姉「私の妹が可愛すぎる」 (124)

※百合エロ注意

姉「んふふ~」

幼馴染「……何スマフォ見つめてニヤニヤしてるのよ」

姉「ほら、今朝の妹ちゃんの寝顔写真!」

幼「うわあ……」

姉「可愛いよねぇ……」

幼「アンタのシスコンっぷりには毎日ドン引きさせられるわ……」

姉「幼ちゃんは可愛いと思わないの? こんなに可愛いんだよ? ほらほら」

幼「確かに可愛いとは思うけど……断りもなくそんなの撮ってたら、きっと怒るわよ」

姉「だってお願いなんてしてもぜったい撮らせてくれないし」

幼「当たり前でしょう。 誰だって寝顔を撮られるのなんて嫌に決まってるわ」

姉「えー……だって、可愛いじゃん……」

幼「可愛いから撮ってもいい、なんて免罪符はないわよ」

姉「幼ちゃんはいっつも正論ばっかり言う……」

幼「そのうち妹に愛想つかされるわよ?」

姉「うう……でも、今朝の妹ちゃんの寝顔は今朝にしか見られないんだよ? それなら、写真に撮っていつでも見られるようにするべきだと思う」

幼「意味が分からないし、そもそもどうしてそこまであの子の寝顔に執着してるのよ……」

姉「ほらほら! 昨日のとか、一昨日のとか! ほんっとスマフォって便利だよね! こんなに高画質!」

幼「アンタみたいなのを見てると、本当にスマートフォンってこの世に出回ってはいけなかったデバイスなんだなって思えるわ……」

―――――――――――――――――――――――




姉「おはよ~……?」




朝。
妹ちゃんを起こす30分くらい前に、私は妹ちゃんの部屋に入る。




姉「……ぐっすり寝てる」




すやすやと寝息をたてて、妹ちゃんはベッドで眠っている。
ベッドにそろりそろりと近付いて、しゃがんでスマフォを取り出す。




姉「うん……今日も天使……」




天使の寝顔を画面に捉えて、シャッターボタンを押した。




姉「よしよし……」




妹ちゃんを起こす時間まで、あと30分もある。
その間、妹ちゃんの寝顔を眺めているのが私の日課だった。

姉「ふふ……」




ベッドの脇に両腕を置いて、顎をのせる。
天使の寝顔が目の前に。




姉「つんつん……ぷにぷに……」

妹「んん……」




柔らかな妹ちゃんの頬を、撫でたりつついたり。
髪の毛の間から出てる耳を触ってみたり。




妹「ん……や……」

姉「ふふふっ……かーわいい……」




妹ちゃんの頭を撫でて、寝顔を眺め続ける。
ふと時計を見たら、そろそろ妹ちゃんを起こす時間になっていた。




姉「妹ちゃん、朝だよ」

妹「んん……?」




つんつんと頬をつついて、声をかける。

姉「朝。 起きないと」

妹「ん……あれ、おねえちゃん……」




ゆっくりと目を開いて、妹ちゃんが私を見た。




姉「おはよ、妹ちゃん」

妹「おはよお……わざわざ起こしに来なくても、アラームかけてあるのに……」

姉「アラームなんかに私の役目を取られたくないし」

妹「……まあ、いいけど。 ふあぁ……」




むくりと起き上がって、妹ちゃんが目を擦る。
その動作一つ一つが、私の目を奪ってやまない。




妹「……それで、いつまでいるの?」

姉「え? 妹ちゃんが下に降りるまでだけど?」

妹「わたし、着替えたいんだけど……」

姉「どうぞ?」

妹「どうぞ? じゃないでしょっ! 出てってって言ってるの!」

姉「わわわっ!?」




妹ちゃんに背中を押され、部屋の外に追い出される。




妹「姉妹なんだし別にいいじゃん!」

妹「そういう問題じゃないの!」

姉「そんな……おはようからおやすみまでずっと一緒にいたいのに……!」

妹「どうせ学校では別々になるでしょ!」

姉「学校ではせめて同じ校内にいるってことで妥協してるの!!」

妹「とにかく、わたし着替えるからっ! ぜったい入ってこないでね!」

姉「そんなぁ……」




いつもの朝のやり取り。
部屋が別々になってから、一度として妹ちゃんの着替えを拝んだことはない。
昔は私が着替えさせてあげてたのに……。
お風呂にも一緒に入ってたのに……。

姉「うう……お姉ちゃん離れが加速してお姉ちゃんさみしいよ……」




よよよと涙を流しながらドアの前で待っていると、身支度を整えた制服姿の妹ちゃんが部屋から出てきた。




姉「今日も可愛いよ妹ちゃーん!!」

妹「わあっ!?」




その姿を見て、涙も何かもが吹き飛ぶ。
妹ちゃんに飛び付いて、抱き締める。




妹「むぐぐっ!」

姉「ん~、もふもふっ……」

妹「くっ……苦しいからっ、お姉ちゃんっ……」

姉「はあ~っ、やっぱり朝はこれだね~……癒される~……」

妹「うぅ……」

姉「んふー、よしよし」

妹「あぅ……」




胸元にある妹ちゃんの頭を撫でる。
離れようと抵抗していた妹ちゃんが、おとなしくなった。

妹「子ども扱いしないでよぅ……」

姉「子ども扱いなんてしてないよ。 ただ、お姉ちゃんにとって妹ちゃんはいつまでも可愛いってだけ」

妹「うー……」

姉「ふふ……かわいい」




お姉ちゃん離れは進んできてしまったけど、それでも私を慕ってくれている妹ちゃん。
可愛くて、素直で。
たまにワガママな時はあるけど、そこも可愛くて。
そんな妹ちゃんが、私は大好き。
それは、きっと最初は姉妹愛だった。
でも、だんだんと妹ちゃんを誰にも取られたくないって思ってしまうようになって。
それは……恋心から来るものだと気が付いてしまった。




姉「……」

妹「んぅ……」




本当は、妹ちゃんを独り占めしたい。
私だけの妹ちゃんにしたい。
でも……。




姉「……うーん、満足っ! 下行こっか!」

妹「……うん」




私が妹ちゃんを縛っちゃいけないってわかってる。
姉妹でなんて、女の子同士でなんて変なんだって、わかってる。
だから……この気持ちは、私の中にしまっておくつもりでいる。
今のままの関係を、壊したくないから。

―――――――――――――――――――――――




姉「行ってきまーす! ……あ、おはよー幼ちゃん!」

幼馴染「おはよう」




支度を済ませて妹と一緒に外に出ると、門のところで幼馴染みの幼ちゃんが待っていた。




妹「おはよ、幼お姉ちゃん」

幼「おはよう。 さ、行きましょ」




3人並んで、歩き出す。




幼「今日も姉に叩き起こされたの?」

姉「そ、そんな乱暴に起こしてないよ!?」

妹「あはは……うん、起こしてもらったよ。 アラームあるからいらないって言ってるんだけど……」

幼「まあ、聞かないでしょうね。 だって姉は――――」

姉「げふんげふん!! う~んっ、今日もいい天気だね~!!」

妹「そだね。 春になって、やっとあったかくなってきたし」

姉「ふふふ、妹ちゃんぎゅーっ!」

妹「わわわっ、歩きにくいよお姉ちゃんっ」

幼「ほら、妹が迷惑してるわよ。 離れなさい」

姉「幼ちゃんもぎゅーする? 抱き心地いいよ?」

妹「ううう……」

幼「だから、離してあげなさいっての」

姉「ぎゃーっ!」




幼ちゃんに妹ちゃんから引き剥がされる。

姉「じゃあ幼ちゃんぎゅーっ!」

幼「きゃあっ!?」

妹「むっ」

幼「ばッ……離れなさいバカっ!」

姉「う~んふかふかむにむに……あいたあっ!?」

幼「どさくさに紛れてどこ触ってんのよ!」

姉「い、痛いよ幼ちゃん……朝からゲンコツは効くよ……」

幼「それでおバカな頭を少しでも直しなさい。 まったくもう」

妹「だ、大丈夫? お姉ちゃん」

姉「うう、鬼おっぱいが……あいたあっ!?」

幼「誰が鬼おっぱいですって……?」

姉「ご、ごめんなさい……なんでもないです……」

幼「よろしい。 ほら、いつまでも妹にしがみついてないで行くわよ」




すたすたと、幼ちゃんが歩いていく。




姉「幼ちゃん……怖くなっちゃったね……」

妹「う、うん……でも、きっとお姉ちゃんのために怒ってるんだと思うし……」

姉「昔は可愛かったのにね~。 姉ちゃん妹ちゃんあそぼーって」

妹「ふふっ、懐かしいね」

姉「うんうん」

幼「ちょっと、置いてくわよー!!」




いつの間にか遠くにまで行っていた幼ちゃんが、私たちに向けて叫んだ。




姉「でも、あんなこと言ってるくせに待っててくれるし。 やっぱり幼ちゃんは幼ちゃんだ」

妹「ふふ、そだね」

姉「ふふふっ。 今行くーー!! 置いてかないでー!!」




妹の手を引いて、先で待っている幼ちゃんを追いかけた。

―――――――――――――――――――――――




妹「それじゃ、お姉ちゃん、幼お姉ちゃん。 またね」

姉「うん、またね~」

幼「頑張って」




学校に着いて、昇降口にて。
学年の違う妹ちゃんとは、ここでお別れになる。




姉「……うぅ、妹ちゃんカムバック……」




泣きながら下駄箱に向かい、靴を履き替える。




幼「学年が違うんだからしょうがないでしょ。 で、妹はクラスに馴染めてるの?」

姉「そうみたい。 お友だちもできてるみたいだし、ひとまず安心かな」

幼「そう。 部活は入るの?」

姉「吹奏楽に入るかもって言ってた」

幼「ふうん、吹奏楽ね……悪くないんじゃない? 悪い話は聞かないし」




幼ちゃんはこの学校にある部活に詳しい。
それもそのはず、幼ちゃんは学校の生徒会長を担っていたりする。

幼「でもあの子、吹奏楽の経験あったっけ?」

姉「ピアノは弾けるよ。 ほら、私たちの卒業式のときに弾いてたじゃん」

幼「そうだったわね。 でも、どうして急に吹奏楽に?」

姉「前から興味があったからって言ってたよ」

幼「あなたはいいの?」

姉「うん? 何が?」

幼「あなた、部活に入らなかった理由が妹に会える時間が短くなるからって言ってたじゃない」

姉「言ったねえ」

幼「だから、あなたは嫌じゃないのかなって」

姉「私のワガママを言えばもちろん嫌だけど、妹ちゃんを縛るつもりはないし。 妹ちゃんがやりたいことをやるのが一番だよ」

幼「……へえ」

姉「なに?」

幼「自分本意な親バカ……いえ、姉バカだと思ってたけど、ちゃんと妹のことを考えてあげてるのね。 少し見直したわ」

姉「えっ、そんな印象持たれてたの? ちょっと傷つくんだけど……」

幼「もう解消されたわよ。 ある程度ね」

姉「全部解消してほしいんだけどなー! というか幼ちゃん、部活に入らなかった理由知ってるくせになんで生徒会に引き込んだのさ」




幼ちゃんに引き摺られ、私は無理矢理生徒会の書記長をやらされていた。

幼「暇そうだったじゃない」

姉「忙しいよ!!」

幼「妹を愛でるのに、でしょ? アンタを妹離れさせなきゃいけないって思ったのよ」

姉「うぐ……」

幼「アンタは過保護すぎるのよ。 妹が可愛いのはわかるけど、そっとしておくのも大切だと思う」

姉「……うん、わかってる」

幼「そう」




幼ちゃんは、私が産まれたときからずっと友だちでいる幼馴染みの子。
家は近いし、学校は全部一緒だし、一度だってクラスが別になったこともない。
妹ちゃんが産まれたとき、私と同じくらい幼ちゃんは喜んでいたそうだ。
血は繋がってないけど、私たちは姉妹みたいなもの。
だから、幼ちゃんは私たちが心配なんだなってわかる。




姉「……」




澄ました顔をしているけど、幼ちゃんは私たちを気遣ってくれている。
ツンデレさんなんだなって思うと、ちょっと笑えてくるけど。
……もしかしたら、幼ちゃんなら気がついているのかもしれない。
私の、妹ちゃんに対する気持ちに。
幼ちゃんは勘がいいから、あり得ない話じゃない。
そして……そういうデリケートな話題を避けてくれる、優しさも持っている。




姉「……幼ちゃんはさ」

幼「何?」

姉「優しいよね」

幼「何よ、急に」

姉「別に~? あーあ、早く学校終わんないかな~」

幼「まだ始まってすらいないじゃない……」

―――――――――――――――――――――――




姉「……ぶぁー! 幼ちゃんタスケテー!」

幼「何してんのよ……議事録真っ白じゃない……」




放課後。
各部活の部長たちと生徒会が集まり、今年度の部費についての会議が行われた。
私は、その会議で出た要望などをまとめる役割がある。




幼「会議中何してたのよ」

姉「妹ちゃんのこと考えてました」

幼「馬鹿者」

姉「あいたあっ!?」

幼「なんのためにわざわざまとめるためのテンプレを作ってあげたと思ってるのよバカ」




私のために、幼ちゃんは議事録用のテンプレートを作ってくれた。
何をどうまとめるかが項目ごとに分けられて書かれており、とても助かる。
項目ぜんぶ真っ白だけど。

幼「珍しく真面目な顔して聞いてるな~と思ったら、アンタはまったく……」

姉「うぅ、ごめんなさい……」

幼「妹のことが心配なのはわかるけど、あの子はもう子どもじゃないんだから。 アンタ、あの子が入学してから落ち着きないわよ」

姉「う。 ですよね……」

幼「……ほら、私がメモしたの貸してあげる。 次は無いからね」

姉「ありがとう幼ちゃん!!」




幼ちゃんからメモを受け取り、それを見ながら議事録をまとめる。
私の作業を横目で見ながら、幼ちゃんはスマフォを弄り始めた。




姉「……ひとつ思ったんだけどさ」

幼「何?」

姉「これさ、幼ちゃんが書けばいいんじゃないの?」

幼「議事録を書くのは書記の仕事よ」

姉「でもさ、ぜったい幼ちゃんのほうがうまくまとめられると思うんだよね」

幼「仕事の分担は大切なのよ。 一人に負担を集中させるのはよくないわ」

姉「そうだけど……こういうところの役割分担ってすっごく効率悪いような気がするなあ……」

幼「会議を真面目に聞いてなかったあなたが効率云々言うんじゃないの」

姉「はーい……」




幼ちゃんがスマフォに視線を戻す。




姉「妹ちゃん……」

幼「元気にやってるわよ。 まだ部活の見学をしてるのかしら。 アンタは自分の心配をしなさい」

姉「うぐぅ……」

幼「見学終わったら来れるか聞いてみる?」

姉「ううん、いい……自由にさせたげたいから……」

幼「くすっ……ええ、そうね。 お友だちもいるだろうし」

姉「妹ちゃんの姉離れが加速していくよぉ……」

幼「それが正しいのよ。 ほらほら早く終わらせる」

姉「うひぃぃ……」

―――――――――――――――――――――――




姉「ただいまー! ……あれ?」




苦戦しつつ議事録をまとめ終えて家に帰ると、まだ誰も帰ってきていないようだった。




姉「うう、妹ちゃんはまだか……」




これからは部活の練習とかでどんどん帰ってくるのが遅くなるんだろうなあ。
寂しくなるなあ……。




姉「……」




靴を脱ぎながらスマートフォンを取り出して、今朝撮った写真を開く。




姉「……うへへ」




画面いっぱいに映し出される、天使の寝顔。
思わずにやけてしまう。




姉「ああ、可愛いなあ可愛いなあ……」




画面を見て小躍りしながら、自分の部屋に向かう。

姉「うう……でも、やっぱり本物が見たい……」




寝顔だけじゃなくて、ころころと変わる妹ちゃんの表情を。
愛くるしく動く、妹ちゃんの手、指、足を。




姉「……次は、動画を録ってみようかな」




動画なら寝息も聞こえるし、動きもつく。
……良い……。




姉「……いやいや、私、変態みたいじゃん……」




制服を脱いで、部屋着に着替える。




姉「これからだんだん妹ちゃんに会える時間が減ってくのかなあ……」




本格的に部活が始まれば、もちろん練習で帰りは遅くなる。
吹奏楽なら朝練があるし、合宿もあるし、うちの学校の吹奏楽はレベルが高いから大会とかイベントとかであちこちに行くこともある。
そうなると、必然的に妹ちゃんに会える時間は減ってしまう。
会えたとしても疲れてるだろうし……。

姉「はぁ……やだなぁ……」




ベッドに倒れこんで、枕に顔を埋める。
会えなくなるのは寂しい。
でも、私の欲で妹ちゃんを縛りたいとは思ってないし思わない。
私はただのお姉ちゃんなんだから。
ただの……。




『ただいまー』

姉「!!」




妹ちゃんの声が聞こえた瞬間、条件反射でベッドから跳ね起きる。
その勢いのまま部屋を飛び出し、ちょうど階段を上って来たところの妹ちゃんに飛び付いた。




姉「おかえりーーっ! 妹ちゃーんっ!」

妹「わわわあっ!?」

姉「んーっ……妹ちゃんのにおい……」

妹「ちょっ、ちょっと、かがないでっ! それと、着替えたいから離れてっ!」

姉「うー、しょうがないなあ……」




しぶしぶ妹ちゃんを離すと、妹ちゃんはぱたぱたと自分の部屋に行ってしまった。




姉「幼ちゃんに次いで妹ちゃんまでもが冷たくなりつつあるよ……」

続きはまたのちほど

―――――――――――――――――――――――




姉「おはよーございまーす……」




翌日。
いつもの時間に、妹ちゃんの部屋に入る。
いつも通り妹ちゃんはすやすやと眠っている。




姉「んふふ……今日も天使……」




スマートフォンを取り出して、カメラアプリを起動。
妹ちゃんの寝顔を画面に映して……ふと思い出す。
寝顔を……動画で撮ったらどうなるかな。




姉「……」




シャッターボタンに触れようとした指を、録画開始ボタンに移す。

姉「っ……」




録画開始。
すやすやと寝息をたてて眠っている妹ちゃんの表情や動きを、しっかりと録画していく。




姉「ふふ……つんつん……」

妹「んゃ……」




ただ録ってるだけだとアレなので、ちょっとイタズラしてみる。




妹「ん、んん……はむ……」

姉「!!!!」




妹ちゃんの頬をつついていたら、何を思ったのか妹ちゃんは私の人差し指をぱくんとくわえた。




妹「ん……ちゅる……」

姉「うぁ……うそ……」




ちろちろと、妹ちゃんの舌の先が私の人差し指を撫でる。
ぞくぞくって、背筋が震えた。




妹「ちゅ、ちゅ……んぷ……はぷ……」

姉「ん、ふっ……んっ、んっ……!」




どうしよう。
きもちいい。
妹ちゃんに指を舐められてるだけで、こんなにきもちいいなんて。

妹「んぷ……ぷぁ……」

姉「あ……」




糸を引いて、口が指から離れた。




姉「……」




カーテンから漏れる陽の光を浴びて、妹ちゃんの唾液で濡れた人差し指が光を反射してキラキラしている。




姉「あ……」




無意識に、その人差し指を私の口元まで持ってくる。
間接キスとか、それどころじゃないことをしようとしている。




姉「はむっ……っ……!?」




妹ちゃんの唾液が絡んだ人差し指を口に含むと、再びぞくぞくと身体が反応して、小さく震えた。
心臓がうるさいくらいに鳴りはじめて、身体が熱くなってくる。




姉「っ……はあっ、はあっ……」




息が荒くなってくる。
妹ちゃんの姿を見ると、身体の中から熱いものが込み上げてくる。

姉「……っ、やばいっ……!」




僅かに残った理性に従って、逃げるように部屋の外に出た。
そのまま自分の部屋に戻って、ドアを閉めて。
そのまま、ドアに寄りかかった。




姉「はああああぁぁぁぁ……」




危なかった。
もしも理性が残ってなかったら……。




姉「……あ、カメラ……」




録画しっぱなしだったカメラアプリを停止する。
ちゃんと録れているかどうかを確認するために、ビデオ再生アプリを起動させて再生してみる。




妹『ん、んん……はむ……』

姉「っ……」




思わず人差し指を見つめる。
これが、さっき妹ちゃんの口の中に……。




姉「ぁ……やばいかも……」




また、身体が熱くなってくる。
妹ちゃんの口の中の感触が、蘇ってきて……。

姉「あ……む」




その人差し指を、口に含む。




姉「ん……っ!」




妹ちゃんと、キス……。
どんな感じなんだろ……。




姉「ん、は……ちゅぷ……」




きっと、やわらかいよね……。
舌、とか……絡めたりとか……。




姉「んっ!」




……濡れてる。
私、実の妹に興奮してるんだ……。

姉「はっ……んっ、ちゅるっ、んっ……!」




やっぱり、やっぱり私は。




姉「はっ、ふっ……んっ、んっ……!」




妹ちゃんが、好き……。




姉「んっ、ぁ……だめ……あっ! んっ、んん~~~~っっ!!」




好きだから、こんなに興奮して。
こんなに……感じてしまう。




姉「んぷぁ……はあ……はーっ……」




姉妹でなんてだめなのに。
諦めてるはずなのに。
気持ちは、どんどん大きくなってくる。

姉「はーっ……はーっ……妹ちゃん……」




今回はなんとか思い留まることができたけど、次があったらどうなるんだろう。
次が耐えられても、またその次は?
そのうち……我慢できなくなっちゃうのかな?




姉「……ふう」




部屋の時計を見ると、そろそろ妹ちゃんを起こす時間。
行かないと。

―――――――――――――――――――――――




幼「アンタ、変よ」




お昼休みの生徒会室。
私はいつも、幼ちゃんと一緒にそこでお弁当を食べている。




姉「えっ、急に何?」

幼「朝からなんだか変よ。 ……どう変なのかまではわからないけど。 何かあったの?」

姉「え? いや、何もないけど……」

幼「……ふうん」




じっ、と幼ちゃんが私を見つめてくる。
すべてを見透かすような目で。
……朝からずっと、悩んでいた。
このままだと、妹ちゃんを傷つけることになるかもしれないって。
どうすべきなのか、って……。




幼「……」




ふと、幼ちゃんが視線を外して、お弁当を食べるのを再開させた。




幼「……妹、吹奏楽部に入るのは確定なのね」

姉「そうみたい。 優しい先輩もいるからって」




深くは追及してこなかった。
それが、幼ちゃんの優しいところ。

幼「なんだか急に遠くなっちゃったわね、妹が」

姉「うん……」




幼ちゃんが寂しげに笑う。
なんだかんだ言って、幼ちゃんも妹ちゃんが大好きだから。




幼「あの子も……成長してるのね。 昔とは違うわ」

姉「……うん」

幼「姉」

姉「なに?」

幼「私は、何があってもあなたと妹の味方よ」

姉「幼ちゃん……」

幼「それだけ。 食べ終わったなら教室に戻りましょ」




そう言って、幼ちゃんは立ち上がった。
……どんな相談にだって乗ってあげる。
そんな幼ちゃんの気持ちが、伝わってくる。




姉「幼ちゃん」

幼「何?」

姉「ありがとう。 でも、もう少しだけ頑張るから」

幼「……」




そう言うと、幼ちゃんは少し笑って。




幼「何の話? 早く行きましょ」

姉「……うん!」




照れ隠しで、こうやって誤魔化す。
幼ちゃんはあんまり変わってないのかもって、思えてきた。

―――――――――――――――――――――――




そうして数日が経って、本当に妹ちゃんに会える時間が少なくなってしまったころ。
私と幼ちゃんは、生徒会の仕事を終えて帰り道を歩き始めたところで。




幼「ちょっと寄りたいところがあるんだけど、付き合ってくれない?」




そう言われて幼ちゃんに付いていって、学校の近くにあるショッピングモールまでやって来た。




幼「シャーペンの芯が切れちゃったのよね」

姉「あー。 私もそろそろ危ないし、買っとこうかな」

幼「気付いた時に買ったほうがいいわよね……あら?」

姉「ん、どしたの?」




目的の文房具店まで歩いていると、幼ちゃんが何かに気づいて立ち止まった。




幼「あれ、妹じゃない?」

姉「え?」




幼ちゃんが遠くを指差す。
その先をよく見てみると……。

姉「……ほんとだ、妹ちゃんだ。 部活はどうしたんだろ」

幼「さあね……隣にいる男は誰かしら?」

姉「え……」




妹ちゃんが、男の子を連れてここに……?
それって、それって……。




姉「……面白そうだし、付いてってみよう!」

幼「邪魔しちゃダメよ」

姉「妹ちゃんの成長を見守るのが私ら姉の役目だよ!!」

幼「意味わからないわよ……」




渋る幼ちゃんを引っ張って、妹ちゃんの後を追う。
どうやら買い物の後だったようで、二人は買い物袋を持っていた。




姉「幼ちゃん、何話してるか聞こえる?」

幼「この距離じゃ無理に決まってるでしょう。 お相手が吹奏楽部の部長ってことしかわからないわね」

姉「えっ、そうなの?」

幼「ええ。 あなたも見たことあるでしょう」

姉「……言われてみれば、そうかも」

幼「ね。 手が早いわね……そんな素振り、見せてすらいなかったはずなんだけど」

姉「……」




本当に、妹ちゃんの……?

幼「……ス○バに入っていったわね。 どうするの?」

姉「うーん……外から様子見で」




妹ちゃんたちが入っていったのは、とあるカフェ。
もやもやしたものを抱えながら、お店の前面に移動する。
このお店はドアが付いている方の壁が一面ガラス張りになっていて、混んでいるとき以外は店内がよく見えるようになっている。




幼「テーブル席に行ったわね」

姉「うん……」




なんだかんだでノリノリな幼ちゃん。
あんなこと言ってたけど、やっぱり幼ちゃんも気になるんだ。




幼「……楽しそうに話してるわね」

姉「そう……みたいだね」




吹奏楽部部長と向き合って、楽しげに話す妹ちゃん。
……もやもやする。
すごく、むかむかする。




姉「……」

幼「姉? どうしたの?」

姉「……っ!」

幼「姉!? ちょ、ちょっと、どこ行くのよ!!」

―――――――――――――――――――――――




姉「はあっ、はあっ、はあっ……」




一人、ショッピングモールからひたすら走って、家まで帰ってきた。
……いや、逃げてきた。




姉「はあっ、はあっ……うぅ」




制服のまま、ベッドに倒れ込む。




姉「ウソ、だよ……あんなの……」




さっきの光景を思い出すと、目頭が熱くなってくる。




姉「妹ちゃんが、妹ちゃんが……」




取られてしまった?
そんなわけない。
妹ちゃんは、私のものなんかじゃないのに。




姉「っ……妹ちゃんっ……」




そんなこと、わかってるのに。
なのに、悔しくて、辛くて。
涙が止まらない。

姉「ぐすっ……わかってたんだけどなあっ……」




私の恋が叶うはずないって。
でも、きっと心の底では期待していたんだ。
妹ちゃんと、結ばれることを。
それを、こうして見せつけられてしまって、勝手に傷付いて……。




姉「バカだなあ、私……」




呟いて、涙を拭う。




姉「まあ、これで諦めもついた……というか、諦めなくちゃいけなくなったわけだし。 うん、よし、これで良かったんだよね」




これで良かったんだ。
姉妹でなんて、未来がない。
私が諦めて、別の人を探せば……それで、良いんだ。




姉「よしっ、整理がついたっ! もー嫉妬なんてしないっ!」

―――――――――――――――――――――――




妹「ただいまー」

母「あら、おかえり。 お疲れ様」

妹「うん、疲れたー……」

母「先にシャワー浴びる?」

妹「そーする……その前に部屋に荷物置いてくる」

母「はいはい」




練習の疲れでふらふらしながら、二階にある自分の部屋に向かうために階段を上る。
何事もなく上りきって、自分の部屋に入る。




妹「ふうー……あれ? なんか、妙にスムーズに部屋に来れたような……?」

妹「……??」

妹「……あーっ!! あれっ、お姉ちゃんは!? いつもなら階段のとこあたりで飛んでくるのに……!?」




慌てて部屋を飛び出して、お姉ちゃんの部屋をノックしてみる。




『ん~?』




いつもの間延びした声が、ノックに応えた。

妹「……お姉ちゃん?」




ドアを開けて中を覗くと、お姉ちゃんは机についてお勉強をしているらしかった。
ドアが開いたことに気が付いて、お姉ちゃんが振り向く。




姉「……ん。 あれ、妹ちゃん。 おかえり、帰ってきてたんだ」

妹「あ、うん……ただいま……」

姉「どうかしたの?」

妹「え、あ、いや……ううん、なんでもない」

姉「? そっか。 妹ちゃんから部屋に来るのって久しぶりだし、何かあったのか心配になっちゃった」

妹「あ、うん……ごめんなさい。 なんでもない……よ」

姉「謝んなくていいよ。 部活大変?」

妹「う、うん。 大変だけど、楽しいよ」

姉「そっか、よかった」

『妹~! 早くシャワー浴びちゃいなさ~い!』

姉「……だって。 早く行ったほうがいいんじゃない?」

妹「……うん。 じゃあ」

姉「ごゆっくり~」

―――――――――――――――――――――――




……けたたましい電子音が聞こえる。
あまりのうるささに、目を擦って起き上がる。
しばらくぼんやりとその音を聞いて、はっと気がついた。




妹「……ん、あ……目覚ましの音かぁ……」




聞き慣れない音だったから、すぐに気づけなかった。
いつ振りに聞いたかな、目覚ましの音なんて。
……設定したとき以来かもしれない。




妹「ふぁ……あ……あ?」




あくびをしながらベッドを降りて、違和感に気がついた。

妹「……お姉ちゃんは?」




毎日、目覚ましが鳴る前にわたしを起こしてくれるお姉ちゃん。
なのに……今日は、いない。
昨日も同じ違和感があった。
帰ってきたとき……お姉ちゃんが先に帰ってたら、いつも必ず出迎えてくれるのに。




妹「……わたし、何かしちゃったのかな」




わたしが気づかないうちに何かしちゃって、お姉ちゃんは怒ってるのかもしれない。
でも……昨日、お姉ちゃんはわたしを心配してくれたし。
たぶん無いと思う、けど……。




妹「どのみち今から会うだろうし、聞いてみよう」

―――――――――――――――――――――――




母「おはよう、妹」

父「おはよう」

妹「おはよ、お父さん、お母さん」




身支度を整えてリビングに行くと、お姉ちゃんの姿は無かった。




妹「……お姉ちゃんは?」

母「もう出たわよ」

妹「えっ」

母「珍しいわよね、妹と一緒じゃないなんて」

妹「……」




どうしたんだろう。
……いや、でも、別にわたしと学校に行かなきゃいけないわけじゃないし、わたしを起こさなきゃいけないわけでもないし、わたしを出迎えなきゃいけないなんてこともないんだけど。
でも……気になる。




妹「……ごちそうさまでした。 行ってきます」

母「行ってらっしゃい、気をつけてね」

父「行ってらっしゃい」




カバンを持って、玄関へ。
靴を履いて、外に出る。

幼「おは……あら?」




いつものように、幼お姉ちゃんが門のあたりに立っていた。




妹「おはよ、幼お姉ちゃん」

幼「おはよう……姉は?」




幼お姉ちゃんも、何も聞いてないんだ。




妹「先に行ったんだって」

幼「先に? どうして?」

妹「……」




無言で首を振ると、幼お姉ちゃんは首をかしげた。




幼「……今日、何か特別なことがあったとは思えないけど」

妹「だよね。 なんか生徒会のお仕事が残ってるとかもない?」

幼「無いわね。 妹は? 何か家で無かった?」

妹「何も……お姉ちゃんの様子がおかしかった以外は、何もなかったよ」

幼「様子がおかしい……?」




そこで、幼お姉ちゃんが考え込む。




幼「……」

妹「……心当たり、ある?」

幼「……まあ、本人に聞いてみないことにはわからないわね。 会うことになるだろうし、その時に聞いてみるわ」

妹「うん……」

幼「……妹」

妹「うん?」

幼「安心して。 姉があなたを嫌いになることなんてないし、あなたに対して怒ってるなんてことも有り得ないから」

妹「……幼お姉ちゃん」

幼「さ、行きましょ。 ここにいても姉が来るわけじゃないんだし」




幼お姉ちゃんが歩き出す。
わたしもそれに続いて、歩き出した。

―――――――――――――――――――――――




姉「はあああああぁぁぁぁ……」




大きな溜息を吐き出して、机に突っ伏する。




姉「あーー……昨日妹ちゃんに冷たく当たっちゃったなあ……あーあー……うあー」

「……姉ちゃん、大丈夫?」




ぶつぶつと昨日のことを後悔していると、見かねたクラスメートが声をかけてくれた。




姉「あ、うんー……大丈夫ー……」

「そ、そう? ならいいんだけど……」




……全然大丈夫じゃなさそう。
クラスメートの子は、そう言いたそうな表情をしている。




姉「はあぁ……」




「失恋かな?」という声が聞こえる。
私がどうしてここまで落ち込んでいるのか、話し合ってるらしい。
失恋かぁ……そうなんだろーなぁ……。
泣きたくなるくらい辛いし……。
マトモに……妹ちゃんの顔を見られなかったし。

「あ、生徒かいちょーおはよー」

「おはよー」

幼「おはよう」




……幼ちゃんだ。
突っ伏していてもわかる。




幼「……姉」

姉「……」

幼「……」




つんつんと、頭をつつかれる。




幼「……昨日のこと?」

姉「……」

幼「……詳しくは後で聞くわ。 妹、心配してたわよ」

姉「……妹ちゃん」

幼「そ、妹」

姉「……」




心配……してくれてるんだ。
昨日、冷たく当たっちゃったのに……。

―――――――――――――――――――――――




幼「いただきます」

姉「いただきまーす」




お昼休み。
いつも通り、生徒会室で幼ちゃんとご飯を食べる。




幼「……で、どうしたの」




箸を進めながら、幼ちゃんが私に尋ねた。




姉「……ううん、何でもないの」

幼「何でもないわけないでしょ。 昨日から変なのよ、あなたは」

姉「ううん、ホントに。 ただ……妹離れができるようになっただけだよ」

幼「姉……」

姉「昨日の妹ちゃんの姿を見てさ、これからはもうくっついてられないなって思って。 幼ちゃんの言うとおり、妹離れの時期なのかな、みたいな」

幼「……じゃあ、寝顔写真もやめたのね。 姉に起こされなかったって聞いたし」

姉「えっっ? あー、いや。 その……」

幼「……撮ったの?」

姉「寝顔だけなら、いいかなーみたいな……」

幼「……」




幼ちゃんが頭を抱える。

姉「だ、だって、日課みたいになってるし、私にとっての日記みたいなものだし……」

幼「……いえ、いいわ。 妹離れを進めようとするあなたに口出しをするつもりはないもの」




首を振って、幼ちゃんが続ける。




幼「とにかく、よかった。 妹、自分が何かしちゃったのかもって悩んでたのよ」

姉「え、そうなの?」

幼「ええ。 これであの子も安心できるでしょうね」

姉「……そっか。 私が妹ちゃんのことを嫌いになるわけないのに」

幼「そうでしょうね。 姉ならそう言うと思ってたわ」

―――――――――――――――――――――――




妹「ただいまー」

母「おかえり。 今日は早かったわね」

妹「珍しく練習が早く終わって。 シャワー浴びるね」

母「はいはい」




階段を上って、自分の部屋に向かう。
……やっぱり、何事もなく部屋に着いた。




妹「……」




今日の昼休みに幼お姉ちゃんがお姉ちゃんと話した内容を、幼お姉ちゃんからのメールで聞いた。
妹離れがどうとか、って……。

妹「妹離れって……何それ……」




カバンを置いて、溜息を吐き出す。




妹「わたしは、嫌じゃなかったのに……」




嫌なんかじゃなかった。
お姉ちゃんに起こされるのも、くっつかれるのも。
頭を撫でてもらうのだって、妹ちゃん妹ちゃんって、名前を呼んでくれるのだって。
なのに……もう、それが無くなっちゃうのかな。
嫌だな……。




妹「はぁ……」




ベッドに倒れ込む。
部活があるから、これからお姉ちゃんに会える時間は間違いなく減ってしまう。
だから、せめて会える時は……って、思ってたのに。




妹「妹離れって……なんなのかな……」




このままの関係が続けばいいって、思ってた。
お姉ちゃんに想いが伝えられないなら、せめて……。

妹「お姉ちゃん……」




わたしは、お姉ちゃんが好きだった。
どんなワガママだって、お姉ちゃんに任せてって笑ってくれるお姉ちゃんが。
いつだって、わたしのことを一番に考えてくれるお姉ちゃんが。
ずっと、ずっと……大好きだったのに。
そんなの言えるわけないから、今のままで我慢してたのに。
なのに……。




妹「うぅ……」




……寂しいよ。




妹「……そうだ」




いつも、お姉ちゃんからわたしの方に来てくれた。
逆に、わたしからお姉ちゃんに近づいていったことってあんまりない。
それなら……わたしから行けば……。




妹「……よしっ」




ベッドから起き上がって、立ち上がる。
ぴょんとベッドから飛び降りて、部屋を出てお姉ちゃんの部屋に向かった。

妹「……お姉ちゃーん?」




ドアをノックしてみる。
……反応がなかった。
寝てるのかな……?




妹「……」




そっとドアを開けてみる。
明かりはついてる。
中を覗いてみると、昨日と同じようにお姉ちゃんは机に向かっているところだった。
……イヤフォンを着けていて、音楽でも聴いてるのかもしれない。
そーっと近付いてから、背中から思いっきり抱きしめてみた。




姉「ぎゃわあっ!!? えっなっ……あっ、妹ちゃん……」

妹「ただいま、お姉ちゃん」

姉「おかえり。 あー、びっくりしたぁ……」




大きく息を吐き出しながら、お姉ちゃんはイヤフォンを外して持っていたシャーペンを置いた。




妹「何してたの?」

姉「んー? 英語のお勉強だよ。 リスニング」

妹「テスト近いの?」

姉「ううん。 英語は得意だから、伸ばしておかないとね」

妹「……そうなんだ」




知らなかった。
お姉ちゃんは英語が得意だったなんて。
こんなに近くにいるのに、ずっと一緒にいたのに。
わたしは、お姉ちゃんのことをあまり知らない。

姉「妹ちゃんは、何か用事?」

妹「あ……ううん、なにも……」

姉「ふうん? そういえば、吹奏楽で何の楽器を担当するの?」

妹「んと、ピアノを希望してて」

姉「あ、やっぱりピアノなんだ」

妹「うん。 ちょうどピアノだけ後継者がいなかったから」

姉「ありゃ、そうなの?」

妹「うん。 先生も喜んでた」

姉「後継者がいなかったんならそうだろうね。 そうなると、ほぼレギュラー確定なんだ」

妹「今担当してる3年生の先輩が引退したらそうなるかな」

姉「そっかー……代わりもいないなら本当に大変になりそうだけど、大丈夫?」

妹「大丈夫。 たぶん……」

『妹ー! 先にご飯にしちゃうわよー?』

妹「あ……」

姉「だってさ」

妹「……」

姉「……妹ちゃん?」




何があったのかはわからない。
けど、やっぱり……お姉ちゃんは変わった。




妹「……寂しいよ、お姉ちゃん」

姉「……え?」

妹「シャワー浴びてくるね」

姉「あ、うん……行ってらっしゃい……」

―――――――――――――――――――――――




……行ってしまった。




姉「はああぁぁ……」




机に突っ伏する。
急に抱きついてきて、驚いたけど。
けど、それ以上にドキドキして。
いいにおいがして。




姉「ううう……どうしちゃったの妹ちゃん……」




これまで、妹ちゃんからくっつきに来てくれたことなんて滅多になかった。
だから、さっきのことは本当にびっくりしてる。
それに……。

姉「そんなことされたら……どうしたらいいのかわかんなくなっちゃうよ……」




せっかく諦めようとしてたのに。
諦めるために、距離を取ってたのに。
なのに、妹ちゃんの方から近付いて来られたら、どうしたらいいの。




姉「突き放せない……絶対突き放せない……そんなことしたら私死んじゃう……」



でも。
離れないといけない。
じゃないと……私が耐えられなくなってしまう。




姉「あぁぁ……妹ちゃんからくっついてくるなんて予想外だったよぅ……」

―――――――――――――――――――――――




そして、晩御飯のあと。




姉「明日の準備よし、と……」




忘れ物をしないように、明日の準備を整えて。




姉「ふぁ……ぁ……おやすみなさーい……」




電気を消して、ベッドに潜り込んだ。




姉「……さっきの妹ちゃん、可愛かったなあ……」




もわんと思い出すのは、さっきの妹ちゃん。
ぎゅって抱きついてきて、どこか思い詰めた表情がたまらなくて……。




姉「……はっ! いけないいけない、もう決心したんだから。 なるべく妹ちゃんからは離れるって……ん?」




部屋のドアがノックされる。

『……お姉ちゃん?』

姉「!!」




いいい妹ちゃん!?
こんな時間に!?
どどどどうしよう!?




姉「そ、そ、そ、そだ、寝たフリ、寝たフリ……」




がばふと布団を被って、きつく目を閉じる。




妹「……」




ど、ドア開いたー!?

妹「……寝ちゃった?」




寝てるよー!!
お姉ちゃんは寝てまーす!!
妹ちゃんも早く寝なねー!!




妹「……」




わーっ!!
入ってきたーー!!?




妹「……お姉ちゃん、寝てる?」




うわうわうわっ、どうしようっ!?
こ、ここは寝てた体で目を擦りながら起きてどうしたのって声をかけるとか……。




妹「……ん」




……え。
なんか、背中に、柔らかい感触が……。




妹「……っ」




ちょっ、ちょっちょっちょっ、なんで!?
なんで妹ちゃんが私のベッドに入ってくるの!?

妹「勝手に入っちゃってごめんなさい、お姉ちゃん……でも、お姉ちゃんなら許してくれるよね……?」




ゆ、ゆ、許すけど!
でもでも、でもでもでもっ!
あれこれもしかして試されてる!?
私理性を試されてる!?




妹「お姉ちゃん……」




わーーーーっ!
背中から抱きついてきたんですけど!!
背中から抱きついてきたんですけど!!
どうしよう!?
もうこれいいかな!?
私いいのかな!?
一線越えちゃっても……。




妹「……すぅ、すぅ……」

姉「……」




……寝ちゃったのかな。




姉「妹ちゃん……?」

妹「すぅ……すぅ……」




……寝ちゃったんだ。




姉「まったくもう……」

妹「ふぁ……」




妹ちゃんを抱きしめる。
……今回はこれで許してあげよう。




姉「おやすみ、妹ちゃん」

―――――――――――――――――――――――




妹「……んぅ」




目が覚める。
すごくすっきりとした寝覚めだった。




妹「あれ……ここは……」




そうだ、お姉ちゃんの部屋で寝たんだ。
……動けないんだけど。

姉「むにゃむにゃ……」




……お姉ちゃんに抱きしめられてるんだけど。
わたしが寝てるうちに、起きたりとかしたのかな。
お姉ちゃんの寝顔見たの、いつぶりだろ。
かわいいな……。




妹「んぅ……」




わたしも抱きしめ返して、お姉ちゃんの胸に顔を埋める。
ああ……やわらかい……あったかい……。

―――――――――――――――――――――――




幼「……遅いわね。 いつも出てくる時間から五分くらい経ったけど……」

「幼ちゃん」

幼「姉、遅……あっ、おばさま。 おはようございます」

母「おはよう、幼ちゃん。 久しぶり。 ごめんね、姉たちちょっと寝坊しちゃって」

幼「えっ、あの二人が寝坊ですか!?」

母「そーなの。 珍しいこともあるわよね……ごめんね、中入って待っててもらえる?」

幼「あ、はい……お邪魔します……」

―――――――――――――――――――――――




姉「ぎゃーっ!! 遅刻遅刻ー!!」

妹「ひええ~っ!!」

姉「もーっ、なんで一緒に寝てたくせに起きなかったのさー!!」

妹「お姉ちゃんだってなんで目覚まし掛けてないの!」

姉「私はいっつも掛けなくても起きられるから大丈夫なの!」

妹「起きられてないじゃん!」

姉「ううう~~っ!! なんでなんだろ……」

妹「ちょっ、お姉ちゃんそれわたしのYシャツ!」

姉「わわっ、どーりでちょっとキツいなって思ったら……というか、なんで私の部屋で着替えてるの?」

妹「そんなことより早く着替えないと!」

姉「う、うん、そだね!」

―――――――――――――――――――――――




姉「お母さんっ、朝ごは……ってあれ?」

幼「おはよう、姉、妹」




寝坊しました。
妹ちゃんの温かさに安心しきってしまって起きられなかったみたいです。
だって妹ちゃんと一緒に寝るの久しぶりなんだもん……。
着替えてから慌ててリビングに行くと、なぜか幼ちゃんがいた。




母「クロワッサン焼いておいたから歩きながらでも食べなさい」

妹「う、うん!」

姉「とりあえず幼ちゃん、行こう!」

幼「そうね。 お邪魔しました、おばさま」

母「今日はごめんなさいね、バタついちゃって。 いつでも来てくれて良いのよ。 昔みたいに、ね」

幼「……ええ、また」




三人揃って、家を出る。




姉「よかった、これなら間に合いそうだね……あむ」




お母さんからもらったクロワッサンを頬張る。
隣を見ると、妹ちゃんももくもくとクロワッサンを食べていた。

幼「そうね。 寝坊したって聞いたけど、どうしたの? 珍しいじゃない」

姉「あー……えーっと……」




言い淀む。
昨日幼ちゃんに妹離れするって言った手前、まさか妹ちゃんと一緒に寝てしまったなんて言えない。




妹「……お姉ちゃんが、目覚ましを掛けてなかったから」

幼「ふうん? でも、妹も寝坊したんでしょ? 妹も目覚ましを掛けて……あっ」




何かを察して、幼ちゃんが私を見る。
すぐさま私は顔を逸らした。




幼「……わかったわ、遅刻の理由が」

姉「……それについては弁明がありますので後で詳しく……わっ、とと」




クロワッサンを食べ終えた妹ちゃんに、片腕を抱きしめられる。
腕を抱きしめられる!?
妹ちゃんに!?
おおおおおおっぱいが!?
膨らみかけのおっぱいが!?
腕に!?




幼「……妹、何してるの?」

妹「お姉ちゃんにくっついてる」

幼「……」




どういうこと? と言いたげな表情で、幼ちゃんが私を見る。
わからないと首を振ってから、小声で幼ちゃんに話しかける。

姉「……幼ちゃんどうしよう」

幼「……何よ」

姉「妹ちゃんがすっごくかわいい……」

幼「……」




呆れたような……なんというか、養豚場の豚さんを見るかのような目で私を見る幼ちゃん。




幼「アンタ……昨日言ったこと忘れたの?」

姉「お、覚えてるよ! でも、こんな……妹ちゃんから来るなんて予想外で……」

妹「……」




私と幼ちゃんがひそひそと話をしている間にも、妹ちゃんは私から離れない。




幼「……確かにこれは予想外だったわ」

姉「うん……」

幼「さっき言ってた弁明ってのは、これのこと?」

姉「そうなの」

幼「これは……しょうがないわね」

姉「だよね……」

―――――――――――――――――――――――




姉「……」

幼「……」

妹「……」




お昼休み。
いつも通り、私と幼ちゃんは生徒会室に向かった。
そしたら……妹ちゃんが生徒会室の前に立っていた。
というわけで、私と幼ちゃんと妹ちゃんの三人でお昼を食べることになった。




幼「……どうしたのよ、妹」



堪えかねた幼ちゃんが、妹ちゃんに尋ねた。




妹「? 何が?」

幼「あなた、今まで自分から姉にくっついていかなかったじゃない」

妹「うん。 だから、自分から行ってみようかなって思って」

幼「……」




どうしたものかという視線を幼ちゃんが私に向けてくる。
そんな目をされましても……。

幼「まさかここにきて姉離れが逆流するなんてね……」

妹「……姉離れとか妹離れとか、する必要ってあるのかな」

幼「どうして?」

妹「わかんないけど、無理に離れる必要なんて……」

幼「……ええ、そうね。 無理に離れる必要なんてないわ。 でもね……それは、普通の姉妹の話」




どきりとした。
やっぱり幼ちゃんは気が付いて……。




幼「あなたたちは、依存し合ってしまってるのよ」




……惜しいなー。
ギリ気が付いてないんだなー。




幼「姉妹っていうのはね、遅かれ早かれ別の道に進むことがほとんどなのよ。 つまり、離れ離れになるの」

幼「姉妹だからって能力が同じってわけじゃない、そうなると同じ道に進むことは難しくなる。 その時に……妹は、今の状態で耐えられると思う?」

妹「……」




妹ちゃんが俯く。

幼「……私はね、あなたのことを本当の妹のように思ってる。 姉だって、妹みたいなものよ」

姉「あ、私妹ポジなんだ……」

幼「だからこそ……二人には、後悔してほしくない。 将来、二人には幸せになってほしい。 だから……必要なことなのよ」




そこで切って、幼ちゃんは私と妹ちゃんを交互に見た。




幼「……わかってくれるかしら」

妹「……姉妹だから、そうしなきゃいけないの?」

幼「そうね。 あなたたち姉妹だからこそ、そうすべきだと思う」

妹「……」




沈黙が生徒会室に走る。




妹「……わたしは、やだな」

姉「妹ちゃん……」

幼「厳しいことを言うけど、今のままだと絶対に良くないわよ」

妹「それは、わかるけど……でもそれは、姉妹のままだったらってことでしょ?」

幼「? どういう意味?」

妹「お姉ちゃん」




妹ちゃんが私に向き直る。

妹「わたし……お姉ちゃんのことが、ずっとずっと好きでした」

幼「は……?」

姉「へぁっ!?」

妹「お姉ちゃんのことが好きだから、離れるなんてイヤなの。 恋人だったら……離れる必要なんて、ないよね」

幼「……」

姉「……」

妹「……お返事、聞かせてほしいんだけど」

姉「……あっ!? あっ、あ……え……えっと、えっと……」

幼「……本気なの?」

妹「本気……だよ」

幼「……」




幼ちゃんが目を瞑る。




幼「……わかってるのよね」

妹「幼お姉ちゃんの言いたいこと、わかってるよ。 でも、そんなことじゃもう、どうしようもできないもん」

幼「だってさ。 どーするの、姉?」

姉「あ……あう……」




妹ちゃんの告白を聞いて、頭の中が真っ白になってて。
何か考えたくても、何か言いたくても、何もできなくて。




姉「う……うううううう……」

幼「……返事を聞くのは、今は無理そうね」

妹「……そだね」

―――――――――――――――――――――――




姉「……」

幼「……姉ー?」

姉「……」

幼「おーい……もう下校時間よー?」

姉「…………幼ちゃん」

幼「やっと反応した。 ほら、帰るわよ」

姉「……帰りたくない」

幼「アンタね、もう帰らなきゃいけない時間なんだっての」

姉「……」

幼「……しょうがないわね。 私の家に来なさい」

姉「え……いいの?」

幼「ほら、行くわよ。 おばさまにも連絡して」

姉「う、うん……」

―――――――――――――――――――――――




幼ちゃんに連れられて、懐かしの幼ちゃんの家に入る。
昔と変わらない玄関で、昔と変わらない幼ちゃんのお母さんに迎えられた。




幼母「あらあら、姉ちゃんじゃない。 久しぶり」

姉「お久しぶりです、おかーさん!」

幼「姉、こっち」

姉「あ、うん」

幼母「ゆっくりしていってね」

姉「はーい!」




階段を上って、幼ちゃんの部屋に。
懐かしいなあ……どうして、あんまり来なくなっちゃったんだっけ……。




幼「……それで、どうするつもり?」

姉「……いきなりだね」

幼「引き延ばしてもしょうがないでしょ?」

姉「……」

幼「あなたの気持ちは、どうなの?」




私の、気持ち。
妹ちゃんが、好き。

姉「……」

幼「……黙ってたって、何も進まないのよ」

姉「……好きだよ、私も」

幼「……そう」




幼ちゃんが椅子に腰かける。
それを見て、私もベッドの縁に腰かけた。




幼「なら、あの時に言えばよかったじゃない。 私も好きでしたって」

姉「……姉妹でなんて、ダメだって思ってたから」

幼「……」

姉「私も、ずっと妹ちゃんのことが好きだった。 でも、それはいけないことなんだってわかってた。 だから、ずっと心の中に閉まっておこうって思ってたの」

幼「……あなたはきっと正しいわ、姉」

姉「幼ちゃん……」

幼「同性ってだけだったら、別に私は止めるつもりなんてない。 でもやっぱり……あなたたちは姉妹なのよ。 今はよくても、後できっと辛くなるときが来る。 耐えられなくなるときが来るかもしれない」




辛そうな表情で、幼ちゃんは続ける。

幼「世間の目っていうのは、私たちが考える以上に厳しいもの。 世間だけじゃない、あなたの家族だって……どうなるか、わからないのよ」

姉「断るべき……なんだよね」

幼「…………私、は……そう思う、わ」




私から目を逸らして、辛そうに途切れながらも幼ちゃんは言った。
こんな幼ちゃん、初めて見た。
本当に、辛いんだ。
今回のことで、私か妹ちゃんのどちらかが……あるいは、両方が離れていってしまうかもしれないから。
それが怖くて、辛くて……でも、それでも。
幼ちゃんは、私たちのことを想って、言ってくれてる。




姉「……ごめんね、幼ちゃん」

幼「……どうして謝るのよ」

姉「辛い役目ばっかり、負わせちゃって……」

幼「……バカね。 一番辛いのは、答えなきゃいけないアンタのほうでしょ」




そう言って、幼ちゃんはぎこちなく微笑む。




幼「答えが決まったのなら、すぐに伝えたほうがいいわ」

姉「……明日じゃ、だめかな」

幼「辛いのは、あなただけじゃないのよ。 妹だって……全部わかってて、あなたに伝えたんだから」

姉「……そ、か」




立ち上がる。
辛いのは、私だけじゃない。
妹ちゃんだって、悩んでたんだ。

幼「……まさか、アンタたちが、ね」




独り言のように、幼ちゃんがぽつりと呟いた。




姉「意外だった?」

幼「……ええ。 意外というか、驚いたわ」

姉「……だよねぇ。 気持ち悪いとか思わない?」

幼「思わないわよ、驚いただけ。 昔から兄妹モノとかは本で読んだりしたことあったし、姉妹でもそういうことってあるんだなあってくらいね」

姉「……よかった。 幼ちゃんに引かれなくて」

幼「引くわけないじゃない、バカね」




そう言って笑う幼ちゃんの顔には、さっきまでのぎこちなさは見られなかった。

―――――――――――――――――――――――




姉「ただいまー」

母「おかえり」

姉「妹ちゃんいる?」

母「ええ。 今日は部活を休んだみたいね」

姉「そっかそっか、おっけー」




あんなことがあったから……部活なんて行けないよね。
妹ちゃんの部屋の前までやって来て、ドアをノックする。




姉「妹ちゃん、いる?」

『お、お姉ちゃん……?』

姉「うん。 入ってもいいかな」

『う、うん……どうぞ……』




ドアを開けて、妹ちゃんの部屋に入る。
妹ちゃんはベッドに寝転がっていた。

姉「寝てた?」

妹「ううん……」




……よく見ると、妹ちゃんの目が赤くなっている。
泣いてたのかな……。




姉「……さっきのお返事だけどね」

妹「……うん」

姉「すごく……嬉しかったよ。 妹の気持ち」

妹「……」

姉「……でもね、ごめんなさい」




声が震えてしまう。
これまで、妹ちゃんのどんなワガママにもできるかぎり私は応えてきた。
ダメだって突っぱねるのは、初めてだった。




妹「やっぱり……姉妹だから?」

姉「……うん」

妹「……わかってた。 きっとそんな答えが返ってくるんだろうなって」

姉「ごめんね」

妹「ううん、いいの。 今回のだってわたしのワガママだし、こうなるのわかってたし……でも……」

姉「でも?」

妹「どこか、納得できなくて。 姉妹だから付き合えないっていうのはわかってるんだけど、じゃあお姉ちゃんの気持ちはどうなのかなって」




妹ちゃんが起き上がって、私の隣に座った。




妹「わたしは、お姉ちゃんのことが好き。 お姉ちゃんは? わたしのこと、どう思う?」

姉「……私は、姉妹だから……」

妹「うん、わかってるよ。 だからね、お姉ちゃんの本当の気持ちが聞きたいの」

姉「私は……あの……」




妹ちゃんが、ぐい、と顔を近づけてくる。

妹「好きなの、嫌いなの?」

姉「あ、う……う……」




……好きだけど。
好きだけど、言ってはいけない気がして。
でも、嫌いなんて言えなくて。
結局、何も言えなくて……。




妹「……」




私の目の前にある妹ちゃんの瞳が、揺れている。
それを直視できなくて、顔を逸らしてしまう。




妹「……お姉ちゃん」




妹ちゃんが私の頬に手を当てて、無理やり顔を妹ちゃんの方に向けさせてくる。




姉「あ……」




妹ちゃんが目を閉じた瞬間、私の唇に柔らかいものが触れた。

妹「……ん」




その柔らかい感触はすぐに離れてしまう。
妹ちゃんにキスされたんだってことに気がつくまでに、少し時間がかかった。




姉「……え」




唇に手を当てる。
すぐに蘇ってくる、柔らかい唇の感触。
顔を真っ赤にして、妹ちゃんは私を見つめている。




妹「……そ、その、ごめんなさい。 キスくらいは、許してほしいなって……」




……かわいい。




妹「っ……!? お、お姉ちゃっ……んっ……」




妹ちゃんの身体を抱き寄せて、強引にキスをする。
妹ちゃんは最初少し抵抗したけど、すぐにそれもなくなって、私に身を任せるように寄りかかってくる。
それからしばらく、唇を触れ合わせていた。

姉「……ん、はぁ……」

妹「ふぁ……はぁ……」




唇を離す。
妹ちゃんは名残惜しそうな顔をして、私を見た。
その顔を見て、やってしまった、という気持ちが溢れてくる。




妹「……ありがとう、お姉ちゃん。 迷惑かけちゃってごめんなさい」

姉「ううん……ごめんね、妹ちゃん。 ごめんなさい……」

妹「ぁ……お姉ちゃん……」




妹ちゃんを抱きしめる。
妹ちゃんみたいに勇気がないから、好きだって言えない。
でも、きっと今のキスで伝わってしまった。




妹「……ぐすっ」




妹ちゃんが泣いてる。
せっかく好き合ってるのに。
両想いなんて、素敵なことのはずなのに。
それが……姉妹だからって、ダメなんだって。




姉「妹ちゃんっ……!」




胸が熱くなって、涙が溢れてくる。
お母さんに夕飯に呼ばれるまで、私たちはずっと抱き合って泣いていた。

―――――――――――――――――――――――




夕飯を食べ終わって、部屋に戻って。




妹「……」

姉「……妹ちゃん」




今日もまた、妹ちゃんと一緒にベッドに入っている。
まあ、今日は色々あったし、これくらいならいいよね……。




妹「……お姉ちゃん」

姉「ん?」

妹「お願いが……あるんだけど」

姉「うん」

妹「わたし……お姉ちゃんと、えっちしたい」




……ん?

姉「……ん??」

妹「ね、お姉ちゃん……お願い……」

姉「いっ、いやいやっ、それはさすがにだめなんじゃないかなあって」

妹「どうして?」

姉「だ、だって、私たちは姉妹だし……」




……また、妹ちゃんが距離を詰めてくる。
私は壁側に寝ているから、逃げられなかった。




妹「……それはもう、わかってるってば。 お姉ちゃんの気持ちはどうなの?」

姉「う……」

妹「嫌だったら……もちろん、我慢するから……」



妹ちゃんが、手を握ってくる。
胸のドキドキが止まらない。




姉「……嫌、じゃ、ないよ……でも……」

妹「そっか……なら……」

姉「わ」




妹ちゃんが、私に跨がった。

妹「無理やり、襲っちゃうね……?」

姉「い、妹ちゃ……んっ!」




私に覆い被さって、妹ちゃんが私の首筋にキスをした。




姉「だっ、だめだよっ」

妹「うん、わかってるよ。 でも、一回だけだから……」




じっ、と、妹ちゃんが見つめてくる。
妹ちゃんの目は、どこかとろんとしていて……。




妹「無理やり、しちゃうから……お姉ちゃんは何も悪くないから……」

姉「だ、だめだよ……妹ちゃん……」




両腕を掴まれて、キスをされる。
振り払おうと思えば、振り払える。
拒もうと思えば、それもできる。
でも。
私の心と身体が、私の全部が、妹ちゃんを求めてしまっている。

姉「ん……んちゅ……」

妹「んぅ……」




キスが気持ちいい。
さっきしたキスと、全然違う。




妹「んっ、は……はぁっ……」




唇を離して、妹ちゃんは私の上着を捲った。




姉「あ……」




ブラもずらされ、私の胸が露になる。
妹ちゃんが私の胸に手を伸ばす。




妹「……っ」




躊躇って手が止まったのも、一瞬だけ。
私の胸をふわりと妹ちゃんの手が覆い、押しつぶす。

妹「わ……」




乳房の部分をふわふわと弄び、妹ちゃんが感嘆の声をあげた。




妹「やわらかいね……」

姉「んっ、ぅっ……」




時たま乳首を指で弄りながら、妹ちゃんは私の胸全体を揉み込む。
くすぐったくて、気持ちよくて。
ぞくぞくする。




妹「……はむ」

姉「っ!?」




妹ちゃんが身体をずらして屈み、私の乳首を口に含んだ。
そのまま口内で舌で転がされ、唇で挟まれる。




姉「ふっ……あっ、ぁっ……!」

妹「ちゅる……れろ……」

姉「あっ……!」




妹ちゃんの手が、擦り合わされている私の両太ももの間に滑り込む。

姉「っ……んっ、んっ、やっ……!」




乳首を口の中で転がされながら、秘部をパジャマの上から刺激される。




姉「あ、ンっ……妹ちゃんっ……!」

妹「声、抑えてね……聞こえちゃうかもしれないから……」

姉「ん、んぅ……っ!」




一度乳首から口を離して、キスをしてくる。
唇を離したときの妹ちゃんの表情は、なんというか……今までに見たことがない微笑みだった。




妹「はむっ……ちゅる……」

姉「あっ……! んっ、んぅぅっ……!」




再び愛撫が再開される。
大きな声が出そうになって、慌てて自分の指を噛んだ。

妹「ちゅぷ……ん、お姉ちゃん、わたしの指使って……」

姉「んぷぁ……んむっ」




私の指を口から抜き取って、空いていた方の指を差し込んできた。
思わずそれに舌を絡める。




妹「あ……それ、きもちいい……」




ぶるる、と妹ちゃんが身震いをする。




姉「んっ、んちゅるっ……んぷっ」

妹「はあっ……ちゅるっ、れろれろっ……」

姉「はぷ……あむっ、んむっ……!」

妹「んっは……お姉ちゃん、ごめんなさいっ……!」

姉「んぷぁっ……? ひゃっ!?」




妹ちゃんが愛撫を止め、私のパジャマのズボンを下着ごとひっぺがした。

姉「やっ、いっ、妹ちゃっ……!?」

妹「……」




無言で、妹ちゃんもパジャマのズボンを脱いだ。




姉「あ、あの……?」

妹「足、開いて……」

姉「え」

妹「ほら、こうやって……」




妹ちゃんに両足を開かれる。
妹ちゃんは私の足に足を絡めて、そのまま……。




姉「ひゃんっ!」

妹「んぅっ!」




ぬるっとした感触が、秘部から伝わってくる。




姉「あっ、やっ……なにこれっ……!」

妹「んっ……!」




私の秘部と妹ちゃんの秘部が、触れ合ってる。
粘っこい、えっちな水音を立てて、擦れ合ってる。

姉「んっ、あっ、はぁぁっ……こんなの、どこで……」

妹「んっんっ……インターネットで、動画とか……」

姉「っ……!」




妹ちゃんが、えっちな動画を見てたってこと……?
私とこんなことがしたいなって、考えながら……?




妹「き、気持ち悪いよね……姉妹で、こんな……んあっ!」

姉「ふあぁっ! はっ……そんなことないっ、気持ちいいよっ……」

妹「お姉ちゃん……んっ、ふ、んんんっ!」




妹ちゃんが、腰の動きを早める。
擦れ合う音が大きくなって、腰と腰がぶつかる音が部屋に響く。




姉「だっ、だめっ、妹ちゃんっ……声でちゃうっ……」

妹「だめっ、我慢してっ……はっ、あっ……!」

姉「んっ、んっ……!」




ぞくぞくって、身体が震える。
頭の中がだんだん真っ白になってきて、妹ちゃんのことしか考えられなくなっていく。




妹「お姉ちゃんっ、好きっ、好きぃっ……!」

姉「妹ちゃんっ……!」




妹ちゃんの気持ちが、全身で伝わってくる。
あったかくて、嬉しくて……。

姉「私も……私も、好きっ……!」

妹「……!」

姉「妹ちゃんが、好きっ……!」

妹「お姉ちゃんっ!」

姉「んああぁっ!」




より激しく、妹ちゃんが腰を動かす。




姉「はあっ、はあっ、妹ちゃんっ! 私、イッちゃうよぉっ……!」

妹「わたしもっ、んあっ! イくぅぅっ……!」




ぎゅっと抱きしめ合って、キスを交わす。
その瞬間に、頭が真っ白になった。




姉妹「「んっ……んんん~~~~っっ!!」」




身体が勝手にがくがくと震える。

姉「ん、んん……んあ……っ」

妹「ふぁっ……はっ、ふ……っ」




抱きしめ合ったまま、ぞくぞくと余韻に浸りながら息を整える。




姉「はあっ、はあっ、はあっ……」

妹「はあっ、はあっ……お姉ちゃん……」




とろんとした瞳の妹ちゃんと、見つめ合う。
そのまま吸い寄せられるように、キスをする。




姉「ん、ふ……好き……んちゅ……」

妹「ちゅ……お姉ちゃん、好き……んむ……」




そのまま外が明るくなるまで、想いを伝え合いながらずっとキスをしていた。

―――――――――――――――――――――――




姉「幼ちゃんおはよー!!」




翌日。
朝起きて、妹ちゃんを起こして、身支度を整えて。
ご飯を食べて、外に出て、待っているであろう幼ちゃんに元気に挨拶をする。




幼「……おはよう。 朝から元気ね」




いつものように門に寄りかかっていた幼ちゃんは、一瞬だけ驚いたような顔をした。




姉「いつも通りだよ! ねー」

妹「う、うん……」

幼「……」




探りを入れるような目で、幼ちゃんが私たちを見つめる。
すぐに安心したように溜め息を吐き出した。




幼「……アンタたちの距離感は、それが一番良いのかもね」

姉「ん。 何か言った?」

幼「何でもないわ。 行きましょ」

―――――――――――――――――――――――




その日の夜のこと。




妹「んっ……ちゅるっ、んむっ……」

姉「んぷ、んんっ……」




妹ちゃんと私は、私の部屋のベッドに一緒に潜り込んでいた。
最初はただお喋りをしてただけなんだけど、だんだん変な空気になってきちゃって、それで……。




姉「んっは……だめだよ、妹ちゃん……」

妹「ちゅはっ……これで、最後にするから……」

姉「んっ……!」




断らなきゃってわかってるんだけど、断れなくて。
流されちゃって。
結局、最後までしてしまった。
それもこれも、私を求めてくれる妹ちゃんがすっごくえっちで、可愛くて。
そんな妹ちゃんにお願いされたら、断れないよ……。

―――――――――――――――――――――――




それからしばらくして。
タガが外れてしまったのか、妹ちゃんは色んな場所で私を求めるようになった。
最初は家の中だけだった。
リビングとか、お風呂とか。
でも、今日は……。




妹「んっ……お姉ちゃん……」

姉「んはっ……だめだよ妹ちゃん、ここは……誰か来ちゃう……」




お昼の生徒会室。
幼ちゃんは用事で来れなくて、私と妹ちゃんでお弁当を食べていた。
妹ちゃんが生徒会室に来ることも日常的になったけど……。




妹「大丈夫だよ、この時間に誰かが来てるとこ見たことないもん……」

姉「わ、私も、あんまりないけど……」




あんまりない。
でも、100%無いわけじゃない。
それに、幼ちゃんが来ることもあるかもしれない。




妹「お姉ちゃん……」




なんてことはわかってるんだけど。
妹ちゃんの姿で、声で、瞳でお願いされてしまうと、断れない。
結局妹ちゃんのなすがまま、制服をするすると脱がされて……。




幼「……ふう。 用事が早く終わったんだけ……ど……」




突然生徒会室のドアが開いて、幼ちゃんが顔を出した。
生徒会室には、私の制服を脱がしている妹ちゃんと、妹ちゃんに半裸にされた私。

妹「……あ、あぁの、違うの! お姉ちゃんが制服にソースをこぼしちゃって、拭かなきゃって、それで……!」




あたふたと、苦し紛れに言い訳をする妹ちゃん。
幼ちゃんは何も言わずに後ろ手にドアを閉めて、そのドアに寄りかかった。




幼「……いつから?」

姉「……妹ちゃんに、告白された日から」




制服を着ながら、答える。




幼「気付かなかったわ……」




額に手を当てて、幼ちゃんが言った。




妹「……付き合ってるわけじゃないの」

幼「……ええ、なんとなくわかるわ。 割り切ったカンケイだから、あなたたちはあんなに早く仲直りできたのね」

姉「……ごめんなさい、幼ちゃん」

幼「謝るのは私にじゃないでしょ。 拒むべきだったのよ、あなたは。 そんな中途半端なカンケイ続けて、妹が辛くないとでも思ったの?」

姉「あ……」

妹「ち、違うの幼お姉ちゃん。 わたしから、だから……」

幼「わかってるわよ。 妹がお願いして、姉はそれを断れなかったんでしょ? 妹も、それがわかっててしてたことなんでしょ」

妹「う……」




……さすがだな、幼ちゃんは。
そんなことまでわかっちゃうんだ。

幼「私はあなたたちを責めるつもりはないの。 私は当事者じゃないし、あれこれ言える立場でもないから。 でも……今みたいな中途半端なカンケイは、絶対にダメだって言い切れるわ」

姉「……うん」

幼「ケジメをつけなきゃダメよ。 立場ははっきりさせないと」

姉「わかってたよ、こんなのダメなんだって。 それでも拒めなかったのは、妹ちゃんのお願いは断れないからっていうのももちろんあったけど、一番は……やっぱり、妹ちゃんが好きだから」

妹「お姉ちゃん……」

姉「ごめんなさい、妹ちゃん。 私も、妹ちゃんに甘えてた。 辛かったよね」

妹「……いいの。 いつかはこうなるって、わかってたもん」

姉「妹ちゃん……」




弱々しく、妹ちゃんが微笑む。
妹ちゃんのそんなカオ、見たくなくて、すっごく辛くて……。




姉「っ……ごめん、ちょっとお手洗い行ってくる」

幼「姉……」




涙が溢れてきそうになって、慌てて生徒会室を出る。
ダッシュでトイレに向かって、個室に駆け込んだ。

姉「ぐすっ……だめだなあ、私……」




最近、妹ちゃんに辛い思いをさせてばっかりで。
本当に良いお姉ちゃんなら……本当に、妹を大切にするお姉ちゃんなら、きっとうまく立ち回れるのかな。




姉「ごめんね妹ちゃん……ごめんなさいっ……」




ダメなお姉ちゃんで、ごめんなさい。
自分勝手で、妹ちゃんのことも考えてあげられなくて。
……サイテーだ、私。




姉「……これから、どうすればいいんだろう」




こんなことがあっても、私は妹ちゃんを拒める自信が無い。
私は、妹ちゃんを突き放すことができない。




姉「はぁ……そろそろ、戻らなきゃ」




腕時計を見ると、そろそろ昼休みが終わってしまう時間。
女子トイレを出て、生徒会室に向かう。
これからどうすべきか考えながら歩いていたら、ふと廊下の壁に貼り出されているポスターが目に入った。




姉「……留学生、募集……」

―――――――――――――――――――――――




……お姉ちゃんは、逃げるように生徒会室から出ていった。
頬に涙が伝っていたのを、わたしは見逃さなかった。




幼「……」




幼お姉ちゃんも、お姉ちゃんが出ていったドアを辛そうに見つめている。




幼「……もう少し、場所を弁えるべきだったわね。 そうしたら私にはバレなかったのに」




自嘲気味に笑って、幼お姉ちゃんが言った。




妹「うん……でも、誰かに止めてほしかったのかもって、ちょっと思う。 わたしも、お姉ちゃんも……止まらなかったから。 いけないことなんだって、わかってたのに」

幼「……そう」




幼お姉ちゃんが俯く。

幼「……どうするつもりなのかしらね、姉は」

妹「わかんない。 でも……お姉ちゃんだけに背負い込ませるつもりはないよ」

幼「……ふふ。 どうして、アンタたちは姉妹なのかしら」

妹「え?」

幼「アンタたちが姉妹じゃなかったら、こんなに思い悩む必要なんてなかったわ」

妹「……そうかもね。 でもきっと、姉妹だからお姉ちゃんを好きになったんだよ」

幼「ああ、はいはい。 アンタの気持ちはよくわかったわ。 ……そういえば、こないだあなたが吹奏楽部の部長と歩いてるところを見かけたけど?」

妹「部長と? ……ああ、あれはね、合宿のときに使う雑貨の買い出しに行ってたんだよ」

幼「なるほどね。 あの時、姉が勘違いして大変だったのよ」

妹「お、お姉ちゃんも見てたんだ……」

幼「……本当に、姉はあなたのことが好きみたいね」

妹「……ごめんなさい」

幼「謝るのは私にじゃないでしょ?」

妹「ううん……幼お姉ちゃんにも謝らないと。 辛いのは、わたしたちだけじゃないもん。 わたしたちに忠告するのだって、きっと辛かったんでしょ?」

幼「……そうしなきゃって思ったから、やっただけよ」

妹「ありがとう、幼お姉ちゃん。 幼お姉ちゃんのおかげで、わたしたちは正しい道に進めるから……」




語尾が震える。
自分で言って、気がついた。
お姉ちゃんを好きになることは、間違った道だったんだ……。

幼「間違いなんかじゃないわ」

妹「……え」




わたしの考えていたことを見透かしたように、幼お姉ちゃんが言った。




幼「私はそう思う。 相手が誰であれ、誰かを好きになることは間違いなんかじゃない。 ただ世間がそれを許してくれないだけなのよ」

妹「幼お姉ちゃん……」

幼「私はあなたたちを正しい道に進ませようとしてたわけじゃないわ。 だって、そもそもあなたたちは間違っていないんだもの。 私はただ、あなたたちには幸せになってほしいって思っただけ。 今は辛くても、今それを乗り越えれば後にきっと報われる。 だから……私は、反対しなくちゃいけない」

妹「……うん、反対してくれてありがとう。 幼お姉ちゃんが反対してくれなかったら、本当に大変だったと思うし」

幼「……」

妹「そんなカオしないで。 わかってるんだよ、わたしもお姉ちゃんも。 だから、大丈夫」

幼「妹……」

姉「ただいまー!」




生徒会室のドアが勢いよく開いて、元気よくお姉ちゃんが現れた。




幼「……ずいぶん元気ね?」

姉「ん、まあね。 うだうだ悩んでても仕方ないし、お昼休みももうすぐで終わっちゃうし」

妹「え……あっ、ほんとだ! わたし戻るね! 次移動教室なの!」

姉「ありゃ。 それじゃ、解散だね」

幼「そうね」

―――――――――――――――――――――――




幼「姉、帰りましょ」




授業が終わって、放課後になった。
帰る準備を終えた幼ちゃんが、私の席までやってきた。




姉「ん、おっけい」




カバンを持って、学校を出る。




幼「これからどうするつもりなの?」




校門をくぐったところで、幼ちゃんが私に訊いた。

姉「……考えてることがあるんだよね」

幼「どんなこと?」

姉「私ね、こんなことがあっても、妹ちゃんを拒むことなんて、突き放すことなんて絶対にできないと思うの」

幼「……私もそう思うわ」

姉「うん。 だから、留学しようと思って」

幼「へえ………………は?」

姉「だから、留学。 突き放せないなら、私から離れればいい。 ね?」

幼「確かにそれはあるかもしれないけど……一人暮らしを始めるとか、そういうところからでもいいんじゃないの?」

姉「ううん、それじゃダメだと思う。 国内だと頑張れば会いに来れちゃうだろうし。 でも、国外だったら、きっとそんな暇無いから。 向こうでそのまま就職でもすれば、さらに会う機会が少なくなるだろうし」

幼「……決めたのね」

姉「あとはお母さんたちと話し合いかな」

幼「妹には?」

姉「……直前まで、隠しておこうかなって。 協力してくれる?」

幼「……あなたは、それでいいの? 妹と会えなくなるかもしれないのよ?」

姉「……良いわけないよ。 妹ちゃんに会えなくなるなんて嫌だし、できるならずっと一緒にいたい。 でも、それができないから……」

幼「姉……」

姉「ごめんね、幼ちゃん。 隠しておいてくれるかな」

幼「どうして隠すの?」

姉「今話して、何かアクションを起こされたら……また、流されちゃうから」

幼「……わかったわ」

姉「ありがとう、幼ちゃん」

―――――――――――――――――――――――




それから。
両親に話して、許可をもらって。
受験勉強を進めながら、バイトを始めて。
生徒会の引き継ぎが行われて、私と幼ちゃんは生徒会を引退したりとかして。
そうやって、目まぐるしく時間は過ぎて。




姉「~♪」




見事受験を突破した私は今、荷造りの真っ最中だった。



姉「……よしよし」




受験した学校はイギリスにあり、明日の朝早くに発つことになっている。
妹ちゃんには、いまだに言えてないけど……。




姉「……いい加減、言わなきゃね」




ちょうど荷造りも終わった。
晩ごはんまで、まだ少し時間がある。
私は自分の部屋を出て、妹ちゃんの部屋に向かった。

妹『はーい?』




部屋のドアをノックすると、妹ちゃんが応えた。
ちょっとだけドアを開けて、中を覗き込む。




姉「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

妹「あ、お姉ちゃん。 別にいいけど、どうかしたの?」




中に入って、ベッドの縁に腰掛ける。




姉「うん。 そろそろ話しておかなきゃって思って」

妹「?」

姉「私が大学を受験したこと、知ってるでしょ?」

妹「うん」

姉「でも、どこ受けたかは言ってなかったよね」

妹「うん。 教えてくれなかったもん」

姉「あのね……私さ、妹ちゃんの近くにいたら、きっと我慢できなくなる時が来ちゃうと思うの」

妹「……」

姉「だからね……距離を取った方がいいのかなって、思って。 留学することにしたんだ。 明日行くの」

妹「……そうなんだ」




机に肘をついて、妹ちゃんは応えた。

姉「あんまりびっくりしない?」

妹「なんとなく……遠くに行っちゃうんだろうなって、思ってたから」




寂しそうに、妹ちゃんが呟く。




姉「そっか……」

妹「いつ、帰ってくるの?」

姉「……わかんない」

妹「というか、帰ってくるの?」

姉「それも……わかんない」

妹「……ん、そっか。 どうしてすぐに教えてくれなかったのか、訊いてもいい?」

姉「引きとめられちゃったら断れる自信がなかったから……」

妹「今は?」

姉「今はもう、行くしか道がないから」




妹ちゃんが座っている回転イスを回転させて、こっちに向けた。




妹「……うん、わかった。 応援してる」

姉「……うん。 じゃあ」

妹「うん」




妹ちゃんの部屋を出る。
……ずっと、妹ちゃんの顔を直視できなかった。
直視できなかったけど……辛そうな顔を、寂しそうな顔をしていたのはわかった。




姉「妹ちゃん……」




ドアに寄りかかって、呟く。
部屋の中から……微かに、嗚咽が聞こえた。

―――――――――――――――――――――――




母「気を付けるのよ。 向こうは何があるかわからないんだから」

姉「うん」

母「こまめに連絡を寄越してね。 心配になっちゃうから」

姉「うん、するよ」




翌日。
私たちは、朝早くに空港に向かった。




母「……お母さん、ちょっとお手洗いに行ってくるわね」

姉「うん」




お母さんが、背を向けて立ち去っていく。




妹「……」




ずっと俯いて何も言わなかった妹ちゃんが、ようやく顔を上げた。

妹「……本当に、行っちゃうんだね」

姉「……ごめんね」

妹「ううん、謝らないで。 こうなるって、どこかでわかってたことだから」




飛行機の搭乗を促すアナウンスが流れる。
私が乗る、飛行機の。




姉「……行かないと。 お父さんとお母さんによろしくね」

妹「うん」

姉「じゃあ……」




言いよどむ。
別れの言葉を。




姉「……さよなら、妹ちゃん」




それでも、言った。
自分の気持ちに、決別するために。




妹「……わたしは、絶対にサヨナラなんて言わないよ」

姉「妹ちゃん……」

妹「行ってらっしゃい、お姉ちゃん。 あっちでも頑張ってね」




笑って、妹ちゃんは言った。

姉「……うん、行ってきます」




手を振り合って、背を向けて搭乗口に向かう。
不意に、後ろから抱きしめられた。




姉「……妹ちゃん?」

妹「……ごめんなさい、お姉ちゃん。 今だけ、ちょっとだけ……許して……」

姉「……」




嗚咽交じりに、妹ちゃんが懇願した。
けれどその嗚咽もすぐに止んで、妹ちゃんの体は私から離れた。




妹「ぐすっ……うん、ありがとう。 これで、わたしも頑張れるよ」

姉「……妹ちゃん」




振り向いて、妹ちゃんの目を見つめる。




姉「大好き……だったよ、妹ちゃん」

妹「……わたしも、大好きだったよ、お姉ちゃん」

続きはまたのちほど

―――――――――――――――――――――――

――――――――――

――




姉「彼は言った、愛している、と……あー、終わったー!!」




パソコンのキーを打ち、マウスを操作してファイルを保存する。
イギリスに来て、もう数年が経った。
その間に私は卒業して、そのままイギリスで翻訳家として英語の本や論文を日本語に翻訳したりその逆だったりするお仕事に就いた。




姉「ん~~っっ……コーヒーでも飲も……」




キッチンに向かう前に、郵便物のチェック。
メールボックスを見たら、チラシと……白い封筒が入っていた。




姉「?」




差出人、無し。
宛名、無し。
切手も貼られていないから、おそらく直接投函したのだろう。

姉「なんだろ……」




のり付けされた封を開いて、中身を確認する。
紙切れが一枚だけ、入っていた。




姉「これは……チケット?」




入っていたのは、日時と、場所と、座席だけが書かれたチケットだった。
この場所……コンサートホールは何度か行ったことがあるけど、何のチケットなのか書かれていない。

姉「なんじゃこりゃ……ん?」




チケットの裏を確認してみると、黒のボールペンでこう書かれていた。




『To dear my sister』




『大好きなお姉ちゃんへ』。
どきりと、胸が高鳴った。
忘れかけていた……いや、心の奥底にしまっておいた感情が、蘇ってくる。




姉「妹ちゃん……?」




思わず、外に出て周囲を見回す。
日が暮れかかった街並みが在るだけ。




姉「……」




この日は空けておこう。
そう、思った。

―――――――――――――――――――――――




チケットに記載されている日当日。
国内ではそこそこ大きなコンサートホールに、私はやって来た。
受付の人にチケットを見せると、控室に行くように言われた。




姉「控室……ここかな」




控室であろうドアの前に立つ。
ネームプレートには……妹ちゃんの名前がある。
深呼吸をして、ドアをノック。




『はい?』




英語で、応えられる。
この声……やっぱり……。

姉『……チケットを見せたら、ここに来るように言われた者です』




英語で返す。
ドアの向こうでばたばたと音が鳴ってから、勢いよくドアが開いた。
綺麗なドレスに身を包んだ女性が……妹ちゃんが、立っていた。




妹「……っっ!!」

姉「わっ」




勢いよく抱きついてくる。




妹「おねえちゃんっ……」

姉「妹ちゃん……」




抱きしめ合ったまま、控室に入る。

妹「やっと……やっと会えた……」

姉「……どうして、ここに?」

妹「ぐすんっ……わたしね、ピアニストになったんだよ」




しゃくりあげながら、妹ちゃんは答えた。




姉「えっ、ピアニスト!?」

妹「うん……ピアニストになれたら、海外に行けるかもって……お姉ちゃんのところに行けるかもって、思って……」

姉「えっ……」

妹「言ったもん……さよならは言わないって、わたしも頑張るからって……」




あのときから……妹ちゃんは、決めてたんだ。
ここで、イギリスで再会してみせるって。
それを……本当に叶えたんだ……。




妹「今日のコンサートが終わったら、お誘いを受けてるイギリスの楽団に入ろうと思うの。 ……お姉ちゃんには、もう大切な人とかできちゃった?」

姉「……ううん、もう、ずっと前にできたっきりだよ」

妹「……そっか」




涙を流したまま、妹ちゃんが微笑む。

妹「ここなら、疎まれることなんかないよね……?」

姉「うん、私たちを知ってる人はいないから、きっと……」

妹「じゃあ、じゃあ……一緒に、いてもいいよね……?」




上目づかいで、妹ちゃんが私に尋ねる。
本当に、予想外の展開だった。
まさかここで、妹ちゃんに会えるなんて。
ここ数年間、ただ私と一緒になるためだけに頑張ってきてたなんて。
すっごく嬉しくて、泣きそうで。




姉「当たり前だよ、妹ちゃん……こんなところまで追いかけられちゃったら、もう逃げられないじゃん……」

妹「えへへ……」




空白の時間を埋めあうように、私たちは抱きしめ合って。
それから指を絡めて、キスを交わした。
もう絶対に離れないって、想いを込めて。

おわりです、ありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom