「はい……あん? 何やってんだよ、お前らは。 あーもう、分かったよ。 すぐ行くよ」
急いで電話で呼ばれた場所に向かう。
莉緒のバカヤロー、だいぶ飲んでやがったな、あんにゃろー。
このみ先輩もいるからって安心したのが間違いだった。
電話の後ろからは最上さんと七尾さんの声もした。
あの二人も飲兵衛だからなぁ……。
こりゃだいぶ飲まされてるなぁ。
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「おっ! 来た来た、こっちよ、おーい!」
どんちゃん騒ぎをしてる酔っ払い集団発見。
大学生のように飲みやがって。そろそろ自分の歳を自覚してくれ。
なんてことを言ったら延々と絡み酒されてしまうからグッと堪える。
「ほら、あんたとこの嫁さんよー。 桃子、旦那が迎えにきたわよー」
誰が誰の嫁じゃい。莉緒の指さす方向を見ると、桃子がふらふらとこちらに歩いてきた。
「大丈夫か?」
「んー? お兄ちゃん? らいじょうぶだよ」
あんまり酒強くないのに、誕生日だからって飲みすぎだな、こりゃ。呼び方が昔に戻ってる。
「やだ、あんた。 そんな風に呼ばせてんの」
後ろで莉緒ががっはっはっと笑いながら背中を叩いてくる。無視だ、無視。
桃子の21歳の誕生日、ついでにお酒飲めるようになって一年経ってだいぶ慣れたので事務所の飲兵衛連中のおすすめの居酒屋に連れて行って誕生日会兼女子会とやらを催してもらったのだ。
慣れたと言っても、ビールを水のように飲む連中だから止めたのだが、まぁ祝い事だし無下にできなかったんだろうな。
桃子をおぶって事務所へと向かう。
家まで送ろうかと思ったが、事務所のほうが近かったのでそっちに連れていく。
ありがたいことに泊まれるくらいの設備ができるくらいはここも大きくなったことだし。
背中に感じる重さにこれまでの月日の長さを感じる。化粧とお酒と、桃子の匂いに少しドギマギとする。
「送り狼にならないようにねー」ってのはこのみ先輩。
「大丈夫よ。 桃子ちゃんだってもう立派なレディなんだから、お姉さんが許すわよ!プロデューサーくん!」ってのは莉緒のバカ。
あの二人がそんなこと言うもんだから変に意識してしまう。
なんてことを考えてるうちに事務所に到着した。
「ほれ水だ。 落ち着いたらおとなしく寝とけ」
桃子をソファに座らせ、水を渡す。
相当飲んだらしい。水に手を伸ばさず、座りこんだままだ。
仕方ない、寝かせるか。明日の頭が痛いのくらいは覚悟しろよ。
酒のせいだろうか。桃子の体温は高く、酔ってとろんとしたしていた。
その顔は、あぁなんていうかとても色っぽかった。
……この桃子の姿を見た連中全部から、記憶消して回りたいくらいだぜ。
こんな姿、他の誰にも見せたくない。
抱き上げた桃子の身体の柔らかさに改めてクラクラする。
理性を総動員して桃子をベッドに横たえる。
さっさと寝てくれ、じゃないとヤバイ。
「ねぇ、おにいちゃん」
甘えるよう声と誘うような瞳。
思わずいきをのむ。唾を飲み込む音が部屋に響いたように感じる。
「おにいちゃん?」
桃子に呼ばれる。
「わたしをみて、どきっとしてくれたぁ?」
あぁしたさ、充分すぎるほとにな。
さっきから心臓が早鐘のようで困ってるくらいだ。
「よかったぁ。 おにいちゃん、ももこにきょうみないかとおもってたんだ」
俺というより、ほとんど独白に近かった。
「らいじょうぶだよ。 おにいちゃんにしかみしぇないからぁ。 ほかのひとになんかぜったい……」
桃子の頭を撫でる。
「おにいちゃんってばずるいんだもん。 わらしのきもち、きづいてるにきづいてないふりしてさ」
「おにいちゃんはさ、わたしののことどうおもってるの? わらしはね、……ももこはね、……!」
泣きそうな桃子。
今の桃子に言ったって意味がない。どうせ覚えてないだろう。
でも女の子ばかり言わせるわけにはいかねぇだろ。特に告白はよ。
「大好きだよ。 お前を他の誰にも渡したくない。 ずっとお前の側にいたい。 それくらい、愛してる」
「……ふぇ?」
桃子は俺の言葉を咀嚼し、
「そ、それって」
理解した。
「い、いきなりそんな……」
立ち上がろうとして、酔いと眠気がピークに達したのか、
「くぅ……」
俺の胸に倒れ込んできた。
「……頭痛い。 プロデューサー、お水ちょうだい」
翌日、昼過ぎまで爆睡してた桃子は絶賛二日酔い中。
やっぱり昨日のことは覚えていないようだ。
「ねぇ、昨日私になんか言ったでしょ。 なんかすっごく大事なこと、言われた気がする」
チラチラとこっちを見ながら、真っ赤な顔した桃子がそう言う。
……これはもしかして覚えてるパターンか?
まぁ今はとりあえずとぼけておこう。
二日酔いから覚めたら、ちゃんと伝えるさ。
俺の気持ちと、照れ隠しの花をさ。
桃子、誕生日おめでとう!
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