提督「雨の日の小さな謀略」 (18)


分かりにくさ重点で薄っぺらい内容
梅雨グラぼのやん良かったよね程度の思いしかないです

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「降らないって言ったよな……」

 スーパーの出入り口、自動ドアの向こう側の景色を見て、つい、ぼやいてしまった。 ぼやくのも無理はない、と心の中で誰かに言い訳をする。
 何せ目に映る景色は轟、あるいは豪……とまでは言わないものの、気分をうんざりさせてくれる程度には雨が降り注いでいるのだから。
 そして、俺の両手には手提げ鞄と二、三のビニール袋がぶら下がっている。傘はない。うんざり度は十割増しだ。
 出掛け始める前から既に雨降りの兆候は目に見えていたのだが、何故こうなったのか、ということについては考えを張り巡らせる必要もない。

「確かに雨は降りそうだけど、予報では日が落ちてから降り始めるって言っていたから大丈夫だよ。そんな訳だから早く急いで買い出しに行ってきてもらおうか」

 とまあ、そんな具合に秘書当番の時雨にやれ行けそれ行けと急かされたせいだ。沢山買ってもらうつもりだし傘も荷物になるからいらないよね、という気遣いまで見せてくれて大変迷惑をしている。
 何故俺が買い出しに、と反論したら僕は仕事で忙しいから、と。秘書の仕事分くらいまとめてやってやると言えば提督は他の子と遊んでばかりで仕事にならないじゃないか、と言われる始末。主に漣が原因だが否定しきれないのも情けない事実であって。

「…………」

 いや、それにしたって傘を持たせないなんてことがあるだろうか。
 梅雨の時期で、空は今にも泣き出しそうで。そんな状況で傘を持たせない? 何かと理由をつけてまで? 何故? 一体何のために?
 手っ取り早く浮かぶのはあまり嬉しくも喜ばしくもないものだが、

「時雨に嫌われるようなことしたっけ……」

 辿り着くのも必然と言える答えで。 嫌われているからこんな仕打ちを受けた、と。
 年頃の女子は気難しいと聞くが……一応、人様の娘っ子を預かる身分として注意を払っていたつもりでもこのザマか。情けないやら何やら。


 そんな具合に感傷に浸っていられたのも束の間、自動ドアのほぼ真正面に立つ俺の脇を幾人かが邪魔そうに通って行くのを見て慌てて脇に避ける。
 通り行く人々の手には一様にして購入品の入ったビニール袋と傘が握られている。羨ましい。恨めしいとも思ったかもしれない。
 口を緩めば呪詛でも吐き散らしそうな気持ちで店を出る人々を見送り、傘があるとは言え、夕立に晒される姿を自分に重ね見てはうんざりさを溜息として漏らす。

「……いつまでも立ちぼうけって訳にもいかんし、俺も帰るとするか」

 無論、無防備に出て風雨に晒されてやるつもりはない。季節が季節なだけに、鞄の中に折りたたみ傘を用意してあるのだ。
 折りたたみ傘程度の大きさでは身を守るには不十分だし、両手に荷物を持った状態で傘をさすというのも正直億劫だ、なんてのを主な理由としてアンニュイになっていたわけで。
 時雨については司令部に戻ってから色々訊ねてみよう。嫌われたままだと何かと支障が出かねない。
 ということで、床に荷物を置いて鞄から傘を取り出ーー

「ん……あー?」

 ーーせていない。鞄に突っ込んだ手が何も掴むことはなかった……いや、鞄から引き上げた握り拳の指の間に半分に折られたメモ用紙が挟まっている。開いてみればそこには、

『雨はいつか止むさ』

 と。そうだろうけども。いや、そうなんだろうけども。
 このメモで伝えんとすることはそんな事ではなく、諸々含めて誰の仕業であるか、だろう。犯行声明みたいなものだ。

「俺の事がそんなに憎たらしいか、時雨よ……」

 そう思わせるのに十分な効果を発揮した辺りからして、犯行は成功と言えよう。時雨が意地悪気にほくそ笑む姿が目に浮かぶ。


 折りたたみ傘がないのなら傘を買えばいいじゃない、などというアントワネット氏の言葉が聞こえて来そうだが、そうもいかない。
 スーパー内の買い物で見事に残金が尽きているため、店内で売られている傘を買う余裕がないからだ。クレジットカードも見事に財布から消え失せているし。
 初めに会計した時に何でカードが、と首を捻ったが今ならそれも時雨の仕業だと予想がつく、というか、それ以外ないだろう。
 で、買い物が済んだら連絡を入れるように言われていたので何の疑問もなく入れてみれば「暁達がお菓子が欲しいと喚いている」だの、「ワインが飲みたいってローマが」だの、連絡を入れるたびに二度三度とスーパー内を駆け巡らされた。
 そのおかげで財布の中の偉人達から硬貨までもがすっからかん。そうこうしている内に雨に降られた、と。

 「財布の自重しか財布に重みがなくなったんだけど」と言い捨てた時、時雨は「計画通り」みたいな顔してたんだろうなー。
 ……ここまで来るとイタズラだとかそういう領域を超えている気がする。樋口が一人と野口が二人くらいの消費で済んでるのが幸い、なのだろうか。
 しかし、カードを抜き取っておいて現金に手をつけない、というのは納得が……金は目的ではなく俺を濡れ鼠にするのだけが目的か。
 金がないんじゃタクシーだって呼べや……いや、呼べる。すぐには払えないけど、支払いは少し待ってもらって宿直室に潜めてあるへそくり様を召喚すれば、まあ、多分、いける。
 残念だったな時雨、お前の完璧に見えた計画には穴があったぞ!どうせなら数回通話したら電池切れになるくらいにまで携帯の電池残量を調整しとけばよかったものを!
 というか携帯が使えるのなら誰かしらに傘を持って迎えに来て貰えばいいのでは……?好意を利用するようで悪いが、金剛なんかだとそれこそぶっ飛んでやってくるだろう。根回しされていたらそれまでだが。
 少し考え始めれば抜け道がいくらでも見つかるような。そんな粗が残ったままの計画を推し進めるだろうか?
 そもそも、時雨の目的は何なのだろう。一連の思考はただの俺の被害妄想と一蹴出来る。本当に濡れ鼠にしたいのなら帰路の途中で雨に降って貰う方がいい筈だ。
 時雨、お前という奴は分からない奴だな。どうせなら今から電話をかけて直接訊いてやろうかーー。

「何をぶつくさ言ってんのよ、百面相の変質者」


 いつの間にか落としていた視線を持ち上げた先にあったのは、見慣れた不貞腐れ顔。不満を隠そうともしないいつも通りの態度。
 とは言え、突然で予期せぬ出現には面喰らう。

「変質者とは言ってくれる」

「顔を覆ったり、考える人みたいなポーズしたり、公衆の面前でそんなパントマイム未満の事してたら変質者でしょ。声かけずに帰ってやろうかと思った」

 先程までの思考が顔に、行動に出ていたのだろうか。
 眼前の少女は悪びれもせず続ける。

「ったく、そもそもどうして今にも雨が降りそうだったってのに傘を持ってきてないわけ?忙しいからとか言って、時雨に押し付けられてこっちはとんだ迷惑よ」

 ああ、なるほど。そういうことか。そういうことになっているのか。

「やー、悪いな。荷物が多くなりそうだったのもあるけど、急げばなんとかなると思って」

「なってないじゃない」

「ごもっとも」

「んっとにどいつもこいつも……ん!」

 ぶっきらぼうに差し出される紺色の傘。が、ふと思いついたことを提案してみる。

「見れば分かると思うけど、荷物が多いんだ。傘、持ってくれないか?」

「馬鹿じゃないの。誰がそんなことしてやるかっつうの。一つくらい持ってやるから傘は自分で差しなさいよ」

 見破られた上に断られた。まあ、分かっていたことだし気にするまい。
 というわけで、言った通りに荷物の一つを持ってもらってから傘を受け取り、雨の降りしきる店の外に出る。

「アイツもそうだけど、私をパシらせた駄賃は高いわよクソ提督」

「参ったな、今無一文でな。埋め合わせは今度でいいか?」

「それくらいは目を瞑ってやるわ。どうせなら晴れてからの方がいいもの」

「決まり。じゃあ帰ろうか」

 開かれた赤い傘の後に一歩遅れて続く。道中、会話は無かったが、雨音のせいかそれが逆に心地良く思えた。

 雨はいつか止む。

 晴れの日が楽しみだ。


そんなわけで終わり。書き溜め投下しただけなのでちょっぱや
梅雨も終わりそうだったしそーいや七夕じゃん!なんか書かなきゃ!みたいなのもあったせいで大急ぎで書いた次第
意図的に説明不十分な内容にしたつもりですけど分から事があったら気合いで分かってください

ぼのやんをぼのやんと呼ぶのは自分くらいなもんだと思うので関連作とか別にいらないよね?
ではそういうわけで。

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