櫻子「秘めた思いを胸に埋めて」 (29)
「……」カキカキ
「……櫻子。そこの解答、間違ってますわよ」
「えっ……あ、ほんとだ」
「まったく、また同じミスをしてますわね。ちゃんと見直しをしなさいって、いつも言っていますのに」
「う…うっさいな、分かってるよ」
ここは櫻子の部屋の中。真ん中に置いてあるテーブルの傍に、二人は揃って座っていた。
学校の帰り道、櫻子が今日出された宿題を手伝ってほしいとせがんできたので、ここに来ることになったのだ。
櫻子は私のライバルと言うべき存在だ。別に誰かが決めたわけではないのだが、その櫻子が宿題の提出もままならないようでは、ライバルも務まらない。
そんな、ほとんど言い訳でしかない言葉を並べて、私は櫻子の面倒を見てやるのだった。
「ですから、ここはこのようにして……」
「……」
「……?どうかしましたの?」
「いっ、いや、別に……」
櫻子に勉強を教えるのはもはや日常茶飯事だが、今日は何か違和感があった。
勉強をする合間、時々私の方にちらりと視線を移したり、体をもじもじと動かしたり。明らかに私を意識している。
さっきも、普段なら「向日葵の教え方が悪いんだ!」とか、「うるさい、このおっぱい魔人め!」とか、それくらいの文句が一つか二つは出るはずなのに、今日は随分とおとなしめだ。
もしかしたら、本人は気づかれてないと思っているのかもしれない。そうだとすれば、幼稚園の頃からずっと櫻子を見てきた私も随分と舐められたものである。
何か思いあたる節がないか考えてみる。
(あ……もしかして、クッキー?)
あのいやしんぼな櫻子だ。宿題をちゃんとやったことを口実に、お菓子を要求してくる展開は容易に想像できた。
ちょうどいいことに、昨日作ったクッキーが、まだ家に残っている。それについてほのめかせば、櫻子も少しは勉強に集中してくれるかもしれない。
「櫻子」
「…んー?」
「この宿題が終わったら、ご褒美がありますわよ」
「!?」バッ
食いついた。やはり単純な子だ。
「分かったなら、さっさと宿題をなさい」
「……うん」
心なしか、櫻子は少しペースを速めているように見えた。
……それにしても、今日の櫻子はすこぶる素直でやりやすい。いつもこうならどんなに楽だろうと、私は肩を落とした。
「終わったー!」
宿題を始めてから大体一時間近く経っただろうか。櫻子はようやく宿題を終わらせた。
「はい、よくできました」
時間がかかったとはいえ、最後まで終わらせることができたのは良かった。私は包み隠さずに褒めてあげた。
「ま、まあ、私だってやろうと思えばこのくらい楽勝だね!」
「そうですの?だったら、もう私が手伝う必要もありませんわね」
「なっ、向日葵のいじわるー!」
櫻子の調子もいつも通りに戻ってきたようで、私は安心した。
「さてと……。約束はきちんと守りませんとね」
「へ?約束?」
「あら、忘れましたの?」
「ご褒美ですわよ、ご褒美」
「……っ!///」
私がご褒美と言った途端、櫻子はなぜか顔をみるみる赤くしていく。
「え……あ…ごほう……び?///」
「何顔を赤くしているんですの?クッキーのことですわ」
「…!!」
「家に置いてあるんですのよ。今からとってきますわね」
そう言って、私がドアの方を向いたその時、
がしっ
「え……?」
振り向くと、そこには私の右腕を両手で引き止め、顔を斜め下に向けた櫻子の姿があった。
「ク、クッキーも、嬉しいけど……」
「私は、別のものが欲しいってゆーか……」
「何ですの、別のものって……?」
私は櫻子に尋ねる。
「……向日葵の、おっぱいがほしい」
……何を言い出すかと思えば。
「…櫻子が自分の胸のことで悩んでいるのは分かっていますけど、それは無理な相談ですわ。あきらめなさい」
「そういう意味じゃねーよ!!」
櫻子は怒ったのか、はたまた恥ずかしいのかよく分からない顔をして言った。
「じゃあなんですの?」
「う……そ、それは…その……」
「……はっきり言ってもらわないと分かりませんわ」
私はじれったくなって言う。
だが、言葉が詰まって恥ずかしそうにする櫻子の姿を見るのは珍しく、内心少しばかり緊張しているのもまた事実だった。
「…ん」
櫻子が指をさした方向を見ると、そこにはいつも櫻子が使っているベッドが一つ。
「ベッドがどうかしまして?」
「……ん!」
櫻子はただベッドをさすのみ。
そこに横たわってほしい、とでも言いたいのだろうか。
よく分からないが、物は試しと、私はベッドの上に寝そべった。
「こうすればいいんですの?」
「……」
櫻子は何も言わない。
と、思った次の瞬間だった。
「ふふっ……」
のしっ
「え、ちょっ…!?」
櫻子は顔を綻ばせたかと思うと、急に寝ている私の上に乗っかかってきたのだ。
ちょうど腰のあたりに跨り、両手で私の左右の手を押さえつけられてしまったため、私は自由に身動きをとることができなくなった。
「な、何するんですの、櫻子っ……」
「言ったでしょ……向日葵のおっぱいが欲しいって」
そう言うと櫻子は、顔を私の胸に近づけて……
ぽすっ
「ひゃあぁ…///」
胸に顔を埋めた。
「んあ……向日葵のおっぱい、やらかい……」
「や……っ…ちょっと…なに……っ」
あまりに突然の出来事で、思考がついていけない。
櫻子はといえば、私の双丘の間に顔を埋め、服越しに伝わる肌触りを楽しんでいた。
「うへ…へ……おっぱい…きもちい……」サスサス
「だめっ、やめてっ……やん……っ…」
自分の声とは思いたくないような嬌声が漏れる。体全体で櫻子の体重を感じて、私は息苦しくなっていた。
「もっと、さわらせて…?」
こす…
「いや……っ、やめて、おねがいだからあっ……」
こすこすと顔を左右に動かされ、全身をこそばゆい感覚が襲う。
こすこすこすっ……
「やだ……やあぁ……っ」
「へへ……向日葵……かわいい……」
そう言うと今度は、両手を移動させて胸を揉み始めた。
もみっ……
「んっ……!」
もみ……もみ……
「あ……くあ…うぅ……っ」
「ここ、とか……?」
もみぃっ……
「ひゃあんっ!」
全身の感覚がどんどんと奪われてゆく。体はまるで櫻子の意のままに操られているかのようで、触られる度に勝手にぴくぴくと跳ねた。
もみ……もみ……
「や…めぇっ………て……っ」
何とか我慢してその場を耐え抜こうとしても、胸を思い切り強く揉まれ、我慢は限界に達していた。
もみもみもみっ……
「や……やあぁぁっ……」
「ひまわりぃ……どうかなあ……?」
「やあっ……だめ、だめ……だめぇ……っ」
「きもちいい?……きもちいいでしょ……?」
「あ、あぁ、やっ………」
「やめてぇっっ!!!」
どかっ
わずかに残った力を振り絞り、私は右足を引き抜いて櫻子の体を思い切り蹴とばした。
櫻子は衝撃でぐらりと姿勢を崩し、そのままベッドから転げ落ちた。
はっ、はあっ……はあ……っ」
深呼吸を繰り返し、息を何とかして整えようとする。
櫻子は頭を打ったのか、手を頭にあてながら呻いていた。
しばらくの間、私は何も考えることができずにいた。
だが、だんだんと落ち着いてくると、心の奥底から怒りがふつふつとこみ上げてきた。
私は櫻子の面倒を見てあげた上に、ご褒美にクッキーを持ってこようとした。櫻子のためにと、できるかぎり親切にしてあげたつもりだ。
それなのに当の櫻子は、私を押さえつけ、身動きをとれなくして、胸を思うがままに弄んだのだ。私が胸にコンプレックスを抱いていることを知っていながら。
怖かった。困惑した。でもそれ以上に、私は怒っていた。
「……」
櫻子は今もなお、口をきゅっと結んで黙りこくっていた。
「……信じられませんわ」
私は櫻子の方を向いて言った。自分の声が震えているのを感じる。
「あなた…自分が何をしたのか分かってますの?」
「……」
「体を拘束されて、その上、恥ずかしい思いをさせられて……。どれだけ怖かったか、あなたに分かるんですの?」
「……」
「……分からないんでしょうね。こんなことをする人には」
「……っ」
「……帰りますわ」
そう言って、立ち上がった時だった。
「ふぇ……」
「ふええぇぇえええぇん……」
「……!」
「えええええぇぇぇぇん……」
「ごべんなさい……ごべんなさいいいぃぃっ……」
櫻子は、ぷつんと糸が切れしまったように、涙をぽろぽろと出して泣いた。
「櫻子……」
「おねがいぃ……きらわないでええぇっ…」
「うあっ……うああああぁぁぁ……」
櫻子は今まで見たことないくらいに取り乱していた。
普段、私の目の前では涙を見せまいといつも強がっていた櫻子が、こんなにも顔をぐしゃぐしゃにして感情を露わにしていると思うと、罪悪感やら申し訳なさから、私の中にあった怒りも嘘のように消えていった。
ぎゅっ
「まったく……仕方のない子ですわね」
私は上から覆うようにして、櫻子を抱きしめた。
「うぁ……ぁ…」
「そんなに反省してるんですのね……。ならもういいですわ」
「ひぐっ……えぐっ……ごめん…っ……なさいぃ…………」
「謝らなくていいですから……」
櫻子はその後もしばらく、私の体に身を委ねてすすり泣いた。
私はそんな櫻子の体を支え、優しく包み込んであげたのだった。
「……」
「……さて、櫻子。もう怒りませんから、この際全てお話しなさい。なんでこんなことをしたのか、教えてほしいんですの」
落ち着いた頃合いを見計らって、私は櫻子に尋ねた。
「……」
「……私……っ」
櫻子は少しずつ、自分が隠していた本心を吐露し始めた。
「いつもいつも、向日葵のおっぱいのこと、バカにしてたけど……」
「本当は、すごくうらやましくて……」
……でしょうね。
「……でも、誇らしかった」
「え……?」
櫻子の口からは、意外な発言が飛び出した。
「私の幼馴染みにはこんなにスタイルのいい子がいるんだぞって……向日葵の前で絶対言わなかったけど……いつも心の中で自慢してた」
「そう……だったんですの?」
意外だった。
私はてっきり、櫻子は私の胸に対して酷く嫉妬しているとばかり思っていた。
……いや、正確に言えばそれも間違っているわけではないが、それとはまた別の思いもあったということか。
「けど、他の人が向日葵のおっぱいを触ったり、弄ったりするのを見てると、モヤモヤするっていうか……」
「本当は『向日葵のおっぱいを触っていいのは私だけだ!』って言いたかったけど、それも素直に言えなくて……」
「ずっと我慢してたんだけど……抑えきれなくなっちゃって……っ」
そう……それであんな事を……
「私、向日葵にたくさん酷いことしちゃった……」
「最低、だよね……」
櫻子は、せっかく泣き止んだのに、またぐすぐすとベソをかきだしてしまった。
「……はあ」
「本当に、しょうがない子ですわね」
「……!」
「本心も言えないままずっと溜め込んで、挙げ句の果てに抑えきれなくなって襲いかかって……あのまま私が抵抗しなかったら、取り返しのつかないことになっていたかもしれませんのよ?」
「ぅ……」
返す言葉もないと言わんばかりに、櫻子は俯いた。
「ほんとにもう……」
ぷつ、ぷつ……
「……えっ、向日葵……?」
ぱさっ
「触りたいのなら、始めからそう言えば良かったんですわ」
私はボタンを外し、着ている服を脱ぎ捨てて自分の胸を露わにした。
ブラに支えられた二つの乳は、私が動く度に艶めかしくたゆんたゆんと左右に揺れている。
「あ……あぁ……///」
櫻子は興奮のあまり息を詰まらせる。
私は別に、櫻子と、その……そういうことをするのが嫌なわけではない。
むしろ、心のどこかでは、ずっと待ち望んでいたような気さえする。
私がさっき怒ったのは、櫻子にいきなり何の説明もなく襲われたのが理不尽に思えたからであって、それさえなければ、私はすんなりと受け入れていただろう。
「今日の間だけ、あなたの好きにさせてあげますわ……」
ちゅっ
私は櫻子のおでこに、軽い口づけをした。
櫻子はその瞬間、理性の歯止めがかからなくなり、言われるがままに私の胸に飛びついたのだった。
「……zzz」
「すぅ……」
ガチャ……
櫻子の部屋に入った撫子が最初に見たもの。
それは、乱雑に脱ぎ捨てられた服とブラ、そして、その近くのベッドで寝る二人の幼馴染だった。
(ついに一線を超えたか……?)
と、撫子は一瞬思ったが、その割りには服も大して脱いでいない。向日葵が上半身だけ素っ裸なのは気になるが。
撫子は寝てる二人を起こさないように、そっと布団をかけてやった。
「何してるし?」
見ると、ドアの近くに花子が立っていて、こちらをまじまじと見つめている。
「ああ、風邪を引かないように、布団をかけてやっただけだよ」
撫子は人差し指を鼻にあてながら、ひそひそ声で言った。
「……今日の夕飯の当番は櫻子のはずだし」
「私がやるよ。だから、今はそっとしておいてあげて」
「……分かったし」
――――
―――
――
―
「ひまわり……すきぃ……むにゃ……」
「わたくしも……すきですわよ……さく…ら……こ……」
二人は疲れきっていたが、それさえどうでもよくなるくらい、幸せに満ちた気分で眠っていた。
オッワリーン
初めてさくひまを書いてみました。
R-18展開を期待していた方は申し訳ない……。そのうちそういうのもちゃんと書きます。
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