宇佐美みずき「この美術部には問題がない!」 (26)

@準備室

みずき「あっ、やっぱり、また物が増えてる。もー、みんな勝手に私物を持ち込んで……ここはそういう場所じゃないのに……」ガサゴソ

みずき「このお面とヒーローマントは……コレちゃんのかな。で、こっちのアニメ雑誌は内巻くん、と。……ん? あの奥のほうにあるのは——」ヒョイ

 ネコミロックオン!!

みずき「きゃああ!?」バシンッ

みずき「ってえー! これあのときの!? まだ残ってたなんて……もー/// 処分!! 処分!!」ポイッ

みずき「とりあえず部長と内巻くんは来たら説教決定、と。あとは準備室の使い方をしっかりみんなで決めて、掃除当番を決めて、今日持って帰れるものは持って帰ってもらって——って、こういうのって普通部長がやるんじゃ……?」ガサゴソ

みずき「っていうか内巻くんの持ち込んだアニメ関連のグッズ多過ぎ!! なにこの限定フィギュア付きDVDボックスって!? 準備室の使い方云々以前に学校にこんなの持ってきちゃダメでしょ!?」ウガー

みずき「はぁ……ほんと、内巻くんは二次元が大好きなんだから」ボソッ

みずき「……ちょっとでいいから三次元に……私に興味持ってくれないかな……」

みずき(…………な、なに言ってるんだろ、私……///)

みずき「う〜切り替え切り替えっ!」ガサゴソ

みずき「…………ん? なんだろ、これ……」

みずき「こんな大きな物……前はなかったような気がするけど。内巻くんがどこからともなく持ってきたアニメキャラの等身大立て看板かな……? それにしては掛かってる布が随分古そうだけど……」ファサ

みずき「これは……鏡、ってか姿見か。昔の部の備品……? おおっ、なんか枠の彫刻とか凝っててお洒落な感じ!」ジロジロ

みずき(ちょうど部室に鏡なかったし、せっかくだから置いてみるのもいいかも。鏡としても使えるし、デッサンの対象にしても面白いよね!)

みずき「よし、そうと決まれば引っ張り出して綺麗にしよっと!」スッ

 ズルッ

みずき「えっ——?」フラッ

みずき(っ!? しまった、掛け布踏んじゃって身体のバランスが……!! このままじゃ、私、頭から鏡にぶつかって————)

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 ————

 ——

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 @準備室

みずき「!」パチッ

みずき(ん……? なんで私、準備室の床に寝てるんだろ。っていうかさっきまで何してたんだっけ——)ハッ

みずき「そ、そうだった! 私、確か鏡に頭から突っ込んで……! けど、あれ? どこもなんともない……?」パタパタ

みずき「鏡も……別に割れたりしてない。ん? んん……?」ジー

みずき(まあ、でも、怪我しなくてよかった……よね。制服がちょっと埃っぽくなっちゃったけど……)

みずき「あっ、そうそう、片付けの続きしなきゃ!」

みずき「…………あれ?」キョロキョロ

みずき(……ない。コレちゃんのヒーローグッズも、内巻くんのアニメグッズも、廃棄処分する予定のアレも……)

みずき(私が気を失っている間に誰かが来てどこかへ持っていった……? いや、そんなことしてる余裕があるならまず私を起こすよね? どういうこと?)

みずき(それに、なんだろう。この部屋……うまく言えないけど、さっきからものすごく違和感ある……)

 ガラガラ

すばる(声)「おはようございまーす。って、あれ?」

みずき(あっ、内巻くんだ!)ドキッ

すばる(声)「ドア開いてたから誰かいるはずなんだけど……おかしいな」

みずき「あっ、内巻くーん! 私、こっちにいるの!」

すばる(声)「えっ? あ、あれ……? もしかしてその声、宇佐美さんですか?」

みずき「そうだよ、掃除してたのー。あっ、でも、ちょっと待って! ごめん、今戻るから、それまでこっち来ないでね!?」

みずき(うううっ! スカートに綿ぼこりとかついてないよね!? 髪の毛に芋けんぴとかついてないよね!? 大丈夫だよね!?)バタバタ

すばる(声)「え……っと、ええ……はい」

みずき「な、なにその変な間!? 私、何か変なこと言った……?」

すばる(声)「い、いや、変というかその……」

みずき(うそ!? もしかして暗がりで一人でこそこそしてるから!? なんか妙な誤解されちゃってる!?)アワワ

すばる(声)「なんか……宇佐美さん、今日はいいことでもありました?」

みずき「えっ? いいこと?」

すばる(声)「はい。なにか、応募していたコンクールで金賞を取ったとか。……いや、違うな。もっとこう、タイムマシンで過去に行って生前のモナリザと握手してきたくらいのいいことです」

みずき「? いや、特には」

すばる(声)「そ、そうですか……」

みずき(変な内巻くん。いや、内巻くんは普段から変だけど)

すばる(声)「…………あの、本当に大丈夫ですか?」

みずき「えっ? ああ、ごめん! 大丈夫、今行くねっ!」

 @美術室

みずき「えへへっ、お待たせ///」ピョコ

すばる「…………」サッ

みずき(なんか目を逸らされたー!?)ガーン

みずき「えっ、あの……内巻くん? 私、やっぱり何か変かな?」オロオロ

すばる「あ、いや、変というか……いつもと違うというか……」

みずき「それって変ってことじゃ……?」

すばる「あっ、いえ! 決して悪い意味じゃないんです!」

みずき「よ、よくわからないけど……」

すばる「と、とりあえず、部活しましょう! 絵を描きましょう!」

みずき「そ、そうだね!」

みずき(な、なんなのこの空気……!?)ソワソワ

 ————

すばる「…………」カキカキ

みずき「…………」カキカキ

すばる「…………」カキカキ

みずき(ま、まあ……内巻くんは描き始めると集中するから、とりあえずさっきまでの変な空気は薄れたけど……)ジー

すばる「…………」カキカキ

みずき(確か、今度の二次元嫁は、眼鏡とスク水がどうこうって言ってたっけ。今日が仕上げだって、昨日意気込んでたけど……)

すばる「…………」チラッ

みずき「っ!?」ドキッ

すばる「…………////」カキカキ

みずき(また……!? なんでさっきからちょいちょいこっち見てくるの!? しかも目が合うと赤面するし……!! もうっ、こっちまで恥ずかしくなってくるんだけど!!)

すばる「…………////」チラッ

みずき(ううう……なんなの!? 今日は仕上げなんでしょ!? 大好きな二次元嫁なんでしょ!? 最高のコンディションで描かなくていいの!? 三次元の私なんかによそ見してていいの!? って自分で言ってて悲しくなるけど……っ!!)

みずき「ちょっと、内巻くん!」

すばる「えっ、は、はい! なんですか……?」

みずき「あのね、内巻くん……私に変なとこがあるなら、遠慮せず言っていいよ。もし私が邪魔だって言うなら、仕上げの間は出ていくから」

すばる「えええっ!? 何言ってるんですか!? そんなの困ります!!」

みずき「でも、私のせいで集中が乱れて、内巻くんがちゃんと絵を仕上げられないっていうなら、私はそっちのほうが困る!」

すばる「いや、僕は別に集中が乱れてるわけじゃ……! 確かにちょっと動揺してますけど、それはむしろいい方向にっていうか……そもそも僕の絵は宇佐美さんがいなくなったら仕上げとかできませんし!!」

みずき「なんで内巻くんの絵の仕上げに私が必要なのよ——あっ! さてはまた絵の中に私の……っ!!」

すばる「な、なんですか!?」

みずき「〜〜〜っ/// と、とにかく!! 今日はあれじゃないし!! そういうのやめてよねっ、本当に!!」

すばる「宇佐美さんが何を言いたいのか僕にはさっぱりわからないんですけど……。っていうか、本当に宇佐美さん、今日はちょっとおかしいですよ」

みずき「おかっ——内巻くんにだけは言われたくないよ!」

すばる「うーん……噛み合ないなぁ。一体どうしたら……」

 ガラガラ

コレット「おはようございます」

みずき・すばる「あっ! コレちゃん(コレットさん)! いいところに!?」

コレット「へ?」

みずき・すばる「なんか内巻くん(宇佐美さん)が変なの(なんです)!! コレちゃん(コレットさん)からも何か言ってやって(ください)!!」

コレット「えっと、同時に喋られても聞き取れないっていうか——ん?」

みずき・すばる「どうしたの(んですか)?」

コレット「あの、宇佐美先輩……?」

みずき「えっ、なに、コレちゃん?」

コレット「…………その『コレちゃん』ってなんですか?」

みずき「………………え?」

コレット「だから、『コレちゃん』って一体なんのこと言ってますか?」

みずき「え? いや、コレちゃんはコレちゃんのことだよ?」

コレット「ふむふむ……文脈からすると、その『コレちゃん』とは、恐らく私のことなんですね?」

みずき「そ、そうだけど……」

コレット「内巻先輩、宇佐美先輩はいつからこの状態ですか?」

すばる「今日僕が部室に来たときから」

コレット「なるほど……」

みずき「ちょ、ちょっとコレちゃん? それはその……新しい遊びかな? 探偵ごっこ的な?」

コレット「遊びじゃありません。真面目に状況を整理しているんです。だいたい私もう『ごっこ』なんてする年じゃありませんよ」

みずき「」

コレット「あの、宇佐美先輩、失礼ですけど……今日は体調のほう大丈夫ですか? 熱があったりとか、どこかに頭を打ったりとか……。いや、とにかく、今すぐ保健室の先生に診てもらいましょう」グッ

すばる「それがいいですよ! なんかこう、うまく言えないんですけど……今日の宇佐美さんはとにかく違和感がすごいですからっ!」

みずき「えっ、ちょちょ……!!? 待って待って!! 私はどこも悪くないし普通だから!!!」

すばる・コレット「絶対に普通じゃないです!!」

みずき「ええええ!? ふえええっ……?」

 ガラガラ

部長「ういーっす」

みずき「あっ、部長、いいところに……!!」

部長「お、おう、宇佐美……? そんなに慌ててどした?」

みずき「聞いてください! 内巻くんとコレちゃんが二人して私をからかうんですよ! 二人して私が変だ変だって!!」

部長「あー、ちょっとまだよく状況飲み込めてないが、それたぶん二人のほうが正しいわ」

みずき「ちょおおおおもおおおおー!!?」ジタバタ

すばる「宇佐美さんが壊れた!?」

コレット「私、自分の目が信じられません……」

部長「お、おい……? 内巻、コレット、おまえらマジで宇佐美に何したんだ?」

コレット「私はさっき来たばかりで、私が来たときにはこうでした。必然的に、犯人は内巻先輩ということになります」

すばる「濡れ衣ですよ!! 僕が来たときからなんか変だったんですって!!」

部長「いずれにせよ今日はもう部活どころじゃないな。一日でもデッサンの練習を怠るのは辛いが……他ならぬ宇佐美の緊急事態だ。内巻、コレット——美術部の総力を挙げて問題解決に当たるぞ!」

すばる・コレット「はい!」

みずき「私を置いて話を進めるなあああああッ!!」ゴッ

すばる・コレット・部長「っ!?」

みずき「はぁはぁ…………」ジー

部長「う、宇佐美……?」

みずき「部長、今、なんて言いました?」

部長「な、なんのことだ?」

みずき「『一日でもデッサンの練習を怠るのは辛い』とかなんとか」

部長「あ、ああ。それがどうかしたのか?」

みずき「部長は毎日、描いてるんですか?」

部長「そりゃあ、デッサンは絵画の基礎だからな。そして基礎のないところに本物の芸術は生まれない。毎日描くくらい美術部の部長として当たり前のことだろ」

みずき「…………ごもっともです。じゃあ、次にコレちゃん」

コレット「は、はい、なんでしょう」

みずき「コレちゃん……『文脈』とか『必然的』ってどういう意味かな?」

コレット「普通に、『文脈』は話の流れや脈絡のことで、『必然的』は必ずそうなるという意味だと、私は認識していますけれど……」

みずき「………………あの、ちょっと、みんなに一つお願いがあるんですが」

すばる・コレット・部長「なんですか(だ)?」

みずき「ちょっと、それぞれ、この絵筆を持ってもらってもいいですか?」スッ

すばる・コレット・部長「……これでいいですか(か)?」

みずき(ああ……やっぱり、そういうことだ……っ!!)

すばる「あっ、そうだ……! 何か違和感あると思ったら、宇佐美さん、さっきなんで右手で絵を描いてたんですか?」

コレット・部長「!?」

みずき(全員が全員……左利き!! それにこの部室の間取り——!! そして!!)

部長「お、おい、宇佐美?」

みずき(ぐーたらなはずの部長が毎日デッサン!! さらに!!)

コレット「宇佐美先輩……やはり気分が優れないなら保健室に——」

みずき(やたらと難しい言葉を使うコレちゃん!! ってことは……!!)

すばる「宇佐美、さん……?」

みずき「内巻くん……えっと、アニメの女の子とか、どう思う?」

すばる「質問の意図がわかりませんが……アニメの女の子ってつまり、いわゆる二次元ってことですよね? 正直、僕はそういうの、まったく興味ないです。だって平面じゃないですか」

みずき「…………じゃあ、その、内巻くんの興味ある女の子って、どういう女の子……?」

すばる「…………入部するときに——したあとも、毎日、言ってると思いますけど……」

みずき「うん」

すばる「僕がこの美術部に入った理由は」

みずき(そう言って内巻くんは)

すばる「ここに理想の三次元嫁を見つけたからです」

みずき(まっすぐに私を見つめた)

すばる「宇佐美さん——あなたのことです」

みずき(いつも二次元に注がれていた視線が私に向いていた)

すばる「あなたは、この世界に一人しかいない、僕の嫁なんです」

みずき(そして、内巻くんは、描いていた絵を私に見せてくれた)

すばる「僕の夢は——」

みずき(そこには『私』が描かれていた。なぜか眼鏡を掛けてスク水を着てはいるけれども……それ以外はありのままの『私』が、デフォルメされることなく、リアルに忠実に描かれていた)

すばる「いつか宇佐美さんを——」

みずき(そういうことなんだ。ここは鏡の向こうの世界——部屋の間取りも、利き手も、性格や趣味嗜好まであべこべになった反転世界。だから、こっちの世界の内巻くんは……二次元じゃなくて、三次元の……わ、私を——!!)

すばる「モデルにした完璧なお人形さんを作ることですっ!!」

みずき「うんう————はああ!? 今なんて!?」

すばる「え? いや、だから、宇佐美さんをモデルにして、完璧なお人形さんを作ることが僕の夢だと」

みずき「そういうこと!? そういう感じになっちゃうの!? 三次元嫁ってそういうアレなの!?」

すばる「いや、はい、まあ」

みずき「結局そういうことなの……!? 内巻くんは変態さんだから!! 変態さんだから!!」

すばる「い、いやあ……あはは」

みずき「なに照れてるのよっ!?」

すばる「いや、でも、いいものですよ! 三次元嫁! フィギュア! 彫刻! 陶芸! そしてお人形さん!!」

みずき「いやいやいや!! おかしいでしょ!? 内巻くんは三次元の女の子が好きで三次元の嫁が欲しくて——なんでそこからお人形さんにぶっ飛んじゃうかな!?」

すばる「なんでと言われましても……」

みずき「その理想のモデルが私っていうのは……もちろん嬉しいけど……そうじゃなくて!! あーもー、なんで内巻くんはあっちでもこっちでもそうなのよ!?」

すばる「と言いますと?」

みずき「なんで普通に私そのものじゃダメなの!? どうして私そのものには興味持ってくれないのよっ!!」

コレット「えっ?」

部長「おっ?」

みずき「あっ——」ハッ

すばる「え、っと……」

みずき「う……あ、の……///」

すばる「その…………」

みずき「……ううぅ……///」

すばる「………………あの……」

みずき「………………な、なによ?」

すばる「…………いい、んですか……?」

みずき「…………………………へ?」

すばる「宇佐美さん、そのもの、でも」

みずき「…………………………は?」














すばる「あの、僕、普通に宇佐美さん好きです」

みずき「」












みずき(ここは鏡の向こうの反転世界——)



みずき(部長は誰よりも熱心に部活動に打ち込んでいて)



みずき(コレちゃんは、まあ、その、悪い子ではなくて)



みずき(そして内巻くんは……普通に、私が、好き?)



みずき(え?)



みずき(ってことは、つまり、そういうことだよね?)



みずき「こ の 美 術 部 に は 問 題 が な い ! !」

 ————

みずき「あっ、待って。ところでさ」

すばる「なんですか?」

みずき「みんなにとっての『私』って、一言でいうとどんな感じ?」

すばる「それは」

コレット「その」

部長「あれだよな」

みずき「どれ……?」

すばる・コレット・部長「超絶クールビューティ」

みずき「くっそおおおおおおおお!!」

(おしまい)

ご覧いただきありがとうございました。アニメを見ていたら無性に書きたくなりました。気が乗ったら続きを書くかもしれません。では。

※問題がある⇔問題がない

部長:ぐーたら⇔熱心
コレットさん:かわいい⇔かしこい
内巻すばる:平面⇔立体
宇佐美みずき:パッションキュート⇔クールビューティ

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