―森の中―
少年(よし……いい枝がある。ここで首吊って死のう……)
少年「――ん?」
少年「なんだこの貼り紙」
『あなたの遺書を添削いたします 黒ペン先生』
少年「なんだこりゃ」
少年「黒ペン先生って、赤ペン先生のパクリ? バッカじゃねーの?」
少年「…………」
少年(だけど、遺書っていえばボクがこの世に残す最期の言葉だ……)
少年(どうせなら、ちゃんと見てもらった方がいいかも)
少年「ようし、試しに送ってみよっかな!」
『いじめられて辛いので
死にます
お父さん、お母さん、さようなら』
少年(我ながら分かりやすくていい遺書だよな、うん。きっと褒められるに違いない)
少年(送ってみよう!)
数日後――
少年「返ってきた! どれどれ……」
『いじめられて辛いので
→具体的にどういういじめを受けてるのかきちんと書こう!
死にます
→いくらなんでも直球すぎる、もっと表現を工夫しよう!
お父さん、お母さん、さようなら
→両親だけじゃ少し寂しい、他に挨拶すべき人はいないのかな?』
少年(うわっ、メチャクチャ直されてる!)
少年(納得できるようなできないような……でもこのままじゃ悔しいな)
少年(ようし、こうだ!)カリカリ
『殴る蹴る、お金を奪われる、持ち物を隠される、などのいじめが辛いので
自分で自分の命を消そうと思います
ポチ、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、さようなら』
『殴る蹴る、お金を奪われる、持ち物を隠される、などのいじめが辛いので
→内容は分かったけど、どのぐらいのダメージがあるのか書かないと共感は得にくいぞ!
自分で自分の命を消そうと思います
→どういう方法で? 面倒くさがらずきちんと書こう!
ポチ、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、さようなら
→ペットが一番最初ってのは問題ありだ!』
少年(また直されてる! 遺書って難しいんだなぁ)
少年(今度はどうだ!?)カリカリ
『殴る蹴るをされて体にアザがいっぱいできて、毎月5000円くらいお金を脅し取られて、
持ち物を隠されて授業についていけなくなったり、などのいじめが辛いので
首を吊ることで自分で自分の命を消そうと思います
おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、ポチ、さようなら』
『殴る蹴るをされて体にアザがいっぱいできて、毎月5000円くらいお金を脅し取られて、
持ち物を隠されて授業についていけなくなったり、などのいじめが辛いので
→自分なりにどういう対策をしたか書かないと怠け者だと思われちゃうぞ!
首を吊ることで自分で自分の命を消そうと思います
→道具はなにを使う? 臨場感を増すために書いておいた方がいい!
おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、ポチ、さようなら
→ポチの犬種は?』
少年(まだダメなのかぁ……)
少年(今度こそぉ!)カリカリ
『殴る蹴るをされて体にアザがいっぱいできて、毎月5000円くらいお金を脅し取られて、
持ち物を隠されて授業についていけなくなったり、などのいじめを受け、
先生に相談して注意してもらったけどかえっていじめがひどくなり、
いじめっ子たちに謝っても許してもらえず、辛いので
縄跳びのヒモで首を吊ることで自分で自分の命を消そうと思います
おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、ポチ(三毛猫)、さようなら』
『殴る蹴るをされて体にアザがいっぱいできて、毎月5000円くらいお金を脅し取られて、
持ち物を隠されて授業についていけなくなったり、などのいじめを受け、
先生に相談して注意してもらったけどかえっていじめがひどくなり、
いじめっ子たちに謝っても許してもらえず、辛いので
→文章が長くなってきたので、分かりやすく表にしてもらえるとありがたい!
縄跳びのロープで首を吊ることで自分の命を消そうと思います
→縄跳びのヒモだと強度に不安があるぞ! 他のを使おう!
おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、ポチ(三毛猫)、さようなら
→猫かよ!』
少年「うあああああああああ!!!」
少年「あーもう! 遺書書くの疲れてきたよ!」
少年「何度も何度も同じようなことを書いてるうちに、死ぬのもバカらしくなってきたしさ!」
少年「――――!」ハッ
少年(そうか……!)
少年(もしかして、黒ペン先生の狙いって――)
『黒ペン先生へ
ぼくは死ぬのをやめました もっとしっかりいじめに立ち向かいます
ありがとうございました』
男「…………」
男(死にたくて遺書を書こうと思ったけど、どうしてもいい文章が思い浮かばなくて)
男(だったら他人の遺書を参考にしようかなと、あんなふざけた貼り紙してみたけど……)
男(まさか、明らかに子供の字の遺書が届いたから、ビックリしちゃったよ)
男(しかも、どうやら思いとどまってくれたみたいだしな)
男(俺みたいな奴でも……これぐらいのことはやれるんだな)
男(…………)
男(これが“黒ペン先生”としての最後の手紙だ)カリカリ
『頑張って生きて下さい 先生も頑張って生きます!
黒ペン先生より』
おわり
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