優花里「西住殿はいつ見ても端正な顔立ちであります!」 (78)

――2学期を迎えたある日。戦車道履修者の練習を終えてからの一コマ。

みほ「優花里さん、遅くまでお疲れさま」

優花里「西住殿も最後まで付きっきりで見てくださって、感謝感激であります!」

みほ「うん、大丈夫。今日は夜に予定を入れていて、それまでどうしようと思っていたから」

優花里「そんな!長引いたら西住殿の予定に影響が出てしまうのに」

みほ「そんな事・・・気にしなくていいよ。こうして予定通り終わったんだし」

優花里(あぁ・・・西住殿は実に素敵な方であります)

優花里(乗れば必勝 人に優しく 車上の指揮は乱れ無し 鉄を凌ぐ 柔の心。そして何よりも・・・)

優花里(その麗しい、端正な顔立ちであります!)

優花里(戦車に乗っている時の凛とした表情)

優花里(考え事をする時の物憂げな表情)

優花里(そして愁眉を開いた時の曇りない笑顔・・・)

優花里(ああ・・・なんと素晴らしい・・・こうして西住殿の顔を間近で見られる私は幸せ者であります・・・)

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みほ「・・・? 優花里さん、どうしたんですか?」

優花里「ハッ!すみません!少し惚けてしまいました」

みほ「そう?秋季大会も近いし、無理しないようにしてください」

優花里「ハイ!・・・ところで西住殿。これから予定があるという事ですが」

みほ「えっ、うん。そうだけど」

優花里「夜道は危ないですし、お邪魔でなければ私が途中まででも一緒に参りますが?」

みほ「いや、大丈夫!私一人で行くから・・・」

優花里「そ、そうでありますか・・・」

みほ「ごめんね。また今度一緒に帰りましょう」

優花里「わかりました!その時はよろしくお願いします!」

~~~~~

優花里「と言ってみたものの、日が暮れた時間に一人歩きは、学園艦とはいえ危険ですね」

優花里「何かあった時のために、後からこっそりついていきましょう」

優花里「・・・決して西住殿をストーキングしているわけではありません!」

優花里「西住殿にまとわりつこうとする悪い虫を取り払う・・・その一念であります!」

みほ(うーん・・・やっぱり昨日から調子が悪いかな)

みほ(予約入れておいてよかった・・・)

~~~~~

優花里(この辺りは住宅街で、そこを突っ切る広い道を歩いていますね)

優花里(宅地には商店や小料理屋が点在しています。誰かと待ち合わせしているのでしょうか?)

みほ(・・・)キョロキョロ

優花里(・・・警戒していますね。うかつに近づくとバレちゃいます)

優花里(ここはこっそり遠目から・・・)

みほ(・・・)サッ

優花里(おっと西住殿は細い路地に入っていきました)

優花里(人気のないところでこのまま追いかけたら、確実に気付かれますね)

優花里(不肖秋山優花里、諜報は得意であります。逃がしはしませんよ!)

みほ(軒下に犬小屋・・・)

みほ(・・・誰も見ていないよね?)

みほ(・・・)テクテク

~~~~~

優花里【犬小屋】(・・・フゥー、危うくバレちゃいそうでありました)

優花里【犬小屋】(ちょうど道路からは影になっているので、なんとかやり過ごせましたね)

優花里【犬小屋】(さて、この方向へ歩いているという事は・・・おっと家主が戻ってきましたね)

優花里【犬小屋】(吠えられないうちに先回りしましょう)

みほ(この交差点を右・・・)テクテク

~~~~~

優花里【側溝】(陸地では側溝に潜って女性のスカートの中を覗いた不埒者がいるそうですが・・・)

優花里【側溝】(私がやっているのは西住殿を守る事、ボディーガードであります)

優花里【側溝】(決して!決して!西住殿の白いパンツを拝みに来たわけではありません!!)

優花里【側溝】(でも西住殿に踏んでもらえる道路にならなってみたいかも・・・)

みほ(えっと・・・)

みほ(ここは曲がらずまっすぐ・・・)テクテク

~~~~~

優花里【柿の木の上】(ひぇぇ・・・柿の木の枝はもろくて危険でありますね)

優花里【柿の木の上】(私の体ならギリギリ支えられる状況であります)

優花里【柿の木の上】(枝を折らないよう慎重に慎重に・・・)

柿(ボトッ)

優花里【柿の木の上】(!)

柿()

優花里【柿の木の上】(・・・ホッ・・・どうやら気付かれずに済んだようであります)

優花里【柿の木の上】(柿の持ち主殿、ごめんなさい・・・ってこれ渋柿ですね)

みほ(うーん・・・)

みほ(左の曲がり角の次のT字路を右に・・・)テクテク

~~~~~

優花里【住宅の塀】(塀と同じ柄の布で隠れる・・・忍者みたいですね)

優花里【住宅の塀】(忍者には諜報任務に長けた者が多いと聞きます。今の私も忍者のようなものです)

優花里【住宅の塀】(それにしてもただ何となく住宅街を歩いているだけのように見えますね)

優花里【住宅の塀】(どこか目的地があって移動しているような感じではありません)

優花里【住宅の塀】(ともかくも、歩いた先へ行くでござるであります。ニンニン)

みほ(・・・ここなら誰も見ていないよね?)

みほ(・・・)ガサゴソ

~~~~~

優花里【屋根裏で逆さ吊り】(袋小路で西住殿が、カバンの中から何かを取り出しています)

優花里【屋根裏で逆(ry】(おや?これは上着・・・トレンチコートです)

優花里【屋根裏で(ry】(トレンチコートは、第一次世界大戦中のイギリス軍で開発された軍用コートであります)

優花里【屋根裏(ry】(寒冷な欧州での戦いに対応する防水型のコートが求められたことから普及しました)

優花里【屋根(ry】(もっとも、その原型は既に1900年頃には考案されており、第一次大戦での普及が、一般への広がりの契機となったとも言われています)

優花里【屋(ry】(とまあトレンチコートの説明はともかく、この姿勢はしんどいですね・・・)

優花里【(ry】(バレずに物見する都合上、どうしてもこの姿勢でないといけないのですが・・・)

優花里【頭に血が上り始める】(むむむ、またもや何か取り出しましたね)

みほ(帽子と、それから・・・)

優花里【頭に血が上り(ry】(つばの大きい中折れ帽と、マスク・・・完全に顔を隠してきましたね)

優花里【頭に血が上(ry】(私以外の人には、誰だかわからないぐらいです)

優花里【頭に血が(ry】(しかし、顔を隠してまで行く場所とは一体・・・)

優花里【頭に血(ry】(あっ、歩き始めました!見逃さないうちに早く屋根裏を出ましょう)

優花里【頭に(ry】(・・・このままだと私の体も危なくなりますし)

~~~~~

優花里(西住殿は再び広い道へ歩き出しました)

優花里(こちらも変装して追いかけます!)

みほ【帽子マスクコート】(・・・)スタスタ

~~~~~

優花里【シルバーカーを押す老婆】(ちょうど上手い具合に荷物の中に変装キットがありました)

優花里【シルバーカー(ry】(これなら誰も私だと気づかないでしょう!)

優花里【シルバーカ(ry】(しかし、西住殿の歩くスピードが速くなっています)

優花里【シルバー(ry】(バレない変装をしたので、警戒して歩く必要がないという事でしょう)

優花里【シルバ(ry】(ここまで来て見逃してしまってはいけません。気付かれないよう追いかけますが・・・)

優花里【シル(ry】(老人が歩くスピードではないですね・・・怪しまれなければいいのですが)

みほ【帽子マスクコ(ry】(・・・)自動ドアウィーン

優花里【シ(ry】(あの建物は・・・!?)

優花里【(ry】(「大洗美容クリニック」・・・整形外科があります!)

優花里【(ry】(まさか西住殿は整形美人だったのですか!?)

優花里【(ry】(・・・中を覗いてみましょう)

みほ【帽子マスク(ry】「――――」

受付「――――」

優花里【(ry】(・・・受付を終えてすぐに整形外科の診察室へ入っていきました)

優花里【(ry】(予約をしていたのでしょうか、受付からの動きはとてもスムーズです)

優花里【(ry】(そ、それにしても・・・まさか西住殿が美容整形に通っていたなんて・・・)

優花里【(ry】(確かに秘密にしたいでしょうから、夜に一人で行くのも納得でありますが・・・)

優花里【(ry】(私たちに見せてくれた麗しい顔は、すべて作り物だったというのですか!?)

優花里【(ry】(どどどどうしましょうどうしましょう!もうまともに西住殿の顔を見られないであります!!)

――翌日

みほ「今日も戦車道の練習、頑張りましょう!」

全員「ハイ!」

優花里(昨晩はほとんど眠れませんでした・・・その反動で午前の授業からウトウトしっぱなし・・・)

優花里(冷泉殿ではありませんが、朝なんて来なければいいのに、と思いっぱなし・・・)

優花里(西住殿と顔を合わせるのがこんなに辛い日が来るなんて・・・)アノ…

優花里(もし西住殿に、あの笑顔で声をかけられたら・・・)ユカリサン…

優花里(私は、私はいったいどうすればいいのでありますか!?)キコエテイマスカ…?

優花里(さっきから何やら幻聴が聞こえてきます・・・寝不足で疲れているのでありましょうか・・・)ユカリサーン!

優花里(ハハハ・・・そうですね・・・なんだかあの時から、自分だけ遠い世界に放り込まれた感じですし)キコエマスカ!?

優花里(まるでそんな遠い世界にいる私に西住殿が呼び掛けているような・・・)ダイジョウブデスカ!?

優花里(えっ・・・西住殿?)

みほ「優花里さん!聞こえますか!?大丈夫ですか!?」

優花里「あ・・・西住殿!」

みほ「あぁ、よかった・・・意識が遠のいていたみたいでしたよ」

みほ「今日は朝から疲れているみたいだけど、練習は休んで見学する?」

優花里「い、いえ!それには、お、およびません!」

優花里「ちょっと寝不足で・・・大丈夫です!装填ならまかせ・・・て・・・」クラッ…

みほ「やっぱり疲れています!無理しないで今日は休んでください!」

優花里「め、面目・・・ありません・・・」

みほ「・・・」

~~~~~

優花里「すみません、西住殿。練習中なのに保健室まで送っていただいて」

みほ「ううん、仲間なんだもの。危ない時は助けないと」

みほ「・・・ねぇ、優花里さん。やっぱり、私の顔の事、気にしていたのですか?」

優花里(えっ!?バレていたのでありますか!)

優花里「す、すみません!昨日の夜に一人で行くと聞いたので、心配になって・・・」

優花里「その・・・こっそりついてきてしまいました」

みほ「犬小屋にいた時からわかっていたよ」

優花里(そこからバレていましたかー!)

みほ「それで、美容整形に入ったところまでは見ていましたね」

優花里「は、はい。そうであります」

みほ「昨日は予約していました。いつものお医者さんに、顔の骨の矯正をしてもらっていたのです」

優花里「そうでありましたか」

みほ「一昨日から表情を作るとき、痛みがあったから。今はもう大丈夫だから心配しないで」

優花里「はい!こちらこそ、ご迷惑をおかけしてすみませんでした!」

優花里「・・・ですが、どうしてもわからない事があります」

みほ「何ですか?」

優花里「昨日されたのは顔の骨の矯正という事でしたが、元々整った顔の西住殿が、それをする必要があったのでしょうか」

優花里「表情を作るのに痛みがあったとおっしゃいましたが、普通に生活してそんな事があるのでしょうか」

みほ「・・・」

優花里「無礼を承知で申し上げます。どうしても気になって仕方がありません」

優花里「西住殿が整形に通っておられるのは、もっと深い理由があると思います!」

優花里「差し支えなければ教えて下さい!整形に通っている本当の理由を!」

みほ「・・・広げる、求める、そして後悔する」

優花里「?」

みほ「何かわかりますか?優花里さん」

優花里「はあ、ちょっとわからないであります」

みほ「それは好奇心です」

優花里「好奇心」

みほ「それゆえに、知識を求めて、広げて、後悔する」

みほ「優花里さんは、私に対する好奇心のあまり、美容整形に通っていることを知って後悔した」

みほ「そして今も好奇心のために、私の事を知ってさらに後悔を深めようとしている・・・そうではないですか?」

優花里「・・・世の中には、知らなくてもいい事がたくさんあると思います」

優花里「ですが、だからといって知らないままでいるのは、知る後悔よりも辛いと思います」

優花里「私は、西住殿の事をもっと知りたいのです!」

みほ「・・・」

優花里「それで嫌われるのなら・・・仕方のない事だと思っています。伝える事で辛い思いをする事だってありますから」

優花里「嫌な事を知ってしまっても、それだって仕方のない事・・・」

優花里「ですが、内に秘めているままでは、解決する悩みも解決できない」

優花里「誰かに伝える事で、悩みを少しでも楽にできるかもしれません」

優花里「その事を気兼ねなく話せる相手ができますから!」

優花里「それで西住殿の気持ちを少しでも晴らす事ができれば・・・そう思っているのであります!」

みほ「・・・わかりました」

みほ「そこまで知りたいというのなら、優花里さんの好奇心に応えます」

優花里「! ありがとうございます!!」

みほ「悩みを共有することで、お互い助けになるかもしれません」

みほ「戦車に詳しい優花里さんなら、私の話もきっと理解してくれると思います」

みほ「ですがこの事は、二人だけの秘密にしてくださいね」

優花里「了解であります!」

みほ「では、まずこの写真を見てください――」

――数日後、知波単学園艦に向かう輸送船上。

優花里「今日は知波単学園へ、先のエキシビジョンおよび大学選抜戦のお礼に向かうであります!」

優花里「お土産の干し芋を大量に用意したので、輸送船をチャーターしました」

優花里「すべてのコンテナに、大洗銘菓紅子芋が満載であります」

優花里「知波単学園の食糧事情を考えての事ですが・・・どうやってこんなに集めたのでしょうか?」

優花里「まあそれはそれとして、私は個人的に知りたい事があって知波単学園へ向かいます!」

優花里「知波単戦車道の隊長を務めておられます、西絹代殿!」

優花里「エキシビジョンで初めてお会いしましたが、西住殿に負けないぐらい端正な顔立ちでいらっしゃいます」

優花里「西住殿の話を聞いてから、戦車道に打ち込む麗しの女性に、俄然興味が湧いたのであります!」

優花里「2年生で隊長を任されるほどの方です。どれほどの苦労をされてきた事でしょう・・・」

優花里「そしてその苦労の結果、整形をせざるを得ないのでしょうか・・・」

優花里「好奇心全開で、根掘り葉掘り聞いちゃいますよー!」

~~~~~

優花里「ここが知波単学園ですかー。三段甲板の学園艦と聞いておりましたが」

優花里「いやあ!大きい!」

優花里「大洗の何倍はあろうかという大きさです!」

優花里「これほどの大型艦とあっては乗員も相当な人数でしょう・・・干し芋満載でも全員分には足りないかもしれません」

優花里「では早速入船手続きを済ませて・・・おや?なんだか船上が賑やかですね」

優花里「アンツィオ高校に潜入した時を思い出しますね。祭りか何かでしょうか?」

優花里「とにかく、まずは西殿にお会いするであります!」

~~~~~

絹代「『日出処の学園艦へご挨拶申し上げます。恙無きや――』」

絹代「・・・立派な文章だな。我が知波単学園も見習いたいところだ」

絹代「大洗女子学園とは今後とも昵懇の間柄でありたい。お土産と共に、喜んで入船を許可します」

優花里「ありがとうございます!」

優花里(この手紙を書いたのは、おそらく河嶋殿でしょうね)

絹代「さて、堅苦しい話はおしまいにして、干し芋とお茶で語らいましょう。そちらの座椅子にかけて下さい」

優花里「この一角だけ畳が敷かれていますね。座卓もあります」

絹代「ああ、聖グロリアーナさんみたいに立派な茶室はないけど、おもてなしの心は忘れてはならないからな」

福田「隊長、秋山どの。お茶のご用意ができたであります」

絹代「粗茶だが、どうぞ召し上がって」

優花里「潮風に当たり続けた身に、温かいほうじ茶が体にしみわたります!」

絹代「せっかく来てくれたんだ。戦車道の事はもちろん、色々な話をしよう」

~~~~~

絹代「いやあ、秋山さんの話は実に興味深い!わたくし、戦車についてこれほどまでに詳しい方には、初めてお会いしました!」

優花里「そんな、私なんてまだまだであります!」

優花里「西殿こそ知波単学園の隊長を務めておられる身であります。様々な努力や苦労があったのではありませんか?」

絹代「ん・・・あぁ、そうだな。確かに苦労はした」

優花里(苦労!まさか西住殿と同じでは!?)

優花里「あのう、恐れながらお聞きしたいのでありますが」

絹代「なんだ?」

優花里「もしかしてその・・・戦車道をやっていて、顔が変わってしまうぐらいの大ケガをされたりとか・・・」

絹代「えぇ?戦車でケガなんてした事ないよ。戦車道を始めたのはそんなに昔じゃないしね」

優花里「そうなんですか?」

絹代「私の顔は、子供の頃から『平たい顔族』なんて言われるぐらい大きい顔だったのだが、それが変わったきっかけは、アレだよ」

優花里「アレ・・・といいますのは?」

絹代「なんだ?船上が賑やかな理由を知らないのか?」

絹代「明日は学園艦バイクGPが行われるんだ。私はその選手として出場する」

優花里「あっ!もしかして愛車のウラヌスに乗って!」

絹代「そうそう!なんだ知っているじゃないか。私はウラヌスに幼い頃から乗っていて――」

~~~~~

絹代「――であって、ウラヌスの機嫌が悪い時は必ず・・・」

優花里(西殿のウラヌス談話の中でわかったのは、幼い頃に落車して何度も大ケガを負った事)

優花里(その度に顔を手術して、結果的に端正な小顔になったという事です)

優花里(何にしても、西住殿が美容整形を受けていた理由と、どこか似ていますね・・・)

――回想。みほが優花里に写真を見せる。

優花里「この写真に写っているのはご両親でありますか?」

みほ「そう。結婚式の時の写真。お父さんの顔・・・どう思う?」

優花里「どうと言われましても・・・大きな顔ですねとしか」

みほ「うん。本当に大きな顔なの」

みほ「西住流は、顔の大きい人と結婚しなければいけない」

優花里「そんな決まりがあるのですか?」

みほ「次の写真を見て」

優花里「わぁ、可愛いですぅ~。もしかして西住殿が赤ちゃんの時の?」

みほ「そう。産まれてまだ1か月ぐらいの時に、家族と撮った写真なんだけど・・・」

みほ「本来ここにいるはずの人がいないよね?」

優花里「? えぇっと・・・あっ、お姉さんのまほ殿がいません」

みほ「そう。この写真にお姉ちゃんがいない」

みほ「どうしてだと思う?」

優花里「うぅん・・・保育園に行っていたのでありますか?」

みほ「娘が保育園に行く日に家族写真を撮る?」

優花里「あっ、そうでありますね・・・では一体どうして」

みほ「病院にいたの」

優花里「病院?何か病気にかかったのですか?」

みほ「・・・」写真を見せる

優花里「こ、この写真は・・・!」

みほ「実写版ボコって言えば聞こえはいいけど」

優花里(いいのでありますか!?)

みほ「お姉ちゃんの手術後の写真」

みほ「前日に戦車を運転していたところ、頭から落ちて大ケガをしたの」

みほ「そのまま血だらけの状態で家に帰って来て、すぐに病院へ送られたみたい」

みほ「そこから緊急入院。全身傷だらけだったけど、頭のケガはひどかった。骨を削る大手術で・・・」

みほ「この時の手術以降、お姉ちゃんも整形通いを続けています」

優花里「まほ殿を乗せて誰かが運転していたのでありますか?」

みほ「ううん、お姉ちゃんが運転していたの」

優花里「エェーッ!?」

優花里「いや、でも普通操縦席に座っていたら・・・実際に操縦できるかはともかく、外へ放り出される事はないのでは・・・」

みほ「お姉ちゃんは才能があるから、操縦席にいなくても戦車を動かす事は大丈夫」

優花里「いやいやいや」

みほ「それよりも、戦車が走っている時の外の景色を見てみたかったんだと思う」

みほ「まあ、西住流はみんなそんな人ばかりですし」

優花里「西住流は、という事は・・・」

みほ「私が運転していた戦車から落ちたのは、1歳の誕生日の時が最初でした」

優花里「そんな友達の家でお茶でも飲んできたかのような口調で言わないでください!」

優花里「しかも最初って何ですか!二回も落ちたのでありますか!?」

みほ「うん。最初に落ちた4か月後、骨がようやく安定してきた時にまた落ちました」

優花里「西住家のみなさん誰か止めてあげてください!」

みほ「この時のケガがひどかったので、それ以降はしばらく運転をさせてもらえなくなりました」

みほ「その代わりに通信手や射手の経験をして、お姉ちゃんをサポートできるようにと」

みほ「2歳になってケガが癒えた頃に、車長として演習に参加し始めました」

優花里(2歳で車長・・・西住流ってスゴイデスネー・・・)

みほ「ここで、私が赤ちゃんの時の写真をもう一度見てほしいのですが」

優花里「特に頭が大きいですね・・・これがケガのために・・・」

みほ「うん。戦車から落ちるのは当たり前だから、こうやってあらかじめ大きな頭にしておいたら」

みほ「ケガをして手術をしても、ある程度形を保てるのです」

優花里「もしかして、お母さんもケガをして・・・」

みほ「うん。3回ぐらい落ちたらしいの」

みほ「だから余計に顔が細く小さくなっているみたい」

~~~~~

優花里(とまあ、西住殿は幼い時から戦車に馴染むあまりケガを繰り返して)

優花里(整形手術をしなければ生きられない体になってしまったという事でありました)

優花里(で、西殿でありますが・・・)

絹代「秋山さん!聞いていますか?」

優花里「あっ!えぇっと・・・すみません、一度にたくさんお話されたので」

絹代「あはは。まあ百聞は一見に如かずだ。明日の学園艦バイクGPは、是非見ていくと良い」

絹代「今年は聖グロリアーナやサンダースからも参戦して来る。昨年の優勝者として、恥ずかしくないレースをお見せしましょう!」

優花里「はい。応援するであります!(なんと、西殿は昨年優勝していたでありますか)」

――翌日。

知波単生徒「さあさあ今日は祭だよ!学園艦バイク大会!今年は我らが知波単学園での開催だ!」

細見「知波単名物銀シャリ弁当だ!限定100食!ここでしか食べられないぞ!」

福田「細見殿!100食作るにはお米が足りないであります!」

細見「なんだと福田ァ!配給の米はどうしたァ!?」

福田「も、申し訳ありません!今年は米が不作で量が少ないのであります!」

細見「なぁにぃ~!米は我々知波単の命だろうがァ!これより我々は学園艦商工省に突撃する!福田!お前は店番だ!」

福田「了解であります!」

~~~~~

優花里「いや~すごく賑やかです!」

優花里「あちこちで出店が並んでおります。所々で食べ物の香りが心地いいですね」

優花里「なぜかバラックの建物や、ゴザやムシロで敷いただけの店が多いのが気になりますが」

優花里「・・・おや?あの戦車をかたどったお店はもしかしなくても!」

ペパロニ「アンツィオ名物鉄板ナポリタンだよー!」

ペパロニ「ヘーイそこのカノジョ・・・って、以前食べに来てくれたよな?」

優花里「えっ!それはその・・・」

ペパロニ「いやー嬉しいな!常連さんじゃねーか!今日もおいしく仕上がっているよー」

優花里「そ、そうですか!喜んでいただきます!(偵察の事は忘れていますね)」

ペパロニ「今ちょうど出来上がるんだ。はいお待たせ!300万リラ!」

優花里「300円ですよね」

ペパロニ「いや、ここの為替レートだとわずか30銭らしいぞ」

優花里「えぇ?そんな細かいお金持っていませんよ!」

ペパロニ「なーんて冗談。300円だよ」

優花里「30銭の方が安いですけどね」

ペパロニ「そんな金額じゃあアンチョビ姐さんに泣きつかれちゃうよ!」

優花里「そういえば今日は一人だけですか?」

ペパロニ「いや、カルパッチョが艦の反対側でピザの屋台を出しているぞ。姐さんもそっちを見ているんだ」

ペパロニ「こっちは人手こそ少ないけど、料理に抜かりはないからな!」

優花里「うーん!ふわふわの卵とパスタの絡み具合が最高だぜぇぇぇぇ!」

ペパロニ「いよっ!いい食べっぷりだね!」

優花里「ところでペパロニ殿は、戦車道をやっていて苦労した事はありますか?」

ペパロニ「戦車道で苦労?いやーそりゃもう大変だよ!」

優花里「ど、どんな事があったのでありますか!?」

ペパロニ「ず、ずいぶん真剣な顔だな。まあいいや!これからペパロニの苦労話、たんと聞かせてやるからな!」

ペパロニ「耳の穴かっぽじって、よおく聞いてくれ!」

優花里「は、はい!」

~~~~~

ペパロニ「――でさあ、今度はP40の修理のためって、一日のお菓子がまた減らされたんだ」

ペパロニ「姐さんが『募金も大事だが、まずは私たちの倹約からだ!知波単を見習え!』って言うもんだからさー」

ペパロニ「まあそれでも知波単に比べれば、三食をケチケチしないだけマシかなー、なんてね」

優花里(そういう苦労話を求めていたわけではなかったのですが、期せずしてアンツィオ高校の内情を知る事は出来ました)

優花里(この話は後で生徒会に持ち帰っておきましょう)

♪フニクリ フニクラ フニクリ フニクラ~

ペパロニ「おっとすまない。姐さんから電話だ。まあ苦労といえばそんなところだな!アリーヴェデルチ!」


ペパロニ「はい、ペパロニッス!」

アンチョビ「ヘーイペパロニ、そっちはどうだ?」

ペパロニ「いやー絶好調ッスよ!開店して1時間も経っていないのに300食も売り上げました!」

アンチョビ「・・・ペパロニ、今何時だと思っている?」

ペパロニ「えっ?朝7時半に開店して、そっから1時間も経っていないから・・・8時まわったぐらいっすかね?」

アンチョビ「ペパロニィっ!名古屋のモーニングのつもりか!誰が朝早い時間からやれと言った!」

アンチョビ「大会はお昼の後!14時からだぞ!それに合わせるように10時から店を開くって言ったじゃないか!」

ペパロニ「あーすいませーん。知波単のみんなが物欲しそうに並んでたんでついやっちゃいました」

ペパロニ「それに今日は結構数ありますよ。全部売りさばくには早く開けちゃった方がいいんじゃないッスかー?」

アンチョビ「今日は一人なんだぞ!全部売ったら自分で食べる分はどうするんだ!休む時間は!」

ペパロニ「いやー、なんかここにいるとつい働きたくなっちゃうんッスよね。まあ郷に入れば、って事で」

アンチョビ「それとこれとは別だ!とりあえず今からそっちへ行く!」

ペパロニ「了解ッス!」

優花里「ここがバイクGPの会場であります」

優花里「スタートから学園艦を一周して、その後会場内の障害コースを走破してゴール」

優花里「広い学園艦を全速力で走ってからの障害コースですか・・・並のバイクでは完走もおぼつかないですね」

優花里「それにしても、ここはここでずいぶん賑やかですね・・・」

知波単生徒「今日の新聞だよー。西隊長が跨る世紀の一戦が始まるよー」

名倉「池田はもう買い終わったか?」

池田「勿論!隊長のウラヌス単勝一点買いだ!あとは知らん!」

浜田「射幸心をあおる車券を買うのは・・・」

寺本「浜田殿何を言うでありますか!我々知波単学園の代表ですぞ!名倉殿も早く買うであります!」

名倉「言うまでもない!これより窓口へ突撃するぞ!」

寺本「おー!突撃であります!」

浜田「お、おい!待ってくれー、私を置いていくなー!」

優花里「なになに?出車表・・・」

1番ウラヌス(知波単)
2番サタデーサイエンス(サンダース)
3番ナイスネエチャン(知波単)
4番グランドマーティン(大洗女子)
5番フランチャン(聖グロリアーナ)
6番タマーキン(アンツィオ)

優花里「あれー!大洗からも出ていますよ!」

優花里「もしかして自動車部から参戦してきたのでしょうか?」

優花里「うむむ、西殿の応援のつもりで来たのですが、さすがに自分の学校を応援しないわけにはいきません」

優花里「応援のつもりでちょっとばかり車券を・・・うわ!大洗の単勝オッズ高すぎ!(単勝144倍)」

優花里「いくら地元のエースが一本かぶりの人気(単勝1.0倍)とはいえ、これはすごすぎますね・・・」

玉田「おや?君はたしか、昨日隊長へあいさつに来られた」

優花里「あっ、ハイ!そうです!私が大洗女子学園の秋山優花里であります!」

玉田「そうか。知波単学園へようこそ。私は戦車道履修生の玉田。今日は大会の発走係を務めさせていただく」

優花里「なるほど、それで制服姿なんですね」

優花里(あれ?知波単学園の制服ってパンツァージャケットと同じでしょうか?)

玉田「もしかして、隊長に応援してくれと頼まれたのかな?」

優花里「はい。でも、大洗からも代表が出ているので、私としてはやはりそちらを応援したく・・・」

玉田「ハハハ、そうだろうな。気にせずじゃんじゃん応援車券を買うと良い」

優花里「ええ?それじゃあ西殿との約束が!」

玉田「いや、その分少しでも私たちに配当がまわるからな」

優花里(あぁ、そういう事でありますか)

玉田「私なんかほら、隊長の単勝車券に全財産を突撃させたぞ」

優花里「うわあ・・・(これで全財産というのは少なすぎるのでは・・・)」

玉田「ま、本気で応援するならこれぐらいしないと!(校内随一のお大尽に恐れをなしたようだな)」

玉田「ところで、隊長にお会いしたという事は、愛車ウラヌスと共に知波単戦車道隊長の座をつかみ取った事も当然聞いたのだな」

優花里「えっ?そんな事があったのですか?」

玉田「えぇ!?隊長がその話をしていなかったのか!?信じられん・・・」

玉田「まあ、君が忘れているだけかもしれないな。今からする話だけは覚えておいてくれ」

優花里「は、はい(うぅ、話を上の空で聞いていたのはまずかったですね)」

玉田「隊長は昨年黒森峰で行われたバイク大会で、ウラヌスに乗って優勝された」

玉田「それも1年生にして、だ。空前の快挙は瞬く間に知波単学園に轟き渡り、学園長から隊長に恩賞を与える事となった」

優花里「それが戦車道隊長の座であった、という事ですか?」

玉田「そうだ。知っての通り、知波単学園は上下関係が厳しく、1年生が隊長を務める事は前例がない」

玉田「だが、隊長ならその先鞭をつけるに相応しいと、こういう運びとなったわけだ」

優花里「西殿にとっても誇らしい事でありますね」

玉田「いや、誇らしいばかりじゃない・・・下級生、1年生が隊長など、知波単では考えられない事」

玉田「そんな学校で上級生を懐柔して戦車を率いるには、おっそろしく困難な道のりが待っていた」

玉田「多くの戦車道履修者は、バイクで『成り上がった』後輩の指示には簡単に従わなかった」

玉田「一挙一動些細な事であっても、口が酸っぱくなるほど言いがかりをつけてきた」

玉田「礼式に少しでも乱れがあれば、黙って練習から立ち去る者も少なくなかったな」

玉田「そんな先輩達を相手にするわけだ。隊長の志、強靭であっても、務まるものではない・・・」

優花里「なんてひどい・・・」

玉田「隊長は学校からの期待と先輩からの強圧で、心身共に限界に達していた」

玉田「春を迎える頃に、隊長の座を先輩に譲ったんだ。そして・・・」

優花里「先の大会での一回戦負け、ですね」

玉田「辻前隊長は、典型的な知波単の伝統の信奉者だった。練習といえば突撃、日常生活でも吶喊精神を忘れるなかれ・・・」

玉田「・・・西隊長は突撃の伝統を大事にされるが、それは気持ちの上であって、戦車道の事を考えると本意ではないと思う」

玉田「隊長として知波単戦車道を率いる身であるならば、全国大会や大学選抜戦の戦訓を活かして改革に勤しみたいのだろう」

玉田「だが、理由はどうであれ隊長はかつてその座を降りた身」

玉田「自身への不安、周囲の人々、あらゆるものが隊長を苦しめている」

優花里「そこで、再びバイクに乗って優勝し、自信を取り戻そうと!」

玉田「失ったものを取り戻すために、今日の大会は決して負けられない・・・」

玉田「隊長にとっては、単にバイクの走りを見せるだけの大会ではない。知波単戦車道のこれからをうらなう大事な戦いなんだ!」

玉田「それを、覚えていてもらいたい・・・」

優花里「そんな事があったのですね・・・ありがとうございました!」

玉田「うむ!では、両校の健闘を祈る!」

優花里「えぇ、これは戦車道の苦労としては、相当なものでありました」

優花里「凛々しいお顔の裏には、苦しい過去があったのですね・・・」

優花里「それでも私たちの前では、麗しい顔を崩す事無く、堂々とした立ち居振る舞いを見せてくれていました」

優花里「戦車道を通した苦労が生み出した、美しい姿という事でありますね」

優花里「女性の嗜みである所以であります!」

パーンパパパーンパパパーン デデデデン

優花里「あっ!発走の時間!」

優花里「応援車券買い損ねちゃいましたね・・・でも、応援は車券を買わなくてもできますから!」

優花里「観客席へ突撃でありまーす!」

続きは来週。

~~~~~

1着 ウラヌス(操縦者:西)
2着 グランドマーティン
3着 ナイスネエチャン

以下競走中止 
サタデーサイエンス(障害飛越の際に落車)
フランチャン(燃料切れの為)
タマーキン(操縦者アンチョビが店番の為)


優花里「くぅ~惜しかったです!会場の障害コースで西殿に逆転されてしまいました」

優花里「グランドマーティンのスズキ殿が最初に会場へ戻った時にどよめきが起こりましたが」

優花里「それに飲みこまれてしまったのでしょうか・・・飛越のミスなどでスピードが落ちてしまいました」

優花里「もたついてしまったところを颯爽と走り抜けていくウラヌスと西殿には、天が割れ、海が裂けるほどの大歓声が送られていました!」

優花里「まさにホームグラウンドの力であります!」

優花里「来年は西殿の三連覇に期待がかかりますが、大洗だって負けてはいませんよ!」

優花里「スズキ殿が引退しても、誰かがきっとリベンジしてくれるであります!」

絹代「あぁ、秋山さん。こちらにおいででしたか」

優花里「西殿!素晴らしいレースでしたね!」

絹代「いや、最後は大洗のバイクが相手でしたから・・・悪い事をしてしまいました」

優花里「でも、勝負でありますから!」

絹代「そう言ってもらえるとありがたいです!私も、再び知波単の代表として認めてもらえる結果を残せました」

優花里「今度こそ、隊長として知波単戦車道を導けますね!」

絹代「あの時は先輩方や、同級生、後輩に迷惑をかけてしまった・・・今更お詫びの言葉もありません」

絹代「それでも今、あらためて隊長に任命された。私にもう一度機会を与えてくれた事への感謝はもちろんですが」

絹代「敢闘むなしく敗れてしまった仲間たちの為にも、強い知波単を取り戻す責任があるのです!」

絹代「大洗女子学園には、どうかこれからも、御指導御鞭撻願いたいものであります」

優花里「こちらこそ、できる事からお互い協力していきましょう!」

絹代「ありがとうございます!それでは、またお会いしましょう!」

――さらに数日後、プラウダ高校学園艦へ向かう輸送船上。

優花里「不肖秋山優花里!本日はプラウダ高校へ訪問であります!」

優花里「秋季大会前の練習試合をプラウダ高校と行うのでありますが、その最終打ち合わせに参りました!」

優花里「今回のお土産は・・・これまたコンテナにたくさん入っていますねぇ」

優花里「高校生向けに開発されたノンアルコールリキュールらしいですが、プラウダの皆さんのお口に合うのでしょうか?」

優花里「辛口のノンアルコール杏酒は、カチューシャ殿には合わないかもしれませんね・・・」

優花里「そうそう、カチューシャ殿といえば、大きな頭に似合わない小さな体が特徴的です」

優花里「これまで頭から落ちて顔が小さくなった人の話は聞いてきましたが」

優花里「カチューシャ殿の場合は、いったいどうしてこんなアンバランスな体になってしまったのでしょうか?」

優花里「・・・ちょっと怖い気もしますが、好奇心に勝るものはありません!」

優花里「話を聞けるチャンスがあるなら狙ってみたいですね」

~~~~~

優花里「プラウダ高校に着きました!うぅー、秋だというのに冷えますねー。雪が結構積もっています」

優花里「雪の重みで学園艦が沈没したりする、なんて事になったらシャレにならないですね」

ニーナ「おぉ、おめぇが大洗がら来だ生徒だか?」

優花里「はい!大洗女子学園の秋山優花里であります!」

アリーナ「そかそか、よぉくこごまで来でぐれただ!」

ニーナ「外におったらしばれるのぅ。はよ校舎ン中入るべ」

優花里「ありがとうございます。・・・おぉ、中は暖かいですね。生き返ったようであります」

アリーナ「そらよがっだ!隊長は今お昼寝の時間だで、中を見学していぐといいべ」

ニーナ「準備がでぎたら放送で呼ぶべさ」

優花里「校舎のあちこちに暖炉があります。これが中を暖めているのですね」

優花里「自動販売機も見受けられますね。『あったか~い』飲み物でいっぱいです」

優花里「ほおほお、『あったか~い』ボルシチ缶なるものがあります。飲んでみましょう」

チャリン ピッ ガチャコン

優花里「スプーンが付いています。フタを開ければそのままいただけますね」

優花里「缶の側面には『肉野菜・サワークリーム入り』とあります。『よくかき混ぜてお召し上がりください』とも書かれています」

優花里「まずは一口・・・うん、なかなかいけますね!」

優花里「こうしたあったか~い食事が雪上戦を支え、プラウダ高校を強くしているのかもしれません」

優花里「戦場の気候に応じた戦闘糧食を、大洗でも開発すべきでしょう!」

ピーンポーンパーンポーン

放送≪大洗女子学園の秋山様。3階隊長室へお越しください≫

優花里「おっと先方の準備ができたようであります。早速3階へ・・・」

放送≪Акияма, как пришедший из Оараи школу для девочек.≫

放送≪Пожалуйста, приходите на третий этаж капитана комнаты.≫

優花里「なんと!ロシア語でも放送されるのでありますか!」

(本文中のロシア語は、すべてGoogle翻訳を元に作成しております。間違っていても許してねー)


クラーラ「То есть, потому что есть люди, которые японцы не знают.」

優花里「えっ?えっ??ハラショー?ピロシキ??プルシェンコ?スタルヒン??」

優花里「すみません、ロシア語はさっぱりなんです!」

クラーラ「大丈夫ですよ。私は日本語が堪能ですから」

優花里「おぉそうでしたか・・・私に何か御用でありますか?」

クラーラ「ここに来るのは初めてですよね?カチューシャ様をお待たせしてはいけませんから」

クラーラ「私が隊長室までお連れします」

優花里「それは助かります!校舎が大きくて複雑な階層なので、迷っちゃいそうでした」

~~~~~

クラーラ「Это капитан номер.」

優花里「ええっと・・・隊長室ですね。ありがとうございました!」

クラーラ「Откройте дверь.」ドアガチャー

カチューシャ「よく来たわね!私がプラウダ高校隊長のカチューシャ様よ!」

優花里「存じております」

カチューシャ「ミホーシャから話は聞いているわ。練習試合の準備に来たのね」

優花里「・・・と、書類は以上であります」

カチューシャ「ノンナ、任せたわ」

ノンナ「はい」

カチューシャ「ま、細かい事は置いといて、ミホーシャの友達には聞きたい事がいっぱいあるわよ!」

カチューシャ「アンタは特にミホーシャに熱が入っているそうね?西住家の秘密まで聞いたそうじゃない!」

優花里(!)

カチューシャ「このカチューシャ様の目から逃れようたってそうはいかないんだから!」

カチューシャ「ミホーシャがアンタに話した秘密。私に言うまでここから帰さないからね!」

優花里(うーん、なんだかまずい空気・・・)

カチューシャ「ま、すぐに話してもらおうとは思っていないわ」

カチューシャ「お茶とお菓子を食べるにはちょうどいい時間だし、それからにしましょ!」

優花里「えぇ、そうですね。いただきます」

カチューシャ「この前に里帰りしていたクラーラがお土産を持ってきたのよ。どんなお菓子かしら・・・」

優花里(とりあえず、危機は先送りされた感じですね・・・)

優花里(クラーラ殿はロシアの出身でしたね。うーむ、チャイでもいただく事になるのでしょうか?)

クラーラ「Спасибо вам за ожидание.」

優花里「わあ!ロシアンチャイとベリーのジャムです!・・・そしてこれは?」

カチューシャ「レンガみたいな見た目のお菓子ね。私も初めてだわ」

クラーラ「Это закуска называется халву.」

カチューシャ「クラーラ!日本語で話さないとわからないでしょ!」

ノンナ「ハルヴァ、というお菓子です」

優花里「なるほど、ハルヴァというのですか」

カチューシャ「ふーん、で、美味しいの?」

ノンナ「カチューシャのお口によく合いますかと」

優花里「食べてみてからのお楽しみですね」

カチューシャ「まあ何でもいいわ!早速いただくわよ!」

カチューシャ「・・・うん、なかなか美味しいじゃないの!見た目ほど硬くないし」

ノンナ「ロシアのハルヴァは甘くて濃厚な味わいが特徴の練り菓子です」

カチューシャ「細かくしたナッツが入っているのもあるわ」

優花里「ナッツ以外にも植物の種などが入っていて、色々な味が楽しめますね!」

カチューシャ「さて、本題に入るわよ」

優花里(うーん、やはり始まりましたか・・・)

カチューシャ「KKB(カチューシャ様安全委員会)の報告によると、およそ2週間前、ミホーシャと長時間二人っきりになった人物がいた」

カチューシャ「その人物の名は、秋山優花里。言うまでもなくアンタの事ね」

カチューシャ「戦車道の授業中に倒れたところを保健室へ連れて行き、そこに長時間在室」

優花里「その時に、私と西住殿が何を話していたのか、と」

カチューシャ「話がわかって助かるわ」

カチューシャ「さあ、話してちょうだい!ミホーシャとの間で何があったのかを!」

優花里「お断り申し上げます」

カチューシャ「即答ね。まあ、嫌でも吐かせてやるんだけど」

優花里「墓場まで持って行く秘密でありますから」

優花里「そもそもカチューシャ殿は、なぜ私から西住殿の秘密を聞こうとするのでありますか?」

カチューシャ「アンタがミホーシャに一番近い人物だから・・・これで理由にならないかしら?」

優花里「では、カチューシャ殿が西住殿に近づけば、それで西住殿の秘密もわかりますよね?」

カチューシャ「私はプラウダ高校の隊長よ!アンタはミホーシャの装填手。これより近い人なんているの?」

優花里「何も、距離や立場の事を、言っていませんよ」

優花里「大事なのは、相手と信頼を築き、よき話し相手となる・・・」

カチューシャ「ミホーシャと?」

優花里「西住殿と、もっと仲良くなりたいという気持ち・・・」

優花里「それはご自身で・・・当然持つものとして・・・」

優花里「やはり、西住殿が、カチューシャ殿と・・・仲良く、したいと思えるよう・・・」

カチューシャ「ミホーシャが私と仲良くなりたいって思わせればいいの?」

優花里「・・・お互い、大事な・・・存在だと、そう・・・思いあう事・・・」

優花里「さっきのチャイに・・・何か混ぜていたのでしょうね。頭が・・・ぼおっとしています」

優花里「ですが・・・これだけは、言わせてください」

優花里「西住殿は・・・カチューシャ・・・どのも・・・」コテン

カチューシャ「・・・寝ちゃった」

カチューシャ「喋らせるために薬なんか使うんじゃなかった・・・」

~~~~~

優花里「う・・・ん・・・」

ノンナ「お目覚めですか?」

優花里「は・・・ハイ!どうやらそのまま寝てしまったのですね」

優花里「ふかふかしたベッドであります・・・」

ノンナ「カチューシャ専用のベッドです。ここはカチューシャの寝室です」

優花里「カチューシャ殿の・・・」

ノンナ「貴女をそこへ寝かせておくようにと。体調が戻れば、隊長室へご案内します」

優花里「あ、ありがとうございます」

優花里(体調と隊長・・・だからブリザードと呼ばれるのでしょうか?)

優花里「体の方はもう大丈夫です。お待たせするわけにはいきませんので早速行ってもいいですか?」

ノンナ「どうぞ」

カチューシャ「ユカーシャ、さっきは悪かったわ」

優花里(開口一番名前で呼んでいただけました。思うところがあったのでしょうね)

カチューシャ「自分勝手にミホーシャの事を聞き出すなんて、これじゃ仲良くなんてなれないもの」

カチューシャ「ミホーシャの事はミホーシャに!私から会って話をしに行くわ」

優花里「それがいいと思います!」

カチューシャ「ふん!ユカーシャに言われなくたって、ちゃんと自分から挨拶ぐらい行くわよ!」

ノンナ「Легкий для понимания Tsundere.」

クラーラ「Это по-детски капитан.」

カチューシャ「ロシア語でものすごくバカにされた気がするわ」

カチューシャ「私だって、戦車道をやるまで大変だったんだから!ねぇノンナ!」

ノンナ「ッ!はい。それはもう・・・」

優花里(おや?何やら興味深い事になってきましたね)

ノンナ(・・・)

ノンナ「しかしその事は・・・」

カチューシャ「たしかに、あまり人前で話すような事じゃないけど」

クラーラ(?)

優花里(様子を見る限り、カチューシャ殿とノンナ殿だけが知っている事みたいですね)

優花里(それにしても、人前で話すのもためらう事とは一体・・・)

優花里「あの!」

ノンナ(!)

カチューシャ「なあに?」

優花里「差し支えなければ、カチューシャ殿が戦車道をやるまでの事を、教えていただければ・・・」

ノンナ「・・・」チャキ

優花里「ヒッ!それはスペツナズナイフ!」

クラーラ「Нонна!  Это опасно!」

ノンナ「カチューシャには二度と辛い思いをさせません」

優花里「や、やめてください!助けてください許してくださいお願いしますあやまります」

クラーラ「Не убивайте!」

ノンナ「覚悟!」

カチューシャ「ノ、ノンナ!やめなさい!ナイフをしまって!」

カチューシャ「ノンナ!何て事してくれるの!」

ノンナ「辛い事を思い出させようとした当然の報いです」

カチューシャ「バカ!せっかくユカーシャと仲良くなるチャンスだったのに!」

優花里「ふぇ・・・ぇ・・・」

クラーラ「Юкари это было недержание мочи из-за страха.」

カチューシャ「台無しじゃないの!あーもうユカーシャ。私でもこんな恥ずかしい事にはならないわよ」

カチューシャ「クラーラがいなかったら、私が掃除しなければならなかったじゃない!」

カチューシャ「大体それよりも!」

ノンナ「・・・」

カチューシャ「あ!や!ま!り!な!さい!」

ノンナ「優花里さん・・・大変失礼いたしました」

優花里「は、はひぃ・・・」

カチューシャ「ノンナ!いいかげん長い付き合いなんだから、私の気持ちぐらいわかってよ!」

カチューシャ「もちろんあの時は本当に苦しかったわ。でも、今こうしてプラウダの隊長をやっている」

カチューシャ「私は、辛くなんてないわ。むしろおかげで今の自分がある事がうれしいのよ!」

カチューシャ「辛い思いをさせない?私のために?何言っているの!」

カチューシャ「そうやって昔の事から逃げようとしているのは、ノンナ!貴女の方じゃないの!?」

ノンナ「・・・っ」

カチューシャ「・・・ユカーシャ。私の昔話を聞きたいのよね?」

優花里「あ・・・は、はい。せ、戦車道を・・・やるまでに、何があったのか、を・・・」

カチューシャ「クラーラ。チャイを用意して。今度は余計なもの入れちゃだめよ」

ノンナ「あの、私は」

カチューシャ「ノンナは座って反省しなさい!」

ノンナ「はい・・・」

カチューシャ「ユカーシャ。私からも謝るわ。こんな怖い事しちゃって、ミホーシャに合わせる顔がないわ」

優花里「いえ、そんな・・・カチューシャ殿が言う事では・・・」

カチューシャ「・・・ノンナって昔からこんなのよ。大事な人のためには、捨て身の覚悟で尽くそうとするの」

カチューシャ「そのせいで、今みたく他の人に危険が及ぶような事があるのは困るわ」

カチューシャ「私もちゃんとノンナの事をわかっていないとね・・・それじゃ!お茶をいただくわよ」

カチューシャ「ロシアンチャイは、ジャムと紅茶を交互にいただくのが正式な作法なのよ」

カチューシャ「なぜかこの飲み方を子供っぽいと言う人がいるみたいだけどね!」

優花里(カチューシャ殿の見た目がそう言わせているのですが、流石に黙っておいた方がいいですね)

優花里「紅茶といえばイギリスなだけあって、そちらの飲み方が第一とでも考えているのでしょうか」

カチューシャ「世界のあちこちで様々な特徴を持った戦車が出てきたように、紅茶だって世界が変われば色々な飲み方があるもの!」

カチューシャ「聖グロリアーナの紅茶自慢は結構!プラウダ式のチャイを楽しむわよ!」

カチューシャ「さて、そろそろ私の話をしよっか!・・・何から話そうかしら」

カチューシャ「そうだわ!中学生の時の写真を見せてあげるわ!」

カチューシャ「たしか部屋の上の棚に・・・」

クラーラ「私が肩車いたします」

カチューシャ「クラーラ!日本語で・・・喋っているわね。じゃあお願いするわ!」

ノンナ「・・・」グスン

カチューシャ「うー、んんん・・・」

カチューシャ「だめ・・・あと1センチ届かない・・・」

優花里「クラーラ殿が必死に背伸びしているのですが、アルバムに手が掛からないです・・・」

クラーラ「Это предел.  Я не могу растянуть больше.」

ノンナ「・・・」ウルウル

カチューシャ「ノンナ・・・」

ノンナ「・・・」プルプル

カチューシャ「ノンナがやった事は、確かに怖い事だわ。でも、そのせいで立ち止まったままでいるのがもっと怖い事よ」

カチューシャ「今だけでなく、これからもずっとずーっと、立ち止まり続けちゃうのだから!」

カチューシャ「ノンナ。これからも、私を支えてくれるのなら、立ち止まらず前へ進みなさい!」

ノンナ「・・・」

カチューシャ「シベリア鉄道よりも速く、力強く、前へ進んで!」

ノンナ「... Клара.  Пожалуйста, чтобы изменить.」

カチューシャ「ノンナ!」

ノンナ「私は、カチューシャを世界のどこへでも運ぶ車輪となります。さぁ、私の肩へ」

カチューシャ「ふっふーん、ユカーシャ。この写真に写っているのが誰だかわかる?」

優花里「左はノンナ殿ですね。右は・・・踏み台でも使ったのですか?」

カチューシャ「ユカーシャはこれよりシベリア送り25ルーブル!」

優花里「えぇっ、そんな!」

カチューシャ「というのは冗談で・・・まあ今の私からは想像できないでしょうけど、中学時代はノンナより背が高かったんだから」

優花里「そうでありますか?」

ノンナ「本当です」

クラーラ「これが本当のПравда(プラウダ)」

カチューシャ「で、写真の私の服装を見てほしいのだけど」

クラーラ(Шутка была проигнорирована.)

優花里「バレーボールをやっていたのですか?」

ノンナ「『プラウダの魔女』こと強豪プラウダ中学校バレー部の中心選手でした」

カチューシャ「練習はこれ以上ないぐらい厳しかったけど、強くなれる実感があったからね」

カチューシャ「大洗のバレーの練習を見たけど、あれじゃあウチには遠く及ばないわ」

カチューシャ「常に動き続けて、どんなボールでも拾えるような速さを身に着けないと!」

優花里(その前にバレー部復活のための部員を確保しないといけませんけどね・・・)

カチューシャ「で、長身でスタイル抜群だった私が、どうして今こんなのになっちゃったのかというと」

カチューシャ「まあ、早い話交通事故に遭ったのよ」

優花里「体が小さくなってしまうほどのですか?」

カチューシャ「そう・・・あの日私は校庭でスパイクの練習をしていたわ」

カチューシャ「同志が上げてくれたトスを正確に打ち込む。外したらこぼれ球を急いで取りに行かなきゃならない」

カチューシャ「ペナルティが見えている分、集中力が高まっていい練習になるのよ」

カチューシャ「練習も終わりに差し掛かった頃に、私はこの日初めてミスショットしたわ」

カチューシャ「ボールが外へこぼれたら、これを取りに行くのはスパイクを打った人」

カチューシャ「悪い事にボールの勢いは衰えず、学校の敷地外へ転がって行ったわ」

優花里「まさか、そのボールを拾おうとした時に・・・」

カチューシャ「同志を待たせちゃいけないからね。周りを確認せず飛び出した私が悪いのよ」

ノンナ「いえ、ボールが飛び出たのに注意を怠った私の責任です」

優花里「ノンナ殿?」

ノンナ「中学戦車道の練習試合の帰り、当時運転していたKV-1で・・・」

ノンナ「カチューシャが病院へ運ばれた時、首から下の大部分が原形をとどめていない状態でした」

ノンナ「骨は砕かれ、腕はえぐれ、足から血が・・・」

クラーラ「тьфу・・・」

カチューシャ「クラーラ、無理しなくていいわよ。ていうかノンナもそんな事説明しないで!」

ノンナ「すぐに手術が始まりました。一命はとりとめましたが、骨の再接合や臓器の修復などのために・・・」

カチューシャ「学校内最高身長だった私は、一日で最低身長に変わってしまった!」

優花里(いや、それどころじゃありませんよ!)

ノンナ「術後は負傷からくる高熱や治療薬の副作用に苦しみました」

カチューシャ「麻酔が切れた時の感覚は、今でも思い出したくないわ」

ノンナ「幸いにも日本の医療はケガを完治させるに足るものでした。半年以内で、カチューシャは登校できるまでに回復しました」

カチューシャ「まっ、私の回復力のおかげね!」

カチューシャ「みんなして私を見下ろしていたのはすごく悔しかったわ」

ノンナ「『かわいい』とチヤホヤされて嬉しそうに見えましたが」

カチューシャ「態度が変わったようでムカつくのよ!」

ノンナ「カチューシャはこの事故のために、バレーボール部をやめる事になってしまいました」

カチューシャ「リベロをやるにしたって小さすぎるものね。そもそも私の武器は強烈でめったに外さないスパイクだったし」

ノンナ「・・・プラウダバレー部最大の戦力と言って良いカチューシャを失った事で、その原因である私が追及されました」

ノンナ「戦車道の教員は私をかばってはくれましたが、移動中の事故については基本的に操縦者の責任」

ノンナ「学校側からは、事故の責任は私が取るようにと言われました」

カチューシャ「慰謝料とやらでずいぶんふっかけてきたのよね」

ノンナ「学生向けの戦車道保険には加入していました。それでも億単位のお金は全額補償してくれません」

ノンナ「億単位のお金など。とても中学生の私が払える金額ではありません。家族に迷惑をかけてしまう。かくなる上は」

ノンナ「・・・死んで償おうと、思ったのです」

ノンナ「自然死でも事故死でも、私が死んだら保険金が下ります」

ノンナ「それを慰謝料に充てれば問題が片付く」

ノンナ「しかし、その選択をするのは、大人でも苦しいものです」

優花里「・・・」

ノンナ「私は真剣にその選択を迫られていました」

ノンナ「カチューシャが入院していた時に付けた傷は、左手首に残っています」

カチューシャ「・・・調理実習の時に、包丁を自分の首に当てようとしていた事もあったらしいわ」

ノンナ「死にたいが、死にきれない。そんな恐ろしい選択を迫られている中でした」

ノンナ「カチューシャの体が回復し、ベッドから半身起こせるぐらいになったと知らされました」

カチューシャ「ノンナに伝えるよう、見舞いに人が来るたびに言ったのよ」

ノンナ「事故の前からずっと友達でした。しかし、私は事故を起こした側。会わす顔がない」

ノンナ「それでありながら、私を誘うようにカチューシャの回復が伝えられてくる」

ノンナ「行くなら、今しかない。そう思い病院へ足を運んだのは事故からちょうど100日後でした」

ノンナ「カチューシャは私を待ちわびたように、開口一番黄色い声を上げてくれました」

ノンナ「おわびをしたら『そんなの気にしなくていいわよ!私は元気になっているんだから!』と言ってくれたのが一番うれしかったです」

ノンナ「それから二人で語らいました。最近の出来事、学校のうわさ、見舞いであった面白い話・・・」

ノンナ「学校から慰謝料を要求されている事は、一言も言いませんでした」

カチューシャ「私から話題を振っても、『ありません』なんて言っていたものね」

ノンナ「そして、帰り際にこの紙をくれました」

カチューシャ「紙?・・・ちょっとノンナ!それ換金していなかったの!?」

ノンナ「私は今まで一度もカチューシャからお金をいただいたことはありません」

ノンナ「この小切手は、今では有効期限切れでただの紙切れ」

ノンナ「ですが、カチューシャの気持ちが込められている大事な紙です」

ノンナ「あの日からずっと、肌身離さず持ち歩いております」

カチューシャ「ノンナ・・・あんなの学校の汚いやり口なのに・・・」

ノンナ「お金の事は私の力でいずれなんとかしてみせます」

ノンナ「学校は銀行と違って利息を取ってきませんから」

ノンナ「ところで最近は催促をされなくなりました。すぐに払えるものでないからとあきらめたのでしょうか」

クラーラ(Моя семья заплатила алименты Нонны. Вот маленький секрет.)

優花里「それで、カチューシャ殿はバレー部をやめてから、どうしたのですか?」

カチューシャ「入院している間にね。やりたい事が出来たのよ」

カチューシャ「こんな小さな体でもできる事をね!」

カチューシャ「私はそれをやるために、放課後ノンナへ会いに行ったわ」

ノンナ「戦車道の練習の準備をしている時、カチューシャがやって来てこう言いました」

カチューシャ・ノンナ「「Пожалуйста, мне поставить на танки!」」

クラーラ「『私を戦車に乗せて!』と言ったのです」

優花里「クラーラ殿が訳してくれないとわからないままでした」

ノンナ「退院したばかりの体で戦車に乗るのは無理な話」

ノンナ「春休みが近かったのでそれを終えてから、カチューシャの戦車道が始まりました」

ノンナ「カチューシャが戦車道でも活躍できるように、私の知っている全てを教えました」

ノンナ「私が起こした事故の、せめてもの罪滅ぼしです」

カチューシャ「まっ、私は天才だからね!戦車の戦い方をすぐに理解できたわ!」

ノンナ「特にバレーボールで鍛えたとっさの状況判断能力は素晴らしいものがありました」

ノンナ「カチューシャが戦車道を始めてからプラウダ中学は連戦連勝。隊長になってからは文字通り敵なしでした」

カチューシャ「東北で私たちに敵う相手はいなくなったものね」

ノンナ「そして現在。プラウダ中学史上に残る隊長は、高校でもその力を知らしめました」

ノンナ「昨年の全国制覇は、秋山さんの記憶に新しい事でしょう」

カチューシャ「今年だって、相手がミホーシャじゃなければ、決勝に進んで黒森峰相手に連覇できたのに!」

優花里「でも、エキシビジョンや大学選抜戦では、見事な指揮でみんなをまとめていましたよ」

カチューシャ「ふん!全国大会で勝ってこそよ!・・・ところで」

ノンナ「どうしましたか?」

カチューシャ「この話はここにいる人だけの秘密にしているのだけど」

カチューシャ「盗聴器とか仕掛けられていないわよね?」

ノンナ「プラウダ高校の面々に限って、隊長室にそのような物を仕掛ける輩はいないと思いますが」

クラーラ「Кто посадил камеру в спальне капитана?」

ノンナ「Мы показали видео вам тоже.」

カチューシャ「アンタたち!ここぞとばかりにロシア語で会話しないの!」

カチューシャ「そんな事より、盗聴器よ。その手のモノが隠されていないか探しなさい!」

~~~~~

カチューシャ「テーブルの下、棚の裏、どこを探しても見つからないわ」

優花里「うーん、おそらくではありますが、あそこにある木彫りの熊が怪しいかと」

ノンナ「? 見たところ触れたところ何の変哲もない木彫りですが・・・」

カチューシャ「昔から隊長室に置いてあるものよ。特に変わったところはないはずだわ」

クラーラ「カチューシャ様。私にも触らせてもらえませんか?」

カチューシャ「いいわよ。ね?何も変わったところなんて・・・!?」

クラーラ「パカッと開きました」

ノンナ「熊の中には熊・・・」

優花里「マトリョーシカです!」

カチューシャ「開けていくうちに何か出てくるんじゃない!?」

クラーラ「・・・Там! Является ли прослушивание телефонных разговоров!」

カチューシャ「やっぱり仕掛けていたのね!どれ見せて・・・ふむふむ」

カチューシャ「ふっふーん、分かったわ。これを仕掛けた犯人が!」

優花里「おお!」

クラーラ「КАТЮША-как, это ваш великолепно.」

ノンナ「して、誰ですか?」

カチューシャ「そうね・・・ユカーシャ。今日はプラウダに泊まっていくのよね?」

優花里「はい。寮の空き部屋を借りる予定と聞いております」

カチューシャ「はあ?ユカーシャをあんな狭苦しい場所に泊めるなんて!」

カチューシャ「しかもあの寮は石鹸やトイレットペーパーの質が悪い事で有名よ!あり得ないわ!ここに泊まりなさい!」

優花里「よろしいのですか!?」

カチューシャ「その代わりと言ってはなんだけど・・・」

カチューシャ「みんな、耳を貸しなさい」

ゴニョゴニョゴニョ…

――深夜、プラウダ高校寮前。

??「おぉ、先にいただ」

??「よぐ起きただな。だがこれがらが大変だべ」

??「うまぐちびっこ隊長んとご忍びごまねえとなあ」

??「というか、こんな喋り方しで名前隠す必要あるかぁ?」

??「ねえなあ」

ニーナ「んだんだ。それより早よ盗聴器回収に行ぐべ!」

アリーナ「んだべ!」

~~~~~

ニーナ「隊長室に着いたべ」

アリーナ「カギは職員室がらがめってきだべ」

ニーナ「ながの様子は・・・んん、ちびっこ隊長か?ベッドが置いであるべ」

アリーナ「あれぇ、変だなあ・・・寝るどぎはちゃんど別の部屋に行くべさ」

ニーナ「周りはなんどもねえがなあ」

アリーナ「迷っでもじがだねえべ。早ぐ熊をバラじにいぐべ」

ニーナ「ベッドがある以外はいづもの部屋だがなあ」

アリーナ「ニーナ、どうするべ?」

ニーナ「予定通りアリーナが熊バラすべ。おらはベッドの様子さ見る」

アリーナ「んだ。ニーナも周りに気をづげるべ」

ニーナ「・・・しっがし隊長もこんなどごで寝るなんでなあ」

ニーナ「副隊長に駄々ごねだんがなあ・・・」

ニーナ「・・・」

ニーナ「ちぃどだけ、顔のぞいでもよがべ・・・」

ニーナ「そおっど、かげ布団を・・・!?」

優花里「・・・」コンバンワー

ニーナ「!!!?????!!????」

ニーナ「お・・・おめえ!大洗から来た生徒だ!」

アリーナ「えぇ!?なしでこんなどごに!あっ、盗聴器がねえ!」

??「私から説明します」

ニーナ「ふ、副隊長の!?」

アリーナ「声はきごえるが・・・あっ!」

ニーナ「アリーナ!?・・・うわっ!」

パチッ ピカピカ…

ニーナ「灯りが点いだ・・・」

アリーナ「ばって、おらだづロープで縛られでしまったべ・・・」

ノンナ「カチューシャ。侵入者を捕らえました」

クラーラ「Вам не двигаться больше.」

優花里「作戦成功であります!」

カチューシャ「ふっふっふ。このカチューシャ様の部屋に忍び込むなんて、いい度胸しているじゃない!」

カチューシャ「たっぷりとお礼をしてあげないとね!」

ニーナ「ひえええ、ぞんなあ・・・」

アリーナ「理不尽だべさ・・・」

カチューシャ「・・・」

カチューシャ「合格」

ニーナ「へ・・・?」

アリーナ「な、なんだあ?」

カチューシャ「私を相手に何度も盗聴を仕掛けて成功させてきた」

カチューシャ「その度胸と実力を称え、私の後継者として正式に認めるわ!」

ニーナ「な、なんだってえ!」

アリーナ「シベリア送りでねえのが!?」

カチューシャ「ニーナたちが探していたのは、この盗聴器でしょ?」

カチューシャ「これは隊長候補生にしか渡されない特別なもの。その証拠に特殊な偏光ロゴが入っているわ」

カチューシャ「さらにこの盗聴器、何度も録音して再利用されていた跡が残っていた」

カチューシャ「隊長室に限らず、色々な場所で盗聴していたのでしょうね!」

カチューシャ「その目的は、私の情報を得る事。違う?」

ニーナ「お、おっしゃる通りだべ」

アリーナ「隊長のようになれるよう、少しでも近づごうと思っで・・・」

カチューシャ「手段を選ばないその意欲!」

カチューシャ「戦車道の隊長たるもの、勝利のために貪欲でないといけないわ」

カチューシャ「ニーナとアリーナは、目的を達成するために行動した」

カチューシャ「そしてその行動を、多く成功させてきた」

カチューシャ「これからのプラウダ戦車道を担うにふさわしい人材に成長したと言えるわ!」

ニーナ「は、ははあ・・・」

アリーナ「ありがてえ・・・ありがてえ・・・」

ノンナ「カチューシャは、後継者がなかなか育たない事を嘆いていました」

ノンナ「そこで、ニーナとアリーナを相手に実験をしました」

ノンナ「盗聴器を預けて、どのように使うかを確かめたのです」

ノンナ「この盗聴器、誰から貰いましたか?」

ニーナ「えっど・・・よぐ知らねえ先輩から渡されただ」

カチューシャ「その先輩は、KKBのメンバーよ!」

カチューシャ「安全委員会を通して盗聴器の利用状況を把握し、上手く使えていたら隊長に任命する事にしていたの」

アリーナ「て事は、盗聴の内容は全部隊長に筒抜けだべ?」

カチューシャ「ま、私を相手に盗聴していたのだから、内容そのものに興味はないけどね!」

カチューシャ「盗聴の実績を記録するために、録音内容は委員会に調べさせておくわ」

クラーラ(Из-КАТЮША, как нижнее белье я был Kunkakunka будет Барре.)

ノンナ(音だけではバレないと信じたいが・・・カチューシャが口づけした食器を持ち帰った事も聞かれていたら・・・)

優花里(なんだか二人の顔色が悪いですね?)

~~~~~

優花里「翌朝、プラウダ高校から練習試合の受理文書をいただき、大洗へ戻りました」

優花里「西住殿をはじめ戦車道履修生の皆さんに、喜んで私の報告を聞いていただけました!」

優花里「会長からは、『次期生徒会の副会長に推薦してあげるよー』とまで言われました」

優花里「私が生徒会の役員というのは、荷が重い気がしますけどね」

優花里「それにしても、戦車道を続けてきた人たちは、皆さんそれぞれ苦労をしてきていました」

優花里「苦労を乗り越えて、一層自分を高みへ持って行く」

優花里「戦車道を通して、人間は成長していくのでありますね!」

優花里「ところで、練習試合で再会したノンナ殿とクラーラ殿は、ずいぶん疲れた様子でした」

優花里「新たな苦労をされたという事でしょう。この苦労を糧にして、ライバルとしてますます手強くなりそうです!」

優花里「私は皆さんみたいに苛烈な経験をしてきたわけではないですが」

優花里「常日頃戦車の事を考え、装填で後れを取らないよう体を鍛えています!」

優花里「諜報も抜かりなく、学業の方は・・・赤点を取らない程度になんとかついていく所存であります!」

優花里「私の戦車道は、まだまだこれから!であります!」


(終わり)

ノリと勢いだけでは上手く書けないですね・・・もっと文章を練り直すべきだった。
最後まで見ていて下さった方がおられたらうれしいです。

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