上条「就活をぶっ壊せない」 (113)
To:上条 当麻<Toma Kamijo@gmail.com>
subject: 選考結果について
こんにちは、学園都市工業株式会社人事部です。
先日は、弊社エントリーシート選考に参加して頂きまして、誠にありがとうございます。
心より厚く御礼申し上げます。
その選考の結果ですが、残念ながら貴意に沿いかねる形となってしまいました。
重ねて御礼申し上げますとともに上条 当麻様の今後のご活躍をお祈り申し上げます。
ありがとうございました。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1476632025
上条「……」
上条「…………はぁ〜……」パタッ
上条「……また、落ちた」
上条 当麻21歳。大学4年生の春。
なんやかんやと世界の危機を救いまくって約4年。
「せっかく高校に進学したのだから、大学へも行っておけ」
親の勧めもあり、彼は学園都市内の中堅の大学へ進んだ。
大学では特にサークルに入ることはなかった。
卒業するために必要な単位のみを取得し、たまに友達と遊び、そして20歳を過ぎてからは人並みに飲酒をするようになった。
それなりに満足していた生活に陰りが見え始めてきたのは、昨年の12月。 …つまり、大学3年生の12月だ。
学園都市だけでなく、全国の大学生たちの一大イベント『就職活動』。
上条 当麻も例外なく、その波に巻き込まれて行った。
「まあ、いずれ決まるだろ」
そんな風に楽観視しながら始まった就職活動。
しかし…。
現実は、彼に突きつけたのは、屈辱的な日々だった。
上条「これで、何社目だ……」ゴロ
上条「……覚えてねえ」
誰に問いかけるでもなく、ただ呟く。
この4ヶ月、彼なりに内定を取ろうと頑張って来た。
説明会に出て、エントリーシートを出し、結果を待つ。
しかし、面接まで進めた企業は1つもなかった。
何でだ、と疑問に思うことはあった。
しかし、自分でいくらその原因を探ろうとしても、答えを究明するまでには至らなかった。
上条「はぁあああああああああああああ…………」
最近、毎日のように吐いているため息。
彼は落ちた時には決まって、心を落ち着かせるためにこうしている。
テレビかなにかで「ため息にはリラックス効果がある」という見解を聞いて以来実践しているのだ。
上条「よしっ! 次だ、次! 俺には縁がなかっただけだ! そう! 縁が!!」
上条「縁が…………」
上条「えん、が…………」
上条「……」
上条「……」ガックリ
上条「……気分転換に、散歩でもするか」
上条「(……っと、外に出てみたのはいいものの)」
上条「(散歩っつっても、することねえな。 最近就活だらけでバイトできなくて、ろくに金もないし)」
上条「(……はぁ、不幸だ)」
「か~みやん!!」
上条「……?」
土御門「うぃっす! ひっさしぶりだにゃ~」
上条「おぉ!! つ、土御門か!」
土御門 元春。
以前の級友である彼も上条と同じ大学へ進学した。
しかし、学部が違ったため、別のキャンパスへ行くことになった。
入学式や合同レクリエーションなどで会う機会があったが、
上条が大学の学寮へ引っ越ししたのもあり、次第に疎遠になっていった。
土御門「いや~、いつぶりかにゃ~。 おおよそ3年ぶりだぜぃ!」
上条「大学一年のとき以来だから、そんくらいになるかー!って、お前は外見全く変わらないのな!」
土御門「そういう上やんこそ、全く変わってないぜぃ! ……しかし、相変わらず、美少女から追いかけ回される日々を送ってんのかい?」
上条「は、はあ!? 俺がいつそんな生活したよ!」
土御門「本気で言ってるなら、容赦しないぜぃ?」
上条 当麻は嬉しかった。
いじられて嬉しいというわけではない。
春休み中、見知った顔とこのように話すことはほとんどなかった。
就職活動は『孤独な戦い』とはよくいったもの。
上条の友達も余裕のある者などいるわけがなく、相談に乗ってくれるどころか、
気分転換に遊んでくれる友人すら、ほとんどいなかったのだ。
上条「ったく。 ……お前は変わらないな」
土御門「あっはっは、たかだか数年会わなかったくらいで変わるわけないにゃ~」
そんな状況にあったからこそ。
気心に知れた友達に会えたのは、本当に嬉しかった。
土御門「あ、そうそう! そういや上やん。 この後、何か予定はあるかい!」
スマートフォンに表示される時計を見て、土御門が上条にそう問いかけた。
上条「ん? あぁ。 ……特に、予定は無いけど」
土御門「おっ! それなら丁度いい!」
上条「何かあるのか?」
土御門「イエス! 超最高にタイミングがいいことに、『久々に高校の皆に会おうぜの集い』を開くところだから、上やんも一緒に来い!」
上条「そ、そんな会開いてたのか?」
土御門「おいおい。 上やんにもメール送ったんだぜ? 1ヶ月くらい前に。 返事がなかったから忙しいもんだと思ってたが」
上条「……あ」
そういえば、と上条は思った。
マイナビ、リクナビ、その他就職活動支援サイトから送られて来る膨大なメールの対応に、彼は追われていた。
100通以上にも及ぶメールの処理。結果が出ない努力。
そんなことが重なった3月、どうしても就職活動をするのが嫌になり、一時期全くメールを見ないで現実逃避をした時期があった。
そのとき送ってくれたのかもしれない。
上条「……わりぃ、気付かなかった」
土御門「わっはっは! 気にするな気にするな! 今日会えたことが幸運だったぜぃ! とりあえず立ち話もなんだ。 早速むかおう!」
上条「……おう!」
喫茶店:
土御門「お待たせーぃ!」
「お前ー!待たせるなよー!」
「幹事だろ~!」
土御門「あっはっはー! すまんにゃー! だが、これを見ても同じブーイングができるかにゃー!?」
上条「……うぃっす」ヒョコッ
「上条!!!」
「上条じゃん!! 生きてたのか!? 死ねよ!!」
上条「もちろん!! ……って死ねって!?」
場所は、昭和を思わせる古風な喫茶店。上条たち以外に、客はいないようだった。
しばらく彼らは思い出話に華をさかせた。
てか、オティヌスどうなったし……インデックスとはお別れしたんだろうが
「……上条当麻」
上条「……ん?」
吹寄「久しぶりね」
上条「お、お、お前……。 まさか、吹寄か……!?」
吹寄「他に誰がいるの! 全く、貴様の目は人を判別できないレベルで節穴になったの?」
上条「うっわ、高校の卒業式以来じゃんか! 久しぶりだなぁ!! 元気にしてたか?」
吹寄「無論よ。 この中に私ほど健康に気を遣っている人はいないでしょう」
上条「あはは、たしかに!」
続々と来店するかつての級友たち。 懐かしさと再会の喜びに、思わず胸が躍る。
2013年入って以来、初めて上条は心からの笑顔を見せた。
上条「姫神!! 久しぶり!!」
姫神「上条くん。 ……変わらないね」
上条「姫神もかわ――。 ……いや、変わったか?」
姫神「……そう?」
上条「私服の姫神って、慣れてないせいか新鮮に見えるぜ」
姫神「……可愛い?」
上条「あぁ。 可愛いと思うよ」
姫神「……。 やっぱり。 変わってない。 上条くん」タタッ
上条「あ、おい!! ……なんだ?」
一同「(上条氏ね)」
楽しい時間は、あっと言う間に過ぎていく。
土御門「そこで上やんが―――」
上条「てめっ!? それ今バラしたら……!」
吹寄「……」ゴゴゴゴゴ
自分が置かれている陰鬱な状況のことを、すっかり忘れて。
青ピ「そりゃーーー!! コーヒー一気ぃ!!! ……ぶわっちぃ!!!」
吹寄「貴様……。 私の服を!!」ゴキャッ
青ピ「べふぅ!!?」
土御門「(揺れたッッ!)」
だが。
そのときは、やってくる。
「――そういえば、皆。 就活どうなん?」
避けられない、『現状報告』。
上条「(……あ)」
上条「(……やべえ。 俺……)」
上条「(……ま、まだ4月だ! 決まってないやつだっているはずだ)」
上条「(そ、そうだよ。 別に俺だけが決まってないなんてことは……きっと……)」
祈るように、縋るように、乱れる心にそう言い聞かせる。
だが……。
「それ聞いちゃう?」
青ピ「ほんまやで~。 やけに急やし!」
「いやー。 気になってさ。 皆今どんな感じなの?」
「お前らはまだ内定なんて遠いんじゃないか?」
青ピ「いっちち!! いったい所つくなや~」
土御門「俺たちなんかを拾ってくれる所があったら、土下座でもしてるにゃ~」
上条「(!!)」
上条「……そ、そうなんだよ、俺も――」
「なーんて……」
上条「(…………へ?)」
土御門「俺は、内定ゲットしたばっかりだぜぃ!!」キュピーン
青ピ「me too, や!!!」キュポーン
上条「(―――――え?)」
「マジか!!!! おめでとう!!」
土御門「あっはっはー。 もちのろんだにゃ~。 っつか、そもそも内定無かったら、お昼からこんな会来れないにゃ~」
上条「(……)」グッ
青ピ「そうやで~。 無い内定のカワイソ就活生は、今も説明会で『キチョバナカナシャ』してる時間やし!」
吹寄「……貴様らでも入れる会社があるんだな」
青ピ「むっ! 吹寄さん、そりゃないで~? ……そういうキミは、その2つのメロンを使って秘書にでも――」バキッ
吹寄「卑猥なことを言うな。 殺すぞ」
土御門「(殴った後に言っても遅いにゃ~……)」
青ピ「……」ピクピクッ
吹寄「……ふん。 私も、○○商事に内定を頂いたわよ。 最も、秘書検定が必須だっていうから、今は勉強に追われているけど」
「え!? ○○商事なんて言ったら超大手じゃん!!」
「俺たちの中から、エリートが!!」
吹寄「そんなに騒ぐことでもないでしょう。 そもそも相手に合わせてエントリーシート書いて、面接して、それで終わりなんだから」
上条「(……そんなに、騒ぐことでも、ない……?)」
「か~っ! やっぱり言うことが違うなー!」
土御門「流石吹寄だにゃ~」
姫神「……」パチパチ
「そういや姫神さんは?」
姫神「……私は。 ▽▽製菓に決まった」
「▽▽製菓!? あのチョコレートメーカーの!」
「最近、『ドロマッチョ』とかいう飲み物出したよね!」
「あぁ、あれ流行ってるよね~」
「姫神さんも大手の社員かー。 ってか、何でお菓子?」
姫神「私。 食べること。 嫌いじゃなかったから」
「『嫌いじゃないから』って言って受けて入れる会社じゃねーぞ……」
上条「(…………)」
「俺は■■製紙に――」
「私は××テクノロジーに――」
「僕は――」
「俺は――」
「―――――」
上条「…………」
土御門「皆すごいにゃ~! 俺はあくまで小さい工務店から頂いただけだぜぃ」
青ピ「ワイも社員15人くらいのベンチャー企業やでー」
「今の時代、正社員になれるだけありがたいでしょー」
吹寄「そうだ。 貴様らは選り好みできる立場ではないのだからな」
土御門「くっはー! 厳しいにゃ~!」
青ピ「その通りなんやけどな! わははは!!」
土御門「そういや、上やん! 上やんはどうなんだ?」
上条「!」
青ピ「美少女キラーの上やんだから、女性人事の会社ならイチコロやろ!」
土御門「あはは、そりゃ言えてるにゃー」
上条「……え、えっと、俺は……」
吹寄「……上条当麻、まさか」
吹寄「……貴様、就職先が決まってもないのに、こんな場所へ……?」
土御門「!? ま、マジかよ上やん!!!」
青ピ「そんなわけあらへんって~。 あの上やんやで?」
上条「……も、もちろん!! 俺もあ、あ、あ、IT系の企業に内定をもらってるっつーの!!」
土御門「なんだよ~!! 上やん、焦らせるなよ! 内定がないやつを遊びに誘っちまったら、俺が罪悪感に駆られちまうぜぃ」
青ピ「ほれ見たことか~! どうせあれやろ? 女性上司をオトして入れてもらったんやろ!」
土御門「なんだって!? それは聞き逃せないぜぃ! 詳細を早く言え!」
ぎゃははははは!!
上条「……あ、あはは」
以前書いていた就活×禁書SSを完結させるために最初から投稿します。
是非お付き合い頂ければと思います。よろしくお願いします。
>>10
すいません……。新約になってから禁書原作追わなくなってしまったので、
新約以降のシナリオ・キャラクターは全部知らず……。
いずれまとまった時間が出来たら読もうと思ってますが、とりあえずこのSSでは新約以前に登場したキャラクターのみ登場します。
また、特定のキャラクターとのカップリングもございませんので、
カップルを求めている方には申し訳ございません。
それでは、じっくりとやって行きたいと思います。
新約の1巻発売日が2011年3月10日
5年も経てばその頃の高校生中学生が就活生にもなりますわな
土御門「皆すごいにゃ~! 俺はあくまで小さい工務店から頂いただけだぜぃ」
青ピ「ワイも社員15人くらいのベンチャー企業やでー」
「今の時代、正社員になれるだけありがたいでしょー」
吹寄「そうだ。 貴様らは選り好みできる立場ではないのだからな」
土御門「くっはー! 厳しいにゃ~!」
青ピ「その通りなんやけどな! わははは!!」
土御門「そういや、上やん! 上やんはどうなんだ?」
上条「!」
青ピ「美少女キラーの上やんだから、女性人事の会社ならイチコロやろ!」
土御門「あはは、そりゃ言えてるにゃー」
上条「……え、えっと、俺は……」
吹寄「……上条当麻、まさか」
吹寄「……貴様、就職先が決まってもないのに、こんな場所へ……?」
土御門「!? ま、マジかよ上やん!!!」
青ピ「そんなわけあらへんって~。 あの上やんやで?」
上条「……も、もちろん!! 俺もあ、あ、あ、IT系の企業に内定をもらってるっつーの!!」
土御門「なんだよ~!! 上やん、焦らせるなよ! 内定がないやつを遊びに誘っちまったら、俺が罪悪感に駆られちまうぜぃ」
ぎゃははははは!!
上条「……あ、あはは」
上条宅(学生寮):
上条「……」
上条「…………」
――『今の時代、正社員になれるだけありがたいでしょー』
――『内定がないやつを遊びに誘っちまったら、俺が罪悪感に駆られちまうぜぃ』
――――『そんなに、騒ぐことでもないでしょう』
上条「…………」 ギュ
上条「(俺……。 ……社会に居場所なんて、あるのか?)」
【翌朝】
ぴよ…ぴよ…
上条「……」ムクッ
上条「……ふぁ~ぁ」
上条「……」チラッ
上条「!?」
上条「やっべえ! 説明会!!」
昨晩は、どうしても眠れなかった。級友たちの笑顔と内定報告が頭にこびりつき、答えの出ない自問自答を繰り返していた。
上条「えーっと……、今日は別に選考とかもないから……!! スーツだけ着て行こう!」
アイロンもかけていないヨレヨレのスーツに10分で着替え、上条当麻は本日も企業の採用説明会へ向かう。
社員「我々の会社の良い所は、風通しがほんとーに良い所ですねー!」
社員2「そうなんですよ~! なんたって俺ら、社長のことあだ名で呼んでますもん! ね、ヨシりん!」
社長「ごほん! こらこら、それ言ったらダメだろ~!」
社員2「あははっ。 まあ、こういう感じで仕事してるときも和気藹々とやってるって感じですね」
就活生「アハハハハ」
上条「(楽しそうな会社だなあ)」
上条「(……ここなら、俺も受け入れてくれるのかな)」
社員「さてさてー。 ここらへんで、何か質問はありますか~?」
就活生たち「はいはいはーい!!!はいはい!!!!」
社員「はい、じゃあ最初に手が上がったキミ!!」
就活生「はい! 私、○○大学●●学部から来ました、就活生と申します! 本日は、貴重なお話ありがとうございました! 私は御社の――」
社員「はいはい~、それはね~!」
上条「(皆、威勢がいいなあ)」
社員「――というわけです。 こんな感じでいいかな。 答えになってるかは分からないけれど~」
就活生「はい!! ありがとうございました!!」
社員「いえいえ~」
社員2「さあ、他にはあるかな~?」
社員「無ければ、時間も時間なのでここら辺で終わりにしたいと思いますがー」
上条「(っ! も、もう終わりか!?)」
上条「(や、やべえ! 俺も何か質問しないと……!)」
上条「(で、でも、質問は?! 何も考えてねぇ!!)」
上条「(え、えぇい! とりあえず上げておけ!)」シュビッ
社員2「おー……。 まだ結構あるなあ。 けど、時間的に次がラストかなぁ」
社員2「んー……。 あっ、はーい。 それじゃあ、そこのつんつん頭のきみ~」
上条「(!? い、いきなり俺!?!)」
社員B「ん~? どうかしたの~? キミだよ~?」
上条「は、はい!ぼ、じゃなくて、わ、私は、その、えぇっと!」アタフタ
社員「時間もないし、自己紹介とかはしなくていいよー」
上条「(や、やべえ! やべえ!!) は、はい!! えぇっと、その、お、御社は、その!!」
上条「その……。 えぇと…………」
上条「……その、なんでも、ない、です……。 すいません」ペコリ
社員2「……」
社員2「……何を聞くのか、決めてから話そうね? 時間がもったいないよ?」
上条「…………はい。 申し訳ないです」
帰り道:
上条「(……ダメだ)」
上条「(今まで、自分はそこまで人見知りしないヤツだって、勝手に思ってた)」
上条「(インデックスが来たときだって。 姫神が来たときだって。 ……俺は誰とだって、普通に話せてた)」
上条「(なのに、今はどうだ? ちょっと当てられただけで萎縮して。 頭が真っ白になって)」
上条「(不甲斐ねぇ……)」
上条「(こんなんなっちまったの……いつから、だろ)」
上条当麻は、説明会に出ると必ずこうだった。
とりあえず積極性を見せようと何かしら行動するが、結果に結びつかず、裏目に出る。
自分の意気込みに対して、納得のいく成果を得られない。
上条「(そういや、大勢の前で喋る訓練なんて、今まで受けたことなかったな……)」
下らないジョークで自分を励ます毎日に、彼は辟易していた。
だけれども。打開策はない、突破口もない。
上条 当麻の就職活動は五里霧中の状態だった。
上条「(くっそ……)」
決して怠惰ではないが、何をするでもない、目的のない生活。
結果、出来上がるのは"どこにでもいる平凡な学生"。
初めて会ってから数時間程度の人間たちに、そんな自分の薄っぺらさを見抜かれているかのような、そんな感覚が上条を襲っていた。
心が、少しずつ荒んでいくのが分かった。
こうなったのは誰のせいでもない。……自分の責任だ。
「あれ。 ……アンタ、まさか」
上条「……?」 クルッ
美琴「……やっぱり」
美琴「久しぶり、じゃない」
上条「おぉ!! ビリビ――」
美琴「あ"ぁ"?」ビリッ
上条「……じゃなくて、御坂!」
美琴「……なんか、変わってないわね、アンタ」
上条「(……。 ……変わってない……か)」
美琴「……?」
某ファストフード店:
美琴「……で、どうなのよ、最近」
上条「どうって、見ての通りだよ」
上条と美琴は、ハンバーガーとポテトフライで人気のファストフード店に来ていた。
今回は、なんと驚いたことに、美琴から上条を誘ったのだ。
お昼を食べていなかったこともあり、彼は2つ返事で了解と答えた。
美琴「見ての通りって……。 うーんと、就職活動中ってこと?」
上条「そのとーり。 絶賛職探し中だよ」
美琴「ふぅーん……」
上条「そういうお前はどうなんだ?」
美琴「……別に。 付属の大学に進んだばっかり」
上条「へぇ! おめでとう!」
美琴「ふ、付属だからおめでとうも何もないってば!」
上条「それでもだよ! 大学に入ったんだからめでたいだろ!」
美琴「あ、ありがと……」
美琴「……」
上条「……」
美琴「…………」
上条「…………」
美琴「……ちょっと」
上条「ん」
美琴「何か喋りなさいよ」
上条「何かと言われましても」
美琴「……はぁ(やっぱり、こういう所も変わってない)」
上条「?」
前にエタったやつじゃん!
dat落ち直前まで更新確認しにきてただけに復活が素直に嬉しいわ
今度は最後まで書いてね
すげえなついなw
完結することを祈る。
早く続き見せてくれ
上条「(……うーん、人と話すこともなんか下手になった気がするな)」
上条「あー……。 そういや、大学で何を学んでるんだ?」
美琴「えっ? えっと、政治経済学」
上条「法学部の?」
美琴「うん。 特にやりたいことってのもなかったし。 どこでもいいやって思って」
上条「へぇ。 でも、俺がいる大学とは段違いの学校だろうし、学ぶことも違うんだろうな」
上条「就職活動も楽そうだし」
美琴「そうなのかな……」
上条「え?」
美琴「偏差値とか、能力値とか、そういったもので計ってる尺度なんて、正しいとは言えないわよ」
上条「そんなもんかな」
美琴「そうよ。 私の大学だって、退学者はいるし、留年者はいるし、就職活動で職が見つからない人だっているもん」
上条「えっ……。 そ、そうなのか!?」ガタッ
美琴「いっ!? な、何よ急に……」 アセアセ
上条「あ、いや……。わりぃ」
純粋に驚いた。
学歴というのは、現代を生きる学生にとって、『自身の価値』そのものにすらなりうる。学園都市の生徒とて、例外ではない。
※一部の学生は過剰に信じ込んでしまっている節はあるのだが、それでも選考において重要な要素となってくるのは間違いない。
だからこそ、上条は就職先や自分の未来に高望みなんてしなかったし、度量も知れていると高をくくっていた。
だが。
雲上人だと思っていた常盤台大学の学生ですら、自分と同じ境遇にいる。 その事実を聞いて、戸惑いを隠せなかった。
美琴「そんな光景を見ちゃったら。 私はまだ入って2週間足らずだけど、将来が不安になってくるわね」
上条「お前は心配する必要ないだろ。 頭も良いし、運動だってできるし、何より……」
美琴「超能力者(レベル5)だから?」
上条「!」
美琴「はぁ。 やっぱり、アンタも周りとおんなじこと言うのね」
上条「だって、事実そうだろ? 学園都市内での就職には、必ず問われる要素だし」
美琴「もちろん、履歴書には書けるわ。 自分で言うのはなんかバカらしいけど、書類選考だって一発で通るくらいのインパクトだと思う」
上条「だ、だよな?」
美琴「えぇ。 ――でも」
上条「!」
美琴「……そんなの、ただの"オマケ"でしかないわよ」
上条「……お、オマケ!?」
美琴「資格とか、特化した能力があっても、必ずしも社会で役立つとは限らないじゃない」
上条「ま、まぁ」
美琴「でしょ? 私の能力だって、本気で役立てるんだったら、研究所だったり、発電所だったり。 そういった所しか、見当つかないし」
美琴「私がやりたいことがそうでなかったら……。 能力なんて、ただのお飾りでしかないじゃない」
上条「……」
上条 当麻は理解した。
そもそも、『社会に出ること』に対しての考え方が、自分と彼女では根本的に違うのだと。
自分は、なんとなく生きてきて、なんとなくやってみたいことを生業としている企業を受けていた。
そこには夢も目的もなく、単なる興味。
それ自体は悪いことではない。最も問題なのは――
上条「(……俺、内定取れればどこでもいいとか、考えてた……)」
そう。『内定を取ること』自体が目的になってしまうことが、最も愚かなことなのだ。
美琴「……」モグモグ
上条「……」
目の前に座る、彼女の考え方は、大人だった。
社会に出て、何ができるのか。自分は何がしたいのか。
大雑把ながらも、目的から逆算して、自分の立ち位置を理解しようとしている。
――少なくとも、上条よりもずっと多くのことを考えているのは、間違いなかった。
上条「――御坂」
美琴「んー?」
上条「……お前ってやっぱ、凄いやつなんだな」
美琴「ぶふっ! ぇ、んな、なななななによ!? いきなり改まって!」
上条「いやぁ、俺との差というか、格の違いを思い知ったよ」
美琴「……何よ、格の違いって」
上条「考え方とか、目的意識とかかな」
美琴「別に、何が凄いってことのほどでもないじゃない! そんなこと褒められても嬉しくないっ!」プイッ
上条「あはは」
美琴「何よ、急に落ち込んだり、元気になったり……」
美琴「(……でも、なんか……。 純粋な笑顔が見れてよかったな……)」
上条と御坂の顔に屈託のない笑みが浮かぶ。
同窓会以降、安らぎがなかった上条の心にも、ほんの一瞬だけ平穏が訪れたように見えた。
外:
上条「ふぃー、美味かった! ジャンクフードってたまに食べたくなるもんだよな」
美琴「そうね。 やっぱりこういう砕けた味の方が普段食べるものとしては適してるわよね」
美琴「……でも、いいの? 奢ってもらっちゃったけど。 私だってお金持ってるよ?」
上条「女の子に、しかも後輩に奢らせるほどおちぶれちゃねーっての」
美琴「そ、そっか……。(お、女の子……)」
美琴「その……、えっと、ありがと。 ごちそうさま」
上条「お礼なんていいって。 すげー良い話聞かせてもらったし」
美琴「べ、別に、普通じゃない! あんなの何気ない話」
上条「普通じゃないって! 少なくとも、俺にとっては、凄い大事な話だったよ! ありがとな、ほんと!」
美琴「ま、まあ役に立ったんならいいんだけど……」
上条「じゃあ、俺はそろそろ行くかな。 飯、一緒に食ってくれてサンキュな」
美琴「あっ…… (久々に会えたのに……。 ……あっ、そうだ!)」
美琴「ちょっと待って!」 カキカキ
上条「んー? どうした? 忘れ物か?」
美琴「……はい! これ!!」ビシッ
上条「……え? えーっと、メルアドと番号?」
美琴「……その。 前交換したときと、変わっちゃってるといけないから、一応……」
上条「……」
美琴「(や、やば、なんか変だったかな!?)」アセ
美琴「アンタがあんなにくだらないことで悩んでるんだったら、私が力になってやってもいいって言ってんの!」
上条「御坂……」
美琴「その……。 い、いつでも頼って来なさいよね。 私、待ってるから」
上条「……おうっ! ありがとな!!」
上条宅:
上条「(……)」
上条「(…………自分ができることと、やりたいことの違い……)」
上条「(……そんなこと、考えたことも無かったな)」
上条「(インデックスがイギリスに帰ってから、特に何事もなく過ごして。 それに満足して。 この先も、ずっとそれが続くんだろうって勝手に思って)」
上条「(行き着いた結果が、今の俺)」
上条「(……)」
上条「(……明日から……。 いや、今日。 今から、変わらないと)」
上条「(……うっし! やるぞ!! まずは、自分ができること探しだ!!)」
20○○年4月初旬。
上条 当麻、21歳。『本気の』就職活動が始まる。
>>36,>>38
おおおおお。
覚えてくださっている方がいるとは……。
ありがたいです。嬉しいです。
前回からは誤字脱字を修正したり、ちょっとキャラクター同士の掛け合いに変化を加えたりしているので、
全く同じものにはならない予定です。
少しでも楽しんでいただけたらと思います。
よろしくお願いいたします。
細かいことだけど吹寄の口調は男言葉じゃなく普通に女言葉
あと上条さんが大4なら二つ下の美琴は大2じゃ?
>>1です。
>>58
ありがとうございます。
キャラクターの年齢について調べてみたら、本当にその通りでした。(上条と美琴は2歳差でした)
今までのは完全に>>1の脳内設定でしたどうもありがとうございました。
また、吹寄の話し方についても指摘ありがとうございます。
今後修正します。
44レス目の下記セリフを脳内修正お願いいたします。m(_ _)m
美琴「そんな光景を見ちゃったら。 私はまだ入って2週間足らずだけど、将来が不安になってくるわね」
↓
美琴「そんな光景みちゃったら。 私はまだ2年生で、そういうことするまで時間がるけど、将来が不安になってくるわね」
新約のシナリオやキャラクターを入れられない分、できるだけ原作に忠実に作りたいと思っているので
気になったことが合ったら指摘をしていただけますと幸いです。
それでは、30分後からまた更新します。
上条「(……っつっても。 何をしたら、自分がやりたいことが見つかるんだ?)」
上条「(いや、そもそも俺ができることってなんだ?)」
上条「(今まで、こんなこと考えたことなかったからなぁ……)」
上条「(……。 そういえば、こう言うのを自己分析っつーんだっけ。 そんなのやったことなかった。 難しそうだし)」
上条「(教えてくれる人、いっかなー……。 流石に、今の状態で土御門たちは頼れそうもないしなぁ……)」
上条「(……神裂に聞いてみるか? ……いや、聖人にんなこと聞けねえ……。 しなくても自分が何者か分かってそうだし……)」
上条「(……うーん。 大学教授も俺と仲の良い人なんて……)」
上条「(……ん? 教授? ……先生…………。 ……そうかっ!!)」
【夜】
とあるアパートの一室 :
ぴんぽーん
上条「……」
「はいはーい、どなたですか~……って、上条ちゃんじゃないですかーっっ!!」
上条「……こ、こんばんは。 小萌先生」
小萌「い、いやですー! こんな寝間着姿見られちゃって……! そういえばこれって二度目です!!」ガーン
上条「(誰だと思って開いたんだ……?) すいません! 急に来ちまって」
小萌「そ、それは全然構わないんですけど~……。 あー、うー……。 とりあえず、入りますか~?」
上条「はい……! お邪魔します」
:小萌先生宅
小萌「はい、どうぞ~」
ひと昔前のドラマで見たことがあるようなちゃぶ台の上に出される緑茶。
『学園都市寿司』と印字された湯呑みからは、白湯気がゆっくりと立ち昇っている。
上条「ありがとうございます」
出されたお茶を飲みながら、ゆっくりと辺りを見回してみる。
目に映るのは、散乱したビールの空き缶。
ああ、そういえばこういう人だったな、とノスタルジックに近い何かを感じた。
小萌「も~っ!! 上条ちゃん! 女性の部屋を、そんなまじまじと部屋の中を見渡さないでくださいっっ!!」
上条「あっ、す、すいません。 なんか懐かしくって」
小萌「わ、私だって普段はもっと綺麗にしてるんですからっ。 今日はその、たまたま散らかしっぱなしなだけで……」ボソボソ
上条「あはは……」
小萌「……さて、と」
湯気を、小さな吐息で飛ばしつつ。
言い訳をする子どものような表情を、一息で凛とした教師の眼差しへと変えていく。
小萌「いきなりどーしたんですか? 高校卒業してから、全く音沙汰がなかったのに」
上条「すいません……。 交通費の関係で学生寮の方に入っちまったんで、なかなかこっちに来る機会がなくて」
小萌「ふふふ、別に謝る必要は無いですよ~。 学生は青春を謳歌しないといけませんから~」
屈託の無い笑顔を見て、改めて思う。
この人が、自分の先生で良かった、と。
上条「いや、その……。 自己分析ってのを、教えてほしくって」
小萌「『自己分析』ですか……?」
上条「はい」
小萌「能力解析ではなく?」
上条「そ、それもあるんですけど。 俺は今、就職活動中でして……」
小萌「なんと!! あの上条ちゃんが、もうそんなお歳ですか!!」
上条「あはは、そうなんですよ」
小萌「時の移ろいというのは早いものですね~。 もう、そんなに時間が経ちましたか」ズズッ
上条「そうですね……。 あんときはなんていうか……若かったですね」
小萌「むむ~っ。 上条ちゃんがそれを言うと、暗に私がバカにされているように聞こえますね~!」
上条「い、いや! そんな意図はないですって!」アセ
小萌「うふふ。 分かってますよ、冗談です! ……それはそうと、自己分析ですか」
上条「は、はい! 俺、今までちゃんと自分のこととか真面目に考えたことなくて、どうやったらいいのかイマイチ分からないんです」
小萌「確かに『自分を知る』というのは就職活動において、重要なポイントの1つですね」
小萌「本当は、もっと早くから取り組んで意識しておくべきことなんですけど……」
小萌「ほとんどの学生は就職活動の時期にならないとやりませんからね。 そもそも、必要にならないということが問題なのですが……。 日本の豊さが招いた悪しき風潮です~」
小萌「そういう風潮を作っているのが、日本の教育委員会及び教師陣っていうんですから、私が言えた義理でもありませんけど……」
小萌「そうですね~。 それじゃあ、自己分析をする前に、まずはちょっと質問させてください」
上条「はい!」
小萌「いいお返事です。 それでは早速。 ……上条ちゃん、バイトはしたことありますか~?」
上条「うーん……。 短期バイトは何回かやったんですけど、長期のバイトはほとんど経験がないです」
小萌「なるほど~。 じゃあ2つ目の質問です。 学生時代に学んだことは何ですか~?」
上条「は、はい。 国際文化……ですかね」
小萌「ほぉ~。 国際文化って言っても、沢山ありますよね? 国際考古学とか、国際文化人類学とか。 上条ちゃんはそういった括りだと、どんなことを学びましたか?」
上条「細かく分類するとってことですか?」
小萌「そのとーりです!」
上条「うーん……。 パッと、これ!っていうのは出て来ないんですけど。 どちらかというと、海外の現代文化と、宗教文化っていうのを……」
小萌「上条ちゃんの周りにはシスターちゃんたちがいましたもんね~。 そういった色が強く残ってるってことですかね」
上条「た、多分……。 少なからず、俺は影響を受けてると思います」
小萌「はい! これが、自己分析ですよ~!」
上条「……へ? じ、自己分析って、俺は今、質問に答えただけですよ?」
小萌「そうです。 私から質問をもらった内容を、ちょっと思い返してみてください」
上条「えっと、バイトしたことあるかってのと……、あとは大学で何を勉強してるのか、とその理由。 ……っ! これって――」
小萌「はい! そうです。 今の上条ちゃんはどういった経緯で、その『今』に至っているか。 そのルーツを、簡単ながらも探るように質問してみました」
小萌「そこで、上条ちゃんは『外国人の友達がいるから、国際文化を学んだ』っていうパーソナルな歴史が見えてきましたよね」
小萌「これこそが、上条ちゃんだけの歴史。 この『自己の歴史』を明確にするために、自分に疑問を投げ掛けて答えを見つけようとすることが、『自己分析』というわけです~」
上条「な、なるほど……!」
小萌「『分析』なんて言うと堅苦しいですよね。 要は、自分の『今』はなんであるんだろう、どのようにして自分の価値観はできたんだろう」
小萌「そうやって『自分について考えてみることの事』を、小難しく言ってるってだけのことなのですよ」
上条「(自分の、歴史……)」
自分が何者なのか。 それを探るのが『自己分析』。
『分析』という言葉から、ついつい自分では到底こなせないような、高尚なものだと定義をしていまっていた。
上条「(……言い方や考え方を変えてみると、こんなに物事は理解しやすくなるのか)」
上条当麻は改めて、彼女が教師であり、社会人なのだと実感した。
小萌「そういえば、シスターちゃんは今どうしてるんですか~? まだ一緒に住んでるんです?」
上条「あ、いえ。 インデックスは、俺が大学に進学すると同時にイギリスに戻って、あいつにしかできない仕事をしてるみたいです」
小萌「はえー。 そうなのですか」
上条「はい。 俺が大学に進学して、高校の頃よりも規則に厳しい学生寮に入ることになったってのもあるんですが、
アイツはアイツなりにやりたいこともできたらしくて」
小萌「シスターちゃんにしかできなくて、やりたい仕事……。 大食いとかですか~?」
上条「あはは。 詳しくは分かりませんが、学術的なことみたいです。 ……まぁ、俺といるよかイギリスにいる方が多く食べれるでしょうね」
小萌「シスターちゃんが幸せなら、何よりなことです~。 ……そういえば、海外と言えば。 上条ちゃんは海外に行ったことはあるんですか?」
上条「は、はい! イギリスとか、フランスとかには……。 あと、ロシアにも」
小萌「なんと……!? ヨーロッパにロシアですか! 運賃だって馬鹿にならなそうです~」
上条「色々と事情がありまして……」
小萌「ふむふむ。 それじゃあ、上条ちゃんは海外に行ったことない学生よりも、海外に行ったことがある経験があるという面で、強みを持ってるわけですね」
上条「強み……?」
小萌「はい。 いくら海外に行くことが容易くなった時代とは言え、まだまだ日本人の学生たちは海外へ行く意欲が薄いのです~」
小萌「国際文化を学んでいるのに、日本でしか過ごしたことがない。 そんな子だって沢山いるはずですよ~」
上条「なるほど……。 海外へ実際に行ったことがあって、国際文化を学んでいることが、俺の強み……」
小萌「正に、その通りです。 他の誰でもない、上条ちゃんだからこそ持ってる強みです」
上条「で、でも。 海外に行ったことあるヤツだって、沢山いると思うんですけど」
小萌「そうです。 つまり、今は見つけた"強みになるヒント"を見つけただけ。 ……明確に強みとして呼称するには、いささか頼りない状態です」
小萌「上条ちゃんは、今からもっと詳しく自分の過去について考えて、これを錬磨しないといけません」
上条「練磨っていうと……より確固たる鋭い個性にする……という感じですか?」アセ
小萌「はい。 言葉面では難しそうですけど。 実際は簡単なことです」
彼女はそう言って立ち上がると、戸棚から紙とペンを持って来て、上条に差し出した。
小萌「この紙に、上条ちゃんが今まで海外に行って、1番印象に残ったものを、なるべく具体的に書いてみてください」
上条「具体的に?」
小萌「はい。 例えば、フランスに行った期間が1ヶ月だったら、しっかり1ヶ月と書くこと!
間違っても、『短期間』『長期間』とか、そういった人によって尺度が違う言葉は使ってはいけません」
小萌「大人はこれを、客観的に述べる、と呼びます」
上条「客観的に……。 分かりました」
15分間、彼は必死に考えた。そして、これまでに無い程集中して、目の前の白紙に向き合った。
戦闘した経験や死にそうになった経験などは、数え切れないほどある。
だが、そんなことを書いても、意味がないことは御坂 美琴から教わった。
書かなければならないのは、自分が『価値がある』と思っていて、人に見せられることができる事実。
彼は彼なりに考えぬき、自身の学ぶ学問と結びつけて書き起こした。
上条「……で、できました」
小萌「はーい。 お疲れ様です。 どれどれ~」
小萌「……イギリス清教、ロシア成教、ローマ正教、そして日本に存在する天草式十字凄教など、多数の宗教団体と出会い、考え方の違いを知った、と」
上条「はい。 俺が海外に行ったのは、とある事情があったからで……。 文化的な意味では旅行客レベルで、ほとんど学べてないんですけど、
宗教に関しては各宗派の人たちと直接触れ合う経験が多かったと思うので……。 それが、俺だけにしかない強みなんじゃないかなと思いました」
小萌「いいじゃないですか! これでいきましょう! 上条ちゃんの『軸』は」
上条「『軸』……?」
小萌「はい。 上条ちゃんを語る上で外してはならない、1本の強固な筋のようなものです」
上条「は、はぁ……」
小萌「ふっふっふー。 そんなこと急に言われても、ピンと来ませんよね」
小萌「そんな上条ちゃんに、丁度いい動画があるんです。 ちょっと見てみてください」
上条「動画、ですか?」
小萌「えーと……。 確かここら辺に……。 あ、あったあった。 これがです~」ピッ
山のように積み上げられた雑貨の中から、古びたテープを取り出してビデオデッキに挿入する。
ロードをする威勢の良い音を出したあとに、テレビにそれは映し出された。
上条「……えっと、面接の動画……ですか?」
小萌「そうです。 上条ちゃんは、この動画を見て、面接を受けている彼がどういう人物か推測してみてください。 いいですね?」
上条「は、はいっ」
『それでは、自己紹介をお願いします』
『は、はい! ……私は、小学生のときは野球をやって! 中学生のときは生徒会をやって。 あ、野球のポジションはピッチャーでー、生徒会は庶務でした。
それで高校のときはテニス部に入って大会に出ました!!大学では文学について色々と学んで、人生には沢山の楽しみがあるんだなと思いました』
上条「……」
小萌「どうでしたか?」
上条「えっと……明るい人だとは思ったんですけど」
小萌「聞いていて、何を言ってるんだろう。って思いませんでしたか?」
上条「はい。 そうです。 何が言いたいのか、よく伝わってきませんでした」
小萌「そうなんです。 さっき私が言った、『軸』がないと、周りからはそう見られてしまいます」
上条「……」
小萌「今映っていた彼は、きっと『今まで沢山のことに取り組んで来た』ということを言いたいのでしょう。
けれど、初めて会った人に、たかだか数十分でそれを全て伝え切るのは、とてもじゃないけど無理なんです」
小萌「1日に何回も会うような人であっても、数年付き合ってようやく気付く習慣とか口癖があったりします。
それと同じで、自分のことを全て相手に知ってもらうなんてことは、一朝一夕ではほぼ100%無理です」
上条「あぁ、確かに……」
上条は、御坂 美琴を思い返していた。
確かに人を思いやる心は人一倍強いところはあっても、
自分よりは年下で、なんとなく子供のように思っていた。
しかし、そんな彼女が、実は人一倍自分の能力と将来について考えている、『大人』な人間だったことに
出会ってから数年経って初めて気付かされたことを。
小萌「こういった場合、1つの事柄に絞って、相手に自分はこういう人なんだよ!って伝えることが、1番効率がいいし、伝わりやすいんです。
小萌「まあ、これも口で説明するより一度見てもらった方が早いので……。 すいませんが、上条ちゃん。 もう一度テレビを見てもらっても良いですか?」
上条「はい!」
『私、○○大学●●学部の××と申します。
専攻はメディア情報学です。小さい頃から新聞を読むことが習慣になっていたこともあり、情報について学びたくてこの学部に入りました。
大学時代は、マスコミ関係のインターンシップを3社ほど経験させて頂きました。
事実の裏付けと、情報鮮度の重要性を改めて知ることができた良い機会だったと思っています。
この経験から、『理論プラス実践』がモットーとなっており、もし私が御社に入社できましたら、活かしていきたいと思っております。
宜しくお願いします。』
上条「おぉ……」
小萌「どうですか?」
上条「言ってることがすんなり入ってきました。 何で大学の学部に入ったのかも分かりましたし、マスコミに行きたいんだなってことも伝わりました」
小萌「そうですね。 マスコミで働く上で重要なことを誰よりも知ってますよ!ってことをアピールしている、良い自己紹介だと思います」
小萌「前者では、生まれてきてから今に至るまでの経緯を全て羅列していました。
しかし、後者はもっとシンプルに、自分が好きなことだけを押し出しています」
小萌「情報量だけで見るなら、前者の方が多いです。
しかし『自分がどういう人間なのか、何が好きで、今まで何をしてきたのか』を相手に伝えるといった目線に立つと、
圧倒的に後者の方がわかりやすいのです」
小萌「これが、『軸』を持つことと持たないことによる違いです~」
ちょっと夜も遅くなってしまったので失礼します。
できる限り毎日数~10レス程度は更新できるようにいたします。
お暇な時に見ていただければと思います。
よろしくお願いいたします。
上条「なるほど……。 自分を語る上で、何か1つテーマを決める……ってことか」
小萌「イエス! 上条ちゃん、高校の頃よりも真剣に話を聞いてくれるようになりましたね~。 先生は嬉しいです」
上条「あはは……。 こんな俺でも一応、成人しましたから」
小萌「そういえば、就職活動中ということは、今21……ですもんね」
上条「うす。 そんで、今年22歳です」
小萌「なんと!! それはいい気づきです! それでは早速」
上条「へ……?」
小萌「一杯酌み交わしましょう! 元教え子と一杯飲むことができるなんて、教師冥利に尽きます……! っていうことで、ビールを用意しますね~」タタタッ
上条「あっ、いや、俺、今日は……」
小萌「はいっ!」バンッ
麒麟、端麗、そしてタイガービール。
有名所から海外メーカーの製品まで、大量のビール缶を取り出してきた。
上条「せ、先生……これは」
小萌「よく言うじゃないですか。 パーっといこうって!」
小萌「そうするには、お酒が一番ピッタリなんですよ! だから……ね?」ニコッ
上条 当麻は酒に弱い方ではない。
むしろ、大学の学友との付き合いで、週に数度は呑んでいたため、そこそこ強い方だと思う。
だが。
小萌「さーどんどん呑みますよー!」
上条「ちょ、ちょっとペースダウンしましょうよ」ゲッソリ
目の前にいる小学生サイズの大人は、水を飲むかの如く大量のお酒を飲み干して行く。
最初はそのスピードについていこうとしたものの、その圧倒的速度に付き合うのは不可能だった。
上条「俺もう結構酔ってるんで、これ以上飲むと帰れなくなりますって」ヒック
小萌「なんのなんの〜帰れなくなったら泊まればいいことです〜♪」
上条「い、いや! 流石にそれはダメですよ!」
小萌「ぶー……。 そんなに教師の汚室は嫌ですかー!!」ウガー
上条「そういうことではなくてですね!?」
小萌「まったく……。 大人になったと思っていた上条ちゃんも、まだまだみたいですね〜」
小萌「それじゃあ、お口直しにこれでも飲んでみるのはどうですか?」
上条「えーっと……まあ、じゃあちょっとだけ頂きます」
そう言って差し出して来た『333』と印字された白い缶を手に取り、少し口に含む。
上条「……ごく。 ……あ、これ美味い」
上条「なんというか、薄味で、いくらでも行ける感じ」
小萌「うむ。その通りです〜。 それはベトナムから取り寄せたバーバーバービールって言うんですよ~。 後味すっきりで美味しいですよね~」
上条「はい、すごい飲みやすい感じがします」
小萌「そうなんです。 お酒は薄口の方が、舌触りもいいし、喉を通しやすいんです!」
小萌「と、いうことで! まだまだ飲みますよー!」
上条「え、え〜……」
上条「(でもまあ、楽しいし、いっか……)」ゴクッ
そうして、夜は更けていく。
【1時間後…】
上条「ごほっ……。 流石に、これは、飲み過ぎた……」
小萌「いいですねー上条ちゃん! ナイス飲みっぷりです!」
上条「は、はい。 本当にいろんな種類のモンがあるおかげで、飽きずに飲めましたね」
小萌「そうですね~。 で、上条ちゃん。 ここで1つ質問ですが」
小萌「いろんな種類のビールがありましたが、上条ちゃんがそれを飲んでみて『何が』違いましたか?」
上条「え……? ち、違いですか」
小萌「そうです!」
上条「うーんと……。 味の濃さ、缶の大きさ、……それに、フレーバー」
上条「……ん?」
小萌「気づきましたか? そうです。 『フレーバー』が違うんです」
上条「!」
小萌「私はお酒が好きなので、これで例えましたが……。 どんな物でも、1種類ではありません」
小萌「調味料を変えたり、製造過程を変えたりして、何かしらの独自性を持たせています」
小萌「人間が持つ『軸』に独自性を持たせる上でも、同じことが言えます」
小萌「先ほどの話で言うと、『新聞(マスメディア)が好き』だから『マスコミ関係のインターンシップを3社体験』して、『マスコミで働く上で重要な知識を知っている』ってことをアピールしていました」
上条「なるほど……。 自分の『軸』の中に、過去の経歴という『3つの調味料』を入れてる……ってことですかね?」
小萌「そうです! よくできました。 ……そして、人間にとって、調味料は多ければ多い程、そして具体的であればあるほど、相手の記憶に残ります~」
小萌「もちろん、何らかの『軸』があること前提がですけどねー」
上条「『軸』と、『調味料』……」
小萌「ちょっと一気に押し込み過ぎましたかね~?」
上条「あはは……。 久々にこんな勉強してる気がします」
小萌「む~っ。 大学生からそのような発言は頂けませんね~」プクーッ
上条「ちょっと、まとめてみてもいいですか?」
小萌「はい、どうぞどうぞ!」
上条「俺の軸っていうのは、その『世界の宗教の考え方』について知っていること。 そして、その経験をもとに、学習してきたこと」
小萌「はい!」ニコニコ
上条「で、調味料としては、実際にインデックスたちが周りにいることで、宗教内のいざこざや体制を体感してきたエピソードを使う……」
小萌「その宗教論から来る上条ちゃんのアイデンティティ……、実に興味深いですね~。 ぜひ、私も聞いてみたいものです~」
上条「そ、それはまだ考えてないので答えられないです……」アセアセ
小萌「あ、いえいえ! 急かしてるわけではないんですよ~。 自分を伝えることが一朝一夕ではいかないと同じく、自分を知るっていうこともすぐにはできるものではありませんし」
小萌「そういった細かいエピソードは、これからじっくり時間をかけて煮詰めていけば良いのです~。 できあがったら、ぜひ聞かせてください」
上条「はい……! 本当にありがとうございます!」
小萌「上条ちゃんの役に少しでも立てたのなら、嬉しい限りですよっ!」
上条「先生に教えてもらったことをすぐにまとめて、自分についてもっと研究してみます!」
小萌「それが良いと思いますです! ずっとやると根が詰まっちゃうので、随時休憩は挟んでくださいね」
上条「はい!」
小萌「……あっ。 でも、上条ちゃん。 1番重要なことを伝え忘れてました」
上条「1番重要なこと……!?」
小萌「はい! ……それは、『上条ちゃんらしくを忘れない』ってことです」
上条「俺らしく……?」
小萌「上条ちゃんは人懐っこくて、それでいて他人のため動ける、とってもいい子なんです」
小萌「大人の先生から見て、そう思うんですから間違いないのです!」
小萌「だから、上条ちゃん! 自信を持ってください。 変に飾ろうとしないで、自然体で、臨んでください」
小萌「そうすれば、絶対に上条ちゃんにぴったりの仕事が必ず見つかりますから」ニコッ
上条「先生……」
お酒の力もあってか、思わず目頭に熱いものが溜まっていくのを感じた。
就職活動が始まって以来、誰かに笑顔を向けてもらうことも、自分を認めてもらうことも、ほとんどなかった。
自分には、強い味方がいること。 それに気付けただけでも、今日の収穫として十分だった。
【数十分後】
上条「そ、それじゃあ夜遅くなっちまいましたし、今日は帰りますね。 本当にありがとうございました」
小萌「別に泊まっていってもいいんですよ?」
上条「それはダメです!」キッパリ
小萌「……ふふっ。 分かりました。 気を付けて帰ってくださいね」
上条「はい!」
そんな会話をしながら、ちゃぶ台に乗ったゴミを片付け、玄関まで向かう。
上条「それじゃあ、今日は本当にありがとうございました。 小萌先生のおかげで、もう少し頑張れそうです」
小萌「とんでもないっ! 可愛い教え子のためなら、私は1肌も2肌も脱ぎますとも!」
上条「あはは、大げさですよ」
小萌「大げさなんかじゃ……ない……で、す……」ポテッ
上条「うぇっ!? せ、先生!?」
甘い香りが上条の鼻孔をつっつく。
一定距離を保っていた先生の頭が、突如上条の胸の中に飛び込んできたのだ。
上条「先生、どうかしましたか?! せん――」
小萌「す~……。 すぴー……」
上条「(あ……)」
思い出した。
この人は、『先生』なのだ。 今日も仕事だったに違いない。
説明会に出て、話を聞くだけでもそれなりに疲労感を感じるのだ。
社会人が一日仕事をした後に感じる疲労感など、学生には見当もつかない。
上条「(疲れてるのに、俺の相手をしてくれたんだな……)」
静かに音を立てないように布団を敷き、彼女を寝かせ、毛布をかける。
1つ1つの動作を、とてつもなく丁寧に行う。
感謝の気持ちと尊敬の念を込めて介抱した。
上条「(分かりやすいところに鍵が置いてあってよかった……)」
がちゃっ
ごとん
メモを残した後、鍵を閉め、郵便受けに鍵を入れた。
上条「(……んーっ……)」
夜風に当たると、一気に酔いが冷めていく。
澄んだ風が彼の身体に吸収されていくかのように、思考もクリアなっていく気がした。
上条「(……よっし。 やるぞ!!)」
ふてくされている時間などない。少しでも早く、自分のことを想ってくれている人たちの期待に応えたい。
上条 当麻にとっての自信は、人からくるものなのだ。
今朝とは違う、希望を瞳に宿した彼の姿がそこにはあった。
【数日後】
上条宅 :
小萌先生に自分の見つけ方を教わってから、彼の就職活動は変わった。
上条「……」
闇雲に受けていた企業の説明会全てをキャンセルし、自己分析のために時間をかけた。
上条「やっぱり、アニェーゼたちの考え方からして……。 ローマ正教って乱暴なイメージがあるよな。
必要なものは是が非でも手に入れようっていう感じがする」
自分が見て、聞いて、触って、体感したものを全てを書き出して、そこから『自分自身とは何か』を導き出そうとした。
上条「けど、 ローマ正教の最暗部の『神の右席』の存在があったように……。 同じ宗教内でも秘密裏に存在、行動する部門もあるのか……」
本来ならば日本どころか世界的な機密情報を知っている彼だからこそ、感じたこと。
死にもの狂いで生き残って来た、彼の軌跡があるからこそ、わかること。
それらを、どう表現し、どうやって自分の強みとして相手に表現するか。
ひたすら考え、書いて、脳内を整理したのだった。
上条「(……俺の自己紹介なんて、考えれば誰もが言えてしまうような、ありふれたものだった)」
上条「(俺にしかできない。 ……俺だからこそ、言える自己紹介を考えよう)」
自分のことを見つめ直すというのは、思いのほか楽しかった。
記憶を掘り起こして行く上で、何でそうなったか、なぜ自分はそれを選んだのかを考えていく。
それを楽しいと感じるのは、彼が充実した来歴を持つからに他ならない。
上条「(俺は、誰かの役に立ちたかった。 困ってる人から目を背けるなんて、絶対にできなかった)」
上条「(きっと、これからもそうだと思う)」
上条「(そういった思いも、伝えたい)」
自分が大切にしていた考え方が、浮き彫りになって来る。
改めて言葉にするのは恥ずかしい気持ちもあったが、それよりも自分自身のことを理解していく高揚感の方が勝っていた。
上条「(……頑張るぞ!!)」
【さらに数日後】
上条宅:
ヴヴヴヴヴ……
上条「(……ん? メールか)」
上条「……」カチカチ
上条「……!!」
上条「(……エントリーシートの結果……!)」
先日提出したエントリーシートの結果が送られてきた。
小萌先生から自己紹介について教えてもらった後に提出したので、結果が来るまでたった数日しか経っていない。
上条「(いつもは提出してから2週間以上経ってから結果が来たのに……)」
上条「(……嫌な予感がしないわけでもないが……。 とりあえず開いてみるか!)」ポチッ
To:上条 当麻<Toma Kamijo@gmail.com>
subject: 選考結果のご連絡です。
上条当麻 様
時下、ますますご健勝のことと、お喜び申しあげます。
このたびはエントリーシートをご提出いただき、厚くお礼申しあげます。
さて、エントリーシートにつき、慎重に協議いたしましたが、
誠に残念ながら、今回は採用を見送らせていただくことになり、
貴意に添えぬ結果となりました。
ご期待に応えられず申し訳ございませんが悪しからずご了承の程を
お願い申しあげます。
末筆ながら17卒皆様のこれからのご健闘をお祈りいたします。
上条「(……)」カチッ
上条「(……ダメかぁああああああ~~~~)」
上条「(仮に、自己紹介は良しとしても……。 他にも書くことが沢山あるかならぁ……。 そこでダメなんだろうな)」
上条「(めげてても先に進めない。 エントリーシートに通らないと、会ってすらもらえないんだから)」
上条「(……エントリーシートに重点をおいて、対策を練るしかない)」
美琴宅:
御坂 美琴。
常盤台付属中学校を卒業した後、付属高校へ進学。
その後、毎年熾烈な争いが繰り広げられる学内推薦にて、付属大学の法学部に入学した。
美琴「(……)」
とりあえず体験してみよう。
食わず嫌いをせず、勧誘を受けた新入生歓迎会には、全て参加した。
しかし、向けられるのはいつも同じような目線。
『超能力者』『学内トップのお嬢様』。そんな、上辺だけのレッテルだった。
誰も『自分』には近づかない。
美琴が積極性を見せた所で、こちらが望むようには相手が応じてくれない。
ささやかに思い描いていた理想のキャンパスライフは、彼女から遠のいていた。
美琴「(…………)」
美琴「(………………)」
美琴「何でッッ!! メール送って来ないのよ!!」
そんなこともすっかりと忘れ、彼女は、今日も学生寮のベッドの上で叫んでいた。
美琴「(私教えたよね!? 連絡先間違ってないわよね!? LIN○のIDだって、電話番号だって教えた!!)」
美琴「(何で1通も連絡がないわけ!? 普通、『今日は楽しかったよ』の一言があってもいいんじゃないの!?)」
美琴「(なーにが『おちぶれちゃいないっての(ドヤッ』よ! こういう所でだらしないのは成長してないくせに!!)」
美琴「(…………)」
美琴「(…………………せっかく、久しぶりに、会えたのにな……)」
美琴「……」パカッ
『新着メール:0件』
美琴「…………」カチカチッ
『新着メール問い合わせ中……
新しいメッセージは、ありません』
美琴「~~っ!」
ぽふっ
美琴「(あ~~~っ!! こ~な~い~!!)」
美琴「(もう、こうなったら私から送ってやろうかしら……)」
美琴「(でも、就職活動で忙しそうだし……。 迷惑かけたらいやだな……)」
美琴「(……。 ……あ~~~も~~~~!!! 何で送ってこないのよ、あのトーヘンボク!!!)」
ーッ ーッ
美琴「(大体アイツはいつもこうなのよ! 中2の大覇星祭前の時だって、せっかく2人きりだったのにアイツは!!)」
美琴「(って、私は何を期待してるの!?)」
ヴーッ ヴーッ
美琴「(!)」シュシュ パカッ
美琴「(……メール!)」カチカチッ
美琴「(……ぁ―――)」
学園都市 カフェテラス:
美琴「……」ソワソワ
美琴「…………」チラッ
美琴「(……早く着き過ぎたかな)」
上条「御坂!」
美琴「!」ビクッ
上条「わりぃわりぃ! 待たせちまったか? って、まだ少し早いよな?」
美琴「(び、びっくりしたー……) ま、待ってないわよ! それじゃ――」
上条「……?」
美琴「……(……)」
上条「どうかしたか?」
美琴「へ?! あ、う、ううん!! 何でもない! さ、さあ! 行きましょ!!」ツカツカ
上条「おうっ!」
美琴「(……い、今のはナシ!! こんな奴をカッコいいとなんか思わない!! 今のは錯覚!!)」
喫茶店
上条「……」カチコチ
美琴「あ、ブレンドとチーズスフレ1つお願いします」
上条「お、おおおお、俺は、その……普通のコーヒーを!!」
店員「はい、かしこまりました」
美琴「……」
上条「……」
美琴「なんでそんな緊張してるのよ」
上条「あ、いや、なんか、こういう格式高そうな店、あまり来ないからさ……」
美琴「格式高いって……。 普通の喫茶店でしょ」
上条「ま、まぁそうなんだけどさ。 俺は普段行かないから」
美琴「それで。 一緒に考えてもらいたいものって?」
上条「そうそう。 それなんだけど――」
上条 当麻は先日、彼女に1通のメールを送った。
――――――――――――――
From:上条当麻(ばか男)<○○○@○○.ne.jp>
To:御坂美琴(自分)<▽▽@▽▽.ne.jp>
subject:
届いてるかな……。
上条当麻です。 一応。
この前はありがとな!
久々過ぎて驚いたけど、御坂も変わってないようで良かったよ。
それにすごいタメになる話もありがとう!
今までは疎遠になってたけど、これからはよろしくな。
ところで、ちょっと一緒に考えてもらいたい事があるんだけど、時間取れる日とかあるか?
忙しいようだったら、無理しないでくれ。
それじゃ、またな!
――――――――――――――
10分と待たせることなく、彼に返って来た返事は、
――――――――――――
From:御坂美琴<▽▽@▽▽.ne.jp>
To:上条当麻(自分)<○○○@○○.ne.jp>
subject: Re:
届いてる。
別にこれといって特別なことを話したわけじゃないでしょ。
ずいぶん唐突ね……。
まぁでも、本当に偶然だけど!
今日なら、空いてる!
――――――――――――
そこから2、3通のメールを重ねた後、決まったのが13時に待ち合わせ。
上条「俺のさ、直すべきところっていうか……。 弱みってなんだと思う?」
美琴「……はぁ?」
上条「あ、えっと、いきなり過ぎたか?」
美琴「そ、そうね。 弱みっていきなり言われても……」
上条「いや、あのさ。 俺が考えてると、自分のダメなところってあり過ぎてさ。 逆に頭がこんがらがっちまって……」
上条「だから、他人に聞いた方が良いと思ったんだけど……」
美琴「それで、3、4年会ってなかった私っていう結論になるわけ……?」
上条「あははは……。 俺の周りの奴らは皆、俺と同じような状況だから聞き辛くってさ」
美琴「……う~ん……。 弱み、ねぇ……。 就職活動のエントリーシートにでも、記述するところがあるわけ?」
上条「そうなんだよ……。 結構悩んではいるんだけど、自分自身で納得のいく答えが出なくてさ」
上条「あ、こんな下らないことで呼びつけてごめんな。 最初はメールで聞こうとも思ったんだけどさ、文字で説明しようとすると煩わしいと思ったから」
美琴「いや、それはいいんだけど……。 うーん。 じゃあ参考までに聞きたいんだけど、例えばアンタは自分の悪いところ、どういうところだと思ってるの?」
100超えた!
ので今日はこれまで。
一応先に報告……。
今週木曜~11月初旬まで>>1が海外出張のため更新できなくなります……。
なので、それまでにできる限り更新します。
よろしくお願いいたします。
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続き見れるスレってある?