モバP「魔法は足元から」 (52)
モバマスSSです。
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こんばんは、古典シリーズです。
冬コミは残念ながら落選してしまいました。
事務所?
P「おめでとう」
卯月「ありがとうございます」
ちひろ「お二人ともそればっかりですね」アハハ
P「まぁ、いいじゃないですか。こんな日くらい」
卯月「そうですよっ。ちひろさんもありがとうございました」
ちひろ「い、いえいえ。私なんて……」
卯月「そんな…ちひろさんがいたからここまで来れたんですっ!」
ちひろ「そうですか?お礼を言われるのは悪い気はしないですけども……」
卯月「はいっ!」
P「それにしても卯月がシンデレラ――」
卯月の部屋
卯月「……」パチ
卯月「……わー」
卯月(夢だったんだ)
卯月「夢…」
卯月(いつか本当になるといいな)
卯月「『いいな』じゃなくて『する』って思わないとですよね」
卯月「よしっ! 島村卯月。今日も頑張ります!」
卯月「あ、今日は早く学校行かないと――」バタバタ
事務所
P「長閑ですね」
ちひろ「そうですねぇ」
P「あまり続いては欲しくないですけど。たまには」
ちひろ「たまにはいいですよね。書類の整理も出来るし」
P「そうですね」
ちひろ「破棄する書類があったらそこのカゴにでも入れておいてください。あとで纏めて捨てておきますよ」
P「ありがとうございます」
ちひろ「いえいえ。一気に捨てた方が楽ですから」
P「そうですか」
P「そういえばちひろさん」
ちひろ「どうされましたか?」
P「仕事とは関係ない話なんですが……」
ちひろ「どうされました? プライベートなことでも大丈夫ですけど」
P「魔法使いっているんですかね」
ちひろ「魔法使いですか?」
P「えぇ。空を自由に飛べたり、火を出せたりする感じの魔法使い」
ちひろ「何というか……RPGの世界ですね」
ちひろ「杏ちゃんからゲームでも借りましたか?」
P「正確には押し付けられたに近いですかね。周子も便乗して三人でのんびりとやってますよ」
P「尤も携帯ゲーム機なんで一人がやってるのを脇で二人が見るって流れなんですけどね」
ちひろ「仲良いですね」
P「たまたまです」
ちひろ「ま。他のアイドル達とも仲良いですもんね」
ちひろ「それで…魔法でしたっけ」
P「魔法ですね」
ちひろ「まぁ、使える人もいるんじゃないですか」
P「意外です」
ちひろ「もっと現実的だと思いましたか?」
P「或いは現金な感じかと」
ちひろ「自分が使えたらいいなとは思いますよ」
P「燃やしたい人がいるとか?」
ちひろ「火限定なんですね。ほら、やっぱり魔法と言えばなんだかロマンチックじゃないですか」
P「まぁ、そうですね」
ちひろ「皆が使えるんじゃなくて、自分だけが使えるとポイント高いですね」
P「特別感が欲しいと」
ちひろ「やっぱり、自分のキャパシティの範囲ですけど誰かに頼られたいじゃないですか」
P「分かりますよ」
ちひろ「まぁ、プロデューサーさんは現在進行形でそういう感じかもしれませんけど」
P「そうでもないですって」
ちひろ「使える人がいたら…と言いましたけど私は使えないですね」
P「そうですよね」
ちひろ「えぇ。代わりに空を飛ぶには飛行機を。火を付けるにはライターを使うことにします」
P「まぁ。魔法が使えなくても結果は同じですもんね」
ちひろ「えぇ、現金の力です」ドヤ
ちひろ「しかしどうしていきなり…?」
P「いえ、よくお話だと丁度いいタイミングで魔法使いが現れるなぁと思いまして」
ちひろ「アブラカタブラって奴ですね」
P「そんな感じです」
ちひろ「なるほど」
ちひろ「てっきり、プロデューサーさんのことだからシンデレラに出てくる魔法使いかと思いましたけど」
P「あぁ、衣装を用意して馬車を手配する魔法使いですか?」
ちひろ「そう聞くと随分と魔法っぽくないですね」
P「言っててそう思いました」
ちひろ「見てる人が魔法だと思えば魔法なんですね。きっと!」
P「ファンに向かって魔法を掛けるんですね」
ちひろ「言い慣れてますね」
P「まさか。初めて言いましたよ」
ちひろ「しかし、シンデレラも序盤は結構可哀想ですよね」
P「そうですね」
ちひろ「あそこで魔法使いが現れなかったらどうなってたんでしょう」
P「変わらないままですよ」
ちひろ「変わらない?」
P「そのまま姉と母に使われるだけです」
ちひろ「なるほど……確かにそうですね」
P「えぇ」
ちひろ(……やっぱりプロデューサーさんは魔法使いですよ)
P「今思うと水戸黄門みたいですよね」
ちひろ「印籠とかはないですけど」
P「なんて言いますか、こう、前半は辛くて後半は快進撃みたいな」
ちひろ「ちょっと違う気もしますけども」
ちひろ「もし、そういう展開だったら舞踏会が武闘会になりますね」
P「熱い展開ですね」
ちひろ「情緒も何もあったもんじゃないですけど」
P「シンデレラガール。そうやって言うじゃないですか」
ちひろ「そうですね」
P「『シンデレラ』の名を冠すと言うことは、素敵な王子様に見初められてしまうんですかね」
ちひろ「…さぁ?」
ちひろ「普通の子がアイドルになってトップアイドルになった。それだけの話ですよ」
ちひろ「そこにきっと他意はありません」
ちひろ「テッペンから見る景色ってどんな感じなんでしょうかね」
P「なんだかカッコいい言い方ですね」
ちひろ「いえ、そんなつもりは…ただ、どうなのかなぁと」
P「そんなに変わらないと思いますよ」
ちひろ「そうですか?」
P「えぇ。ドームや会場を満員にしたとしても、それはその子が一人一人ファンを増やしていった結果ですから」
P「万灯は万灯で素晴らしいですから」
P「女の子はいつだって乙女じゃないですか」
ちひろ「そうですね。菜々さんを見ているとそう思います」
ちひろ「いつだって、どこだってキラキラしたいんです」
P「ちひろさんもやっぱりシンデレラみたいな展開に憧れを持っていたりするんですか?」
ちひろ「…もう大っぴらに言える年齢ではないですけどね。キラキラしたいのに理由はないんです」
P「またまたお若いでしょうに」
ちひろ「その言葉そのままお返ししますよ」アハハ
ちひろ「ふと思ったんですが」
P「どうしましたか?」
ちひろ「若く美しいシンデレラは王子様に見初められました」
ちひろ「他にも同じように魔法使いの力を借りて舞踏会に来た子もいたかもしれないのに」
P「シンデレラが美人だったから成立したお話ってことですか?」
ちひろ「そこまで夢のないお話は童話じゃないですけどね」
ちひろ「ってこの間知り合いが言ってました」
P「そうですか。あ、コーヒー淹れてきますか?」
ちひろ「すみません。お願いします」
P(ここまで電話が鳴らないってのも中々良いもんだ…)
P「たまにはこういうこともやらないとバチが当たるよな」
P「えっと…ちひろさんはミルク入れるんだっけかな」
P「どうぞ」
ちひろ「すみません。ありがとうございます」
P「いえいえ。たまにはね」
ちひろ「たまにはと言えば、プロデューサーさんがこんな時間まで事務所にいるなんて」
P「そういう日もあります」
ちひろ「そうですか」
P「えぇ」ズズ
P(思ったよりも熱かったな……)
事務所
ちひろ「――何人もいるとは言え」
P「なんですか?」
ちひろ「いえ、何人もいるとは言え…その時その時のシンデレラガールって一人な訳じゃないですか」
P「まぁ、そうですね」
ちひろ「それは決して同じ事務所の中でも例外じゃないですよね」
P「事務所が一緒でもアイドルはそれぞれですからね」
ちひろ「たまに思っちゃうんですよね。皆頑張ってるんですから皆一番でいいじゃないかって」
ちひろ「ほら、私も事務員としてここに座ってる訳ですから皆のレッスンの予定だったりお仕事だったり見てますし」
ちひろ「言い方が良くないかもしれませんが、まだ一線級の人気がある訳じゃない子だってこんなに良い子なんだ。って」
ちひろ「言いたくなっちゃうんですよねぇ」
P「気持ちは分かりますよ」
ちひろ「『でも。それは間違ってます』とでも言うんですか?」
P「…エスパーですか?」
ちひろ「ただの事務員ですよ」アハハ
ちひろ「ま。その前に女の子ですから」
P「乙女ですね」
ちひろ「えぇ。乙女です」
ちひろ「さて。ここで魔法使いさんにインタビューです」
P「いきなりどうされました?」
ちひろ「色々な子に魔法を掛けてきたプロデューサーさんに質問です」
P「魔法は掛けてませんが…」
ちひろ「夢の途中だから、まだ魔法は掛けきれてないと?」
P「どうですかね」
ちひろ「話が逸れました。さて。ズバリその秘訣とは」
P「魔法なんて大それたものじゃないですが…言葉にすることですかね」
ちひろ「言葉…ですか?」
P「えぇ。言葉にしなきゃ相手にも伝わらないじゃないですか」
ちひろ「確かにその通りですね」
P「そういうことです」
ちひろ「呪文。って口編ですものね」
P「中々どうしてその例えだと禍々しい雰囲気がありますけどね」
ちひろ「呪いも魔法も似たようなものだと思いますよ」
ちひろ「どちらも想いを口にするんですから」
P「やっぱり、自分の中でそこに立ちたいって思って言葉にする子は強いと思いますよ」
ちひろ「さっきの話ぶりだとそうですね」
P「勿論、静かに闘志を燃やすアイドルだっているのは間違いありませんがね」
ちひろ「赤い炎より熱い青い炎。ですか?」
P「えぇ。そんな感じで」
P「自分の世界を持っている子も強いなと感じます」
ちひろ「アイドルのライブ会場ってそこだけが切り取られた異世界って感じですしね」
P「そうですね。応援してくれる人の立場とかは色々あったとしても、その空間だけでは皆同じファンって括りですから」
ちひろ「異世界って良い響きです」
P「えぇ。その空間では誰しもがグリモワールによって生み出された異世界の住人です」
ちひろ「グリモワールって響き、素敵ですよね」
P「日本語じゃまず使わなそうな言葉です」
ちひろ「フランス語もそうですけどドイツ語とかも良いですよね」
P「ウィトゲンシュタインとか響きがカッコいいですね」
P「ちひろさんは他にどんなアイドルが人気出ると思いますか?」
ちひろ「他にですか?」
P「えぇ。ま。世間話です。深く考えずに私の考えた最強のアイドルでもいいですから」
ちひろ「最強ってなんですか。最強って…」アハハ
ちひろ「んーそうですねぇ…ちょっとどこか影があると言うか斜に構えた子もいいかもしれませんね」
ちひろ「ミステリアスで」
P「そうですね」
ちひろ「言葉では言えないですが、所作にでも魅力があるんですかね」
P「魅了する。という感じですか?」
ちひろ「そういうと何だか吸血鬼みたいですね」
P「昼間は身を隠し、月の出る晩にのみ街に出る」
ちひろ「肌は雪みたいに真っ白でどこか儚い感じがするといいですね」
P「ノリノリですね」
ちひろ「たまにはいいじゃないですか。たまには」
P「王道ってどういう意味か知ってます?」
ちひろ「一番人気がある的な感じですか?」
P「まぁ、定石って意味合いですよね」
ちひろ「そうですよね」
P「邪道って言い方は良くないですが、それ以外の方法は確率論で言えば成功する可能性が低いから王道にはなれなかったんですよね」
ちひろ「きっとそうですね。そこはもしかしたらプロデュース次第では、他のやり方もその子に取っては王道なのかもしれませんけど」
P「確かに……」
ちひろ「アイドルは斯くあるべき。とは言いませんけども」
ちひろ「シンデレラ。って言うのに一番向いているアイドルの形ってのは絶対あると思いますよ」
P「そうですね」
ちひろ「勿論、合う合わないはありますけど」
P「そこはほら」
ちひろ「プロデューサーさんの腕の見せ所ですね」
ちひろ「今日アイドルの皆は?」
P「予定は入ってる筈ですよ。今日は夕方からですね」
ちひろ「ならこの時間が平和なのも納得出来ますね」
P「えぇ。真っ直ぐ来たらそろそろ着くアイドルもいるかもしれませんね」
中座します。
申し訳ありません。
駅
卯月「…今日はレッスンだけかぁ」
卯月「今から行っても時間余っちゃうし、事務所でお茶でも飲んでようかな」
卯月(なんか一人で電車乗るの久し振りな気がします)
卯月「なんだか雨降りそう……」
卯月「折りたたみは…と、大丈夫」
「あ……」
卯月「あ、文香ちゃん。こんにちはー」
文香「はい…こんにちは。今からレッスンですか?」
卯月「はいっ。島村卯月は今日も頑張りますよっ!」
文香「その気持ち…私も見習わなければ…ですね」
卯月「み、見習うなんてそんなっ!私なんて別に取り柄も――」
文香「その言葉は…貴方に羨望の眼差しを向ける全ての人々に…失礼に当たる…かと」
卯月「あ、えっ、すみませんっ!」
文香「あ、いえ…こちらこそ。出過ぎた真似を…すみません」ペコリ
卯月「文香さんは今日…」
文香「同じく…レッスンです」
卯月「あ、そうなんですねー」
文香「えぇ。時間があるのでちょっとこの近くを散策しようかと…」
卯月「散策ですか?」
文香「えぇ…。と言ってもこんな都会の中心で…何かを探す訳ではありませんが」
卯月「ツ、ツチノコとかですか?」
文香「こんな都会にいるツチノコ…放っておいたらたくましく生きていきそうですね」
卯月「そうですね」アハハ
文香「……ふふっ」
卯月「邪魔じゃなければ、私も付き合っていいですか?」
文香「…レッスンは?」
卯月「まだまだ時間あるので」
文香「そうですね…それでしたら…是非に」
卯月「あ、古本屋さんを巡るってことなんですね~」
文香「…退屈でしたか?」
卯月「あ、そういう訳じゃなくて、散策って何をするのかなぁって思っただけです」
文香「古き書に囲まれていると…あたかも時代を散策している気になりますね」
卯月「詩人さんですねぇ」
文香「あっ、いえ、そういうつもりで言った訳では…」
卯月「本の世界に行っても文香さんなら活躍出来そうですね」
文香「…そうでしょうか?」
卯月「はいっ!主人公でも、お姫様でも行けちゃいますよ」
文香「折角なら…お姫様が良いです…ね」
卯月「おぉ。王子様を待っていたいんですねっ!」
文香「……っ!」カァァ
卯月「あ、そろそろ行かないとっ!」
文香「時間が過ぎるのは…早いですね」
夜
事務所
卯月「お疲れ様でーす…」
P「大分絞られたか」
卯月「私の覚えがよくな…じゃなくて、ステップが難しいんですよ~」
P「そうなのか。俺は踊らないから何とも言えないがお疲れ様」
卯月「お疲れ様です」
ちひろ「もうお外も暗くなって来てるのでプロデューサーさんにでも送って貰ってね」
卯月「えっと…お願いしてもいいですか?」
P「勿論。あと少しで仕事が一段落するから待っててくれ」
卯月「はいっ!ありがとうございます」
車内
卯月「そう言えばライブもあと少しですねー」
P「そうだな。本当に決まるとあっという間に当日まで来ちゃうよな」
卯月「ホントそうですよね。なんだかあっという間です」
卯月「そうだ!願掛けしましょう!」
P「願掛け?」
卯月「どこかの神社にお参りに行きませんか?」
P「近場なら構わないが…」
卯月「はいっ!一緒にライブをやる皆を代表して私がお参りしちゃおうかなぁって」
卯月「今回は普段やってる場所とは違う所でやりますし」
P「なるほどな」
P(まぁ、確かに神様でもなんでもお願いしておいた方が気持ちがラクになるよなぁ)
P「行くか」
卯月「ありがとうございます!」
神社
P「なんてお願いするんだ?」
卯月「シンプルに『今度のライブ成功しますように』ってお願いします」
P「俺もそれにしよう」
卯月「二人でお願いすれば効果は倍ですよね」
P「そうだといいな」
チャリーン カランカラン
P「大丈夫か?」
卯月「はい。バッチリ伝えておきました」
P「そうか。なら大丈夫だな」
卯月「ありがとうございます」
卯月「ここってなんだか結構雰囲気ありますね」キョロキョロ
P「雰囲気?」
卯月「なんだかお願いごとが叶いそうです」
P「言われてみたらいかにも。って感じの雰囲気だよなぁ」
P「狐でも出てくるかな」
卯月「神様がひょっこり出てきそうな感じがします」
P「なんだか詩人だな」
卯月「文香ちゃんには負けちゃいますけどね」
P「なにかあったのか?」
卯月「あ、大したことじゃないんですけど――」
卯月「――と言うことが」
P「なるほどな。確かに文香は詩人だな」
卯月「そうですよねー」
P「それじゃ帰るか」
卯月「はい。ワガママ聞いてくれてありがとうございました」
車内
P「お、ここでいいか?」
卯月「ありがとうございますっ!」
P「ご両親にもよろしくな」
卯月「はい。また明日もよろしくお願いします」
P「おやすみ」
卯月「おやすみなさい」
神社?
卯月「――え?」
卯月(……ここ、さっきの場所?)
卯月「えっと、確かPさんに送って貰って…」
P「どうした?」
卯月「あれ? 送って貰いましたよね?」
P「送ったな」
卯月「なんでここにいるんでしょう…?」
P「俺も分からないな」アハハ
卯月(夢…なのかな?)
P「折角だから話でもするか」
卯月「お話ですか?」
P「話すの好きだろ?」
卯月「はいっ!」
P「――例えばさ」
卯月「なんですか?」
P「ここにあるもの。と言ってもそんなに物がある訳じゃないんだけど」
P「何か一つだけ持っていって良いって言ったら何を持って帰る?」
卯月「ここの物をですか?」
P「そうそう。神社のお賽銭を持って帰っても良いぞ」
卯月「それはお賽銭泥棒ですよ!」
P「確かにな」アハハ
卯月「そうですねぇ……うーん」
卯月(なにか欲しいものあるかな…?)
P「流石にここにはないか」
卯月「そうですね。あんまり持って帰っても使わない物ばっかりです」
卯月「私の部屋に置いても…って感じがします」
P「そうかもな。灯籠とか置いてもなぁ」
卯月「そうですよね」アハハ
P「じゃあ次の質問だ」
卯月「はい」
P「ここに二足の靴があるんだが」
卯月「靴…ですか?」
P「そうそうこれな」ヒョイ
卯月「あ、私のレッスン用の靴。どうしたんですか?」
P「ちょっと拝借した」
卯月「あとで返して下さいね」
P「もう一足はこれだ」
卯月「あ、綺麗な靴ですね」
P「見ての通りガラスの靴だ。シンデレラが履いてたものと同じな」
P「きっと、これを履けばあら不思議。今すぐにでもシンデレラになれると思うぞ」
卯月「なんだか通販番組みたいな言い方ですね」クスクス
P「あぁ、ガラスの靴を履いてる女の子がシンデレラじゃない訳がない」
卯月「それはどうですかね」クスクス
P「……」
卯月「これは、すぐに決まりました」
卯月「私はレッスン用の靴を選びます」
P「そうか。それなら――」
卯月「別にガラスの靴が欲しいから。そんな打算的な考えでそっちを欲しいって言った訳じゃないですよ?」
卯月「泉に落とした斧と違って本当に本心から欲しいのはそっちの靴。って思ったんです」
P「ガラスの靴じゃ満足いかなかったか?」
卯月「とんでもないです。可愛い靴だなぁって思いますよ」
卯月「ただ…それはまだ、今の自分がこんなに軽々しく貰っていい物じゃないって思うんです」
卯月「ガラスの靴を履いているから、シンデレラ。じゃなくて、シンデレラだからガラスの靴を履いている。私はそう思いたいんです」
卯月「おとぎ話に出てきたガラスの靴は魔法使いさんが魔法で用意してくれた靴です」
卯月「きっと、いつかそっちの靴をガラスの靴に変えてくれる日が来るんじゃないかなと思ってます」
卯月「Pさんって言う魔法使いさんが!」
P「……」
卯月「Pさんは魔法なんて使えないって言うかもしれませんけど」
卯月「今日のこれまでの日々。そして明日からもずっと続くアイドルの道を用意してくれた人を他になんて表現していいのか私には分かりません」
P「立派になったなぁ」
卯月「えへへ。あ、そうだ。持っていきたいものやっぱり見つけちゃいました。大丈夫ですか?」
P「どうぞ」
卯月「それは……Pさんです。いつまでも傍にいて下さい」ニコッ
卯月の部屋
ジリリリリリ
卯月「……夢?」
卯月「そっか夢だよね。うん」
卯月(結構恥ずかしいこと言った気がする…)カァァ
卯月「えーっと夢に出るってことは……」
卯月「うぅ。今日、顔見れるかなぁ」
事務所
美嘉「おつかれー」
P「お疲れ様」
美嘉「ホントだよー。やっぱりアタシは体動かしてる方が性にあうかも」
美嘉「ずっと座って勉強とかだったら寝ちゃうし」
P「まぁ、言われてみればそうだけどな」
美嘉「だからアタシはデスクワークみたいなのは無理かも」
P「ちひろさんにはなれないな」
美嘉「そうだね」
ちひろ「あんまり座りっぱなしは体にも良くないですよ」
美嘉「だろうねー。眠くなっちゃうし」
ちひろ「日に日にコーヒーを飲む量が増えてる気がします」
P「淹れましょうか?」
ちひろ「ブラック濃いめで……」
美嘉「わ。おっとなー」
卯月「おはようございますっ!」
P「おはよう」
美嘉「おっはー」
卯月「あ、はい。おはよう…ございます」
卯月「あ、きょ、今日はレッスンからでした!行ってきます」
P「気を付けてなー」
美嘉「Pさん、なんかした?」
P「思い当たる節はないな」
美嘉「そ。なら気のせいかな?」
P「なにが?」
美嘉「避けられてなかった?」
P「目を合わしてくれなかったな」
美嘉「疾しいことでもあったのかな」
車内
P「大丈夫か?」
卯月「はいっ!大丈夫です」
P「ならいいが」
卯月「はい」
P(何かあったのかな)
卯月(やっぱり、恥ずかしいです…)
P「最初に比べて仕事増えたよな」
卯月「そ、そうですね」
P「最初はスケジュールを書く方が珍しかったし」
卯月「レッスンも大事ですから」
P「披露する場面が無かったもんな」
卯月「あはは…私はあんまりアピールポイントみたいなのありませんし」
P「いや、単純に俺の売り込みが駄目だったんだけどな」
卯月「そんなことありません。そんなこと」
卯月「私だって折角頂いたお仕事でミスしちゃったりしましたし」
P「ま。今となっては笑い話に出来るくらいだ」
卯月「そうですね」アハハ
卯月「私は、アイドルになって皆を笑顔にしたいです」
P「お?」ピク
卯月「覚えてますか?」
P「勿論」
卯月「恥ずかしいですけど、この気持ちは本当です」
P「言った通りになったな」
卯月「誰かさんの勘が冴えてたんですかね?」
P「あぁ。ビビッと来たぞ」
卯月「ありがとうございます」
卯月「あの日。Pさんの手を取ったあの日願った夢は形になってあと一歩でその夢に届きそうです」
卯月「夢は叶えれば現実になるんです」
卯月「たまに考える時があるんです」
卯月「もし、あの時Pさんに会ってなかったらって」
卯月「オーディション受けるの辞めちゃってたかなって思います」
卯月「分からないですけどね」
P「そんな風に見えなかった気がするけどな」
卯月「そうでしたか?」
卯月「ただ、今の私が絶対。って言えることもあります」
P「なんだ?」
卯月「私が例えば3回生まれ変わったとして、パパやママの子じゃなかったとしても私はアイドルを目指してると思います」
卯月「キラキラした世界に憧れて」
卯月「素敵な舞踏会に夢を抱いて」
卯月「そして…その3回共Pさんにプロデュースして貰いたいと思います」
卯月「ずっと言おうと思ってました。ここまで連れてきてくれてありがとうございます」
卯月「アイドル楽しいです…ビックリするくらい」
卯月「明日も明後日も。それからもずっとずっと私はPさんのアイドルです」
P「…そうだな」
卯月「はいっ!そうなんです」
スタジオ
P「卯月」
卯月「なんですか?」
P「どんな場所でも一歩は一歩だ。焦らずしっかり行こうな」
卯月「そうですね。でも、そんな心配して貰わなくても大丈夫ですよ」
卯月「だって……Pさんが育ててくれたアイドルですから」
卯月「アイドル島村卯月。頑張りますっ♪」
終わりです。
読んで下さった方ありがとうございました。
簡単な解説と致しましては、今回『マヨイガ』を参考に致しました。
マヨイガとは迷い家とも言われ、恐らく柳田國男の遠野物語が有名だと思います。
端的に申し上げまして、話の内容としてはその家に訪れた者は家の中から何か一つだけを持ち出して良い。という物語です。
こう言った類の話には、お約束のように無欲な者は富を授かり、強欲な者は何も授かれなかったというオチがついております。
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