「真美のグルメ」 (21)

「はいカーット!」

撮影現場に響くカチンコと監督のおっちゃんの声。
その表情は渋く、眉間にはシワが寄っている。

「う~ん、なんか違うんだよなぁ~。もっとさぁ、こうサクッと、それでいてじゅわっと来る感じがさぁ」

この監督のおっちゃんは演出に独特な表現を使うことで業界でも有名なんだけど、ショージキ真美には何言ってんのか全然分かんないよ……。
納得いってないって事くらいしか伝わってこない。


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「う~ん、いいや、飯にしよう!」

監督のおっちゃんがそう言うと撮影は中断。
そのままお昼休憩に入った。

「真美ちゃん、お昼食べてリフレッシュしておいで」

監督のおっちゃんはそう言って控えに戻っていった。
サクッとじゅわ~って言われても真美にはよく分かんないや。
でも、このままじゃ良くないから、お昼ご飯食べてちょっと整理してみよっと。


朝からの撮影でお腹も空いてたし、今日は何食べようかな。
普段はケータリングのお弁当なんだけど、今日はお弁当無い日だからどこかに食べに行かないといけないんだよね。
あんまり遠くにも行けないし、どこか近くで良さそうなお店無いかな~。

衣装が汚れないように上着を羽織って、撮影現場から少し歩くと、すぐ近くに商店街があった。
お昼時だから人通りも多かったけど、近場で何か食べられそうな場所がなさそうだから、この商店街で何か探してみよっと。

ぷらっと足を運んだ商店街は、平日の昼間だけど買い物客が多くて、活気のある商店街だった。
若いにーちゃんは呼び込みをしてるし、若くないおっちゃんも呼びこみをしてる。
おばちゃんはお話に花を咲かせてるし、子供はママに手を引かれて歩いてる。
こういう雰囲気、真美好きだなぁ。


「えっと、何か食べるとこは……っと」

少し歩くと、レトロな佇まいの定食屋が見つかった。
あんまり時間もないし、サクッと食べて、頭を整理しよう。

引き戸を引いてお店に入ると、おっちゃんとおばちゃんが二人でやってるお店だった。

「いらっしゃいませ。一名様ですか?」

中に入ると結構人が座ってたけど、おばちゃんがすぐについて席まで案内してくれた。

カウンター席に通されて水が出される。


出されたお水を一口飲んで、メニューを取り、中身に目を走らせた。
長くこの商店街で愛されているのか、少し黄色く色あせたメニュー。
書いてあるのはいかにも定食屋さんって感じのよくあるメニューだったけど、こういうのでいいんだよねこういうので。
変におもしろメニューとか作るよりはこっちの方が分かりやすくていいよね。

ぱらぱらとページを一通りめくって、目に止まった物を注文する。

「すいませ~ん!」

さっきのおばちゃんに声をかけてこっちに来てもらう。


「お決まりですか」

「えっと、この焼き肉ごはんを一つ」

お肉を食べて、元気チャージしたら、きっと午後の撮影も上手くいくよね!

「ごめんなさい、それ、夜からのメニューなんですよ」

がーん、出鼻をくじかれちった。

「んじゃあこっちのそぼろごはんで」

「ですからごめんなさい、それも夜からのメニューなんですよ」

なんてこった、食べたい物が夜だけのメニューだなんて。
よく見たら夜用メニューって書いてあった。
このまま何も食べないわけにもいかないし、ランチメニューのページの一番上にあった唐翌揚げ定食を頼むことにした。


「唐翌揚げ定食一丁~」

厨房に戻ったおばちゃんがおっちゃんにそう言うと、おっちゃんは元気よく返事して真美の分のごはんを作り始めた。
鶏肉を揚げる音が食欲を刺激する、香りも相まってなんだかめっちょお腹空いてきちゃった。

定食が来る前に監督のおっちゃんが言ってた事をもう一回考えてみたけど、考えれば考える程よくわからなくなる。
ごちゃごちゃ考えていると思いの外時間が経ってしまい、定食が運ばれてきてしまった。


「唐翌揚げ定食おまちどお~」

考えすぎてもしょうがない、真美は今お腹が空いているんだ。
昼時のため、お店にはどんどん人が入ってくる、ちゃちゃっと食べて早めに出た方が良いよね。

箸立てから割り箸を一膳取り出して。

「いただきます!」

目の前には、思ったよりも大きなからあげが4つ鎮座している。


「は~むっ……んっ!?」

衣はサクッと揚がっているのに、中はすっごくジューシーで、噛んだ瞬間に肉汁がじゅわ~っと溢れてきた。
めっちょ大きいから、真美の一口だと半分が精一杯。

「はむっ……あむっ……んぐんぐ……ぷふぅ~……」

もう一口頬張って、そこにご飯も一緒に放り込む。
やっぱりお肉とご飯の相性は最高だよね。


お盆の上にはからあげ用のタレとお味噌汁が乗っている。
からあげはまだ3個残ってるから、とりあえずお味噌汁をひと啜り。

「ずずっ……んっく……ほぁ……」

お味噌汁はすっごく家庭的で、ほっこりするお味。
こーいうのをおふくろの味って言うのかな?
ママの作るお味噌汁とは違うんだけど、なんだか落ち着く味がする。
具はシンプルなわかめと豆腐で、これまた素朴な感じでほっとした。

味噌汁もほどほどに、今度は唐翌揚げにたれをつけて食べてみようっと。

見るからにごまっぽいたれと醤油っぽいたれの2つがある。

ん~、まずは……、よしこっちにしよう。


ごまだれの方に唐翌揚げをくぐらせて、一度ご飯にバウンドさせてから頬張る。

「はぐっ……あむっ……ん~~!!」

味は濃いんだけど、どこか少しさっぱりとしていて、すっごく食べやすい。
お肉の油っぽさを緩和してくれて、主張しすぎず、でもしっかりとそこに"ある"この感じ。
ごまの風味……っていうのかな、そういうのもちゃんと感じられる。
たれがかかったごはんと唐翌揚げの相性もバッチリ。

「んぐっ……はむっ……ふぅ~、いくらでもいけちゃうよ~」


たれがついても衣はさくさくの歯ごたえが残ってるし、中から溢れる肉汁とたれが上手くからみ合って、お口の中でそれぞれがアピールをしてくるんだけど、最終的にはまろやかにまとまるこのバランス感覚がたまらないですな~。
ごまのたれで一個ぺろりとたいらげちゃった。
次は醤油っぽいたれにしよっと。
からあげを醤油っぽいたれにくぐらせて、ごはんにバウンドさせてから口の中に。

「は~むっ……んっ!? ん~~~~!!」

この、しょっぱさの中にある染み込んだ味。
ツンと鼻を刺激する香り。

にんにく醤油だ!


「はぐっ……あぐっ……んむっ……はふっ……んふっ」

このたれが主張してくる感じ。
だけどお肉も負けてない。
お互いがお互いを立てながら、負けじと主張をしてくる。
ごまだれがまるっと包み込む美味しさなら、にんにく醤油は爆発させる美味しさだ。
そこにご飯。
なんだろう、すごく幸せな瞬間って感じがする。
思わず笑みがこぼれるほど美味しい。

からあげは残り一つ。
一度お味噌汁でお口をさっぱりさせて、最後の唐翌揚げに挑むよ。


ごまだれで半分。

「はむっ……あむっ……んっく……」

軽くご飯を入れつつ、もう半分をにんにく醤油で。

「あぐっ……んぐっ……んっ! むぐむぐ……んっふっふ~」

ごまだれとにんにく醤油の相性も抜群に良くって、最後の最後にまろやかと爆発の融合で、真美は感動すら覚えたよ。
美味しくってやっぱり笑みがこぼれちゃう。

「ずずずっ……んっく……ぷはぁ」

最後はお味噌汁ですっきりさっぱり。


「ごちそうさまでした!!」

監督のおっちゃんが言ってたサクッ、じゅわ~も何となく分かってきたような気がする。
きっと内側から出る熱い物が足りないって言いたかったんだよね。
うんうん、きっとそんな気がする。

真美なりの答えも見つけ出せたし、午後の撮影も頑張ろっと!
そんでそんで、絶対監督のおっちゃんを見返してやるんだ!




おしまい

終わりです。

少しでもお腹を空かせられたら幸いです。
それではお目汚し失礼しました。

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