【モバマス】星輝子「hands」 (9)
ライラさんと星輝子のお話です。
長くないと思うのでよかったらお暇潰しにどうぞ。
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星輝子「hands」
私は、机の下にいた。いつものことだ。
私は、引き出しの裏側についたキズを眺めていた。
その行為に意味なんかなくて、ただの暇つぶしだ。しいて言うなら、片側にキズが多くついてるので逆側を持ち上げて引いてるのだろうと思う。この机の主が右利きだからだろうか。
なんてことを考えていたら、私の隣に置いてたはずの原木がないことに気づいた。焦った。
机の外を見ると原木が靴を履いていたので、置いてかれないよう手を伸ばして原木を掴んでから
「…あれ、柔らかい」
と私が呟くのと同時に、「あいた」と声をあげて柔らかい原木はこけた。
原木を掴んでいた私は机の下から引きずり出されて初めて、それが原木ではなく
「あ…ライラさん」
「おー…? あー、キノコさんおはようございますです」
同じ事務所でアイドルをしているライラさんの脚だとわかった。
「さっきは…ごめんね…」
「いえいえー、ゲンボクさんを失くしてなくてよかったですます」
とりあえず、原木は失くしてなかった。転がったのか机の奥のすみっこにあった。
「ラ、ライラさん…狭くない…?」
「ライラさんは落ち着く広さだと思いますです。あー…ご迷惑でしたか?」
「いや、いやいやいや、迷惑だなんてそんな…私は平気…」
「おー…んぉっ」
ライラさんが首を傾げようとして机の脚に頭をぶつけた。やはり机の下にふたりも入るのは狭いと思う。
そういえばこんなにこの人とこんなに近くで接するのは初めてだ。接するというよりもう触れてる。体育座りしてスカートから出た脚がきめ細かくきれいな褐色をしている。ゴツゴツしてる原木と見間違えたのはとても失礼だと思った。
褐色の隣に金色が見えて辿って目線を上げたら、膝に頭を乗せて横向きにこっちを見るライラさんと目が合った。青い目だ。
「キノコさん?」
「フヒャッ!?」
危なかった。…危なかった?
「ど、どうしたの」
「ライラさん、キノコさんとお話しすることがあまりなかったと思いましたです」
「え…?」
「いつもここにいると聞いていました。でも私が覗き込んでもいないことが多くて、人の話でばかりキノコさんのことを聞いてましたですねー」
「そう…なのか…だけど、私なんか探してもなにもない…」
私はやっと青い目から目をそらした。こんなに人の目を見ながら話したのは久しぶりかもしれない。いや、目が離せなかったのかもしれない。
……手、目をそらした先にライラさんの手があった。褐色だ。
私の白い手とは反対だ。ライラさんの性格も私と反対で…
「違いますです」
急に声が聞こえて自分の世界に入りかけてた意識が引き戻された。
「あ、え…?」
「ライラさん、キノコさんに聞きたいことがあって探していました。なにもないじゃないですよ」
「お………聞きたいことってなんだ…?」
ちょっと、いや割と胸の奥が熱くなって言葉につまってしまった。
ライラさんはなんて話せばいいのか言葉を手繰り寄せるみたいに考えている。
「うー…んとですねー、最近ライラさんのお部屋にきのこが生えてきたので食べられるか教えて欲しいのでございます」
「おおお…それは食べられるかの前に壁材を新しくしたほうが良いと思う…あとは、見てみないとわからない…」
家の中にキノコが生えるのは雨漏りがひどいとかとても湿度が高いときだ。しかも生えるキノコも食べられなくもないものもあるけど食用で作られてないし毒が有るものがほとんどだから心配。
だけどちょっと見てみたいなと私が思ったのと同時にライラさんは言った。
「それでは、今日キノコさんをライラさんのおうちに招待しますですよー。キノコを見てもらいますです」
「え、ええ!?」
ライラさんはヨッコラセと誰からか真似た掛け声とともに机の下から出た。私もつられて這うように出る。
きっとまぬけな顔をして見上げていた私に、ライラさんは手を差し伸べて言う。
「 はい、キノコさんがお暇でしたら今からでもですよー」
「……うん、今日は大丈夫…あ」
「?」
「ひだりて…ライラさんも左利き?」
私の前に出された褐色の手は左手だった。
私も左利きだ。反対じゃないところもあるんだなと思った。
「あー…ライラさんは右利きでございます」
ぁ、あれ。
「でもキノコさんが左利きと聞いてましたです。だから左手の方がー…?」
「…あっ、ああ、なるほど…なるほど…」
頭の中でなにか、弾けるような音がした。多分。
私とは反対だったけど、いや、私に限らず色んな人と反対なことが多いと思うのだけど。反対に合わせるって考え方があるんだなって、気づけば簡単なことだけどとても驚いた。
なにより反対だ反対だと無意識のうちに拒んでるような反応をしていた私に対して、ライラさんは受け入れよう受け入れようとしてくれてる。
自分はダメだなと思う反面、ライラさんはスゴいと思えた。
「…キノコさん?」
「…おお、ごめん大丈夫。行こう」
私がライラさんの手を取って立ち上がったら、ライラさんが少し笑顔になった気がした。
「はーい、ライラさんのおうちにご案内しますですよー」
おわり
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「おおお…オオオオォーーー!!!…あっごめん、私には楽園だけどこれは大家さんに言って壁を直してもらわないとダメだ…あと食べないほうが良い…」
「おー…ざんねんですねー」
今度こそおわり
それではお粗末様でした。七円でした。
ライラさんと輝子の組み合わせもっと増えろ。
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