――おしゃれなカフェ――
<ちりんちりん
高森藍子「わっ、また風鈴が鳴ってる……♪」
北条加蓮「おー…………」ミアゲル
藍子「風鈴もいいなぁ……今度、雑貨屋さんで探してみようかなぁ……」
加蓮「風鈴かー……うちはずっとクーラーなんだよね。もし家にあるなら事務所に持って行っちゃおうかな?」
藍子「あっ、それもいいですね! きっと和やかになれますっ」
加蓮「そういうのを飾るのもいいかな……ところでさ」
藍子「ふぇ?」モグモグ
加蓮「藍子って何気に結構食べるよね」
藍子「…………」ムー
加蓮「あはは、色気より食い気」
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――まえがき――
レンアイカフェテラスシリーズ第29話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「虹を見に行きましょう!」
・高森藍子「加蓮ちゃんの」北条加蓮「膝の上に」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「夏景色のカフェで」
・「北条加蓮と高森藍子が、静かなカフェテラスで」
藍子「私、周りによくもっと食べた方がいいって言われちゃいますよ?」
加蓮「えー、そう?」
藍子「みんな、食べるのが早いから。気がついたら料理がなくなっちゃうんです」
加蓮「あれでしょ、鍋とか……今だと流しそうめん? とかやったら」
藍子「すごいことになっちゃいますね」
加蓮「だよねー」
藍子「いつも仲良くしてるのに、そういう時はみんな、目が血走ってて……鼻息も荒くて、近づくこともできませんっ」
加蓮「怖!」
藍子「この前、流しそうめんをやった時なんて、一番下で待っていたらなんにも流れてこなくて」
加蓮「だろーね」
藍子「むなしくなってきちゃって、そうめんを流す方になっちゃいました。そうしたら私、自分が何も食べていないことに気付いて……お昼から、お腹ぺこぺこに……」
藍子「あっ、でも、モバP(以下「P」)さんがお仕事に行く前にお弁当を買ってくれたので、ラッキーでしたっ」
加蓮「ちゃっかり抜け駆けー」
藍子「みんな、食べることが大好きなんですよね」
加蓮「誰かがお土産って持ってきた瞬間にすごい勢いで食らいつくもんね」
藍子「うわさでは、夜な夜なパンやパフェをめぐって血で血を洗う争いを……!」
加蓮「なんとなく誰が何を巡って争っているか想像ついちゃう……」
藍子「その裏では、気付いたら眼鏡をかけられていたという事件が起きていたみたいなんです」
加蓮「どこにでも現れるね、あのメガキチは」
藍子「女子寮でたまにパーティーをやっているみたいなんですけれど、最近は誘われることが減っちゃって」
藍子「寂しいから理由を聞いてみたら……私を巻き込むのが、気が引けちゃうって……」
加蓮「あー」
藍子「あはは、いいんです。みなさんが美味しそうに食べてる顔を見る方が、私は好きですからっ」
藍子「……"楽しそうに食べている顔"を見るのが……ですけれど……」
加蓮「…………」
藍子「……ご飯はあんな形相で食べるものじゃないです……」
加蓮「なんか……お疲れ、藍子」
藍子「あははは…………」ウツロワライ
<ちりんちりん
加蓮「でもよくそんなに食べられるよね。今日も、まず来てからお昼ごはんでしょ? 食後のデザート! とか言ってチーズケーキでしょ? 少ししたらパフェを私に押し付けつつぜんぶ食べていくし。で、今はタルト」
藍子「…………」モグモグゴクン
藍子「今日はきっと、そういう気分なんです」
加蓮「そっかー」
藍子「ここでなら、誰にも邪魔されませんし……食べようと楽しみにとっておいたご飯やおやつがなくなることもありませんから…………ふふ、うふふ…………」
加蓮「……パッショングループってどうなってんの?」
藍子「なんてっ。本当に今日はそういう気分ってだけなんですよ。加蓮ちゃんも一緒に食べましょうよ~」
加蓮「藍子が美味しそうに食べてるので私はお腹いっぱいでーす」
藍子「それ、私のセリフっ」
加蓮「二代目高森藍子を名乗れる日も近いかな?」
藍子「じゃあ私は二代目北条加蓮を名乗っちゃいます!」
加蓮「いやぁ、たぶん無理だと思う」
藍子「えー」
<ちりんちりん
加蓮「そういう馬鹿っぽいことって……馬鹿なんだけどさ。最近はそういうのもいいなって思うんだ」
藍子「…………?」モグモグ
藍子「…………!?」モグモグ
加蓮「いや大げさに驚きすぎじゃない?」
藍子「…………!!」ゴクン
藍子「だって加蓮ちゃん、そういうの一番嫌いそうなのにっ」
加蓮「私だって何でもかんでも嫌いな物が嫌いなままって訳じゃないよ。いや、間違っても混ざりたいとは思わないけどさ。なんかいいと思わない? 何かに全力になってることって」
加蓮「ほら、私達の事務所ってみんなアイドルに全力になってて……だから仲間で協力! みたいなことも楽しくできるんだけど」
加蓮「うーん、なんて言うんだろ。こういうのって多ければ多いほどお得? って感じかな」
加蓮「混ざりたいとは思わないけどね!」
藍子「あはは、2回言わなくても……」
加蓮「テキトーに済ませるよりはさ、馬鹿っぽくても全力でやってる方がいいじゃん。そんで負けたら負けたって潔く言うの。グチグチ言うとかはカッコ悪いからパス。そんな感じのさ……なんかいいって思わない?」
藍子「スポーツ、みたいなのかな……?」
加蓮「そうかもね。スポーツかぁ。でも私は体力的にちょっと参加できそうにないし、やっぱ藍子と一緒に遠くから眺めてる方が私には合ってるかな」
藍子「たまには加蓮ちゃんがその中に飛び込んでいくのも見てみたいですっ」
加蓮「いやいや、私は外から見る側だって。あっ、やってるやってる、おー、藍子がパンを取った! みたいに」
藍子「…………あれ? 私いつの間にか参加しちゃってる!?」
加蓮「気付いたら巻き込まれてそうかなって」
藍子「加蓮ちゃん、私を守ってくださいっ」
加蓮「あははっ、喜んで背中を蹴っ飛ばす」
藍子「……そう言うと思ってました! なら、加蓮ちゃんも巻き添えにします!」
加蓮「その前にもっと遠くに逃げてみせるっ」
<ちりんちりん
藍子「ごちそうさまでしたっ。あ、店員さん! タルト、すっごく美味しかったです!」
加蓮「タイミングを見計らって皿を下げに来るとは。藍子、これあれだよ。店員さんこっそり陰から私達の話を聞いてるよ。迂闊なこと言えないよ」
藍子「そうなんですか? ……すごい勢いで否定しちゃってます。もー、加蓮ちゃんっ」
加蓮「そんなに首ぶんぶん振らなくても。あはは、ごめんごめん、ごめんなさい。藍子、何か飲む?」
藍子「今はお腹がいっぱいだから……。また飲みたくなったら呼びますね」
加蓮「私もいいや。また後でねー。あっ、盗み聞きするならするって言ってからやってね?」
藍子「するって言ってからやる盗み聞きなんてないと思います……」
加蓮「そうしたらほら、話題を選べるじゃん。藍子を褒めて褒めて褒めちぎってそれを店員さんが噂で流す……あ、駄目か、噂にならないんだっけ」
藍子「店員さん、私たちがここによく来ることは誰にも言ってないそうですから……店員さん、いつもありがとうございます。ここでのんびりしていられるのは、そのお陰かもしれませんっ♪」
加蓮「ちょっとー。私は? 私がいるからのんびりできてるんでしょー?」
藍子「もちろん、加蓮ちゃんにも。いつもありがとう、加蓮ちゃん♪」
加蓮「……………………あ、うん」
藍子「ふふっ」
加蓮「…………店員さんダッシュでさようならー。藍子はアレだね、たまに天然でさらっと言うよね」
藍子「へ?」
加蓮「いや、いーよ……」
<ちりんちりん
藍子「クールグループには何かないんですか?」
加蓮「んー?」
藍子「こう、グループ内でしか知らないこととか、グループ内でしか起きないこととか」
加蓮「あったかなぁ……。あ、今うちのグループでキテるのがあってさ」
藍子「ふんふん」
加蓮「ファンタジー。というか魔法」
藍子「……ファンタジー? 魔法?」
加蓮「ほら、奏と美波さん、あとシキフレコンビが巻き込まれたってヤツ」
藍子「あっ、それってもしかしてこの間の……」
加蓮「こういう時のウワサって早くてさー。ほら、うちのグループってそういう話が好きなのいっぱいいるから。最近は奏がすっごい質問攻めに遭ってるの」
藍子「奏さんがですか? それは、ちょっぴり見てみたいかも」
加蓮「それにシキフレコンビがどこまでホントなのか分からないような漫才トークでクールグループの子達が興味津々で――」
加蓮「って……そーいえばこの話、藍子も巻き込まれたってウワサになってるけど。どうなの? さっき言った4人は誰も知らないって言うんだけど」
藍子「実は、私もちょっぴりだけ」
加蓮「マジ!?」
藍子「でも本当にちょっぴりだけですよ? フレデリカちゃん達の方が大変だって聞いていますし」
加蓮「そうなんだ。へぇー。藍子もねー……」
藍子「……?」
加蓮「……生きて帰ってきてよかったね、藍子」
藍子「大げさですっ。私は本当に、ほんの少しだけ別の世界に行っちゃって、ちょっとだけ魔法が使えただけなんです」
加蓮「それをちょっとって言い張るの!?」
藍子「え?」
加蓮「いやいやいやいやいやいや……いや、あのさ? 別の世界に行って魔法を使えたのってそんな些細なことじゃなくない!?」
藍子「言われてみれば……?」
加蓮「絶対そうだって!」
藍子「ふふっ、加蓮ちゃんの言う通りですね。私、アイドルになっていろいろあったりして……それに、みなさんのような冒険をした訳でもないから、小さいことだって思っちゃいました」
加蓮「色々と麻痺っちゃうよね……。そっか。藍子も魔法が使えたんだ。ってことはやっぱり藍子は魔女だったんだね!」
藍子「あうぅ、もう否定できなくなっちゃった……」アハハ
加蓮「で、どんな魔法が使えたの? やっぱりこう、時間を止めるとか人の時間を奪うとか?」
藍子「違いますよ~」
加蓮「お前の寿命を奪ってやるー!」
藍子「それじゃ死神です! 逆です逆っ。私が使えたのは、簡単な回復魔法なんです」
加蓮「へー、藍子らしいね。教えてもらったとか?」
藍子「ううん。あっちの世界に行ってすぐに、傷ついた鳥さんの声が聞こえたんです。そうしたら、魔法が使えるかもって言ってもらえて」
加蓮「ふんふん……え? 魔法ってそんなんで使えるもんなの?」
藍子「やってみたら、できちゃいましたっ」
加蓮「できちゃうんだ!?」
藍子「癒やしの魔女、高森藍子ですっ。あなたの心も癒やしてあげるっ♪ ……なんてっ」
加蓮「すっごくそれっぽい! へー……えっと、なんていうか……魔法の世界ってすごいんだね……」
藍子「ふふっ。それからは、少しの間、その世界をお散歩したんですよ」
加蓮「異世界を放浪することを散歩って言えるのは世界中で藍子だけだよ、きっと」
藍子「見たことのない動物さんがいっぱいいたんです。最初はびっくりしたんですけれど、みなさん優しくしてくれて。いっぱい思い出ができましたっ。写真に撮れたらよかったのに……」
加蓮「た、たぶんその光景っていうか思い出は藍子の中にしまっておいた方がいいんじゃないかな……」
藍子「どうしてですかっ。う~、だって……加蓮ちゃんに説明しようって頑張ってるのに、説明する言葉が見つからなくて……そういう時に写真があったら、すっごく便利なのに」
加蓮「うん、それはありがと」
藍子「はいっ♪」
加蓮「今は魔法とか使えないんだよね? さすがに」
藍子「そうみたいなんですよ。残念……加蓮ちゃんやPさんにも使ってあげたかったなぁ。回復魔法を自分に使うと、すっごくあたたかい気持ちになるんですよ。こう、ほわんほわん♪ って!」
加蓮「あはは、なんとなくイメージ通りだ」
藍子「こっちの世界に戻ってきた時、使い方をぜんぶ忘れちゃいました。魔法を使ってた時のことは思い出せるのに……もしかして、あれは夢だったのかな……?」
加蓮「何人か同じような話をしてるから夢じゃないと思うよ。夢じゃあないとは思うんだけど……」
加蓮「んー……藍子。その話、あんまりあちこちで言いふらさないようにって言ったら納得してくれる?」
藍子「えっ。……どうしてですか?」
加蓮「いや冷静に考えてみようよ。魔法の世界に行ってきました! 魔法を使えました! とか堂々と言ってみなよ。どうなると思う?」
藍子「……笑われちゃいそう?」
加蓮「今は魔法とか使えないんだよね? さすがに」
藍子「そうみたいなんですよ。残念……加蓮ちゃんやPさんにも使ってあげたかったなぁ。回復魔法を自分に使うと、すっごくあたたかい気持ちになるんですよ。こう、ほわんほわん♪ って!」
加蓮「あはは、なんとなくイメージ通りだ」
藍子「こっちの世界に戻ってきた時、使い方をぜんぶ忘れちゃいました。魔法を使ってた時のことは思い出せるのに……もしかして、あれは夢だったのかな……?」
加蓮「何人か同じような話をしてるから夢じゃないと思うよ。夢じゃあないとは思うんだけど……」
加蓮「んー……藍子。その話、あんまりあちこちで言いふらさないようにって言ったら納得してくれる?」
藍子「えっ。……どうしてですか?」
加蓮「いや冷静に考えてみようよ。魔法の世界に行ってきました! 魔法を使えました! とか堂々と言ってみなよ。どうなると思う?」
藍子「……笑われちゃいそう?」
重複ミス失礼……。>>16はなかったことにしてください。
加蓮「そうそう。ま、それ以上は私からはやめとくー。うるさく言うのとか嫌いじゃないし、それに私だって今の話、続きが聞きたいって思っちゃったんだし」
藍子「続きですか? そうですね……ええと、回復魔法で鳥さんを助けてあげたところからですよね」
加蓮「それからあちこち歩きまわったんでしょ? 何があったの?」
藍子「私が最初に見つけたのは、森の中で住んでいる人たち……ううんっ、人じゃなくて――」
……。
…………。
<ちりんちりん
藍子「そんな感じですっ。…………ん~~~~!」ノビ
加蓮「…………あっ、お、終わり?」
藍子「あはっ、いっぱいお話しちゃいました!」
加蓮「お疲れ、藍子。……へぇー……うちのグループの子達がガチで調べ出すのも分かるなぁ」
藍子「調べ出す?」
加蓮「魔法の使い方。もうホントにガチでさ。魔術の歴史とか……なんだっけ、西洋? の逸話とか。いやそんなの調べてないでアイドルのレッスンやれよーって思ってたけど……すっごいその気持ちが分かる!」
藍子「ふふっ。加蓮ちゃんも行けるといいですね」
加蓮「ねね、藍子、その世界ってどうやって行ったの? きっかけは? 何かこう、やったこととかっ」
藍子「そ、そんなに一気に言われても。お仕事中にトラブルが起きて、いつの間にか知らないところにいて……戻ってきたら、ちょうどトラブルが終わってたところだから、私にもよく分かんなくて……」
加蓮「……藍子!」
藍子「は、はいっ」
加蓮「連れてって!」
藍子「無理ですっ」
<ちりんちりん
藍子「加蓮ちゃん。お話、聞いてくれてありがとうございましたっ」
加蓮「改まってどしたの? いつものことなのに……んー、じゃあ、話してくれてありがとうございました?」
藍子「はいっ。私、このお話を誰かにしたくて、ずっとうずうずしていたんです。Pさんはあれからずっと忙しかったから、簡単にしかお伝えできなかったし……その、笑って頭をぽんぽんってされちゃって」
加蓮「確かに普通なら信じられないよね……」
藍子「加蓮ちゃんにお話できてよかった♪」
加蓮「……ごめんね? さっきは『話すな』なんて言っちゃって」
藍子「ううん。だってあれって、加蓮ちゃん、私の心配をしてくれてたんですよね?」
加蓮「それは……ほら、藍子ってアレだからね、後先考えないっていうかアイドルとしての危機感がないっていうか自覚が」
藍子「これでも少しは考えてるつもりですっ」
加蓮「要するに藍子が悪い」
藍子「もうっ。加蓮ちゃん。私、確かに加蓮ちゃんほど聡くはないですよ。たまに加蓮ちゃんのことを見逃したりしちゃいます。でも、簡単なことなら私にだって分かるんですからっ」
加蓮「そっか」
藍子「あ、すみませーんっ。店員さん。サンドイッチ、おひとつくださいっ!」
加蓮「まだ食べるの!?」
藍子「いっぱいお話したら、お腹がすいちゃって」
加蓮「あはは……。太っても知らないよ?」
藍子「……………………」ピク
加蓮「…………」ニヤニヤ
藍子「……………………」
加蓮「あ、店員さんの手も止まった。……え? 何? そのデリカシーないなぁ空気読めよって目。あのさ店員さん、前々から思ってたけど藍子に肩入れしすぎじゃない? ねえ?」
藍子「……………………サンドイッチおひとつ、お願いします!」
加蓮「私も同じの1つ。お願いねー」
藍子「ふふっ」
藍子「……今日はそういう気分なんです」
加蓮「たはは」
藍子「今日はそういう気分なんです!」
加蓮「わかった。わかったから、ごめんごめんっ」
藍子「もうっ。……えっと……うんっ。これでしばらく、加蓮ちゃんの言う通りにできそうです!」
加蓮「私の言う通り?」
藍子「加蓮ちゃんにいっぱいお話したから、お話したいって気持ちもだいぶ和らぎましたから……」
加蓮「なるほどねー」
藍子「ちゃんと、我慢できそうですっ」
加蓮「よかった。藍子が変に笑われてるとこなんて私も見たくないもんね」
藍子「私の冒険物語は、私の胸の内にそっとしまっておきますね」
加蓮「ん」
藍子「あ、でも、たまにお話したくなっちゃった時は……加蓮ちゃん、聞いてくれますか?」
加蓮「ふふっ、その時はジュースでもおごってもらっちゃお」
藍子「加蓮ちゃんの大好きな飲み物、用意していきますねっ」
加蓮「やったー」バンザーイ
加蓮「(小声)あれ? これ、また私がズルいとか泥棒猫とか言われる奴……?」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「…………」
藍子「…………?」
加蓮「……瞬間移動の魔法の使い方とかって分からない?」
藍子「それはちょっと……。空を飛ぶ魔法なら、奏さんが知ってるかも」
加蓮「そっか。お、店員さんだ。サンドイッチありがとー。……私の分の具を増やしても誤魔化されないんだからねっ」
藍子「いただきますっ」
<ちりんちりん
藍子「~~~♪」モグモグ
加蓮「魔法、かー……」ソラヲミアゲ
藍子「~~~♪ ……?」モグ?
加蓮「ううん。藍子ってさ、小さい頃に魔法を使いたいって思ったこととかある?」
藍子「うーん……」モグモグゴクン
藍子「たぶん、ちっちゃい時に。空を飛ぶ魔法とか、お菓子を作れる魔法とか。あと、お菓子の家に住みたいなって思ったりっ」
加蓮「やっぱりそういうのに憧れるよね」
藍子「加蓮ちゃんもですか?」
加蓮「まぁ一応ね。でさ。もしも魔法が使えたら、とか思うのは、無い物に憧れることじゃん。無いからこそ憧れるっていうか、無いから想像しちゃうっていうか」
藍子「そういえば、そうなのかも……」
加蓮「うん。……無いって思うこと、私の世界にはいっぱいあってさ」
加蓮「魔法もだし、夢もだし。こうしていつも一緒にいられる相手が……っていうのも、私にとっては無いことだったから」
加蓮「無い物に憧れる、そのうち憧れを忘れて、本当に無い物になって、最後には憧れていたことも忘れちゃう。そんな人生かなぁって思ってたんだ」
加蓮「……でも、無いと思っていた物は、本当にあった」
加蓮「それを知った時、また憧れるっていうのは……なんとなく、自分勝手なのかな、って」
藍子「…………」モグモグ
加蓮「んー…………」(空に向かって手を伸ばす)
加蓮「っは」(振りをつけて体を元に戻す)
加蓮「あはは、センチメンタルごっこ。夏だし」
<・・・。
加蓮「こらー、風鈴ー。今、風が吹いたでしょー。アンタも藍子贔屓って訳? このやろー」
藍子「…………」モグモグゴクン
藍子「……私、初めて魔法を使おうとした時、私にできないって思っちゃったんです」
加蓮「鳥に教えてもらったんだっけ?」
藍子「はい」
加蓮「そりゃ……まぁ、普通はそう思っちゃうよね」
藍子「でも……魔法を使えることができたら、鳥さんを助けられるって確信した時、ちょっとだけ思い出したんです。初めて、アイドルとして舞台に立った時のこと」
藍子「レッスンをしている時は平気でした。Pさんも優しく教えてくれて……これなら私でもできちゃうかも、なんて」
藍子「でも、本当の舞台に立った時、ちっぽけな自信がぜんぶ吹っ飛んじゃったんです」
藍子「私になんてできる訳ないって、泣きそうになっちゃって」
加蓮「……あはは、私と同じだ」
藍子「加蓮ちゃんも?」
加蓮「私もねー。いや、だってほら、大勢の……ちょっとしかいないかもしれないけど人が見てる前で歌って踊るんだよ? できる訳ないじゃん!」
藍子「で……ですよねっ。いきなり言われても無理ですよね!」
加蓮「無理無理! 無茶振りとかそういうレベルじゃないから! なんでできるって思うの!? って感じ。あとね、そん時にちょっと後悔したんだ。あーPさんの話とかちゃんと聞いとけばよかった! って」
藍子「Pさんのお話?」
加蓮「ステージに連れてってくれる時にね。Pさん、色々な話をしてくれて。緊張するけどどうこうとか失敗してもどうのとか。私、それ全スルー。……昔の私ってほら、アレだったから……」
藍子「……あぁ」
加蓮「そういうの聞いとけばよかった! 緊張ヤバイんだけどこれどうしたらいいの!? あの人なんて言ってたっけ!? ってなっちゃって」
藍子「私も同じ感じですっ。足が、がくがく震えちゃって」
加蓮「最初の挨拶が思いっきりかすれて場が白けたりしてさ」
藍子「そうですそうです。もう、すっごいパニックで……」
加蓮「懐かしいなぁ……」
藍子「うふふっ」
<ちりんちりん
藍子「――でも、最後には、やってみようって思ったんです」
藍子「できるとか、できないとか。アイドルらしいとか、アイドルらしくないとか。そういうの、ぜんぶ吹っ飛んじゃって。そうしたら、どうにか乗り越えられたんです」
加蓮「……藍子は昔からずっとパッショングループなんだね」
藍子「はいっ」
加蓮「そっか」
藍子「つまり、そういうことなんです!」
加蓮「…………」
藍子「…………!」ドヤァ
加蓮「…………ん? あれ、これ何の話だっけ? ……つまりどういうこと?」
藍子「え? それは……ええと……そ、それはつまりそういうことで、つまりそういうことなんです」
加蓮「藍子は前からずっとパッショングループだねー」
藍子「同じ言葉なのに悪口に聞こえる!?」
加蓮「んー。えーっと、つまり……」
藍子「…………」
藍子「……私、何が言いたかったんだろ……?」
加蓮「藍子は昔からずっとアホだねー」
藍子「とうとう悪口になっちゃいました!?」
藍子「ええと……」
藍子「そうだ。加蓮ちゃん。虹を見に行った時のこと、覚えていますか?」
加蓮「……忘れる訳ないでしょ。あんな綺麗な景色」
藍子「よかった。あの時だって、加蓮ちゃんは見つけたじゃないですか。好きになれなかった梅雨の季節の中に、忘れられない程の"好き"を」
加蓮「…………」
藍子「今、私に言えることはきっとそれだけです」
藍子「……あの世界の魔法みたいに、あなたをあたたかい気持ちにできればよかったんですけれど……」
藍子「ほらほら加蓮ちゃん、まだ夏は始まったばかりなんですよ。センチメンタルごっこなんてやってたらすぐに過ぎちゃって、夏が終わった後の加蓮ちゃんに怒られちゃいますよ?」
加蓮「……そうだね。……うんうん、ホントそれ。さっきの1分はどう考えても無駄だ。その1分があったら私は――」
藍子「加蓮ちゃんはっ」
加蓮「Pさんといちゃついてトップアイドルになれるよう頑張って藍子とここでのんびりして、それから――」
藍子「1分じゃそんなにできませんっ」
加蓮「じゃあPさんといちゃつく」
藍子「その選択肢でそれが最初に出てくるんですか!?」
加蓮「ん? 自分が選ばれなかったことが寂しい?」
藍子「そうじゃなくて……もーっ!」
加蓮「ふふふー」
藍子「もうっ……でも、今の加蓮ちゃん、私の知っている加蓮ちゃんです」
加蓮「いつの間にかいつも通りになっちゃった。悩める加蓮ちゃんはどこに行ったんだろうね」
藍子「堂々としているのが、私の知っている加蓮ちゃんですから。幸せでいいのかな? なんて悩んじゃうのは、今の加蓮ちゃんらしくありませんっ」
藍子「……あ! 私、きっとこれが言いたかったんです!」
加蓮「よかったね藍子。見つけられて」
藍子「はい! ……って、目的がおかしくなっちゃってます」
加蓮「あはははっ」
藍子「加蓮ちゃん。ええと…………きっと、そういうことですっ」
加蓮「しょうがないなー。じゃあ頑張って、私らしく私になろうか」
□ ■ □ ■ □
<ちりん・・・
加蓮「夜でーす」
藍子「すっかり暗くなっちゃいましたね……。風鈴の色が、カフェからの明かりに照らされて……お昼とは、違う色みたいに見えて……綺麗……♪」
加蓮「綺麗だね……。ねっ、やっぱり風鈴さ、探して事務所に飾ってあげようよ」
藍子「見る度に、今日のお話を思い出しちゃいそうっ」
加蓮「思い出しちゃったら、魔法ごっこでもしよっか。もし私が魔法を使えたら! とか、またやってみたくなっちゃった」
藍子「加蓮ちゃんに似合いそうな魔法……いっぱいありそうです!」
加蓮「さ、帰ったら風鈴を探そーっと」
藍子「え~。加蓮ちゃん、それは私のお仕事ですよ?」
加蓮「む。藍子が風鈴って言ってもそんなにおかしくないけど、私が風鈴って言ったらこう……ギャップがあっていい感じでしょ?」
藍子「そうかもしれませんけれど……でも私が探すんです!」
加蓮「……じゃ、2人で別々に持って行こっか」
藍子「どんな風鈴なのかは、見てのお楽しみですね」
加蓮「うんうん」
藍子「今から楽しみ……♪」
加蓮「だねっ」
加蓮「……」
加蓮「……さてと」
加蓮「素敵なお話が大好きな藍子ちゃんにシビアな現実を叩きつけるのが、加蓮ちゃんのお仕事だよね」
藍子「…………」ヒキツリワライ
加蓮「はい、恒例のケータイチェックのお時間でーす」
藍子「……………………」スッ
加蓮「え? やだよ、私は私のスマフォを確認しなきゃいけないんだし」ガサゴソ
加蓮「なになに? 『藍子ちゃんのパジャマを用意して待ってるわね♪』……ああ、なんかニコニコ顔のお母さんが思い浮かぶなぁ」
藍子「…………」オソルオソル
加蓮「あれ? 続きがある。『連絡がないことは帰ってきたらお説教! 覚悟していること!』」
藍子「……!」ビクッ
加蓮「……藍子ー、今日そっちに泊まりに行っていい?」
藍子「加蓮ちゃん! 今日そっちに泊まりに行ってもいいですか!?」
加蓮「……」
藍子「……」
<ちりん
加蓮「くすっ」
藍子「ふふっ」
加蓮「いやいや、藍子の家でいいじゃん。藍子のお母さんすっごい優しそうだし。私のお母さんさー、説教始まると長いんだよね」
藍子「私のお母さんだって怒ったら怖いですっ」
加蓮「そんなことないでしょ。この前だってニコニコしてたじゃん」
藍子「あれは……その、あまりにもってことで、怒るのを通り越して笑えてきちゃった、って……」
加蓮「ならきっと今日もそうに違いないね!」
藍子「今日のお母さんは……たぶん、いっぱい怒ってますから……ううっ、加蓮ちゃん!」
加蓮「……あ、そうだ! 事務所に泊まろう。仕事で連絡できなかったことにしよう」
藍子「…………」
加蓮「あれ?」
藍子「……私、今日、加蓮ちゃんとここに来ること、お母さんに」
加蓮「藍子のアホー」
藍子「なんですかそれーっ! じゃあ加蓮ちゃんはなんて言ってここに来たんですか!?」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……藍子と、って言って来ました」
藍子「同じじゃないですか~!」
加蓮「そ、そうだ。藍子を連れて行ったらきっとお母さんだっていつもより静かになるよね。うん、絶対そうだ。友達にまでうるさく言うことないもんね、うんうんそれなら――」
藍子「それは私もです! 私のお母さんもお父さんも、加蓮ちゃんが大好きだから……加蓮ちゃんと一緒なら、きっと怒られずに済んじゃいますっ」
加蓮「ってことでうちに――」
藍子「だから加蓮ちゃん、今日は私の家に――」
<ちりんっ♪
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。
次回予告
第30話 北条加蓮「藍子さんと」高森藍子「7月25日のカフェテラスで」
明日投下予定です。またお付き合い頂ければ幸いです。
※スレタイは変更する可能性が御座います、ご了承をー
このSSまとめへのコメント
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