【モバマス】松山久美子「オナラソムリエのススメ」 (49)

明けましておめでとうございます。
一応メインはマツクミさんですがアイドルがオナラをしますので注意です。



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ぷぅ。

きらびやかなアイドルたちのたむろする346プロダクション事務所の一角で

何とも間の抜けた放屁音が鳴った。

屁主である松山久美子は表情を変える事なく、落ちた手鏡を拾い上げて机の上に戻した。

彼女の尻の向こうにはプロデューサーがいる。

しかし彼は久美子に対して眉をひそめる事なく作業を続けた。

「プロデューサー、今度のライブについてだけど……」

小室千奈美が反対側からプロデューサーに企画書を差し出す。

ここでは他のアイドルユニットとは違い、事務員すらも配置されていないため

プロデューサーと待機組のアイドルが事務員の仕事も兼ねている。

「ああ、これか」

ぷっ、ぷぶうぅ。

小室千奈美はプロデューサーの前で隠す事なく大きく弾む放屁をした。

プロデューサーはそのまま企画に目を通してなるべく千奈美を見ないように努めた。

「プロデューサーさぁん、お茶うけ、どうですかぁ?」

千奈美の後で松原沙耶がお茶と和菓子を持ってきた。

「ありがとう、沙耶」

「いいですよぉ」

ぶぶっ。

プロデューサーに背を向けた後、沙耶はややその小尻を突き出して屁をした。

プロデューサーは少し事務所内を見回して言った。

「……少し寝ていいか?」

「ええ」

アイドルたちに仕事を任せた後、プロデューサーは

年期の入った古臭い長椅子に寝転がった。

「……」

彼が寝息を立てているのを見ると

槙原志保、伊集院惠、間中美里がそれぞれ立ち上がり、彼の周りに集まった。

「誰から行く?」

「あの、私が行って良いですか? 漏れそうで……」

志保はそういうとプロデューサーの頭の上に大股で跨がり

そのショーツで隠し切れない豊かなお尻を

出来るだけ鼻に近づけるように突き出し、スカートを捲った。

「んう……!」

ぶっぶぶぶぅぅ!

涙ぐむほどの快屁を放った志保は、真っ赤になった顔を隠してその場から離れた。

朝から出そうな屁を我慢しずっと腸内で転がしていたので

思いの外大きな屁音が出てしまったようだ。

それからも所属アイドルたちは屁臭漂う部屋の中で

代わる代わる寝ているプロデューサーの顔に跨がり、その鼻先に熱のこもった屁をこいた。

「……」

プロデューサーは目を閉じたまま

アイドルたちが一通り屁を終えるのを待っていた。

起きているが、彼はこの事を笑う事も咎める事もしなかった。

それは全て、担当アイドルたちの想いの籠った屁だったからだ。

部屋はアイドルの放った天然の屁(アロマ)で満ちていた。

その匂いはドアの隙間から廊下まで漏れた。

「うわっ、またこの部屋くっっせ――っ!」

「こんな屁コキアイドルだらけのユニットなんて
 次のプロジェクトで解散させればいいのにね」

部屋の外では他部署の社員たちがそんな暴言を呟いているのが聞こえてくる。

だが、誰も放屁をやめようとしなかった。

例え屁コキアイドルの汚名を着せられようとも

彼女たちはプロデューサーを助ける一心で屁を毎日放ち続けているのだ。

(ありがとう、皆。皆の熱い屁吹(いぶき)を糧に、きっと勝ってみせるよ……!) 

「――つまり、私が、アイドルたちについて全くの無知だと?」

始まりは極めてささやかな口論だった。

美城専務は先立つ会議でアイドルたちのリストラを発表した。

アイドルが二百人に増えた346プロダクションは慢性的な人手不足で

一人のプロデューサーが十数人ものアイドルをプロデュースする事は普通だった。

アイドルグループを一括してという事ならともかく

アイドルを個別にプロデュースする人数としては業界最多の人数である。

専務はプロデューサー陣の負担とアイドルたちへの綿密な指導を徹底させるべく

今いるアイドルの人数を段階的に三分の二に減らし

プロデューサー陣を増やしていく方針を発表した。

アイドルはCD売り上げなどの貢献度によって選別され、下から順に解雇通告が来る。

プロデューサーは、重役だけで決められたその方針に憤りを覚え

プロジェクトの推進者である美城専務相手に直訴した。

「そうは申してません。
 ただ、今回の件は乱暴過ぎると、そう申し上げたいのです」

プロデューサーは十五人のアイドルをプロデュースしていた。

今回の通告で彼の担当アイドルの半数以上が解雇通告を受けている。

「多種多様なアイドルが在籍している事は
 346プロダクションにとって大きな強みです。
 それを自ら捨てるという決断は……!」

「無策でしている事ではない」

専務は言った。

「その長所は三分の二に在籍数が減っても十分に保てる。
 今は可能性を持つアイドルを集めるより、次代を担うアイドルの選別と
 きめ細かな育成に力をかけようというのだ。
 運良く事務所に潜り込んだ無芸大食の者に
 施しを与えるほど、私は慈悲深くも愚かでもない」

「……! ですが……っ!」

プロデューサーは声を荒げた。

自分の大切なアイドルが無芸大食と言われては憤るのも無理もない。

土下座をしてでも手持ちのアイドルたちを

食い繋げたい思いだが、つい感情的になってしまった。

「……先程の事だが、私は上に立つ者として
 全てのアイドルの能力を把握しているつもりだ。
 君は私より所属アイドルたちを把握している自信はあるのか?」

「ありますっっ!」

プロデューサーは強い口調で言い切った。

「……そうか。ならばそれを見せてもらう」

「見せる、ですって?」

「ああ、私よりアイドルの事を把握できているのであれば、私も考えを改めよう」

「! 本当ですか!? ……しかし、どのような方法が」

「……話は変わるが、君は『ペートソムリエ』について知っているか?」

専務は足を止めて、プロデューサーの方を振り向いた。

「はい。オナラによって放屁した人間の特徴、心理、健康状態を把握するスキルです。
 プロデューサーとしてアイドルの体調を
 把握管理する一環として私はその資格を取ろうとしています」

賢明なる読者諸兄はワインソムリエがいかなるものかきっとご存じだろう。

しかし『ペートソムリエ』というイタリア語を知る者は少ないに違いない。

ペートソムリエ、俗称ではオナラソムリエと称されるこの資格は

まだ日本で一般的に普及していない。

そもそもオナラソムリエの起源は十一世紀まで遡る。

南イタリアの一都市サレルノは、西洋最古の医学校発祥の地として知られている。

十一世紀末、そこには衛生学の読本『サレルノ養生訓』なる古典が存在した。

それは生活習慣に関する事柄を予防医学の視点から解説し

民衆に広く知らしめたものだった。

それには今のソムリエにつながるワインに関する基礎知識も載っていた。

そして、放屁によってその人間の健康状態を図る指針もまた解説されていた。

中国では、元代にオナラソムリエの基となった考え方が

シルクロードを通って伝えられた。

高僧・空彩(くうさい)は波斯人から

サレルノ養生訓の写本を受け取り、翻訳した。

そして時の皇帝・仁宗アユルバルワダにそれを献上した、との記録が残っている。

また、清代の文人・袁枚は、自らの書「随園食単」に

料理を食べた後の放屁から健康を知る事が出来る事を記していた。

これらの思想は、現在において屁から大腸がんの傾向を

把握するための研究に確かにつながっているのである。

「それならば話は早い」

「話?」

「ああ、君との議論の決着をつけるのにな。
 オナラソムリエの二次試験で、君は私と競い合ってもらう。
 幸い、オナラソムリエ協会会長、ウッツ・ヘーデル氏は知り合いだ。
 公式に沿った問題を作成してもらい、便宜を図ってもらう」

「言っておきますが、私は……」

「安心しろ。二次試験は実技、出された屁のみで
 どれだけ早く多くの問題を当てられるか競うだけだ。
 君が勝てば今回の件、私が至らなかったと認め、計画は白紙に戻そう。
 だが、私が勝てば……今後社内における
 君の場所は保証出来ない、とだけ言っておこう」

「……利き酒対決ならぬ、利きナラ対決、という訳ですね……。
 ……分かりました。そのお誘い、お受けいたします」

プロデューサーは神妙な面持ちで元の事務所に戻った。

そこにいた小室千奈美、相原沙耶、松山久美子

伊集院惠、槙原志保、並木芽衣子、江上椿は彼を温かく出迎えた。

彼女たちの笑顔こそ、彼を戦いに駆り立てた動機だ。

彼女たちはいずれもこのリストラプロジェクトにおいて

槍玉に挙げられている成績不振アイドルだ。

もしあのプロジェクトが推し進められたなら

プロデューサーは担当アイドルを全て失ってしまう。

恐らくプロデューサー自身も能力を問われて更迭されるだろう。

平社員の自分がどうこう言ってどうにかなるものではない。

かといってプロジェクトまでに全員Aランクにあげる事は不可能だ。

望みがあるとすれば、そう、提案されたオナラソムリエの試験バトル

それしか残されてはいない。

「プロデューサー、何かあったんですか?」

「……実は」

プロデューサーは今回のリストラと専務と交わした撤廃条件を包み隠さず話した。

彼女たちは驚いたが、プロデューサーが自分達を救うために

自らの進退も賭けていると知り、胸が熱くなった。

「プロデューサー!」

「久美子……」

プロデューサーは久美子を見た。

久美子はこの部署の古株で、プロデューサーとは付き合いが非常に長い。

というより、この事務所に長居するアイドルはほとんどいない。

スカウトしたものの、一向に奮わないアイドルは皆ここに放り込まれた。

そしてやっと芽が出てきた頃には異動を通告され

他のプロデューサーの下に派遣される、そんな部署だった。

かつてここには相川千夏というアイドルがいた。

だが彼女は、大槻唯とのデュオがブレイクすると唯と同じ部署へと異動された。

木村夏樹も、松永涼も、ここでアイドルバンドをしていたが

同じような理由でそれぞれ多田李衣菜・白坂小梅の所に異動された。

そのためブレイクしたユニットのないアイドルのみ残るここは

弱小アイドルの掃き溜めと上層部から後ろ指を指されている。

346プロダクションの暗部と言ってもいいこの部署に

松山久美子は異動を蹴ってまで残ったアイドルだった。

しかし残ったとしても決して報われない。

何故ならここには滅多に上から仕事が回って来ない上に事務員もいないため

自然、自分達でイベント企画、手続き、準備

果ては経理までもやらざるを得ない。

決してアイドルが営業やイベントに集中でき

豊かに才能を育む事の出来る環境下ではなかった。

彼はいつかそんなアイドルたち、そして女房役となった久美子の献身的な愛に報いたかった。

「わ、……私のオナラ、嗅いでください!」

久美子は恥ずかしそうにうつむいて、だがはっきりと自分の意思を伝えた。

「プロデューサーさん、私のオナラもお願いしますっ!」

「プロデューサーさん、私のオナラで良ければ!」

久美子に続いて彼女らは口々にプロデューサーに屁を嗅がれたがった。

346アイドルから無作為に選ばれるのであれば

試験日までに自分たちの屁を嗅いで、覚えてもらおうと考えたのだ。

放屁は酷く間抜けでマナーとしても褒められたものではなく、恥ずかしいものだ。

ましてや、女性にとっては尚更隠したい事に違いない。

だが彼女たちは、それで彼の助けが出来るのなら、と羞恥を抑えて申し出た。

そんな彼女たちの気持ちを汲んだプロデューサーは、静かに首を振る。

「気持ちは有り難いが、それには及ばない。
 俺もアイドルマスターを目指す者の端くれ
 アイドルの屁を嗅ぎ分けてみせるよ」

とはいえプロデューサー自身も、どこまで出来るか分からないという状況だ。

彼女たちは相談の末、率先してプロデューサーの前で放屁する事にした。

自然と出てしまったオナラなら咎められないだろうという判断である。

彼女たちは例え外の部署から屁コキアイドルと嘲笑されようとも

自分たちのために戦うプロデューサーの力になる事を望んだ。

そんな健気なアイドルたちだからこそ

プロデューサーはここで終わらせるのは惜しいと感じていた。

なんとしてでもこの勝負には勝たなければいけないのだ。

「こうなれば、あの人に頼るしかない……」

プロデューサーはある人物の部屋を訪れた。

「ふむふむ……で、アタシを頼ってきたわけ?」

無断で実験室に改造した寮の一室で、一ノ瀬志希は

カラムクロマトグラフィに流れていく

アセトン溶媒に溶けたカロチノイド色素を眺めていた。

彼女は海外にて在学中オナラソムリエの資格を取得している。

向こうではこの資格が日本と違って非常に重要視されているのだ。

その資格を持つ志希に、プロデューサーは指導を頼み込んだ。

「でもなー、アタシ今そんな気分じゃないし~」

「そこをなんとか! この勝負、どうしても勝ちたいんだ志希!
 あいつらはしっかりとレッスンを積んでいけば
 志希すらも飛び越えていくポテンシャルを持っている!」

「アタシを? ホントかなぁ。
 それにさ、それって敵に塩を送る事になるよね?」

既に不動のAランクアイドルである一ノ瀬志希を

F~Dランクをうろうろとしている担当アイドルたちに抜かされるなど

大言壮語が過ぎるとは感じた。

まして、わざわざ社内のライバルを増やす益のない事をするだろうかとも思った。

しかし、これは賭けであった。

そう、志希の興味をこちらに振り向かす賭けだった。

「……」

「……。ふふふ……何かそれって面白そう!
 そうか。自分で自分のライバルアイドルを育てるのもアリだよね!
 この前のツアーで、引退した大物アイドルがライバルとして
 娘を育ててた話を聞いたんだ! よし、採用!」

「えっ、それじゃあ……!」

「うん! アタシにかかればオナラソムリエなんて簡単に取れちゃうよ~。
 その代わり、それまでアタシは教官モードに入るからね
 みっちりとしごくから、そのつもりでヨロシク!」

「ありがとうございます、師匠!」

――実験室(美嘉と志希の部屋)

志希
「……アタシが訓練教官の一ノ瀬志希先任軍曹である!
 話しかけられたとき以外は口を開くな。
 口でクソたれる前と後に“サー”と言え! 分かったか、ウジ虫!」

P「サー! イエッサー!」

志希
「この間までは匂いのあるエステルをはじめとする
 様々な有機化合物を同定してもらった!
 だがここからは『無臭』の有機化合物も取り扱う。
 もちろん無臭だから分からんなどというふざけた言い訳は認めない!
 構成元素の増減を根性で嗅ぎ分けろ! いいな!」

P「サー! イエッサー!」

志希
「素直なのは感心だ。気に入った。
 LIPPS(うち)に来て美嘉をファックしていいぞ」

P「サー! イエッサー!」

志希
「まずは軽いジャブだ!
 いいか、これが反応前の2,3-ジメチル-2-ブテン (CH3)2C=C(CH3)2 だ!
 処女みたいな二重結合だろう?」

P「サー! イエッサー!」

志希
「そしてこれを常温下で酸性水溶液にぶち込み
 過マンガン酸カリウム野郎がレイプして孕ませたガキがこの有機化合物だ!
 こいつを貴様のクルミを潰したようなファッキンノーズで同定しろ!
 三秒やる、三秒だ、マヌケ!
 アホ面を続ける気なら目玉えぐって頭蓋骨でファックしてやる!
 1! 2! 3!」

P「サー! 2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオールです、サー!」

志希
「ふざけるな! ひざまづけ、オカマ野郎!
 過マンガン酸カリウムのXLサイズのディックで
 そんななまっちょろい奴が生まれるか!
 常温下で酸性水溶液にぶち込まれておいて
 2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール程度で生きて帰れると思ったか!
 ケツメドから精液の匂いが取れないくらいに過マンガン酸カリウムに輪姦されろ!
 開き切ってクソが垂れ流しになるまでぶっ壊されたいか!」

P「サー! ノーサー!」

志希
「徹底的に慰安婦として調教されたクソビッチである2,3-ジメチル-2-ブテンは
 過マンガン酸カリウムのニガーディックでケツメドまで犯され
 最後にはアセトンCH3COCH3になってお払い箱だ!
 未だにケトンすら同定出来んのか、ドアホ!」

P「サー! イエッサー!」

志希
「大声だせ! タマ落としたか!」

P「サー!! イエッサー!!」

志希
「次はこのイカ臭いフェラ豚! プロペンCH3CH=CH2 だ!
 こいつを水存在下でボランBH3のヒュージコックをお見舞いしてやった!
 出来た液体の匂いを嗅いで、その反応の主生成物を
 ゴルフボールを吸い込むホースに似た口で答えろ!」

P「サー! 1-プロパノールCH3CH2CH2OHです、サー!」

志希「貴様の言い訳はなんだ?」

P「サー! 言い訳ですか、サー!」

志希「アホを相手に質問するのアタシの役だ!」

P「サー! イエッサー!」

志希「答えを変えたくなったか?」

P「サー! イエッサー!」

志希「さっさと答えろ! クビ切り落としてクソを流し込むぞ!」

P「サー! イエッサー!」

志希「このママの割れ目に残ったカス汁は何だ!」

P「サー! 2-プロパノールCH3CH(OH)CH3です、サー!」

志希「間違いないか!」

P「サー! イエッサー!」

志希
「大間違いだ、腐れマラ!
 ガキを孕ませるのに二級炭素へコックをぶち込むボラン野郎がいるか!
 何度言ったらアンチマルコウニコウ付加を覚えるんだ!」

P「サー! イエッサー!」

志希
「いいか! ホウ素原子みたいな奴が二級炭素のような
 ありすのプッシー並みに小さなロリ穴に入れると思っているのか!
 ホウ素は立体障害の少ない中間生成物が出来るように
 菜々のようなガバガバな一級炭素ホールを好んで犯すのだ!」

P「サー! イエッサー!」

志希
「そのため出来やすいガキはファッキン現代美術の醜さと言える1-プロパノール!
 貴様の口はフェラ用か? 口から垂れ流した自分のクソすらもはっきりせんのか!」

P「サー! イエッサー!」

志希「その胸クソ悪い笑みを消せ!」

P「サー! イエッサー!」

志希「……早く顔面に伝えろ!」

P「サー! 頑張ってます、サー!」

志希
「ケツの穴を引き締めろオカマ野郎! 次はじっくり無機化学でかわいがってやる!
 ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウムK4[Fe(CN)6]と
 ヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウムK3[Fe(CN)6]を
 フックがお似合いのその豚鼻だけで嗅ぎ分けさせてやる!
 泣いたり笑ったり出来なくしてやるから、さっさと立て!」

P「サー! イエッサー!」

ライブ終了後、志希は無色透明の液体が入っている小瓶をプロデューサーに手渡した。

「……これが最終課題だよ。
 この液体を採集した場所、そして成分を当ててみて」

プロデューサーは蓋を開け、その瓶口に鼻を近づけて大きく息を吸い込んだ。

そして目を閉じ、鼻腔口腔でそれを味わった。

やがてゆっくりと目を開けて顔を上げた。

「……ミネラル質の少ない水ですね。
 トリコイデスの香りも混じっています……風呂の水かと思います」

「場所は?」

「……場違いなほど濃厚な茸臭があります。この屁主は十代の女性、恐らく輝子です。
 寮住まいの彼女の入るお風呂なら、女子寮にある大浴場しかありません」

「……。それで?」

「彼女の他にも入っている人がいます。でも人数はそれほど多くはない。
 一番風呂だったと思います。一人は多種多様の香水と
 実験室特有の薬品の匂いから、志希師匠、貴女です。もう一人は……白坂小梅」

「合格。もう一人については良く分かったね」

「風呂の水に微量の尿素の匂いが混じってました。
 恐らく彼女が粗相したのでしょう。
 その成分を分析すれば彼女が夜更かしをして映画を見て
 朝一番の風呂に誘われてトイレに行きそびれた事がわかります」

すると志希は朗らかに笑い、プロデューサーの肩を叩いた。

「にゃははは! プロデューサー君、アタシのスパルタ特訓はこれで終わりだよ。
 安心して試験を受けてきたまえ」

「……! はい! ありがとうございます、師匠!」

二人は誓いと祝福を乗せて拳を軽くぶつけ合った。

執務室の中には二人の人影があった。

一人は美城専務で、彼女はアイマスクをかけ

細い縄で椅子にしっかりと縛られていた。

その前には、もう一つの人影――下半身を露出し

優しげな笑みを浮かべている今西部長が立っていた。

「さぁ、準備はいいかね?」

「はい……」

今西部長は専務の端正な顔の前に自らの中年尻を据えた。

四股を踏むようにがに股になり、膝上に手を置いて腹部に力を加える。

「ふんっ……!」

ブッブウップップッブ!

専務のすっと通った鼻先で、今西部長の渾身の一発が炸裂した。

専務は細眉を寄せながら、そのアロマを吟味する。

「うう……モナカ、牛丼、コーラ、フライドチキン、コーヒー……」

「コーヒーは?」

「ガムシロップの入ったアイスコーヒー」

「牛丼は?」

「駅前の大手チェーン店のもの」

「いいよ。あと三品だ」

「う……サンドイッチ、生卵と保存料の匂いがします。
 コンビニのものかと。それから……」

「それから?」

「……申し訳ありません……」

「やれやれ、君はニンニクをメニューに加えた途端、正答率が落ちるね。
 オナラソムリエを目指すならば、強烈な匂いの中に隠れた
 僅かな成分をも嗅ぎ分けなければいけないよ」

今西部長はブリーフとズボンを持ち上げて尻を収めた。

「では今回は追試だね。……どうぞ」

今西部長が合図を取ると、部屋の奥から

ぞろぞろと男たちがズボンを脱ぎ捨ててやって来た。

「彼らにはこの数日間、偏食をしてもらっています。
 彼らの食した食べ物、その場所、その偏食中に
 こっそりと食べたものを当ててもらいます。
 人数は二十人。少しお時間を拝借しますよ」

「ええ、構いません」

大口を叩いた以上、何としてもこの勝負に勝たなければいけない。

威信のためにも、専務は出来る限りのトレーニングを積んで戦いに挑もうとした。

「次は君の番だ」

椅子に座った美城専務の前には、男性新入社員の横列があった。

彼女はおどおどとした先頭の新入社員に言った。

新入社員は恥ずかしそうにズボンとトランクスを脱いで彼女の前に立った。

「早く尻を向けろ」

最初の男はスッと通った専務の鼻先に、毛穴の汚れた汚い尻を前に出して構えた。

ブボボボッッ!

音を聞いただけで黄色くなりそうな放屁が専務の鼻先で炸裂した。

「……今朝の料理は駅前の立ち喰い蕎麦屋のかけうどん……。
 油の量から天かすを多めに入れている。
 その前日は飲み会でビールを瓶一本、日本酒を徳利一杯と角ハイボール五杯
 蛸わさと焼鳥の砂肝を肴にして飲んでいるな……。
 まだ消化しきれていないから二日酔いが抜け切れていないだろう?」

「は、はい……」

「それと、病院に行け。君の趣味をとやかく言うつもりはないが
 直腸あたりでクラミジアに感染している可能性がある」

それを聞くと男性社員は顔を青ざめてズボンを穿いて退出した。

専務の後ろで今西部長がうなづく。

「クラミジアの炎症は無症状でまず気付かない。
 良く嗅ぎ分けられたね」

「他人ごとではありません。
 数日前、貴方のレッスンを受けた時に嗅いだ匂いと
 同じものを彼の屁から感じ取りました」

「ハハハ、私は一足先に病院に行って治療中だよ」

今西部長は朗らかに笑う。

「さて、次の君も早くズボンを脱いで準備しなさい」

そこに並んだ男性社員は次々に下半身を晒して専務の鼻に屁を放った。

彼女はその度に男の食事、健康状態をすらすらと言い当てた。

オナラソムリエの実技試験が控える前日において美城専務はようやく完成した。

今の彼女にかかれば、どんなアイドルの屁も嗅ぎ分ける事が出来るだろう。

当日の天気は晴れであった。空には柔らかなフォルムの雲が所々に浮かんでいる。

まるで天の女神が放屁して作ったかのような優しい形で

その下で行われているオナラソムリエ対決を祝福しているかのようだ。

346プロダクションの一角を会場として、その実技検定は行われた。

プロデューサーも、美城専務も、神妙な面持ちで椅子に座っている。

試験監督の今西部長からルールが説明された。

試験は固定された椅子に座り、アイマスクを着けて臨む事。

アイマスクを試験中に外す事は許されない事。

試験問題は346プロに所属する全女性アイドル200名の中から、無作為に選ばれるという事。

そうして選ばれたアイドルはあらかじめマンナンを食べてもらっている事。

受験者の眼前に位置した部屋の中に入り、アイドルたちは下着を脱いでもらう。

そして穴の開いた椅子に座って両サイドにあるバーを握って放屁する。

椅子の穴の斜め下には受験者の顔があり、受験者は

その放屁の匂いを嗅いで、問題に沿った解答をする事。

その項目を読み上げられた後、二人はそれぞれアイマスクを着けて背筋を伸ばし、戦いに挑む。

「それでは開始します」

こうして戦いの屁蓋は切って落とされた。

『大問1の問題は食生活に関するテイスティングを十回行ってもらいます』

無機質なアナウンスが流れた後、最初の屁主が例の特殊な椅子に座って

二人の受験者の顔に屁を放った。

ソムリエがワインをテイスティングする時に作法があるように

オナラソムリエもまた放屁を完全に分析し、表現するために行う作法がある。

まず放たれたアロマを鼻で長く伸ばすように吸って、鼻腔の先から奥まで屁で満たす。

そして喉に落としたアロマを口腔内に逃がして舌の上で転がし、味わう。

そして最後に食道に通し、胃と肺に落とすのだ。

鼻、口、そして放たれたときの音によって

オナラソムリエはその屁主の全てを見通し

第三者に分かりやすく魅力的に伝えるのである。

「……なるほど。程良く甘く、お腹の中でゆっくり消化された香りの中に
 色濃く残るトースト臭……これは大原みちるです」

『正解です』

最初の問題を難なく解いたプロデューサーの隣で、美城専務もまた放屁の分析に取りかかる。

「ほう、金箔のように強く甘い香料が薄く何層も積み重ねられている……
 ウエハースや、薄く伸ばされた市販のガムを食べているようだな。
 メーカーは魔法少女物の食玩菓子をよく出しているA社のもの……。
 またこなれていない消化の具合と軽めの屁量から
 これはかなり若い女性体のもの……横山千佳だ」

『正解です』

(くっ……流石この利きナラ対決を提案しただけあって
 アロマの特定は完璧だ! ……だが、俺も負けない!)

「……木苺にも似た甘い酸味の匂いがします。
 苺としても一日に充分量の摂取をしている事から
 屁主はほぼ橘ありすと特定出来ます」

『正解です』

「……肌触りの良い白絹のような放屁の具合から、腸の活動が非常に健康的で活発だ。
 毎日充分量の食物繊維を摂取していなければこれほど素晴らしいアロマは出ない。
 ペースト状に粉砕したと思われる野菜の匂いがする事から
 これは手製のミックスジュースのもの……ミックスジュースに凝っている栗原ネネだ」

『正解です』

「鼻をゆっくりと舐めるように進む蜂蜜の匂い……
 自己主張の強い糖分がその進む道を整地していくようです……
 かなり糖分の高い食べ物を日常的に摂取していますね。
 だがそれにしては体内で良く消化されていて
 プロポーションは崩れてはいない。
 恐るべき代謝能力と食生活から、榊原里美です」

『正解です』

「……ふむ。食が細いのか香りはさほど濃くはない。
 少ない匂いの中にあるのは、代謝の盛んな若々しさと
 柔らかなハンカチに似た冷たい甘み……。
 アイスが好物のこの屁主は、ライラしかいないな」

『正解です』

両者は互いに一歩も譲らず、全問正解のまま大問2に進んだ。

『大問2は放屁した人物の生活に関するテイスティングを十回行って下さい』

「……摂取量に対する油脂と添加物の割合から、これはジャンクフードと特定できます。
 放屁量的には細身、しかしその割に放屁の勢いが良く体力があり
 体が引き締まっている事がうかがえる。
 それに混じる高級ワインのような不凍液の香りは
 恐らくバイクのガソリンに由来するもの……藤本里奈だ」

『正解です』

(有機化学の知識があるのか……それもほぼ無臭と言える
 化合物の匂いまで特定するとは、敵ながら素晴らしい……だが!)

「……この甘い揮発油の匂いは、ガソリンのものだ。
 それもジャンキーほどではないが日常的に嗅いでいる。
 ウィンドウォッシャー液、及びワイパーに用いる潤滑油の匂いもある事から
 バイクではなく車によくかかわるアイドル……原田美世だな」

『正解です』

「……体内に長く留まっていたと思われる臭いの強さ
 それに比べてこの量は腸の不活性か、消化率の悪さがうかがえます。
 きっと日常的にほとんど動いていないに違いありません。
 残屁の中には、スナック類に由来する安物の油脂の匂いと
 市販品でよく用いられている水飴の匂いがします。
 ニートアイドルで飴好きの双葉杏です」

『正解です』

「アンプなどの音響機材に由来する匂いが強い。
 光源の匂いも若干量残っている事から
 ライブハウスに出入りする事が多い様子だな。
 やや粘度のある油の香りは、ギターの手入れに使うグリス
 そしてこれにもガソリンの匂いが混ざっている。木村夏樹であるのは明白だろう」

『正解です』

「消化にかかる時間とその量から屁主の年齢は比較的若く、身長も低い。
 乳の香りとパウダーの匂いが混じっている事から
 生まれて間もない赤ん坊が弟妹として居るアイドルだと分かる。
 これは赤城みりあと特定できます」

『正解です』

「菓子類に由来する油分を纏った甘い匂いの中に、異質な野草の匂いがある。
 匂いの量からこれは摂取したものではなく良く嗅いでいるものだ。
 シロツメクサの匂いが混じっている事から緒方智絵里」

『正解です』

どちらも全問正解の中、戦いは大問3に移った。

『大問3は総合問題です。放屁した人物の食事、行動、体格等に言及して
 テイスティングを十回行って下さい』

「……。夜の砂漠に感じる乾いた風のような放屁だ……
 水分の少なさから、本体がしばしば軽い脱水症状気味になっている。
 塩分の匂いも不足している事がうかがえる事から
 これはよく泣く人物……即ち、大沼くるみだ」

『正解です』

(流石専務だ……ポエミィな表現力に加え、しっかりと相手の体調を当ててくる……!)

「……。酵素分解によって生まれたアセトアルデヒド臭は
 小麦色の発酵臭を帯びています。
 それは釣りたての鮮魚のように鼻腔を撥ねました。
 苦みに包まれている重い香りは、油とたれのかかった鳥肉のもの……
 恐らく焼き鳥……消化具合から摂食したのは昨夜。
 キャッツ戦のあった事から姫川友紀が居酒屋で
 野球観戦しながら焼き鳥を肴にしてビールを飲んだのでしょう」

『正解です』

(この問題、キャッツ戦の情報こそが姫川友紀と片桐早苗を分ける分水嶺……命拾いしたな)

「いびつな形のイメージを想起させるこの匂い……身長は低く
 体格は未発達、ローティーンの少女そのものな体格ながら
 体内でアルコールを酸化したとおぼしきカルボン酸臭の痕跡と
 車に注ぐガソリンに含まれるエチレングリコールの匂い……
 成人女性と言える特徴があり、更には豊かな髪の匂いと
 顕著な牛乳の匂いがある。日下部若葉だ」

『正解です』

「温かなソース、マヨネーズ、そして青のりの匂い……
 それに加えて特徴的な小麦粉由来の匂いから
 屁主の摂食したものはほぼお好み焼きなどの粉ものと同定出来ます。
 それに加えてアルデヒド系の匂いもする事から酒を嗜む人物である事が分かる。
 大阪人の成人女性アイドル、川島瑞樹です」

『正解です』

「そびえ立つ峻山の残雪ごとき純度の高い放屁からは
 添加物のほとんどない高級な食材の香りが残っている。
 それに加えて、各種の上質なポリフェノール……
 紅茶に由来する匂いが決め手だ。……相原雪乃に他ならない」

『正解です』

結局二人共、一問も間違うことなく合計三十問をやり終えた。

「どうだろうか。二人共合格が確定した事だし、ここは控えてもらっている
 残りのアイドルたちのオナラを一緒に嗅ぎ比べてみては」

今西部長の提案にアイマスクを取っていた二人は互いの顔を見た。

二人共譲れないものを賭けての勝負である。

引き分けはあり得なかった。

「まず先に一人が回答し、答えを変えない事を誓わせる。
 もう一人はその回答が間違っていれば別のアイドルの名前を言うわけだ。
 そうして交互に当てていき、先に間違えた方を負けとするのは?」

二人に異論はなかった。

彼らは再びアイマスクをつけて戦いの香野へと降り立った。

――ぷぷぅっ。

「白銀の世界に舞い降りた戦乙女のようなこの味わい……
 コスメやスイーツの匂いに加えて
 やや異質なプロテインの定期的な摂取の跡があります。松原早耶です」

美城
(ふむ、コスメやスイーツのアロマを纏うアイドルは多い……
 その深い香りからプロテイン臭を嗅ぎ分けたか……)

P(沙耶……お前のおかげでこの一問をものに出来た。ありがとう)

ぶぷぅ――っ

「原初の海を想起させるこの香り……だが尻たぶの下が
 浸る程度で、肩までは長く浸かっていない。
 塩素の匂いがするが同様、鼻から水が入ったのか
 若干鼻腔の粘液臭がする。瀬名詩織だ」

――ぷっ。

「日常的に低栄養の食べ物を少量食べる事が多いようで
 屁に残る未消化臭は少ない。
 しかしその代謝の比から屁主の体格は未発達で年齢も低い。
 比較的体温は高く、いつも暖かな服を着込んでいる事が分かります。
 これは着ぐるみアイドルの市原仁奈です」

ぷぅぷ~~っ。

「深い磯の香りに濃厚な魚の匂い……。
 釣り具の匂いがある反面、藤原肇の特徴である赤土の匂いがない。浅利七海だ」

ぷ~~ぅ。

「甘い調べを奏でるクラシック音楽のような音色に屁臭……
 放屁量から推測するに、屁主の尻は比較的大きく
 生クリームとフルーツの匂いが強い。槙原志保です」

P(……志保、ありがとう。今度美味しいパフェの店、おごるからな)

ぶっぶぅっっ!

「死地に赴く餓狼の如き鋭い屁音……。
 比較的引き締まった尻をしている。
 そこから放たれる屁からは特徴的なプロテインと
 ミリタリー飯の匂いがある。大和亜季だ」

しかしオナラソムリエを極めた二人は当然のようにアイドルを当てていく。

交互に問題を解いていく、二人の気は、触れれば切れるほどだった。

そして十二問目の時、先攻となった美城専務は放たれた屁を口内で咀嚼する。

(ふむ、非常に甘い匂いの放屁だ……

 しかし、摂取量が多いために充分代謝されていない。

 海老原菜帆なら小豆など和菓子由来の匂いもあるだろう。

 十時愛梨ならテニスなどの運動をするから、もう少し糖分が代謝されているはずだ。

 糖分がドーナツ由来の可能性もあるが、椎名法子は大問1で既に答えている。

 同様に既出の榊原里美も除外される。

 法子と食事をとっているであろう中野有香と水本ゆかりの場合

 その摂取量からドーナツの匂いはもっと薄く抑えられる。

 そして前者は汗の匂い、後者は家柄による普段の食事から判別できる。

 だからどちらも除外される。これは素直にサービス問題……

 三村かな子と見て間違いないだろう)

「三村かな子だ」

「その答えでいいかね?」

「万に一つの間違いはない」

しかしその時、今まで専務のターンで沈黙を貫いていたプロデューサーは言った。

「……。私は……この屁主が松山久美子だと思います」

(! ありえない……どう考えてもこのボリュームある
 柔らかく甘い香りは、体重管理の甘い三村かな子の屁だ)

専務はプロデューサーの顔色に疲れがあるのを見てとった。

(……さてはこの男、屁の嗅ぎ過ぎでとうとう
 その軟弱な鼻が馬鹿になったか……?)

「答えを変える気は?」

「ありません」

部長の確認にも、プロデューサーは確かに答えた。

「……。プロデューサー君……おめでとう」

その時、階段を下りてきた美女がいた。

恥ずかしそうに姿を見せたのは、美しい茶髪を

ポニーテールとしてまとめた美女――松山久美子だった。

「……久美子っ!」

プロデューサーは喜びを隠せない声を漏らして、久美子の傍に駆け寄った。

「……! 私が、負けた……?」

一方、美城専務は唖然としてその場に立っている。

(何がいけなかったのだ……あの成分分析は
 完璧のはず……一体どこに見落としが……)

「専務、約束ですよ」

プロデューサーは専務の方を向いて念を押した。

彼女は咳払いをすると、じっと彼を見据えて言った。

「……仕方がない。新規プロジェクトは白紙に戻す」

「では……!」

「だが勘違いするな。
 私は現時点でのぬるま湯のような状況を認めた訳ではない。
 もし与えた猶予の間に何らかの成果が見受けられなかった場合
 再検討する可能性もあるという事を忘れるな」

「はい、ありがとうございます!」

プロデューサーは勝利の笑みを土産に

久美子の手を引いて事務所へと戻っていった。

「残念だったね」

残された専務の後ろから今西部長が声をかける。

「……。力添えしていただいて、とんだ失態を晒してしまいました」

「いや、あれは仕方ない。君のテイスティングは完璧だった。
 だが、あのアロマを特定する事は君には難しいだろう。
 少なくとも、今の君ではな……」

「……? どういう事です」

「いずれ分かるよ。ただ一つ言える事は
 あの二人にしか分からない匂いがあった、という事だ。
 そして、そのようなアロマを嗅ぎ分ける力こそが
 ある意味アイドルマスターの素質と言えるのかもしれないね」

遠くを見つめる今西部長の背を、美城専務はじっと見つめていた。

「……」

レッスン後、寮に戻った松山久美子は

浴槽につかったままじっと自分の手足を見つめていた。

総選挙にランクインは出来なかったし

イベントで一際目立つ活躍はしてこなかったかもしれない。

特技であるピアノを生かした営業も中々ない。

しかし自分なりに頑張って今までやってきた。

そしてそれは世界で誰よりも愛しているプロデューサーの

手厚い助力があってこそだった。

その時、ポコンと湯面に大きな泡が上ってきて散った。

特徴的な食生活も送っていない、香水も部署内で共有していて

自分の屁臭に全く特徴を見いだせない事に彼女は悩んでいた。

(プロデューサーは私たちのためにあんなに頑張ってくれている……。
 それなのに……私はオナラをする事しかできないなんて……!)

湯面にポタポタと涙滴が零れ落ちた。

歯痒い思いを胸にして彼女は日夜密かに枕を濡らしていた。

「プロデューサーさん」

試験が終わり、晴れやかな気分で試験会場を後にする

プロデューサーと松山久美子。

彼らは屋上にひとまず寄って休憩をした。

風によって洗濯物がヒラヒラと揺れている。

時間帯が違うのか寒風摩擦しているヘレンや

ヒーローごっこに勤しむ光たちの姿はない。

「あの、その……嗅ぎ分けてくれて……ありがとうございます」

久美子はまずプロデューサーに一礼をする。

不安でどうしていいのか分からなくなった彼女は

自分を律する性格にも関わらず、この二ヶ月間もの間

三村かな子の誘うままにスイーツ巡りをして自暴自棄気味になっていたという。

必要最低限のレッスンしかしなかった彼女の体重、体脂肪は

不摂生が祟ってかな子とほぼ同じになってしまっていた。

「あれほど難しいオナラはなかった。
 百人中百人が君のオナラを嗅いで、かな子だと回答するだろう。
 しかし、……随分とふくよかになったね」

久美子は赤くなった顔を両手でおおった。

よく搾られたあの腹筋は、屈むと折り目が出来るほどの贅肉にすっかり隠れて久しい。

「……ごめんなさい。これから頑張ってもとのスタイルに戻すわ」

「君を悩ませてしまってすまない……だけど、言わせて欲しい。
 良いオナラだった。あのオナラが出来る人は世界に一人、君しかいない。
 そして……君のオナラは、きっと……世界で俺にしか分からないよ」

「……? どうしてですか……?」

「それはね、――」

「……!」

たなびく白布の影で恋人たちが互いの喜びと愛しさを共有する。

「……ふぅ、やれやれ。
 誰もいないと思って来てみれば、とんだものに遭ってしまった」

屋上入口の屋根に登って黄昏ていた二宮飛鳥は

眼下に揺れる洗濯物の狭間から、抱き合う恋人を見ていた。

そしてふぅと小さな溜息を漏らしたその時

彼女の尻から小さな破裂音が鳴った。

「こらこら、君までなんだい。祝福の風のつもりかい?
 ふふ、まあいい。今はあの恋人たちに、しばしの幸福を……」

飛鳥は尻を撫でつつも、雲の散った青空を仰いだ。

――彼の嗅ぎ取ったその匂いは酷く甘酸っぱく、ほろほろとした苦味をも併せ持っていた。

――それはもっと嗅ごうとすると、恥ずかしがってすぐに隠れてしまう。

――だが、そっとしておくと寂しくなって自らを見つけてもらおうとする。

――そう、久美子の出したあの匂いは

――プロデューサーが嗅ぎ取ったあの匂いは

――恋人たちにしか分からない、恋のアロマだったのだ。

以上です。明けましておめでとうございます。

以前志希にゃんがアイドルのオナラを嗅ぎまくるSSを拝見して
酷く感銘を受けて自分でも書いて見ようと思い、自分なりにSSに起こしてみました。
これを機に今まで軽視されていた天然性のアロマと称すべき
モバマスアイドルたちのオナラの名誉回復と地位向上
そしてその癒しがもたらす更なる発展に尽力していきたい所存です。

沢山の屁に囲まれ瞬間最大風速200m/sec
どこまでも馨しくどこまでも疾い
この風に乗って千の風になろう
おならよ永遠なれ
ちょっと贅沢を言うとしゅがーはぁとのしゅがーふぁあとを嗅ぎたかった

感想ありがとう!新年初ドジやっちゃったけど
SSで笑ってくれたら非常に嬉しい

>>47
向かい風にも負けない健気なまでの挑戦心の籠った放屁には
程よい量のスイーツ臭が残っている。
代謝の具合から年齢は若干高め、定期的に貼っているらしく
サロンパスの匂いも微量存在する。
落花生の匂いがない事から安部菜々ではなく佐藤心と断定できる。

一応大半のアイドルのオナラ同定はメモしてあるけど
文がだれないように大問一つに六人と決めてボツにしたんだ

あと渋で早耶ちゃんの名前修正しました
早耶ちゃん間違えてごめん

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