阿武隈「ゾンビが人間社会を乗っ取るなんてありえませんよね?」 北上「あー……」 (35)

~北上の部屋~

望月「おーい、北上さーん、Zネーション借りてきたから一緒に見ようぜ~」

北上「おー、いいねえ」

阿武隈「またゾンビ映画?自分の部屋で見ればいいじゃない」

望月「私の部屋には姉妹が一緒に住んでるし、あの子達ゾンビ映画苦手なんだよねえ」

北上「いいじゃん、阿武隈もちょっと事務仕事置いといて一緒に見よ?」

阿武隈「……仕方ないですね」ハァ

阿武隈「じゃあちょっとお茶とお菓子持ってきますから」

北上「あんがとね~」

望月「前シーズンで割りとヤバい終わり方したからどうなってるか楽しみなんだよねえ」

北上「だねえ」

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…………

……




北上「3巻まで見終わったけど……やっぱりアッサリしてるねえ、Zネーションは」

望月「ウォーキングデッドみたいに一つの話を長く引っ張らないからねぇ」

望月「私はこっちの方が好きだよ」

北上「私はどっちかって言うとウォーキングデッドの方が好きかなあ」

北上「まあ、一番好きなのがロメロ3部作ってのは譲れないけどね」

北上「阿武隈はどうだった?面白かった?」

阿武隈「はあ、普通に楽しめましたけど……」

北上「けど?」

阿武隈「ゾンビ映画を見るたびに思うんですけど、どうして人類側はゾンビに負けてるんですかね」

北上「え?」

阿武隈「ゾンビが人間社会を乗っ取るなんてありえませんよね?」 

北上「あー……」

阿武隈「だって、ゾンビって基本的にモロいですし」

阿武隈「あんなモロくてノロいゾンビに、人間の軍隊が負けるとは思えないんです」

阿武隈「軍隊どころか警察レベルの武装でも十分鎮圧できるでしょう、あれ」

阿武隈「警察組織にも装甲車くらいはあるでしょうし」

阿武隈「あ、けど走るゾンビとかならちょっと無理かな?」

阿武隈「最近のゾンビは天井とか壁に張り付いたり超ジャンプしたりするらしいですし」

北上「あ、阿武隈、ちょっと待って」

阿武隈「あ……す、すみません、空気が読めないことを言っちゃいましたか?」

阿武隈「そ、そうですよね、映画なんですからそんな現実的な事を言ってても興ざめですよね……」

望月「……」

阿武隈「えっと、3巻まで終わったから次は4巻ですかね?続きを……」

望月「あー……ないわあ」

阿武隈「え?」

望月「阿武隈、それはないわあ……」

阿武隈「もう、だからさっき謝ったじゃない」

北上「望月、落ち着いて?ね?」

望月「いやあ……無理だわあ、草食系な私でも流石にキレるわぁ……」

阿武隈「え、なに?どうしてこの子こんなにガチキレしてるの……」

北上「いやあ、望月はガチでゾンビ映画好きだからねえ……」

望月「阿武隈さぁ、どうして軍隊とか警察がゾンビに勝てると思ったん?」

阿武隈「え、そりゃあ……いろいろ理由はあるけど、最終的には銃の有無かな」

阿武隈「ゾンビって確かにしぶとくて厄介だけど、頭撃てば倒せるよね?」

阿武隈「ゾンビの頭部の頑丈さが人間の頭部と同じなら……警察が持ってる銃でも十分射抜けるよ」

阿武隈「警察が隊列組んで冷静に対応すればちゃんと鎮圧出来るでしょ」

望月「いやいやいや、その頭撃ったら倒せるってのは、何処から仕入れた情報なの」

阿武隈「何処からって……ゾンビ映画見ればわかるよね?」

望月「ゾンビ映画って言っても一杯あるし、頭撃っても倒せないゾンビもいるよ?」

望月「何処で判断付けたん?」

阿武隈「何処でって……そんなの、ちょっと試してみれば判るじゃない」

望月「試すってどうやって?怪しい人見つけたら片っ端から頭に鉛弾撃ち込んでいくん?」

望月「そもそも相手が本当にゾンビなのか、どうやって見分けつけんの?」

望月「身体中ズルズルのムケムケなら判りやすいだろうけど、外傷が殆どないゾンビと普通の人間どうやって見分けるん」

阿武隈「うわあ、マシンガンみたいな質問きた……」

阿武隈「え、えっとね、ゾンビは喋れないし、何か話しかけてまともな返答できなかったらゾンビなんじゃないかしら」

望月「ちょっと待っててねぇ……」ピッピッピッ

阿武隈(なんなの……)

望月「……はい、今電話繋がってるから、相手と話してみてよ」

阿武隈「え、誰に繋がってるの……」

望月「いいから」

阿武隈「……も、もしもぉし」


「ヒャッハァー」


阿武隈「……え?」


「ンンンンン!」


阿武隈「じゅ、隼鷹さん?」


「ヒャ、ヒャ、ヒャ、ヒャッハァァァァ!」


北上「あー、何か盛り上がってるねえ、酒盛りでもしてるのかな」

阿武隈「そ、そうみたいですね」

望月「阿武隈さ、今の隼鷹ってまともな会話できると思う?」

阿武隈「……思わないけど」

望月「じゃあ、ゾンビなん?」

阿武隈「違うんじゃない?隼鷹さんは酔っぱらってるだけだし」

望月「じゃあ、ゾンビの識別方法としては不適切だよね」

望月「例えばさ、鎮守府で隼鷹がゾンビになったとしても、普段がアレだから気づかれにくいワケよ」

望月「そもそも誰も本当にゾンビが発生するなんて考えてないからね」

望月「もし隼鷹が頭から血を流してウーアー言いながら廊下歩いてても多分みんなスルーするっしょ?」

阿武隈「うん」

北上(隼鷹に対する扱い酷くない?)

望月「もし誰か噛まれたとしても、酔っぱらいが暴れやがってって考えられるのがオチなんさ」

望月「それは別に鎮守府だけじゃなく、都市部でもそう」

望月「酔っぱらいだの寝ぼけてるヤツだのは大なり小なり存在するんだから、即座にゾンビだと察知するのは無理じゃね」

望月「どーしても常識が邪魔をして初動が遅れるよ」

望月「ちゃんと対策本部が建てられるのは、沢山の被害報告が上がってきてからじゃない?」

阿武隈「確かに初動は遅れるけど、それでも十分鎮圧は可能だと思う」

阿武隈「それに、もし抑えきれなかったら……ほら、ハリウッドでよくある爆発オチで終わらせれば……」

阿武隈「乱暴なオチだけど、人類全体にまで被害が広がるよりマシじゃない?」

望月「それで対応可能なのはバイオハザードタイプのゾンビだけだって」

阿武隈「バイオハザードタイプ?」

望月「ゾンビの発生原因は、大きく分けて2つあるんよ」

望月「一つはバイオハザードタイプ……これは発生源が1カ所で、そこから被害が拡大していくタイプね」

望月「もう一つは、ロメロタイプ……これは、全世界で同時に死者がゾンビに変貌しだすタイプ」

阿武隈「全世界で……同時に?」

望月「そ、噛まれなくても普通に死んだだけの人がゾンビになんの」

望月「だから1つの都市を空爆して終わるレベルの問題じゃなくなるんさ」

阿武隈「うーん、あまりピンとこないなぁ……」

阿武隈「別にどちらのタイプでも鎮圧できるんじゃない?」

望月「うん、鎮圧はできると思うよ」

阿武隈「そうよね?」

望月「けどさ、例えば都市部で交通事故が起こって人が死んだとするじゃん」

望月「すると、そこでゾンビが発生すんの」

望月「病院で誰かが息を引き取ったり、ご家庭でお爺さんが心臓麻痺起こしたりしてもゾンビになんの」

望月「そいつらを鎮圧したとしても、ずっとその現象は続くんよ」

阿武隈「……ずっと?」

望月「そう、ずっと」

望月「今日だけじゃなくて明日も、1か月後も、1年後も」

望月「それがロメロゾンビの世界」

望月「最近の作品ではウォーキングデッドもこのタイプかな」

望月「実際さ、ロメロ三部作の最初の作品……ナイト・オブ・ザ・リビングデッドでは人間がゾンビに勝ってるんよ」

望月「徒党を組んだ自警団とか、軍隊がゾンビをガンガン狩って終わるの」

望月「けど、それだけじゃダメなんだよねえ……」

望月「話は変わるけどさ、阿武隈、日本で毎日どれくらい死人が出てるか知ってる?」

阿武隈「し、知らないけど」

望月「大体、25秒に1人の割合で死人が出てんの」

望月「ロメロの世界に照らせあわせると……日本のどこかで25秒に1体ゾンビが生まれる計算だねぇ」

阿武隈(なんでそんなこと知ってるの……)

阿武隈「えーと、それは……多い、のかしら」

望月「多くはないけど、何処で生まれるか判んないからね」

望月「即座に対応するのは難しいわけなんさ」

望月「因みに日本でゾンビに対応できそうな軍隊・警察・消防の総人数は70万人くらいね」

望月「もし本気でゾンビの被害を抑制しようとしたら……大体、1人で120人くらいの国民を監視する必要があるんよ」

望月「まあ、そんな感じだからどうしても被害が出るのは避けられない」

望月「どんなに上手く体制を作っても、死亡者数が3倍くらいになるのは避けられないんじゃないかな」

望月「勿論、赤ん坊は適時出産されてるわけだから人工的には大きく減ることはないんだけど……」

望月「けど、赤ん坊はすぐには働けないからねえ」

望月「逆に、働ける年齢の人はドンドン死んでいくし、経済先細りだよね」

望月「ゾンビってのはさ、どっか別の世界から突然現れた化物ってワケじゃないんよ」

望月「元友達であり、元恋人であり、元食糧生産者であり、元上司であり、元部下なわけ」

望月「その人たちはもうゾンビになってるから倒すしかないんだけど……」

望月「その人たちが支えてた家族とか、仕事とかには穴が開いたままになっちゃうの」

阿武隈「……けど、自警団とか作れば何とかならないかな」

阿武隈「実働人数を増やせば、十分対策取れるよね?」

望月「勿論、近くにいた一般人が死んだ人の頭を即座に破壊してくれたらゾンビ化の被害は減るけど……」

望月「そんな事が許容される世の中になったら、殺人事件は急増すると思うんさ」

望月「だって、気に食わないやつを殺しても、ゾンビ化してたんだって叫べば許されるって事に成っちゃうんだから」

望月「そうなってくると、国としてもうジリ貧だよね」

望月「経済は先細りになって、更に治安も悪化する」

望月「流通量も減って、食糧を調達できる仕事に携わってる人以外は、飢え始める事に成る」

望月「そうなると、地方の自治体とかは保身に走り始めると思うんよ」

望月「国全体じゃなくて、自分達の食い扶持を確保するのを優先するようになる」

望月「そりゃーそうだよねえ、そんな状況で国に税金とか払ってられないって」

望月「自分たちで勝手にルール決めちゃった方が生き残りやすくなるよね」

望月「で、税金が払われないと、当然、軍や警察の機能は著しく低下する」

望月「それを避けるために、今度は好き勝手やってる人間を従わせる為の戦力が必要に成ってくる」

望月「ゾンビだけに携わってられなくなる」

望月「そうなっちゃった世界が……ロメロ3部作の2作目、ドーンオブザデッドなわけ」

…………

……




阿武隈「……はぁ」グッタリ

北上「あー、終わった?望月のゾンビ談話」

阿武隈「あそこまで絡まれるとは思ってなかったです……」

北上「いやあ、あれくらいで済んで幸運だったよ?」

北上「望月、本気出すと1日中語り続けるから」

阿武隈「普段はあんなにダラダラしてるのに……」

阿武隈「というか、北上さん助け舟くらい出してくださいよ……」

北上「やだよ、あの状態の望月怖いもん」

阿武隈「もう……」

北上「それで、望月はどこ行ったん?」

阿武隈「なんか、すっきりした顔で帰っていきましたよ……」

北上「満足しちゃったんだねえ……」


阿武隈「そ、それで……あの……北上さん?」

北上「んー?」

阿武隈「あの……さっきの続きを……」

北上「さっきの続きって?あ、Zネーションの続き?」

阿武隈「も、もう!いじわる言わないでください……!」

北上「いや、ちゃんと言ってくれないと判んないってば」

北上「何の続きをしてほしいの?」

阿武隈「そ、それは……あの……望月が来る前にしてた……その……」モジモジ

北上「んーー?」

阿武隈「……き、きすの、続きを///」モジモジ

北上「もー、阿武隈ってえっちな子だなあ……」

阿武隈「そ、そんなこと……」

北上「けど、そういう阿武隈も好きだよ?」

阿武隈「き、北上さん……」

北上「阿武隈……」


ドーン

北上「……!」ビクッ

阿武隈「……!」ビクッ

大井「……」

北上「あ、ありゃ、大井っちじゃん、帰ってたんだ」

大井「……何やってるんですか」

阿武隈「あ、あの、大井さん、違うんですこれは……」

大井「何が違うんでしょう……」

北上「えーと、えーと、その……そう、ゾンビ映画見てたんだよ」

阿武隈「あ、そ、そうです!それで私怖くて!つい北上さんに抱き着いちゃって!」

大井「……」

北上「……」ブルブル

阿武隈「……」ガクガク

大井「……そうですか」

北上「そ、そうなんだよ、困っちゃうよねえ……」

大井「……」

阿武隈「……」ドキドキ

北上「……」ドキドキ

大井「……はぁ、どうせアレでしょう?また望月が持ってきたんでしょ?」

大井「お茶が3人分出してありますし」

北上「う、うん……」

大井「じゃあ仕方ないです……あの子が持ってくるホラー映画、本気で怖いですし……」

北上「だ、だよね……」

阿武隈「あ、あははは……」

北上「あははは……」

北上(はー、良かった、バレなかった)

北上(大井っちにはまだ秘密なんだよねえ、阿武隈と付き合ってる事)

北上(大井っちは阿武隈の事をちょっと苦手に感じてるみたいだし)

北上(なんか言いにくいんだよね……)

北上(けど、何時かは伝えないとね……)

阿武隈「……あれ、大井さん」

大井「なんでしょうか」

阿武隈「腕、怪我してるんですか?」

阿武隈「血が出てますよ?」

北上「ありゃ、ほんとだ、大井っちさっきの出撃で負傷しちゃったの?」

大井「いえ、戦闘では特に負傷はしなかったんですけど……」

大井「帰還後に、廊下で寝転がってる隼鷹を見つけたんです」

北上「あー、さっき酒盛りしてたみたいだし、酔っ払って寝てたのかな」

大井「私もそう思ったので、ちゃんと自室で寝るように注意したんですけど……」

大井「あの子、寝ぼけて私に噛みついてきまして」

北上「……え」

阿武隈「え……」

大井「もう、あの子にも困ったものですよね、まともに喋れないほど酔っぱらうなんて」

大井「それに、なんか頭から血が出てましたし、何処かで転んで打ったんでしょうか」



ウウウウウウウ



大井「あら、何か廊下から声が」



アアアアアアアアアアアアアアア

キャーー

ニゲテ



大井「一人の声……じゃないですよね、駆逐艦の子達が騒いでるのかな」

大井「あれ、北上さん、どうしました?」

大井「顔色が悪いですよ?」

大井「北上さん?」







こうして、絶望が始まった。







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北上「望月を膝の上に乗せ続けるとどうなるか」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年07月09日 (土) 00:33:14   ID: r8hMcjiy

もっちーと北上さんとゾンビってもしかしてと思ったら
やはり関連作か。ゾンビ恐ろしや!

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