泰葉「昔の私に誇れる私に」 (10)
・初投稿です
・めっちゃ短いです
・泰葉お誕生日おめでとう
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「お疲れ様でした」
いつものお仕事を終わらせて、スタジオから事務所に戻る。
アイドルの仕事を始めてしばらく経ったけれど、おかげさまで、楽しく仕事ができている。
少し前までは、お仕事が楽しいなんて、甘えだと思っていたのに。
大人の言いなりの人形だった私を救ってくれた、アイドルという新しい道。
最初は戸惑いもあったけど。仲間もいて、Pさんもいて。
こんなにあったかい環境で、お仕事ができるなんて思ってもみなかった。
…事務所に戻ろう。
…
「おはようございます」
小さい頃は何時でもおはようなんて、おかしいなって思っていたけれど、今では当たり前の挨拶。
「おう、泰葉、おはよう」
Pさんが返してくれる。いつもの光景。
このいつもの光景が、今の私にはすごく嬉しい。
「今週もファンレターたくさん来てるぞ。さすが岡崎先輩」
「だから、先輩はやめてくださいって!」
もう、この人は…。
ファンレターを受け取り、一息つく。
アイドルになってから、ファンレターを読むのが好きになった。
色とりどりの便箋に仕舞われた、私への思い。感謝だったり、激励だったり、いろいろな思い。
それを一つ一つ開けていくのが、アイドル岡崎先輩の一つの楽しみ。
『泰葉ちゃんの歌声大好きです!これからも頑張ってください!』
『岡崎泰葉ちゃんのおかげで元気が出ました。ありがとう。』
いっぱいの気持ち、ありがとう。ちゃんと届いてるよ。
「ん、これ…」
『子役時代からのファンです。子役時代の演技に感動してファンになりました。アイドルになってから、子役時代には見せなかったような、楽しそうな顔をするようになって、新しい泰葉ちゃんの魅力に気付けたと思います。』
昔からのファンの人も、ちゃんと見てくれてるんだ。嬉しい。
少し前までは、芸歴のフィルタを通して、『元子役の岡崎泰葉』として見られることが嫌だった。『アイドルの岡崎泰葉』として見て欲しかった。
でも今は、そんな『元子役の岡崎泰葉』も、『アイドルの岡崎泰葉』も私なんだ、と胸を張って言える。
子役時代からのファンには成長した私を、アイドルになってからのファンには新しい私を、これからも見せていけたらいいな。
…
「あ、そうだ泰葉」
「なんですか?新米プロデューサーさん」
「さっきのまだ根に持ってるのか…」
「ふふ、冗談ですよ。で、なんですか?」
「ん…、泰葉の誕生日なんだけどな」
あ、そっか。もうそんな時期。お仕事が楽しくて忘れることなんて今までなかったのに。
「行きたい場所とか、欲しいものとかあるか?」
「欲しいもの… シンデレラのガラスの靴、かな?」
「それは…いつか必ず。」
冗談だったのに。ふふっ、Pさんは、真面目ですね。
でも、いつかは履きたいな。ガラスの靴。
「他に無いのか?」
欲しいものなんて、もう沢山貰いましたよ。プロデューサー。
でも、誕生日くらい、欲張りになってもいいよね。
「じゃあ、またプラネタリウムへ連れて行ってください」
「そんなのでいいのか?」
「そんなのって…… Pさんは私との初デートの思い出の場所をそんなところ呼ばわりするんですね…」
「仕事のためだっただろ」
「Pさん、ノリが悪いですね」
「昔の泰葉じゃ絶対出てこないセリフだな」
「私も成長しているんですよ、ふふん」
こんな風に自然に笑えるのも、プロデューサーのおかげです。ありがとう。
「誕生日パーティも盛大にやるから、楽しみにしててな」
「メロンパンありますか?」
「そこかよ。……用意しとくよ」
「ふふ、ありがとうございます。楽しみにしてますね」
そしてー
7月16日、私の誕生日。Pさんと待ち合わせ。
事務所から揃って行ってもいいけれど、こういうのは雰囲気が大切なんですよ。と、Pさんを言いくるめた。
「お待たせ、泰葉。行こうか」
「はい、Pさん」
芸能界に入って10年、言われた通りに歩いてきた道。
アイドルを始めて、Pさんに導いて貰って、一緒に歩いた道。
そして、これからーー
未来のことは分からないけれど、今みたいに、昔の私に誇れる自分になってるといいな。
…Pさんと一緒なら、大丈夫だよね。
「あ、そうだ…。誕生日おめでとう。泰葉」
「…ふふ、ありがとうございます。Pさん」
おわり
ありがとうございました。
次の誕生日まで、泰葉にとっていい1年でありますように。
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