機させていた怪物どもを使う予定だったが……ここに辿り着いたという事は、奴らは既に倒されてしまったか」
中将「……予定より少し早いが、仕方ない」カチッ
ピピーッ ピピーッ ピピーッ
ガチャン!
時雨「!」
阿武隈「この音……! あの機械から!?」
吹雪「み、見てください! 電ちゃんの入ったカプセルが……!」
電「――――」コポポッ…
中将「もう1度……私の為に力を貸しておくれ。私の可愛い、電よ」
電「――――!」パチッ
夕立「電ちゃんの目が!」
時雨「っ、僕としたことが……! さっき機械を操作してたのは……」
中将「フフ…ハハハハ! 成功だ! 再び電が……私の元に帰ってきてくれた!!」
電「――――」スッ
ピシッ… ピシピシッ…
阿武隈「! カプセルが……!」
電「――――!」
ガシャァンッ!
時雨「うわっ!」
初霜「きゃっ」
電「――――」
電「――――」ジッ…
中将「おお……! 電……私が分かるか?」
電「――――」
吹雪「電……ちゃん?」
時雨「……!」
中将「あぁ……やはりまだ言葉は……自我もはっきりとしないか……。だが、再びお前は、私の元に帰ってきてくれた……」
中将「必ず取り戻してるからな……昔のお前を……この角も、髪も、目の色も、肌もすべて、私が必ず元通りにして見せる」
中将「……しかし、その前に」ギロッ
中将「私たちの邪魔をする愚か者共を、綺麗に片付けておくれ」
電「――――」ギロッ
初霜「っ! 電さん!」
時雨「駄目だ……あの電はもう、電じゃない」
吹雪「そ、そんな……」
中将「さあ、電……強化したお前の力を見せておくれ」
中将「ただしあの駆逐艦――時雨は生かして捕えるんだ。あの頭の切れはとても興味深い……薬で自我を消せば、いくらでも有効に活用出来る」
中将「あとはどうでもいい。皆殺しにして構わない」
電「――――!」ダッ
不知火「!? 早――」
夕立「! 不知火ちゃん!」バッ
バキィッ!
電「――――!」ググッ
夕立「ぐっ……凄い力……っぽいぃ!」ググッ…
吹雪「夕立ちゃん!」
時雨「駄目だ! 夕立っ!」
電「――――」シュルッ
夕立「うわっと!?」バッ
阿武隈「夕立ちゃん!?」
初霜「あれって……尻尾?」
時雨「尾の先に刃が付いてる……深海化の影響であんな物まで……」
夕立「……不意打ちとか、危なかったっぽい」
電「――――」シュルルッ
夕立「でも、不意打ちなら夕立も得意っぽい――!」ダッ
時雨「夕立! 今の電とまともに戦うのは無茶だ! 戻って!!」
夕立「ふっ――!」シュッ
電「――」シュルルッ…
電「――!?」ピタッ
夕立「残念。正面はフェイク。脇腹がお留守っぽい!」シュッ
電「――!」
ドスッ!
電「――――」
夕立「……あれ?」
電「――――!」シュルッ
夕立「うぐっ……!」
吹雪「夕立ちゃん!?」
夕立「ど、どうして……確かに脇腹に1発……手ごたえもあったっぽいのに」
電「――――」
時雨「っ! 強化された電の耐久が高過ぎるんだ、いくら夕立でも素手じゃ勝ち目はない……!」
時雨「早く電と距離を取って! 逃げて夕立!!」
電「――――」シュルッ
夕立「っ……!」ダッ
電「――! ――――っ!」ダダッ!
吹雪「夕立ちゃんを追ってくる!」
不知火「ど、どうすれば……!?」
時雨「今の僕等に勝ち目はない……逃げるしかない!」
阿武隈「み、みんな逃げてっ!」
~~~~~~~~~~
時雨「っ……はぁ……はっ……」
時雨「はぁっ……はっ……! しまった、みんなと逸れたか……」
時雨(……広い実験場内だけど、色々な機械やガラクタが積まれてて……まるで迷路のようだ)
時雨(近くに電はいないみたいだけど……この状況じゃいつ鉢合わせになってもおかしくない……)
時雨「……っ、何とかみんなと……合流しないと」
時雨「……」コツ…コツ…
時雨「……!」ピタッ
時雨(この先から何か……気配がする……。阿武隈さんたち……? それとも……)
時雨(くっ、薄暗くてよく見えないけど……)
時雨(あれは……)
行動安価>>426
時雨が出会ったのは?
1阿武隈
2吹雪
3不知火
4初潮
5夕立
知らない子がいたので訂正
行動安価>>427
時雨が出会ったのは?
1阿武隈
2吹雪
3不知火
4初霜
5夕立
消し忘れました、逝ってきます……
初霜
初霜「時雨さん!」
時雨「初霜! よかった、無事だったんだね」
初霜「時雨さんこそ……他の皆さんは?」
時雨「僕もわからない……。どうやら散り散りになってしまったみたいだね」
初霜「じゃあ、一刻も早く皆さんを探さないと」
時雨「うん。バラバラになってしまった状況で、もし電と遭遇してしまったら……急がないと」
初霜「でも……皆さんと合流出来た後、あの電さんをどうすれば……」
時雨「……今はとにかく逃げるしかない。みんなと合流した後は、すぐにここから脱出するしか」
初霜「そうですね……っ!?」
初霜「時雨さん! 危ないっ!」
時雨「!?」
ザクッ!
初霜「っ……く……」ポタ…ポタッ
時雨「初霜っ!?」
時雨「っ!」バッ
電「――――」シュルルッ
時雨「電……いつの間に……っ!」
時雨「初霜……! しっかりして、初霜!」
初霜「だ、大丈夫です……お腹を少し掠っただけで……それより、時雨さんは……?」ハァ…ハァ…
時雨「僕は大丈夫だったけど……っ! ごめん、初霜……っ!」
電「――――」コツ…コツ…
時雨「くっ……」
初霜「は……早く……私を置いて……逃げてください」
時雨「駄目だよ! そんなこと絶対に!」
初霜「早く……このままじゃ、時雨さんも……」ハァハァ…
時雨(このままじゃ……このままじゃ、2人ともやられる!)
時雨(何か手は……何でもいい、何か…………)
時雨(……あれは!)
電「――――」コツッ…
時雨「……一か八か。やってみるか」ボソッ
初霜「……時雨、さん?」
時雨「……初霜、少しの間目を瞑ってて」
初霜「は……はい……?」
時雨「……」
電「――――?」
時雨「っ!」ダッ
電「――――!」
時雨「よし……取れた!」ギュッ
時雨「これでも……くらえっ!」シュッ
電「――――!」
時雨(お願いだ……佐世保の時雨と言われた幸運……今こそ、力を発揮してくれ……!)
電「――――」シュルッ ガキンッ!
電「!?」ピカッ!
初霜「っ!? きゃっ!」
時雨「目を瞑ったまま! 開けちゃ駄目だよ!」
電「――!? ――っ――っ!?」フラフラ…
時雨「……よし、光が治まった。今のうちに逃げるよ!」
初霜「時雨さん……いったい何を……?」
時雨「閃光弾さ。近くに偶然積まれていたのを咄嗟に見つけたんだ」
初霜「閃光弾……?」
時雨「たぶんここで作っていた試作品か何かだろうけど……正直、使い物になってくれるかは賭けだったよ」
時雨「でも……まだまだ僕たちには、運が味方をしてくれるみたいだ」
時雨(これで少しは電を足止め出来るはず。その間に何とか逃げながら、他のみんなを探さないと)
時雨(掠り傷って言ってたけど、初霜の様子も……あまり悠長なことは言っていられない)
時雨(お願いだ……僕の運。もう少しだけ味方してくれ……)
行動安価>>433
時雨たちが次に出会ったのは?
1阿武隈
2吹雪
3不知火
4夕立
もしかして順番重要だったりするかな…
時雨「しっかり……頑張って、初霜」
初霜「すみません……急いで逃げなくてはいけないのに……肩を借りてしまって」
時雨「元はといえば僕が油断したせいだ……ごめん、初霜」
時雨「……!」ピクッ
初霜「……時雨さん?」
時雨「しっ、この先に誰かいる……」
初霜「!」
時雨「……誰? そこにいるのは」
?「その声……時雨ちゃん?」
時雨「! 吹雪?」
吹雪「時雨ちゃん! それに初霜ちゃんも!」
初霜「吹雪さん……無事でよかった」ハァ…ハァ…
吹雪「初霜ちゃん!? その血……大丈夫!?」
時雨「僕を庇って、電にやられたんだ……。掠り傷みたいだけど、あまり余裕も言ってられない」
ガシャァァァンッ!!
時雨「!」
吹雪「!?」
初霜「この音……後ろの方から……まさか」ハァハァ…
時雨「っ! まずい……急いでここから離れないと! 吹雪、手を貸して!」
吹雪「う、うん!」
初霜「……! 時雨さん、吹雪さん!」
時雨・吹雪「「!!」」
電「――――!」タッ…タタタタッ
吹雪「電ちゃん!? は、早い……!?」
時雨「くっ……こっちは走る余裕はないって言うのに……」
初霜「……時雨さ――」
時雨「置いて行かないよ、絶対に! 吹雪、左側から初霜を。2人で左右から抱える形なら――」
初霜「もう、間に合いません……早く、私を捨てて、ください……」ハァハァ…
時雨「駄目だって言ってるでしょ!」
吹雪「っ! 時雨ちゃん……初霜ちゃんを連れて先に行って」
吹雪「電ちゃんは、私が食い止める」
時雨「吹雪!?」
時雨「無茶だ! 1人でなんて……! 夕立でも敵わなかったんだよ!?」
吹雪「……みんなをお願い。時雨ちゃん!」ダッ
時雨「吹雪っ!」
電「――――!」
吹雪「うわあぁぁぁぁぁぁっ!!」ドカッ!
電「――――!?」ググッ
吹雪(弾薬もない……私は夕立ちゃんみたいに素手で戦うとかも出来ないけど……)
電「――」キッ!
吹雪(せめて……時雨ちゃんたちが逃げられる時間稼ぎだけでも……!)
吹雪「私がみんなを……護――」
電「――――!」シュルルッ!
吹雪「っ!?」
電「――――」グググ
吹雪「……あ……が、っ」メキメキッ
時雨「吹雪っ!?」
電「――――」グイッ
吹雪「ぐっ……しぐ……にげ……ぎゃ……ぁっ」ベキッ、バキッ!
吹雪「……ぁ」プラン…プラン…
初霜「吹雪……さ……」ガクガク
時雨「あぁ……そん、な……」
中将「まずは1人。よくやった、電」コツ…コツ…
時雨「っ!」
中将「……愚かな選択をしたな。私の邪魔をしなければ、生かしてやったものを」
中将「ここまで辿り着くほどの知恵と勇気、それに運も持ち合わせていた稀有な存在だというのに……実に残念だ」
中将「……ん?」
吹雪「……ぁ……ぅ」
中将「ほう……尾で絞め上げられ全身を潰されても、まだ微かに息があるか。このままでもすぐ死ぬだろうが……」
中将「せめてもの情けだ。止めを刺して楽にしてあげなさい」
電「――――」グッ!
ゴキンッ!
電「――――」シュルッ
吹雪「」ドシャッ
時雨「ふ……ぶき……」
初霜「あ、あぁぁ……」ガクガク
中将「さあ、次はそこの2人……ただし時雨は殺さず、逃げられぬよう足を折る程度に止めておくれ」
電「――――」ジロッ
時雨「ぐっ……」
時雨(負傷した初霜を抱えたこの状況じゃ……さすがに逃げ切れない)
時雨(さっきのような手も……2度は……)
時雨(これまで、か……)
(あれ……?)
(目の前が……真っ暗だ……。ああ、そうか……私は、電ちゃんに……)
(結局……護れなかったんだ……時雨ちゃんたちも……司令官との、約束も……)
(ごめんね……みんな…………)
(ごめんなさい……司令官……)
(…………)
(……?)
(なに……この感覚……胸の辺り、暖かい……)
(……! 光……? 小さな光が……だんだん、大きく……)
ピカッ!
電「――――?」
中将「何だ……?」
「2人に手を……出すなぁぁぁぁっ!!」ドカッ!
電「――――ッ!?」ヨロッ…
ガシャァァァンッ!!
中将「電!?」
時雨「……えっ?」
初霜「な、何……? いったい、何が……」
吹雪「……っ、時雨ちゃん、初霜ちゃん!」
時雨「ふ、吹雪!?」
初霜「吹雪さん……! いったい、どうして……」
吹雪「私にもよくわからないけど……気が付いたら、意識が戻ってきて……身体も元通りに」
初霜「! 吹雪さん、そのお守り……」
時雨「お守りが光を……吹雪、それ……」
吹雪「これって……」
女神妖精 ( ^ー゚)bグッ
吹雪「応急修理女神……これがお守りの中に?」
初霜「そのお守り……確か……提督に……頂いたもの、ですよね?」
時雨「なるほど。確かに、最高のお守りだ」
吹雪「司令官……」ギュッ
ガララッ… ガシャァン!
電「――――っ」スクッ
吹雪「!」
時雨「安心してる場合じゃなかった。この状況をどうにかしないと」
初霜「吹雪さん……女神の力で、甦ったなら……弾薬も」
時雨「そうか! その手が――」
吹雪「だけど……私が装備してるのは魚雷だけで、砲系統の艤装は……!」
中将「貴様……よくも……よくも、電を……!」
中将「許さんぞ……貴様はより惨く殺してやる! 四肢を削ぎ! 臓物を撒き散らして殺してやるッ!」
中将「殺せ電っ! お前を痛めつけたゴミ屑を、誰かも解らぬほどバラバラに引き裂いてやれッ!」
電「――――!」ダッ
時雨「っ、また来る!」
吹雪「……やるしかない!」
吹雪「時雨ちゃん、初霜ちゃんと一緒に伏せてて!」ダッ
時雨「! 吹雪っ!?」
中将「愚か者が! 馬鹿の一つ覚えの如くまた体当たりか!」
中将「今度こそ仕留めてやれ! 電!」
電「――――!」シュルルッ
吹雪(っ! 尻尾の攻撃……これさえ避けられれば!)
電「――」シュッ
吹雪「っ!」
吹雪(避けられた! このまま巻き付かれないように……!)
電「――――!」シュルッ!
時雨「後ろだっ!!」
吹雪「っ!」
吹雪(避けた尻尾の先が、こっちを……!)
中将「終わりだ! そのまま刺し殺してしまえッ!」
電「――――」シュルッ
吹雪「……でも、ここまで近づけば十分」ガチャン!
電「――!」
中将「っ! 馬鹿が、陸では使えもしない魚雷だけで何が――」
中将「!?」
時雨「ま、まさか……」
電「――!?」
吹雪「確かに魚雷は海でないと使えない……けど」
吹雪「信管を作動させて、直接当てれば――」
吹雪(チャンスは1度だけ……全ての魚雷を、ゼロ距離で叩き込む!)
試製61cm六連装(酸素)魚雷 カッ!
61cm五連装(酸素)魚雷 カッ!
61cm五連装(酸素)魚雷 カッ!
電「!?」
吹雪「お願い、当たってください!」
チュドオォォォォンッ!!
時雨「っ!!」
初霜「きゃっ!」
時雨「……! 吹雪っ!?」
ドサッ! ドザザッ
吹雪「……っ、ぐ……っ」
初霜「吹雪さん……!?」
時雨「吹雪!」ダッ
時雨「しっかり……! 吹雪っ!」
吹雪「時雨ちゃ……」ゲホッ
時雨「! 吹雪!」
時雨「なんて……なんて馬鹿なこと……っ!」
吹雪「ぁはは……それより……電ちゃん、は……?」
時雨「!」バッ
中将「電!? 電ぁっ!?」
電「――ッ、――」フラフラ…
初霜「!」
時雨「!? 炎の中から……ダメージは入ったみたいだけど、まだ動けるのか」
電「――――っ」
電「――ァ」ヨロッ…
電「」ドシャッ!
中将「い、電……!?」
中将「あ……あぁ……いなず……電っ!?」
初霜「!」
時雨「やった……やったみたいだ、吹雪!」
吹雪「よ……かった……」
タッタッタッタッ…
時雨「……!」
阿武隈「今の爆発は……! 時雨ちゃん!」
時雨「阿武隈さん! それに、不知火と夕立も……!」
不知火「夕立と合流した後、阿武隈さんとも合流を……それより、吹雪さんと初霜さんは」
夕立「吹雪ちゃん!」
時雨「2人とも負傷してる。すぐに命に係わる心配は無さそうだけど……特に吹雪は、電を倒すためにゼロ距離で魚雷の爆発を受けたから……」
不知火「!」
阿武隈「なんて無茶なこと……っ!」
夕立「吹雪ちゃん……」
吹雪「そんな顔しないで……大丈夫、だから」
不知火「それじゃあ、電は……?」
時雨「……」
中将「あぁ……電…………電ぁ……!」
電「――ガ…――グ」プルプル
中将「大丈夫だ……電…………私が治す。治すからな……また、私が……おぉぉ、電ぁ……」
電「――ッ」
阿武隈「電ちゃんに寄り添って泣いてる……どうしてあの人は、あそこまで電ちゃんに……?」
時雨「……」
ドオンッ!
時雨「!?」
ドカンッ…ドンッ! チュドンッ!!
不知火「炎と爆発が……広まってる!?」
時雨「! さっきの爆発の炎が、近くの兵器や弾薬に誘爆し始めたのか!?」
阿武隈「嘘でしょ!? 作りかけの兵器とか弾の他にも、燃料とかもたくさん置かれてるのに……!」
時雨「それだけじゃない……ここには、深海棲艦を絶滅させる為の兵器もあるのに!」
不知火「!!」
時雨「ここに居たらまずい。すぐに逃げないと!」
阿武隈「っ! 時雨ちゃんと夕立ちゃんは吹雪ちゃんを、不知火ちゃんはあたしと一緒に初霜ちゃんに手を貸してあげて!」
不知火「了解しました」
夕立「吹雪ちゃん、私たちに掴まって」
吹雪「……ごめん……夕立ちゃん、不知火ちゃん」
時雨「しっかり掴まってて……夕立、君は左側からお願い」
夕立「ぽいっ!」
阿武隈「初霜ちゃんも、肩に手を回して」
初霜「阿武隈さん……電さんたち、を……」
阿武隈「……!」
不知火「何を……」
初霜「……見捨てていくなんて……あの2人も……一緒に、脱出を」
阿武隈「初霜ちゃん……」
ドカンッ! ボオッ…!
時雨「……火の回りが早い! 阿武隈さん、早く!」
阿武隈「っ! 不知火ちゃん、初霜ちゃんをお願い!」
不知火「まさか……正気ですか!?」
阿武隈「見殺しには出来ないわ。あたしが2人を連れていくから、みんなは先に出口を――」
阿武隈「っ!」ボウッ!
阿武隈「……! そんな! あの2人の周りが、炎に……!?」
不知火「っ! もう無理です! このままだと阿武隈さんまで炎に……!」
阿武隈「でもっ……!」
不知火「早くっ! このままだと全員死んでしまいます!」
阿武隈「……っ!」ダッ
メラメラ… ボオッ!
中将「電……私の愛しい……電……」
中将「もう1度……見せておくれ……私の大切な……この世で、たった1人の…………私の……」
電「――――ッ」
電「――ォ…ト……」ツー
グラッ… ガシャァァァンッ!!
不知火「っ! 出口は……出口はどこ!?」
阿武隈「電ちゃんたちから逃げ回ったせいで、来た道すら分からない……。炎もどんどん広まってるし、このままじゃ……」
時雨「……! この機械……見覚えがある。あっちだ!」
夕立「吹雪ちゃん、もう少しだから頑張って!」
吹雪「うん……」
阿武隈「初霜ちゃんも、頑張って!」
初霜「申し訳ありません……2人とも……」
時雨「……! 見えた、出口だ!」
阿武隈「みんな、急いで!」
吹雪「…………」
『――の――――――――っ―……そ――――に』
吹雪「……!」
夕立「吹雪ちゃん、出口が見えたっぽい! もうすぐだからね!」
吹雪「……うん…………」
-地下施設 地下実験場~階段間の通路-
不知火「何とか……炎からは逃れられましたね」ハァハァ
時雨「でも、まだ安全って訳じゃない。あの兵器が誘爆してしまう前に、早くここから脱出して出来るだけ離れないと……!」
阿武隈「とにかく階段のところに! 地上に上がって、そのまますぐこの島から海に出ましょう!」
不知火「分岐が見えました!」
時雨「よし……。あそこを左に曲がって階段を上れば……」
時雨「……!?」
不知火「か、階段が……」
阿武隈「塞がってる……!? 天井の部分が崩れて……階段が……っ!?」
時雨「さっきの爆発のせいか……っ!」
不知火「ど、どうすれば……地上に出るには、この階段を上がるしかないのに!」
時雨「くっ……」
自由安価>>456
※※実現不可能なことや、あまりに話から外れた内容の場合は再安価と致します。
↑
吹雪「……!」
吹雪「みんな……、あそこに……あそこから、海に……」
夕立「吹雪ちゃん?」
時雨「海? あそこからって、いったいどこに……?」
吹雪「地下の……っ、『出撃ドック』。あそこから、海に……出られるかも」
阿武隈「!」
初霜「……そういえば、私と夕立さんも……最初に目覚めたとき……あの場所に」ハァ…ハァ…
時雨「! そうか、出撃ドック……あそこは外――海と繋がってるのか!」
夕立「じゃあ……!」
時雨「時間もない……一か八か、行ってみよう」
阿武隈「でも、よく気付いたね。出撃ドックのこと」
吹雪「声が……聞こえたんです。さっき……誰かの声が……その声が、『出撃ドックから海に』って……」
阿武隈「声?」
吹雪「よくわからないけど……確かに聞こえた気がするの。女の子の声が……頭の中に」
時雨「女の子の声……」
ズズンッ…
時雨「!」
阿武隈「っ、今は考えてる場合じゃないわ! 早く出撃ドックに向かおう!」
-地下出撃ドック-
不知火「潮の匂い……! ドックに着きました!」
阿武隈「ここは電気が点いてないから全貌が分からないけど……どこかに、外に出れる場所があるはずだわ」
阿武隈「みんな、艤装のライトで辺りを照らして!」ピカッ
不知火「っ!」ピカッ
時雨「……」ピカッ
夕立「何もない……っていうか、向こう側は完全に冠水しちゃってるっぽい……?」
不知火「っ、そんな……ここまで来て……!」
初霜「でも……私と夕立さんが、海からここへ……流れ、着いたのなら……」
時雨「まだ外には繋がってる……? この水の先にさえ行ければ……」
阿武隈「でも、どうやって……!?」
時雨「……泳いでいくしかないね」
夕立「ぽいぃ!?」
阿武隈「泳ぐって……潜水艦でもないあたしたちが艤装を抱えたまま水の中になんて入ったら……!」
不知火「たちまち水没して……水死するのが関の山。さすがに、それは……何か別の方法を」
時雨「残念だけど他に方法はない。あったとしても、今からそれを探してるような時間はない」
時雨「それに、ここに流れ着いた初霜たちがこうして生きている事や、艤装にも問題が発生していない所を見ると――」
ズズンッ! ドォォンッ!
阿武隈「爆音がすぐ近くにまで……! それに、何かが崩れる音も……!」
時雨「地下が崩落し始めたんだ……迷ってる時間はない。行こう、みんな!」
不知火「~~っ! 分かりました。迷いながら瓦礫で圧死するくらいなら……ここからの脱出に賭けましょう」
夕立「でも、怪我してる吹雪ちゃんや初霜ちゃんは……!?」
吹雪「……っ」
初霜「……」ハァ…ハァ…
阿武隈「このままあたしたちで支えて、みんなで一緒に行くよ。見捨てていくなんて、絶対にイヤ!」
不知火「1人でも欠けて自分だけ生き残るくらいなら……皆で一緒に死んだほうがマシです」
時雨「そうだね。みんなで一緒に行こう」
阿武隈「じゃあ、みんな……準備はいい?」
不知火「初霜さん、傷口に水が障って辛いでしょうが……何とか頑張ってください」
初霜「はい……ごめんなさい、よろしく……お願いします」
時雨「水の中に入って少し泳いだら、とにかく上を……海上を目指そう」
夕立「吹雪ちゃん、水の中に入ったら頑張って息を止めて。出来るだけ早く、外に出るから……!」
吹雪「うん……」
阿武隈「じゃあ……いくよ!」ザバッ
初霜「――っ!」ズキッ
不知火「初霜さん、頑張って……。では時雨さん、不知火たちが先に潜り先導します」
時雨「うん。光もない、本当に手探りになるだろうけど……何とか頑張って海上を目指そう」
阿武隈「いくよ、不知火ちゃん」
不知火「はい……っ!」スゥッ
ザバッ!
時雨「僕たちも行くよ。夕立、吹雪をしっかり抱えて」
夕立「ぽいっ!」
時雨「よし……いくよ!」ザバッ
夕立「っ!」ザバッ
コポッ……コポポッ
時雨「――――」
夕立「――――」
吹雪(真っ暗で……暗くて……寒い……)
吹雪(これが暗い海の中……光の無い……世界……)
ズキッ!
吹雪「――――ッ!?」
吹雪(身体が……っ、どんどん……冷たく、なって……)
吹雪(……そうか……これが、あの人が言っていた……これが……深海棲艦の……)
夕立「――――っ、――!」
時雨「――――!」
吹雪(あぁ……そうか……わたし……)
吹雪(ごめん……夕立ちゃん……わたし……眠く…………)
吹雪(だめ……意識が……また…………)
『―――――』
吹雪(…………?)
『―――――――――、―――――― ――――――――――――……』
コポポッ…!
~~~~~~~~~~
吹雪「…………ん……」
吹雪「……あれ……ここは……?」
夕立「……! 吹雪ちゃんが起きたっぽい!」
吹雪「その声……夕立ちゃん?」
吹雪「ここ……ベッドの上……?」
吹雪「っ!」ガバッ
夕立「おはよう。吹雪ちゃん」
吹雪「夕立ちゃん! どうしてベッドの上に? 阿武隈さんや他のみんなは? それにここは……!?」
夕立「吹雪ちゃん、少し落ち着いて」
吹雪「私……どうして、あの地下施設から脱出して……それから……記憶が……」
初霜「私たちは助かったんですよ、吹雪さん」
吹雪「! 初霜ちゃんも、無事だったんだね!」
初霜「ええ。他の皆さんも……入院しているのは私たち3人だけなので今ここにはいませんが、全員無事ですよ」
吹雪「入院……それに助かったって……じゃあ、ここは……」
夕立「ここは鎮守府の病院棟だよ」
初霜「無事に帰れたんですよ、私たちの鎮守府に」
吹雪(それからしばらくの間、私は状況が掴めなかったけど……初霜ちゃんたちの話を聞いてようやく理解することが出来た)
吹雪(私たちがあの廃墟と化した鎮守府に迷い込み、地下施設からの脱出を図ってから、なんと3日も経っていた)
吹雪(あの地下のドックから海上を目指した私たちは、幸運にも水没することなく全員無事に海上に浮上出来たらしい)
吹雪(私は水の中に潜った直後気を失い、夕立ちゃんと時雨ちゃんの支えで何とか海上へと辿り着いた。けどその後もずっと気絶したままだったらしい)
吹雪(海上に上がった私たちは、すぐにあの島を脱出し、その後、私たちの捜索に出ていた味方の艦隊を発見し合流を果たした)
吹雪(そうして私たちは、無事に鎮守府へと帰還することが出来たのだ)
吹雪(負傷していた私と初霜ちゃん、怪物に襲われた夕立ちゃんは帰還後すぐに入院。幸いみんな命に別状はなかったものの、大事を取り1週間は入院生活を言い渡されたという)
吹雪(私はついさっき目を覚ますまで、3日間も眠ったままだったらしい……)
吹雪「私が眠っていた間に、そんなことが……」
初霜「入院している私たちの代わりに、阿武隈さんや時雨さんたちが提督に事情を説明しているそうです」
夕立「昨日もお見舞いに来てくれたけど、色々大変そうっぽい」
吹雪「……でも、私たち……帰ってこれたんだね」
初霜「……はい。帰ってこれたんです。皆さんの元に……私たちの、居場所に」
吹雪「あれ? そういえば、この花瓶の花……私たち全員の横に置かれてるけど」
初霜「ああ、それは青葉さんがお見舞いに持ってきてくれた物なんですよ」
吹雪「青葉さんが?」
初霜「私たちが帰還して入院した後、わざわざ全員の分を持ってお見舞いに来てくれたんです」
吹雪「青葉さんが……なんか、珍しいって言うか……以外って言うか」
夕立「でも、その代わりに色んなこと根掘り葉掘り聞かれたっぽい」
初霜「質問攻めにされて、最後は『これでいい記事が書けます!』って感謝されましたね。途中からはお見舞いというより、完全に取材になってましたね……」
吹雪「あはは……やっぱりいつもの青葉さんだ」
吹雪「……でもこの花、とても綺麗。ピンク色の……えーと、なんていう花だろう?」
初霜「ガーベラ、だったと思います」
夕立「夕立的には食べ物の方が嬉しかったっぽい」
初霜「……夕立さん」
夕立「うそうそ! 冗談っぽい」
コンコン
初霜「はい。どなたですか?」
白雪「白雪です。吹雪ちゃんのお見舞いに。深雪ちゃんと初雪ちゃんも一緒に」
初霜「ちょうどよかった。ついさっき吹雪さんが目を覚ましたところで――」
吹雪(何はともあれ、私たちは全員無事に……私たちの鎮守府に帰ってくることが出来た)
吹雪(でも、私たちがあの鎮守府で知ったこと――知ってしまったことは、この先大きな混乱に繋がってしまう。そんな予感を感じていた)
吹雪(私たちの行く末……この先に待っているのは、いったいどんな未来なのか?)
吹雪(それはまだ分からない……でも、きっと方法はあるはず)
吹雪(私たちと深海棲艦……終わることの無いというこの戦争を、どちらかを滅ぼさずとも終結させる方法が……)
吹雪(そういえば……あの鎮守府を脱出するとき……水の中で、また……あの声が聞こえた気がする)
吹雪(あれはいったい……誰の声だったんだろう。あの声は、どうして……)
吹雪(どうして私に、謝ったんだろう……)
――巻き込んでしまって ごめんなさい と を許してあげて……―――
【Good End】
ようやく終わりが見えました
気が付いたら半年以上ずるずると続けてしまい本当に申し訳ないです
近日中に最後の話を書いて、それでこのSSは完結となる予定です
お付き合いありがとうございました
~事件から1週間後~
-柱島鎮守府 執務室-
コンコン
時雨「提督、入るよ」
提督「やあ時雨。せっかく休養しているところ呼び出してすまない。調子はどうだ?」
時雨「僕は平気だよ。それに僕も提督と話したかったし」
提督「とはいえ皆が帰還してから検査や聴取の連続。特に時雨たちには何度も話を聞く為に呼び出しているからな」
提督「本来ならゆっくり休ませたいところなんだが……」
時雨「仕方ないさ。それより、吹雪たちの退院が決まったって聞いたけど?」
提督「ああ。負傷していた吹雪と初霜、それと怪物に襲われたという夕立も、明石の精密検査の結果特に異常は見られず、命に別状もないとのことだ」
提督「唯一意識が戻らなかった吹雪も数日前に目を覚ましたし、夕立もそろそろ入院生活に退屈し始めたようだからな。予定より早く退院の許可を出した」
時雨「……よかった。阿武隈さんと不知火は?」
提督「あの2人も帰還後しばらくは聴取続きにしてしまったからな。今はゆっくり休ませてる。2人共姉妹達と一緒に過ごしているようだ」
時雨「……それで提督。僕をここに呼んだのは、やっぱり」
提督「ん、ちょっと待ってくれ。もうすぐ――」
コンコン
大淀「失礼します。提督――あら、もう時雨さんが来られてましたか」
提督「いや、良いタイミングだ。これで役者も揃った」
時雨「大淀さん……?」
大淀「遅れて申し訳ありません。時雨ちゃんもお休み中にごめんなさい……疲れとかは大丈夫ですか?」
時雨「大丈夫だよ。大淀さんこそ色々大変みたいだね。中央は今、大変な騒ぎになっているみたいだし」
提督「……大本営の中央人事を中心に一部現役の元帥。さらには政府関係者まで、一斉に告発と調査の手が入ったからな」
大淀「ええ。大規模な調査が入ったことで中央の機能は停止状態です」
大淀「幸い戦線に関しては、前以て行っていた根回しが功を奏し、各主力鎮守府の迅速な対応で戦線の維持に問題はありませんが。やはり各所は大混乱ですね」
提督「彼らが長年隠蔽し続けてきた事……それが白日のもとに曝されたのだから、そうなるのも仕方がない」
提督「しかし、だからと言って真実を有耶無耶にする訳にはいかない。我々は向き合わなければならないんだ」
提督「人間が作り出した闇にも、この戦いの真実にも、な」
時雨「……」
時雨「やっぱり……知っていたんだね」
提督「……!」
時雨「僕たちがあの廃墟と化した鎮守府を発見し、そして持ち帰ったあの資料……」
時雨「ここに帰って来て提督に渡した『証拠の書類』。あれが大本営を告発する為の弾丸になったのは想像が付く」
時雨「でも、それにしても手際が良すぎるよね?」
提督「……」
時雨「僕たちが帰ってきてからまだ1週間。こんな短期間で国家と大本営という大きな存在を相手にする準備を整えるのは、ちょっと不自然だ」
時雨「大淀さんが言っていたように、事前に根回しでもされてなければね」
大淀「……」
提督「……」
時雨「提督は、あの鎮守府の存在を知っていた……そうだよね?」
大淀「提督……」
提督「……」コクッ
提督「時雨の言う通り、私はあの鎮守府の存在について知っていた。いや、気付いていたと言うべきか」
時雨「やっぱり……。そうだったんだね」
提督「今日、時雨をここに呼んだのはそのことを話すためだ。1からあの地のことを突き止めた君は知りたいだろうと思ってな」
提督「それにあの施設で行われていた研究や中将氏のことについて。その後の調査で新たに判明したことも出てきたからな」
時雨「!」
提督「だから今、あの鎮守府について私が知る全ての事を……君に話そう」
提督「きっかけは2年前。ある海域で任務中の我が艦隊が、単艦で海上を彷徨う所属不明の艦娘を発見し保護する出来事があった」
提督「初めは艦隊から逸れた他の鎮守府の艦娘だと思ったが……回復したその艦娘の話を聞いて事態は一変した」
時雨「まさか、その艦娘って……」
提督「あの鎮守府に所属していた艦娘。その唯一の生き残りだ」
時雨「! 驚いたね……生き残った艦娘がいたのか……」
提督「彼女の証言によって、我々は知られざる謎の鎮守府が存在すること。そこで起きたという惨事と、その地にまつわる重大な秘密……その疑惑を知った」
提督「だが、事が事だけに迂闊に動くことも出来なかった」
大淀「それが事実なら背景には大本営――いえ、国家そのものが関わっているのは明白でした。真相を探るにしても慎重にならざるを得ません」
大淀「下手をすれば私たち自身に危害が及ぶ可能性も十分にあり得えます。国がその気になれば、我々の口を封じることぐらい造作もないでしょうから」
時雨「……口封じ」
大淀「そこで提督は、信頼できる他の提督や軍警察の監査機関などと秘かに連絡を取り、秘密裏に調査を進めていたんです」
提督「同業の提督内でも、大本営に関して疑念や不信感を抱く者は少なからずいたからな……私も含めてね」
提督「疑惑を知った私は彼らと連携して調査を始めた……だが、いくら調べても核心に迫れるような情報は一向に見つからなかった」
時雨「そうだろうね。島ごと一般の海域図から消して存在を隠蔽するくらい、大本営もあそこの隠滅には徹底していたみたいだし」
提督「ああ……。それに協力を仰いだ軍警察も大元は軍の一部。中央の息がかからず本当に信頼できる人間はごく少数に限られた為、彼らの力にも限界があった」
提督「そんな中で分かったのは、過去に国の主導で何処かの孤島に極秘の研究施設が設けられ、そこで軍関係の機密に纏わる研究が行われていたという事実だった」
提督「我々は生き残った艦娘からの情報と照らし合わせ、彼女の証言にあった『鎮守府』とその『研究施設』が同一の物である可能性に着目した」
時雨「やっぱりそこに気が付くよね……」
提督「といっても当時は確証もなく、ただの仮説に過ぎなかった。これが正しかったと証明されたのは、時雨たちからの報告を受けてからのことだ」
大淀「ですがその施設に関する情報は少なく、そこを糸口に調査を進めていくのは困難を極めました」
大淀「当時そこで研究に関わったとされる職員の何人かにまで辿り着けても、その多くは既に死んでいるか消息不明という有り様でしたから」
時雨「それって……」
提督「偶然の可能性もあるが、口を封じられたと見るのが妥当だろう」
時雨「……絶対に漏らすわけにはいかない秘密なら、それを知る者自体を最小限に止めるのは定石。ってわけか」
提督「唯一生き残っている可能性があったのは、その施設の主任だったという人物」
提督「その男は後に軍籍を得て海軍所属となり、開戦と共に何処かの鎮守府に司令官として赴任した。追うことが出来たのはそこまでだった」
提督「我々は2つの施設が同一という仮説に基づき、その男が施設を閉じたあと跡地に作られた鎮守府に司令として着任し、秘密を守る役割を担っていたのでは?と考えた」
時雨「それがあの人……中将提督だね」
提督「そう。彼こそが唯一の生き証人であり、一連の疑惑の確たる証拠になり得る人物」
提督「生き残った艦娘の証言によれば、今も生存している可能性があるとのことだった」
大淀「ですがその方の居場所もまた鎮守府と共に謎のまま……。事実上、私たちは八方塞がりの状況に陥ってしまったんです」
提督「そんな状況下で残されていたのは、生き残った艦娘の証言だ。彼女の証言を基に大本営を告発し、暗部を暴く突破口に出来ないかと考えた」
提督「だが彼女の情報だけでは、全容解明に至るには決め手に欠けた」
大淀「国家と大本営が秘密裏に行っていたという研究。それを裏付ける証拠も一切得られていませんでしたからね」
時雨「その生き残った艦娘から、あの島の所在を聞き出すことは出来なかったの?」
提督「無論、私も最初にそれを考えたさ。しかし彼女は自分が所属していた鎮守府の場所や詳細に関して、一切のことを知らなかったんだ」
時雨「知らなかった?」
提督「恐らく艦娘の脱走などが起こった場合を想定して、予め所属する艦娘たちには鎮守府に関する情報が伏せられていたんだろう」
時雨「……そういえば、あの鎮守府で見つけた艦娘たちの痕跡の中に、自分たちの鎮守府や他の鎮守府に関する話はあまり出てこなかったけど」
時雨「なるほど……そう考えれば、確かに辻褄は合うね」
大淀「それに加えて、生き残った艦娘は記憶の一部を失っており……それも私達にとって不利に働きました」
大淀「曖昧な部分のある証言では証拠としての信憑性は失われます。とても大本営を告発するための証拠にはなり得ませんでした」
提督「詰まる所、我々は大本営が隠す鎮守府の存在と疑惑について、ある程度の所までは辿り付いていた」
提督「だがその鎮守府自体も、その存在を証明するための証拠も得ることができず……それ以上の動きが取れない状態になっていた訳だ」
時雨「そんな時に偶然、僕たちがあの廃墟と化した鎮守府に迷い込んだ……」
提督「私も帰ってきた君たちに話を聞いた時は驚いたよ。……あるいは偶然ではなく、何らかの必然だったのかもしれない。と思うくらいにね」
提督「時雨たちから話を聞き、すぐに廃鎮守府の場所を特定し、調査の為に艦隊を派遣した」
提督「しかし、調査隊が島に到着した時には、鎮守府――時雨たちが見たというそれは、既に存在していなかった」
時雨「えっ」
時雨「存在していないって……まさか、そんな……」
提督「報告では僅かに人工物の痕跡は確認できたようだ」
提督「だが、島の一部が不自然に大きく崩落し、港湾や建物の類はそれに呑み込まれたかのように跡形もなかったそうだ」
時雨「! それって……」
提督「おそらく時雨の言っていた……」
時雨「地下の崩落……それに、あの地下施設に準備されていたあの兵器……」
大淀「その影響と思われます。現に調査隊が確認した島の状態は、科学的汚染はみられないものの草木の一切が枯れ果て、周辺には生物の気配すら感じられない惨憺たる状態とのことでした」
提督「中将氏が作っていたという深海棲艦を根絶やしにする為の兵器……。島の惨状は、報告にあったその効能にも合致する」
提督「今となってはその兵器の全容は不明のままだが、どうやらその効力は本物だったようだな」
時雨(もし僕たちがあの島から逃げ遅れていたら、今頃は……)ゾクッ
提督「……結局、中将氏も鎮守府も纏めて消滅してしまった」
提督「時雨があの資料を持ち帰ってくれていなければ、今頃全ては闇の中に葬られていただろう」
時雨「それじゃあ、やっぱり……あれは役に立ったんだね」
提督「役に立つどころか、最大の証拠品といっても過言ではない代物。我々が探し求めていた物だったよ」
大淀「あの書類には、施設で行われていた実験の数々。艦娘開発の為に行われた人体実験や、その為に国家が行った非合法な行為に関する記述が残されていました」
大淀「中には当時計画に関わっていた大本営や政府の人間――今は軍令部次席や元帥、政府高官に出世している方の名前まではっきりと」
大淀「大本営と国家の犯した罪を裏付けるには、これ以上ない証拠です」
時雨「それが決め手になり、提督たちは大本営の告発に踏み切った……。ってことだね?」
提督「その通りだ」
時雨「でも……あの鎮守府で唯一生き残った艦娘。そんな娘がこの鎮守府に居たなんて、知らなかったよ」
提督「時雨たちには悪いが、事の性質上何があっても彼女の事を外部に漏らすわけにはいかなかったんだ」
大淀「もし彼女の生存が大本営に知れれば、彼女はもちろん保護している私たちにも危険が及ぶことは明白でしたから」
時雨「大本営にとって暗部ともいうべき施設……。消し去ったはずのそれの存在を証明してしまう生存者がいるなんて知られたら、大本営は確実に消しにかかっていただろうね」
提督「故に彼女については徹底して情報を伏せることにした」
提督「事実を知っているのは私と大淀、秘書艦の3人以外には、彼女を発見し収容した艦娘たちのみ。艦隊でもごく数人だけにとどめた」
時雨「その娘は今もここに?」
提督「ああ。正体を隠す為に、出自に関しては我が艦隊が作戦中に邂逅した未所属の艦娘という経緯に書き換え、普通の艦娘としてここに所属したことになっている」
提督「彼女もここに来た当初は、仲間を見捨てて自分だけ生き残ってしまったことを相当悔いていたが……。今はそれを乗り越えて精一杯今を生きてくれているよ」
時雨「そうだったんだ……」
大淀「ある意味、今回の一件で真実が明らかにされたことを一番喜んでいるのは、彼女かもしれませんね」
提督「……さて、少し話を戻そう。時雨たちの報告によって判明したあの島で起きていた出来事。その黒幕である中将氏に関してだが」
時雨「何かわかったの?」
提督「ああ。監査部が大本営に本格的な捜査の手を入れたことで、今まで秘匿されていた資料なども多数見つかったそうだ」
提督「その中には中将氏に関する物もあり、彼の経歴や過去についても色々とわかったことがある」
時雨「経歴や過去……。それで、わかったことって?」
提督「大淀」
大淀「はい。監査部が押収した資料によると、中将氏は元々民間の出身で、艦娘の開発計画にあたって外部から招聘された科学者だったようです」
大淀「彼が提案した開発理論の成功によって艦娘の基礎が確立され、そのまま艦娘開発の研究主任として開発の中心人物になっていった」
大淀「この辺りは時雨ちゃんの報告からも聞いていた通り。その裏付けのようなものでしたが……」
提督「気になったのは、中将氏自身に関する内容だ」
時雨「と、いうと?」
大淀「中将氏には近しい親類縁者は殆どいなかったようなのですが、ただ1人。娘さんがいたそうです」
時雨「娘……?」
提督「中将氏にとって確認できる唯一の肉親。その子の母親も早くに亡くなっており、中将氏が1人で育てていた愛娘だったらしい」
提督「しかしその娘は幼くして重病を患い、病が発覚した時には既に手遅れに近く、延命は絶望視される状態だったそうだ」
時雨「……」
大淀「その子がどうなったのかは分かりませんが……その影響か直後に中将氏は民間の研究機関を辞め、軍からの招聘に応じるまで長らく音信不通だったそうです」
時雨「瀕死の、娘……」
時雨「……」
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『健常者と身体障碍、脳死などで分けた場合、健常の方が成功率は31.4%程高く――』
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中将『戦船の魂という大いなる存在を収めるには人工物などでは到底不可能な話。つまりは器となる存在が重要だったのだよ』
中将『その結果考案されたのが人間を器とした兵器の開発。お前たち艦娘の原型となる研究が始まったのだ』
~~~~~~~~~~~~
中将『唯一救いと言えるのは、脳死や重篤な障碍を持つ者でも艦娘として適合すれば新たに健常な生を受けられるということ……。その場合は未来を与えられると言える』
~~~~~~~~~~~~
中将『電……私の、愛しい愛しい電……この子の為に私は、他の全てを捨てた』
~~~~~~~~~~~~
時雨「そうか……あの人が、あれほど電に執着していたのは……」
時雨「あの電は……中将の娘だったんだ」
提督「艦娘が誕生した経緯。生きた人間を器にする研究という話を、時雨たちからの報告で知った時は言葉を失ったが……」
時雨「……中将は艦娘として適合すれば新たに健常な生を得られる。って言っていた」
時雨「あの人は……自分の娘を救うために……」
提督「瀕死の娘を生き永らえさせるため。娘を艦娘の器に使い、艦娘として蘇らせようとした」
提督「その結果誕生したのが、時雨たちの言っていた艦娘『電』だった……ということだな?」
時雨「……」コクリ
大淀「では、中将氏が艦娘を生み出す過程で、人間を器にするという狂気的な理論を提案したのは……」
提督「あるいは中将氏が艦娘の開発に協力した理由も、最初からそれが目的だったとも考えられるな」
提督「病を患い、現在の医学では救うことの出来ない娘の命を救う……それこそが中将氏の目的だったのかもしれない」
提督「しかし中将氏の娘が艦娘として蘇っても、それはあくまで艦娘……。彼の娘ではなかったはずだ」
時雨「うん……。あの鎮守府跡に残されていた電の日記とかをみても、彼女は艦娘の電だった。器になった中将の娘の記憶は持ち合わせていなかったんだ」
時雨「でも……それでも中将は電の事を愛して、傍に置いていたんだ」
時雨「自分の娘の生まれ変わりともいうべき存在として」
大淀「……」
提督「……そういえば、時雨たちが持ち帰ってくれた資料の中に『人間を器にした艦娘』に関するものもあったが」
提督「それによると、本物の人間が器になっている艦娘は器が何らかの影響を与えるのか、時として意識や人格が不安定になる等の不具合的な特徴が確認されていたらしいが」
時雨「……器の影響」
時雨(だとしたら……あの日記の違和感は……)
時雨(もしかしたら……電の中には、まだ残っていた?)
時雨(電としての意識以外にも、別の……中将の娘としての記憶が……)
提督「いずれにせよ、全ては消えてしまった。今となっては中将氏とその娘、そして電の関係……その真相は闇の中だ」
時雨「……もしかしたら……中将提督がああなってしまったのは……」
時雨「あの人が、艦娘と深海棲艦の関係……それを知ってあそこまで狂気に憑りつかれたのも、電という存在の為だったのかもしれない」
提督「……」
時雨「僕たち艦娘の正体と運命……。娘を助けるために行ったことが、結果的にさらに過酷な運命に娘を投じる形になってしまった」
時雨「だから中将提督は……あの人なりに、娘を……電を救おうとしたんじゃないかな……」
提督「中将氏が唱えた、艦娘と深海棲艦は同一の存在。という話か」
時雨「…………」
時雨「……提督はどう思う? この戦争の行く末と、僕たち艦娘の運命を」
時雨「僕たちも薄々感じてた……深海棲艦って一体何なのか。僕たちはどうして戦うのか、って」
提督「……」
時雨「僕たちは、何のために戦っているんだろう……このまま戦い続けて、その先には本当に終わりがあるの?」
時雨「あの人が言っていたように、僕たちの力が、抵抗が限界に達して……全滅し滅亡する形が唯一の終わり」
時雨「それが僕たち艦娘の運命なの……? 命を懸けて戦い続けた先に待っているのは、そんな暗い未来だけだっていうの……」
大淀「……」
提督「……時雨が持ち帰ってくれた資料の中に、こんな物が混ざっていた」バサッ
時雨「……これって、手記?」
提督「中将氏が書いたと思われる手記の一部だ。彼が唱えていた深海棲艦という存在の正体。それに関する考察を書き記したものと思われるが」
時雨「内容を見ても?」
提督「もちろん。構わないよ」
時雨「……」ペラッ
『本来ならば科学者として、このような非科学的な説を唱えるのはおかしな話かもしれない。』
『しかし、深海棲艦の研究を進めていく中で、負の力という因子の存在はもはや否定しえない事実であると認めざるを得ない。』
『深海棲艦を形作る「負の力」。人智を超えたこの力は、万物に宿る魂や生ける生命。それらが死を迎える間際に抱く未練や絶望、憎悪、生への執着といった負の感情が具現化したものと考えられる。』
『この強力な負の感情こそ、深海棲艦の異常な憎悪と攻撃性の要因になっていると思われる。』
『では何故これほど強力な負の感情が海の底にあるのか? その理由は嘗てあった大戦が原因であると考えられる。』
『過去にこの海で繰り広げられた大きな戦争。その戦いの中で犠牲となった多くの人間。彼らが抱いたであろう負の感情。そして魂を宿した艦艇たちの声無き想い。』
『彼らの悲痛な叫びと無念。あるいは怨念ともいうべき意思が今も暗い海の底に渦巻き、強力な負の源泉となっているとしたら。』
『そうした負が暗い海の底で長い年月を経て増幅され、やがて具現化された力が海の底で眠っていた人や艦艇たちの魂と結びついて誕生したモノ。それが深海棲艦の正体であるというのが私が至った結論だ。』
『深海棲艦が艦艇の姿であることに加え、艦娘の力の源になっている在りし日の戦船の魂。これらが全て、嘗ての大戦に纏わる船であることが何よりの根拠であろう。』
『深海棲艦とは、大戦で犠牲になった人間と沈んだ艦艇。それらの怨念が形となり甦った過去の亡霊。』
『過去の怨念や憎悪に駆られ、我々人類への復讐を果たすこと……それが奴らの目的であろう。』
『我々人類に破滅をもたらすこの存在を討ち倒すには、奴らを形作る負の力。これをどう取り払うかが最大の鍵となるだろう……』
時雨「…………過去の亡霊」
提督「深海棲艦を形作る負の存在。その正体は嘗ての大戦で犠牲になった者達の思念……」
提督「……正直私も、この推論はおそらく正しい。深海棲艦の正体について、限りなく真相に迫ったものだろうと思う」
時雨「じゃあ、提督も……」
提督「いや待て。確かにこの推論の一部は肯定する。だが全てとは言っていない」
提督「深海棲艦の正体が怨念によって生まれた亡霊……私はこれが深海棲艦という存在の全てだとは思えないんだ」
時雨「なら提督は、深海棲艦っていう存在をどう考えているの?」
提督「……中将氏は深海棲艦の目的が『人類への復讐と破滅をもたらすこと』と断じていたが、私はその逆ではないかと思う」
時雨「逆?」
提督「彼女たちが破滅をもたらすのではなく、『破滅への道を進もうとしている人類に警告』している……。それが深海棲艦という存在なのではないか?」
時雨「深海棲艦が、僕たちに警告……?」
大淀「どういうことですか、提督」
提督「……私は常々思っていた。深海棲艦が過去の亡霊なら、なぜ今この世に現れた?」
提督「大戦から長い年月が経ち、世界は完全ではなくともある程度の平穏を得ていた。そんな折に深海棲艦は現れた」
提督「私はこれが深海棲艦という存在を窺い知る重要なファクターだと思う」
提督「以前、ある深海棲艦が言っていた言葉で、今も頭から離れないものがある」
提督「『何度でも繰り返す。変わらない限り……』。私はこの言葉に強い意思を感じた。憎悪や怨念などではなく、もっと明確な……我々へのメッセージのようなものを」
大淀「メッセージ……」
時雨「……つまり、僕たちはあの大戦から何も学んでいない。変わっていない、と?」
提督「……ここから先は私の想像。私なりの解釈だが」
提督「過去の大戦を経て人類は平穏を掴み、平和を享受するようになった」
提督「しかしそれと同時に、いつしか人々は忘れてしまったんだ。その平穏の為に犠牲になった存在のことを」
提督「国や人を守る為に命を懸け、散っていった無数の命と魂。戦禍に巻き込まれ犠牲となった命。彼らの存在と想いと犠牲があって今の平和があるということを」
提督「それだけじゃない。長い平和は、戦いそのものを全て忌むべき悪しきものとして捉える歪んだ価値観も生み出した」
提督「あの惨禍を再び繰り返すことが無いように……そんな想いから生まれた価値観なのだろう」
提督「しかし皮肉にも、それがより一層人々の記憶から過去を遠ざけることになってしまった。人々はいつの間にか、過去から目を背ける道を選んでしまったんだ」
時雨「……」
提督「過去から目を背け、本当に考え学ぶべき事を考えず歩んできた我々の何が変わったのか? 結局我々は変わった気になっていただけで、本当は何も変わってなどいなかったのかもしれない」
提督「故に我々は、このままではいずれまた繰り返す……嘗ての悲劇よりも更に大きな惨禍を。その果てに待っているのが、人類の終焉……」
提督「深海棲艦たちはそれを伝えようとしているのではないか?」
時雨「何度でも繰り返す……変わらない限り……か」
提督「……中将氏の唱えた通り、深海棲艦の正体は過去の残滓……いや、過去そのものなんだ」
提督「過去を忘れつつある今の人類に、もう一度それを思い出させる為に甦った存在……それが彼女たち深海棲艦の、真の正体ではないかと思うんだ」
大淀「怨念に駆られた亡霊ではなく、私たちの未来の為に警告をする……それが深海棲艦の目的だと?」
提督「無論これは私個人の考えに過ぎない。確証もない今の段階では、くだらない妄想と切り捨てられても仕方のない話だ」
提督「しかし思えば私たちは、大本営の命じるまま、彼女たちを悪と定め討滅することだけを考えて行動してきた」
提督「だから彼女たち深海棲艦のことを何も知らない……。知ろうとすらしてこなかった」
時雨「……」
提督「私の考えがもしも正解に近いものだとしたら……我々は『深海棲艦という過去』から目を背けず、向き合う必要があるのかもしれない」
提督「今まで聞こうともしてこなかった彼女たちの言葉。それに耳を傾け、その想いについて考えることで初めて、変わることが出来るのではないか?」
時雨「彼女たちの、言葉を……」
提督「奇しくも国家と大本営が隠し続けてきた過ちが暴かれ、その体制が大きく変わろうとしている今こそ、我々が変わるチャンスなのかもしれない」
提督「深海棲艦との対話……講和とまではいかなくとも、彼女たちとの向き合い方を再考し、新しいアプローチを試みる価値は十分にあるはずだ」
提督「深海棲艦を形作るという負……。これについても中将氏が残した研究の資料に基づくなら、我々の行動如何でそれを取り払うことが出来るかもしれない」
時雨「それが……僕たち艦娘の未来に繋がる新しい希望……」
提督「これだけじゃない。まだまだ方法はたくさん残っているはずだ。むしろ今までが偏った方針に傾倒し過ぎていたんだ」
提督「大本営も私たちも……そしてあの中将氏もね」
時雨「……うん」
提督「何にせよ、私たちにはまだ可能性は残されている。今話した方針を含めて、試してみるべき方策も決して少なくない。やることは山積みだ」
提督「その為には時雨たちの力が必要だ。依然として険しい道のりになるだろうが……力を貸してくれるか?」
時雨「……うん。もちろんだよ、提督」
大淀「私も、微力ですが最後まで力を尽くします」
提督「――さて、少し長話になってしまったな。これで時雨に話そうと思っていたことは全て話せた」
提督「まだ何か聞きたい事などはあるか?」
時雨「ううん、大丈夫だよ。僕も気になっていたことは解決できたと思うし、提督のおかげで不安も晴れた気がするよ」
提督「そうか……。じゃあ、もう1つ。時雨に言っておきたいことがある」
時雨「なんだい、提督?」
提督「皆を護ってくれて……生きて帰ってきてくれて本当にありがとう。これだけは直接時雨に伝えておきたくてな」
時雨「僕の力なんて些細な物だよ……。皆が居てくれたから、僕もこうして提督の元に帰ってこれたんだ」
時雨「それに皆を護ったってことなら、僕よりも吹雪に言ってあげるべきだよ。彼女がいなければ、僕も今頃はあの地で果ててたかもしれない」
提督「……時雨らしいな」ハハハ
時雨「……そういえば提督。1つだけ聞きたいことがあったんだけど、いいかな?」
提督「何だ?」
時雨「吹雪が持っていたお守り。あれのおかげで僕たちは帰ってこれた訳だけど……どうして吹雪にだけ渡してたのかな?」
時雨「僕は、提督からああいうものを貰った記憶ないんだけど?」
提督「あー……そのことか」
提督「特に深い意味があるわけではないんだが……強いて言うなら、吹雪だから。だな」
時雨「?」
提督「吹雪とは長い付き合いだが……未だに色々と危なっかしいだろ? あの子は」
時雨「あぁ……まあ、確かにそうかもね」クスッ
提督「本当は艦隊の全員に渡してあげたいんだが、いかんせん中身の数が足りないからな……」
時雨「だから、危なっかしくて提督も心配で仕方ない吹雪に?」
提督「色々含みがあるのが気になるが……まあ、そういうことだ」
時雨「ふふっ……ま、そういうことにしておくよ」
時雨「それじゃあ、最後の疑問も晴れたことだし。そろそろ失礼しようかな」
提督「ああ。これ以上時雨を拘束してると山城辺りが艤装をつけて乗りこんできそうだしな」
時雨「山城なら本当にやりそうだね」
提督「それだけ心配してたってことさ。――さて、わざわざ呼び出したりしてすまなかった。今度こそしばらくの休暇を与えるからゆっくり休んでくれ」
時雨「うん。お言葉に甘えさせてもらうよ。じゃあ提督、大淀さん。失礼するね」
大淀「身体に気をつけて、ゆっくり休んでくださいね」
提督「……そうだ。最後に1つだけ、まだ言ってなかったことがあったな」
時雨「えっ?」
提督「おかえり。時雨」
時雨「……うん」
時雨「ただいま。提督」
【True End】
半年以上、というかほぼ1年近く長々とお付き合い頂きありがとうございました
これでこのSSは完結となります。散々待たせてこんなオチかよという批判があれば甘んじて受けますです…
一応物語内の謎に関して大部分は明らかに出来たはずですが、もし疑問点などがあればお答えします
最後に、本SSにお付き合い頂いた方々に心からの感謝を
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです
乙、楽しませて貰ったよ
ちなみになんだけど…例の鎮守府唯一の生存者って誰とか決めてたりしてる?
>>513
生き残った艦娘に関しては明確に決めてあります
作中ではあえて個人名は明かしませんでしたが、それを匂わす描写だけは少し残したつもりです
一番の問題は次回作の有無
まとめで完結してたこと知ったけど、とりあえず乙
ところで見落としかもしれんが
本庁舎の入り口が内側から針金で封じられてた謎って触れられた?
鎮守府にいた艦娘が終末計画?で消し去られたならそんなことする理由がわからないし、する暇もないはず
ここがかなり気になってたんで教えてほしい
>>1
完結乙。楽しかったよ
次回があったらまた参加したいな
ちょっと気になったのは蔵書室で呉軍港の歴史って本にアンノウンについてのメモが挟まってたのは何でなん?
あと漂着した腐乱死体っていうのは全然関係ない人のだったの?
まぁただの忘れ物とか運悪く深海棲艦に襲われた民間人とかだったらそれまでなんだけど
>>521
やはり指摘があったので正直にお答えします
本庁舎の正面入口の封鎖についてですが、
作中で描写の入れ忘れをやらかしてしまい、最後まで触れないまま終わらせてしまいました
本来の予定では、
実は時雨たちが来る前に別の艦娘数人があの鎮守府に迷い込んでおり、
扉の封鎖や本庁舎内の一部の乱れはその艦娘たちが行った。という設定でした
その艦娘たちは鎮守府の探索中に怪物A(少将)によって襲われ、本庁舎に逃げ込み正面入口と東側出入口を封鎖。
しかし結局逃げ切ることが出来ず、最後の1人が本庁舎のトイレに逃げ込んだのちその場で怪物によって止めを刺されました
トイレの個室内に東側出入口の鍵が落ちていたのは、その艦娘が落としたから。
鍵のあった個室の床が妙に汚れていたのも、そこで襲われたことを示す伏線にする予定でした
そして本来なら、鍵の落ちていた個室のドアの内側に「その艦娘が残したメッセージ」が記されているのを時雨が見つけるはずだったのですが、
その描写を入れ忘れてしまい、その後に描写し直すことも難しかったのでお蔵入りにしてしまいました
私が把握してる中でも最大のミスです…申し訳ありません
>>519
次回作の予定はないですね。書くとしてもたぶんもう長編は無理です…
>>523
蔵書室にあったメモの正体は、青葉の取材メモです
取材で得た情報を走り書きしたメモの一部が偶然あの場所に残っていたという設定でした
ちなみに呉軍港の本ということには特に深い意味はなく、
呉軍港=そこと縁のある青葉 で、そのメモが青葉の物であることを暗に示そうとしただけでした
腐乱死体について
あれは元々、見つかった死体は中将のもので彼は既に死んでいる。という可能性に誘導するためのものでした
死体については書類の記述にもあったとおり、戦いで撃破された深海棲艦か艦娘の残骸などのいずれかが正体です
>>524
おお、回答サンクス
入れ忘れたっていう描写もできれば知りたかったり・・・
質問続きで悪いけどもう一つだけ
選ばれずに終わったBadEndとか未回収のアイテムとかはあったの?
見ることなく終わった独房の残り5/6のバッドの内容も気になるのう、ギギギ…
サウンドノベルやゲームブックではバッドエンドも気になるんじゃあ
話に登場した文書をすべて読みたいです…
読めなくなる前の文書の設定とかってあるんですか?
>>529
まず、没にした話についてですが、
東側出入口の鍵があった個室の壁に
『わたしたち とんで ない 迷い込 し った』
『わたした 食べ 怪物 はじめに われた の姿になって けてきた』
『怪物におわれてこの ものににげ込んだ 入り口もむりや とじてだれも に入ってこれ よ にしたのにあいつ 入ってきた』
『 ともはぐ て1人ここに だけどもうだめ あいつ くる』
という走り書き(時雨たちの前に廃鎮守府に迷い込み全滅した艦娘の1人が書いたもの)があるのを時雨が見つける予定でした
これにより怪物の正体や目的に関するヒントと伏線にするはずだったんですが、
時雨が鍵を見つけるシーンで描写し忘れてしまい、
なおかつ次に本庁舎にくるときには怪物の正体は判明してしまっていて再描写も難しかったので没にしました
Badendについて
作中に設置したBadendは結構多いので全部の解説は遠慮させてもらいますが、
最初の吹雪ルート最初の行動で『演習場』にいくと怪物に襲われBad
時雨ルートでは、庁舎内を徘徊し始めた怪物と遭遇してしまうと1度目は回避できますが、
怪物に時雨たちの存在を認識されてしまい、次から怪物が部屋に隠れるなどの行動が追加されます。
そこで怪物が潜んでいる部屋を選択してしまうと奇襲を受けてBad
初霜ルートでは冷凍室の事故endの他、独房での即死罠などが設定として用意していました
未回収のアイテムについて
重要なアイテムはすべて回収済みで終わりましたが、
一部日記など攻略には必要ないアイテム類はいくつか未発見のまま終わった物もあります
その大半は艦娘の寮の各部屋に配置されており、金剛や赤城、響などの手記や日記が設定としては用意されていました
>>530
初霜ルートでの独房の選択肢の内訳は
独房1 :当たり 収容者のメモ発見
独房2 5 6:ハズレ 何もなし。他の独房再選択へ
独房3 4 :即死 中にいた怪物(個体BとC)に襲われBadend
でした
独房の中にいたのは初霜たちと入れ替わっていた個体BとCです
彼女たちが入っている独房を選んでしまうとその場で即Badendになっていました
>>531
登場した文章資料の類はすべて元の文を作ってから重要個所を虫食いにしていたので設定上は残ってます
ただ、一部は最初から虫食いのまま(細かい設定はしていなかった部分等)の文もあり、
途中で虫食いにしたまま間違えて上書き保存してしまい、元の文を忘れてしまったものなどもあります…
全部は多いので、虫食い個所を特に多くしてしまった資料を抜粋します
・実験記録E-5 (実験室)
『13´12.17』
『この日は3名の健常な艦娘に対する「深海棲艦細胞移植実験」を実行。その経過観察と結果について記載。』
『検体A:腹部に戦艦ル級の細胞を移植 検体B:左上腕部に空母ヲ級の細胞を移植。 検体C:深海棲艦のDNAから生成した試製α11を注射により体内に投与。』
『経過観察においては、より正確な観察の為にβⅢ型は用いず、検体の自我を残したうえで観察を行った。』
『 術後6時間を経過したところで、2体の検体(AB)は一様に移植箇所の激痛を訴え始め、絶え間ない絶叫や自傷行為を始める。』
『この時点から検体A、Bには移植箇所周辺の侵食現象(深海化)が見受けられ、特に検体Aの侵食は著しく早い。』
『検体Cに関しては、身体への深海化は見受けられないが精神汚染が進行しているものと見られ、異常行動や発狂、錯乱などの他、幻覚症状も出ていると推測される。』
『 術後17時間が経過すると、検体Aは身体の7割が深海化し、精神面でも自我を喪失。周囲に対する激しい攻撃衝動が確認された。』
『検体Bは細胞を移植した左上腕部を中心に左腕全体と左胸付近までの深海化が確認されたが、それ以降の深海化は著しく遅い。』
『施術箇所による違いとも考えられるが、それ以外にも検体自身が深海化に対して抵抗している様子が見受けられ、個体による適性が存在する可能性も否定できない。』
『 術後24時間経過時点で、検体Aは完全に深海化。検体Bも一部に艦娘の痕跡を残しているものの精神は完全に深海化した。』
『検体Cのみ、術後13時間経過後から一切の反応を示さなくなり、生命活動は停止していないが精神が破壊され廃人と化した。』
『この検体のみ身体の深海化は見受けられなかったが、実験後の生体解剖の結果、内部に未知の変質現象が起こっている事が発覚した。』
『以上の実験結果を基に、今後の研究指針を×××の××に着目した××××××とする。』
・作戦ファイル:特殊弾特効実証実験 結果報告 (開発室)
『特殊弾特効実証実験 結果報告』
『5回目となるこの実験では、先の実験によって得られた××××に関する仮説を基に試作した特殊弾の効能試験を目的とし、』
『「γ-8号弾」を特別任務部隊として編成した艦隊の戦艦に搭載し、××海域××××点での交戦で使用。実証実験が行われた。』
『結果は、観測班として秘かに派遣し本艦隊から離れた位置にいた艦娘1名を除く敵味方全艦が消滅する結果となった。』
『特殊弾による効果範囲は当初の予測よりも広大に及ぶとみられ、生き残った観測班の艦娘も帰還直後から身体の不調を訴え、』
『翌02:00(実験12時間後)に容体が急変し死亡した。』
『この艦娘の遺体を解剖し検死した結果、艦娘を構成する細胞組織に重大な破壊が生じていることを確認。』
『特殊弾の効能が理論通りに作用した事を証明する結果となった。』
『しかし、艦娘を巻き込んだ事を除けば、深海棲艦に対する特効は極めて高いといえ、実験としては成功と結論付けて良いだろう。』
『さらに興味深いことに、帰還後に死亡した艦娘の解剖の際、人間としての細胞にも未知の変化が見受けられることが確認された。』
『この詳細に関しては別の研究報告に記載する。』
・深海棲艦細胞に関する記録 (検体保管室)
『採取した深海棲艦の細胞はまさに神秘の結晶。我々人類が長く知り得なかった全く未知の情報が無数に詰まっている。』
『これら深海細胞が持つ強力な力は、深海棲艦が持つ因子である強力な「負」が関係していると思われ、以降これを「負の力」と呼称する。』
『深海細胞は我々の常識を遥かに超越した能力を持ち、一部は自然をも捻じ曲げる程の力を持つ。これを完全に解析することは今の科学では不可能と言わざるを得ない。』
『しかし、既にこの細胞を用いた一部の実験では一定の成果を挙げることに成功しており、深海細胞を基に生成した試作品の開発と研究も順調である。』
『当初の目的である「深海棲艦に対する特効」に関しても、先日この細胞を素に生成した試作γ17が深海細胞に対して強力な破壊効果を発揮することが確認された。』
『打ち破れぬ盾を破壊するには、盾を形成する物質を調べそれと同じ物を用いた矛を作ればいい。』
『暴論に近い無謀な賭けであったが、神は私の味方をしてくれているようだ。神といっても死神かもしれないが……』
古びた手記 (オフィス)
『夢を見た。一昨日使った少女の夢だ。』
『あの子は健常組としてここに連れてこられた子供の1人。おそらく孤児だったのだろうが、こんなところに相応しくないほど明るく屈託のない子だった。』
『私のことを先生と呼び、健康診断と称した適性検査のときにも他の子供たちとは違い心の底から私のことを慕ってくれているようだった。』
『そんな子を実験に使い、死ぬより辛い苦しみを負わせ、そして殺してしまった。』
『実験の日。施設に連れて行くためにあの子を呼んだときの、私を信頼しきった疑いの欠片も感じさせない笑顔が今も頭から離れない。』
『数時間後。自分が実験に使われるということを知ったあの子の怯えた顔、私に助けを求める顔、実験が始まってあの子の命が尽きるまで響き続けた悲鳴と助けを求める声が今も頭から離れない。』
『実験が終わり、物言わぬ無残な死体に変わり果てたあの子の、苦しみに歪んだまま固まった顔が今も頭から離れない。』
『僅かなデータと引き替えに失われたあの子の……いや、それ以前の子たちも含めた無数の命。それらを奪った張本人である私に非難する権利などないことはわかっている。』
『私に出来ることは、一刻も早く研究を完成させて、これ以上の犠牲を生まないようにすることしか出来ない。』
『国家の為とはいえ、我々は決して許されない罪を犯してしまった。』
『血に塗れたこの悪魔の研究が生み出す結果は、果たしてこの国の希望となるのか、それとも……』
・前任提督の日記 (オフィス)
『我々が行ってきたことは果たして正しいことだったのか? 初めて実験を行ったあの日から考え続けていることだが、未だ結論は出ない。』
『研究の為に、実験の為に、多くの子供を殺してきた事は逃れようの無い事実だが、』
『同時に我々は、死ぬはずだった子供たちを蘇らせることに成功したともいえる。』
『今では開発資材の導入によって、少女を器として使用する必要はなくなった。』
『故に多くの人間が知らないままに艦娘たちを運用している。彼女たちが生まれるまでにどれほどの犠牲が払われたかを。』
『この秘密は恐らく一生明るみに出ることはない。彼女たちの犠牲は時と共に歴史の闇の中に埋もれて消えていくのだろう。』
『果たしてそれが良いことなのか……その答えが出ることは恐らくないだろう。』
『仮に私が良心に訴えて、この秘密を世に知らしめようとしても、大本営がそれを許さないだろう。この秘密が明るみに出ることを誰よりも恐れているのは彼らなのだから。』
『何より私は、××の為にこの禁忌に手を出したのだ。その結果として××を救えたのだから、後悔などありえない話か。』
『我々の罪。そして受けるべき罰がわかるのは恐らくあの世に行ってからだろう。』
『今となっては生き残りは私だけになってしまったが、他の連中はあの世でどのような沙汰を受けているのだろうか?』
『死んでいったあの子たちに詰め寄られ、恨まれ、あの子たちが受けた苦しみと同じ目に遭わされているだろうか。』
『いや、あの子たちが行くべき先は天国。我々が行くであろう地獄とは別の場所になるだろう。きっと会うことはない……』
『信じられない。我々が行ってきたことは一体何だったというのだ!?』
『元からおかしいとは思っていた。時が経つにつれて新たに確認されていく新型の深海棲艦。よもやと思い調べてみたが、まさかこんな……』
『極めつけは大本営だ。この調査結果を早急に知らせたにもかかわらず、その回答は現状維持だと? ふざけるな!』
『奴らは気付いていたのだ。この戦争が決して終わることのないループの中にあるということを。戦場で倒れ沈んで行く艦娘たちが全くの犬死であることを!』
『奴らは認められないのだ。自分たちが莫大な予算を投じると共に、歴史の暗部になる程の非人道的な実験まで行って生み出された「艦娘」が、』
『戦争を終わらせることができないどころか、この戦争をより混迷化させているという事実が発覚することを、恐れているのだ。』
『それでは我々が行ってきたことは何だったのだ……この戦争の為に失われていったあの子たちの命は、何だったというのだ!?』
『なにより、私の××は…… 私はあの子を、死よりも辛い輪廻の中に送りこんでしまったというのか……』
『なぜ気付かなかったのだろう。答えは簡単ではないか』
『敵はすべて滅ぼせばいい。最後の一体まで根絶やしにするその時まで……滅ぼすことは人間の得意技ではないか。』
『だがその為にはまだ何もかもが足りない。まずは研究を進めていく必要があるだろう。』
『大本営の愚か者共は、この事を知れば間違いなく妨害を企てるだろう。奴らは××で××××××だから。』
『私の邪魔をするならば、すべてが敵だ。深海棲艦もろとも消し去ってやればいい。』
『必ずやり遂げて見せる。××を、こんな腐った輪廻の中から救い出すために……』
※ここの一部××には中将の娘の名前が入ります
・作戦ファイル:終末計画 (オフィス)
『ついに通告がきた。これ以上調査に進展が見られない場合、任を解任し新たな手段を講じるとのこと。』
『少将を使い、今まで可能な限りの引き伸ばしを図ってきたが、もう限界だ。』
『もはや大本営の本格的な調査隊が派遣されてくるのは時間の問題だろう。』
『研究はあと1歩という所まできているというのに……時間がない。』
『こうなってしまっては、もはや手段を選び良心の呵責に苛まれる暇もない。』
『「終末計画」を実行する時がきたのだ。』
『何があってもこの研究を大本営に知られる訳にはいかない。』
『終わることの無い戦いを終わらせる為に、艦娘たちを知らされることの無い絶望の運命から救う為に、』
『そして何よりも大切な××の為に。』
『より大きな善の為に……犠牲は必要不可欠なのだ。』
『最終判断は大本営による通告期限が過ぎる3月を目途に判断する。』
『既にこれまでの実験結果から、計画に使用する試製×××××の効力は実証済みだ。』
『計画が実行されれば、間違いなく鎮守府にいる艦娘ごと地上の痕跡全てを消し去ることが出来る。』
『死の光を浴び、廃墟と化した鎮守府の様相を見れば、大本営の連中の目も欺けるだろう。』
『無論そう簡単にはいかないかもしれない。しかし、最後の研究が完成するまでの時間さえ稼ぐことが出来れば、それでいい。』
『願わくば、この計画が実行に移されることがないことを……』
・手記の切れ端 (工廠の隠し部屋)
『大本営の疑惑の目が強まってきた。』
『少将を使い偽の報告を上げることで奴らの目を逸らす予定だったが、大きく予定が狂った。』
『私の死を確信させる為に偽の死体まで用意したが失敗に終わった。予想以上に奴らは神経質になっているようだ。』
『このままでは、奴らは新たな守り人となる人材を送ってくるか、それとも本格的な調査にまで乗り出してくるかもしれない。』
『研究の完成にはどうやってもあと数年はかかる。それまでこの事を隠し通すのはもはや不可能か。』
『最悪の事態に備えて新たな手段を考えておく必要がある。』
『少々強引だがつい最近完成した試作品を使う手もある。だが、その場合は鎮守府の艦娘たちを犠牲にすることに』
・報告書の写し:身元不明の遺体 (入渠ドック内の手術室)
『先週、鎮守府東の海岸に漂着しているのを発見された身元不明の遺体に関する検死結果について報告します。』
『遺体は人間の年齢にして10代~50代と推定。腐乱と損壊が激しく、当施設の設備では年齢特定及び性別に関する特定は不可能。』
『遺体からは人間のDNAと深海棲艦固有のDNAが検出されましたが、漂着場所付近に多数の深海棲艦の残骸も流れ着いていた為、』
『検出されたDNAからこの遺体が人間か艦娘か深海棲艦かを特定することは極めて困難であると結論。』
『なお、この遺体は少将提督の命令により××××××』
『××××年1×月 ×××××』
だいたいこんな感じです
序盤に出した虫食い個所多めな文章を忘れてたのでそれも
・ある艦娘の手記 (本庁舎 通信室)
『近頃の提督の行動はあまりにも行き過ぎている。任務以外の鎮守府内での自由行動を全面的に禁止するなど、どう考えても異常だ。』
『先月に少将提督が着任されて以降、鎮守府の軍紀の是正と称して様々な規定や制約が加えられてきた。』
『正直そのどれもが行き過ぎていると感じつつも、上官の命である為に口を噤んできたが、今回ばかりはそうも言っていられない。深刻な事態だ。』
『あの方が派遣されてきた経緯から察するに、ある程度の横暴も見逃されているのであろうが、それにも限度はある。』
『あの方は気付いていないのか……いや、気付きながらも気にしていないのかもしれないが、ここ最近の鎮守府の空気は最悪なものになってきている。』
『特に戦艦組や空母組、一部の重巡たちの不満と不信感は頂点に達しつつある。このままでは、いつ最悪の事態が起こるかもわからない。艦隊の運用どころではない状態だ。』
『毎日戦場に駆り出され、命を削って戦っている彼女たちが唯一安らげる場所がこの鎮守府であるというのに。その安らぎすら奪われた今の状況がどれだけ悲惨なものか。』
『私たちは戦う為の兵器。そんなことはわかっている。だけど私たちには感情がある。兵器としてだけではなく艦娘として生きている生き物なのに……』
『或いはどれだけ自由は縛っても、抗命罪や反抗罪と称して解体処分や折檻などの懲罰措置が執られないだけマシなのだろうか?』
『いや、他の皆さんからすれば、今のような自由の無い生活を強いられるくらいなら、いっそ解体されるか戦場で沈んだ方が良い。と言われるかもしれない……』
『私も出来る範囲で大本営に今の鎮守府の状況を伝えてはいるが、彼をここに派遣してきたのは他ならぬ大本営であることを考えても、今の状況が是正される希望は薄いだろう。』
『それどころか最近では大本営からも提督に対する要望を山のように浴びせられ、さらに提督からはその対応を丸投げされているのだから堪ったものではない。』
『厳しい規定のせいで、最近では仕事が終わった後に明石たちと酒会をすることも出来ないのが辛い。』
『こんな毎日が一体いつまで続くのだろうか……ああ、本当に胃が痛い』
・少将の手記
『9月12日』
『未だに失踪した中将司令官に関する情報は得られていない。』
『大本営からはあの男の生死の確認を厳命されているから、どんな形であれ何らかの痕跡を探さねばならないが厳しい状況だ。』
『それと同時にあの男が行っていた研究の調査と、その抹消を行わなければならないのだが、未だにその手掛かりすら掴めていない事も問題だ。』
『この鎮守府のどこかにあるはずの実験施設もまだ見つかっていない。あの施設の存在やそれに関する全ての情報は、既にあの男以外に知る者は生きていないことは知っていたが、』
『まさか何の手掛かりも残っていないとは……。あの男が失踪したことで、あれに関する情報も闇の中に消えてしまったということか。』
『しかしそれでは大本営は納得しないだろう。彼らはあの秘密を表ざたにさせない為に、是が非でも安心できるという情報が必要なのだ』
『彼らが必死に隠そうとしているものを隠すためにそれを捜索する。なんという皮肉だろうか。』
『大本営からは再三の探索と報告を求められているが、果たしてどうしたものか……』
・極秘命令書1 (執務室)
『深海棲艦の研究調査の為、海域で交戦した際、下記の深海棲艦は鹵獲もしくは撃破した残骸を可能な限り回収するよう命じる』
『空母ヲ級(elite、flagship個体)、戦艦ル級(elite、flagship個体)、駆逐後期型(flagship個体)』
『10×24日 ××艦隊司令××××××』
・極秘命令書2 (執務室 ゴミ箱)
『以下について至急報告せよ』
『1.中将の死亡を裏付ける確たる証拠の提出』
『2.中将が行っていたと思われる研究の調査結果の続報』
『3.上記2に関する研究結果及び情報の抹消は順調か?』
『4.前回の報告で未だ未発見とされていた地下研究施設は発見できたか?』
『以上4点について、×××××を回答期日とし至急報告せよ』
『2014年1月××日 大×× ××××り』
保管庫の積まれたドラム缶の先にある隠し部屋には没ネタがあるんかな
地上で不審な部屋だったからなぁ
先ほどまとめサイトで知って一気読みさせてもらいました。
とても面白かったです。長期連載お疲れさまでした!
んで気になったんですが、怪物A~Cってこれまで元中将と出くわしたときに何もしなかったんでしょうか?
カードキーがなければ開かない特区はともかく、通路で長年一度も鉢合わせしなかったとは思えないので。
彼らを造り出してから中将が特区にずっといたのか、それともかつて少将に使った言いなりにする薬を投与して自身には危害を加えないようにでもなってたのか……
作中に記述があったのに私が見落としてただけかもしれませんが、お答えいただけると嬉しいです。
>>541
仰るとおり、実はあの場所も初期設定を没にした部分です
初期設定では中将提督が裏で行っていた研究に関する資料等が保管されている『裏保管庫』のような場所にする予定でした
しかし途中で設定を変更し、資料類はすべて地下施設に分散して配置する代わりに、
あの場所には地下施設へのもう1つの入り口を設ける予定でした。しかし施設の複雑化を考慮し結果的には没にしてしまいました
こうしてみるとかなり穴だらけなプロットです…
>>542
推理描写にスランプってた結果完結が延びに延びただけなので連載なんて仰々しいものではとても…
怪物と中将提督についてですが、
まず怪物BC(中将が作った個体)は、試作β型薬品(対象の見た目そのままに自我を奪いコントロールできる薬)によって中将の管理下に置かれていました
管理下に入った怪物BCは独房に入れられ、主に地下施設への侵入者や、捕えた艦娘の脱走に対処する役目を帯びていました
怪物A(少将の成れの果て)については、中将の管理下にいたわけではなく野生の状態で地上に放置されていました
怪物BCは中将に与えられた役目に従い侵入者の捕獲か抹殺の為に行動
怪物Aは中将の命令などは関係なく、本能のままに鎮守府跡を彷徨いながら迷い込んだ獲物を襲撃していた
という感じです
まとめサイトから来ました、作者様乙です
まとめサイトの方で出てた疑問なのですが
1、鎮守府が数年にしては異常に崩壊しているが理由は有るのか(終末計画?)
2、検体B、Cが夕立と初霜を殺さなかった理由
3、一部登場してたアンノウンは誰なのか?
可能な範囲でいいので回答貰えたら幸いです
>>545
『1、鎮守府が異常に崩壊している理由』
これは終末計画に用いられた試作兵器(中将が作っていた兵器)によるものです
改めて見直すと作中での説明がかなり雑になってしまっており、説明しきれていない部分があったのでこの場で補足しますと、
試作兵器の効能には「深海細胞を素にした生物兵器による深海棲艦や艦娘・人間への強力な細胞破壊効果」の他に「深海細胞が持つ負の力による未知の影響」というものがある設定でした
地下施設の『検体保管室』にあった『深海棲艦細胞に関する記録』という資料内で、負の力には自然の摂理をも捻じ曲げる力があることを触れていましたが、
この未知の作用というものの正体は「万物の急速な劣化」でした
設定上では、上記した細胞破壊効果というのも実は「負の力によって細胞が急速に劣化し破壊に至る」というもので、これは生物以外の無機物にも同様に作用する設定でした
簡単に言うと、この「負の力という存在の影響で鎮守府の建物や周囲の植物などが急速に劣化し廃墟と化した」のが廃墟化の理由です
ついでに言うと、物語冒頭で吹雪たちが巻き込まれた渦潮や電探の異常もこの試作兵器による影響が原因という裏設定がありました
物語開始前に1回中将は試作兵器の実験を行っており、その影響で渦潮や電探の異常が発生し吹雪たちはあの島に迷い込むことになりました
艦娘の寮が獣に襲われた痕跡があったにも拘らず、作中で獣や鳥が出てこないのも直前の実験によって消滅していたから。という伏線にする予定でした
ノーマルエンドで島を脱出する際に電探が回復したのは、吹雪たちが島を脱出した直後に2度目の実験(地下で中将が言っていた完成品を使った最終試験)が行われ、その影響を受けたから。という理由もありました(不知火が欠けたBadendのラストにあった爆弾がさく裂する描写もこの2度目の実験です)
『2、検体B、Cが夕立と初霜を殺さなかった理由』
これは中将の管理下に置かれていた個体BCが、地下への侵入者や実験用艦娘の脱走に対処するべく殺害よりも捕獲を優先するよう命じられていた為です
個体BCは殺害<捕獲寄りの思考を持っているという設定で、その思考に基づいて2人やその後に合流した時雨たちをも生け捕りにしようとしていた為、すぐには殺さなかったというわけです
捕えられた初霜と夕立は時雨たちによって発見されなければ、中将の実験に使われる最期になるという裏設定もありました
『3、一部登場してたアンノウンは誰なのか?』
アンノウンの正体は上記の個体BCです
中将の研究には艦娘以外にも深海棲艦の検体も必要になるため、それを入手するために管理下に置かれた個体BCが外で任務に当たっていた。
それを偶然地上の艦娘たちが目撃し噂になったのがアンノウンの正体です
また、アンノウンや個体BC、艦娘の寮で名前が消えていた(除籍された)艦娘の個人名についてあまり触れていないのは、
犠牲となる艦娘を明確にし過ぎると、その艦娘が好きな方に不快感を与えると思い、できる限り個人名の描写は避けました
その弊害で色々と疑問点が生まれてしまいました
質問にあったこれら3点は設定も複雑にし過ぎたうえ、
説明不足で解説も中途半端になってしまったので疑問点が多く残る形になってしまいました
完全に作者の力量不足です。申し訳ないです…
冒頭で電探が止まったのと渦潮に巻き込まれたのは偶然?
>>542 を書き込んだ者です。回答ありがとうございます。
あと、執務室の金庫の鍵を埋めて石碑を建てたのは電ってことでいいのでしょうか?
同封の手紙を見るに、このときも艦娘としての記憶と中将の娘としての記憶が混ざってるように見えます。
>>549
はい。その通りです
あの箱に入っていた手紙の全文は
『忘れません あなたたちの犠牲を どうか安らかに眠って お父さんを許してあげて』
になります
その他、随所で吹雪の頭の中に聞こえてきた声も電(中将の娘の残滓)のものです
このスレ内で当てている方がいましたが、あの声の全文は
『――巻き込んでしまって、ごめんなさい おとうさんを許してあげて……――― 』
となります
ここも若干説明不足になってしまいましたが、
中将の娘を器に生み出された艦娘「電」は、人間を器に作り出された艦娘の欠陥として「人格や意識が不安定」という側面を持っていました
日記などで登場する電は、艦娘の電としての人格が主体になっていますが、時折電とは違う意識(中将の娘の残滓)が人格に影響を与えていました
電の日記に時雨たちが感じていた違和感の正体がまさにそれで、
あの日記は初霜の考察通り、「艦娘電の意識と中将の娘の意識が日によって入り混じり不安定だったため」に、
日によっては姉妹艦たちのことを「姉妹として」、また別の日には「姉妹ではなく友人として」記述していた為に違和感のある文体になっていました
ただし、このことを中将は気付いておらず、彼は最後まで自分の愛した娘の意識が電の中にあることを知りませんでした
質問にあった手紙の文も、残っていた娘の意識が贖罪の気持ちで記したという設定でした
>>547
巻き込まれたのは偶然ですが、物語的には必然。
といったところでしょうか
だいたいの疑問には答えられた思いますので
そろそろ依頼を出してこのスレも閉じたいと思います
最後に
改めて安価に参加して下さった方、支援応援を下さった方々
そしてこのSSを読んで下さった全ての方に感謝を
初めてのSS創作でしたが最後のスランプ以外、私自身楽しみながら完結まで至ることが出来ました
拙作ではありますが、このSSを読んで楽しんで頂くことができたなら幸いです
いつかまた別の作品で御縁があれば、そのときはよろしくお願い致します
それでは
あ、一つだけ疑問に思った事が
唯一の生き残りである艦娘はどんな経路を辿って脱出・生存できたんだろう?
単に海上を進んでいたら個体BCに捕まったかもしれないし……。
中将提督の隠蔽工作後なら助かる確率の方が低そうだし……
読み直しててまた疑問が
時雨ルートで結果的に自動進行になったが運ゲー以外で見つけるヒントが無かったように見えた
吹雪ルートでの目的は補給だったが阿武隈を助けなかったら必ずバッドエンドだったのか(吹雪単独で鍵を見つけれなかったのか)がきになったので
まだ書き込めるっぽいので最後に
>>558
裏設定ですが
生き残った艦娘は、身の危険を察知して碌な装備も持たないまま脱走同然の形で鎮守府を抜けました
そのタイミングが偶然、終末計画が実行される直前だった為に追手がかかることも無いどころか
中将もその艦娘が脱走していたことには気付いていませんでした
その後は提督の説明の通り
生き残った艦娘は海上を彷徨った末、運よく味方の艦隊に保護されました
>>559
吹雪ルートのクリア条件は『燃料の補給に成功すること』でしたが、
前提条件として阿武隈と合流出来ていない限りクリアできない仕掛けになっていました
具体的には、阿武隈がいないと燃料補給に繋がる選択肢(アイテム発見や考察等)が発生せず、
何時まで経ってもクリアに向けた流れに進まないようになっていました
吹雪1人だとそのままタイムアップか怪物に襲われてBadendです
時雨ルートでの『本庁舎東側出入口の鍵』の鍵については、何度目かのバッドエンドでヒントを提示しました
ただちょっとわかりにくい形のヒントだったかもしれません
このSSまとめへのコメント
おう、つづきあくしろよ
米1
ホモはせっかち、ハッキリわかんだね
打ち切っちゃった?
頼む、続きを見させてください。
もう終わりも近そうだな
再開ンゴ
うれしいンゴ
どう見ても艦これ版アンティル・ドーンです
本当にありがとうございました
個体B・Cが夕立と初霜と入れ替わった事に気付かぬままに、
帰還を試みたBadEndって、具体的にどんな末路だったのか…?
海上で個体B・Cが残り四人を殺害するだけならまだしも、
鎮守府に帰還するまで一緒に付いてきて、その後に正体を現し、
鎮守府の艦娘や提督を皆殺しとかだと、ガチでホラーだな…。
多分だけど生き残りは青葉だと思う、青葉が持ってきたピンクのガーベラの英語とかの花言葉に感謝ってあったから。
あくまでも私の推測ですが。
エレ速のコメ欄は馬鹿とガイジばっかり
アンティルドーンかよ
神
神いいい
Twitter最近RTもいいねもされなくてつまらない
オワコン
これは良SS。懐古的だが昔流行ったゲームブックの雰囲気を感じた。かまいたちや弟切草が好きな提督なら楽しめるんじゃないかな。
このSS…(内容が)深いッ!